説明

調湿材料の製造方法及び調湿材料

【課題】 多孔質粉体の吸放湿性能の低下を抑制することが可能な調湿材料の製造方法及び調湿材料を提供することを課題とする。
【解決手段】 多孔質粉体の細孔に親水性溶媒を含浸させる含浸工程と、前記親水性溶媒が含浸した前記多孔質粉体を樹脂接着剤により接着させる接着工程と、前記細孔に含浸した前記親水性溶媒を乾燥する乾燥工程と、を含む調湿材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調湿性能を有する多孔質粉体を用いた調湿材料の製造方法及び調湿材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、快適な居住空間を実現するために住居の気密性が高くなっているが、この気密性の高さにより、住居に結露などが発生している。かかる結露などを防止するため、吸放湿性のある材料として木質系建材が使用されていたが、木材資源の高騰により木質系建材の使用がコスト高を招いている。このため、吸放湿性能に優れた多孔質粉体を用いて居住空間の調湿が行われている。
【0003】
多孔質粉体は、居住空間内の湿度が高くなると空気中の水分を細孔に溜め込み、湿度が低くなると溜め込んだ水分を放出することにより、居住空間の湿度を調整することができる。このような多孔質粉体として、ゼオライト等の鉱物系調湿材や、活性炭等の木炭系調湿材などが知られている。また、多孔質粉体は、居住空間内に直接設置すると空気流により飛び散り易いことから、例えば袋に詰めた状態で床下に設置されている。
【0004】
また、多孔質粉体をそのまま、あるいは袋に詰めて用いる場合のみならず、シート状やブロック状などの集合塊に成形して用いる、あるいは多孔質粉体をシートなどの基材に接着して用いる方が利便性に富む場合もある。この場合には、多孔質粉体を、樹脂接着剤が添加された溶媒に混合、分散させた後、集合塊に成形あるいは基材に塗布し、その後樹脂接着剤を硬化させることで、シート状やブロック状などに成形していた。
【0005】
しかし、例えば樹脂接着剤として共重合体水性エマルジョンを用いた場合、かかる共重合体水性エマルジョンに活性炭などの多孔質粉体を配合すると、エマルジョンの乳化状態が壊れ、増粘やゲル化が生じ、実用的な使用が困難であった。そこで、樹脂接着剤を、反応性乳化剤を用いて得られる共重合体を有する多孔質粉末用バインダ組成物とすることにより、多孔質粉体と配合しても乳化状態が壊れず、多孔質粉体の接着を可能とする技術が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−371238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1記載の技術では、多孔質粉体同士、あるいは多孔質粉体を基材に接着すると吸放湿性能が低下し、多孔質粉体が本来有する吸放湿性能を、十分に発揮できないという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、多孔質粉体の有する吸放湿性能の低下を抑制することが可能な調湿材料の製造方法及び調湿材料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
斯かる課題に鑑みて本発明者らが鋭意研究したところ、多孔質粉体と樹脂接着剤が添加された溶媒とを混合する際、樹脂接着剤が多孔質粉体の細孔に入り込み、樹脂接着剤が細孔内に入り込んだ状態で多孔質粉体をシート状などに成形したり、基材に接着させると、樹脂接着剤が細孔内で硬化し、細孔が樹脂接着剤で埋まるため、多孔質粉体が本来有する吸放湿性能を低下させていることが判明した。さらに本発明者らは、細孔に親水性溶媒が含浸した多孔質粉体を、樹脂接着剤を用いて接着して乾燥することにより、細孔に樹脂接着剤が充填されて空隙が減少することを回避し、吸放湿性能の低下を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明に係る調湿材料の製造方法は、多孔質粉体の細孔に親水性溶媒を含浸させる含浸工程と、前記親水性溶媒が含浸した前記多孔質粉体を樹脂接着剤により接着させる接着工程と、前記細孔に含浸した前記親水性溶媒を乾燥する乾燥工程と、を含むことを特徴とする。
【0011】
斯かる構成によれば、多孔質粉体が樹脂接着剤と接触する際、多孔質粉体の細孔に親水性溶媒が存在していることにより、樹脂接着剤を、細孔への入り込みを抑制しながら多孔質粉体の表面に付着させ、該表面に付着した樹脂接着剤を介して多孔質粉体間を架橋(接着)することができる。そして、多孔質粉体が互いに接着された状態で細孔内の親水性溶媒を乾燥することにより、細孔内の親水性溶媒が除去されて細孔内の空隙が確保される。これにより、多孔質粉体を調湿材料に成形した後においても、多孔質粉体が本来有する吸放湿性能の低下を抑制することが、可能となる。
【0012】
本発明に係る調湿材料の製造方法は、前記含浸工程と前記接着工程との間に、前記細孔に含浸した前記親水性溶媒を凍結する凍結工程を含むことが好ましい。これにより、樹脂接着剤の細孔内への入り込みを、より確実に防止することができるため、吸放湿性能の低下を効果的に抑制することができる。
【0013】
また、本発明に係る調湿材料の製造方法は、前記樹脂接着剤が疎水性樹脂接着剤であることが好ましい。これにより、細孔内の親水性溶媒との親和性が低い疎水性樹脂接着剤が、親水性溶媒が既に存在する細孔内に、より入り込み難くなるため、吸放湿性能の低下を効果的に抑制することができる。
【0014】
また、本発明に係る調湿材料の製造方法は、前記多孔質粉体が鉱物系調湿材であることが好ましい。これにより、吸放湿性能の優れた多孔質粉体の、その本来有する吸放湿性能の低下を抑制することができる。
【0015】
また、本発明に係る調湿材料の製造方法は、前記鉱物系調湿材が無機材料を酸処理してなることが好ましい。これにより、吸放湿性能のさらに優れた鉱物系調湿材を用いることができるため、吸放湿性能の高められた調湿材料を製造することができる。
【0016】
また、本発明に係る調湿材料の製造方法は、前記接着工程において、前記多孔質粉体同士を前記樹脂接着剤により接着させると共に、さらに前記多孔質粉体を基材に接着させることが好ましい。これにより、多孔質粉体が接着される基材の特性に応じて調湿材料の取り扱いを多様化することができるため、利便性に優れる。
【0017】
また、本発明に係る調湿材料は、細孔に親水性溶媒が含浸した多孔質粉体を樹脂接着剤により接着し、前記細孔に含浸した親水性溶媒を乾燥してなるものである。これにより、多孔質粉体の有する吸放湿性能の低下が抑制されるため、優れた吸放湿性能を発揮することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明によれば、多孔質粉体の有する吸放湿性能の低下を抑制しつつ、シート状やブロック状などの所望の形態の調湿材料とすることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る実施形態について説明する。
【0020】
本発明に係る調湿材料の製造方法は、多孔質粉体の細孔に親水性溶媒を含浸させる含浸工程と、親水性溶媒が含浸した多孔質粉体を樹脂接着剤により接着させる接着工程と、細孔に含浸した親水性溶媒を乾燥する乾燥工程と、を含む。
【0021】
多孔質粉体としては、木質系調湿材や鉱物系調湿材を用いることができる。多孔質粉体の細孔は、特に限定されないが、細孔径が小さくなれば、細孔の表面積が大きくなり吸放湿性能を高めることができる一方、細孔を形成し難くなる。従って、斯かる観点を考慮して、多孔質粉体の細孔径を、例えば1〜10nmとすることが好ましく、1〜6nmとすることがより好ましい。
【0022】
木質系調湿材としては、木炭や活性炭などを用いることができる。鉱物系調湿材としては、珪藻土や珪藻頁岩などの珪藻土系調湿材や、クリノプチロライトやモルデナイトなどのゼオライト系調湿材などを用いることができる。また、鉱物系調湿材として、無機材料を酸処理してなるものを用いることが好ましい。
【0023】
ここで、無機材料を酸処理してなる鉱物系調湿材について説明する。無機材料としては、汚泥焼却灰などを用いることができる。汚泥焼却灰は、シリカ、燐酸カルシウム、アルミナ、酸化鉄などを主成分としており、下水処理場で発生した汚泥を焼却した汚泥焼却灰の他に、し尿、家庭用雑排水、産業用排水処理等によって発生した汚泥の焼却灰等があげられ、これらは、一般に処理場で含水率60〜90重量%程度まで脱水処理された汚泥を焼却したものである。
【0024】
これらの焼却灰をいずれも使用でき、1種または混合して用いてもよい。特に、下水処理場で発生する汚泥を焼却して用いることは、かかる汚泥が下水道の普及に伴って年々増加していることに鑑みると、下水処理における汚泥の有効な再利用として有用である。また、一般に、焼却灰には、高分子凝集剤を使用した汚泥を焼却したものと、石灰系凝集剤を使用した汚泥を焼却したものがあり、いずれを用いることも可能である。なお、高分子凝集剤を使用した場合には、石灰系凝集剤を使用した場合よりも凝集後の汚泥体積を小さくできることに鑑みると、高分子凝集剤を使用した汚泥を焼却して用いることが好ましい。
【0025】
汚泥焼却灰の形態は、後述するように酸添加により十分な溶解反応を行うことが可能であれば特に限定されず、粉末そのもののならず、ペレット状、板状、錠剤状などに成形された粉末であってよい。
【0026】
汚泥焼却灰を酸処理してなる鉱物系調湿材料は、汚泥焼却灰に、酸である塩酸又は硝酸の水溶液を添加した後、乾燥することにより製造することができる。酸処理することにより汚泥焼却灰に含有される酸可溶性成分が溶解除去されて、多孔質化した粉体を生成することができる。
【0027】
汚泥焼却灰に添加される酸としては、硫酸水溶液、塩酸水溶液、硝酸水溶液等の強い鉱酸を用いることが好ましく、これらの硫酸水溶液、塩酸水溶液又は硝酸水溶液としては、市場で入手しうる市販品や、金属精錬工業等から発生する廃硫酸、廃塩酸、廃硝酸等の水溶液も使用することもできる。使用する酸水溶液の濃度としては、特に限定されないが、0.1〜13規定程度とするのが通常である。
【0028】
また、汚泥焼却灰に添加される酸水溶液の添加量としては、100%の酸(硫酸、塩酸、硝酸等)に換算して、汚泥焼却灰100重量%に対し、0.5重量%以上、好ましくは4.0〜25重量%とすることができる。かかる範囲で混合することにより、上記した酸可溶性成分の溶解反応も十分に行われ、得られる多孔質粉体の調湿性能や消臭性能を良好とすることができる。なお、添加混練時の温度は、10〜90℃程度とすることが、反応を促進する面から望ましい。
【0029】
このように、汚泥焼却灰に、酸水溶液を添加して混合又は混練することにより、焼却灰中に含有されている酸可溶性成分が溶解除去されて、酸処理物を多孔質化することができる。酸処理により、シリカ成分の一部が溶解すると共に、他の一部が細孔の表面に残存し、この残存するシリカ成分から活性珪酸ゲルである非晶質珪酸ゲルが生成され、その表面に生じたシラノール基により吸放湿性能や悪臭ガスの吸着除去性能が発揮されると推察される。
【0030】
焼却灰と酸水溶液との混練時間は、汚泥焼却灰の特性に応じて任意に設定することができ、かかる酸処理混練時間を変化させることにより細孔径分布を変化させることが可能である。すなわち、混練時間を長くすることにより、例えば、細孔径が10nm以下、特に6nm以下の微細な細孔容積を増加させることが可能となり、斯かる微細な細孔容積が増加するほど、水蒸気等の吸放湿性能を高めることができる。通常、混練時間を、酸水溶液添加後、0.1時間〜10日程度、好ましくは、0.1時間〜1日程度とすることが適当である。
【0031】
得られた酸処理物は、中和処理工程に供することもできる。これにより、多孔質粉体を粒状などの所望の形状に加工する際、粉体製造設備に対する耐酸性対策を軽減することができる。斯かる中和処理は、汚泥焼却灰に酸水溶液を添加し接触処理した後、粉体中和剤を添加することにより行われる。
【0032】
粉体中和剤としては、例えば、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)、消石灰、アンモニア、CaCO3を主成分とするライムストーン(石灰岩)、コーラルサンド等のアルカリ性の材料を挙げることができ、特に、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、消石灰などが好適である。
【0033】
また、中和剤の添加量は、処理物がpH5.5〜9.0となるように添加する。このように、酸処理物に、中和剤を添加して混合又は混練することにより、粉体製造設備の厳しい耐酸性対策が不必要となり、多孔性が良好な粉体を得ることができる。
【0034】
次いで中和処理後、乾燥機などを用いて乾燥を行う。乾燥温度は、90〜300℃とすることが好ましい。乾燥前に風乾することもでき、常温常圧下の大気中で1〜7日程度、好ましくは1〜2日程度、攪拌または静置して風乾することにより、残留酸や水分を蒸発させることができ、更には残留酸の中和反応時間を確保できる。これにより、乾燥設備を腐食させることもなく、該設備の耐酸性対策も不必要となり、加えて、多孔性が良好な粉体を得ることができる。また、乾燥時間を短縮することもできる。
【0035】
乾燥後の含水率は、5重量%未満が好ましく、絶乾状態が多孔質粉体として特に優れた効果を示す。乾燥が不十分では細孔容積が減少すると共に水分の吸放湿性能が低下してしまう。ここで、含水率は、「下水試験方法(1997年度版)第4章第6節蒸発残留物及び含水率」に準拠して、乾燥前の試料重量と、105℃〜110℃で2時間乾燥後の試料重量とを測定し、(乾燥前の重量−乾燥後の重量)/(乾燥前の重量)に対する百分率で表される値である。
【0036】
上記したような汚泥焼却灰が酸処理されてなる鉱物系調湿材の粒径は、3〜90mm程度、特に3〜30mm程度の範囲とすることができる。また、処理前には5m2/g程度しかないBET比表面積は、少なくとも7m2/g以上、通常は10〜70m2/gとすることができる。また、酸処理された鉱物系調湿材は、鉱物系調湿材100重量部に対して15重量部の水を吸湿することができる。
【0037】
次に、含浸工程について説明する。含浸工程においては、多孔質粉体の細孔に親水性溶媒を含浸させる。親水性溶媒の細孔への含浸方法は、細孔に親水性溶媒を含浸させることが可能であれば、特に限定されない。例えば、多孔質粉体に親水性溶媒を噴霧すること、多孔質粉体を親水性溶媒に浸すこと、あるいは多孔質粉体と親水性溶媒とを混合攪拌することにより、細孔に親水性溶媒を含浸させることができる。
【0038】
細孔への親水性溶媒の含浸量は、多孔質粉体が樹脂接着剤と接触する前に親水性溶媒が細孔に十分に入り込むことが可能な量であれば特に限定されない。ただし、含浸量が少ない場合には、後述する接着工程において樹脂接着剤が細孔に入り込むおそれがあり、含浸量が多いと親水性溶媒を無駄に消費するおそれがある。従って、かかる観点を考慮すれば、含浸量を、多孔質粉体が親水性溶媒を吸収できる最大量(最大吸収量)と同等量とすることが好ましい。例えば親水性溶媒として用いる場合には、含浸量を、多孔質粉体の最大吸水量とすることが好ましい。
【0039】
なお、含浸工程を、上記した汚泥焼却灰の酸処理後の中和工程において行うこともできる。すなわち、上記中和工程では、中和された水溶液(親水性溶媒)が細孔内に入り込んだ状態となるので、この中和工程を含浸工程の代わりとし、多孔質粉体を乾燥させずに接着工程を実施するようにしてもよい。この場合には、中和工程後の乾燥を、後述する乾燥工程において行えばよい。
【0040】
親水性溶媒とは、親水性の極性溶媒であり、例えば、水やアルコールなどが挙げられるが、後述する乾燥工程において細孔から除去した後の処理が容易になる、という観点を考慮すれば、親水性溶媒として水を用いることが好ましい。また、アルコールを用いる場合であれば、メチルアルコールやエチルアルコール等の低級アルコールを用いることが好ましい。
【0041】
上記した含浸工程と後述する接着工程の前には、凍結工程を設けることが好ましい。凍結工程では、細孔内に親水性溶媒が含浸した多孔質粉体を、冷凍機などに入れて、親水性溶媒の氷点以下に保存する。これにより、細孔内の親水性溶媒が凍結する。細孔内の親水性溶媒が凍結した状態では、凍結した親水性溶媒によって細孔が物理的に塞がれている。よって、細孔内の親水性溶媒が凍結した状態で多孔質粉体と樹脂接着剤とを混合することにより、後述の接着工程において、樹脂接着剤によって多孔質粉体同士が接着されると共に、樹脂接着剤は凍結した親水性溶媒の表面に付着する。
【0042】
このように、凍結工程を行うことにより、細孔に樹脂接着剤が入り込むことを物理的に、より確実に防止して、樹脂接着剤により多孔質粉体を接着させることができる。また、後述するように樹脂接着剤として親水性樹脂接着剤を用いる場合には、特に効果的である。
【0043】
次に接着工程について説明する。接着工程においては、細孔に親水性溶媒が含浸した多孔質粉体を、樹脂接着剤を用いて接着する。樹脂接着剤により多孔質粉体同士を接着することにより、多孔質粉体をシート状やブロック状に成形することができる。例えば、多孔質粉体と、樹脂接着剤が乳化あるいは分散された水溶液などと、を混合した後、混合物をバーコーターなどの塗工機で延ばすことにより、多孔質粉体をシート状に成形することができる。また、例えば混合物をブロック状の型に充填して成形することにより、多孔質粉体をブロック状に成形することができる。
【0044】
また、多孔質粉体を、樹脂接着剤によりシートなどの基材に接着することもできる。この場合には、例えば多孔質粉体と樹脂接着剤とを混合した後、基材に塗布や噴霧することにより、多孔質粉体同士が接着すると共に多孔質粉体が基材と接着する。基材としては、不織布などのシートや畳などを用いることができる。
【0045】
このようにして、多孔質粉体と樹脂接着剤とを混合して成形した後、樹脂接着剤を硬化させることにより、細孔に親水性溶媒が含浸した状態で、樹脂接着剤が細孔に入り込むことなく多孔質粉体の表面で硬化するため、樹脂接着剤が細孔に入り込むことを抑制できる。
【0046】
多孔質粉体をシート状やブロック状に成形する場合には、シート状やブロック状に成形した後、樹脂接着剤を硬化させることができる。また、多孔質粉体を基材に接着させる場合には、樹脂接着剤と多孔質粉体との混合物を基材に塗布した後、樹脂接着剤を硬化させることができ、これにより、多孔質粉体が基材に定着される。
【0047】
硬化条件は、樹脂接着剤の特性に応じて設定することができる。なお、後述する乾燥工程において細孔内の親水性溶媒が乾燥する前に樹脂接着剤を硬化させることが好ましく、これにより、樹脂接着剤が細孔に入り込むことを回避することができる。
【0048】
そして、かかる多孔質粉体と樹脂接着剤との混合物を、上記の様にシート状やブロック状に成形した後、恒温器や乾燥機に入れ、樹脂を硬化させる。これにより、樹脂接着剤が、多孔質粉体の細孔に入り込むことなく多孔質粉体同士を架橋して硬化(成膜)し、多孔質粉体同士が接着される。また、多孔質粉体と樹脂接着剤との混合物を基材に塗布した後、樹脂接着剤を硬化させることにより、多孔質粉体同士が接着されると共に、樹脂接着剤が多孔質粉体と基材とのシートとを架橋して硬化し、多孔質粉体が基材に接着される。
【0049】
前述した凍結工程を行った後に接着工程を行う場合には、凍結した親水性溶媒が融解しないよう、接着工程を低温度環境下で行うことが好ましい。例えば、親水性溶媒として水を用いる場合、5℃の環境下で接着工程を行うことが好ましい。これにより、凍結した親水性溶媒が融解する前に樹脂接着剤を硬化させることができるため、凍結工程による細孔内への樹脂接着剤の物理的な浸入防止作用を、効果的に発揮させることが可能となる。
【0050】
また、樹脂接着剤は、接着工程において多孔質粉体と混合して成形するときには硬化しておらず、成形後に硬化することが可能なものであれば特に限定されない。また、樹脂接着剤に主成分として含まれる接着性樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂などを用いることができる。また、樹脂接着剤の種類に応じて、硬化剤添加、乾燥、加温、紫外線照射などを行うことにより、樹脂接着剤を硬化させることができる。
【0051】
かかる樹脂接着剤としては、親水性および疎水性の何れの樹脂接着剤でも用いることができる。但し、例えば、細孔内に含浸した親水性溶媒との親和性が低く、接着工程において、細孔内への入り込みをより確実に防止できるという観点を考慮すれば、該樹脂接着剤は、疎水性のものであることが好ましい。また、樹脂接着剤としては、上記したような樹脂をポリマーの分散液や乳化液として用いることができる。
【0052】
上記疎水性の樹脂接着剤としては、親水性溶媒に対する親和性が低いものとして公知の樹脂接着剤を使用することができ、例えば、エポキシ樹脂やポリエステル樹脂などを主成分とする接着剤が挙げられる。
【0053】
一方、上記親水性の樹脂接着剤としては、親水性溶媒に対する親和性が高いものとして公知の樹脂接着剤を使用することができ、例えば、アクリルエマルジョン、エチレン酢酸ビニルエマルジョンなどを主成分とするものが挙げられる。親水性の樹脂接着剤を用いる際には、該親水性樹脂接着剤が細孔内の親水性溶媒との親和性が高いため、含浸工程と接着工程との間に凍結工程を設けることが好ましく、これによって細孔内への接着剤の侵入をより確実に防止することができる。
【0054】
なお、このような観点から、凍結工程を行う場合であっても、親水性樹脂接着剤の硬化速度が、凍結した親水性溶媒の融解速度よりも速くなるように、施工条件を設定し又は樹脂を選択することがより好ましい。例えば親水性樹脂接着剤としてアクリルエマルジョンを用いる場合には、多孔質粉体と親水性樹脂接着剤とを混合して成形後、直ぐに40〜50℃程度まで加温することにより、親水性樹脂接着剤の硬化速度を速めて、細孔内の親水性溶媒が融解する前に親水性樹脂接着剤を硬化させ易くすることができる。
また、後述する乾燥工程において親水性樹脂接着剤を硬化させることもできる。
【0055】
なお、本発明に於ける樹脂接着剤の疎水性および親水性の区別は、上述の通り当業者の技術常識に基づいて判断しうるものであるが、以下、念のため具体的な評価方法についても説明する。
【0056】
つまり、本明細書においては、常温下、樹脂接着剤10(g)に対して水300(mL)を加えて撹拌した後、24時間静置し、該混合液が層分離して形成された水層(混合液が層分離していない場合は該混合液の上部)から30(mL)を採取して乾固させた後、得られた固形分の重量(g)を測定し、これが0.30(g)以上であるものを親水性の樹脂接着剤とし、0.30(g)未満であるものを疎水性の樹脂接着剤とする。
【0057】
次に、乾燥工程について説明する。接着工程により、多孔質粉体の表面に樹脂接着剤が付着して硬化した後も、細孔内には親水性溶媒が残留している。そこで、接着工程後、成形物を乾燥機などに入れ、親水性溶媒を乾燥することにより、細孔内から親水性溶媒を除去する。これにより、細孔内に空隙が復元され、復元した空隙により、吸放湿性能を発揮させることができる。
【0058】
乾燥工程における乾燥温度及び乾燥時間は、親水性溶媒の特性、樹脂接着剤の硬化特性等に応じて適宜設定することができ、乾燥温度は、例えば30〜60℃、好ましくは40〜50℃とすることができる。また、乾燥時間は、例えば0.5時間〜7日間、好ましくは1時間〜3日間とすることができる。親水性溶媒として水を用いる場合、乾燥温度を40〜50℃、乾燥時間を1日間とすることが好ましい。
【0059】
以上のように、本発明に係る調湿材料の製造方法及び調湿材料によれば、多孔質粉体の有する吸放湿性能の低下を抑制することができる。即ち、多孔質粉体の細孔に親水性溶媒を含浸させる含浸工程と、親水性溶媒が含浸した多孔質粉体を樹脂接着剤により接着させる接着工程と、細孔に含浸した親水性溶媒を乾燥する乾燥工程と、を含む製造工程により調湿材料を製造することで、樹脂接着剤が細孔に入り込むことなく多孔質粉体を接着することができる。これにより、多孔質粉体の調湿性能を効果的に発揮することができる。
【0060】
斯かる製造方法により製造された調湿材料は、建物、床下、押入れ、畳内等の空間の調湿に対して使用することができ、特に多孔質粉体をそのまま設置することが困難な居住空間の調湿に好適に用いることができる。
【実施例】
【0061】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0062】
(実施例1)
多孔質粉末としてマジカルファイン(住友大阪セメント社製)5gを、容器中で手作業により攪拌しながら水1.1gを霧状に噴霧した後、10分間攪拌混合し、マジカルファインに水を略均一に行き渡らせることにより、マジカルファインの細孔に水を吸収(含浸)させた。細孔内に水が含浸したマジカルファインを、庫内温度が−5℃に設定された冷凍庫に入れ、細孔内の水を凍結させた。一方、親水性樹脂接着剤として、熱可塑性樹脂の一つのアクリル系エマルジョンであるリフレベースEZ(住友大阪セメント社製)を、5℃の環境下に保存しておく。
【0063】
次に、5℃の環境下に保存されたリフレベースEZの10gを、−5℃で保存されたマジカルファインに、5℃の環境下で添加し、これらを混合した。混合後直ぐに、手作業により厚さ1mmに延ばすことにより、混合物をシート状に成形した。その後、成形したシートを乾燥機に入れ、40〜50℃で1日間乾燥させて実施例1のシートを得た。なお、40〜50℃の乾燥初期に、リフレベースEZが乾燥により硬化した。なお、ここでは手作業で塗工を行ったが、その他例えば、バーコーター(名称:スパイラルバーコーター、エルコメーター製)を用いて塗工を行うこともできる。
【0064】
次に、実施例1のシートについて調湿試験を行った。すなわち、実施例1のシートを、予め20℃、50%RHの温湿度条件下で3日間保存した後、20℃、90%RHの温湿度条件下で1日間保存し、保存後の重量(吸湿量:Ag/m2)を測定した。その後、20℃50%RHの温湿度条件下で1日間保存し、保存後の重量(放湿量:をBg/m2)を測定した。そして、Bに対するAの差A−Bにより、吸放湿量(g/m2)を算出した。かかる吸放湿量は、実施例1のシートの調湿性能の指標となる。
【0065】
このようにして調湿試験を行った結果を、実施例1のシートで用いたマジカルファインと同量(5g)のマジカルファイン単独について、実施例1と同様にして調湿試験を行った結果と共に、表1に示す。また、マジカルファインの吸放湿量に対する実施例1のシートの吸放湿量の比率を、百分率(%)で示す。
【0066】
(比較例1)
マジカルファイン5gに、水を噴霧することなく常温でリフレベースEZを10g添加した後、流動性調整のために水を1.1g添加して混合し、その後、実施例1と同様にしてシート状に成形し、乾燥して、比較例1のシートを得た。そして、比較例1のシートについて、実施例1と同様にして調湿試験を行った。結果を表1に示す。
【表1】

【0067】
表1に示すように、比較例1のシートでは、マジカルファインに対する吸放湿量の比が10%と低いのに対し、実施例1のシートでは、マジカルファインに対する吸放湿量の比が33%となり、比較例1のシートの3倍以上であった。これにより、実施例1のシートは、比較例1のシートよりも、マジカルファインの吸放湿性能の低下が抑制されており、調湿性能が優れていることがわかった。
【0068】
比較例1のシートにおいて吸放湿性能の低下が認められたのは、マジカルファインにリフレベースEZを添加すると、リフレベースEZがマジカルファインの細孔に入り込んだ状態で硬化するため、細孔内の空隙が少なくなったからであると推察される。
【0069】
これに対し、実施例1のシートでは、マジカルファインの細孔内に添加された水が氷結体となり、その後添加されたリフレベースEZの細孔内への入り込みを抑制する。また、シート状に成形後、成形物が直ぐに乾燥されるため、細孔内の氷結体が融解する前にリフレベースEZが硬化する。さらに、上記の様に1日間乾燥させることにより、細孔内の水が除去されて、細孔内の空隙が復元される。これにより、実施例1のシートでは、リフレベースEZの細孔内への入り込みが抑制されて、吸放湿性能の低下が抑制されたものと推察される。
【0070】
(実施例2)
マジカルファイン5gを攪拌機に投入し、攪拌機で混合しながら、水1.5gを霧状に噴霧した後、10分間攪拌し、多孔質粉体に水を略均一に行き渡らせ、細孔内に水を吸収させた。疎水性樹脂接着剤として、主剤6.6g、硬化剤3.4gの割合で混合した熱硬化性樹脂の一つのエポキシ樹脂であるタフボンド(住友大阪セメント製)を用い、かかるタフボンドを、細孔内に水が含浸したマジカルファインに添加して混合した。
【0071】
混合後直ぐに、実施例1と同様にしてバーコーターにより厚み1mmのシート状に成形し、常温で1日間保存して、タフボンドを重合反応により硬化させた。硬化後、乾燥機を用いて40〜50℃で1日間乾燥させた。そして、実施例1と同様にして調湿試験を行った。結果を、マジカルファイン単独5gについての調湿試験の結果と共に、表2に示す。
【0072】
(比較例2)
実施例2と同様のタフボンドを、常温で、水を噴霧することなくマジカルファイン5gに添加した後直ぐに、実施例1と同様にバーコーターで厚み1mmのシート状に成形し、常温で1日間保存して、タフボンドを硬化させた。硬化後、乾燥を行うことなく、実施例1と同様にして調湿試験を行った。結果を表2に示す。
【表2】

【0073】
表2に示すように、マジカルファインに対する吸放湿量の比は、比較例1のシートでは0%と殆ど吸放湿性能を示さないのに対し、実施例2のシートでは12.5%であり、実施例2のシートの吸放湿量の方が比較例2のシートよりも大きかった。これにより、実施例2のシートは、比較例2のシートよりも、マジカルファインの吸放湿性能の低下が抑制されており、調湿性能が優れていることがわかった。
【0074】
比較例2のシートで吸放湿性能の低下が認められたのは、マジカルファインにタフボンドを添加すると、タフボンドがマジカルファインの細孔に入り込んだ状態で硬化するため、細孔内の空隙が少なくなったからであると推察される。これに対し、実施例2のシートで吸放湿性能の低下の抑制が認められたのは、マジカルファインの細孔内に添加された水がタフボンドと混じり合い難いため、タフボンドの細孔内への入り込みが抑制されたからと推察される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質粉体の細孔に親水性溶媒を含浸させる含浸工程と、
前記親水性溶媒が含浸した前記多孔質粉体同士を樹脂接着剤により接着させる接着工程と、
前記細孔に含浸した前記親水性溶媒を乾燥する乾燥工程と、を含む調湿材料の製造方法。
【請求項2】
前記含浸工程と前記接着工程との間に、前記細孔に含浸した前記親水性溶媒を凍結する凍結工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の調湿材料の製造方法。
【請求項3】
前記樹脂接着剤が疎水性樹脂接着剤であることを特徴とする請求項1に記載の調湿材料の製造方法。
【請求項4】
前記多孔質粉体が鉱物系調湿材であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の調湿材料の製造方法。
【請求項5】
前記鉱物系調湿材が無機材料を酸処理してなることを特徴とする請求項4に記載の調湿材料の製造方法。
【請求項6】
前記接着工程において、前記多孔質粉体同士を前記樹脂接着剤により接着させると共に、さらに前記多孔質粉体を基材に接着させることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の調湿材料の製造方法。
【請求項7】
細孔に親水性溶媒が含浸した多孔質粉体を樹脂接着剤により接着し、前記細孔に含浸した親水性溶媒を乾燥してなる調湿材料。

【公開番号】特開2012−152697(P2012−152697A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−14421(P2011−14421)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】