説明

調理食品の軟化改質方法

【課題】調理済み食品をさらに軟らかく、のど越しを滑らかな食品に改質する方法を提供する。
【解決手段】調理食品に水蒸気分解処理を施す。水蒸気分解処理は、調理食品を密閉空間内で、圧力と温度を空間内の分圧として水蒸気圧を飽和水蒸気圧曲線に沿って制御しつつ調理食品の組織成分の水蒸気分解に必要な圧力と温度である温度120℃、2気圧から、温度140℃、3.6気圧にまで上げたのち、一定時間その圧力、温度を保ち、その後、飽和水蒸気圧曲線に沿って圧力及び温度を制御しつつ密閉空間内の温度及び圧力を下降させ、飽和水蒸気圧曲線上の温度・圧力域で水蒸気圧を調理食品に作用させて調理食品の組織成分を水蒸気分解し、少なくとも調理時の外形、食品の香り、色を保持したまま歯ごたえを軟らかく改質する処理である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調理食品を食べやすく軟らかく改質する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
「今、高齢者の食べる力を支える新たな動きが広まってきています。背景にあるのは、老化や病気のため、食事が困難となる高齢者の急増です。さらに食べる力が私たちの寿命にも深くかかわっていることが最近の研究で明らかになってきました。」これは、平成22年3月4日午後7時30分からのNHKのクローズアップ現代「どう支える高齢者の“食”」の番組の冒頭の説明である。
【0003】
この番組の説明によれば、老化や病気の後遺症によって口から食事をすることが難しくなる摂食・えん下障害がある人は全国におよそ100万人もいると見られ、その数は年々増加しているという。この番組では、年齢を重ねても自分の口で味わって食べたい。その機能をどうやって維持できるのか。また病気の後遺症で衰えた飲み込む機能をいかに向上させられるのか、高齢化が急速に進む日本はおいしさまで考慮した介護職の開発。食べる力の回復衰えの予防に向けた最前線の取り組みが扱われていた。
【0004】
番組の中で注目すべきは、病気の後遺症で食べる力を失って弱くなった人をチーム医療、チームで見守りながら回復を促していくという試みとともに、普通の食事が取れなくなると液状のミキサー食になるというのではなく、実際に自分の好物だった漬物をその丸ごとの形のまま食べることができたときのうれしそうな表情、やっぱり、食事は、見た目というのは大事であり、目で見て、噛んでみて、あっ、これはやっぱり自分の食べたいものだったと思わず手を出したくなるような、そんな食が非常に重要になっているというメッセージが印象的であった。
【0005】
現実問題として食べること、食べる力を維持することが大事だと言うことは当然のこととしても高齢者、幾つになってもよく食べたい、食べられるようにしてゆく上で何が大事かという問いかけに対してどのように答えられるかという問題である。番組の中で紹介されているように食品を丸ごとの形のままで食べることができるためには、その食品に型崩れを生じさせることなく、形や風味をたもったまま軟らかく処理することが必要である。
【0006】
従来緑黄色野菜食品に関し、咀嚼,嚥下困難者が容易に摂取することができる程度に柔軟にするための方法としては、この番組でも紹介されていたが、食品を軟らかくするには、特殊な酵素を細胞の内部にしみこませる方法が用いられる。
【0007】
たとえば特許文献1に、緑黄色野菜と、弱酸性からアルカリ性で活性を有する分解酵素とを接触させ、圧力処理を施した後、分解酵素の活性を停止させ、色及び形状を保持して柔軟性を増加させる方法が提案されている。そしてこの方法によれば、緑黄色野菜の褐色変化を抑制し、緑色を保持して食欲増進を図ることができ、更に、形状、味、香りを保持し、接種者の摂取能力に応じて好ましい硬さならびに食感に調整可能であるという効果が強調されている。
【0008】
また、特許文献2は、食品素材の改質方法として、酵素を含む溶液中に食品素材(野菜)を浸漬し、1.04〜50気圧以下で加圧処理することによって食品素材内部に酵素を浸透させ、食品素材内部で酵素反応を起こさせる方法が記載されている。この方法によるときには野菜・果物の硬度を高く即ち硬化して加熱時の軟化、煮崩れを防ぐことができるほか、硬度を低く、即ち軟化して咀嚼・嚥下が容易であり、たとえば顎の力の弱った病人、老人、及び歯の生えそろっていない乳児等のための食物として適当であるという効果が強調されている。
【0009】
しかし、酵素の作用は、生体でおこる化学反応に対して触媒として機能する作用を利用する試みであって、食材の軟化の程度をコントロールすることは難しい。また酵素の作用はすべての食品に対して共通に適用できるわけでなく、実際には使用できる酵素は限られ、しかも植物性食品ごとに酵素を選択する必要があるなど、その実用性にはまだまだ解決すべき問題は多い。ところで、植物性食品の場合には、大根などに代表されるように煮炊きすることによって通常は軟らかく加工することは可能であるが、野菜以外の植物性食材組織のすべてに当てはまるわけではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−237196
【特許文献2】特開2004−89181
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
解決しようとする問題点は、食材を咀嚼,嚥下困難者が容易に摂取することができる程度に柔軟にするための方法として、従来は生体でおこる化学反応に対して触媒として機能する酵素の作用を利用する以外にはなく、この方法によっては野菜以外の食品の軟化に当てはまるわけではないという点である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、植物食品,動物食品を問わず、調理食品に水蒸気分解処理をほどこし、食品の組織成分を分断することによって、食品の形態や味を保持したまま咀嚼,嚥下困難者が容易に摂取できるようにした点を最大の特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明による調理食品の軟化改質方法によれば、植物食品,動物食品を問わず、調理済みの食品に水蒸気分解処理を施すことによって、食品の組織成分が分断され、調理された食品の見た目、味をそのままに、歯ごたえを小さく、のど越しを滑らかに改質することができ、老化や病気の後遺症によって口から食事をすることが難しくなった人や、摂食・えん下障害がある人にとって液状のミキサー食でなく、自然のままに近い食品の摂取が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(a)は本発明による分解処理に用いる缶本体の縦断面図、(b)は平面図である。
【図2】本発明を実施するシステムの構成図である。
【図3】本発明のフローを示す図である。
【図4】本発明のフローを示す図である。
【図5】本発明のフローを示す図である。
【図6】飽和水蒸気圧曲線を示すグラフである。
【図7】植物細胞壁の構造を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下本発明の概要を説明する。人間が摂取する食品は、基本的に植物細胞、動物細胞である。植物の細胞と、動物の細胞とのもっとも大きな違いは植物細胞の場合に、細胞膜の外側に細胞の支持組織として細胞壁が存在することである。細胞壁は主にセルロースが主体であり、その周囲を分厚く強固なリグニンが取り巻いており、図7に示すようにセルロースとリグニンとの隙間を埋めるようにヘミセルロースが接着剤として存在しているのである。
【0016】
植物は重力に抗して地上に伸びたり、また土圧に抗して地中で成長する必要から細胞壁を硬くして対応するために強固なリグニンを纏って成長していく。このため多くの野菜は、煮たり、焼いたりしても老人など歯の弱い人にはなかなか噛み切ったり、噛み潰すことは難しいのである。
【0017】
一方、動物細胞の場合には、細胞の支持組織は結合組織である。骨は無機質であり、脊椎動物ならコラーゲン線維が皮膚やさまざまな細胞をつなぎとめる役割をしている。コラーゲンはたんぱく質である。動物細胞の場合、細胞の支持組織が硬い理由は、植物細胞とは大きく違っている。たとえば、肉を焼いて硬くなるのは、熱が加わると肉(蛋白質)が熱変性して硬く収縮していき、このとき肉に含まれている水分が分離され、肉の外へ蒸発してしまうからである。植物食品も動物食品もこれを軟らかくする方法として加水分解処理が知られている。
【0018】
植物食品の加水分解について考察する。セルロースやヘミセルロース、リグニンを加水分解する方法には、分解酵素を作用させる方法と、水蒸気を用いた加水分解処理(本発明においては、水蒸気による加水分解を用いるため水蒸気分解と称している)の方法が考えられる。植物食品には、植物の種類ごと、部分ごとにそれぞれ分解酵素が存在し、実験的にはきれいに分解できるが、酵素の働く条件は厳しく、また価格も高価で実用的とは言い切れない。
【0019】
これに対して水蒸気分解処理は、処理対象は、植物食品、動物食品を問わない。発明者は、葉物を除いて植物食品及び動物食品の調理食品を温度120℃で、2気圧から140℃、3.6気圧にまで10分をかけで分解処理したところ、調理食品の色も形も味も、そして軟らかさも十分である事を確かめた。
【0020】
なお、植物食品に関しては、水蒸気分解処理によって、ヘミセルロースは完全に分解して水に溶け、セルロースとリグニンも部分的に分解して水に溶け出し、成分として有用視されている何種類かのポリフェノールがエキスとして細胞壁から搾り出されていることを確認した。本発明においてはこのような状態を食品の組織成分の分断と定義している。すなわち、調理食品が植物性食品の場合に、その組織成分は、植物細胞の細胞壁を形成するセルロースとその周囲を取り巻くリグニンとの隙間を埋めるヘミセルロースであり、水蒸気分解処理によって、細胞壁ヘミセルロースが植物細胞の細胞壁から分解除去され、細胞壁の強度を低下させるのである。
【0021】
また、調理食品が、動物性食品の場合に、その組織成分は、細胞をつなぎとめる役割をしているコラーゲン線維であり、水蒸気分解処理によって、コラーゲン線維を細胞から分解除去され、細胞の強度が低下するのである。
【0022】
本発明は、植物食品、動物食品を含めて調理済みの食品の組織成分を分断する処理に水蒸気分解処理を用いるものである。本発明において、調理食品とは、食材に手を加えてこしらえられた食べ物であって、食器に盛りつけられ、料理として食卓に出される状態のものを予定している。通常は、そのまま食されるが、本発明はその調理食品をさらに食べやすく歯ごたえが軟らかく、喉ごしを滑らかに軟化改質するものである。
【0023】
図1に、調理食品の軟化改質に用いる分解処理装置の一例を示す。分解処理装置は、ハッチを開閉する蓋体1を備えた円筒状の缶本体2であり、その内底および内周面にはヒータ3が配線され、缶本体1内の温度は温度センサ4によって検知され、缶本体2内の温度検知信号は制御装置5に伝送される。蓋体1には圧力ゲージ6と、圧力コントロール用の電磁弁7が取り付けられている。電磁弁7は、制御装置5からの指示によって開弁し、缶本体2内に発生させた水蒸気を外部に排出して缶本体2内の圧力をコントロールするものである。被処理物である調理食品は、かご8内に収容して缶本体2内に差し入れられる。
【0024】
図2に、缶本体内で進行させる水蒸気分解反応の進行を監視するためのシステムの構成を示す。制御装置5は、監視室9内に設置されたコンピュータであり、制御装置5は、ヒータ3の電源投入,処理時間の設定,電磁弁7の開閉制御などを含めて、缶本体2内で進行させる水蒸気分解処理に必要な一切の制御並びに設定情報の管理を行う機能、分解反応の進行状況の監視機能を実行し、軟化改質された食品の状態は、モニター10によって監視するほか、これらのデータをオートサンプラ11に収集してサンプリングを行う機能を有している。図3において、制御装置5は、原料である食品及び素材Aを調理し、その調理済みの食品Bを水蒸気分解処理Cし、水蒸気分解処理後の処理済み食品Dを包装Eし、機能性食品あるいは老人向け食品などの製品Fとして出荷されるまでを管理する。また、水蒸気分解処理Cによって、生成した成分エキスGは別途回収する。
【0025】
組織成分の分断による調理食品の軟化改質には、上記装置を用いて水蒸気分解処理を行うことによって実現されるが、水蒸気分解処理に先立って、缶本体2のハッチを開き、缶本体2内に少量の水を注入する(水の注入量は、処理量、缶本体の容量によっても違うが、概ね缶本体2の底に約3cm程度の高さまでに収まるように注入される。次に軟化改質処理を施すべき調理食品Bをかご8の中に入れ、これを被処理物として缶本体2内に格納し、ハッチを閉じ、水蒸気分解処理を開始する。処理の手順を図3〜図5に従って説明する。
【0026】
図3は、水蒸気分解処理を実行するまでの準備の手順を示すフロー図である。図3において、缶本体内外をつなぐ管路に設けられた電磁弁7を閉じて缶本体2を密閉し、ヒータ3の電源を投入する(ステップS1)。この状態で缶本体内から出力される温度・圧力の値を制御装置のインジケータで読み取る(ステップS2)。
【0027】
缶本体2内から出力される温度・圧力の値を読み取れたときには、読み取った温度の値の演算式を式(1)に示す。
P(bar)=10(A(1/T2))-B(1/T)+C) ・・・・・(1)
但し A,B,Cは定数
Tは絶対温度K(℃プラス273)
Pは単位は、bar(絶対圧)である。
読み取った温度の値を式(1)に入力して制御装置5にて演算処理し、入力した温度の値に対応する処理圧力の値を算出し、温度と圧力との対応関係を設定する(ステップS3)。
【0028】
水蒸気分解処理において、缶本体2内の温度と圧力を制御するに際しては、図6に示す飽和水蒸気圧曲線に沿って、規定範囲内の温度・圧力領域で水蒸気圧を上げていくことによって水蒸気分解反応を進行させることが重要である。
【0029】
ちなみに、ある温度・圧力下で1成分系の気液両相が共存するとき、その気相をなす蒸気が飽和に達している状態を飽和蒸気といい、そのときの圧力が飽和蒸気圧である。ある物質の液体の周囲で、その物質の分圧が液体の蒸気圧に等しいとき、その液体は気液平衡の状態にある。温度を下げると蒸気は凝結して液体になる。逆に温度を上げると液体は気化する(蒸気になる)。また、固相と気相の間でも同様の平衡状態が保たれる。この転移を昇華という。
【0030】
ステップS3において、缶本体内の温度と圧力との関係を設定した後、缶本体内の温度tが100℃以内か以上かを判定し、100℃以下の時には、ついで圧力Pが正圧か負圧かを判定し、正圧の時にはタイマーを水蒸気分解処理の処理時間10〜20分にセットする。
【0031】
図4において、タイマーを起動し、缶本体内の温度と、圧力を監視室の制御装置で制御し、図6に示す飽和水蒸気圧曲線に沿う温度、圧力域で水蒸気圧を上げていき、水蒸気分解処理を開始する。処理時間は10分から20分で終了する。
【0032】
水蒸気分解処理において、缶本体内の温度tを120℃以上、150℃以下の範囲、圧力pを5.0bar未満に保ちつつ缶本体2内の分圧としての水蒸気圧を飽和水蒸気圧曲線に沿って制御する。この時、細胞組織の成分液の分圧比はごく低いため、水蒸気圧が支配的である。
【0033】
細胞組織成分を含む蒸気の温度・圧力域では、飽和水蒸気圧より少しでも温度が高いと炭化し、低いと不完全分解による不純物質の混入の危険が生ずる。そこで、缶本体内の雰囲気の温度と、圧力とをコンピュータ制御によって、微妙な反応領域を通過させる。
【0034】
予め設定した時間(約10分)経過後、ヒータの電源を切り(ステップS5)、そのときの温度、圧力の値を確認し(ステップS6)、その後、電磁弁7を短い間隔で開き、缶本体2内を減圧しながら強制冷却を実行し、飽和水蒸気圧曲線に沿って圧力及び温度を制御しつつ密閉空間内の温度及び圧力を下降させ、飽和水蒸気圧曲線上の温度・圧力域で水蒸気のエネルギーを調理食品に作用させながら(ステップS7)、缶本体内の温度が120℃以下になったとき、図5に示すように、電磁弁7を長い間隔で開いて缶本体2内を更に減圧して急速冷却を行い、(ステップS8)、缶本体2内の温度が120℃から更に100℃以下に降下したことを確認して処理を終了する。
【0035】
なお、水蒸気分解処理後の冷却に際しても、水蒸気圧を図6に示す飽和水蒸気圧曲線に沿う温度、圧力領域で水蒸気圧を下げて行くことが必要である。水蒸気分解処理の終了後、缶本体1のハッチを開き、缶本体2内の処理物かご8を取り出し、処理物かご8内に生成された改質処理食品を回収する。
【0036】
上記水蒸気分解処理によって、およそ1時間を越える長時間の処理をすると、調理食品中に含まれる水溶性の成分が分解し、成分エキスとして缶本体内に生成する。成分エキスは、植物食品の場合に、たとえば、ヘミセルロースである。ヘミセルロースは、完全に分解して水にとけ、成分エキスとして回収される。また、セルロースとリグニンも部分的に分解して水に溶け出し、成分として有用視されている何種類かのポリフェノールがエキスとして調理食品から水中に絞りだされていることが確認されている。
【0037】
また、熱に関する変性については次のとおりである。
1)蛋白質:野菜の中に存在するポリフェノールなどの糖蛋白質(プロテオグリカン)は、1次構造の蛋白質(アミノ酸のペプチド)であるため熱変性はない。
2)脂質:野菜の中に存在する脂質は油脂、ロウなどの単純脂質とリン脂質、糖脂質などの複合脂質に分類されるが、いずれも炭素数が16と18の高級脂肪酸からできており、300℃を超えないと変性はない。
3)繊維:野菜の中の繊維は水溶性と水不溶性があるがいずれも同じ炭化水素を主体とする結合なので、150℃を超えて炭化が始まらないと変性はない。以上の状況を考えると、120℃から140℃での短時間処理が最も望ましいといえる。
【0038】
以上水蒸気分解処理を用いて植物性の調理食品の組織成分を分断し、軟化改質する例を説明した。植物組織の場合には、植物組織の接着剤として機能しているヘミセルロースを組織から分解除去することによって、食品の組織成分が分断されて軟化改質されるのであるが、一方、動物組織の場合に、皮膚やさまざまな細胞をつなぎとめる役割をしているコラーゲンを組織から分解除去することによって食品の組織成分が分断されて軟化改質される点に相違点があるものの、水蒸気分解処理の条件や、手順、処理の要領は、植物性の調理食品の水蒸気分解処理の場合とまったく同じである。なお、処理物が動物性食品の場合には、成分エキスとしてコラーゲンの分解生成物ヒドロキシプロリンが得られる。
【0039】
いずれにしても、軟化改質された食品は、調理食品のままの形状や、外観、味を保ったままで咀嚼、嚥下困難者であっても容易に摂取することができる程度に柔軟改質することが可能となる。
【0040】
(実験例)
以下に本発明の実験例を示す。実験は、いくつかの植物性調理食品と、いくつかの動物性調理食品とについて行った。水蒸気分解処理条件は、いずれも缶本体内の温度tを120℃以上、150℃以下の範囲、圧力pを5.0bar以下に保ちつつ缶本体内の分圧としての水蒸気圧を飽和水蒸気圧曲線に沿って制御した。処理時間は10分である。植物性調理食品の実験例を表1に、動物性調理食品の実験例を表2に示す。
【0041】

【表1】

【0042】

【表2】

【0043】
以上、表1、表2に明らかなとおり、植物性食品の場合に処理前には、「ボリボリ」「バリバリ」といった噛み応えがあったものが、ほとんどの場合に、処理後は無音になり、また、動物性食品の場合には、処理前の弾力のある噛み応えが処理後なくなり、のどにつかえるという感じがなくなり、軟らかく食べやすくなったにも関わらず、食品の見た目、形状、味、香りは処理前とほとんど変わりがないことが証明された。
【産業上の利用可能性】
【0044】
高齢者の食べる力の衰えた高齢者、老化や病気のため、食事が困難となる高齢者老化や病気の後遺症によって口から食事をすることが難しくなる摂食・えん下障害がある人の自分の口で味わった、食べたいという要求を満たすことができる。
【符号の説明】
【0045】
1 蓋体、2 缶本体、3 ヒータ、4 温度センサ、5 制御装置、6 圧力ゲージ、7 電磁弁、8 かご、9 監視室、10 モニター、11 オートサンプラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水蒸気分解処理を有する調理食品の軟化改質方法であって、
水蒸気分解処理は、調理食品を被処理物として、密閉空間内で、圧力と温度を空間内の分圧として水蒸気圧を飽和水蒸気圧曲線に沿って制御しつつ調理食品の組織成分の水蒸気分解に必要な圧力と温度である温度120℃、2気圧から、温度140℃、3.6気圧にまで上げたのち、一定時間その圧力、温度を保ち、その後、飽和水蒸気圧曲線に沿って圧力及び温度を制御しつつ密閉空間内の温度及び圧力を下降させ、飽和水蒸気圧曲線上の温度・圧力域で水蒸気を調理食品に作用させて調理食品の組織成分を分断し、少なくとも調理時の外形、食品の香りを保持したまま歯ごたえを軟らかく改質する処理であることを特徴とする調理食品の軟化改質方法。
【請求項2】
調理食品は、植物性食品であり、その組織成分は、植物細胞の細胞壁を形成するセルロースとその周囲を取り巻くリグニンとの隙間を埋めるヘミセルロースであり、
水蒸気分解処理は、細胞壁ヘミセルロースを植物細胞の細胞壁から分解除去し、細胞壁の強度を低下させる処理であることを特徴とする請求項1に記載の調理食品の軟化改質方法。
【請求項3】
調理食品は、動物性食品であり、その組織成分は、細胞をつなぎとめる役割をしているコラーゲン線維であり、
水蒸気分解処理は、コラーゲン線維を細胞から分解除去し、細胞の強度を低下させる処理であることを特徴とする請求項1に記載の調理食品の軟化改質方法。
【請求項4】
水蒸気分解処理は、ヘミセルロースを分解して水に溶かし、セルロースとリグニンも部分的に分解して水に溶け出し、成分として有用視されている何種類かのポリフェノールをエキスとして細胞壁から搾り出させる処理を含むものであることを特徴とする請求項2に記載の調理食品の軟化改質方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−223930(P2011−223930A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−97107(P2010−97107)
【出願日】平成22年4月20日(2010.4.20)
【出願人】(592068510)
【Fターム(参考)】