警報用予測震度算出装置、地震警報報知システム
【課題】地震の終了を待たずに、地震発生中に地震動の加速度から計測震度の予測値をリアルタイムに算出すること。
【解決手段】計測された地震動の上下動の加速度値を補正し、計測震度の予測値である警報用予測震度Iapを、補正後の上下動の加速度値Afu[n]と警報用予測震度Iapとの間に成立する次の関係式(1)を用いて算出する。
関係式(1):Iap=2.0αlog(Afu[n])+2.0β+0.94
但し、係数αおよび係数βは、回帰分析により算出された回帰係数である。
【解決手段】計測された地震動の上下動の加速度値を補正し、計測震度の予測値である警報用予測震度Iapを、補正後の上下動の加速度値Afu[n]と警報用予測震度Iapとの間に成立する次の関係式(1)を用いて算出する。
関係式(1):Iap=2.0αlog(Afu[n])+2.0β+0.94
但し、係数αおよび係数βは、回帰分析により算出された回帰係数である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震発生中に地震動の加速度から計測震度の予測値を高精度で算出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
地震の最中にリアルタイムに地震警報を出す場合、警報有無を判断するための地震動指標で地震動の大きさを計り、基準値(例えば震度5弱相当)を超えたら警報を出す仕組みが考えられる。このときの地震動指標には分かりやすいもの、すなわち普遍性が高いものが求められる。そして、様々にある地震動の強さを表す指標の中でも、最も普遍性が高いものは気象庁震度階級であると考えられる。
【0003】
この気象庁震度階級は計測震度により決まるものである。なお、計測震度とは、地震動の始まりから終わりまでの加速度波形をもとに、非特許文献1に示された方法に従いフィルタ処理等の計算処理を行うことで算出した値である(例えば、非特許文献1参照。)
また、地震の最中に地震動の大きさを計り、基準値を超えたら地震警報を出す仕組みとして、非特許文献2に例示される5Hz加速度(上下動、水平合成動、3成分)や、非特許文献3に例示されるリアルタイムSI値、非特許文献4に例示される速度と加速度との積和平均値(DI値)などによって地震動の大きさを計測し、一定値を超えたら警報を出す仕組みが利用されている。なお、5Hz加速度を用いる手法については新幹線及び在来線の沿線地震計に適用する例がある。また、リアルタイムSI値を用いる手法については、ガス供給インフラにて使用される例がある。また、DI値を用いる手法については、特許文献1〜3にも開示されている。
【0004】
また、地震動のごく最初の部分から最終的な震度に近いもの(DI値)を予測する仕組みとして、非特許文献5に例示されるDI値の計算方法を地震動の初期の部分にPI値を適用した例がある。なお、PI値を予測する仕組みについては「新幹線早期地震検知システム」の地震計に使用される例がある。
【特許文献1】特開2000−292547号公報
【特許文献2】特開2001−147273号公報
【特許文献3】特開2006−10664号公報
【非特許文献1】平成8年気象庁公示第4号
【非特許文献2】「国鉄における地震警報システム」中村豊、1985年、鉄道技術42−10、371〜376頁
【非特許文献3】「インテリジェント地震センサの開発」古川ほか、1999、「Savemation Review」vol.17
【非特許文献4】「合理的な地震動強度指標値の検討」中村豊、2003、土木学会地震工学論文集
【非特許文献5】「実時間逐次処理に適した計測震度相当値の概算方法」功刀卓、青井真、中村洋光、藤原広行、安達繁樹(防災科研) 日本地震学会講演予稿集秋季大会、2006、128頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、非特許文献1に開示される技術においては、計測震度を地震終了後にしか算出できず、地震の最中には算出できない。また、計測震度の計算過程が複雑であるため、計測震度を計算する装置には、高性能な、すなわち高価な演算装置と複雑なソフトウェアを搭載する事が要求される。
【0006】
また、非特許文献2に開示される技術においては、同じ加速度値でもその周波数特性が異なるために、算出した計測震度が気象庁による計測震度との間で誤差が生じるという問題がある。具体的には、±0.3程度の誤差が生じる(非特許文献4参照)。このため、不必要な警報を発生させてしまうおそれがある。
【0007】
また、非特許文献3に開示される技術においては、非特許文献2に開示される技術よりも気象庁による計測震度に近い特性を持っているために、算出した計測震度と気象庁による計測震度との誤差が非特許文献2に開示される技術を用いた場合よりも小さくなるが、それでも誤差が生じるという問題がある。具体的には、同じSI値でも、±0.3程度の誤差が生じる(非特許文献4参照)。このため、不必要な警報を発生させてしまうおそれがある。
【0008】
また、非特許文献4に開示される技術においては、気象庁による計測震度に近い特性を持っているが、算出した計測震度と気象庁による計測震度との誤差が生じるという問題がある。具体的には、同じDI値でも、±0.2程度の誤差が生じる(非特許文献4参照)。このため、不必要な警報を発生させてしまうおそれがある。
【0009】
また、非特許文献5に開示される技術は、DI値の算出方法を地震動の初動部分に適用して、後の震度を予測することを目指したものであるが、計測震度との相関については研究結果が公表されていない。なお、本技術については、原理上、震度との相関がDI値を用いる場合よりも劣ると考えられ、そのために不必要な警報を多く発生させてしまうおそれがある。
【0010】
本発明は、このような不具合に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、地震の終了を待たずに、地震発生中に地震動の加速度から計測震度の予測値をリアルタイムに算出する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するためになされた請求項1に係る警報用予測震度算出装置によれば、取得手段(51:この欄においては、発明に対する理解を容易にするため、必要に応じて「発明を実施するための最良の形態」欄で用いた符号を付すが、この符号によって請求の範囲を限定することを意味するものではない。)が、加速度センサなどによって計測された地震動の上下動の加速度値を取得し、補正手段が、取得手段によって取得された地震動の上下動の加速度値を補正する。そして、算出手段が、計測震度の予測値である警報用予測震度Iapを、補正手段による補正後の上下動の加速度値Afu[n]と警報用予測震度Iapとの間に成立する次の関係式(1)を用いて算出する。
【0012】
関係式(1):Iap=2.0αlog(Afu[n])+2.0β+0.94
但し、係数αおよび係数βは、回帰分析により予め算出された回帰係数である。
このように構成された本発明の地震震度予測装置によれば、地震の終了を待たずに、地震発生中に計測した地震動の加速度から計測震度の予測値をリアルタイムに算出することができる。
【0013】
また、警報用予測震度による地震警報は、図5に例示するように、最終的な震度とは若干の誤差を含むものであるが、一方で、図6に例示するように、従来技術と同等の過敏警報発生頻度でありながら、最も早くに警報を出す事ができるものであるため、地震時の安全確保に資することができる。
【0014】
この場合、請求項2のように、補正手段が、取得手段によって取得された地震動の上下動の加速度値を、バンドパスフィルタを用いて補正することが考えられる。一例を挙げると、補正手段が、地震動の上下動の加速度値を次の関係式(2)を用いて補正するといった具合である(請求項3)。
【0015】
関係式(2):y[n]=b1x[n]+b2x[n−1]+b3x[n−2] −a2y[n−1] −a3y[n−2]
但し、x[n]はサンプリング時刻(i)における加速度振幅値であり、x[n−1]はサンプリング時刻(i−1)における加速度振幅値であり、x[n−2]はサンプリング時刻(i−2)における加速度振幅値であり、y[n]は、サンプリング時間iΔtにおける出力、すなわち補正後の加速度値であり、y[
n−1]は、サンプリング時間(i−1)Δtにおける出力、すなわち補正後の
加速度値であり、また、y[n−2]は、サンプリング時間(i−2)Δtにお
ける出力、すなわち補正後の加速度値であり、係数b1、係数b2、係数b3、係数a2および係数a3については予め実験等によって設定された係数である。
【0016】
このようにすれば、公示上の方法では、地震波形全体を周波数領域にFourier変換し、所定のフィルタ処理を施した後、Fourier逆変換により時間領域に地震波形を戻す演算を行っているのに対して、本発明では、地震動の上下動の加速度値をバンドパスフィルタを用いて補正することで、上述の公示上の方法における三つの処理を一つのバンドパスフィルタによる処理で行うことができ、処理に要する時間を短縮することができるとともに、処理装置の負担を軽減することができる。
【0017】
ところで、上記課題を解決するためになされた請求項4に係る地震警報報知システムは、請求項1〜請求項3の何れかに記載の、複数の警報用予測震度算出装置と、中央処理装置とを備え、前記複数の警報用予測震度算出装置と前記中央処理装置とが互いにデータの送受信が可能である。
【0018】
このうち複数の警報用予測震度算出装置はそれぞれ、中央処理装置との間で各種情報を送受信する装置側通信手段と、算出手段によって算出された前記警報用予測震度Iap、警報用予測震度Iapを算出する際に用いられた計測加速度値の計測時刻、および送信元の警報用予測震度算出装置を特定する情報を少なくとも含む警報用予測震度データを、装置側通信手段を制御して中央処理装置へ送信させる通信制御手段と、を備える。
【0019】
一方、中央処理装置は、複数の警報用予測震度算出装置それぞれとの間で各種情報を送受信するセンタ側通信手段と、センタ側通信手段が受信した警報用予測震度データを記憶する記憶手段と、記憶手段が記憶する一つ以上の警報用予測震度データを分析し、その分析結果に基づいて各警報用予測震度算出装置ごとに連絡すべき地震警報を決定する地震警報決定手段と、地震警報内容決定手段によって決定された地震警報を連絡する地震警報連絡手段と、を備える。
【0020】
このように構成された本発明の地震警報報知システムによれば、中央処理装置が、各地の警報用予測震度算出装置から送信された警報用予測震度を把握するとともに、各地の警報用予測震度算出装置ごとに連絡すべき地震警報を決定して連絡する。このことにより、地震が発生したらリアルタイムにその震度を予測し、必要に応じて各地に地震警報を早期に発令することできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に本発明の実施形態を図面とともに説明する。
[第一実施形態]
図1は、第一実施形態の地震計1の概略構成図である。
【0022】
[地震計1の構成の説明]
図1に示すように、警報用予測震度算出装置としての地震計1は、加速度センサ10、A/D変換部20、タイマー制御部30、GPS時計40、信号処理部50、モード遷移部60および出力制御部70、を備える。
【0023】
加速度センサ10は地震動の3成分(上下、南北、東西)の加速度を計測し、その計測した加速度値をアナログの信号としてA/D変換部20へ出力する。
A/D変換部20は、加速度センサ10から出力されたアナログの信号をデジタルの信号に変換するとともに、タイマー制御部30から出力された時刻情報をタイムスタンプとして信号に付加し、信号処理部50の通常処理部51へ出力する。
タイマー制御部30から出力された時刻情報をタイムスタンプとして信号に付加する。
【0024】
GPS時計40は、GPS衛星(図示省略)からの到来電波をGPSアンテナ(図示省略)により受信し、受信した電波に含まれる時刻情報を抽出する。そして、GPS時計40は、抽出した時刻情報をタイマー制御部30へ出力する。
【0025】
タイマー制御部30は、GPS時計40を制御するとともに、GPS時計40から出力された時刻情報を、A/D変換部20、信号処理部50およびモード遷移部60へ出力する。
【0026】
信号処理部50は、通常処理部51と、警報用計測震度及び警報用予測震度計算部(以下計算部)52とを有する。なお、通常処理部51は取得手段に該当し、計算部52は補正手段および算出手段に該当する。
【0027】
このうち通常処理部51は、周知のCPU、ROM、RAM、入出力回路であるI/Oおよびこれらの構成を接続するバスライン、入力操作からの信号の処理を行なう信号処理回路、計算部52やタイマー制御部30などの各部を制御するための信号出力回路等を備えている。CPUは、ROMおよびRAMに記憶された制御プログラムおよびデータにより制御を行なう。ROMは、プログラム格納領域とデータ記憶領域とを有している。プログラム格納領域には制御プログラムが格納され、データ記憶領域には制御プログラムの動作に必要なデータが格納されている。また、制御プログラムは、RAM上にてワークメモリを作業領域とする形で動作する。
【0028】
このように構成された通常処理部51は、A/D変換部20から出力されたデジタル変換後の地震動の加速度値を取得し、信号処理部50内部にて計算部52へ出力する。
また、計算部52は、通常処理部51と同様に、周知のCPU、ROM、RAM、入出力回路であるI/Oおよびこれらの構成を接続するバスラインなどで構成され、後述する警報用計測震度および警報用予測震度を算出する処理などを実行する。
【0029】
モード遷移部60は、不揮発性メモリで構成され、地震が発生してか否かを示すフラグなどの各種データを記憶するのに利用される。なお、このフラグの種類としては、地震が発生していることを示す地震モードのフラグと、地震が発生していないことを示す通常モードのフラグとがある。
【0030】
出力制御部70は、通常処理部51と同様に、周知のCPU、ROM、RAM、入出力回路であるI/Oおよびこれらの構成を接続するバスラインなどで構成され、信号処理部50の計算部52によって算出された警報用計測震度および警報用予測震度を外部に出力する。
【0031】
[警報用計測震度および警報用予測震度の算出について]
(A)本出願人は、帯域の狭いバンドパスフィルタを重ね合わせ、気象庁定義のフィルタに近い特性をもつ下記の漸化式フィルタ(式1)を作成した。つまり、フィルタ後加速度値y[n]は、地震動を常時観測したときの地震波形の時系列データの加速度振幅値x[n]、以前のサンプリングタイミングでの加速度振幅値x[n−1]、x[n−2]、以前のサンプリングタイミングでのフィルタ後加速度値y[n−1]、y[n−2]をもとに、下記の式(1)により計算できる。なお、式(1)で表されるフィルタの特性を図2に示す。また、この計算は3成分(上下、南北、東西)の加速度値それぞれに対して行われる。
y[n]=b1x[n]+b2x[n−1]+b3x[n−2] −a2y[n−1] −a3y[n−2]…式(1)
但し、x[n]はサンプリング時刻(i)における加速度振幅値であり、x[n−1]はサンプリング時刻(i−1)における加速度振幅値であり、x[n−2]はサンプリング時刻(i−2)における加速度振幅値であり、y[n]は、サンプリング時間iΔtにおける出力、すなわちフィルタ処理後の加速度値であ
り、y[n−1]は、サンプリング時間(i−1)Δtにおける出力、すなわち
フィルタ処理後の加速度値であり、また、y[n−2]は、サンプリング時間(i−2)Δtにおける出力、すなわちフィルタ処理後の加速度値であり、係数b
1、係数b2、係数b3、係数a2および係数a3については予め実験等によって設定された係数である。
【0032】
なお、本実施形態では、係数b1は数値「0.06089422」に設定され、係数b2は数値「0」に設定され、係数b3は数値「−0.06089422」に設定され、係数a2は数値「−1.88625943」に設定され、係数a3は数値「0.89850964」に設定される。
【0033】
(B)そして、ある時刻(サンプリング時刻)まで求めた3成分(上下、南北、東西)のフィルタ後加速度値y[n]のベクトル合成値v[n]が気象庁公示の計算方法におけるv[n]と同様と考えれば、v[n]をもとに計測震度Iaを求める手順は、公示の手順に準拠する事ができる。すなわち、v[n]を降順に並べ替え、最大値から30番目(100Hzサンプリングの場合)となるv[n]をamaxとし、次の式(2)により計測震度Iaを求めることができる。
Ia=2.0log(amax)+0.94…式(2)
なお、図3は、警報用予測震度と計測震度とを比較した結果を示す説明図(1)である。なお、公示どおりの方法で計算した計測震度Ijmaと区別するため、本件の手法により算出する計測震度を「警報用計測震度」と呼ぶことにする。図3が示すように、過去の地震(5403地震波形、マグニチュード6.0以上)について、この方法で計算した警報用計測震度Iと計測震度Ijmaとを比較した結果から、両者の差の平均値は0.083、標準偏差は0.058であることが判る。計測震度の実効桁数は小数点第2位であるから、警報用計測震度は必要十分な精度で計測震度を再現していることが判る。
【0034】
(C)ところで、地震動の最初の部分はP波であり、P波では水平動より上下動が卓越する事は良く知られている。このことから、本出願人は、地震動の最初の部分から最終的な震度を予測するには、上下動に着目するのが良いと考え、上下動の最大値から最終的な計測震度を予測するための相関式を作成した。すなわち、3成分の加速度値について、警報用計測震度フィルタ処理し、そのうちの上下動加速度の最大値(以下Afu)を説明変数(x)とし、3成分合成値に0.3秒ルールを適用した後の最大値amaxをyとして、累乗近似による回帰係数を求め(図4参照)、この回帰係数と式(2)をもとに式(3)を作成した。式(3)は、Afu[n]の最大値から震度相当値を算出する式であるが、Afu[n]を任意の時刻に拡張することで、計測震度の予測値Iap(以下「警報用予測震度」と呼ぶ)を算出する式となる。
Iap=2.0αlog(Afu[n])+2.0β+0.94…式(3)
但し、係数αおよび係数βは、回帰分析により算出された回帰係数であり、上下動加速度Afu[n]は、サンプリング時刻iにおける3成分の加速度値について警報用計測震度フィルタ処理を行った場合の上下動加速度である。なお、本実施形態では、係数αは数値「0.9931」に設定され、係数βは数値「0.3456」に設定される。
【0035】
(D)なお、地震の警報を報知するタイミングを早めるためには、どのような指標であっても、閾値さえ下げればよいが、その一方で、被害が発生せず、結果として不要となる警報(以下空振り警報)を増やすことになる。したがって、警報の早期性の面で地震警報の判断指標間の優劣を考えるときには、空振り警報の発生頻度が同程度となる閾値を設定し、その閾値で警報が必要となる地震に対する警報の早期性を検討すべきである。そこで、鉄道の沿線地震計による地震警報の指標として長年使用されてきた5Hz加速度40galでの空振り警報頻度と同レベルになるよう、警報用予測震度による地震警報の閾値を設定した。なお、図5は、警報用予測震度による地震警報の早さを示した説明図であり、グラフ上の左上に張り出すような形になるほど、早いタイミングで警報が出る事を示している。参考として、既存技術である5Hz加速度、リアルタイムSI値(非特許文献2参照)、PI値(非特許文献3を基づいて推察した方法で算出)についても警報用予測震度と同様の解析を行った。このことから、警報用予測震度は既存技術と比較しても警報をより早期に報知可能な指標であることが判る。
【0036】
[警報用予測震度算出処理の説明]
次に、地震計1の信号処理部50が実行する警報用予測震度算出処理を、図7のフローチャートを参照して説明する。この処理は、地震計1が通電状態にある際に実行される。
【0037】
まず、地震動の加速度値を取得する(S105)。具体的には、加速度センサ10が、3成分(上下、南北、東西)の加速度値を常時計測しており、A/D変換部20が、その計測された加速度値をデジタル変換している。そして、信号処理部50の通常処理部51が、A/D変換部20から出力されたデジタル変換後の地震動の加速度値を取得し、信号処理部50内部にて計算部52へ出力する。
【0038】
続いて、信号処理部50の計算部52が、上述の式(1)を用いて、入力された加速度値に対して加速度波形フィルタ処理を実行する(S110)。この処理によってフィルタ処理後の加速度値が算出される。
【0039】
続いて、計算部52が、上述の式(2)および式(3)を用いて、各サンプルでの警報用計測震度Iaおよび警報用予測震度Iapを算出する(S115)。
続いて、通常処理部51が、モード遷移部60が記憶するフラグを参照して、通常状態を示す通常モードであるか否かを判断する(S120)。現在、通常モードであると判断された場合には(S120:YES)、S105にて計測された加速度値が基準値よりも大きいか否かを判断する(S125)。なお、基準値については過去の地震に関する分析結果に基づいて予め設定されている。加速度値が基準値よりも大きいと判断された場合には(S125:YES)、地震発生中と判断してモード遷移部60が記憶するフラグを通常モードから地震モードへ変更し(S130)、S105に戻り、一方、加速度の値が基準値以下であると判断された場合には(S125:NO)、そのままS105に戻る。
【0040】
一方、現在、通常モードではなく地震モードであると判断された場合には(S120:NO)、通常処理部51が、警報用予測震度Iapが基準値よりも大きいか否かを判断する(S135)。なお、基準値については過去の地震に関する分析結果に基づいて予め設定されている。警報用予測震度Iapが基準値よりも大きいと判断された場合には(S135:YES)、通常処理部51が、出力制御部70を制御して早期警報を発信させ(S140)、S145に移行する。一方、警報用予測震度Iapが基準値以下であると判断された場合には(S135:NO)、そのままS145に移行する。
【0041】
続いて、通常処理部51が、警報用計測震度Iaが基準値よりも大きいか否かを判断する(S145)。なお、基準値については過去の地震に関する分析結果に基づいて予め設定されている。警報用計測震度Iaが基準値よりも大きいと判断された場合には(S145:YES)、通常処理部51が、出力制御部70を制御して震度警報を発信させ(S150)、S155に移行する。一方、警報用計測震度Iaが基準値以下であると判断された場合には(S145:NO)、そのままS155に移行する。
【0042】
続いて、通常処理部51が、S105にて計測された加速度値が基準値よりも小さいか否かを判断する(S155)。なお、基準値については過去の地震に関する分析結果に基づいて予め設定されている。加速度値が基準値よりも小さいと判断された場合には(S155:YES)、通常処理部51が、地震が終了したと判断してモード遷移部60が記憶するフラグを地震モードから通常モードへ変更し(S160)、S105に戻る。一方、加速度値が基準値以上であると判断された場合には(S155:NO)、そのままS105に戻る。
【0043】
[第一実施形態の効果]
(1)このように第一実施形態の地震計1によれば、計測された地震動の加速度値を補正し、警報用計測震度Iaを、上述の式(2)を用いて算出するとともに、計測震度の予測値である警報用予測震度Iapを、補正後の加速度値Afu[n]と警報用予測震度Iapとの間に成立する上述の式(3)を用いて算出する。したがって、地震の終了を待たずに、地震発生中に計測した地震動の加速度から計測震度の予測値をリアルタイムに算出することができる。
【0044】
また、警報用計測震度は、図4に例示するように、地震動終息後は計測震度にほぼ一致するので、計測震度と地震被害との相関が高くかつ極めて早期性が要求される分野へ迅速で正確な警報を提供するという効果がある。
【0045】
さらに、どの既存技術よりもはるかに計算処理が簡易であるため、計算装置に搭載する演算装置を安価なものですませることができ、またソフトウェア開発にかかる手間すなわち開発費も安価にすることができる。これにより、計測震度とほぼ同等の地震動指標を得るための設備投資費を安価に済ませることができる。
【0046】
また、警報用予測震度による地震警報は、図5に例示するように、最終的な震度とは若干の誤差を含むものであるが、一方で、図6に例示するように、従来技術と同等の過敏警報発生頻度でありながら、最も早くに警報を出す事ができるものであるため、地震時の安全確保に資することができる。
【0047】
(2)また、第一実施形態の地震計1によれば、地震動の上下動の加速度値を上述の式(1)のバンドパスフィルタを用いて補正する。このことにより、公示上の方法では、地震波形全体を周波数領域にFourier変換し、所定のフィルタ処理を施した後、Fourier逆変換により時間領域に地震波形を戻す演算を行っているのに対して、地震動の上下動の加速度値をバンドパスフィルタを用いて補正することで、上述の公示上の方法における三つの処理を一つのバンドパスフィルタによる処理で行うことができ、処理に要する時間を短縮することができるとともに、処理装置の負担を軽減することができる。
【0048】
[他の実施形態]
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、以下のように様々な態様にて実施することが可能である。
【0049】
(1)図10(a)に例示するように、本発明を、複数の地震計1と、中央処理装置3とを備え、複数の地震計1と中央処理装置3とが互いにデータの送受信が可能な地震警報報知システム100として実現してもよい。具体的には、地震計1はそれぞれ、中央処理装置3との間で各種情報を送受信する装置側通信手段と、警報用予測震度Iap、警報用予測震度Iapを算出する際に用いられた加速度値の計測時刻、および送信元の地震計1を特定する情報を少なくとも含む警報用予測震度データを、装置側通信手段を制御して中央処理装置3へ送信させる通信制御手段と、を備える。一方、中央処理装置3は、複数の地震計1それぞれとの間で各種情報を送受信するセンタ側通信手段と、センタ側通信手段が受信した警報用予測震度データを記憶する記憶手段と、記憶手段が記憶する一つ以上の警報用予測震度データを分析し、その分析結果に基づいて各地震計1ごとに連絡すべき地震警報を決定する地震警報決定手段と、地震警報内容決定手段によって決定された地震警報を連絡する地震警報連絡手段と、を備える。
【0050】
この場合、地震警報決定手段は、計測震度に応じて地震警報としての安全確認手続を決定する。一例を挙げると、図10(b)に例示するように、計測震度が「0.0〜3.9」である場合には、安全確認手続として「規制なし」を決定し、計測震度が「4.0〜4.4」である場合には、安全確認手続として「徐行運転」を決定し、計測震度が「4.5〜4.9」である場合には、安全確認手続として「部分地上巡回」を決定し、計測震度が「5.0〜5.4」である場合には、安全確認手続として「全線地上巡回および部分構造物点検」を決定し、計測震度が「5.5〜」である場合には、安全確認手続として「全線地上巡回および構造物点検」を決定するといった具合である。
【0051】
このようにすれば、中央処理装置3が、各地の地震計1から送信された警報用予測震度を把握するとともに、各地の地震計1ごとに連絡すべき地震警報としての安全確認手続を決定して連絡する。このことにより、地震が発生したらリアルタイムにその震度を予測し、必要に応じて各地に安全確認手続を早期に発令することできる。
【0052】
(2)上記実施形態では、地震動の加速度値に対してデジタル変換時に時刻情報を付加する。具体的には、A/D変換部20が、加速度センサ10から出力されたアナログの信号をデジタルの信号に変換するとともに、タイマー制御部30から出力された時刻情報をタイムスタンプとして信号に付加し、信号処理部50の通常処理部51へ出力する。すなわち、地震動の加速度値に対してデジタル変換時に時刻情報を付加する。これに対して、デジタル変換後の地震動の加速度値に対して時刻情報を付加するようにしてもよい。一例を挙げると、通常処理部51が、A/D変換部20から出力されたデジタル変換後の地震動の加速度値を取得し、その取得したデジタル変換後の地震動の加速度値に対して時刻情報を付加して計算部52へ出力するといった具合である。また、通常処理部51ではなく、計算部52がデジタル変換後の地震動の加速度値に対して時刻情報を付加するようにしてもよい。
[第二実施形態]
図8は、第二実施形態の地震計2の概略構成図である。
【0053】
[地震計2の構成の説明]
図8に示すように、警報用予測震度算出装置としての地震計2は、加速度センサ10、A/D変換部20、タイマー制御部30、GPS時計40、信号処理部80、モード遷移部60および出力制御部70、を備える。なお、加速度センサ10、A/D変換部20、タイマー制御部30、GPS時計40、モード遷移部60および出力制御部70については、第一実施形態の地震計1が備える各構成と同一であるので、ここではその詳細な説明は省略する。
【0054】
信号処理部80は、通常処理部51と、計算部52と、従来各種指標計算部81とを有する。なお、通常処理部51および計算部52については、第一実施形態の地震計1が備える各構成と同一であるので、ここではその詳細な説明は省略する。
【0055】
従来各種指標計算部81は、上述の非特許文献2〜4に開示される手法により、5Hz加速度(上下動、水平合成動、3成分)や、リアルタイムSI値、速度と加速度との積和平均値(DI値)などによって地震動の大きさを計測する。
【0056】
[警報用予測震度算出処理の説明]
次に、地震計2の信号処理部80が実行する警報用予測震度算出処理を、図9のフローチャートを参照して説明する。この処理は、地震計2が通電状態にある際に実行される。
【0057】
本処理が、地震計1の信号処理部50が実行する警報用予測震度算出処理と異なる点は、S115を実行した後にS210を実行する点、およびS150を実行したときに肯定判定がなされた場合にS220およびS230を実行する点である。以下、順に説明する。
【0058】
まず、S210では、従来各種指標計算部81が、上述の非特許文献2〜4に開示される手法により、5Hz加速度(上下動、水平合成動、3成分)や、リアルタイムSI値、速度と加速度との積和平均値(DI値)などによって地震動の大きさを計測する。
【0059】
また、S220では、通常処理部51が、従来の各種指標が基準値よりも大きいか否かを判断する。なお、基準値については過去の地震に関する分析結果に基づいて予め設定されている。従来の各種指標が基準値よりも大きいと判断された場合には(S220:YES)、通常処理部51が、出力制御部70を制御して震度警報を発信させ(S230)、S155に移行する。一方、従来の各種指標が基準値以下であると判断された場合には(S220:NO)、そのままS155に移行する。
【0060】
[第二実施形態の効果]
このように第二実施形態の地震計2によれば、従来の各種指標によっても震度警報を発生させる必要性を判断するので、地震発生時における警報発生の精度を高めることができる。
【0061】
[他の実施形態]
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、以下のように様々な態様にて実施することが可能である。
【0062】
(1)本発明を、複数の地震計2と、中央処理装置3とを備え、複数の地震計1と中央処理装置3とが互いにデータの送受信が可能な地震警報報知システム100として実現してもよい。具体的には、図10(a)に例示する地震警報報知システム100において、地震計1の代わりに地震計2を設置する。
【0063】
このようにすれば、中央処理装置3が、各地の地震計2から送信された警報用予測震度を把握するとともに、各地の地震計2ごとに連絡すべき地震警報としての安全確認手続を決定して連絡する。このことにより、地震が発生したらリアルタイムにその震度を予測し、必要に応じて各地に安全確認手続を早期に発令することできる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】第一実施形態の地震計の概略構成図である。
【図2】加速度値を補正する際に用いるフィルタの特性を示す説明図である。
【図3】警報用予測震度と計測震度とを比較した結果を示す説明図(1)である。
【図4】0.3秒ルール適用後の3D最大値y[gal](最終時刻)とIIR後の上下動加速度の最大値Afu[gal](最大時刻)との相関関係を示す説明図である。
【図5】警報用予測震度と計測震度とを比較した結果を示す説明図(2)である。
【図6】指標別の警報タイミングを比較した結果を示す説明図である。
【図7】第一実施形態の地震計が実行する警報用予測震度算出処理を説明するフローチャートである。
【図8】第二実施形態の地震計の概略構成図である。
【図9】第二実施形態の地震計が実行する警報用予測震度算出処理を説明するフローチャートである。
【図10】(a)地震警報システムの概略構成図であり、(b)は計測震度と安全確認手続との対応関係を示す説明図である。
【符号の説明】
【0065】
1,2…地震計、3…中央処理装置、10…加速度センサ、20…A/D変換部、30…タイマー制御部、40…GPS時計、50,80…信号処理部、51…通常処理部、52…警報用計測震度及び警報用予測震度計算部、60…モード遷移部、70…出力制御部、80…信号処理部、81…従来各種指標計算部、100…地震警報報知システム
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震発生中に地震動の加速度から計測震度の予測値を高精度で算出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
地震の最中にリアルタイムに地震警報を出す場合、警報有無を判断するための地震動指標で地震動の大きさを計り、基準値(例えば震度5弱相当)を超えたら警報を出す仕組みが考えられる。このときの地震動指標には分かりやすいもの、すなわち普遍性が高いものが求められる。そして、様々にある地震動の強さを表す指標の中でも、最も普遍性が高いものは気象庁震度階級であると考えられる。
【0003】
この気象庁震度階級は計測震度により決まるものである。なお、計測震度とは、地震動の始まりから終わりまでの加速度波形をもとに、非特許文献1に示された方法に従いフィルタ処理等の計算処理を行うことで算出した値である(例えば、非特許文献1参照。)
また、地震の最中に地震動の大きさを計り、基準値を超えたら地震警報を出す仕組みとして、非特許文献2に例示される5Hz加速度(上下動、水平合成動、3成分)や、非特許文献3に例示されるリアルタイムSI値、非特許文献4に例示される速度と加速度との積和平均値(DI値)などによって地震動の大きさを計測し、一定値を超えたら警報を出す仕組みが利用されている。なお、5Hz加速度を用いる手法については新幹線及び在来線の沿線地震計に適用する例がある。また、リアルタイムSI値を用いる手法については、ガス供給インフラにて使用される例がある。また、DI値を用いる手法については、特許文献1〜3にも開示されている。
【0004】
また、地震動のごく最初の部分から最終的な震度に近いもの(DI値)を予測する仕組みとして、非特許文献5に例示されるDI値の計算方法を地震動の初期の部分にPI値を適用した例がある。なお、PI値を予測する仕組みについては「新幹線早期地震検知システム」の地震計に使用される例がある。
【特許文献1】特開2000−292547号公報
【特許文献2】特開2001−147273号公報
【特許文献3】特開2006−10664号公報
【非特許文献1】平成8年気象庁公示第4号
【非特許文献2】「国鉄における地震警報システム」中村豊、1985年、鉄道技術42−10、371〜376頁
【非特許文献3】「インテリジェント地震センサの開発」古川ほか、1999、「Savemation Review」vol.17
【非特許文献4】「合理的な地震動強度指標値の検討」中村豊、2003、土木学会地震工学論文集
【非特許文献5】「実時間逐次処理に適した計測震度相当値の概算方法」功刀卓、青井真、中村洋光、藤原広行、安達繁樹(防災科研) 日本地震学会講演予稿集秋季大会、2006、128頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、非特許文献1に開示される技術においては、計測震度を地震終了後にしか算出できず、地震の最中には算出できない。また、計測震度の計算過程が複雑であるため、計測震度を計算する装置には、高性能な、すなわち高価な演算装置と複雑なソフトウェアを搭載する事が要求される。
【0006】
また、非特許文献2に開示される技術においては、同じ加速度値でもその周波数特性が異なるために、算出した計測震度が気象庁による計測震度との間で誤差が生じるという問題がある。具体的には、±0.3程度の誤差が生じる(非特許文献4参照)。このため、不必要な警報を発生させてしまうおそれがある。
【0007】
また、非特許文献3に開示される技術においては、非特許文献2に開示される技術よりも気象庁による計測震度に近い特性を持っているために、算出した計測震度と気象庁による計測震度との誤差が非特許文献2に開示される技術を用いた場合よりも小さくなるが、それでも誤差が生じるという問題がある。具体的には、同じSI値でも、±0.3程度の誤差が生じる(非特許文献4参照)。このため、不必要な警報を発生させてしまうおそれがある。
【0008】
また、非特許文献4に開示される技術においては、気象庁による計測震度に近い特性を持っているが、算出した計測震度と気象庁による計測震度との誤差が生じるという問題がある。具体的には、同じDI値でも、±0.2程度の誤差が生じる(非特許文献4参照)。このため、不必要な警報を発生させてしまうおそれがある。
【0009】
また、非特許文献5に開示される技術は、DI値の算出方法を地震動の初動部分に適用して、後の震度を予測することを目指したものであるが、計測震度との相関については研究結果が公表されていない。なお、本技術については、原理上、震度との相関がDI値を用いる場合よりも劣ると考えられ、そのために不必要な警報を多く発生させてしまうおそれがある。
【0010】
本発明は、このような不具合に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、地震の終了を待たずに、地震発生中に地震動の加速度から計測震度の予測値をリアルタイムに算出する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するためになされた請求項1に係る警報用予測震度算出装置によれば、取得手段(51:この欄においては、発明に対する理解を容易にするため、必要に応じて「発明を実施するための最良の形態」欄で用いた符号を付すが、この符号によって請求の範囲を限定することを意味するものではない。)が、加速度センサなどによって計測された地震動の上下動の加速度値を取得し、補正手段が、取得手段によって取得された地震動の上下動の加速度値を補正する。そして、算出手段が、計測震度の予測値である警報用予測震度Iapを、補正手段による補正後の上下動の加速度値Afu[n]と警報用予測震度Iapとの間に成立する次の関係式(1)を用いて算出する。
【0012】
関係式(1):Iap=2.0αlog(Afu[n])+2.0β+0.94
但し、係数αおよび係数βは、回帰分析により予め算出された回帰係数である。
このように構成された本発明の地震震度予測装置によれば、地震の終了を待たずに、地震発生中に計測した地震動の加速度から計測震度の予測値をリアルタイムに算出することができる。
【0013】
また、警報用予測震度による地震警報は、図5に例示するように、最終的な震度とは若干の誤差を含むものであるが、一方で、図6に例示するように、従来技術と同等の過敏警報発生頻度でありながら、最も早くに警報を出す事ができるものであるため、地震時の安全確保に資することができる。
【0014】
この場合、請求項2のように、補正手段が、取得手段によって取得された地震動の上下動の加速度値を、バンドパスフィルタを用いて補正することが考えられる。一例を挙げると、補正手段が、地震動の上下動の加速度値を次の関係式(2)を用いて補正するといった具合である(請求項3)。
【0015】
関係式(2):y[n]=b1x[n]+b2x[n−1]+b3x[n−2] −a2y[n−1] −a3y[n−2]
但し、x[n]はサンプリング時刻(i)における加速度振幅値であり、x[n−1]はサンプリング時刻(i−1)における加速度振幅値であり、x[n−2]はサンプリング時刻(i−2)における加速度振幅値であり、y[n]は、サンプリング時間iΔtにおける出力、すなわち補正後の加速度値であり、y[
n−1]は、サンプリング時間(i−1)Δtにおける出力、すなわち補正後の
加速度値であり、また、y[n−2]は、サンプリング時間(i−2)Δtにお
ける出力、すなわち補正後の加速度値であり、係数b1、係数b2、係数b3、係数a2および係数a3については予め実験等によって設定された係数である。
【0016】
このようにすれば、公示上の方法では、地震波形全体を周波数領域にFourier変換し、所定のフィルタ処理を施した後、Fourier逆変換により時間領域に地震波形を戻す演算を行っているのに対して、本発明では、地震動の上下動の加速度値をバンドパスフィルタを用いて補正することで、上述の公示上の方法における三つの処理を一つのバンドパスフィルタによる処理で行うことができ、処理に要する時間を短縮することができるとともに、処理装置の負担を軽減することができる。
【0017】
ところで、上記課題を解決するためになされた請求項4に係る地震警報報知システムは、請求項1〜請求項3の何れかに記載の、複数の警報用予測震度算出装置と、中央処理装置とを備え、前記複数の警報用予測震度算出装置と前記中央処理装置とが互いにデータの送受信が可能である。
【0018】
このうち複数の警報用予測震度算出装置はそれぞれ、中央処理装置との間で各種情報を送受信する装置側通信手段と、算出手段によって算出された前記警報用予測震度Iap、警報用予測震度Iapを算出する際に用いられた計測加速度値の計測時刻、および送信元の警報用予測震度算出装置を特定する情報を少なくとも含む警報用予測震度データを、装置側通信手段を制御して中央処理装置へ送信させる通信制御手段と、を備える。
【0019】
一方、中央処理装置は、複数の警報用予測震度算出装置それぞれとの間で各種情報を送受信するセンタ側通信手段と、センタ側通信手段が受信した警報用予測震度データを記憶する記憶手段と、記憶手段が記憶する一つ以上の警報用予測震度データを分析し、その分析結果に基づいて各警報用予測震度算出装置ごとに連絡すべき地震警報を決定する地震警報決定手段と、地震警報内容決定手段によって決定された地震警報を連絡する地震警報連絡手段と、を備える。
【0020】
このように構成された本発明の地震警報報知システムによれば、中央処理装置が、各地の警報用予測震度算出装置から送信された警報用予測震度を把握するとともに、各地の警報用予測震度算出装置ごとに連絡すべき地震警報を決定して連絡する。このことにより、地震が発生したらリアルタイムにその震度を予測し、必要に応じて各地に地震警報を早期に発令することできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に本発明の実施形態を図面とともに説明する。
[第一実施形態]
図1は、第一実施形態の地震計1の概略構成図である。
【0022】
[地震計1の構成の説明]
図1に示すように、警報用予測震度算出装置としての地震計1は、加速度センサ10、A/D変換部20、タイマー制御部30、GPS時計40、信号処理部50、モード遷移部60および出力制御部70、を備える。
【0023】
加速度センサ10は地震動の3成分(上下、南北、東西)の加速度を計測し、その計測した加速度値をアナログの信号としてA/D変換部20へ出力する。
A/D変換部20は、加速度センサ10から出力されたアナログの信号をデジタルの信号に変換するとともに、タイマー制御部30から出力された時刻情報をタイムスタンプとして信号に付加し、信号処理部50の通常処理部51へ出力する。
タイマー制御部30から出力された時刻情報をタイムスタンプとして信号に付加する。
【0024】
GPS時計40は、GPS衛星(図示省略)からの到来電波をGPSアンテナ(図示省略)により受信し、受信した電波に含まれる時刻情報を抽出する。そして、GPS時計40は、抽出した時刻情報をタイマー制御部30へ出力する。
【0025】
タイマー制御部30は、GPS時計40を制御するとともに、GPS時計40から出力された時刻情報を、A/D変換部20、信号処理部50およびモード遷移部60へ出力する。
【0026】
信号処理部50は、通常処理部51と、警報用計測震度及び警報用予測震度計算部(以下計算部)52とを有する。なお、通常処理部51は取得手段に該当し、計算部52は補正手段および算出手段に該当する。
【0027】
このうち通常処理部51は、周知のCPU、ROM、RAM、入出力回路であるI/Oおよびこれらの構成を接続するバスライン、入力操作からの信号の処理を行なう信号処理回路、計算部52やタイマー制御部30などの各部を制御するための信号出力回路等を備えている。CPUは、ROMおよびRAMに記憶された制御プログラムおよびデータにより制御を行なう。ROMは、プログラム格納領域とデータ記憶領域とを有している。プログラム格納領域には制御プログラムが格納され、データ記憶領域には制御プログラムの動作に必要なデータが格納されている。また、制御プログラムは、RAM上にてワークメモリを作業領域とする形で動作する。
【0028】
このように構成された通常処理部51は、A/D変換部20から出力されたデジタル変換後の地震動の加速度値を取得し、信号処理部50内部にて計算部52へ出力する。
また、計算部52は、通常処理部51と同様に、周知のCPU、ROM、RAM、入出力回路であるI/Oおよびこれらの構成を接続するバスラインなどで構成され、後述する警報用計測震度および警報用予測震度を算出する処理などを実行する。
【0029】
モード遷移部60は、不揮発性メモリで構成され、地震が発生してか否かを示すフラグなどの各種データを記憶するのに利用される。なお、このフラグの種類としては、地震が発生していることを示す地震モードのフラグと、地震が発生していないことを示す通常モードのフラグとがある。
【0030】
出力制御部70は、通常処理部51と同様に、周知のCPU、ROM、RAM、入出力回路であるI/Oおよびこれらの構成を接続するバスラインなどで構成され、信号処理部50の計算部52によって算出された警報用計測震度および警報用予測震度を外部に出力する。
【0031】
[警報用計測震度および警報用予測震度の算出について]
(A)本出願人は、帯域の狭いバンドパスフィルタを重ね合わせ、気象庁定義のフィルタに近い特性をもつ下記の漸化式フィルタ(式1)を作成した。つまり、フィルタ後加速度値y[n]は、地震動を常時観測したときの地震波形の時系列データの加速度振幅値x[n]、以前のサンプリングタイミングでの加速度振幅値x[n−1]、x[n−2]、以前のサンプリングタイミングでのフィルタ後加速度値y[n−1]、y[n−2]をもとに、下記の式(1)により計算できる。なお、式(1)で表されるフィルタの特性を図2に示す。また、この計算は3成分(上下、南北、東西)の加速度値それぞれに対して行われる。
y[n]=b1x[n]+b2x[n−1]+b3x[n−2] −a2y[n−1] −a3y[n−2]…式(1)
但し、x[n]はサンプリング時刻(i)における加速度振幅値であり、x[n−1]はサンプリング時刻(i−1)における加速度振幅値であり、x[n−2]はサンプリング時刻(i−2)における加速度振幅値であり、y[n]は、サンプリング時間iΔtにおける出力、すなわちフィルタ処理後の加速度値であ
り、y[n−1]は、サンプリング時間(i−1)Δtにおける出力、すなわち
フィルタ処理後の加速度値であり、また、y[n−2]は、サンプリング時間(i−2)Δtにおける出力、すなわちフィルタ処理後の加速度値であり、係数b
1、係数b2、係数b3、係数a2および係数a3については予め実験等によって設定された係数である。
【0032】
なお、本実施形態では、係数b1は数値「0.06089422」に設定され、係数b2は数値「0」に設定され、係数b3は数値「−0.06089422」に設定され、係数a2は数値「−1.88625943」に設定され、係数a3は数値「0.89850964」に設定される。
【0033】
(B)そして、ある時刻(サンプリング時刻)まで求めた3成分(上下、南北、東西)のフィルタ後加速度値y[n]のベクトル合成値v[n]が気象庁公示の計算方法におけるv[n]と同様と考えれば、v[n]をもとに計測震度Iaを求める手順は、公示の手順に準拠する事ができる。すなわち、v[n]を降順に並べ替え、最大値から30番目(100Hzサンプリングの場合)となるv[n]をamaxとし、次の式(2)により計測震度Iaを求めることができる。
Ia=2.0log(amax)+0.94…式(2)
なお、図3は、警報用予測震度と計測震度とを比較した結果を示す説明図(1)である。なお、公示どおりの方法で計算した計測震度Ijmaと区別するため、本件の手法により算出する計測震度を「警報用計測震度」と呼ぶことにする。図3が示すように、過去の地震(5403地震波形、マグニチュード6.0以上)について、この方法で計算した警報用計測震度Iと計測震度Ijmaとを比較した結果から、両者の差の平均値は0.083、標準偏差は0.058であることが判る。計測震度の実効桁数は小数点第2位であるから、警報用計測震度は必要十分な精度で計測震度を再現していることが判る。
【0034】
(C)ところで、地震動の最初の部分はP波であり、P波では水平動より上下動が卓越する事は良く知られている。このことから、本出願人は、地震動の最初の部分から最終的な震度を予測するには、上下動に着目するのが良いと考え、上下動の最大値から最終的な計測震度を予測するための相関式を作成した。すなわち、3成分の加速度値について、警報用計測震度フィルタ処理し、そのうちの上下動加速度の最大値(以下Afu)を説明変数(x)とし、3成分合成値に0.3秒ルールを適用した後の最大値amaxをyとして、累乗近似による回帰係数を求め(図4参照)、この回帰係数と式(2)をもとに式(3)を作成した。式(3)は、Afu[n]の最大値から震度相当値を算出する式であるが、Afu[n]を任意の時刻に拡張することで、計測震度の予測値Iap(以下「警報用予測震度」と呼ぶ)を算出する式となる。
Iap=2.0αlog(Afu[n])+2.0β+0.94…式(3)
但し、係数αおよび係数βは、回帰分析により算出された回帰係数であり、上下動加速度Afu[n]は、サンプリング時刻iにおける3成分の加速度値について警報用計測震度フィルタ処理を行った場合の上下動加速度である。なお、本実施形態では、係数αは数値「0.9931」に設定され、係数βは数値「0.3456」に設定される。
【0035】
(D)なお、地震の警報を報知するタイミングを早めるためには、どのような指標であっても、閾値さえ下げればよいが、その一方で、被害が発生せず、結果として不要となる警報(以下空振り警報)を増やすことになる。したがって、警報の早期性の面で地震警報の判断指標間の優劣を考えるときには、空振り警報の発生頻度が同程度となる閾値を設定し、その閾値で警報が必要となる地震に対する警報の早期性を検討すべきである。そこで、鉄道の沿線地震計による地震警報の指標として長年使用されてきた5Hz加速度40galでの空振り警報頻度と同レベルになるよう、警報用予測震度による地震警報の閾値を設定した。なお、図5は、警報用予測震度による地震警報の早さを示した説明図であり、グラフ上の左上に張り出すような形になるほど、早いタイミングで警報が出る事を示している。参考として、既存技術である5Hz加速度、リアルタイムSI値(非特許文献2参照)、PI値(非特許文献3を基づいて推察した方法で算出)についても警報用予測震度と同様の解析を行った。このことから、警報用予測震度は既存技術と比較しても警報をより早期に報知可能な指標であることが判る。
【0036】
[警報用予測震度算出処理の説明]
次に、地震計1の信号処理部50が実行する警報用予測震度算出処理を、図7のフローチャートを参照して説明する。この処理は、地震計1が通電状態にある際に実行される。
【0037】
まず、地震動の加速度値を取得する(S105)。具体的には、加速度センサ10が、3成分(上下、南北、東西)の加速度値を常時計測しており、A/D変換部20が、その計測された加速度値をデジタル変換している。そして、信号処理部50の通常処理部51が、A/D変換部20から出力されたデジタル変換後の地震動の加速度値を取得し、信号処理部50内部にて計算部52へ出力する。
【0038】
続いて、信号処理部50の計算部52が、上述の式(1)を用いて、入力された加速度値に対して加速度波形フィルタ処理を実行する(S110)。この処理によってフィルタ処理後の加速度値が算出される。
【0039】
続いて、計算部52が、上述の式(2)および式(3)を用いて、各サンプルでの警報用計測震度Iaおよび警報用予測震度Iapを算出する(S115)。
続いて、通常処理部51が、モード遷移部60が記憶するフラグを参照して、通常状態を示す通常モードであるか否かを判断する(S120)。現在、通常モードであると判断された場合には(S120:YES)、S105にて計測された加速度値が基準値よりも大きいか否かを判断する(S125)。なお、基準値については過去の地震に関する分析結果に基づいて予め設定されている。加速度値が基準値よりも大きいと判断された場合には(S125:YES)、地震発生中と判断してモード遷移部60が記憶するフラグを通常モードから地震モードへ変更し(S130)、S105に戻り、一方、加速度の値が基準値以下であると判断された場合には(S125:NO)、そのままS105に戻る。
【0040】
一方、現在、通常モードではなく地震モードであると判断された場合には(S120:NO)、通常処理部51が、警報用予測震度Iapが基準値よりも大きいか否かを判断する(S135)。なお、基準値については過去の地震に関する分析結果に基づいて予め設定されている。警報用予測震度Iapが基準値よりも大きいと判断された場合には(S135:YES)、通常処理部51が、出力制御部70を制御して早期警報を発信させ(S140)、S145に移行する。一方、警報用予測震度Iapが基準値以下であると判断された場合には(S135:NO)、そのままS145に移行する。
【0041】
続いて、通常処理部51が、警報用計測震度Iaが基準値よりも大きいか否かを判断する(S145)。なお、基準値については過去の地震に関する分析結果に基づいて予め設定されている。警報用計測震度Iaが基準値よりも大きいと判断された場合には(S145:YES)、通常処理部51が、出力制御部70を制御して震度警報を発信させ(S150)、S155に移行する。一方、警報用計測震度Iaが基準値以下であると判断された場合には(S145:NO)、そのままS155に移行する。
【0042】
続いて、通常処理部51が、S105にて計測された加速度値が基準値よりも小さいか否かを判断する(S155)。なお、基準値については過去の地震に関する分析結果に基づいて予め設定されている。加速度値が基準値よりも小さいと判断された場合には(S155:YES)、通常処理部51が、地震が終了したと判断してモード遷移部60が記憶するフラグを地震モードから通常モードへ変更し(S160)、S105に戻る。一方、加速度値が基準値以上であると判断された場合には(S155:NO)、そのままS105に戻る。
【0043】
[第一実施形態の効果]
(1)このように第一実施形態の地震計1によれば、計測された地震動の加速度値を補正し、警報用計測震度Iaを、上述の式(2)を用いて算出するとともに、計測震度の予測値である警報用予測震度Iapを、補正後の加速度値Afu[n]と警報用予測震度Iapとの間に成立する上述の式(3)を用いて算出する。したがって、地震の終了を待たずに、地震発生中に計測した地震動の加速度から計測震度の予測値をリアルタイムに算出することができる。
【0044】
また、警報用計測震度は、図4に例示するように、地震動終息後は計測震度にほぼ一致するので、計測震度と地震被害との相関が高くかつ極めて早期性が要求される分野へ迅速で正確な警報を提供するという効果がある。
【0045】
さらに、どの既存技術よりもはるかに計算処理が簡易であるため、計算装置に搭載する演算装置を安価なものですませることができ、またソフトウェア開発にかかる手間すなわち開発費も安価にすることができる。これにより、計測震度とほぼ同等の地震動指標を得るための設備投資費を安価に済ませることができる。
【0046】
また、警報用予測震度による地震警報は、図5に例示するように、最終的な震度とは若干の誤差を含むものであるが、一方で、図6に例示するように、従来技術と同等の過敏警報発生頻度でありながら、最も早くに警報を出す事ができるものであるため、地震時の安全確保に資することができる。
【0047】
(2)また、第一実施形態の地震計1によれば、地震動の上下動の加速度値を上述の式(1)のバンドパスフィルタを用いて補正する。このことにより、公示上の方法では、地震波形全体を周波数領域にFourier変換し、所定のフィルタ処理を施した後、Fourier逆変換により時間領域に地震波形を戻す演算を行っているのに対して、地震動の上下動の加速度値をバンドパスフィルタを用いて補正することで、上述の公示上の方法における三つの処理を一つのバンドパスフィルタによる処理で行うことができ、処理に要する時間を短縮することができるとともに、処理装置の負担を軽減することができる。
【0048】
[他の実施形態]
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、以下のように様々な態様にて実施することが可能である。
【0049】
(1)図10(a)に例示するように、本発明を、複数の地震計1と、中央処理装置3とを備え、複数の地震計1と中央処理装置3とが互いにデータの送受信が可能な地震警報報知システム100として実現してもよい。具体的には、地震計1はそれぞれ、中央処理装置3との間で各種情報を送受信する装置側通信手段と、警報用予測震度Iap、警報用予測震度Iapを算出する際に用いられた加速度値の計測時刻、および送信元の地震計1を特定する情報を少なくとも含む警報用予測震度データを、装置側通信手段を制御して中央処理装置3へ送信させる通信制御手段と、を備える。一方、中央処理装置3は、複数の地震計1それぞれとの間で各種情報を送受信するセンタ側通信手段と、センタ側通信手段が受信した警報用予測震度データを記憶する記憶手段と、記憶手段が記憶する一つ以上の警報用予測震度データを分析し、その分析結果に基づいて各地震計1ごとに連絡すべき地震警報を決定する地震警報決定手段と、地震警報内容決定手段によって決定された地震警報を連絡する地震警報連絡手段と、を備える。
【0050】
この場合、地震警報決定手段は、計測震度に応じて地震警報としての安全確認手続を決定する。一例を挙げると、図10(b)に例示するように、計測震度が「0.0〜3.9」である場合には、安全確認手続として「規制なし」を決定し、計測震度が「4.0〜4.4」である場合には、安全確認手続として「徐行運転」を決定し、計測震度が「4.5〜4.9」である場合には、安全確認手続として「部分地上巡回」を決定し、計測震度が「5.0〜5.4」である場合には、安全確認手続として「全線地上巡回および部分構造物点検」を決定し、計測震度が「5.5〜」である場合には、安全確認手続として「全線地上巡回および構造物点検」を決定するといった具合である。
【0051】
このようにすれば、中央処理装置3が、各地の地震計1から送信された警報用予測震度を把握するとともに、各地の地震計1ごとに連絡すべき地震警報としての安全確認手続を決定して連絡する。このことにより、地震が発生したらリアルタイムにその震度を予測し、必要に応じて各地に安全確認手続を早期に発令することできる。
【0052】
(2)上記実施形態では、地震動の加速度値に対してデジタル変換時に時刻情報を付加する。具体的には、A/D変換部20が、加速度センサ10から出力されたアナログの信号をデジタルの信号に変換するとともに、タイマー制御部30から出力された時刻情報をタイムスタンプとして信号に付加し、信号処理部50の通常処理部51へ出力する。すなわち、地震動の加速度値に対してデジタル変換時に時刻情報を付加する。これに対して、デジタル変換後の地震動の加速度値に対して時刻情報を付加するようにしてもよい。一例を挙げると、通常処理部51が、A/D変換部20から出力されたデジタル変換後の地震動の加速度値を取得し、その取得したデジタル変換後の地震動の加速度値に対して時刻情報を付加して計算部52へ出力するといった具合である。また、通常処理部51ではなく、計算部52がデジタル変換後の地震動の加速度値に対して時刻情報を付加するようにしてもよい。
[第二実施形態]
図8は、第二実施形態の地震計2の概略構成図である。
【0053】
[地震計2の構成の説明]
図8に示すように、警報用予測震度算出装置としての地震計2は、加速度センサ10、A/D変換部20、タイマー制御部30、GPS時計40、信号処理部80、モード遷移部60および出力制御部70、を備える。なお、加速度センサ10、A/D変換部20、タイマー制御部30、GPS時計40、モード遷移部60および出力制御部70については、第一実施形態の地震計1が備える各構成と同一であるので、ここではその詳細な説明は省略する。
【0054】
信号処理部80は、通常処理部51と、計算部52と、従来各種指標計算部81とを有する。なお、通常処理部51および計算部52については、第一実施形態の地震計1が備える各構成と同一であるので、ここではその詳細な説明は省略する。
【0055】
従来各種指標計算部81は、上述の非特許文献2〜4に開示される手法により、5Hz加速度(上下動、水平合成動、3成分)や、リアルタイムSI値、速度と加速度との積和平均値(DI値)などによって地震動の大きさを計測する。
【0056】
[警報用予測震度算出処理の説明]
次に、地震計2の信号処理部80が実行する警報用予測震度算出処理を、図9のフローチャートを参照して説明する。この処理は、地震計2が通電状態にある際に実行される。
【0057】
本処理が、地震計1の信号処理部50が実行する警報用予測震度算出処理と異なる点は、S115を実行した後にS210を実行する点、およびS150を実行したときに肯定判定がなされた場合にS220およびS230を実行する点である。以下、順に説明する。
【0058】
まず、S210では、従来各種指標計算部81が、上述の非特許文献2〜4に開示される手法により、5Hz加速度(上下動、水平合成動、3成分)や、リアルタイムSI値、速度と加速度との積和平均値(DI値)などによって地震動の大きさを計測する。
【0059】
また、S220では、通常処理部51が、従来の各種指標が基準値よりも大きいか否かを判断する。なお、基準値については過去の地震に関する分析結果に基づいて予め設定されている。従来の各種指標が基準値よりも大きいと判断された場合には(S220:YES)、通常処理部51が、出力制御部70を制御して震度警報を発信させ(S230)、S155に移行する。一方、従来の各種指標が基準値以下であると判断された場合には(S220:NO)、そのままS155に移行する。
【0060】
[第二実施形態の効果]
このように第二実施形態の地震計2によれば、従来の各種指標によっても震度警報を発生させる必要性を判断するので、地震発生時における警報発生の精度を高めることができる。
【0061】
[他の実施形態]
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、以下のように様々な態様にて実施することが可能である。
【0062】
(1)本発明を、複数の地震計2と、中央処理装置3とを備え、複数の地震計1と中央処理装置3とが互いにデータの送受信が可能な地震警報報知システム100として実現してもよい。具体的には、図10(a)に例示する地震警報報知システム100において、地震計1の代わりに地震計2を設置する。
【0063】
このようにすれば、中央処理装置3が、各地の地震計2から送信された警報用予測震度を把握するとともに、各地の地震計2ごとに連絡すべき地震警報としての安全確認手続を決定して連絡する。このことにより、地震が発生したらリアルタイムにその震度を予測し、必要に応じて各地に安全確認手続を早期に発令することできる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】第一実施形態の地震計の概略構成図である。
【図2】加速度値を補正する際に用いるフィルタの特性を示す説明図である。
【図3】警報用予測震度と計測震度とを比較した結果を示す説明図(1)である。
【図4】0.3秒ルール適用後の3D最大値y[gal](最終時刻)とIIR後の上下動加速度の最大値Afu[gal](最大時刻)との相関関係を示す説明図である。
【図5】警報用予測震度と計測震度とを比較した結果を示す説明図(2)である。
【図6】指標別の警報タイミングを比較した結果を示す説明図である。
【図7】第一実施形態の地震計が実行する警報用予測震度算出処理を説明するフローチャートである。
【図8】第二実施形態の地震計の概略構成図である。
【図9】第二実施形態の地震計が実行する警報用予測震度算出処理を説明するフローチャートである。
【図10】(a)地震警報システムの概略構成図であり、(b)は計測震度と安全確認手続との対応関係を示す説明図である。
【符号の説明】
【0065】
1,2…地震計、3…中央処理装置、10…加速度センサ、20…A/D変換部、30…タイマー制御部、40…GPS時計、50,80…信号処理部、51…通常処理部、52…警報用計測震度及び警報用予測震度計算部、60…モード遷移部、70…出力制御部、80…信号処理部、81…従来各種指標計算部、100…地震警報報知システム
【特許請求の範囲】
【請求項1】
計測された地震動の上下動の加速度値を取得する取得手段と、
前記取得手段によって取得された地震動の上下動の加速度値を補正する補正手段と、
計測震度の予測値である警報用予測震度Iapを、前記補正手段による補正後の上下動の加速度値Afu[n]と前記警報用予測震度Iapとの間に成立する次の関係式(1)を用いて算出する算出手段と、
を備えることを特徴とする警報用予測震度算出装置。
関係式(1):Iap=2.0αlog(Afu[n])+2.0β+0.94
但し、係数αおよび係数βは、回帰分析により予め算出された回帰係数である。
【請求項2】
請求項1に記載の警報用予測震度算出装置において、
前記補正手段は、前記取得手段によって取得された地震動の上下動の加速度値を、バンドパスフィルタを用いて補正することを特徴とする警報用予測震度算出装置。
【請求項3】
請求項2に記載の警報用予測震度算出装置において、
前記補正手段は、前記取得手段によって取得された地震動の上下動の加速度値を、次の関係式(2)を用いて補正することを特徴とする警報用予測震度算出装置。
関係式(2):y[n]=b1x[n]+b2x[n−1]+b3x[n−2] −a2y[n−1] −a3y[n−2]
但し、x[n]はサンプリング時刻(i)における加速度振幅値であり、x[n−1]はサンプリング時刻(i−1)における加速度振幅値であり、x[n−2]はサンプリング時刻(i−2)における加速度振幅値であり、y[n]は、サンプリング時間iΔtにおける出力、すなわち補正後の加速度値であり、y[
n−1]は、サンプリング時間(i−1)Δtにおける出力、すなわち補正後の
加速度値であり、また、y[n−2]は、サンプリング時間(i−2)Δtにお
ける出力、すなわち補正後の加速度値であり、係数b1、係数b2、係数b3、係数a2および係数a3については予め実験等によって設定された係数である。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れかに記載の、複数の警報用予測震度算出装置と、中央処理装置とを備え、前記複数の警報用予測震度算出装置と前記中央処理装置とが互いにデータの送受信が可能な地震警報報知システムであって、
前記複数の警報用予測震度算出装置はそれぞれ、
前記中央処理装置との間で各種情報を送受信する装置側通信手段と、
前記算出手段によって算出された前記警報用予測震度Iap、前記警報用予測震度Iapを算出する際に用いられた計測加速度値の計測時刻、および送信元の警報用予測震度算出装置を特定する情報を少なくとも含む警報用予測震度データを、前記装置側通信手段を制御して前記中央処理装置へ送信させる通信制御手段と、を備え、
前記中央処理装置は、
前記複数の警報用予測震度算出装置それぞれとの間で各種情報を送受信するセンタ側通信手段と、
前記センタ側通信手段が受信した警報用予測震度データを記憶する記憶手段と、
前記記憶手段が記憶する一つ以上の警報用予測震度データを分析し、その分析結果に基づいて各警報用予測震度算出装置ごとに連絡すべき地震警報を決定する地震警報決定手段と、
前記地震警報内容決定手段によって決定された地震警報を連絡する地震警報連絡手段と、を備えること
を特徴とする地震警報報知システム。
【請求項1】
計測された地震動の上下動の加速度値を取得する取得手段と、
前記取得手段によって取得された地震動の上下動の加速度値を補正する補正手段と、
計測震度の予測値である警報用予測震度Iapを、前記補正手段による補正後の上下動の加速度値Afu[n]と前記警報用予測震度Iapとの間に成立する次の関係式(1)を用いて算出する算出手段と、
を備えることを特徴とする警報用予測震度算出装置。
関係式(1):Iap=2.0αlog(Afu[n])+2.0β+0.94
但し、係数αおよび係数βは、回帰分析により予め算出された回帰係数である。
【請求項2】
請求項1に記載の警報用予測震度算出装置において、
前記補正手段は、前記取得手段によって取得された地震動の上下動の加速度値を、バンドパスフィルタを用いて補正することを特徴とする警報用予測震度算出装置。
【請求項3】
請求項2に記載の警報用予測震度算出装置において、
前記補正手段は、前記取得手段によって取得された地震動の上下動の加速度値を、次の関係式(2)を用いて補正することを特徴とする警報用予測震度算出装置。
関係式(2):y[n]=b1x[n]+b2x[n−1]+b3x[n−2] −a2y[n−1] −a3y[n−2]
但し、x[n]はサンプリング時刻(i)における加速度振幅値であり、x[n−1]はサンプリング時刻(i−1)における加速度振幅値であり、x[n−2]はサンプリング時刻(i−2)における加速度振幅値であり、y[n]は、サンプリング時間iΔtにおける出力、すなわち補正後の加速度値であり、y[
n−1]は、サンプリング時間(i−1)Δtにおける出力、すなわち補正後の
加速度値であり、また、y[n−2]は、サンプリング時間(i−2)Δtにお
ける出力、すなわち補正後の加速度値であり、係数b1、係数b2、係数b3、係数a2および係数a3については予め実験等によって設定された係数である。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れかに記載の、複数の警報用予測震度算出装置と、中央処理装置とを備え、前記複数の警報用予測震度算出装置と前記中央処理装置とが互いにデータの送受信が可能な地震警報報知システムであって、
前記複数の警報用予測震度算出装置はそれぞれ、
前記中央処理装置との間で各種情報を送受信する装置側通信手段と、
前記算出手段によって算出された前記警報用予測震度Iap、前記警報用予測震度Iapを算出する際に用いられた計測加速度値の計測時刻、および送信元の警報用予測震度算出装置を特定する情報を少なくとも含む警報用予測震度データを、前記装置側通信手段を制御して前記中央処理装置へ送信させる通信制御手段と、を備え、
前記中央処理装置は、
前記複数の警報用予測震度算出装置それぞれとの間で各種情報を送受信するセンタ側通信手段と、
前記センタ側通信手段が受信した警報用予測震度データを記憶する記憶手段と、
前記記憶手段が記憶する一つ以上の警報用予測震度データを分析し、その分析結果に基づいて各警報用予測震度算出装置ごとに連絡すべき地震警報を決定する地震警報決定手段と、
前記地震警報内容決定手段によって決定された地震警報を連絡する地震警報連絡手段と、を備えること
を特徴とする地震警報報知システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図6】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図6】
【図10】
【公開番号】特開2009−68899(P2009−68899A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−235469(P2007−235469)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年9月1日 社団法人 土木学会発行の「第62回年次学術講演会 講演概要集(CD−ROM)」に発表
【出願人】(390021577)東海旅客鉄道株式会社 (413)
【出願人】(591102095)三菱スペース・ソフトウエア株式会社 (148)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年9月1日 社団法人 土木学会発行の「第62回年次学術講演会 講演概要集(CD−ROM)」に発表
【出願人】(390021577)東海旅客鉄道株式会社 (413)
【出願人】(591102095)三菱スペース・ソフトウエア株式会社 (148)
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