説明

豆茶およびその製造方法

【課題】豆茶のGABAを富化するために発芽直前まで吸水させるという工程を採用しても、アントシアニジンおよびその他の水溶性のポリフェノール総量が減少することなく、そればかりかポリフェノール総量が富化された黒豆茶または小豆茶などの豆茶とすることである。
【解決手段】抽出時の2〜6倍に濃縮された豆の熱水抽出液を発芽用水とし、これを黒大豆または小豆に発芽直前または発芽時の大きさ(浸漬前の1.5〜2倍の体積)に膨潤するまで吸収させた茶原料を焙煎した豆茶とする。発芽用水は、豆の細胞と同等以上の浸透圧であり、さらに種子の吸水機能によって豆から水溶性ポリフェノールなどが熱水抽出液中に流出することなく、さらに多量の蛋白質、澱粉、脂肪および水溶性のポリフェノールが茶原料の豆に吸収される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、黒豆茶、小豆茶などの豆茶およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な飲料として親しまれている茶は、様々な原料を水に抽出して得られるものであり、茶樹の葉ばかりでなく、穀物茶もよく知られている。
穀物茶としては、玄米、オオムギ、コムギ、ハトムギなどの麦や蕎麦などを原料としたものや、大豆や小豆を原料とした豆茶が知られている。
【0003】
豆茶の原料のうち、特に黒豆は表皮にフラボノイド系のポリフェノールであるアントシアニンが多く含まれており、また大豆には表皮以外の部分にもイソフラボンなどのフラボン成分も含まれていることから、これらは抗酸化性による生態防御機能の向上や、女性ホルモンを補う物質として需要者の注目を集めている。
【0004】
また、一般的に種子の発芽時に起こる生化学反応は、酵素が触媒する生化学反応であって、水のある条件で進行し、種子が水を吸うとデンプン、タンパク質、脂肪などの貯蔵物質を分解する酵素が活性化されたり、新しく合成されたりし、デンプンからブドウ糖、タンパク質からはアミノ酸、脂肪からは脂肪酸などが生成される。
【0005】
さらに、米や豆類では発芽直前に栄養分が富化され、人体の健康に好ましいγ−アミノ酪酸(以下、GABAと略称する)も豊富に含有するものになる。
【0006】
黒大豆を茶に調製する場合の改良技術としては、黒豆茶の表皮のアントシアニジンを豊富に含有する黒豆茶になるように、黒豆から分離した表皮を焙煎工程の後に添加して豆茶を製造する方法が知られている(特許文献1)。
【0007】
【特許文献1】特開2006−158329号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記した従来の黒豆茶の製造方法では、アントシアニジン以外の有用成分を富化することは困難であり、発芽直前まで吸水させるというGABAを富化する工程を採用すると、アントシアニジンおよびその他の水溶性のポリフェノール総量を富化した黒豆茶とすることは技術的に困難であった。
【0009】
また、黒豆ばかりでなく、小豆のような豆類においても発芽直前まで吸水させるというGABAを富化する工程を採用すると、吸水時に流出しやすい水溶性のポリフェノールを補ってポリフェノール総量を富化した豆茶とすることは上記同様に容易なことではなかった。
【0010】
そこで、この発明の課題は、上記した問題点を解決して、豆茶のGABAを富化するために発芽直前まで吸水させるという工程を採用し、しかもアントシアニジンおよびその他の水溶性のポリフェノール総量が減少することなく、そればかりかポリフェノール総量が富化された黒豆茶または小豆茶などの豆茶とすることであり、またはそのような豆茶の製造方法とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、この発明においては、豆の熱水抽出液を発芽用水とし、これを豆に発芽直前または発芽時の大きさに膨潤するまで吸収させてなる茶原料を焙煎してなる豆茶としたのである。
【0012】
上記したように構成されるこの発明の豆茶は、発芽直前または発芽時の大きさに膨潤するまで吸収させる発芽用水が、豆の熱水抽出液であることから、これに豊富に含まれる水溶性のポリフェノールおよび水溶性の蛋白質、澱粉、脂肪が、茶原料の豆に発芽用水として吸収される。
【0013】
すなわち、発芽用水は、豆の熱水抽出液であり、好ましくはこれが濃縮されたものであることにより、豆の細胞と同等以上の浸透圧であり、さらに種子の吸水機能によって豆から水溶性ポリフェノールなどが熱水抽出液中に流出することなく、これに含まれる多量の蛋白質、澱粉、脂肪および水溶性のポリフェノールが茶原料の豆に吸収される。
【0014】
そして、このような茶原料の豆を発芽直前または発芽時の大きさに水分で膨潤させることにより、貯蔵物質を分解する酵素が活性化され、または新しく合成され、ポリフェノール、ブドウ糖、γ−アミノ酪酸、脂肪酸などが生成される。
【0015】
このような茶原料を焙煎してなる豆茶は、従来にない豊富なポリフェノールを含み、しかも甘みやGABAなどの抗酸化性物質が富化された豆茶になる。
【0016】
前記の作用を、より確実に得られるようにするため、豆の熱水抽出液を調製する際には、抽出時の2〜6倍に濃縮された豆の熱水抽出液であることが好ましく、豆は、黒大豆または小豆を採用して好ましい結果が得られている。
【0017】
すなわち、上記の作用効果を奏する豆茶の製造方法としては、豆の熱水抽出液を2〜6倍に濃縮し、これに豆を浸漬して浸漬前の1.5〜2倍の体積に膨潤するまで吸収させ、これを茶原料として焙煎および粉砕することからなる豆茶の製造方法とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
この発明は、豆の熱水抽出液を発芽用水とし、これを豆に発芽直前または発芽時の大きさに膨潤するまで吸収させたる茶原料を焙煎したので、GABAが富化され、しかもアントシアニジンおよびその他の水溶性のポリフェノール総量が富化された黒豆茶または小豆茶などの豆茶となる利点がある。
【0019】
また、豆の熱水抽出液を所定倍に濃縮し、これに豆を浸漬して所定体積に膨潤させ、これを茶原料として焙煎および粉砕するので、上記のような利点を有する豆茶を効率よく製造できる方法となる利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
この発明に用いる茶原料の豆は、水溶性のポリフェノールを含有する食用豆であれば良く、特にその種類を限定せずに原料として採用することが可能である。
茶原料に使用可能な食用豆としては、黒大豆、小豆、ナタマメ、ササゲ(黒目豆)、レンズマメなどが挙げられる。
【0021】
黒大豆は、マメ科の一年生作物である大豆(Glycine max(L.) Merr)のうち、種子の皮の黒い品種であり、系統学的な分類では大豆の一品種であるが、黄大豆とは含有されている成分が異なり、体に有用なポリフェノールのうち、黄大豆には殆ど含まれていないアントシアニジンなどのアントシアニンを多量に含み、また植物エストロゲンであるイソフラボンも黄大豆の2倍程度も多量に含んでいる特異な品種である。
【0022】
因みに、アントシアニンは、優れた抗酸化作用を有するポリフェノールであり、体内で活性酸素発生を抑制する作用があり、また黒豆には、コレステロールを下げるグリシニン、リノール酸、レシチン、リグニンや中性脂肪を下げるリノレン酸などの不飽和脂肪酸が含まれ、他にも血管を広げるビタミンEや塩分をだし血圧を下げるカリウム、血液をサラサラにする植物エストロゲンのゲニスチンやダイズイン、大豆サポニン、クリサンテミンなど数多くの成分が含まれている。
【0023】
前記したうち、大豆サポニンは、配糖体の一種であり、過酸化脂質の増加を防ぎ、脂質の代謝を促進して高脂血症を予防し、高血圧症、動脈硬化症、肝臓障害の改善に有効な成分である。
【0024】
小豆(アズキ、Vigna angularis)は、マメ科 ササゲ属の植物の種子であり、約20%はタンパク質で、栄養価が高いほか、赤い品種の皮にはアントシアニンが含まれ、亜鉛などのミネラル分も豊富である。
【0025】
このような多くの有用成分を含有する豆類の熱水抽出物は、原料とする豆の体積の2〜10倍量の水に漬けて、大気圧の雰囲気で沸騰状態に加熱し、比重1.1(g/cm3)以上、好ましくは1.1〜1.3(g/cm3)に煮詰めたものを用いて好ましい結果を得ている。すなわち、具体的な加熱温度と加熱時間の例としては、90℃以上(100℃以下)に加熱されて20分〜2時間程度加熱することが好ましい。別の生産工程から得られる同種類の豆類の煮汁(いわゆる前炊き時の煮汁)を抽出溶媒として再利用できる場合には、20〜30分程度の加熱時間で充分である。
【0026】
豆の熱水抽出液を発芽用水とするには、上記のようにして得られる豆の熱水抽出物(比重1.1以上)をそのまま原液として用いるか、または抽出時の2〜6倍、好ましくは3〜5倍に濃縮された豆の熱水抽出液として用いる。
【0027】
また、このような濃縮工程の前に、豆類の熱水抽出物(液)に蛋白質分解酵素(プロテアーゼ)を添加して酵素処理(活性化および加熱による不活性化)を行なっておけば、豆茶の濁りの原因となる蛋白質を除去でき、または除去容易になる。すなわち、豆類の熱水抽出物はプロテアーゼ処理の後、必要に応じてろ過または遠心分離して濁りの原因物質を除去しておくことが好ましい。
【0028】
この発明に用いる蛋白質分解酵素としては、動・植物または微生物起源の市販の酵素剤を用いることが可能であり、酵素の具体例としてはパパイン、プロメライン、フィシン等が挙げられる。
【0029】
このような熱水抽出液に豆を浸漬するときには、原料とする豆の体積の2倍量またはそれ以上の熱水抽出液に浸漬すればよく、少なくとも豆の体積が発芽直前に1.5〜2倍程度に膨張する水分量があればよい。
熱水抽出液に豆を浸漬する条件は、常温で約12時間を採用すればよく、20〜35℃の範囲で調整することが好ましい。
【0030】
次に膨潤した茶原料を焙煎するには、通常の豆茶の製造工程における焙煎条件を採用すればよく、例えば180℃で60分程度に焙焼することは好ましい条件といえる。
その後は、常温まで放置して冷却すれば、良品の豆茶を製造することができる。
【実施例1】
【0031】
[黒大豆の熱水抽出物の製造]
精選して水洗いされた1kgの黒大豆に5kgの水を加えて加熱して沸騰させ、90〜100℃で30分間加熱した後、濾過して皮などを除き、さらにプロテアーゼ処理およびろ過処理して4kgの煮汁を得て、これを1/4体積になるまで真空濃縮し、冷却して1kgの黒大豆の熱水抽出による濃縮液(常温)を得た。
【0032】
[熱水抽出液の吸収と焙煎および粉砕]
別途、精選して水洗いされた1kgの黒大豆を上記で得られた熱水抽出液の濃縮液1kgに浸漬し、常温で12時間そのまま放置して濃縮液を吸収させて浸漬前豆体積の2倍弱に膨張させ発芽寸前の状態にした。
膨張した黒豆はオーブンに入れて攪拌しつつ180℃で60分加熱することにより焙煎した。
次に、上記の焙煎黒豆を20分放冷して約40℃としたものをミルで粉砕し、篩に通して5mm角以下の粉粒状の黒豆茶を製造した。
【実施例2】
【0033】
[小豆の熱水抽出物の製造]
精選して水洗いされた1kgの小豆に5kgの水を加えて加熱して沸騰させ、その後90〜100℃で30分間加熱した後、濾過して皮などを除き、さらにプロテアーゼ処理およびろ過処理して4kgの煮汁を得て、これを1/4体積になるまで真空濃縮し冷却して1kgの小豆の熱水抽出による濃縮液(常温)を得た。
【0034】
[熱水抽出液の吸収と焙煎および粉砕]
別途、精選して水洗いされた1kgの小豆を上記で得られた熱水抽出液の濃縮液1kgに浸漬し、常温で12時間そのまま放置して濃縮液を吸収させ、浸漬前の豆体積の2倍弱に膨張させ発芽寸前の状態にした。
膨張した小豆は、オーブンに入れて攪拌しながら180℃で60分加熱することにより焙煎した。
次に、上記の焙煎小豆を20分放冷して約40℃としたものをミルで粉砕し、篩に通して5mm角以下の粉粒状の小豆茶を製造した。
【0035】
[比較例1]
精選して水洗いされた1kgの黒大豆を水1kgに浸漬し、常温で12時間そのまま放置して水を吸収させて浸漬前豆体積の2倍弱に膨張させた。膨張した黒豆は180℃で60分加熱することにより焙煎した。
次に、上記の焙煎黒豆を20分放冷して約40℃としたものをミルで粉砕し、篩に通して5mm角以下の粉粒状の黒豆茶を製造した。
【0036】
[比較例2]
精選して水洗いされた1kgの小豆を水1kgに浸漬し、常温で12時間そのまま放置して水を吸収させて浸漬前豆体積の2倍弱に膨張させた。膨張した小豆は180℃で60分加熱することにより焙煎した。
次に、上記の焙煎小豆を20分放冷して約40℃としたものをミルで粉砕し、篩に通して5mm角以下の粉粒状の小豆茶を製造した。
【0037】
上述のように製造して得られた実施例1、2、比較例1、2の粉粒状の豆茶について、それらを3gずつ透水性袋に収容していわゆるティーバックを作製し、これを90℃の熱水200mlで抽出して濁りのない豆茶飲料を作製し、これに含まれる総ポリフェノール量(g/100g)を測定した。
因みに、ポリフェノール量の測定法として公定法はないので、フォリン−チオカルト(Folin-Ciocalteu)法を採用した。この試験法は、ポリフェノールなどの還元性のある物質に対し、強アルカリ性下で青く発色するフォリン−チオカルト試薬を用い、比色法(660nm)により一括して全てのポリフェノール量を測定する方法である。
得られた結果を表1中にまとめて示した。なお、表中、検出せずとの表示は0.01g/100g未満の測定値であったことを示している。
【0038】
【表1】

【0039】
表1の結果からも明らかなように、比較例1の黒豆茶または比較例2の小豆茶は、GABAの発芽活性を求めて水または水溶液に浸漬処理したため、水溶性ポリフェノール総量が少なくなっていた。
【0040】
これに対して、実施例1の黒豆茶または実施例2の小豆茶は、GABAの発芽活性を求めて水または水溶液に浸漬処理したにも拘わらず、アントシアニジンおよびその他の水溶性のポリフェノール総量が減少することなく、富化されていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
豆の熱水抽出液を発芽用水とし、これを豆に発芽直前または発芽時の大きさに膨潤するまで吸収させてなる茶原料を焙煎してなる豆茶。
【請求項2】
豆の熱水抽出液が、抽出時の2〜6倍に濃縮された豆の熱水抽出液である請求項1に記載の豆茶。
【請求項3】
豆が、黒大豆または小豆である請求項1または2に記載の豆茶。
【請求項4】
豆の熱水抽出液を2〜6倍に濃縮し、これに豆を浸漬して浸漬前の1.5〜2倍の体積に膨潤するまで吸収させ、これを茶原料として焙煎および粉砕することからなる豆茶の製造方法。

【公開番号】特開2008−253183(P2008−253183A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−98269(P2007−98269)
【出願日】平成19年4月4日(2007.4.4)
【出願人】(397010365)冨士製餡工業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】