説明

質量を削減した長時間作用剤形

方法及び組成物が開示され、それによって長期の抗体又は核酸放出を達成するための抗体又は核酸を含む微粒子、移植片などの長時間作用製剤と同時投与される遊離抗体又は核酸。一態様においては、遊離抗体又は核酸は単独で長期間効力を有し、その間に、長時間作用製剤抗体又は核酸はほとんど又は全く放出されない。一態様においては、遊離抗体又は核酸が低活性を有し、消失し、又はもはや活性を持たなくなった後、長時間作用製剤抗体又は核酸は、前もってプログラムされた所望の期間にわたり放出を開始して、長期作用期間をもたらす。抗体又は核酸全体は、封入又は移植の賦形剤又はポリマーで封入されておらず、封入又は移植の賦形剤又はポリマーを移植もされていないので、製剤質量が少なくて済む。さらに、より多量の抗体又は核酸を投与して、より長時間作用する製剤を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2007年6月7日に出願された米国仮特許出願第60/933,647号の利益および米国仮特許出願第60/933,647号に対する優先権を主張する。米国仮特許出願第60/933,647号は、その全体が本明細書中に参考として援用される。
【0002】
本発明は、遊離抗体又は遊離核酸と抗体又は核酸の長時間作用(又は徐放性)剤形との投与によって抗体又は核酸を送達する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
長時間作用性又は徐放性送達製剤の設計及び開発は、医薬産業において数十年間にわたって多大な努力が集中された。非経口製剤、特に注射又は移植によって投与することができる非経口製剤は、生理活性薬剤の全身及び局所送達を長期間実現するのに特に有用である。かかる剤形の利点は多種多様である。長時間作用製剤によってもたらされる投薬回数の減少は、患者が製剤を投与されなければならない回数及び頻度を単純に減少させることによって、患者のためになり得る。投与が注射又は他の臨床手順を含むときには、注射頻度の減少は、特に眼や脊髄や他の敏感な部位に注射する場合、患者の不快、とう痛及び不自由を軽減する点で、患者に有利である。さらに、生理活性薬剤の長期間の一定した送達は、治療プログラムに対するコンプライアンスも改善することができ、その結果、回復又は治療反応を改善することができる。
【0004】
ある種の徐放性生理活性薬剤の持続時間が長いにもかかわらず(例えば、最高3、6又は9か月以上)、ある種の投与は、総投与体積が小さくなければならない点で問題である。すなわち、ある投与経路に対する総送達体積は有限であり、そのため、送達される生理活性薬剤の量は、微粒子又は移植片のポリマー壁形成若しくはマトリックス材料及び/又は賦形剤が占める体積のために減少する。微粒子又は移植片が占める体積のために、送達される生理活性薬剤が不足し、及び/又は生理活性薬剤が十分な長期間送達されなくなり得る。
【0005】
上記問題、並びにある種の生理活性薬剤を送達する伝統的送達系及び伝統的方法に付随する他の欠点に対処する必要がある。これらの要求及び他の要求は、本発明の送達系及び方法によって満たされる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、非封入(「遊離」)抗体又は核酸が、(微粒子、移植片などによって)封入された抗体又は核酸と同時に投与されて、長期の生理活性放出を達成する、方法及び組成物に関する。一成果は、封入賦形剤がより少量で済み、例えば、眼球、皮内、整形外科、脳及び脊髄送達で要求される小体積投与が可能になることである。一態様においては、非封入抗体又は核酸は単独で長期間効力を有し、その間にほとんど又は全く封入生理活性が放出されない。一態様においては、非封入抗体又は核酸がその活性を低下させ、消失し、又はもはや活性を持たなくなった後、前もってプログラムされた所望の長期作用期間にわたり封入抗体又は核酸が放出を開始する。要約すると、抗体又は核酸の全部が封入賦形剤で封入されるのではないので、製剤質量は少なくて済む。さらに、より多量の抗体又は核酸を投与して、より長時間作用する製剤を提供することができる。最後に、本発明の使用は、全身又は局所送達のためとすることができる。
【0007】
一態様においては、長時間作用製剤を設計及び開発するときに、ある種の抗体又は核酸の長い半減期を利用することが望ましい。特に、(体内又は局所的部位において)作用持続時間の長い遊離抗体又は核酸を含む長時間作用製剤を投与又は送達するのと同時に該抗体又は核酸を投与することが有益である。特に、遊離投与される抗体又は核酸の作用持続時間はしばらく持続し得るので、遊離抗体又は核酸の持続時間のこの初期に抗体又は核酸を放出するように長時間作用製剤を設計する必要はない。
【0008】
一態様においては、本発明は、遊離抗体又は核酸を含む遅延放出製剤と同時に該抗体又は核酸を投与する方法を記述する。好ましくは、投与後に放出される主な抗体又は核酸源が、遊離薬剤として投与された抗体又は核酸の部分に由来するように、長時間作用製剤は比較的少量の抗体又は核酸しか投与後に放出しない。別の一態様においては、本発明は、かかる投与を達成する制御放出製剤を記述する。
【0009】
広範な一態様においては、態様は、生分解性長時間作用製剤のポリマー材料の総系(total system)質量を削減しつつ、対象における抗体又は核酸の放出プロファイルを延長する方法であって、遊離抗体又は核酸と該抗体又は核酸を含む生分解性長時間作用製剤とをほぼ同時に対象に投与することを含み、遊離抗体又は核酸が少なくとも1週間の薬学的に許容される生理活性期間を有し、生分解性長時間作用製剤が遊離抗体又は核酸の活性の低下と一致するようにその抗体又は核酸を放出する、方法を対象とする。
【0010】
別の広範な一態様においては、態様は、遊離抗体又は核酸と該抗体又は核酸を含む生分解性長時間作用製剤とを含む制御放出製剤であって、遊離抗体又は核酸が少なくとも1週間の薬学的に許容される生理活性期間を有し、生分解性長時間作用製剤が遊離抗体又は核酸の活性の低下と一致するようにその抗体又は核酸を放出する、制御放出製剤を対象とする。
【0011】
別の広範な一態様においては、態様は、微粒子のポリマー壁形成材料の総系質量を削減しつつ、抗原又は核酸の放出プロファイルを延長する方法であって、遊離抗原又は核酸と該抗原又は核酸を含む微粒子とをほぼ同時に投与することを含み、遊離抗原又は核酸が少なくとも1週間の薬学的に許容される生理活性期間を有し、微粒子が遊離抗原又は核酸の活性の低下と一致するようにその抗原又は核酸を放出する、方法を対象とする。
【0012】
別の広範な一態様においては、態様は、遊離抗原又は核酸と該抗原又は核酸を含む微粒子とを含む制御放出製剤であって、遊離抗原又は核酸が少なくとも1週間の薬学的に許容される生理活性期間を有し、微粒子が遊離抗原又は核酸の活性の低下と一致するようにその抗原又は核酸を放出する、制御放出製剤を対象とする。
【0013】
別の状況では、本発明の効果は、以下の記述である程度説明され、以下の記述からある程度明らかになるはずであり、又は下記態様の実施によって習得することができる。下記効果は、添付の特許請求の範囲に特に示された要素及び組合せによって理解され、達成されるであろう。上記一般的記述と以下の詳細な説明のどちらも、単なる例示及び説明に過ぎず、限定的なものではないことを理解されたい。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、以下の詳細な説明、実施例、及び特許請求の範囲、並びにその前後の記述を参照することによって、より容易に理解することができる。しかし、本発明の組成物、物品、装置及び/又は方法を開示し、説明する前に、こうしたものは当然変わり得るので、別段の記載がない限り、本発明は、開示する特定の組成物、物品、装置及び/又は方法に限定されないことを理解されたい。本明細書において使用する用語は、単に特定の態様を説明するためのものに過ぎず、限定的なものではないことも理解されたい。
【0015】
本発明の以下の説明は、その現在既知の実施形態において、本発明の授権的な教示として提供される。そのために、当業者は、本発明の有益な結果を依然として得ながら、本明細書に記載する本発明の種々の態様に多数の変更を加えることができることを理解するであろう。本発明の所望の利点の幾つかは、本発明の特徴の幾つかを選択することによって、他の特徴を利用せずに得ることができることも明白であろう。したがって、当業者は、本発明の多数の改変及び手直しが可能であり、ある状況においては望ましくさえあり得、本発明の一部であることを認識するであろう。したがって、以下の説明は、本発明の原理の説明として提供され、その限定ではない。
【0016】
定義
本発明の化合物、組成物及び/又は方法を開示し、説明する前に、こうしたものは当然変わり得るので、下記態様は特定の化合物にも合成方法にも使用にも限定されないことを理解されたい。本明細書において使用する用語は、単に特定の態様を説明するためのものに過ぎず、限定的なものではないことも理解されたい。
【0017】
本明細書及びそれに続く特許請求の範囲においては、以下の意味を有すると定義するものとする幾つかの用語を参照する。
【0018】
本明細書を通して、特に示さない限り、「(複数を)含む」という語、又は「(単数を)含む」、「含むこと」などの変形は、示した整数若しくは段階又は整数若しくは段階の群を含むが、他の整数若しくは段階も整数若しくは段階の群も排除しないことを意味すると理解されたい。
【0019】
本明細書及び添付の特許請求の範囲では、単数形「a」、「an」及び「the」は、特に明示しない限り、複数形も包含することに留意しなければならない。したがって、例えば、「薬剤担体」という表記は、2種類以上のかかる担体の混合物などを包含し、「抗体又は核酸」という表記は、単一の抗体若しくは核酸又は2種類以上の抗体若しくは核酸を含む混合物などを包含し、同様に、「ポリマー」は、単一のポリマー又は2種類以上のポリマーを含む混合物などを包含する。その他も同様である。
【0020】
「任意選択の」又は「場合によっては」とは、その後に記述される事象又は状況が起こり得ることも起こり得ないこともあることを意味し、事象又は状況が起こる場合と起こらない場合をその記述が包含することを意味する。
【0021】
範囲は、本明細書では「約」1つの特定の値から、及び/又は「約」別の特定の値までとして表すことができる。かかる範囲を表すときには、別の一態様は、1つの特定の値から、及び/又は別の特定の値までを包含する。同様に、値を近似値として表すときには、先行する「約」を使用することによって、特定の値が別の一態様を形成することが理解されるであろう。範囲の各々の終点は、他方の終点に関連して、さらに、他方の終点とは無関係に、意味があることが更に理解されるであろう。
【0022】
本明細書では、成分の「wt%」又は「重量%」又は「重量パーセント」は、それに反することを特に示さない限り、該成分が含まれる組成物の総重量に対する該成分の百分率で表される重量比を指す。
【0023】
「接触すること」とは、少なくとも1個の物質と他の物質との密接な物理的接触による曝露の段階を意味する。
【0024】
「十分な量」及び「十分な時間」とは、所望の単一又は複数の結果を得るのに、例えば、ポリマーの一部を溶解させるのに、必要な量及び時間を意味する。
【0025】
「混加物(Admixture)」又は「ブレンド」は、2種類以上の成分の物理的組合せを指すのに本明細書では一般に使用される。ポリマーの場合には、ポリマーの混加物又はブレンドは、2種類以上のポリマーの物理的ブレンド又は組合せである。
【0026】
「薬剤」は、長時間作用製剤中又は長時間作用製剤上に含まれる化合物を一般に指すのに本明細書では使用される。薬剤は、長時間作用製剤中に抗体又は核酸又は賦形剤、より一般的には任意の添加剤を含むことができる。「薬剤」は単一のかかる化合物を包含し、さらに、複数のかかる化合物を包含することも意図される。
【0027】
「生理活性薬剤」は、製薬又は薬用目的で使用されて、幾つかの形態の治療効果をもたらす、又は幾つかのタイプの生物学的応答若しくは活性を誘発する、製剤若しくは剤形中又は製剤若しくは剤形上に含まれる目的化合物を包含するのに本明細書では使用される。本明細書では、生理活性薬剤は典型的には抗体又は核酸を指す。「生理活性薬剤」は単一のかかる薬剤を包含し、さらに、例えば2種類以上の生理活性薬剤の組合せを含めて、複数の生理活性薬剤を包含することも意図される。
【0028】
「賦形剤」は、抗体でも核酸でもない、長時間作用製剤に含まれ得る任意の他の薬剤又は化合物を包含するのに本明細書では使用される。したがって、賦形剤は、薬学的又は生物学的に許容され、又は適切であるべきである(例えば、賦形剤は一般に対象に無毒とすべきである。)。「賦形剤」は単一のかかる化合物を包含し、さらに、複数のかかる化合物を包含することも意図される。
【0029】
本明細書では「生体適合性」とは、レシピエントに対して一般に無毒であり、対象に対していかなる重大な有害効果も持たず、さらには、材料のいかなる代謝産物又は分解産物も対象に対して無毒である、材料を指す。
【0030】
「生分解性」は、一般に、浸食されて可溶性種になる材料、又はそれ自体、対象に対して無毒(生体適合性)であり、対象によって代謝、排除若しくは排出され得るより小さい単位若しくは化学種に生理学的条件下で分解する材料として総称される。
【0031】
「長時間作用性」、「徐放性」、「制御放出」などの用語は、例えば対象に対して抗体又は核酸の長期又は持続性の放出又は生物学的利用能を達成するために当分野で、使用される製剤、剤形、装置又は他のタイプの技術を記述するのに一般に使用される。これらの用語は、全身循環、又は対象、又は対象における細胞、組織、器官、関節、領域などを含めた(ただし、それだけに限定されない)局所的作用部位に、抗体又は核酸の長期又は持続性の放出又は生物学的利用能をもたらす技術を指す場合もある。さらに、これらの用語は、製剤若しくは剤形からの抗体若しくは核酸の放出を延長若しくは持続させるのに使用される技術を指す場合もあり、又はこれらの用語は、対象に対する抗体若しくは核酸の生物学的利用能若しくは薬物動態学若しくは作用持続時間を延長若しくは持続させるのに使用される技術を指す場合もあり、又はこれらの用語は、製剤によって誘発される薬力学的効果を延長若しくは持続させるのに使用される技術を指す場合もある。「長時間作用製剤」、「徐放性製剤」又は「制御放出製剤」(など)は、製剤、剤形、又は対象に対して抗体若しくは核酸の長時間作用性放出をもたらすのに使用される他の技術である。
【0032】
「改変生理活性薬剤」などの用語は、別の実体を用いて、共有結合性手段又は非共有結合性手段によって改変された生理活性薬剤を一般に指すのに本明細書では使用される。この用語は、生理活性薬剤のプロドラッグ体を包含するのにも使用される。プロドラッグ体は、重合体プロドラッグでも非重合体プロドラッグでもよい。ポリマーを用いて実施される改変は、(ポリエチレングリコールPEG、ポリビニルピロリドンPVP、ポリエチレンオキシドPEO、プロピレンオキシドPPO、その共重合体などの)合成高分子、又は(とりわけ、多糖、タンパク質、ポリペプチドなどの)生体高分子、又は合成若しくは改変生体高分子を用いて実施することができる。
【0033】
「微粒子」という用語は、約10nmから2000ミクロン(2ミリメートル)のサイズの種々の実質的に構造を一般に指すのに本明細書では使用され、約2000ミクロン(2ミリメートル)未満であるマイクロカプセル、ミクロスフェア、ナノ粒子、ナノカプセル、ナノスフェア及び粒子全般を包含する。
【0034】
「マイクロカプセル封入」及び「封入」という用語は、形状又は設計にかかわらず、あらゆる種類の長時間作用製剤又は技術に組み入れられる抗体又は核酸を一般に指すのに本明細書では使用される。したがって、「マイクロカプセル封入」又は「封入」抗体又は核酸は、粒子若しくは微粒子などに組み入れられる抗体若しくは核酸を包含し得、又は固体移植片などに組み入れられる抗体若しくは核酸を包含し得る。
【0035】
本明細書では「移植片」は、前もって形成された制御放出性巨視的装置を一般に指すものとする。
【0036】
「針」は、医学、臨床、外科、治療、製薬、薬理、診断、美容及び予防目的を含めた任意の目的で、長時間作用製剤を対象(動物又はヒト)に投与、送達、注射又は導入するのに使用することができる直径の小さい装置を指すのに本明細書では使用される。例としては、臨床、外科、医学、処置又は医学目的で使用される針、皮下針、外科用縫合針、注入針、カテーテル、トロカール、カニューレ、管、管類などが挙げられるが、それだけに限定されない。
【0037】
「対象」は、任意の投与標的を指すのに本明細書では使用される。対象は、脊椎動物、例えばほ乳動物とすることができる。したがって、対象はヒトとすることができる。この用語は、特定の年齢も性別も表さない。したがって、成体及び新生仔対象並びに胎児は、雄性でも雌性でも、包含されるものとする。「患者」とは、疾患又は障害に罹患した対象を指し、ヒト及び獣医学対象を包含する。
【0038】
開示する方法の生成物、及び組成物に使用することができる、併せて使用することができる、その調製に使用することができる、又は開示する方法の生成物、及び組成物である、化合物、組成物及び成分を開示する。これら及び他の材料を本明細書に開示する。これらの材料の組合せ、サブセット、相互作用、群などを開示するとき、これらの化合物の様々な個々及び集団の組合せ及び順列の具体的表示を明示的に開示しない場合があり得るが、各々は本明細書において具体的に企図され、記述されると理解される。例えば、幾つかの異なるポリマー及び薬剤を開示し、考察する場合、それに反することを特に示さない限り、ポリマー及び薬剤の各々の及びすべての組合せ及び順列が具体的に企図される。すなわち、分子A、B及びCの一クラス、並びに分子D、E及びFの一クラス、及び組合せ分子の一例A−Dを開示する場合には、各々を個々に列挙しない場合でも、各々が個々及び集団的に企図される。すなわち、この例では、A、B及びC;D、E及びF;並びに組合せ例A−Dの開示から、組合せA−E、A−F、B−D、B−E、B−F、C−D、C−E及びC−Fの各々が具体的に企図されており、開示されたとみなすべきである。同様に、これらの任意のサブセット又は組合せも具体的に企図され、開示される。したがって、例えば、A、B及びC;D、E及びF;並びに組合せ例A−Dの開示から、A−E、B−F及びC−Eのサブグループが具体的に企図されており、開示されたとみなすべきである。この概念は、開示する組成物を製造及び使用する方法におけるステップを含めて、ただしそれだけに限定されない、この開示のすべての態様に当てはまる。したがって、実施することができる種々の追加のステップが存在する場合、これらの追加のステップの各々は、開示する方法の任意の特定の実施形態又は実施形態の組合せを用いて実施することができ、各々のかかる組合せが具体的に企図されており、開示されたとみなすべきであると理解される。
【0039】
序論及び考察
本発明は、長時間作用(又は徐放性)製剤の投与によって抗体又は核酸を送達する方法に関する。より具体的には、本発明は、遊離抗体又は核酸を含む長時間作用(遅延放出とそれに続く徐放)製剤と同時に該抗体又は核酸(非封入生理活性)を投与する方法を提供する。このようにして、遊離抗体又は核酸の大量瞬時投与は、抗体又は核酸の最初の供給を対象にもたらし、遊離抗体又は核酸の薬物動態学(半減期及び作用持続時間)に基づく時間持続する。本発明の種々の態様においては、例えば、少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも3週間、少なくとも4週間、少なくとも1か月、又は少なくとも2か月以上続く、遊離抗体又は核酸の大量瞬時投与からの長い作用持続時間を有する抗体又は核酸が使用される。大量瞬時投与は、血流又は局所的部位において、治療効果又は別の望ましい薬力学的応答若しくは効果をもたらすのに十分な薬物動態学的抗体又は核酸レベルをもたらすことができる。一態様においては、かかる長期抗体又は核酸は、少なくとも1週間、最高約1か月続き、最高約3か月続く場合もある。
【0040】
抗体又は核酸の大量瞬時投与の作用持続時間後、それに続く長時間作用製剤からの抗体又は核酸の放出は、連続した治療処置のための抗体又は核酸の更なる供給を対象に提供する。長時間作用又は徐放性製剤の持続時間は、当分野で可能な任意の放出期間、例えば、最高3、4、5、6、7、8、9、10又は11か月以上とすることができる。一態様においては、遊離抗体又は核酸の持続期間中又は実質的期間中の微粒子放出は不要であるので、総放出期間を本発明によって延長することができる。
【0041】
一態様においては、投与後初期の主な抗体又は核酸源が、長時間作用製剤と同時に大量瞬時投与量で投与された遊離抗体又は核酸に由来するように、長時間作用製剤は、最初に投与された後、比較的少量の抗体又は核酸しか放出又は送達しない。このようにして、遊離抗体又は核酸の大量瞬時投与は、最初の抗体又は核酸を体又は局所的部位に供給し、次いで、抗体又は核酸のこの部分は、その特定の薬物動態学プロファイル(半減期及び作用持続時間)に基づく時間持続する。
【0042】
本明細書では、「生分解性長時間作用製剤が遊離抗体又は核酸の活性の低下と一致するようにその抗体又は核酸を放出する」という用語は、長時間作用製剤が、(1)遊離薬剤がその活性を低下させ始める前に(かかる遊離薬剤の活性低下を予測して)、(2)遊離薬剤が活性を低下させ始めるときに、(3)遊離薬剤が活性をある程度低下させたとき、例えば、少なくとも25%、少なくとも50%又は少なくとも75%低下したときに、(4)遊離薬剤が活性をかなり低下させたときに、又は(5)遊離薬剤が完全に消失し、又はもはや活性を持たないときに、その薬剤を放出する場合からの範囲の態様を包含する。一態様においては、遊離抗体又は核酸の減少と長時間作用製剤からの抗体又は核酸の十分な放出の開始との間隙が最小化される。すなわち、この態様においては、遊離抗体又は核酸放出と長時間作用製剤放出との間に投与のない又は少ない期間があることは、抗体又は核酸が体内の薬学的に許容されるレベル未満であり、望ましくない。更に別の一態様においては、体内の活性薬剤の最小許容レベルを確実に維持するために、遊離抗体又は核酸の放出期間と長時間作用製剤からの放出期間とが少なくとも重複し、さらにはかなり重複する。別の一態様においては、非封入抗体又は核酸が消失した、又はもはや活性を持たなくなった直後又は間もなく、封入抗体又は核酸は、前もってプログラムされた所望の長期作用期間にわたり放出を開始する。
【0043】
一態様においては、本発明は、長時間作用製剤と一緒の大量瞬時投与量の遊離抗体又は核酸の同時投与が、全身循環への抗体若しくは核酸の全身的送達に備えるように意図された方法又は、その代わりに、局所的部位、組織、器官などへの局所送達に備えるように意図された方法、又はその組合せに備えるように意図された方法を記述する。別の一面では、本発明は、非分解性生体適合性ポリマー若しくは分解性生体適合性ポリマー又はその組合せで構成される長時間作用製剤を含む。一面では、本発明は、(微粒子、ミクロスフェア、マイクロカプセル、ナノ粒子、ナノスフェア、ナノカプセルなどを含めた)粒子又は(注射可能な移植片、及び外科又は医療現場で投与することができる移植片を含めた)移植片(移植片としては、固体、半固体、ヒドロゲル、粘ちゅう性、液体移植片、その組合せなどが挙げられ、投与前、投与中又は投与後に一物理的形態から別の物理的形態に移行する移植片を含むことができる。)を含めて、ただしそれだけに限定されない、任意のタイプの長時間作用剤形の使用を含む。長時間作用剤形は、注射用液体、ゲル、溶液又は懸濁液の形態とすることができる。
【0044】
器官、細胞、組織などの場所への抗体又は核酸の局所送達は、抗体又は核酸の治療上有用な持続性の存在をもたらすこともでき、これらの局所的部位又は組織においては、抗体又は核酸が分配され、代謝され、これらの場所から排除される経路は、全身循環に送達される抗体又は核酸の薬物動態学的持続時間を規定する経路とは異なり得る。本発明は、体全体の任意の多様な部位、場所、器官、細胞又は組織に送達することができる。一態様においては、送達は、投与される製剤の体積が歴史的に限定された、すなわち、少量の製剤体積しか投与することができない、場所に対するものである。この態様としては、局所送達、関節の間などの関節間送達、整形部位(骨、骨欠損、関節など)、(例えば、脊髄、脳脊髄若しくは髄腔内送達、又は脳内への送達、又は脳内及び脳周辺の特定部位への送達を含めた)CNS部位、皮内、腫瘍内、腫瘍周囲又は眼球送達(眼の隣接部位若しくは眼上の部位への、眼組織内の部位への、又は眼内の硝子体内送達)などが挙げられるが、それだけに限定されない。
【0045】
特定の一態様においては、本発明は、(例えば、血管新生を阻害するための)癌又は癌に関連する脈管構造への送達を対象とする。癌は、対象において未制御の増殖、浸潤又は転移を起こす任意の細胞であり得る。一部の態様においては、癌は、放射線治療が現在使用される任意の新生物又は腫瘍であり得る。或いは、癌は、標準方法を用いた放射線治療に対する感受性が不十分な新生物又は腫瘍であり得る。したがって、癌は、肉腫、リンパ腫、白血病、癌腫、芽細胞腫又は胚細胞腫瘍であり得る。一部の態様においては、癌は固形腫瘍である。一部の態様においては、癌は癌腫である。一部の態様においては、癌は肉腫である。一部の態様においては、癌はリンパ腫である。一部の態様においては、癌は胚細胞腫瘍である。一部の態様においては、癌は芽細胞性腫瘍である。癌の代表的な、ただし非限定的なリストとしては、B細胞リンパ腫、T細胞リンパ腫、菌状息肉腫、ホジキン病、骨髄性白血病、ぼうこう癌、脳腫瘍、神経系癌、頭頚部癌、頭頚部のへん平上皮癌、腎癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌などの肺癌、神経芽細胞腫/グリア芽細胞腫、卵巣癌、すい癌、前立腺癌、皮膚癌、肝臓癌、黒色腫、口、咽頭、喉頭及び肺のへん平上皮癌、結腸癌、頚癌、乳癌、上皮癌、腎臓癌、尿生殖器癌、肺癌、食道癌、頭頚部腫瘍、大腸癌、造血器癌;精巣癌;結腸及び直腸癌、前立腺癌、並びにすい癌が挙げられる。
【0046】
特定の一態様においては、本発明は、眼球送達への送達を対象とする。典型的には、眼疾患の治療に使用される遊離抗体又は核酸は、最高2か月しか持続せず、投与される製剤の総体積は、ある症例では最高約50μL又は最高約100μLに限定される。本発明では、遊離抗体又は核酸と長時間作用製剤を用いることによって、体積制限を依然として満たしつつ、2か月を超える薬剤効果を生じることができる。例えば、本発明の組成物は、眼への単一注射として投与して、3、6又は9か月以上持続する効力が得られ、眼への最高3回の注射を省くことができる。
【0047】
本明細書では「ほぼ同時に投与すること」という用語に関して、本発明の方法は、長時間作用製剤と同時に遊離薬剤を送達すること、又は長時間作用製剤の送達と逐次的に(前又は後に)遊離薬剤を送達することを含めて、ただしそれだけに限定されない、種々の方法で実施することができる。各送達間の時間は、適度に短いものとする。かかるほぼ同時の投与としては、それだけに限定されないが、以下が挙げられる:同じ外科又は臨床手順における遊離抗体又は核酸と長時間作用製剤の混合投与(例えば、同じ注射における、又は同じ外科的介入中の同時投与);又は(1つの手順における大量瞬時投与量の遊離抗体又は核酸の注射とそれに続く(又は先行する)第2の手順における長時間作用製剤の投与、例えば、大量瞬時投与量の遊離抗体又は核酸の注射とそれに続く長時間作用製剤の第2の注射の場合と同様に)交互に実施することができる別々の手順で;又は(ボーラス遊離抗体又は核酸の注入投与と、その間に長時間作用製剤が、例えば注射又は移植によって、投与される場合と同様に)相伴って(同時に)、ただし異なる手順で。遊離抗体又は核酸と長時間作用製剤を同じ手順、例えば同じ注射で実施するときには、遊離抗体又は核酸は、簡単な混加物中で長時間作用製剤と組み合わせることができる。例えば、遊離抗体又は核酸を水などの溶媒に溶解又は懸濁させることができ、マイクロカプセル封入製剤を同じ水溶液に懸濁させることができる。
【0048】
一態様においては、投与は、かかる投与を必要とする対象に対するものである。
【0049】
長時間作用製剤
本発明の方法は、抗体又は核酸放出、生物学的利用能、薬物動態学、薬力学的効果又はプロファイルなどの抗体又は核酸を持続又は延長させるために抗体又は核酸の送達に使用することができる(又は使用することが予見される)任意のタイプの長時間作用製剤又は剤形の使用を含む。
【0050】
一般に、長時間作用又は徐放性製剤は、1つの様式又は別の様式で生体適合性ポリマーと混合又は結合される(例えば、抗体又は核酸を含めた)単数又は複数の薬剤を含む。長時間作用製剤の調製に典型的に使用されるマトリックス形成ポリマーとしては、(ポリエステルポリラクチド、ポリ(ラクチド−co−グリコリド)、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシブチラートなどの)生分解性ポリマー及び(エチレン酢酸ビニル(EVA)、シリコーンポリマーなどの)非分解性ポリマーが挙げられる。薬剤は、ポリマーマトリックス全体にわたって均一にブレンドすることができ、又は薬剤は、(マイクロカプセル、ナノカプセル、被覆又は封入移植片などの場合と同様に、ポリマーリッチコーティング又はポリマー壁形成材料で包囲された抗体又は核酸充填コアの場合と同様に)ポリマーマトリックス全体にわたって不均等に(又は不連続に若しくは不均一に)分布させることができる。剤形は、粒子、フィルム、繊維、フィラメント、円柱状移植片、非対称形状移植片又は(織り材料又は不織材料;フェルト;ガーゼ、スポンジなどの)繊維状網目の物理的形態とすることができる。粒子形態のときには、製剤は、微粒子、ナノ粒子、ミクロスフェア、ナノスフェア、マイクロカプセル又はナノカプセル、及び粒子全般、並びにその組合せの形態とすることができる。したがって、本発明の長時間作用(又は徐放性)製剤は、当分野で記述、使用又は実施される任意の多様なタイプ又は設計を含むことができる。
【0051】
抗体若しくは核酸を含む長時間作用製剤を使用して、これらの薬剤を体循環に送達することができ、又は該長時間作用製剤を使用して、投与部位の近傍に位置する細胞、組織、器官、骨などへの局所的若しくは部位特異的な送達を実施することができる。さらに、製剤を使用して、抗体若しくは核酸の全身送達、及び/又は抗体若しくは核酸の局所送達を実施することができる。製剤は、(例えば、針、シリンジ、トロカール、カニューレなどによる)注射又は移植によって送達することができる。送達は、髄腔内、心臓内、骨内(骨髄)、ステレオタクティックガイド(stereotactic−guided)送達、注入送達、CNS送達、定位的に投与される送達、整形外科送達(例えば、関節、骨中、骨欠損中などへの送達)、心血管送達、(硝子体内及び強膜及び眼球後及びテノン下(sub−tenons)送達などを含めた)眼間及び眼内及び眼球近傍(para−ocular)、任意の多数の別の部位、場所、器官、組織などへの任意の送達を含めた(局所送達などの)特定の場所への送達に加えて、静脈内、動脈内、筋肉内、腹腔内、皮下、皮内、注入及び内カテーテル送達(など)を含めて、ただしそれだけに限定されない、医学、臨床、外科目的で一般に使用される任意の多様な投与経路によって実施することができる。
【0052】
一態様においては、本発明の方法は、したがって、例えば、以下に記載のものなどを含めて、ただしそれだけに限定されない非経口投与経路の分野で使用される(又は使用が予見され得る)任意の技術の利用を予見する。
【0053】
【化1】

上記参考文献のすべてをその教示のすべてについて、さらに、非経口経路技術方法の具体的教示について参照により本明細書に援用する。
【0054】
一態様においては、本発明の方法は、針、注射、注入、(臨床的又は外科的に実施することができる)移植などによって投与することができる長時間作用製剤を含む。
【0055】
ポリマー及び賦形剤
長時間作用製剤の調製に使用されるポリマーは、任意の生体適合性ポリマーとすることができる。上述したように、一態様においては、遊離抗体又は核酸にその効果をもたらすことを可能にし、次いで、遊離抗体又は核酸がその効果を生じるのとほぼ同じ又はその後の適切な時間に長時間作用製剤からの抗体又は核酸の放出を段階付ける所望の効果を達成するために、過度の実験をせずに適切なポリマー組成物を選択する方法を当業者は知っているであろう。一態様においては、ポリマーは、遊離薬剤がその効果を生じた後しばらくするまで抗体又は核酸の放出を遅延させ、それによって全効果期間を延長するように選択される。ポリマーのかかる選択は、例えば、ポリマーのタイプ、ポリマー又は共重合体の選択、共重合体に使用されるコモノマーのタイプ、共重合体に使用されるタイプのモノマーの比、ポリマー分子量、微粒子サイズ、微粒子の放出プロファイルを制御するために当業者によって使用される任意の他の判定基準などの判定基準を含み得る。
【0056】
例としては、当分野で使用されるあらゆる生体適合性ポリマーが挙げられるが、それだけに限定されない。例えば、ポリアクリラート;エチレン酢酸ビニルポリマーEVA;酢酸セルロース;アシル置換酢酸セルロース;非分解性ポリウレタン;ポリスチレン;ポリ塩化ビニル;ポリフッ化ビニル;ポリビニルイミダゾール;シリコーン系ポリマー(例えば、Silastic(登録商標)など)、クロロスルホナートポリオレフィン;ポリエチレンオキシド;又はそのブレンド若しくは共重合体を含めて、生体適合性非分解性ポリマーを使用することができる。ポリラクチド;ポリグリコリド;ポリ(ラクチド−co−グリコリド);ポリ乳酸;ポリグリコール酸;ポリ(乳酸−co−グリコール酸);ポリカプロラクトン;ポリオルトエステル;ポリ酸無水物;ポリホスファゼン;ポリヒドロキシアルカノアート;ポリヒドロキシブチラート;合成誘導されたポリヒドロキシブチラート;生物学的に誘導されたポリヒドロキシブチラート;合成誘導されたポリエステル;生物学的に誘導されたポリエステル;ポリ(ラクチド−co−カプロラクトン);ポリ(ラクチド−co−グリコリド−co−カプロラクトン);ポリカルボナート;チロシンポリカルボナート;(合成及び天然ポリアミド、ポリペプチド、ポリアミノ酸などを含めた)ポリアミド;ポリエステルアミド;ポリエステル;ポリジオキサノン;ポリアルキレンアルキラート;(ポリエチレングリコールPEG、ポリエチレンオキシドPEOなどの)ポリエーテル;ポリビニルピロリドン、すなわちPVP;ポリウレタン;ポリエーテルエステル;ポリアセタール;ポリシアノアクリラート;ポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレン共重合体;ポリアセタール、ポリケタール;ポリホスファート;(亜リン酸含有)ポリマー;ポリリン酸エステル;ポリヒドロキシバレラート;ポリアルキレンオキサラート;ポリアルキレンスクシナート;ポリマレイン酸;他の生体適合性多糖の中でもキチン、キトサン、改変キトサンを含めた生体高分子若しくは改変生体高分子;又は本明細書の(ブロック共重合体又はランダム共重合体を含めた)生体適合性共重合体;又は本明細書の任意のポリマーの組合せ若しくは混合物若しくは混加物を含めて、ただしそれだけに限定されない生体適合性生分解性ポリマーを使用することができる。使用することができる共重合体の例としては、(ポリエチレングリコールPEG、ポリビニルピロリドンPVPなどの)親水性又は水溶性ポリマーのブロックと別の生体適合性又は生分解性ポリマー(例えば、ポリラクチド若しくはポリ(ラクチド−co−グリコリド若しくはポリカプロラクトン又はその組合せ)のブロックとを含むブロック共重合体が挙げられる。
【0057】
また、本発明は、(L−ラクチド、D−ラクチド及びその組合せを含めた)ラクチド若しくはヒドロキシブチラート若しくはカプロラクトン又はその組合せのモノマーで構成される共重合体から調製される長時間作用製剤、並びにDL−ラクチド、グリコリド、ヒドロキシブチラート及びカプロラクトンのモノマーで構成される共重合体から調製される長時間作用製剤、並びにDL−ラクチド若しくはグリコリド若しくはカプロラクトン若しくはヒドロキシブチラート又はその中の組合せのモノマーで構成される共重合体から調製される長時間作用製剤にも関する。さらに、本発明は、とりわけ、ポリ(DL−ラクチド−co−グリコリド)又はポリ(DL−ラクチド)又はPHAを含めた別の生分解性ポリマーと一緒に、(DL−ラクチド若しくはグリコリド若しくはカプロラクトン若しくはヒドロキシブチラート又はその中の組合せで構成される)上記共重合体を含む混加物から調製される長時間作用製剤にも関する。本発明は、さらに、とりわけ、(ポリエチレングリコールPEG、ポリエチレンオキシドPEO、ポリプロピレンオキシドPPO及びその組合せで構成されるブロック共重合体を含めた)ポリエーテル又はポリビニルピロリドン(PVP)、多糖、複合多糖、脂肪酸複合多糖などの改変多糖、ポリ乳酸、ポリエステルなど、疎水性又は親水性の生体適合性ポリマー又は生体高分子又は生分解性ポリマーのブロックで構成されたブロック共重合体から調製される長時間作用製剤を含むことができる。
【0058】
遊離抗体及び核酸の長時間作用製剤の送達と一緒の遊離抗体及び核酸の送達の組合せなどの本明細書の態様を実施することによって、長時間作用製剤に必要とされる抗体又は核酸が減少するために、ポリマー材料(及び一部の態様においては、賦形剤材料)系質量が減少する。
【0059】
遊離投与
遊離抗体又は核酸(すなわち、非封入)の投与は、注射、注入などの当分野で公知の任意の方法によって実施される。遊離抗体又は核酸の製剤を調製し、遊離抗体又は核酸を投与する方法を当業者が知ることは容易である。上述したように、遊離抗体若しくは核酸は、1単位製剤として長時間作用製剤と同じ製剤中で送達することができ、又は遊離抗体若しくは核酸は、長時間作用製剤とは別個に送達することができる。一態様においては、遊離抗体又は核酸は、1単位製剤として長時間作用製剤と同じ製剤中で送達される。
【0060】
遊離投与に使用される抗体又は核酸は、長時間作用製剤に使用される抗体又は核酸と典型的には同じであり、又は本質的に同じである。一態様においては、抗体又は核酸は、長時間作用製剤に使用されるものと同じである。
【0061】
生理活性薬剤
遊離抗体又は遊離核酸及び長時間作用製剤には任意の抗体又は核酸を利用することができる。約1.7から12日の範囲、又は20から50日若しくは50日を超えるほども長い半減期を有する抗体、核酸などの一部の抗体又は核酸は、投与後に(局所送達投与されたときに)体内又は局部組織において持続効果(数日又は数週間)を有する。修飾抗体又は核酸は、例えば、約3〜6日から14日又は1か月又は2か月又は3か月以上ほども長い血しょう中半減期が得られる、長期又は持続性の薬物動態プロファイルを示すこともある。本発明の一態様は、単一の大量瞬時投与後少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも3週間、少なくとも4週間、少なくとも1か月、少なくとも2か月、又は少なくとも3か月以上にわたる作用持続時間、すなわち、薬学的に許容される生理活性期間(ある期間にわたる治療上有効な血液又は組織濃度)をもたらすことができる抗体又は核酸の使用を含む。別の一態様においては、任意の抗体又は核酸を本発明に使用することができる。
【0062】
一態様においては、抗体又は核酸は抗体である。特定の一態様においては、抗体は治療用抗体である。別の一態様においては、抗体は治療用抗体断片である。別の一態様においては、抗体はNanobodyである。別の一態様においては、抗体はFab断片である。別の一態様においては、抗体はF(ab)断片である。別の一態様においては、抗体は単鎖抗体である。別の一態様においては、抗体はキメラ抗体である。別の一態様においては、抗体はヒト化抗体である。別の一態様においては、抗体は組換え抗体である。別の一態様においては、抗体はヒト抗体である。別の一態様においては、抗体はモノクローナル抗体である。別の一態様においては、抗体はポリクローナル抗体である。
【0063】
更に別の一態様においては、抗体又は核酸は核酸である。更に別の一態様においては、核酸は、アプタマー、iRNA、siRNA、DNA、RNA、アンチセンス核酸など、又はアンチセンス核酸類似体などである。更に別の一態様においては、核酸は低分子干渉RNA(siRNA)である。更に別の一態様においては、核酸はアンチセンスオリゴヌクレオチドである。更に別の一態様においては、核酸はタンパク質をコードする核酸である。更に別の一態様においては、核酸は、発現制御配列に作動可能に結合したタンパク質をコードする核酸を含むベクターである
更に別の一態様においては、抗体又は核酸は修飾抗体又は核酸である。一態様においては、抗体はPEG修飾抗体である。別の一態様においては、抗体はPEG修飾抗体断片である。更に別の一態様においては、核酸はPEG修飾核酸である。
【0064】
抗体又は核酸は、治療、診断、疾患若しくは疾病の治癒若しくは軽減、体の構造若しくは機能に影響を及ぼす物質、又は所定の生理学的環境に置かれた後に生物活性若しくはより活性になるプロドラッグに使用される。特定の一態様においては、抗体又は核酸はワクチンではない。抗体又は核酸としては、ヒト又は動物の体において局所的又は全身的に作用する生物活性物質、生理活性物質又は薬理活性物質が挙げられる。固体マトリックスから隣接組織又は体液に放出可能である種々の形態の抗体又は核酸を使用することができる。液体又は固体の抗体又は核酸を本明細書に記載の送達系に組み入れることができる。抗体又は核酸は、少なくともごくわずかに水溶性であり、好ましくは中程度に水溶性であり、重合体組成物を介して拡散し得る。抗体又は核酸は、酸性、塩基性又は両性塩とすることができる。抗体又は核酸は、遊離酸又は遊離塩基の形とすることができる。抗体又は核酸は、水素結合可能な非イオン性分子、極性分子又は分子複合体とすることができる。抗体又は核酸は、例えば、無電荷分子、分子複合体、塩、エーテル、エステル、アミド、ポリマー−薬物複合体の形態、又は有効な生物学的若しくは生理学的活性を与える別の形態で組成物に含めることができる。
【0065】
本発明の長時間作用製剤は、1種類の抗体若しくは核酸、又は多数の抗体若しくは核酸を含めた2種類以上の抗体若しくは核酸の組合せを含むことができる。抗体又は核酸は、発酵若しくは細菌源から産生される天然起源とすることができ、又は合成起源とすることができ、又はその中の組合せから調製することができる。抗体又は核酸は、他の材料を用いて共有結合的又は非共有結合的に修飾された化合物とすることができる。例としては、塩カウンターイオン、標的薬剤、溶解性調節剤、透過性調節剤、疎水性薬剤、親水性薬剤、疎水性ポリマー、親水性ポリマー、ブロック共重合体などが挙げられる。
【0066】
開示する組成物及び方法の抗体は、治療用抗体などの抗体とすることができる。「抗体」という用語は、本明細書では広義で使用され、ポリクローナルとモノクローナルの両方の抗体を包含する。「抗体」という用語には、抗原がリガンド、受容体などのその標的と相互作用するのを阻害されるように抗原と相互作用する能力について選択される限り、完全な免疫グロブリン分子に加えて、この免疫グロブリン分子の断片又はポリマー、及び免疫グロブリン分子又はその断片のヒト又はヒト化バージョンも含まれる。抗体は、本明細書に記載のin vitroアッセイ、又は類似の方法によって、その所望の活性について試験することができ、その後、そのin vivo治療及び/又は予防活性が公知臨床試験方法に従って試験される。
【0067】
本明細書では、治療用抗体は、標的抗原に結合する抗体の能力に基づいて対象に投与される抗体である。したがって、治療用抗体は、対象に投与して対象に免疫応答を誘導し、それによって抗原に対する内在性抗体を産生するワクチンとは異なる。治療用抗体は、当分野で公知であり、引き続き確認されている。本明細書に開示する方法は、その抗原に結合したときに治療効果を有することが発見された任意の抗体を用いて、使用することができる。抗原は、癌細胞などの細胞上に存在し得る。抗原は、増殖因子とすることができる。抗原は、細胞外構造タンパク質とすることができる。
【0068】
開示する抗体の抗原は、例えば、腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)であり得る。インフリキシマブ(REMICADE)は、自己免疫異常の治療に使用されるキメラモノクローナル抗体(ネズミ結合VK及びVHドメイン、並びにヒト定常Fcドメイン)である。インフリキシマブは、TNFαに結合し、それによってTNFαが細胞表面のその受容体にシグナル伝達するのを防止する。TNFαは、炎症反応を誘発し、維持する重要なサイトカインの1つである。インフリキシマブは、乾せん、クローン病、強直性脊椎炎、乾せん性関節炎、リウマチ様関節炎及び潰よう性大腸炎の治療用にthe U.S.Food and Drug Administrationによって認可された。
【0069】
開示する抗体の抗原は、例えば、VEGF−Aなどの血管内皮増殖因子(VEGF)であり得る。VEGFは、新しい血管の成長、及び血管透過性に関与する。したがって、その活性の阻害は、漏出性血管又は腫瘍血管新生の治療又は防止に有用である。
【0070】
特定の一態様においては、抗体はVEGFトラップ(AFLIBERCEPT)である。VEGFトラップは、潜在的な抗血管新生活性を有するヒトIgG1の定常領域(Fc)と融合したヒト血管内皮増殖因子受容体1(VEGFR1)及び2(VEGFR2)の細胞外ドメインのセグメントで構成されるタンパク質である。可溶性おとり受容体として機能するAfilberceptは、血管新生促進性の血管内皮増殖因子(VEGF)に結合し、それによってVEGFがその細胞受容体に結合するのを防止する。VEGFとその細胞受容体の結合の妨害によって、腫瘍血管新生、転移及び最終的に腫瘍退縮を阻害することができる。
【0071】
ベバシズマブ(商品名Avastin)は、VEGFに対するモノクローナル抗体である。ベバシズマブは、癌治療に使用され、新しい血管の形成を阻止することによって腫瘍増殖を阻害する。ベバシズマブは、転移性結腸癌及び大部分の形態の転移性非小細胞肺癌の治療において標準化学療法と併用することができる。ベバシズマブは、少なくとも乳癌、転移性腎細胞癌、転移性多形性こう芽腫、転移性卵巣癌、転移性ホルモン不応性前立腺癌、及び転移性又は切除不能な局所進行性すい癌の治療に使用することができる。
【0072】
ラニビズマブ(LUCENTIS)は、ベバシズマブ(AVASTIN)と同じ親ネズミ抗体に由来するモノクローナル抗体断片である。ラニビズマブは、親分子よりもはるかに小さく、VEGF−Aとより強力に結合するように親和性成熟された。ラニビズマブは、年齢関連性の失明の一般的形態である「しん出(wet)」型の加齢黄斑変性症(ARMD)の治療に認可された。ラニビズマブは、血管内皮増殖因子A(VEGF−A)の全サブタイプに結合し、阻害する。VEGFは、新しい血管の成長を誘発し得、眼中で血液及び体液を漏出させるおそれがある。この漏出性血管は、黄斑浮腫及び脈絡膜血管新生の一因になり、湿潤タイプのARMDをもたらし得る。眼中のVEGF−Aを阻止することによって、ラニビズマブは、しん出型黄斑変性症に起因する失明を防止し、後退させることができる。
【0073】
開示する抗体の抗原は、例えば、表面抗原分類20(CD20)であり得る。CD20は、B細胞上で広範に発現される。リツキシマブ(RITUXAN、MABTHERA)は、B細胞非ホジキンリンパ腫、B細胞白血病、及び一部の自己免疫異常の治療に使用されるキメラモノクローナル抗体である。リツキシマブは、B細胞を枯渇させ、したがって、過剰のB細胞、過活動性B細胞又は機能障害性B細胞を有することを特徴とする疾患の治療に使用される。リツキシマブは、リウマチ様関節炎、及び特発性自己免疫性溶血性貧血を含めた自己免疫疾患、赤芽球ろう、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、エバンス症候群、血管炎、多発性硬化症、水ほう性皮膚障害(例えば、天ほうそう、類天ほうそう)、1型真性糖尿病、シェーグレン症候群、デビック症候群、並びに全身性エリテマトーデスの治療に使用することができる。リツキシマブは、腎移植患者の管理に使用することもできる。
【0074】
イブリツモマブ チウキセタン(ZEVALIN)は、正常及び悪性B細胞(ただし、B細胞前駆体ではない。)の表面に存在するCD20抗原に結合するモノクローナル抗体であって、結合した同位体からの放射(大部分はベータ放出)によってCD20抗原及び幾らかの近傍の細胞を殺すモノクローナル抗体である。この抗体は、幾つかの形態のB細胞非ホジキンリンパ腫の放射免疫療法治療に使用することができる。この薬物は、放射性同位体(イットリウム90又はインジウム111)が付加したキレート剤チウキセタンに連結されたモノクローナルマウスIgG1抗体イブリツモマブを使用する。さらに、抗体自体が、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、補体依存性細胞傷害(CDC)及びアポトーシスによって細胞死を誘発することができる。全体として、これらの作用は、B細胞を体から排除し、正常なB細胞の新しい集団をリンパ系幹細胞から発生させる。
【0075】
開示する抗体の抗原は、例えば、ベータ−アミロイドであり得る。アルツハイマー病の病理は、ベータ−アミロイドペプチド構造と認知症の臨床的重症度との有意な相関を示す。部位指向的な抗体は、ベータ−アミロイドの形成を調節することができる。さらに、抗体は、βアミロイド斑を溶解させ、学習及び年齢関連性の記憶障害から対象を保護することができる。
【0076】
開示する抗体の抗原は、例えば、α4−インテグリンであり得る。ナタリズマブは、細胞接着分子α4−インテグリンに対するヒト化モノクローナル抗体である。ナタリズマブは、多発性硬化症及びクローン病の治療に使用される。ナタリズマブは、再発、失明、認知機能低下を防止し、多発性硬化症患者の生活の質をかなり改善し、寛解率を高め、クローン病の再発を防止する。
【0077】
開示する抗体の抗原は、例えば、HER2/neuであり得る。トラスツヅマブ(HERCEPTIN)は、HER2/neu(erbB2)受容体に作用するヒト化モノクローナル抗体である。トラスツヅマブの主用途は、腫瘍がこの受容体を過剰発現する(の通常量よりも多量に生成する)患者における乳癌の抗癌治療としてである。HER2/neu(ErbB2)の増幅は、初期乳癌の20〜30%で起こる。HER2/neu(ErbB2)はHER2の細胞外ドメインをコードする。
【0078】
開示する抗体の抗原は、例えば、上皮成長因子受容体(EGFR)であり得る。セツキシマブ(ERBITUX)は、転移性結腸直腸癌及び頭頚部癌の治療のために、静脈内注射によって投与される、EGFRに特異的なキメラモノクローナル抗体である。パニツムマブ(VECTIBIX)は、使用される別のEGFR抗体である。主な相違の1つは、セツキシマブがIgG1抗体であり、パニツムマブがIgG2抗体であることである。セツキシマブは、サブセット「癌細胞」を含めて、EGFRを発現するすべての細胞のEGFRの細胞外ドメインに結合し、リガンド結合及び受容体の活性化を防止する。これは、EGFRの下流シグナル制御を阻止し、細胞成長及び増殖を損なう。セツキシマブは、抗体依存性細胞傷害(ADCC)を媒介することも示された。
【0079】
開示する抗体の抗原は、例えば、CD52であり得る。アレムツズマブ(CAMPATH、MABCAMPATH又はCAMPATH−1H)は、CD52を標的にしたモノクローナル抗体である。CD52は、成熟リンパ球の表面に存在するが、成熟リンパ球が由来する幹細胞上には存在しないタンパク質である。アレムツズマブは、慢性リンパ性白血病(CLL)及びT細胞リンパ腫の治療に使用される。アレムツズマブは、骨髄移植及び腎移植の幾つかの移植前処置にも使用される。アレムツズマブは、多発性硬化症などの自己免疫疾患の治療にも使用される。
【0080】
本明細書では「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に均一な抗体集団から得られる抗体を指す。すなわち、集団内の個々の抗体は、小サブセットの抗体分子中に存在し得る可能な自然変異を除いて、同一である。本明細書のモノクローナル抗体としては、具体的には、重鎖及び/又は軽鎖の一部が、特定の種に由来する、又は特定の抗体クラス若しくはサブクラスに属する、抗体中の対応する配列と同一又は相同であり、鎖(単数又は複数)の残部が、別の種に由来する、又は別の抗体クラス若しくはサブクラスに属する、抗体中の対応する配列と同一又は相同である、「キメラ」抗体、及び所望の拮抗活性を示す限り、かかる抗体の断片が挙げられる(米国特許第4,816,567号、及びMorrison et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81:6851−6855(1984)参照)。
【0081】
開示するモノクローナル抗体は、モノクローナル抗体を製造する任意の手順によって作製することができる。例えば、開示するモノクローナル抗体は、Kohler and Milstein,Nature,256:495(1975)に記載の方法などのハイブリドーマ法によって調製することができる。ハイブリドーマ法においては、マウス又は他の適切な宿主動物は、典型的には、免疫剤で免疫されて、免疫剤に特異的に結合する抗体を産生する、又は産生可能である、リンパ球を誘発する。或いは、リンパ球をin vitroで免疫することができる。
【0082】
これらの手法が中和抗体を生成しない場合、これらのタンパク質の細胞表面局在バージョンを発現する細胞を使用して、マウス、ラット又は他の種を免疫する。伝統的に、モノクローナル抗体の製造は、免疫原として使用される精製タンパク質又はペプチドの有効性に依存する。より最近では、DNAに基づく免疫化が、強い免疫応答を誘発して、モノクローナル抗体を製造する方法として有望であることが示された。この手法では、当分野で公知の方法に従って(例えば、抗体製造方法の全体を参照により本明細書に援用する、Kilpatrick KE,et al.Gene gun delivered DNA−based immunizations mediate rapid production of murine monoclonal antibodies to the Flt−3 receptor.Hybridoma.1998 Dec;17(6):569−76;Kilpatrick KE et al.High−affinity monoclonal antibodies to PED/PEA−15 generated using 5 microg of DNA.Hybridoma.2000 Aug;19(4):297−302)、さらに、実施例に記載のように、ヒトIgG1又はエピトープタグとの融合タンパク質として発現される抗原の細胞外断片をコードするDNAを宿主動物に注射する、DNAに基づく免疫化を使用することができる。
【0083】
精製タンパク質又はDNAを用いた別の免疫化手法は、バキュロウイルス中で発現される抗原を使用することである。この系の利点としては、生成の容易さ、高発現レベル、及びほ乳動物系で見られるのと極めて類似した翻訳後修飾が挙げられる。この系を使用するには、抗原の細胞外ドメインをシグナル配列断片との融合タンパク質として発現させる必要がある。抗原は、抗原のヌクレオチド配列のシグナル配列と成熟タンパク質ドメインの間に遺伝子断片をインフレームで挿入することによって生成される。その結果、ビリオン表面に異種タンパク質が出現する。この方法によって、ウイルス全体による免疫化が可能になり、標的抗原を精製する必要がなくなる。
【0084】
一般に、ヒト起源の細胞が所望である場合にはモノクローナル抗体を製造する方法に末梢血リンパ球(「PBL」)が使用され、非ヒトほ乳動物源が所望である場合にはひ臓細胞又はリンパ節細胞が使用される。次いで、リンパ球は、ポリエチレングリコールなどの適切な融合剤を用いて不死化細胞系と融合されて、ハイブリドーマ細胞を形成する(Goding,”Monoclonal Antibodies:Principles and Practice”Academic Press,(1986)pp.59−103)。不死化細胞系は、通常、げっ歯類、ウシ、ウマ及びヒト起源の骨髄腫細胞を含めて、形質転換されたほ乳動物細胞である。通常、ラット又はマウス骨髄腫細胞系が採用される。ハイブリドーマ細胞は、非融合不死化細胞の増殖又は生存を阻害する1種類以上の物質を好ましくは含む適切な培地中で培養することができる。例えば、親細胞が酵素ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRT又はHPRT)を欠く場合、ハイブリドーマ用培地は、典型的には、ヒポキサンチン、アミノプテリン及びチミジンを含み(「HAT培地」)、これらの物質は、HGPRT欠損細胞の増殖を防止する。好ましい不死化細胞系は、効率的に融合し、選択された抗体産生細胞による抗体の安定な高レベル発現を支持し、HAT培地などの培地に感受性である。より好ましい不死化細胞系はネズミ骨髄腫系であり、これは、例えば、the Salk Institute Cell Distribution Center,San Diego,Calif.及びthe American Type Culture Collection,Rockville,Md.から入手することができる。ヒト骨髄腫及びマウス−ヒト異種骨髄腫細胞系もヒトモノクローナル抗体産生について記述された(Kozbor,J.Immunol.,133:3001(1984);Brodeur et al.,”Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications”Marcel Dekker,Inc.,New York,(1987)pp.51−63)。次いで、ハイブリドーマ細胞が培養される培地を、抗原に対するモノクローナル抗体の存在について評価することができる。好ましくは、ハイブリドーマ細胞によって産生されるモノクローナル抗体の結合特異性は、放射性免疫測定法(RIA)、酵素結合免疫吸収(immunoabsorbent)アッセイ(ELISA)などの免疫沈降又はin vitro結合アッセイによって決定される。かかる技術及びアッセイは当分野で公知であり、下記実施例又はHarlow and Lane”Antibodies,A Laboratory Manual”Cold Spring Harbor Publications,New York,(1988)に更に記載されている。
【0085】
所望のハイブリドーマ細胞が確認された後、限界希釈又はFACS選別手順によってクローンをサブクローニングし、標準方法によって増殖させることができる。この目的のために適切な培地としては、例えば、ダルベッコ改変イーグル培地及びRPMI−1640培地が挙げられる。或いは、ハイブリドーマ細胞をほ乳動物において腹水としてin vivoで増殖させることができる。
【0086】
サブクローンによって分泌されるモノクローナル抗体は、例えば、プロテインA−Sepharose、プロテインG、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、アフィニティークロマトグラフィーなどの従来の免疫グロブリン精製手順によって、培地又は腹水から単離又は精製することができる。
【0087】
モノクローナル抗体は、米国特許第4,816,567号(Cabilly et al.)に記載の方法などの組換えDNA方法によって製造することもできる。開示するモノクローナル抗体をコードするDNAは、従来の手順を用いて(例えば、ネズミ抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブを用いて)、容易に単離し、配列を決定することができる。例えば、Burton et al.米国特許第5,804,440号及びBarbas et al.米国特許第6,096,441号に記載のように、ファージディスプレイ技術を用いて、抗体又は活性な抗体断片のライブラリーを作製し、スクリーニングすることもできる。
【0088】
In vitro方法は、一価抗体の調製にも適切である。その断片、特にFab又はF(ab)断片を生成する抗体の消化は、当分野で公知の通常の技術を用いて実施することができる。例えば、消化は、パパインを用いて実施することができる。パパイン消化の例は、1994年12月22日に公開された国際公開第94/29348号、及び米国特許第4,342,566号に記載されている。抗体のパパイン消化は、典型的には、Fab断片と呼ばれる2個の同一の抗原結合性断片を生成し、各々は、単一の抗原結合部位と残留Fc断片を有する。ペプシン処理は、Fc断片、及び2個の抗原結合部位を有し、依然として抗原を架橋する能力があるF(ab)断片を生成する。
【0089】
断片は、別の配列に結合していてもいなくても、抗体又は抗体断片の活性が非修飾抗体又は抗体断片と比較してさほど変化せず、損なわれてもいない限り、特定の領域又は特定のアミノ酸残基の挿入、欠失、置換、又は他の選択された修飾も含み得る。これらの修飾は、ジスルフィド結合可能なアミノ酸の除去/付加、その生存期間の延長、その分泌特性の変化などの何らかの追加の性質のために、施すことができる。いずれにしても、抗体又は抗体断片は、その同種抗原との特異的結合などの生理活性を持たなければならない。抗体又は抗体断片の機能領域又は活性領域は、タンパク質の特定領域の変異誘発と、それに続く発現ポリペプチドの発現及び試験によって確認することができる。かかる方法は、当業者には容易に明らかであり、抗体又は抗体断片をコードする核酸の部位特異的変異誘発を含むことができる。(Zoller,M.J.Curr.Opin.Biotechnol.3:348−354,1992)。
【0090】
本明細書では「抗体」又は「複数の抗体」という用語は、ヒト抗体及び/又はヒト化抗体を指すこともできる。多数の非ヒト抗体(例えば、マウス、ラット又はウサギ由来の抗体)は、ヒトにおいては当然ながら抗原性であり、したがってヒトに投与すると望ましくない免疫応答を生じ得る。したがって、方法におけるヒト又はヒト化抗体の使用は、ヒトに投与される抗体が望ましくない免疫応答を惹起する可能性を低下させるのに役立つ。
【0091】
i.完全免疫グロブリン
本明細書では「抗体」という用語は、任意のクラスの完全免疫グロブリン(すなわち、完全抗体)を包含するが、それだけに限定されない。未変性抗体は、通常、2本の同一の軽(L)鎖と2本の同一の重(H)鎖で構成されるヘテロ四量体糖タンパク質である。典型的には、各軽鎖は、1個の共有結合性ジスルフィド結合によって重鎖に連結され、ジスルフィド結合数は、異なる免疫グロブリンアイソタイプの重鎖間で変動する。各重鎖及び軽鎖は、規則的に間隔をおいた鎖内ジスルフィド架橋も有する。各重鎖は、可変ドメイン(V(H))とそれに続く幾つかの定常ドメインを一端に有する。各軽鎖は、一端に可変ドメイン(V(L))を有し、その他端に定常ドメインを有する。軽鎖の定常ドメインは、重鎖の第1の定常ドメインと並び、軽鎖可変ドメインは重鎖の可変ドメインと並ぶ。特定のアミノ酸残基は、軽鎖と重鎖の可変ドメイン間の界面を形成すると考えられる。任意の脊椎動物種に由来する抗体の軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(k)及びラムダ(l)と呼ばれる2つの明確に異なるタイプの1つに帰属され得る。その重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に応じて、免疫グロブリンは、異なるクラスに帰属され得る。ヒト免疫グロブリンの5つの主要なクラス、すなわちIgA、IgD、IgE、IgG及びIgMがあり、その幾つかはサブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG−1、IgG−2、IgG−3及びIgG−4;IgA−1及びIgA−2に更に分割することができる。当業者は、マウスの類似クラスを認識しているであろう。異なる免疫グロブリンクラスに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれアルファ、デルタ、イプシロン、ガンマ及びミューと呼ばれる。
【0092】
「可変」という用語は、抗体間で配列が異なり、その特定の抗原に対する特定の各抗体の結合及び特異性に使用される、可変ドメインのある部分を記述するのに本明細書では使用される。しかし、可変性は、通常、抗体の可変ドメインを通して均一に分布してはいない。可変性は、典型的には、軽鎖と重鎖の両方の可変ドメイン中の相補性決定領域(CDR)又は超可変領域と呼ばれる3個のセグメントに集中している。可変ドメインのより高度に保存された部分は、フレームワーク(FR)と呼ばれる。未変性重鎖及び軽鎖の可変ドメインは、4個のFR領域を各々含み、4個のFR領域は、主としてbシート配置をとり、3個のCDRによって連結される。3個のCDRは、bシート構造を連結するループを形成し、場合によってはbシート構造の一部を形成するループを形成する。各鎖のCDRは、FR領域によって近位に共に保持され、他方の鎖からのCDRと一緒に、抗体の抗原結合部位の形成に寄与する(Kabat E.A.et al.,”Sequences of Proteins of Immunological Interest,”National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1987)参照)。定常ドメインは、抗体と抗原の結合に直接関与しないが、抗体依存性の細胞毒性における抗体の関与などの種々の効果又は機能を示す。
【0093】
ii.抗体断片
本明細書では「抗体」という用語は、完全な分子及び、例えばエピトープ決定基に結合することができるFab、F(ab’)など、その断片を含むものとする。
【0094】
本明細書では「抗体又はその断片」という用語は、二重又は複数の抗原又はエピトープ特異性を有するキメラ抗体及びハイブリッド抗体、並びにハイブリッド断片を含めたF(ab’)2、Fab’、Fabなどの断片を包含する。したがって、その特異抗原に結合する能力を保持する抗体断片が提供される。例えば、抗原結合活性を維持する抗体断片は、「抗体又はその断片」という用語の意味に含まれる。かかる抗体及び断片は、当分野で公知の技術によって作製することができ、実施例に記載の方法に従って、さらに、抗体を製造し、抗体を特異性及び活性についてスクリーニングする一般的方法において、特異性及び活性についてスクリーニングすることができる(Harlow and Lane.Antibodies,A Laboratory Manual.Cold Spring Harbor Publications,New York,(1988)参照)。
【0095】
例えば、その内容を参照により本明細書に援用する米国特許第4,704,692号に記載の抗体断片と抗原結合タンパク質の複合体(単鎖抗体)も「抗体又はその断片」の意味に含まれる。
【0096】
単離された免疫原性的に特異的な、抗体のパラトープ又は断片も提供される。抗体の特異的免疫原性エピトープは、分子の化学又は機械的破壊によって抗体全体から単離することができる。こうして得られる精製断片を本明細書に教示する方法によって試験して、その免疫原性及び特異性を決定することができる。抗体の免疫反応性パラトープは、場合によっては直接合成される。免疫反応性断片は、抗体アミノ酸配列に由来する少なくとも約2から5個の連続アミノ酸のアミノ酸配列として定義される。
【0097】
或いは、無保護のペプチドセグメントは化学的に連結され、化学的連結の結果としてペプチドセグメント間で形成される結合は不自然な(非ペプチド)結合である(Schnolzer,M et al.Science,256:221(1992))。この技術を使用して、タンパク質ドメインの類似体、及び十分な生物活性を有する多量の比較的純粋なタンパク質が合成された(deLisle Milton RC et al.,Techniques in Protein Chemistry IV.Academic Press,New York,pp.257−267(1992))。
【0098】
生理活性を有する抗体断片も開示される。ポリペプチド断片は、アデノウイルス、バキュロウイルス発現系など、そのポリペプチド断片を産生する能力のある発現系において、ポリペプチドをコードする核酸をクローニングすることによって得られる組換えタンパク質であり得る。例えば、抗体と抗原の相互作用に関連した生物学的効果を生じ得る特定のハイブリドーマから抗体の活性ドメインを決定することができる。例えば、抗体の活性にも結合特異性又は親和性にも寄与しないことが判明したアミノ酸は、それぞれの活性の低下なしに、欠失させることができる。例えば、種々の実施形態においては、アミノ又はカルボキシ末端アミノ酸は、未変性又は修飾された非免疫グロブリン分子又は免疫グロブリン分子から逐次的に除去することができ、それぞれの活性は多数の利用可能なアッセイの1つで評価される。別の一例においては、少なくとも1個のアミノ酸で特定の位置における天然アミノ酸が置換され、アミノ末端又はカルボキシ末端アミノ酸の一部が、又は抗体の内部領域さえもが、ポリペプチド断片で、又は修飾抗体の精製において容易にすることができるビオチンなどの他の部分で置換された、修飾抗体を抗体断片は含む。例えば、修飾抗体は、ペプチド化学反応によって、又はコード領域の発現がハイブリッドポリペプチドを生じるように2個のポリペプチド断片をコードするそれぞれの核酸を発現ベクター中にクローニングすることによって、マルトース結合タンパク質と融合することができる。ハイブリッドポリペプチドは、アミロースアフィニティーカラムに通すことによって親和性精製することができ、次いで、特異的プロテアーゼ第Xa因子を用いてハイブリッドポリペプチドを切断することによって、修飾抗体受容体をマルトース結合領域から分離することができる。(例えば、New England Biolabs Product Catalog,1996,pg.164参照)。類似の精製手順は、ハイブリッドタンパク質を真核細胞から単離するのにも利用可能である。
【0099】
断片は、別の配列に結合していてもいなくても、断片の活性が非修飾抗体又は抗体断片と比較してさほど変化せず、損なわれてもいない限り、特定の領域又は特定のアミノ酸残基の挿入、欠失、置換、又は他の選択された修飾を含む。これらの修飾は、ジスルフィド結合可能なアミノ酸の除去又は付加、その生存期間の延長、その分泌特性の変化などの何らかの追加の性質のために、施すことができる。いずれにしても、断片は、結合活性、結合ドメインにおける結合の調節などの生理活性を持たなければならない。抗体の機能領域又は活性領域は、タンパク質の特定領域の変異誘発と、それに続く発現ポリペプチドの発現及び試験によって確認することができる。かかる方法は、当業者には容易に明らかであり、抗原をコードする核酸の部位特異的変異誘発を含むことができる。(Zoller MJ et al.Nucl.Acids Res.10:6487〜500(1982)。
【0100】
技術は、本開示の抗原タンパク質に特異的な単鎖抗体の製造用に手直しすることもできる(例えば、米国特許第4,946,778号参照)。さらに、方法は、F(ab)発現ライブラリーの構築用に手直しして(例えば、Huse,et al.,1989 Science 246:1275−1281参照)、タンパク質又はその誘導体、断片、類似体若しくは相同体に対して所望の特異性を有するモノクローナルF(ab)断片を迅速かつ効果的に特定することができる。(i)抗体分子のペプシン消化によって生成されるF((ab’))(2)断片、(ii)F((ab’))(2)断片のジスルフィド架橋の還元によって生成されるFab断片、(iii)パパイン及び還元剤を用いた抗体分子の処理によって生成されるF(ab)断片、並びに(iv)F(v)、断片を含めて、ただしそれだけに限定されない、タンパク質抗原に対するイディオタイプを含む抗体断片を、当分野で公知の技術によって製造することができる。
【0101】
単鎖抗体を製造する方法は、当業者に周知である。当業者は、かかる方法について(参照により本明細書に援用する)米国特許第5,359,046号を参照されたい。単鎖抗体は、短いペプチドリンカーを用いて重鎖と軽鎖の可変ドメインを融合し、それによって抗原結合部位を単一分子上に再構成することによって作製される。一方の可変ドメインのC末端が他方の可変ドメインのN末端に15から25個のアミノ酸のペプチド又はリンカーを介して連結された単鎖抗体可変断片(scFv)が、抗原結合又は結合特異性をさほど乱さずに開発された(Bedzyk et al.,1990;Chaudhary et al.,1990)。リンカーは、重鎖と軽鎖がその適切な配向で結合するように選択される。例えば、参照により本明細書に援用する、Huston,J.S.,et al.,Methods in Enzym.203:46−121(1991)を参照されたい。これらのFvは、未変性抗体の重鎖及び軽鎖中に存在する定常領域(Fc)を欠く。
【0102】
iii.一価抗体
In vitro方法は、一価抗体の調製にも適切である。その断片、特にFab断片を生成する抗体の消化は、当分野で公知の通常の技術を用いて実施することができる。例えば、消化は、パパインを用いて実施することができる。パパイン消化の例は、1994年12月22日に公開された国際公開第94/29348号、米国特許第4,342,566号、及びHarlow and Lane,Antibodies,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Publications,New York,(1988)に記載されている。抗体のパパイン消化は、典型的には、Fab断片と呼ばれる2個の同一の抗原結合性断片を生成し、各々は、単一の抗原結合部位と残留Fc断片を有する。ペプシン処理は、2個の抗原結合部位を有し、依然として抗原を架橋する能力がある、F(ab’)2断片と呼ばれる断片を生成する。
【0103】
抗体消化において生成されるFab断片も軽鎖の定常ドメインと重鎖の第1定常ドメインを含む。Fab’断片は、抗体ヒンジ領域からの1個以上のシステインを含めて、重鎖ドメインのカルボキシ末端における少数の残基の付加だけFab断片とは異なる。F(ab’)2断片は、ヒンジ領域においてジスルフィド架橋によって連結された2個のFab’断片を含む二価の断片である。Fab’−SHは、定常ドメインのシステイン残基(単数又は複数)が遊離チオール基を有するFab’の本明細書における名称である。抗体断片は、本来、ヒンジシステインをその間に有するFab’断片対として生成された。抗体断片の別の化学カップリングも公知である。
【0104】
iv.キメラ/ハイブリッド
ハイブリッド抗体においては、一方の重鎖と軽鎖の対は、1つの抗原認識特徴、例えばエピトープに対する抗体において見られるものと相同であり、他方の重鎖と軽鎖の対は、別のエピトープに対する抗体において見られる対と相同である。これは、多官能結合価の性質、すなわち、少なくとも2種類のエピトープに同時に結合する能力をもたらす。本明細書では「ハイブリッド抗体」という用語は、各鎖がほ乳動物の抗体鎖に関して別個に相同であるが、組合せが新規集合体であり、2種類の抗原が抗体によって認識される、抗体を指す。かかるハイブリッドは、それぞれの成分抗体を生成するハイブリドーマの融合によって、又は組換え技術によって、形成することができる。かかるハイブリッドは、キメラ鎖を用いても形成できることは言うまでもない。
【0105】
v.抗イディオタイプ
コードされた抗体は、例えば米国特許第4,699,880号に記載された、抗イディオタイプ抗体(別の抗体に結合する抗体)とすることができる。かかる抗イディオタイプ抗体は、治療を受ける個体中の内在性又は異種抗体に結合することができ、それによって例えば自己免疫疾患の状況において、免疫応答に関連する病的症状を改善又は防止することができる。
【0106】
vi.抗体断片の複合体又は融合物
抗体のターゲティング機能は、抗体又はその断片を治療薬とカップリングすることによって、治療に使用することができる。抗体又は断片(例えば、免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部)と治療薬のかかるカップリングは、抗体又は抗体断片と治療薬を含む、免疫複合体を作製することによって、又は融合タンパク質を作製することによって、実施することができる。
【0107】
例えば、その内容を参照により本明細書に援用する米国特許第4,704,692号に記載の抗体断片と抗原結合タンパク質の複合体(単鎖抗体)も「抗体又はその断片」の意味に含まれる。一部の態様においては、抗体は、免疫グロブリン可変領域を含まないが、その代わりに、免疫グロブリンFc領域とリガンド又は受容体の結合領域とを含む融合タンパク質である。
【0108】
抗体(又はその断片)は、細胞毒、治療薬、放射性金属イオンなどの治療成分と複合化することができる。細胞毒又は細胞傷害性薬物としては、細胞に有害であるあらゆる薬剤が挙げられる。例としては、Taxol、サイトカラシンB、グラミシジンD、臭化エチジウム、エメチン、マイトマイシン、エトポシド、テノポシド(tenoposide)、ビンクリスチン、ビンブラスチン、コルヒチン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ジヒドロキシアントラシンジオン、ミトキサントロン、ミトラマイシン、アクチノマイシンD、1−デヒドロテストステロン、グルココルチコイド、プロカイン、テトラカイン、リドカイン、プロプラノロール及びピューロマイシン、並びにその類似体又は相同体が挙げられる。治療薬としては、代謝拮抗物質(例えば、メトトレキサート、6−メルカプトプリン、6−チオグアニン、シタラビン、5−フルオロウラシル デカルバジン(decarbazine))、アルキル化剤(例えば、メクロレタミン、チオエパ(thioepa) クロランブシル、メルファラン、カルムスチン(BSNU)及びロムスチン(CCNU)、シクロソスファミド(cyclothosphamide)、ブスルファン、ジブロモマンニトール、ストレプトゾトシン、マイトマイシンC及びシス−ジクロロジアミン白金(II)(DDP)シスプラチン)、アントラサイクリン(例えば、ダウノルビシン(以前はダウノマイシン)及びドキソルビシン)、抗生物質(例えば、ダクチノマイシン(以前はアクチノマイシン)、ブレオマイシン、ミトラマイシン及びアントラマイシン(AMC))、及び有糸分裂阻害剤(例えば、ビンクリスチン及びビンブラスチン)が挙げられるが、それだけに限定されない。
【0109】
開示する複合体は、所与の生物学的反応の改変に使用することができる。薬物成分は、古典的化学治療薬に限定されると解釈すべきではない。例えば、薬物成分は、所望の生物活性を有するタンパク質又はポリペプチドとすることができる。かかるタンパク質としては、例えば、アブリン、リシンA、pseudomonas外毒素、ジフテリア毒素などの毒素;腫瘍壊死因子、[agr]−インターフェロン、[bgr]−インターフェロン、神経成長因子、血小板由来成長因子、組織プラスミノゲン活性化因子などのタンパク質;又は例えば、リンホカイン、インターロイキン−1(「IL−1」)、インターロイキン−2(「IL−2」)、インターロイキン−6(「IL−6」)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(「GM−CSF」)、顆粒球コロニー刺激因子(「G−CSF」)、他の増殖因子などの生体応答調節物質が挙げられる。
【0110】
かかる治療成分を抗体と複合化する技術は周知であり、例えば、以下を参照されたい。
【0111】
【化2】

【0112】
【化3】

或いは、抗体は、二次抗体と複合化して、米国特許第4,676,980号においてSegalによって記述された抗体ヘテロ複合体を形成することができる。
【0113】
vii.タンパク質化学反応を用いて抗体を作製する方法
抗体を含むタンパク質を製造する一方法は、2種類以上のペプチド又はポリペプチドをタンパク質化学反応技術によって連結することである。例えば、ペプチド又はポリペプチドは、現在利用可能な実験装置を使用して、Fmoc(9−フルオレニルメチルオキシカルボニル)又はBoc(tert−ブチルオキシカルボノイル(butyloxycarbonoyl))化学反応を用いて、化学合成することができる。(Applied Biosystems,Inc.,Foster City,CA)。当業者は、抗体に対応するペプチド又はポリペプチドが、例えば、標準化学反応によって合成できることを容易に理解することができる。例えば、ペプチド又はポリペプチドを合成することができ、その合成樹脂から切断することはできないが、抗体の他方の断片を合成し、続いて樹脂から切断することができ、それによって機能的に封鎖された末端基を他方の断片上で露出させることができる。ペプチド縮合反応によって、これら2個の断片をそれぞれそのカルボキシル及びアミノ末端においてペプチド結合を介して共有結合的に連結して、抗体又はその断片を形成することができる。(Grant GA(1992)Synthetic Peptides:A User Guide.W.H.Freeman and Co.,N.Y.(1992);Bodansky M and Trost B.,Ed.(1993)Principles of Peptide Synthesis.Springer−Verlag Inc.,NY。或いは、上述したように、ペプチド又はポリペプチドは、in vivoで独立に合成される。単離後、類似のペプチド縮合反応によって、これらの独立したペプチド又はポリペプチドを連結して、抗体又はその断片を形成することができる。
【0114】
例えば、クローン化又は合成ペプチドセグメントの酵素連結によって、比較的短いペプチド断片を連結して、より大きいペプチド断片、ポリペプチド又はタンパク質ドメイン全体を生成することができる(Abrahmsen L et al.,Biochemistry,30:4151(1991))。或いは、合成ペプチドの自然な化学連結を利用して、大きいペプチド又はポリペプチドをより短いペプチド断片から合成によって構築することができる。この方法は、2段階化学反応からなる(Dawson et al.Synthesis of Proteins by Native Chemical Ligation.Science,266:776−779(1994))。第一段階は、チオエステル結合中間体を初期共有結合生成物として与える、非保護合成ペプチド−アルファ−チオエステルとアミノ末端Cys残基を含む別の非保護ペプチドセグメントとの化学選択的反応である。反応条件を変えずに、この中間体は、自発的で急速な分子内反応を起こして、自然なペプチド結合を連結部位に形成する。この自然化学連結方法をタンパク質分子の全合成に適用することは、ヒトインターロイキン8(IL−8)の調製によって示されている(Baggiolini M et al.(1992)FEBS Lett.307:97−101;Clark−Lewis I et al.,J.Biol.Chem.,269:16075(1994);Clark−Lewis I et al.,Biochemistry,30:3128(1991);Rajarathnam K et al.,Biochemistry 33:6623−30(1994))。
【0115】
viii.ヒト及びヒト化
内在性免疫グロブリン産生の非存在下で免疫化によってヒト抗体の全レパートリーを産生することができるトランスジェニック動物(例えば、マウス)を使用することができる。例えば、キメラ生殖細胞系列変異マウスにおける抗体重鎖連結領域(J(H))遺伝子のホモ接合型欠失は、内在性抗体産生を完全に阻害することが記述されている。かかる生殖細胞系列変異マウスにおけるヒト生殖系列免疫グロブリン遺伝子アレイの移行によって、抗原曝露後にヒト抗体が産生される(例えば、Jakobovits et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:2551−255(1993);Jakobovits et al.,Nature,362:255−258(1993);Bruggemann et al.,Year in Immuno.,7:33(1993)参照)。ヒト抗体は、ファージディスプレイライブラリーにおいて産生することもできる(Hoogenboom et al.,J.Mol.Biol.,227:381(1991);Marks et al.,J.Mol.Biol.,222:581(1991))。Cote等及びBoerner等の技術は、ヒトモノクローナル抗体の調製にも利用可能である(Cole et al.,Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy,Alan R.Liss,p.77(1985);Boerner et al.,J.Immunol.,147(1):86−95(1991))。
【0116】
場合によっては、抗体は、別の種で産生され、ヒトにおける投与のために「ヒト化」される。非ヒト(例えば、ネズミ)抗体のヒト化体は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含むキメラ免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖又は(Fv、Fab、Fab’、F(ab’)2、抗体の他の抗原結合性部分配列などの)その断片である。ヒト化抗体は、レシピエント抗体の相補性決定領域(CDR)に由来する残基が、所望の特異性、親和性及び能力を有するマウス、ラット、ウサギなどの非ヒト種(ドナー抗体)のCDRに由来する残基で置換された、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)を含む。ヒト免疫グロブリンのFv枠組み残基が、対応する非ヒト残基で置換される場合もある。ヒト化抗体は、レシピエント抗体中にも、移入されたCDR又は枠組み配列中にも存在しない残基も含み得る。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも1個、典型的には2個の可変ドメインの実質的に全部を含み、CDR領域の全部又は実質的に全部は、非ヒト免疫グロブリンのCDR領域に対応し、FR領域の全部又は実質的に全部は、ヒト免疫グロブリンコンセンサス配列のFR領域である。ヒト化抗体は、最適には、免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部、典型的にはヒト免疫グロブリンのそれも含む(Jones et al.,Nature,321:522−525(1986);Riechmann et al.,Nature,332:323−327(1988);及びPresta,Curr.Op.Struct.Biol.,2:593−596(1992))
非ヒト抗体のヒト化方法は当分野で周知である。一般に、ヒト化抗体は、非ヒト源からヒト化抗体中に導入された1個以上のアミノ酸残基を有する。これらの非ヒトアミノ酸残基は、「移入」残基と称されることが多く、典型的には「移入」可変ドメインから取り込まれる。抗体ヒト化技術は、一般に、抗体分子の1個以上のポリペプチド鎖をコードするDNA配列を操作する組換えDNA技術の使用を含む。ヒト化は、Winterと共同研究者(Jones et al.,Nature,321:522−525(1986);Riechmann et al.,Nature,332:323−327(1988);Verhoeyen et al.,Science,239:1534−1536(1988))の方法に従って、げっ歯類CDR又はCDR配列でヒト抗体の対応する配列を置換することによって、本質的に実施することができる。したがって、非ヒト抗体(又はその断片)のヒト化体は、完全ヒト可変ドメインよりもかなり少ないが非ヒト種由来の対応する配列で置換された、キメラ抗体又は断片である(米国特許第4,816,567号)。実際には、ヒト化抗体は、典型的には、幾つかのCDR残基及びことによると幾つかのFR残基が、げっ歯類抗体中の類似部位に由来する残基で置換されたヒト抗体である。
【0117】
ヒト化抗体の作製に使用されるヒト可変ドメインの選択は、軽鎖と重鎖のどちらも、抗原性を低下させるために極めて重要である。「最良適合(best−fit)」法に従って、げっ歯類抗体の可変ドメイン配列を、公知のヒト可変ドメイン配列のライブラリー全体についてスクリーニングする。次いで、げっ歯類の可変ドメイン配列に最も近いヒト配列を、ヒト化抗体に対するヒト枠組み(FR)として受け入れる(Sims et al.,J.Immunol.,151:2296(1993)及びChothia et al.,J.Mol.Biol.,196:901(1987))。別の一方法は、軽鎖又は重鎖の特定のサブグループの全ヒト抗体のコンセンサス配列に由来する特定の枠組みを使用する。同じ枠組みは、幾つかの異なるヒト化抗体に使用することができる(Carter et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89:4285(1992);Presta et al.,J.Immunol.,151:2623(1993))。
【0118】
抗体は、抗原に対する高い親和性、及び他の好都合な生物学的特性を保持してヒト化されることが更に重要である。この目標を達成するために、好ましい一方法によれば、ヒト化抗体は、親配列、並びに親及びヒト化配列の3次元モデルを用いた種々の概念的ヒト化産物の解析プロセスによって調製される。3次元免疫グロブリンモデルは、一般に利用可能であり、当業者によく知られている。選択した免疫グロブリン配列候補の有望な3次元高次構造を図示し、表示するコンピュータープログラムを利用することができる。これらの表示を詳しく調べることによって、免疫グロブリン配列候補の機能における残基の可能な役割を分析することができ、すなわち、免疫グロブリン候補がその抗原に結合する能力に影響を及ぼす残基を分析することができる。このようにして、FR残基をコンセンサスから選択し、組み合わせ、標的抗原(単数又は複数)に対する親和性の増大などの所望の抗体特性が得られるように配列を移入することができる。一般に、CDR残基は、抗原結合への作用に直接的かつ最も実質的に関与する(1994年3月3日に公開された国際公開第94/04679号参照)。
【0119】
本明細書では「エピトープ」という用語は、開示する抗体と特異的に相互作用することができる任意の決定因子を含むものとする。エピトープ決定因子は、通常、アミノ酸、糖側鎖などの化学的に活性な表面分子グループからなり、通常、特定の3次元構造的特性及び特定の電荷特性を有する。
【0120】
「エピトープタグ」とは、抗エピトープタグ抗体又は他の試薬を用いた分子の精製又は架橋に使用することができる、抗体又は分子の機能に無関係な短いペプチド配列を指す。
【0121】
「特異的に結合する」とは、抗体がその同種抗原を認識し、物理的に相互作用し、他の抗原をさほど認識せず、相互作用しないことを意味する。かかる抗体は、当分野で周知である技術によって生成されるポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体であり得る。
【0122】
抗体は、基質に結合することができ、又は検出可能な成分で標識することができ、又は結合し、かつ標識することができる。本組成物で企図される検出可能な成分としては、蛍光性、酵素及び放射性マーカーが挙げられる。
【0123】
ix.抗体の投与
抗体の投与は、本明細書に開示するように実施することができる。抗体送達のための核酸手法も存在する。広範囲に中和性の抗体及び抗体断片は、抗体又は抗体断片をコードする核酸調製物(例えば、DNA又はRNA)として患者又は対象に投与することもでき、患者又は対象自身の細胞が核酸を取り込み、コードされた抗体又は抗体断片を産生し、分泌する核酸の送達は、例えば本明細書に開示する、任意の手段によることができる。
【0124】
開示する組成物及び方法の核酸は、任意の核酸とすることができる。例えば、核酸は、機能性核酸、又は治療用タンパク質若しくはペプチドをコードする核酸とすることができる。したがって、開示する組成物は、核酸を含むベクターを含むことができ、核酸は、機能性核酸、又は治療用タンパク質若しくはペプチドをコードする核酸である。開示する核酸は、例えば、ヌクレオチド、ヌクレオチド類似体又はヌクレオチド代替物で構成され得る。これら及び他の分子の非限定的例は本明細書で考察されている。例えば、ベクターが細胞中で発現されるときに、発現されるmRNAは、典型的には、A、C、G及びUで構成されると理解される。同様に、例えば、アンチセンス分子が、例えば外因的な送達によって、細胞又は細胞環境に導入される場合、アンチセンス分子は、細胞環境中のアンチセンス分子の分解を減少させるヌクレオチド類似体で構成されることが有利であると理解される。
【0125】
ヌクレオチドは、塩基部分、糖部分及びリン酸エステル部分を含む分子である。ヌクレオチドは、そのリン酸エステル部分、及びヌクレオシド間結合を生成する糖部分を介して、連結することができる。ヌクレオチドの塩基部分は、アデニン−9−イル(A)、シトシン−1−イル(C)、グアニン−9−イル(G)、ウラシル−1−イル(U)及びチミン−1−イル(T)であり得る。ヌクレオチドの糖部分はリボース又はデオキシリボースである。ヌクレオチドのリン酸エステル部分は五価リン酸エステルである。ヌクレオチドの非限定的例は、3’−AMP(3’−アデノシン一リン酸)又は5’−GMP(5’−グアノシン一リン酸)である。当分野で利用可能な、さらに、本明細書で利用可能なこれらのタイプの分子は多種多様である。
【0126】
ヌクレオチド類似体は、塩基、糖又はリン酸エステル部分にあるタイプの修飾を含むヌクレオチドである。ヌクレオチドの修飾は、当分野で周知であり、例えば、5−メチルシトシン(5−me−C)、5−ヒドロキシメチルシトシン、キサンチン、ヒポキサンチン及び2−アミノアデニン、並びに糖又はリン酸エステル部分の修飾が挙げられる。当分野で利用可能な、さらに、本明細書で利用可能なこれらのタイプの分子は多種多様である。
【0127】
ヌクレオチド代替物は、ペプチド核酸(PNA)など、ヌクレオチドと類似した機能特性を有するが、リン酸エステル部分を含まない分子である。ヌクレオチド代替物は、ワトソン−クリック又はフーグスティーン様式の核酸を認識するが、リン酸エステル部分以外の部分を介して連結された分子である。ヌクレオチド代替物は、適切な標的核酸と相互作用したときに、二重らせん型構造に従うことができる。当分野で利用可能な、さらに、本明細書で利用可能なこれらのタイプの分子は多種多様である。
【0128】
他のタイプの分子(複合体)をヌクレオチド又はヌクレオチド類似体に連結して、例えば細胞内取り込みを促進することも可能である。複合体は、ヌクレオチド又はヌクレオチド類似体に化学的に連結することができる。かかる複合体としては、コレステロール成分などの脂質成分が挙げられるが、それだけに限定されない。(Letsinger et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1989,86,6553−6556)。当分野で利用可能な、さらに、本明細書で利用可能なこれらのタイプの分子は多種多様である。
【0129】
ワトソン−クリック相互作用は、ヌクレオチド、ヌクレオチド類似体又はヌクレオチド代替物のワトソン−クリック面との少なくとも1つの相互作用である。ヌクレオチド、ヌクレオチド類似体又はヌクレオチド代替物のワトソン−クリック面は、プリン塩基ヌクレオチド、ヌクレオチド類似体又はヌクレオチド代替物のC2、N1及びC6位置、並びにピリミジン塩基ヌクレオチド、ヌクレオチド類似体又はヌクレオチド代替物のC2、N3、C4位置を含む。
【0130】
フーグスティーン相互作用は、二本鎖DNAの主溝に露出した、ヌクレオチド又はヌクレオチド類似体のフーグスティーン面で生じる相互作用である。フーグスティーン面は、プリンヌクレオチドのN7位置、及びC6位置の反応基(NH2又はO)を含む。
【0131】
i.機能性核酸
機能性核酸は、標的分子との結合、特異反応の触媒などの特定の機能を有する核酸分子である。機能性核酸分子は、限定的なものではない以下のカテゴリーに区分することができる。例えば、機能性核酸としては、アンチセンス分子、アプタマー、リボザイム、三本鎖形成分子、RNAi及び外部ガイド配列が挙げられる。機能性核酸分子は、標的分子によって保有される比活性の作用物質、阻害物質、調節物質及び刺激物質として働くことができ、又は機能性核酸分子は、任意の他の分子と無関係に新規活性を保有することができる。
【0132】
機能性核酸分子は、DNA、RNA、ポリペプチド、糖鎖などの任意の巨大分子と相互作用することができる。機能性核酸は、標的分子と機能性核酸分子の配列相同性に基づいて、他の核酸と相互作用するように設計されることが多い。別の状況では、機能性核酸分子と標的分子の間の特異的認識は、機能性核酸分子と標的分子の配列相同性に基づくのではなく、特異的認識を生じさせる三次構造の形成に基づく。
【0133】
アンチセンス分子は、標準又は非標準の塩基対合によって、標的核酸分子と相互作用するように設計される。アンチセンス分子と標的分子の相互作用は、例えばRNAseHによって媒介されるRNA−DNAハイブリッド分解によって、標的分子の破壊を促進するように設計される。或いは、アンチセンス分子は、転写、複製などの標的分子上で通常は起こるプロセシング機能を妨害するように設計される。アンチセンス分子は、標的分子の配列に基づいて設計することができる。標的分子の最も利用可能な領域を見つけることによってアンチセンス効率を最適化する多数の方法が存在する。例示的な方法は、DMS及びDEPCを用いたin vitro選択実験及びDNA修飾試験である。アンチセンス分子は、10−6、10−8、10−10又は10−12以下の解離定数(K)で標的分子に結合することが好ましい。アンチセンス分子の設計及び使用を支援する方法及び技術の代表的実例は、米国特許第5,135,917号、同5,294,533号、同5,627,158号、同5,641,754号、同5,691,317号、同5,780,607号、同5,786,138号、同5,849,903号、同5,856,103号、同5,919,772号、同5,955,590号、同5,990,088号、同5,994,320号、同5,998,602号、同6,005,095号、同6,007,995号、同6,013,522号、同6,017,898号、同6,018,042号、同6,025,198号、同6,033,910号、同6,040,296号、同6,046,004号、同6,046,319号及び同6,057,437号に見いだすことができる。
【0134】
アプタマーは、好ましくは特異的様式で、標的分子と相互作用する分子である。典型的には、アプタマーは、ステムループ、Gカルテットなどの明確な二次及び三次構造に折り畳まれる15〜50塩基長の小さい核酸である。アプタマーは、ATP(米国特許第5,631,146号)、テオフィリン(米国特許第5,580,737号)などの小分子、並びに逆転写酵素(米国特許第5,786,462号)、トロンビン(米国特許第5,543,293号)などの大分子に結合することができる。アプタマーは、10〜12M未満の標的分子からのKで極めて堅固に結合することができる。アプタマーは、10−6、10−8、10−10又は10−12未満のKで標的分子に結合することが好ましい。アプタマーは、極めて高度の特異性で標的分子に結合することができる。例えば、標的分子と、分子上の単一位置しか異ならない別の分子との結合親和性差が10,000倍を超えるアプタマーが単離された(米国特許第5,543,293号)。アプタマーは、バックグラウンド結合分子とのKの少なくとも1/10、1/100、1/1000、1/10,000又は1/100,000倍の標的分子とのKを有することが好ましい。例えばポリペプチドに対して比較を行うときには、バックグラウンド分子が異なるポリペプチドであることが好ましい。種々の異なる標的分子に結合するアプタマーの作製及び使用方法の代表例は、米国特許第5,476,766号、同5,503,978号、同5,631,146号、同5,731,424号、同5,780,228号、同5,792,613号、同5,795,721号、同5,846,713号、同5,858,660号、同5,861,254号、同5,864,026号、同5,869,641号、同5,958,691号、同6,001,988号、同6,011,020号、同6,013,443号、同6,020,130号、同6,028,186号、同6,030,776号及び同6,051,698号に見いだすことができる。
【0135】
リボザイムは、分子内又は分子間で化学反応を触媒する能力のある核酸分子である。したがって、リボザイムは触媒作用性核酸である。リボザイムは、分子間反応を触媒することが好ましい。ハンマーヘッド型リボザイム(米国特許第5,334,711号、同5,436,330号、同5,616,466号、同5,633,133号、同5,646,020号、同5,652,094号、同5,712,384号、同5,770,715号、同5,856,463号、同5,861,288号、同5,891,683号、同5,891,684号、同5,985,621号、同5,989,908号、同5,998,193号、同5,998,203号;Ludwig及びSproatによる国際公開第9858058号、Ludwig及びSproatによる国際公開第9858057号、並びにLudwig及びSproatによる国際公開第9718312号)、ヘアピンリボザイム(例えば、米国特許第5,631,115号、同5,646,031号、同5,683,902号、同5,712,384号、同5,856,188号、同5,866,701号、同5,869,339号及び同6,022,962号)、テトラヒメナリボザイム(例えば、米国特許第5,595,873号及び同5,652,107号)などの自然系に存在するリボザイムに基づくヌクレアーゼ又は核酸ポリメラーゼ型反応を触媒する幾つかの異なるタイプのリボザイムがある。自然系に存在しないが、新規に特定の反応を触媒するように操作された幾つかのリボザイムもある(例えば、米国特許第5,580,967号、同5,688,670号、同5,807,718号及び同5,910,408号)。好ましいリボザイムは、RNA又はDNA基質を切断し、より好ましくはRNA基質を切断する。リボザイムは、典型的には、標的基質の認識及び結合と、それに続く切断によって、核酸基質を切断する。この認識は、大部分は標準又は非標準の塩基対相互作用に基づくことが多い。標的基質の認識は標的基質配列に基づくので、この性質によって、リボザイムは、核酸の標的特異的切断の特に良好な候補になる。種々の異なる反応を触媒するリボザイムの作製及び使用方法の代表例は、米国特許第5,646,042号、同5,693,535号、同5,731,295号、同5,811,300号、同5,837,855号、同5,869,253号、同5,877,021号、同5,877,022号、同5,972,699号、同5,972,704号、同5,989,906号及び同6,017,756号に見いだすことができる。
【0136】
三本鎖形成機能性核酸分子は、二本鎖又は一本鎖核酸と相互作用することができる分子である。三本鎖分子が標的領域と相互作用するとき、ワトソン−クリックとフーグスティーンの両方の塩基対合に依存する複合体を形成する3本のDNA鎖が存在する、三本鎖と呼ばれる構造が形成される。三本鎖分子は、標的領域と高親和性及び特異性で結合することができるので好ましい。三本鎖形成分子は、10−6、10−8、10−10又は10−12未満のKで標的分子に結合することが好ましい。種々の異なる標的分子に結合する三本鎖形成分子の作製及び使用方法の代表例は、米国特許第5,176,996号、同5,645,985号、同5,650,316号、同5,683,874号、同5,693,773号、同5,834,185号、同5,869,246号、同5,874,566号及び同5,962,426号に見いだすことができる。
【0137】
外部ガイド配列(EGS)は、複合体を形成する標的核酸分子に結合する分子であり、この複合体は、標的分子を切断するRNase Pによって認識される。EGSは、最適なRNA分子を特異的に標的にするように設計することができる。RNAse Pは、細胞内の転移RNA(tRNA)のプロセシングを支援する。細菌RNAse Pは、標的RNA:EGS複合体が天然tRNA基質を模倣するようにするEGSを用いることによって、実質的にあらゆるRNA配列を切断するように動員することができる。(Yaleによる国際公開第92/03566号、及びForster and Altman,Science 238:407−409(1990))。
【0138】
同様に、RNAの真核生物EGS/RNAse P指向的切断を利用して、真核細胞内の所望の標的を切断することができる。(Yuan et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:8006−8010(1992);Yaleによる国際公開第93/22434号;Yaleによる国際公開第95/24489号;Yuan and Altman,EMBO J 14:159−168(1995)、及びCarrara et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)92:2627−2631(1995))。種々の異なる標的分子の切断を促進するEGS分子の作製及び使用方法の代表例は、米国特許第5,168,053号、同5,624,824号、同5,683,873号、同5,728,521号、同5,869,248号及び同5,877,162号に見いだすことができる。
【0139】
遺伝子発現は、RNA干渉(RNAi)によって極めて特異的な様式で効果的に停止させることもできる。このサイレンシングは、二本鎖RNA(dsRNA)の添加によって最初に認められた(Fire,A.,et al.(1998)Nature,391:806−11;Napoli,C,et al.(1990)Plant Cell 2:279−89;Hannon,G.J.(2002)Nature,418:244−51)。dsRNAが細胞に入った後、dsRNAはRNase III様酵素ダイサーによって、2ヌクレオチドオーバーハングを3’末端に含む21〜23ヌクレオチド長の二本鎖低分子干渉RNA(siRNA)に切断される(Elbashir,S.M.,et al.(2001)Genes Dev.,15:188−200;Bernstein,E.,et al.(2001)Nature,409:363−6;Hammond,S.M.,et al.(2000)Nature,404:293−6)。ATP依存段階では、siRNAは、siRNAを標的RNA配列に導く、RNAi誘導サイレンシング複合体(RISC)として一般に知られる多サブユニットタンパク質複合体に組み込まれる(Nykanen,A.,et al.(2001)Cell,107:309−21)。ある時点でsiRNA二本鎖がほどけ、アンチセンス鎖はRISCに結合したまま、エンドとエキソヌクレアーゼの組合せによる相補的mRNA配列の分解を誘導すると考えられる(Martinez,J.,et al.(2002)Cell,110:563−74)。しかしながら、iRNA又はsiRNAの効果、又はその使用は、任意のタイプの機序に限定されない。
【0140】
低分子干渉RNA(siRNA)は、配列特異的転写後遺伝子サイレンシングを誘導し、それによって遺伝子発現を減少させ、阻害さえすることができる二本鎖RNAである。一例では、siRNAは、siRNAと標的RNAの間の配列相同領域内のmRNAなどの相同RNA分子の特異的分解を誘発する。例えば、国際公開第02/44321号は、3’オーバーハング末端と塩基対を形成したときに標的mRNAの配列特異的分解が可能なsiRNAを開示している。これらのsiRNAの作製方法を参照により本明細書に援用する。配列特異的遺伝子サイレンシングは、酵素ダイサーによって生成されるsiRNAを模倣した短い合成二本鎖RNAを用いて、ほ乳動物細胞において実施することができる(Elbashir,S.M.,et al.(2001)Nature,411:494 498)(Ui−Tei,K.,et al.(2000)FEBS Lett 479:79−82)。siRNAは、化学的に若しくはin vitro合成することができ、又は細胞内でsiRNAにプロセシングされる低分子二本鎖ヘアピン様RNA(shRNA)の結果であり得る。合成siRNAは、一般に、アルゴリズム及び従来のDNA/RNA合成装置を用いて設計される。供給業者としては、Ambion(Austin,Texas)、ChemGenes(Ashland,Massachusetts)、Dharmacon(Lafayette,Colorado)、Glen Research(Sterling,Virginia)、MWB Biotech(Esbersberg,Germany)、Proligo(Boulder,Colorado)、Qiagen(Vento,The Netherlands)などが挙げられる。siRNAは、AmbionのSILENCER(登録商標)siRNA Construction Kitなどのキットを用いてin vitroで合成することもできる。
【0141】
ベクターからのsiRNAの生成は、より一般的には、低分子ヘアピン型RNA(shRNA)の転写によって実施される。例えば、ImgenexのGENESUPPRESSOR(商標)Construction Kits、InvitrogenのBLOCK−IT(商標)誘導RNAiプラスミド及びレンチウイルスベクターなど、shRNAを含むベクターの製造キットが利用可能である。本明細書に開示する炎症伝達物質の配列に基づいて上述したように設計された任意のhRNAを本明細書に開示する。
【0142】
ii.核酸ベクター
治療用タンパク質及びペプチドをコードする核酸などの核酸を細胞にin vitro又はin vivoで送達するのに使用することができる幾つかの組成物及び方法がある。これらの方法及び組成物は、おおむね2つのクラス、すなわち、ウイルス送達系及び非ウイルス送達系に分類することができる。例えば、核酸は、電気穿孔法、リポフェクション、リン酸カルシウム沈殿、プラスミド、ウイルスベクター、ウイルス核酸、ファージ核酸、ファージ、コスミドなどの幾つかの直接送達系によって、又は細胞若しくはカチオン性リポソームなどの担体中の遺伝物質の移動によって、送達することができる。ウイルスベクター、化学形質移入体、又は電気穿孔法、DNAの直接拡散などの物理−機械的方法を含めて、適切な移入手段は、例えば、Wolff,J.A.,et al.,Science,247,1465−1468,(1990)及びWolff,J.A.Nature,352,815−818,(1991)に記載されている。かかる方法は当分野で周知であり、本明細書に記載の組成物及び方法で使用されるように容易に改作することができる。方法は、大きいDNA分子を用いて特異的に機能するように改変できる場合もある。さらに、これらの方法は、担体のターゲティング特性を利用して、ある種の疾患及び細胞集団を標的にするのに使用することができる。
【0143】
a.核酸ベースの送達系
導入ベクターは、遺伝子を細胞に送達するのに使用される任意のヌクレオチド構築体(例えば、プラスミド)、又は遺伝子を送達する一般的戦略の一部として、例えば、組換えレトロウイルス若しくはアデノウイルスの一部として使用される任意のヌクレオチド構築体とすることができる(Ram et al.Cancer Res.53:83−88,(1993))。
【0144】
本明細書では、プラスミド又はウイルスベクターは、核酸を分解なしに細胞に輸送する媒介物であり、送達される細胞中で遺伝子を発現させるプロモーターを含む。ウイルスベクターは、例えば、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポリオウイルス、AIDSウイルス、ニューロン栄養性(neuronal trophic)ウイルス、シンドビス及び他のRNAウイルスであり、HIV骨格を有するこれらのウイルスを含む。これらのウイルスをベクターとしての使用に適切なものにするこれらのウイルスの諸性質を共有する任意のウイルスファミリーも好ましい。レトロウイルスとしては、ネズミMaloney白血病ウイルスMMLV、及びベクターとしてMMLVの望ましい諸性質を発現するレトロウイルスが挙げられる。レトロウイルスベクターは、他のウイルスベクターよりも大きい搭載遺伝子(genetic payload)、すなわち、導入遺伝子又はマーカー遺伝子を輸送することができ、そのために一般に使用されるベクターである。しかし、レトロウイルスベクターは非増殖性細胞では有用でない。アデノウイルスベクターは、比較的安定であり、作業が容易であり、高い力価を有し、エアロゾル製剤中で送達することができ、非分裂細胞に移入することができる。ポックスウイルスベクターは大きく、幾つかの遺伝子挿入部位を有し、耐熱性であり、室温で貯蔵することができる。好ましい一実施形態は、ウイルス抗原によって誘発される宿主生物体の免疫応答を抑制するように操作されたウイルスベクターである。このタイプの好ましいベクターは、インターロイキン8又は10のコード領域を有する。
【0145】
ウイルスベクターは、遺伝子を細胞に導入する化学的又は物理的方法よりも高い処理(遺伝子導入能力)能力を有し得る。典型的には、ウイルスベクターは、非構造初期遺伝子、構造後期遺伝子、RNAポリメラーゼIII転写物、複製及びキャプシド形成に必要な逆位末端反復、並びにウイルスゲノムの転写及び複製を制御するプロモーターを含む。ベクターとして操作されるときには、ウイルスは、典型的には、初期遺伝子の1個以上が除去され、遺伝子又は遺伝子/プロモーターカセットが、除去されたウイルスDNAの代わりにウイルスゲノムに挿入される。このタイプの構築物は、最高約8kbの外来遺伝物質を有し得る。除去された初期遺伝子の必要な機能は、典型的には、初期遺伝子の遺伝子産物をトランスで発現するように操作された細胞系によって供給される。
【0146】
(A)レトロウイルスベクター
レトロウイルスは、あらゆるタイプ、サブファミリー、属又は親和性を含めたレトロウイルス科に属する動物ウイルスである。レトロウイルスベクターは、一般に、参照により本明細書に援用するVerma,I.M.,Retroviral vectors for gene transfer.In Microbiology−1985,American Society for Microbiology,pp.229−232,Washington,(1985)に記載されている。遺伝子療法のためにレトロウイルスベクターを使用する方法の例は、米国特許第4,868,116号及び同4,980,286号;国際公開第90/02806号及び同89/07136号;及びMulligan,(Science 260:926−932(1993))に記載されており、その教示を参照により本明細書に援用する。
【0147】
レトロウイルスは、本質的に、核酸カーゴ(cargo)に詰め込んだパッケージである。核酸カーゴは、複製された娘分子がパッケージ外被内に確実に効率的に詰められるようにするパッケージングシグナルを輸送する。パッケージシグナルに加えて、複製及び複製ウイルスのパッケージングのためにシスで必要とされる幾つかの分子が存在する。典型的には、レトロウイルスゲノムは、タンパク質外被の生成に関与するgag、pol及びenv遺伝子を含む。標的細胞に移送されることになるのは、典型的には外来DNAで置換されたgag、pol及びenv遺伝子である。レトロウイルスベクターは、典型的には、パッケージ外被中に組み入れるためのパッケージングシグナルと、gag転写単位の開始を合図する配列と、逆転写のtRNAプライマーを結合するためのプライマー結合部位を含めて、逆転写に必要なエレメントと、DNA合成中にRNA鎖の切り換えを誘導する末端反復配列と、DNA合成の第2の鎖の合成のためのプライミング部位として役立つプリンリッチ配列5’から3’LTRと、レトロウイルスのDNA状態の挿入物(insertion)を宿主ゲノム中に挿入可能にするLTR末端近傍の特定の配列とを含む。gag、pol及びenv遺伝子を除去すると、約8kbの外来配列をウイルスゲノム中に挿入し、逆転写し、複製時に新しいレトロウイルス粒子に詰め込むことができる。この核酸量は、各転写物のサイズに応じて1個から多数の遺伝子を送達するのに十分である。ポジティブ又はネガティブ選択マーカーを他の遺伝子と一緒に挿入断片中に含むことが好ましい。
【0148】
大部分のレトロウイルスベクター中の複製機構及びパッケージングタンパク質は除去されているので(gag、pol及びenv)、ベクターは、典型的には、レトロウイルスベクターをパッケージング細胞系に入れることによって生成される。パッケージング細胞系は、複製及びパッケージング機構を含むレトロウイルスを移入した細胞系、又は該レトロウイルスで形質転換された細胞系であるが、あらゆるパッケージングシグナルを欠く。最適なDNAを有するベクターをこれらの細胞系に移入するときには、ヘルパー細胞によってシスで提供される機構によって、目的遺伝子を含むベクターを複製し、新しいレトロウイルス粒子中に詰め込む。該機構のゲノムは、必要なシグナルを欠くので、詰め込まれない。
【0149】
(B)アデノウイルスベクター
複製欠損アデノウイルスの構築は記述されている(Berkner et al.,J.Virology 61:1213−1220(1987);Massie et al.,Mol.Cell.Biol.6:2872−2883(1986);Haj−Ahmad et al.,J.Virology 57:267−274(1986);Davidson et al.,J.Virology 61:1226−1239(1987);Zhang”Generation and identification of recombinant adenovirus by liposome−mediated transfection and PCR analysis”BioTechniques 15:868−872(1993))。これらのウイルスをベクターとして使用する利点は、これらのウイルスが最初の感染細胞内で複製し得るが、新しい感染性ウイルス粒子を形成することができないので、これらのウイルスが他の細胞型に広がり得る程度に限定されることである。組換えアデノウイルスは、気道上皮、肝細胞、血管内皮、CNS実質、及び幾つかの他の組織部位への直接のin vivo送達後に高効率で遺伝子を移入することが示されている。
【0150】
【化4】

【0151】
【化5】

組換えアデノウイルスは、特定の細胞表面受容体に結合することによって遺伝子を導入した後、野生型又は複製欠損アデノウイルスと同様に、受容体媒介性エンドサイトーシスによって内部に取り入れられる(Chardonnet and Dales,Virology 40:462−477(1970);Brown and Burlingham,J.Virology 12:386−396(1973);Svensson and Persson,J.Virology 55:442−449(1985);Seth,et al.,J.Virol.51:650−655(1984);Seth,et al.,Mol.Cell.Biol.4:1528−1533(1984);Varga et al.,J.Virology 65:6061−6070(1991);Wickham et al.,Cell 73:309−319(1993))。
【0152】
ウイルスベクターは、E1遺伝子が除去されたアデノウイルスに基づくウイルスベクターとすることができ、これらのビロン(viron)は、ヒト293細胞系などの細胞系において生成される。別の好ましい一実施形態においては、E1とE3の両方の遺伝子がアデノウイルスゲノムから除去される。
【0153】
(C)アデノ随伴ウイルスベクター
別のタイプのウイルスベクターはアデノ随伴ウイルス(AAV)に基づく。この欠陥のあるパルボウイルスは、多数の細胞型に感染することができ、ヒトに対して非病原性であるので、好ましいベクターである。AAV型ベクターは約4から5kbを輸送することができ、野生型AAVは第19染色体に安定に挿入されることが知られている。この部位特異的組み込み特性を有するベクターは好ましい。このタイプのベクターの特に好ましい一実施形態は、Avigen、San Francisco、CAによって製造されるP4.1Cベクターである。このベクターは、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子HSV−tk、及び/又は緑色蛍光タンパク質GFPをコードする遺伝子などのマーカー遺伝子を含むことができる。
【0154】
別のタイプのAAVウイルスでは、AAVは、プロモーターを含む少なくとも1個のカセットに隣接した1対の逆位末端反復(ITR)を含む。プロモーターは、細胞特異的発現を誘導し、異種遺伝子に作動可能に結合している。この状況における異種とは、AAV又はB19パルボウイルスに固有ではない任意のヌクレオチド配列又は遺伝子を指す。
【0155】
典型的には、AAV及びB19コード領域は除去されて、安全な無細胞毒性ベクターが生成する。AAV ITR又はその修飾は、感染性及び部位特異的組み込みをもたらすが、細胞傷害性は与えず、プロモーターは細胞特異的発現を誘導する。AAVベクターに関連した資料として、米国特許第6,261,834号を参照により本明細書に援用する。
【0156】
したがって、開示するベクターは、実質的な毒性なしにほ乳動物の染色体に組み込むことができるDNA分子を提供する。
【0157】
ウイルス及びレトロウイルス中の挿入遺伝子は、通常、所望の遺伝子産物の発現を制御するのを助けるプロモーター及び/又はエンハンサーを含む。プロモーターは、一般に、転写開始点に対して比較的固定された位置にあるときに機能するDNAの一配列又は複数の配列である。プロモーターは、RNAポリメラーゼと転写因子の基本的相互作用に必要なコアエレメントを含み、上流エレメント及び応答エレメントを含み得る。
【0158】
(D)搭載量の大きいウイルスベクター
大きいヒトヘルペスウイルスを用いた分子遺伝学的実験は、大きい異種DNA断片をヘルペスウイルス感染を許容する細胞中でクローン化し、増殖し、樹立することができる手段を提供した(Sun et al.,Nature genetics 8:33−41,1994;Cotter and Robertson,.Curr Opin Mol Ther 5:633−644,1999)。これらの大きいDNAウイルス(単純ヘルペスウイルス(HSV)及びエプスタインバーウイルス(EBV))は、150kbを超えるヒト異種DNA断片を特定の細胞に送達する能力を有する。EBV組換え体は、大きいDNA片を感染B細胞中でエピソームDNAとして維持することができる。最高330kbのヒトゲノム挿入断片を有する個々のクローンは、遺伝的に安定であると考えられた。これらのエピソームの維持は、EBV感染中に恒常的に発現される特定のEBV核タンパク質EBNA1を必要とする。さらに、これらのベクターは移入に使用することができ、多量のタンパク質をin vitroで一過性に産生することができる。220kbを超えるDNA片を詰め込み、DNAをエピソームとして安定に維持することができる細胞を感染させるのに、ヘルペスウイルスアンプリコン系も使用されている。
【0159】
別の有用な系としては、例えば、複製ワクシニアウイルスベクター、及び宿主に制限された非複製ワクシニアウイルスベクターが挙げられる。
【0160】
細胞に送達され、宿主細胞ゲノムに組み込まれる核酸は、典型的には、組み込み配列を含む。特にウイルスを用いた系を使用するときには、この配列はウイルス関連配列であることが多い。このウイルス組み込み系は、リポソームなどの非核酸ベースの送達系を使用して送達される核酸に組み入れることもでき、その結果、送達系に含まれる核酸を宿主ゲノムに組み込むことができる。
【0161】
宿主ゲノムに組み込むための別の一般的技術としては、例えば、宿主ゲノムとの相同組換えを促進するように設計された系が挙げられる。この系は、典型的には、発現される核酸に隣接する配列に依拠し、この配列は、ベクター核酸と標的核酸の組換えが起こる宿主細胞ゲノム内の標的配列と十分な相同性を有し、送達された核酸が宿主ゲノムに組み込まれる。相同組換えを促進するのに必要なこれらの系及び方法は、当業者に公知である。
【0162】
b.非核酸ベースの系
開示する組成物及び方法の核酸は、種々の方法で標的細胞に送達することができる。例えば、組成物は電気穿孔法によって、又はリポフェクションによって、又はリン酸カルシウム沈殿によって、送達することができる。選択される送達機序は、標的細胞のタイプ、さらに、送達が例えばin vivoとin vitroのどちらで起きているかにある程度依存する。
【0163】
したがって、組成物は、例えば、陽イオン性リポソーム(例えば、DOTMA、DOPE、DCコレステロール)、陰イオン性リポソームなどのリポソームなどの脂質を含むことができる。リポソームは、さらに、必要に応じて、特定の細胞を標的にするのを容易にするタンパク質を含むことができる。化合物と陽イオン性リポソームを含む組成物の投与は、標的器官に向かう血液に投与することができ、又は気道に吸入して、気道の細胞を標的にすることができる。リポソームに関しては、例えば、Brigham et al.Am.J.Resp.Cell.Mol.Biol.1:95−100(1989);Felgner et al.Proc.Natl.Acad.Sci USA 84:7413−7417(1987)、米国特許第4,897,355号を参照されたい。また、化合物は、マクロファージなどの特定の細胞型を標的にすることができる、又はマイクロカプセルからの化合物の拡散若しくは化合物の送達が特定の速度若しくは投与量に対して設計された、マイクロカプセルの成分として投与することができる。
【0164】
対象の細胞中への外来DNAの投与及び取り込み(すなわち、遺伝子の導入又は移入)を含む上記方法においては、細胞への組成物の送達は種々の機序によることができる。一例として、送達は、LIPOFECTIN、LIPOFECTAMINE(GIBCO−BRL,Inc.,Gaithersburg、MD)、SUPERFECT(Qiagen,Inc.Hilden,Germany)、TRANSFECTAM(Promega Biotec,Inc.,Madison,WI)などの市販リポソーム調製物、及び当分野で標準の手順に従って開発された他のリポソームを用いて、リポソームを介することができる。さらに、開示する核酸又はベクターは、電気穿孔法によってin vivoで送達することができる。そのための技術は、Genetronics,Inc.(San Diego,CA)から利用可能であり、SONOPORATION装置(ImaRx Pharmaceutical Corp.,Tucson,AZ)によって利用可能である。
【0165】
材料は、(例えば、微粒子、リポソーム又は細胞に入れられる)溶液、懸濁液とすることができる。これらは、抗体、受容体又は受容体リガンドを介して特定の細胞型を標的にすることができる。以下の参考文献は、特定のタンパク質を腫瘍組織に向けるこの技術の使用例であり、その原理は、他の細胞のターゲティングに適用することができる(Senter,et al.,Bioconjugate Chem.,2:447−451,(1991);Bagshawe,K.D.,Br.J.Cancer,60:275−281,(1989);Bagshawe,et al.,Br.J.Cancer,58:700−703,(1988);Senter,et al.,Bioconjugate Chem.,4:3−9,(1993);Battelli,et al.,Cancer Immunol.Immunother.,35:421−425,(1992);Pietersz and McKenzie,Immunolog.Reviews,129:57−80,(1992);及びRoffler,et al.,Biochem.Pharmacol,42:2062−2065,(1991))。これらの技術は、種々の他の特定の細胞型に対して使用することができる。「stealth」、(結腸癌を標的にした脂質媒介性薬物を含めた)他の抗体複合リポソームなどのビヒクル、細胞特異的リガンドによるDNAの受容体媒介性ターゲティング、リンパ球指向性腫瘍ターゲティング、及びin vivoでのネズミ神経こう腫細胞の極めて特異的な治療用レトロウイルスターゲティング。以下の参考文献は、特定のタンパク質を腫瘍組織に向けるこの技術の使用例である(Hughes et al.,Cancer Research,49:6214−6220,(1989)、及びLitzinger and Huang,Biochimica et Biophysica Acta,1104:179−187,(1992))。一般に、受容体は、構成的な又はリガンド誘導性のエンドサイトーシスの経路に関与する。これらの受容体は、クラスリンで覆われた小か(pit)中でクラスター形成し、クラスリンで覆われた小胞を介して細胞に入り、受容体が選別される酸性化されたエンドソームを通過し、次いで細胞表面に再循環されるか、細胞内に貯蔵されるか、又はリソソーム中で分解される。内部移行経路は、栄養素の取り込み、活性化タンパク質の除去、巨大分子のクリアランス、ウイルス及び毒素の日和見的侵入、リガンドの解離及び分解、受容体レベルの制御などの種々の機能を果たす。多数の受容体が、細胞型、受容体濃度、リガンドタイプ、リガンド結合価及びリガンド濃度に応じて、1個を超える細胞内経路に従う。受容体媒介性エンドサイトーシスの分子及び細胞機序は概説されている(Brown and Greene,DNA and Cell Biology 10:6,399−409(1991))。
【0166】
細胞に送達され、宿主細胞ゲノムに組み込まれる核酸は、典型的には、組み込み配列を含む。特にウイルスを用いた系を使用するときには、この配列はウイルス関連配列であることが多い。このウイルス組み込み系は、リポソームなどの非核酸ベースの送達系を使用して送達される核酸に組み入れることもでき、その結果、送達系に含まれる核酸を宿主ゲノムに組み込むことができる。
【0167】
宿主ゲノムに組み込むための別の一般的技術としては、例えば、宿主ゲノムとの相同組換えを促進するように設計された系が挙げられる。この系は、典型的には、発現される核酸に隣接する配列に依拠し、この配列は、ベクター核酸と標的核酸の組換えが起こる宿主細胞ゲノム内の標的配列と十分な相同性を有し、送達された核酸が宿主ゲノムに組み込まれる。相同組換えを促進するのに必要なこれらの系及び方法は、当業者に公知である。
【0168】
c.発現系
細胞に送達される核酸は、典型的には、発現制御系を含む。例えば、ウイルス及びレトロウイルス系中の挿入遺伝子は、通常、所望の遺伝子産物の発現を制御するのを助けるプロモーター及び/又はエンハンサーを含む。プロモーターは、一般に、転写開始点に対して比較的固定された位置にあるときに機能するDNAの一配列又は複数の配列である。プロモーターは、RNAポリメラーゼと転写因子の基本的相互作用に必要なコアエレメントを含み、上流エレメント及び応答エレメントを含み得る。
【0169】
(A)ウイルスプロモーター及びエンハンサー
ほ乳動物宿主細胞においてベクターからの転写を制御する好ましいプロモーターは、種々の出所、例えば、ポリオーマ、シミアンウイルス40(SV40)、アデノウイルス、レトロウイルス、B型肝炎ウイルス、最も好ましくはサイトメガロウイルスなどのウイルスのゲノムから、又は異種ほ乳動物プロモーター、例えばベータアクチンプロモーターから得ることができる。SV40ウイルスの初期及び後期プロモーターは、好都合には、SV40ウイルス複製開始点も含むSV40制限酵素断片として得られる(Fiers et al.,Nature,273:113(1978))。ヒトサイトメガロウイルスの前初期プロモーターは、好都合には、HindIII E制限酵素断片として得られる(Greenway,P.J.et al.,Gene 18:355−360(1982))。宿主細胞又は近縁種由来のプロモーターも本明細書では有用であることは言うまでもない。
【0170】
エンハンサーとは、一般に、転写開始点から不定の距離で機能するDNA配列を指し、転写単位に対して5’(Laimins,L.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.78:993(1981))又は3’(Lusky,M.L.,et al.,Mol.Cell Bio.3:1108(1983))であり得る。さらに、エンハンサーは、イントロン内(Banerji,J.L.et al.,Cell 33:729(1983))及びコード配列自体内(Osborne,T.F.,et al.,Mol.Cell Bio.4:1293(1984))に存在し得る。エンハンサーは、通常10から300bp長であり、シスで機能する。エンハンサーは、近くのプロモーターからの転写を増加させるように機能する。エンハンサーは、転写の調節を媒介する応答エレメントを含むことも多い。プロモーターは、転写の調節を媒介する応答エレメントを含むこともできる。エンハンサーは、遺伝子の発現の調節を決定することが多い。多数のエンハンサー配列がほ乳動物遺伝子(グロビン、エラスターゼ、アルブミン、α−フェトプロテイン及びインスリン)から現在知られているが、典型的には、真核細胞ウイルス由来のエンハンサーを一般的な発現に使用する。好ましい例は、複製開始点の後期側(bp100〜270)のSV40エンハンサー、サイトメガロウイルス初期プロモーターエンハンサー、複製開始点の後期側のポリオーマエンハンサー、及びアデノウイルスエンハンサーである。
【0171】
プロモーター及び/又はエンハンサーは、光又はその機能を誘発する特定の化学事象によって特異的に活性化され得る。系は、テトラサイクリン、デキサメタゾンなどの試薬によって調節することができる。ガンマ照射などの照射又はアルキル化化学療法剤に曝露することによって、ウイルスベクター遺伝子発現を高める方法もある。
【0172】
ある実施形態においては、プロモーター及び/又はエンハンサー領域は、構成型プロモーター及び/又はエンハンサーとして作用して、転写される転写単位の領域の発現を最大にすることができる。ある種の構築物においては、プロモーター及び/又はエンハンサー領域は、たとえ特定の細胞型において特定の時期にしか発現されないとしても、すべての真核細胞型において活性である。このタイプの好ましいプロモーターは、CMVプロモーター(650塩基)である。別の好ましいプロモーターは、SV40プロモーター、サイトメガロウイルス(完全長プロモーター)及びレトロウイルスベクターLTRである。
【0173】
すべての特定の調節エレメントは、クローン化することができ、黒色腫細胞などの特定の細胞型において選択的に発現される発現ベクターを構築するのに使用できることが示された。グリア線維性酢酸タンパク質(GFAP)プロモーターは、グリア起源の細胞において遺伝子を選択的に発現するのに使用されてきた。
【0174】
真核生物宿主細胞(酵母、真菌、昆虫、植物、動物、ヒト又は有核細胞)において使用される発現ベクターは、mRNA発現に影響を及ぼし得る転写の終結に必要な配列を含むこともできる。これらの領域は、組織因子タンパク質をコードするmRNAの非翻訳部分におけるポリアデニル化セグメントとして転写される。3’非翻訳領域も、転写終結部位を含む。転写単位もポリアデニル化領域を含むことが好ましい。この領域の1つの利点は、転写された単位がmRNAのようにプロセシングされ、輸送される可能性をこの領域が増加させることである。発現構築物におけるポリアデニル化シグナルの特定及び使用は十分に確立されている。相同のポリアデニル化シグナルが導入遺伝子構築物において使用されることが好ましい。ある種の転写単位においては、ポリアデニル化領域は、SV40初期ポリアデニル化シグナルに由来し、約400塩基からなる。転写された単位は別の標準配列を単独で、又は上記配列と組み合わせて含み、構築物からの発現又は構築物の安定性を改善することも好ましい。
【0175】
(B)マーカー
ウイルスベクターは、マーカー産物をコードする核酸配列を含むことができる。このマーカー産物を使用して、遺伝子が細胞に送達されたかどうか、さらに、送達された後、発現されるかどうかを明らかにすることができる。好ましいマーカー遺伝子は、β−ガラクトシダーゼをコードするE.Coli lacZ遺伝子、及び緑色蛍光タンパク質である。
【0176】
一部の実施形態においては、マーカーは選択マーカーとすることができる。ほ乳動物細胞の場合の適切な選択マーカーの例は、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)、チミジンキナーゼ、ネオマイシン、ネオマイシン類似体G418、ハイドロマイシン(hydromycin)及びピューロマイシンである。かかる選択マーカーがほ乳動物宿主細胞中に首尾よく移行されると、形質転換されたほ乳動物宿主細胞は、選択圧下に置かれた場合に生存することができる。選択措置の2つの広範に使用される異なるカテゴリーがある。第1のカテゴリーは、細胞の代謝、及び補足培地とは無関係に増殖する能力を欠いた変異細胞系の使用に基づく。2つの例は、CHO DHFR−細胞及びマウスLTK−細胞である。これらの細胞は、チミジン又はヒポキサンチンのような栄養素の添加なしに増殖する能力を欠く。これらの細胞は完全ヌクレオチド合成経路に必要なある種の遺伝子を欠くので、欠損したヌクレオチドが補足培地において供給されない限り、生存することはできない。培地を補充することの代替は、完全DHFR又はTK遺伝子を、それぞれの遺伝子を欠く細胞に導入して、それらの増殖要件を変更することである。DHFR又はTK遺伝子で形質転換されなかった個々の細胞は、非補足培地において生存することができない。
【0177】
第2のカテゴリーは、優性選択である。優性選択は、任意の細胞型において使用される選択スキームを指し、変異細胞系を使用する必要がない。これらのスキームは、典型的には、薬物を使用して、宿主細胞の増殖を阻止する。新規遺伝子を有する細胞は、薬剤耐性を伝達するタンパク質を発現して、選択に耐える。かかる優性選択の例は、薬物ネオマイシン、(Southern P.and Berg,P.,J.Molec.Appl.Genet.1:327(1982))、ミコフェノール酸、(Mulligan,R.C.and Berg,P.Science 209:1422(1980))又はハイグロマイシン、(Sugden,B.et al.,Mol.Cell.Biol.5:410−413(1985))を使用する。これら3例は、真核生物制御下で細菌遺伝子を使用して、それぞれ、適切な薬物G418若しくはネオマイシン(geneticin)、xgpt(ミコフェノール酸)又はハイグロマイシンに対する耐性を伝達する。他の例としては、ネオマイシン類似体G418及びピューラマイシン(puramycin)が挙げられる。
【0178】
治療薬、生理活性薬剤、診断薬及び/又は予防薬を含めた他の材料、細胞又は組織全体を、本発明に使用される長時間作用製剤に含めることができる。これらの材料は、例えば薬物の制御放出に使用して、装置を放射線不透過性にし、組織内方成長を刺激し、組織再生を促進し、感染を防止し、又は装置の多孔度を変更することができる。
【0179】
抗体又は核酸は、抗体又は核酸の生物学的効果、生物活性、安定性又は放出を変更又は増強する、微粒子組成物中に含まれる他の賦形剤と複合化又は会合させることができる。本発明の別の一態様においては、これらの薬剤は、抗体又は核酸と他の薬剤の複合体又は会合を形成せずに、抗体又は核酸と一緒に微粒子組成物に単に組み入れることができる。(重合体プロドラッグを含めて)プロドラッグの形の抗体又は核酸を本発明の微粒子組成物に組み入れることができる。本発明の別の態様は、(例えば、生物学的ターゲティングを達成する目的で、又は上記の未変性抗体若しくは核酸又は任意の組合せの薬物動態学又は体内分布に影響を及ぼす他の手段のために、)その他の方法で化学修飾された抗体又は核酸の組み入れを含む。
【0180】
他の成分
遊離抗体又は核酸の送達、及び長時間作用製剤の送達に典型的に使用される、例えば、溶媒、懸濁剤、界面活性剤、担体、希釈剤、充填剤などの他の成分も、本明細書では使用することができる。当業者は、遊離抗体又は核酸及び長時間作用製剤を送達するのに適切な担体を選択する方法を知っているであろう。種々の態様においては、担体は水を含み、又は水である。
【0181】
特定の一態様においては、長時間作用製剤は、水溶液に溶解された抗体、及び同じ水溶液中に懸濁されたマイクロカプセル封入抗体を含むことができる。放出を引き起こすために、抗体は、インヘレント粘度0.7dL/gmの85:15ポリ(D,L−ラクチド−co−グリコリド)賦形剤を含む直径25から125ミクロンの微粒子中にマイクロカプセル封入される。微粒子の抗体含量は5wt%未満であるので、マイクロカプセル封入抗体は、微粒子賦形剤が実質的に加水分解し、再吸収され始めるまで放出されない。溶解した抗体及びマイクロカプセル封入抗体を含む組成物水溶液を投与すると、溶解した抗体がまず3か月間効力を発揮する。この3か月間に、マイクロカプセル封入抗体は放出されず、微粒子内に残る。しかしながら、3か月後、85:15ポリ(D,L−ラクチド−co−グリコリド)賦形剤が、実質的に加水分解し、再吸収され始めると、マイクロカプセル封入抗体が次の3か月間放出される。
【0182】
本発明の幾つかの態様を詳細な説明に記載したが、本発明は、開示する態様に限定されず、以下の特許請求の範囲に記載及び定義された本発明の精神から逸脱することなく多数の再編成、改変及び置換が可能であることを理解すべきである。
【実施例】
【0183】
本発明の原理を更に説明するために、本明細書で主張する組成物、物品、装置及び方法の作製及び評価方法の完全な開示及び記述を当業者に提供するために、以下の実施例を記述する。実施例は、本発明を純粋に例示するものであって、本発明者らが本発明者らの発明とみなすものの範囲を限定するものではない。数(例えば、量、温度など)に関しては正確度を保証するように努力したが、幾らかの誤差及び偏差は説明されるはずである。別段の記載がない限り、温度は℃又は周囲温度であり、圧力は大気圧又はその近傍である。生成物の品質及び性能を最適化するのに使用することができるプロセス条件の変化及び組合せは多数ある。かかるプロセス条件の最適化には、妥当な通常の実験しか必要ではない。
【0184】
1.抗体のPLG微粒子製剤(予言的実施例)。
【0185】
Polytron混合機を用いて、薬物とポリマーの混合重量に対する抗体の添加レベル5重量%で、10%85:15 DL−PLG(インヘレント粘度0.4dL/g)の塩化メチレン溶液2mL中に抗体を分散させる。混合を2〜4℃で15〜20秒間実施し、その時点で懸濁液を5ccシリンジに移す。次いで、18ゲージ針を用いて、塩化メチレン溶媒で飽和した2wt%ポリビニルアルコール(PVA)からなる水溶液と同時に、この懸濁液をインラインSilverson混合機に速度約10g/minで送る。PVA溶液をインライン混合機に流量約50g/minで送る。次いで、生成した乳濁液を、Silverson混合機の下流に置かれた抽出コイル中で流量約250g/minで送られる新しい蒸留水で直ちに希釈する。次いで、抽出コイルからの流出物を、約600rpmで撹拌されるタンクに移す。プロセスからの流出物全量を2〜4時間撹拌して、懸濁液からの溶媒抽出を促進し、それによって、抗体を添加したポリマー微粒子を硬化させる。硬化後、流出物を125ミクロン及び25ミクロンのふるいに通して、微粒子を単離する。次いで、25ミクロンふるい上に収集された生成物を過剰の新しい蒸留水(例えば、4〜6L)で洗浄する。次いで、25ミクロンふるいを層流フード下に少なくとも12時間置くことによって、生成物を周囲圧力及び温度で乾燥させる。次いで、生成物をふるいから静かにこすり取り、乾燥凍結貯蔵する。
【0186】
眼球投与の場合、抗体を添加した微粒子を抗体溶液50から100マイクロリットルと混合する。次いで、混合物を眼の硝子体に注射する。投与後、非封入抗体は効力を1か月以上有する。この期間、PLG微粒子は抗体をほとんど又は全く放出しない。非封入抗体が消失した後、又はもはや有効ではなくなった後、マイクロカプセル封入抗体が放出し始める。マイクロカプセル封入抗体のこの放出は、数か月のうち数日間、数週間起こるように設計することができる。したがって、マイクロカプセル封入抗体の放出は、非封入抗体がもはや有効ではなくなるまで遅延される。非封入抗体の使用は、より少量のマイクロカプセル化ポリマーが必要であり、したがって指定された50から100uL体積中でより多くの生理活性を与え得ることを意味する。
【0187】
本明細書に記載の組成物、物品、装置及び方法に種々の改変及び変更を加えることができる。本明細書に記載の組成物、物品、装置及び方法の他の態様は、本明細書に開示する組成物、物品、装置及び/又は方法の明細及び実施を考慮すれば明白であろう。本明細書及び実施例は、例示とみなされることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性長時間作用製剤のポリマー材料の総系質量を削減しつつ、対象における抗体又は核酸の放出プロファイルを延長する方法であって、遊離抗体又は核酸と前記抗体又は核酸を含む生分解性長時間作用製剤とをほぼ同時に前記対象に投与することを含み、前記遊離抗体又は核酸が少なくとも1週間の薬学的に許容される生理活性期間を有し、前記生分解性長時間作用製剤が、前記遊離抗体又は核酸の活性の低下と一致するようにその抗体又は核酸を放出する、方法。
【請求項2】
前記遊離抗体又は核酸及び前記長時間作用製剤が1単位製剤の一部である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記投与が局所送達部位に対するものである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記投与が眼球投与である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記投与が関節間投与である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記投与が中枢神経系に対するものである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記投与が腫瘍に対するものである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記投与が皮内投与である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記遊離抗体又は核酸が少なくとも2週間の薬学的に許容される生理活性期間を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記遊離抗体又は核酸が少なくとも3週間の薬学的に許容される生理活性期間を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記遊離抗体又は核酸が少なくとも4週間の薬学的に許容される生理活性期間を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記生分解性長時間作用製剤が微粒子を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記生分解性長時間作用製剤が移植片を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記抗体又は核酸が、腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)、血管内皮増殖因子A(VEGF−A)、CD20、α4−インテグリン又はベータ−アミロイドに特異的に結合する抗体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記抗体又は核酸が低分子干渉RNA(siRNA)又はアンチセンスオリゴヌクレオチドを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記対象がヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
遊離抗体又は核酸と前記抗体又は核酸を含む生分解性長時間作用製剤とを含む制御放出製剤であって、前記遊離抗体又は核酸が少なくとも1週間の薬学的に許容される生理活性期間を有し、前記生分解性長時間作用製剤が、前記遊離抗体又は核酸の活性の低下と一致するようにその抗体又は核酸を放出する、制御放出製剤。
【請求項18】
前記遊離抗体又は核酸が少なくとも2週間の薬学的に許容される生理活性期間を有する、請求項17に記載の制御放出製剤。
【請求項19】
前記遊離抗体又は核酸が少なくとも3週間の薬学的に許容される生理活性期間を有する、請求項17に記載の制御放出製剤。
【請求項20】
前記遊離抗体又は核酸が少なくとも4週間の薬学的に許容される生理活性期間を有する、請求項17に記載の制御放出製剤。
【請求項21】
前記生分解性長時間作用製剤が微粒子を含む、請求項17に記載の制御放出製剤。
【請求項22】
前記生分解性長時間作用製剤が移植片を含む、請求項17に記載の制御放出製剤。
【請求項23】
前記遊離抗体又は核酸及び前記長時間作用製剤が1単位製剤の一部である、請求項17に記載の制御放出製剤。
【請求項24】
(1)前記遊離抗体又は核酸と(2)前記長時間作用製剤がキットに別々に含まれる、請求項17に記載の制御放出製剤。
【請求項25】
前記抗体又は核酸が、腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)、血管内皮増殖因子A(VEGF−A)、CD20、α4−インテグリン又はベータ−アミロイドに特異的に結合する抗体を含む、請求項17に記載の制御放出製剤。
【請求項26】
前記抗体又は核酸が低分子干渉RNA(siRNA)又はアンチセンスオリゴヌクレオチドを含む、請求項17に記載の制御放出製剤。

【公表番号】特表2010−532749(P2010−532749A)
【公表日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−511219(P2010−511219)
【出願日】平成20年6月9日(2008.6.9)
【国際出願番号】PCT/US2008/007216
【国際公開番号】WO2008/153997
【国際公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(509121558)サーモディクス ファーマシューティカルズ, インコーポレイテッド (12)
【Fターム(参考)】