説明

谷樋取付け構造とそれに用いる谷樋吊持具並びに谷樋のメンテナンス方法

【課題】屋根の上に登らなくても地上から谷樋のメンテナンスができる谷樋取付け構造を提供する。
【解決手段】隣接する屋根1と屋根1の谷間1Aに設けられる谷樋2の取付け構造であって、谷樋2は、谷樋吊持具3で吊持されて隣接する屋根1と屋根1の谷間1Aに取付けられ、その谷樋2が取付けられた状態から、谷樋2を下方に移動可能にした構成とする。谷樋2をメンテナンスする際は、通常の取付け位置から谷樋2を下方に移動させることで、谷樋2までの距離が近くなると共に屋根1と谷樋2の間に隙間が生まれて、地上からでも谷樋2内部の清掃作業を行うことができるので、従来のように、屋根1の上に登らなくても谷樋2のメンテナンスを行うことができて、作業員のリスクを回避することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、隣接する屋根と屋根の谷間に設けられる谷樋の取付け構造と、それに用いる谷樋吊持具、並びに谷樋のメンテナンス方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
隣接する屋根と屋根の谷間には、屋根に降雨した雨水を排水するための谷樋が設けられている。この谷樋は、雨水を縦樋に導くと共に、屋根の裏面に雨水が回り込むのを防止する役割を果たす。
【0003】
このような谷樋を屋根に取付ける部材として、谷樋を受けるコ字状の樋受部と、該樋受部の端部に連結され屋根に谷樋受け金具を取付ける取付部とが設けられ、該取付部は、樋受部に回転自在に連結された谷樋受け金具が提案されている(特許文献1)。
【0004】
上記の谷樋受け金具は、隣接する屋根に段差が生じていたり、その傾斜角度が異なっていたとしても、取付部を回転させることで谷樋を取付けることができる汎用性を備えたものであった。
【0005】
ところで、通常、谷樋のメンテナンスは、屋根の上に人が登って谷樋の内部を清掃作業することにより行われる。このような作業は、作業員の危険を伴うものであった。
しかしながら、上記特許文献1の谷樋受け金具は、そのようなメンテナンスのことを深く考慮したものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−294945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたもので、その解決しようとする課題は、屋根の上に登らなくても地上から谷樋のメンテナンスができる谷樋取付け構造と、それに用いる谷樋吊持具、並びに谷樋のメンテナンス方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る谷樋の取付け構造は、隣接する屋根と屋根の谷間に設けられる谷樋の取付け構造であって、谷樋は、谷樋吊持具で吊持されて隣接する屋根と屋根の谷間に取付けられ、その谷樋が取付けられた状態から、谷樋を下方に移動可能にしたことを特徴とするものである。
【0009】
本発明の谷樋の取付け構造においては、谷樋を下方に移動させてから、谷樋の一方の側壁が他方の側壁よりも低い位置となるよう谷樋を傾けることができるようにすることが好ましく、谷樋吊持具が、谷樋の側壁を保持する一対の谷樋保持部を有したものであり、少なくとも一方の谷樋保持部の下端部が外側に向って形成されている、又は、外側に折り曲げ可能に形成されていて、その谷樋保持部に沿って谷樋を移動可能にすることが好ましい。
【0010】
次に、上記谷樋の取付け構造に用いられる谷樋吊持具は、谷樋の側壁を保持する一対の谷樋保持部を有し、該谷樋保持部には、谷樋を隣接する屋根と屋根の谷間に取付けた状態で固定する第一固定部が形成されていて、一方又は双方の谷樋保持部の下端部には、外側に向って形成された、又は、外側に折り曲げ可能に形成された折り曲げ部と、折り曲げ部の先端部に形成された、谷樋を移動させた後の状態で固定する第二固定部とが備えられており、上記第一固定部と第二固定部は一続きの長孔で繋がっていることを特徴とする。
【0011】
更に、上記谷樋の取付け構造における谷樋のメンテナンス方法は、谷樋に接続された縦樋を谷樋と分離し、谷樋を下方に移動させて、谷樋の一方の側壁が他方の側壁よりも低い位置となるように谷樋を傾けてから、谷樋の内部を清掃することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の谷樋の取付け構造は、谷樋が、隣接する屋根と屋根の谷間に谷樋吊持具で吊持されて取付けられた状態から、谷樋を下方に移動できるようにしたものである。従って、谷樋をメンテナンスする際は、通常の取付け位置から谷樋を下方に移動させることで、谷樋までの距離が近くなると共に屋根と谷樋の間に隙間が生まれて、地上からでも谷樋内部の清掃作業を行うことができるので、従来のように、屋根の上に登らなくても谷樋のメンテナンスを行うことができて、作業員のリスクを回避することができる。
【0013】
また、谷樋を下方に移動させてから、谷樋の一方の側壁が他方の側壁よりも低い位置となるよう谷樋を傾けることができるようにした谷樋の取付け構造は、谷樋を傾けることで、谷樋内部を視認し易くなると共に、谷樋の内部に手や清掃用具を挿入し易くなるので、地上からの谷樋内部の清掃がより容易となり、メンテナンス性が一層向上する。
【0014】
特に、谷樋吊持具が、谷樋の側壁を保持する一対の谷樋保持部を有したものであり、少なくとも一方の谷樋保持部の下端部が外側に向って形成されている、又は、外側に折り曲げ可能に形成されていて、その谷樋保持部に沿って谷樋を移動可能にした谷樋の取付け構造のようであると、谷樋保持部に沿って谷樋を移動させるだけで、容易に谷樋を下方に移動させて傾けることができる。
尚、折り曲げ可能とは、例えば、谷樋保持部の下端部にヒンジを取付けて、そのヒンジから下側部分を回転させることで、谷樋保持部の下端部を外側に折り曲げるようにしたことなどをいう。
【0015】
次に、上記の谷樋取付け構造に用いられる本発明の谷樋吊持具は、谷樋の側壁を保持する一対の谷樋保持部を有し、該谷樋保持部には、谷樋を隣接する屋根と屋根の谷間に取付けた状態で固定する第一固定部が形成されていて、一方又は双方の谷樋保持部の下端部には、外側に向って形成された、又は、外側に折り曲げ可能に形成された折り曲げ部と、折り曲げ部の先端部に形成された、谷樋を移動させた後の状態で固定する第二固定部とが備えられており、上記第一固定部と第二固定部は一続きの長孔で繋がっていることを特徴とし、このような構成の谷樋吊持具は、第一固定部と第二固定部が一続きの長孔で繋がっているので、この吊持具を用いて谷樋を屋根と屋根の谷間に取付けると、谷樋を下方に移動させて傾けるということを一連の作業で行えるようになり、前述したような、メンテナンス性の良好な谷樋の取付け構造を容易に構築することが可能となる。
【0016】
そして、本発明の谷樋取付け構造のメンテナンス方法は、谷樋に接続された縦樋を谷樋と分離し、谷樋を下方に移動させて谷樋の一方の側壁が他方の側壁よりも低い位置となるように傾けてから、谷樋の内部を清掃することにより行うものなので、従来の屋根に登って行う谷樋内部の清掃作業を行うメンテナンスと比較すると、作業員のリスクを大幅に軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る谷樋の取付け構造を示すものであって、(a)は谷樋を屋根と屋根の谷間に取付けた状態の横断面図、(b)は谷樋を下方に移動させた状態の横断面図である。
【図2】同取付け構造の縦断面図である。
【図3】同取付け構造に用いる屋根を示すものである。
【図4】同取付け構造に用いる谷樋を示すものであって、(a)は正面図、(b)は側面図である。
【図5】同取付け構造に用いる本発明の谷樋吊持具を示すものであって、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は左側面図、(d)は右側面図である。
【図6】同取付け構造の谷樋と縦樋との接続方法の一例を示す概略説明図である。
【図7】図6の状態から縦樋7を回転させた状態を示す概略説明図である。
【図8】本発明の他の実施形態に係る谷樋吊持具を示す側面図である。
【図9】スペーサーを用いた谷樋吊持具を示す断面図である。
【図10】本発明の他の実施形態に係る谷樋の取付け構造を示すものであって、(a)は谷樋を屋根と屋根の谷間に取付けた状態の横断面図、(b)は谷樋を下方に移動させて傾けた状態の横断面図である。
【図11】同取付け構造に用いる本発明の谷樋吊持具を示すものであって、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は左側面図、(d)は右側面図である。
【図12】同取付け構造のメンテナンス方法を示す説明図である。
【図13】同取付け構造のメンテナンス方法を示すものであって、谷樋を折り曲げ部で仮固定した状態の横断面である。
【図14】本発明の更に他の実施形態に係る谷樋吊持具の正面図である。
【図15】本発明の谷樋の取付け構造と、上端を折り曲げて谷樋を傾けた形態を比較する説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の具体的な実施形態を詳述する。
【0019】
図1に示す本発明の谷樋の取付け構造は、傾斜勾配が設けられた屋根1,1間に形成される谷間1Aに、谷樋吊持具3を用いることで谷樋2を設けたものであり、例えば集合住宅の自転車の駐輪場などに好適に構築される構造体である。
【0020】
この谷樋の取付け構造に用いられる屋根1は、図3に示すように、下広がりの台形状の山部1aを複数有する折板屋根であって、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂などの合成樹脂で成形されている。この屋根1は支持材(不図示)に固定されていて、図2に示すように、一方の屋根1の山部1aと、前後方向に隣接する屋根1の山部1aを一山重ね合わせることで、屋根1,1同士が前後に連結されている。
尚、自然光を効果的に取り入れるために、透光性を有する屋根1を用いることも好ましい。また、上記のような合成樹脂の他にも、金属材料やFRPで屋根1を形成してもよい。
【0021】
上記屋根1,1の谷間1Aに設けられる谷樋2は、図4の(a)に示すように、底壁2aと、その底壁2aの両端から立ち上がる左右の側壁2b,2bからなるもので、図4の(a),(b)に示すように、側壁2bの上端には、後述するボルト4aのヘッド部分を嵌入するスライド溝2cが、谷樋2の長さ方向の全域に亘って形成されている。このスライド溝2cは、ボルト4aのヘッド部分の径よりも若干大きく形成されており、ボルト4aがスライド溝2cをスライド可能にすると共に、ヘッド部分が内側で回転しないように抑制している。
【0022】
上記谷樋2は、図5に示す谷樋吊持具3によって吊持されて、屋根1,1の谷間1Aに取付けられている。この谷樋吊持具3は、図1、図5の(b)に示すように、谷樋2の側壁2b,2bを外側から保持する一対の谷樋保持部3b,3bと、それらを連結する連結部3aからなるコ字形をした金属製の吊持具で、図5の(a)に示すように、連結部3aには、ボルト挿通孔3dが2箇所穿孔されていると共に、図5の(c),(d)に示すように、谷樋保持部3bには長円形の長孔3cが形成されている。図5の(c)に示すように、左側の谷樋保持部3bに形成された長孔3cは、後述するように、ボルト4aをスライドさせて取付ける関係から、上端が後方へ切欠かれて、ボルト通過部3eが形成されている。
【0023】
上記構成の谷樋吊持具3は、図1に示すように、左側の屋根1と右側の屋根1にそれぞれ固定された貫通ボルト5a,5aによって、屋根1,1に吊り下げられて取付けられている。この貫通ボルト5aは、図2に示す山部1aと山部1aが重ね合わされた前後の屋根1,1の連結部分に、上方より座金5cを介して挿通されている。そして、山部1aの下方より座金5cを介してナット5bを締め込むことにより、貫通ボルト5aが屋根1に固定されている。この貫通ボルト5aを挿通する箇所は、屋根1の強度を考慮して、屋根1の山部1aの形状に沿うよう下広がりの台形状に形成された、厚みが2mm程度のアルミ製のカバー部材6により補強されている。
尚、屋根1の強度が十分な場合は、谷樋吊持具3の取付け箇所を、本実施形態のようにカバー部材6を用いて補強する必要はなく、また、必ずしも屋根1,1の山部1a,1aを重ね合わせた箇所に取付ける必要もない。
【0024】
上記の要領で左右の屋根1,1に固定された貫通ボルト5a,5aの下端部を、谷樋吊持具3の連結部3aのボルト挿通孔3dに挿通し、連結部3aの上下から座金5c,5cを介して2つのナット5b,5bを締め込むことによって、谷樋吊持具3が屋根1,1から吊り下げられて取付けられている。
尚、本実施形態の谷樋吊持具3は、屋根1,1に取付けられているが、この他にも例えば梁や母屋などの支持材等にも取付けることができる。
【0025】
そして、上記のように、屋根1,1から吊り下げられた谷樋吊持具3に吊持されて、谷樋2が屋根1,1の谷間1Aに取付けられている。この谷樋2の取付けは、谷樋2の右側壁2bのスライド溝2cに、ボルト4aのヘッド部分を嵌入し、谷樋吊持具3が吊り下げられた箇所までボルト4aをスライドさせる。そして、左下がりとなるように谷樋2を傾けて、谷樋吊持具3の右側の長孔3cにボルト4aを挿通し、袋ナット4bを締め込む。このとき、ボルト4aのヘッド部分は谷樋2のスライド溝2cに当接して回転が抑制されているので、ボルト4aのヘッド部分に工具を当てがわなくても、袋ナット4bを締め込むことができる。このように、谷樋2の右側壁2bと谷樋吊持具3の右側の谷樋保持部3bを固定すると、次に、谷樋2の左側壁2bのスライド溝2cにボルト4aのヘッド部分を嵌入して、上記と同様に、谷樋吊持具3が吊り下げられた箇所までスライドさせる。谷樋吊持具3の左側の谷樋保持部3bの上端は、上記のように切欠かれているので、そのボルト通過部3eよりボルト4aを長孔3cに挿通し、袋ナット4bを締め込むことで、谷樋2は谷樋吊持具3に吊持された状態で屋根1,1の谷間1Aに取付けられる。この際、ボルト4aの挿通箇所は長円形の長孔3cとなっているので、ボルト4aと袋ナット4bを上下させることで、谷樋2の流れ勾配の調整ができ、また、一度谷樋2を取付け後からでも容易に修正することができる。
【0026】
本発明の最大の特徴は、上記のように、谷樋吊持具3で谷樋2を吊持して屋根1,1に取付けた状態から、簡易な作業で谷樋2を下方に移動可能としたことにある。このように本発明は、谷樋2を取付けた状態のまま下方に移動可能とすることで、良好なメンテナンス性を実現することができるものであるが、谷樋2を上下方向にスライドさせる取付具があったとしても、谷樋2を取付けた状態のまま下方に移動できるものでなければ、そのような作用効果は期待できない。次に、その谷樋2を取付けた状態のまま下方に移動させて行う、本発明の谷樋のメンテナンス方法を説明する。
【0027】
まず、谷樋2に接続された縦樋7を谷樋2と分離することから始まる。谷樋2と縦樋7は、図6に示すように、落し口9、集水継手10、横管11、エルボ継手12を介して接続されている。落し口9は、谷樋2の排水口2dに、パッキン(不図示)を介してビス14留めにより接続されており、その落し口9に集水継手10が外嵌接続されている。この谷樋2の落し口9が接続される箇所には、何度もビス14打ちができるようにするため、底壁2aよりも肉厚な厚肉部2eが谷樋2の長さ方向の全長に亘って形成されている。そして、集水継手10の排水口10aに横管11の一端が接続されていて、横管11の他端はエルボ継手12の一方に接続されていると共に、エルボ継手12の他方には、縦樋7が接続されており、この縦樋7は、金属製や合成樹脂製の支持具8によって支柱13に支持されている。このとき縦樋7は、ボルト留めのように強固な手段で支柱13に固定されてはおらず、縦樋7の軸線を中心に回転できる程度に支持されているに留まる。
尚、谷樋2の底壁2a全体を肉厚(換言すれば側壁2bよりも肉厚)に形成してもよいし、谷樋2の長さ方向の全長に亘って厚肉部2eを形成するのでなく、ビス14打ちする部分のみに厚肉部2eを形成してもよい。
【0028】
このように谷樋2と縦樋7が接続されているので、分離する際は、まず、ビス14を取り外して、落し口9と谷樋2を分離する。次いで、図7に示すように、縦樋7の軸線を中心にして、縦樋7、落し口9、集水継手10、横管11、エルボ継手12を回転(本実施形態では反時計回り)させて、谷樋2の下方に干渉する部材が何もない状態にする。そして、両側の袋ナット4b,4bを緩めると、谷樋2が下方に移動する。このように谷樋2を下方に移動させると、図1の(b)に示すように、屋根1の裏面から谷樋2の側壁2bの上端までの距離が長くなるので、屋根1の裏面と谷樋2の間にスペースが生まれ、また、地上からの距離も近くなるので、地上からでもそのスペースより谷樋2の内部を清掃することが可能となる。
尚、本実施形態の谷樋2と落し口9の接続は、上記のように、ビス14留めにより行われているが、スライド溝2cを利用して取り付けたバンド等の固定具を谷樋2と落し口9の周囲に巻き付けることで接続してもよいし、谷樋2の底壁2aに落し口9を嵌入するスライド溝を形成して、そのスライド溝に落し口9を嵌入して谷樋2と落し口9を接続してもよい。
【0029】
尚、袋ナット4bを緩め過ぎると、谷樋2がその自重で勢いよく下方に移動してしまう恐れがある。これを防止するには、例えば図8に示すような谷樋吊持具30を用いればよい。この谷樋吊持具30は、逆L字形の長孔30cが谷樋保持部3bに形成されたものであるので、袋ナット4bを緩めた後に、谷樋2を前後方向に移動させなければ、谷樋2が下方に移動しない。従って、このような谷樋吊持具30を用いれば、袋ナット4bを緩めると同時に谷樋2がその自重で勢いよく下方に移動してしまう心配がなくなる。
【0030】
また、屋根1の位置が高い場合など、谷樋2をより下方に移動させたいときは、図9に示すようなスペーサー3Aを用いればよい。このスペーサー3Aは、ボルト4aを挿通する長孔31cが穿孔された平板で、上記のボルト4aと袋ナット4bにより谷樋吊持具3に取付けられている。そして、このスペーサー3Aに、ボルト4aとナット40bによって谷樋2が取付けられている。このようなスペーサー3Aを用いた場合、谷樋2を下方に移動させるには、まず、袋ナット4bを緩めて、図9の(b)に示すように、谷樋2とスペーサー3Aを谷樋吊持具3の長孔3cの下端まで移動させる。次いで、ナット40bを緩めて、図9の(c)に示すように、谷樋2をスペーサー3Aの長孔31cの下端まで移動させる。このようなスペーサー3Aを用いると、スペーサー3Aの長孔31cの寸法分(長孔31cの上端から下端までの寸法分)だけ、谷樋2を余分に下方へ移動させることができるようになるので、屋根1が高い場合でも、地上から谷樋2のメンテナンスを実施することができる。
【0031】
上記のように、本発明の谷樋の取付け構造は、谷樋2が、隣接する屋根1と屋根1の谷間1Aに取付けられた状態から、簡易な作業で谷樋2を下方に移動させることができるので、従来のように、屋根の上に登らなくても谷樋2のメンテナンスを行うことができ、作業員のリスクを回避することができる。
【0032】
図10は本発明の他の実施形態に係る谷樋の取付け構造を示すものであって、(a)は谷樋を屋根と屋根の谷間に取付けた状態の横断面図、(b)は谷樋を下方に移動させて傾けた状態の横断面図、図11は同取付け構造に用いる本発明の谷樋吊持具を示すものであって、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は左側面図、(d)は右側面図、図12は同取付け構造のメンテナンス方法を示す説明図である。
【0033】
本実施形態の谷樋取付け構造の特徴は、図11に示す谷樋吊持具31を用いることにある。図11の(b)に示すように、この谷樋吊持具31も、一対の谷樋保持部3b,3bと、それらを連結する連結部3aからなるもので、図11の(a)に示すように、その連結部3aには2つのボルト挿通孔3dが穿孔されている。この谷樋吊持具31の一方(本実施形態では右側)の谷樋保持部3bの下端部には、外側に向って斜め45°の角度で折り曲げて形成された折り曲げ部3fと、その折り曲げ部3fの先端を更に斜め45°の角度で折り曲げて地面と平行に形成された第二保持部3gが備わっている。
【0034】
そして、この谷樋吊持具31には、図11の(b)に示すように、谷樋保持部3bから折り曲げ部3fを経由して第二保持部3gに至る、一続きの長孔32cが形成されている。この長孔32cの上端(基端)は、谷樋2を隣接する屋根1と屋根1の谷間1Aに取付けた状態(下方に移動させる前の状態)で固定する第一固定部F1となっており、長孔32cの下端(先端)は、谷樋2を移動させて傾けた状態で固定する第二固定部F2となっている。
【0035】
一方、図11の(c)に示すように、左側の谷樋保持部3bには、ボルト4aを挿通する挿通孔33cが穿孔されており、この挿通孔33cが、谷樋2を隣接する屋根1と屋根1の谷間1Aに取付けた状態(下方に移動させる前の状態)で固定する第一固定部F1とされている。そして、この挿通孔33cも、前述した谷樋吊持具3と同様に、切欠かれてボルト通過部3eが形成されている。
【0036】
図10に示すように、上記構成の谷樋吊持具31は、前述した実施形態の谷樋の取付け構造と同様に、左右の屋根1,1に固定された貫通ボルト5a,5aの下端部を、谷樋吊持具31の連結部3aのボルト挿通孔3dに挿通し、上下から座金5c,5cを介して2つのナット5b,5bを締め込むことによって屋根1,1から吊り下げられている。そして、右側の谷樋保持部3bの長孔32cにボルト4aを挿通し、袋ナット4bを締め込むことで、ボルト4aが第一固定部F1に当接する位置で谷樋2の右側壁2bを固定している。また、谷樋2の左側壁2bのスライド溝2cにボルト4aのヘッド部分を嵌入し、前述した実施形態と同様に、谷樋吊持具31が吊り下げられた箇所までスライドさせて、ボルト通過部3eよりボルト4aを第一固定部F1である挿通孔33cに挿通し、袋ナット4bを締め込むことで、谷樋2は谷樋吊持具31よって吊持されて、屋根1,1の谷間1Aに取付けられている。
【0037】
このような谷樋の取付け構造のメンテナンスは、図12に示すように、谷樋2の左側壁2bを固定していた袋ナット4bを緩めて、袋ナット4bをボルト4aと共にスライドさせて、谷樋2の左側壁2bの固定を解除する。次いで、谷樋2の右側壁2bを固定していた袋ナット4bを、谷樋2の固定を解除できる程度に緩めて、ボルト4a、袋ナット4bと共に谷樋2を谷樋保持部3b(長孔32c)に沿わせながら下方に移動させていく。このように谷樋保持部3bの下端部まで谷樋2を移動させて、そこから更に長孔32cの内部を移動させると、ボルト4a、袋ナット4bと谷樋2は、折り曲げ部3fに沿いながら、谷樋2の左側の側壁2bが右側の側壁2bよりも低い位置(左下がり)となって傾いていき、最終的には、図10の(b)に示すように、第二保持部3gに沿いながら第二固定部F2まで移動する。谷樋2が第二固定部F2まで移動すると、第二保持部3gが地面と平行に形成されているので、谷樋2は左下がりに90°傾くことになる。このように谷樋2を90°傾けて、袋ナット4bを締め込んで谷樋2を第二固定部F2に仮固定したのち、谷樋2内部の清掃作業を行う。
尚、上記のように、谷樋2を90°傾けると、谷樋2の内部に堆積している落ち葉等のゴミがこぼれ落ちてしまうことがある。このように、落ち葉等が大量に堆積している場合は、図13に示すように、谷樋2を第二保持部3gまで移動させずに、谷樋2を45°傾けた状態の折り曲げ部3fで仮固定し、その状態で落ち葉等のゴミを大方取り除き、その後、第二固定部F2まで谷樋2を移動させて、その内部をきれいに清掃すればよい。
また、屋根1の位置が低いなど、谷樋2を45°傾けた状態でも十分に内部の清掃ができる場合は、図示はしないが、折り曲げ部3fの先端に第二保持部3gを必ずしも設ける必要がなく、そのような場合は、折り曲げ部3fに第二固定部F2を形成してもよい。
【0038】
更に、図14に示す谷樋吊持具32を用いれば、落ち葉等の堆積状況やメンテナンスに用いる清掃用具の形状などに応じて谷樋2の角度を任意に微調整することができる。即ち、上記の谷樋吊持具31の折り曲げ部3fが、屈曲して形成されていたのに対して、この図14に示す谷樋吊持具32の折り曲げ部30fは湾曲して形成されている。このような谷樋吊持具32で谷樋2を吊持すると、任意の角度(この実施形態では0°〜90°の範囲)で谷樋2を仮固定できるようになり、メンテナンスの作業性が一層向上する。
尚、折り曲げ部30fを更に延長して、調整角度を0°〜180°にまですることができるのは言うまでもない。
【0039】
以上のように、本実施形態の谷樋吊持具31を用いた谷樋の取付け構造は、谷樋2を下方に移動させるだけでなく、谷樋2を90°傾けてからメンテナンスを行うため、より低い位置からでも谷樋2の清掃作業が可能となり、落ち葉等のゴミも掻き出し易くなる、といった顕著な効果を奏するものである。しかも、図15の(a)に示すように、本発明の谷樋吊持具31は、谷樋保持部3bの下端部に折り曲げ部3fを設けることで、谷樋2を傾けた際の幅W1が、図15の(b)に示す、谷樋固定部101の上端部にヒンジ102を設けると共に、そのヒンジ102を中心にして谷樋2を傾けるようにした谷樋取付け具100の傾け幅W2と比較すると、遥かに小さくて済み、大きなメンテナンススペースを必要としないので、傾けた谷樋2が縦樋7や支柱13等に干渉する心配がなくなる、といった利点もある。
【符号の説明】
【0040】
1 屋根
1a 山部
1A 屋根と屋根の谷間
2 谷樋
2a 底壁
2b 側壁
2c スライド溝
2d 排水口
2e 厚肉部
3,30,31,32 谷樋吊持具
3a 連結部
3b 谷樋保持部
3c,30c,32c 長孔
33c 挿通孔(第一固定部)
3d ボルト挿通孔
3e ボルト通過部
3f,30f 折り曲げ部
3g 第二保持部
F1 第一固定部
F2 第二固定部
3A スペーサー
31c 長孔
4a ボルト
4b 袋ナット
40b ナット
5a 貫通ボルト
5b ナット
5c 座金
6 カバー部材
7 縦樋
8 支持具
9 落し口
10 集水継手
10a 排水口
11 横管
12 エルボ継手
13 支柱

【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣接する屋根と屋根の谷間に設けられる谷樋の取付け構造であって、
谷樋は、谷樋吊持具で吊持されて隣接する屋根と屋根の谷間に取付けられ、その谷樋が取付けられた状態から、谷樋を下方に移動可能にしたことを特徴とする谷樋取付け構造。
【請求項2】
谷樋を下方に移動させてから、谷樋の一方の側壁が他方の側壁よりも低い位置となるよう谷樋を傾けることができるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の谷樋の取付け構造。
【請求項3】
谷樋吊持具が、谷樋の側壁を保持する一対の谷樋保持部を有したものであり、少なくとも一方の谷樋保持部の下端部が外側に向って形成されている、又は、外側に折り曲げ可能に形成されていて、その谷樋保持部に沿って谷樋を移動可能にしたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の谷樋の取付け構造。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の谷樋取付け構造に用いられる谷樋吊持具であって、谷樋の側壁を保持する一対の谷樋保持部を有し、該谷樋保持部には、谷樋を隣接する屋根と屋根の谷間に取付けた状態で固定する第一固定部が形成されていて、一方又は双方の谷樋保持部の下端部には、外側に向って形成された、又は、外側に折り曲げ可能に形成された折り曲げ部と、折り曲げ部の先端部に形成された、谷樋を移動させた後の状態で固定する第二固定部とが備えられており、上記第一固定部と第二固定部は一続きの長孔で繋がっていることを特徴とする谷樋吊持具。
【請求項5】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の谷樋取付け構造のメンテナンス方法であって、谷樋に接続された縦樋を谷樋と分離し、谷樋を下方に移動させて、谷樋の一方の側壁が他方の側壁よりも低い位置となるように谷樋を傾けてから、谷樋の内部を清掃することを特徴とする谷樋のメンテナンス方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2013−11118(P2013−11118A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145249(P2011−145249)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000108719)タキロン株式会社 (421)