説明

貼付剤及び貼付製剤

【課題】粘着剤層の凝集力だけでなく、接着力をも増強させることができる貼付剤又は貼付製剤を提供すること。
【解決手段】金属塩化物を含有する粘着剤層を支持体の少なくとも片面に備える貼付剤であって、該金属塩化物が、一次粒子が鎖状に凝集した形状を有する二次粒子として含有される、貼付剤又は貼付製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚面又は粘膜面に貼付して使用する貼付剤及び貼付製剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
以前より、粘着剤による皮膚刺激を緩和する目的で、粘着剤と相溶する液状成分を添加した粘着剤層を有する貼付剤又は貼付製剤が知られている。しかし、このような液状成分を添加した粘着剤を有する貼付剤は、使用目的によっては液状成分が被貼付物や支持体に移行する等の問題が生じやすい。例えば、特許文献1には、このような問題に対処するための粘着剤として、粘着剤の40〜80重量%を架橋により不溶化した粘着剤層が記載され、当該粘着剤層は、適度な接着力を有しつつ凝集力が向上するとされている。しかし、このような粘着剤層であっても、なお、発汗による汗成分の存在下で、粘着剤層の凝集力が低下するという問題が生じることがある。
【0003】
特許文献2には、金属塩化物を粘着剤層に添加することで前記問題を回避し、発汗による汗成分の存在下でも、粘着剤層の凝集力が低下しないようにした粘着剤が記載されている。しかし、この文献では、粘着剤層に十分な接着力を付与するための検討はされておらず、そのような粘着剤層はさらなる改良の余地があった。
【0004】
【特許文献1】特開平6−319793号公報
【特許文献2】特開2007−16019号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記に鑑み本発明が解決しようとする課題は、粘着剤層の凝集力だけでなく、接着力をも増強させた貼付剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、膏体層(粘着剤層)に所定の形状の金属塩化物を添加することで上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)金属塩化物を含有する粘着剤層を支持体の少なくとも片面に備える貼付剤又は貼付製剤であって、該金属塩化物が、一次粒子が鎖状に凝集した形状を有する二次粒子として含有される、貼付剤又は貼付製剤。
(2)金属塩化物の含有量が、粘着剤45重量部に対して0.5〜15重量部である、前記(1)に記載の貼付剤又は貼付製剤。
(3)金属塩化物の二次粒子の形状が、分岐を有する鎖状の形状である、前記(1)又は(2)に記載の貼付剤又は貼付製剤。
(4)粘着剤層中の金属塩化物の二次粒子の個数が、0.5×10個/cm以上である前記(1)乃至(3)のいずれかに記載の貼付剤又は貼付製剤。
(5)金属塩化物が、塩化ナトリウムである、前記(1)乃至(4)のいずれかに記載の貼付剤又は貼付製剤。
(6)塩化ナトリウムが、酸塩基中和反応によって生成した塩である、前記(5)に記載の貼付剤又は貼付製剤。
(7)粘着剤層が、さらに液状成分及び架橋剤を含む、前記(1)乃至(6)のいずれかに記載の貼付剤又は貼付製剤。
(8)粘着剤層が、さらに薬物を含む、前記(1)乃至(7)のいずれかに記載の貼付剤又は貼付製剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明の貼付剤又は貼付製剤は、粘着剤層に、所定の二次粒子形状を有する金属塩化物を含有することで、粘着剤層の凝集力が向上されるだけでなく、優れた接着力をも有する。したがって、このような粘着剤層を有する本発明の貼付剤は、貼付時にはしっかりと接着して皮膚から脱落し難く、剥離時には粘着剤層が凝集破壊し難いため皮膚面への糊残りがない等の有利な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の貼付剤又は貼付製剤は、単層又は複数層からなる支持体と該支持体の少なくとも片面に積層した粘着剤層からなり、必要に応じて、粘着剤層の支持体とは反対側の面に剥離シートを有していても良い。
貼付剤又は貼付製剤の形状は、任意形状の枚葉型でも、ロール状に巻回したものでも良い。
本発明で使用される支持体としては、特に限定はされないが、液状成分が支持体中を通って背面から失われて含有量が低下しないもの、即ちこれらの成分が不透過性を有する材料が好ましい。
具体的には、ポリエステル、ナイロン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、アイオノマー樹脂等からなるフィルム、金属箔や又はこれらのラミネートフィルム乃至シート等が挙げられる。
これらのうち、支持体として粘着剤層との接着力(投錨性)を向上させるために支持体を上記材料からなる無孔性フィルムと多孔性フィルムとのラミネートフィルムとし、多孔性フィルム側に粘着剤層を形成することが好ましい。
【0010】
多孔性フィルムとしては、粘着剤層の投錨性が良好であれば特に限定されないが、例えば紙、織布、不織布、上記材料からなるフィルム乃至シート、又はこれらを機械的に穿孔処理したシート等があげられ、特に紙、織布、不織布が好ましい。
多孔性フィルムの厚みは投錨力の向上及び貼付剤の柔軟性を考慮して通常10〜500μm、プラスタータイプや粘着テープタイプのような薄手の貼付剤の場合は通常10〜200μm程度である。織布や不織布の場合は、これらの目付量を5〜30g/mとすることが投錨力の向上の点で好ましい。
【0011】
本発明における粘着剤層は、支持体の少なくとも片面に形成される。本発明における粘着剤層は、粘着剤、金属塩化物のほか、液状成分、架橋剤、薬物、香料、着色剤、及びその他の添加剤を含有することができる。
粘着剤としては、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ビニルエステル系粘着剤等が挙げられる。皮膚接着力の観点から疎水性粘着剤が好ましく、非含水系の粘着剤層が好ましい。ここにいう非含水系の粘着剤層は、必ずしも完全に水分を含まないものに限定されるわけではなく、空中湿度、皮膚等に由来する若干量の水分を含むものは包含される。
接着力の強さを考慮すれば、ゴム系粘着剤が好ましい。このようなゴム系粘着剤としては、ポリイソブチレン、ポリイソプレン及びスチレン−ジエン−スチレン共重合体から選ばれる少なくとも1種のエラストマーを主成分とするゴム系粘着剤が挙げられる。薬物安定性が高く、必要な接着力及び凝集力が両立できる観点から、粘度平均分子量500,000〜5,500,000、好ましくは2,000,000〜5,000,000の高分子量ポリイソブチレンと、粘度平均分子量10,000〜200,000、好ましくは40,000〜85,000の低分子量ポリイソブチレンとを、95:5〜5:95、好ましくは90:10〜10:90、より好ましくは80:20〜20:80の重量比で配合し、必要により粘着付与剤を配合した粘着剤が好ましい。粘着付与剤としては、例えば、石油系樹脂(例えば、流動パラフィン、脂環族飽和炭化水素樹脂)、テルペン樹脂、ロジン樹脂、クマロンインデン樹脂、スチレン系樹脂(例えば、スチレン樹脂、α−メチルスチレン)等が例示される。本明細書にいうゴム系粘着剤は、このような粘着付与剤が添加される場合、エラストマーと粘着付与剤との混合物を意味するものとする。
発汗時の汗成分の存在下での皮膚接着力を考慮すれば、粘着性ポリマーとしてアクリル系重合体を含むアクリル系粘着剤が好ましい。
【0012】
本発明におけるアクリル系重合体は、通常は(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含む重合体であり、好ましくは(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分として共重合した共重合体である。
【0013】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルのアルキル基は、人の皮膚への粘着性の観点から、炭素数4〜18程度、特に4〜13が好ましく、直鎖でも、分岐鎖でも良い。具体的には、ブチル、ペンチル、へキシル、へプチル、オクチル、2−エチルヘキシル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル等が挙げられ、2−エチルヘキシルがとくに好ましい。(メタ)アクリル酸アルキルエステルは1種又は2種以上の組み合わせで使用される。
【0014】
上記の(メタ)アクリル酸アルキルエステルと共重合し得るモノマーとしては、例えば(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸等のカルボキシル基を有するモノマー;スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシナフタレンスルホン酸、アクリルアミドメチルスルホン酸等のスルホン酸を有するモノマー;(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピルエステル等のヒドロキシル基を有するモノマー;(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等のアミド基を有する(メタ)アクリル酸誘導体;(メタ)アクリル酸アミノエチルエステル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルエステル、(メタ)アクリル酸t−ブチルアミノエチルエステル等の(メタ)アクリル酸アミノアルキルエステル;(メタ)アクリル酸メトキシエチルエステル、(メタ)アクリル酸エトキシエチルエステル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリルエステル等の(メタ)アクリル酸アルコキシエステル;(メタ)アクリル酸メトキシエチレングリコールエステル、(メタ)アクリル酸メトキシジエチレングリコールエステル、(メタ)アクリル酸メトキシポリエチレングリコールエステル、(メタ)アクリル酸メトキシポリプロピレングリコールエステル等の(メタ)アクリル酸アルコキシアルキレングリコールエステル;(メタ)アクリロニトリル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ビニルピロリドン(N−ビニル−2−ピロリドン)、メチルビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルピペリドン、ビニルピリミジン、ビニルピペラジン、ビニルピロール、ビニルイミダゾール、ビニルカプロラクタム、ビニルオキサゾール、ビニルモルホリン等のビニルを有する化合物等が挙げられ、これら単独又は2種以上を組み合わせて使用される。これらモノマーの共重合は、得られる共重合体の重量平均分子量に応じて適宜設定される。
【0015】
好ましい共重合体としては、例えば、共重合体中、60〜80重量%のアクリル酸2−エチルヘキシルエステルと、19〜30重量%のN−ビニル−2−ピロリドンと、1〜10重量%のアクリル酸との共重合体、90〜98重量%のアクリル酸2−エチルへキシルエステルと、2〜10重量%のアクリル酸との共重合体等が挙げられ、より好ましくは、アクリル酸2−エチルへキシルエステルとN−ビニル−2−ピロリドンとアクリル酸との共重合体が挙げられる。
【0016】
アクリル系共重合体のガラス転移温度は、共重合組成によっても異なるが、貼付剤としての粘着性の観点から、通常−60〜−10℃であることが好ましく、より好ましくは−43〜−27℃である。重合反応は、自体公知の方法で行うことができ、例えば、上記のモノマーを、重合開始剤(例えば、過酸化ベンゾイル、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル等)を添加して、溶媒(酢酸エチル、トルエン等)中で、30〜90℃、好ましくは50〜70℃で5〜48時間反応させる方法が挙げられる。
【0017】
本発明における液状成分としては、それ自体室温で液状であり、上記の粘着剤を構成する粘着性ポリマーと相溶するものであれば特に限定されない。液状成分は、粘着剤との相溶性の点では有機液状成分が好ましい。
【0018】
有機液状成分として具体的には、ミリスチン酸イソプロピル、ラウリン酸エチル、パルミチン酸イソプロピル、オレイン酸エチル、ラウリン酸イソステアリル、ミリスチン酸イソトリデシル、パルミチン酸オクチル、等の炭素数8〜18、好ましくは12〜16の高級脂肪酸と炭素数が1〜13の1価アルコールとからなる脂肪酸エステル;炭素数8〜10の脂肪酸〔例えば、カプリル酸(オクタン酸、C8)、ペラルゴン酸(ノナン酸、C9)、カプリン酸(デカン酸、C10)等〕;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等のグリコール類;オリーブ油、ヒマシ油、スクアレン、ラノリン等の油脂類;酢酸エチル、エチルアルコール、ジメチルデシルスルホキシド、デシルメチルスルホキシド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルラウリルアミド、ドデシルピロリドン、イソソルビトール、オレイルアルコール、ラウリン酸等の有機溶剤;液状の界面活性剤;ジイソプロピルアジペート、フタル酸エステル、ジエチルセバケート等の従来より公知の可塑剤;流動パラフィン等の炭化水素類;その他、エトキシ化ステアリルアルコール、グリセリンエステル(室温で液状のもの)、ミリスチン酸イソトリデシル、N−メチルピロリドン、オレイン酸、アジピン酸ジイソプロピル、1,3−プロパンジオール、グリセリン等が挙げられる。また、これらの有機液状成分は単独で又は2種以上の組み合わせで使用される。
【0019】
本発明における有機液状成分は、先のアクリル系共重合体との相溶性の観点から、炭素数12〜16の高級脂肪酸と炭素数1〜4の低級1価アルコールからなる脂肪酸エステルが好ましい。該脂肪酸エステルの炭素数12〜16の高級脂肪酸は飽和及び不飽和脂肪酸を包含するが、飽和脂肪酸が好ましく、また炭素数1〜4の低級1価アルコールは直鎖でも分岐鎖でも良い。炭素数12〜16の高級脂肪酸の好適な例としては、ラウリン酸(C12)、ミリスチン酸(C14)、パルミチン酸(C16)が挙げられ、炭素数1〜4の低級1価アルコールの好適な例としては、イソプロピルアルコール、エチルアルコール、メチルアルコール、プロピルアルコール等が挙げられる。これらのうち、好適な脂肪酸エステルとしては、ミリスチン酸イソプロピルが例示される。
【0020】
有機液状成分の配合量は上記の粘着剤の100重量部に対して、好ましくは10〜180重量部である。この配合量が10重量部未満であると、粘着剤層の可塑化が不充分となって皮膚刺激性を低減することが出来ない場合があり、逆に180重量部を超えると、粘着剤が有する凝集力によっても液状可塑剤を粘着剤中に保持させることが出来ない場合があり、粘着剤層表面にブルーミングして接着力が劣る場合があるので好ましくない。
【0021】
粘着剤層に架橋処理を施すための架橋剤は特に制限されないが、例えば有機金属化合物(例えばジルコニウム、亜鉛、酢酸亜鉛等)、金属アルコラート(例えばテトラエチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、アルミニウムイソプレピレート、アルミニウムsec−ブチレート等)又は、金属キレート化合物(例えばジプロポキシビス(アセチルアセトナート)チタン、テトラオクチレングリコールチタン、アルミニウムイソプロピレート、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)等が挙げられる。
【0022】
所望により、これらの粘着剤に、紫外線照射や電子線照射等の放射線照射による物理的架橋を施しても良いし、三官能性イソシアネート等のイソシアネート系化合物や有機過酸化物、有機金属塩、金属アルコラート、金属キレート化合物、多官能性化合物(多官能性外部架橋剤やジアクリレートやジメタクリレート等の多官能性内部架橋用モノマー)等の各種架橋剤を用いた化学的架橋処理を施しても良い。粘着剤と上記液状成分とが配合された粘着剤層を架橋させた、いわゆるゲル状態の粘着剤層は、皮膚にソフト感を与えつつ適度な接着性と凝集力を有するので好ましい。架橋処理には、上記架橋剤を1種又は2種以上を組み合わせて用いても良い。架橋剤の配合量は、架橋剤や粘着剤の種類によって異なるが、架橋する粘着剤の100重量部に対して、通常0.1〜0.6重量部、好ましくは0.15〜0.4重量部である。
【0023】
本発明における金属塩化物は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、鉄族、アルミニウム族、炭素族から選ばれる金属の塩化物であり、例えば、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化アルミニウム、塩化第一スズ、及び塩化第二鉄等が挙げられる。これらの金属塩化物はどれも本発明の効果を発揮するものであるが、安全性、実用性の観点から、好ましくは塩化ナトリウムである。これらはいずれかを単独で用いても、2種類以上を組み合わせても良い。
【0024】
本発明において金属塩化物としては、一次粒子が凝集して形成された二次粒子を含む。本明細書にいう金属塩化物の一次粒子は、粘着剤層中に存在する金属塩化物の結晶の最小単位を意味する。ほとんどの場合、金属塩化物の一次粒子は、金属塩化物の1つの結晶である。本明細書にいう金属塩化物の二次粒子は、前述の一次粒子の複数が凝集し生成した一塊の粒子を意味する。
【0025】
金属塩化物の二次粒子の形状としては球状、集塊状、鎖状、無定形状等、種々あり得るが、本発明におけるそのような二次粒子は、一次粒子が鎖状に凝集した形状を有する二次粒子を含む。鎖状の形状としては、分岐を有する又は有しない鎖状の形状が含まれる。
【0026】
意外にも、そのような金属塩化物の鎖状の形状の二次粒子が粘着剤層に含まれることによって、粘着剤層の接着力が著しく増強される。好ましい実施態様に従えば、金属塩化物の存在による接着力の増大の程度は、添加される金属塩化物の量と同量の粘着剤を増量した場合の接着力を上回ることすらある。
【0027】
そのような形状の二次粒子が粘着剤層に含まれると、粘着剤層の粘着面の平滑性を確保することができる。また、金属塩化物は、いわゆる充填剤効果によって、粘着剤層の凝集力を確保することも可能である。このような粘着面の平滑性及び凝集力の相互作用によって、強い粘着力が発現するものと推測される。
【0028】
接着力の観点から、金属塩化物の二次粒子の鎖状の形状は、分岐を有する形状が好ましい。鎖状の形状が分岐を有する場合、そのような二次粒子鎖が複雑に絡み合うことで、本発明の効果が増強されるものと推定される。
【0029】
金属塩化物の配合量は100重量部の粘着剤に対して1〜40重量部、好ましくは2重量部以上30重量部以下である。1重量部よりも少ない場合は、接着力の向上は不十分となる可能性がある。一方、金属塩化物の濃度が100重量部の粘着剤に対して40重量部を越えると金属塩化物の占める割合が過剰となり大きな二次粒子が増えることで、単位面積あたりの二次粒子数が減少し、接着力が低下すると考えられる。
【0030】
粘着剤中の金属塩化物としては、鎖状粒子の配合効果を損なわない範囲で、一次粒子、あるいは球状、集塊状、無定形状の二次粒子を含んでいてもよく、鎖状二次粒子として好ましくは50〜100%含まれていれば良い。
本発明における金属塩化物の粒子の粒子数は、後述する方法で測定した場合、0.5×10個/cm以上1×10個/cm以下程度、好ましくは1×10個/cm以上1×10個/cm以下程度である。
【0031】
本発明における鎖状の二次粒子の粒子径は、好ましくは、50〜500μm、より好ましくは、150〜300μmであり、50μm未満では接着力が低下する虞があり、500μmを超えると、粗面化して、外観不良、接着力の低下を来す可能性がある。
【0032】
本発明における鎖状の二次粒子の生成は、金属塩化物の一次粒子の粒子径及び金属塩化物の粘着剤層中の量により制御できる。かかる観点から、金属塩化物の一次粒子の粒子径は約0.01〜100μmであり、約0.1〜10μmの範囲にあることが好ましい。
【0033】
本発明の粘着剤層中における金属塩化物の粒子数、粒子径(一次粒子及び二次粒子)、及び二次粒子の粒子形状は次の測定方法で測定される。
粒子数は、デジタルマイクロスコープ(VHX−600、株式会社キーエンス)を用いて評価する。ステージ上に、試料を粘着剤層の粘着面を上にしてのせる。粒子数はレンズ倍率を200倍とし、できるだけ多くの粒子に焦点が合うように調節し、面積計測にて輝度範囲0〜100を抽出後、50ピクセル以下の小粒除去及び1000ピクセル以下の穴埋め処理を行い、1視野(1.8mm)当りの粒子数の一括計測を行う。これを無作為に抽出した3視野にて行い、得られた粒子数の平均値を1cm当りに換算する。また、この時に、金属塩化物の二次粒子の形状も評価する。
【0034】
粒子径は、10粒の一次粒子又は二次粒子を無作為に選択し、選択された一次粒子又は二次粒子のうち、それぞれの粒子についてスケール測定によって求めた粒径を相加平均することで得られる。なお、ここでいう「粒径」とは、粒子の投映像に外接する円の直径を意味する(外接円相当径)。なお、「外接円相当径」は顕微鏡観察による粒径測定での便宜上からの粒径の定義として既知であり、例えば、「粉体−理論と応用−」(改訂第二版、第55頁、昭和54年5月12日発行、丸善株式会社刊)に記載されている。
【0035】
所望により粘着剤層に薬物を含有させて、貼付製剤を形成することができる。ここにいう薬物は特に限定されず、ヒト等の哺乳動物にその皮膚を通して投与し得る、すなわち経皮吸収可能な薬物が好ましい。そのような薬物としては、具体的には、例えば、全身性麻酔薬、催眠・鎮静薬、抗癲癇薬、解熱鎮痛消炎薬、鎮暈薬、精神神経用薬、局所麻酔薬、骨格筋弛緩薬、自律神経用薬、鎮痙薬、抗パーキンソン薬、抗ヒスタミン薬、強心薬、不整脈用薬、利尿薬、血圧降下薬、血管収縮薬、冠血管拡張薬、末梢血管拡張薬、動脈硬化用薬、循環器用薬、呼吸促進薬、鎮咳去痰薬、ホルモン薬、化膿性疾患用外用薬、鎮痛・鎮痒・収斂・消炎用薬、寄生性皮膚疾患用薬、止血用薬、痛風治療用薬、糖尿病用薬、抗悪性腫瘍用薬、抗生物質、化学療法薬、麻薬、禁煙補助薬等が挙げられる。
【0036】
薬物の含有量は、その経皮吸収用薬物の効果を満たし、粘着剤の接着特性を損なわない範囲であれば特に限定されないが、好ましくは粘着剤中に0.1〜60重量%、より好ましくは0.5〜40重量%含有されることが好ましい。0.1重量%より少ないと治療効果が十分でない虞があり、60重量%より多いと皮膚刺激発生の可能性がありまた経済的にも不利である虞がある。
【0037】
剥離シートとしては、使用時に粘着剤層から容易に剥離されるものであれば特に限定されず、例えば粘着剤層との接触面にシリコーン処理が施された、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート等のフィルム、あるいは上質紙又はグラシン紙とポリオレフィンとのラミネートフィルム等が用いられる。該剥離シートの厚みは、通常200μm以下、好ましくは25〜100μmである。本発明の貼付剤の形状は限定されず、例えば、テープ状、シート状の形態、リザーバー型の形態等を含む。
【0038】
本発明の貼付剤の製造方法は特に限定されないが、例えば次のような工程にて製造することができる。
金属塩化物の一次粒子は、塩酸を、金属を含有する無機塩基と混合し、中和反応させることで得ることができる。鎖状の二次粒子の形状を得るためには、微細な一次粒子を得ることが好ましく、かかる観点から、そのような中和反応は、非水溶媒中で行われることが好ましい。ここにいう非水溶媒は、実質的に水を含有しない溶媒を意味する。ここにいう実質的に水を含有しない溶媒は、5重量%以下の水分が含まれるものは包含される。
塩酸としては、塩化水素を37重量%を上限として、例えば、水、又はメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等の溶媒に溶解させたものが挙げられるが、このうち、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等の溶液が好ましく、0.1〜10重量%のメタノール又はエタノール溶液が特に好ましい。
当該塩酸を、金属を含有する無機塩基と反応させる。固体状の無機塩基又は、例えば水,メタノール,エタノール等の溶媒に溶解した無機塩基と直接反応させることができる。好ましくは、低級アルコール(例えばメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ブタノール等のC1−6アルコール)、酢酸エチル等の有機溶媒中、より好ましくは2−プロパノール中で混合して反応させることによって、微小で均一な金属塩化物の一次粒子を生成させることができる。
塩酸と金属含有無機塩基の混合比率は、モル比として10:90〜90:10程度が好ましく、45:55〜55:45程度がより好ましい。
金属を含有する無機塩基としては、限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の金属炭酸塩等の、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の無機塩基等が例示される。副生成物を生じ難いという観点から、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物が好ましく、より好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムであり、水酸化ナトリウムが特に好ましい。
【0039】
上記の中和反応によって生成させた金属塩化物の分散液を静置し、金属塩化物が沈殿したら、上澄みを取り除き、濃縮する。これを、例えば、粘着剤(例えばアクリル系共重合体粘着剤等)、架橋剤、並びに必要に応じて液状成分やその他の添加剤等と共に、溶媒又は分散媒に溶解又は分散させることができる。
粘着剤層形成用の塗工液に用いる溶媒又は分散媒は、特に限定されず、粘着剤の溶媒等として通常使用されるものを粘着剤の種類、薬物との反応性等を考慮して選択することができる。例えば、酢酸エチル、トルエン、ヘキサン、2−プロパノール、メタノール、エタノール等が挙げられる。
【0040】
粘着剤層形成用の塗工液は塗工前に、1時間以上、好ましくは8〜20時間、より好ましくは10〜15時間撹拌する。このように塗工液を撹拌することが、金属塩化物の一次粒子の塊状凝集を抑え、鎖状二次粒子の生成を促進して、塗工後に粘着剤層中に鎖状の形状の金属塩化物の二次粒子を生成させることができる。
次に、静置して脱泡した塗工液を、支持体の片面もしくは剥離シートの剥離処理面に塗布し、乾燥して粘着剤層を形成し、その後、剥離シートもしくは支持体の片面と貼り合わせることができる。かかる剥離シートを粘着剤層上に貼りあわせ、本発明の貼付剤を調製することができる。粘着剤層に架橋処理を施す場合、例えば40〜90℃、好ましくは60〜70℃で例えば24〜48時間、エージング処理等を施すことによって架橋反応を促進させることができる。
【0041】
粘着剤層が薬物を含む貼付製剤では、薬物の塩酸塩を、金属を含有する無機塩基と配合し中和反応させることで、金属塩化物と薬物の遊離体を生成させることができる。このような手法でも、前述の好ましい粒子径の金属塩化物の一次粒子を得ることができる。なお、金属を含有する無機塩基としては前述したものと同じものが使用できる。
【実施例】
【0042】
以下に実施例を挙げて本発明を詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下文中で部又は%とあるのは全て重量部又は重量%を意味する。
【0043】
[塩化ナトリウム(A)の調製]
実施例ごとに必要量を調製した。0.5mol/Lメタノール性塩酸と10%水酸化ナトリウム−メタノール溶液等モルを2−プロパノール中で中和反応させ、塩化ナトリウムを生成させ、約1時間放置した後に上澄みを捨て塩化ナトリウム(A)を分散液として調製した。塩化ナトリウム(A)の一次粒子径は、約0.1〜約10μmであった。
【0044】
[塩化ナトリウム(B)の調製]
市販の塩化ナトリウムを蒸留水に溶解させ、25%水溶液を調製した。
【0045】
[アクリル系共重合体粘着剤の調製]
不活性ガス雰囲気下、アクリル酸2−エチルヘキシル75部、N−ビニル−2−ピロリドン22部、アクリル酸3部及びアゾビスイソブチロニトリル0.2部を酢酸エチル中60℃にて溶液重合させてアクリル系共重合体粘着剤の溶液を調製した。
【0046】
(実施例及び比較例)
【0047】
[実施例1]
アクリル系共重合体粘着剤45部、ミリスチン酸イソプロピル(以下「IPM」)54部を容器内で均一になるように混合撹拌を行い、架橋剤としてのエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート0.3部(粘着剤固形分100部に対して)及び塩化ナトリウム(A)1部(塩化ナトリウムの実質添加量を1部とするのに必要な量の分散液を添加)を添加、2−プロパノールでベース濃度を35重量%に調整し、塗工液を得た。塗工液を12時間撹拌した。剥離ライナーとしてのポリエステルフィルム(75μm厚)に乾燥後の厚みが約80μmとなるように塗工、乾燥して粘着剤層を形成し、支持体に貼り合せた後に60℃で48時間エージング処理を行い、実施例1の貼付剤を得た。
ベース濃度(w%)は、塗工液重量(g)から、2−プロパノール、酢酸エチル、及びメタノールの重量を引いた重量(g)を、塗工液重量(g)で除した値に100を乗じた値(重量%)である。
【0048】
[実施例2]
実施例1において、アクリル系共重合体粘着剤45部、IPM52部、塩化ナトリウム(A)3部としたほかは実施例1と同様にして実施例2の貼付剤を得た。
【0049】
[実施例3]
実施例1において、アクリル系共重合体粘着剤45部、IPM50部、塩化ナトリウム(A)5部としたほかは実施例1と同様にして実施例3の貼付剤を得た。
【0050】
[実施例4]
実施例1において、アクリル系共重合体粘着剤45部、IPM45部、塩化ナトリウム(A)10部としたほかは実施例1と同様にして実施例4の貼付剤を得た。
【0051】
[実施例5]
実施例1において、アクリル系共重合体粘着剤35部、IPM62部、塩化ナトリウム(A)3部としたほかは実施例1と同様にして実施例5の貼付剤を得た。
【0052】
[実施例6]
実施例1において、アクリル系共重合体粘着剤55部、IPM42部、塩化ナトリウム(A)3部としたほかは実施例1と同様にして実施例6の貼付剤を得た。
【0053】
[比較例1]
実施例1において、塩化ナトリウム(A)1部を、IPM1部に置き換えたほかは実施例1と同様にして比較例1の貼付剤を得た。
【0054】
[比較例2]
実施例2において、塩化ナトリウム(A)3部を塩化ナトリウム(B)3部(塩化ナトリウムの実質添加量を3部とするのに必要な12部の水溶液を添加)に置き換えたほかは実施例2と同様にして比較例2の貼付剤を得た。
【0055】
[比較例3]
実施例5において、塩化ナトリウム(A)3部をIPM3部に置き換えたほかは実施例5と同様にして比較例3の貼付剤を得た
【0056】
[比較例4]
実施例6において、塩化ナトリウム(A)3部をIPM3部に置き換えたほかは実施例6と同様にして比較例4の貼付剤を得た。
【0057】
(実験例)
塩化ナトリウム粒子の形状及び粒子数の測定
明細書に前記した方法により測定した。
【0058】
[接着力測定試験]
ベークライト(フェノール樹脂)板に幅24mm、長さ50mmに切断したサンプルを重さ2kgのローラーを一往復させて圧着し、30分経過後、引き剥がし角度180°、引張速度300mm/分にて引き剥がし、その際の剥離力を測定した。試験数はn=3で行い、各試験3点の荷重を測定し計9点を平均した。結果を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
表中、凝集破壊は、指で膏体(粘着剤層)面をこすった際に膏体が指に附着する否かで判定する。
【0061】
市販の塩化ナトリウムの25%水溶液である塩化ナトリウム(B)を用いて得られた比較例2の粘着剤層中の塩化ナトリウムの一次粒子の粒子径は10μmを超えており、不均一であった。これに対して、塩化ナトリウム(A)を用いて得られた実施例の粘着剤層中の塩化ナトリウムの一次粒子の粒子径は、0.1〜10μmの範囲内にあった。比較例2の二次粒子は、一次粒子が球状に凝集していた。
【0062】
実施例は、同量の粘着剤を含む比較例と比較して、接着力が高かった。鎖状の塩化ナトリウムの二次粒子を含む実施例2は、球状のものを含む比較例2よりも、接着力が高かった。分岐を有する二次粒子を含む実施例4は接着力が良好であった。実施例4は、粘着剤の量が比較例4の量よりも少ないにもかかわらず、接着力は比較例4よりも高かった。
【0063】
図1の顕微鏡写真に示されるように、実施例1〜4ではいずれも細長い鎖状の二次粒子が観察され、比較例2では球状の二次粒子が観察された。なお、図1ではわかりやすいため500倍に拡大した写真を示した。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の実施例1(図1A)、実施例2(図1B)、実施例3(図1C)、実施例4(図1D)及び比較例2(図1E)において観察される塩化ナトリウムの二次粒子である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属塩化物を含有する粘着剤層を支持体の少なくとも片面に備える貼付剤又は貼付製剤であって、該金属塩化物が、一次粒子が鎖状に凝集した形状を有する二次粒子として含有される、貼付剤又は貼付製剤。
【請求項2】
金属塩化物の含有量が、粘着剤45重量部に対して0.5〜15重量部である、請求項1に記載の貼付剤又は貼付製剤。
【請求項3】
金属塩化物の二次粒子の形状が、分岐を有する鎖状の形状である、請求項1又は2に記載の貼付剤又は貼付製剤。
【請求項4】
粘着剤層中の金属塩化物の二次粒子の個数が、0.5×10個/cm以上である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の貼付剤又は貼付製剤。
【請求項5】
金属塩化物が、塩化ナトリウムである、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の貼付剤又は貼付製剤。
【請求項6】
塩化ナトリウムが、酸塩基中和反応によって生成した塩である、請求項5に記載の貼付剤又は貼付製剤。
【請求項7】
粘着剤層が、さらに液状成分及び架橋剤を含む、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の貼付剤又は貼付製剤。
【請求項8】
粘着剤層が、さらに薬物を含む、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の貼付剤又は貼付製剤。

【図1】
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【公開番号】特開2010−111598(P2010−111598A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−283520(P2008−283520)
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】