説明

負極活物質および二次電池

【課題】高容量で、サイクル特性および初回充放電効率に優れた電池、およびそれに用いられる負極活物質を提供する。
【解決手段】負極22は、リチウムと反応可能な負極活物質を含んでいる。この負極活物質は、構成元素としてスズとコバルトと炭素とリンとを少なくとも含み、炭素の含有量は9.9質量%以上29.7質量%以下、リンの含有量は0.1質量%以上2.2質量%以下、スズとコバルトとの合計に対するコバルトの割合は24質量%以上70質量%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構成元素としてスズとコバルトと炭素とリンとを含む負極活物質およびそれを用いた二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カメラ一体型VTR(ビデオテープレコーダ)、携帯電話あるいはノートパソコンなどのポータブル電子機器が多く登場し、その小型軽量化が図られている。これらの電子機器のポータブル電源として用いられている電池、特に二次電池はキーデバイスとして重要であるため、そのエネルギー密度の向上を図る研究開発が活発に進められている。中でも、非水電解質二次電池(例えば、リチウムイオン二次電池)は、従来の水系電解液二次電池である鉛電池やニッケルカドミウム電池と比較して大きなエネルギー密度が得られるため、その改良に関する検討が各方面で行われている。
【0003】
リチウムイオン二次電池では、負極活物質として、比較的高容量を示すと共に良好なサイクル特性を有する難黒鉛化性炭素あるいは黒鉛などの炭素材料が広く用いられている。ただし、近年の高容量化の要求を考えると、炭素材料の更なる高容量化が課題となっている。
【0004】
このような背景から、炭素化原料と作製条件とを選ぶことにより、炭素材料で高容量を達成する技術が開発されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、かかる炭素材料を用いた場合には、負極放電電位が対リチウムで0.8V〜1.0Vであり、電池を構成したときの電池放電電圧が低くなることから、電池エネルギー密度の点では大きな向上が見込めない。さらには、充放電曲線形状にヒステリシスが大きく、各充放電サイクルでのエネルギー効率が低いという欠点もある。
【0005】
一方で、炭素材料を上回る高容量負極として、ある種の金属がリチウムと電気化学的に合金化し、それが可逆的に生成・分解することを応用した合金材料に関する研究も進められている。例えば、Li−Al合金あるいはSn合金を用いた高容量負極が開発され、さらには、Si合金からなる高容量負極が開発されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
しかしながら、Li−Al合金、Sn合金あるいはSi合金は、充放電に伴って膨張収縮し、充放電を繰り返すたびに負極が微粉化するので、サイクル特性が極めて悪いという大きな問題がある。
【0007】
そこで、サイクル特性を改善する手法として、スズやケイ素を合金化することによって膨張を抑制することが検討されており、例えば、鉄とスズとを合金化することが提案されている(例えば、非特許文献1参照)。また、Mg2 Siなども提案されている(例えば、非特許文献2参照)。さらに、Sn/(Sn+A+V)比が20原子%〜80原子%であるSn・A・X(Aは遷移金属の少なくとも1種,Xは炭素等から成る群から選ばれた少なくとも1種)なども提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−315825号公報
【特許文献2】米国特許第4950566号明細書等
【特許文献3】特開2000−311681号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「ジャーナル オブ ザ エレクトロケミカル ソサエティ(Journal of The Electrochemical Society)」、1999年、第146号、p414
【非特許文献2】「ジャーナル オブ ザ エレクトロケミカル ソサエティ(Journal of The Electrochemical Society)」、1999年、第146号、p4401
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記した手法を用いた場合においても、サイクル特性改善の効果は十分とは言えず、合金材料における高容量負極の特長を十分に活かしきれていないのが実状である。このため、サイクル特性をより改善するための手法が模索されている。この場合には、特に、電池の高性能化に関する要求が益々高まっていることを考えると、サイクル特性だけでなく、初回使用時から十分な性能を発揮させるために初回充放電効率を向上させることも重要である。
【0011】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、高容量で、サイクル特性および初回充放電効率に優れた二次電池およびそれに用いられる負極活物質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の負極活物質は、構成元素としてスズとコバルトと炭素とリンとを少なくとも含み、炭素の含有量が9.9質量%以上29.7質量%以下であり、リンの含有量が0.1質量%以上2.2質量%以下であり、スズとコバルトとの合計に対するコバルトの割合が24質量%以上70質量%以下であると共に、更に、構成元素として、インジウム、ニオブ、ゲルマニウム、チタン、モリブデン、ガリウムおよびビスマスからなる群のうちの少なくとも1種を14.9質量%以下の範囲内で含むものである。また、本発明の二次電池は、正極および負極と共に電解質を備え、負極が構成元素としてスズとコバルトと炭素とリンとを少なくとも含む負極活物質を含有し、負極活物質における炭素の含有量が9.9質量%以上29.7質量%以下であり、リンの含有量が0.1質量%以上2.2質量%以下であり、スズとコバルトとの合計に対するコバルトの割合が24質量%以上70質量%以下であると共に、負極活物質が更に構成元素としてインジウム、ニオブ、ゲルマニウム、チタン、モリブデン、ガリウムおよびビスマスからなる群のうちの少なくとも1種を14.9質量%以下の範囲内で含むものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の負極活物質によれば、構成元素としてスズを含むようにしたので、高容量が得られる。また、構成元素としてコバルトを含み、スズとコバルトとの合計に対するコバルトの割合を24質量%以上70質量%以下とするようにしたので、高容量を保ちつつ、サイクル特性が向上する。更に、構成元素として炭素およびリンを含み、炭素の含有量を9.9質量%以上29.7質量%以下およびリンの含有量を0.1質量%以上2.2質量%以下とするようにしたので、サイクル特性がより向上すると共に初回充放電効率が向上する。加えて、構成元素としてインジウム、ニオブ、ゲルマニウム、チタン、モリブデン、ガリウムおよびビスマスからなる群のうちの少なくとも1種を14.9質量%以下の範囲内で含むようにしたので、サイクル特性を更に向上させることができる。よって、この負極活物質を用いた本発明の二次電池によれば、高容量を得ることができると共に、優れたサイクル特性および初回充放電効率を得ることができる。
【0014】
更に、負極活物質に、構成元素としてケイ素を含むようにすれば、更に高い容量を得ることができる。
【0015】
更にまた、負極活物質に、構成元素として、インジウム、ニオブ、ゲルマニウム、チタン、モリブデン、ガリウムおよびビスマスからなる群のうちの少なくとも1種を含み、それらの含有量を1.5質量%以上とすれば、高い効果が得られる。
【0016】
加えて、電解質にハロゲン原子を有する環状の炭酸エステル誘導体を含むようにすれば、負極における溶媒の分解反応が抑制されるため、サイクル特性を更に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る第1の電池の構成を表す断面図である。
【図2】図1に示した巻回電極体の一部を拡大して表す断面図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る第2の電池の構成を表す分解斜視図である。
【図4】図3に示した巻回電極体のIV−IV線に沿った構成を表す断面図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係る第3の電池の構成を表す断面図である。
【図6】実施例で作製した負極活物質についてX線光電子分光法により得られたピークの一例を表す図である。
【図7】実施例で作製したコイン型の電池の構成を示す断面図である。
【図8】第1の実施の形態に係る電池(液状電解質)に関する負極活物質における炭素含有量と容量維持率および初回充電容量との関係を表す特性図である。
【図9】比較例で作製した負極活物質についてX線光電子分光法により得られたピークの一例を表す図である。
【図10】第1の実施の形態に係る電池(液状電解質)に関する負極活物質におけるスズとコバルトとの合計に対するコバルトの割合と容量維持率および初回充電容量との関係を表す特性図である。
【図11】第1の実施の形態に係る電池(液状電解質)に関する負極活物質におけるスズとコバルトとの合計に対するコバルトの割合と容量維持率および初回充電容量との関係を表す他の特性図である。
【図12】第1の実施の形態に係る電池(液状電解質)に関する負極活物質におけるスズとコバルトとの合計に対するコバルトの割合と容量維持率および初回充電容量との関係を表すさらに他の特性図である。
【図13】第1の実施の形態に係る電池(液状電解質)に関する負極活物質におけるリン含有量と容量維持率および初回充電容量との関係を表す特性図である。
【図14】第1の実施の形態に係る電池(液状電解質)に関する負極活物質におけるリン含有量と初回充放電効率との関係を表す特性図である。
【図15】第1の実施の形態に係る電池(液状電解質)に関する負極活物質におけるチタン含有量と容量維持率との関係を表す特性図である。
【図16】第1の実施の形態に係る電池(液状電解質)に関する負極活物質におけるビスマス含有量と容量維持率との関係を表す特性図である。
【図17】第1の実施の形態に係る電池(ゲル状電解質)に関する負極活物質における炭素含有量と容量維持率および初回充電容量との関係を表す他の特性図である。
【図18】第1の実施の形態に係る電池(ゲル状電解質)に関する負極活物質におけるスズとコバルトとの合計に対するコバルトの割合と容量維持率および初回充電容量との関係を表す特性図である。
【図19】第1の実施の形態に係る電池(ゲル状電解質)に関する負極活物質におけるスズとコバルトとの合計に対するコバルトの割合と容量維持率および初回充電容量との関係を表す他の特性図である。
【図20】第1の実施の形態に係る電池(ゲル状電解質)に関する負極活物質におけるスズとコバルトとの合計に対するコバルトの割合と容量維持率および初回充電容量との関係を表すさらに他の特性図である。
【図21】第1の実施の形態に係る電池(ゲル状電解質)に関する負極活物質におけるリン含有量と容量維持率および初回充電容量との関係を表す特性図である。
【図22】第1の実施の形態に係る電池(ゲル状電解質)に関する負極活物質におけるリン含有量と初回充放電効率との関係を表す特性図である。
【図23】第1の実施の形態に係る電池(ゲル状電解質)に関する負極活物質におけるチタン含有量と容量維持率との関係を表す特性図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、説明する順序は、下記の通りである。

1.負極活物質
2.二次電池
2−1.第1の二次電池
2−2.第2の二次電池
2−3.第3の二次電池
【0019】
<1.負極活物質>
本発明の一実施の形態に係る負極活物質は、リチウムなどと反応可能なものであり、構成元素として、スズとコバルトとを含んでいる。スズは単位質量あたりのリチウムの反応量が高いため、高い容量が得られるからである。また、スズ単体では十分なサイクル特性を得ることは難しいが、コバルトを含むことによってサイクル特性が向上するからである。
【0020】
コバルトの含有量は、スズとコバルトとの合計に対するコバルトの割合で、24質量%以上70質量%以下の範囲内であることが好ましく、24質量%以上60%質量以下の範囲内であればより好ましい。割合が低いとコバルトの含有量が低下して十分なサイクル特性が得られず、高いとスズの含有量が低下して炭素材料などの従来の負極材料を上回る容量が得られないからである。
【0021】
この負極活物質は、また、構成元素として、スズおよびコバルトに加えて炭素を含んでいる。炭素を含むことによってサイクル特性がより向上するからである。炭素の含有量は、9.9質量%以上29.7質量%以下の範囲内であることが好ましく、14.9質量%以上29.7質量%以下の範囲内、特に16.8質量%以上24.8質量%以下の範囲内であればより好ましい。この範囲内において高い効果が得られるからである。
【0022】
この負極活物質は、更に、構成元素として、スズ、コバルトおよび炭素に加えてリンを含んでいる。リンを含むことによってコバルトの含有量が少なくても十分なサイクル特性が得られると共に初回充放電効率が高くなるからである。リンの含有量は、0.1質量%以上2.2質量%以下の範囲内であることが好ましく、特に0.5質量%以上2質量%以下の範囲内であればより好ましい。この範囲内において高い効果が得られ、リンの含有量が多すぎると十分な初回充放電効率が得られないからである。
【0023】
特に、負極活物質は、更に、構成元素として、スズ、コバルト、炭素およびリンに加えてケイ素を含んだ方が好ましい場合もある。ケイ素は単位質量あたりのリチウムの反応量が高いため、より高い容量が得られるからである。ケイ素の含有量は、0.5質量%以上7.9質量%以下の範囲内であることが好ましい。含有量が少ないと容量を高くする効果が十分でない可能性があり、多いと充放電に伴い微粉化してサイクル特性が低下する可能性があるからである。
【0024】
また、負極活物質は、更にまた、構成元素として、インジウム、ニオブ、ゲルマニウム、チタン、モリブデン、ガリウムおよびビスマスからなる群のうちの少なくとも1種を含んだ方が好ましい場合もある。サイクル特性がより向上するからである。これらの含有量は、14.9質量%以下の範囲内であることが好ましく、1.5質量%以上14.9質量%以下の範囲内であればより好ましく、特に2.8質量%以上12.9質量%以下の範囲内であれば望ましい。含有量が少ないと十分な効果が得られない可能性があり、多いとスズの含有量が低下して十分な容量が得られない可能性があり、サイクル特性が低下する可能性もあるからである。
【0025】
この負極活物質は、結晶性の低い、あるいは非晶質な相を有している。この相は、リチウムなどと反応可能な反応相であり、それによって優れたサイクル特性が得られるようになっている。この相のX線回折により得られる回折ピークの半値幅は、特定X線としてCuKα線を用い、挿引速度を1°/minとした場合に、回折角2θで1°以上であることが好ましい。リチウムなどをより円滑に吸蔵および放出させることができると共に、電解質との反応性をより低減させることができるからである。
【0026】
なお、X線回折により得られた回折ピークがリチウムなどと反応可能な反応相に対応するものであるか否かは、リチウムなどとの電気化学的反応の前後におけるX線回折チャートを比較することによって容易に判断することができる。例えば、リチウムなどとの電気化学的反応の前後において回折ピークの位置が変化すれば、リチウムなどと反応可能な反応相に対応するものである。この負極活物質では、例えば、結晶性の低い、あるいは非晶質な反応相の回折ピークが2θ=20°〜50°の間に見られる。この反応相は、例えば、上記した各構成元素を含んでおり、主に炭素によって低結晶化あるいは非晶質化しているものと考えられる。
【0027】
なお、負極活物質は、上記した結晶性の低い、あるいは非晶質な相に加えて、各構成元素の単体あるいは一部を含む相を有している場合もある。
【0028】
更に、負極活物質は、構成元素である炭素の少なくとも一部が、他の構成元素である金属元素あるいは半金属元素と結合していることが好ましい。サイクル特性の低下はスズなどが凝集あるいは結晶化することによるものであると考えられるが、炭素が他の元素と結合することにより、そのような凝集あるいは結晶化が抑制されるからである。
【0029】
元素の結合状態を調べる測定方法としては、例えば、X線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy;XPS)が挙げられる。このXPSは、軟X線(市販の装置ではAl−Kα線あるいはMg−Kα線を用いる)を試料に照射し、その表面から飛び出してくる光電子の運動エネルギーを測定することにより、試料表面から数nmの領域における元素の組成および結合状態を調べる方法である。
【0030】
元素の内殻軌道電子の束縛エネルギーは、第1近似的には、元素上の電荷密度と相関して変化する。例えば、炭素元素の電荷密度が近傍に存在する元素との相互作用によって減少した場合には、2p電子などの外殻電子が減少しているので、炭素元素の1s電子は殻から強い束縛力を受けることになる。すなわち、元素の電荷密度が減少すると、束縛エネルギーは高くなる。XPSでは、束縛エネルギーが高くなると、高いエネルギー領域にピークがシフトするようになっている。
【0031】
XPSでは、炭素の1s軌道(C1s)のピークは、グラファイトであれば、金原子の4f軌道(Au4f)のピークが84.0eVに得られるようにエネルギー較正された装置において、284.5eVに現れる。また、表面汚染炭素であれば、284.8eVに現れる。これに対して、炭素元素の電荷密度が高くなる場合、例えば、炭素よりも陽性な元素と結合している場合には、C1sのピークは、284.5eVよりも低い領域に現れる。すなわち、負極活物質に含まれる炭素の少なくとも一部が他の構成元素である金属元素あるいは半金属元素などと結合している場合には、負極活物質について得られるC1sの合成波のピークは284.5eVよりも低い領域に現れる。
【0032】
なお、負極活物質のXPS測定に際しては、表面が表面汚染炭素で覆われている場合、XPS装置に付属のアルゴンイオン銃で表面を軽くスパッタすることが好ましい。また、測定対象の負極活物質が後述する電池の負極中に存在する場合には、電池を解体して負極を取り出したのち、炭酸ジメチルなどの揮発性溶媒で洗浄するとよい。負極の表面に存在する揮発性の低い溶媒と電解質塩とを除去するためである。これらのサンプリングは、不活性雰囲気下で行うことが望ましい。
【0033】
また、XPS測定では、例えば、スペクトルのエネルギー軸の補正にC1sのピークを用いる。通常、物質表面には表面汚染炭素が存在しているので、表面汚染炭素のC1sのピークを284.8eVとし、それをエネルギー基準とする。なお、XPS測定では、C1sのピークの波形は、表面汚染炭素のピークと負極活物質中の炭素のピークとを含んだ形として得られるので、例えば、市販のソフトウエアを用いて解析することにより、表面汚染炭素のピークと負極活物質中の炭素のピークとを分離する。波形の解析では、最低束縛エネルギー側に存在する主ピークの位置をエネルギー基準(284.8eV)とする。
【0034】
この負極活物質は、例えば、各構成元素の原料を混合し、電気炉、高周波誘導炉あるいはアーク溶解炉などで溶解したのちに凝固させることによって製造される。この他、負極活物質は、例えば、ガスアトマイズあるいは水アトマイズなどの各種アトマイズ法、各種ロール法、またはメカニカルアロイング法あるいはメカニカルミリング法などのメカノケミカル反応を利用した方法によっても製造される。中でも、メカノケミカル反応を利用した方法によって製造することが好ましい。負極活物質が低結晶化あるいは非晶質な構造となるからである。この方法としては、例えば、遊星ボールミル装置を用いることができる。
【0035】
原料には、各構成元素の単体を混合して用いてもよいが、炭素以外の構成元素の一部については合金を用いることが好ましい。このような合金に炭素を加えてメカニカルアロイング法を利用した方法によって合成することにより、低結晶化あるいは非晶質な構造を有するようにすることができると共に、反応時間の短縮も図ることができるからである。なお、原料の形態は粉体であってもよいし、塊状であってもよい。
【0036】
原料として用いる炭素には、難黒鉛化性炭素、易黒鉛化性炭素、グラファイト、熱分解炭素類、コークス、ガラス状炭素類、有機高分子化合物焼成体、活性炭あるいはカーボンブラックなどの炭素材料のいずれか1種あるいは2種以上を用いることができる。このうち、コークス類には、ピッチコークス、ニードルコークスあるいは石油コークスなどがあり、有機高分子化合物焼成体というのは、フェノール樹脂やフラン樹脂などの高分子化合物を適当な温度で焼成して炭素化したものをいう。これらの炭素材料の形状は、繊維状、球状、粒状あるいは鱗片状のいずれでもよい。
【0037】
<2.二次電池>
この負極活物質は、例えば、次のようにして二次電池に用いられる。
【0038】
<2−1.第1の二次電池>
図1は、第1の二次電池の断面構成を表している。ここで説明する二次電池は、例えば、負極の容量が電極反応物質であるリチウムの吸蔵および放出に基づく容量成分により表されるリチウムイオン二次電池である。
【0039】
この二次電池は、ほぼ中空円柱状の電池缶11の内部に、帯状の正極21と帯状の負極22とがセパレータ23を介して積層してから巻回された巻回電極体20を有している。この電池缶11を含む構造は、円筒型と呼ばれている。電池缶11は、例えば、ニッケルめっきが施された鉄によって構成されており、一端部および他端部がそれぞれ閉鎖および開放されている。電池缶11の内部には、液状の電解質(いわゆる電解液)が注入され、セパレータ23に含浸されている。また、巻回電極体20を挟むように巻回周面に対して垂直に一対の絶縁板12,13がそれぞれ配置されている。
【0040】
電池缶11の開放端部には、電池蓋14と、その内側に設けられた安全弁機構15および熱感抵抗素子(Positive Temperature Coefficient;PTC素子)16とがガスケット17を介してかしめられることによって取り付けられており、その電池缶11の内部は密閉されている。電池蓋14は、例えば、電池缶11と同様の材料によって構成されている。安全弁機構15は、熱感抵抗素子16を介して電池蓋14と電気的に接続されており、内部短絡あるいは外部からの加熱などによって電池の内圧が一定以上となった場合に、ディスク板15Aが反転して電池蓋14と巻回電極体20との電気的接続を切断するようになっている。熱感抵抗素子16は、温度が上昇すると抵抗値の増大によって電流を制限し、大電流による異常な発熱を防止するものである。ガスケット17は、例えば、絶縁材料によって構成されており、その表面にはアスファルトが塗布されている。
【0041】
巻回電極体20は、例えば、センターピン24を中心に巻回されている。巻回電極体20の正極21にはアルミニウム(Al)などからなる正極リード25が接続されており、負極22にはニッケル(Ni)などからなる負極リード26が接続されている。正極リード25は安全弁機構15に溶接されることによって電池蓋14と電気的に接続されており、負極リード26は電池缶11に溶接されることによって電気的に接続されている。
【0042】
図2は、図1に示した巻回電極体20の一部を拡大して表している。正極21は、例えば、対向する一対の面を有する正極集電体21Aの片面あるいは両面に正極活物質層21Bが設けられた構造を有している。正極集電体21Aは、例えば、アルミニウム箔などの金属箔によって構成されている。正極活物質層21Bは、例えば、リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極活物質のいずれか1種または2種以上を含んでおり、必要に応じて炭素材料などの導電剤やポリフッ化ビニリデンなどの結着剤を含んでいてもよい。
【0043】
リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極活物質としては、例えば、硫化チタン(TiS2 )、硫化モリブデン(MoS2 )、セレン化ニオブ(NbSe2 )あるいは酸化バナジウム(V2 5 )などのリチウムを含有しない金属硫化物あるいは金属酸化物などが挙げられる。また、Lix MO2 (式中、Mは1種以上の遷移金属を表し、xは電池の充放電状態によって異なり、通常0.05≦x≦1.1である)を主体とするリチウム複合酸化物なども挙げられる。このリチウム複合酸化物を構成する遷移金属Mとしては、コバルト、ニッケルあるいはマンガン(Mn)が好ましい。このようなリチウム複合酸化物の具体例としては、LiCoO2 、LiNiO2 、Lix Niy Co1-y 2 (式中、x,yは電池の充放電状態によって異なり、通常0<x<1<y<1である)、スピネル型構造を有するリチウムマンガン複合酸化物等を挙げることができる。
【0044】
負極22は、例えば、正極21と同様に、対向する一対の面を有する負極集電体22Aの片面あるいは両面に負極活物質層22Bが設けられた構造を有している。負極集電体22Aは、例えば、銅箔などの金属箔によって構成されている。
【0045】
負極活物質層22Bは、例えば、本実施の形態に係る負極活物質を含み、必要に応じてポリフッ化ビニリデンなどの結着剤を含んで構成されている。このように本実施の形態に係る負極活物質を含むことにより、この二次電池では、高容量が得られると共に、サイクル特性および初回充放電効率が向上するようになっている。負極活物質層22Bは、また、本実施の形態に係る負極活物質に加えて他の負極活物質や、導電剤などの他の材料を含んでいてもよい。他の負極活物質としては、例えば、リチウムを吸蔵および放出することが可能な炭素材料が挙げられる。この炭素材料は、充放電サイクル特性を向上させることができると共に、導電剤としても機能するので好ましい。炭素材料としては、例えば、負極活物質を製造する際に用いるものと同様のものが挙げられる。
【0046】
この炭素材料の割合は、本実施の形態の負極活物質に対して、1質量%以上95質量%以下の範囲内であることが好ましい。炭素材料が少ないと負極22の導電率が低下する可能性があり、多いと容量が低下する可能性があるからである。
【0047】
セパレータ23は、正極21と負極22とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつリチウムイオンを通過させるものである。このセパレータ23は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレンあるいはポリエチレンなどの合成樹脂製の多孔質膜や、セラミック製の多孔質膜により構成されており、それらの2種以上の多孔質膜が積層された構造であってもよい。
【0048】
セパレータ23に含浸された電解液は、溶媒と、それに溶解された電解質塩とを含んでいる。溶媒としては、炭酸プロピレン、炭酸エチレン、炭酸ジエチル、炭酸ジメチル、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、プロピオニトリル、アニソール、酢酸エステル、酪酸エステルあるいはプロピオン酸エステルなどが挙げられる。溶媒は、いずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0049】
溶媒は、また、ハロゲン原子を有する環状の炭酸エステル誘導体を含んでいればより好ましい。負極22における溶媒の分解反応が抑制されるため、サイクル特性が向上するからである。このような炭酸エステル誘導体について具体的に例を挙げれば、化1で表される4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、化2で表される4−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、化3で表される4,5−ジフルオロ−1, 3−ジオキソラン−2−オン、化4で表される4−ジフルオロ−5−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、化5で表される4−クロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、化6で表される4,5−ジクロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、化7で表される4−ブロモ−1,3−ジオキソラン−2−オン、化8で表される4−ヨード−1,3−ジオキソラン−2−オン、化9で表される4−フルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、あるいは化10で表される4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オンなどである。中でも、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンが望ましい。より高い効果を得ることができるからである。
【0050】
【化1】

【0051】
【化2】

【0052】
【化3】

【0053】
【化4】

【0054】
【化5】

【0055】
【化6】

【0056】
【化7】

【0057】
【化8】

【0058】
【化9】

【0059】
【化10】

【0060】
溶媒は、炭酸エステル誘導体のみによって構成するようにしてもよいが、大気圧(1.01325×105 Pa)において沸点が150℃以下である低沸点溶媒と混合して用いることが好ましい。イオン伝導性が高くなるからである。この炭酸エステル誘導体の含有量は、溶媒全体に対して0.1質量%以上80質量%以下の範囲内であることが好ましい。含有量が少ないと負極22における溶媒の分解反応を抑制する効果が十分ではない可能性があり、多いと粘度が高くなってイオン伝導性が低下する可能性があるからである。
【0061】
電解質塩としては例えばリチウム塩が挙げられ、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。リチウム塩としては、LiClO4 、LiAsF6 、LiPF6 、LiBF4 、LiB(C6 5 4 、CH3 SO3 Li、CF3 SO3 Li、LiClあるいはLiBrなどが挙げられる。なお、電解質塩としては、リチウム塩を用いることが好ましいが、リチウム塩でなくてもよい。充放電に寄与するリチウムイオンは、正極21などから供給されれば足りるからである。
【0062】
この二次電池は、例えば、次のようにして製造される。
【0063】
まず、例えば、正極活物質と必要に応じて導電剤および結着剤とを混合して正極合剤を調製したのち、N−メチル−2−ピロリドンなどの混合溶剤に分散させて正極合剤スラリーを作製する。続いて、正極集電体21Aに正極合剤スラリーを塗布して乾燥させたのち、圧縮して正極活物質層21Bを形成することにより、正極21を作製する。こののち、正極21に正極リード25を溶接する。
【0064】
また、例えば、本実施の形態に係る負極活物質と必要に応じて他の負極活物質と結着剤とを混合して負極合剤を調製し、N−メチル−2−ピロリドンなどの混合溶剤に分散させて負極合剤スラリーを作製する。続いて、負極集電体22Aに負極合剤スラリーを塗布して乾燥させたのち、圧縮して負極活物質層22Bを形成することにより、負極22を作製する。こののち、負極22に負極リード26を溶接する。
【0065】
続いて、正極21と負極22とをセパレータ23を介して巻回し、正極リード25の先端部を安全弁機構15に溶接すると共に負極リード26の先端部を電池缶11に溶接し、巻回した正極21および負極22を一対の絶縁板12,13で挟みながら電池缶11の内部に収納する。続いて、電解液を電池缶11の内部に注入したのち、その電池缶11の開口端部に電池蓋14、安全弁機構15および熱感抵抗素子16をガスケット17を介してかしめることにより固定する。これにより、図1および図2に示した二次電池が完成する。
【0066】
この二次電池では、充電を行うと、例えば、正極21からリチウムイオンが放出され、電解質を介して負極22に吸蔵される。放電を行うと、例えば、負極22からリチウムイオンが放出され、電解質を介して正極21に吸蔵される。
【0067】
このように本実施の形態に係る負極活物質によれば、構成元素としてスズを含むようにしたので、高容量が得られる。また、構成元素としてコバルトを含み、スズとコバルトとの合計に対するコバルトの割合を24質量%以上70質量%以下とするようにしたので、高容量を保ちつつ、サイクル特性が向上する。更に、構成元素として炭素およびリンを含み、炭素の含有量を9.9質量%以上29.7質量%以下およびリンの含有量を0.1質量%以上2.2質量%以下とするようにしたので、サイクル特性がより向上すると共に初回充放電効率が向上する。この負極活物質では、構成元素としてリンを含まない場合と比較して、スズの含有量が同等あるいは少なくても高容量が得られると共に初回充放電効率が高くなり、しかもコバルトの含有量が少なくても高いサイクル特性が得られる。これにより、本実施の形態に係る二次電池では、上記した負極活物質を用いるようにしたので、高容量を得ることができると共に、優れたサイクル特性および初回充放電効率を得ることができる。
【0068】
更に、負極活物質に構成元素としてケイ素を含むようにすれば、更に高い容量を得ることができる。
【0069】
更にまた、負極活物質に構成元素としてインジウム、ニオブ、ゲルマニウム、チタン、モリブデン、ガリウムおよびビスマスからなる群のうちの少なくとも1種を含み、それらの含有量を14.9質量%以下とするようにすれば、サイクル特性を更に向上させることができる。特に、含有量を1.5質量%以上とすれば、高い効果が得られる。
【0070】
加えて、電解質にハロゲン原子を有する環状の炭酸エステル誘導体を含むようにすれば、負極22における溶媒の分解反応が抑制されるため、サイクル特性を更に向上させることができる。
【0071】
<2−2.第2の二次電池>
図3は、第2の二次電池の分解斜視構成を表している。この電池は、正極リード31および負極リード32が取り付けられた巻回電極体30をフィルム状の外装部材40の内部に収容したものであり、小型化、軽量化および薄型化が可能となっている。この電池は、例えば、第1の電池と同様にリチウムイオン二次電池であり、フィルム状の外装部材40を含む電池構造は、ラミネートフィルム型と呼ばれている。
【0072】
正極リード31および負極リード32は、例えば、それぞれ外装部材40の内部から外部に向かって同一方向に導出されている。正極リード31および負極リード32は、例えば、アルミニウム、銅、ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料によって構成されており、それぞれ薄板状または網目状とされている。
【0073】
外装部材40は、例えば、ナイロンフィルム、アルミニウム箔およびポリエチレンフィルムをこの順に貼り合わせた矩形状のアルミラミネートフィルムによって構成されている。この外装部材40は、例えば、ポリエチレンフィルム側と巻回電極体30とが対向するように配設されており、各外縁部が融着あるいは接着剤によって互いに密着されている。外装部材40と正極リード31および負極リード32との間には、外気の侵入を防止するための密着フィルム41が挿入されている。この密着フィルム41は、正極リード31および負極リード32に対して密着性を有する材料、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレンあるいは変性ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂によって構成されている。
【0074】
なお、外装部材40は、上記したアルミラミネートフィルムに代えて、他の構造を有するラミネートフィルムあるいはポリプロピレンなどの高分子フィルム、または金属フィルムによって構成されていてもよい。
【0075】
図4は、図3に示した巻回電極体30のIV−IV線に沿った断面構成を表している。この巻回電極体30は、正極33と負極34とがセパレータ35および電解質層36を介して積層してから巻回されたものであり、その最外周部は保護テープ37によって保護されている。
【0076】
正極33は、正極集電体33Aの片面あるいは両面に正極活物質層33Bが設けられた構造を有している。負極34は、負極集電体34Aの片面あるいは両面に負極活物質層34Bが設けられた構造を有しており、負極活物質層34Bの側が正極活物質層33Bと対向するように配置されている。正極集電体33A、正極活物質層33B、負極集電体34A、負極活物質層34Bおよびセパレータ35の構成は、それぞれ上記した第1の電池における正極集電体21A、正極活物質層21B、負極集電体22A、負極活物質層22Bおよびセパレータ23と同様である。
【0077】
電解質層36は、電解液と、それを保持する高分子化合物とを含んでおり、いわゆるゲル状となっている。ゲル状の電解質は、高いイオン伝導率が得られると共に電池の漏液が防止されるので好ましい。電解液(すなわち溶媒および電解質塩)の構成は、上記した第1の電池における電解液と同様である。高分子化合物としては、例えば、ポリフッ化ビニリデンあるいはフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体などのフッ素系高分子化合物や、ポリエチレンオキサイドあるいはポリエチレンオキサイドを含む架橋体などのエーテル系高分子化合物や、ポリアクリロニトリルなどが挙げられる。特に、酸化還元安定性の観点からは、フッ素系高分子化合物が望ましい。
【0078】
なお、電解液を高分子化合物に保持させた電解質層36に代えて、電解液をそのまま用いてもよい。この場合には、電解液がセパレータ35に含浸する。
【0079】
このゲル状の電解質層36を備えた二次電池は、例えば、次のようにして製造される。
【0080】
まず、溶媒と、電解質塩と、高分子化合物と、混合溶剤とを含む前駆溶液を調製したのち、正極33および負極34のそれぞれに前駆溶液を塗布して混合溶剤を揮発させることにより、電解質層36を形成する。続いて、正極集電体33Aの端部に正極リード31を溶接により取り付けると共に、負極集電体34Aの端部に負極リード32を溶接により取り付ける。続いて、電解質層36が形成された正極33と負極34とをセパレータ35を介して積層して積層体とし、その積層体をその長手方向に巻回したのちに最外周部に保護テープ37を接着させることにより、巻回電極体30を形成する。最後に、例えば、外装部材40の間に巻回電極体30を挟み込み、外装部材40の外縁部同士を熱融着などによって密着させて封入する。この際、正極リード31および負極リード32と外装部材40との間に密着フィルム41を挿入する。これにより、図3および図4に示した二次電池が完成する。
【0081】
なお、ゲル状の電解質層36を備えた二次電池は、次のようにして製造されてもよい。まず、上記したように正極33および負極34を作製し、それぞれ正極リード31および負極リード32を取り付けたのち、正極33と負極34とをセパレータ35を介して積層して巻回し、その最外周部に保護テープ37を接着させることにより、巻回電極体30の前駆体である巻回体を形成する。続いて、巻回体を外装部材40で挟み、一辺を除く外周縁部を熱融着して袋状とし、外装部材40の内部に収納する。続いて、溶媒と、電解質塩と、高分子化合物の原料であるモノマーと、重合開始剤と、必要に応じて重合禁止剤などの他の材料とを含む電解質用組成物とを用意し、外装部材40の内部に注入する。最後に、外装部材40の開口部を真空雰囲気下で熱融着して密封したのち、熱を加えてモノマーを重合させて高分子化合物とすることにより、ゲル状の電解質層36を形成する。これにより、図3および図4に示した二次電池が完成する。
【0082】
この二次電池は、第1の二次電池と同様に作用し、同様の効果を得ることができる。
【0083】
<2−3.第3の二次電池>
図5は、第3の二次電池の断面構成を表しており、この電池は、例えば、第1の二次電池と同様にリチウムイオン二次電池である。この二次電池は、正極リード51が取り付けられた正極52と、負極リード53が取り付けられた負極54とを、電解質層55を介して対向配置させた平板状の電極体50をフィルム状の外装部材56に収容したものである。外装部材56の構成は、上記した第2の電池における外装部材40と同様である。
【0084】
正極52は、正極集電体52Aに正極活物質層52Bが設けられた構造を有している。負極54は、負極集電体54Aに負極活物質層54Bが設けられた構造を有しており、負極活物質層54B側が正極活物質層52Bと対向するように配置されている。正極集電体52A、正極活物質層52B、負極集電体54A、負極活物質層54Bの構成は、それぞれ上記した第1の電池における正極集電体21A、正極活物質層21B、負極集電体22Aおよび負極活物質層22Bと同様である。
【0085】
電解質層55は、例えば、固体電解質によって構成されている。固体電解質としては、例えば、リチウムイオン導電性を有する材料であれば、無機固体電解質あるいは高分子固体電解質のいずれも用いることができる。無機固体電解質としては、窒化リチウムあるいはヨウ化リチウムなどを含むものなどが挙げられる。高分子固体電解質は、主に、電解質塩と電解質塩を溶解する高分子化合物とからなるものである。高分子固体電解質の高分子化合物としては、例えば、ポリエチレンオキサイドあるいはポリエチレンオキサイドを含む架橋体などのエーテル系高分子化合物や、ポリメタクリレートなどのエステル系高分子化合物や、アクリレート系高分子化合物などを単独あるいは混合して、または共重合させて用いることができる。
【0086】
高分子固体電解質は、例えば、高分子化合物と、電解質塩と、混合溶剤とを混合したのち、その混合溶剤を揮発させることにより形成される。また、電解質塩と、高分子化合物の原料であるモノマーと、重合開始剤と、必要に応じて重合禁止剤などの他の材料とを混合溶剤に溶解させ、その混合溶剤を揮発させたのち、熱を加えてモノマーを重合させて高分子化合物とすることにより形成されてもよい。
【0087】
無機固体電解質は、例えば、正極52あるいは負極54の表面にスパッタリング法、真空蒸着法、レーザーアブレーション法、イオンプレーティング法あるいはCVD(Chemical Vapor Deposition )法などの気相法や、ゾルゲル法などの液相法によって形成される。
【0088】
この二次電池は、第1あるいは第2の二次電池と同様に作用し、同様の効果を得ることができる。
【実施例】
【0089】
更に、本発明の具体的な実施例について詳細に説明する。
【0090】
以下では、負極活物質およびそれを用いた二次電池に関する実施例について、液状の電解質(電解液)を用いた場合およびゲル状の電解質を用いた場合の順に説明する。
【0091】
(1)液状の電解質(電解液)を用いた場合
(実験例1−1〜1−7)
まず、負極活物質を作製した。すなわち、原料としてコバルト粉末とスズ粉末と炭素粉末とリン粉末とを用意し、コバルト粉末およびスズ粉末を合金化してコバルト・スズ合金粉末としたのち、その合金粉末に炭素粉末およびリン粉末を加えて乾式混合した。この際、原料の割合(原料比:質量%)を表1に示したように変化させた。具体的には、リンの原料比を1.5質量%、スズとコバルトとの合計に対するコバルトの割合(以下、Co/(Sn+Co)比という)を37質量%でそれぞれ一定とし、炭素の原料比を10質量%以上30質量%以下の範囲内で変化させた。続いて、伊藤製作所製の遊星ボールミルの反応容器中に、上記した混合物20gを直径9mmの鋼玉約400gと共にセットした。続いて、反応容器中をアルゴン(Ar)雰囲気に置換したのち、毎分250回転の回転速度による10分間の運転と10分間の休止とを運転時間の合計が30時間になるまで繰り返した。最後に、反応容器を室温まで冷却したのち、合成された負極活物質粉末を取り出し、280メッシュのふるいを通して粗粉を取り除いた。
【0092】
【表1】

【0093】
得られた負極活物質について組成の分析を行った。この際、炭素の含有量については炭素・硫黄分析装置で測定し、コバルト、スズおよびリンの含有量についてはICP(Inductively Coupled Plasma:誘導結合プラズマ)発光分析で測定した。それらの分析値(質量%)を表1に示す。なお、表1に示した原料比および分析値はいずれも小数点以下2桁の数値を四捨五入した値であり、以下の一連の実験例および比較例についても同様に示している。また、負極活物質についてX線回折を行ったところ、2θ=20°〜50°の間に広い半値幅を有する回折ピークが観察された。この回折ピークの半値幅(°)も表1に示す。
【0094】
更に、XPSを行ったところ、図6に示したように、ピークP1が得られた。このピークP1を解析したところ、表面汚染炭素のピークP2と、それよりも低エネルギー側に負極活物質中におけるC1sのピークP3とが得られた。実験例1−1〜1−7のいずれについても、ピークP3は284.5eVよりも低い領域に得られた。すなわち、負極活物質中の炭素が他の元素と結合していることが確認された。
【0095】
次に、上記した負極活物質粉末を用いて、図7に示したコイン型の二次電池を作製した。この二次電池は、負極活物質を用いた試験極61を正極缶62に収容すると共に対極63を負極缶64に貼り付け、それらを電解液が含浸されたセパレータ65を介して積層したのちにガスケット66を介してかしめたものである。試験極61を作成する際には、負極活物質粉末70質量部と、導電剤および他の負極活物質である黒鉛20質量部と、導電剤であるアセチレンブラック1質量部と、結着剤であるポリフッ化ビニリデン4質量部とを混合し、適当な溶剤に分散させてスラリーとしたのち、そのスラリーを銅箔集電体に塗布し、乾燥後に直径15.2mmのペレットに打ち抜いた。対極63としては、直径15.5mmに打ち抜いた金属リチウム板を用いた。電解液としては、炭酸エチレン(EC)と炭酸プロピレン(PC)と炭酸ジメチル(DMC)とを混合した混合溶媒に電解質塩としてLiPF6 を溶解させたものを用いた。この際、混合溶媒の組成を質量比でEC:PC:DMC=30:10:60とし、電解質塩の濃度を1mol/dm3 とした。
【0096】
このコイン型の二次電池について、初回充電容量(mAh/g)を調べた。この初回充電容量としては、1mAの定電流で電池電圧が0.2mVに達するまで定電流充電したのち、0.2mVの定電圧で電流が10μAに達するまで定電圧充電し、試験極61の質量から銅箔集電体および結着剤の質量を除いた単位質量あたりの充電容量を求めた。なお、ここでいう充電とは、負極活物質へのリチウム挿入反応を意味する。その結果を表1および図8に示す。
【0097】
また、上記した負極活物質粉末を用いて、図1および図2に示した円筒型の二次電池を作製した。すなわち、ニッケル酸化物からなる正極活物質と、導電剤であるケッチェンブラックと、結着剤であるポリフッ化ビニリデンとをニッケル酸化物:ケッチェンブラック:ポリフッ化ビニリデン=94:3:3の質量比で混合し、混合溶剤であるN−メチル−2−ピロリドンに分散させて正極合剤スラリーとした。続いて、帯状のアルミニウム箔からなる正極集電体21Aの両面に正極合剤スラリーを均一に塗布して乾燥させたのち、ロールプレス機で圧縮成型して正極活物質層21Bを形成することにより、正極21を作製した。こののち、正極集電体21Aの一端にアルミニウム製の正極リード25を取り付けた。
【0098】
また、帯状の銅箔からなる負極集電体22Aの両面に上記した負極活物質を含む負極合剤スラリーを均一に塗布して乾燥させたのち、ロールプレス機で圧縮成型して負極活物質層22Bを形成することにより、負極22を作製した。こののち、負極集電体22Aの一端にニッケル製の負極リード26を取り付けた。
【0099】
続いて、セパレータ23を用意し、負極22、セパレータ23、正極21およびセパレータ23をこの順に積層したのち、その積層体を渦巻状に多数回巻回することにより、巻回電極体20を作製した。続いて、巻回電極体20を一対の絶縁板12,13で挟み、負極リード26を電池缶11に溶接すると共に正極リード25を安全弁機構15に溶接したのち、ニッケルめっきが施された鉄製の電池缶11の内部に巻回電極体20を収納した。最後に、電池缶11の内部に上記した電解液を減圧方式によって注入することにより、円筒型の二次電池が完成した。
【0100】
この円筒型の二次電池について、サイクル特性を調べた。この場合には、まず、0.5Aの定電流で電池電圧が4.2Vに達するまで定電流充電したのち、4.2Vの定電圧で電流が10mAに達するまで定電圧充電し、引き続き0.25Aの定電流で電池電圧が2.6Vに達するまで定電流放電することにより、1サイクル目の充放電を行った。2サイクル目以降については、1.4Aの定電流で電池電圧が4.2Vに達するまで定電流充電したのち、4.2Vの定電圧で電流が10mAに達するまで定電圧充電し、引き続き1.0Aの定電流で電池電圧が2.6Vに達するまで定電流放電した。こののち、サイクル特性を調べるために、2サイクル目の放電容量(2Cy.放電容量:mAh/cm3 )に対する300サイクル目の放電容量(300Cy.放電容量:mAh/cm3 )の比、すなわち容量維持率(%)=(300サイクル目の放電容量/2サイクル目の放電容量)×100を求めた。それらの結果を表1および図8に示す。
【0101】
なお、実験例1−1〜1−7に対する比較例1−1として、原料として炭素粉末およびリン粉末を用いなかったことを除き、他は実験例1−1〜1−7と同様にして負極活物質および二次電池を作製した。また、比較例1−2として、炭素粉末だけを用いなかったことを除き、他は実験例1−1〜1−7と同様にして負極活物質および二次電池を作製した。さらに、比較例1−3〜1−8として、炭素の原料比を表1に示したように変化させたことを除き、他は実験例1−1〜1−7と同様にして負極活物質および二次電池を作製した。
【0102】
比較例1−1〜1−8の負極活物質についても、実験例1−1〜1−7と同様にして組成の分析および2θ=20°〜50°の間に見られた広い半値幅を有する回折ピークの半値幅の測定を行った。それらの結果を表1に示す。また、XPSを行ったところ、比較例1−4〜1−8では、図6に示したピークP1が得られた。このピークP1を解析したところ、実験例1−1〜1−7と同様に、表面汚染炭素のピークP2と負極活物質中におけるC1sのピークP3とが得られ、そのピークP3はいずれについても284.5eVよりも低い領域に得られた。すなわち、負極活物質に含まれる炭素の少なくとも一部が他の元素と結合していることが確認された。一方、比較例1−1,1−2では、図9に示したように、ピークP4が得られた。このピークP4を解析したところ、表面汚染炭素のピークP2のみが得られた。また、比較例1−3では、原料として用いた炭素の量が少なかったため、ピークP2のみが得られ、ピークP3はほとんど検出されなかった。
【0103】
また、比較例1−1〜1−8の二次電池についても、実験例1−1〜1−7と同様にして初回充電容量およびサイクル特性を調べた。それらの結果を表1および図8に示す。
【0104】
表1および図8から分かるように、負極活物質における炭素の含有量が9.9質量%以上29.7質量以下の範囲内である実験例1−1〜1−7では、その含有量が範囲外である比較例1−1〜1−8よりも容量維持率が飛躍的に向上した。この場合には、初回充電容量および放電容量も向上した。
【0105】
更に、炭素の含有量が14.9質量%以上29.7質量%以下の範囲内、更には16.8質量%以上24.8質量%以下の範囲内において、より高い値が得られた。
【0106】
すなわち、炭素の含有量を9.9質量%以上29.7質量%以下とすれば容量およびサイクル特性を向上させることができると共に、14.9質量%以上29.7質量%以下の範囲内、更には16.8質量%以上24.8質量%以下の範囲内とすればより好ましいことが分かった。
【0107】
(実験例2−1〜2−11)
コバルト、スズ、炭素およびリンの原料比を表2に示したように変化させたことを除き、他は実験例1−1〜1−7と同様にして負極活物質および二次電池を作製した。具体的には、炭素の原料比を10質量%、リンの原料比を1.5質量%でそれぞれ一定とし、Co/(Sn+Co)比を24質量%以上70質量%以下の範囲内で変化させた。
【0108】
【表2】

【0109】
なお、実験例2−1〜2−11に対する比較例2−1〜2−3として、Co/(Sn+Co)比を表2に示したように変化させたことを除き、他は実験例2−1〜2−11と同様にして負極活物質および二次電池を作製した。具体的には、比較例2−1〜2−3におけるCo/(Sn+Co)比をそれぞれ75質量%、20質量%および16質量%とした。
【0110】
実験例2−1〜2−11および比較例2−1〜2−3の負極活物質についても、実験例1−1〜1−7と同様にして組成の分析および半値幅の測定を行った。それらの結果を表2に示す。また、XPSを行い、得られたピークを解析したところ、実験例1−1〜1−7と同様に、表面汚染炭素のピークP2と負極活物質中におけるC1sのピークP3とが得られ、そのピークP3はいずれについても284.5eVよりも低い領域に得られた。すなわち、負極活物質に含まれる炭素の少なくとも一部が他の元素と結合していることが確認された。更に、二次電池についても、実験例1−1〜1−7と同様にして初回充電容量およびサイクル特性を調べた。それらの結果を表2および図10に示す。
【0111】
表2および図10から分かるように、Co/(Sn+Co)比が24質量%以上70質量%以下の範囲内である実験例2−1〜2−11では、70質量%超である比較例2−1よりも初回充電容量が飛躍的に向上し、24質量%未満である比較例2−2,2−3よりも容量維持率が飛躍的に向上した。特に、Co/(Sn+Co)比が60質量%以下であれば、高い初回充電容量が得られた。
【0112】
すなわち、Co/(Sn+Co)比を24質量%以上70質量%以下とすれば容量およびサイクル特性を向上させることができると共に、Co/(Sn+Co)比を60質量%以下とすればより好ましいことが分かった。
【0113】
(実験例3−1〜3−11)
コバルト、スズ、炭素およびリンの原料比を表3に示したように変化させたことを除き、他は実験例1−1〜1−7と同様にして負極活物質および二次電池を作製した。具体的には、炭素の原料比を20質量%、リンの原料比を1.5質量%でそれぞれ一定とし、Co/(Sn+Co) 比を24質量%以上70質量%以下の範囲内で変化させた。
【0114】
【表3】

【0115】
なお、実験例3−1〜3−11に対する比較例3−1〜3−3として、Co/(Sn+Co)比を表3に示したように変化させたことを除き、他は実験例3−1〜3−11と同様にして負極活物質および二次電池を作製した。具体的には、比較例3−1〜3−3におけるCo/(Sn+Co)比をそれぞれ75質量%、20質量%および16質量%とした。
【0116】
実験例3−1〜3−11および比較例3−1〜3−3の負極活物質についても、実験例1−1〜1−7と同様にして組成の分析および半値幅の測定を行った。それらの結果を表3に示す。また、XPSを行い、得られたピークを解析したところ、実験例1−1〜1−7と同様に、表面汚染炭素のピークP2と負極活物質中におけるC1sのピークP3とが得られ、そのピークP3はいずれについても284.5eVよりも低い領域に得られた。すなわち、負極活物質に含まれる炭素の少なくとも一部が他の元素と結合していることが確認された。更に、二次電池についても、実験例1−1〜1−7と同様にして初回充電容量およびサイクル特性を調べた。それらの結果を表3および図11に示す。
【0117】
表3および図11から分かるように、実験例2−1〜2−11と同様の結果が得られた。すなわち、Co/(Sn+Co)比を24質量%以上70質量%以下の範囲内とすれば、炭素の含有量を19.8質量%とした場合においても容量およびサイクル特性を向上させることができることが分かった。
【0118】
(実験例4−1〜4−11)
コバルト、スズ、炭素およびリンの原料比を表4に示したように変化させたことを除き、他は実験例1−1〜1−7と同様にして二次電池を作製した。具体的には、炭素の原料比を30質量%、リンの原料比を1.5質量%でそれぞれ一定とし、Co/(Sn+Co)比を24質量%以上70質量%以下の範囲内で変化させた。
【0119】
【表4】

【0120】
なお、実験例4−1〜4−11に対する比較例4−1〜4−3として、Co/(Sn+Co)比を表4に示したように変化させたことを除き、他は実験例4−1〜4−11と同様にして負極活物質および二次電池を作製した。具体的には、比較例4−1〜4−3におけるCo/(Sn+Co)比をそれぞれ75質量%、20質量%および16質量%とした。
【0121】
実験例4−1〜4−11および比較例4−1〜4−3の負極活物質についても、実験例1−1〜1−7と同様にして組成の分析および半値幅の測定を行った。それらの結果を表4に示す。また、XPSを行い、得られたピークを解析したところ、実験例1−1〜1−7と同様に、表面汚染炭素のピークP2と負極活物質中におけるC1sのピークP3とが得られ、そのピークP3はいずれについても284.5eVよりも低い領域に得られた。すなわち、負極活物質に含まれる炭素の少なくとも一部が他の元素と結合していることが確認された。更に、二次電池についても、実験例1−1〜1−7と同様にして初回充電容量およびサイクル特性を調べた。それらの結果を表4および図12に示す。
【0122】
表4および図12から分かるように、実験例2−1〜2−11と同様の結果が得られた。すなわち、Co/(Sn+Co)比を24質量%以上70質量%以下の範囲内とすれば、炭素の含有量を29.7質量%とした場合においても容量およびサイクル特性を向上させることができることが分かった。
【0123】
(実験例5−1〜5−5)
コバルト、スズ、炭素およびリンの原料比を表5に示したように変化させたことを除き、他は実験例1−1〜1−7と同様にして負極活物質および二次電池を作製した。具体的には、炭素の原料比を20質量%、Co/(Sn+Co)比を37質量%でそれぞれ一定とし、リンの原料比を0.1質量%以上2.2質量%以下の範囲内で変化させた。
【0124】
【表5】

【0125】
なお、実験例5−1〜5−5に対する比較例5−1として、リンを含有させなかったことを除き、他は実験例1−1〜1−7と同様にして負極活物質および二次電池を作製した。また、比較例5−2,5−3として、リンの原料比を表5に示したように変化させたことを除き、他は実験例1−1〜1−7と同様にして負極活物質および二次電池を作製した。具体的には、比較例5−2,5−3におけるリンの原料比をそれぞれ3質量%および5質量%とした。
【0126】
実験例5−1〜5−5および比較例5−1〜5−3の負極活物質についても、実験例1−1〜1−7と同様にして組成の分析および半値幅の測定を行った。それらの結果を表5に示す。また、XPSを行い、得られたピークを解析したところ、実験例1−1〜1−7と同様に、表面汚染炭素のピークP2と負極活物質中におけるC1sのピークP3とが得られ、そのピークP3はいずれについても284.5eVよりも低い領域に得られた。すなわち、負極活物質に含まれる炭素の少なくとも一部が他の元素と結合していることが確認された。更に、二次電池についても、実験例1−1〜1−7と同様にして初回充電容量およびサイクル特性を調べた。それらの結果を表5および図13に示す。
【0127】
特に、実験例5−1〜5−5および比較例5−1〜5−3の二次電池については、1サイクル目の充電容量に対する1サイクル目の放電容量の比、すなわち初回充放電効率(%)=(1サイクル目の放電容量/1サイクル目の充電容量)×100も調べた。この場合の充放電条件は、サイクル特性を調べる場合と同様とした。それらの結果を表5および図14に示す。
【0128】
表5および図13から分かるように、リンの含有量が0.1質量%以上2.2質量%以下の範囲内である実験例5−1〜5−5では、その含有量が範囲外である比較例5−1〜5−3とほぼ同等の容量維持率が得られた。この場合には、初回充電容量および放電容量もほぼ同等であった。
【0129】
また、表5および図14から分かるように、リンの含有量が0.1質量%以上2.2質量%以下の範囲内である実験例5−1〜5−5では、その含有量が範囲外である比較例5−1〜5−3よりも初回充放電効率が向上した。
【0130】
更に、リンの含有量が0.5質量%以上2質量%以下の範囲内において、より高い効果が得られた。
【0131】
すなわち、リンの含有量を0.1質量%以上2.2質量%以下の範囲内とすれば容量およびサイクル特性と共に初回充放電効率も向上させることができると共に、0.5質量%以上2質量%以下の範囲内とすればより好ましいことが分かった。
【0132】
(実験例6−1〜6−6,7−1〜7−6)
負極活物質を合成する際の運転時間および回転数を変え、2θ=20°〜50°の間に見られる広い半値幅を有する回折ピークの半値幅を変化させたことを除き、他は実験例1−1〜1−7と同様にして負極活物質および二次電池を作製した。この際、実験例6−1〜6−6,7−1〜7−6の間において、リンの原料比を1.5質量%、Co/(Sn+Co)比を37質量%で一定とし、コバルト、スズおよび炭素の原料比を表6に示したように変化させた。
【0133】
【表6】

【0134】
実験例6−1〜6−6,7−1〜7−6の負極活物質についても、実験例1−1〜1−7と同様にして組成の分析および半値幅の測定を行った。それらの結果を表6に示す。また、XPSを行い、得られたピークを解析したところ、実験例1−1〜1−7と同様に表面汚染炭素のピークP2と負極活物質中におけるC1sのピークP3とが得られ、そのピークP3はいずれについても284.5eVよりも低い領域に得られた。すなわち、負極活物質に含まれる炭素の少なくとも一部が他の元素と結合していることが確認された。更に、二次電池についても、実験例1−1〜1−7と同様にして初回充電容量およびサイクル特性を調べた。それらの結果を表6に示す。
【0135】
表6から分かるように、実験例6−1〜6−6,7−1〜7−6のいずれにおいても、半値幅が大きくなるにしたがって容量維持率が向上した。すなわち、回折ピークの半値幅がより大きい反応相を有するようにすれば、サイクル特性を向上させることができることが分かった。
【0136】
(実験例8−1〜8−11)
原料として更にケイ素粉末を用い、コバルト、スズ、炭素、リンおよびケイ素の原料比を表7に示したように変化させたことを除き、他は実験例1−1〜1−7と同様にして負極活物質および二次電池を作製した。具体的には、炭素の原料比を20質量%、リンの原料比を1.5質量%、Co/(Sn+Co)比を37質量%でそれぞれ一定とし、ケイ素の原料比を0.3質量%以上10質量%以下の範囲内で変化させた。実験例8−1〜8−11の二次電池についても、実験例1−1〜1−7と同様にして組成の分析を行った。この際、ケイ素の含有量についてはICP発光分析で測定した。それらの結果を表7に示す。また、XPSを行い、得られたピークを解析したところ、実験例1−1〜1−7と同様に、表面汚染炭素のピークP2と負極活物質中におけるC1sのピークP3とが得られ、そのピークP3はいずれについても284.5eVよりも低い領域に得られた。すなわち、負極活物質に含まれる炭素の少なくとも一部が他の元素と結合していることが確認された。更に、二次電池についても、実験例1−1〜1−7と同様にして初回充電容量およびサイクル特性を調べた。それらの結果を表8に示す。
【0137】
【表7】

【0138】
【表8】

【0139】
表7および表8から分かるように、ケイ素を含む実験例8−1〜8−11では、それを含まない実験例1−5よりも初回充電容量が向上した。但し、ケイ素の含有量が多くなるにしたがって容量維持率が低下する傾向が見られた。
【0140】
すなわち、負極活物質にケイ素を含有するようにすれば、容量を向上させることができることが分かった。この場合には、ケイ素の含有量が0.5質量%以上7.9質量%以下の範囲内であれば、十分な初回充電容量および容量維持率が得られることが分かった。
【0141】
(実験例9−1〜9−12)
実験例9−1では、コバルト、スズ、炭素およびリンの原料比を表9に示したようにしたことを除き、他は実験例1−1〜1−7と同様にして負極活物質および二次電池を作製した。また、実験例9−2〜9−12では、原料としてコバルト粉末とスズ粉末と炭素粉末とリン粉末とチタン粉末とを用意し、それらの原料比を表9に示したように変化させたことを除き、他は実験例1−1〜1−7と同様にして負極活物質および二次電池を作製した。具体的には、炭素の原料比を20質量%、リンの原料比を1.5質量%、Co/(Sn+Co)比を37質量%でそれぞれ一定とし、チタンの原料比を0質量%以上16質量%以下の範囲内で変化させた。負極活物質を作製する場合には、コバルト粉末とスズ粉末とリン粉末とチタン粉末とを合金化してコバルト・スズ・リン・チタン合金粉末を作製したのち、その合金粉末に炭素粉末を混合した。実験例9−1〜9−12の負極活物質についても、実験例1−1〜1−7と同様にして組成の分析を行った。この際、チタンの含有量についてはICP発光分析で測定した。それらの結果を表9に示す。また、XPSを行い、得られたピークを解析したところ、実験例1−1〜1−7と同様に、表面汚染炭素のピークP2と負極活物質中におけるC1sのピークP3とが得られ、そのピークP3はいずれについても284.5eVよりも低い領域に得られた。すなわち、負極活物質に含まれる炭素の少なくとも一部が他の元素と結合していることが確認された。更に、二次電池についても、実験例1−1〜1−7と同様にして初回充電容量およびサイクル特性を調べた。それらの結果を表9および図15に示す。
【0142】
【表9】

【0143】
表9および図15から分かるように、チタンを14.9質量%以下の範囲内で含む実験例9−2〜9−11では、それを含まない実験例9−1および14.9質量%超である実験例9−12よりも容量維持率が向上した。この場合には、チタンの含有量が1.5質量%以上、特に2.8質量%以上12.9質量%以下の範囲内において、容量維持率が著しく高くなった。
【0144】
すなわち、負極活物質にチタンを14.9質量%以下の範囲内で含むようにすればサイクル特性をより向上させることができると共に、1.5質量%以上とすればより好ましく、特に2.8質量%以上12.9質量%以下の範囲内とすれば更に好ましいことが分かった。
【0145】
(実験例10−1〜10−11)
原料としてコバルト粉末とスズ粉末と炭素粉末とリン粉末とビスマス粉末とを用意し、それらの原料比を表10に示したように変化させたことを除き、他は実験例1−1〜1−7と同様にして負極活物質および二次電池を作製した。具体的には、炭素の原料比を20質量%、リンの原料比を1.5質量%、Co/(Sn+Co)比を37質量%でそれぞれ一定とし、ビスマスの原料比を0.8質量%以上16質量%以下の範囲内で変化させた。負極活物質を作製する場合には、コバルト粉末とスズ粉末とリン粉末とビスマス粉末とを合金化してコバルト・スズ・リン・ビスマス合金粉末を作製したのち、その合金粉末に炭素粉末を混合した。実験例10−1〜10−11の負極活物質についても、実験例1−1〜1−7と同様にして組成の分析を行った。この際、ビスマスの含有量についてはICP発光分析で測定した。それらの結果を表10に示す。また、XPSを行い、得られたピークを解析したところ、実験例1−1〜1−7と同様に、表面汚染炭素のピークP2と負極活物質中におけるC1sのピークP3とが得られ、そのピークP3はいずれについても284.5eVよりも低い領域に得られた。すなわち、負極活物質に含まれる炭素の少なくとも一部が他の元素と結合していることが確認された。更に、二次電池についても、実験例1−1〜1−7と同様にして初回充電容量およびサイクル特性を調べた。それらの結果を表10および図16に示す。
【0146】
【表10】

【0147】
表10および図16から分かるように、ビスマスを含む実験例10−1〜10−11についても、チタンを含む実験例9−2〜9−12と同様の結果が得られた。すなわち、負極活物質にビスマスを14.9質量%以下の範囲内で含むようにした場合においてもサイクル特性をより向上させることができると共に、1.5質量%以上とすればより好ましいことが分かった。
【0148】
(実験例11−1〜11−10)
原料としてコバルト粉末とスズ粉末と炭素粉末とリン粉末と共にモリブデン粉末とニオブ粉末とゲルマニウム粉末とインジウム粉末とガリウム粉末とを用い、コバルト、スズ、炭素、リン、モリブデン、ニオブ、ゲルマニウム、インジウムおよびガリウムの原料比を表11に示したように変化させたことを除き、他は実験例1−1〜1−7と同様にして負極活物質および二次電池を作製した。具体的には、リンの原料比を1.5質量%、Co/(Sn+Co)比を37質量%でそれぞれ一定とし、モリブデン等の原料比を3質量%、4質量%、5質量%あるいは6質量%のいずれかとした。負極活物質を作製する場合には、コバルト粉末とスズ粉末とリン粉末とを合金化してコバルト・スズ・リン合金粉末を作製したのち、その合金粉末に炭素粉末およびモリブデン粉末等を混合した。実験例11−1〜11−10の負極活物質についても、実験例1−1〜1−7と同様にして組成の分析を行った。この際、モリブデン等の含有量についてはICP発光分析で測定した。それらの結果を表11に示す。また、XPSを行い、得られたピークを解析したところ、実験例1−1〜1−7と同様に、表面汚染炭素のピークP2と負極活物質中におけるC1sのピークP3とが得られ、そのピークP3はいずれについても284.5eVよりも低い領域に得られた。すなわち、負極活物質に含まれる炭素の少なくとも一部が他の元素と結合していることが確認された。また、二次電池についても、実験例1−1〜1−7と同様にして初回充電容量およびサイクル特性を調べた。それらの結果を表12に示す。
【0149】
【表11】

【0150】
【表12】

【0151】
表11および表12から分かるように、実験例11−1〜11−10においても、実験例9−2〜9−12,10−1〜10−11と同様にサイクル特性が向上した。すなわち、負極活物質にモリブデン、ニオブ、ゲルマニウム、インジウムおよびガリウムからなる群のうちの少なくとも1種を含むようにすれば、サイクル特性をより向上させることができることが分かった。
【0152】
(実験例12−1〜12−4)
原料としてコバルト粉末とスズ粉末と炭素粉末とリン粉末とケイ素粉末とチタン粉末とを用意し、それらの原料比を表13に示したように変化させたことを除き、他は実験例1−1〜1−7と同様にして負極活物質および二次電池を作製した。具体的には、炭素の原料比を18質量%、リンの原料比を1.5質量%、ケイ素の原料比を3質量%、Co/(Sn+Co)比を37質量%でそれぞれ一定とし、チタンの原料比を0質量%以上7.5質量%以下の範囲内で変化させた。負極活物質を作製する場合には、コバルト粉末とスズ粉末とリン粉末とを合金化してコバルト・スズ・リン合金粉末を作製し、あるいはコバルト粉末とスズ粉末とリン粉末とチタン粉末とを合金化してコバルト・スズ・リン・チタン合金粉末を作製したのち、それらの合金粉末に炭素粉末およびケイ素粉末を混合した。実験例12−1〜12−4の負極活物質についても、実験例1−1〜1−7と同様にして組成の分析を行った。この際、ケイ素およびチタンの含有量についてはICP発光分析で測定した。その結果を表13に示す。また、XPSを行い、得られたピークを解析したところ、実験例1−1〜1−7と同様に、表面汚染炭素のピークP2と負極活物質中におけるC1sのピークP3とが得られ、そのピークP3はいずれについても284.5eVよりも低い領域に得られた。すなわち、負極活物質に含まれる炭素の少なくとも一部が他の元素と結合していることが確認された。また、二次電池についても、実験例1−1〜1−7と同様にして初回充電容量およびサイクル特性を調べた。それらの結果を表13に示す。
【0153】
【表13】

【0154】
表13から分かるように、ケイ素に加えてチタンを含む実験例12−2〜12−4では、それらの双方を含まない実験例9−1,12−1よりも初回充電容量および容量維持率が向上した。
【0155】
すなわち、負極活物質にチタン、モリブデン、ニオブ、ゲルマニウム、インジウムおよびガリウムからなる群のうちの少なくとも1種とケイ素とを含むようにすれば、容量およびサイクル特性をより向上させることができることが分かった。
【0156】
(実験例13−1〜13−3)
電解液の溶媒に4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(FEC)を加え、その溶媒の組成を質量比でFEC:EC:PC:DMC=20:10:10:60としたことを除き、他は実験例1−5,8−5,12−2と同様にして二次電池を作製し、実験例1−1〜1−7と同様にして容量維持率を調べた。その結果を表14に示す。
【0157】
【表14】

【0158】
表14から分かるように、溶媒にFECを加えた実験例13−1〜13−3では、それを加えなかった実験例1−5,8−5,12−2よりも容量維持率が向上した。すなわち、溶媒にFECを加えるようにすれば、サイクル特性をより向上させることができることが分かった。
【0159】
(実験例14−1〜14−16)
溶媒の組成を表15に示したように変更させたことを除き、他は実験例1−5,13−1と同様にして円筒型の二次電池を作製した。実験例14−1〜14−16の二次電池についても、実験例1−1〜1−7と同様にして容量維持率を調べた。それらの結果を表15に示す。
【0160】
【表15】

【0161】
表15から分かるように、容量維持率はFECの含有量が多くなるにしたがって増加し、極大値を示したのちに低下した。
【0162】
すなわち、溶媒にFECを含むようにすれば、その溶媒の組成に関わらず、サイクル特性を向上させることができると共に、特に1質量%以上80質量%以下の範囲内で含むようにすれば高い効果を得ることができることが分かった。
【0163】
(実験例15−1〜15−6)
FECに代えて、他のハロゲン原子を有する環状の炭酸エステル誘導体を用いたことを除き、他は実験例13−1と同様にして円筒型の二次電池を作製した。この際、実験例15−1では4−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(DFEC)を用い、実験例15−2では4−ジフルオロ−5−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(Tri−FEC)を用い、実験例15−3では4−クロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(Cl−EC)を用い、実験例15−4では4−ブロモ−1,3−ジオキソラン−2−オン(Br−EC)を用い、実験例15−5では4−ヨード−1,3−ジオキソラン−2−オン(I−EC)を用い、実験例15−6では4−フルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン(F−PC)を用いた。
【0164】
実験例15−1〜15−6の二次電池についても、実験例1−1〜1−7と同様にして容量維持率を調べた。それらの結果を表16に示す。
【0165】
【表16】

【0166】
表16から分かるように、他のハロゲン原子を有する環状の炭酸エステル誘導体を用いた場合においても、実験例13−1と同様にサイクル特性が向上した。但し、FECを用いた実験例13−1において、特に容量維持率が高くなった。すなわち、溶媒にハロゲン原子を有する環状の炭酸エステル誘導体を含むようにすればサイクル特性を向上させることができると共に、中でもFECを含むようすれば特に効果的であることが分かった。
【0167】
(2)ゲル状の電解質を用いた場合
(実験例16−1〜16−7)
液状の電解質(電解液)に代えて、ゲル状の電解質からなる電解質層を試験極61および対極63の表面に形成したことを除き、他は実験例1−1〜1−7と同様にしてコイン型の二次電池を作製した。すなわち、試験極61には、表17に示したように、コバルト、スズ、炭素およびリンの原料比を実験例1−1〜1−7と同様にした負極活物質を用いた。電解質層の作製手順は、以下の通りである。まず、溶媒としてECおよびPCと電解質塩としてLiPF6 とをEC:PC:LiPF6 =11.5:11.5:4の質量比で混合した電解液に、高分子化合物としてフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体(分子量=600000)と、混合溶剤として炭酸ジエチル(DEC)とを電解液:高分子化合物:混合溶剤=27:10:60の質量比で混合して前駆溶液を作製した。そして、試験極61と対極63とが対向するそれぞれの面に前駆溶液を均一に塗布したのち、常温で6時間放置してDECを揮発させることにより、ゲル状の電解質層を形成した。
【0168】
得られたコイン型の二次電池について、実験例1−1〜1−7と同様にして初回充電容量を調べた。その結果を表17および図17に示す。
【0169】
【表17】

【0170】
また、以下の手順によって図3および図4に示したラミネートフィルム型の二次電池を作製した。まず、実験例1−1〜1−7と同様にして正極33および負極34を作製したのち、それぞれに正極リード31および負極リード32を取り付けた。続いて、上記した前駆溶液を正極33および負極34に均一に塗布したのち、常温で6時間放置してDECを揮発させることにより、ゲル状の電解質層36を形成した。続いて、電解質層36が形成された面が対向するように正極33と負極34とをセパレータ35を介して積層してから巻回させることにより、巻回電極体30を形成した。最後に、巻回電極体30を防湿性アルミラミネートフィルムからなる外装部材40に真空封入することにより、二次電池が完成した。
【0171】
これらの二次電池について、実験例1−1〜1−7と同様にして容量維持率を調べた。それらの結果を表17および図17に示す。
【0172】
なお、実験例16−1〜16−7に対する比較例16−1〜16−7として、コバルト、スズ、炭素およびリンの原料比を表17に示したようにした負極活物質を用い、すなわち比較例1−1〜1−7と同様の負極活物質を用いたことを除き、他は実験例16−1〜16−7と同様にして二次電池を作製した。
【0173】
得られた比較例16−1〜16−7の二次電池についても、初回充電容量および容量維持率を調べた。それらの結果を表17および図17に示す。
【0174】
表17および図17から分かるように、実験例1−1〜1−7と同様の結果が得られた。すなわち、ゲル状の電解質を用いた場合においても、炭素の含有量を9.9質量%以上29.7質量%以下の範囲内とすれば容量およびサイクル特性を向上させることができると共に、14.9質量%以上29.7質量%以下の範囲内、更には16.8質量%以上24.8質量%以下の範囲内とすればより好ましいことが分かった。
【0175】
(実験例17−1〜17−11,18−1〜18−11,19−1〜19−11)
実験例17−1〜17−11として、表18に示したように、炭素の原料比を10質量%、リンの原料比を1.5質量%でそれぞれ一定とし、Co/(Sn+Co)比を24質量%以上70質量%以下の範囲内で変化させ、すなわち原料比を実験例2−1〜2−11と同様にしたことを除き、他は実験例16−1〜16−7と同様にして負極活物質および二次電池を作製した。なお、実験例17−1〜17−11に対する比較例17−1〜17−3として、表18に示したように、Co/(Sn+Co)比をそれぞれ75質量%、20質量%および16質量%とし、すなわち原料比を比較例2−1〜2−3と同様にしたことを除き、他は実験例17−1〜17−11と同様にして負極活物質および二次電池を作製した。
【0176】
【表18】

【0177】
実験例18−1〜18−11として、表19に示したように、炭素の原料比を20質量%、リンの原料比を1.5質量%でそれぞれ一定とし、Co/(Sn+Co)比を24質量%以上70質量%以下の範囲内で変化させ、すなわち原料比を実験例3−1〜3−11と同様にしたことを除き、他は実験例16−1〜16−7と同様にして負極活物質および二次電池を作製した。なお、実験例18−1〜18−11に対する比較例18−1〜18−3として、表19に示したように、Co/(Sn+Co)比をそれぞれ75質量%、20質量%および16質量%とし、すなわち原料比を比較例3−1〜3−3と同様にしたことを除き、他は実験例18−1〜18−11と同様にして負極活物質および二次電池を作製した。
【0178】
【表19】

【0179】
実験例19−1〜19−11として、表20に示したように、炭素の原料比を30質量%、リンの原料比を1.5質量%でそれぞれ一定とし、Co/(Sn+Co)比を24質量%以上70質量%以下の範囲内で変化させ、すなわち原料比を実験例4−1〜4−11と同様にしたことを除き、他は実験例16−1〜16−7と同様にして負極活物質および二次電池を作製した。なお、実験例19−1〜19−11に対する比較例19−1〜19−3として、表20に示したように、Co/(Sn+Co)比をそれぞれ75質量%、20質量%および16質量%とし、すなわち原料比を比較例4−1〜4−3と同様にしたことを除き、他は実験例19−1〜19−11と同様にして負極活物質および二次電池を作製した。
【0180】
【表20】

【0181】
実験例17−1〜17−11,18−1〜18−11,19−1〜19−11および比較例17−1〜17−3,18−1〜18−3,19−1〜19−3の二次電池についても、実験例16−1〜16−7と同様にして初回充電容量および容量維持率を調べた。それらの結果を表18〜表20および図18〜図20に示す。
【0182】
表18〜表20および図18〜図20から分かるように、実験例2−1〜2−11,3−1〜3−11,4−1〜4−11と同様の結果が得られた。すなわち、Co/(Sn+Co)比を24質量%以上70質量%以下とすればゲル状の電解質を用いた場合においても容量およびサイクル特性を向上させることができると共に、Co/(Sn+Co)比を60質量%以下とすればより好ましいことが分かった。
【0183】
(実験例20−1〜20−5)
表21に示したように、炭素の原料比を20質量%、Co/(Sn+Co)比を37質量%でそれぞれ一定とし、リンの原料比を0.1質量%以上2.2質量%以下の範囲内で変化させ、すなわち原料比を実験例5−1〜5−5と同様にしたことを除き、他は実験例16−1〜16−7と同様にして負極活物質および二次電池を作製した。また、実験例20−1〜20−5に対する比較例20−1〜20−3として、表21に示したように、リンの原料比をそれぞれ0質量%、3質量%および5質量%とし、すなわち原料比を比較例5−1〜5−3と同様にしたことを除き、他は実験例20−1〜20−5と同様にして負極活物質および二次電池を作製した。
【0184】
【表21】

【0185】
実験例20−1〜20−5および比較例20−1〜20−3の二次電池についても、実験例5−1〜5−5と同様にして初回充電容量、初回充放電効率および容量維持率を調べた。それらの結果を表21、図21および図22に示す。
【0186】
表21、図21および図22から分かるように、実験例5−1〜5−5と同様の結果が得られた。すなわち、リンの含有量を0.1質量%以上2.2質量%以下の範囲内とすれば容量およびサイクル特性と共に初回充放電効率も向上させることができると共に、0.5質量%以上2質量%以下の範囲内とすればより好ましいことが分かった。
【0187】
(実験例21−1〜21−11)
表22に示したように、炭素の原料比を20質量%、リンの原料比を1.5質量%でそれぞれ一定とし、ケイ素の原料比を0.3質量%以上10質量%以下の範囲内で変化させ、すなわち原料比を実験例8−1〜8−11と同様にしたことを除き、他は実験例16−1〜16−7と同様にして負極活物質および二次電池を作製した。
【0188】
実験例21−1〜21−11の二次電池についても、実験例16−1〜16−7と同様にして初回充電容量および容量維持率を調べた。それらの結果を表23に示す。
【0189】
【表22】

【0190】
【表23】

【0191】
表22および表23から分かるように、実験例8−1〜8−11と同様の結果が得られた。すなわち、負極活物質にケイ素を含有するようにすればゲル状の電解質を用いた場合においても容量を向上させることができると共に、その含有量は0.5質量%以上7.9質量%以下の範囲内が好ましいことが分かった。
【0192】
(実験例22−1〜22−12)
表24に示したように、炭素の原料比を20質量%、リンの原料比を1.5質量%でそれぞれ一定とし、チタンの原料比を0質量%以上16質量%以下の範囲内で変化させ、すなわち原料比を実験例9−1〜9−12と同様にしたことを除き、他は実験例16−1〜16−7と同様にして負極活物質および二次電池を作製した。
【0193】
【表24】

【0194】
実験例22−1〜22−12の二次電池についても、実験例16−1〜16−7と同様にして初回充電容量および容量維持率を調べた。それらの結果を表24および図23に示す。
【0195】
表24および図23から分かるように、実験例9−1〜9−12と同様の結果が得られた。すなわち、ゲル状の電解質を用いた場合においても負極活物質にチタンを14.9質量%以下の範囲内で含むようにすればサイクル特性をより向上させることができると共に、1.5質量%以上とすればより好ましく、特に2.8質量%以上12.9質量%以下の範囲内とすれば更に好ましいことが分かった。
【0196】
(実験例23−1〜23−3)
電解液の溶媒にFECを加えたことを除き、他は実験例16−5と同様にして負極活物質および二次電池を作製した。この際、混合溶媒の組成を質量比でそれぞれFEC:EC:PC=1:10.5:11.5、5:6.5:11.5および10:1.5:11.5とした。
【0197】
実験例23−1〜23−3の二次電池についても、実験例16〜16−7と同様にして容量維持率を調べた。それらの結果を表25に示す。
【0198】
【表25】

【0199】
表25から分かるように、溶媒にFECを加えた実験例23−1〜23−3では、それを加えなかった実験例16−5よりも容量維持率が向上した。すなわち、溶媒にハロゲン原子を有する環状の炭酸エステルを含むようにすれば、ゲル状の電解質を用いた場合においてもサイクル特性をより向上させることができることが分かった。
【0200】
表1〜表25、図8および図10〜図23に示した結果から明らかなように、電池構造(円筒型あるいはラミネートフィルム型)や電解質の種類(液状あるいはゲル状)に関係なく、負極活物質が構成元素としてスズ、コバルト、炭素およびリンを含み、炭素の含有量が9.9質量%以上29.7質量%以下、リンの含有量が0.1質量%以上2.2質量%以下、スズとコバルトとの合計に対するコバルトの割合が24質量%以上70質量%以下であれば、容量、サイクル特性および初回充放電効率が向上することが確認された。
【0201】
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記した実施の形態および実施例において説明した態様に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、上記した実施の形態および実施例では、二次電池の種類として、負極の容量がリチウムの吸蔵および放出に基づく容量成分により表されるリチウムイオン二次電池について説明したが、必ずしもそれに限られるものではない。本発明の二次電池は、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料の充電容量を正極の充電容量よりも小さくすることにより、負極の容量がリチウムの吸蔵および放出に基づく容量成分とリチウムの析出および溶解に基づく容量成分とを含み、かつ、それらの容量成分の和により表される二次電池についても同様に適用可能である。
【0202】
また、上記した実施の形態および実施例では、電池構造が円筒型、ラミネートフィルム型、シート型あるいはコイン型である場合や、素子構造が巻回構造である電池を具体的に挙げて説明したが、本発明の二次電池は、ボタン型あるいは角型などの外装部材を用いた他の電池構造を有する二次電池や、正極および負極を複数積層した積層構造などの他の素子構造を有する電池についても同様に適用することができる。
【0203】
また、上記した実施の形態および実施例では、電極反応物質としてリチウムを用いる場合について説明したが、負極活物質と反応可能であれば、ナトリウム(Na)あるいはカリウム(K)などの長周期型周期表における他の1族の元素や、マグネシウムあるいはカルシウム(Ca)などの長周期型周期表における2族の元素や、アルミニウムなどの他の軽金属、またはリチウムあるいはそれらの合金を用いる場合についても、本発明を適用することができ、同様の効果を得ることができる。
【0204】
また、上記した実施の形態および実施例では、本発明の負極活物質および二次電池における炭素の含有量について、実施例の結果から導き出された適正範囲を説明しているが、その説明は、含有量が上記した範囲外となる可能性を完全に否定するものではない。すなわち、上記した適正範囲は、あくまで本発明の効果を得る上で特に好ましい範囲であり、本発明の効果が得られるのであれば、含有量が上記した範囲から多少外れてもよい。このことは、上記した炭素の含有量に限らず、リンの含有量、鉄の含有量、スズとコバルトとの合計に対するコバルトの割合、ケイ素の含有量、インジウム等の含有量などの他の数値範囲についても同様である。
【符号の説明】
【0205】
11…電池缶、12,13…絶縁板、14…電池蓋、15…安全弁機構、15A…ディスク板、16…熱感抵抗素子、17,66…ガスケット、20,30…巻回電極体、21,33,52…正極、21A,33A,52A…正極集電体、21B,33B,52B…正極活物質層、22,34,54…負極、22A,34A,54A…負極集電体、22B,34B,54B…負極活物質層、23,35,65…セパレータ、24…センターピン、25,31,51…正極リード、26,32,53…負極リード、36,55…電解質層、37…保護テープ、40,56…外装部材、41…密着フィルム、50…電極体、61…試験極、62…正極缶、63…対極、64…負極缶。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成元素として、スズ(Sn)と、コバルト(Co)と、炭素(C)と、リン(P)とを少なくとも含み、
炭素の含有量は9.9質量%以上29.7質量%以下であり、リンの含有量は0.1質量%以上2.2質量%以下であり、スズとコバルトとの合計に対するコバルトの割合は24質量%以上70質量%以下であると共に、
更に、構成元素として、インジウム(In)、ニオブ(Nb)、ゲルマニウム(Ge)、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)、ガリウム(Ga)およびビスマス(Bi)からなる群のうちの少なくとも1種を、14.9質量%以下の範囲内で含む、
負極活物質。
【請求項2】
X線光電子分析法により284.5eVよりも低い領域に前記炭素の1sピークが得られる、請求項1記載の負極活物質。
【請求項3】
リチウム(Li)と反応可能であり、X線回折により得られる回折ピークの半値幅が1°以上である反応相を有する、請求項1記載の負極活物質。
【請求項4】
更に、構成元素として、ケイ素(Si)を含む、請求項1記載の負極活物質。
【請求項5】
前記ケイ素の含有量は、0.5質量%以上7.9質量%以下である、請求項4記載の負極活物質。
【請求項6】
前記インジウム、ニオブ、ゲルマニウム、チタン、モリブデン、ガリウムおよびビスマスからなる群のうちの少なくとも1種を、1.5質量%以上含む、請求項1記載の負極活物質。
【請求項7】
更に、ケイ素を0.5質量%以上7.9質量%以下の範囲内で含むと共に、インジウム、ニオブ、ゲルマニウム、チタン、モリブデン、ガリウムおよびビスマスからなる群のうちの少なくとも1種を、1.5質量%以上14.9質量%以下の範囲内で含む、請求項1記載の負極活物質。
【請求項8】
正極および負極と共に電解質を備え、
前記負極は、構成元素としてスズと、コバルトと、炭素と、リンとを少なくとも含む負極活物質を含有し、
前記負極活物質における炭素の含有量は9.9質量%以上29.7質量%以下であり、リンの含有量は0.1質量%以上2.2質量%以下であり、スズとコバルトとの合計に対するコバルトの割合は24質量%以上70質量%以下であると共に、
前記負極活物質は、更に、構成元素として、インジウム、ニオブ、ゲルマニウム、チタン、モリブデン、ガリウムおよびビスマスからなる群のうちの少なくとも1種を、14.9質量%以下の範囲内で含む、
二次電池。
【請求項9】
前記負極活物質は、X線光電子分析法により284.5eVよりも低い領域に前記炭素の1sピークが得られる、請求項8記載の二次電池。
【請求項10】
前記負極活物質は、リチウムと反応可能であり、X線回折により得られる回折ピークの半値幅が1°以上である反応相を有する、請求項8記載の二次電池。
【請求項11】
前記負極活物質は、更に、構成元素としてケイ素を含む、請求項8記載の二次電池。
【請求項12】
前記負極活物質におけるケイ素の含有量は、0.5質量%以上7.9質量%以下である、請求項11記載の二次電池。
【請求項13】
前記負極活物質は、前記インジウム、ニオブ、ゲルマニウム、チタン、モリブデン、ガリウムおよびビスマスからなる群のうちの少なくとも1種を、1.5質量%以上含む、請求項8記載の二次電池。
【請求項14】
前記負極活物質は、更に、ケイ素を0.5質量%以上7.9質量%以下の範囲内で含むと共に、インジウム、ニオブ、ゲルマニウム、チタン、モリブデン、ガリウムおよびビスマスからなる群のうちの少なくとも1種を、1.5質量%以上14.9質量%以下の範囲内で含む、請求項8記載の二次電池。
【請求項15】
前記電解質は、ハロゲン原子を有する環状の炭酸エステル誘導体を含有する、請求項8記載の二次電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate


【公開番号】特開2010−50109(P2010−50109A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−273719(P2009−273719)
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【分割の表示】特願2007−29668(P2007−29668)の分割
【原出願日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】