説明

貴金属電解回収方法

【課題】 ドラムカソードの回転速度を変化させることにより、電解電流値を変化させることなく、液体中の金属イオンを、ドラムカソード表面上に電解析出させる速度を向上させる貴金属回収方法を提供する。
【解決手段】 貴金属電解回収装置に付随する回転陰極ドラムの回転速度を1.21m/sec〜1.8m/sec、回転時間を3〜4時間とすることにより、貴金属含有溶液中の貴金属回収効率を向上させたことを特徴とする貴金属電解回収方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金、銀、白金、パラジウム等の貴金属を貴金属電解回収装置に付随する回転陰極ドラムの回転速度を変化させる機能を持たせ、貴金属回収効率を向上させる貴金属回収方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金、銀、白金、パラジウム等の貴金属めっきは、半導体関連部品、装飾品等の幅広い分野において用いられているが、省資源化、製造コスト低減の両面から、材料の使用量を少なくすることは勿論、高価な貴金属の系外の持出しや分散等の削減を強く求められている。
【0003】
これらめっき廃液およびめっき後の洗浄液中に溶存している貴金属を回収する場合、イオン交換樹脂に金属錯塩を吸着させ回収させる方法もあるが、イオン交換樹脂購入費用や、吸着した貴金属を抽出する際の費用等のランニングコストや維持管理作業の手間などにより、一般的には電解法により金属として陰極上に金属として電解還元による回収する方法が用いられている。
【0004】
この場合、ドラム電極回転型の貴金属電解回収装置として、例えば特開平11−92985号公報(特許文献1)に開示されているように、金、銀、白金、パラジウム等の貴金属めっき廃液や、系外へ持出された貴金属の回収にあって、貴金属電解回収機に付随する回転陰極ドラムの表裏面の酸化膜を除去することにより、電着金の剥離脱落を防止した回転陰極ドラムを用いて、廃液中に含有する貴金属を電気分解にて回収する貴金属電解回収装置が提案されている。
【0005】
上記、系外に持出された貴金属回収については、めっき槽の次工程に回収槽や水洗槽があり、これら槽の役割は、めっき対象物に付着しためっき液成分である、貴金属イオン、伝導塩、光沢剤、有機物等を洗い落すため、回収槽や水洗槽中に、めっき液成分である貴金属イオンが混入する。この混入した高価な貴金属回収のため、ドラム電極回転型の貴金属電解回収装置と、めっき槽の次工程の回収槽や水洗槽、あるいはこれらの液を別タンクに移し替えた物との間を液循環させ、系外に持出された高価な貴金属を常時回転陰極ドラム(ドラムカソード)に電着させ回収を行うものである。
【0006】
このドラム電極回転型の電解回収装置は、筒状のドラムカソードを中央に配置し、その四方にTi基材のPtめっきや酸化インジウムをコーティングしたアノードを配置し、液中に含まれる金属イオンを電気分解により、ドラムカソード表面上に金属として電着させる。このドラムカソードについては、電気分解時に回転させることにより、液攪拌効果により各電極間の金属イオンの接触効率を高め、電解反応効率を高めると同時に、析出金属の平滑化、かつ強固な密着性にて金属を電着させる効果が得られる。
【0007】
また、このドラムカソード電極は、電解装置から容易に取り外せる構造を持ち、貴金属を精製する専門業者に委託させることにより、ドラムカソード上に析出した、高価な貴金属を容易に再生し、貴金属としての価値を生むことができ、さらには、このドラム表面から剥離回収した貴金属についても、めっき時に用いられる貴金属薬品等の材料に再生され、再度めっき工程にて使用することも可能である。
【0008】
一方、特開2011−58087号公報(特許文献2)およびWO2008/153001号公報(特許文献3)に開示されているように、金属含有溶液を電気分解して金属を回収する装置であって、溶液を入れる槽と陽極、陰極と水流による駆動機構とを有し、陽極、陰極のいずれか一方又は両方が駆動機構によって回転する金属の回収装置や、柱状または筒状の回転陰極とその回転陰極と対向した陽極と網状または多孔質状の導電体とを有し、回転陰極の面の少なくとも一部が導電体で被覆されている金属の回収装置が提案されている。
【特許文献1】特開平11−92985号公報
【特許文献2】特開2011−58087号公報
【特許文献3】WO2008/153001号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した特許文献2にあっては、陰極を回転させるに当たって実施例において周速は1m/secで実施する記載はあるが、それ以上の周速と時間的の関係などについては一切解明されていない。また、特許文献3も、特許文献2と同様に、陰極の周速の実施例は1/secと2m/secに留まり、周速と時間的の関係などについては一切解明されていない。
【0010】
そこで、上述したように、貴金属めっき廃液、貴金属めっき回収槽や水洗槽等の系外に持出された金属は、金、銀、白金、パラジウム等の高価な金属であり、省資源化並びに貴金属めっき製品への金額的負荷を軽減させるため、短時間に効率良く、しかも残留する金属イオン濃度を、低レベルまで回収することが問題となり、このドラム電極回転型の電解回収装置形状、容積、整流器出力を変更することなく、部分的な機能の変更により、金属回収能力向上、すなわち、電流効率の向上させるかが問題となった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記問題を解決するために、鋭意開発を進めた結果、ドラムカソードの回転速度を変化させることにより、電解電流値を変化させることなく、液体中の金属イオンを、ドラムカソード表面上に電解析出させる速度が向上することを見出し発明に至った。
【0012】
その発明の要旨とするところは、
(1)貴金属電解回収装置に付随する回転陰極ドラムの回転速度を1.21m/sec〜1.8m/sec、回転速度時間を3〜4時間とすることにより、貴金属含有溶液中の貴金属回収効率を向上させたことを特徴とする貴金属電解回収方法。
(2)前記(1)に記載の方法において、貴金属含有溶液中の最終貴金属濃度を110mg/L以下とすることを特徴とする貴金属電解回収方法にある。
【発明の効果】
【0013】
以上述べたように、ドラム電極回転型の電解回収装置の回転陰極ドラムの回転速度を1.21m/sec以上とすることにより、一定の電流値において、貴金属めっき廃液並びに、その水洗槽中の貴金属イオンの電気分解による回収速度が上昇することを可能とした。また、ドラムカソードの回転速度を変化させることは、めっき廃液並びに、その水洗槽中の貴金属イオンの電気分解による回収速度を制御することに繋がり、過剰な電気分解を防止する効果の得られる等の優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について図面に従って詳細に説明する。
図1は、本発明に係わる貴金属電解回収装置の外観図である。この図に示すように、電解槽1の内部には、その中央に回転可能に設けられた回転陰極ドラム3が配置され、この回転陰極ドラム3の回転速度については、装置側面に組み込まれている回転コントローラーにより、回転速度を変化させる機能を持つ。この回転陰極ドラム3の外周には、一定間隔をもって対峙する複数板の外周陽極2が4枚配置されている。符号4は制御パネルであり、その制御パネル4内にて電流制御が行われる。
【0015】
上述した貴金属電解回収装置において、電源を入れると整流器出力側より電流が流れ、この電流が回転陰極ドラム3と外周陽極2間にて、貴金属回収対象液との電解反応が始まる。その結果、回転陰極ドラム3の表面には、金、銀、白金、パラジウム等の貴金属が付着し、その貴金属を回収するものである。
【0016】
この回転陰極ドラム3の回転については、金属めっき廃液並びに、その金属めっき回収槽並びに水洗槽には貴金属めっき液成分が持込まれ、金属イオン、伝導塩、光沢剤、有機物等が各槽中に含まれ、その中の金属イオンを、貴金属電解回収装置を用いて回収すると、金属イオンの電気分解により、金属としてドラムカソード析出するが、金属イオン回収後の過剰な電解回収は、めっき液成分の光沢剤、有機物等を電気分解し、水洗槽の洗浄水が褐色に変色する場合もある。この場合は、過剰な電気分解を避けるため、水洗水中の金属イオンの回収速度をコントロールさせる。そこで、本ドラム電極回転型の電解回収装置のドラムカソード周速度を、インバーター、プーリー、ギヤ等の変速機にて可変させる機能を、この電解回収装置に持たせた。
【0017】
貴金属電解回収装置に付随する回転陰極ドラムの回転速度を1.21m/sec〜1.8m/secに限定した理由は、1.21m/sec未満では、最終目標達成濃度を110mg/L以下に定めた際に、その目標達成濃度に達すまでには長時間の回転時間を要し、過剰な電流消費によるコストアップとなる。一方、回転速度を1.21m/sec以上とすることにより、急激に回収効率の向上が見られることから、その下限を1.21m/secとした。しかし、回転速度が1.8m/secを超えると回転時間を掛けた割に貴金属電解回収の減少率が悪く、減少率がほぼ平行になることから、その上限を1.8m/secとした。
【0018】
また、回転時間については、3時間〜4時間と定めた。その理由は、目標達成濃度である110mg/L以下に定めた際に、最短時間でかつ最良の効率と低コストをもって達成するために、単に回転時間を掛ければ掛ける程めっき廃液中の貴金属含有溶液中の最終貴金属回収濃度の減少は可能であるが、しかし、最終目標濃度を達成する最少時間をもって、しかも、低コストで効率良く目標を達成するためには、回転速度を上述したように、下限を1.21m/secであってその回転時間を3時間とした。
【0019】
すなわち、3時間未満では回転速度を高めても目的とする110mg/L以下を達成するためには、回転速度を高めても目的を達成することが出来ない。一方、回転時間が4時間を超えると回収濃度の減少は可能であるが、しかし、過剰な電気分解による回収速度を低下させ、コストアップとなることから、出来るだけ短時間で、かつ効率の良い回収が必要であることから4時間と定めた。すなわち、3時間未満では回収効率が不十分であり、4時間を超えるとコストアップとなることから、3〜4時間とした。
【0020】
上述した回転速度が1.21m/sec〜1.8m/secで、回転時間が3〜4時間での電流効率を表1および表2に示す。この表1および表2に示す値の変化を図2および図3に示す。図2は、硬質金めっき液の場合の横軸に回転速度、縦軸に電流密度を示す図である。この図に示すように、硬質金めっき廃液からの金回収においては、回転速度が1.21m/sec以上での電流効率(%)は回転時間が3時間および4時間の場合、いずれも平衡状態となり、特に3時間後の電流効率は鮮明に表れていることが分かる。
【0021】
また、図3は、軟質金めっき液の場合の横軸に回転速度、縦軸に電流密度を示す図である。この図に示すように、軟質金めっき廃液からの金回収においても、図2に示す硬質金めっき廃液の場合と同様に、ほぼ同一傾向を示し、回転速度が1.21m/sec以上での電流効率(%)は回転時間が3時間および4時間の場合、いずれも平衡状態となり、特に3時間後の電流効率は鮮明に表れていることが分かる。
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

表1および表2はいずれも、No.1〜3は比較例であり、No.4〜6は本発明例である。
【実施例】
【0024】
(実施例1)
以下、本発明について実施例によって具体的に説明する。
硬質金めっき廃液のシアン化金カリウム含有めっき廃液(酸性):シアン化金カリウム(Au):1〜4g/L、クエン酸塩類:40g/L、クエン酸:40g/L、各試験液量10L、温度常温、回転陰極ドラムの回転速度を可変させる機能を持たせた回転電極型の貴金属電解回収装置内の槽各々に入れ、通電時間5Aの条件下で、それぞれのドラム回転速度を、0.3m/sec、0.61m/sec、0.91m/sec、1.21m/sec、1.7m/sec、1.8m/secに変化させたときの、時間とAu濃度との関係を測定した。その結果を表3に示す。この表3に示す値の変化を図4に示す。なお、回収装置構造、回転陰極ドラム(径116×高さ160mm、有効面積:5.8dm2 )、アノード(幅65×高さ160mm×4枚)、有効面積:4dm2 )と一定条件とした。
【0025】
【表3】

表3に示すように、No.1〜3は比較例であり、No.4〜6は本発明例である。
【0026】
表3に示す結果を図4に示す。この図4に示すように、横軸に時間、縦軸にAu濃度(mg/L)を示す。廃液中に1700mg/L含むAuが周速度を変えドラム回転速度を1.21m/secにて、3時間が経過すると、2時間の場合と比較して急激に減少する。また、同様に、ドラム回転速度を1.7m/sec、1.8m/secの場合も2時間の場合と比較して急激に減少することが分かる。このようにドラム回転速度を1.21m/sec以上で、回転時間を3時間以上とすることで液中に残留するAu濃度減少が極めて効率良く達成することができる。このような理由から、本発明においては、ドラム回転速度を1.21m/sec〜1.8m/secの回転時間を3〜4時間とした。これにより、めっき廃液中のAuを110mg/L以下に減少することが確認された。すなわち、ドラムカソード上に電解析出されることが確認された。
【0027】
(実施例2)
実施例1と同様に、軟質金めっき廃液のシアン化金カリウム含有めっき廃液(アルカリ浴):シアン化金カリウム(Au):10g/L、シアン化カリウム:30g/L、燐酸水素カリウム:30g/L、炭酸カリウム:15g/L、温度常温、回転陰極ドラムの回転速度を可変させる機能を持たせた回転電極型の貴金属電解回収装置内の槽各々に入れ、通電電流7Aの条件下で、それぞれのドラム回転速度を、0.3m/sec、0.61m/sec、0.91m/sec、1.21m/sec、1.7m/sec、1.8m/secに変化させたときの、時間とAu濃度との関係を測定した。その結果を表4に示す。この表4に示す値の変化を図5に示す。なお、回収装置構造、回転陰極ドラム(径116×高さ160mm、有効面積:5.8dm2 )、アノード(幅65×高さ160mm×4枚)、有効面積:4dm2 )と一定条件とした。
【0028】
【表4】

表4に示すように、No.1〜3は比較例であり、No.4〜6は本発明例である。
【0029】
表4に示す結果を図5に示す。この図5に示すように、廃液中に10100mg/Lを含むAuが回転速度を変え、ドラム回転速度を1.21m/secにて3時間経過すると10100mg/Lのものが100mg/Lと減少する。引き続き回転速度を速めて1.8m/secとすると、20mg/Lと減少する。一方、回転時間を3時間から4時間と続けると1桁の値まで減少した。これから分かるように、実施例1と同様に、このようにドラム回転速度を1.21m/sec以上で、回転時間を3時間以上とすると液中に残留するAu濃度減少する効果が極めて向上することが分かる。特に実施例1の硬質金めっき廃液の場合に比較して顕著な減少率を示す。このように、ドラム回転速度を1.21m/sec〜1.8m/secの回転時間を3〜4時間と規制することにより、極めて短時間にめっき廃液中のAuが100mg/L以下に減少することが確認された。すなわち、ドラムカソード上に電解析出されることが確認された。
【0030】
以上にように、ドラム電極回転型の電解回収装置の回転陰極ドラムの回転速度を一定以上に上昇させることにより、一定の電流値において、貴金属めっき廃液並びに、その水洗槽中の貴金属イオンの電気分解による回収速度が上昇することを可能とした。一方、それに対する回転時間も極めて効率の良い時間として3〜4時間とした。また、このように、ドラムカソードの回転速度を変化させることで、めっき廃液並びに、その水洗槽中の貴金属イオンの電気分解による回収速度を制御することに繋がり、短時間の回転時間で、かつ過剰な電気分解を防止する効果の得られる等極めて優れた効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係わる貴金属電解回収装置の外観図である。
【図2】硬質金めっき液の場合の横軸に回転速度、縦軸に電流密度を示す図である。
【図3】軟質金めっき液の場合の横軸に回転速度、縦軸に電流密度を示す図である。
【図4】硬質金めっき液の場合の横軸に時間、縦軸にAu濃度を示す図である。
【図5】軟質金めっき液の場合の横軸に時間、縦軸にAu濃度を示す図である。
【符号の説明】
【0032】
1 電解槽
2 外周陽極
3 回転陰極ドラム
4 制御パネル
5 廃液


特許出願人 松田産業株式会社
代理人 弁理士 椎 名 彊

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貴金属電解回収装置に付随する回転陰極ドラムの回転速度を1.21m/sec〜1.8m/sec、回転時間を3〜4時間とすることにより、貴金属含有溶液中の貴金属回収効率を向上させたことを特徴とする貴金属電解回収方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、貴金属含有溶液中の最終貴金属濃度を110mg/L以下とすることを特徴とする貴金属電解回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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