貝類の養殖方法
【課題】貝類を垂下式で養殖する方法において、筏の単位面積当たり、又は延縄の単位長さ当たりの貝類の養殖数を増やすことができ、選別作業を効率的に行うことができる貝類の養殖方法を提供する。
【解決手段】貝類を垂下式で養殖する方法において、セメントを主成分とする水硬性組成物により、貝類を網状の基材に接着して垂下することを特徴とする貝類の養殖方法。
【解決手段】貝類を垂下式で養殖する方法において、セメントを主成分とする水硬性組成物により、貝類を網状の基材に接着して垂下することを特徴とする貝類の養殖方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貝類を垂下式にて養殖する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
貝類を養殖する方法としては、針金やロープ等の基材に貝類を取り付け、海中で養殖する垂下式が一般的である。貝類を取り付ける方法としては、針金やロープにカゴを取り付け、その中に適当量の稚貝を入れて養殖する方法(カゴ養殖)や、貝に直接穴を開けてビニール紐や結束バンド等により固定する方法(耳吊り)、帆立貝などを採苗器として採取した稚貝をそのまま養殖する方法(はだか吊り)などが知られている。
【0003】
しかしながら、カゴを用いた場合、カゴの大きさに合わせて垂下するロープの間隔を確保する必要があり、養殖量が制限される場合があった。ビニール紐やフック等により固定する方法は、貝の種類によっては使用不可能な場合があり、養殖後の貝の取り外し工程にも多大な労力を要する。また、採苗器をそのまま用いて養殖した場合、貝が密集して付着していると成長が抑制され、商品として十分な大きさにならない場合や、形状が歪になる場合がある。
【0004】
このため、セメントを主成分とする接着材により、稚貝を垂下連に固定して垂下する養殖方法が開発された(特許文献1、特許文献2)。
この養殖方法では、垂下連1本当たりに垂下する貝類の数が、他の垂下方法に比べて少なくなるため、多量の貝類を養殖する場合には、垂下連を縦方向に連結したり、筏や延縄に垂下する際の間隔を狭めたりすることにより、養殖数を増やすことが行われている。しかしながら、養殖地域によっては、水深が浅いために垂下連を連結できない場合や、波によって垂下連が接触するのを防ぐために間隔を狭めることができない場合があった。
【0005】
一方、従来行われているカゴ養殖においては、目的とする大きさに応じて個数を調整し、貝類をカゴに入れて養殖を行い、適当な大きさに成長したものから製品として出荷されている。この場合、全ての貝類をカゴから一度取り出して選別を行い、終了後に再びカゴに戻す作業が必要となる。比較的小さい貝類を養殖する場合には、1カゴ当たりの貝類が70個程度になることもあり、多量の選別作業を行う場合には、大きな労力が必要になるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−206496号公報
【特許文献2】特開2008−237036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、貝類を垂下式で養殖する方法において、筏の単位面積当たり、又は延縄の単位長さ当たりの貝類の養殖数を増やすことができ、選別作業を効率的に行うことができる貝類の養殖方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、斯かる実情に鑑み、種々検討した結果、セメントを主成分とする水硬性組成物により、貝類を網状の基材に接着して垂下すれば、筏の単位面積当たり、又は延縄の単位長さ当たりの貝類の養殖数を増やすことができ、しかも、選別作業を効率的に行うことができることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、貝類を垂下式で養殖する方法において、セメントを主成分とする水硬性組成物により、貝類を網状の基材に接着して垂下することを特徴とする貝類の養殖方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、貝類の垂下式養殖において、筏の単位面積当たり、又は延縄の単位長さ当たりの貝類の養殖数を増やすことができ、しかも、養殖後の選別作業を効率的に行うことができる。特に、水深が浅い場合の養殖に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】網状基材の形状の例を示す図である。
【図2】網状基材に貝類を接着した場合の例を示す図である。
【図3】波形作業台を用いて網状基材に貝類を接着した場合の例を示す図である。
【図4】波形作業台を用いて網状基材に貝類を接着した場合の例を示す図である。
【図5】波形作業台を用いて網状基材に貝類を接着した場合の断面を示す図である。
【図6】開口部のある網状基材に貝類を接着した場合の例を示す図である。
【図7】開口部の形状の例を示す図である。
【図8】垂下方法の例を示す図である。
【図9】垂下方法の例を示す図である。
【図10】垂下方法の例を示す図である。
【図11】垂下方法の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明で用いる水硬性組成物は、セメントを主成分とするものである。
ここで用いるセメントとしては、ポルトランドセメント類のほか、高炉セメント、フライアッシュセメント、スラグセメント、エコセメント、アルミナセメントなどを、1種又は2種以上を適当な割合で混合したものを用いることが可能である。作業性や強度発現性の点から、特に早強ポルトランドセメント、普通ポルトランドセメントを用いるのが好ましい。これらセメントは、単独で用いることも可能であるが、必要に応じて、一般にセメント・コンクリートで使用される細骨材類、石膏類、石灰石粉末、ドロマイト、スラグ、シリカフューム、カルシウムアルミネートなどの混和材を混合して用いることもできる。
セメントは、水硬性組成物中に20〜90質量%、特に35〜80質量%含有されるのが好ましい。
【0013】
また、水硬性組成物は、硬化性状を調整するため、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の炭酸塩、硫酸塩、亜硝酸塩、硝酸塩、塩化物、水酸化物などを含有することができる。
これらの材料は、1種又は2種以上を混合して用いることができ、水硬性組成物中に0.1〜10質量%、特に1〜7質量%含有されるのが好ましい。
【0014】
さらに、水硬性組成物には、接着材スラリーの流動性や硬化性状を調整するための材料として、一般にセメント・コンクリート用として使用されている硬化促進剤、凝結遅延剤、収縮低減剤、AE剤、減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、流動化剤、増粘剤、消泡剤等の添加物を、接着材スラリーの性状、接着性および接着した貝類の状態に影響を及ぼさない範囲で1種又は2種以上を併用して添加することもできる。これらの材料は、その形態によって、予め水硬性組成物の粉体に混合しても良いし、練り混ぜ時に水に溶解しても良い。また、練り上がったスラリーの状態を確認した後、必要量を後からスラリーに添加して再び混練して用いることも可能である。
【0015】
水硬性組成物は、水と混合して練り混ぜてスラリーとし、接着材として用いられる。これらの混合割合は、水硬性組成物100質量部に対し、水25〜50質量部、特に30〜40質量部であるのが好ましい。
【0016】
スラリーのスランプ値は、30mm以下、特に10〜25mm;また、スラリーのフロー値は、80mm以下、特に60〜70mmであるのが、作業性が良好であり、接着材を施用した後に貝上から流れ落ちずに留まることができるので好ましい。
【0017】
本発明方法により養殖する貝類としては、牡蠣、帆立貝等が挙げられ、特に牡蠣の養殖に好適である。
貝類の稚貝は、通常の方法により、採苗器により採取したものを用いることができる。稚貝の大きさは、1.5〜10cm、特に3〜8cmのものを用いるのが好ましい。
【0018】
本発明で用いる網状の基材としては、漁業用に用いられる網等を用いることができる。
材質としては、ポリビニルアルコール系、ポリ塩化ビニリデン系、ポリアミド系、ポリプロピレン系、ポリエチレン系等の合成繊維からなるものが好ましい。網の網み方としては、結節網、無結節網、綟子網、織網などを用いることができる。
網糸の太さは、網目の形状や目合い等により適宜調整されるが、通常、基材に使用される撚り線の太さとして0.5〜3mmであるのが好ましい。
網目は、目合い1〜50mm、特に3〜35mmであるのが好ましく、形状は、菱目、角目、六角形等のいずれでも良い。
網状基材の形状は特に制限されず、例えば、図1に示したように、シート型、短冊型、リボン型等のいずれでも良い。また、網状基材の大きさは、基材1つで垂下連を作成する場合の大きさとして、縦1.5m×横2m以下であるのが好ましい。
【0019】
本発明においては、このような網状の基材に、前記のようなスラリーからなる接着材を用いて貝類を固定する。
具体的には、例えば、図2に示したように、貝類を1つ当たりの面積が縦15cm×横10cm程度となるよう、同一方向になるように並べ、その上から貝類との間に5mm程度の隙間ができるよう、網状基材を設置し、両端を固定する。基材の上から接着材スラリーを施用し、更にその上からもう一つの貝類をのせ、一カ所当たりの接着数を2個とし、貝類と接着材が密着するように軽く押し付けた後、静置して接着材を硬化させ、垂下連を得る。
また、波形の作業台を用いた場合には、作業台の谷部分に貝類を2つ並べた上から網状基材を設置し、その上から接着材スラリーを施用して、更にその上からさらに貝類を接着することにより、1ヶ所当りの接着数を3個以上とすることも可能である(図3〜5)。
【0020】
接着点1点当りの接着材施用量は、貝類の大きさや形状に合わせて10〜100gであるのが好ましく、30〜70gが汎用的な施用量である。
【0021】
なお、目合い10mm以下の網状基材を用いる場合、貝類を接着するための開口部を有していてもよい(図6)。開口部を有することにより、貝類を接着しやすくなる。
開口部の形状は、貝類の表面に均一に広がった状態であることが好ましく、円形や正方形が好ましい。また、牡蠣などの縦長な形状の貝においては、長さ方向に合わせた楕円形、長方形、菱形であるのが好ましい(図7)。
開口部の大きさは、接着する貝類の大きさよりも形状により異なるが、円形や正方形の場合、直径もしくは1辺の長さが30mm以下が好ましく、楕円形、長方形、菱形の場合は、長さが50mm以下、幅が30mm以下であるのが好ましい。
【0022】
得られた垂下連は、海中に垂下して、通常の方法により貝類を養殖すればよい。
垂下連の垂下方法としては、例えば、図8に示したように、網状基材を広げた状態で、上方を針金やロープ等を用いて、筏や延縄に直接垂下する。また、図9に示したように、網状基材の上部を予め固定具に固定した後、複数の垂下連を一括して筏や延縄に垂下しても良い。固定具としては、木材、プラスチック、合成樹脂、金属からなる棒状物や、鋼繊維、合成樹脂繊維、炭素繊維等を束ねたロープなどが使用でき、さらに、これらをテフロン(登録商標)、ゴム、プラスチック、ビニールなどによって被覆したものを使用することもできる。
更に、貝類を接着した網状の基材の1又は2以上を、枠に固定し、円柱又は角柱の形状として垂下することもできる(図10)。
また、垂下連の外側に、脱落した貝類を捕獲するための外枠を設置することもできる(図11)。
【0023】
本発明の方法は、いずれの養殖海域にも適用が可能であるが、特に波の影響により垂下連が海底に接触する場合や、垂下連を連結して垂下できない場合など、水深が比較的浅い海域で使用する場合に、より効果が期待できる。特に、概ね5m以下の水深で使用する場合に好適である。
【実施例】
【0024】
実施例において、垂下連の基材としては、表1に示すものを用いた。
【0025】
【表1】
【0026】
実施例1
早強ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)、石灰石粉末(有恒鉱業社製、200メッシュ品)、高炉スラグ微粉末(デイ・シイ社製、ブレーン値4000品)、塩化カルシウム(セントラル硝子社製、フレーク品)を表2に示す配合により計量を行い、レディゲミキサーにより2分間混合して、水硬性組成物とした。これをトスロン缶に10000g量り取り、水粉体比35%となるよう水道水を加え、ハンドミキサーにより3分間練りまぜを行い、接着材スラリーとした。
【0027】
【表2】
【0028】
平面の作業台上に長さ5〜10cm程度の牡蠣稚貝を1つ当たりの面積が縦12cm×横10cmとなるように、右貝を下にして同一の方向となるように並べ、その上から牡蠣との間に5mm程度の隙間ができるよう、縦1m×横1.6mの大きさに裁断した基材Aのネットを設置し、両端を固定した。基材の上から接着材スラリーを金属製スプーンにより約60g施用し、更にその上からもう一つの牡蠣稚貝を右貝が上になるようにのせ、一カ所当たりの接着数を2個とし、牡蠣稚貝と接着材が密着するように軽く押し付けた後、1日静置して接着材を硬化させ、垂下連Aを作製した。
【0029】
一方、波形の作業台に長さ7cm程度の牡蠣稚貝を5cm間隔(牡蠣稚貝と間隔の合計12cm)となるように、牡蠣稚貝を2個ずつV字型になるよう、右貝を下にして1m分並べ、その上から長さ2mの基材Bのロープを設置し、基材が中心になるように調整した後、両端をフックで固定した。その上から、接着材スラリーを約60g施用し、更にその上からもう一つの牡蠣稚貝を、右貝が上になるようにのせ、一カ所当たりの接着数を3個とし、接着材スラリーが基材を中心として牡蠣稚貝に密着するように軽く押し付けた後、1日静置して接着材を硬化させ、垂下連Cを作製した。
更に、基材Bのロープに、12cm間隔でアゲピンを設置し、1カ所当たり貝に穴を開けてテグスを通した牡蠣8個を取り付けた耳吊り養殖用の垂下連Dを作製した。
【0030】
作製した垂下連A、C及びDは延縄に垂下し、垂下連Aの横方向の長さ(1.6m)を単位長さとして、各種垂下連を使用した場合の牡蠣垂下数を測定した。垂下連C及びDは、従来の方法で養殖を行う場合の垂下連の間隔を30cmと仮定して、単位長さ当たりの垂下数を5本とした。
結果を表3に示す。
【0031】
【表3】
【0032】
実施例2
(1)垂下連の作製:
実施例1で作製した垂下連Aを、上端と下端に、直径50cmの円形枠を取り付けて円筒形とした垂下連Bを作製した。また、基材Cを全長が1m程度となるよう、縦方向に5段連結し、1段当たり50個の牡蠣稚貝を入れた垂下連Eを作製した。
【0033】
(2)垂下連の垂下:
垂下連B及びEを、実施例1と同様にして延縄に垂下し、垂下連Aの幅を基準として単位長さ当たりの牡蠣垂下数を測定した。垂下連B及びEは同等の垂下面積であり、基材C及び枠の直径が50cmであることから、単位長さ当たりの垂下数は3本とした。
結果を表4に示す。
【0034】
【表4】
【0035】
表3及び表4の結果より、本発明によれば、単位長さ当たりの貝類の養殖量を、カゴ養殖や耳吊り養殖と同程度に増やすことが可能であり、収穫量の増加が期待される。また、カゴ養殖のように、貝類をカゴから出し入れすることなく選別作業を行うことができ、選別作業が効率的になる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、貝類を垂下式にて養殖する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
貝類を養殖する方法としては、針金やロープ等の基材に貝類を取り付け、海中で養殖する垂下式が一般的である。貝類を取り付ける方法としては、針金やロープにカゴを取り付け、その中に適当量の稚貝を入れて養殖する方法(カゴ養殖)や、貝に直接穴を開けてビニール紐や結束バンド等により固定する方法(耳吊り)、帆立貝などを採苗器として採取した稚貝をそのまま養殖する方法(はだか吊り)などが知られている。
【0003】
しかしながら、カゴを用いた場合、カゴの大きさに合わせて垂下するロープの間隔を確保する必要があり、養殖量が制限される場合があった。ビニール紐やフック等により固定する方法は、貝の種類によっては使用不可能な場合があり、養殖後の貝の取り外し工程にも多大な労力を要する。また、採苗器をそのまま用いて養殖した場合、貝が密集して付着していると成長が抑制され、商品として十分な大きさにならない場合や、形状が歪になる場合がある。
【0004】
このため、セメントを主成分とする接着材により、稚貝を垂下連に固定して垂下する養殖方法が開発された(特許文献1、特許文献2)。
この養殖方法では、垂下連1本当たりに垂下する貝類の数が、他の垂下方法に比べて少なくなるため、多量の貝類を養殖する場合には、垂下連を縦方向に連結したり、筏や延縄に垂下する際の間隔を狭めたりすることにより、養殖数を増やすことが行われている。しかしながら、養殖地域によっては、水深が浅いために垂下連を連結できない場合や、波によって垂下連が接触するのを防ぐために間隔を狭めることができない場合があった。
【0005】
一方、従来行われているカゴ養殖においては、目的とする大きさに応じて個数を調整し、貝類をカゴに入れて養殖を行い、適当な大きさに成長したものから製品として出荷されている。この場合、全ての貝類をカゴから一度取り出して選別を行い、終了後に再びカゴに戻す作業が必要となる。比較的小さい貝類を養殖する場合には、1カゴ当たりの貝類が70個程度になることもあり、多量の選別作業を行う場合には、大きな労力が必要になるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−206496号公報
【特許文献2】特開2008−237036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、貝類を垂下式で養殖する方法において、筏の単位面積当たり、又は延縄の単位長さ当たりの貝類の養殖数を増やすことができ、選別作業を効率的に行うことができる貝類の養殖方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、斯かる実情に鑑み、種々検討した結果、セメントを主成分とする水硬性組成物により、貝類を網状の基材に接着して垂下すれば、筏の単位面積当たり、又は延縄の単位長さ当たりの貝類の養殖数を増やすことができ、しかも、選別作業を効率的に行うことができることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、貝類を垂下式で養殖する方法において、セメントを主成分とする水硬性組成物により、貝類を網状の基材に接着して垂下することを特徴とする貝類の養殖方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、貝類の垂下式養殖において、筏の単位面積当たり、又は延縄の単位長さ当たりの貝類の養殖数を増やすことができ、しかも、養殖後の選別作業を効率的に行うことができる。特に、水深が浅い場合の養殖に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】網状基材の形状の例を示す図である。
【図2】網状基材に貝類を接着した場合の例を示す図である。
【図3】波形作業台を用いて網状基材に貝類を接着した場合の例を示す図である。
【図4】波形作業台を用いて網状基材に貝類を接着した場合の例を示す図である。
【図5】波形作業台を用いて網状基材に貝類を接着した場合の断面を示す図である。
【図6】開口部のある網状基材に貝類を接着した場合の例を示す図である。
【図7】開口部の形状の例を示す図である。
【図8】垂下方法の例を示す図である。
【図9】垂下方法の例を示す図である。
【図10】垂下方法の例を示す図である。
【図11】垂下方法の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明で用いる水硬性組成物は、セメントを主成分とするものである。
ここで用いるセメントとしては、ポルトランドセメント類のほか、高炉セメント、フライアッシュセメント、スラグセメント、エコセメント、アルミナセメントなどを、1種又は2種以上を適当な割合で混合したものを用いることが可能である。作業性や強度発現性の点から、特に早強ポルトランドセメント、普通ポルトランドセメントを用いるのが好ましい。これらセメントは、単独で用いることも可能であるが、必要に応じて、一般にセメント・コンクリートで使用される細骨材類、石膏類、石灰石粉末、ドロマイト、スラグ、シリカフューム、カルシウムアルミネートなどの混和材を混合して用いることもできる。
セメントは、水硬性組成物中に20〜90質量%、特に35〜80質量%含有されるのが好ましい。
【0013】
また、水硬性組成物は、硬化性状を調整するため、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の炭酸塩、硫酸塩、亜硝酸塩、硝酸塩、塩化物、水酸化物などを含有することができる。
これらの材料は、1種又は2種以上を混合して用いることができ、水硬性組成物中に0.1〜10質量%、特に1〜7質量%含有されるのが好ましい。
【0014】
さらに、水硬性組成物には、接着材スラリーの流動性や硬化性状を調整するための材料として、一般にセメント・コンクリート用として使用されている硬化促進剤、凝結遅延剤、収縮低減剤、AE剤、減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、流動化剤、増粘剤、消泡剤等の添加物を、接着材スラリーの性状、接着性および接着した貝類の状態に影響を及ぼさない範囲で1種又は2種以上を併用して添加することもできる。これらの材料は、その形態によって、予め水硬性組成物の粉体に混合しても良いし、練り混ぜ時に水に溶解しても良い。また、練り上がったスラリーの状態を確認した後、必要量を後からスラリーに添加して再び混練して用いることも可能である。
【0015】
水硬性組成物は、水と混合して練り混ぜてスラリーとし、接着材として用いられる。これらの混合割合は、水硬性組成物100質量部に対し、水25〜50質量部、特に30〜40質量部であるのが好ましい。
【0016】
スラリーのスランプ値は、30mm以下、特に10〜25mm;また、スラリーのフロー値は、80mm以下、特に60〜70mmであるのが、作業性が良好であり、接着材を施用した後に貝上から流れ落ちずに留まることができるので好ましい。
【0017】
本発明方法により養殖する貝類としては、牡蠣、帆立貝等が挙げられ、特に牡蠣の養殖に好適である。
貝類の稚貝は、通常の方法により、採苗器により採取したものを用いることができる。稚貝の大きさは、1.5〜10cm、特に3〜8cmのものを用いるのが好ましい。
【0018】
本発明で用いる網状の基材としては、漁業用に用いられる網等を用いることができる。
材質としては、ポリビニルアルコール系、ポリ塩化ビニリデン系、ポリアミド系、ポリプロピレン系、ポリエチレン系等の合成繊維からなるものが好ましい。網の網み方としては、結節網、無結節網、綟子網、織網などを用いることができる。
網糸の太さは、網目の形状や目合い等により適宜調整されるが、通常、基材に使用される撚り線の太さとして0.5〜3mmであるのが好ましい。
網目は、目合い1〜50mm、特に3〜35mmであるのが好ましく、形状は、菱目、角目、六角形等のいずれでも良い。
網状基材の形状は特に制限されず、例えば、図1に示したように、シート型、短冊型、リボン型等のいずれでも良い。また、網状基材の大きさは、基材1つで垂下連を作成する場合の大きさとして、縦1.5m×横2m以下であるのが好ましい。
【0019】
本発明においては、このような網状の基材に、前記のようなスラリーからなる接着材を用いて貝類を固定する。
具体的には、例えば、図2に示したように、貝類を1つ当たりの面積が縦15cm×横10cm程度となるよう、同一方向になるように並べ、その上から貝類との間に5mm程度の隙間ができるよう、網状基材を設置し、両端を固定する。基材の上から接着材スラリーを施用し、更にその上からもう一つの貝類をのせ、一カ所当たりの接着数を2個とし、貝類と接着材が密着するように軽く押し付けた後、静置して接着材を硬化させ、垂下連を得る。
また、波形の作業台を用いた場合には、作業台の谷部分に貝類を2つ並べた上から網状基材を設置し、その上から接着材スラリーを施用して、更にその上からさらに貝類を接着することにより、1ヶ所当りの接着数を3個以上とすることも可能である(図3〜5)。
【0020】
接着点1点当りの接着材施用量は、貝類の大きさや形状に合わせて10〜100gであるのが好ましく、30〜70gが汎用的な施用量である。
【0021】
なお、目合い10mm以下の網状基材を用いる場合、貝類を接着するための開口部を有していてもよい(図6)。開口部を有することにより、貝類を接着しやすくなる。
開口部の形状は、貝類の表面に均一に広がった状態であることが好ましく、円形や正方形が好ましい。また、牡蠣などの縦長な形状の貝においては、長さ方向に合わせた楕円形、長方形、菱形であるのが好ましい(図7)。
開口部の大きさは、接着する貝類の大きさよりも形状により異なるが、円形や正方形の場合、直径もしくは1辺の長さが30mm以下が好ましく、楕円形、長方形、菱形の場合は、長さが50mm以下、幅が30mm以下であるのが好ましい。
【0022】
得られた垂下連は、海中に垂下して、通常の方法により貝類を養殖すればよい。
垂下連の垂下方法としては、例えば、図8に示したように、網状基材を広げた状態で、上方を針金やロープ等を用いて、筏や延縄に直接垂下する。また、図9に示したように、網状基材の上部を予め固定具に固定した後、複数の垂下連を一括して筏や延縄に垂下しても良い。固定具としては、木材、プラスチック、合成樹脂、金属からなる棒状物や、鋼繊維、合成樹脂繊維、炭素繊維等を束ねたロープなどが使用でき、さらに、これらをテフロン(登録商標)、ゴム、プラスチック、ビニールなどによって被覆したものを使用することもできる。
更に、貝類を接着した網状の基材の1又は2以上を、枠に固定し、円柱又は角柱の形状として垂下することもできる(図10)。
また、垂下連の外側に、脱落した貝類を捕獲するための外枠を設置することもできる(図11)。
【0023】
本発明の方法は、いずれの養殖海域にも適用が可能であるが、特に波の影響により垂下連が海底に接触する場合や、垂下連を連結して垂下できない場合など、水深が比較的浅い海域で使用する場合に、より効果が期待できる。特に、概ね5m以下の水深で使用する場合に好適である。
【実施例】
【0024】
実施例において、垂下連の基材としては、表1に示すものを用いた。
【0025】
【表1】
【0026】
実施例1
早強ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)、石灰石粉末(有恒鉱業社製、200メッシュ品)、高炉スラグ微粉末(デイ・シイ社製、ブレーン値4000品)、塩化カルシウム(セントラル硝子社製、フレーク品)を表2に示す配合により計量を行い、レディゲミキサーにより2分間混合して、水硬性組成物とした。これをトスロン缶に10000g量り取り、水粉体比35%となるよう水道水を加え、ハンドミキサーにより3分間練りまぜを行い、接着材スラリーとした。
【0027】
【表2】
【0028】
平面の作業台上に長さ5〜10cm程度の牡蠣稚貝を1つ当たりの面積が縦12cm×横10cmとなるように、右貝を下にして同一の方向となるように並べ、その上から牡蠣との間に5mm程度の隙間ができるよう、縦1m×横1.6mの大きさに裁断した基材Aのネットを設置し、両端を固定した。基材の上から接着材スラリーを金属製スプーンにより約60g施用し、更にその上からもう一つの牡蠣稚貝を右貝が上になるようにのせ、一カ所当たりの接着数を2個とし、牡蠣稚貝と接着材が密着するように軽く押し付けた後、1日静置して接着材を硬化させ、垂下連Aを作製した。
【0029】
一方、波形の作業台に長さ7cm程度の牡蠣稚貝を5cm間隔(牡蠣稚貝と間隔の合計12cm)となるように、牡蠣稚貝を2個ずつV字型になるよう、右貝を下にして1m分並べ、その上から長さ2mの基材Bのロープを設置し、基材が中心になるように調整した後、両端をフックで固定した。その上から、接着材スラリーを約60g施用し、更にその上からもう一つの牡蠣稚貝を、右貝が上になるようにのせ、一カ所当たりの接着数を3個とし、接着材スラリーが基材を中心として牡蠣稚貝に密着するように軽く押し付けた後、1日静置して接着材を硬化させ、垂下連Cを作製した。
更に、基材Bのロープに、12cm間隔でアゲピンを設置し、1カ所当たり貝に穴を開けてテグスを通した牡蠣8個を取り付けた耳吊り養殖用の垂下連Dを作製した。
【0030】
作製した垂下連A、C及びDは延縄に垂下し、垂下連Aの横方向の長さ(1.6m)を単位長さとして、各種垂下連を使用した場合の牡蠣垂下数を測定した。垂下連C及びDは、従来の方法で養殖を行う場合の垂下連の間隔を30cmと仮定して、単位長さ当たりの垂下数を5本とした。
結果を表3に示す。
【0031】
【表3】
【0032】
実施例2
(1)垂下連の作製:
実施例1で作製した垂下連Aを、上端と下端に、直径50cmの円形枠を取り付けて円筒形とした垂下連Bを作製した。また、基材Cを全長が1m程度となるよう、縦方向に5段連結し、1段当たり50個の牡蠣稚貝を入れた垂下連Eを作製した。
【0033】
(2)垂下連の垂下:
垂下連B及びEを、実施例1と同様にして延縄に垂下し、垂下連Aの幅を基準として単位長さ当たりの牡蠣垂下数を測定した。垂下連B及びEは同等の垂下面積であり、基材C及び枠の直径が50cmであることから、単位長さ当たりの垂下数は3本とした。
結果を表4に示す。
【0034】
【表4】
【0035】
表3及び表4の結果より、本発明によれば、単位長さ当たりの貝類の養殖量を、カゴ養殖や耳吊り養殖と同程度に増やすことが可能であり、収穫量の増加が期待される。また、カゴ養殖のように、貝類をカゴから出し入れすることなく選別作業を行うことができ、選別作業が効率的になる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
貝類を垂下式で養殖する方法において、セメントを主成分とする水硬性組成物により、貝類を網状の基材に接着して垂下することを特徴とする貝類の養殖方法。
【請求項2】
養殖海域の水深が5m以下である請求項1記載の貝類の養殖方法。
【請求項3】
網状の基材の網目が、目合い1〜50mmの格子状である請求項1又は2記載の貝類の養殖方法。
【請求項4】
網状の基材が、貝類を接着するための開口部を有するものである請求項1〜3のいずれか1項記載の貝類の養殖方法。
【請求項5】
貝類を接着した網状の基材の1又は2以上を、枠に固定し、円柱又は角柱の形状として垂下する請求項1〜4のいずれか1項記載の貝類の養殖方法。
【請求項6】
垂下連の外側に、脱落した貝類を捕獲するための外枠を設置する請求項1〜5のいずれか1項記載の貝類の養殖方法。
【請求項1】
貝類を垂下式で養殖する方法において、セメントを主成分とする水硬性組成物により、貝類を網状の基材に接着して垂下することを特徴とする貝類の養殖方法。
【請求項2】
養殖海域の水深が5m以下である請求項1記載の貝類の養殖方法。
【請求項3】
網状の基材の網目が、目合い1〜50mmの格子状である請求項1又は2記載の貝類の養殖方法。
【請求項4】
網状の基材が、貝類を接着するための開口部を有するものである請求項1〜3のいずれか1項記載の貝類の養殖方法。
【請求項5】
貝類を接着した網状の基材の1又は2以上を、枠に固定し、円柱又は角柱の形状として垂下する請求項1〜4のいずれか1項記載の貝類の養殖方法。
【請求項6】
垂下連の外側に、脱落した貝類を捕獲するための外枠を設置する請求項1〜5のいずれか1項記載の貝類の養殖方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−147353(P2011−147353A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−9050(P2010−9050)
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】
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