識別媒体およびその識別方法
【課題】高い識別機能および高い耐偽造性を有し、更に低コストで得られる識別媒体を提供する。
【解決手段】観察する側から、第1の部分111と第2の部分112とが周期的に繰り返されたパターンを有する偏光層101と、画像が形成された画像形成層102とを順に備え、第1の部分111は、観察する側に向かって右円偏光を選択的に透過し、第2の部分112は、観察する側に向かって左円偏光を選択的に透過する。また、画像形成層102は、第1の部分111に対応した複数の細長い領域により構成される右目用のホログラム131と、第2の部分112に対応した複数の細長い部分により構成される左目用のホログラム132とを有している。
【解決手段】観察する側から、第1の部分111と第2の部分112とが周期的に繰り返されたパターンを有する偏光層101と、画像が形成された画像形成層102とを順に備え、第1の部分111は、観察する側に向かって右円偏光を選択的に透過し、第2の部分112は、観察する側に向かって左円偏光を選択的に透過する。また、画像形成層102は、第1の部分111に対応した複数の細長い領域により構成される右目用のホログラム131と、第2の部分112に対応した複数の細長い部分により構成される左目用のホログラム132とを有している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、識別媒体およびその識別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
商品等の真贋判定に利用される識別媒体において、立体像を識別に利用する技術が知られている。例えば、特許文献1には、偏光方向の異なる2つの図柄に視差を与え、方向の異なる偏光めがねを介して観察することで、立体像を見ることができる識別媒体が記載されている。引用文献2には、ホログラムを利用して立体像を表示する識別媒体が記載されている。引用文献3には、左右で異なる円偏光を反射するコレステリック液晶層を積層し、それぞれのコレステリック液晶層のパターンを左目用と右目用とする識別媒体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−80697号公報
【特許文献2】特開平5−2148号公報
【特許文献3】特開2000−255200号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された技術は、顔を傾けると画像の分離が不完全になり見え方が明確でなくなり、識別機能の点で充分でない。特許文献2に記載された技術は、ホログラムにより左右の像を形成する構成であるので、ホログラムを物理的にコピーすることによる偽造が容易であり、耐偽造性が低い。また左右の画像を完全に分離できず、見え方が不明確となる。特許文献3に記載された技術は、コレステリック液晶層が2層必要であるので、構造が複雑で高コストとなる。
【0005】
このような背景において、本発明は、高い識別機能および高い耐偽造性を有し、更に低コストで得られる識別媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、観察する側から、第1の部分と第2の部分とが周期的に繰り返されたパターンを有する偏光層と、画像が形成された画像形成層とを順に備え、前記第1の部分は、観察する側に向かって特定の第1の偏光状態の光を選択的に透過し、前記第2の部分は、観察する側に向かって前記特定の第1の偏光状態とは異なる特定の第2の偏光状態の光を選択的に透過する光学特性を有し、前記画像形成層は、前記第1の部分に対応した複数の第1の領域と前記第2の部分に対応した複数の第2の領域とを有し、前記複数の第1の領域により一方の目用の画像が構成され、前記複数の第2の領域により他方の目用の画像が構成されていることを特徴とする識別媒体である。
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、画像形成層の第1の領域からの一方の目用の画像の反射光が、偏光層の第1の部分を特定の第1の偏光状態の光として透過し、それが観察者に届く。一方、画像形成層の第2の領域からの他方の目用の画像の反射光が、偏光層の第2の部分を特定の第2の偏光状態の光として透過し、それが観察者に届く。
【0008】
ここで、観察者の側において、一方の目の前に第1の偏光状態の光を選択的に透過する光学フィルタを配置し、他方の目の前に第2の偏光状態の光を選択的に透過する光学フィルタを配置した状態で当該識別媒体を観察すると、一方の目が第1の領域を選択的に視認し、他方の目が第2の領域を選択的に視認する。
【0009】
第1の領域は一方の目用の画像を構成し、第2の領域は他方の目用の画像を構成しているので、上記の作用の結果、一方の目がその目用の画像を選択的に視認し、他方の目がその目用の画像を選択的に視認する。これにより、立体画像の視認が行われる。つまり、右目が右目用の画像を選択的に視認し、左目が左目用の画像を選択的に視認し、それにより立体画像が認識される。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記第1の部分は、観察する側に向かって第1の旋回方向の円偏光を選択的に透過する光学特性を有し、前記第2の部分は、観察する側に向かって前記第1の旋回方向と逆旋回方向の第2の旋回方向の円偏光を選択的に透過する光学特性を有していることを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の発明では、例えば右目の前に右円偏光(右旋回の円偏光)を選択的に透過する光学フィルタ(右円偏光フィルタ)を配置し、左目の目に左円偏光(左旋回の円偏光)を選択的に透過する光学フィルタ(左円偏光フィルタ)を配置した状態で当該識別媒体を観察する。この場合、右目が右円偏光を選択的に視認し、左目が左円偏光を選択的に視認するので、例えば右目が第1の領域を選択的に視認し、左目が第2の領域を選択的に視認し、立体画像が観察される。なお、右円偏光に右目用の画像を割り当て、左円偏光に左目用の画像を割り当てる第1の組み合わせと、右円偏光に左目用の画像を割り当て、左円偏光に右目用の画像を割り当てる第2の組み合わせのいずれもが可能である。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記第1の部分は、観察する側に向かって第1の方向に偏光した第1の直線偏光を選択的に透過する光学特性を有し、前記第2の部分は、観察する側に向かって前記第1の方向と直交する方向に偏光した第2の直線偏光を選択的に透過する光学特性を有していることを特徴とする。
【0013】
請求項3に記載の発明では、例えば右目の前に第1の直線偏光を選択的に透過する直線偏光フィルタを配置し、左目の前に第1の直線偏光と直交する方向に偏光した第2の直線偏光を選択的に透過する直線偏光フィルタを配置した状態で当該識別媒体を観察する。この場合、例えば右目が第1の直線偏光を選択的に視認し、左目が第2の直線偏光を選択的に視認するので、右目が第1の領域を選択的に視認し、左目が第2の領域を選択的に視認し、立画画像が観察される。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の発明において、前記一方の目用の画像と前記他方の目用の画像とがホログラム像であり、前記ホログラム像は、見る角度に応じて複数が用意されていることを特徴とする。
【0015】
請求項4に記載の発明において、見る角度は、当該識別媒体の光軸と視線のなす角度として定義される。請求項4に記載の発明では、複数の見る角度に応じて、異なる干渉像が得られるように画像形成層にホログラム加工が施される。これにより、見る角度を変えると、異なるホログラム像が観察される。ここで、見る角度毎に用意されたホログラム像を立体物の異なる視点からの像に対応させることで、見る角度を変えた際に視点を変えて立体物を見た場合と同様の観察像が得られる。なお、見る角度を変えた際に、異なる像への切り替わり(例えば、立体視される文字画像の切り替わり)を行うこともできる。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の発明において、特定の光が照射されることで蛍光する蛍光層を更に備えることを特徴とする。請求項5に記載の発明によれば、特定波長が当たる環境下において、蛍光色に着色された立体画像を観察することができる。
【0017】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載の発明において、前記一方の目用の画像と前記他方の目用の画像が特定の光が照射されることで蛍光する蛍光材料により形成されていることを特徴とする。請求項6に記載の発明によれば、特定波長が当たる環境下において、蛍光色に着色された立体画像を観察することができる。
【0018】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれか一項に記載の識別媒体を前記第1の偏光状態の光を選択的に透過する光学フィルタを介して一方の目で観察すると共に前記第2の偏光状態の光を選択的に透過する光学フィルタを介して他方の目で観察することを特徴とする識別媒体の識別方法である。
【発明の効果】
【0019】
請求項1に記載の発明によれば、偏光状態の違いを利用して左右の画像が分離され、更に、繰り返しパターンにより左右の像を形成するので、視覚効果に優れた高い識別機能が得られる。また、左右の画像の位置合わせにノウハウが必要であるので、立体画像の再現が困難であり、高い耐偽造性が得られる。また、左右の画像は、一つの層に形成されるので、構成が簡素化され低コストで得ることができる。
【0020】
請求項2に記載の発明によれば、左右の円偏光を利用して左右の像を分離するので、鮮明な立体画像を観察することができる。
【0021】
請求項3に記載の発明によれば、直交する直線偏光を利用して左右の像を分離するので、鮮明な立体画像を観察することができる。
【0022】
請求項4に記載の発明によれば、ホログラム像を利用することで、見る角度を変えた場合に視点を変えて立体物の観察を行った場合と同様の観察が行える光学機能が得られる。
【0023】
請求項5に記載の発明によれば、紫外光等の特定の波長の光が当たる環境下において、立体画像が着色して見える光学効果が得られる。
【0024】
請求項6に記載の発明によれば、紫外光等の特定の波長の光を当たる環境下において、立体像が着色して見える光学効果が得られる。
【0025】
請求項7に記載の発明によれば、請求項1〜7のいずれか一項に記載の識別媒体を利用した立体画像による識別の方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施形態の断面概念図である。
【図2】実施形態の偏光層の断面概念図(A)と正面概念図(B)である。
【図3】実施形態の画像形成層の正面概念図である。
【図4】実施形態の識別媒体の光学機能の原理を示す原理図である。
【図5】実施形態における観察される立体像を示す概念図である。
【図6】実施形態の断面概念図である。
【図7】実施形態の断面概念図である。
【図8】実施形態の断面概念図である。
【図9】実施形態の断面概念図である。
【図10】実施形態の識別媒体の光学機能の原理を示す原理図である。
【図11】実施形態の断面概念図である。
【図12】実施形態における観察される立体像と視点の位置関係を示す概念図である。
【図13】実施形態における観察される立体像を示す概念図である。
【図14】実施形態の識別媒体の光学機能の原理を示す原理図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(1)第1の実施形態
図1には、識別媒体100が示されている。識別媒体100は、観察する側(図の上側)から、偏光層101、画像形成層102、アルミ蒸着層103、粘着層104と積層された構造とされている。偏光層101は、第1の部分111と第2の部分112とが周期的に繰り返されたパターンを有している。
【0028】
図2には、偏光層101の断面図(A)と正面図(B)が示されている。図2(A)には、偏光層101が観察する側からλ/4板121、直線偏光層122と順に積層された構造であることが概念的に示されている。図2(B)には、透明なλ/4板121を介して、第1の部分111と第2の部分112が見えている状態が概念的に示されている。
【0029】
直線偏光層122は、観察面側に向かって(図の上方向に向かって)右旋回の円偏光(右円偏光)偏光を選択的に透過する第1の部分111と、観察面側に向かって左旋回の円偏光(左円偏光)偏光を選択的に透過する第2の部分112が繰り返し交互に配置されたストライプ状のパターン構造を有している。ここで、第1の部分111、第2の部分112の幅は、0.05mmとされている。この幅は、0.1mm以下が望ましい。
【0030】
第1の部分111に対応する直線偏光層122の領域は、第1の直線偏光領域123とされている。また、第2の部分112に対応する直線偏光層122の領域は、第2の直線偏光領域124とされている。また、第1の直線偏光領域123と第2の直線偏光領域124は、互いに偏光の方向が90°異なる直線偏光を選択的に透過する直線偏光フィルタ特性の領域とされている。
【0031】
この直線偏光層122の光学特性とλ/4板の光学特性が組み合わされることで、観察面側(図の上側)に透過する光で考えて、第1の部分111の縞状の領域が右円偏光を選択的に透過し、第2の部分112の縞状の領域が左円偏光を選択的に透過する光学特性領域となる。つまり、第1の部分111の縞状の領域が右円偏光を選択的に透過する右円偏光フィルタ特性の領域とされ、第2の部分112の縞状の領域が左円偏光を選択的に透過する左円偏光フィルタ特性の領域とされている。
【0032】
以下、第1の部分111および第2の部分112を得る方法の一例を説明する。まず、光学異方性(屈性率異方性)を有した層を用意し、これをλ/4板121とする。λ/4板121は、例えば液晶材料により構成される。λ/4板121を得る方法としては、例えば後述する特開2009−175208号公報に記載した技術を利用することができる。また、λ/4板121を得る方法として、PC(ポリカーボネート)樹脂などを延伸し、位相差を付加する方法が挙げられる。
【0033】
次にλ/4板上に2色性色素を各領域で塗り分け、第1の直線偏光領域123および第2の直線偏光領域124を形成する。すなわち、ストライプ状のマスクを用意し、第2の直線偏光領域124となる部分をマスクした状態で第1の直線偏光領域123を2色性色素の印刷(あるいは刷毛塗り)により形成する。この際、色素の載せ方により、色素の配向方向が定まり、特定の偏光を透過する偏光フィルタとしての機能が付与された第1の直線偏光領域123が形成される。
【0034】
次に、第1の直線偏光領域123をマスクした状態で、同じく第2の直線偏光領域124を形成する。この際、第1の直線偏光領域123を選択透過する直線偏光と偏光方向が90°異なる向きとなるように、2色性色素の配向方向を調整する。こうして、第1の直線偏光領域123を選択透過する直線偏光と偏光方向が90°異なる方向の直線偏光を選択的に透過する第2の直線偏光領域124を得る。なお、2色性色素の他に、リオトロピック液晶を利用して第1の直線偏光領域123と第2の直線偏光領域124を形成することもできる。
【0035】
第1の直線偏光領域123および第2の直線偏光領域124を得る他の方法としては、直線偏光フィルタとして機能するフィルムを細く切断し、それを隣接する領域で偏光方向が90°異なるように交互に配置する方法が挙げられる。また、光の照射で配向する方向を制御できる高分子材料の層にストライプ状に光照射を選択的に行い、第1の直線偏光領域123および第2の直線偏光領域124を得る方法もある。
【0036】
また、偏光層101として、直線偏光板を基材として、その表面(観察される側の面の表面)に、ストライプ状に交互に遅相軸の向きが90°異なるλ/4板パターンを有した層を配置した構造も可能である。この場合も観察面側に向かって右円偏光を選択的に透過する第1の部分111と、観察面側に向かって左円偏光を選択的に透過する第2の部分112が繰り返し交互に配置されたストライプ状のパターン構造が得られる。
【0037】
以下、この場合の構成を得る方法の一例を説明する。この場合、まず特定の方向の直線偏光を選択的に透過するフィルム状の直線偏光板を用意する。そして、この直線偏光板を基材として、その上に光学異方性層を形成する。そしてこの光学異方性層に対してストライプ状に位相差状態(複屈折状態)を制御することで、ストライプ状に交互に第1の部分と第2の部分とが、遅相軸の向きが互いに90°異なるλ/4板となるようにする。またこの際、直線偏光板と第1のλ/4板の部分とにより観察面側に向かって右円偏光を選択的に透過する第1の部分が構成され、直線偏光板と第2のλ/4板の部分とにより観察面側に向かって左円偏光を選択的に透過する第2の部分が構成されるように、各層の向きの関係を調整する。
【0038】
向きが90°異なるλ/4板パターンをストライプ状に形成する方法として、特開2009−175208号公報に記載されている技術を利用できる。以下、この技術を利用した上記の向きが90°異なるλ/4板部分をストライプ状に有した層について説明する。この層は、複屈折性を有する配向した高分子材料により構成され、光を当てると高分子の重合反応が生じ、配向状態が決まる材質のものを用いる。この層は、出発状態において、高分子は未反応の反応性基を有する。この層に対して、露光を行うと、未反応の反応性基が反応して高分子鎖の架橋が起こり、複屈折効果を示す層が形成される。この際、露光条件の異なる露光によって高分子鎖の架橋の程度が異なるものとなり、レターデーション値を制御できる。この原理により、露光の条件を調整することで、λ/4板となる光学機能層を形成することができる。
【0039】
以下、向きが90°異なるλ/4板パターンをストライプ状に有した層の製法の一例を説明する。まず、ストライプ状に配向方向が90°異なる配向処理を施した直線偏光板を用意する。この配向処理は、例えばストライプ形状のマスクを利用して行われる。またこの際、直線偏光板と第1のλ/4板の部分とにより観察面側に向かって右円偏光を選択的に透過する第1の部分が構成され、直線偏光板と第2のλ/4板の部分とにより観察面側に向かって左円偏光を選択的に透過する第2の部分が構成されるように、直線偏光板の向きと配向処理の方向との関係を設定する。
【0040】
そして、配向処理面上に少なくとも1つの反応性基を有する液晶性化合物を含む溶液を塗布し、更にそれを乾燥することで液晶相を形成する。そして、この液晶層に電離放射線を照射して重合固定化する。この際、電離放射線の照射条件を制御することで、位相差がλ/4となる屈折率異方性を付与する。ここで、この液晶層には、90°異なる配向処理がストライプパターンで施されているので、遅相軸の向きが90°異なる(つまり90°回転させた関係の)λ/4板部分が交互にストライプ状に形成される。上記の屈折率異方性を付与した後、50℃〜400℃で加熱することで、上述した複屈折パターンが形成される。
【0041】
光学異方性層の配向パターンを制御する方法として、下地に対する配向処理を選択的に行う方法の他に、光照射による重合固定化において、偏光照射による配向制御技術を利用し、上述した遅相軸の向きが90°異なるλ/4板部分が交互にストライプ状に形成された状態を得ることもできる。
【0042】
図1に戻り、偏光層101の下側(非観察面側)には、画像形成層102が配置されている。画像形成層102は、透明な樹脂の層にエンボス型の型押しによるホログラム加工を施した構成とされている。この例では、右目用のホログラム像を細切にしたホログラム131と左目用のホログラム像を細切にしたホログラム132が交互に繰り返し配置されたストライプ模様が画像形成層102に形成されている。右目用のホログラム131は、右目用のホログラム像を線状に分割したものを、間隔をおいて配置した構造とされている。左目用のホログラム132は、左目用のホログラム像を線状に分割したものを、間隔をおいて配置した構造とされている。
【0043】
右目用のホログラム131と左目用のホログラム132を構成するストライプ状の領域は、偏光層101の第1の部分111(第1の直線偏光領域123)と第2の部分112(第2の直線偏光領域124)に対応させた位置関係とされている。この位置関係は、後述する視覚効果が発揮されるように調整されている。
【0044】
図3には、画像形成層102を直視した場合が誇張して示されている。図3には、一例として、「N」という文字の立体画像を表示させる場合が誇張して示されている。この例では、画像形成層102の基材として、透明な樹脂のフィルムを用い、このフィルムにホログラム型を押し付けることで、ストライプパターンにより構成された右目用のホログラム131と左目用のホログラム132が形成されている。図3に誇張して示されているように、右目用のホログラム131と左目用のホログラム132とは、細く切断された複数のパターンにより構成され、両者が重ならないように、両目の視差に対応させて、左右に少しずらして配置されている。
【0045】
図1に戻り、画像形成層102の下地側(非観察面側)には、観察面側に光を反射する光反射層として機能するアルミ蒸着層103が形成されている。アルミ蒸着層103は、画像形成層102を構成する樹脂フィルム上にアルミ薄膜を蒸着により設けることにより形成されている。アルミ蒸着層103の下面には、粘着材料により構成される粘着層104が設けられている。粘着層104の粘着性を利用して識別媒体100が識別対象となる物品や部材に貼り付けられる。
【0046】
なお、図示省略されているが、偏光層101の上側(観察面側)には、TAC(トリアチルセルロース)等の透過光の偏光状態を乱さない材質の透明保護層が貼り付けられ、また粘着層104の露出面には、離型紙が貼り付けられている。使用時には、この離型紙を剥がして粘着層104を露出し、その露出面を被貼付面に接触させて識別媒体100の被貼付面への固定が行われる。
【0047】
(光学機能)
図1の識別媒体100の高機能の一例を説明する。図4には、識別媒体100の観察原理が概念的に示されている。識別媒体100を観察する際は、右円偏光を観察者の側に向かって選択的に透過する右円偏光フィルタ153を右目151の前に置き、左円偏光を観察者の側に向かって選択的に透過する左円偏光フィルタ154を左目152の前に置く。
【0048】
この状態で識別媒体100を観察すると、第1の部分111からの右円偏光は、右円偏光フィルタ153を透過し、左円偏光フィルタ154で遮断されるので、第1の部分111の下の右目用のホログラム131が選択的に右目151で見える。一方、第2の部分112からの左円偏光は、左円偏光フィルタ154を透過し、右円偏光フィルタ153で遮断されるので、第2の部分112の下の左目用のホログラム132が選択的に左目152で見える。
【0049】
左右のホログラムは、図3に示すように間隔をおいた複数の細長い領域から構成されているが、その間隔が狭いので、画像として認識され、更に左右ぞれぞれの画像(左右に少しずれた画像)が左右の目で独立に視認されることで、それが視覚中枢で合成されて立体虚像として認識される。
【0050】
こうして、右目151で縞模様状の右目用のホログラム131を独立に視認し、左目152で縞模様状の左目用のホログラム132を独立に視認する。これにより、図5に概念的に示すような文字「N」の立体画像が虚像として認識される。
【0051】
右円偏光フィルタ153と左円偏光フィルタ154を入れ替えると、左右の像が入れ替わる。この際、立体視する対象として、平面的な対象が採用されている場合、左右のフィルタを入れ替えると、それまで立体的に浮き出て見えていた像が逆に沈み込んで見え、あるいはそれまで沈み込んで見えていた像が浮き出て見える。また、立体視する対象が立体物である場合、立体像が結像せず、不鮮明な像が観察される。右円偏光フィルタ153と左円偏光フィルタ154を利用しないで、識別媒体100を直視すると、右目用のホログラム131と左目用のホログラム132とが左右の目で同時に見えるので、立体の虚像が結像せず、2重にぶれた画像が観察される。
【0052】
(優位性)
識別媒体100は、観察する側から、第1の部分111と第2の部分112とが周期的に繰り返されたパターンを有する偏光層101と、画像が形成された画像形成層102とを順に備え、第1の部分111は、観察する側に向かって右円偏光を選択的に透過し、第2の部分112は、観察する側に向かって左円偏光を選択的に透過する。また、画像形成層102は、第1の部分111に対応した複数の細長い領域により構成される右目用のホログラム131と、第2の部分112に対応した複数の細長い部分により構成される左目用のホログラム132とを有している。
【0053】
この構成によれば、左右の円偏光状態の違いを利用して左右の画像が分離され、更に、繰り返しパターンにより左右それぞれの像を形成するので、明確な立体感を伴った立体画像を観察できる。このため、視覚効果に優れた高い識別機能が得られる。また、偏光層101と画像形成層102の位置合わせにノウハウが必要であるので、立体画像の再現が困難であり、高い耐偽造性が得られる。また、左右の画像は、画像形成層102に形成されるので、構成が簡素化され低コストで得ることができる。
【0054】
また、識別媒体100を斜めに傾けて観察しても左右の像を分離して視認する機能が維持されるので、観察される画像の立体感が損なわれない。このため、広い角度範囲で識別機能が得られる。
【0055】
(2)第2の実施形態
図6には、識別媒体200が示されている。識別媒体200は、図1の識別媒体100において、画像形成層102とアルミ蒸着層103の間に蛍光インク層160を付加したものである。識別媒体200において、他の符号部分は、識別媒体100と同じである。蛍光インク層160は、紫外光に対して蛍光する蛍光インクを画像形成層102の下面側の全面に一様に印刷した層である。
【0056】
識別媒体200を自然光の下で観察した場合は、識別媒体100と同様な光学機能が得られる。そして識別媒体200に紫外光(ブラックライト)が照射された状態で識別媒体200を観察すると、蛍光インク層160が特定の色(例えば青)に蛍光し、観察されるホログラム像が青に着色されて見える。この構成によれば、紫外光の照射を行うことで、着色された立体画像が浮かび上がって見える潜像効果が得られる。
【0057】
蛍光インク層160は、画像形成層102の上側(観察面側)にあってもよい。この場合も同様な光学機能が得られる。また、蛍光インク層160の蛍光色を複数色とし、より多彩な色彩が潜像効果で現れるようにしてもよい。
【0058】
蛍光インク層160をパターン化し、蛍光インクによる図柄を形成してもよい。この場合、特定波長の光を当てると、蛍光色の図柄が観察される視覚効果が得られる。
【0059】
(3)第3の実施形態
図7には、識別媒体300が示されている。識別媒体300は、図6の識別媒体200において、蛍光インク層に左右の目用の画像を形成した例である。識別媒体300において、他の符号部分は、識別媒体100と同じである。
【0060】
識別媒体300は、アルミ蒸着層103と画像形成層102との間に蛍光図柄層170を備えている。蛍光図柄層170は、第1の部分111(右目用のホログラム131)に対応した位置に右目用蛍光像領域171が設けられている。右目用蛍光像領域171は、右目用の蛍光画像を細切にしたものを、間隔を空けてストライプ状に配置したもので、蛍光インクを用いた印刷により形成されている。
【0061】
左目用蛍光像領域172は、左目用の蛍光画像を細切にしたものを、間隔を空けてストライプ状に配置したもので、蛍光インクを用いた印刷により形成されている。右目用蛍光像領域171と左目用蛍光像領域172とは、交互に繰り返し配置されたストライプパターンを構成している。
【0062】
識別媒体300では、立体像として、画像形成層102に設けられた画像と蛍光図柄層170に設けられた画像とが重なったものが視認される。また、蛍光図柄層170の立体像は、蛍光を生じさせる光(例えば紫外光)を照射した環境下においてのみ見える。なお、蛍光図柄層170は、画像形成層102と偏光層101の間に配置することもできる。
【0063】
(4)第4の実施形態
図8には、識別媒体400が示されている。識別媒体400は、図7の識別媒体300における画像形成層102を取り去った構造を有している。なお、ここでは、既に説明した符号の部分の説明は省略する。以下、識別媒体400において、右目の前に右円偏光フィルタを配置し、左目の前に左円偏光フィルタを配置した状態において、紫外光が当たる環境下で識別媒体400を観察する場合を説明する。
【0064】
この場合、右目が右目用蛍光像領域171から第1の部分111を透過してきた光を選択的に視認する。これは、第1の部分111が、観察面側に向かって右円偏光を選択的に透過する光学機能を有しているので、第1の部分111を透過した光(右円偏光)は、左円偏光フィルタで遮断されて左目で見えず、右円偏光フィルタを透過して右目だけで見えるからである。
【0065】
また、左目が左目用蛍光像領域172から第2の部分112を透過してきた光を選択的に視認する。これは、第2の部分112が、観察面側に向かって左円偏光を選択的に透過する光学機能を有しているので、第2の部分112を透過した光(左円偏光)は、右円偏光フィルタで遮断されて右目で見えず、左円偏光フィルタを透過して左目だけで見えるからである。
【0066】
こうして、紫外光が当たる環境下において、蛍光色の立体画像が観察される。ここで紫外光の照射を止めると、蛍光が発生せず、蛍光図柄層170の図柄は観察できない。これは、識別媒体400を直視した場合も同じである。このため、自然光下で識別媒体400を直視した場合に何も見えず、特定波長の光が当たっている環境下で光学ビューアを介して観察すると蛍光色の立体画像が観察される潜像効果が得られる。なおこの構成において、アルミ蒸着層103はなくてもよい。この場合、粘着層104を透明にすることで、図柄や模様が形成された対象物に貼り付けた際に、自然光下で直視すると、対象物表面の図柄や模様が見える。そして、右目の前に右円偏光フィルタを配置し、左目の前に左円偏光フィルタを配置した状態において、紫外光が当たる環境下で識別媒体400を観察すると、対象物表面の図柄や模様を背景に、蛍光した立体像が見える。
【0067】
(5)第5の実施形態
図9には、識別媒体500が示されている。識別媒体500において、既に説明した符号の部分は、そこで説明したのと同じである。識別媒体500は、観察する側から偏光層101、ホログラム層173、蛍光図柄層170、アルミ蒸着層103、粘着層104と積層された構造を有している。
【0068】
ホログラム層173は、型押し加工によるホログラムが形成されている。このホログラムは、右目用と左目用に分かれておらず、両目で同時に見た際に画像として認識される通常のホログラムである。ホログラム層173の下には、蛍光図柄層170が配置されている。蛍光図柄層170は、第1の部分111に対応した右目用蛍光像領域171と第2の部分112に対応した左目用蛍光像領域172を交互に配置したストライプ模様とされている。この点は、図7、図8の場合と同じである。
【0069】
右目の前に右円偏光フィルタを配置し、左目の前に左円偏光フィルタを配置した状態において、蛍光を発生させる特定波長の光が当たる環境下で識別媒体500を観察すると、ホログラム層173のホログラム像を背景に蛍光色の立体画像が観察される。特定波長の光を消すと、立体画像が消え、ホログラム像だけが見える。また、紫外光を照射していない環境下において、円偏光フィルタを外し、識別媒体500を直視すると、ホログラム層173のホログラム像だけが見える。
【0070】
(6)第6の実施形態
以上の例示では、左右の円偏光を利用する場合を説明したが、偏光の方向が直交する直線偏光を利用して立体画像を得る構成も可能である。以下、この一例を説明する。図10には、識別媒体600が示されている。識別媒体600は、観察する側から、偏光層201、画像形成層102、アルミ蒸着層103、粘着層104と積層された構造を有している。
【0071】
偏光層201は、ストライプ状に第1の直線偏光透過領域211と第2の直線偏光透過領域とが交互に繰り返し配置された構造を有している。この構造は、図2の直線偏光層122と基本的に同じである。第1の直線偏光透過領域211と第2の直線偏光透過領域212とは、透過する直線偏光の偏光方向が互いに直交する関係とされている。画像形成層102、アルミ蒸着層103、粘着層104は、図1の識別媒体100と同じである。
【0072】
ここで右目151の前に直線偏光フィルタ202を置き、左目152の前に直線偏光フィルタ203を置き、識別媒体600を観察する場合を説明する。この場合、直線偏光フィルタ202の偏光方向を第1の直線偏光透過領域211の偏光方向に合わせ、直線偏光フィルタ203の偏光方向を第2の直線偏光透過領域212の偏光方向に合わせる。この際、直線偏光フィルタ202と203の偏光の方向は直交する。
【0073】
この状態で識別媒体600を観察すると、第1の直線偏光透過領域211からの光は、直線偏光202を透過するが、直線偏光フィルタ203で遮断されるため、右目151のみで観察される。他方で、第2の直線偏光透過領域212からの光は、直線偏光203を透過するが、直線偏光フィルタ202で遮断されるため、左目152のみで観察される。この結果、右目151で右目用のホログラム131が選択的に視認され、左目152で左目用のホログラム132が選択的に視認され、立体ホログラム画像が認識される。
【0074】
識別媒体600の構成を、識別媒体200〜500に適用し、識別媒体200〜500において、直交する直線偏光を利用して左右の画像を分離し、立体像を得る構成も可能である。
【0075】
(7)第7の実施形態
以下、識別媒体を傾け、見る角度を変えると、立体像をあたかも回転させたかのような見え方が得られる識別媒体の例を説明する。図11には、識別媒体700が示されている。識別媒体700は、観察する側から、偏光層101、ホログラム層702、蛍光層703、アルミ蒸着層103、粘着層104と積層された構造を有している。
【0076】
偏光層101、アルミ蒸着層103、粘着層104は、図1の識別媒体100と同じである。ホログラム層702は、細長く分割された左右のホログラムパターンを交互にストライプ状に配置した基本構造を有するが、左右のホログラムパターンがそれぞれ3種類あり、3種類のホログラム像が得られる構造とされている。ホログラム層702の下には、紫外光で蛍光する蛍光層703が設けられている。以下、この3種類のホログラム像について説明する。
【0077】
図12には、識別媒体700が表示する立体画像の対象となる立方体800が示されている。そして、立方体800から見て立方体800を左斜め前の少し上方から見た視点X1、正面の少し上方から見た視点X2、右斜め前の少し上方から見た視点X3が概念的に示されている。図3には、X1、X2、X3の各視点から見た立方体800の観察される立体像が概念的に示されている。識別媒体700は、これらX1、X2、X3の画像をホログラム立体像として表示する。
【0078】
識別媒体700のホログラム層702には、X1〜X3の各視点から見た立体像が、左右の目用の画像に分離され、更にそれが細く分割されて配置されている。詳しく述べると、偏光層101の交互に繰り返し配置された第1の部分111に対応させてX1の視点からの右目用のホログラム像のパターン711が設けられ、その隣に偏光層101の第2の部分112に対応させてX1の視点からの左目用のホログラム像のパターン712が設けられている。
【0079】
また、ホログラム層702には、偏光層101の第1の部分111に対応させてX2の視点からの右目用のホログラム像のパターン713が設けられ、その隣に偏光層101の第2の部分112に対応させてX2の視点からの左目用のホログラム像のパターン714が設けられている。
【0080】
また、ホログラム層702には、偏光層101の第1の部分111に対応させてX3の視点からの右目用のホログラム像のパターン715が設けられ、その隣に偏光層101の第2の部分112に対応させてX3の視点からの左目用のホログラム像のパターン716が設けられている。
【0081】
右目用のホログラムパターン711と左目用のホログラムパターン712とで合成される立体画像は、識別媒体700を左斜め前の方向から見た際に、図13(A)の立体画像が観察されるホログラムとされている。同様に、右目用のホログラムパターン713と左目用のホログラムパターン714とで合成される立体画像は、識別媒体700を正面の方向から見た場合に、図13(B)の立体画像が観察されるホログラムとされている。同様に、右目用のホログラムパターン715と左目用のホログラムパターン716とで合成される立体画像は、識別媒体700を右斜め前の方向から見た場合に、図13(C)の立体画像が観察されるホログラムとされている。
【0082】
図14には、右目151の前に右円偏光フィルタ153を配置し、左目152の前に左円偏光フィルタ154を配置した状態で識別媒体700を傾け、見る角度を変化させた状態が示されている。ここで、見る角度は、識別媒体700の光軸(この場合は、正面方向)と視線とのなす角度であり、図14には、θで示されている。
【0083】
図14の場合、識別媒体700を識別媒体700の斜め左前方から見る状態となる。この場合、図12の視点X1から観察した場合に相当する図13(A)の立体像が観察される。この際、右目用のホログラムパターン711からの光が第1の領域111を透過して右円偏光となり、右円偏光フィルタ153を透過して、右目151に視認される。この光は、右円偏光であるので、左円偏光フィルタ154で遮断され、左目152には届かない。
【0084】
一方、左目用のホログラムパターン712からの光は、第2の領域112を透過して左円偏光となり、左円偏光フィルタ154を透過して、左目152に視認される。この光は、左円偏光であるので、右円偏光フィルタ153で遮断され、右目151には届かない。また、この状態において、右目用のホログラムパターン713および715、左目用のホログラムパターン714および716からの光(干渉光)は、右目151、左目152の位置では結像しないので、これらホログラムパターンのホログラム像は視認できない。
【0085】
こうして、図14の状態での観察において、図13(A)の立体像が観察される。同様な原理により、図14において、θ=0°とすると、右目用のホログラムパターン713が右目151で選択的に見え、左目用のホログラムパターン714が左目152で選択的に見えるので、図13(B)の立体像が観察される。この際、X1とX3からの視点の像は、観察者側の位置では結像しないので視認されない。図14と逆の方向に識別媒体を傾けると、右目用のホログラムパターン715が右目151で選択的に見え、左目用のホログラムパターン716が左目152で選択的に見えるので、図13(C)の立体像が観察される。この際、X1とX2からの視点の像は、観察者の位置では結像しないので視認されない。
【0086】
そして、紫外光が当たる環境下では、図13に示す立体像が、蛍光層703の蛍光色に着色された状態で観察される。また、右円偏光フィルタ153と左円偏光フィルタ154を外すと、各視点において、2重にぶれた像が観察される。
【0087】
この例では、3方向の見る角度からの立体像を観察できる仕様を説明したが、見る角度の数を増やす(視点の数を増やす)ことで、見る角度の変化に従って、より滑らかに立体像を回転させたかのような見え方、あるいは立体物の回りを回転しながら観察を行ったかのような見え方を示す識別媒体が得られる。
【0088】
この例では、見る角度の変更に伴い、立体像が回転するかのような見え方を示す例を示したが、見る角度を変更すると、全く異なる立体画像に切り替わる構成も可能である。これは、第1の視点では第1の画像が現れ、第2の視点では第2の画像が現れ、・・・となるようにホログラム像を構成することで実現される。
【0089】
(その他)
図1の識別媒体100において、画像形成層102に蛍光顔料を含有させ、特定波長の光を照射した際に画像形成層102自体が蛍光する構成としてもよい。この場合、特定波長の光が当たっている環境下において、蛍光色を示す立体ホログラム像を観察することができる。
【0090】
第1の部分と第2の部分とが周期的に繰り返されたパターンとしては、ストライプパターンの他に格子パターン(チェックパターン、市松模様)を挙げることができる。また、蛍光インクと通常のインクを組み合わせて用いることもできる。この場合、特定波長の光を照射せずに蛍光させない場合に不完全であった図柄(通常インクによる図柄)が、特定波長の光を照射することで、完成された図柄として視認できる光学特性が得られる。また、蛍光インクの代わりに通常のインクのみを用いてもよい。
【0091】
右偏光の役割と左円偏光の役割を入れ替えても良い。この場合、それに対応して右目用の画像と左目用の画像の役割も入れ替える。
【0092】
図2、図3には、縦に画像を分割し、左右方向に一つ置きに右目用の縦方向に延在する細切れ画像、左目用の縦方向に延在する細切れ画像を配置する例が示されているが、横縞模様に画像を分割し、上下方向に一つ置きに右目用の横方向に延在する細切れ画像、左目用の横方向に延在する細切れ画像を配置し、偏光フィルタによって左右で視認する像を分離することで、同様な立体画像認識を行うことができる。同様な理屈により、斜め方向に延在する細切れ画像により、右目用の画像と左目用の画像を構成することもできる。つまり、ストライプの方向は限定されない。
【0093】
同様のことは、上述した格子パターンの場合や図14の構成の場合にもいえる。すなわち、重要なのは、交互に繰り返される第1のパターンと第2のパターンを有し、第1のパターンにより一方の目用の画像を構成し、第2のパターンにより他方の目用の画像を構成し、それらを偏光フィルタによって分離して左右の目で見るようにすることである。よって、第1のパターンと第2のパターンが繰り返される方向は限定されない。
【0094】
また、図14に示す構成において、識別媒体700を上下に傾けると、視点を上下方向に変えた場合のような立体像の切り替わり(あるいは別の立体像への切り替わり)が視認できる構成も可能である。この場合、上下方向における第1の見る角度で第1の左目用ホログラム像が左目で選択的に視認され、同時に第1の右目用ホログラム像が右目で選択的に視認されるようにホログラム像の結像の位置に留意したホログラム加工を施す。また上下方向における第2の見る角度で第2の左目用ホログラム像が左目で選択的に視認され、同時に第2の右目用ホログラム像が右目で選択的に視認されるようにホログラム像の結像の位置に留意したホログラム加工を施す。こうすることで、偏光フィルタを介した観察において、上下方向に傾けた場合の第1の見る角度で第1の縦ストライプで構成される第1のホログラム立体像が視認され、第2の見る角度で第2の縦ストライプで構成される第2のホログラム立体像が視認される。ただし、この場合、第1の画像と第2の画像は縦方向にとびとびに存在するので、見る角度毎の画像の種類を増やすと、識別媒体の表示面における特定の画像を構成するホログラム加工部分が占める面積が小さくなり、明度や解像度の点で注意が必要である。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明は、真贋の識別を行うための技術に利用することができる。
【符号の説明】
【0096】
100…識別媒体、101…偏光層、102…画像形成層、103…アルミ蒸着層、104…粘着層、111…観察する側に向かって右円偏光を選択的に透過する第1の部分、112…観察する側に向かって左円偏光を選択的に透過する第2の部分、113…λ/4板、122…直線偏光層、123…第1の直線偏光領域、124…第2の直線変更領域、131…右目用のホログラム、132…左目用のホログラム、151…右目、151…左目、153…右円偏光フィルタ、154…左円偏光フィルタ、170…蛍光図柄層、171…右目用蛍光像領域、172…左目用蛍光像領域。
【技術分野】
【0001】
本発明は、識別媒体およびその識別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
商品等の真贋判定に利用される識別媒体において、立体像を識別に利用する技術が知られている。例えば、特許文献1には、偏光方向の異なる2つの図柄に視差を与え、方向の異なる偏光めがねを介して観察することで、立体像を見ることができる識別媒体が記載されている。引用文献2には、ホログラムを利用して立体像を表示する識別媒体が記載されている。引用文献3には、左右で異なる円偏光を反射するコレステリック液晶層を積層し、それぞれのコレステリック液晶層のパターンを左目用と右目用とする識別媒体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−80697号公報
【特許文献2】特開平5−2148号公報
【特許文献3】特開2000−255200号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された技術は、顔を傾けると画像の分離が不完全になり見え方が明確でなくなり、識別機能の点で充分でない。特許文献2に記載された技術は、ホログラムにより左右の像を形成する構成であるので、ホログラムを物理的にコピーすることによる偽造が容易であり、耐偽造性が低い。また左右の画像を完全に分離できず、見え方が不明確となる。特許文献3に記載された技術は、コレステリック液晶層が2層必要であるので、構造が複雑で高コストとなる。
【0005】
このような背景において、本発明は、高い識別機能および高い耐偽造性を有し、更に低コストで得られる識別媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、観察する側から、第1の部分と第2の部分とが周期的に繰り返されたパターンを有する偏光層と、画像が形成された画像形成層とを順に備え、前記第1の部分は、観察する側に向かって特定の第1の偏光状態の光を選択的に透過し、前記第2の部分は、観察する側に向かって前記特定の第1の偏光状態とは異なる特定の第2の偏光状態の光を選択的に透過する光学特性を有し、前記画像形成層は、前記第1の部分に対応した複数の第1の領域と前記第2の部分に対応した複数の第2の領域とを有し、前記複数の第1の領域により一方の目用の画像が構成され、前記複数の第2の領域により他方の目用の画像が構成されていることを特徴とする識別媒体である。
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、画像形成層の第1の領域からの一方の目用の画像の反射光が、偏光層の第1の部分を特定の第1の偏光状態の光として透過し、それが観察者に届く。一方、画像形成層の第2の領域からの他方の目用の画像の反射光が、偏光層の第2の部分を特定の第2の偏光状態の光として透過し、それが観察者に届く。
【0008】
ここで、観察者の側において、一方の目の前に第1の偏光状態の光を選択的に透過する光学フィルタを配置し、他方の目の前に第2の偏光状態の光を選択的に透過する光学フィルタを配置した状態で当該識別媒体を観察すると、一方の目が第1の領域を選択的に視認し、他方の目が第2の領域を選択的に視認する。
【0009】
第1の領域は一方の目用の画像を構成し、第2の領域は他方の目用の画像を構成しているので、上記の作用の結果、一方の目がその目用の画像を選択的に視認し、他方の目がその目用の画像を選択的に視認する。これにより、立体画像の視認が行われる。つまり、右目が右目用の画像を選択的に視認し、左目が左目用の画像を選択的に視認し、それにより立体画像が認識される。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記第1の部分は、観察する側に向かって第1の旋回方向の円偏光を選択的に透過する光学特性を有し、前記第2の部分は、観察する側に向かって前記第1の旋回方向と逆旋回方向の第2の旋回方向の円偏光を選択的に透過する光学特性を有していることを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の発明では、例えば右目の前に右円偏光(右旋回の円偏光)を選択的に透過する光学フィルタ(右円偏光フィルタ)を配置し、左目の目に左円偏光(左旋回の円偏光)を選択的に透過する光学フィルタ(左円偏光フィルタ)を配置した状態で当該識別媒体を観察する。この場合、右目が右円偏光を選択的に視認し、左目が左円偏光を選択的に視認するので、例えば右目が第1の領域を選択的に視認し、左目が第2の領域を選択的に視認し、立体画像が観察される。なお、右円偏光に右目用の画像を割り当て、左円偏光に左目用の画像を割り当てる第1の組み合わせと、右円偏光に左目用の画像を割り当て、左円偏光に右目用の画像を割り当てる第2の組み合わせのいずれもが可能である。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記第1の部分は、観察する側に向かって第1の方向に偏光した第1の直線偏光を選択的に透過する光学特性を有し、前記第2の部分は、観察する側に向かって前記第1の方向と直交する方向に偏光した第2の直線偏光を選択的に透過する光学特性を有していることを特徴とする。
【0013】
請求項3に記載の発明では、例えば右目の前に第1の直線偏光を選択的に透過する直線偏光フィルタを配置し、左目の前に第1の直線偏光と直交する方向に偏光した第2の直線偏光を選択的に透過する直線偏光フィルタを配置した状態で当該識別媒体を観察する。この場合、例えば右目が第1の直線偏光を選択的に視認し、左目が第2の直線偏光を選択的に視認するので、右目が第1の領域を選択的に視認し、左目が第2の領域を選択的に視認し、立画画像が観察される。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の発明において、前記一方の目用の画像と前記他方の目用の画像とがホログラム像であり、前記ホログラム像は、見る角度に応じて複数が用意されていることを特徴とする。
【0015】
請求項4に記載の発明において、見る角度は、当該識別媒体の光軸と視線のなす角度として定義される。請求項4に記載の発明では、複数の見る角度に応じて、異なる干渉像が得られるように画像形成層にホログラム加工が施される。これにより、見る角度を変えると、異なるホログラム像が観察される。ここで、見る角度毎に用意されたホログラム像を立体物の異なる視点からの像に対応させることで、見る角度を変えた際に視点を変えて立体物を見た場合と同様の観察像が得られる。なお、見る角度を変えた際に、異なる像への切り替わり(例えば、立体視される文字画像の切り替わり)を行うこともできる。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の発明において、特定の光が照射されることで蛍光する蛍光層を更に備えることを特徴とする。請求項5に記載の発明によれば、特定波長が当たる環境下において、蛍光色に着色された立体画像を観察することができる。
【0017】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載の発明において、前記一方の目用の画像と前記他方の目用の画像が特定の光が照射されることで蛍光する蛍光材料により形成されていることを特徴とする。請求項6に記載の発明によれば、特定波長が当たる環境下において、蛍光色に着色された立体画像を観察することができる。
【0018】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれか一項に記載の識別媒体を前記第1の偏光状態の光を選択的に透過する光学フィルタを介して一方の目で観察すると共に前記第2の偏光状態の光を選択的に透過する光学フィルタを介して他方の目で観察することを特徴とする識別媒体の識別方法である。
【発明の効果】
【0019】
請求項1に記載の発明によれば、偏光状態の違いを利用して左右の画像が分離され、更に、繰り返しパターンにより左右の像を形成するので、視覚効果に優れた高い識別機能が得られる。また、左右の画像の位置合わせにノウハウが必要であるので、立体画像の再現が困難であり、高い耐偽造性が得られる。また、左右の画像は、一つの層に形成されるので、構成が簡素化され低コストで得ることができる。
【0020】
請求項2に記載の発明によれば、左右の円偏光を利用して左右の像を分離するので、鮮明な立体画像を観察することができる。
【0021】
請求項3に記載の発明によれば、直交する直線偏光を利用して左右の像を分離するので、鮮明な立体画像を観察することができる。
【0022】
請求項4に記載の発明によれば、ホログラム像を利用することで、見る角度を変えた場合に視点を変えて立体物の観察を行った場合と同様の観察が行える光学機能が得られる。
【0023】
請求項5に記載の発明によれば、紫外光等の特定の波長の光が当たる環境下において、立体画像が着色して見える光学効果が得られる。
【0024】
請求項6に記載の発明によれば、紫外光等の特定の波長の光を当たる環境下において、立体像が着色して見える光学効果が得られる。
【0025】
請求項7に記載の発明によれば、請求項1〜7のいずれか一項に記載の識別媒体を利用した立体画像による識別の方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施形態の断面概念図である。
【図2】実施形態の偏光層の断面概念図(A)と正面概念図(B)である。
【図3】実施形態の画像形成層の正面概念図である。
【図4】実施形態の識別媒体の光学機能の原理を示す原理図である。
【図5】実施形態における観察される立体像を示す概念図である。
【図6】実施形態の断面概念図である。
【図7】実施形態の断面概念図である。
【図8】実施形態の断面概念図である。
【図9】実施形態の断面概念図である。
【図10】実施形態の識別媒体の光学機能の原理を示す原理図である。
【図11】実施形態の断面概念図である。
【図12】実施形態における観察される立体像と視点の位置関係を示す概念図である。
【図13】実施形態における観察される立体像を示す概念図である。
【図14】実施形態の識別媒体の光学機能の原理を示す原理図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(1)第1の実施形態
図1には、識別媒体100が示されている。識別媒体100は、観察する側(図の上側)から、偏光層101、画像形成層102、アルミ蒸着層103、粘着層104と積層された構造とされている。偏光層101は、第1の部分111と第2の部分112とが周期的に繰り返されたパターンを有している。
【0028】
図2には、偏光層101の断面図(A)と正面図(B)が示されている。図2(A)には、偏光層101が観察する側からλ/4板121、直線偏光層122と順に積層された構造であることが概念的に示されている。図2(B)には、透明なλ/4板121を介して、第1の部分111と第2の部分112が見えている状態が概念的に示されている。
【0029】
直線偏光層122は、観察面側に向かって(図の上方向に向かって)右旋回の円偏光(右円偏光)偏光を選択的に透過する第1の部分111と、観察面側に向かって左旋回の円偏光(左円偏光)偏光を選択的に透過する第2の部分112が繰り返し交互に配置されたストライプ状のパターン構造を有している。ここで、第1の部分111、第2の部分112の幅は、0.05mmとされている。この幅は、0.1mm以下が望ましい。
【0030】
第1の部分111に対応する直線偏光層122の領域は、第1の直線偏光領域123とされている。また、第2の部分112に対応する直線偏光層122の領域は、第2の直線偏光領域124とされている。また、第1の直線偏光領域123と第2の直線偏光領域124は、互いに偏光の方向が90°異なる直線偏光を選択的に透過する直線偏光フィルタ特性の領域とされている。
【0031】
この直線偏光層122の光学特性とλ/4板の光学特性が組み合わされることで、観察面側(図の上側)に透過する光で考えて、第1の部分111の縞状の領域が右円偏光を選択的に透過し、第2の部分112の縞状の領域が左円偏光を選択的に透過する光学特性領域となる。つまり、第1の部分111の縞状の領域が右円偏光を選択的に透過する右円偏光フィルタ特性の領域とされ、第2の部分112の縞状の領域が左円偏光を選択的に透過する左円偏光フィルタ特性の領域とされている。
【0032】
以下、第1の部分111および第2の部分112を得る方法の一例を説明する。まず、光学異方性(屈性率異方性)を有した層を用意し、これをλ/4板121とする。λ/4板121は、例えば液晶材料により構成される。λ/4板121を得る方法としては、例えば後述する特開2009−175208号公報に記載した技術を利用することができる。また、λ/4板121を得る方法として、PC(ポリカーボネート)樹脂などを延伸し、位相差を付加する方法が挙げられる。
【0033】
次にλ/4板上に2色性色素を各領域で塗り分け、第1の直線偏光領域123および第2の直線偏光領域124を形成する。すなわち、ストライプ状のマスクを用意し、第2の直線偏光領域124となる部分をマスクした状態で第1の直線偏光領域123を2色性色素の印刷(あるいは刷毛塗り)により形成する。この際、色素の載せ方により、色素の配向方向が定まり、特定の偏光を透過する偏光フィルタとしての機能が付与された第1の直線偏光領域123が形成される。
【0034】
次に、第1の直線偏光領域123をマスクした状態で、同じく第2の直線偏光領域124を形成する。この際、第1の直線偏光領域123を選択透過する直線偏光と偏光方向が90°異なる向きとなるように、2色性色素の配向方向を調整する。こうして、第1の直線偏光領域123を選択透過する直線偏光と偏光方向が90°異なる方向の直線偏光を選択的に透過する第2の直線偏光領域124を得る。なお、2色性色素の他に、リオトロピック液晶を利用して第1の直線偏光領域123と第2の直線偏光領域124を形成することもできる。
【0035】
第1の直線偏光領域123および第2の直線偏光領域124を得る他の方法としては、直線偏光フィルタとして機能するフィルムを細く切断し、それを隣接する領域で偏光方向が90°異なるように交互に配置する方法が挙げられる。また、光の照射で配向する方向を制御できる高分子材料の層にストライプ状に光照射を選択的に行い、第1の直線偏光領域123および第2の直線偏光領域124を得る方法もある。
【0036】
また、偏光層101として、直線偏光板を基材として、その表面(観察される側の面の表面)に、ストライプ状に交互に遅相軸の向きが90°異なるλ/4板パターンを有した層を配置した構造も可能である。この場合も観察面側に向かって右円偏光を選択的に透過する第1の部分111と、観察面側に向かって左円偏光を選択的に透過する第2の部分112が繰り返し交互に配置されたストライプ状のパターン構造が得られる。
【0037】
以下、この場合の構成を得る方法の一例を説明する。この場合、まず特定の方向の直線偏光を選択的に透過するフィルム状の直線偏光板を用意する。そして、この直線偏光板を基材として、その上に光学異方性層を形成する。そしてこの光学異方性層に対してストライプ状に位相差状態(複屈折状態)を制御することで、ストライプ状に交互に第1の部分と第2の部分とが、遅相軸の向きが互いに90°異なるλ/4板となるようにする。またこの際、直線偏光板と第1のλ/4板の部分とにより観察面側に向かって右円偏光を選択的に透過する第1の部分が構成され、直線偏光板と第2のλ/4板の部分とにより観察面側に向かって左円偏光を選択的に透過する第2の部分が構成されるように、各層の向きの関係を調整する。
【0038】
向きが90°異なるλ/4板パターンをストライプ状に形成する方法として、特開2009−175208号公報に記載されている技術を利用できる。以下、この技術を利用した上記の向きが90°異なるλ/4板部分をストライプ状に有した層について説明する。この層は、複屈折性を有する配向した高分子材料により構成され、光を当てると高分子の重合反応が生じ、配向状態が決まる材質のものを用いる。この層は、出発状態において、高分子は未反応の反応性基を有する。この層に対して、露光を行うと、未反応の反応性基が反応して高分子鎖の架橋が起こり、複屈折効果を示す層が形成される。この際、露光条件の異なる露光によって高分子鎖の架橋の程度が異なるものとなり、レターデーション値を制御できる。この原理により、露光の条件を調整することで、λ/4板となる光学機能層を形成することができる。
【0039】
以下、向きが90°異なるλ/4板パターンをストライプ状に有した層の製法の一例を説明する。まず、ストライプ状に配向方向が90°異なる配向処理を施した直線偏光板を用意する。この配向処理は、例えばストライプ形状のマスクを利用して行われる。またこの際、直線偏光板と第1のλ/4板の部分とにより観察面側に向かって右円偏光を選択的に透過する第1の部分が構成され、直線偏光板と第2のλ/4板の部分とにより観察面側に向かって左円偏光を選択的に透過する第2の部分が構成されるように、直線偏光板の向きと配向処理の方向との関係を設定する。
【0040】
そして、配向処理面上に少なくとも1つの反応性基を有する液晶性化合物を含む溶液を塗布し、更にそれを乾燥することで液晶相を形成する。そして、この液晶層に電離放射線を照射して重合固定化する。この際、電離放射線の照射条件を制御することで、位相差がλ/4となる屈折率異方性を付与する。ここで、この液晶層には、90°異なる配向処理がストライプパターンで施されているので、遅相軸の向きが90°異なる(つまり90°回転させた関係の)λ/4板部分が交互にストライプ状に形成される。上記の屈折率異方性を付与した後、50℃〜400℃で加熱することで、上述した複屈折パターンが形成される。
【0041】
光学異方性層の配向パターンを制御する方法として、下地に対する配向処理を選択的に行う方法の他に、光照射による重合固定化において、偏光照射による配向制御技術を利用し、上述した遅相軸の向きが90°異なるλ/4板部分が交互にストライプ状に形成された状態を得ることもできる。
【0042】
図1に戻り、偏光層101の下側(非観察面側)には、画像形成層102が配置されている。画像形成層102は、透明な樹脂の層にエンボス型の型押しによるホログラム加工を施した構成とされている。この例では、右目用のホログラム像を細切にしたホログラム131と左目用のホログラム像を細切にしたホログラム132が交互に繰り返し配置されたストライプ模様が画像形成層102に形成されている。右目用のホログラム131は、右目用のホログラム像を線状に分割したものを、間隔をおいて配置した構造とされている。左目用のホログラム132は、左目用のホログラム像を線状に分割したものを、間隔をおいて配置した構造とされている。
【0043】
右目用のホログラム131と左目用のホログラム132を構成するストライプ状の領域は、偏光層101の第1の部分111(第1の直線偏光領域123)と第2の部分112(第2の直線偏光領域124)に対応させた位置関係とされている。この位置関係は、後述する視覚効果が発揮されるように調整されている。
【0044】
図3には、画像形成層102を直視した場合が誇張して示されている。図3には、一例として、「N」という文字の立体画像を表示させる場合が誇張して示されている。この例では、画像形成層102の基材として、透明な樹脂のフィルムを用い、このフィルムにホログラム型を押し付けることで、ストライプパターンにより構成された右目用のホログラム131と左目用のホログラム132が形成されている。図3に誇張して示されているように、右目用のホログラム131と左目用のホログラム132とは、細く切断された複数のパターンにより構成され、両者が重ならないように、両目の視差に対応させて、左右に少しずらして配置されている。
【0045】
図1に戻り、画像形成層102の下地側(非観察面側)には、観察面側に光を反射する光反射層として機能するアルミ蒸着層103が形成されている。アルミ蒸着層103は、画像形成層102を構成する樹脂フィルム上にアルミ薄膜を蒸着により設けることにより形成されている。アルミ蒸着層103の下面には、粘着材料により構成される粘着層104が設けられている。粘着層104の粘着性を利用して識別媒体100が識別対象となる物品や部材に貼り付けられる。
【0046】
なお、図示省略されているが、偏光層101の上側(観察面側)には、TAC(トリアチルセルロース)等の透過光の偏光状態を乱さない材質の透明保護層が貼り付けられ、また粘着層104の露出面には、離型紙が貼り付けられている。使用時には、この離型紙を剥がして粘着層104を露出し、その露出面を被貼付面に接触させて識別媒体100の被貼付面への固定が行われる。
【0047】
(光学機能)
図1の識別媒体100の高機能の一例を説明する。図4には、識別媒体100の観察原理が概念的に示されている。識別媒体100を観察する際は、右円偏光を観察者の側に向かって選択的に透過する右円偏光フィルタ153を右目151の前に置き、左円偏光を観察者の側に向かって選択的に透過する左円偏光フィルタ154を左目152の前に置く。
【0048】
この状態で識別媒体100を観察すると、第1の部分111からの右円偏光は、右円偏光フィルタ153を透過し、左円偏光フィルタ154で遮断されるので、第1の部分111の下の右目用のホログラム131が選択的に右目151で見える。一方、第2の部分112からの左円偏光は、左円偏光フィルタ154を透過し、右円偏光フィルタ153で遮断されるので、第2の部分112の下の左目用のホログラム132が選択的に左目152で見える。
【0049】
左右のホログラムは、図3に示すように間隔をおいた複数の細長い領域から構成されているが、その間隔が狭いので、画像として認識され、更に左右ぞれぞれの画像(左右に少しずれた画像)が左右の目で独立に視認されることで、それが視覚中枢で合成されて立体虚像として認識される。
【0050】
こうして、右目151で縞模様状の右目用のホログラム131を独立に視認し、左目152で縞模様状の左目用のホログラム132を独立に視認する。これにより、図5に概念的に示すような文字「N」の立体画像が虚像として認識される。
【0051】
右円偏光フィルタ153と左円偏光フィルタ154を入れ替えると、左右の像が入れ替わる。この際、立体視する対象として、平面的な対象が採用されている場合、左右のフィルタを入れ替えると、それまで立体的に浮き出て見えていた像が逆に沈み込んで見え、あるいはそれまで沈み込んで見えていた像が浮き出て見える。また、立体視する対象が立体物である場合、立体像が結像せず、不鮮明な像が観察される。右円偏光フィルタ153と左円偏光フィルタ154を利用しないで、識別媒体100を直視すると、右目用のホログラム131と左目用のホログラム132とが左右の目で同時に見えるので、立体の虚像が結像せず、2重にぶれた画像が観察される。
【0052】
(優位性)
識別媒体100は、観察する側から、第1の部分111と第2の部分112とが周期的に繰り返されたパターンを有する偏光層101と、画像が形成された画像形成層102とを順に備え、第1の部分111は、観察する側に向かって右円偏光を選択的に透過し、第2の部分112は、観察する側に向かって左円偏光を選択的に透過する。また、画像形成層102は、第1の部分111に対応した複数の細長い領域により構成される右目用のホログラム131と、第2の部分112に対応した複数の細長い部分により構成される左目用のホログラム132とを有している。
【0053】
この構成によれば、左右の円偏光状態の違いを利用して左右の画像が分離され、更に、繰り返しパターンにより左右それぞれの像を形成するので、明確な立体感を伴った立体画像を観察できる。このため、視覚効果に優れた高い識別機能が得られる。また、偏光層101と画像形成層102の位置合わせにノウハウが必要であるので、立体画像の再現が困難であり、高い耐偽造性が得られる。また、左右の画像は、画像形成層102に形成されるので、構成が簡素化され低コストで得ることができる。
【0054】
また、識別媒体100を斜めに傾けて観察しても左右の像を分離して視認する機能が維持されるので、観察される画像の立体感が損なわれない。このため、広い角度範囲で識別機能が得られる。
【0055】
(2)第2の実施形態
図6には、識別媒体200が示されている。識別媒体200は、図1の識別媒体100において、画像形成層102とアルミ蒸着層103の間に蛍光インク層160を付加したものである。識別媒体200において、他の符号部分は、識別媒体100と同じである。蛍光インク層160は、紫外光に対して蛍光する蛍光インクを画像形成層102の下面側の全面に一様に印刷した層である。
【0056】
識別媒体200を自然光の下で観察した場合は、識別媒体100と同様な光学機能が得られる。そして識別媒体200に紫外光(ブラックライト)が照射された状態で識別媒体200を観察すると、蛍光インク層160が特定の色(例えば青)に蛍光し、観察されるホログラム像が青に着色されて見える。この構成によれば、紫外光の照射を行うことで、着色された立体画像が浮かび上がって見える潜像効果が得られる。
【0057】
蛍光インク層160は、画像形成層102の上側(観察面側)にあってもよい。この場合も同様な光学機能が得られる。また、蛍光インク層160の蛍光色を複数色とし、より多彩な色彩が潜像効果で現れるようにしてもよい。
【0058】
蛍光インク層160をパターン化し、蛍光インクによる図柄を形成してもよい。この場合、特定波長の光を当てると、蛍光色の図柄が観察される視覚効果が得られる。
【0059】
(3)第3の実施形態
図7には、識別媒体300が示されている。識別媒体300は、図6の識別媒体200において、蛍光インク層に左右の目用の画像を形成した例である。識別媒体300において、他の符号部分は、識別媒体100と同じである。
【0060】
識別媒体300は、アルミ蒸着層103と画像形成層102との間に蛍光図柄層170を備えている。蛍光図柄層170は、第1の部分111(右目用のホログラム131)に対応した位置に右目用蛍光像領域171が設けられている。右目用蛍光像領域171は、右目用の蛍光画像を細切にしたものを、間隔を空けてストライプ状に配置したもので、蛍光インクを用いた印刷により形成されている。
【0061】
左目用蛍光像領域172は、左目用の蛍光画像を細切にしたものを、間隔を空けてストライプ状に配置したもので、蛍光インクを用いた印刷により形成されている。右目用蛍光像領域171と左目用蛍光像領域172とは、交互に繰り返し配置されたストライプパターンを構成している。
【0062】
識別媒体300では、立体像として、画像形成層102に設けられた画像と蛍光図柄層170に設けられた画像とが重なったものが視認される。また、蛍光図柄層170の立体像は、蛍光を生じさせる光(例えば紫外光)を照射した環境下においてのみ見える。なお、蛍光図柄層170は、画像形成層102と偏光層101の間に配置することもできる。
【0063】
(4)第4の実施形態
図8には、識別媒体400が示されている。識別媒体400は、図7の識別媒体300における画像形成層102を取り去った構造を有している。なお、ここでは、既に説明した符号の部分の説明は省略する。以下、識別媒体400において、右目の前に右円偏光フィルタを配置し、左目の前に左円偏光フィルタを配置した状態において、紫外光が当たる環境下で識別媒体400を観察する場合を説明する。
【0064】
この場合、右目が右目用蛍光像領域171から第1の部分111を透過してきた光を選択的に視認する。これは、第1の部分111が、観察面側に向かって右円偏光を選択的に透過する光学機能を有しているので、第1の部分111を透過した光(右円偏光)は、左円偏光フィルタで遮断されて左目で見えず、右円偏光フィルタを透過して右目だけで見えるからである。
【0065】
また、左目が左目用蛍光像領域172から第2の部分112を透過してきた光を選択的に視認する。これは、第2の部分112が、観察面側に向かって左円偏光を選択的に透過する光学機能を有しているので、第2の部分112を透過した光(左円偏光)は、右円偏光フィルタで遮断されて右目で見えず、左円偏光フィルタを透過して左目だけで見えるからである。
【0066】
こうして、紫外光が当たる環境下において、蛍光色の立体画像が観察される。ここで紫外光の照射を止めると、蛍光が発生せず、蛍光図柄層170の図柄は観察できない。これは、識別媒体400を直視した場合も同じである。このため、自然光下で識別媒体400を直視した場合に何も見えず、特定波長の光が当たっている環境下で光学ビューアを介して観察すると蛍光色の立体画像が観察される潜像効果が得られる。なおこの構成において、アルミ蒸着層103はなくてもよい。この場合、粘着層104を透明にすることで、図柄や模様が形成された対象物に貼り付けた際に、自然光下で直視すると、対象物表面の図柄や模様が見える。そして、右目の前に右円偏光フィルタを配置し、左目の前に左円偏光フィルタを配置した状態において、紫外光が当たる環境下で識別媒体400を観察すると、対象物表面の図柄や模様を背景に、蛍光した立体像が見える。
【0067】
(5)第5の実施形態
図9には、識別媒体500が示されている。識別媒体500において、既に説明した符号の部分は、そこで説明したのと同じである。識別媒体500は、観察する側から偏光層101、ホログラム層173、蛍光図柄層170、アルミ蒸着層103、粘着層104と積層された構造を有している。
【0068】
ホログラム層173は、型押し加工によるホログラムが形成されている。このホログラムは、右目用と左目用に分かれておらず、両目で同時に見た際に画像として認識される通常のホログラムである。ホログラム層173の下には、蛍光図柄層170が配置されている。蛍光図柄層170は、第1の部分111に対応した右目用蛍光像領域171と第2の部分112に対応した左目用蛍光像領域172を交互に配置したストライプ模様とされている。この点は、図7、図8の場合と同じである。
【0069】
右目の前に右円偏光フィルタを配置し、左目の前に左円偏光フィルタを配置した状態において、蛍光を発生させる特定波長の光が当たる環境下で識別媒体500を観察すると、ホログラム層173のホログラム像を背景に蛍光色の立体画像が観察される。特定波長の光を消すと、立体画像が消え、ホログラム像だけが見える。また、紫外光を照射していない環境下において、円偏光フィルタを外し、識別媒体500を直視すると、ホログラム層173のホログラム像だけが見える。
【0070】
(6)第6の実施形態
以上の例示では、左右の円偏光を利用する場合を説明したが、偏光の方向が直交する直線偏光を利用して立体画像を得る構成も可能である。以下、この一例を説明する。図10には、識別媒体600が示されている。識別媒体600は、観察する側から、偏光層201、画像形成層102、アルミ蒸着層103、粘着層104と積層された構造を有している。
【0071】
偏光層201は、ストライプ状に第1の直線偏光透過領域211と第2の直線偏光透過領域とが交互に繰り返し配置された構造を有している。この構造は、図2の直線偏光層122と基本的に同じである。第1の直線偏光透過領域211と第2の直線偏光透過領域212とは、透過する直線偏光の偏光方向が互いに直交する関係とされている。画像形成層102、アルミ蒸着層103、粘着層104は、図1の識別媒体100と同じである。
【0072】
ここで右目151の前に直線偏光フィルタ202を置き、左目152の前に直線偏光フィルタ203を置き、識別媒体600を観察する場合を説明する。この場合、直線偏光フィルタ202の偏光方向を第1の直線偏光透過領域211の偏光方向に合わせ、直線偏光フィルタ203の偏光方向を第2の直線偏光透過領域212の偏光方向に合わせる。この際、直線偏光フィルタ202と203の偏光の方向は直交する。
【0073】
この状態で識別媒体600を観察すると、第1の直線偏光透過領域211からの光は、直線偏光202を透過するが、直線偏光フィルタ203で遮断されるため、右目151のみで観察される。他方で、第2の直線偏光透過領域212からの光は、直線偏光203を透過するが、直線偏光フィルタ202で遮断されるため、左目152のみで観察される。この結果、右目151で右目用のホログラム131が選択的に視認され、左目152で左目用のホログラム132が選択的に視認され、立体ホログラム画像が認識される。
【0074】
識別媒体600の構成を、識別媒体200〜500に適用し、識別媒体200〜500において、直交する直線偏光を利用して左右の画像を分離し、立体像を得る構成も可能である。
【0075】
(7)第7の実施形態
以下、識別媒体を傾け、見る角度を変えると、立体像をあたかも回転させたかのような見え方が得られる識別媒体の例を説明する。図11には、識別媒体700が示されている。識別媒体700は、観察する側から、偏光層101、ホログラム層702、蛍光層703、アルミ蒸着層103、粘着層104と積層された構造を有している。
【0076】
偏光層101、アルミ蒸着層103、粘着層104は、図1の識別媒体100と同じである。ホログラム層702は、細長く分割された左右のホログラムパターンを交互にストライプ状に配置した基本構造を有するが、左右のホログラムパターンがそれぞれ3種類あり、3種類のホログラム像が得られる構造とされている。ホログラム層702の下には、紫外光で蛍光する蛍光層703が設けられている。以下、この3種類のホログラム像について説明する。
【0077】
図12には、識別媒体700が表示する立体画像の対象となる立方体800が示されている。そして、立方体800から見て立方体800を左斜め前の少し上方から見た視点X1、正面の少し上方から見た視点X2、右斜め前の少し上方から見た視点X3が概念的に示されている。図3には、X1、X2、X3の各視点から見た立方体800の観察される立体像が概念的に示されている。識別媒体700は、これらX1、X2、X3の画像をホログラム立体像として表示する。
【0078】
識別媒体700のホログラム層702には、X1〜X3の各視点から見た立体像が、左右の目用の画像に分離され、更にそれが細く分割されて配置されている。詳しく述べると、偏光層101の交互に繰り返し配置された第1の部分111に対応させてX1の視点からの右目用のホログラム像のパターン711が設けられ、その隣に偏光層101の第2の部分112に対応させてX1の視点からの左目用のホログラム像のパターン712が設けられている。
【0079】
また、ホログラム層702には、偏光層101の第1の部分111に対応させてX2の視点からの右目用のホログラム像のパターン713が設けられ、その隣に偏光層101の第2の部分112に対応させてX2の視点からの左目用のホログラム像のパターン714が設けられている。
【0080】
また、ホログラム層702には、偏光層101の第1の部分111に対応させてX3の視点からの右目用のホログラム像のパターン715が設けられ、その隣に偏光層101の第2の部分112に対応させてX3の視点からの左目用のホログラム像のパターン716が設けられている。
【0081】
右目用のホログラムパターン711と左目用のホログラムパターン712とで合成される立体画像は、識別媒体700を左斜め前の方向から見た際に、図13(A)の立体画像が観察されるホログラムとされている。同様に、右目用のホログラムパターン713と左目用のホログラムパターン714とで合成される立体画像は、識別媒体700を正面の方向から見た場合に、図13(B)の立体画像が観察されるホログラムとされている。同様に、右目用のホログラムパターン715と左目用のホログラムパターン716とで合成される立体画像は、識別媒体700を右斜め前の方向から見た場合に、図13(C)の立体画像が観察されるホログラムとされている。
【0082】
図14には、右目151の前に右円偏光フィルタ153を配置し、左目152の前に左円偏光フィルタ154を配置した状態で識別媒体700を傾け、見る角度を変化させた状態が示されている。ここで、見る角度は、識別媒体700の光軸(この場合は、正面方向)と視線とのなす角度であり、図14には、θで示されている。
【0083】
図14の場合、識別媒体700を識別媒体700の斜め左前方から見る状態となる。この場合、図12の視点X1から観察した場合に相当する図13(A)の立体像が観察される。この際、右目用のホログラムパターン711からの光が第1の領域111を透過して右円偏光となり、右円偏光フィルタ153を透過して、右目151に視認される。この光は、右円偏光であるので、左円偏光フィルタ154で遮断され、左目152には届かない。
【0084】
一方、左目用のホログラムパターン712からの光は、第2の領域112を透過して左円偏光となり、左円偏光フィルタ154を透過して、左目152に視認される。この光は、左円偏光であるので、右円偏光フィルタ153で遮断され、右目151には届かない。また、この状態において、右目用のホログラムパターン713および715、左目用のホログラムパターン714および716からの光(干渉光)は、右目151、左目152の位置では結像しないので、これらホログラムパターンのホログラム像は視認できない。
【0085】
こうして、図14の状態での観察において、図13(A)の立体像が観察される。同様な原理により、図14において、θ=0°とすると、右目用のホログラムパターン713が右目151で選択的に見え、左目用のホログラムパターン714が左目152で選択的に見えるので、図13(B)の立体像が観察される。この際、X1とX3からの視点の像は、観察者側の位置では結像しないので視認されない。図14と逆の方向に識別媒体を傾けると、右目用のホログラムパターン715が右目151で選択的に見え、左目用のホログラムパターン716が左目152で選択的に見えるので、図13(C)の立体像が観察される。この際、X1とX2からの視点の像は、観察者の位置では結像しないので視認されない。
【0086】
そして、紫外光が当たる環境下では、図13に示す立体像が、蛍光層703の蛍光色に着色された状態で観察される。また、右円偏光フィルタ153と左円偏光フィルタ154を外すと、各視点において、2重にぶれた像が観察される。
【0087】
この例では、3方向の見る角度からの立体像を観察できる仕様を説明したが、見る角度の数を増やす(視点の数を増やす)ことで、見る角度の変化に従って、より滑らかに立体像を回転させたかのような見え方、あるいは立体物の回りを回転しながら観察を行ったかのような見え方を示す識別媒体が得られる。
【0088】
この例では、見る角度の変更に伴い、立体像が回転するかのような見え方を示す例を示したが、見る角度を変更すると、全く異なる立体画像に切り替わる構成も可能である。これは、第1の視点では第1の画像が現れ、第2の視点では第2の画像が現れ、・・・となるようにホログラム像を構成することで実現される。
【0089】
(その他)
図1の識別媒体100において、画像形成層102に蛍光顔料を含有させ、特定波長の光を照射した際に画像形成層102自体が蛍光する構成としてもよい。この場合、特定波長の光が当たっている環境下において、蛍光色を示す立体ホログラム像を観察することができる。
【0090】
第1の部分と第2の部分とが周期的に繰り返されたパターンとしては、ストライプパターンの他に格子パターン(チェックパターン、市松模様)を挙げることができる。また、蛍光インクと通常のインクを組み合わせて用いることもできる。この場合、特定波長の光を照射せずに蛍光させない場合に不完全であった図柄(通常インクによる図柄)が、特定波長の光を照射することで、完成された図柄として視認できる光学特性が得られる。また、蛍光インクの代わりに通常のインクのみを用いてもよい。
【0091】
右偏光の役割と左円偏光の役割を入れ替えても良い。この場合、それに対応して右目用の画像と左目用の画像の役割も入れ替える。
【0092】
図2、図3には、縦に画像を分割し、左右方向に一つ置きに右目用の縦方向に延在する細切れ画像、左目用の縦方向に延在する細切れ画像を配置する例が示されているが、横縞模様に画像を分割し、上下方向に一つ置きに右目用の横方向に延在する細切れ画像、左目用の横方向に延在する細切れ画像を配置し、偏光フィルタによって左右で視認する像を分離することで、同様な立体画像認識を行うことができる。同様な理屈により、斜め方向に延在する細切れ画像により、右目用の画像と左目用の画像を構成することもできる。つまり、ストライプの方向は限定されない。
【0093】
同様のことは、上述した格子パターンの場合や図14の構成の場合にもいえる。すなわち、重要なのは、交互に繰り返される第1のパターンと第2のパターンを有し、第1のパターンにより一方の目用の画像を構成し、第2のパターンにより他方の目用の画像を構成し、それらを偏光フィルタによって分離して左右の目で見るようにすることである。よって、第1のパターンと第2のパターンが繰り返される方向は限定されない。
【0094】
また、図14に示す構成において、識別媒体700を上下に傾けると、視点を上下方向に変えた場合のような立体像の切り替わり(あるいは別の立体像への切り替わり)が視認できる構成も可能である。この場合、上下方向における第1の見る角度で第1の左目用ホログラム像が左目で選択的に視認され、同時に第1の右目用ホログラム像が右目で選択的に視認されるようにホログラム像の結像の位置に留意したホログラム加工を施す。また上下方向における第2の見る角度で第2の左目用ホログラム像が左目で選択的に視認され、同時に第2の右目用ホログラム像が右目で選択的に視認されるようにホログラム像の結像の位置に留意したホログラム加工を施す。こうすることで、偏光フィルタを介した観察において、上下方向に傾けた場合の第1の見る角度で第1の縦ストライプで構成される第1のホログラム立体像が視認され、第2の見る角度で第2の縦ストライプで構成される第2のホログラム立体像が視認される。ただし、この場合、第1の画像と第2の画像は縦方向にとびとびに存在するので、見る角度毎の画像の種類を増やすと、識別媒体の表示面における特定の画像を構成するホログラム加工部分が占める面積が小さくなり、明度や解像度の点で注意が必要である。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明は、真贋の識別を行うための技術に利用することができる。
【符号の説明】
【0096】
100…識別媒体、101…偏光層、102…画像形成層、103…アルミ蒸着層、104…粘着層、111…観察する側に向かって右円偏光を選択的に透過する第1の部分、112…観察する側に向かって左円偏光を選択的に透過する第2の部分、113…λ/4板、122…直線偏光層、123…第1の直線偏光領域、124…第2の直線変更領域、131…右目用のホログラム、132…左目用のホログラム、151…右目、151…左目、153…右円偏光フィルタ、154…左円偏光フィルタ、170…蛍光図柄層、171…右目用蛍光像領域、172…左目用蛍光像領域。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
観察する側から、
第1の部分と第2の部分とが周期的に繰り返されたパターンを有する偏光層と、
画像が形成された画像形成層と
を順に備え、
前記第1の部分は、観察する側に向かって特定の第1の偏光状態の光を選択的に透過し、
前記第2の部分は、観察する側に向かって前記特定の第1の偏光状態とは異なる特定の第2の偏光状態の光を選択的に透過する光学特性を有し、
前記画像形成層は、前記第1の部分に対応した複数の第1の領域と前記第2の部分に対応した複数の第2の領域とを有し、
前記複数の第1の領域により一方の目用の画像が構成され、
前記複数の第2の領域により他方の目用の画像が構成されていることを特徴とする識別媒体。
【請求項2】
前記第1の部分は、観察する側に向かって第1の旋回方向の円偏光を選択的に透過する光学特性を有し、
前記第2の部分は、観察する側に向かって前記第1の旋回方向と逆旋回方向の第2の旋回方向の円偏光を選択的に透過する光学特性を有していることを特徴とする請求項1に記載の識別媒体。
【請求項3】
前記第1の部分は、観察する側に向かって第1の方向に偏光した第1の直線偏光を選択的に透過する光学特性を有し、
前記第2の部分は、観察する側に向かって前記第1の方向と直交する方向に偏光した第2の直線偏光を選択的に透過する光学特性を有していることを特徴とする請求項1に記載の識別媒体。
【請求項4】
前記一方の目用の画像と前記他方の目用の画像とがホログラム像であり、
前記ホログラム像は、見る角度に応じて複数が用意されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の識別媒体。
【請求項5】
特定の光が照射されることで蛍光する蛍光層を更に備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の識別媒体。
【請求項6】
前記一方の目用の画像と前記他方の目用の画像が特定の光が照射されることで蛍光する蛍光材料により形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の識別媒体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の識別媒体を前記第1の偏光状態の光を選択的に透過する光学フィルタを介して一方の目で観察すると共に前記第2の偏光状態の光を選択的に透過する光学フィルタを介して他方の目で観察することを特徴とする識別媒体の識別方法。
【請求項1】
観察する側から、
第1の部分と第2の部分とが周期的に繰り返されたパターンを有する偏光層と、
画像が形成された画像形成層と
を順に備え、
前記第1の部分は、観察する側に向かって特定の第1の偏光状態の光を選択的に透過し、
前記第2の部分は、観察する側に向かって前記特定の第1の偏光状態とは異なる特定の第2の偏光状態の光を選択的に透過する光学特性を有し、
前記画像形成層は、前記第1の部分に対応した複数の第1の領域と前記第2の部分に対応した複数の第2の領域とを有し、
前記複数の第1の領域により一方の目用の画像が構成され、
前記複数の第2の領域により他方の目用の画像が構成されていることを特徴とする識別媒体。
【請求項2】
前記第1の部分は、観察する側に向かって第1の旋回方向の円偏光を選択的に透過する光学特性を有し、
前記第2の部分は、観察する側に向かって前記第1の旋回方向と逆旋回方向の第2の旋回方向の円偏光を選択的に透過する光学特性を有していることを特徴とする請求項1に記載の識別媒体。
【請求項3】
前記第1の部分は、観察する側に向かって第1の方向に偏光した第1の直線偏光を選択的に透過する光学特性を有し、
前記第2の部分は、観察する側に向かって前記第1の方向と直交する方向に偏光した第2の直線偏光を選択的に透過する光学特性を有していることを特徴とする請求項1に記載の識別媒体。
【請求項4】
前記一方の目用の画像と前記他方の目用の画像とがホログラム像であり、
前記ホログラム像は、見る角度に応じて複数が用意されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の識別媒体。
【請求項5】
特定の光が照射されることで蛍光する蛍光層を更に備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の識別媒体。
【請求項6】
前記一方の目用の画像と前記他方の目用の画像が特定の光が照射されることで蛍光する蛍光材料により形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の識別媒体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の識別媒体を前記第1の偏光状態の光を選択的に透過する光学フィルタを介して一方の目で観察すると共に前記第2の偏光状態の光を選択的に透過する光学フィルタを介して他方の目で観察することを特徴とする識別媒体の識別方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2011−180496(P2011−180496A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−46397(P2010−46397)
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】
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