説明

負電荷酸素原子を包接する物質およびその製造方法

【課題】 比較的低い温度で負電荷酸素原子を放出する物質を提供する。
【解決手段】 負電荷酸素原子を包接する物質において、負電荷酸素原子を1×1019個/cm3 以上含有し、カルシウムアルミネートが少なくとも1種の希土類元素を固溶し、粉末X線回折測定法による格子定数が1.1985〜1.2010nmの12CaO・7Al23を80体積%以上含んだ負電荷酸素原子を包接する物質。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性酸素種であるO2-やO- で表される負電荷酸素原子を高濃度に含むカルシウムアルミネート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
負電荷酸素原子は、活性酸素の1種であり、有機物や無機物の酸化過程で重要な役割を果たすことが知られており、半導体プロセスにおける酸化剤、ディーゼルエンジン排気ガス中の粒子状物質(PM)燃焼触媒、焼却灰除害触媒、排煙脱硝触媒、ダイオキシン分解触媒、酸化カップリング反応触媒、その他各種酸化触媒、あるいは排気ガス浄化触媒、環境浄化触媒、揮発性有機物質(VOC)等を除去する空気清浄剤、抗菌剤、防黴剤、防虫剤、脱臭剤、除藻剤、コケ抑制剤などの用途展開が期待されている。
【0003】
ある種の化合物には、有機物の酸化過程において有用な作用をする活性酸素種であるO2-イオンラジカル、O- イオンラジカルを包接する化合物が知られている。なかでもカルシウムとアルミニウムから合成された、12CaO・7Al23 結晶(以下、C12A7とも称す)は、結晶中にO2-が包接されていることが知られている。
【0004】
特に、所定の焼成温度において酸化カルシム、酸化アルミニウムの原料物質を焼成した場合には、1020cm-3以上の高濃度でO2-イオンラジカル、O- イオンラジカルを包接したものが得られることが提案されている(例えば、特許文献1)。
【0005】
C12A7を用いた負電荷酸素原子製造においては、電界の印加によって極めて効率的に負電荷酸素原子の製造が可能であるが、C12A7を産業上利用する場合、更に解決すべき課題がある。
すなわち、高濃度の負電荷酸素原を含有するC12A7を、酸化促進材や殺菌材等の用途に適用する場合に、C12A7を700℃以上の高温度での保持が必要となる。
高温度では装置材料も限られ、またC12A7の焼成体あるいはそれを保持する部材等に対する熱的な衝撃も大きなものとなる。よって、より低温度での負電荷酸素原子製造装置が求められていた。
【0006】
このため、C12A7に比べて負電荷酸素原子の放出温度を低下させる試みがなされており、例えば、カルシウムよりもイオン半径が大きいストロンチウム(Sr)を含む12SrO・7Al23、またはこれとC127 の混晶化合物である12(CaXSr1-X)O・7Al23(0<X<1)に活性酸素種を包接させた化合物の適用が検討され、これらがC12A7よりも結晶格子定数が大きく、包接された活性酸素種をC12A7よりも低温で放出できることが報告されている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2002−3218号公報
【特許文献2】特開2003−238149号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記した特許文献2の記載によれば、12SrO・7Al23は、1050℃以上を超えると化合物が分解し、また包接した活性酸素種の濃度が1018cm-3以上のものを製造するためには、100℃/秒という冷却速度で急冷する必要があり、工業的生産に適するものではない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記課題をC12A7に希土類元素を固溶させることによって解決できることを見出したものである。
すなわち、負電荷酸素原子を包接する物質において、負電荷酸素原子を1×1019個/cm3 以上含有し、カルシウムアルミネートが少なくとも1種の希土類元素を固溶し、粉末X線回折測定法による格子定数が1.1985〜1.2010nmの12CaO・7Al23を80体積%以上含んでなる負電荷酸素原子を包接する物質である。
また、希土類元素がイットリウムまたはランタノイドである前記の負電荷酸素原子を包接する物質である。
希土類元素が、ランタン、セリウム、ユウロピウム、イッテルビウムの少なくともいずれか1種である前記の負電荷酸素原子を包接する物質である。
【0009】
また、負電荷酸素原子を包接する物質の製造方法において、酸素含有雰囲気において焼成した際に、それぞれの酸化物を形成するカルシウム化合物、アルミニウム化合物及び希土類化合物を、カルシウム(Ca)、アルミニウム(Al)及び希土類元素(R)のモル比を、(Ca,Al,R)の三角座標で表した際に(0.54,0.45,0.01)、(0.37,0.62,0.01)、(0.28,0.47,0.25)及び(0.41,0.34,0.25)の4点で囲まれる領域に入るように混合後、酸素分圧4×104 Pa以上の雰囲気で加熱する負電荷酸素原子を包接する物質の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の負電荷酸素原子を包接する物質は、粉末X線回折法による結晶格子定数が、従来の活性酸素種を包接するC12A7に比べて大きいことを特徴としている。すなわちC12A7は1.1981〜1.1982nmであるのに対し、希土類元素の固溶によって1.1985〜1.2010nmと大きい。このため、C12A7よりも低温で活性酸素原子を放出することができるものとみられる。
【0011】
また、本発明の負電荷酸素原子を包接する物質は、C12A7よりも低温で活性酸素原子を放出することができるものとして提案されている12SrO・7Al23、もしくは12(CaXSr1-X)O・7Al23とは異なり、製造工程において急冷が不要であって商業的な生産も容易であると共に、包接する酸素原子濃度も大きなものであって、比較的低い温度において高濃度の活性酸素原子を放出するので、半導体プロセスにおける酸化剤の製造、酸素が関与する反応の酸化剤あるいは触媒、空気清浄剤、抗菌剤、防黴剤、防虫剤、脱臭剤、除藻剤、コケ抑制剤などへの適用が期待されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、負電荷酸素原子の包接化合物として知られている12CaO・7Al23 は、負電荷酸素原子が結晶中のケージ内の空間の存在と関係があるものと考えられていることに着目し、12CaO・7Al23と固溶する物質を導入することにより12CaO・7Al23の基本的な構造を維持した状態で、格子定数を大きくすることにより、高濃度の負電荷酸素原子の包接と12CaO・7Al23に比べて低温度での負電荷酸素原子の放出が可能であることを見出したものである。
【0013】
そして、実験等を行い確認したところ、12CaO・7Al23に対しては、希土類元素の固溶すると格子定数が大きくなるとともに、低温度での負電荷酸素原子の放出を実現する物質であることを見出したものである。
希土類元素の固溶が有効な理由は、イットリウム、ランタン、セリウム等の希土類元素は酸化物結晶中においては、カルシウムアルミネートの構成成分であるアルミニウムと同様に3価として作用し、カルシウムアルミネートのアルミニウムの位置に置換固溶しやすいためであると推察される。
【0014】
なお、希土類元素のうちセリウムは、大気中等の酸素分圧が高い環境下においては3価よりも4価のほうが相対的に安定であるため、酸化物としては4価の酸化セリウム(IV)(CeO2 )が一般的であるが、C12A7結晶格子内においてAlに置換固溶する場合は、他の希土類元素と同様に固溶するものと推察される。
【0015】
一方、固溶する希土類元素を希土類酸化物等の形態で配合量を増加すると、カルシウムアルミネートのうち、12CaO・7Al23として存在しているものの量が相対的に低下し、3CaO・Al23(C3A)、CaO・Al23(CA)、CaO・2Al23(CA2)、CaO・6Al23(CA6)などの鉱物相も生じるが、これらの物質は高濃度の負電荷酸素原子を包接する性質を有さないので、C12A7以外の物質の量が相対的に多くなると、包接される負電荷酸素原子の濃度が小さくなるのでC12A7を80体積%以上含むものとすることが好ましい。
C12A7を80体積%以上含むものとするためには、配合する原料中に含まれるカルシウムとアルミニウムのモル比を、0.6:1〜1.2:1とすることが好ましい。
【0016】
本発明のカルシウムアルミネートは、種々の原料から得ることができるが、カルシウム源の物質としては、酸化カルシウム等の酸化物、もしくは酸素雰囲気中で焼成することによって酸化カルシウムを生成する各種の化合物を挙げることができる。水酸化カルシウムまたは炭酸カルシウム等が挙げられる。
またアルミニウム源の物質としては、酸化アルミニウム等の酸化物、もしくは酸素雰囲気中において焼成することによって酸化アルミニウムを生成する物質、例えば、水酸化アルミニウム、ボーキサイトまたはアルミ残灰などが挙げられる。
【0017】
また、本発明におけるカルシウムアルミネートに固溶する希土類元素は、周期律表における3A族遷移元素のうち、第4〜第6周期に属する元素であり、具体的にはスカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)及びランタン(La)からルテチウム(Lu)までの15種類のランタノイドからなる、17種類の元素を意味するが、これらのなかでも、ランタン、セリウム、ユウロピウム、イッテルビウムの少なくともいずれか一種が好ましく、これらの酸化物あるいは酸素雰囲気中で焼成した際に酸化物を生成する水酸化物、炭酸塩等が好ましい。
【0018】
また、本発明の負電荷酸素原子を包接する物質は、希土類元素をカルシウムアルミネートに固溶したものであって、粉末X線回折法によって測定した格子定数が1.1985〜1.2010nmのC12A7であって、希土類元素を固溶しないC12A7の格子定数が1.1982nmであるのに対し、これよりも大きく、負電荷酸素原子を包接するケージの大きさが大きくなったいるものとみられる。本発明のC12A7の格子定数が大きいのは、アルミニウムの位置に置換固溶した希土類元素がアルミニウムよりも大きなイオン半径を有しており、置換固溶することによって結晶格子が膨張するためであると推察される。
【0019】
C12A7の結晶格子を大きくする希土類元素は、イオン半径が大きなものが好ましく、ランタノイドが好ましい。さらにはランタノイドの中でもイオン半径が大きくしかも入手が容易なランタン又はセリウムが特に好ましい。これらの希土類元素は一種類のみを用いてもよいし、二種類以上を同時に用いてもよい。
【0020】
本発明の物質における希土類元素(R)の含有量は、カルシウム(Ca)、カルシウム(Ca)、アルミニウム(Al)及び希土類元素(R)のモル比を、(Ca,Al,R)の三角座標で表した図1に示す三成分組成図において、(0.54,0.45,0.01)、(0.37,0.62,0.01)、(0.28,0.47,0.25)及び(0.41,0.34,0.25)の4点で囲まれる領域に入るように混合後、酸素分圧4×104 Pa以上の雰囲気で焼成したものが好ましい。
【0021】
希土類元素のモル比が0.01よりも小さいと、粉末X線回折法による格子定数が、希土類元素を固溶していないC12A7と大差がなくなり、希土類元素を添加した効果が充分なものとはならないので好ましくない。
またモル比を0.25より大きくしても、希土類元素添加の実質的な効果は増大せず、本発明の負電荷酸素原子を包接する物質中のC12A7の割合が少なくなるために包接する負電荷酸素原子の濃度が小さくなくなるので好ましくない。
【0022】
本発明の負電荷酸素原子を包接する物質は、原料を所定の割合で混合後、酸素分圧4×104Pa 以上の雰囲気及び温度を制御した条件下で加熱し、所定の温度において一定の時間保持して直接固相反応させることによって、あるいは固相反応後に酸素分圧4×104Pa 以上の雰囲気及び温度を制御した条件下で加熱し、所定の温度で一定の時間保持することによって、負電荷酸素原子を1×1019個/cm3 以上の高濃度で包接するカルシウムアルミネートを含む物質が得られる。
また、加熱温度や所定の温度で保持する時間は原料化合物の種類、希土類元素の種類や、原料の形態等によって異なるが、加熱温度は1000〜1400℃が好ましく、更に1100〜1300℃が好ましい。また、保持時間は1〜3時間が好ましい。
【0023】
加熱焼成する原料の形態は、混合粉末のままでもよいが、金型プレス成形、冷間静水圧プレス成形、鋳込み成形、押出し成形またはドクターブレード成形等の各種成形法によって混合粉末を成形した後、上記と同様の条件で加熱して所定の時間を保持し焼結体、シート、膜等として用いてもよい。
【0024】
加熱と所定の時間の保持によって得られた物質は、その後粉末X線回折法によって、C12A7の格子定数測定及びC12A7を含む割合が同定される。C12A7の格子定数は、物質を粉砕後、内部標準としてシリコン粉末を添加した試料を用いた精密化測定によってなされる。
C12A7を含む割合は、通常の粉末X線回折測定における他のC3A、CA、CA2、CA6等のカルシウムアルミネートとの回折ピークの強度比から求められる。
【0025】
本発明の物質は、加熱保持後に粉砕を行い粉末として使用してもよい。粉砕機としては、スタンプミル、トップグラインダー、ジョークラッシャー、ロールクラッシャー等の粗粉砕機や、粉砕ボール等の粉砕メディアを用いて粉砕するボールミル、振動ミル、アトリッションミル等の微粉砕機を用いることができる。粉砕メディアを用いる場合は乾式で粉砕してもよいが、さらに微粉にする場合は液体マトリックスを用いた湿式粉砕を行ってもよい。この時用いる液体として、メタノール、エタノール、ヘキサン、メチルエチルケトンまたはアセトン等の有機溶剤、特に低粘度であり微粉が得やすいアセトンが好ましい。水はC12A7と反応するため適さない。
【0026】
本発明の物質は、種々の形状を有する成形体として使用してもよい。成形体は、例えば原料の混合粉末または上記で得た本発明の物質からなる粉末からグリーン成形体を作製した後、雰囲気及び温度を制御した条件下で加熱し、所定の温度に保持して作製することができる。
酸素分圧4×104Pa 以上の雰囲気及び温度を制御した条件下で加熱して、所定の温度に保持して作製することができる。加熱温度や保持時間は原料化合物の種類、希土類元素の種類や、原料の形態等によって異なるが、加熱温度は1000〜1400℃が好ましく、さらに1100〜1300℃が好ましい。そして、これらの温度における保持時間は1〜5時間、さらに2〜3時間が好ましい。
【0027】
塊状、筒状、容器状等の自立型の成形体を作製する場合、グリーン成形体は粉末をそのままプレス成形機や冷間静水圧プレス(CIP)機を用いて作製しても良いが、グリーン成形体に強度を付与して取り扱いやすくするため、バインダーを配合しても良い。バインダーとしては、ポリビニルアルコール、ニトロセルロース、ポリアクリル酸エステル、ポリビニルブチラール、ポリメタクリル酸エステルあるいはエチルセルロース、メチルセルロース等の粉体とは反応せず、また酸素雰囲気における焼成によって分解する物質が用いられる。
【0028】
これらのバインダーは、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のセロソルブ類、n−へキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類、トルエン、キシレン等の芳香族類等の有機溶剤、あるいは水に混合した溶液として用いられる。
【0029】
また、自立型でも複雑な形状のグリーン成形体を作製する際には、上記有機溶剤や水の量を増やした、粘土状やスラリー状の成形用原料を用いると良い。特にハニカム構造のグリーン成形体は、粘土状原料を用い押し出し法によって成形すると良いし、筒状や容器状でも複雑形状のグリーン成形体は、スラリー状原料を用い鋳込み成形法によって成形すると良い。さらに膜状のグリーン成形体はスラリー状の原料を用い、ディップコート法、ドクターブレード法等によって基材に塗布する形で成形すると良い。
【0030】
これらのグリーン成形体の加熱雰囲気は酸素分圧4×104Pa 以上であり、加熱温度や保持時間は原料化合物の種類、希土類元素の種類や、原料の形態等によって異なるが、加熱温度としては1000〜1400℃が好ましく、さらに1100〜1300℃が好ましい。一方保持時間としては1〜5時間、さらに2〜3時間が好ましい。
【0031】
また、膜状成形体の場合は上記の他に本発明の物質からなる粉末を、プラズマ溶射、フレーム溶射、爆発溶射あるいはレーザー溶射等の溶射法によって、基材上に直接噴霧して成膜させる方法も有効である。この場合、膜の均一性や膜と基材の密着性が良好であり、安全性や経済性にも優れたプラズマ溶射法が特に好ましい。
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に説明する。
【実施例1】
【0032】
炭酸カルシウム粉末(関東化学製、特級試薬)、酸化アルミニウム粉末(大明化学工業製、TM−DAR)及び酸化セリウム(IV)粉末(信越化学工業製)を、カルシウム、アルミニウム及びセリウムのモル比が0.46:0.51:0.03になるように、乾式ボールミルを用いて混合した。
混合粉末を、金型成形機を用いて30MPaの圧力を加えて、幅51mm、奥行36mm、高さ10mmの直方体状のグリーン成形体とした。
【0033】
これを酸素分圧9×104Pa の雰囲気中、1250℃に加熱して2時間保持して反応させ、得られた成形体を乳鉢を用いて粉砕し粉末とし、試料1を得た。試料1の25℃及び77KでのESRスペクトルを測定し、それぞれの吸収バンドの強度から O-イオンラジカルすなわち負電荷酸素原子及びO2-イオンラジカルの濃度を求めたところ、それぞれ6×1020個/cm3であった。
【0034】
また、粉末X線回折装置(マック・サイエンス製MXP3)を用い、X線源:Cu−Kα線、管電圧:40kV、管電流:30mA、発散スリット:1deg、散乱スリット:1deg、受光スリット:0.15mm、ステップ:0.02゜、計数時間:1sec、走査範囲:10゜〜100゜の条件で、シリコン粉末試料(NIST製 X線回折用標準試料SRM640c)を標準試料にして測定し、回折角に対するX線の強度を測定するとともに解析プログラム(マック・サイエンス製 :XPRESS)を用いて格子定数等を求めた。
【0035】
X線回折結果からは、カルシウムアルミネートのピークがみられ、セリウムが固溶していることが確認できた。
また、得られた物質の格子定数は1.1997nmであった。粉末X線回折測定における回折ピークの強度比に基づいて測定したところ、その体積の85%が12CaO・7Al23であった。
【実施例2】
【0036】
(試料2〜5の調製と測定)
実施例1の酸化セリウム(IV)に代えて、希土類酸化物を酸化ランタン(La23)を用いた試料2、酸化イットリウム(Y23)を用いた試料3、酸化ユウロピウム(Eu23)を用いた試料4、および酸化イッテルビウム(Yb23)(いずれも信越化学工業製)を用いた試料5を、それぞれの希土類酸化物が異なる点を除き実施例1と同様にして、カルシウム、アルミニウム及び希土類を含んだ焼成体の粉末を調製し、得られた試料2〜試料5について実施例1と同様にして負電荷酸素原子、X線回折測定を行い、得られた結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

【実施例3】
【0038】
実施例1における試料1とは、カルシウム、アルミニウム及びセリウムのモル比を0.37:0.52:0.11となるように、炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、および酸化セリウムの配合割合を変えた点を除き実施例1と同様にして混合した粉末を30MPaの圧力を加えて、直径15mm、厚さ4mmのグリーン成形体とした。
得られた成形体を酸素分圧8×104 Paの雰囲気中で、1350℃において2時間加熱し、粉砕して粉末として試料6を得た。
試料6について実施例1と同様に負電荷酸素原子濃度、カルシウムアルミネートの存否、カルシウムアルミネート中のC12A7含有率及びC12A7格子定数の測定を行い、結果を表1に示した。
【実施例4】
【0039】
カルシウム、アルミニウム及びランタンのモル比が0.33:0.45:0.22とした試料7、および0.45:0.40:0.15とした試料8を、実施例3と同様にして調製し、実施例1と同様にして、負電荷酸素原子濃度、カルシウムアルミネートの存否、カルシウムアルミネート中のC12A7含有率及びC12A7格子定数の測定を行い、結果を表1に示した。
【0040】
比較例1
カルシウム、アルミニウム及びセリウムのモル比を0.50:0.41:0.09となるように、炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、および酸化セリウムの配合割合を変えた点を除き実施例3と同様にして粉末状態の比較試料1を調製し、実施例1と同様にして負電荷酸素原子濃度を測定したところ、5×1018個/cm3 であった。
また、粉末X線回折によって、この粉末がカルシウムアルミネートを含むことを確認したが、回折線の強度から求めたカルシウムアルミネート中のC12A7含有率は20%であり、その格子定数は1.1982nmであった。これらの結果を表1に示した。
【0041】
比較例2
カルシウム、アルミニウム及びセリウムのモル比を0.32:0.58:0.10となるように、炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、および酸化セリウムの配合割合を変えた点を除き比較例1と同様にして粉末状態の比較試料2を調製し、実施例1と同様に負電荷酸素原子濃度、カルシウムアルミネートの存否、カルシウムアルミネート中のC12A7含有率及びC12A7格子定数の測定を行い、結果を表1に示した。
【0042】
比較例3
酸化セリウム(IV)に代えて酸化ランタン粉末を用い、カルシウム、アルミニウム及びランタンのモル比を0.34:0.40:0.26になるようにした以外は、比較例1と同様にして粉末状態の比較試料3を調製し、粉末の負電荷酸素原子濃度、カルシウムアルミネートの存否、カルシウムアルミネート中のC12A7含有率及びC12A7格子定数の測定を行い、結果を表1に示した。
【実施例5】
【0043】
試料6と同様の組成、すなわちカルシウム、アルミニウム及びセリウムのモル比を0.37:0.52:0.11となるように、炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、および酸化セリウムの配合割合を変えた点を除き実施例1と同様にして混合した粉末を30MPaの圧力を加えて、直径15mm、厚さ4mmのグリーン成形体とした。
得られた成形体を酸素分圧8×104 Paの雰囲気中で、1350℃において2時間加熱して、直径14mm、厚さ3.5mmの成形体を得た。成形体の一方の円盤面に、白金ペースト(フルヤ金属製、#8103)を塗布後、酸素分圧9×104 Paの雰囲気中、加熱して1250℃で2時間保持して白金ペーストを焼き付けて白金電極が形成して電極付成形体を作製した。
【0044】
得られた電極付成形体を試験装置の保持部に装着し、電極付成形体の電極を形成していない面から50mmの間隔を設けて、電極付成形体の平板面と平行に直径50mm×厚さ0.2mmのタングステン製電極を配置し、試験装置内を1.3×10-4Paの圧力に保持し、白金電極を負極、タングステン電極を正極として、1000Vの直流電圧を印加した後、成形体を徐々に加熱したところ、600℃において成形体からの負電荷酸素原子の放出によるものとみられる両極間を流れる電流が急増した。
【0045】
比較例4
比較試料1と同様の組成、すなわちカルシウム、アルミニウム及びセリウムのモル比を0.50:0.41:0.09となるように、炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、および酸化セリウムの配合した粉末を30MPaの圧力を加えて、直径15mm、厚さ4mmのグリーン成形体とした。
得られた成形体を実施例5と同様にして電極付成形体を作製して、電流の変化を測定したところ、700℃において成形体からの負電荷酸素原子の放出によるものとみられる両極間を流れる電流が急増した。
【0046】
比較例5
5×1020個/cm3 の負電荷酸素原子を含み、格子定数が1.1981nmである直径13.5mm、厚さ3.3mmの12CaO・7Al23成形体を用いた点を除き、実施例5と同様にして電極付成形体を作製して、電流の変化を測定したところ、700℃において成形体からの負電荷酸素原子の放出によるものとみられる両極間を流れる電流が急増した。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の負電荷酸素原子を包接するカルシウムアルミニウムネートは、負電荷酸素原子を1×1019個/cm3 以上含有し、12CaO・7Al23で表されるカルシウムアルミネートに少なくとも1種の希土類元素を固溶したものであって、格子定数が12CaO・7Al23よりも大きいために負電荷酸素原子を従来のものよりも低温度で放出することができる。
また、12CaO・7Al23中の酸化カルシウムの少なくとも一部分を酸化ストロンチウムに置換した負電荷酸素原子を包接する物質のように急冷等の特殊な製造方法は不要であるので、商業的生産にも好適であって、負電荷酸素原子による酸化作用を利用する各種の用途に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の負電荷酸素原子を包接する物質における実施例、比較例のカルシウム(Ca)、アルミニウム(Al)及び希土類元素(R)のモル比を説明する三成分組成図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負電荷酸素原子を包接する物質において、負電荷酸素原子を1×1019個/cm3 以上含有し、カルシウムアルミネートが少なくとも1種の希土類元素を固溶し、粉末X線回折測定法による格子定数が1.1985〜1.2010nmの12CaO・7Al23を80体積%以上含んでなることを特徴とする負電荷酸素原子を包接する物質。
【請求項2】
希土類元素がイットリウムまたはランタノイドであることを特徴とする請求項1記載の負電荷酸素原子を包接する物質。
【請求項3】
希土類元素が、ランタン、セリウム、ユウロピウム、イッテルビウムの少なくともいずれか1種であることを特徴とする請求項1または2記載の負電荷酸素原子を包接する物質。
【請求項4】
負電荷酸素原子を包接する物質の製造方法において、酸素含有雰囲気において焼成した際に、それぞれの酸化物を形成するカルシウム化合物、アルミニウム化合物及び希土類化合物を、カルシウム(Ca)、アルミニウム(Al)及び希土類元素(R)のモル比を、(Ca,Al,R)の三角座標で表した際に(0.54,0.45,0.01)、(0.37,0.62,0.01)、(0.28,0.47,0.25)及び(0.41,0.34,0.25)の4点で囲まれる領域に入るように混合後、酸素分圧4×104 Pa以上の雰囲気で加熱することを特徴とする負電荷酸素原子を包接する物質の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−31248(P2007−31248A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−220843(P2005−220843)
【出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【出願人】(503210740)株式会社Oxy Japan (12)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】