説明

調節剤の粘膜投与による感染している哺乳類における免疫応答の調節方法

【課題】哺乳類における効率のよい免疫応答の調節手段の提供。
【解決手段】哺乳類にウイルスに感染したウイルスの特定のエピトープの該感染哺乳類の処置用の医薬の調製のための使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は感染性病原体(infectious agent)に感染している哺乳類の免疫応答の調節である。
【背景技術】
【0002】
哺乳類の多数の細菌、ウイルス及び寄生虫感染には2期の感染、すなわち感染の初期段階中の急性期及び時折それに続く有限または無限の期間を有する長い慢性期がある。感染性病原体が哺乳類宿主において慢性感染を定着させる能力は、感染の初期段階で宿主から感染生物を排除する宿主免疫応答の能力にかなり依存する。宿主からの感染性病原体の排除を招く特定の免疫機構は感染性病原体により決まる。ウイルス及びある寄生虫感染の場合、細胞障害性Tリンパ球の感染性病原体排除活性が、宿主からのこれらの病原体の排除をもたらす宿主免疫応答の重要な成分を占めると考えられる。
【0003】
哺乳類の免疫応答活性が起因すると考えることができる哺乳類の免疫系の成分は抗体分子、補体分子、Bリンパ球、Tリンパ球、細胞障害性Tリンパ球、ヘルパーT細胞、サプレッサーT細胞、免疫抑制リンパ球、サイトカイン分泌リンパ球、他の非細胞障害性リンパ球、マクロファージ、好中球、マスト細胞、好塩基球、好酸球、単球等を含むが、それらに限定されない。哺乳類宿主からの感染性病原体の完全な排除を導く宿主免疫活性の誘導または複製は、感染性病原体による感染に対する臨床処置の理論的枠組である。
【0004】
細菌及びある寄生虫での感染の間に、急性感染を引き起こす感染性病原体の宿主からの除去は伝統的に感染性病原体に対して比較的選択的な有毒物質として働く抗生物質を用いて成し遂げられている。抗生物質処置は慢性の細菌感染の場合にはあまりうまくいっていない。より最近では、宿主免疫系の不活化(indolence)が感染性病原体の持続に寄与する場合に慢性感染を引き起こす感染性病原体を除去しようと試みる宿主免疫系を調節することに臨床努力が集中している。インターフェロンα、β及びγのような物質を用いる特異的免疫調節が試みられており、少数の場合で有益な結果が認められている。
【0005】
感染が慢性になる場合、感染性病原体に対する持続する宿主免疫反応により感染を制御することができる。ある種のヘルペスウイルスは、例えば、宿主免疫適格の状況においてのみ潜伏性のままである。例えば、臓器移植受容者で用いられる免疫抑制治療は潜伏性ヘルペスウイルスを再活性化させる。従って、潜伏性HHV−6感染を有するヒト患者へのステロイド及びサイクロスポリンA投与に反応した免疫担当性の喪失はHHV−6を再発させる。HHV−6再活性化の結果はウイルス性肺炎及び骨髄抑制を含む。さらに、エイズウイルス(HIV−1)に感染しているヒトの非ホジキンB細胞リンパ腫の高い罹病率は、T細胞免疫反応性が失われるにつれて慢性エプスタイン−バーウイルス感染に起因する病原性が活性になることを示す。従って、宿主の免疫反応性の抑制により影響を受けるか、そうでなければ非病原性の慢性感染に起因する病原性の再活性化は宿主に対して有害な作用を有する可能性がある。
【0006】
いくつかの微生物の感染性病原体は、宿主から感染性病原体を排除することに効果がないが宿主組織を損なうかまたは破壊することに有効な宿主免疫反応を主として引き出すことにより、哺乳類宿主において疾病を引き起こす。このように機能する1つのそのようなウイルスはエイズウイルス、HIV−1である。HIV−1はHIV−1に感染しているヒトにおいてヘルパーTリンパ球の破壊をもたらすが、細胞破壊の機構は明確に特定されていない。ヘルパーT細胞はシンシチウム形成により培養において破壊されるが、患者サ
ンプルにおける多核化T細胞の存在は報告されていない。このことはインビボでのシンシチウム形成が稀な事象であることを示唆する。HIV−1に感染している患者がウイルスに対する強い細胞障害性応答を持つようになること及びこの応答が感染の経過中にわたって持続することが知られている。また、エイズに特有なT細胞喪失の少なくともいくらかが、MHCクラスI分子に関連してウイルス抗原を発現するCD4保有T細胞の死の結果であることも知られている。これらの細胞の死は感染している個体の免疫系によりもたらされる。
【0007】
別のヒトレトロウイルスのHTLV−1は宿主細胞に直接損傷を与えない。HTLV−1に慢性的に感染している患者は、しばしば、ゆっくり発症する神経学的疾患、すなわちHTLV−1関連ミエロパシー/熱帯性痙性対不全麻痺(HAM/TSP)を示す。HAM/TSPはヒト自己免疫疾患の多発性硬化症(MS)と臨床的及び組織病理学的に類似している。
【0008】
MSに苦しむヒトでは、明らかに神経絨中のウイルス抗原に対する患者の免疫反応性のために神経成分が失われている。MSは感染性病因を有することが示唆されている。いくつかのウイルスがMSの発症の病原性誘因であると示唆されているが、最近の実験証拠から、ヒトヘルペスウイルス6(HHV−6)がヒトにおいてMSの発症を最終的に招く感染性病原体の可能性があることが強く示唆される。複製するHHV−6がMSプラークにおいて同定されている(非特許文献1参照)。さらに、再発−寛解型のMSにかかっているヒトの大部分は激しく複製するHHV−6に対する免疫反応の証拠を示す(非特許文献2参照)。これらの結果から、自己免疫疾患として長く分類されているMSがHHV−6でのヒトの慢性感染の結果生じる可能性があることが示唆される。これが本当である場合、MSに苦しむヒトはヒトにおけるHHV−6の存在に対する免疫応答の抑制から利益を得る。
【0009】
ある種の慢性の細菌及び原生動物感染も、宿主からの感染性病原体の効果のない排除と結びつく持続する宿主免疫反応性を誘導することにより、哺乳類宿主において疾病をもたらす。例えば、マイコバクテリウム・ツベルクロ−シス(Mycobacterium tuberculosis)は主として宿主自己免疫応答により組織破壊を引き起こす低増殖生物である。同様に、原生動物のリーシュマニア・ドノバン(Leishmania
donovani)はそれ自体比較的非病原性であるが、感染に対する持続する宿主免疫反応は重い疾病をもたらす。リンパ性糸状虫感染症はリンパチャネルの部分的閉塞を引き起こすが、寄生虫に対する持続する効果のない免疫反応の寄与も、結果として生じる外観を損なう象皮病と関係する管腔開通性の喪失の原因である。リーシュマニア・ブラジリエンシス(Leishmania braziliensis)による哺乳類の感染はしばしば最初の顔の損傷が治癒した数年後に生じる重い損なう顔の損傷を引き起こす。それらの重い損傷は宿主中に残存する少数の寄生虫を破壊するための免疫系による繰り返された攻撃により引き起こされる。同様に、シストソーマ・マンソン(Schistosoma mansoni)のような寄生虫は、肝臓内に存在する寄生虫に対して持続する免疫反応を引き起こすことにより肝門脈管の傷痕を生じる。免疫反応は感染を取り除かず、循環障害が生じ、そして門脈圧亢進症と関係する生命にかかわる硬変が続いて起こる可能性がある。
【0010】
持続する免疫応答なしでは本来非病原性である感染性病原体の種類のおそらく最も説明に役立つ例はB型肝炎ウイルス(HBV)である。HBVに感染した大部分の個体はほとんど臨床症状を示さず、さらされた後数週以内にそれらの系からウイルスを排除する。急性的にHBVに感染した個体の約10%が慢性感染を発症する。個体を慢性感染にかかりやすくする因子は十分に知られていない。HBVは遍在し、慢性的にHBVに感染している個体の世界的人口は世界保健機関により約3億5千万人と見積もられている。HBVに
慢性的に感染している患者の大部分は、ウイルスを取り除こうと試みる免疫系による肝臓への日常の激しい攻撃の直接結果として生命にかかわる硬変及び原発性肝細胞癌を発症する。
【0011】
HBVによりもたらされる硬変を最終的に招く機構は免疫病理学的である。肝臓損傷はHBVでの感染から直接生じない。この主張はたとえ肝炎の臨床徴候が軽い可能性があろうとも慢性的に感染しているヒト患者の肝臓中の70%までの肝細胞がウイルスを保有するという結果により支持される(非特許文献3参照)。さらに、インビトロ及びインビボの両方でHBVと宿主細胞の相互作用を調べる実験の結果から、ウイルスが検出可能な細胞障害性または細胞溶解活性を持たないことが示される。HepG2細胞は細胞機能の識別できる変化なしにトランスフェクション後にHBVを発現することが示されている(非特許文献4参照)。HBVゲノムを含んでなる免疫適格(immunocompetent)トランスジェニックマウスを用いる最近の研究から、ウイルス抗原のいずれも直接的な細胞障害能力を保有しないことが示されている。主要なHBVタンパク質の全てが肝臓細胞で検出されるか、またはこれらのマウスの血液循環中に存在したが、これらの細胞の細胞障害のいかなる徴候も見られなかった(非特許文献5参照)。
【0012】
ヒトにおける急性HBV感染は強い抗ウイルス宿主免疫応答をもたらす。ウイルス表面タンパク質(HBsAg)及びヌクレオキャプシド(コア、HBcAg)を初めとするウイルスタンパク質の全てが特定の免疫グロブリンの生産を引き起こす。ワクチン接種試験から、抗ウイルス抗体はHBV再感染を防ぐことに重要であるが、免疫応答の体液性成分は定着した感染を制御するためにはほとんど役に立たないことが立証されている(非特許文献6、非特許文献7、非特許文献8参照))。さらに、抗−HBsAg抗体の濃度は慢性的に感染している患者の大部分において検出できないレベルまで減少し、慢性HBV感染を調節することにこれらの抗体の有用性がないことがさらに示唆される(非特許文献9参照)。免疫防御の細胞性成分の役割はそのように良性ではない。
【0013】
慢性的に感染している個体においてHBVにより生じる肝細胞の壊死は、感染した肝細胞の表面上の宿主MHCクラスI分子と共に提示されるウイルス抗原と反応する免疫細胞障害性T細胞の結果である。ウイルスの宿主免疫制御は効果がないだけでなく、慢性的に感染している宿主には実際的に有害である。慢性的に感染している患者におけるHBVに関連した肝疾患の寛解/悪化の性質は、おそらく、ウイルス抗原発現の多様性よりむしろ宿主免疫反応性の変動の結果生じる。そのような宿主多様性はHBVに感染している肝細胞の表面上のMHCクラスI抗原発現の濃度の変化の結果生じることが示唆されており、慢性HBV感染を処置するためのα−及びβ−インターフェロンの臨床使用の論理的根拠である。
【0014】
経口寛容治療の原理は多数の自己免疫疾患の処置にうまく適用されている。多発性硬化症の処置及び慢性関節リウマチの処置のためのそのような治療の第III相(phase III)試験からの予備結果が報告されている(非特許文献10参照)。さらに、経口寛容治療の効能は同種移植片拒絶及びII型糖尿病の動物モデルにおいて示されている(非特許文献11参照)。経口寛容治療は、患者から感染性病原体を取り除くという臨床家の第一目標を考慮するとそのような試みは逆効果と考えられて使えなかったので、ウイルス、細菌または寄生虫感染の処置のためにこれまで一度も試みられていない。
【0015】
感染性病原体による感染に対する哺乳類宿主の免疫応答は、宿主により通常発現される組織抗原に対する免疫応答の誘発をもたらす可能性がある。例として、B群溶血性ストレプトコッカス(Streptococcus)種によるヒトの感染に対する知られている反応はリウマチ熱の発生である。1つまたはそれより多い特定のストレプトコッカス抗原は宿主免疫応答の成分の生産を刺激し、それは感染している細菌だけでなく、患者の心臓
及び関節に存在する正常組織により発現される抗原も認識する。細菌感染の有効な抗生物質処置がない場合に起こるもののような長く続く感染では、宿主免疫系は正常組織を攻撃し、心臓弁膜症が免疫反応によりもたらされる組織傷痕の結果として生じる。さらに、患者の関節の組織に対する免疫系の同じ成分の応答のために患者は関節炎を発症する。
【0016】
同じような一組の疾病徴候が歯の処置に続発するヒトのストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococci mutans)感染後に報告されている。ストレプトコッカス・ミュータンスは口腔咽頭の正常細菌叢の成分であり、虫歯の原因となる病原体である。歯のケアと関係する外傷はしばしば患者の血液循環への細菌の機械的伝播をもたらし、それにより病巣感染が生じる可能性がある。B群溶血性ストレプトコッカス細菌による感染でのように、感染性病原体に対して発生した免疫系の1つまたはそれより多い成分が正常組織を破壊し始め、病的状態が生じる。
【0017】
寄生虫病は哺乳類宿主において破壊的自己免疫応答を引き出す疾病の種類のさらなる例である。例えば、「河川盲目症」の原因となる病原体のオンコセルカ・ボルブラス(Onchocerca volvulus)によるヒトの感染は、ヒト網膜に通常見いだされるタンパク質と交差反応する抗体の生産を引き出す。トリパノソーマ・クルーズ(Trypanosoma cruzi)に感染しているヒトでは、FI−160と呼ばれる抗原が中枢神経系に存在するタンパク質と交差反応する抗体の生産を引き出す。従って、トリパノソーマ・クルーズの疾病提示の一つは免疫によりもたらされる神経叢の破壊である。シャーガス病とも呼ばれる南アメリカ睡眠病はトリパノソーマ・ブラジリエンシス(T.braziliensis)によるヒトの感染により引き起こされ、それは免疫によりもたらされる心臓及び神経組織の破壊を引き起こす。
【0018】
ウイルス、細菌及び寄生虫病原体に感染している哺乳類により示される望ましくない自己免疫応答を調節するために有用な方法及び組成物が極めて必要とされている。本発明はこれらの感染から生じる生涯にわたる身体障害を防ぐために有用である。
【0019】
【非特許文献1】Challoner等、1995、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:7440−7444
【非特許文献2】Soldan等、1997、Nature Med.3:1394−1397
【非特許文献3】Ray、1978、Hepatitis B virus antigens in tissues、University Park Press、Baltimore、pp49−68
【非特許文献4】Roingeard等、1990、Hepatology 11:277−285
【非特許文献5】Araki等、1989、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:207−211;Farza等、1988、J.Virol.62:4144−4152
【非特許文献6】Krugman等、1994、「Hepatitis B vaccine」、Vaccines中、Plotkins等、編集、W.B.Saunders、Philadelphia
【非特許文献7】Gelfand、1974、Postgrad.Med.55:263−264
【非特許文献8】Good等、1960、Am.J.Med.29:804−810
【非特許文献9】Gerlich、1993、Viral Hepatitis:Scientific Basis and Clinical Management中、Zukerman等、編集、Churchill Livingstone、Edinburgh、UK、pp83−114
【非特許文献10】Weiner等、1993、Science 259:1321−1324;Trentham等、1993、Science 261:1727−1730
【非特許文献11】Hancock等、1993、Transplantation 55:1112−1118;Bergerot等、1994、J.Autoimmun.7:655
【発明の開示】
【0020】
本発明は感染性病原体に感染している哺乳類において免疫応答を調節する方法に関し、その方法は哺乳類に組成物を経粘膜的に投与することを含んでなる。その組成物は哺乳類における免疫応答のごく近くに位置するエピトープを含んでなる。哺乳類への組成物の投与後に、免疫応答は調節される。哺乳類は感染性病原体に慢性的に感染していてもよい。
【0021】
本発明の方法の1つの態様として、感染性病原体がエピトープを含む抗原を含んでなる。この場合、組成物はその抗原を含んでなることができる。
【0022】
本発明の方法の別の態様として、哺乳類がエピトープを含む抗原を含んでなる。この場合、その抗原は哺乳類が感染性病原体に感染している時にのみ哺乳類の免疫系の成分と反応するものであってもよい。例として、抗体分子、補体分子、Bリンパ球、Tリンパ球、ヘルパーTリンパ球、サプレッサーTリンパ球、細胞障害性Tリンパ球、免疫抑制リンパ球、サイトカイン分泌リンパ球、非細胞障害性リンパ球、マクロファージ、好中球、マスト細胞、好塩基球、好酸球及び単球よりなる群から成分を選択することができる。
【0023】
本発明の方法の別の態様として、哺乳類がヒトである。
【0024】
本発明の方法のさらに別の態様として、組成物が抗生物質、抗ウイルス化合物、抗寄生虫化合物、抗炎症化合物、免疫抑制薬及び共力剤よりなる群から選択されるもう一つの分子をさらに含んでなる。例として、ラミブジン(lamivudine)、細菌リポ多糖、免疫調節リポタンパク質、トリパルミトイル−S−グリカリルシステイニル−セリル−セリンに共有結合的に結合したペプチド、ステロイド、サイクロスポリンA、AZT、ddC、ddI及び3TCよりなる群からもう一つの分子を選択することができる。
【0025】
本発明の方法のさらに別の態様として、感染性病原体が細菌、ウイルス及び寄生虫よりなる群から選択される。例として、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、パルボウイルスB19、ボルナ(Borna)病ウイルス、HIV、HTLV−1、マイコバクテリウム・ツベルクローシス、B群溶血性ストレプトコッカス細菌、ストレプトコッカス・ミュータンス、トリパノソーマ・クルーズ、リーシュマニア・ドノバニ、オンコセルカ・ボルブラス、トリパノソーマ・ブラジリエンシス及びシストソーマ・マンソンよりなる群から感染性病原体を選択することができる。
【0026】
本発明の方法の別の態様として、免疫応答が自己免疫反応、体液性免疫応答及び細胞性免疫応答よりなる群から選択される。例として、哺乳類の組織抗原と交差反応する抗体の生産を含んでなる体液性免疫応答、免疫抑制因子の生産を含んでなる体液性免疫応答、哺乳類の組織において細胞死を特異的に誘導する細胞障害性細胞の生産を含んでなる細胞性免疫応答及び免疫抑制因子を分泌するリンパ球の生産を含んでなる細胞性免疫応答よりなる群から自己免疫反応を選択することができる。
【0027】
本発明の方法のさらに別の態様として、組成物の経粘膜投与が口、腸、鼻内、肺及び結腸よりなる群から選択される投与の経路により成し遂げられる。
【0028】
別の態様として、本発明の方法が抗生物質、抗ウイルス化合物、抗寄生虫化合物、抗炎症化合物、免疫抑制薬及び共力剤よりなる群から選択されるもう一つの分子を含んでなる組成物を哺乳類に投与することをさらに含んでなる。例として、ラミブジン、細菌リポ多糖、免疫調節リポタンパク質、トリパルミトイル−S−グリカリルシステイニル−セリル−セリンに共有結合的に結合したペプチド、ステロイド、サイクロスポリンA、AZT、ddC、ddI及び3TCよりなる群からもう一つの分子を選択することができる。
【0029】
また、本発明は感染性病原体に感染している哺乳類において免疫応答を調節するための組成物にも関し、その組成物は哺乳類における免疫応答のごく近くに位置するエピトープを含んでなる。
【0030】
詳細な説明
本発明は感染性病原体に感染しているヒトのような哺乳類の免疫応答を調節する方法を提供する。その方法は感染性病原体に急性的に感染している哺乳類及び感染性病原体に慢性的に感染している哺乳類を処置するために有用である。その方法は免疫応答のごく近くに位置するエピトープを含んでなる組成物を哺乳類に経粘膜的に投与することを含んでなる。
【0031】
本明細書に用いられる場合、「哺乳類の免疫応答を調節すること」は免疫系の成分の量または免疫系の成分が特徴とする活性のいずれかを増加または減少することを意味する。例として、ヒトの免疫応答を調節することはヒトに存在するサプレッサーTリンパ球の数を増加すること、ヒトにおけるサプレッサーTリンパ球による免疫抑制因子の分泌を増加すること、ヒトに存在する細胞障害性Tリンパ球の数を減少すること、ヒトにおける細胞障害性Tリンパ球の細胞障害活性を減少すること、ヒトにおける抗体の量を減少すること、ヒトにおける補体タンパク質の量を減少すること、ヒトにおける細胞と相互作用する補体タンパク質の能力を減少すること等を含む。
【0032】
本明細書に用いられる場合、「エピトープ」はヒトのような哺乳類の免疫系により生産される免疫グロブリン分子と相互作用するかまたは相互作用することができる分子または分子の一部を意味する。抗原は抗体と相互作用することができるエピトープのよく知られている例である。単一分子が多数のエピトープを含んでなる可能性があること、そしてエピトープが1個より多くの分子の各々の一部を含んでなる可能性があることが理解される。
【0033】
本発明の方法の「免疫応答のごく近くに位置するエピトープ」は、哺乳類における感染性病原体の存在により誘導または激化される望ましくない免疫反応性の部位に位置する組織の少なくとも1つの細胞の表面上に存在するエピトープまたはそのようなエピトープと交差反応するエピトープを意味する。例として、B型肝炎ウイルス(HBV)の存在は特定のエピトープを含んでなるウイルスタンパク質を表面上に展示する肝細胞を攻撃する細胞障害性Tリンパ球をヒトの体に生産させる。この場合、これらのTリンパ球の生産及び肝細胞に対するこれらのTリンパ球の細胞障害活性は両方とも望ましくない免疫反応性である。同じまたは類似したエピトープを含んでなる組成物をHBVに感染しているヒトに経粘膜的に投与することにより、サプレッサーTリンパ球のような免疫抑制リンパ球が体により生産される。これらのリンパ球はエピトープを展示する肝組織に移動することができ、そしてヒトにおけるHBVの存在に反応して生産されるTリンパ球の細胞障害活性を抑制することができ、それにより望ましくない免疫反応性を調節する。
【0034】
第一エピトープがヒトのような哺乳類の免疫系により生産される免疫グロブリン分子と相互作用するかまたは相互作用することができ、そして第二エピトープが同じ免疫グロブ
リン分子と相互作用するかまたは相互作用することができる場合、第一エピトープは第二エピトープと「交差反応する」。
【0035】
本方法により調節される免疫応答は自己免疫反応、感染性病原体による感染に対する体液性免疫応答、体液性応答が哺乳類の組織抗原と交差反応する抗体の生産を含んでなる場合の感染性病原体による感染に対する体液性免疫応答、感染性病原体による感染に対する細胞性免疫応答、細胞性応答が哺乳類の組織において細胞死を特異的に誘導する細胞障害性細胞の生産を含んでなる場合の感染性病原体による感染に対する細胞性免疫応答等であってもよい。
【0036】
本発明の方法を用いて調節することができる体液性免疫応答は哺乳類による抗体分子の生産、哺乳類によるサイトカインの生産、哺乳類による補体タンパク質分子の生産等を含むが、それらに限定されない。本発明の方法を用いて調節することができる細胞性免疫応答は抗体産生細胞の生産、細胞障害性Tリンパ球の生産、サプレッサーT細胞の生産、Tヘルパー細胞の生産、免疫記憶細胞の生産等を含むが、それらに限定されない。
【0037】
本発明の方法により投与される分子のエピトープは感染性病原体の抗原上に位置するエピトープまたは哺乳類の組織抗原上に位置するエピトープであってもよい。エピトープが哺乳類の組織抗原上に位置するエピトープである場合、組織抗原は、哺乳類の免疫系の成分と通常反応しないが哺乳類が感染性病原体により感染されている場合にその成分と反応する組織抗原であってもよい。
【0038】
本発明は感染性病原体による哺乳類の慢性感染を処置する改善された方法も提供し、その改善された方法は望ましくない慢性免疫反応性の部位のごく近くに位置するエピトープを含んでなる組成物の哺乳類への投与と共に実施される慢性感染を処置するあらゆる既知の方法を含んでなる。既知の方法をエピトープの投与の前、後または同時に実施することができる。例えば、既知の方法をエピトープの投与の1カ月以内に実施することができ、好ましくは、エピトープの投与の1週以内に実施する。そのような既知の方法はラミブジン、細菌リポ多糖、免疫調節リポタンパク質、トリパルミトイル−S−グリカリルシステイニル−セリル−セリンに共有結合的に結合したペプチド、ステロイド、サイクロスポリンA、AZT、ddC、ddI、3TC等のような化合物の投与を含む。
【0039】
本発明の方法
本発明の方法は免疫応答のごく近くに位置するエピトープを含んでなる組成物を哺乳類に経粘膜的に投与することにより哺乳類の免疫応答を調節することを含んでなる。組成物を経口的に投与することを含んでなる本発明の方法の一つの態様は、本明細書において代わりに「経口抗原寛容化(tolerization)治療」または「経口寛容の誘導」と呼ばれる。
【0040】
最近の研究から、様々な感染性病原体による哺乳類の慢性感染の病理学的結果が、哺乳類における感染性病原体の存在により引き出される弱い持続する免疫応答の結果である可能性があることが示唆される。感染性病原体に慢性的に感染している哺乳類により示される症状を、哺乳類において持続する病原体により誘導される免疫応答の調節により改善できることが見いだされている。免疫応答の調節は非病原性である感染性病原体に感染している哺乳類では有害な結果を持たない。さらに、感染性病原体は限られた病原性を示すが、感染性病原体に対する免疫応答がより重大な病原性を生じる場合、たとえ感染性病原体に起因すると考えられる病原性が残っても、免疫応答を調節することで免疫応答により生じる病原性を除去することが望ましい。
【0041】
例として、慢性的にHBVに感染しているヒトの本質的に100%の肝細胞が複製能力
のあるウイルスを含有することが報告されている。従って、ウイルスに対する免疫応答は明らかに患者においてHBVの蔓延を制御しない。さらに、HBVは肝細胞に対して直接病原とならない。代わりに、HBVの存在に対する患者の免疫応答が肝細胞への損傷を引き起こす。それ故、HBV感染は、感染性病原体は限られた病原性を示すが、感染性病原体に対する免疫応答がより重大な病原性を生じる感染性病原体での哺乳類細胞の感染の例である。
【0042】
同様に、HIV−1はHIV−1に感染しているヒトにおいて宿主Tリンパ球に直接損傷を与えない。代わりに、Tリンパ球はHIV−1感染に反応して活性化される細胞障害性リンパ球の作用を通して免疫系により除かれる。ヒト宿主の組織に病原体自体は損傷を与えないが、それ自体に対して宿主によりもたらされる損傷を生じる他の慢性感染性病原体はHTLV−1、マイコバクテリウム・ツベルクローシス、リーシュマニア・ドノバニ、B群溶血性ストレプトコッカス種、トリパノソーマ・クルーズ、オンコセルカ・ボルブラス、トリパノソーマ・ブラジリエンシス及びストレプトコッカス・ミュータンスを含む。
【0043】
従って、ある種の慢性感染に反応して引き出される哺乳類の免疫応答を調節することが非常に望ましい。特に、本明細書に記述されるものを初めとするがそれらに限定されないある種の感染性病原体に反応して引き出されるヒトの免疫応答を調節することが非常に望ましい。
【0044】
本発明の方法は哺乳類への1つまたはそれより多い治療用エピトープの経粘膜投与を含んでなる。経口的に、腸に、鼻内に、肺経路で、結腸に、またはあらゆる他の既知の経粘膜送達経路で哺乳類にエピトープを送達することによりエピトープの経粘膜投与を成し遂げることができる。本明細書に用いられる場合、結腸投与は直腸投与によるような大腸のあらゆる部分への投与を意味する。胃を迂回しない経口投与が好ましい。吸入法では、処置は好ましくは気管支及び肺粘膜を通してである。
【0045】
本発明の方法は慢性感染に反応して引き出される免疫応答により引き起こされる損傷を防ぐ予防処置手段及びこの免疫応答により引き起こされる損傷の結果生じる臨床症状を改善する治療処置手段の両方を含む。本発明の方法による処置後の望ましくない免疫応答と関係するどんな1つの症状のいかなる臨床的または統計的に有意な減少も本発明の範囲内に含まれる。例として、増加した肝臓サイズ、腫瘍及び腹水の存在、α−胎児性タンパク質の高い血清レベル、熱及び痛みはヒトにおける慢性HBV感染と関連する肝細胞癌と関係する。本明細書に記述した方法を用いた1つまたはそれより多いこれらの症状の改善または排除は本発明の範囲内である。
【0046】
本発明の方法による予防処置は、感染性病原体に哺乳類が感染する前に哺乳類に感染性病原体のエピトープを経粘膜投与すること、感染性病原体に哺乳類が感染した後であるがそのような感染により引き出される哺乳類の望ましくない免疫応答の提示前に哺乳類に感染性病原体のエピトープを経粘膜投与すること、感染性病原体に哺乳類が感染する前に哺乳類に哺乳類の組織により展示されるエピトープを経粘膜投与すること、感染性病原体に哺乳類が感染した後であるがそのような感染により引き出される哺乳類の望ましくない免疫応答の提示前に哺乳類に哺乳類の組織により展示されるエピトープを経粘膜投与すること等を含むが、それらに限定されない。
【0047】
本発明の方法による治療処置は、感染性病原体に哺乳類が感染し、そしてそのような感染により引き出される望ましくない免疫応答を哺乳類が提示した後に感染性病原体のエピトープまたは哺乳類の組織により展示されるエピトープのいずれかを経粘膜投与することを含むが、それに限定されない。
【0048】
本発明は感染性病原体の複製及びその病原体による宿主の細胞または組織の再感染を抑えることを目的とする伝統的な治療と共に用いられる場合に実施可能であると考えられる。例として、同時にヒト患者に本明細書に記述する方法を用い且つラミブジンを投与することにより慢性HBV感染を処置することができる。
【0049】
本発明の方法により、感染性病原体に慢性的に感染し且つ自己免疫応答の症状を示す哺乳類にエピトープを経粘膜的に投与し、それにより、そのエピトープに対する哺乳類の免疫系の抗原性寛容を誘導し、そして病原体の存在に反応して哺乳類により引き出される免疫応答を調節する。
【0050】
本明細書に用いられる場合「抗原性寛容」という用語は、エピトープの経粘膜投与後の免疫低応答性(hyporesponsiveness)の誘導をさし、循環免疫系現象をさす「全身性寛容」という用語の使用と混同してはならない。「全身性寛容」はこの用語が機能的沈黙または哺乳類の胸腺中で発生しそして正常な宿主組織抗原を認識する免疫細胞のクローンの削除に適用される点で抗原性寛容と区別することができる。「抗原性寛容」は具体的にはエピトープの経粘膜送達後の特定のエピトープに対する低応答性の誘導をさす。
【0051】
本発明の方法において投与されるエピトープ
本発明の方法により哺乳類宿主に投与することができるエピトープは、感染性病原体から得られる抗原のエピトープ、哺乳類の組織により展示され、そして感染性病原体の存在に反応して活性化される抗体または細胞障害性Tリンパ球のような宿主免疫応答の成分と交差反応する抗原のエピトープ、感染性病原体の存在に反応して活性化される宿主免疫応答の成分により認識されるエピトープを含んでなる分子、哺乳類の組織により展示されそして感染性病原体の存在に反応して活性化される宿主免疫応答の成分と交差反応するエピトープのごく近くにインビボで位置するエピトープを含んでなる分子及び感染性病原体の存在に反応して活性化される宿主免疫応答の成分により認識されるエピトープを含んでなる分子を含むが、それらに限定されない。
【0052】
エピトープを単離及び調製する多数の方法が文献に記述されている。抗原のエピトープを同定する方法及び抗原の同定されたエピトープを含んでなる分子を調製する方法は当該技術分野で知られている。本発明の方法に有用なエピトープは、哺乳類に経粘膜的に投与された場合に哺乳類においてエピトープに対する免疫寛容を誘導するあらゆるエピトープを含む。病原体に感染している哺乳類において望ましくない免疫応答を誘導するあらゆる感染性病原体のあらゆるエピトープが本発明の方法に有用であると考えられる。さらに、そのような感染している哺乳類の組織により通常展示され、そして感染性病原体の存在に反応して活性化される宿主免疫応答の成分と交差反応するエピトープと同一であるかまたはそのごく近くに位置するあらゆるエピトープが本発明の方法に有用であると考えられる。
【0053】
第一エピトープ及び第二エピトープが同じ組織により展示されるか、第一エピトープが第二エピトープを展示する第二組織と接触する第一組織により展示されるか、または第一エピトープが第二エピトープを展示する第二組織と流体コニュニケーション(fluid
communication)する第一組織により展示される場合、第一エピトープは「第二エピトープのごく近くに位置する」。第一及び第二エピトープが相互にごく近くに位置する場合に、第二エピトープを含んでなる組成物を哺乳類に投与することにより、哺乳類において第一エピトープの存在に反応して引き出される免疫応答を調節する能力は「傍観者(bystander)抑制」と呼ばれる。
【0054】
免疫応答が哺乳類における第一エピトープの存在に反応して引き出されるか、免疫応答が哺乳類における第一エピトープのごく近くに位置する第二エピトープの存在に反応して引き出されるか、または哺乳類における第二エピトープの存在が第一エピトープと交差反応する免疫応答を引き出す場合、第一エピトープは「免疫応答のごく近くに位置する」。
【0055】
本明細書に用いられる場合、エピトープが組織の細胞と会合し、そして組織を含んでなる哺乳類の免疫系の成分に近づける場合、エピトープは組織「により展示される」。例として、哺乳類の動脈に沿って並ぶ上皮細胞の細胞表面タンパク質は哺乳類の血流中の抗体に近づける。従って、そのような細胞表面タンパク質のエピトープは哺乳類の動脈上皮組織により展示される。エピトープが組織により通常発現される場合、またはエピトープが感染性病原体による哺乳類の感染後に組織により発現される場合、エピトープは哺乳類の組織により展示される。
【0056】
傍観者抑制は、経粘膜的に誘導された寛容免疫細胞が活発な炎症の部位に移動し、そしてトランスフォーミング増殖因子β(TGF−β)及びインターロイキン−10(IL−10)のような免疫抑制因子を分泌することにより免疫応答を調節する能力の結果である。例えば、中枢神経系タンパク質のミエリン塩基性タンパク質(MBP)で免疫されている哺乳類は、ヒトにおける多発性硬化症に類似した疾病を発症する。哺乳類にMBPを与えると、MBPに対する経口寛容の誘導により疾病状態を防ぐか、弱めるか、または完全に終わらせることができる。哺乳類の脳においてMBPのごく近くに存在するタンパク質のリン脂質タンパク質を動物に与える場合、同じ疾病を同様に防ぐか、弱めるか、または完全に終わらせることができる。従って、感染性病原体の存在に反応して活性化される宿主免疫系の成分により認識される特定の宿主エピトープを同定し、宿主に投与する必要はない。代わりに、自己免疫反応の解剖学的部位のごく近くに通常存在する別のエピトープを宿主に投与することで十分である。
【0057】
従って、例として、B群ストレプトコッカス細菌での患者の感染に反応して発生するリウマチ熱の処置のために本発明の方法に従ってヒト患者にエピトープを投与することができる。そのような患者は患者の関節の滑膜に存在する正常組織抗原と交差反応する細菌抗原に対して抗体及び反応性T細胞を生じる。細菌エピトープを患者に経口的に投与する場合、患者はエピトープ特異的な免疫低応答性を持つようになり、患者の関節の組織の破壊は抑えられる。同様に、組織抗原を患者に経口的に投与する場合、患者における炎症反応は止まるかまたは著しく減少される。さらに、組織抗原のごく近くに通常発現されるエピトープまたは細菌による患者の感染後に組織抗原のごく近くに組織により展示されるものを患者に投与することにより本発明の方法を実施することができる。従って、例として、細菌の存在に反応して引き出される自己免疫応答により生じる関節炎を緩和するために、患者の関節の滑膜において通常発現されそして組織抗原と異なるエピトープを本発明の方法により患者に投与することができる。
【0058】
HBVに慢性的に感染しているヒトに投与することができるエピトープの例はHBsAgと呼ばれるHBVウイルス外被タンパク質のエピトープ、HBVコアタンパク質のエピトープまたはHBVのX遺伝子によりコードされるタンパク質のエピトープを含むが、それらに限定されない。
【0059】
本発明の方法が有効である宿主免疫応答を引き出す感染性病原体はHBV、C型肝炎ウイルス、パルボウイルスB19、ボルナ病ウイルス、HIV、HTLV−1、マイコバクテリウム・ツベルクローシス、B群溶血性ストレプトコッカス細菌、ストレプトコッカス・ミュータンス、トリパノソーマ・クルーズ、リーシュマニア・ドノバニ、オンコセルカ・ボルブラス、トリパノソーマ・ブラジリエンシス及びシストソーマ・マンソンのようなウイルス、細菌及び寄生虫の感染性病原体を含むが、それらに限定されない。
【0060】
本発明の方法に有用なエピトープはエピトープの経粘膜投与後に免疫を抑制する細胞の生産を引き出す能力を保有するエピトープを含む。そのような免疫を抑制する細胞はそれらがTGF−β及びIL−10のような免疫抑制因子を分泌すること及びそれらが持続する免疫反応性の解剖学的部位に移動する能力を有することを特徴とする。従って、免疫を抑制する細胞を誘導し且つ病原体により発現されないエピトープを哺乳類に投与することにより宿主哺乳類における感染性病原体の存在に反応して引き出される自己免疫反応の症状を緩和することができる。そのようなエピトープは様々な感染性病原体により引き出される自己免疫応答を調節するために広い適用性を有すると考えることができる。
【0061】
本発明の方法において投与されるエピトープの製造方法
本発明の方法に有用なエピトープを既知の方法を用いて天然源から単離することができ、あるいはまた、組み換え的に製造することができる。細胞を形質転換する、ベクターを構築する、メッセンジャーRNAを抽出する、cDNAライブラリーを調製する等のために用いられる技術は当該技術分野で広く実施されており、専門家は特定の条件及び方法を記述している標準方策資料をよく知っている(例えば、Sambrook等、1989、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory、New York;Ausubel等、1993、Current Protocols in Molecular Biology、Green & Wiley、New Yorkを参照)。
【0062】
本発明の方法に有用なエピトープを製造するために既知の原核生物発現系を用いることができる。宿主と適合する種由来の複製部位及び調節配列を含むプラスミドベクターを用いる。一つのそのような原核生物発現系として、例えば、Bolivar等(1977、Gene 2:95)により大腸菌種から得られたプラスミドのpBR322の誘導体を用いて大腸菌を形質転換する。pBR322は、アンピシリン及びテトラサイクリン耐性を与え、従って適切なベクターを構築する際に保持または破壊することができるマーカーを提供するタンパク質をコードする遺伝子を含有する。
【0063】
エピトープを製造するために有用な原核生物調節配列はβ−ラクタマーゼ(ペニシリナーゼ)プロモーター系、ラクトース(lac)プロモーター系、トリプトファン(trp)プロモーター系及びラムダ由来のPプロモーター系のような転写開始のためのプロモーター、オペレーター配列、並びにN−遺伝子リボソーム結合部位のようなリボソーム結合部位配列を含むが、それらに限定されない(Chang等、1977、Nature、198:1056;Goeddel等、1980、Nucl.Acids Res 8:4057;Shimatoake等、1981、Nature 292:128)。
【0064】
本発明の方法に用いられるエピトープを製造するために、例えば、酵母において外来タンパク質を発現するための既知の方法を用いて、酵母のような真核生物の生物を使用することもできる。多数の他の株が一般に利用できるが、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)の実験室株のパン酵母を用いることができる。
【0065】
酵母発現のために適当なベクターは2μ複製起点及び当該技術分野で記述された他のベクターを含む(例えば、Broach、1983、Meth.Enzymol.101:307;Steinchcomb等、1979、Nature 282:39;Tschempe等、1980、Gene 10:157;Clark等、1983、Meth.Enzymol.101:300)。酵母ベクターにおける遺伝子の発現のための調節配列は解糖酵素の合成のためのプロモーターを含む(Hess等、1968、J.Adv.Enzyme Req.7:149;Holland等、1978、Biochemis
try 17:4900)。当該技術分野で知られているさらなる酵母プロモーターは3−ホスホグリセリン酸キナーゼプロモーター並びにグリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ、ヘキソキナーゼ、ピルビン酸デカルボキシラーゼプロモーター、ホスホグリセリン酸ムターゼ、ピルビン酸キナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、ホスホグルコースイソメラーゼ及びグルコキナーゼプロモーターのような他の解糖酵素プロモーターを含む(Hitzeman等、1980、J.Biol.Chem 255:2073)。増殖条件を操作することにより転写を制御することができるというさらなる利点を有する他のプロモーターは、アルコールデヒドロゲナーゼ2、イソシトクロムC、酸性ホスファターゼ、窒素代謝と関係する分解酵素、並びにマルトース及びガラクトース利用を招く酵素の発現を支配するプロモーター領域を含む(Holland、上記)。また、ターミネーター配列が本明細書に記述されるエピトープを作製するために用いることができる構築物中のコーディング配列の3’末端に望ましいとも考えられる。そのようなターミネーターは酵母由来の遺伝子のコーディング配列に続く3’非翻訳領域中に見いだされる。
【0066】
他の有用なベクターはエノラーゼ遺伝子を含有するプラスミドpeno46またはYEp13から得られるLEU2遺伝子由来の調節領域を含有するものを含む(Holland等、1981、J.Biol.Chem 256:1385;Broach等、1978、Gene 8:121)。酵母適合性プロモーター、複製起点及び他の調節配列を含有するあらゆるベクターが本発明の方法を実施するために必要な成分を作製するために適当である。
【0067】
本発明の方法に有用なエピトープを製造するための宿主として作物植物細胞を初めとするがそれらに限定されない植物細胞を用いることができる。ノパリンシンターゼプロモーター及びポリアデニル化シグナル配列のような植物細胞と適合する調節配列が知られている(例えば、Depicker等、1982、J.Mol Appl.Gen 1:561を参照)。ある好ましい態様として、エピトープをコードする遺伝子が例えばトマトのE8プロモーターのようなエチレン応答プロモーターの制御下にある(Lincoln等、1988、Mol.Gen.Genet.212:71−75;Deikman等、1988、EMBO J.7:3315−3320)。従って、エピトープの選択的発現をこのように実施することができる。
【0068】
当該技術分野で知られている方法及び細胞を用いて、本発明の方法のために有用なエピトープを製造するための宿主として昆虫細胞も用いることができる。そのような細胞を作製するために、適切なエピトープをコードする遺伝子を既知の方法を用いて昆虫細胞中に機能的に組み入れる(例えば、Griffiths等、1997、Meth.Molec.Biol.75:427−440)。
【0069】
用いる宿主細胞の型により、そのような細胞に適切な標準技術を用いて形質転換を成し遂げる。原核生物または強固な細胞壁防壁を含有する他の細胞の場合にはCohen(1972、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 69:2110)により記述されたような塩化カルシウムを用いるカルシウム処理またはSambrook等(1989、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory、New York)により記述された方法を用いることができる。ある種の植物細胞にはアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)での感染が有用であると考えられる。酵母中へのDNAの形質転換をVan Solingen等(1977、J.Bacteriol.130:946)及びHsiao等(1979、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 76:3829)の方法により実施することができる。アグロバクテリウムプラスミドによりもたらされる遺伝子導入(Truve等、1993、Bio/Technology 11:1048;Streber等、
1989、Bio/Technology 7:811;Mullins等、1991、Bio/Technology 8:1041;Mante等、1991、Bio/Technology 9:853;Dong等、1991、Bio/Technology
9:859;Penarrubia、1992、Bio/Technology 10:561;D’Halluin、1992、Bio/Technology 10:309)、微粒子衝撃(bombardment)(Vasil等、1991、Bio/Technology 9:743;Vasil等、1992、Bio/Technology 10:286)、エレクトロポレーション(Chupeau等、1989、Bio/Technology 7:503)、リポソーム融合(Deshayes等、1985、EMBO J.4:2741−2737)、ポリエチレングリコールによりもたらされる形質転換(Potrykus等、Mol.Gen.Genet.197:183−188)、マイクロインジェクション(Griesbach、Biotechnology 3:348−350;Shewmaker、1986、Mol.Gen.Genet.202:179−185)、ウイルス(Takematsu等、EMBO J.6:307−311)及びジェミニウイルス(Ward等、1988、EMBO J.7:1583−1587)のような様々な方法を用いて遺伝子を植物細胞に導入することができる。
【0070】
コロニーハイブリダイゼーション法を用いてcDNAまたはゲノムライブラリーをスクリーニングすることができる。通例、各マイクロタイタープレートを対のニトロセルロース濾紙(例えば、S&S BA−85型)上に複製し、50μg/mlのアンピシリンを含有するルリア培地寒天上でコロニーを37℃で14−16時間増殖させる。コロニーを溶解し、次に、500mM NaOH、1.5MNaClで5分間処理することによりDNAをフィルターに固定し、フィルターを5x標準クエン酸食塩水(standard saline citrate)(SSC)で各回5分間2回洗浄する。フィルターを風乾し、80℃で2時間焼く。pH 7.0に調整した5x SSC、5xデンハルト溶液(0.02%(w/v)ポリビニルピロリドン、0.02%(w/v)フェーシャル(Facial)及び0.02%(w/v)ウシ血清アルブミン)、pH 7.0に調整した50mMリン酸ナトリウムバッファー、0.02%(w/v)SDS、20μg/ml ポリU及び50μg/ml変性サケ精子DNAを含んでなるもののような10ml/フィルターのDNAハイブリダイゼーションバッファーで対のフィルターを42℃で6−8時間プレハイブリダイズさせる。
【0071】
適切なコーディング及び調節配列を含有する適当なベクターの構築は当該技術分野でよく理解されている標準的な連結及び制限技術を用いる。単離されたプラスミド、DNA配列または合成されたオリゴヌクレオチドを切断し、整え、そして適切な形に再連結する。
【0072】
当該技術分野で一般的に理解されている条件下で適当な制限酵素でDNAを処理することにより部位特異的DNA切断を実施することができ、それらの詳細はこれらの市販されている制限酵素の製造業者により特定されている(例えば、New England Biolabs、製品カタログを参照)。通例、約1μgのプラスミドまたはDNA配列を約20μlのバッファー溶液中で1ユニットの酵素により切断する。バリエーションを許容することができるが、約37℃で約1時間ないし2時間のインキュベーション時間が実用的である。各インキュベーション後に、フェノール/クロロホルムでの抽出によりタンパク質を除くことができ、エーテル抽出を続けてもよく、そしてエタノールでの沈殿及びそれに続くセファデックス(Sephadex)G−5スピンカラムを用いたクロマトグラフィーにより核酸を水性画分から回収する。必要な場合、切断されたフラグメントのサイズ分離を、標準技術を用いてポリアクリルアミドゲルまたはアガロースゲル電気泳動により実施することができる。サイズ分離の一般的な記述をMethods in Enzymology(1980、65:499−560)中に見いだすことができる。
【0073】
pH 7.6の50mM Trisバッファー、50mM NaCl、6mM MgCl、6mMDTT及び5−10μM dNTPs中で20℃から25℃までで約15ないし25分のインキュベーション時間を用いて4種のデオキシヌクレオチド三リン酸(dNTPs)の存在下で大腸菌DNAポリメラーゼIのラージフラグメント(クレノウ(Klenow))で処理することにより制限エンドヌクレアーゼで切断したフラグメントを平滑末端化することができる。クレノウフラグメントは5’付着末端を埋めるが、たとえ4種のdNTPsが存在しても突出する3’一本鎖は壊さない。必要な場合、付着末端の性質により決定される制限内で1種のみまたは選択したdNTPを与えることにより選択的修復を実施することができる。クレノウでの処理後に、混合物をフェノール/クロロホルムで抽出し、エタノール沈殿し、続いてセファデックスG−50スピンカラムにかける。S1ヌクレアーゼでの適切な条件下での処理はあらゆる一本鎖部分の加水分解をもたらす。
【0074】
本発明のある好ましい態様として、B型肝炎ウイルス表面抗原のようなウイルス外被タンパク質またはそのエピトープを含んでなるペプチドの発現をValenzuela等(1982、Nature 298:347−350)により記述された方法に従って実施することができる。
【0075】
本発明は本発明の方法に有用なエピトープの製薬学的組成物の使用も包含し、それらの組成物はエピトープ及び製薬学的に許容しうる担体を含んでなる。
【0076】
本明細書に用いられる場合、「製薬学的に許容しうる担体」という用語は、本発明の方法に有用なエピトープを混合することができ、そして混合後に哺乳類にエピトープを投与するために用いることができる化学組成物を意味する。
【0077】
本発明を実施するために有用な製薬学的組成物を1ng/kg/日ないし100mg/kg/日の間の投与量を送達するように投与することができる。一つの態様として、本発明はヒトに対して1日当たり約0.1mgから250mgまでを含んでなるエピトープの投与量の投与を予見する。別の態様として、ヒト投与量は1日当たり約0.1mgから約25mgまでである。
【0078】
本発明の方法に有用な製薬学的組成物を経口固体製剤、眼用、座薬、エーロゾル、局所用、粉末、ゲルまたは製薬学的に活性のある薬剤の経粘膜送達のために有用であることが知られているあらゆる他の製剤で全身的に投与することができる。本発明の方法に有用なエピトープに加えて、そのような製薬学的組成物は製薬学的に許容しうる担体並びに薬剤投与を増大及び促進することが知られている他の成分を含有することができる。また、ナノ粒子、リポソーム、再密封赤血球及び免疫学に基づく系のような他の可能な製剤も本発明の方法のエピトープを投与するために用いることができる。
【0079】
本発明の方法に有用な製薬学的組成物は感染性病原体による哺乳類の感染の処置のために有効であることが知られているあらゆる化合物をさらに含んでなることができ、またはあらゆる既知の免疫抑制化合物をさらに含んでなることができる。それらの製薬学的組成物は本明細書に記述されるエピトープを含んでなる分子に加えて、抗生物質、抗ウイルス化合物、抗寄生虫化合物、抗炎症化合物、免疫抑制薬及び共力剤よりなる群から選択されるもう一つの分子を含んでなることができる。抗生物質は細菌を殺すかまたはその増殖を阻害する組成物である。抗ウイルス化合物はウイルスを不活化するかまたはその増殖を阻害する組成物である。抗寄生虫化合物は寄生虫を殺すかまたはその増殖を阻害する組成物である。抗炎症化合物は哺乳類における炎症を抑えるかまたは緩和する組成物である。免疫抑制薬は哺乳類における免疫応答を調節する組成物である。共力剤はエピトープと組み合わせて哺乳類に投与した場合に抗原性寛容の誘導を高める組成物である。
【0080】
本発明の方法に有用な製薬学的組成物を単一投与量、複数の投与量、持続的または徐放性製剤等で哺乳類に投与することができる。
【0081】
抗原性寛容の発生は広い範囲の投与量で投与量に依存する。しかしながら、通例、最小及び最大有効投与量があることは事実である。当業者により理解されるように、慢性感染を患っている患者の有効投与量はエピトープの型により変わる可能性がある。さらに、患者の年齢、性別及び体調、並びに投与されている他の同時処置も有効投与量に影響がある。当業者は患者の個々の必要を満たすように用いる投与量及び投与計画を調整及び改善することができる。
【0082】
エピトープの少ないまたは多い投与量を用いることにより経口寛容を誘導することができる。通例、低投与量形態は調節細胞によるダウンレギュレーションサイトカインメディエーターの分泌を誘導する。一般にクローン麻痺と呼ばれる高投与量寛容は、粘膜を越えて送達される高濃度のエピトープのために、与えられたエピトープに応答することができる細胞のクローンを非応答性にする受動的機構を用いる。本発明のある好ましい態様として、低投与量形態が好ましい、通例、約0.1mgないし約250mg/日のペプチド、タンパク質または糖タンパク質の形態のエピトープのヒトへの投与が本発明のある方法により有効である。本発明の他の態様として、約0.1mgから約25mg/日までの範囲のペプチド、タンパク質または糖タンパク質の量をヒトに投与することにより抗原性寛容を獲得する。
【0083】
抗原性寛容の誘導を高めるために本発明のある態様として共力剤を用いてもよい。経口寛容を高めることが見いだされている共力剤は、大腸菌及びサルモネラの各種サブタイプのような多種多様なグラム陰性細菌からの細菌リポ多糖(LPS及び脂質(Lipid)A、Sigma Chemical Co.、St.Louis、MO)及び(Braun、1976、Biochim.Biophys.Acta 435:335−337中に記述されたように調製される)トリパルミトイル−S−グリカリルシステイニル−セリル−セリンに共有結合的に結合したペプチドのような免疫調節リポタンパク質を含む。
【0084】
本発明の方法により処置することができる疾病の例は本明細書に説明されている。感染性病原体での感染により引き起こされるかまたは悪化し、そして現在知られていない他の自己免疫疾患は、いったん分かるとそれらも本発明の方法を用いて処置できるので、本発明はこれらの実施例のみに限定されると解釈されるべきではない。
【0085】
次に、以下の実施例に関して本発明を記述する。これらの実施例は例示の目的のためにのみ与えられ、本発明はこれらの実施例に限定されると決して解釈されるべきではなく、むしろ本明細書に与えられる教示の結果として明らかになるいずれか及び全ての変形を包含すると解釈されるべきである。
【0086】
<実施例1>
A.H2限定細胞障害性リンパ球の生成及び単離
培養における正常なマウス肝臓細胞の自然不死化トランスフォーマントとして元来単離されたMLE−10細胞を2個のプラスミドを用いて同時トランスフェクトした。第一のプラスミドは以前にチンパンジーで感染性であることが示されている全HBVゲノムの縦列同方向(head−to−tail)二量体を含有した。第二のプラスミドはジェネティシン(G418)を含有する培地中で選択マーカーとして用いるためのネオマイシン耐性を与えるneo遺伝子を含有した。10%(v/v)ウシ胎仔血清、50μMストレプトマイシン、50ユニット/mlペニシリン及び1mM G418を含有するWeymouths 752/1培地中でトランスフェクトした細胞を平板培養した。72時間のインキュベーション後に生存する細胞を集め、コロニーを選択できるように限界希釈で同
じ培地中で再び平板培養した。さらに72時間のインキュベーション後に、無作為に選択したコロニーを増やした。選択したコロニーからRNAを単離し、全長のHBV転写産物の存在を検出するためにウェスタンブロット分析を実施した。そのような転写産物の存在に関して陽性であると見いだされたいくつかの単離体をPCR分析を用いて培養上清中のHBVの存在に関して試験した。ウイルスを分泌すると測定されたコロニーのうちの1個を増殖のために選択し、細胞に会合するHBsAgまたはHBcAgの存在を免疫蛍光により評価した。本明細書においてMLE−10/HBVと呼ばれるこの細胞系はそれら2つのウイルスタンパク質に特異的な抗血清で特異的に染色された。
【0087】
MHCクラスI(L)近交マウス(Taconic Farms、Germantown、NY)を約10個の同一遺伝子型の生育できるMLE−10またはMLE−10/HBVトランスフェクト細胞で腹腔内に免疫した。各動物は7日後にブースター接種を受け、そしてもう1週後に選択した動物を安楽死させ、各々の脾臓を無菌的に取り出した。脾臓を細かく裂いて離し、脾臓細胞を集め、数え、50ユニット/mlの組み換えγ−インターフェロン(Sigma Chemical Co.、St.Louis、MO)にさらしたMLE−10またはMLE−10/HBV細胞のいずれかの単層上にまいた。それらの細胞を約18から約24時間まで単層上にそのまま放置し、その期間の後で細胞を約2000ラドの電離放射線にさらした。MLE−10で免疫した動物から集めた脾臓細胞をMLE−10刺激(stimulator)細胞の単層上にまき、そしてMLE−10/HBVを接種したマウスから集めた脾臓細胞をMLE−10/HBV細胞の単層に移した。5から7日後に、10%(v/v)ウシ胎仔血清、及び20ng/mlのホルボールミリステートアセテート(Sigma Chemical Co.、St.Louis、MO)で誘導し、そしてインターロイキン−2を産生することが示されたEL4.IL−2ネズミリンパ腫細胞(American Type Culture Collection、Rockville MD)から集めた10%(v/v)ならし培地を含有するRPMI−1640培地中で脾臓細胞を培養した。これらのマウスから採取した細胞障害性Tリンパ球(CTL)を本明細書において「THBIMMUNE」と称する。
【0088】
培養した脾臓細胞(「エフェクター細胞」)を集め、既知の方法を用いて51Crを負荷したMLE−10またはMLE−10/HBV細胞(「標的細胞」)に異なるエフェクター対標的細胞比率でそれらを添加することにより刺激されたCTLを検出した。簡潔に言えば、標的細胞をトリプシンで処理することによりそれらを培養支持体から離す。離した標的細胞を洗浄し、数え、約5 x 10細胞を5mlの使い捨て培養チューブに移した。細胞をペレットにし、上清を除いた。20μCiの51Crを含んでなるアリコート及び最小容量(の培養培地?)を各チューブに添加し、規則的に撹拌しながら細胞を37℃で1時間インキュベートした。細胞を2回洗浄し、約10細胞を96ウェルクラスターの各ウェルに添加した。次に、活性化された脾臓細胞を表1に示すエフェクター対指標細胞の比率を与えるために十分な濃度で各ウェルに添加し、プレートを37℃で4時間インキュベートした。100μlの無細胞上清を含んでなるアリコートを集め、上清の51Cr含有量を評価した。標的細胞のみを含有するウェルから集めたサンプルの51Cr含有量と同様に(すなわち、ラベルの自然放出を定量するため)、1%(w/v)SDSを用いて溶解した標的細胞のアリコートの51Cr含有量も評価した。MLE−10/HBV標的細胞の総51Cr含有量から自然51Cr放出の量を引くことにより決定した量で実験から得られた51Cr放出の量から自然51Cr放出の量を引くことにより決定した量を割ることによりCTL活性を計算した。典型的な実験からのデータを表1に示す。
【0089】
【表1】

【0090】
このアッセイを用いて得られた結果は特異的細胞障害性活性が存在することを示したが、それは他の研究者等により慣例的に報告されるものより著しく低いレベルで存在した。存在するCTLの数を増加するために、各々が4個のHBV遺伝子のうちの1個を含んでなる一連の組み換えワクシニアウイルス構築物を開発した。ヒトのHBV感染中に生じることが知られている別の翻訳産物をコードするオープンリーディングフレームを各々が含んでなる2つの他の構築物を開発した。
【0091】
HBVゲノムの同方向二量体を含んでなるプラスミド(pTKHH−2)を本明細書に記述したように制限ヌクレアーゼを用いて消化し、フラグメントを電気泳動により単離した。構築物中に存在するマルチクローニング部位を用いてフラグメントをシャトルベクターpSC11中にクローン化し、それにより各々が以下のHBV遺伝子成分を含んでなる以下の一連のプラスミドを生成した:プレコア領域を伴うコア遺伝子を含んでなる636塩基対領域を含んでなるpSC11−1PC、コア遺伝子を含んでなる549塩基対領域を含んでなるpSC11−2C、ウイルスのプレS及び表面遺伝子の両方を含んでなる167塩基対領域を含んでなるpSC11−3PS、ウイルスの表面遺伝子を含んでなる678塩基対を含んでなるpSC11−4S、全X遺伝子コーディング領域を含んでなる426塩基対領域を含んでなるpSC11−5X、並びに全ポリメラーゼ遺伝子領域を含んでなる2496塩基対領域を含んでなるpSC11−6P。
【0092】
ウイルスストックを製造するためにこれらのワクシニアウイルス構築物を増やし、各ストックの力価をL929細胞を用いて測定し、必要とされるまでストックを冷凍して保存した。HBVのゲノムの地図及び本明細書に記述した構築物中に用いたオープンリーディングフレームを本明細書の図1に示す。
【0093】
約10プラーク形成単位(PFU)の単一のワクシニアウイルス構築物の腹腔内投与によりマウスを免疫した。2週後に、免疫した動物から脾臓を無菌的に集め、脾臓細胞を単離した。混入する赤血球(RBC)を0.4%(w/v)塩化アンモニウムを用いて溶解し、10%(v/v)ウシ胎仔血清、EL4.IL−2ネズミリンパ腫細胞(American Type Culture Collection、Rockville MD)から集めた10%(v/v)ならし培地を含有するRPMI−1640培地中でML
E−10またはMLE−10/HBV細胞と共培養することにより免疫細胞をインビトロで刺激した。これらの前者の細胞は20ng/mlのホルボールミリステートアセテート(Sigma Chemical Company、St.Louis、MO)で誘導され、インターロイキン−2を生産した。刺激後に、免疫細胞を集め、CTL検出アッセイのための調製において本明細書に記述したように処理した。
【0094】
B.経口抗原投与によるH2限定サプレッサーリンパ球の生成及び単離
MHCクラスI(L)近交マウスに各々2個のHBV抗原のうちの1個を毎週3回2週間与える。選択したマウスにHBsAgを与え、残りのものにHBcAgを与える。本明細書に記述したようにマウスからサプレッサーTリンパ球を採取する。便宜上、本明細書ではこれらのHBV寛容化サプレッサーTリンパ球をTHBtolerantと呼ぶ。
【0095】
給餌前に各抗原を1ml当たり10mgの抗原の濃度でリン酸緩衝食塩水(PBS)中に懸濁し、各マウスに投与量当たり約1mgを与える。HBcAg(Uy等、1986、Virology、155:89−96)をコードする遺伝子のコーディング領域を含有するプラスミドpTAC−10を用いて安定にトランスフェクトした大腸菌株から抗原を精製する。トランスフェクトした細菌を50μg/mlのアンピシリンを含んでなるルリア培地中に接種し、一定の撹拌で一晩増殖させる。次に、培養物を培地で1:10に希釈し、IPTGを0.2mMの最終濃度を生じるように添加する。培養物の光学密度が約1.0から約1.2までの範囲になるまで培養物をインキュベートし、その時点で細菌を遠心分離によりペレットにし、PBSで2回洗浄する。集めた細胞の各グラムに対して、10mgのリゾチームをPBS中の細胞の1ml懸濁液と混合し、混合物を室温で約30分間インキュベートする。フェニルメチルスルホニルフルオリドの0.2M溶液10μlを混合物中に含むことにより非特異的プロテアーゼ活性を抑える。インキュベーション後に、超音波装置(Heat Systems、Tarrytown、NY、マイクロチップ(microtip)を備え、30%の大きさに調整したモデルXL)を用いて懸濁液を全部で約60秒間超音波処理する。超音波処理後、懸濁液を約35,000 x gで卓上用微量遠心機(benchtop microcentrifuge)で約15分間遠心分離し、上清を集める。
【0096】
1.40、1.35、1.30及び1.25g/mlの密度を有する層を含んでなるCsCl溶液の不連続段階勾配を含有する遠近管の最上部に上清を重ねる。管を10℃で27,000回転/分で約60時間SW28ローターで遠心分離し、画分を集める。約1.32ないし約1.38g/mlの間の密度を有する画分をプールし、CsClを除くためにPBSに対して透析する。次に、プールした画分を約10倍に濃縮し、連続CsCl勾配を含有する遠心管の最上部に重ね、その場合、溶液の密度は1.05から1.30g/mlまでの範囲である。この管をBeckman SW41ローターで34,000回転/分で約2時間遠心分離し、0.5mlの画分を集める。免疫反応性のHBcAgを含有すると測定される画分をプールし、PBSに対して透析し、抗原の純度をクーマシーブリリアントブルー染色を用いてSDS−PAGEにより測定する。
【0097】
C.経口的に寛容化されたマウスからのTリンパ球によるHBVを発現する標的細胞の溶解の抑制
最小容量の培養培地中に細胞を再懸濁し、100μCiのアイソトープを約1時間添加することにより、HBsAg、HBcAgまたは両方を発現することが示される肝細胞を51Crで標識する。細胞を洗浄し、増殖培地中に再懸濁し、多ウェル組織培養クラスターの反復ウェル中で約75%融合させる密度で平板培養する。肝細胞(「標的細胞」)がウェルに付着する約1時間の期間の後、1:5、1:10、1:20及び1:50のエフェクター対標的細胞比率を生じる濃度で、本明細書に記述したように、添加した細胞を含有しない培地またはTHBimmune(「エフェクター」)細胞を含有する培地のいず
れかを反復ウェルに接種する。標識された肝細胞を含有する別の組のウェルの各ウェルに同じ比率でTHBtolerant細胞を含有する培地を接種する。標識された肝細胞を含有する最終組のウェルには本明細書に記述したエフェクター対標的細胞比率で一緒に混合したTHBimmune及びTHBtolerant細胞の両方を含有する培地を接種する。全てのウェルを5%(v/v)COを含有する37℃組織培養インキュベーター中で約16時間インキュベートする。各ウェルからの培養上清のアリコートを定量的に集め、ガンマカウンティング管に移す。各サンプル中に存在する放射能の量を51Cr壊変生成物の検出により測定する。
【0098】
標識された肝細胞のみを含有する個々のウェルの上清中に検出される51Crの量に比較して、標識された肝細胞及びTHBimmune細胞の両方を含有する個々のウェルの上清中に検出される量の統計学的に有意な増加として細胞死の発生を表す。同様に、標識された肝細胞及びTHBimmune細胞のみを含有する個々のウェルの上清中に検出される51Crの量に比較して、標識された肝細胞、THBimmune細胞及びTHBtolerant細胞を含有する個々のウェルの上清中に検出される量の抑制として、THBimmune細胞により誘導される細胞死を抑制する経口的に寛容化された同一遺伝子型マウスから得られたリンパ球の能力を表す。同種異系のHBV免疫動物から単離されたT細胞が標識されたHBV感染肝細胞を溶解できないことは、THBimmune細胞に起因する細胞死がCD−8 H−2に限定されるように誘導されることを示す。CD−8 H−2に限定される細胞死は自己免疫疾患の発病及び慢性HBV感染に続いて起こる肝臓損傷の病原性においてきわめて重要であることが他者により示されている。
【0099】
本実施例に記述した実験から、感染性病原体から得られる抗原をマウスに与えることで、マウスにおける感染性病原体の存在により誘導される細胞障害性Tリンパ球活性を抑制するTリンパ球のマウスにおける生産がもたらされることが示される。
【0100】
<実施例2>
A.HBVタンパク質を発現する安定に組み込まれたHBVを有する遺伝的免疫不全マウスの作製
SCIDマウスの胚への完全なHBVゲノムのマイクロインジェクションにより、安定に組み込まれたHBVゲノムのコピーを含んでなるトランスジェニック免疫不全マウス(SCID−HBVマウス)を作製した。
【0101】
マウスに注入したDNAを以下のように調製した。pBR322中にクローン化されたHBVの同方向二量体であるクローンX”A”から制限エンドヌクレアーゼEcoRIを用いてDNAを切り出した。この構築物は肝芽腫に苦しむヒト患者から単離されたHepG2分化肝細胞に感染することが知られている。制限消化物をTris−アセテート−EDTAゲルを通して電気泳動し、目的のバンドのすぐ前に1枚のDEAEペーパーを挿入することにより媒質から集めた。次に、電場を再びかけ、DNAをペーパー中に電気泳動し、それに結合させた。DEAEペーパーをゲルから取り除き、1MのNaCl及び50mMのアルギニン(遊離塩基)を含んでなる最小容量の溶液中に浸し、ペーパーからDNAを溶出させるために65℃で約2時間インキュベートした。可溶化されたDNAをフェノール/クロロホルム次にクロロホルムを用いて抽出し、エタノール及び酢酸ナトリウムを用いて2回沈殿させた。沈殿したDNAを(pH 7.5に調整した10mM Trisバッファー及び0.1M EDTAを含んでなる)注入バッファー中に再懸濁し、DNA抽出及び沈殿技術を繰り返した。得られたDNAを注入バッファー中に可溶化し、マウス胚への注入前に定量した。
【0102】
過排卵を誘導するために妊娠雌馬血清中の5IUのヒト絨毛性ゴナドトロピンをCB.17 SCIDメスマウス(Taconic Farms、Germantown、NY
)に注入した。血清/ゴナドトロピン注入後に、マウスを同一遺伝子型の繁殖用オスと交尾させ、妊娠の約0.5日に胚を得た。付着している濾胞細胞を離すためにヒアルロニダーゼを含有するWhittens 640培地中に卵管から胚を流した。37℃で約60分間のインキュベーション後に、胚を正常な形態に関して顕微鏡で調べ、異常な胚を除いた。正常に見える胚を1滴のWhittens 640培地中に置き、顕微操作装置を備えた倒立顕微鏡に移した。個々の胚を微内腔吸引ピペットに穏やかに固定し、付着点の末端にオス前核を向けた。次に、本明細書に記述したDNA溶液をオス前核に注入した。各胚に約1から約2μlまでの溶液を与えた。各胚を培地で洗浄した後、注入した胚を5%(v/v)CO、5%(v/v)O、90%(v/v)窒素を含んでなる大気中でWhittens 640培地中37℃で一晩保持した。
【0103】
偽妊娠の状態を誘導するためにCB.17 SCIDメスマウスを、精管を切除した同一遺伝子型のオスと交尾させた。これらのマウスをアバーティン(滅菌食塩水中2% w/v)で麻酔し、卵管及び卵巣を無菌的に切除した。本明細書に記述した胚を露出した膨大部に移し、創傷クリップを用いて切開を閉じた。動物を37℃加温トレー上で回復させ、次に、一腹の子が生まれるまで1匹でまたは2匹一組で収容した。
【0104】
尾組織のサンプルからDNAを単離することにより導入遺伝子の存在に関してマウスの子を試験した。55℃で20mlのプロテイナーゼK(17.8μg/ml)を含んでなる溶液中で組織を一晩インキュベートすることによりそれを消化した。QIA AmpTM(商標)組織キット(QIAGEN、Hilden、Germany)を用いてキット中に供給されるバッファーAl/エタノール混合物410μlを添加し、QIA AmpTM(商標)カラムにかけることにより組織からDNAを抽出した。カラムを6000 x gで1分間遠心分離し、次に、キット中に供給されるAWバッファーで2回洗浄した。カラムを200μlの蒸留水で洗浄することにより単離されたDNAを集め、PCRにより増幅した。PCR反応混合物は120μlの反応混合物中に鋳型として約1μgのDNAを含んでなる40μlの単離されたマウスDNA懸濁液、HClを用いてpH 8.3に調整された10mM Trisバッファー、50mM KCl、1.5mM MgCl、0.1%(w/v)ゼラチン、各々0.2mMの4種のデオキシヌクレオチド(Pharmacia、Lt.Milton Keynes、UK)、(ヌクレオチド配列5’−ATGGACATCGACCCTTATAAAGAATTTG−3’;配列番号1を有する)0.2mMのプライマーMFO3、(ヌクレオチド配列5’−CTAAGGATTGAGATCTTCTGCGACGCGG−3’;配列番号2を有する)0.2mMのプライマーMFO4及び2.5ユニットのTAQポリメラーゼ(Perkin Elmer、Norwalk CT)を含んでなった。99℃で5分間、そして94℃で1分間DNAを最初に変性した後、プライマーアニーリングを55℃で1分間、そして伸長を72℃で1分間実施した。94℃−55℃−72℃のサイクルを全部で35サイクル繰り返した。コントロールサンプルはマウスDNAの代わりに水を用いたことを除いて、全ての試薬を含んだ。増幅産物を1.4%(w/v)アガロースゲルで電気泳動的に分離し、臭化エチジウム染色後に予想される分子量のバンドを同定した。
【0105】
1.19及び1.40g/mlの密度を有するCsClから調製された連続CsCl勾配を含有する遠心管の最上部にマウスから得られた血清サンプルを重ねることによりHBVを検出した。勾配製造機を用いて、13 x 51mm Beckman UltraclearTM(商標)超遠心管中に4.5mlの勾配を調製し、個々の血清サンプルを管の最上部に重ねた。各管をSW47ローターで45,000回転/分で約66.5時間遠心分離し、その後で約0.3mlの画分を集めた。各画分の密度を画分の屈折率を決定することにより測定し、1.22ないし1.33の間の密度を有するサンプル画分中のウイルスの存在を記述したようにPCRにより測定する。HBVに特有の予想される分子量に相当するオリゴヌクレオチドバンドが画分中に検出され、完全なウイルスがトランスジェ
ニック動物の血液中に存在することが示唆される。
【0106】
ウイルスタンパク質を発現する創始動物の同定後に、それらの動物をH−2Lマウスと交配してC3H/6 H−2L F1交配種を与え、それらを最低6世代戻し交配してHBVタンパク質を発現するH−2Lマウスの系統を樹立する。
【0107】
同一遺伝子型の免疫適格提供者マウスを安楽死させ、それらの脾臓を無菌的に集めた。それらの臓器を細かく裂いて離し、単一細胞懸濁液を集めた。細胞をPBS中で2回洗浄し、約5 x 10細胞/mlの密度で滅菌したPBS中に再懸濁した。
【0108】
無作為に選択した免疫不全HBCトランスジェニックマウスを適格免疫細胞または等容量のPBSの注入を受けるように指定された試験群に割り当てた。別の群のマウスはPCRにより導入遺伝子の存在に関して陰性と試験されたHBVトランスジェニック免疫不全マウスの一腹の子を含んでなった。これらのマウスを同様に無作為に試験群に割り当て、それらも免疫適格免疫細胞またはPBSの注入を受けた。免疫細胞の注入を受けたトランスジェニック及び非トランスジェニックSCIDマウスは免疫系を「再構成した」。全ての動物における注入を右または左の尾静脈のいずれかに実施した。
【0109】
各群の無作為に選択した動物を続く8週にわたって定期的に安楽死させた。個々の動物から集めた血液サンプルをサンプル中に存在するアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)の量に関して試験した。ALTは肝細胞中に最も多量に存在すると確認されている酵素であり、肝細胞損傷の特異的生化学マーカーとして働く。後部眼窩出血から血液サンプルを集めることにより8週後に動物を試験した。図2に示すグラフから、免疫再構成を受けた全てのHBVトランスジェニック免疫不全マウスが注入後8週で始まるそれらの血清中の高いALTレベルを生じたことが示される。Sigma Chemical Co.(St.Louis、MO)により供給される市販のキットを用いてALT濃度を測定した。非トランスジェニック動物から集めたサンプルでは類似した高いALT濃度は検出されなかった。従って、これらの結果は再構成された免疫系を有するマウスにおいて長く続く肝細胞壊死が起こったことを示す。
【0110】
肝臓サンプルをマウスから集め、緩衝ホルマリン中で固定した後に免疫組織化学用に処理した。ヘマトキシリン及びエオシンで染色した後、侵潤する免疫細胞を特に門脈周辺領域で視覚化することができ、再び、HBVによりもたらされる肝臓疾患にかかっているヒトにおいて見られるものと同じ肝細胞壊死が起こっていることが示された。染色された肝臓サンプルの像を図3〜5に示す。
【0111】
B.H2限定細胞障害性リンパ球の生成及び単離
本明細書の実施例1に記述したようにH2限定細胞障害性リンパ球を調製した。本明細書の実施例1に記述したCTL検出アッセイを用いてCTLを検出した。
【0112】
C.経口抗原投与によるH2限定サプレッサーリンパ球の生成及び単離
本明細書の実施例1に記述したようにH2限定サプレッサーTリンパ球を調製した。
【0113】
D.経口的に寛容化された同一遺伝子型マウスから得られたTリンパ球の投与によりもたらされるHBVに関してトランスジェニックの重い複合免疫不全マウス(SCID−HBVマウス)における肝細胞破壊の抑制
SCID−HBVマウスは5世代の動物にわたって何の肝臓疾患も示さなかった。図3〜5の各々のパネルCに示されるSCID−HBVマウスの肝臓における炎症細胞侵潤物の出現により示されるように、そのようなマウスは免疫再構成後にHBVタンパク質によりもたらされる肝臓疾患を起こした。さらに、コントロールマウスの血液循環中には検出
されないが、これらのマウスの血液循環中に検出される長く続く統計学的に有意に高いレベルのALTから肝臓疾患の発症が明らかに示される。
【0114】
本明細書に記述したように免疫適格同一遺伝子型動物の脾臓からTHBimmune細胞を集め、SCID−HBVマウスに腹腔内または静脈内のいずれかに約10ないし10の間の生育できるTHBimmune細胞を注入することにより肝細胞溶解を誘導した。注入後24時間毎にそのように注入したマウスから血液サンプルを集め、肝臓特異的マーカー酵素ALTの濃度を本明細書に記述したように測定した。96時間後にマウスを安楽死させ、肝臓にPBS及び30%ホルマリンを灌流させて組織を固定した。組織をパラフィン中に包埋し、ミクロトームを用いて5μmの厚さの組織病理学切片を調製した。肝組織切片中の侵潤する炎症細胞の数を定量するために切片を盲検観察者が評価した。コントロール動物は導入される免疫リンパ球を懸濁するために用いたものに等しい食塩水の容量の注入を受けたSCID−HBVマウス及びHBVゲノムのコピーを含んでならず且つ免疫適格マウスから得られたリンパ球の注入を受けたSCID−HBVマウスの一腹の子を含んだ。
【0115】
HBtolerant細胞がTHBimmune細胞によりもたらされる肝臓破壊を阻止できることを示すために、SCID−HBVマウスへの両方の型の細胞の導入を実施した。腹腔内または静脈内注入のいずれかにより約10ないし約10の間の生育できるTHBimmune細胞をSCID−HBVマウスに与えた。本明細書に記述したように、経口的に寛容化したマウスから集めた約10ないし約10の間のTHBtolerant細胞を選択したSCID−HBVマウスに同時に与えた。細胞の導入後24時間毎にマウスから血液サンプルを集め、それらのサンプル中の肝臓特異的マーカー酵素ALTの濃度を次の4日間測定した。96時間後に、マウスを安楽死させ、それらの肝臓にPBS及び30%(v/v)ホルマリンを灌流させて組織を固定した。それらの組織をパラフィン中に包埋し、ミクロトームを用いて5μmの厚さの組織病理学切片を調製した。肝組織サンプル中の侵潤する炎症細胞を定量するために切片を盲検観察者が評価した。コントロール動物は導入される免疫リンパ球を懸濁するために用いたものに等しい食塩水の容量の注入を受けたSCID−HBVマウス及びHBVゲノムのコピーを含んでならず且つ免疫適格マウスから得られたリンパ球の注入を受けたSCID−HBVマウスの一腹の子を含んだ。
【0116】
<実施例3>
トランスジェニック植物細胞におけるHBVタンパク質の発現
完全な植物及び植物細胞におけるトランスジェニックタンパク質の発現のために考案されたタバコモザイクウイルス(TMV)発現ベクター(Biosource Genetics,Inc.、Vacaville、CA)を選択する。プラスミドpTACC10中に含まれるHBcAgをコードする遺伝子の全コーディング配列を記述されたように(Uy等、1986、Virology 155:89−96)PvuII及びBamHI制限エンドヌクレアーゼ消化を用いて切り出し、単離し、精製する。得られるフラグメントを記述されたようにマルチクローニング部位を用いてプラスミドpBGC150中にクローン化して使用できるベクターを生成する(Kamagi等、1993、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:427−430)。インサートの方向をPCR産物の分析により確かめる。
【0117】
使用できるベクターのインビトロ転写産物を制限エンドヌクレアーゼKpnIを用いたベクターの消化後に製造し、得られるRNAのうちの50μgをMatsunaga等(1992、J.Gen.Virol.73:763−766)により最適と見いだされたものと類似した条件を用いてエレクトロポレーションにより約5 x 10のBY2細胞(American Type Culture Collection、Rockvi
lle、MD)中にトランスフェクトする。エレクトロポレーション後に、細胞を約24時間から約48時間までインキュベートする。次に、既知の方法を用いて細胞を凍結融解することにより全細胞抽出物を作製する。トランスジェニックタンパク質が抗−HBV−コア抗血清と免疫学的に反応することを確かめるためにウェスタンブロット分析を用いる。Kamagi等(1993、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:427−430)の方法を用いて約50μgのRNAを約6から約8週齢までのタバコ実生中にトランスフェクトする。接種部位の末端部の葉サンプルを約4または5日毎にサンプル採取し、ウイルスタンパク質発現をウェスタンブロット分析により検出する。タンパク質発現の定量を、ELISAキットを用いて実施する(例えば、CorzymeTM(商標)キット、Abbot Laboratories、Abbott Park、IL)。
【0118】
本明細書に引用される各々及びあらゆる特許の開示、特許出願、並びに公開はこれにより全部引用することにより本明細書に組み込まれる。
【0119】
本発明は特定の態様に関して開示されているが、本発明の真の趣旨及び範囲からそれずに当業者が本発明の他の態様及び変形を考案できることは明らかである。付加した請求の範囲は全てのそのような態様及び同等な変形を含むと解釈されると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】B型肝炎ウイルスのゲノムの表示である。
【図2】生理食塩水溶液または生理食塩水溶液中に懸濁した免疫適格マウス由来の脾臓細胞のいずれかからなる溶液をマウスに注入した後に選択した時間で評価した場合に、SCID−HBVマウスの血液循環中に検出されるアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT;縦軸により表される)の量を示すグラフである。実線は免疫適格マウス由来の脾臓細胞を注入した個々のSCID−HBVマウスの血清中に検出されるALTの量を示す。破線は生理食塩水溶液を注入した個々のSCID−HBVマウスの血清中に検出されるALTの量を示す。ダッシュ及び点を含んでなる線は、HBVゲノムを含んでならず且つ免疫適格マウス由来の脾臓細胞を注入した個々のSCIDマウスの血清中に検出されるALTの量を示す。
【図3】パネルA、B及びCを含んでなり、マウスから得られた染色された肝組織切片を示す3枚の像である。パネルAの切片はB型肝炎ウイルスゲノムのコピーを含んでなる重い複合免疫不全トランスジェニックマウス(すなわち、SCID−HBVマウス)から得られた染色された肝組織を示す。パネルBの切片は、HBVゲノムを含んでならず、SCID−HBVマウスの一腹の子であり、そして免疫適格マウスから得られた脾臓細胞を注入したSCIDマウスから得られた染色された肝組織を示す。パネルCの切片は免疫適格マウスから得られた脾臓細胞を注入したSCID−HBVマウスから得られた染色された肝組織を示す。
【図4】パネルA、B及びCを含んでなり、マウスから得られた染色された肝組織切片を示す3枚の像である。パネルAの切片はSCID−HBVマウスから得られた染色された肝組織を示す。パネルBの切片は、HBVゲノムを含んでならず、SCID−HBVマウスの一腹の子であり、そして免疫適格マウスから得られた脾臓細胞を注入したSCIDマウスから得られた染色された肝組織を示す。パネルCの切片は免疫適格マウスから得られた脾臓細胞を注入したSCID−HBVマウスから得られた染色された肝組織を示す。
【図5】パネルA、B及びCを含んでなり、マウスから得られた染色された肝組織切片を示す3枚の像である。パネルAの切片はSCID−HBVマウスから得られた染色された肝組織を示す。パネルBの切片は、HBVゲノムを含んでならず、SCID−HBVマウスの一腹の子であり、そして免疫適格マウスから得られた脾臓細胞を注入したSCIDマウスから得られた染色された肝組織を示す。パネルCの切片は免疫適格マウスから得られた脾臓細胞を注入したSCID−HBVマウスから得られた染色された肝組織を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルスのエピトープを含んでなる組成物の該ウイルスに感染した哺乳類の投与するための、かつ、該エピトープに対する経口寛容を誘導するためのまたは該エピトープに対する免疫応答の低反応性を誘導するための医薬の調製への使用であって、該ウイルスは該哺乳類に対して限定された病原性を示すが、該ウイルスに対する免疫応答は該哺乳類に対して著しい病原性の原因となり、そして該組成物は該哺乳類に経粘膜的に投与される、ことを特徴とする上記使用。
【請求項2】
哺乳類が該ウイルスにより慢性的に感染している、請求項1記載の使用。
【請求項3】
哺乳類がヒトである、請求項1または2記載の使用。
【請求項4】
ウイルスが、肝炎ウイルス、パルボウイルスB19、ボルナ病ウイルス、HIV及びHTLV−1よりなる群から選択される、請求項1〜3のいずれかに記載の使用。
【請求項5】
肝炎ウイルスが、B型肝炎ウイルスまたはC型肝炎ウイルスである、請求項4記載の使用。
【請求項6】
組成物が、抗生物質、抗ウイルス化合物、抗寄生虫化合物、抗炎症化合物、免疫抑制薬及び共力剤よりなる群から選択されるもう一つの分子をさらに含んでなる、請求項1〜5のいずれかに記載の使用。
【請求項7】
経粘膜的投与が、口、腸、鼻内、肺及び結腸投与よりなる群から選択される投与の経路により成し遂げられる、請求項1〜6のいずれかに記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−110963(P2008−110963A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−212219(P2007−212219)
【出願日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【分割の表示】特願平10−530372の分割
【原出願日】平成10年1月2日(1998.1.2)
【出願人】(503102582)トマス・ジエフアーソン・ユニバーシテイ (2)
【Fターム(参考)】