説明

調湿塗壁材

【課題】 機械換気に頼った高気密・高断熱住宅の機械故障や停電に対して脆弱さ、或いはシックハウス症候群発症といった問題から、近時機械に頼らず自然換気にまかせる住宅が再評価されてきている。そこでは、有機溶剤等を用いない左官材料で仕上げた壁が採用されることが多いが、そうした手法は一般に厚塗りができず作業に熟練を要するものであって、工期が掛かり理想的な方法とは言い難かった。更に、漆喰にせよ珪藻土にせよ市場流通量自体が少なくなっており入手できても高価なものとなっている。
【解決手段】 クリノプチロライト系焼成ゼオライトより成る微粉状体と、モルデナイト系焼成ゼオライトより成る砂粒状体との混合比が、重量比1:2乃至1:8である無機材料を、原材料比率60重量%以上90重量%以下含むものとする調湿塗壁材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調湿性・吸臭性に優れ、作業性が良く、強度も充分に具備する塗壁材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
塗壁とは、モルタル、漆喰、プラスターなどいわゆる左官材料で仕上げた壁を指すものであり、壁面仕上げの形態としての歴史は古く、今なお代表的な仕上げ法の一つとなっている。予め表面加工が施されたボードやパネルを現場で貼り付ける工法と比較すると、継ぎ目のない仕上がりを得ることができる、特異な形状の構造物の表面加工にもまたその変更にも対応可能な自由度がある、といった利点がある。
【0003】
また、機械換気に頼った高気密・高断熱住宅は、機械稼動を前提に室内環境の保持を約束するものではあるがそれ故、機械故障や停電に対して脆弱であり、一旦機能しなくなると居住空間としての快適性は途端に劣悪なものとなる。
【0004】
そこで、塗壁で内壁を構成し、機械に頼らず自然換気にまかせる住宅が、再度着目されてきている。例えば「漆喰塗」は、左官用消石灰(貝灰)、ツノマタ(粉末)、水でほぐしたスサ、とを適量で水でよくこね合わせ、充分溶解して粘性を伴うようになってから行う塗作業であり、溶剤系材料ではないためトルエン、キシレン等の汚染物質が室内に発散してゆく心配がなく、また、比較的結露しにくいので、アレルギーの原因となるダニ、カビ等が発生しにくいという特性があることが評価され、見直されてきている。また漆喰以外にも「珪藻土」も塗壁材料としてもてはやされている。
【特許文献1】特開2001−163659
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、漆喰塗の場合には、近年建築物内装材として使用されている新建材仕上げに比べると、厚塗りができず作業に熟練を要するものであるし、工期が掛かり、気密性にも欠け、理想的な方法とは言い難いものであった。更に、漆喰にせよ珪藻土にせよ市場流通量が少なくなっており入手できても高価なものとなっている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明者はこうした点に鑑み、水を加えて混ぜるだけで、調湿性・脱臭性に優れた塗壁材となる左官材料を提供すべく長年鋭意研究の結果、遂に本発明を成したものでありその特徴とするところは、クリノプチロライト系焼成ゼオライトより成る微粉状体と、モルデナイト系焼成ゼオライトより成る砂粒状体との混合比が、重量比1:2乃至1:8である無機材料を、原材料比率60重量%以上含むものとする点にある。
【0007】
ここで「クリノプチロライト系焼成ゼオライト」は、代表的な軟質ゼオライトであり、本発明者が試作実験した範囲では島根県産のものが好適であった。これを、例えば400℃以上で焼成した後、粉砕し、ふるいにかけ、微粉状のものを材料とする。この微粉状物は、水を得ると粘土状になる。
【0008】
「モルデナイト系焼成ゼオライト」は、代表的な硬質ゼオライトであり、これについても島根県産のものは好適な塗壁材原料であった。これも同じく、例えば400℃以上で焼成した後、粉砕し、ふるいにかけて材料とするが、粒径は凡そ0.5〜3.0mm前後の砂粒状とする。
【0009】
本発明においてはこうして得られる「クリノプチロライト系焼成ゼオライト」(粘土状体)と「モルデナイト系焼成ゼオライト」(砂粒状体)とを混合する。混合比は重量比で1:2乃至1:8とし、且つこれらゼオライトの総重量は全量中60重量%以上90重量%以下とする。なおここで「全量」は、作業前に加えられる水の量を含まない。
【0010】
「クリノプチロライト系焼成ゼオライト」をこの比率範囲よりも少なくした場合(即ち1/9以下の場合)には、結合力が小さくなって乾燥後「割れ」を生じやすくなるし、逆にこの比率範囲よりも多くした場合(即ち1/3以上の場合)には、乾燥すると結合力が強すぎて収縮し下地層から剥離しやすくなる。なお左官仕上げは一般に、塗り層を重ねることによって厚みを得るものであるので、層間の結合力の判断が仕上がりに大きく影響を及ぼす。上層(上塗り層)が下層(下地層)よりも強い結合力の場合、上層はめくれて剥がれてしまう。従って下層は上層より強度が必要ということになる。本発明に関連して言えば、上層になるほど「モルデナイト系焼成ゼオライト」の混合比率を上げ、結合材料の割合を増やしてゆくと好適である。但し本発明者が実験した範囲では一般的なボード下地への作業であって塗膜厚が5mm程度の場合、本発明塗壁材を用いると1回塗りで仕上げることができた。従って、塗り層を重ねるという方法に限定するものではない。
【0011】
また本発明に係る調湿塗壁材は、2種のゼオライト以外にも各種材質のものを含有するものである。但しそれらの総量は、全塗壁材の40重量%未満とする。具体的な材質に関しては何ら限定するものではないが、例として、海藻ツノマタを原料とする糊材、ワラ・麻・紙等を原料とする「スサ」、或いは各種「プラスター」がある。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る調湿塗壁材は、以下述べる如き効果を有する極めて高度な発明である。
(1) 水を加えて混ぜるだけで、調湿性・脱臭性に優れた塗壁材となる。
(2) 溶剤系材料を含んでいないので、いわゆる「シックハウス症候群」を引き起こすことも、これを悪化させることもない。
(3) 製造設備への投資額が小さくて済む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下本発明をより詳細に説明する。
【実施例1】
【0014】
クリノプチロライト系ゼオライト 20.0重量部
モルデナイト系ゼオライト 50.0重量部
中性プラスター 27.1重量部
糊材(ツノマタ) 2.5重量部
スサ(主材料:ワラ) 0.4重量部
(ゼオライトはいずれも400℃で焼成したもの)
を混合したものを左官用ミキサーに投入し、ここに水道水40.0重量部を混ぜて撹拌する。これを、木造モルタル住宅を想定して建造した1室の4面ある内壁の1面に、調湿塗壁材として施工した。なお、使用した中性プラスターは、吉野石膏株式会社製せっこうプラスター(商品名:Cトップ)であるが、他の中性プラスターを用いても良い。また、中性に限らず、アルカリ性プラスターを用いたものも本発明に属するものである。そして混合比率は、採用するプラスターに応じて適宜設定すべき事項であるので、本例以上の混合比率であっても以下であっても当然良いものである。行なった実験は、プラスターその他に起因する評価の違いを最小限とすべく、全て同量・同構成とした。
【実施例2】
【0015】
クリノプチロライト系ゼオライト 9.0重量部
モルデナイト系ゼオライト 61.0重量部
中性プラスター 27.1重量部
糊材(ツノマタ) 2.5重量部
スサ(主材料:ワラ) 0.4重量部
(ゼオライトはいずれも400℃で焼成したもの)
を混合したものを左官用ミキサーに投入し、ここに水道水40.0重量部を混ぜて撹拌する。これを、調湿塗壁材として上記1室の他の1面に施工した。
【0016】
[比較例1]
クリノプチロライト系ゼオライト 30.00重量部
モルデナイト系ゼオライト 40.00重量部
中性プラスター 27.1重量部
糊材(ツノマタ) 2.5重量部
スサ(主材料:ワラ) 0.4重量部
(ゼオライトはいずれも400℃で焼成したもの)
を混合したものを左官用ミキサーに投入し、ここに水道水40.0重量部を混ぜて撹拌する。これを、調湿塗壁材として上記1室の更に他の1面に施工した。ここで使用した中性プラスターは、実施例2において使用したものと同一のものである。
【0017】
[比較例2]
クリノプチロライト系ゼオライト 5.00重量部
モルデナイト系ゼオライト 65.00重量部
中性プラスター 27.1重量部
糊材(ツノマタ) 2.5重量部
スサ(主材料:ワラ) 0.4重量部
(ゼオライトはいずれも400℃で焼成したもの)
を混合したものを左官用ミキサーに投入し、ここに水道水40.0重量部を混ぜて撹拌する。これを、調湿塗壁材として上記1室の残る1面に施工した。ここで使用した中性プラスターは、実施例2において使用したものと同一のものである。
【0018】
以上4面を施工する際の作業性は、特に好ましいのは実施例1であったが、おしなべて言えば実施例1、2共に良好であった。
また作業性は、比較例1の場合に関しては特に支障はなかったが、比較例2の場合にはコテ運びが悪く押さえにくい、という欠点があった。
【0019】
次に、施工後21日後の塗壁面の表面状態を比較した。そうすると、仕上がりの美麗さに関しては、実施例1、2と比較例1、2とは歴然とした差があり、実施例1、2の場合にはひび割れも剥がれもなく美麗な表面仕上がりを見せていたのに対し、比較例1の場合には表面に触れると粉状の粘土分が手に付き粗悪な仕上がりのものとなったし、比較例2の場合にはひび割れ箇所が散在して早速補修の必要が生じるような仕上がりとなった。従ってこれら四つの実験により、プラスター量を適正に混合して得られる塗壁材は、クリノプチロライト系焼成ゼオライトより成る微粉状体と、モルデナイト系焼成ゼオライトより成る砂粒状体との混合比を、重量比1:2乃至1:8とした場合、押さえやすくてコテ運びが良いという作業性、割れや剥がれが生じにくく美麗な平滑面が得られるという仕上がりの良好性、双方でことが判った。
【0020】
更にまた、クリノプチロライト系焼成ゼオライトより成る微粉状体と、モルデナイト系焼成ゼオライトより成る砂粒状体との混合物を、原材料比率60重量%以上90重量%以下とすると、原料コストの観点からも、近時問題となっているシックハウス症候群発症を低減させるという観点からも、良好なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリノプチロライト系焼成ゼオライトより成る微粉状体と、モルデナイト系焼成ゼオライトより成る砂粒状体との混合比が、重量比1:2乃至1:8である無機材料を、原材料比率60重量%以上90重量%以下含むものとするものであることを特徴とする調湿塗壁材。

【公開番号】特開2008−94659(P2008−94659A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−278235(P2006−278235)
【出願日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【出願人】(501398385)石見銀山建設株式会社 (1)
【Fターム(参考)】