識別コード表示用テープ
【課題】包埋カセットに貼り付けるだけでレーザ光を利用して識別コードを刻印することができ、剥がれ落ちを防止しながら、パラフィンの影響を受けることなく鮮明な識別コードの表示を行うこと。
【解決手段】着脱自在に固定されるカセット本体11及び蓋部12と、カセット本体の表面上に設けられた平坦面11bとを備え、生体試料のパラフィン置換処理を行うための容器として使用されると共に、パラフィン置換処理された生体試料が包埋剤に包埋された包埋ブロックを載置して、該包埋ブロックの載置台として使用される包埋カセット10に貼着されるものであって、カセット本体の色に対して少なくとも明度が異なる色のテープ本体2と、該テープ本体の裏面上に塗布され、テープ本体を平坦面上に貼着させる接着層3とを備え、テープ本体が、照射されたレーザ光に沿って削られることで識別コードを表示する識別コード表示用テープ1を提供する。
【解決手段】着脱自在に固定されるカセット本体11及び蓋部12と、カセット本体の表面上に設けられた平坦面11bとを備え、生体試料のパラフィン置換処理を行うための容器として使用されると共に、パラフィン置換処理された生体試料が包埋剤に包埋された包埋ブロックを載置して、該包埋ブロックの載置台として使用される包埋カセット10に貼着されるものであって、カセット本体の色に対して少なくとも明度が異なる色のテープ本体2と、該テープ本体の裏面上に塗布され、テープ本体を平坦面上に貼着させる接着層3とを備え、テープ本体が、照射されたレーザ光に沿って削られることで識別コードを表示する識別コード表示用テープ1を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体や実験動物等から取り出した試料を収容して置換処理する容器として使用されると共に、置換処理された試料が包埋された包埋ブロックの固定台として使用される包埋カセットに貼り付けられる識別コード表示用テープに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、理化学実験や顕微鏡観察に用いられる薄切片標本を作製する装置として、ミクロトームが一般的に知られている。この薄切片標本は、厚さが数μm(例えば、3μm〜5μm)の薄切片をスライドガラス等の基板上に固定させたものである。薄切片は、包埋剤によって生体試料を包埋した包埋ブロックを上述した厚さで極薄に薄切して作製されたものである。また、包埋ブロックは、人体や実験動物等から取り出されてホルマリン固定された生体試料をパラフィン置換した後、さらに周囲をパラフィンで固めてブロック状に作製されたものである。この包埋ブロックの作製には、一般的に専用の容器である包埋カセットが使用されている。
この包埋カセットは、耐キシレン性、耐アルコール性を有する材料により形成され、カセット本体と該カセット本体に着脱自在に固定可能な蓋部とで箱状に構成されているものである。また、カセット本体及び蓋部は、それぞれメッシュ状になっている。そのため、包埋カセットは、内部と外部とが連通するようになっている。
【0003】
ここで、包埋カセットを利用した包埋ブロックの作製方法について、簡単に説明する。
まず、実験動物の臓器等の生体試料をホルマリン固定した後、適当なサイズに切断して包埋カセット内に収容する。つまり、カセット本体内に収容した後、蓋部をカセット本体に装着して生体試料を内部に閉じ込める。次いで、薬剤としてアルコールが満たされたパレット内に包埋カセットを浸漬する。これにより、包埋カセット内に収容されている生体試料は、アルコールに浸漬され、生体試料内の水分や脂質がアルコールで置換、即ち、脱水、脱脂処理される。次いで、パレット内の薬剤をキシレンに入れ換えて、先ほど置換したアルコールをキシレンに置換する。次いで、パレット内の薬剤を液状のパラフィンに入れ換えて、先ほど置換したキシレンをパラフィンに置換する。これにより、水分や脂質がパラフィン置換された生体試料を作製することができる。
【0004】
次いで、パラフィン置換された生体試料を包埋カセットから取り出し、液状のパラフィンが満たされた別の容器内に移す。そして、空になったカセット本体でこの容器に蓋をする。この状態で、容器内のパラフィンを冷却固化させる。これにより、パラフィン内に生体試料が包埋された包埋ブロックを作製することができる。この際、包埋ブロックは、カセット本体の底面にくっ付いて繋がった状態となっている。そして最後に、底面に包埋ブロックが繋がったカセット本体を容器から取り外して裏返しにする。その結果、カセット本体の底面上に固定された包埋ブロックを得ることができる。
【0005】
上述したように、包埋ブロックを作製するにあたり、包埋カセットを、生体試料に脱水、脱脂処理及び置換処理を施す際の容器として使用すると共に、包埋ブロックの固定台としても使用している。このように、包埋カセットを2つの場面で使用するのは、多数の生体試料を一度に処理する際に、生体試料同士の混同を防止するためである。特に、正確な実験や観察を行うためには、包埋ブロックの品質管理が重要であり、混同等に関しては特に注意が払われている。
【0006】
また、品質管理を正確に行うために、包埋カセットには、包埋ブロック内に包埋されている生体試料の種類等を認識するための識別コードが記録されるようになっている。この識別コードを記録する方法は、各種の方法があるが、その1つとしてインクジェットプリンタによって印字する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。この方法によれば、包埋カセットに対して任意のサイズの識別コードを明瞭且つ効率良く印字することができる。また、このときのインクとしては、包埋カセットが各種の薬剤にさらされることを考慮して、通常耐有機溶媒性のインクが用いられている。
【特許文献1】特開2002−365184号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の方法では、まだ以下の課題が残されていた。
即ち、包埋カセットに識別コードを印字する方法は、任意の大きさの文字等を簡単且つ明瞭に印字できる点では好ましいが、その反面、印字部分が強く擦れるとインクが剥がれてしまう恐れがあった。特に、耐有機溶媒性のインクを使用した場合には、インクが剥がれ易い。仮にインクが剥がれてしまうと、包埋ブロックの品質管理を正確に行うことができないので、致命的な問題となってしまうものであった。
また、従来の方法は、単に印字するだけであるので、包埋ブロックを作製中に印字面にパラフィンが付着してしまうと、印字された識別コードが見え難くなってしまう不都合があった。また、そのためにパラフィンを手作業で剥す手間が必要であった。更には、このパラフィンを剥す際に、識別コードが一緒に剥がれてしまう不都合もあった。
【0008】
本発明は、このような事情に考慮してなされたもので、その目的は、包埋カセットに貼り付けるだけでレーザ光を利用して識別コードを刻印することができ、剥がれ落ちを防止しながら、パラフィンの影響を受けることなく鮮明な識別コードの表示を行うことができる識別コード表示用テープを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記課題を解決するために以下の手段を提供する。
本発明の識別コード表示用テープは、着脱自在に固定されるカセット本体及び蓋部と、前記カセット本体の表面上に設けられた平坦面とを備え、生体試料のパラフィン置換処理を行うための容器として使用されると共に、パラフィン置換処理された前記生体試料が包埋剤に包埋された包埋ブロックを載置して、該包埋ブロックの載置台として使用される包埋カセットに貼着される識別コード表示用テープであって、前記カセット本体の色に対して少なくとも明度が異なる色のテープ本体と、該テープ本体の裏面上に塗布され、テープ本体を前記平坦面上に貼着させる接着層とを備え、前記テープ本体が、照射されたレーザ光に沿って削られることで識別コードを表示することを特徴とするものである。
【0010】
この発明に係る識別コード表示用テープにおいては、生体試料をパラフィン置換処理する際の容器として使用されると共に、パラフィン置換処理された生体試料を包埋剤に包埋して包埋ブロックを作製する際の該包埋ブロックの載置台として使用される包埋カセットに貼着して使用されるものである。まず、作業者は、包埋ブロックを作製する際に、本体カセットの平坦面に接着層を介してテープ本体を貼り付ける。これにより作業者は、テープ本体にレーザマーカ装置等によりレーザ光を照射して、生体試料に関する必要な情報(例えば、実験動物の種類、臓器の種類等)を識別コードとして刻印することができる。
【0011】
特に、従来のような単に識別コードを印字するだけの方法とは異なり、レーザ光を利用してテープ本体を削り、識別コードを刻印することができるので、包埋ブロックを作製する作業中に識別コードが擦れ等によって剥がれてしまうことがない。そのため、包埋ブロックの品質管理を正確に行うことができる。また、レーザ光を利用して識別コードを刻印できるので、短時間の作業で済む。そのため、作業効率を向上することができる。また、非接触で識別コードを刻印できるので、テープ本体の表面粗さに影響を受けることなく識別コードを表示することができる。そのため、過度の注意を払わずに識別コード表示用テープを作製することができる。
【0012】
また、テープ本体の色は、カセット本体の色に対して少なくとも明度が異なっている。そのため、テープ本体を削って刻印した識別コードを、背景色でもあるテープ本体の色とは異なる明度で表示することができる。よって、識別コードと背景色との明るさを変えることができ、明度差を利用して識別コードを表示することができる。例えば、黒に近い濃い緑色の背景色の中に、白に近い淡い緑色で識別コードを表示することができる。従って、コントラストを付けることができ、明瞭な視認性を確保することができる。
また、包埋ブロックを作製した途中でパラフィンがテープ本体上に多少残っていたとしても、上述したように識別コードと背景色との明度差を利用して高い視認性が確保されているので、従来のものに比較して識別コードを鮮明に見ることができる。そのため、パラフィンを手作業で削り落とす手間を省くこともでき、作業性を向上することができる。
【0013】
上述したように本発明に係る識別コード表示用テープによれば、包埋カセットに貼り付けるだけでレーザ光を利用して識別コードを刻印することができ、剥がれ落ちを防止しながら、パラフィンの影響を受けることなく鮮明な識別コードの表示を行うことができる。
【0014】
また、本発明の識別コード表示用テープは、上記本発明の識別コード表示用テープにおいて、前記テープ本体の色が、前記包埋カセットの色よりも低い明度であることを特徴とするものである。
【0015】
この発明に係る識別コード表示用テープにおいては、テープ本体の色が、カセット本体の色よりも低い明度、即ち黒に近い暗色となっている。そのため、暗色とされた背景色の中に、該背景色よりも明るい色で識別コードを表示することができる。よって、背景色と識別コードとの明度差をより明確につけることができ、視認性をより向上することができる。
また、テープ本体の色をカセット本体の色よりも暗色にできるので、刻印により表示された識別コード上に、仮に白色のパラフィンが付着してしまったとしても、該識別コードがより明るい淡色となりコントラストがつき易い。従って、視認性に何ら影響を与えることはない。
【0016】
また、本発明の識別コード表示用テープは、上記本発明の識別コード表示用テープにおいて、前記カセット本体が、JIS−Z8102で規定される明度(V)が6.5以上の色とされ、前記テープ本体が、JIS−Z8102で規定される明度(V)が6.0以下の色であることを特徴とするものである。
【0017】
この発明に係る識別コード表示用テープにおいては、テープ本体がJIS−Z8102で規定される明度(V)が6.0以下の色、例えば紅色、深緑、紺藍、紫紺、黒等の暗色となっている。また、カセット本体が、明度(V)が6.5以上の色、例えば桜色、肌色、緑、空色、白等の淡色となっている。このように、背景色をより暗い色で表示し、識別コードをより明るい色で表示できるので、明度対比の効果により識別コードの視認性をさらに高めることができる。特に、テープ本体の色を明度(V)が1.5の黒とし、カセット本体の色を明度(V)が9.5の白とすることが好ましい。
【0018】
また、本発明の識別コード表示用テープは、上記本発明のいずれかの識別コード表示用テープにおいて、前記テープ本体及び前記接着層が、耐キシレン性及び耐アルコール性を有する材料により形成されていることを特徴とするものである、
【0019】
この発明に係る識別コード表示用テープにおいては、テープ本体及び接着層が、耐キシレン性及び耐アルコール性を有する材料(例えば、ポリアセタール樹脂やフッ素樹脂)により形成されているので、生体試料をパラフィン置換する前段階でキシレンやアルコールを使用したとしても、これらの影響を受けることはない。よって、耐久性を向上することができると共に、鮮明な識別コードの表示を維持することができる。
【0020】
また、本発明の識別コード表示用テープは、上記本発明のいずれかの識別コード表示用テープにおいて、前記テープ本体が、5μm以上、500μm以下の厚みであることを特徴とするものである。
【0021】
この発明に係る識別コード表示用テープにおいては、テープ本体の厚みが5μm以上であるので十分な強度を確保することができ、識別コードをレーザ光で刻印する最中、或いは、識別コードを刻印した後に、テープ本体が剥がれてしまったり、欠けたりする恐れがない。よって、製品の信頼性を向上することができる。
また、テープ本体の厚みが、500μm以下であるので、市販されているレーザマーカ装置(例えば、炭酸ガスレーザマーカー装置)によるレーザ光で、容易且つ確実にテープ本体を削って識別コードを刻印することができる。また、仮に膜厚がこれより厚い場合には、幅が太くなり、刻印した際に字が潰れたり不鮮明になったりしてしまう。
【0022】
また、本発明の識別コード表示用テープは、上記本発明のいずれかの識別コード表示用テープにおいて、前記テープ本体が、表面が鏡面処理されていることを特徴とするものである。
【0023】
この発明に係る識別コード表示用テープにおいては、テープ本体の表面がシボ加工や艶だし処理等によって鏡面処理されているので、包埋ブロックを作製する最中に、表面にパラフィンが付着し難くなると共に、仮にパラフィンが付着したとしても容易にパラフィンを剥すことができる。
【0024】
また、本発明の識別コード表示用テープは、上記本発明のいずれかの識別コード表示用テープにおいて、前記テープ本体が、長尺な帯状に形成され、前記接着層を内側にしてロール状に巻かれていることを特徴とするものである。
【0025】
この発明に係る識別コード表示用テープにおいては、テープ本体が長尺な帯状に形成されてロール状に巻かれているので、使用しないときにコンパクトな状態で保存することができる。また、テープ本体が長尺であるので、必要な長さだけ引き出して切断することで、容易且つ確実に包埋カセットのサイズに合わせることができる。よって、使い易く、便利である。
【0026】
また、本発明の識別コード表示用テープは、上記本発明の識別コード表示用テープにおいて、前記テープ本体には、所定の長さ毎に切断用のミシン線が形成されていることを特徴とするものである。
【0027】
この発明に係る識別コード表示用テープにおいては、ミシン線に沿ってテープ本体を切断することで、誰でも容易且つ確実に同じ長さのテープ本体を得ることができる。しかも、ミシン線があるため、テープ本体をいびつな形ではなく、綺麗に切断することができる。従って、テープ本体を平坦面に貼着し易くなり、使い易さがさらに向上する。
【0028】
また、本発明の識別コード表示用テープは、上記本発明のいずれかの識別コード表示用テープにおいて、シート状に形成された剥離シートを備え、前記テープ本体が、所定の長さ毎に複数整列した状態で、前記接着層を介して前記剥離シートに剥離可能に貼着されていることを特徴とするものである。
【0029】
この発明に係る識別コード表示用テープにおいては、複数のテープ本体が、予め所定の長さに切断された状態でシート状に形成された剥離シートに整列して貼着されている。そのため作業者は、剥離シートからテープ本体を1枚剥して、カセット本体の平坦面に貼り付けることができる。このように誰でも簡単にシール感覚でテープ本体を貼着することができる。特に、テープ本体は予め所定の長さに切断されているので、使い易い。また、テープ本体の残り枚数を一目で確認できることからも、使い易さに優れている。
【発明の効果】
【0030】
本発明に係る識別コード表示用テープによれば、包埋カセットに貼り付けるだけでレーザ光を利用して識別コードを刻印することができ、剥がれ落ちを防止しながら、パラフィンの影響を受けることなく鮮明な識別コードの表示を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明に係る識別コード表示用テープの一実施形態を、図1から図15を参照して説明する。
初めに、生体試料Sを検査、観察する方法の1つとして、図1に示すように、包埋剤であるパラフィンPによって生体試料Sを包埋した包埋ブロックBを、厚さ3μmから5μmの極薄に薄切して薄切片を作製し、該薄切片をスライドガラス等の基板上に固定した薄切片標本を利用する方法が知られている。
本発明に係る識別コード表示用テープ1は、この包埋ブロックBを作製するにあたり、生体試料Sのパラフィン置換処理を行うための容器として使用されると共に、包埋ブロックBを載置する載置台として使用される包埋カセット10に貼着されて使用されるものである。
【0032】
なお、生体試料Sとしては、例えば、人体や実験動物等から取り出した臓器等の組織であり、医療分野、製薬分野、食品分野、生物分野等で適時選択させるものである。また、脱水及び脱脂処理した後、パラフィン置換処理されたものが使用される。
【0033】
本実施形態の識別コード表示用テープ1は、図2(a)、(b)に示すように、テープ本体2と、該テープ本体2の裏面上に塗布され、テープ本体2を後述するカセット本体11の平坦面11b上に貼着させる接着層3とを備えている。
このテープ本体2は、長尺な帯状に形成され、接着層3を内側にしてロール状に巻かれている。この際、テープ本体2には、所定の長さL毎に切断用のミシン線Mが形成されている。なお、本実施形態では、平坦面11bの長さと略同じ長さL毎にミシン線Mが形成されている。そして、このテープ本体2は、図示しないレーザマーカ装置等から照射されたレーザ光Lに沿って削られることで、識別コードCを表示するようになっている。これについては、後に詳細に説明する。
【0034】
また、テープ本体2は、カセット本体11の色に対して少なくとも明度が異なる色とされている。本実施形態では、テープ本体2の色の方がカセット本体11の色よりも低い明度になっている。具体的には、テープ本体2が、JIS−Z8102で規定される明度(V)が6.0以下の色である深緑(V=3.0)であり、後述するカセット本体11及び蓋部12が、JIS−Z8102で規定される明度(V)が6.5以上の色である緑(V=6.0)となっている。
【0035】
また、テープ本体2は、耐キシレン性、耐アルコール性に優れたポリアセタール樹脂やフッ素樹脂等から形成されている。更にテープ本体2は、厚さ5μm以上、500μm以下の範囲内に収まるように厚さ調整されている。
上記接着層3は、テープ本体2と同様に、耐キシレン性、耐アルコール性に優れたエポキシ樹脂系の材料(例えば、住友スリーエム社の熱硬化性薄膜フィルム接着剤)から形成されており、テープ本体2の裏面全体に塗布されている。この接着剤は、100℃から130℃で硬化し、カセット本体11とテープ本体(ポリアセタールTm=165℃〜170℃)を融解させることなく、しっかりと固定できるものである。
【0036】
次に、包埋カセット10について説明する。
本実施形態で使用する包埋カセット10は、図3及び図4に示すように、生体試料Sを収容する収容凹部15が開口して形成されたカセット本体11と、該カセット本体11に対して着脱自在に固定され、収容凹部15を閉塞する蓋部12とを備えている。これらカセット本体11及び蓋部12は、耐キシレン性、耐アルコール性に優れたポリアセタールやフッ素樹脂等から形成されている。
【0037】
カセット本体11は、図5及び図6に示すように、上面視矩形状に形成されており、上面部分が収容凹部15の開口となっている。また、底面11aには、複数の貫通孔16がアレイ状に形成されており、該貫通孔16を介して収容凹部15の内部と外部とが連通するようになっている。また、本実施形態のカセット本体11の一端側には、表面が平らに形成された平坦面11bが形成されている。なお、この平坦面11bは、カセット本体11の底面11aに対して所定の角度θが付いた斜面となっている。
【0038】
また、収容凹部15を囲む側壁部11cのうち、平坦面11bに隣接する部分には後述する蓋部12の係合片21が挿入される挿入孔17が形成されている。また、側壁部11cのうち、収容凹部15を間に挟んで挿入孔17に対向する側には、後述する蓋部12の係合爪22が係合する突起部18が形成されている。
【0039】
上記蓋部12は、図7及び図8に示すように、上面視矩形状に形成された板状の部材であり、カセット本体11の収容凹部15の側壁部11cを完全に覆うサイズに形成されている。また、蓋部12の下面には、矩形状に囲まれた段部12aが形成されている。この段部12aは、カセット本体11の側壁部11cに当接しながら収容凹部15内に入り込むサイズに形成されたものである。これにより、蓋部12をカセット本体11に重ねたときに、段部12aが収容凹部15内に入り込むので、蓋部12が水平方向に位置ずれしないようになっている。
また、この段部12aに囲まれた領域内には、カセット本体11と同様に複数の貫通孔20がアレイ状に形成されている。これにより、蓋部12をカセット本体11に重ねたときに、蓋部12側の貫通孔20を介して収容凹部15の内部と外部とが連通するようになっている。
【0040】
また、蓋部12の下面には、上述したカセット本体11の挿入孔17内に挿入される係合片21と、カセット本体11の突起部18に係合する係合爪22とが形成されている。係合片21は、カセット本体11の底面11aと平坦面11bとのなす角度θと略同じ角度で一端側から突出するように形成されており、挿入孔17内に挿入された後、平坦面11bの裏面側に面接触して蓋部12を位置決めするようになっている。また、係合爪22は、蓋部12の下面に対して略直交する方向に突出するように形成され、先端が鉤状になって突起部18に引っ掛かって係合するようになっている。
このように蓋部12は、段部12a及び係合片21によってカセット本体11に対して所定の位置に重ね合わされると共に、係合爪22を突起部18に係合することによって、カセット本体11に対して装着されるようになっている。
【0041】
次に、上述した識別コード表示用テープ1及び包埋カセット10を利用して包埋ブロックBを作製する場合について、説明する。
始めに作業者は、ホルマリン固定された生体試料Sを準備すると共に、該生体試料Sを収容するための図3及び図4に示す包埋カセット10を準備する。次に、作業者は、カセット本体11の平坦面11bに識別コード表示用テープ1を貼着する。即ち、図2に示すロール状に巻かれたテープ本体2を引き出すと共に、該テープ本体2をミシン線Mに沿って切断する。これにより、カセット本体11の平坦面11bの長さと略同じ長さLのテープ本体2を得ることができる。そして、図9に示すように、テープ本体2をカセット本体11の平坦面11bに接着層3を介して100℃から130℃に加熱して貼着する。
【0042】
次に、作業者は、生体試料Sに関する必要な情報、例えば、実験動物の種類、臓器の種類等を予め識別コードCとして包埋カセット10に表示する作業を行う。具体的には、図10に示すように、市販されているレーザマーカ装置等を利用して、レーザ光Lを先ほど貼着したテープ本体2に照射する。すると、テープ本体2は、このレーザ光Lに沿って削り取られる。これにより、図11に示すように、包埋カセット10に対して、必要な情報を識別コードC(ABC20060423−A1201)として刻印することができる。
【0043】
識別コードCを刻印した後、カセット本体11から蓋部12を取り外す。次いで、刻印した識別コードCに該当する生体試料Sを適当な大きさに切断した後、カセット本体11の収容凹部15内に生体試料Sを収容する。そして収容した後、蓋部12をカセット本体11に装着して生体試料Sを内部に閉じ込める。つまり、蓋部12の係合片21をカセット本体11の挿入孔17に入れた状態で、蓋部12をカセット本体11に徐々に重ね合わせる。すると、係合片21側から徐々に蓋部12の段部12aがカセット本体11の収容凹部15内に入り込み始める。これにより、蓋部12が位置決めされるので、カセット本体11に対して蓋部12を正確に重ね合わせることができる。そして、最後に蓋部12の係合爪22をカセット本体11の突起部18に嵌め込むことで、蓋部12をカセット本体11に対して確実に装着することができ、収容凹部15の開口を閉塞することができる。
【0044】
生体試料Sを閉じ込めた後、生体試料Sのパラフィン置換処理を行う。まず、図12に示すように、薬剤Wとしてアルコールw1が満たされたパレット30内に、包埋カセット10を浸漬する。この際、収容凹部15の内部は、カセット本体11及び蓋部12にそれぞれ形成されている貫通孔16、20を介して外部に連通しているので、アルコールw1が収容凹部15内に流入する。そのため、生体試料Sは、内部の水分や脂質がアルコールw1で置換、即ち、脱水処理、脱脂処理される。
【0045】
次いで、パレット30内の薬剤Wをキシレンw2に入れ替える。これにより、先ほど置換したアルコールw1を、キシレンw2に置換する。そして、最後にパレット30内の薬剤Wを液状のパラフィンPに入れ換えて、先ほど置換したキシレンw2を、パラフィンPに置換する。これにより、水分や脂質がパラフィン置換処理された生体試料Sを作製することができる。
【0046】
このパラフィン置換処理作業が終了した後、図13に示すように、カセット本体11から蓋部12を取り外しておく。また、液状のパラフィンPが満たされた段部31aを有する包埋皿31を用意しておく。そして、カセット本体11の収容凹部15内から生体試料Sを取り出すと共に、取り出した生体試料Sを包埋皿31内に収容してパラフィンPに浸漬させる。また、これと同時に図14に示すように、空になったカセット本体11を包埋皿31の段部31aに載置して包埋皿31に蓋をする。この際、カセット本体11の収容凹部15内にもパラフィンPが入り込むように、パラフィンPの量が調整されている。この状態で、包埋皿31を冷却してパラフィンPを冷却固化させる。
【0047】
これにより、生体試料Sが包埋された包埋ブロックBを作製することができる。この際、包埋ブロックBは、カセット本体11の底面11aにくっ付いて繋がった状態となっている。そして、最後に図15に示すように、底面11aに包埋ブロックBが繋がったカセット本体11を包埋皿31から取り外して裏返しにする。その結果、カセット本体11の底面11a上に固体された包埋ブロックBを得ることができる。
【0048】
上述したように、包埋ブロックBを作製するにあたり、包埋カセット10を、生体試料Sのパラフィン置換処理を行うための容器として使用すると共に、包埋ブロックBの載置台として使用している。このように包埋カセット10を2つの場面で使用しているので、多数の生体試料Sを一度に処理したとしても、生体試料S同士の混同を防止することができる。しかも、カセット本体11に貼着されたテープ本体2を使用して、生体試料Sに関する識別コードCを表示できるので、品質管理を正確に行うことができる。
【0049】
特に、従来のような単に識別コードCを印字するだけの方法とは異なり、レーザ光Lを利用してテープ本体2を削り、識別コードCを刻印することができるので、包埋ブロックBを作製する作業中に識別コードCが擦れ等によって剥がれてしまうことがない。そのため、包埋ブロックBの品質管理を常に正確に行うことができる。
また、レーザ光Lを利用して識別コードCを刻印できるので、短時間の作業で済む。そのため、作業効率を向上することができる。また、非接触で識別コードCを刻印できるので、テープ本体2の表面粗さに影響を受けることなく識別コードCを表示することができる。そのため、過度の注意を払わずにテープ本体2を作製することができる。
【0050】
また、テープ本体2の色は、カセット本体11の色に対して少なくとも明度が異なっているので、テープ本体2を削って刻印した識別コードCを、背景色でもあるテープ本体2の色とは異なる明度で表示することができる。よって、識別コードCと背景色との明るさを変えることができ、明度差を利用して識別コードCを表示することができる。従って、コントラストを付けることができ、明瞭な視認性を確保することができる。
特に、本実施形態の場合には、テープ本体2の色が深緑であり、カセット本体11の色が緑である。つまり、テープ本体2の色の方が、カセット本体11の色よりも黒に近い暗色となっている。そのため、暗色とされた背景色の中に、該背景色よりも明るい色で識別コードCを表示することができる。よって、背景色と識別コードCとの明度差を明確につけることができ、視認性をより向上することができる。しかも、深緑は明度(V)が3.0であり、緑は明度(V)が6.5であるので、明度対比の効果によりコントラストがよりはっきりしている。よって、識別コードCをより鮮明に表示することができ見易い。
【0051】
また、包埋ブロックBを作製した途中でパラフィンPがテープ本体2上に多少残っていたとしても、上述したように識別コードCの色と背景色の色との明度差を利用して高い視認性が確保されているので、従来のものに比較して識別コードCを鮮明に見ることができる。そのため、パラフィンPを手作業で削り落とす作業を省くこともでき、作業性を向上することができる。また仮にパラフィンPを削り落としたとしても、刻印によって識別コードCが表示されているので、従来のように識別コードCが剥がれてしまうことがない。
更に、刻印により表示されている識別コードCに、仮に白色のパラフィンPが付着してしまったとしても、該識別コードCがより明るい淡色になるので、コントラストがさらにつき易い。そのため、視認性に何ら影響を与えることがない。
【0052】
また、本実施形態のテープ本体2及び接着層3は、耐キシレン性、耐アルコール性を有する材料により形成されているので、パラフィン置換処理する際に使用したキシレンやアルコールの影響を何ら受けることがない。よって、耐久性を向上することができると共に、鮮明な識別コードCの表示を維持することができる。
【0053】
また、本実施形態のテープ本体2は、厚みが5μm以上であるので十分な強度を確保することができ、識別コードCをレーザ光Lで刻印する最中、或いは、識別コードCを刻印した後に、テープ本体2が剥がれてしまったり、欠けたりする恐れがない。よって、製品の信頼性を向上することができる。更には、テープ本体2は厚みが500μm以下であるので、市販されているレーザマーカ装置(例えば、炭酸ガスレーザマーカ装置)によるレーザ光Lで、容易且つ確実にテープ本体2を削って識別コードCを刻印することができる。また、仮に膜厚がこれより厚い場合には、幅が太くなり、刻印した際に字が潰れたり不鮮明になったりしてしまう。
【0054】
また、本実施形態のテープ本体2には、ミシン線Mが形成されているので、該ミシン線Mに沿ってテープ本体2を切断することで、誰でも容易且つ確実に同じ長さのテープ本体2を得ることができる。しかもミシン線Mがあるため、テープ本体2をいびつな形ではなく、綺麗に切断することができる。従って、テープ本体2を貼着し易くなり、使い易さがさらに向上する。更に、テープ本体2がロール状に巻かれているので、使用しないときにコンパクトな状態で保存することができる。
【0055】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0056】
例えば、上記実施形態において、テープ本体2の表面をシボ加工や艶だし処理等によって鏡面処理しても構わない。こうすることで、包埋ブロックBを作製する最中に表面にパラフィンPが付着し難くなると共に、仮にパラフィンPが付着したとしても、容易にパラフィンPを剥すことができる。
【0057】
また、上記実施形態では、テープ本体2を深緑とし、カセット本体11を緑としたが、この色の組み合わせに限定されるものではない。少なくとも明度が異なる色であれば、自由に選択して構わない。但し、好ましくは、JIS−Z8102で規定される明度(V)が6.0以下の色をテープ本体2に選択し、明度(V)が6.5以上の色をカセット本体11の色に選択すると良い。その中でも、より好ましくは、テープ本体2の色を明度(V)が1.5の黒とし、カセット本体11の色を明度(V)が9.5の白とすることが好ましい。
【0058】
また、上記実施形態では、平坦面11bが斜面となっていたが、この場合に限られず、カセット本体11の表面上に形成されていれば斜面でなくても構わないし、どの位置であっても構わない。
【0059】
また、上記実施形態では、テープ本体2をロール状に巻いた例を説明したが、この場合に限られるものではない。
例えば、図16に示すように、識別コード表示用テープ1が、シート状に形成された剥離シート40を備え、テープ本体2が所定の長さL毎に複数整列した状態で、接着層3を介してこの剥離シート40に剥離可能に貼着されていても構わない。
このように構成された識別コード表示用テープ1を利用する場合には、作業者は剥離シート40からテープ本体2を1枚剥して、カセット本体11の平坦面11bに貼り付けることができる。このように誰でも簡単にシール感覚でテープ本体2を貼着することができる。特に、テープ本体2が予め所定の長さLに切断されているので、使い易い。また、テープ本体2の残り枚数を一目で確認できることからも、使い易さに優れている。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明に係る識別コード表示用テープ及び包埋カセットを利用して作製される包埋ブロックの斜視図である。
【図2】本発明に係る識別コード表示用テープの一実施例を示す図であって、(a)は斜視図であり、(b)は(a)のA−A断面図である。
【図3】図2に示す識別コード表示用テープを貼着する包埋カセットの一実施例を示す上面図である。
【図4】図3に示す包埋カセットの断面図である。
【図5】図3に示す包埋カセットを構成するカセット本体の上面図である。
【図6】図5に示すカセット本体のD−D断面図である。
【図7】図3に示す包埋カセットを構成する蓋部の上面図である。
【図8】図7に示す蓋部のE−E断面図である。
【図9】図2に示す識別コード表示用テープを、カセット本体の平坦面に貼着している状態を示す図である。
【図10】貼着した識別コード表示用テープのテープ本体にレーザ光を照射して削り、識別コードを刻印している状態を示す図である。
【図11】刻印された識別コードの一例を示した図である。
【図12】識別コードが刻印された包埋カセットを利用して包埋ブロックを作製する際の一工程図であって、包埋カセット内に生体試料を収容した後、該包埋カセットを薬剤が満たされたパレット内に収容した状態である。
【図13】識別コードが刻印された包埋カセットを利用して包埋ブロックを作製する際の一工程図であって、図12に示す状態の後、パラフィン置換処理された生体試料をカセット本体から取り出して、液状のパラフィンが満たされた包埋皿の中に移し変えている状態を示す図である。
【図14】識別コードが刻印された包埋カセットを利用して包埋ブロックを作製する際の一工程図であって、図13に示す状態の後、空になったカセット本体を包埋皿の段部上に載置した状態を示す図である。
【図15】識別コードが刻印された包埋カセットを利用して包埋ブロックを作製する際の一工程図であって、図14に示す状態の後、パラフィンを固化させて包埋ブロックを作製し、その後、カセット本体を包埋皿から取り出した状態を示す図である。
【図16】本発明に係る識別コード表示用テープの他の例を示した図である。
【符号の説明】
【0061】
B 包埋ブロック
C 識別コード
L レーザ光
M ミシン線
P パラフィン(包埋剤)
S 生体試料
1 識別コード表示用テープ
2 テープ本体
3 接着層
10 包埋カセット
11 カセット本体
11b カセット本体の平坦面
12 蓋部
40 剥離シート
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体や実験動物等から取り出した試料を収容して置換処理する容器として使用されると共に、置換処理された試料が包埋された包埋ブロックの固定台として使用される包埋カセットに貼り付けられる識別コード表示用テープに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、理化学実験や顕微鏡観察に用いられる薄切片標本を作製する装置として、ミクロトームが一般的に知られている。この薄切片標本は、厚さが数μm(例えば、3μm〜5μm)の薄切片をスライドガラス等の基板上に固定させたものである。薄切片は、包埋剤によって生体試料を包埋した包埋ブロックを上述した厚さで極薄に薄切して作製されたものである。また、包埋ブロックは、人体や実験動物等から取り出されてホルマリン固定された生体試料をパラフィン置換した後、さらに周囲をパラフィンで固めてブロック状に作製されたものである。この包埋ブロックの作製には、一般的に専用の容器である包埋カセットが使用されている。
この包埋カセットは、耐キシレン性、耐アルコール性を有する材料により形成され、カセット本体と該カセット本体に着脱自在に固定可能な蓋部とで箱状に構成されているものである。また、カセット本体及び蓋部は、それぞれメッシュ状になっている。そのため、包埋カセットは、内部と外部とが連通するようになっている。
【0003】
ここで、包埋カセットを利用した包埋ブロックの作製方法について、簡単に説明する。
まず、実験動物の臓器等の生体試料をホルマリン固定した後、適当なサイズに切断して包埋カセット内に収容する。つまり、カセット本体内に収容した後、蓋部をカセット本体に装着して生体試料を内部に閉じ込める。次いで、薬剤としてアルコールが満たされたパレット内に包埋カセットを浸漬する。これにより、包埋カセット内に収容されている生体試料は、アルコールに浸漬され、生体試料内の水分や脂質がアルコールで置換、即ち、脱水、脱脂処理される。次いで、パレット内の薬剤をキシレンに入れ換えて、先ほど置換したアルコールをキシレンに置換する。次いで、パレット内の薬剤を液状のパラフィンに入れ換えて、先ほど置換したキシレンをパラフィンに置換する。これにより、水分や脂質がパラフィン置換された生体試料を作製することができる。
【0004】
次いで、パラフィン置換された生体試料を包埋カセットから取り出し、液状のパラフィンが満たされた別の容器内に移す。そして、空になったカセット本体でこの容器に蓋をする。この状態で、容器内のパラフィンを冷却固化させる。これにより、パラフィン内に生体試料が包埋された包埋ブロックを作製することができる。この際、包埋ブロックは、カセット本体の底面にくっ付いて繋がった状態となっている。そして最後に、底面に包埋ブロックが繋がったカセット本体を容器から取り外して裏返しにする。その結果、カセット本体の底面上に固定された包埋ブロックを得ることができる。
【0005】
上述したように、包埋ブロックを作製するにあたり、包埋カセットを、生体試料に脱水、脱脂処理及び置換処理を施す際の容器として使用すると共に、包埋ブロックの固定台としても使用している。このように、包埋カセットを2つの場面で使用するのは、多数の生体試料を一度に処理する際に、生体試料同士の混同を防止するためである。特に、正確な実験や観察を行うためには、包埋ブロックの品質管理が重要であり、混同等に関しては特に注意が払われている。
【0006】
また、品質管理を正確に行うために、包埋カセットには、包埋ブロック内に包埋されている生体試料の種類等を認識するための識別コードが記録されるようになっている。この識別コードを記録する方法は、各種の方法があるが、その1つとしてインクジェットプリンタによって印字する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。この方法によれば、包埋カセットに対して任意のサイズの識別コードを明瞭且つ効率良く印字することができる。また、このときのインクとしては、包埋カセットが各種の薬剤にさらされることを考慮して、通常耐有機溶媒性のインクが用いられている。
【特許文献1】特開2002−365184号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の方法では、まだ以下の課題が残されていた。
即ち、包埋カセットに識別コードを印字する方法は、任意の大きさの文字等を簡単且つ明瞭に印字できる点では好ましいが、その反面、印字部分が強く擦れるとインクが剥がれてしまう恐れがあった。特に、耐有機溶媒性のインクを使用した場合には、インクが剥がれ易い。仮にインクが剥がれてしまうと、包埋ブロックの品質管理を正確に行うことができないので、致命的な問題となってしまうものであった。
また、従来の方法は、単に印字するだけであるので、包埋ブロックを作製中に印字面にパラフィンが付着してしまうと、印字された識別コードが見え難くなってしまう不都合があった。また、そのためにパラフィンを手作業で剥す手間が必要であった。更には、このパラフィンを剥す際に、識別コードが一緒に剥がれてしまう不都合もあった。
【0008】
本発明は、このような事情に考慮してなされたもので、その目的は、包埋カセットに貼り付けるだけでレーザ光を利用して識別コードを刻印することができ、剥がれ落ちを防止しながら、パラフィンの影響を受けることなく鮮明な識別コードの表示を行うことができる識別コード表示用テープを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記課題を解決するために以下の手段を提供する。
本発明の識別コード表示用テープは、着脱自在に固定されるカセット本体及び蓋部と、前記カセット本体の表面上に設けられた平坦面とを備え、生体試料のパラフィン置換処理を行うための容器として使用されると共に、パラフィン置換処理された前記生体試料が包埋剤に包埋された包埋ブロックを載置して、該包埋ブロックの載置台として使用される包埋カセットに貼着される識別コード表示用テープであって、前記カセット本体の色に対して少なくとも明度が異なる色のテープ本体と、該テープ本体の裏面上に塗布され、テープ本体を前記平坦面上に貼着させる接着層とを備え、前記テープ本体が、照射されたレーザ光に沿って削られることで識別コードを表示することを特徴とするものである。
【0010】
この発明に係る識別コード表示用テープにおいては、生体試料をパラフィン置換処理する際の容器として使用されると共に、パラフィン置換処理された生体試料を包埋剤に包埋して包埋ブロックを作製する際の該包埋ブロックの載置台として使用される包埋カセットに貼着して使用されるものである。まず、作業者は、包埋ブロックを作製する際に、本体カセットの平坦面に接着層を介してテープ本体を貼り付ける。これにより作業者は、テープ本体にレーザマーカ装置等によりレーザ光を照射して、生体試料に関する必要な情報(例えば、実験動物の種類、臓器の種類等)を識別コードとして刻印することができる。
【0011】
特に、従来のような単に識別コードを印字するだけの方法とは異なり、レーザ光を利用してテープ本体を削り、識別コードを刻印することができるので、包埋ブロックを作製する作業中に識別コードが擦れ等によって剥がれてしまうことがない。そのため、包埋ブロックの品質管理を正確に行うことができる。また、レーザ光を利用して識別コードを刻印できるので、短時間の作業で済む。そのため、作業効率を向上することができる。また、非接触で識別コードを刻印できるので、テープ本体の表面粗さに影響を受けることなく識別コードを表示することができる。そのため、過度の注意を払わずに識別コード表示用テープを作製することができる。
【0012】
また、テープ本体の色は、カセット本体の色に対して少なくとも明度が異なっている。そのため、テープ本体を削って刻印した識別コードを、背景色でもあるテープ本体の色とは異なる明度で表示することができる。よって、識別コードと背景色との明るさを変えることができ、明度差を利用して識別コードを表示することができる。例えば、黒に近い濃い緑色の背景色の中に、白に近い淡い緑色で識別コードを表示することができる。従って、コントラストを付けることができ、明瞭な視認性を確保することができる。
また、包埋ブロックを作製した途中でパラフィンがテープ本体上に多少残っていたとしても、上述したように識別コードと背景色との明度差を利用して高い視認性が確保されているので、従来のものに比較して識別コードを鮮明に見ることができる。そのため、パラフィンを手作業で削り落とす手間を省くこともでき、作業性を向上することができる。
【0013】
上述したように本発明に係る識別コード表示用テープによれば、包埋カセットに貼り付けるだけでレーザ光を利用して識別コードを刻印することができ、剥がれ落ちを防止しながら、パラフィンの影響を受けることなく鮮明な識別コードの表示を行うことができる。
【0014】
また、本発明の識別コード表示用テープは、上記本発明の識別コード表示用テープにおいて、前記テープ本体の色が、前記包埋カセットの色よりも低い明度であることを特徴とするものである。
【0015】
この発明に係る識別コード表示用テープにおいては、テープ本体の色が、カセット本体の色よりも低い明度、即ち黒に近い暗色となっている。そのため、暗色とされた背景色の中に、該背景色よりも明るい色で識別コードを表示することができる。よって、背景色と識別コードとの明度差をより明確につけることができ、視認性をより向上することができる。
また、テープ本体の色をカセット本体の色よりも暗色にできるので、刻印により表示された識別コード上に、仮に白色のパラフィンが付着してしまったとしても、該識別コードがより明るい淡色となりコントラストがつき易い。従って、視認性に何ら影響を与えることはない。
【0016】
また、本発明の識別コード表示用テープは、上記本発明の識別コード表示用テープにおいて、前記カセット本体が、JIS−Z8102で規定される明度(V)が6.5以上の色とされ、前記テープ本体が、JIS−Z8102で規定される明度(V)が6.0以下の色であることを特徴とするものである。
【0017】
この発明に係る識別コード表示用テープにおいては、テープ本体がJIS−Z8102で規定される明度(V)が6.0以下の色、例えば紅色、深緑、紺藍、紫紺、黒等の暗色となっている。また、カセット本体が、明度(V)が6.5以上の色、例えば桜色、肌色、緑、空色、白等の淡色となっている。このように、背景色をより暗い色で表示し、識別コードをより明るい色で表示できるので、明度対比の効果により識別コードの視認性をさらに高めることができる。特に、テープ本体の色を明度(V)が1.5の黒とし、カセット本体の色を明度(V)が9.5の白とすることが好ましい。
【0018】
また、本発明の識別コード表示用テープは、上記本発明のいずれかの識別コード表示用テープにおいて、前記テープ本体及び前記接着層が、耐キシレン性及び耐アルコール性を有する材料により形成されていることを特徴とするものである、
【0019】
この発明に係る識別コード表示用テープにおいては、テープ本体及び接着層が、耐キシレン性及び耐アルコール性を有する材料(例えば、ポリアセタール樹脂やフッ素樹脂)により形成されているので、生体試料をパラフィン置換する前段階でキシレンやアルコールを使用したとしても、これらの影響を受けることはない。よって、耐久性を向上することができると共に、鮮明な識別コードの表示を維持することができる。
【0020】
また、本発明の識別コード表示用テープは、上記本発明のいずれかの識別コード表示用テープにおいて、前記テープ本体が、5μm以上、500μm以下の厚みであることを特徴とするものである。
【0021】
この発明に係る識別コード表示用テープにおいては、テープ本体の厚みが5μm以上であるので十分な強度を確保することができ、識別コードをレーザ光で刻印する最中、或いは、識別コードを刻印した後に、テープ本体が剥がれてしまったり、欠けたりする恐れがない。よって、製品の信頼性を向上することができる。
また、テープ本体の厚みが、500μm以下であるので、市販されているレーザマーカ装置(例えば、炭酸ガスレーザマーカー装置)によるレーザ光で、容易且つ確実にテープ本体を削って識別コードを刻印することができる。また、仮に膜厚がこれより厚い場合には、幅が太くなり、刻印した際に字が潰れたり不鮮明になったりしてしまう。
【0022】
また、本発明の識別コード表示用テープは、上記本発明のいずれかの識別コード表示用テープにおいて、前記テープ本体が、表面が鏡面処理されていることを特徴とするものである。
【0023】
この発明に係る識別コード表示用テープにおいては、テープ本体の表面がシボ加工や艶だし処理等によって鏡面処理されているので、包埋ブロックを作製する最中に、表面にパラフィンが付着し難くなると共に、仮にパラフィンが付着したとしても容易にパラフィンを剥すことができる。
【0024】
また、本発明の識別コード表示用テープは、上記本発明のいずれかの識別コード表示用テープにおいて、前記テープ本体が、長尺な帯状に形成され、前記接着層を内側にしてロール状に巻かれていることを特徴とするものである。
【0025】
この発明に係る識別コード表示用テープにおいては、テープ本体が長尺な帯状に形成されてロール状に巻かれているので、使用しないときにコンパクトな状態で保存することができる。また、テープ本体が長尺であるので、必要な長さだけ引き出して切断することで、容易且つ確実に包埋カセットのサイズに合わせることができる。よって、使い易く、便利である。
【0026】
また、本発明の識別コード表示用テープは、上記本発明の識別コード表示用テープにおいて、前記テープ本体には、所定の長さ毎に切断用のミシン線が形成されていることを特徴とするものである。
【0027】
この発明に係る識別コード表示用テープにおいては、ミシン線に沿ってテープ本体を切断することで、誰でも容易且つ確実に同じ長さのテープ本体を得ることができる。しかも、ミシン線があるため、テープ本体をいびつな形ではなく、綺麗に切断することができる。従って、テープ本体を平坦面に貼着し易くなり、使い易さがさらに向上する。
【0028】
また、本発明の識別コード表示用テープは、上記本発明のいずれかの識別コード表示用テープにおいて、シート状に形成された剥離シートを備え、前記テープ本体が、所定の長さ毎に複数整列した状態で、前記接着層を介して前記剥離シートに剥離可能に貼着されていることを特徴とするものである。
【0029】
この発明に係る識別コード表示用テープにおいては、複数のテープ本体が、予め所定の長さに切断された状態でシート状に形成された剥離シートに整列して貼着されている。そのため作業者は、剥離シートからテープ本体を1枚剥して、カセット本体の平坦面に貼り付けることができる。このように誰でも簡単にシール感覚でテープ本体を貼着することができる。特に、テープ本体は予め所定の長さに切断されているので、使い易い。また、テープ本体の残り枚数を一目で確認できることからも、使い易さに優れている。
【発明の効果】
【0030】
本発明に係る識別コード表示用テープによれば、包埋カセットに貼り付けるだけでレーザ光を利用して識別コードを刻印することができ、剥がれ落ちを防止しながら、パラフィンの影響を受けることなく鮮明な識別コードの表示を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明に係る識別コード表示用テープの一実施形態を、図1から図15を参照して説明する。
初めに、生体試料Sを検査、観察する方法の1つとして、図1に示すように、包埋剤であるパラフィンPによって生体試料Sを包埋した包埋ブロックBを、厚さ3μmから5μmの極薄に薄切して薄切片を作製し、該薄切片をスライドガラス等の基板上に固定した薄切片標本を利用する方法が知られている。
本発明に係る識別コード表示用テープ1は、この包埋ブロックBを作製するにあたり、生体試料Sのパラフィン置換処理を行うための容器として使用されると共に、包埋ブロックBを載置する載置台として使用される包埋カセット10に貼着されて使用されるものである。
【0032】
なお、生体試料Sとしては、例えば、人体や実験動物等から取り出した臓器等の組織であり、医療分野、製薬分野、食品分野、生物分野等で適時選択させるものである。また、脱水及び脱脂処理した後、パラフィン置換処理されたものが使用される。
【0033】
本実施形態の識別コード表示用テープ1は、図2(a)、(b)に示すように、テープ本体2と、該テープ本体2の裏面上に塗布され、テープ本体2を後述するカセット本体11の平坦面11b上に貼着させる接着層3とを備えている。
このテープ本体2は、長尺な帯状に形成され、接着層3を内側にしてロール状に巻かれている。この際、テープ本体2には、所定の長さL毎に切断用のミシン線Mが形成されている。なお、本実施形態では、平坦面11bの長さと略同じ長さL毎にミシン線Mが形成されている。そして、このテープ本体2は、図示しないレーザマーカ装置等から照射されたレーザ光Lに沿って削られることで、識別コードCを表示するようになっている。これについては、後に詳細に説明する。
【0034】
また、テープ本体2は、カセット本体11の色に対して少なくとも明度が異なる色とされている。本実施形態では、テープ本体2の色の方がカセット本体11の色よりも低い明度になっている。具体的には、テープ本体2が、JIS−Z8102で規定される明度(V)が6.0以下の色である深緑(V=3.0)であり、後述するカセット本体11及び蓋部12が、JIS−Z8102で規定される明度(V)が6.5以上の色である緑(V=6.0)となっている。
【0035】
また、テープ本体2は、耐キシレン性、耐アルコール性に優れたポリアセタール樹脂やフッ素樹脂等から形成されている。更にテープ本体2は、厚さ5μm以上、500μm以下の範囲内に収まるように厚さ調整されている。
上記接着層3は、テープ本体2と同様に、耐キシレン性、耐アルコール性に優れたエポキシ樹脂系の材料(例えば、住友スリーエム社の熱硬化性薄膜フィルム接着剤)から形成されており、テープ本体2の裏面全体に塗布されている。この接着剤は、100℃から130℃で硬化し、カセット本体11とテープ本体(ポリアセタールTm=165℃〜170℃)を融解させることなく、しっかりと固定できるものである。
【0036】
次に、包埋カセット10について説明する。
本実施形態で使用する包埋カセット10は、図3及び図4に示すように、生体試料Sを収容する収容凹部15が開口して形成されたカセット本体11と、該カセット本体11に対して着脱自在に固定され、収容凹部15を閉塞する蓋部12とを備えている。これらカセット本体11及び蓋部12は、耐キシレン性、耐アルコール性に優れたポリアセタールやフッ素樹脂等から形成されている。
【0037】
カセット本体11は、図5及び図6に示すように、上面視矩形状に形成されており、上面部分が収容凹部15の開口となっている。また、底面11aには、複数の貫通孔16がアレイ状に形成されており、該貫通孔16を介して収容凹部15の内部と外部とが連通するようになっている。また、本実施形態のカセット本体11の一端側には、表面が平らに形成された平坦面11bが形成されている。なお、この平坦面11bは、カセット本体11の底面11aに対して所定の角度θが付いた斜面となっている。
【0038】
また、収容凹部15を囲む側壁部11cのうち、平坦面11bに隣接する部分には後述する蓋部12の係合片21が挿入される挿入孔17が形成されている。また、側壁部11cのうち、収容凹部15を間に挟んで挿入孔17に対向する側には、後述する蓋部12の係合爪22が係合する突起部18が形成されている。
【0039】
上記蓋部12は、図7及び図8に示すように、上面視矩形状に形成された板状の部材であり、カセット本体11の収容凹部15の側壁部11cを完全に覆うサイズに形成されている。また、蓋部12の下面には、矩形状に囲まれた段部12aが形成されている。この段部12aは、カセット本体11の側壁部11cに当接しながら収容凹部15内に入り込むサイズに形成されたものである。これにより、蓋部12をカセット本体11に重ねたときに、段部12aが収容凹部15内に入り込むので、蓋部12が水平方向に位置ずれしないようになっている。
また、この段部12aに囲まれた領域内には、カセット本体11と同様に複数の貫通孔20がアレイ状に形成されている。これにより、蓋部12をカセット本体11に重ねたときに、蓋部12側の貫通孔20を介して収容凹部15の内部と外部とが連通するようになっている。
【0040】
また、蓋部12の下面には、上述したカセット本体11の挿入孔17内に挿入される係合片21と、カセット本体11の突起部18に係合する係合爪22とが形成されている。係合片21は、カセット本体11の底面11aと平坦面11bとのなす角度θと略同じ角度で一端側から突出するように形成されており、挿入孔17内に挿入された後、平坦面11bの裏面側に面接触して蓋部12を位置決めするようになっている。また、係合爪22は、蓋部12の下面に対して略直交する方向に突出するように形成され、先端が鉤状になって突起部18に引っ掛かって係合するようになっている。
このように蓋部12は、段部12a及び係合片21によってカセット本体11に対して所定の位置に重ね合わされると共に、係合爪22を突起部18に係合することによって、カセット本体11に対して装着されるようになっている。
【0041】
次に、上述した識別コード表示用テープ1及び包埋カセット10を利用して包埋ブロックBを作製する場合について、説明する。
始めに作業者は、ホルマリン固定された生体試料Sを準備すると共に、該生体試料Sを収容するための図3及び図4に示す包埋カセット10を準備する。次に、作業者は、カセット本体11の平坦面11bに識別コード表示用テープ1を貼着する。即ち、図2に示すロール状に巻かれたテープ本体2を引き出すと共に、該テープ本体2をミシン線Mに沿って切断する。これにより、カセット本体11の平坦面11bの長さと略同じ長さLのテープ本体2を得ることができる。そして、図9に示すように、テープ本体2をカセット本体11の平坦面11bに接着層3を介して100℃から130℃に加熱して貼着する。
【0042】
次に、作業者は、生体試料Sに関する必要な情報、例えば、実験動物の種類、臓器の種類等を予め識別コードCとして包埋カセット10に表示する作業を行う。具体的には、図10に示すように、市販されているレーザマーカ装置等を利用して、レーザ光Lを先ほど貼着したテープ本体2に照射する。すると、テープ本体2は、このレーザ光Lに沿って削り取られる。これにより、図11に示すように、包埋カセット10に対して、必要な情報を識別コードC(ABC20060423−A1201)として刻印することができる。
【0043】
識別コードCを刻印した後、カセット本体11から蓋部12を取り外す。次いで、刻印した識別コードCに該当する生体試料Sを適当な大きさに切断した後、カセット本体11の収容凹部15内に生体試料Sを収容する。そして収容した後、蓋部12をカセット本体11に装着して生体試料Sを内部に閉じ込める。つまり、蓋部12の係合片21をカセット本体11の挿入孔17に入れた状態で、蓋部12をカセット本体11に徐々に重ね合わせる。すると、係合片21側から徐々に蓋部12の段部12aがカセット本体11の収容凹部15内に入り込み始める。これにより、蓋部12が位置決めされるので、カセット本体11に対して蓋部12を正確に重ね合わせることができる。そして、最後に蓋部12の係合爪22をカセット本体11の突起部18に嵌め込むことで、蓋部12をカセット本体11に対して確実に装着することができ、収容凹部15の開口を閉塞することができる。
【0044】
生体試料Sを閉じ込めた後、生体試料Sのパラフィン置換処理を行う。まず、図12に示すように、薬剤Wとしてアルコールw1が満たされたパレット30内に、包埋カセット10を浸漬する。この際、収容凹部15の内部は、カセット本体11及び蓋部12にそれぞれ形成されている貫通孔16、20を介して外部に連通しているので、アルコールw1が収容凹部15内に流入する。そのため、生体試料Sは、内部の水分や脂質がアルコールw1で置換、即ち、脱水処理、脱脂処理される。
【0045】
次いで、パレット30内の薬剤Wをキシレンw2に入れ替える。これにより、先ほど置換したアルコールw1を、キシレンw2に置換する。そして、最後にパレット30内の薬剤Wを液状のパラフィンPに入れ換えて、先ほど置換したキシレンw2を、パラフィンPに置換する。これにより、水分や脂質がパラフィン置換処理された生体試料Sを作製することができる。
【0046】
このパラフィン置換処理作業が終了した後、図13に示すように、カセット本体11から蓋部12を取り外しておく。また、液状のパラフィンPが満たされた段部31aを有する包埋皿31を用意しておく。そして、カセット本体11の収容凹部15内から生体試料Sを取り出すと共に、取り出した生体試料Sを包埋皿31内に収容してパラフィンPに浸漬させる。また、これと同時に図14に示すように、空になったカセット本体11を包埋皿31の段部31aに載置して包埋皿31に蓋をする。この際、カセット本体11の収容凹部15内にもパラフィンPが入り込むように、パラフィンPの量が調整されている。この状態で、包埋皿31を冷却してパラフィンPを冷却固化させる。
【0047】
これにより、生体試料Sが包埋された包埋ブロックBを作製することができる。この際、包埋ブロックBは、カセット本体11の底面11aにくっ付いて繋がった状態となっている。そして、最後に図15に示すように、底面11aに包埋ブロックBが繋がったカセット本体11を包埋皿31から取り外して裏返しにする。その結果、カセット本体11の底面11a上に固体された包埋ブロックBを得ることができる。
【0048】
上述したように、包埋ブロックBを作製するにあたり、包埋カセット10を、生体試料Sのパラフィン置換処理を行うための容器として使用すると共に、包埋ブロックBの載置台として使用している。このように包埋カセット10を2つの場面で使用しているので、多数の生体試料Sを一度に処理したとしても、生体試料S同士の混同を防止することができる。しかも、カセット本体11に貼着されたテープ本体2を使用して、生体試料Sに関する識別コードCを表示できるので、品質管理を正確に行うことができる。
【0049】
特に、従来のような単に識別コードCを印字するだけの方法とは異なり、レーザ光Lを利用してテープ本体2を削り、識別コードCを刻印することができるので、包埋ブロックBを作製する作業中に識別コードCが擦れ等によって剥がれてしまうことがない。そのため、包埋ブロックBの品質管理を常に正確に行うことができる。
また、レーザ光Lを利用して識別コードCを刻印できるので、短時間の作業で済む。そのため、作業効率を向上することができる。また、非接触で識別コードCを刻印できるので、テープ本体2の表面粗さに影響を受けることなく識別コードCを表示することができる。そのため、過度の注意を払わずにテープ本体2を作製することができる。
【0050】
また、テープ本体2の色は、カセット本体11の色に対して少なくとも明度が異なっているので、テープ本体2を削って刻印した識別コードCを、背景色でもあるテープ本体2の色とは異なる明度で表示することができる。よって、識別コードCと背景色との明るさを変えることができ、明度差を利用して識別コードCを表示することができる。従って、コントラストを付けることができ、明瞭な視認性を確保することができる。
特に、本実施形態の場合には、テープ本体2の色が深緑であり、カセット本体11の色が緑である。つまり、テープ本体2の色の方が、カセット本体11の色よりも黒に近い暗色となっている。そのため、暗色とされた背景色の中に、該背景色よりも明るい色で識別コードCを表示することができる。よって、背景色と識別コードCとの明度差を明確につけることができ、視認性をより向上することができる。しかも、深緑は明度(V)が3.0であり、緑は明度(V)が6.5であるので、明度対比の効果によりコントラストがよりはっきりしている。よって、識別コードCをより鮮明に表示することができ見易い。
【0051】
また、包埋ブロックBを作製した途中でパラフィンPがテープ本体2上に多少残っていたとしても、上述したように識別コードCの色と背景色の色との明度差を利用して高い視認性が確保されているので、従来のものに比較して識別コードCを鮮明に見ることができる。そのため、パラフィンPを手作業で削り落とす作業を省くこともでき、作業性を向上することができる。また仮にパラフィンPを削り落としたとしても、刻印によって識別コードCが表示されているので、従来のように識別コードCが剥がれてしまうことがない。
更に、刻印により表示されている識別コードCに、仮に白色のパラフィンPが付着してしまったとしても、該識別コードCがより明るい淡色になるので、コントラストがさらにつき易い。そのため、視認性に何ら影響を与えることがない。
【0052】
また、本実施形態のテープ本体2及び接着層3は、耐キシレン性、耐アルコール性を有する材料により形成されているので、パラフィン置換処理する際に使用したキシレンやアルコールの影響を何ら受けることがない。よって、耐久性を向上することができると共に、鮮明な識別コードCの表示を維持することができる。
【0053】
また、本実施形態のテープ本体2は、厚みが5μm以上であるので十分な強度を確保することができ、識別コードCをレーザ光Lで刻印する最中、或いは、識別コードCを刻印した後に、テープ本体2が剥がれてしまったり、欠けたりする恐れがない。よって、製品の信頼性を向上することができる。更には、テープ本体2は厚みが500μm以下であるので、市販されているレーザマーカ装置(例えば、炭酸ガスレーザマーカ装置)によるレーザ光Lで、容易且つ確実にテープ本体2を削って識別コードCを刻印することができる。また、仮に膜厚がこれより厚い場合には、幅が太くなり、刻印した際に字が潰れたり不鮮明になったりしてしまう。
【0054】
また、本実施形態のテープ本体2には、ミシン線Mが形成されているので、該ミシン線Mに沿ってテープ本体2を切断することで、誰でも容易且つ確実に同じ長さのテープ本体2を得ることができる。しかもミシン線Mがあるため、テープ本体2をいびつな形ではなく、綺麗に切断することができる。従って、テープ本体2を貼着し易くなり、使い易さがさらに向上する。更に、テープ本体2がロール状に巻かれているので、使用しないときにコンパクトな状態で保存することができる。
【0055】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0056】
例えば、上記実施形態において、テープ本体2の表面をシボ加工や艶だし処理等によって鏡面処理しても構わない。こうすることで、包埋ブロックBを作製する最中に表面にパラフィンPが付着し難くなると共に、仮にパラフィンPが付着したとしても、容易にパラフィンPを剥すことができる。
【0057】
また、上記実施形態では、テープ本体2を深緑とし、カセット本体11を緑としたが、この色の組み合わせに限定されるものではない。少なくとも明度が異なる色であれば、自由に選択して構わない。但し、好ましくは、JIS−Z8102で規定される明度(V)が6.0以下の色をテープ本体2に選択し、明度(V)が6.5以上の色をカセット本体11の色に選択すると良い。その中でも、より好ましくは、テープ本体2の色を明度(V)が1.5の黒とし、カセット本体11の色を明度(V)が9.5の白とすることが好ましい。
【0058】
また、上記実施形態では、平坦面11bが斜面となっていたが、この場合に限られず、カセット本体11の表面上に形成されていれば斜面でなくても構わないし、どの位置であっても構わない。
【0059】
また、上記実施形態では、テープ本体2をロール状に巻いた例を説明したが、この場合に限られるものではない。
例えば、図16に示すように、識別コード表示用テープ1が、シート状に形成された剥離シート40を備え、テープ本体2が所定の長さL毎に複数整列した状態で、接着層3を介してこの剥離シート40に剥離可能に貼着されていても構わない。
このように構成された識別コード表示用テープ1を利用する場合には、作業者は剥離シート40からテープ本体2を1枚剥して、カセット本体11の平坦面11bに貼り付けることができる。このように誰でも簡単にシール感覚でテープ本体2を貼着することができる。特に、テープ本体2が予め所定の長さLに切断されているので、使い易い。また、テープ本体2の残り枚数を一目で確認できることからも、使い易さに優れている。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明に係る識別コード表示用テープ及び包埋カセットを利用して作製される包埋ブロックの斜視図である。
【図2】本発明に係る識別コード表示用テープの一実施例を示す図であって、(a)は斜視図であり、(b)は(a)のA−A断面図である。
【図3】図2に示す識別コード表示用テープを貼着する包埋カセットの一実施例を示す上面図である。
【図4】図3に示す包埋カセットの断面図である。
【図5】図3に示す包埋カセットを構成するカセット本体の上面図である。
【図6】図5に示すカセット本体のD−D断面図である。
【図7】図3に示す包埋カセットを構成する蓋部の上面図である。
【図8】図7に示す蓋部のE−E断面図である。
【図9】図2に示す識別コード表示用テープを、カセット本体の平坦面に貼着している状態を示す図である。
【図10】貼着した識別コード表示用テープのテープ本体にレーザ光を照射して削り、識別コードを刻印している状態を示す図である。
【図11】刻印された識別コードの一例を示した図である。
【図12】識別コードが刻印された包埋カセットを利用して包埋ブロックを作製する際の一工程図であって、包埋カセット内に生体試料を収容した後、該包埋カセットを薬剤が満たされたパレット内に収容した状態である。
【図13】識別コードが刻印された包埋カセットを利用して包埋ブロックを作製する際の一工程図であって、図12に示す状態の後、パラフィン置換処理された生体試料をカセット本体から取り出して、液状のパラフィンが満たされた包埋皿の中に移し変えている状態を示す図である。
【図14】識別コードが刻印された包埋カセットを利用して包埋ブロックを作製する際の一工程図であって、図13に示す状態の後、空になったカセット本体を包埋皿の段部上に載置した状態を示す図である。
【図15】識別コードが刻印された包埋カセットを利用して包埋ブロックを作製する際の一工程図であって、図14に示す状態の後、パラフィンを固化させて包埋ブロックを作製し、その後、カセット本体を包埋皿から取り出した状態を示す図である。
【図16】本発明に係る識別コード表示用テープの他の例を示した図である。
【符号の説明】
【0061】
B 包埋ブロック
C 識別コード
L レーザ光
M ミシン線
P パラフィン(包埋剤)
S 生体試料
1 識別コード表示用テープ
2 テープ本体
3 接着層
10 包埋カセット
11 カセット本体
11b カセット本体の平坦面
12 蓋部
40 剥離シート
【特許請求の範囲】
【請求項1】
着脱自在に固定されるカセット本体及び蓋部と、前記カセット本体の表面上に設けられた平坦面とを備え、生体試料のパラフィン置換処理を行うための容器として使用されると共に、パラフィン置換処理された前記生体試料が包埋剤に包埋された包埋ブロックを載置して、該包埋ブロックの載置台として使用される包埋カセットに貼着される識別コード表示用テープであって、
前記カセット本体の色に対して少なくとも明度が異なる色のテープ本体と、
該テープ本体の裏面上に塗布され、テープ本体を前記平坦面上に貼着させる接着層とを備え、
前記テープ本体は、照射されたレーザ光に沿って削られることで識別コードを表示することを特徴とする識別コード表示用テープ。
【請求項2】
請求項1に記載の識別コード表示用テープにおいて、
前記テープ本体の色は、前記包埋カセットの色よりも低い明度であることを特徴とする識別コード表示用テープ。
【請求項3】
請求項2に記載の識別コード表示用テープにおいて、
前記カセット本体は、JIS−Z8102で規定される明度(V)が6.5以上の色とされ、
前記テープ本体は、JIS−Z8102で規定される明度(V)が6.0以下の色であることを特徴とする識別コード表示用テープ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の識別コード表示用テープにおいて、
前記テープ本体及び前記接着層は、耐キシレン性及び耐アルコール性を有する材料により形成されていることを特徴とする識別コード表示用テープ。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の識別コード表示用テープにおいて、
前記テープ本体は、5μm以上、500μm以下の厚みであることを特徴とする識別コード表示用テープ。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の識別コード表示用テープにおいて、
前記テープ本体は、表面が鏡面処理されていることを特徴とする識別コード表示用テープ。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の識別コード表示用テープにおいて、
前記テープ本体は、長尺な帯状に形成され、前記接着層を内側にしてロール状に巻かれていることを特徴とする識別コード表示用テープ。
【請求項8】
請求項7に記載の識別コード表示用テープにおいて、
前記テープ本体には、所定の長さ毎に切断用のミシン線が形成されていることを特徴とする識別コード表示用テープ。
【請求項9】
請求項1から6のいずれか1項に記載の識別コード表示用テープにおいて、
シート状に形成された剥離シートを備え、
前記テープ本体は、所定の長さ毎に複数整列した状態で、前記接着層を介して前記剥離シートに剥離可能に貼着されていることを特徴とする識別コード表示用テープ。
【請求項1】
着脱自在に固定されるカセット本体及び蓋部と、前記カセット本体の表面上に設けられた平坦面とを備え、生体試料のパラフィン置換処理を行うための容器として使用されると共に、パラフィン置換処理された前記生体試料が包埋剤に包埋された包埋ブロックを載置して、該包埋ブロックの載置台として使用される包埋カセットに貼着される識別コード表示用テープであって、
前記カセット本体の色に対して少なくとも明度が異なる色のテープ本体と、
該テープ本体の裏面上に塗布され、テープ本体を前記平坦面上に貼着させる接着層とを備え、
前記テープ本体は、照射されたレーザ光に沿って削られることで識別コードを表示することを特徴とする識別コード表示用テープ。
【請求項2】
請求項1に記載の識別コード表示用テープにおいて、
前記テープ本体の色は、前記包埋カセットの色よりも低い明度であることを特徴とする識別コード表示用テープ。
【請求項3】
請求項2に記載の識別コード表示用テープにおいて、
前記カセット本体は、JIS−Z8102で規定される明度(V)が6.5以上の色とされ、
前記テープ本体は、JIS−Z8102で規定される明度(V)が6.0以下の色であることを特徴とする識別コード表示用テープ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の識別コード表示用テープにおいて、
前記テープ本体及び前記接着層は、耐キシレン性及び耐アルコール性を有する材料により形成されていることを特徴とする識別コード表示用テープ。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の識別コード表示用テープにおいて、
前記テープ本体は、5μm以上、500μm以下の厚みであることを特徴とする識別コード表示用テープ。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の識別コード表示用テープにおいて、
前記テープ本体は、表面が鏡面処理されていることを特徴とする識別コード表示用テープ。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の識別コード表示用テープにおいて、
前記テープ本体は、長尺な帯状に形成され、前記接着層を内側にしてロール状に巻かれていることを特徴とする識別コード表示用テープ。
【請求項8】
請求項7に記載の識別コード表示用テープにおいて、
前記テープ本体には、所定の長さ毎に切断用のミシン線が形成されていることを特徴とする識別コード表示用テープ。
【請求項9】
請求項1から6のいずれか1項に記載の識別コード表示用テープにおいて、
シート状に形成された剥離シートを備え、
前記テープ本体は、所定の長さ毎に複数整列した状態で、前記接着層を介して前記剥離シートに剥離可能に貼着されていることを特徴とする識別コード表示用テープ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
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【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2008−26054(P2008−26054A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−196632(P2006−196632)
【出願日】平成18年7月19日(2006.7.19)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月19日(2006.7.19)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】
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