説明

質量分析法に用いられる試料ターゲットおよびその製造方法、並びに当該試料ターゲットを用いた質量分析装置

【課題】マトリックスを用いない場合においても、amolオーダーの量の試料を分析可能な試料ターゲットおよびその製造方法、並びに当該試料ターゲットを用いた質量分析装置とを提供する。
【解決手段】レーザー光の照射により試料をイオン化して質量分析するときに、試料を保持するために用いられ、レーザー光の照射を受ける表面に開口する複数の細孔が繰り返し形成されている試料保持面を備えている試料ターゲットであって、上記試料保持面の表面が金属および/または半導体で被覆され、当該金属および/または半導体で被覆された試料保持面の表面がさらに表面処理剤で被覆されており、隣接する各細孔の間隔が1nm以上30μm未満であり、金属および/または半導体で被覆される前において、当該細孔の細孔径が8nm以上5μm未満であり、当該表面処理剤で被覆された試料保持面における液滴の接触角は60°以上180°未満である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析法に用いられる試料ターゲットおよびその製造方法、並びに当該試料ターゲットを用いた質量分析装置に関するものであり、特に、マトリックスを用いない場合においても高い分析感度で測定することができ、且つ、高分子量の物質のイオン化も可能な試料ターゲットおよびその製造方法、並びに当該試料ターゲットを用いた質量分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
質量分析法は、試料をイオン化し、試料あるいは試料のフラグメントイオンの質量と電荷の比(以下、m/z値と表記する)を測定し、試料の分子量を調べる分析法である。その中でも、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI:Matrix-assisted laser desorption/ionization mass spectrometry)法は、マトリックスと呼ばれる低分子量の有機化合物と試料とを混合し、さらにレーザーを照射することにより、当該試料をイオン化する方法である。この方法では、マトリックスが吸収したレーザーのエネルギーを試料に伝えることになるので、試料を良好にイオン化することができる。
【0003】
MALDI法は、熱に不安定な物質や高分子量物質をイオン化することが可能であり、他のイオン化技術と比較しても試料を「ソフトに」イオン化できる。それゆえ、この方法は、生体高分子や、内分泌攪乱物質、合成高分子、金属錯体など様々な物質の質量分析に広く用いられている。
【0004】
しかしながら、上記MALDI法では、有機化合物のマトリックスを用いるために、当該マトリックスに由来する関連イオンにより、試料イオンの解析が困難となることがある。具体的には、有機化合物のマトリックスを用いると、このマトリックス分子のイオン、マトリックス分子が水素結合で結合したクラスターのイオン、マトリックス分子が分解して生成するフラグメントイオン等のマトリックス関連イオンが観測されるため、試料イオンの解析が困難になる場合が多い。
【0005】
そこで、最近では、マトリックスを用いない技術が提案されている。具体的には、多穴性の表面を有する半導体基板(文献中では、porous light-absorbing semiconductor substrateと記載)を試料ターゲットとして用いる技術が開示されている(例えば、特許文献1等参照。)。この試料ターゲットは、半導体基板における試料保持面を、多穴性(porous)構造すなわち微細な凹凸構造となるように加工している。同文献では、このような試料保持面に試料を塗布し、当該試料にレーザー光を照射すると、マトリックスが無くても高分子量の物質がイオン化されると報告している。この方法は、DIOS(Desorption/Ionization on Porous Silicon)法と名付けられている。
【0006】
また、マトリックスを用いない場合もイオン化を可能とする技術として、本発明者らは、リソグラフィー法により作製したナノメートルないし数十マイクロメートルオーダーの微細で規則的な凹凸構造を有する表面を試料保持面として備えている試料ターゲットや、ナノメートルないし数十マイクロメートルオーダーの微細な凹凸構造を有する表面を金属で被覆した試料保持面を備えている試料ターゲットによれば、従来のマトリックスを用いない技術と比較して、イオン化効率の向上およびより安定なイオン化が可能であることを見出している(例えば特許文献2等参照。)。なお、ナノメートルないし数十マイクロメートルオーダーの凹凸構造を有する表面を試料保持面として備えている試料ターゲットを用いて、マトリックスを用いないで試料をイオン化する方法は、「表面支援レーザー脱離イオン化質量分析法(SALDI)」と称されている。
【0007】
さらに、本発明者らは、サブマイクロメートルオーダーの凹凸構造を有する種々の材質からなる表面を試料保持面として備えている試料ターゲットについて検討を行っており、かかる材質の一つとして、ポーラスアルミナを金や白金で被覆した試料保持面を用いる場合にもマトリックスを用いずにイオン化が可能であることを見出している(例えば、非特許文献1等参照。)。
【0008】
また、本発明者らは、レーザー光の照射を受ける表面に開口する多数の細孔を有する試料保持面を備えている試料ターゲットにおいて、所定の細孔径および細孔深さ/(細孔周期−細孔径)を有し、当該試料保持面の表面が金属および/または半導体で被覆されている試料ターゲットを用いることにより、マトリックスを用いずに、分子量が10,000を超える試料のイオン化が可能であることを見出している(例えば、特許文献3等参照。)。
【0009】
ところで、質量分析法における分析感度の向上についても、盛んに検討が行われている。例えば、マトリックスを用いないでDIOS基板を用いたレーザー脱離イオン化質量分析法に関して、DIOS基板表面にパーフルオロフェニルシランあるいはアミノプロピルシランを結合することにより、試料分子を選択的に吸着・濃縮することで分析感度が向上することが記載されている(例えば、非特許文献2等参照。)。また、同じ方法に関して、分析試料にパーフルオロ界面活性剤を添加することにより、分析感度が向上することが記載されている(例えば、非特許文献3等参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第6288390号明細書(2001年9月11日公開)
【特許文献2】国際公開第2005/083418号パンフレット(2005年9月9日公開)
【特許文献3】国際公開第2007/046162号パンフレット(2007年4月26日公開)
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Shoji Okuno, Ryuichi Arakawa, Kazumasa Okamoto, Yoshinori Matsui, Shu Seki, Takahiro Kozawa, Seiichi Tagawa, Yoshinao Wada, Matrix-free laser desorption/ionization of peptides on sub-micrometer structures: Grooves on silicon and metal-coated porous alumina, 53rd ASMS Conference on Mass Spectrometry and Allied Topics, (San Antonio, Texas, USA)、予稿集(2005年4月15日Web上で公開)
【非特許文献2】Sunia A. Trauger, Eden P. Go, Zhouxin Shen, Junefredo V. Apon, Bruce J. Compton, Edouard S. P. Bouvier, M. G. Finn, and Gary Siuzdak, High Sensitivity and Analyte Capture with Desorption/Ionization Mass Spectrometry on Silylated Porous Silicon, Analytical Chemistry vol. 76, No. 15, August 1, 2004
【非特許文献3】Anders Nordstrom, Junefredo V. Apon, Wilasinee Uritboonthai, Eden P. Go, and Gary Siuzdak, Surfactant-Enhanced Desorption/Ionization on Silicon Mass Spectrometry, Analytical Chemistry, Vol. 78, No. 1, January 1, 2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来のマトリックスを用いないレーザー脱離イオン化質量分析では、分子量10,000を超える高分子量の試料のイオン化が可能となっているが、分析感度は試料量として1pmol程度であり、従来のMALDI法のfmolオーダーの分析感度に比べて分析感度が劣るという問題を有する。
【0013】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、マトリックスを用いずに試料のイオン化を可能とする質量分析においても、高い分析感度で測定することができ、且つ、高分子量の物質のイオン化も可能な試料ターゲットおよびその製造方法と、当該試料ターゲットを用いた質量分析装置とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明にかかる試料ターゲットは、レーザー光の照射により試料をイオン化して質量分析するときに、試料を保持するために用いられ、レーザー光の照射を受ける表面に開口する複数の細孔が繰り返し形成されている試料保持面を備えている試料ターゲットであって、上記試料保持面の表面が金属および/または半導体で被覆され、当該金属および/または半導体で被覆された試料保持面の表面がさらに表面処理剤で被覆されており、隣接する各細孔の間隔が1nm以上30μm未満であり、金属および/または半導体で被覆される前において、当該細孔の細孔径が8nm以上5μm未満であり、当該表面処理剤で被覆された試料保持面における液滴の接触角は60°以上180°未満の範囲にあることを特徴としている。
【0015】
上記構成であれば、試料保持面に撥水性および/または撥油性が付与されるので、滴下された試料溶液が広がらず、滴下するサンプル量を増やすことができる。これにより、局所的に高濃度に試料を濃縮することができるため、分析感度が向上し、amolオーダーの量の試料の分析が可能となる。また、分子量が大きい物質のイオン化も可能となる。
【0016】
本発明にかかる試料ターゲットでは、上記表面処理剤は、当該表面処理剤で被覆された平滑基板表面における液滴の接触角が、60°以上180°未満の範囲にある表面処理剤であることが好ましい。また、上記表面処理剤は、シラン化合物またはフッ素化合物を含むことが好ましく、上記フッ素化合物は、パーフルオロポリエーテル基を含むことが好ましい。
【0017】
上記表面処理剤が上記構成であれば、本発明に係る試料ターゲットの試料保持面に撥水性および/または撥油性を付与することができる。そのため、試料保持面の濡れ性が低くなり、試料保持面に滴下された試料溶液を局所的に高濃度で乾燥させることができるため、高感度で測定することができ、amolオーダーの量の試料の分析が可能となる。さらには、表面処理剤を付与した試料基板では、試料と基板表面との親和力が弱くなることから、試料をソフトイオン化することが可能となる。
【0018】
本発明に係る試料ターゲットでは、上記細孔の内面の一部を除く当該試料保持面の表面が、金属および/または半導体で被覆されているとともに、上記細孔の内面に、金属および/または半導体で被覆されていない部分が存在することが好ましい。
【0019】
また、上記細孔の内面の、金属および/または半導体で被覆されている部分は、当該細孔の側壁の上端部を含む側壁の上部であり、側壁の上端部と、被覆されている部分の下端との間の距離は、平均で細孔径×0以上、細孔径×1.73以下であることが好ましい。
【0020】
本発明に係る試料ターゲットの試料保持面に形成される細孔の内面が上記構成であれば、分子量24,000を越える物質のイオン化が可能となる。
【0021】
本発明にかかる試料ターゲットでは、上記複数の細孔は規則的に繰り返し形成されていることが好ましい。
【0022】
上記複数の細孔は規則的に繰り返し形成されていることにより、その細孔を有する構造のばらつきが少ないため、イオン化性能をより安定させることができる。
【0023】
本発明にかかる試料ターゲットでは、上記表面処理剤で被覆された後の試料保持面における上記細孔の開口部における細孔径が、5nm以上5μm以下であることが好ましい。開口部における細孔径が、5nm以上5μm以下であることにより、イオン化性能をさらに向上させることができる。
【0024】
本発明にかかる試料ターゲットでは、上記細孔の内面の、金属および/または半導体で被覆されていない部分は、エッチング処理されて、当該部分の細孔径が拡大されていることが好ましい。
【0025】
これにより、さらにイオン化性能を向上させることが可能となる。
【0026】
本発明にかかる試料ターゲットでは、上記表面処理剤で被覆された試料保持面の表面処理剤がパターニング処理によって一部除去されていることが好ましい。
【0027】
また、上記パターニング処理によって、0.1〜5mmの範囲内で表面処理剤が除去されていることが好ましい。
【0028】
パターニング処理によって表面処理剤が部分的に除去され、試料保持面に試料溶液をスポットする親水部分を形成することができる。その結果、金属および/または半導体で被覆された試料保持面に直接試料をのせることができるため、よりクリーンなマススペクトルを得ることができる。また、パターニング処理により、より多くの試料をパターン中心部に濃縮することができるため分析感度を向上させることができる。
【0029】
本発明にかかる試料ターゲットでは、上記試料保持面はポーラスアルミナであることが好ましい。
【0030】
ポーラスアルミナは、規則的に形成された複数の細孔を有し、また、試料ターゲットに好ましい細孔径を有する構造を得ることができる。さらにポーラスアルミナは、陽極酸化の条件を変化させることによって、細孔径、細孔深さ、および細孔周期を制御することが可能であることから、本発明に好適に用いることができる。
【0031】
本発明にかかる試料ターゲットでは、上記試料保持面は、微細な細孔が繰り返し形成された凹凸構造を有する第一構造物を鋳型に用いて当該第一構造物の凹凸構造を転写したネガ型の第二構造物を作製し、当該ネガ型の第二構造物を鋳型に用いて上記凹凸構造を転写した、上記第一構造物の凹凸構造と同一の形状の凹凸構造を表面に有する試料保持面であってもよい。また、上記第一構造物はポーラスアルミナからなることが好ましい。
【0032】
これにより、試料保持面に適した凹凸構造を有する第一構造物と同一の構造を有する試料保持面を、所望の材質で製造することができる。
【0033】
本発明にかかる試料ターゲットでは、上記試料保持面は、樹脂またはセラミックスを含んでいてもよい。
【0034】
本発明にかかる試料ターゲットでは、上記金属が、白金(Pt)または金(Au)であることが好ましい。
【0035】
AuやPtは酸化されにくいため、イオン化の効率を向上させることができるのみならず、複数の細孔が繰り返し形成された試料保持面の酸化を防止することができる。
【0036】
本発明にかかる試料ターゲットでは、上記半導体が、Si、Ge、SiC、GaP、GaAs、InP、Si1−XGe(0<X<1)、SnO、ZnO、In、または、これらの2種類以上の混合物、或いはカーボンであることが好ましい。
【0037】
これにより、イオン化の効率を向上させることができるのみならず、複数の細孔が繰り返し形成された試料保持面の酸化を防止することができる。
【0038】
本発明にかかる試料ターゲットの製造方法は、上記試料ターゲットの製造方法であって、試料保持面の表面を金属および/または半導体で被覆する被覆工程と、当該被覆工程で被覆された試料保持面の表面をさらに表面処理剤で被覆する表面処理工程とを含むことを特徴としている。
【0039】
これにより、局所的に高濃度に試料を濃縮することができるため、分析感度が向上し、amolオーダーの量の試料の分析が可能な試料ターゲットを提供することができる。
【0040】
本発明にかかる試料ターゲットの製造方法では、上記表面処理工程で用いられる、上記表面処理剤は、当該表面処理剤で被覆された平滑基板表面における液滴の接触角が、60°以上180°未満の範囲にあることが好ましい。
【0041】
また、上記表面処理剤は、シラン化合物またはフッ素化合物を含むことが好ましく、上記フッ素化合物は、パーフルオロポリエーテル基を含むことが好ましい。
【0042】
上記表面処理剤が上記構成であれば、本発明に係る試料ターゲットの試料保持面に撥水性および/または撥油性を付与することができる。そのため、試料保持面の濡れ性が低くなり、試料保持面に滴下された試料溶液を局所的に高濃度で乾燥させることができるため、高感度で測定することができ、amolオーダーの量の試料の分析が可能な試料ターゲットを提供することができる。さらには、表面処理剤を付与した試料基板では、試料と基板表面との親和力が弱くなることから、試料をソフトイオン化することが可能となる。
【0043】
本発明にかかる試料ターゲットの製造方法では、上記表面処理工程は、ディップコーティング法、スピンコーティング法、蒸着法、または化学気相成長法(CVD)を用いることが好ましい。
【0044】
これにより、試料保持面の表面を均一に処理することができる。
【0045】
本発明にかかる試料ターゲットの製造方法では、上記被覆工程は、上記試料保持面の表面を、上記細孔の内面に金属および/または半導体で被覆されていない部分が存在するように、金属および/または半導体で被覆する工程であることが好ましい。
【0046】
また、上記被覆工程は、物理蒸着を用いるとともに、上記試料保持面の表面から厚さ方向に伸びている細孔の中心線の方向から斜めに傾けた角度から、上記金属および/または半導体を蒸着することが好ましい。
【0047】
これにより、分子量が24,000を超える物質のイオン化が可能な試料ターゲットを提供することができる。
【0048】
本発明にかかる試料ターゲットの製造方法では、上記物理蒸着は、スパッタリング、熱蒸着、電子ビーム蒸着、または、真空蒸着であることが好ましい。
【0049】
これにより、試料保持面の表面を均一に被覆することができる。
【0050】
本発明にかかる試料ターゲットの製造方法では、上記被覆工程の後に、さらに、上記細孔の内面の、金属および/または半導体で被覆されていない部分をエッチング処理して、当該部分の細孔径を拡大するエッチング処理工程を含むことが好ましい。
【0051】
これにより、さらにイオン化性能を向上させることが可能となる。
【0052】
本発明にかかる試料ターゲットの製造方法では、上記被覆工程の後、且つ上記表面処理工程の前に、上記金属および/または半導体で被覆された試料保持面の有機物を除去するクリーニング処理工程を含むことが好ましい。また、上記クリーニング処理工程は、プラズマ処理、エキシマランプ処理、またはUVオゾン処理を行うことが好ましい。
【0053】
クリーニング処理によって金属および/または半導体で被覆された試料保持面の有機物が除去されることにより、試料保持面に存在する水酸基(−OH)が露出し、十分に親水的な特性を示すようになる。後の表面処理工程において用いられる表面処理剤、例えば、シランカップリング剤は、試料保持面の水酸基と反応して固定化されるため、試料保持面に水酸基が多数存在する状態であれば、効率よく表面処理を行うことができる。また、試料保持面の水酸基のマイナスチャージと静電的相互作用を示すようなアミノ基(プラスチャージ)を有する処理剤を用いても効率よく表面処理を行うことが可能となる。これにより、さらにイオン化性能を向上させることが可能となる。
【0054】
本発明にかかる試料ターゲットの製造方法では、上記表面処理工程の後に、さらに、0.1〜5mmの範囲内で上記試料保持面に被覆された表面処理剤を除去するパターニング処理工程を行うことが好ましい。また、上記パターニング処理は、プラズマ処理、エキシマランプ処理、またはUVオゾン処理を行うことが好ましい。
を行うことが好ましい。
【0055】
パターニング処理工程を行うことによって表面処理剤が部分的に除去され、試料保持面に試料溶液をスポットする親水部分を形成することができる。その結果、金属および/または半導体で被覆された試料保持面に直接試料をのせることができるため、よりクリーンなマススペクトルを得ることができる。
【0056】
本発明にかかる試料ターゲットの製造方法では、ポーラスアルミナを試料保持面として用いることが好ましい。
【0057】
本発明にかかる試料ターゲットの製造方法は、上記試料保持面の表面を金属および/または半導体で被覆する工程の前に、微細な凹部が繰り返し形成された凹凸構造を有する第一構造物を鋳型に用いて該第一構造物の凹凸構造を転写したネガ型の第二構造物を作製する工程と、該工程で得られたネガ型の第二構造物を鋳型に用いて上記凹凸構造を転写して、上記第一構造物の凹凸構造と同一の形状の凹凸構造を表面に有する試料保持面を得る工程とを含んでいてもよい。また、上記第一構造物はポーラスアルミナであることが好ましい。
【0058】
これにより、試料保持面に適した凹凸構造を有する第一構造物と同一の構造を有する試料保持面を、所望の材質で製造することができる。
【0059】
本発明にかかる質量分析装置は、本発明にかかる試料ターゲットを用いることを特徴としている。また、上記質量分析装置は、測定対象となる試料にレーザー光を照射することによって、当該試料をイオン化してその分子量を測定するレーザー脱離イオン化質量分析装置であることが好ましい。
【0060】
本発明にかかる質量分析装置は、本発明にかかる試料ターゲットを用いるため、質量分析を行うときにマトリックスを用いずにイオン化を行う場合でも、高いイオン化性能を実現することができる。これにより、amolオーダーの量の試料の分析が可能となる。また、分子量が大きい物質のイオン化も可能となる。
【発明の効果】
【0061】
本発明にかかる試料ターゲットは、以上のように、レーザー光の照射により試料をイオン化して質量分析を行うときに、試料を保持するために用いられ、レーザー光の照射を受ける表面に開口する複数の細孔が繰り返し形成されている試料保持面を備えている試料ターゲットであって、上記試料保持面の表面が金属および/または半導体で被覆され、当該金属および/または半導体で被覆された試料保持面の表面がさらに表面処理剤で被覆されており、隣接する各細孔の間隔が1nm以上30μm未満であり、金属および/または半導体で被覆される前において、当該細孔の細孔径が8nm以上5μm未満であり、当該表面処理剤で被覆された試料保持面における液滴の接触角は60°以上180°未満の範囲にあるという構成を備えているので、質量分析を行うときにマトリックスを用いずにイオン化を行う場合でも、高いイオン化性能を実現することができる。これにより、amolオーダーの量の試料の分析が可能となるという効果を奏する。また、分子量が大きい物質のイオン化も可能となる。
【0062】
また、本発明にかかる試料ターゲットの製造方法は、以上のように、本発明にかかる試料ターゲットの製造方法であって、当該試料保持面の表面を金属および/または半導体で被覆する被覆工程と、当該被覆工程で被覆された試料保持面の表面をさらに表面処理剤で被覆する表面処理工程とを含むので、質量分析を行うときにマトリックスを用いずにイオン化を行う場合でも、高いイオン化性能を実現可能な試料ターゲットを提供することができる。これにより、amolオーダーの量の試料の分析が可能となるという効果を奏する。また、分子量が大きい物質のイオン化も可能となる。
【0063】
本発明にかかる質量分析装置は、本発明にかかる試料ターゲットを用いるので、質量分析を行うときにマトリックスを用いずにイオン化を行う場合でも、高いイオン化性能を実現することができる。これにより、amolオーダーの量の試料の分析が可能となるという効果を奏する。また、分子量が大きい物質のイオン化も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明にかかる試料ターゲットを示す模式図であり、(a)は試料ターゲットの一部の斜視図であり、(b)は(a)に示す試料ターゲットを破線Bで切断した部分の断面図である。
【図2】ポーラスアルミナを試料ターゲットに用いた場合の、金属および/または半導体による、試料保持面の表面の被覆を模式的に示す図である。
【図3】従来技術を示すものであり、規則的なポーラスアルミナを模式的に示す断面図である。
【図4】金属および/または半導体で被覆されていない部分の細孔径を拡大する工程により得られる試料保持面を模式的に示す図である。
【図5】θ/2法の概略を示す図である。
【図6】ポーラスアルミナからなる試料保持面にPtを蒸着する場合の、上記試料保持面の表面から厚さ方向に伸びている細孔の中心線の方向と蒸着の方向とがなす角θとPtにより被覆される部分とを示す模式図である。
【図7】ナノインプリント法の工程を含む試料ターゲットの製造方法を模式的に示す図である。
【図8】本発明にかかる試料ターゲットを示し、金属および/または半導体で被覆された試料保持面の表面がさらに表面処理剤で被覆された試料保持面の表面の被覆の一例を模式的に示す図である。
【図9】実施例1において作製された試料ターゲットを用いてアンギオテンシン−Iの質量分析測定を行って得られたマススペクトルである。
【図10】比較例1において作製された試料ターゲットを用いてアンギオテンシン−Iの質量分析測定を行って得られたマススペクトルである。
【図11】実施例2において作製された試料ターゲットを用いてアンギオテンシン−Iの質量分析測定を行って得られたマススペクトルである。
【図12】実施例3において作製された試料ターゲットを用いてアンギオテンシン−Iの質量分析測定を行って得られたマススペクトルである。
【図13】実施例4において作製された試料ターゲットを用いてアンギオテンシン−Iの質量分析測定を行って得られたマススペクトルである。
【図14】実施例5において作製された試料ターゲットを用いてトリプシノーゲンの質量分析測定を行って得られたマススペクトルである。
【図15】実施例6において作製された試料ターゲットを用いてトリプシノーゲンの質量分析測定を行って得られたマススペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0065】
本発明について以下に詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定されるものではない。
【0066】
尚、本明細書中において範囲を示す「A〜B」は、「A以上、B以下」であることを示す。
【0067】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、所定の細孔径を有する試料ターゲットであって、その試料保持面の表面が金属および/または半導体で被覆された試料ターゲットを用い、これをさらに、表面処理剤で被覆したところ、イオン化性能が著しく向上し、従来MALDI法における分析感度であるフェムトモルをさらに1000分の1に向上させた、amolオーダーの試料量において測定が可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0068】
すなわち、本発明にかかる試料ターゲットは、レーザー光の照射により試料をイオン化して質量分析するときに、試料を保持するために用いられ、レーザー光の照射を受ける表面に開口する複数の細孔が繰り返し形成されている試料保持面を備えている試料ターゲットであって、上記試料保持面の表面が金属および/または半導体で被覆され、当該金属および/または半導体で被覆された試料保持面の表面がさらに表面処理剤で被覆されており、隣接する各細孔の間隔が1nm以上30μm未満であり、金属および/または半導体で被覆される前において、当該細孔の細孔径が8nm以上5μm未満であり、当該表面処理剤で被覆された試料保持面における液滴の接触角は60°以上180°未満である。
【0069】
試料保持面を表面処理剤で被覆することにより、濡れ性が低くなり、試料溶液を局所的に高濃度高密度に乾燥させることができるということが、イオン化性能向上理由の一つとして考えられる。
【0070】
さらに、本発明者らは、試料保持面の表面を金属および/または半導体で被覆するときに、従来行ってきたように試料保持面に対して垂直な角度で金属および/または半導体を蒸着して得られる試料ターゲットに対し、試料保持面に対して斜めになるような角度で金属および/または半導体を蒸着して得られる試料ターゲットでは、低分子化合物のイオン化性能が顕著に向上することを見出した。そこで、分子量が24,000を超える高分子量の物質をイオン化したところ、試料保持面に垂直な角度で金属および/または半導体を蒸着して得られる試料ターゲットではかかる物質のイオン化ができないのに対し、試料保持面に対して斜めになるような角度で金属および/または半導体を蒸着して得られる試料ターゲットでは分子量24,000を超える大きな物質がイオン化できることを初めて見出した。
【0071】
そして、従来の試料保持面に垂直な角度による蒸着では、金属および/または半導体が細孔の内部にも浸入し、その結果細孔内面が被覆されているのに対し、試料保持面に対して斜めになるような角度で金属および/または半導体を蒸着して被覆した試料ターゲットでは細孔内面は上部のみが金属および/または半導体で被覆されていることから、細孔内面に、金属および/または半導体で被覆されていない部分が存在することが、イオン化性能に関わることを見出した。
【0072】
すなわち、上記細孔の内面の一部を除く当該試料保持面の表面が、金属および/または半導体で被覆されているとともに、上記細孔の内面に、金属および/または半導体で被覆されていない部分が存在するように、金属および/または半導体で被覆することにより、従来はイオン化することができなかった、分子量が24,000を超える高分子化合物のイオン化が可能となる。かかる試料ターゲットの試料保持面を、さらに上記表面処理剤により被覆することにより、amolオーダーの試料量において測定が可能であるとともに、分子量が24,000を超える高分子化合物のイオン化が可能となる。
【0073】
なお、試料保持面の細孔内面に、金属および/または半導体で被覆されていない部分が存在することにより、イオン化性能が顕著に向上し、24,000を超える高分子量の物質のイオン化が可能となる理由は明らかではないが、一つの可能性として、金属および/または半導体で被覆されていない上記試料保持面の細孔の内面に吸着している水分子がレーザー照射により蒸発することが、試料のイオン化性能の向上に関わっているということが考えられる。すなわち、金属および/または半導体で被覆されていない部分では、かかる部分に吸着している水分子がレーザー照射により蒸発し、イオン化性能を向上させるということが、イオン化性能向上理由の一つとして考えられる。
【0074】
以下、本発明にかかる試料ターゲットおよびその製造方法、並びに当該試料ターゲットを用いた質量分析装置について、(I)試料ターゲット、(II)試料ターゲットの製造方法、(III)本発明の利用(質量分析装置)の順に説明する。
【0075】
(I)試料ターゲット
本発明にかかる試料ターゲットは、レーザー光の照射によって試料をイオン化して質量分析を行うレーザー脱離イオン化質量分析装置に用いられ、分析対象となる試料を載せる言わば試料台としての機能を果たすものである。
【0076】
かかる上記試料ターゲットは、試料を保持する面である試料保持面を備えていればよく、試料保持面以外の部分の構成、形状、材質等は特に限定されるものではない。
【0077】
本発明にかかる試料ターゲットの、上記試料保持面は、分析対象である試料を保持する面で、試料を保持した状態で、レーザー光の照射を受ける。
【0078】
本発明にかかる試料ターゲットは、レーザー光の照射により試料をイオン化して質量分析するときに、試料を保持するために用いられ、レーザー光の照射を受ける表面に開口する複数の細孔が繰り返し形成されている試料保持面を備えている試料ターゲットであって、上記試料保持面の表面が金属および/または半導体で被覆され、当該金属および/または半導体で被覆された試料保持面の表面がさらに表面処理剤で被覆されており、隣接する各細孔の間隔が1nm以上30μm未満であり、金属および/または半導体で被覆される前において、当該細孔の細孔径が8nm以上5μm未満であり、当該表面処理剤で被覆された試料保持面における液滴の接触角は60°以上180°未満である。
【0079】
(I−1)試料保持面の形状
本発明にかかる試料ターゲットの試料保持面は、レーザー光の照射を受ける表面に開口する複数の細孔が繰り返し形成されている試料保持面を備えている試料ターゲットであって、隣接する各細孔の間隔が1nm以上30μm未満、金属および/または半導体で被覆される前における当該細孔の細孔径が8nm以上5μm未満となっている。かかる表面を試料保持面として用い、当該試料保持面の表面を、金属および/または半導体で被覆することにより、分子量が大きい物質のイオン化が可能となる。
【0080】
かかる試料保持面の一例を図1に模式的に示す。図1中、(a)は試料ターゲットの試料保持面の一部を示す斜視図、(b)は(a)における破線Bで切断した切断面を示す試料保持面の断面図である。図1中、(a)および(b)に示す試料保持面は、細孔の配列、形状、および試料保持面との角度が規則的な場合の試料保持面を示すものである。上記試料保持面は、試料保持面の表面でありレーザー光の照射を受ける面、すなわち図1中、(a)の上面に開口する複数の細孔が繰り返し形成されている。この細孔は(b)に示すように、試料保持面の表面から試料保持面の厚さ方向に延び、底部を有している。
【0081】
隣接する各細孔の間隔は、1nm以上30μm未満であることが好ましい。なお、上記「隣接する各細孔の間隔」とは、細孔の中心線とこれに隣接する細孔の中心線との距離をいい、図1(b)中Cで示す部分の大きさを指す。なお、図1中、破線Bは細孔の中心線である。各細孔の間隔が30μm未満程度に狭くなっていることにより、質量分析における測定試料のイオン化を良好に行うことができる。また、各細孔の間隔が1nm以上となっていることによって、試料ターゲットの強度が低下することを避けることができる。
【0082】
さらに、質量分析用の試料ターゲットとしての機能をより向上させるためには、上記隣接する各細孔の間隔は1nm以上10μm未満となっていることがより好ましく、10nm以上10μm未満となっていることがさらに好ましく、10nm以上500nm未満となっていることが特に好ましく、10nm以上300nm未満となっていることが最も好ましい。これにより、質量分析における測定試料のイオン化をさらに良好に行うことができる。なお、上記細孔の間隔が均一でない場合には、平均値を用いてこれらの値とする。
【0083】
また、上記細孔は、金属および/または半導体で被覆される前における細孔径が8nm以上5μm未満であることがより好ましい。なお、本明細書中において、上記「細孔径」とは、細孔を試料保持面に平行な面で切断した断面が円である場合はその直径をいい、図1中Eで示す部分の大きさのことを意味する。また、細孔を試料保持面に平行な面で切断した断面が円でない場合には、断面の周囲の長さを円周とするような円の直径を細孔の幅すなわち細孔径とする。また、上記「細孔深さ」とは、細孔の開口部から底部までの距離をいい、図1(b)中Dで示す部分の大きさのことを意味する。また、上記「細孔周期」とは、上述した細孔の間隔のことを指す。これにより、イオン化の性能をさらに向上させることが可能となる。また、細孔径、細孔深さおよび細孔周期が均一でない場合には、平均値を用いてこれらの値とする。なお、図1に示す断面図は、試料保持面に平行な面で切断した場合に、上記「細孔径」が最も大きくなるような断面で切断する断面図である。
【0084】
上記金属および/または半導体で被覆される前における細孔径は、8nm以上5μm未満であればよいが、質量分析用の試料ターゲットのイオン化特性をより向上させるためには、8nm以上1μm未満であることがより好ましく、8nm以上700nm未満であることがさらに好ましく、8nm以上500nm未満であることが特に好ましい。これにより、質量分析における測定試料のイオン化を良好に行うことができる。なお、上記細孔径が均一でない場合には、平均値を用いてこれらの値とする。
【0085】
また、本発明にかかる試料ターゲットでは、上記表面処理剤で被覆された後の試料保持面における上記細孔の開口部における細孔径は、5nm以上5μm未満であることが好ましい。開口部における細孔径が、5nm以上5μm未満であることにより、イオン化性能をさらに向上させることができる。さらに質量分析用の試料ターゲットのイオン化特性を向上させるためには、上記表面処理剤で被覆された後の試料保持面における上記細孔の開口部における細孔径は、5nm以上1μm未満であることがより好ましく、5nm以上100nm未満であることが特に好ましい。また、上記表面処理剤で被覆された後の試料保持面における上記細孔の細孔径は、開口部の細孔径が上記範囲であればよく、細孔の開口部から底部に向かうにつれて一定である必要はない。質量分析用の試料ターゲットのイオン化特性を向上させるためには、細孔径は、開口部よりも底部側の部分において、開口部よりも拡大されていることがより好ましい。
【0086】
また、金属および/または半導体で被覆される前における上記細孔周期および細孔径は、規則的であっても不規則であってもよい。しかしながら、質量分析用の試料ターゲットとしての機能をより向上させるためには、規則的であることが好ましい。すなわち、細孔周期および細孔径が均一であることが好ましい。上記細孔周期および細孔径が規則正しい場合には、試料保持面の細孔を有する構造のばらつきが少ないため、イオン化性能はより安定する。
【0087】
また、細孔深さは、1nm以上30μm未満であればよいが、30nm以上5μm未満程度であることがより好ましい。しかしながら、質量分析用の試料ターゲットとしての機能をより向上させるためには、30nm〜2μmであることがより好ましく、50nm〜1.5μmであることがさらに好ましく、70nm〜1μmであることが特に好ましく、100nm〜1μmであることが最も好ましい。また、上記細孔深さは規則的であっても不規則であってもよい。すなわち、細孔深さにはばらつきがあってもよいし、均一であってもよい。しかしながら、質量分析用の試料ターゲットとしての機能をより向上させるためには、上記細孔深さは均一であることが好ましい。上記細孔深さは均一である場合には、試料保持面の細孔のばらつきが少ないため、イオン化性能はより安定する。なお、上記細孔深さが均一でない場合には、平均値を用いてこれらの値とする。
【0088】
また、金属および/または半導体で被覆される前における、細孔深さ/細孔径は、2〜50となっていることが好ましく、2.5〜45となっていることがより好ましく、3〜35となっていることがさらに好ましく、3.5〜30となっていることが特に好ましく、4〜25となっていることが最も好ましい。これにより、質量分析において、マトリックスを用いない場合でも、イオン化性能をさらに向上させ、高分子量の物質のイオン化を良好に行うことができる。
【0089】
細孔深さ/細孔径の値が50以下であることにより、試料保持面の表面の強度を保つことができ、また、細孔内部までレーザー光が入り込むためにイオン化を好適に行うことができる。また、細孔深さ/細孔径の値が2以上であることによりイオン化効率に優れる点で好ましい。
【0090】
なお、細孔が不規則な構造の場合、細孔深さ/細孔径の値は、細孔が配列する部分(ポーラス部分)全体の平均の値とする。部分的な大きな欠陥については考慮せずに細孔深さ/細孔径の値を求める。
【0091】
細孔の配列、形状、および試料保持面との角度は、規則的であっても不規則であってもよいが、質量分析用の試料ターゲットとしての機能をより向上させるためには、これらが規則的であることがより好ましい。
【0092】
また、細孔を試料保持面と平行な面で切断したときの断面の形状は、特に限定されるものではなく、円形であってもよいし、楕円形であってもよいし、三角形、四角形、五角形、六角形等の多角形であってもよいし、これらが多少変形した形状であってもよい。また、かかる断面の形状は、規則的であっても不規則であってもよい。すなわち、単一の形状が試料保持面のすべての部分を占める必要はない。しかし、質量分析用の試料ターゲットとしての機能をより向上させるためには、かかる断面の形状は、規則的、すなわち同一の形状であることが好ましい。
【0093】
また、上記細孔は、試料保持面の表面から厚さ方向に延びていればよく、細孔は試料保持面の表面に対して垂直であることが好ましいが、多少斜度を有していてもかまわない。細孔が試料保持面に対して垂直に形成されているとは、細孔と試料保持面とのなす角度、すなわち、試料保持面と細孔の中心線とがなす角度が、垂直であることをいう。また、細孔と試料保持面の表面との角度は、細孔ごとに異なっていてもよいが、規則的であることが好ましい。すなわち、それぞれの細孔は同じ方向に延びていることが好ましい。これにより試料ターゲットとしての機能をより向上させることができるので好ましい。また、細孔は、開口部から底部にかけて、直線状に延びていることが好ましい。細孔が直線状であることにより、細孔内部までレーザー光が入り込むために、イオン化の効率がよいため好ましい。また、上記細孔は、試料保持面の全体に形成されているものであってもよいし、試料保持面に部分的に形成されているものであってもよい。
【0094】
上述したように、本発明の試料ターゲットの上記試料保持面の表面は、複数の細孔が規則的に繰り返し形成された構造となっていることがより好ましい。
【0095】
(I−2)金属および/または半導体による被覆
本発明にかかる試料ターゲットの試料保持面では、該試料保持面の表面が、金属および/または半導体で被覆されている。これにより、イオン化性能を著しく向上させることができ、分子量が大きい物質のイオン化が可能となる。
【0096】
ここで、上記試料保持面の表面は、表面全体が金属および/または半導体で被覆されていてもよいし、表面の一部が金属および/または半導体で被覆されていてもよい。
【0097】
一実施形態において、本発明にかかる試料ターゲットの試料保持面では、上記細孔の内面の一部を除く当該試料保持面の表面が、金属および/または半導体で被覆されているとともに、上記細孔の内面に、金属および/または半導体で被覆されていない部分を存在させる。これにより、イオン化性能を著しく向上させることができ、分子量が24,000を超えるような物質のイオン化が可能となる。
【0098】
図2は、本発明の一例として、ポーラスアルミナを試料ターゲットに用いた場合の、金属および/または半導体による、試料保持面の表面の被覆を模式的に示す図である。図2中、(a)は、細孔の内面を含む試料保持面の表面全体が金属および/または半導体によって被覆された試料保持面を示し、(b)は、細孔の内面に、金属および/または半導体で被覆されていない部分が存在する試料保持面を示す。なお、図2中、1で示す部分が、金属および/または半導体で被覆されている部分を示す。
【0099】
(b)では、試料保持面の細孔内面を除く表面と、細孔内面の側壁の上端部を含む上部とが、金属および/または半導体によって被覆されている。(b)に示される試料保持面は、その表面のうち、少なくとも、細孔の内面以外の表面は金属および/または半導体によって被覆されている。このように、少なくとも、細孔の内面以外の表面を金属および/または半導体で被覆することにより、少なくとも、細孔の内面以外の表面では、電導性を大きくすることができ、イオン化性能を向上させることができると考えられる。
【0100】
金属および/または半導体で被覆されていない部分が存在する試料保持面では、上記細孔の内面の、金属および/または半導体で被覆されていない部分の面積は、上記細孔の内面全体の面積に対して、5%以上100%以下であることが好ましく、5%以上80%以下であることがより好ましく、5%以上50%以下であることがさらに好ましい。金属および/または半導体で被覆されていない部分の面積の、内面全体の面積に対する割合が上記範囲内にあることにより、イオン化性能を顕著に向上させ、分子量が24,000を超える高分子量の物質をイオン化することが可能となる。なお、金属および/または半導体で被覆されていない部分の面積の、内面全体の面積に対する割合が細孔毎で均一でない場合には、平均値を用いてこれらの値とする。
【0101】
なお、金属および/または半導体で被覆されている部分と、被覆されていない部分とは、走査電子顕微鏡(SEM)により確認することができる。図には示さないが、金属や半導体は、後述する試料保持面の材質に比べて二次電子を放出しやすいため輝度が高く観察される。それゆえ、SEM像を解析することにより、金属および/または半導体で被覆されていない部分の面積の割合を求めることができる。
【0102】
また、金属および/または半導体で被覆されている部分と、被覆されていない部分とをより明確に評価する方法としては、被覆されていない部分がドット状(アイランド状)である場合を除いては、被覆部分を電極とする電解析出を行った後に走査電子顕微鏡(SEM)により確認する方法を好適に用いることができる。かかる方法では、評価対象となる、細孔の内面の一部を除く試料保持面の表面が金属および/または半導体で被覆されている試料ターゲットの表面に銀線を導電性ペーストで固定し、Niメッキ液中で室温条件下にて、対極にNi板を用い、−1Vの定電圧条件下で、10分間Niの電解析出を行う。電解析出後の試料ターゲットの断面のSEM観察を行うと、金属および/または半導体で被覆されている部分にのみ選択的にNiが電解析出されるため、金属および/または半導体で被覆されている部分と、被覆されていない部分とをより明確に評価することができる。
【0103】
金属および/または半導体で被覆されていない部分が存在する試料保持面では、上記細孔の内面の、金属および/または半導体で被覆されていない部分の位置としては、特に限定されるものではなく、例えば、図2(b)に示されるように、細孔の内面側壁のうち上端部を含む上部を除く部分および底部であってもよいし、細孔の内面全体であってもよいし、細孔の内面側壁の一部であってもよいし、細孔の内面側壁全体であってもよいし、細孔の底面のみであってもよいし、被覆されている部分がドット状(アイランド状)であってそのドット状(アイランド状)以外の部分であってもよいし、被覆されていない部分がドット状(アイランド状)であってもよい。
【0104】
また、金属および/または半導体で被覆されていない部分が存在する試料保持面では、上記細孔の内面の、金属および/または半導体で被覆されている部分は、当該細孔の側壁の上端部を含む側壁の上部であり、側壁の上端部と、被覆されている部分の下端との間の距離は、平均で細孔径×0以上、細孔径×1.73以下であることがより好ましい。これによりイオン化性能をさらに向上させることができる。ここで細孔径とは、上記(I−1)で説明したとおりである。上記被覆されている部分の下端との間の距離は、平均で細孔径×0以上、細孔径×1.73以下であることが好ましいが、細孔径×0以上、細孔径×1.19以下であることがさらに好ましく、細孔径×0以上、細孔径×1以下であることが特に好ましい。
【0105】
試料保持面の被覆に用いることができる上記金属としては、具体的には、例えば、元素周期表の1A族(Li,Na,K,Rb,Cs,Fr)、2A族(Be,Mg,Ca,Sr,Ba,Ra)、3A族(Sc,Y)、4A族(Ti,Zr,Hf)、5A族(V,Nb,Ta)、6A族(Cr,Mo,W)、7A族(Mn,Tc,Re)、8族(Fe,Ru,Os,Co,Rh,Ir,Ni,Pd,Pt)、1B族(Cu,Ag,Au)、2B族(Zn,Cd,Hg)、3B族(Al)、およびランタノイド系列(La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu)、アクチノイド系列(Ac,Th,Pa,U,Np,Pu,Am,Cm,Bk,Cf,Es,Fm,Md,No,Lr)等を挙げることができる。なかでも、上記金属はAuまたはPtであることがさらに好ましい。AuやPtは酸化されにくいため、イオン化の効率を向上させることができるのみならず、複数の細孔が繰り返し形成された上記試料保持面の酸化を防止することが可能となる。
【0106】
また、上記金属は、上記金属から選ばれる単一金属であってもよいし、上記金属から選ばれる少なくとも2種以上からなる合金であってもよい。ここで合金とは、2種以上の金属が混合されている金属であればよく、混合された2種以上の上記金属の存在形態は特に限定されるものではない。混合された2種以上の上記金属の存在形態としては、例えば、固溶体、金属間化合物、固溶体および金属間化合物が混在した状態等を挙げることができる。
【0107】
また、試料保持面の被覆に用いることができる上記半導体としては、具体的には、例えば、Si、Ge、SiC、GaP、GaAs、InP、Si1−XGe(0<X<1)、SnO、ZnO、Inやその混合物、カーボン等を挙げることができる。なかでも、上記半導体は、SnO、ZnO、In、SnOとInの混合物であるITO等であることがより好ましい。これらの物質はもともと酸化物であり、これ以上酸化されないため、空気中に放置してもイオン化の性能が下がることはない。また、カーボンはその原子の結合状態によって物性は異なるが、ここでは半導体として分類する。カーボンも空気中では酸化されにくいために、空気中に放置してもイオン化の性能が下がることはない。
【0108】
また、上記試料保持面の表面は、上記半導体と上記金属とから選ばれる少なくとも2種以上からなる混合物で被覆されていてもよい。
【0109】
被覆されている上記金属および/または半導体の厚みは、試料保持面の細孔を有する構造を損なうものでなければ特に限定されるものではない。具体的には、例えば、1nm以上200nm以下であることが好ましい。上記金属および/または半導体の厚みがこの上限を超えないことにより、試料保持面の構造が損なわれず、下限より大きいことにより、効率的なイオン化が可能となる。さらに、上記金属および/または半導体の厚みは、1nm以上150nm以下であることがより好ましく、5nm以上100nm以下であることがさらに好ましく、10nm以上80nm以下であることが特に好ましく、20nm以上、75nm以下であることが最も好ましい。これにより、より効率的なイオン化が可能となる。
【0110】
一実施形態において、本発明にかかる試料ターゲットは、上記細孔の内面の、金属および/または半導体で被覆されていない部分がさらに、エッチング処理されて、細孔径が拡大されていても良い。図4は、エッチング処理されて、金属および/または半導体で被覆されていない部分の細孔径が拡大された試料保持面の断面図である。エッチング処理を行った試料保持面を有する試料ターゲットは、理由は明らかではないが、さらにイオン化性能を向上させることが可能となる。ここで、細孔径が拡大されるとは、エッチング処理がされた部分において、(細孔周期−細孔径)が小さくなり過ぎない範囲で、拡大された後の細孔径が、エッチング処理前の細孔径より大きくなっていれば特に限定されるものではない。エッチング処理後の細孔径は、金属および/または半導体被覆処理前の細孔径に対して、1倍〜4倍の範囲内であることが好ましい。かかる範囲であれば、さらにイオン化性能を向上させることが可能となるため好ましい。なお、上記「エッチング処理後の細孔径」とは、エッチング処理された部分の最大細孔径のことを指し、細孔を試料保持面に平行な面で切断した断面が円である場合はその直径をいい、図4中Fで示す部分の大きさのことを意味する。また、細孔を試料保持面に平行な面で切断した断面が円でない場合には、断面の周囲の長さを円周とするような円の直径をエッチング処理後の細孔の幅、すなわち「エッチング処理後の細孔径」とする。
【0111】
また、(細孔周期−細孔径)が小さくなり過ぎない範囲とは、10nm以上であることが好ましい。(細孔周期−細孔径)が10nm以上であることにより、試料ターゲットの強度が低下することを避けることができる。
【0112】
(I−3)表面処理剤による被覆
本発明にかかる試料ターゲットの試料保持面では、金属および/または半導体で被覆された試料保持面の表面がさらに表面処理剤で被覆されており、当該表面処理剤で被覆された試料保持面における液滴の接触角は60°以上180°未満である。これにより、イオン化性能を著しく向上させることができ、amolオーダーの試料量においても再現性良く質量分析を行うことが可能となる。
【0113】
図8は、金属および/または半導体で被覆された試料保持面の表面がさらに表面処理剤で被覆された試料保持面の表面の被覆の一例を模式的に示す図である。なお、図8中、1で示す部分が、金属および/または半導体で被覆されている部分を示し、4で示す部分が、表面処理剤で被覆されている部分を示す。
【0114】
なお、本発明にかかる試料ターゲットの表面処理に用いられる上記「表面処理剤」は、撥水性および/または撥油性を有する限り特に限定されるものではない。表面処理に用いる表面処理剤の撥水性および/または撥油性の尺度は、当該表面処理剤で被覆された平滑基板上に液体を滴下したときの液滴と平滑基板との接触角を測定することにより評価することができる。当該接触角が大きければ、撥水性および/または撥油性が高いといえる。
【0115】
具体的には、上記表面処理剤は、当該表面処理剤で被覆された平滑基板表面における液滴の接触角が、60°以上180°未満の範囲にある表面処理剤であることが好ましい。
【0116】
ここで、上記接触角θは、従来公知の接触角測定方法であるθ/2法を用いて、室温25℃の温度条件下で、当該表面処理剤で被覆された平滑基板上に、10μLの液体を滴下したときの液滴と平滑基板との接触角を測定することにより求めることができる。図5はθ/2法の概略を示す図である。液滴の輪郭形状を円の一部と仮定すると、幾何の定理より、接触角θ=2θとして求めることができる。よって、液滴の左右端点2と頂点3とを結ぶ直線の、基板表面に対する角度θを測定することにより接触角θを求めることができる。
【0117】
なお、上述した表面処理剤の撥水性および/または撥油性の評価に用いる上記液滴は、本明細書においては、撥水性を評価する場合は水を用い、撥油性を評価する場合はn−ヘキサデカンを用いて行うものとする。言い換えれば、上記表面処理剤は、当該表面処理剤で被覆された平滑基板表面における水またはn−ヘキサデカンの接触角が、60°以上180°未満の範囲にある表面処理剤であることが好ましい。上記「水」としては、蒸留水を用いて行うことができる。
【0118】
また、表面処理剤の撥水性および/または撥油性の評価に用いる上記平滑基板は、本明細書においては、ガラス基板を用いて評価を行うものとする。
【0119】
本発明にかかる試料ターゲットの表面処理に用いられる表面処理剤は、上述した方法によって求められた平滑基板表面における接触角が、60°以上180°未満であることが好ましいが、試料ターゲットに撥水性および/または撥油性を好適に付与するために、上記接触角が90°以上180°未満であることがより好ましく、100°以上180°未満であることがさらに好ましく、115°以上180°未満であることが特に好ましく、130°以上180°未満であることが最も好ましい。
【0120】
平滑基板表面における接触角が90°以上であれば撥水性を有するため、本発明にかかる試料ターゲットを表面処理するためにより好適に用いることができる。
【0121】
本発明にかかる試料ターゲットの表面処理に用いられる表面処理剤は、表面処理剤に固有の撥水性および/または撥油性の尺度を示す接触角が上記範囲内であれば特に限定されるものではないが、中でも、シラン化合物またはフッ素化合物を含むものであることが好ましい。
【0122】
上記シラン化合物としては上述した接触角が上記範囲内であれば特に限定されるものではないが、より具体的には、例えば、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)ジスルフィド、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)ジスルフィド等のシランカップリング剤:メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン等のアルキルアルコキシシラン:メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン等のアルキルクロロシラン等を挙げることができる。
【0123】
また、上記フッ素化合物としては、上述した接触角が上記範囲内であれば特に限定されるものではないが、例えば、フルオロアルキル基やパーフルオロアルキル基を主鎖として含むフルオロ(又はパーフルオロ)アルキル基含有化合物、フルオロポリエーテル基やパーフルオロポリエーテル基を主鎖として含むフルオロ(又はパーフルオロ)ポリエーテル基含有化合物等を好適に用いることができる。
【0124】
上記フルオロ(又はパーフルオロ)アルキル基含有化合物としては、例えば、フルオロアルキルシラン、パーフルオロアルキルシラン、フルオロアルキルトリアルコキシシラン、パーフルオロアルキルトリアルコキシシラン、フルオロアルキルトリクロロシラン、パーフルオロアルキルトリクロロシラン、フルオロアルキルシラザン、パーフルオロアルキルシラザン等のフルオロ(又はパーフルオロ)アルキル基含有シラン化合物;フルオロアルキルアルコール、パーフルオロアルキルアルコール;フルオロアルキルエポキシプロパン、パーフルオロアルキルエポキシプロパン;フルオロアルキルホスフェート、パーフルオロアルキルホスフェート等を挙げることができる。また、上記フルオロ(又はパーフルオロ)ポリエーテル基含有化合物としては、フルオロポリエーテルトリアルコキシシラン、パーフルオロポリエーテルトリアルコキシシラン、フルオロポリエーテルジトリアルコキシシラン、パーフルオロポリエーテルジトリアルコキシシラン等のフルオロ(又はパーフルオロ)ポリエーテル基含有シラン化合物等を挙げることができる。
【0125】
上記フルオロ(又はパーフルオロ)アルキル基含有化合物としては、より具体的には、例えば、2−ハ゜ーフルオロオクチルエチルトリエトキシシラン、2−ハ゜ーフルオロテ゛シルエチルトリエトキシシラン、2−ハ゜ーフルオロト゛テ゛シルエチルトリエトキシシラン、2−ハ゜ーフルオロテトラテ゛シルエチルトリエトキシシラン、2−ハ゜ーフルオロオクチルエタノール、2−ハ゜ーフルオロテ゛シルエタノール、2−ハ゜ーフルオロト゛テ゛シルエタノール、2−ハ゜ーフルオロテトラテ゛シルエタノール、2−ハ゜ーフルオロオクチルエチルトリクロロシラン、2−ハ゜ーフルオロテ゛シルエチルトリクロロシラン、2−ハ゜ーフルオロト゛テ゛シルエチルトリクロロシラン、2−ハ゜ーフルオロテトラテ゛シルエチルトリクロロシラン、3−ハ゜ーフルオロオクチル−1,2−エホ゜キシフ゜ロハ゜ン、3−ハ゜ーフルオロテ゛シル−1,2−エホ゜キシフ゜ロハ゜ン、3−ハ゜ーフルオロト゛テ゛シル−1,2−エホ゜キシフ゜ロハ゜ン、3−ハ゜ーフルオロテトラテ゛シル−1,2−エホ゜キシフ゜ロハ゜ン、2−ハ゜ーフルオロオクチルエチルホスフェート、2−ハ゜ーフルオロテ゛シルエチルホスフェート、2−ハ゜ーフルオロト゛テ゛シルエチルホスフェート、2−ハ゜ーフルオロテトラテ゛シルエチルホスフェート等を挙げることができる。
【0126】
また、フルオロ(又はパーフルオロ)ポリエーテル基含有シラン化合物としては、フルオロ(又はパーフルオロ)ポリエーテル基を有するシラン化合物であれば特に限定されるものではないが、例えば、下記一般式(1)
CF(CF(O(CF(O(CF(CH−Si−(OR) ・・・(1)
(一般式(1)中、n、m、l、p、q、およびrは1以上の整数を示し、Rは炭素数1〜4のアルキル基を示す。)
で表される化合物を挙げることができる。
【0127】
上記一般式(1)中、n、m、l、p、q、およびrは1以上の整数であれば特に限定されないが、1〜100が好ましく、1〜50がより好ましく、1〜10がさらに好ましい。
【0128】
また、上記表面処理剤として、オプツールDSX(登録商標、ダイキン工業株式会社製)、KP801M(信越化学工業株式会社製)、X−24−9146(信越化学工業株式会社製)、XC98−A5382(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)、XC98−B2472(ジーイー東芝シリコーン株式会社製)、FG5010(株式会社フロロテクノロジー製)等も好適に用いることができる。
【0129】
中でも、本発明にかかる試料ターゲットを表面処理する表面処理剤としては、フッ素化合物であることがより好ましく、パーフルオロポリエーテル基を含むフッ素化合物であることがさらに好ましい。上記パーフルオロポリエーテル基を含むフッ素化合物としては、例えば、オプツールDSX(登録商標)を好適に用いることができる。
【0130】
当該表面処理剤で被覆された試料保持面の撥水性および/または撥油性の尺度は、当該表面処理剤で被覆された試料保持面と液滴との接触角を測定することで評価することができる。本明細書において、上記表面処理剤で被覆された試料保持面と液滴との接触角は、被覆された平滑基板表面のかわりに、被覆された試料保持面を用いる以外は、上述した表面処理剤で被覆された平滑基板表面における液滴の接触角と同様にして測定することとする。
【0131】
当該表面処理剤で被覆された試料保持面における液滴の接触角は、60°以上180°未満であることが好ましいが、90°以上180°未満であることがより好ましく、110°以上180°未満であることがさらに好ましく、130°以上180°未満であることが最も好ましい。当該表面処理剤で被覆された試料保持面における液滴の接触角が60°以上であれば、試料保持面の濡れ性が低いため、試料溶液を局所的に高濃度高密度で乾燥させることができる。
【0132】
上記試料保持面への表面処理剤の被覆処理によって形成される被覆層の厚みについては、試料保持面の細孔を有する構造を損なうものでなければ特に限定されるものではないが、均一な被覆層が形成されることがより好ましい。表面処理剤の被覆層の厚みが厚いと、試料保持面に形成された細孔のナノ構造が損なわれるおそれがある。よって、被覆処理によって形成される被覆層の厚みは、数nmから数十nmの範囲内であることが好ましく、より具体的には0.5m以上10nm以下であることが好ましい。
【0133】
なお、表面処理剤の被覆処理によって形成される被覆層の厚みは、原子間力顕微鏡(AFM)、走査型プローブ顕微鏡(SPM)、エリプソメトリーを用いて測定することができる。
【0134】
また、金属および/または半導体で被覆されている上記試料保持面の表面は、表面全体が上記表面処理剤で被覆されていてもよいし、表面の一部が上記表面処理剤で被覆されていてもよい。具体的には、細孔内面の一部を除く当該試料保持面の表面が、表面処理剤で被覆されているとともに、細孔の内面に、表面処理剤で被覆されていない部分が存在してもよい。表面処理剤で被覆されていない部分が存在する試料保持面では、上記細孔の内面の、表面処理剤で被覆されていない部分の位置としては、特に限定されるものではなく、例えば、細孔の内面側壁のうち上端部を含む上部を除く部分および底部であってもよいし、細孔の内面全体であってもよいし、細孔の内面側壁の一部であってもよいし、細孔の内面側壁全体であってもよいし、細孔の底面のみであってもよいし、被覆されている部分がドット状(アイランド状)であってそのドット状(アイランド状)以外の部分であってもよいし、被覆されていない部分がドット状(アイランド状)であってもよい。
【0135】
また、金属および/または半導体で被覆されていない部分が存在する試料保持面を有する試料ターゲットにおいても、金属および/または半導体で被覆されていない部分を含む試料保持面の表面全体が上記表面処理剤で被覆されていてもよいし、表面の一部が上記表面処理剤で被覆されていてもよい。
【0136】
(I−4)パターニング処理による表面処理剤の除去
一実施形態において、本発明にかかる試料ターゲットは、上記表面処理剤で被覆された試料保持面の表面処理剤がパターニング処理によって一部除去されていてもよい。ここで、パターニング処理とは、試料保持面の表面処理剤を局所的に除去する処理であれば特に限定されるものではない。例えば、表面処理剤で被覆された試料保持面にマスクを置いて、プラズマ処理等を行うことにより、マスク開口部に対応した部分の表面処理剤を局所的に除去することができる。
【0137】
パターニング処理によって除去される部分の形状については、特に限定されるものでは無く、円形であっても多角形であっても良いが、試料保持面の撥水性および/または撥油性を維持するために、パターニング処理によって表面処理剤が除去される範囲は、0.1〜5mmの範囲内であることが好ましい。
【0138】
表面処理剤が除去される範囲が上記範囲であれば、表面処理剤が除去された部分の周囲は試料保持面の撥水撥油性が維持されて試料ターゲットの濡れ性は低下しているため、パターニング処理を行った部分に試料を滴下した場合、周囲に広がらず、局所的に高濃度に試料を濃縮することができる。さらに、パターニング処理された部分は、表面処理剤が除去され、金属および/または半導体で被覆された被覆面が露出しているので表面処理剤自体がイオン化するおそれが少ない。よって、ノイズが少ないよりクリアなマススペクトルを得ることができる。
【0139】
なお、同一試料ターゲットの試料保持面上において、1箇所がパターニング処理されていてもよいし、複数箇所がパターニング処理されていてもよい。
【0140】
また、本発明にかかる試料ターゲットは、複数の細孔が繰り返し形成されている試料保持面にさらに凹凸パターンが形成された試料保持面を用いた試料ターゲットであって、かかる凹凸パターンの凹部の表面処理剤が、パターニング処理によって一部除去されている試料保持面を備えている試料ターゲットであってもよい。なお、ここで凹凸パターンとしては、1または複数の凹部を有しているものであれば特に限定されるものではないが、凹部の試料保持面における開口部の面積が0.1〜5mmの範囲内であるような凹部を有することが好ましい。なお、凹部の形状は、特に限定されるものではなく、試料保持面に平行な断面の形状は円形であっても多角形であってもよい。また、凹部は、開口部から底部までの断面形状が一定の円柱状または多角柱状であってもよいし、開口部から底部に向かって断面形状が変化する円錐状または多角錐状であってもよい。また、凹部の深さは、10μm以上3mm以下であることが好ましい。
【0141】
かかる試料ターゲットでは、濡れ性とマクロな凹凸の効果によって、より液滴のスポット位置を制御することができる。
【0142】
なお、パターニング処理により表面処理剤を除去するものではないが、上記表面処理剤で被覆された試料保持面の表面処理剤の一部は、パターニング処理によって、さらに、金属及び/又は半導体で被覆されていてもよい。ここで、パターニング処理とは、試料保持面の表面処理剤を局所的にさらに金属及び/又は半導体で被覆する処理であれば特に限定されるものではない。例えば、表面処理剤で被覆された試料保持面にマスクを置いて、そこをさらに金属及び/又は半導体で被覆することにより、マスク開口部に対応した部分に金属及び/又は半導体を局所的に被覆することができる。かかる部分は、金属および/または半導体で被覆された被覆面が露出しているので表面処理剤自体がイオン化するおそれが少ない。よって、ノイズが少ないよりクリアなマススペクトルを得ることができる。
【0143】
(I−5)試料保持面の材質
試料保持面の材質は、上記形状を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、合成高分子などの樹脂、セラミックス等を挙げることができる。導電性を有しない材質であっても金属および/または半導体で被覆することによりイオン化の効率を向上させることができる。
【0144】
上記合成高分子としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリスチレン、ポリシロキサン、ポリスタノキサン、ポリアミド、ポリエステル、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリウレタン、ポリエチルエーテルケトン、ポリ4−フッ化エチレン;これらの少なくともひとつを含む共重合体;これらの少なくともひとつを含む混合物;これらの少なくともひとつを含むグラフトポリマー;これらの少なくともひとつを含むブロックポリマー等が挙げられる。
【0145】
また、上記セラミックスとしては、アルミナ(酸化アルミニウム)、マグネシア、ベリリア、ジルコニア(酸化ジルコニウム)、酸化ウラン、酸化トリウム、シリカ(石英)、ホルステライト、ステアタイト、ワラステナイト、ジルコン、ムライト、コージライト/コージェライト、スポジュメン、チタン酸アルミニウム、スピネルアパタイト、チタン酸バリウム、フェライト、ニオプ酸リチウム、窒化ケイ素(シリコンナイトライド)、サイアロン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化チタン、炭化ケイ素(シリコンカーバイド)、炭化ホウ素、炭化チタン、炭化タングステン、ホウ化ランタン、ホウ化チタン、ホウ化ジルコニウム、硫化カドミウム、硫化モリブデン、ケイ化モリブデン、ダイヤモンド、単結晶サファイアなどが挙げられる。
【0146】
上記試料保持面の材質としては、例えば、ポーラスアルミナを好適に用いることができる。ポーラスアルミナとは、アルミニウムまたはその合金を電解液中で陽極酸化することにより、表面に形成される、微細な細孔を多数有する酸化皮膜のことをいう。陽極酸化の条件を制御することにより細孔が広範囲にわたって規則的に配列した規則的なポーラスアルミナを製造することができる。このようにして得られる規則的なポーラスアルミナは、例えば、図3に示すように、アルミニウム(またはその合金)の層102上に、バリアー層103を介して、多数の細孔が一方向に配列したポーラスアルミナの層101が形成されている。なお、図3ではバリアー層が存在するが、バリアー層は除去されていてもよい。
【0147】
このようにポーラスアルミナは、規則的に形成された複数の細孔を有し、また、試料ターゲットに好ましい細孔径を有する構造を得ることができることから、本発明の試料ターゲットに好適に用いることができる。さらにポーラスアルミナは、陽極酸化の条件を変化させることによって、細孔径、細孔深さ、および細孔周期を制御することが可能であることから、本発明に好適に用いることができる。
【0148】
規則的な細孔構造を有するポーラスアルミナは、例えば、H. Masuda and M. Satoh, Jpn. J Appl. Phys., 35, pp. L126 (1996) に開示されている、2段階に分けて陽極酸化を行う方法、特開平10−121292号公報に開示されている、複数の突起を備えた基板を陽極酸化するアルミニウム板表面におしつけて、所望の細孔周期や配列の窪みを形成した後、当該アルミニウム板を陽極酸化する方法等、従来公知の方法により得ることができる。
【0149】
さらに、上記試料保持面としては、微細な細孔が繰り返し形成された凹凸構造を有する第一構造物を鋳型に用いて当該第一構造物の凹凸構造を転写したネガ型の第二構造物を作製し、当該ネガ型の第二構造物を鋳型に用いて上記凹凸構造を転写した、上記第一構造物の凹凸構造と同一の形状の凹凸構造を表面に有する試料保持面も好適に用いることができる。かかる試料保持面を用いることにより、本発明に使用可能な、複数の細孔が繰り返し形成された表面を有する試料ターゲットを、種々の材質を用いて製造することができる。
【0150】
上記微細な細孔が繰り返し形成された凹凸構造を有する第一構造物としては、本発明の試料ターゲットに適した凹凸構造を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、ポーラスアルミナを好適に用いることができる。
【0151】
上記ネガ型の第二構造物を鋳型に用いて上記凹凸構造を転写した、上記試料保持面の材質は特に限定させるものではなく例えば、上記樹脂、セラミックス等を含むものを好適に用いることができる。
【0152】
(II)試料ターゲットの製造方法
本発明にかかる試料ターゲットの製造方法は、上記試料ターゲットの製造方法であって、当該試料保持面の表面を金属および/または半導体で被覆する被覆工程と、当該被覆工程で被覆された試料保持面の表面をさらに表面処理剤で被覆する表面処理工程と、を含み、当該表面処理工程で被覆された試料保持面における液滴の接触角は60°以上180°未満である。以下に被覆工程、および表面処理工程について説明する。
【0153】
(II−1)被覆工程
上記被覆工程は、上記試料保持面の表面を、被覆できる方法であれば特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いることができる。かかる方法としては、例えば、スパッタリング、化学気相成長法(CVD)、真空蒸着法、無電解メッキ法、電解メッキ法、塗布法、貴金属ワニス法、有機金属薄膜法、ゾルゲル法等を挙げることができる。これらの方法を用いて、細孔の内面を含む試料保持面全体に金属および/または半導体を被覆させるか、または、細孔の内面に、金属および/または半導体で被覆されていない部分が存在するように金属および/または半導体を被覆させればよい。
【0154】
中でも、イオン化性能を向上させる観点から、上記細孔の内面に、金属および/または半導体で被覆されていない部分が存在するように、金属および/または半導体で被覆することがより好ましい。以下、上記細孔の内面に、金属および/または半導体で被覆されていない部分が存在するように、金属および/または半導体で被覆する場合を例に挙げて説明する。上記細孔の内面に、金属および/または半導体で被覆されていない部分が存在するように被覆を行う方法としては、物理蒸着を用いるとともに、上記試料保持面の表面から厚さ方向に伸びている細孔の中心線の方向から斜めに傾けた角度から、上記金属および/または半導体を蒸着する方法を好適に用いることができる。かかる方法を用いることにより、蒸着の角度を変更するだけで簡便に、上記細孔の内面に、金属および/または半導体で被覆されていない部分が存在するように被覆を行うことが可能となる。
【0155】
ここで、物理蒸着としては、特に限定されるものではないが、例えば、イオンビームスパッタリング、直流スパッタリング、マグネトロンスパッタリング、高周波スパッタリング等のスパッタリング、熱蒸着、電子ビーム蒸着、真空蒸着等を好適に用いることができる。
【0156】
かかる工程では、上記試料保持面の表面から厚さ方向に伸びている細孔の中心線の方向から斜めに傾けた角度から、上記金属および/または半導体を蒸着する。図2の(b)に、金属および/または半導体で被覆されていない部分が存在するように被覆する一例として、ポーラスアルミナを試料ターゲットに用いた場合の、金属および/または半導体による、試料保持面の表面の被覆を模式的に示す。
【0157】
図2の(b)中、一点鎖線は、「試料保持面の表面から厚さ方向に伸びている細孔の中心線の方向」を示す。
【0158】
また、図2の(b)において矢印は、蒸着の方向、すなわち、試料保持面の表面に付着させて試料保持面を被覆する粒子の飛翔方向を示す。図2の(b)に示すように、上記試料保持面の表面から厚さ方向に伸びている細孔の中心線の方向から斜めに傾けた角度から、上記金属および/または半導体を蒸着する。これにより、図2の(b)に示すように、金属および/または半導体が細孔の内部全体に浸入することなく、試料保持面の細孔内面は、上端部のみが金属および/または半導体で被覆されることとなる。それゆえ、金属および/または半導体が浸入しない、細孔の下部は、金属および/または半導体で被覆されていない部分として残る。それゆえ、分子量が24,000を超えるような高分子量の物質のイオン化が可能となるとともに、低分子化合物のイオン化性能を顕著に向上させることができる。
【0159】
ここで、記試料保持面の表面から厚さ方向に伸びている細孔の中心線の方向から斜めに傾けた角度は、図2の(b)において、θで示される角度であり、上記試料保持面の表面から厚さ方向に伸びている細孔の中心線の方向と蒸着の方向とがなす角ということもできる。上記試料保持面の表面から厚さ方向に伸びている細孔の中心線の方向から斜めに傾けた角度θは、30°以上90°未満であることが好ましい。これにより、分子量が24,000を超えるような高分子量の物質のイオン化が可能となるとともに、低分子化合物のイオン化性能を顕著に向上させることができる。また角度θは、40°以上89°未満であることがより好ましく、45°以上88°未満であることがさらに好ましく、60°以上85°未満であることが特に好ましい。これにより、さらにイオン化性能を向上させることが可能となる。
【0160】
図6は、例えば、上記金属としてPtを用い、ポーラスアルミナからなる試料保持面にPtを蒸着する場合の、上記試料保持面の表面から厚さ方向に伸びている細孔の中心線の方向と蒸着の方向とがなす角θとPtにより被覆される部分とを示す模式図である。
【0161】
図6に示すように、細孔の内面の金属およびまたは半導体により被覆される部分は、上記角θと細孔径により規定されうる。すなわち、上記細孔の内面の、金属および/または半導体で被覆されている部分は、当該細孔の側壁の上端部を含む側壁の上部であり、側壁の上端部と、被覆されている部分の下端との間の距離は、Tan(90°−θ)×Dで表される。ここで、図6中、Dは細孔径を示し、細孔径については、上記(I−1)で説明したとおりである。
【0162】
なお、図2の(b)および図6では、金属および/または半導体が蒸着される方向として、上記試料保持面の表面から厚さ方向に伸びている細孔の中心線の方向と蒸着の方向とがなす角がθとなる一方向のみが示されているが、試料保持面を、θを同じ角度に維持しながら回転させることによって、細孔の内面の全方向において、所望の範囲のみを被覆することができる。
【0163】
(II−2)表面処理工程
上記表面処理工程は、上記試料保持面の表面を、被覆できる方法であれば特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いることができる。かかる方法としては、例えば、ディップコーティング法、スピンコーティング法、蒸着法、または化学気相成長法(CVD)等を挙げることができる。
【0164】
上記表面処理工程において用いられる表面処理剤については、「(I−3)表面処理剤による被覆」で説明したものを好適に用いることができる。
【0165】
上記表面処理工程において、表面処理を行う条件は、表面処理の方法、表面処理剤の物性等に従って適宜選択されるものであるが、均一な被覆層が形成されるような条件でおこなうことが好ましい。また、表面処理剤の被覆層の厚みが厚いと、試料保持面に形成された細孔のナノ構造が損なわれるおそれがある。よって、形成される被覆層の厚みが、数nmから数十nmの範囲内、より好ましくは、上記(I−3)に記載の範囲になるように処理を行うことが好ましい。
【0166】
(II−3)試料保持面の製造方法
上記被覆工程で金属および/または半導体を被覆する試料保持面を製造する方法としては、上記(I)で説明した試料保持面を製造することができる方法であれば特に限定されるものではない。中でも、かかる試料保持面の製造方法としては、例えば、ポーラスアルミナを用いる方法、微細な細孔が繰り返し形成された凹凸構造を有する第一構造物を鋳型として用い、鋳型として用いた第一構造物と同一の凹凸構造を有する他の材質からなる試料保持面を製造する方法等を好適に用いることができる。
【0167】
<ポーラスアルミナを用いる方法>
ここで、ポーラスアルミナは、アルミニウムまたはその合金を陽極酸化することにより製造してもよいし、市販されているポーラスアルミナを用いてもよい。
【0168】
ポーラスアルミナを製造する方法は、特に限定されるものではなくどのような方法を用いてもよい。また、従来公知の方法を好適に用いることができる。一般的には、アルミニウムまたはその合金を好ましくは研磨し、これを電解液中で陽極酸化すればよい。上記電解液は酸性であってもアルカリ性であってもよいが、例えば、硫酸、シュウ酸、リン酸等であることが好ましい。また所望の細孔径、細孔深さおよび細孔周期を有する試料保持面を得るために、陽極酸化電圧、陽極酸化時間、電解液の種類や濃度、温度条件等を適宜選択すればよい。また、陽極酸化前にアルミニウムやその合金を研磨する方法も特に限定されるものではなく、例えば、過塩素酸とエタノールとの混合液、リン酸と硫酸との混合溶液中等で電解研磨処理する方法、機械的に表面研磨処理する方法等を挙げることができる。また、陽極酸化により得られたポーラスアルミナは、リン酸水溶液、硫酸水溶液等を用いたエッチング処理等により、細孔径を拡大処理してもよい。
【0169】
また、規則的なポーラスアルミナを製造するためには、上述したように、例えば、H. Masuda and M. Satoh, Jpn. J Appl. Phys., 35, pp. L126 (1996) に開示されている、2段階に分けて陽極酸化を行う方法、特開平10−121292号公報に開示されている、複数の突起を備えた基板(モールド)を陽極酸化するアルミニウム板表面におしつけて、所望の細孔周期や配列の窪みを形成した後、当該アルミニウム板を陽極酸化する方法等を好適に用いることができる。
【0170】
<ナノインプリント法>
微細な細孔が繰り返し形成された凹凸構造を有する第一構造物を鋳型として用い、鋳型として用いた第一構造物と同一の凹凸構造を有する他の材質からなる試料保持面を製造する方法としては、微細構造体を鋳型に用いて、その構造を別の物質に転写する「ナノインプリント」法であれば、特に限定されるものではなく、どのような方法を用いてもよい。近年、ナノテクノロジーの分野において、DNAチップ、半導体のデバイス、化学反応のための微小な容器などを作製するために、1nmから数十μmの単位で作製された微細構造体を鋳型に用いて、その構造を別の物質に転写する「ナノインプリント」法が種々開発されており、これらの従来公知の方法を好適に用いることができる。
【0171】
また、かかるナノインプリント法を用いることにより、試料保持面に適した凹凸構造を有する第一構造物と同一の構造を有する試料保持面を、所望の材質で製造することができる。したがって、これらの製造方法も本発明に含まれる。
【0172】
すなわち、試料保持面の製造にナノインプリント法を用いる場合は、本発明の試料ターゲットの製造方法は、上記試料保持面の表面を金属および/または半導体で被覆する工程の前に、微細な細孔が繰り返し形成された凹凸構造を有する第一構造物を鋳型に用いて当該第一構造物の凹凸構造を転写したネガ型の第二構造物を作製する工程と、当該工程で得られたネガ型の第二構造物を鋳型に用いて上記凹凸構造を転写して、上記第一構造物の凹凸構造と同一の形状の凹凸構造を表面に有する試料保持面を得る工程とを含んでいてもよい。
【0173】
なお、上記第一構造物としては、本発明の試料ターゲットに適した凹凸構造を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、ポーラスアルミナを好適に用いることができる。
【0174】
かかるナノインプリント法としては、例えばT.Yanagishita, K.Nishino, H.Masuda:Jpn.J.Appl.Phys., Vol. 45, No. 30(2006) に記載の方法を挙げることができる。この方法では、ポーラスアルミナを鋳型に用いて、当該ポーラスアルミナの凹凸構造をNiに転写したネガ型の第二構造物を作製する。得られたNiからなるネガ型の第二構造物を鋳型に用いて、上記凹凸構造を表面に有するポリマーからなる試料保持面を製造する。
【0175】
上記方法の一例について、以下に、図7に基づきより具体的に説明する。図7は、ナノインプリント法による試料保持面製造の工程を含む試料ターゲットの製造方法を模式的に示す図である。まず、Niの電解析出のための電極とするために、スパッタリングにより、ポーラスアルミナの表面に5nm〜200nmの金属膜を形成し、Niを電解析出させる(図7の(i))。ここで、上記金属膜は、Niを電解析出させることができるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、Pt膜、Au膜、Ta膜、Pd膜等を好適に用いることができる。電解析出後、ポーラスアルミナを溶解除去して、ポーラスアルミナの凹凸構造をNiに転写したネガ型の第二構造物を得る(図7の(ii))。このNiからなるネガ型の第二構造物を、必要に応じて、離型剤を用いて前処理した後、当該第二構造物上に光硬化性樹脂のモノマーを注ぎ、例えばガラス基板等の基板を添えて、紫外線照射下モノマーを重合させる。Niからなるネガ型の第二構造物を機械的に除去し(図7の(iii))、ポーラスアルミナの凹凸構造を表面に有するポリマーからなる試料保持面(図7の(iv))を得る。図7の(v)、(vi)は続く上記被覆工程を模式的に示すものである。また、図7の(vii)は続く上記表面処理工程を模式的に示すものである。図7中、4で示す部分が、表面処理剤で被覆されている部分を示す。
【0176】
かかる方法で用いられる、微細な細孔が繰り返し形成された凹凸構造を有する第一構造物の凹凸構造を転写するネガ型の構造物として用いられる物質は、Niに限定されるものではなく、例えば、元素周期表の1A族(Li,Na,K,Rb,Cs,Fr)、2A族(Be,Mg,Ca,Sr,Ba,Ra)、3A族(Sc,Y)、4A族(Ti,Zr,Hf)、5A族(V,Nb,Ta)、6A族(Cr,Mo,W)、7A族(Mn,Tc,Re)、8族(Fe,Ru,Os,Co,Rh,Ir,Ni,Pd,Pt)、1B族(Cu,Ag,Au)、2B族(Zn,Cd,Hg)、3B族(Al)、およびランタノイド系列(La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu)、アクチノイド系列(Ac,Th,Pa,U,Np,Pu,Am,Cm,Bk,Cf,Es,Fm,Md,No,Lr)等の金属を用いてもよい。
【0177】
また、ネガ型の第二構造物を鋳型に用いて、上記凹凸構造を表面に転写するポリマーも、特に限定されるものではなく、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリスチレン、ポリシロキサン、ポリスタノキサン、ポリアミド、ポリエステル、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリウレタン、ポリエチルエーテルケトン、ポリ4−フッ化エチレン;これらの少なくともひとつを含む共重合体;これらの少なくともひとつを含む混合物;これらの少なくともひとつを含むグラフトポリマー;これらの少なくともひとつを含むブロックポリマー等を用いることができる。
【0178】
ポーラスアルミナの溶解除去に用いられる溶剤としては、アルミニウムおよびアルミナを溶解する溶剤であれば、特に限定されるものではないが、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等を挙げることができる。
【0179】
上述したナノインプリント法では、樹脂に微細な細孔が繰り返し形成された凹凸構造を有する第一構造物の凹凸構造を転写する方法を示したが、ナノインプリント法により上記第一構造物の凹凸構造を転写して作製する試料保持面の材質は、樹脂に限定されるものでなく、例えば、セラミックス等であってもよい。
【0180】
また、かかるセラミックスとしては、上記(I−3)に記載のものと同様のセラミックスを好適に用いることができる。
【0181】
(II−4)クリーニング処理工程
一実施形態において、本発明にかかる試料ターゲットの製造方法は、上記被覆工程の後、且つ上記表面処理工程の前に、上記金属および/または半導体で被覆された試料保持面の有機物を除去するクリーニング処理工程をさらに含んでいてもよい。
【0182】
かかる工程は、上記金属および/または半導体で被覆された試料保持面の有機物を除去できる方法であれば特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いることができる。かかる方法としては、例えば、プラズマ処理(例えば、大気プラズマ処理、酵素プラズマ処理等)、エキシマランプ処理、UVオゾン処理等のドライプロセスを挙げることができる。また、リン酸水溶液等の酸性溶液に短時間浸漬し、最表面を溶解して正常な表面を露出させることにより処理することも可能である。中でも、特殊なガスを用いることなく有機物を酸化して除去することができるため、プラズマ処理を行うことが好ましい。
【0183】
上記表面処理工程の前に、クリーニング処理工程をおこなうことにより、試料保持面の表面に付着した有機物を除去することができるため、試料保持面に存在する水酸基(−OH)が露出し、十分に親水的な特性を示すようになる。後の表面処理工程において用いられる表面処理剤は、試料保持面の水酸基と反応して固定化されるため、試料保持面に水酸基が多数存在する状態であれば、効率よく表面処理を行うことができる。その結果、よりすぐれたイオン化性能を有する試料ターゲットを得ることができる。
【0184】
(II−5)エッチング処理工程
一実施形態において、本発明にかかる試料ターゲットの製造方法は、上記被覆工程の後に、さらに、上記細孔の内面の、金属および/または半導体で被覆されていない部分をエッチング処理して、当該部分の細孔径を拡大するエッチング処理工程を含んでいてもよい。
【0185】
かかる工程は、上記細孔の内面の、金属および/または半導体で被覆されていない部分がエッチングによって除去可能な材質からなる場合であれば、本発明にかかる試料ターゲットの製造方法に含めることが好ましい。これにより、理由は明らかではないが、さらにイオン化性能を向上させることが可能となる。
【0186】
図4は、細孔径を拡大する工程により、金属および/または半導体で被覆されていない部分の細孔径を拡大する工程により得られる試料保持面を模式的に示す図である。図4は、試料保持面としてポーラスアルミナを用いた場合の、金属および/または半導体で被覆されていない部分の径が拡大された試料保持面を示す。
【0187】
かかる工程は、上記金属および/または半導体で被覆されていない部分の細孔径を拡大することができる方法であれば特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いることができる。かかる方法としては、例えば、リン酸水溶液等の酸性の水溶液に浸漬するウエットエッチングによりおこなうことができる。
【0188】
(II−5)パターニング処理工程
一実施形態において、本発明にかかる試料ターゲットの製造方法は、上記表面処理工程の後に、さらに、0.1〜5mmの範囲内で上記試料保持面に被覆された表面処理剤を除去するパターニング処理工程を含んでいてもよい。
【0189】
かかる工程は、上記試料保持面に被覆された表面処理剤を除去できる方法であれば特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いることができる。かかる方法としては、例えば、プラズマ処理(例えば、大気プラズマ処理、酵素プラズマ処理等)等を挙げることができる。
【0190】
パターニング処理工程において、表面処理剤を除去する必要が無い部分にはマスクをし、上記プラズマ処理を行えば、所要の形状および面積について簡便に表面処理剤を除去することができる。
【0191】
(III)本発明の利用(質量分析装置)
本発明の試料ターゲットは、生体高分子や内分泌撹乱物質、合成高分子、金属錯体などの様々な物質の質量分析を行う場合に測定対象となる試料を載置するための言わば試料台として使用することができる。また、上記試料ターゲットは、特にレーザー脱離イオン化質量分析において用いられた場合に、試料のイオン化を効率的かつ安定的に行うことができるため有用である。
【0192】
そこで、上述の本発明の試料ターゲットを用いてなる質量分析装置についても本発明の範疇に含まれる。上記試料ターゲットは、特にレーザー脱離イオン化質量分析装置において用いられた場合に、試料のイオン化を効率的かつ安定的に行うことができる。そのため、本発明の質量分析装置は、より具体的には、測定対象となる試料にレーザー光を照射することによってイオン化して当該試料の分子量を測定するレーザー脱離イオン化質量分析装置であることが好ましい。
【0193】
上記レーザー脱離イオン化質量分析装置においては、測定対象となる試料を上述の試料ターゲット上に載置して使用することによって、当該試料に対してレーザー光を照射した場合に試料のイオン化を良好に行うことができる。
【0194】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0195】
本発明について、実施例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0196】
〔実施例1〕
<表面処理剤で被覆された試料ターゲットの作製と評価>
〔1.試料ターゲットの作製〕
純度99.99%のアルミニウム板を、過塩素酸、エタノール混合溶液中(体積比1:4)で電解研磨処理を施した。鏡面化を行ったアルミニウム板の表面に、200nmの周期で突起が規則的に配列した構造を有するSiC製モールドを押し付け、表面に微細な凹凸パターンの窪みを形成した。かかるテクスチャリング処理を施したアルミニウム板を、0.5Mリン酸水溶液中で、浴温17℃において直流80Vの条件下で11分間陽極酸化を行い、細孔深さ500nmの陽極酸化ポーラスアルミナを形成した。その後、得られた陽極酸化ポーラスアルミナを10重量%リン酸水溶液に10分間浸漬し、孔径拡大処理を施し細孔径を100nmに調節した。得られた陽極酸化ポーラスアルミナの細孔深さ/細孔径は5であった。得られた陽極酸化ポーラスアルミナを試料保持面として用いた。上記試料保持面の表面から厚さ方向に伸びている細孔の中心線の方向と蒸着の方向とがなす角を80°として、イオンビームスパッタ装置を用いて、試料保持面を回転させながら、白金(Pt)を50nmコートすることにより、細孔周期200nmのPtで細孔の内面の一部を除く当該試料保持面の表面が被覆されているとともに、上記細孔の内面に、金属および/または半導体で被覆されていない部分が存在する試料保持面を得た。
【0197】
その後、得られた試料保持面をリン酸クロム酸混合溶液中でエッチングすることにより、細孔底部を溶解した。エッチング後の試料は,蒸留水で洗浄したのち、0.1wt%に調整したオプツールDSX(登録商標、ダイキン工業株式会社製、接触角112°)に1分間浸漬し表面処理を行った。
【0198】
室温で1時間放置し乾燥したのち、フッ素系の溶媒(商品名:デムナムソルベント(登録商標)、ダイキン工業株式会社製)でリンスを行い実施例1の試料ターゲットを得た。
【0199】
〔実施例1〕の試料ターゲットにおいて、表面処理剤の被覆層の厚みは、5nmであった。
【0200】
〔2.試料ターゲットの評価〕
(2−1.試料ターゲットの濡れ性の評価)
(評価方法)
試料ターゲットの濡れ性は、得られた試料ターゲットの試料保持面上に10μLの水を滴下したときの液滴と試料ターゲットとの接触角により評価した。接触角θの求め方は、上述した従来公知の接触角測定方法であるθ/2法を用いて求めた。
【0201】
実施例1で得られた試料ターゲットの接触角は、130°であった。よって、実施例1の試料ターゲットは、充分に濡れ性が低下していることを確認することができた。
【0202】
(2−2.試料ターゲットのイオン化性能の評価)
実施例1で得られた試料ターゲットのイオン化性能は、質量分析に用いることにより評価した。具体的には、得られた試料ターゲットに、5nMのペプチド(アンギオテンシン−I、分子量1295.7)50%メタノール溶液を1μL(500amol相当)滴下し、乾燥後に、飛行時間型質量分析計Voyager DE−Pro(アプライドバイオシステムズ社製)を用いて、リニアモードでレーザー脱離イオン化法による質量分析を行った。
【0203】
図9に、窒素レーザー(波長337mnm、パルス幅10nsec、繰り返し周波数10ヘルツ)をレーザー強度35mJ/cmにて照射して得られたマススペクトルを示す。観測されているのは、プロトン付加イオン[M+H]である。
【0204】
後述する〔比較例1〕で、上記試料保持面の表面をオプツールDSX(登録商標)で処理しなかった場合のプロトン付加イオン[M+H]は検出不可能であったのに対し、本実施例では、プロトン付加イオン[M+H]は検出することができた。
【0205】
本実施例の結果から、試料保持面の表面を表面処理剤で処理することにより、表面処理剤で処理しなかった場合と比較して、イオン化性能が顕著に向上することがわかった。
〔比較例1〕
〔1.試料ターゲットの作製〕
試料保持面の表面を0.1wt%に調整したオプツールDSX(登録商標)で処理しなかった以外は、〔実施例1〕と同様の方法により、比較例1の試料ターゲットを作製した。なお、比較例1の試料ターゲットの作製に用いた陽極酸化ポーラスアルミナは、実施例1と同様に、細孔深さは500nm、および細孔径は100nm、および細孔深さ/細孔径は5であった。
【0206】
〔2.試料ターゲットの評価〕
(2−1.試料ターゲットの濡れ性の評価)
〔実施例1〕と同様の方法を用いて、比較例1で得られた試料ターゲットの濡れ性を評価した。比較例1で得られた試料ターゲットの接触角は、20°であった。
【0207】
(2−2.試料ターゲットのイオン化性能の評価)
比較例1で得られた試料ターゲットを用いて、〔実施例1〕と同様にして、レーザー脱離イオン化法による質量分析を行い、イオン化性能の評価を行った。
【0208】
図10に得られたマススペクトルを示す。観測されているのは、プロトン付加イオン[M+H]である。プロトン付加イオン[M+H]は検出不可能であった。
【0209】
〔実施例2〕
<クリーニング処理を施した基板の作製>
〔1.試料ターゲットの作製〕
〔実施例1〕と同様の方法により、陽極酸化ポーラスアルミナ基板を作製した。得られた陽極酸化ポーラスアルミナの細孔深さは500nm、および細孔径は100nm、および細孔深さ/細孔径は5であった。
【0210】
得られた陽極酸化ポーラスアルミナ基板に、〔実施例1〕と同様にしてPtを50nmコートすることにより、細孔周期200nmのPtで細孔の内面の一部を除く当該試料保持面の表面が被覆されているとともに、上記細孔の内面に、金属および/または半導体で被覆されていない部分が存在する試料保持面を得た。
【0211】
次いで、クリーニング処理として当該基板を大気プラズマ処理装置において10mA、1分間プラズマ照射を行い、試料表面に吸着した有機物の除去を行った。その後、〔実施例1〕と同様の方法で、0.1wt%に調製したオプツールDSX(登録商標、ダイキン工業株式会社製、接触角112°)に1分間浸漬し表面処理を行った。室温で1時間放置し乾燥したのち、フッ素系の溶媒(商品名:デムナムソルベント(登録商標)、ダイキン工業株式会社製)でリンスを行い実施例2の試料ターゲットを得た。
【0212】
実施例2の試料ターゲットにおいて、表面処理剤の被覆層の厚みは、5nmであった。
【0213】
〔2.試料ターゲットの評価〕
(2−1.試料ターゲットの濡れ性の評価)
〔実施例1〕と同様の方法を用いて、実施例2で得られた試料ターゲットの濡れ性を評価した。実施例2で得られた試料ターゲットの接触角は、130°であった。
【0214】
(2−2.試料ターゲットのイオン化性能の評価)
実施例2で得られた試料ターゲットを用いて、レーザー脱イオン化法による質量分析を行い、イオン化性能の評価を行った。具体的には、得られた試料ターゲットに、1μMのペプチド(アンギオテンシン−I、分子量1295.7)50%メタノール溶液を1μL(1pmol相当)滴下し、乾燥後に、飛行時間型質量分析計Voyager DE−Pro(アプライドバイオシステムズ社製)を用いて、リニアモードでレーザー脱離イオン化法による質量分析を行った。
【0215】
図11に、窒素レーザー(波長337mnm、パルス幅10nsec、繰り返し周波数10ヘルツ)をレーザー強度35mJ/cmにて照射して得られたマススペクトルを示す。観測されているのは、プロトン付加イオン[M+H]である。
【0216】
後述する〔実施例3〕で、上記試料保持面の表面をクリーニング処理を行わなかった場合のプロトン付加イオン[M+H]が599カウントであったのに対し、本実施例では、プロトン付加イオン[M+H]は1051カウントであり、1.5倍以上の強度であった。
【0217】
本実施例の結果から、試料保持面の表面をクリーニング処理することにより、クリーニング処理しなかった場合と比較して、イオン化性能が顕著に向上することが判る。
【0218】
〔実施例3〕
〔1.試料ターゲットの作製〕
試料保持面の表面をクリーニング処理しなかった以外は、〔実施例2〕と同様の方法により、実施例3の試料ターゲットを作製した。なお、実施例3の試料ターゲットの作製に用いた陽極酸化ポーラスアルミナは、実施例2と同様に細孔深さは500nm、および細孔径は100nm、細孔深さ/細孔径は5であった。
【0219】
また、実施例3の試料ターゲットにおいて、表面処理剤の被覆層の厚みは、5nmであった。
【0220】
〔2.試料ターゲットの評価〕
(2−1.試料ターゲットの濡れ性の評価)
〔実施例1〕と同様の方法を用いて、実施例3で得られた試料ターゲットの濡れ性を評価した。実施例3で得られた試料ターゲットの接触角は、130°であった。
【0221】
(2−2.試料ターゲットのイオン化性能の評価)
実施例3で得られた試料ターゲットを用いて、〔実施例2〕と同様にして、レーザー脱離イオン化法による質量分析を行い、イオン化性能の評価を行った。具体的には、得られた試料ターゲットに、1μMのペプチド(アンギオテンシン−I、分子量1295.7)50%メタノール溶液を1μL(1pmol相当)滴下し、乾燥後に、飛行時間型質量分析計Voyager DE−Pro(アプライドバイオシステムズ社製)を用いて、リニアモードでレーザー脱離イオン化法による質量分析を行った。
【0222】
図12に得られたマススペクトルを示す。観測されているのは、プロトン付加イオン[M+H]である。プロトン付加イオン[M+H]は599カウントであった。
【0223】
〔実施例4〕
<パターニング処理を施した基板の作製>
〔1.試料ターゲットの作製〕
〔実施例1〕と同様の方法により、陽極酸化ポーラスアルミナ基板を作製した。得られた陽極酸化ポーラスアルミナの細孔深さは500nm、および細孔径は100nm、細孔深さ/細孔径は5であった。
【0224】
得られた陽極酸化ポーラスアルミナ基板にPtを、〔実施例1〕と同様にして50nmコートすることにより、細孔周期200nmのPtで細孔の内面の一部を除く当該試料保持面の表面が被覆されているとともに、上記細孔の内面に、金属および/または半導体で被覆されていない部分が存在する試料保持面を得た。
【0225】
次いで、〔実施例2〕と同様の方法により、クリーニング処理として当該試料保持面を大気プラズマ処理装置において10mA、1分間プラズマ照射を行い、試料保持面に吸着した有機物の除去を行った。その後、〔実施例1〕と同様の方法で、0.1wt%に調整したオプツールDSX(登録商標、ダイキン工業株式会社製、接触角112°)に1分間浸漬し表面処理を行った。室温で1時間放置し乾燥したのち、フッ素系の溶媒(商品名:デムナムソルベント(登録商標)、ダイキン工業株式会社製)でリンスを行い実施例4の試料ターゲットを作製した。
【0226】
次いで、パターニング処理として、得られた試料保持面の表面に直径0.8mmの円形の穴があいたマスクをのせて、大気プラズマ処理装置において10mA、1分間プラズマ照射処理を施すことで、マスク開口部直下の表面処理剤の除去をおこない、表面処理剤で被覆された試料保持面に約2mmの親水パターニングを施した実施例4の試料ターゲットを得た。
【0227】
実施例4の試料ターゲットにおいて、表面処理剤の被覆層の厚みは、5nmであった。
【0228】
〔2.試料ターゲットの評価〕
(2−1.試料ターゲットの濡れ性の評価)
〔実施例1〕と同様の方法を用いて、実施例4で得られた試料ターゲットの濡れ性を評価した。実施例4で得られた試料ターゲットの接触角は、130°であった。
【0229】
(2−2.試料ターゲットのイオン化性能の評価)
実施例4で得られた試料ターゲットを用いて、〔実施例2〕と同様にして、レーザー脱離イオン化法による質量分析を行い、イオン化性能の評価を行った。
【0230】
図13に、窒素レーザー(波長337mnm、パルス幅10nsec、繰り返し周波数10ヘルツ)をレーザー強度35mJ/cmにて照射して得られたマススペクトルを示す。観測されているのは、プロトン付加イオン[M+H]である。
【0231】
上述した〔実施例2〕で、上記試料保持面の表面のクリーニング処理は行ったが、パターニング処理は行わなかった場合のプロトン付加イオン[M+H]が1051カウントであったのに対し、本実施例では、プロトン付加イオン[M+H]は23000カウントであり、20倍以上の強度であった。
〔実施例5〕
<高分子量の物質の測定>
〔1.試料ターゲットの作製〕
純度99.99%のアルミニウム板を、過塩素酸、エタノール混合溶液中(体積比 1:4)で電解研磨処理を施した。鏡面化を行ったアルミニウム板の表面に、500nmの周期で突起が規則的に配列した構造を有するSiC製モールドを押し付け、表面に微細な凹凸パターンの窪みを形成した。かかるテクスチャリング処理を施したアルミニウム板を、0.1Mリン酸水溶液中で、浴温0℃において直流200Vの条件下で4分間陽極酸化を行い、細孔深さ500nmの陽極酸化ポーラスアルミナを形成した。
【0232】
その後、得られた陽極酸化ポーラスアルミナを10重量%リン酸水溶液に10分間浸漬し、孔径拡大処理を施し細孔径を100nmに調節した。得られた陽極酸化ポーラスアルミナを試料保持面として用いた。上記試料保持面の表面から厚さ方向に伸びている細孔の方向(すなわち、細孔の中心線)と蒸着の方向とがなす角を80°として、イオンビームスパッタ装置を用いて、試料保持面を回転させながら、Ptを50nmコートすることにより、Ptで細孔の内面の一部を除く当該試料保持面の表面が被覆されているとともに、上記細孔の内面に、金属および/または半導体で被覆されていない部分が存在する試料保持面を得た。
【0233】
次いで、得られた試料保持面をリン酸クロム酸混合溶液中でエッチングすることにより、細孔底部を溶解した。
【0234】
その後、〔実施例1〕と同様の方法で、0.1wt%に調整したオプツールDSX(登録商標、ダイキン工業株式会社製、接触角112°)に1分間浸漬し表面処理を行った。室温で1時間放置し乾燥したのち、フッ素系の溶媒(商品名:デムナムソルベント(登録商標)、ダイキン工業株式会社製)でリンスを行い実施例5の試料ターゲットを作製した。
【0235】
実施例5の試料ターゲットにおいて、表面処理剤の被覆層の厚みは、5nmであった。
【0236】
〔2.試料ターゲットの評価〕
(2−1.試料ターゲットの濡れ性の評価)
〔実施例1〕と同様の方法を用いて、実施例5で得られた試料ターゲットの濡れ性を評価した。実施例5で得られた試料ターゲットの接触角は、130°であった。
【0237】
〔2.試料ターゲットの評価〕
(2−2.試料ターゲットのイオン化性能の評価)
次に、得られた試料ターゲットを用いてレーザー脱離イオン化法による質量分析を行った。分子量24000のトリプシノーゲンを5μMになるように50%メタノールに溶解した。得られたトリプシノーゲンのメタノール溶液0.2μLを、試料ターゲットに、担持させ、飛行時間型質量分析計Voyager DE−Pro(アプライドバイオシステムズ社製)を用いて、窒素レーザー337nmにより、リニアモードでレーザー脱離イオン化法による質量分析を行った。
【0238】
図14に、得られたマススペクトルを示す。図14に示されるようにm/z24000のイオンを検出することができた。
〔実施例6〕
〔1.試料ターゲットの作製〕
上記試料保持面の表面から厚さ方向に伸びている細孔の中心線の方向と蒸着の方向とがなす角を0°とした以外は実施例5と同様にして試料ターゲットを作製した。
【0239】
実施例6の試料ターゲットにおいて、表面処理剤の被覆層の厚みは、5nmであった。
【0240】
〔2.試料ターゲットの評価〕
(2−1.試料ターゲットの濡れ性の評価)
〔実施例1〕と同様の方法を用いて、実施例6で得られた試料ターゲットの濡れ性を評価した。実施例6で得られた試料ターゲットの接触角は、130°であった。
【0241】
〔2.試料ターゲットの評価〕
次に、得られた試料ターゲットを用いて、実施例5と同様にして、レーザー脱離イオン化法による質量分析を行った。
【0242】
図15に、得られたマススペクトルを示す。図15に示されるようにm/z24000のイオンを検出することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0243】
本発明の試料ターゲットによれば、レーザー脱離イオン化質量分析法において、マトリックスを用いない場合にも、amolオーダーの量の試料を分析可能な優れたイオン化の性能、高分子量の物質のイオン化を実現することが可能である。
【0244】
レーザー脱離イオン化質量分析法は、生体高分子や内分泌撹乱物質、合成高分子、金属錯体などの質量分析法として、現在幅広い分野で活用されている。本発明の試料ターゲットは、このレーザー脱離イオン化質量分析をより正確かつ安定して実施するために有効な材料であるため、本発明の利用可能性は高いと言える。
【符号の説明】
【0245】
1 金属および/または半導体
2 端点
3 頂点
4 表面処理剤
101 ポーラスアルミナの層
102 アルミニウム(またはその合金)の層
103 バリアー層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光の照射により試料をイオン化して質量分析するときに、試料を保持するために用いられ、レーザー光の照射を受ける表面に開口する複数の細孔が繰り返し形成されている試料保持面を備えている試料ターゲットであって、
上記試料保持面の表面が金属および/または半導体で被覆され、
当該金属および/または半導体で被覆された試料保持面の表面がさらに表面処理剤で被覆されており、
隣接する各細孔の間隔が1nm以上30μm未満であり、
金属および/または半導体で被覆される前において、当該細孔の細孔径が8nm以上5μm未満であり、
当該表面処理剤で被覆された試料保持面における液滴の接触角は60°以上180°未満の範囲にあることを特徴とする試料ターゲット。
【請求項2】
上記表面処理剤は、当該表面処理剤で被覆された平滑基板表面における液滴の接触角が、60°以上180°未満の範囲にある表面処理剤であることを特徴とする請求項1に記載の試料ターゲット。
【請求項3】
上記表面処理剤は、シラン化合物またはフッ素化合物を含むことを特徴とする請求項2に記載の試料ターゲット。
【請求項4】
上記フッ素化合物は、パーフルオロポリエーテル基を含むことを特徴とする請求項3に記載の試料ターゲット。
【請求項5】
上記細孔の内面の一部を除く当該試料保持面の表面が、金属および/または半導体で被覆されているとともに、
上記細孔の内面に、金属および/または半導体で被覆されていない部分が存在することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の試料ターゲット。
【請求項6】
上記細孔の内面の、金属および/または半導体で被覆されている部分は、当該細孔の側壁の上端部を含む側壁の上部であり、側壁の上端部と、被覆されている部分の下端との間の距離は、平均で細孔径×0以上、細孔径×1.73以下であることを特徴とする請求項5に記載の試料ターゲット。
【請求項7】
上記複数の細孔は規則的に繰り返し形成されていることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の試料ターゲット。
【請求項8】
上記細孔の内面の、金属および/または半導体で被覆されていない部分は、エッチング処理されて、当該部分の細孔径が拡大されていることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の試料ターゲット。
【請求項9】
上記表面処理剤で被覆された試料保持面の表面処理剤がパターニング処理によって一部除去されていることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の試料ターゲット。
【請求項10】
上記パターニング処理によって、0.1〜5mmの範囲内で表面処理剤が除去されていることを特徴とする請求項9に記載の試料ターゲット。
【請求項11】
上記試料保持面はポーラスアルミナであることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の試料ターゲット。
【請求項12】
上記試料保持面は、微細な細孔が繰り返し形成された凹凸構造を有する第一構造物を鋳型に用いて当該第一構造物の凹凸構造を転写したネガ型の第二構造物を作製し、当該ネガ型の第二構造物を鋳型に用いて上記凹凸構造を転写した、上記第一構造物の凹凸構造と同一の形状の凹凸構造を表面に有する試料保持面であることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の試料ターゲット。
【請求項13】
上記第一構造物はポーラスアルミナからなることを特徴とする請求項12に記載の試料ターゲット。
【請求項14】
上記試料保持面は、樹脂またはセラミックスを含むことを特徴とする請求項12または13に記載の試料ターゲット。
【請求項15】
上記金属が、白金(Pt)または金(Au)であることを特徴とする請求項1から14のいずれか1項に記載の試料ターゲット。
【請求項16】
上記半導体が、Si、Ge、SiC、GaP、GaAs、InP、Si1−XGe(0<X<1)、SnO、ZnO、In、または、これらの2種類以上の混合物、或いはカーボンであることを特徴とする請求項1から15のいずれか1項に記載の試料ターゲット。
【請求項17】
請求項1に記載の試料ターゲットの製造方法であって、
試料保持面の表面を金属および/または半導体で被覆する被覆工程と、
当該被覆工程で被覆された試料保持面の表面をさらに表面処理剤で被覆する表面処理工程とを含むことを特徴とする試料ターゲットの製造方法。
【請求項18】
上記表面処理工程で用いられる、上記表面処理剤は、当該表面処理剤で被覆された平滑基板表面における液滴の接触角が、60°以上180°未満の範囲にある表面処理剤であることを特徴とする請求項17に記載の試料ターゲットの製造方法。
【請求項19】
上記表面処理剤は、シラン化合物またはフッ素化合物を含むことを特徴とする請求項18に記載の試料ターゲットの製造方法。
【請求項20】
上記フッ素化合物は、パーフルオロポリエーテル基を含むことを特徴とする請求項19に記載の試料ターゲットの製造方法。
【請求項21】
上記表面処理工程は、ディップコーティング法、スピンコーティング法、蒸着法、または化学気相成長法(CVD)を用いることを特徴とする請求項17から20のいずれか1項に記載の試料ターゲットの製造方法。
【請求項22】
上記被覆工程は、上記試料保持面の表面を、上記細孔の内面に金属および/または半導体で被覆されていない部分が存在するように、金属および/または半導体で被覆する工程であることを特徴とする請求項17から21のいずれか1項に記載の試料ターゲットの製造方法。
【請求項23】
上記被覆工程は、物理蒸着を用いるとともに、上記試料保持面の表面から厚さ方向に伸びている細孔の中心線の方向から斜めに傾けた角度から、上記金属および/または半導体を蒸着することを特徴とする請求項17から22のいずれか1項に記載の試料ターゲットの製造方法。
【請求項24】
上記物理蒸着は、スパッタリング、熱蒸着、電子ビーム蒸着、または、真空蒸着であることを特徴とする請求項23に記載の試料ターゲットの製造方法。
【請求項25】
上記被覆工程の後に、さらに、上記細孔の内面の、金属および/または半導体で被覆されていない部分をエッチング処理して、当該部分の細孔径を拡大するエッチング処理工程を含むことを特徴とする請求項17から24のいずれか1項に記載の試料ターゲットの製造方法。
【請求項26】
上記被覆工程の後、且つ上記表面処理工程の前に、上記金属および/または半導体で被覆された試料保持面の有機物を除去するクリーニング処理工程を含むことを特徴とする請求項17から25のいずれか1項に記載の試料ターゲットの製造方法。
【請求項27】
上記クリーニング処理工程は、プラズマ処理、エキシマランプ処理、またはUVオゾン処理を行うことを特徴とする請求項26に記載の試料ターゲットの製造方法。
【請求項28】
上記表面処理工程の後に、さらに、0.1〜5mmの範囲内で上記試料保持面に被覆された表面処理剤を除去するパターニング処理工程を行うことを特徴とする請求項17から27のいずれか1項に記載の試料ターゲットの製造方法。
【請求項29】
上記パターニング処理は、プラズマ処理、エキシマランプ処理、またはUVオゾン処理を行うことを特徴とする請求項28に記載の試料ターゲットの製造方法。
【請求項30】
ポーラスアルミナを試料保持面として用いることを特徴とする請求項17から29のいずれか1項に記載の試料ターゲットの製造方法。
【請求項31】
上記試料保持面の表面を金属および/または半導体で被覆する工程の前に、
微細な凹部が繰り返し形成された凹凸構造を有する第一構造物を鋳型に用いて該第一構造物の凹凸構造を転写したネガ型の第二構造物を作製する工程と、
該工程で得られたネガ型の第二構造物を鋳型に用いて上記凹凸構造を転写して、上記第一構造物の凹凸構造と同一の形状の凹凸構造を表面に有する試料保持面を得る工程とを含むことを特徴とする請求項17から29のいずれか1項に記載の試料ターゲットの製造方法。
【請求項32】
上記第一構造物はポーラスアルミナであることを特徴とする請求項31に記載の試料ターゲットの製造方法。
【請求項33】
請求項1から16に記載の試料ターゲットを用いることを特徴とする質量分析装置。
【請求項34】
測定対象となる試料にレーザー光を照射することによって、当該試料をイオン化してその分子量を測定するレーザー脱離イオン化質量分析装置であることを特徴とする請求項33に記載の質量分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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