説明

貴金属回収装置及び回収方法

【課題】貴金属を含む廃液から電解法により貴金属を回収するための回収装置であって、電流異常による析出量や析出粒子のばらつきや、電流集中に由来する貴金属の異常析出による短絡不良を抑制し、均一な貴金属を安定的に析出させることに優れる回収装置および回収方法を提供する。
【解決手段】電解槽を構成する円筒状の金属製容器の内周に沿って配置される筒状のエキスパンダ陰極と、前記パイプ状陽極の外周に沿って配置される筒状のエキスパンダ陽極と、を備える貴金属回収装置であって、前記エキスパンダ陰極の上部は前記金属製容器の上肩部と断面逆L字形に接続固定されており、エキスパンダ陰極の下部は前記金属製容器の底部と接続固定されており、前記エキスパンダ陽極の両端は前記パイプ状陽極と断面コの字形に接続固定されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貴金属を含む廃液から貴金属を電解法により回収するための回収装置及び回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、貴金属めっき液といった各種廃液中に残留する貴金属を回収する手段として、電解(還元)法が一般的に用いられている。この電解法による貴金属回収装置では、電解槽中に廃液を導入し、これに不溶性陽極及び陰極を浸漬させて通電することで液中の金属イオンを還元析出させるものである。
【0003】
貴金属回収装置の態様の一つとして、図3に記載する円筒状容器17(電解槽)を用いるものがある(特許文献1参照)。この回収装置2では、円筒状容器17と、その中心部に設けられる陽極11と、容器内周に沿って配置される円筒状陰極16とからなる。そして、貴金属回収において、廃液を容器下部の注入口から導入し、これを陽極11と円筒状陰極16とにより電解しつつ、陽極の開口より排出口を通って出るようになっている。そして、かかる工程により、陰極16の表面には回収目的の貴金属が電解還元されて析出し、回収可能な状態となる。
【0004】
この円筒状の回収装置は、絶えず廃液を流通させて使用することが可能であり作業効率に優れる他、例えば、板状の陽極と陰極とを連続的に積層させる従来形式の回収装置(特開平7−300692号など)と比べると比較的コンパクトであるといった利点がある。
【0005】
しかし、先の円筒容器を適用する特許文献1に記載の回収装置にも問題がある。即ち、析出した貴金属が陰極より剥離する場合があり、これにより陽極と陰極とが短絡し、陽極の消耗が促進されたり、電解の継続が不可能となったりする場合がある。この短絡は、特に析出貴金属が板状、箔状となる場合に生じ易い。
【0006】
この問題を解消するため、後述する特許文献2には、他の態様として、図4に記載する電解槽を構成する円筒状容器10と、前記容器の中心に配置され、廃液を容器上部から容器底部へと流通させるように底部に開口を有するパイプ状の陽極11と、前記容器の内周に沿って配置される筒状の陰極12と、を備える貴金属回収装置であって、前記陰極の内周に、陰極と電気的に接続される網状の第1の筒体が配置された貴金属回収装置がある(特許文献2参照)。この回収装置3は、まず、陰極の内周に沿って、チタン製のパンチングメタルを巻いて筒状としたものを2重に重ねたものを用いる。この第1の筒体は、陰極として作用し、析出貴金属は筒体にも付着するが、析出貴金属の形状は粉状、粒状のものとして筒体の表面及び孔の内壁に付着する。この析出貴金属の密着性の良好な状態で保持されており、剥離による陽極との短絡は生じ難くなっている。また、平滑な筒状の陰極に析出した貴金属については、剥離しても筒体と陰極との間隙で保持されるので、これによる陽極との短絡は生じない。また廃液の供給を陽極により行い、パイプ状の陽極底部を開口して、廃液が陽極上部から底部へ流通するようになっている。特許文献2に記載の技術においては、第1の筒体より粉状の析出貴金属が剥離し、容器底部に堆積した場合、容器底部と陽極とが短絡するおそれがある。そこで、廃液の供給を陽極底部から行い、絶えず通液することで、容器底部に堆積した析出貴金属粉を水流により容器底部の外周に押し流すことができこの短絡を防止できるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−45089号公報
【特許文献2】特開2006−28555(特許第4151904)号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、この特許文献2に記載の技術においても、陰極として作用する第1の筒体のふらつきによる電流異常から析出量のばらつきや、筒体端部での電流集中に由来する貴金属の異常析出により金属粉として落下しそれによる短絡不良を完全に抑制することはできなかった。
【0009】
そこで、本発明は、上記のような電流異常による析出量あるいは析出粒子のばらつきや、電流集中に由来する貴金属の異常析出による短絡不良を抑制することで、回収物の精製の際の溶解に都合の良い均一な貴金属を安定的に析出させることを可能にする貴金属回収装置および貴金属回収方法を提供することを目的とする。さらに本発明によれば、均一で安定に貴金属を析出させることを可能にし、貴金属を効率よく回収する装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、鋭意検討を行い、円筒状容器を適用する回収装置および回収方法において複数の改良を行い、上記課題を解決することのできる回収装置および回収方法を見出した。
【0011】
本発明をより詳細に説明すれば、以下のとおりとなる。
貴金属回収装置は、電解槽を構成する円筒状の金属製容器と、前記金属製容器を密閉し取外し可能な、廃液流出口を有する絶縁性蓋体と、前記絶縁性蓋体の中心を貫通し、廃液を上部から底部へと流通させるパイプ状陽極と、前記金属製容器の内周に沿って配置される筒状のエキスパンダ陰極と、前記パイプ状陽極の外周に沿って配置される筒状のエキスパンダ陽極と、を備える貴金属回収装置であって、前記エキスパンダ陰極の上部は前記金属製容器の上肩部と断面逆L字形に接続固定されており、エキスパンダ陰極の下部は前記金属製容器の底部と接続固定されており、前記エキスパンダ陽極の両端は前記パイプ状陽極と断面コの字形に接続固定されていることを特徴とする。
ここで、エキスパンダ陽極の長さは、エキスパンダ陰極の長さの0.5〜0.95を乗じた長さであることが好ましい。
金属性容器及びエキスパンダ陰極は、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウムおよびハフニウムのうちの1種または2種以上の金属または合金よりなることが好ましい。
また、エキスパンダ陰極は、中央部が膨出した形状であることが好ましい。
また、パイプ状陽極およびエキスパンダ陽極は、少なくとも表面が白金族の金属、合金または酸化物よりなることが好ましい。
他方、本発明の貴金属回収方法は、貴金属を含む廃液を収容する回収廃液槽から廃液を送液する工程と、送液された廃液が次の(A)のパイプ状陽極内を上部から底部へと流通する工程と、その流通された廃液が次の(B)の陰極と上記パイプ状陽極との間を底部から上部へ逆流しながら電解する工程と、その電解された廃液が前記廃液流出口から前記廃液を排出し、フィルターを通して前期回収廃液槽へ戻し循環させる工程とを含む貴金属回収方法において、前記エキスパンダ陰極の上部は前記金属製容器の上肩部と断面逆L字形に接続固定されており、エキスパンダ陰極の下部は前記金属製容器の底部と接続固定されており、次の(C)のエキスパンダ陽極は前記パイプ状陽極と断面コの字形に接続固定されていることを特徴とする。
(A)パイプ状陽極は、電解層を構成する、密閉し取外し可能な円筒状の金属製容器上に設けられた絶縁性蓋体の中心を貫通し、
(B)陰極は金属製容器およびその内周に沿って配置されるエキスパンダ陰極、
(C)パイプ状陽極外周に沿って配置される筒状のエキスパンダ陽極。
ここで、エキスパンダ陽極の長さは、エキスパンダ陰極の長さの0.5〜0.95を乗じた長さであることが好ましい。
金属性容器及びエキスパンダ陰極は、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウムおよびハフニウムのうちの1種または2種以上の金属または合金よりなることが好ましい。
また、エキスパンダ陰極は、中央部が膨出した形状であることが好ましい。
また、パイプ状陽極及びエキスパンダ陽極は、少なくとも表面が白金族の金属、合金または酸化物よりなることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の貴金属回収装置および貴金属回収方法は、電流異常による析出量や析出粒子のばらつきや、電流集中に由来する貴金属の異常析出による短絡不良を抑制することで、回収物の精製の際の溶解に都合の良い均一な貴金属を安定的に析出させることができる。さらに本発明の貴金属回収装置および貴金属回収方法によれば、均一で安定に貴金属を析出させることを可能にし、貴金属を効率よく回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の貴金属回収装置の一実施形態を示す断面概略図。
【図2】図2は、本発明の貴金属回収方法にかかる一実施形態を示す概略図。
【図3】図3は、従来の貴金属回収装置(特許文献1)の断面構造を示す図。
【図4】図4は、従来の貴金属回収装置(特許文献2)の断面構造を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、貴金属を含む廃液から電気分解により貴金属の回収処理を行う貴金属回収装置の断面の図面(図1)と共に説明する。本発明における貴金属回収装置1は、エキスパンダ陰極12の上部を金属製容器10の上肩部と断面逆L字形に接続固定し、その下部を金属製容器10の底部と接続固定することで、陰極のふらつきによる陽極との短絡、あるいは電流異常による異常析出や析出物の落下による短絡を抑制できる。またエキスパンダ陰極12の両端部はそのままでは電流が集中してしまうが、両端が金属製容器10に電気的に接続されるため、陰極両端部への電流集中を抑制でき、それに由来する貴金属の異常析出による短絡を抑制できる。その接続固定は、エキスパンダ陰極12の上部及び下部と金属製容器10との間の全周あるいは一部でも良い。接続固定はエキスパンダ陰極12を直接溶接してもスペーサーを介して溶接してもどちらでも良い。スペーサーを介して全周の接続固定を行う場合は廃液の流通を考慮し、スペーサーに孔を有する形状が好ましい。一部の接続固定の場合はふらつき抑制を考慮し上部及び下部それぞれ2箇所以上固定することが好ましい。接続様式としては通常のスポット溶接や圧接などで行うことができるが、電気的に接続が可能であれば前記様式に限られない。本発明におけるエキスパンダ陰極12は、単層であっても多層であっても良い。回収効率を考慮すると多層であることが好ましい。更に、装置の製造コストや運転コストを考慮する2〜5層がより好ましい。
【0015】
本発明におけるエキスパンダ陽極13は、その両端をパイプ状陽極11と断面コの字形に接続固定することで、陽極のふらつきによる電流異常を回避できる。接続固定は、エキスパンダ陽極13の両端とパイプ状陽極11との間の全周あるいは一部でも良い。接続固定はエキスパンダ陽極13を直接溶接してもスペーサーを介して溶接してもどちらでも良い。全周の接続固定の場合は廃液の流通を考慮し、上部および下部のパイプ状陽極11との接続間に孔を有する形状が好ましい。一部の接続固定の場合はふらつき抑制を考慮し両端それぞれ2箇所以上固定することが好ましい。エキスパンダ陽極13下部とパイプ状陽極11下部は電解層底部から等距離であることが好ましい。
【0016】
本発明におけるエキスパンダ陽極13の長さは、エキスパンダ陰極12の長さの0.5〜0.95を乗じた長さであることが好ましい。エキスパンダ陽極13の長さがエキスパンダ陰極12の長さの0.95を乗じた長さを超える場合は、析出した粉末状の貴金属が金属製容器10底部に堆積し短絡が起こりやすくなるばかりか、エキスパンダ陰極12底部での異常析出が発生してしまう。0.5を乗じた長さ未満の場合は陰極上の電流分布に大きな偏りができ、析出量や析出金属形状が不均一となり精製のための溶解時間が長時間になってしまうなどの回収効率の低下の原因となる。更に、回収効率の低下の抑制を考慮した場合、0.7〜0.95を乗じた長さであることがより好ましい。
【0017】
本発明における金属性容器10およびエキスパンダ陰極12は、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウムおよびハフニウムのうちの1種または2種以上の金属または合金よりなるものが好ましい。前記金属以外の金属または合金である場合、金属性容器10およびエキスパンダ陰極12に電解析出した貴金属(金や白金など)を回収後の精製のために電極から溶解回収する際に多用される王水を用いると、金属性容器10およびエキスパンダ陰極12が溶解する場合がある。あるいは、ステンレスなどの不溶性金属を用いた場合でも、回収分からの分離が困難な微量の鉛成分が溶出してしまい後の精製に問題となる。更に、安価であって高い加工性と王水への不溶性を考慮するとチタン金属またはその合金であることがより好ましい。
【0018】
本発明におけるエキスパンダ陰極12は、中央部が膨出した形状とすることで、より均一な析出を可能にし、電流異常を抑制し高い回収効率で貴金属を析出させることができる。膨出した形状とは、エキスパンダ陰極12中央部がもっとも陽極に近くなるように切断面が円弧を描く形状であり、図に示すような形状である。これは、陰極端部の電流の偏りを更に抑制し、より均一な電気分解が可能となることに起因する。
【0019】
本発明におけるパイプ状陽極11及びエキスパンダ陽極13は、不溶性の材料が好ましくその材質としては、少なくとも表面が白金族の金属、合金または酸化物よりなるものが好ましい。更に、チタン等のバルブ金属に白金または白金合金をめっきしたものあるいは酸化イリジウムまたは酸化ルテニウムを被覆したものがコスト的にも耐久性においてもより好ましい。
【0020】
エキスパンダ陰極12およびエキスパンダ陽極13の菱形孔の対角線の長軸と短軸の長さがそれぞれ4×2〜16×8mmのものが好ましい。4×2mm未満とすると電着による孔の目詰まりが早期に生じ、16×8mmを超えると表面積が小さくなるため回収効率が低下するからである。
【0021】
次に、前記のように構成された貴金属回収装置1を用いた貴金属回収方法について図1および図2と共に説明する。本発明の貴金属回収方法において、貴金属を含む廃液を収容する回収廃液槽20から廃液をポンプ21などで送液し、送液された廃液が前述(A)のパイプ状陽極11内を上部から底部へと流通し、その流通された廃液が前述(B)の陰極と上記パイプ状陽極11との間を底部から上部へ逆流しながら電解され、廃液流出口15から廃液が排出され、フィルター22を通して回収廃液槽20へ戻され、その戻された廃液が循環される。この時、エキスパンダ陰極12の上部は金属製容器の上肩部と断面逆L字形に接続固定され、またエキスパンダ陰極12の下部は金属製容器の底部と接続固定されることで、陰極のふらつきによる陽極との短絡、あるいは電流異常による異常析出や析出物の落下による短絡を抑制できる。またエキスパンダ陰極の両端部はそのままでは電流が集中してしまうが、金属製容器10に接続固定することで、陰極両端部への電流集中を抑制でき、それに由来する貴金属の異常析出による短絡を抑制できる。前述(C)のエキスパンダ陽極13の両端はパイプ状陽極11と断面コの字形に接続固定されていることで陰極との短絡を抑制できる。廃液流出口15から廃液と共に流出した金属粉は、次の工程に設けられたフィルター22によりトラップされ、更に電極間の短絡を抑制できる。
【0022】
本発明の貴金属回収方法において、エキスパンダ陽極13の長さは、エキスパンダ陰極12の長さの0.5〜0.95を乗じた長さであることが好ましい。エキスパンダ陽極13の長さがエキスパンダ陰極12の長さの0.95を乗じた長さを超える場合は、析出した粉末状の貴金属が金属製容器10底部に堆積し短絡が起こりやすくなるばかりか、エキスパンダ陰極12底部での異常析出が発生してしまう。0.5を乗じた長さ未満の場合は陰極上の電流分布に大きな偏りができ、析出量や析出金属形状が不均一となり精製のための溶解時間が長時間になってしまうなどの回収効率の低下の原因となる。更に、回収効率の低下の抑制を考慮した場合、0.7〜0.95を乗じた長さであることがより好ましい。
【0023】
金属性容器10及びエキスパンダ陰極12は、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウムおよびハフニウムのうちの1種または2種以上の金属または合金よりなることが好ましい。前記金属以外の金属または合金である場合、金属性容器10およびエキスパンダ陰極12に電解析出した貴金属(金や白金など)を回収後の精製のために電極から溶解回収する際に多用される王水を用いると、金属性容器10およびエキスパンダ陰極12が溶解する場合がある。あるいは、ステンレスなどの難溶性金属を用いた場合でも、回収分からの分離が困難な微量の鉛成分が溶出してしまい後の精製に問題となる。更に、安価であって高い加工性と王水への不溶性を考慮するとチタン金属またはその合金であることがより好ましい。
【0024】
エキスパンダ陰極12は、中央部が膨出した形状であることが好ましい。それにより均一な析出を可能にし、電流異常を抑制し高い回収効率で貴金属を析出させることができる。膨出した形状とは、エキスパンダ陰極12中央部がもっとも陽極に近くなるように切断面が円弧を描く形状であり、図に示すような形状である。これは、陰極端部の電流の偏りを更に抑制し、より均一な電気分解が可能となることに起因する。
【0025】
パイプ状陽極11及びエキスパンダ陽極13は、少なくとも表面が白金族の金属、合金または酸化物よりなることが好ましい。更に、チタン等のバルブ金属に白金又は白金合金をめっきしたものあるいは酸化イリジウムまたは酸化ルテニウムを被覆したものがコスト的にも耐久性においてもより好ましい。
【0026】
本発明の貴金属回収装置において、回収廃液の貴金属回収装置内の送液速度は対象となる廃液中の金属イオン種、電解条件等により異なるが、5〜30L/minであることが好ましい。5L/min未満の場合は電解室内の貴金属濃度に偏りができ不均一な析出が起こりやすくなり、30L/minを超える場合は電解回収効率が低下し回収に長時間を要してしまうため不適当である。金属性容器およびエキスパンダ陰極の電流密度は0.05〜0.30A/dmで行うことが好ましい。0.05A/dm未満の場合は回収に長時間要し、0.30A/dmを超える場合は回収効率が向上しないばかりかコストが嵩んでしまう。
【0027】
本発明の貴金属回収方法において、金属性容器10またはエキスパンダ陰極12に付着した貴金属、金属製容器10底部に堆積した貴金属およびフィルター22にトラップされた貴金属は、異常析出などが抑制されているため容易に剥離溶液である王水又はKCN溶液により剥離溶解し、貴金属の純度を1桁程度に高めるための精製を行うことができる。剥離溶液としては、各種貴金属を同時に溶解できる王水を用いることが好ましい。
【実施例】
【0028】
以下、本発明の貴金属回収装置の実施形態の一態様を図面1および図2と共に説明する。電解槽となる円筒状の金属製容器10(寸法:内径150mm、高さ700mm)と、金属製容器10の内周に沿って一層目の筒状のエキスパンダ陰極12(寸法:直径140mm、板厚1mm、長さ685mm、菱形孔の対角線の長さ6(長軸)×3(短軸)mm)、更にその内周に沿って二層目の筒状のエキスパンダ陰極12(寸法:直径130mm、板圧1mm、長さ685mm、菱形孔の対角線の長さ6(長軸)×3(短軸)mm)が配置されている。一方、金属製容器10の中心部にはパイプ状陽極11(寸法:外径22mm、長さ690mm、板厚2mm)が挿入されており、その外周に沿って筒状のエキスパンダ陽極13(寸法:外径38mm、板厚1mm、長さ590mm、菱形孔の対角線の長さ8(長軸)×4(短軸)mm)が配置されている。パイプ状陽極11の底部は開口されており、金属製容器10の底面より一定の距離(95mm)をおいている。この場合のエキスパンダ陽極13の長さは、エキスパンダ陰極12の長さの0.86を乗じた長さである。
【0029】
エキスパンダ陰極12の上部は金属製容器10の上肩部と4枚の連接金属板(寸法:8mm×12mm、板厚1mm)により溶接で一体的に接続固定され、全体として断面逆L字形に形成される。エキスパンダ陰極12の下部は、上部と同様に金属製容器10の底部と4か所接続固定されており、エキスパンダ陽極13の両端はパイプ状陽極11とリング状の連接金属板(寸法:外径38mm、内口径18mm、板圧1mm)により溶接で一体的に接続固定され、全体として断面コの字形に形成される。
【0030】
金属性容器10、エキスパンダ陰極12及び陰極の連接金属板はチタン製であり、パイプ状陽極11、エキスパンダ陽極13及び陽極の連接金属板はチタンを基材としてイリジウムめっきしたものを用いている。
【0031】
本実施形態にかかる貴金属回収方法の一態様としては、金を含む廃液を収容する回収廃液槽20からポンプ21により廃液を送液し、送液された廃液はパイプ状陽極11上部から底部へと流通され、金属製容器10底部まで通液するようになっている。その通液された廃液は、陰極と陽極との間を底部から上部へ逆流しながら電解される。その電解された廃液は金属製容器10上部の絶縁性蓋体14に空けられた廃液流出口15から排出され、糸巻きフィルター22を通して回収廃液槽へ戻し循環される。この循環の送液速度は、対象となる廃液中の金属イオン種、電解条件により異なるが、金を含むめっき液500L(金濃度1.5g/L)からの金の電解回収においては、送液速度10〜20L/minで実施された。また回収作業時の電解条件は、電流密度0.1〜0.2A/dmで行った。1回の回収作業に要する時間は、上記送液速度、電解条件では、12〜18時間となる。
【0032】
金を含むめっき廃液からの金の回収において、電解後の貴金属回収装置は、金が析出したエキスパンダ陰極12を含む金属製容器10、及び場合により金粉末が付着したフィルターとともに取り外される。析出した金は、精製のための溶解液として王水等が用いられる。チタンは王水等に溶解することがない。溶解液は金属製容器10内に注入し、回収装置内で攪拌により金を溶解させることができる。また、金が析出したエキスパンダ陰極12を含む金属製容器10を溶解液の槽の中に投入し金を溶解させることもできる。析出した金は、王水等で容易に溶解する。
【0033】
本発明の貴金属回収装置を用いた金を含むめっき廃液からの前記金回収において、満足な結果が得られた。具体的には、陰極両端部への電流集中に由来する金の異常析出による短絡は全く生じなかった。また、析出金属の厚さは0.5〜3.0mmで均一に析出し、容易に回収物の精製の際の王水溶解を行うことができた。回収廃液からの回収金の収率は99.9%であった。
【符号の説明】
【0034】
1、2、3 貴金属回収装置
10、17 円筒状容器
11 陽極
12 エキスパンダ陰極
13 エキスパンダ陽極
14 絶縁性蓋体
15 廃液流出口
16 円筒状陰極
20 回収廃液層
21 ポンプ
22 フィルタ



【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解槽を構成する円筒状の金属製容器と、前記金属製容器を密閉し取外し可能な、廃液流出口を有する絶縁性蓋体と、前記絶縁性蓋体の中心を貫通し、廃液を上部から底部へと流通させるパイプ状陽極と、前記金属製容器の内周に沿って配置される筒状のエキスパンダ陰極と、前記パイプ状陽極の外周に沿って配置される筒状のエキスパンダ陽極と、を備える貴金属回収装置であって、
前記エキスパンダ陰極の上部は前記金属製容器の上肩部と断面逆L字形に接続固定されており、エキスパンダ陰極の下部は前記金属製容器の底部と接続固定されており、前記エキスパンダ陽極の両端は前記パイプ状陽極と断面コの字形に接続固定されていることを特徴とする貴金属回収装置。
【請求項2】
エキスパンダ陽極の長さは、エキスパンダ陰極の長さの0.5〜0.95を乗じた長さである請求項1に記載の貴金属回収装置。
【請求項3】
金属性容器及びエキスパンダ陰極は、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウムおよびハフニウムのうちの1種または2種以上の金属または合金よりなる請求項1に記載の貴金属回収装置。
【請求項4】
エキスパンダ陰極は、中央部が膨出した形状である請求項1に記載の貴金属回収装置。
【請求項5】
パイプ状陽極およびエキスパンダ陽極は、少なくとも表面が白金族の金属、合金または酸化物よりなる請求項1に記載の貴金属回収装置。
【請求項6】
貴金属を含む廃液を収容する回収廃液槽から廃液を送液する工程と、送液された廃液が次の(A)のパイプ状陽極内を上部から底部へと流通する工程と、その流通された廃液が次の(B)の陰極と上記パイプ状陽極との間を底部から上部へ逆流しながら電解する工程と、前記廃液流出口から前記廃液を排出し、フィルターを通して前期回収廃液槽へ戻し、その電解された廃液を循環させる工程とを含む貴金属回収方法において、
前記エキスパンダ陰極の上部は前記金属製容器の上肩部と断面逆L字形に接続固定されており、エキスパンダ陰極の下部は前記金属製容器の底部と接続固定されており、次の(C)のエキスパンダ陽極の両端は前記パイプ状陽極と断面コの字形に接続固定されていることを特徴とする貴金属回収方法。
(A)パイプ状陽極は、電解層を構成する、密閉し取外し可能な円筒状の金属製容器上に設けられた絶縁性蓋体の中心を貫通するパイプ状陽極、
(B)陰極は、金属製容器およびその内周に沿って配置されるエキスパンダ陰極、
(C)エキスパンダ陽極は、パイプ状陽極外周に沿って配置される筒状のエキスパンダ陽極。
【請求項7】
エキスパンダ陽極の長さは、エキスパンダ陰極の長さの0.5〜0.95を乗じた長さである請求項6に記載の貴金属回収方法。
【請求項8】
金属性容器及びエキスパンダ陰極は、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウムおよびハフニウムのうちの1種または2種以上の金属または合金よりなる請求項6に記載の貴金属回収方法。
【請求項9】
エキスパンダ陰極は、中央部が膨出した形状である請求項6に記載の貴金属回収方法。
【請求項10】
パイプ状陽極及びエキスパンダ陽極は、少なくとも表面が白金族の金属、合金または酸化物よりなる請求項6に記載の貴金属回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−17491(P2012−17491A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−154404(P2010−154404)
【出願日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【特許番号】特許第4666418号(P4666418)
【特許公報発行日】平成23年4月6日(2011.4.6)
【出願人】(509352945)田中貴金属工業株式会社 (99)
【Fターム(参考)】