説明

貼付薬用伸縮性不織布

【課題】 本発明は、膏体を塗布形成するための貼付薬用伸縮性不織布に関するものであり、患部に膏体面の一部を貼着した状態で膏体と患部との密着を図るために貼付薬を伸ばした状態で貼付薬を貼着した場合であっても、患部の動きに追従し得る貼付薬用伸縮性不織布を提供すること。
【解決手段】 この目的の達成を図るため、本発明に係る貼付薬用伸縮性不織布の構成によれば、顕在化した潜在捲縮繊維を主体とし、この潜在捲縮繊維の繊維長が60mm以上100mm以下であることを特徴としている。また、この貼付薬用伸縮性不織布にあっては、その縦及び/または横の伸び率が200%以上であることが好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、薬効成分を含む膏体を塗布して外用貼付薬を構成するための貼付薬用伸縮性不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、伸縮性不織布は、その優れた伸縮性を利用することによって種々の用途に用いられている。特に、当該不織布の構成繊維を潜在捲縮性の短繊維とすることにより、不織布の代表的な製造技術であるカード法或いはエアレイ法によって、生産性と伸縮性との双方を両立させ得ることが知られている。その一例として、本出願人が提案している特開2001−11762号公報(特許文献1)に係る技術では、顕在化した潜在捲縮繊維を主体とし、この潜在捲縮性繊維の平均繊維長を40mm以下とし、例えば50mm程度の従前知られている繊維長に較べて短い繊維長のものを採用する。これによって、伸度特性を確保しつつ、例えば50%程度伸長させた際の応力低減を図る構成としている。
【0003】
また、この特許文献1にも開示されるように、カード機の工程通過性を良好とするため、短繊維は所定の繊維長にカットされた後、ジグザグ状の捲縮が付与される。通常、カード機通過性を考慮した捲縮数は20(個/インチ)程度である。このような捲縮数が多いほど、引き伸ばした際の寸法変化が大きく採れること、並びに、捲縮数を過剰に付与した短繊維はカード機通過性が低下し、落綿等の現象を来すことも知られている。従って、従来の伸縮性不織布では、カード機投入時には上記通過性を確保し得る程度の捲縮数を有し、その後に施される加熱処理等によって、例えば40(個/インチ)以上の極めて多数の捲縮数にまで増加するような潜在捲縮繊維が用いられている。
【0004】
一方、このような伸縮性不織布の用途として外用貼付薬が知られている。一般的な外用貼付薬の構成では、伸縮性不織布を始めとする種々の基材の片面に、薬効成分を含む膏体が塗布されている。この膏体は皮膚に貼着するための粘着性に富むことから、当該貼付薬の使用時までの取扱い性を考慮して、膏体をフィルム等のライナーで覆った状態で流通する。従って、患部への貼着時にはライナーを剥離する必要がある。しかしながら、伸縮性を有する基材は、曲がり易さも兼ね備えているため、ライナーと膏体とを完全に剥離した場合、膏体の粘着性により貼付薬の膏体面同士が貼り付いてしまい、利便性が低下する場合が有った。
【0005】
このような利便性の低下を軽減する目的で、特開2002−306530号公報(特許文献2)に開示される技術では、支持体の片面に粘着性の基剤成分を含有する基剤層と、この基剤層上を被覆する剥離シート(ライナー)とから成る粘着剤において、剥離シートの所定位置に切り込み線を設け、この切り込み線と並行して折れ線が設けられた外用貼付剤が提案されている。この公報技術に開示される実施形態によれば、上述した切り込み線を介して、剥離シートは2つ以上の部分に分割されている。貼付時の使用者の動作を例示すれば、同公報に添付された[図1]に示す態様の場合、剥離シートに設けられた折れ線部分で貼付剤を屈曲させ、この折れ線部分を含む剥離シート部分とは、切り込み線を挟んで分割された剥離シート部分を剥離する。このようにして露出状態となった基剤層部分を患部に貼着させ、折れ線部分を含む剥離シート部分を使用者が把持した状態で、当該残りの剥離シート部分を剥離しながら、患部の上を滑らすように貼着する。このような使用者の動作により、貼付剤にシワ等を発生することなく、貼付がスムーズに行い得るとしている。
【0006】
【特許文献1】特開2001−11762号公報([特許請求の範囲]、[従来の技術]、[実施例])
【特許文献2】特開2002−306530号公報([特許請求の範囲]、[従来の技術]、[0017]、[図1]、[図2])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した背景技術からも理解できるように、貼付薬の貼着時には、剥離シートの一部を剥離した後、これによって露出する膏体面を患部に貼着する動作を経て行われる場合がある。この際、膏体面を患部に密着貼付するには、その基材となる伸縮性不織布を伸長させながら行う。このように引き伸ばされる長さは、貼付薬の寸法設計によって異なるものの、本出願に係る発明者の検証によれば貼付薬の寸法に対して10〜50%程度である。既に述べたように、貼付薬には、貼付された状態で関節等の動きに追従する機能が期待されるが、貼付後の追従に必要な伸縮性は、上述した貼付時の伸長動作に相当する分だけ失われてしまうという問題点を新たに生じることとなった。
【0008】
この発明は、上述した従来の問題点に鑑み成されたものであり、従って、本発明の目的は、貼付薬貼付時の利便性を減じることなく、しかも、貼付後の優れた伸縮性を有する貼付剤用伸縮性不織布を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的の達成を図るため、本発明の貼付剤用伸縮性不織布の構成によれば、顕在化した潜在捲縮繊維を主体とし、この潜在捲縮繊維の繊維長が60mm以上100mm以下であることを特徴としている。尚、この発明で言う「繊維長」とは、JIS L1015『化学繊維ステープル試験方法』の8.4.1に直接法(C法)として規定される測定値、即ち、繊維径変化を生じない程度に繊維の屈曲を解消した状態で得られる寸法値を言う。また、上述した「顕在化した潜在捲縮繊維を主体とし」とは、潜在捲縮繊維を少なくとも50mass%以上含むことを言う。
【0010】
また、本発明の実施に当たり、上述した貼付薬用伸縮性不織布の縦及び/または横の伸び率を200%以上とするのが好適である。尚、この「縦」とは、不織布の生産方向に相当する不織布表面内での方向、「横」とは生産幅方向に相当する面内方向を言う。さらに、この伸縮性不織布の「伸び率」並びにその他の物性に付いては、JIS L1096『一般織物試験方法』に準じて、下記の方法により測定した。即ち、本発明にかかる伸縮性不織布に関する50%、100%伸長時の強さ、引張強さ、伸び率は、200mm×50mmの試料片を採取し、市販の引張試験機「テンシロン」(オリエンテック社製、商品名)により、つかみ間隔100mmで長手方向の両端をセットし、引張り速度200mm/分で測定した。この際、各物性値は3点の平均を採った。また、厚さは、接触面積5cm、荷重0.98N(100gf)の条件で圧縮弾性試験機にて測定し、10点の平均を採った。
【発明の効果】
【0011】
上述した本発明の構成を採用することにより、本発明の不織布を基材とした貼付薬の貼付時に引き伸ばされた場合であっても、貼付後の貼付薬に十分な追従性を確保することができる。従って、使用者の利便性を損なうことなく、患部の動きに追従し得る伸縮性不織布を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態につき説明する。本発明の伸縮性不織布は、上述した構成において、潜在捲縮繊維の繊維長を60mmから100mm、より好ましくは、60mmから80mmの範囲とするのが良い。この繊維長の好適範囲よりも短い繊維長の場合、前述した貼付時の伸長分を確保することが難しくなり、逆に、繊維長を長くするに従って、例えばカ−ド機のローラー部に繊維の巻き付きが発生し、カード機通過性が低下する傾向にある。この発明に用いられる潜在捲縮繊維及び、これ以外の繊維は、繊維長に関わる要件を除き、前述した特許文献1に開示されるものを用いることができる。即ち、潜在捲縮繊維としては、融点の異なる複数の樹脂がその断面形状において複合されたサイドバイサイド型、芯鞘型等の複合繊維の形態を持つもの、繊維の一部に特定の熱履歴を施した繊維を用いるのが好適である。融点の異なる樹脂の組み合わせとしては、ポリエステル−低融点ポリエステル、ポリエステル−ポリアミド、ポリアミド−低融点ポリアミド、ポリエステル−ポリプロピレン、ポリプロピレン−低融点ポリプロピレン、ポリプロピレン−ポリエチレンなど、種々の合成樹脂の組み合わせで実施することが可能である。特に、ポリエステル−低融点ポリエステル、若しくは、ポリプロピレン−低融点ポリプロピレンの組み合わせから成る潜在捲縮繊維は、化学的耐性や伸度特性の点で優れており、好適に用いることができる。
【0013】
上述した潜在捲縮繊維は、本発明の伸縮性不織布において、少なくとも50mass%、より好ましくは80mass%以上とするのが好適である。このような潜在捲縮繊維以外の繊維成分を含む形態の場合、例えば複合繊維の形態を有する熱接着性繊維や、膏体との親和性を目的とする種々の親水性繊維を補助的に用いても良いが、当該不織布を潜在捲縮繊維のみから構成するのが最も好ましい。
【0014】
これら繊維をウエブとして形成するためには、前述した特許文献1に開示されるように、カード機やエアレイ機等を任意好適に選択して用い、ウエブの工程内での搬送性或いは最終的に得られる伸縮性不織布における強度特性の設計に応じ、ニードルパンチ法や高圧水流絡合法による絡合手段を併用することもできる。また、潜在捲縮繊維の捲縮を顕在化せしめる手段として、熱風ドライヤー、赤外線ランプ、或いは加熱ロールなど、従来周知の装置を用いることができる。
【0015】
さらに、本発明の貼付薬用伸縮性不織布の面密度は、基材を構成する繊維分布を均一にし、膏体の染み出しを防止する観点から80(g/m)以上とするのが好ましい。また、130(g/m)以上では外用薬基布として厚さが大きくなり、貼付薬として患部に貼付した際に、衣服等との擦れが生じやすくなる。このため、エッジが捲れて貼付薬が剥離してしまう場合がある。
【実施例】
【0016】
以下、本発明の実施例として、繊維長の異なる種々の伸縮性不織布を作製して伸度特性を検証すると共に、各々の不織布に膏体を塗布した後の伸度特性等を検証評価した結果について述べる。尚、ここでは、説明の理解が容易となる程度の特定条件を挙げて説明するが、本発明は、これら特定条件にのみ限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内で任意好適な設計の変更及び変形を行い得る。
[実施例1]
まず、ポリエステル−低融点ポリエステルの組み合わせで構成された市販の潜在捲縮繊維(繊度2.2デシテックス、繊維長76mm)のみをカード機にかけてウエブ形成後、周知構成のニードルパンチ機で針密度60(本/cm)の絡合を施した。次いで、この潜在捲縮繊維の捲縮発現温度である190℃の温度条件とした熱風ドライヤー内で約10秒間にわたって加熱処理することにより、面密度102(g/m)、20(g/cm)圧縮荷重時の厚さ0.83(mm)の実施例1に係る伸縮性不織布を得た。
[実施例2]
上述した実施例1の潜在捲縮繊維に代えて、繊維長が64(mm)であることを除き、同一の繊維樹脂構成、並びにウエブ形成条件により、面密度108.5(g/m)、20(g/cm)圧縮荷重時の厚さ0.82(mm)の実施例2に係る伸縮性不織布を得た。
[比較例1]
比較例1として、繊維長を51(mm)としたことを除いては、上述と同一の繊維構成、並びにウエブ形成条件として、面密度102.2(g/m)、20(g/cm)圧縮荷重時の厚さ0.87(mm)の伸縮性不織布を得た。
[比較例2]
比較例2として、繊維長38(mm)としたことを除き、上述した一連の調製例と同一の条件で、面密度103.3(g/m)、20(g/cm)圧縮荷重時の厚さ0.93(mm)の伸縮性不織布を得た。
【0017】
これら一連の伸縮性不織布の調製例に係るサンプルにつき、各例の特徴点となる繊維長並びに、各伸度特性を測定した結果につき、表1に示す。
【0018】
【表1】

【0019】
この表1に示す結果からも理解できる様に、本発明の構成を適用した実施例1並びに実施例2に係る伸縮性不織布では、これよりも繊維長の短い潜在捲縮繊維を用いた比較例1並びに比較例2に較べ、ほぼ同等の50%伸長時の強さ、並びに100%伸長時の強さを示すにもかかわらず、伸び率に秀でていることが確認できた。また、実施例に係る2つの伸縮性不織布では、破断に至るまでの伸び率が約2割以上増大するため、伸長させた後の繊維分布(地合)は2つの比較例に較べて均一な状態を保っていた。
【0020】
次いで、上述した一連の伸縮性不織布に対して、一般的な貼付薬に用いられているポリアクリル酸ゲルを主成分とする膏体(ポリアクリル酸部分中和物60重量部、グリセリン200重量部、ヒドロキシアルミニウムアミノアセテート1重量部、酒石酸1.5重量部、水800重量部)を塗布形成した後の評価結果につき説明する。この評価試験では、各不織布に膏体を塗布して先に述べた伸縮性不織布の幅方向を長手方向に採って横14cm×縦10cmの貼付薬サンプルを調製し、上述した基材と同様に伸度特性を測定すると共に、貼付薬を50%と100%との2水準で伸長させた状態で貼付した際の貼付感を官能評価した。これら結果につき、表2に示す。尚、同表中、貼付感を示す指標として、伸長させずに貼付した場合との比較で違和感を全く感じず、しかも肘を患部とした場合の追従性にも違和感を感じない場合を◎、違和感が若干あるが貼付薬の角が浮かなかった場合を○、貼付薬の角が剥がれた場合を△、貼付薬の角以外の部分も剥がれた場合を×として示す。また、表2にも前述した表1と同様に各物性値を示すが、膏体塗布後のサンプルは極めて伸縮性に富むため、50%、100%伸長時の強さ、引張強さ、伸び率は、下記の条件下で測定した。まずサンプルから伸縮性不織布の幅方向を長手方向に採った80mm×20mmの試料片を採取し、前述の引張試験機におけるつかみ間隔50mmにしてセットし、引張り速度100mm/分で定速伸長させた。このような試料片と測定条件以外は前述と同様に平均値を採った。

【0021】
この表から理解できるように、本発明を適用した実施例に係る貼付薬基材用伸縮性不織布を利用した貼付薬サンプルでは、不織布の破断するまでの伸び率が高くなり、貼付薬に加工された後、例えば貼付薬サイズに対して50%引き伸ばされた状態で貼付され、貼付後の屈折部に追従するために更に50%伸びた場合、つまり100%引き伸ばされた場合であっても患部の拘束感が緩和され、貼付後に十分な追従性を確保し得ることが確認された。従って、屈伸が大きな関節部に貼付した場合でも、使用者の利便性を損なうことなく、患部の動きに追従し得る伸縮性不織布を提供することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
顕在化した潜在捲縮繊維を主体とし、該潜在捲縮繊維の繊維長が60mm以上100mm以下であることを特徴とする貼付薬用伸縮性不織布。
【請求項2】
前記貼付薬用伸縮性不織布の縦及び/または横の伸び率が200%以上であることを特徴とする請求項1に記載の貼付薬用伸縮性不織布。

【公開番号】特開2006−200089(P2006−200089A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−14782(P2005−14782)
【出願日】平成17年1月21日(2005.1.21)
【出願人】(000229542)日本バイリーン株式会社 (378)
【Fターム(参考)】