説明

警報音自動検知方法とその装置及びそれを用いた補聴器

【課題】 サイレン音などの警報音を確実に検出することができる警報音自動検知装置を提供する。
【解決手段】 検出対象音に警報音の周波数や警報音の周波数近傍の周波数が存在する場合に、それらの周波数を検出する周波数検出器2a〜2gと、周波数検出器2a〜2gが検出した各周波数についての音の断続パターン又は各周波数についての音量変化パターンを検出する相関器4a〜4gと、各周波数及び音の断続パターン又は音量変化パターンの組み合わせの何れかが、警報音の周波数及び音の断続パターン又は音量変化パターンに合致しているか否かを判定する最大信号選択器5及びレベル判定器6と、検出対象音を警報音であると判定した場合に、検出対象音が警報音であることを示す情報を発する警報音報知器7を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイレン音などの警報音を自動的に検出する警報音自動検知方法とその装置及びそれを用いた補聴器に関する。
【背景技術】
【0002】
聴覚障害者にとっては、警報音の感知が困難な場合がある。例えば、聴覚障害者が自動車を運転する場合に、前後方の視覚による確認は可能であるが、サイレン音により緊急車両の接近を感知できないことがある。それにより、緊急車両の運行を妨げたり、場合によっては危険な状態が発生したりすることもある。また、聴力正常者であっても、大音量のカーステレオ等により同様の事態が発生し得る。
そこで、緊急車両のサイレン音に相当する周波数の音が、一定時間継続するかどうかを検出する手法により、緊急車両を検知し表示するシステムが知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
【非特許文献1】大塚他:「車載マイクロフォンによる緊急車両の存在と方向検知システム」、電気学会論文誌(D)124巻4号388ページ(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、非特許文献1に記載されたシステムにおいては、検出する周波数範囲が50Hzと広く設定されているため、その周波数帯域に含まれる他の持続的な音に反応し誤動作を生じる虞がある。また、緊急車両の検知確率は示されているが、それ以外の音による誤動作の程度についての検証結果は示されていない。 周波数帯域を狭く設定すれば誤動作は減少するが、サイレン音の周波数のばらつきや、緊急車両の走行に伴うドップラー効果による周波数の変化によって検出ができなくなるという問題があった。
【0005】
本発明は、従来の技術が有するこのような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、サイレン音の周波数のばらつきや、緊急車両の走行に伴うドップラー効果による周波数の変化が生じてもサイレン音などの警報音を確実に検出することができる警報音自動検知方法とその装置及びそれを用いた補聴器を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべく請求項1に係る発明は、サイレン音などの警報音の自動検知方法であって、検出対象音に警報音の周波数や警報音の周波数近傍の周波数が存在する場合に、それらの周波数を検出する周波数検出工程と、この周波数検出工程で検出した各周波数についての音の断続パターン又は音量変化パターンを検出する音パターン検出工程と、前記周波数検出工程で検出した各周波数及び前記音パターン検出工程で検出した音の断続パターン又は音量変化パターンの組み合わせの何れかが、警報音の周波数及び音の断続パターン又は音量変化パターンに合致しているか否かを判定する警報音判定工程と、この警報音判定工程で検出対象音が警報音であると判定された場合に、検出対象音が警報音であることを示す情報を発する警報音報知工程からなるものである。
【0007】
請求項2に係る発明は、2音以上の組み合わせにより構成される警報音の自動検知方法であって、検出対象音に警報音を構成する各音の周波数や警報音を構成する各音の周波数近傍の周波数が存在する場合に、それらの周波数を検出する周波数検出工程と、この周波数検出工程で検出した各周波数についての音の断続パターン又は音量変化パターンを検出する音パターン検出工程と、前記周波数検出工程で検出した各周波数及び前記音パターン検出工程で検出した音の断続パターン又は音量変化パターンの組み合わせの何れかが、警報音を構成する各音の周波数及び音の断続パターン又は音量変化パターンに合致しているか否かを判定する警報音判定工程と、この警報音判定工程で検出対象音が警報音であると判定された場合に、検出対象音が警報音であることを示す情報を発する警報音報知工程からなるものである。
【0008】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2記載の警報音自動検知方法において、前記周波数検出工程では、ロックインアンプ又は離散フーリエ変換により周波数検出が行われるようにした。
【0009】
請求項4に係る発明は、請求項1又は2記載の警報音自動検知方法において、前記音パターン検出工程では、音の断続パターン検出又は音量変化パターン検出が相互相関関数の算出により行われるようにした。
【0010】
請求項5に係る発明は、請求項1乃至請求項4のいずれかの請求項に記載の警報音自動検知方法を用いたことを特徴とする補聴器である。
【0011】
請求項6に係る発明は、サイレン音などの警報音の自動検知装置であって、検出対象音に警報音の周波数や警報音の周波数近傍の周波数が存在する場合に、それらの周波数を検出する周波数検出手段と、この周波数検出手段が検出した各周波数についての音の断続パターンを検出する音の断続パターン検出手段又は各周波数についての音量変化パターンを検出する音量変化パターン検出手段と、前記周波数検出手段が検出した各周波数及び前記音の断続パターン検出手段が検出した音の断続パターン又は前記音量変化パターン検出手段が検出した音量変化パターンの組み合わせの何れかが、警報音の周波数及び音の断続パターン又は音量変化パターンに合致しているか否かを判定する警報音判定手段と、この警報音判定手段が検出対象音を警報音であると判定した場合に、検出対象音が警報音であることを示す情報を発する警報音報知手段を備えたものである。
【0012】
請求項7に係る発明は、2音以上の組み合わせにより構成される警報音の自動検知装置であって、検出対象音に警報音を構成する各音の周波数や警報音を構成する各音の周波数近傍の周波数が存在する場合に、それらの周波数を検出する周波数検出手段と、この周波数検出手段が検出した各周波数についての音の断続パターンを検出する音の断続パターン検出手段又は各周波数についての音量変化パターンを検出する音量変化パターン検出手段と、前記周波数検出手段が検出した各周波数及び前記音の断続パターン検出手段が検出した音の断続パターン又は前記音量変化パターン検出手段が検出した音量変化パターンの組み合わせの何れかが、警報音を構成する各音の周波数及び音の断続パターン又は音量変化パターンに合致しているか否かを判定する警報音判定手段と、この警報音判定手段が検出対象音を警報音であると判定した場合に、検出対象音が警報音であることを示す情報を発する警報音報知手段を備えたものである。
【0013】
請求項8に係る発明は、請求項6又は7記載の警報音自動検知装置において、前記周波数検出手段を、ロックインアンプ手段又は離散フーリエ変換手段により構成した。
【0014】
請求項9に係る発明は、請求項6又は7記載の警報音自動検知装置において、前記音の断続パターン検出手段又は前記音量変化パターン検出手段を、相互相関関数算出手段により構成した。
【0015】
請求項10に係る発明は、請求項6乃至請求項9のいずれかの請求項に記載の警報音自動検知装置を組み込んだ補聴器である。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る警報音自動検知方法によれば、検出対象音に警報音の周波数や警報音の周波数近傍の周波数が存在する場合に、それらの周波数を検出する周波数検出工程と、この周波数検出工程で検出した各周波数についての音の断続パターン又は音量変化パターンを検出する音パターン検出工程を設けたことにより、他の音に起因する誤動作が極めて少なく、サイレン音などの警報音の周波数のばらつきや、緊急車両の走行に伴うドップラー効果による周波数の変化が生じてもサイレン音などの警報音を確実に検出することができる。
【0017】
本発明に係る警報音自動検知装置によれば、検出対象音に警報音の周波数や警報音の周波数近傍の周波数が存在する場合に、それらの周波数を検出する周波数検出手段と、この周波数検出手段が検出した各周波数についての音の断続パターンを検出する音の断続パターン検出手段又は各周波数についての音量変化パターンを検出する音量変化パターン検出手段を設けたことにより、他の音に起因する誤動作が極めて少なく、サイレン音などの警報音の周波数のばらつきや、緊急車両の走行に伴うドップラー効果による周波数の変化が生じてもサイレン音などの警報音を確実に検出することができる。
【0018】
本発明に係る警報音自動検知方法又はその装置を用いた補聴器によれば、サイレン音などの警報音を聴覚障害者にとって聞き取り易い音に替えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。ここで、図1は本発明に係る警報音自動検知装置の第1実施の形態の構成図、図2はロックインアンプの構成図、図3は第1実施の形態による警報音自動検知のフローチャート、図4は第2実施の形態の構成図、図5は第2実施の形態による警報音自動検知のフローチャートである。
【0020】
本発明に係る警報音自動検知装置の第1実施の形態は、図1に示すように、検出対象音を電気信号に変換するマイクロホン1、7個の周波数検出器2a〜2g、時間パターン生成器3、7個の相関器4a〜4g、最大信号選択器5、レベル判定器6及び警報音報知器7からなる。
【0021】
第1の実施の形態では、ISO8201:1987による緊急避難信号音の時間パターンであるON(0.5秒)−OFF(0.5秒)−ON(0.5秒)−OFF(0.5秒)−ON(0.5秒)−OFF(1.5秒)の繰り返しで、周波数1000Hzの音を発生する警報音を検出するように構成されている。
【0022】
7個の周波数検出器2a〜2gは、マイクロホン1により変換された電気信号(マイクロホン信号D)の周波数のうち所定の周波数を検出するもので、各周波数検出器2a〜2gには警報音の周波数1000Hzを中心にして、周波数1000Hzの−3%から+3%の範囲に1%の刻みで検出する周波数が設定されている。即ち、周波数検出器2aには1030Hz、周波数検出器2bには1020Hz、周波数検出器2cには1010Hz、周波数検出器2dには1000Hz、周波数検出器2eには990Hz、周波数検出器2fには980Hz、周波数検出器2gには970Hzが検出対象の周波数として設定されている。
【0023】
周波数検出器2a〜2gは、夫々図2に示すようなロックインアンプ10により構成され、周波数検出信号Fa〜Fgを出力する。ロックインアンプ10は、入力信号INに検出対象の周波数fDPで位相が90°異なる2種類の正弦波(sin(2πfDPk/f)、cos(2πfDPk/f))を乗じ、各々を所定の時定数τで平均化し、その結果を自乗した後に足し合わせて検出信号OUTとするように構成されている。なお、fはサンプリング周波数である。
【0024】
ロックインアンプ10による演算方法は、入力信号INに90°位相が異なる正弦波(sin(2πfDPk/f)、cos(2πfDPk/f))を乗じる点で、離散フーリエ変換の定義と合致している。但し、乗算結果を時間窓で平均化する代わりに、時定数τによる平均化を用いている。このような演算方法では、検出対象の周波数に関係する演算しか行わないので効率がよい。ここで、時定数τによる平均化の処理は、その入力と出力を夫々x,yとすると次式(1)になる。
【0025】
【数1】

【0026】
ちなみに、時定数τを大きくすれば、離散フーリエ変換において演算窓長を大きくしたことに相当するので、検出対象の周波数の検出精度が高くなり雑音が抑制されるが、検出対象のレベルが急に変化すると追従し難くなる。本実施の形態では、時定数τを50msにした。
【0027】
時間パターン生成器3は、前記したISO8201:1987による時間パターンを有する緊急避難信号音を電気信号で生成した時間パターン信号Tを出力する。
【0028】
7個の相関器4a〜4gは、夫々周波数検出器2a〜2gの出力信号である周波数検出信号Fa〜Fgと、時間パターン生成器3の出力信号である時間パターン信号Tを入力し、周波数検出信号Fa〜Fgと時間パターン信号Tの相関演算を行って相互相関関数を算出し、相関信号Ia〜Igを出力する。
【0029】
即ち、相関器4a〜4gは、周波数検出信号Fa〜Fgと時間パターン信号Tとのサンプル毎の乗算結果の和を時間差の関数として算出し、相関信号Ia〜Igとして出力する。例えば、周波数検出器2dに警報音と一致する周波数1000Hzで、且つ警報音の時間パターン信号Tとある(所定の)時間差において一致する時間パターンの音が入力されると、相関器4dが相関信号として優位な高レベルのピーク値を有する信号を出力する。
【0030】
最大信号選択器5は、相関器4a〜4gが出力する相関信号Ia〜Igのうちで、最もレベルの高いピーク値を有する信号を選択し、最大相関信号Imaxとして出力する。レベル判定器6は、最大信号選択器5が出力する最大相関信号Imaxが所定のレベルを超えた時にだけ、警報音検出信号Eを出力する。警報音報知器7は、レベル判定器6が警報音検出信号Eを出力した場合に、検出対象音が警報音であることを示す刺激(例えば、光、振動など)を発する。
【0031】
以上のように構成した本発明に係る警報音自動検知装置の第1実施の形態の動作及び本発明に係る警報音自動検知方法について、図3に示すフローチャートにより説明する。
【0032】
先ず、ステップSP1(周波数検出工程)において、マイクロホン1が検出対象音を捉えてマイクロホン信号Dに変換すると、マイクロホン信号Dが全ての周波数検出器2a〜2gに入力される。すると、各周波数検出器2a〜2gが検出対象音を形成する周波数に周波数検出器2a〜2gに設定されている周波数(1000Hzなど)が含まれるかを検出し、周波数検出信号Fa〜Fgを出力する。
【0033】
次いで、ステップSP2(音パターン検出工程)において、相関器4a〜4gが、各周波数検出器2a〜2gの出力信号である周波数検出信号Fa〜Fgと、時間パターン生成器3の出力信号である時間パターン信号Tを入力して、周波数検出信号Fa〜Fgと時間パターン信号Tの相関演算により相互相関関数を算出し、相関信号Ia〜Igを出力する。
【0034】
次いで、ステップSP3(警報音判定工程)において、最大信号選択器5が、相関器4a〜4gが出力する相関信号Ia〜Igのうちで、最もレベルの高いピーク値を有する信号を選択し、最大相関信号Imaxとして出力する。そして、最大相関信号Imaxが所定のレベルを超えている場合には、レベル判定器6が警報音検出信号Eを出力する。
【0035】
次いで、ステップSP4(警報音報知工程)において、レベル判定器6が警報音検出信号Eを出力した場合には、検出対象音が警報音であることを示す刺激(例えば、光、振動など)を警報音報知器7が発して聴覚障害者に知らせる。
【0036】
このように、検出対象音の周波数が周波数検出器2a〜2gに設定されている何れかの周波数と一致し、且つ検出対象音のその一致した周波数の時間パターンが警報音の時間パターンと一致する場合にのみ、検出対象音が警報音であると認定する。従って、他の音に起因する誤動作が極めて少なく、警報音自体の周波数にばらつきがあっても、また緊急車両の走行に伴うドップラー効果によって検出対象音の周波数に変化が生じても、サイレン音などの警報音を確実に検出することができる。
【0037】
次に、本発明に係る警報音自動検知装置の第2実施の形態は、図4に示すように、検出対象音を電気信号に変換するマイクロホン11、14個のロックインアンプ12a〜12g,13a〜13g、2個の時間パターン生成器14,15、14個の相関器16a〜16g,17a〜17g、最大乗算結果選択器18、レベル判定器19及び警報音報知器20からなる。
【0038】
第2の実施の形態では、道路運送車両の保安基準により決められている高音が周波数960Hz、低音が周波数770Hzの救急車のサイレン音(ピーポー音)を検出するように構成されている。但し、救急車のサイレン音は救急車の走行によるドップラー効果により周波数が変化する。例えば、相対速度40km/hで救急車がサイレン音を発しながら接近している場合に、サイレン音を検出する側ではサイレン音の周波数は約3.4%高くなる。
【0039】
14個のロックインアンプ12a〜12g,13a〜13gは、マイクロホン1により変換された電気信号(マイクロホン信号D1)の周波数のうち所定の周波数を検出するもので、図2に示すロックインアンプ10と同様である。7個のロックインアンプ12a〜12gには、ピーポー音の高音に相当する周波数960Hzを中心にして、周波数960Hzの−3%から+3%の範囲に1%の刻みで検出する周波数が設定されている。また、7個のロックインアンプ13a〜13gには、ピーポー音の低音に相当する周波数770Hzを中心にして、周波数770Hzの−3%から+3%の範囲に1%の刻みで検出する周波数が設定されている。
【0040】
即ち、ロックインアンプ12aには988.8Hz、ロックインアンプ12bには979.2Hz、ロックインアンプ12cには969.6Hz、ロックインアンプ12dには960Hz、ロックインアンプ12eには950.4Hz、ロックインアンプ12fには940.8Hz、ロックインアンプ12gには931.2Hzが検出対象の周波数として設定されている。
【0041】
また、ロックインアンプ13aには793.1Hz、ロックインアンプ13bには785.4Hz、ロックインアンプ13cには777.7Hz、ロックインアンプ13dには770Hz、ロックインアンプ13eには762.3Hz、ロックインアンプ13fには754.6Hz、ロックインアンプ13gには746.9Hzが検出対象の周波数として設定されている。
【0042】
時間パターン生成器14は、1.3秒周期でオンオフを繰り返す時間パターン信号T1を出力し、時間パターン生成器15も、1.3秒周期でオンオフを繰り返す時間パターン信号T2を出力する。但し、時間パターン信号T1と時間パターン信号T2では、位相が180°ずれており、オンオフ状態が互いに逆になっている。
【0043】
7個の相関器16a〜16gは、ロックインアンプ12a〜12gの出力信号である周波数検出信号F1a〜F1gと、時間パターン生成器14の出力信号である時間パターン信号T1を入力し、周波数検出信号F1a〜F1gと時間パターン信号T1の相関演算を行って相互相関関数を算出し、相関信号I1a〜I1gを出力する。
【0044】
また、7個の相関器17a〜17gは、ロックインアンプ13a〜13gの出力信号である周波数検出信号F2a〜F2gと、時間パターン生成器15の出力信号である時間パターン信号T2を入力し、周波数検出信号F2a〜F2gと時間パターン信号T2の相関演算を行って相互相関関数を算出し、相関信号I2a〜I2gを出力する。
【0045】
即ち、相関器16a〜16gは、周波数検出信号F1a〜F1gと時間パターン信号T1とのサンプル毎の乗算結果の和を時間差の関数として算出し、相関信号I1a〜I1gとして出力する。同様に、相関器17a〜17gは、周波数検出信号F2a〜F2gと時間パターン信号T2とのサンプル毎の乗算結果の和を時間差の関数として算出し、相関信号I2a〜I2gとして出力する。
【0046】
例えば、ロックインアンプ12dにサイレン音と一致する周波数960Hzで、且つサイレン音の時間パターン信号T1とある時間差において一致する時間パターンの音が入力されると、相関器16dが相関信号I1dとして優位な高レベルのピーク値を有する信号を出力する。
【0047】
最大乗算結果選択器18は、7つの相関信号I1a〜I1gと7つの相関信号I2a〜I2gとの全ての組み合わせ(49通り)の乗算を行い、その結果のうち最大のピーク値を有するものを選択し、最大乗算結果信号Mmaxを出力する。レベル判定器19は、最大乗算結果選択器18が出力する最大乗算結果信号Mmaxが所定のレベルを超えた時にだけ、警報音検出信号E1を出力する。警報音報知器20は、レベル判定器19が警報音検出信号E1を出力した場合に、検出対象音がサイレン音であることを示す刺激(例えば、光、振動など)を発する。
【0048】
以上のように構成した、高音が周波数960Hzで低音が周波数770Hzの救急車のサイレン音(ピーポー音)を検出対象とする本発明に係る警報音自動検知装置の第2実施の形態の動作及び本発明に係る警報音自動検知方法について、図5に示すフローチャートにより説明する。
【0049】
先ず、ステップSP11(周波数検出工程)において、マイクロホン11が検出対象音を捉えてマイクロホン信号D1に変換すると、マイクロホン信号D1が全てのロックインアンプ12a〜12g,13a〜13gに入力される。すると、ロックインアンプ12a〜12gでは、検出対象音を形成する周波数にロックインアンプ12a〜12gに設定されている高音の周波数(960Hzなど)が含まれるかを検出し、周波数検出信号F1a〜F1gを出力する。
【0050】
また、ロックインアンプ13a〜13gでは、検出対象音を形成する周波数にロックインアンプ13a〜13gに設定されている低音の周波数(770Hzなど)が含まれるかを検出し、周波数検出信号F2a〜F2gを出力する。
【0051】
次いで、ステップSP12(音パターン検出工程)において、相関器16a〜16gが、ロックインアンプ12a〜12gの出力信号である周波数検出信号F1a〜F1gと、時間パターン生成器14の出力信号である時間パターン信号T1を入力して、周波数検出信号F1a〜F1gと時間パターン信号T1の相関演算により相互相関関数を算出し、高音側の相関信号I1a〜I1gを出力する。
【0052】
また、相関器17a〜17gが、ロックインアンプ13a〜13gの出力信号である周波数検出信号F2a〜F2gと、時間パターン生成器15の出力信号である時間パターン信号T2を入力して、周波数検出信号F2a〜F2gと時間パターン信号T2の相関演算により相互相関関数を算出し、低音側の相関信号I2a〜I2gを出力する。
【0053】
次いで、ステップSP13(警報音判定工程)において、最大乗算結果選択器18が、7つの高音側の相関信号I1a〜I1gと7つの低音側の相関信号I2a〜I2gとの全ての組み合わせ(49通り)の乗算を行い、その結果のうちで最大のピーク値を有するものを選択し、最大乗算結果信号Mmaxを出力する。そして、最大乗算結果信号Mmaxが所定のレベルを超えている場合には、レベル判定器19が警報音検出信号E1を出力する。
【0054】
次いで、ステップSP14(警報音報知工程)において、レベル判定器19が警報音検出信号E1を出力した場合には、検出対象音がサイレン音であることを示す刺激(例えば、光、振動など)を警報音報知器20が発して聴覚障害者に知らせる。
【0055】
このように、検出対象音の高音の周波数がロックインアンプ12a〜12gに設定されている何れかの周波数と一致し、且つ検出対象音の高音の一致した周波数の時間パターンがサイレン音の高音の時間パターンと一致し、更に検出対象音低音の周波数がロックインアンプ13a〜13gに設定されている何れかの周波数と一致し、且つ検出対象音の低音の一致した周波数の時間パターンが、サイレン音の低音の時間パターンと、高音と同じ時間差において一致する場合にのみ、検出対象音がサイレン音であると認定する。
【0056】
従って、他の音に起因する誤動作が極めて少なく、サイレン音自体の周波数のばらつきがあっても、また救急車の走行に伴うドップラー効果によって検出対象音の周波数に変化が生じても、サイレン音を確実に検出することができる。
【0057】
次に、第2実施の形態による実施結果について説明する。図6は救急車のサイレン音の周波数スペクトルを示し、同図(a)はサイレン音サンプルAで、サイレン音に「救急車が通ります。進路を譲って下さい。」という女性のアナウンスが重なっている場合であり、同図(b)はサイレン音サンプルBで、女性のアナウンスは含まれないがサイレン音の録音状態がよくない場合である。いずれの場合も、770Hzと960Hzに相当するスペクトルのピークを確認することができる。
【0058】
図7は救急車サイレン音サンプルAの低音(中心周波数770Hz)に対するロックインアンプ処理の結果、即ち周波数検出信号F2a〜F2gを示し、図8は救急車サイレン音サンプルAの高音(中心周波数960Hz)に対するロックインアンプ処理の結果、即ち周波数検出信号F1a〜F1gを示す。これらは、図2に示す検出信号OUTの平方根に対応している。なお、ロックインアンプ12a〜12g及びロックインアンプ13a〜13gの時定数τは、50msに設定されている。
【0059】
図7に示す低音(770Hz)については、周波数770Hzの−2%に相当する754.6Hzに対して顕著な検出信号が得られた。図8に示す高音(960Hz)については、周波数960Hzの−1%に相当する950.4Hzの出力が最大であった。また、検出信号の波形から高音と低音が交互に検出されていることが分かる。そして、救急車サイレン音サンプルAにはアナウンス音が重なっているにも拘らず、安定した波形の検出信号が得られた。
【0060】
救急車サイレン音サンプルBについては、不図示であるが、低音(770Hz)と高音(960Hz)に対して夫々−2%の周波数と+1%の周波数で出力が最大の検出信号が得られた。
【0061】
周波数の偏差がドップラー効果によるものであれば、低音と高音が同じ比率でずれるものと考えられるが、サイレン音そのものの周波数精度が余りよくないためか、この結果は必ずしもそうではなかった。いずれにしても、低音(770Hz)と高音(960Hz)の周波数の±3%の範囲において1%間隔でロックインアンプ処理を行い、そのうちの最大の検出信号を1.3秒周期でオンオフを繰り返す規定の時間パターン信号T2と比較することにより、大方のサイレン音を検出できると考えられる。
【0062】
なお、上述したように、ロックインアンプ12a〜12g,13a〜13gの演算の性質は、離散フーリエ変換と酷似しているため、高速フーリエ変換等によっても同様の結果を得ることができると考えられる。例えば、周波数10Hz刻みのフーリエ変換結果を得るには、分析窓長を100msにすればよい。
【0063】
図9は救急車サイレン音サンプルAに対する第2実施の形態による実施結果であり、図10はサイレン音が含まれない音声信号A(「次は2行目に書いてください」というアナウンス)に対する第2実施の形態による実施結果である。
【0064】
夫々、最上段が原信号、2段目が低音(770Hz)のロックインアンプ出力(「最大乗算結果信号」をもたらす周波数のもの)、3段目が高音(960Hz)のロックインアンプ出力(「最大乗算結果信号」をもたらす周波数のもの)、4段目が時間パターンと低音(770Hz)のロックインアンプ出力との相関信号、5段目が時間パターンと高音(960Hz)のロックインアンプ出力との相関信号、最下段は最大乗算結果信号である。
【0065】
救急車サイレン音サンプルAに対しては、顕著な最大乗算結果信号が得られているが、サイレン音が含まれない音声信号Aには殆ど乗算結果信号が得られていない。最大乗算結果信号の最大ピーク値をおおよそ0〜1の値を取るように正規化した値(以下、「サイレン音インデックス値」という)は、救急車サイレン音サンプルAが0.96、音声信号Aが0.013であり、明らかな差がみられた。従って、第2実施の形態によればサイレン音を精度よく検出することができると考えられる。
【0066】
【表1】

【0067】
表1に種々の音サンプルに対して、第2実施の形態により得られたサイレン音インデックス値を示す。救急車サイレン音サンプルAが0.96、救急車サイレン音サンプルBが0.35、救急車サイレン音サンプルCが0.20の値が得られた。救急車サイレン音サンプルBは録音状態が悪いためか救急車サイレン音サンプルAより低値であった。救急車サイレン音サンプルCは、接近して遠ざかる救急車で、最も接近したレベルの高い部分では救急車のエンジン音もかなり強く録音されていて、救急車サイレン音サンプルAよりは低値であるがこちらの方が現実的ともいえる。
【0068】
一方、救急車サイレン音以外の音のインデックス値は、殆どが0.01以下であった。パトカーのサイレン音B、音声信号B及び2種の音楽信号A,Bにつては、0.01を超えていたが0.05以下であった。理想信号とは、周波数770Hzと周波数960Hzの純音を連結して作成した人工的サイレン音で、これは高インデックス値(本発明では、このインデックス値が1に近くなるように正規化してある)であった。このような結果から、救急車のサイレン音とそれ以外の音では、インデックス値に大きな差があるため、本発明によりサイレン音を安定的に検知することができると考える。
【0069】
実際の車両運行時には、サイレン音に道路交通騒音等が混入する。そのような状況を模擬するために、救急車サイレン音と他の騒音を混合した場合のインデックス値を算出した。救急車サイレン音サンプルAにピンクノイズを、S/N比=0dB、−10dB、−20dBで混合した信号のインデックス値は、0.56、0.098、0.0083となった。
【0070】
S/N比=0dBとS/N比=−10dBでは、サイレン音以外の音よりも高い値が得られた。S/N比=−20dBでは、比較的高値のパトカーのサイレン音B、音声信号B、音楽信号A,Bよりは低かった。S/N比=−20dBの場合は、聴力正常者であっても、よほど注意していなければサイレン音に気付かない程度のかすかな音であった。
【0071】
次に、表1に示すように、救急車サイレン音の中でも走行音の影響でインデックス値の低い救急車サイレン音サンプルCに、現実的に混入する可能性の高い乗用車の走行音を、S/N比=5dB〜−25dBについて5dB刻みで混入させて調べた。これも、S/N比が悪化するのに伴ってインデックス値が低下するが、S/N比=−10dBまでは0.05以上、S/N比=−20dBまでは0.01以上であった。
【0072】
以上から、例えばサイレン音インデックス値が0.05以上の時にサイレン音ありと判定するように設定して運用すれば、通常のレベルの救急車サイレン音を安定的に検知することができる。また、サイレン音インデックス値が0.01以上の時にサイレン音ありと判定すれば、周囲騒音レベルがかなり高くても検知できると考えられるが、救急車以外でもサイレン音インデックス値が0.01を超える場合があることから誤検出の虞がある。
【0073】
救急車サイレン音の高音と低音を含む周波数帯域以外を遮断するフィルタを併用すれば、サイレン音の検出感度が向上すると考えられるが、サイレン音以外の音に対してもその周波数が強調されることになるため誤検出の虞も増加すると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明によれば、他の音に起因する誤動作が極めて少なく、サイレン音などの警報音の周波数のばらつきや、緊急車両の走行に伴うドップラー効果による周波数の変化が生じてもサイレン音などの警報音を確実に検出することができる。
また、本発明は、聴覚障害者に緊急車両の接近を視覚的に知らせる車載型の機器、聴覚障害者が身体に装着し警報音を振動等で認知するための機器、警報音や報知音が鳴っていることをフラッシュライト等で知らせる家庭用機器、サイレンや警報音を聴覚障害者にとって聞き取り易い音に替えて聞かせる補聴器等に利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明に係る警報音自動検知装置の第1実施の形態の構成図
【図2】ロックインアンプの構成図
【図3】第1実施の形態による警報音自動検知のフローチャート
【図4】第2実施の形態の構成図
【図5】第2実施の形態による警報音自動検知のフローチャート
【図6】救急車のサイレン音の周波数スペクトルで、(a)はサイレン音サンプルAの周波数スペクトル、(b)はサイレン音サンプルBの周波数スペクトル
【図7】サイレン音サンプルA(低音)に対するロックインアンプの検出信号
【図8】サイレン音サンプルA(高音)に対するロックインアンプの検出信号
【図9】サイレン音サンプルAの検出結果
【図10】音声信号Aの検出結果
【符号の説明】
【0076】
1,11…マイクロホン、2a〜2g…周波数検出器、3,14,15…時間パターン生成器、4a〜4g,16a〜16g,17a〜17g…相関器、5…最大信号選択器、6,19…レベル判定器、7,20…警報音報知器、10,12a〜12g,13a〜13g…ロックインアンプ、18…最大乗算結果選択器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイレン音などの警報音の自動検知方法であって、検出対象音に警報音の周波数や警報音の周波数近傍の周波数が存在する場合に、それらの周波数を検出する周波数検出工程と、この周波数検出工程で検出した各周波数についての音の断続パターン又は音量変化パターンを検出する音パターン検出工程と、前記周波数検出工程で検出した各周波数及び前記音パターン検出工程で検出した音の断続パターン又は音量変化パターンの組み合わせの何れかが、警報音の周波数及び音の断続パターン又は音量変化パターンに合致しているか否かを判定する警報音判定工程と、この警報音判定工程で検出対象音が警報音であると判定された場合に、検出対象音が警報音であることを示す情報を発する警報音報知工程からなることを特徴とする警報音自動検知方法。
【請求項2】
2音以上の組み合わせにより構成される警報音の自動検知方法であって、検出対象音に警報音を構成する各音の周波数や警報音を構成する各音の周波数近傍の周波数が存在する場合に、それらの周波数を検出する周波数検出工程と、この周波数検出工程で検出した各周波数についての音の断続パターン又は音量変化パターンを検出する音パターン検出工程と、前記周波数検出工程で検出した各周波数及び前記音パターン検出工程で検出した音の断続パターン又は音量変化パターンの組み合わせの何れかが、警報音を構成する各音の周波数及び音の断続パターン又は音量変化パターンに合致しているか否かを判定する警報音判定工程と、この警報音判定工程で検出対象音が警報音であると判定された場合に、検出対象音が警報音であることを示す情報を発する警報音報知工程からなることを特徴とする警報音自動検知方法。
【請求項3】
前記周波数検出工程では、ロックインアンプ又は離散フーリエ変換により周波数検出が行われる請求項1又は2記載の警報音自動検知方法。
【請求項4】
前記音パターン検出工程では、音の断続パターン検出又は音量変化パターン検出が相互相関関数の算出により行われる請求項1又は2記載の警報音自動検知方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかの請求項に記載の警報音自動検知方法を用いたことを特徴とする補聴器。
【請求項6】
サイレン音などの警報音の自動検知装置であって、検出対象音に警報音の周波数や警報音の周波数近傍の周波数が存在する場合に、それらの周波数を検出する周波数検出手段と、この周波数検出手段が検出した各周波数についての音の断続パターンを検出する音の断続パターン検出手段又は各周波数についての音量変化パターンを検出する音量変化パターン検出手段と、前記周波数検出手段が検出した各周波数及び前記音の断続パターン検出手段が検出した音の断続パターン又は前記音量変化パターン検出手段が検出した音量変化パターンの組み合わせの何れかが、警報音の周波数及び音の断続パターン又は音量変化パターンに合致しているか否かを判定する警報音判定手段と、この警報音判定手段が検出対象音を警報音であると判定した場合に、検出対象音が警報音であることを示す情報を発する警報音報知手段を備えたことを特徴とする警報音自動検知装置。
【請求項7】
2音以上の組み合わせにより構成される警報音の自動検知装置であって、検出対象音に警報音を構成する各音の周波数や警報音を構成する各音の周波数近傍の周波数が存在する場合に、それらの周波数を検出する周波数検出手段と、この周波数検出手段が検出した各周波数についての音の断続パターンを検出する音の断続パターン検出手段又は各周波数についての音量変化パターンを検出する音量変化パターン検出手段と、前記周波数検出手段が検出した各周波数及び前記音の断続パターン検出手段が検出した音の断続パターン又は前記音量変化パターン検出手段が検出した音量変化パターンの組み合わせの何れかが、警報音を構成する各音の周波数及び音の断続パターン又は音量変化パターンに合致しているか否かを判定する警報音判定手段と、この警報音判定手段が検出対象音を警報音であると判定した場合に、検出対象音が警報音であることを示す情報を発する警報音報知手段を備えたことを特徴とする警報音自動検知装置。
【請求項8】
前記周波数検出手段が、ロックインアンプ手段又は離散フーリエ変換手段により構成される請求項6又は7記載の警報音自動検知装置。
【請求項9】
前記音の断続パターン検出手段又は前記音量変化パターン検出手段が、相互相関関数算出手段により構成される請求項6又は7記載の警報音自動検知装置。
【請求項10】
請求項6乃至請求項9のいずれかの請求項に記載の警報音自動検知装置を組み込んだことを特徴とする補聴器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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