説明

赤外分析装置用試料セル及び赤外分析装置

【課題】試料の供給等を自動化して分析作業の効率を高めるとともに、テトラクロロシランのような取り扱いが困難な試料でも正確に分析する。
【解決手段】試料が溜められる容器2と、この容器2を収納するハウジング21と、容器2に接続され試料の供給及び排出を行う供給管3及び排出管4とを備え、容器2は、筒状胴体5の両端開口を閉塞する端板6に、赤外線を透過可能な窓板部材12が設けられており、ハウジング21は、容器2の筒状胴体5を横向きに配置しているとともに、供給管3及び排出管4が壁を貫通して設けられ、その壁の少なくとも一部が、容器3の窓板部材12に対向する赤外線透過板36とされ、これら容器2の窓板部材12及びハウジング21の赤外線透過板36が筒状胴体5の軸方向に並んで配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は赤外分析装置用試料セル及び赤外分析装置に係り、特に、赤外線の光軸上に試料を自動的に配置することができる赤外分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
赤外分析装置は、物質に赤外線を照射すると特定波長の光が選択的に吸収されることを利用して、その物質の分析を行うことができるようにしたものである。このような赤外分析装置は、液体試料の分析装置として、従来では例えば特許文献1及び特許文献2に記載されたものがある。
特許文献1記載の装置は、透明な2枚の基板により形成した試料セルの中に液体試料を注射器で注入し、両基板で試料を挟むようにしたものを赤外線の光軸上に配置して分析するようになっており、特許文献2記載の装置は、受け皿上に液体試料を垂らして、その上から窓部材を被せることにより試料セルとした後、赤外線を照射して分析する構成とされている。
【特許文献1】特開平8−15133号公報
【特許文献2】特開平9−304271号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、これらの装置では、試料セル内に試料を注射器で注入したり、試料を垂らしたりする作業が手作業であり、新たな試料の分析を行う都度、このような手作業が必要になり、分析作業に時間がかかるという問題がある。また、このような赤外分析装置を用いて、多結晶シリコン製造用の原料であるトリクロロシラン、ジクロロシラン、テトラクロロシラン等のクロロシラン類を分析しようとする場合、粘性が高いため、試料セルの狭い隙間に注入することが難しいとともに、空気中に触れると加水分解が生じるおそれがあるため、取り扱いが困難であり、また被測定物が別の材料に変化するため適切な分析ができないという問題がある。
【0004】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、試料の供給等を自動化して分析作業の効率を高めるとともに、クロロシラン類のような空気との接触を嫌うため取り扱いが困難な試料でも正確に分析することができる赤外分析装置用試料セル及び赤外分析装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の赤外分析装置用試料セルは、試料が溜められる容器と、この容器を収納するハウジングと、前記容器に接続され試料の供給及び排出を行う供給管及び排出管とを備え、前記容器は、筒状胴体の両端開口を閉塞する端板に、赤外線を透過可能な窓板部材が設けられており、前記ハウジングは、前記容器の筒状胴体を横向きに配置しているとともに、前記供給管及び排出管が壁を貫通して設けられ、その壁の少なくとも一部が、容器の前記窓板部材に対向する赤外線透過板とされ、これら容器の窓板部材及びハウジングの赤外線透過板が前記筒状胴体の軸方向に並んで配置されていることを特徴とする。
【0006】
この赤外分析装置用試料セルにおいては、容器に接続された供給管から試料を容器内に供給して、容器内に試料を溜めると、この容器は横向き姿勢で配置されていることから、両端の窓板部材に試料が接して、両窓板部材の間に試料が挟まれた状態となる。したがって、従来の2枚の基板の間に液体試料を挟むものと同様な構造となる。この場合、容器は筒状部材の両端を閉塞したものであり、内容積を大きくできるので、粘性の高い液体試料でも供給管から容易に注入することが可能である。
【0007】
そして、容器の窓板部材とハウジングの赤外線透過壁とが一直線上に並んで配置されているから、その一方から赤外線を照射し、他方から受光することにより、容器内の試料を赤外線が貫通することができ、確実に分析することができる。また、試料は容器とハウジングとにより二重に覆われるので、その大気への漏えいを確実に防止することができる。そして、分析作業が終了したら、容器から排出管を経由して試料を排出すればよく、試料の供給、分析、排出の一連の作業をほぼ自動化することが可能である。
【0008】
また、本発明の赤外分析装置用試料セルにおいて、前記供給管に、赤外線分析される試料を供給する試料用配管と、パージ用流体を供給するパージ用配管とが、これらのいずれかを選択的に連通可能とする切替手段を介して接続されていることを特徴とする。
【0009】
この赤外分析装置用試料セルにおいては、容器内に試料を溜めて分析した後、供給管への接続をパージ用配管に切り替えて、パージ用流体を容器内に供給することにより、容器内から試料を追い出すことができ、このパージ用流体によって容器内を清浄化することも可能である。また、試料を供給する際には、パージ用流体を押し出しながら供給することにより、空気等に触れさせることなく供給することができ、これらの操作を繰り返すことにより、連続的に分析作業を実施することができる。
【0010】
そして、本発明の赤外分析装置は、赤外線照射手段と受光手段との間に、本発明の試料セルを赤外線の光軸と前記筒状胴体の軸方向とが同一線上となるように取り付けたことを特徴としており。その試料セルによって極めて効率的かつ正確に分析作業を実施することができるものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の赤外分析装置用試料セル及び赤外分析装置によれば、試料を溜める容器が筒状部材によって内容積を大きくできるので、粘性の高い液体試料でも供給管から容易に注入することが可能であるとともに、供給管及び排出管により試料の供給、排出をほぼ自動化することができる。また、容器の窓板部材とハウジングの赤外線透過壁とが一直線上に並んで配置されているから、赤外線照射位置と受光位置との間で赤外線が貫通可能の状態に確実に試料を配置することができ、極めて取り扱い性に優れるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係る赤外分析装置用試料セル及び該試料セルを用いた赤外分析装置の一実施形態を図面を参照しながら説明する。
本実施形態の赤外分析装置は、図1及び図2に示す試料セルを有している。この試料セル1は、試料を溜めるための容器2内に試料を供給する供給管3、容器2内の試料を排出する排出管4が接続されている。容器2は、例えばステンレス鋼材からなる筒状胴体5の両端開口5aを端板6により閉塞した構成とされており、筒状胴体5には両端にフランジ部7が形成され、このフランジ部7に端板6が取り付けられている。この場合、フランジ部7の端板6の取付面側には、筒状胴体5の開口5aの周辺部を若干窪ませてなる環状凹部8が設けられており、この環状凹部8にOリング等のシール部材9が装着されている。
【0013】
端板6は、リング状の本体部11と、該本体部11内に装着された窓板部材12とから構成されている。本体部11は、中央部に筒状胴体5の開口5aと同じ大きさの孔13が設けられているとともに、筒状胴体5への取付面側における孔13の周辺部に、筒状胴体5の環状凹部8に対向するように環状凹部14が形成され、この環状凹部14内に窓板部材12が装着されている。この窓板部材12は、本体部材15とその外面を覆う薄肉のカバー部材16とからなり、いずれも赤外線を高い透過率により透過することができる材料、例えばフッ化カリウム(CaF)によって構成されており、筒状胴体5の中心軸X上に配置されていることにより、筒状胴体5の内部空間を介して対向状態とされている。
【0014】
そして、これら端板6は、その本体部11の環状凹部8内に窓板部材12が装着された状態で、複数のボルト17によって筒状胴体5のフランジ部7に固着されている。この固着状態において、端板6の本体部11とフランジ部7との間に窓板部材12が挟持されるようになっており、このとき窓板部材12に筒状胴体5のシール部材9が押圧され、その間のシールがなされるようになっている。
【0015】
そして、このように構成された容器2は、ハウジング21内に収納される。ハウジング21は、底板22の上に角筒形の枠部材23が立設され、この枠部材23の上に、例えば透明アクリル製の蓋部材24が取り付けられた構成とされている。この場合、底板22は枠部材23により囲まれる面積よりも大きい面積に形成され、枠部材23の外方に突出しており、その突出部分にボルト挿通のための孔等の取り付け部22aが設けられて、赤外分析装置の測定器本体(図示略)に取り付けられるようになっている。そして、底板22の上のブラケット25に容器2が横向き姿勢で固定されており、その固定状態において、容器2の筒状胴体5の軸方向の両方向前方位置に、枠部材23の対向する一対の側壁部26が配置されるようになっている。
【0016】
そして、この枠部材23の対向する一対の側壁部26に連通孔27が形成されており、この連通孔27の外側に、取付部材31を介して容器2の端板6と同様の構成の端板部材32が取り付けられている。取付部材31は、筒状胴体5のフランジ部7とほぼ同じ大きさのリング状に形成されて、側壁部26に一体に固定されており、フランジ部7と同様に環状凹溝33が形成され、この環状凹溝33にOリング等のシール部材34が装着されている。
【0017】
このハウジング21の端板部材32も、容器2の端板6とほぼ同じ構成であり、リング状の本体部35と、該本体部35内に装着された窓板状の赤外線透過板36とから構成され、本体部35の孔37の周辺部における環状凹部38内に赤外線透過板36が装着されている。この赤外線透過板36は、本体部材39とこれを覆う薄肉のカバー部材40とからなり、いずれも赤外線を高い透過率により透過することができる材料として、例えばフッ化カリウム(CaF)によって構成されている。そして、この端板部材32は、複数のボルト41によって取付部材31に固着され、シール部材34を押圧しながら赤外線透過板36を挟持している。
【0018】
そして、このハウジング21の両側壁部26における赤外線透過板36と、ハウジング21内の容器2の窓板部材12とは、図1に示すように、容器2の筒状胴体5の中心軸Xの延長上に配置されていることにより、これら四つの部材が一直線上に設けられている。
【0019】
一方、供給管3及び排出管4は、例えばステンレス鋼材からなり、容器2の筒状胴体5の180°対向する位置にそれぞれ接続され、ハウジング21の枠部材23を貫通して外部に引き出されている。そして、ハウジング21から引き出された部分に、流路を開閉する弁45がそれぞれ設けられている。
【0020】
さらに、供給管3には、試料を供給するための試料用配管46と、パージ用流体を供給するためのパージ用配管47とが、3方弁等の切換手段48を介して接続されており、この切換手段48の操作により試料用配管46とパージ用配管47とのいずれか一方側と連通状態とすることができるようになっている。
【0021】
このように構成した赤外分析装置は、その試料セル1を赤外線照射手段Rと受光手段Dとの間に配置し、その際に、照射される赤外線の光軸上に並ぶようにハウジング21の両側壁部26における赤外線透過板36を配置することにより、ハウジング21内の容器2の両窓板部材12も赤外線の光軸上に配置され、この状態で試料の分析が可能になる。
【0022】
次いで、試料としてクロロシラン類の分析をする場合について説明すると、まずパージ用配管47を容器2に連通状態として、パージ用流体として例えば窒素ガスを供給管3から容器2内に充填した後、弁45及び切換手段48を操作して、パージ用流体を排出管4から排出しながら試料用配管46から供給管3を経由して試料を容器2内に注入する。このようにすることにより、クロロシラン類を空気に触れさせることなく容器2内に充填することができる。また、容器2における筒状胴体5の内部の広い空間に試料が溜められ、しかも排出管4により内部の残存流体(パージ用流体)が排出されながら注入されることから、クロロシラン類のような高粘性の流体も確実に容器2内に注入することができる。
【0023】
そして、容器2内に試料が溜められた状態では、容器2の筒状胴体5が横向き姿勢で、その両端部に窓板部材12が配置されていることから、内部に充填された試料は両方の窓板部材12に接触することになる。したがって、この窓板部材12から照射されてくる赤外線は必ず試料内を通過することになり、確実に赤外分析をすることができる。
【0024】
そして、分析が終了したら、弁45及び切換手段48を操作して、容器2内の試料を排出管4から排出しながらパージ用流体を容器2内に供給して、容器2内を試料と交替させるようにパージ用流体で充満させる。次いで、また新たに試料の分析をする場合は、パージ用流体に代えて容器2内に試料を充填することにより、同様にして赤外線を照射し分析することが可能になる。
【0025】
このようにして、パージ用流体と試料とを交互に容器2内に注入することにより、繰り返し赤外分析することができ、しかも、弁45及び切換手段48のみの操作によって短時間で試料の供給、排出が可能になり、クロロシラン類のような取り扱い性が困難な試料に対しても、極めて取り扱い性が向上するものである。
【0026】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば、容器の筒状胴体を図示例では円筒状に形成したが、角筒状でもよい。ただし、内圧がかかる場合は円筒状の容器が好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る赤外分析装置の一実施形態を示す横断面図である。
【図2】図1のA−A線に沿う矢視図である。
【符号の説明】
【0028】
1 試料セル
2 容器
3 供給管
4 排出管
5 筒状胴体
6 端板
12 窓板部材
13 孔
21 ハウジング
22 底板
23 枠部材
24 蓋部材
26 側壁部
27 連通孔
32 端板部材
36 赤外線透過板
45 弁
46 試料用配管
47 パージ用配管
48 切換手段
R 赤外線照射手段
D 受光手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料が溜められる容器と、この容器を収納するハウジングと、前記容器に接続され試料の供給及び排出を行う供給管及び排出管とを備え、
前記容器は、筒状胴体の両端開口を閉塞する端板に、赤外線を透過可能な窓板部材が設けられており、
前記ハウジングは、前記容器の筒状胴体を横向きに配置しているとともに、前記供給管及び排出管が壁を貫通して設けられ、その壁の少なくとも一部が、容器の前記窓板部材に対向する赤外線透過板とされ、
これら容器の窓板部材及びハウジングの赤外線透過板が前記筒状胴体の軸方向に並んで配置されていることを特徴とする赤外分析装置用試料セル。
【請求項2】
前記供給管に、赤外線分析される試料を供給する試料用配管と、パージ用流体を供給するパージ用配管とが、これらのいずれかを選択的に連通可能とする切換手段を介して接続されていることを特徴とする請求項1に記載の赤外分析装置用試料セル。
【請求項3】
赤外線照射手段と受光手段との間に、請求項1又は2記載の試料セルを赤外線の光軸と前記筒状胴体の軸方向とが同一線上となるように取り付けたことを特徴とする赤外分析装置。

【図1】
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【図2】
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