説明

赤外反射フィルムおよびそれを用いた赤外反射体

【課題】長期間太陽光に曝されてもフィルム強度劣化、赤外反射率の低下や色調変化の少ない赤外反射フィルム、赤外反射体を提供すること。
【解決手段】低屈折率層、高屈折率層を交互積層してなり、該交互積層の少なくともいずれか一層にチタン系酸化物を有する赤外線反射層が基材のいずれか一方面に形成された赤外線反射フィルムにおいて、該赤外反射フィルムが有機酸を還元剤として含有する還元層を有することを特徴とする赤外反射フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材上に屈折率が異なる層を交互に積層した赤外反射層と、さらに有機酸を還元剤として含有する還元層を有する赤外反射フィルムであり、またその赤外反射フィルムを適応した赤外反射体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、建物の窓ガラス面に貼合するウインドウフィルムが多く利用されている。その中の一つには赤外線の侵入を抑え、建物室内温度が過剰に上昇するのを防ぐ機能を有するフィルムがあり、冷房の使用を低減し省エネルギー化を達成している。
【0003】
赤外線を反射するフィルムとして、蒸着法、スパッタ法などのドライ成膜法(特許文献1)、塗布液を基材上にコーティングし積層する塗布法(特許文献1、2)により屈折率の異なる層を交互積層する方法が開示されている。
【0004】
これら赤外反射層の高屈折率化を実現するために、チタン系酸化物、亜鉛系酸化物等を高屈折率層に含有する構成が有効な手段であり、特許文献1には酸化チタン、酸化亜鉛の微粒子を分散液化し、基材にコーティングすることで高屈折率層を形成する手法が記載されている。
【0005】
一方でチタン系酸化物はUVによる光触媒機能があるため、長期間太陽光に暴露されることでプラスチック基材を分解する懸念がある。そのために構成するいずれかの層にUV吸収剤を含有させ光触媒作用を抑えることが一般的である。
【0006】
しかしながら、ウインドウフィルムはいったん施工されると数年間は使用されるのが前提で、長期使用されることでUV吸収剤の能力低下等によりチタン系酸化物の光触媒作用を抑えきることが出来ない。そのためプラスチック基材の変性等により着色したり、可撓性が失われフィルムの強度が失われ脆くなってしまう。また、チタン系酸化物含有層のバインダも分解、変性され、隣接する低屈折率層との界面が乱れることで赤外反射率が低下していき、室内温度を抑える働きが低下していく問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−110401号公報
【特許文献2】特開2007−331296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、長期間太陽光に曝されてもフィルム強度劣化、赤外反射率の低下や色調変化の少ない赤外反射フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、以下の構成により達成される。
【0010】
1.低屈折率層、高屈折率層を交互積層してなり、該交互積層の少なくともいずれか一層にチタン系酸化物を有する赤外線反射層が基材のいずれか一方面に形成された赤外線反射フィルムにおいて、該赤外反射フィルムが有機酸を還元剤として含有する還元層を有することを特徴とする赤外反射フィルム。
【0011】
2.前記還元層が、基材と平行方向に形成されていることを特徴とする前記1に記載の赤外反射フィルム。
【0012】
3.前記還元層が、基材と交互積層の間に形成されていることを特徴とする前記1または2に記載の赤外反射フィルム。
【0013】
4.前記1〜3のいずれか一項に記載の赤外反射フィルムが基体の少なくとも一方の面に設けられたことを特徴とする赤外反射体。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、長期間太陽光に曝されてもフィルム強度劣化、赤外反射率の低下や色調変化の少ない赤外反射フィルムを提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例に用いた赤外反射フィルムの層構成の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
チタン系酸化物は自身の触媒能力により近傍の酸素分子を活性酸素にし、その活性酸素が周囲の有機化合物を分解していくというメカニズムことが知られている。本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、本発明の有機酸を還元剤として含有する還元層を有することでチタン系酸化物近傍の酸素をトラップする働きが生まれ、チタン系酸化物の触媒活性能力を有効にさせない働きを持つこと、及び本発明の様に、チタン系酸化物を含有する赤外反射層とは異なる層として有機酸を還元剤として含有する還元層を有するフィルム構成にすることで、高屈折率層のチタン系酸化物濃度を上げられ、層の高屈折率化ができることを見出し、本発明に至った次第である。
【0017】
《赤外反射フィルム》
本発明の赤外反射フィルムは低屈折率層、高屈折率層を交互積層してなり、該交互積層の少なくともいずれか一層にチタン系酸化物を有する赤外線反射層が基材のいずれか一方面に形成されており、該赤外反射フィルムが有機酸を還元剤として含有する還元層を有すること特徴とする。
【0018】
本発明の赤外反射フィルムの基本光学特性としては、JIS R3106−1998で示される可視光領域の透過率としては50%以上で、かつ、波長900nm〜1400nmの領域に反射率50%を超える領域を有し、かつ波長900nm〜1400nmの領域の透過率が30%以下である。波長900nm〜1400nmの領域の透過率は10%以下であることが好ましい。
【0019】
《基材》
本発明の基材としては、透明の有機材料で形成されたものが好ましい。
【0020】
例えば、メタクリル酸エステル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、ポリアリレート、ポリスチレン(PS)、芳香族ポリアミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリエーテルイミド等の各樹脂フィルム、更には前記樹脂を2層以上積層して成る樹脂フィルム等を挙げることができる。コストや入手の容易性の点では、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)などが好ましく用いられる。
【0021】
基材の厚さは5〜200μm程度が好ましく、更に好ましくは15〜150μmである。
【0022】
また本発明に係る基材はJIS R3106−1998で示される可視光領域の透過率としては85%以上で、特に90%以上であることが好ましい。基材が上記透過率以上でことにより、赤外遮断フィルムとしたときのJIS R3106−1998で示される可視光領域の透過率が50%以上にすることに有利であり、好ましい。
【0023】
また、上記に挙げた樹脂等を用いた基材は、未延伸フィルムでもよく、延伸フィルムでもよい。強度向上、熱膨張抑制の点から延伸フィルムが好ましい。
【0024】
本発明に用いられる基材は、従来公知の一般的な方法により製造することが可能である。例えば、材料となる樹脂を押し出し機により溶融し、環状ダイやTダイにより押し出して急冷することにより、実質的に無定形で配向していない未延伸の基材を製造することができる。また、未延伸の基材を一軸延伸、テンター式逐次二軸延伸、テンター式同時二軸延伸、チューブラー式同時二軸延伸などの公知の方法により、基材の流れ(縦軸)方向、又は基材の流れ方向と直角(横軸)方向に延伸することにより延伸基材を製造することができる。この場合の延伸倍率は、基材の原料となる樹脂に合わせて適宜選択することできるが、縦軸方向及び横軸方向にそれぞれ2〜10倍が好ましい。
【0025】
また本発明に用いられる基材は、寸法安定性の点で弛緩処理、オフライン熱処理を行ってもよい。弛緩処理は前記ポリエステルフィルムの延伸製膜工程中の熱固定した後、横延伸のテンター内、またはテンターを出た後の巻き取りまでの工程で行われるのが好ましい。弛緩処理は処理温度が80〜200℃で行われることが好ましく、より好ましくは処理温度が100〜180℃である。また長手方向、幅手方向ともに、弛緩率が0.1〜10%の範囲で行われることが好ましく、より好ましくは弛緩率が2〜6%で処理されることである。弛緩処理された基材は、下記のオフライン熱処理を施すことにより耐熱性が向上し、更に寸法安定性が良好になる。
【0026】
本発明の基材は、製膜過程で片面または両面にインラインで下引層塗布液を塗布することが好ましい。本発明において、製膜工程中での下引塗布をインライン下引という。本発明に有用な下引層塗布液に使用する樹脂としては、ポリエステル樹脂、アクリル変性ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリエチレンイミンビニリデン樹脂、ポリエチレンイミン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、変性ポリビニルアルコール樹脂及びゼラチン等を挙げることが出来、何れも好ましく用いることが出来る。これらの下引層には、従来公知の添加剤を加えることもできる。そして、上記の下引層は、ロールコート、グラビアコート、ナイフコート、ディップコート、スプレーコート等の公知の方法によりコーティングすることができる。上記の下引層の塗布量としては、0.01〜2g/m(乾燥状態)程度が好ましい。
【0027】
《低屈折率層と高屈折層》
本発明において、赤外反射層とは低屈折率層、高屈折率層を交互積層してなり、該交互積層の少なくともいずれか一層にチタン系酸化物を有する。低屈折率層、高屈折率層はそれぞれ低屈折率材料を有する層と、高屈折率材料を有する層をいう。
【0028】
赤外反射フィルムとしては、高屈折率層と低屈折率層の屈折率の差は大きいほど、少ない層数で赤外反射率を高くすることができる観点で好ましいが、本発明では、高屈折率層と低屈折率層から構成されるユニットの少なくとも2つ以上有し、隣接する該高屈折率層と低屈折率層との屈折率差が0.1以上である。好ましくは0.3以上であり、更に好ましくは0.4以上である。上限は材料入手の容易さ等から1.40程度である。
【0029】
低屈折層と高屈折層を1層ずつ積層した2層を1ユニットとしたユニット数としては、高屈折率層と低屈折率層との屈折率差によるが、好ましくは40ユニット以下、より好ましくは20ユニット以下であり、さらに好ましくは10ユニット)以下である。
【0030】
低屈折率層と高屈折層との間に、中間の屈折率を持つ層を設けることもできるが、屈折率の差の取りやすさやコスト面から、赤外反射層は低屈折率層と高屈折層を積層させることが好ましい。
【0031】
ちなみに本発明において、高屈折率層、低屈折率層の屈折率は、下記の方法に従って求めることができる。
【0032】
基材上に屈折率を測定する各屈折率層を単層で塗設したサンプルを作製し、このサンプルを10cm×10cmに断裁した後、下記の方法に従って屈折率を求める。分光光度計として、U−4000型(日立製作所社製)を用いて、各サンプルの測定側の裏面を粗面化処理した後、黒色のスプレーで光吸収処理を行って裏面での光の反射を防止して、5度正反射の条件にて可視光領域(400nm〜700nm)の反射率を25点測定して平均値を求め、その測定結果より平均屈折率を求める。
【0033】
本発明における高屈折率層の好ましい屈折率としては1.70〜2.50であり、より好ましくは1.80〜2.20である。また、低屈折率層の好ましい屈折率としては1.10〜1.60であり、より好ましくは1.30〜1.50である。
【0034】
本発明における高屈折率層及び低屈折率層は、いずれも水溶性樹脂と高屈折率材料または低屈折率材料として金属酸化物粒子とを含有することが好ましい態様である。本発明においては高屈折率層および低屈折率層の少なくともいずれか一層に金属酸化物として後述するチタン系酸化物を含有する。好ましくは高屈折率層にチタン系酸化物を含有する態様である。
【0035】
チタン系酸化物以外の金属酸化物としては、例えば、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、合成非晶質シリカ、コロイダルシリカ、アルミナ、コロイダルアルミナ、チタン酸鉛、鉛丹、黄鉛、亜鉛黄、酸化クロム、酸化第二鉄、鉄黒、酸化銅、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化イットリウム、酸化ニオブ、酸化ユーロピウム、酸化ランタン、ジルコン、酸化スズを挙げることができ、低屈折率層、高屈折率層いずれもこれら金属酸化物を混合していても構わない。
【0036】
後述する酸化チタンも含めた金属酸化物の含有量は、金属酸化物含まれる層の固形分の総量に対して、20質量%以上、95質量%以下が好ましく、30質量%以上60質量%以下がより好ましい。金属酸化物の含有量を20質量%以上とすることにより、高屈折率層はより高屈折率に、低屈折率層はより低屈折率にすることが出来、金属酸化物の含有量を95質量%以下とすることにより、膜の柔軟性が得られ、赤外遮断フィルムを形成することが容易となる。
【0037】
本発明に係る高屈折率層で用いる金属酸化物としては、後述するチタン系酸化物、ZnO、ZrOが好ましく、高屈折率層を形成するための後述の金属酸化物粒子含有組成物の安定性の観点ではチタン系酸化物がより好ましい。
【0038】
本発明に係る低屈折率層においては、金属酸化物粒子としては、二酸化ケイ素粒子を用いることが好ましく、酸性のコロイダルシリカゾルを用いることが特に好ましい。
【0039】
本発明に係る二酸化ケイ素粒子は、その平均粒径が100nm以下であることが好ましい。一次粒子の状態で分散された二酸化ケイ素の一次粒子の平均粒径(塗設前の分散液状態での粒径)は、20nm以下のものが好ましく、より好ましくは10nm以下である。また二次粒子の平均粒径としては、30nm以下であることが、ヘイズが少なく可視光透過性に優れる観点で好ましい。
【0040】
本発明の赤外反射層においては、基材に隣接する層が、シリカを含む低屈折率層で、基材に隣接する層とは反対側の最表層もシリカを含む低屈折率層である層構成が好ましい。
【0041】
《チタン系酸化物》
本発明では交互層のいずれか一層にチタン系酸化物を有する必要がある。チタン系酸化物は紫外線で照射すると励起され、近傍の酸素分子を活性酸素にするといった光触媒作用がある。チタン系酸化物として具体的には、アナターゼ型酸化チタン、ルチル型酸化チタン、ブルッカイト型酸化チタン、チタン酸ストロンチウムおよびこれらチタン系酸化物に、錫、バリウム、バナジウム、マンガン、コバルト、ニッケル、ガリウム、アルミニウム、ゲルマニウム、アンチモン、インジウム、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、ニオブ、ジルコニウム、マグネシウム、イットリウム、ランタン、ユーロピウム、亜鉛、鉛、クロム、鉄、銅、銀、金、白金、タングステン、セリウム等の異種金属原子をドーピングした化合物が挙げられる。ドーピング量としては0.001質量%〜30質量%が好ましい。
【0042】
本発明の効果として好ましいチタン系酸化物は、屈折率が高く、かつ光触媒能力が低いルチル型酸化チタンである。
【0043】
また本発明で好ましいチタン系酸化物の態様としては、微粒子のチタン系酸化物が水または有機溶媒に分散された、チタン系酸化物ゾルであることが好ましい。チタン系酸化物ゾルであることで、他の樹脂等と混合し塗布液にすることが容易である等、赤外反射層を製造する観点で好ましい。
【0044】
本発明で用いることのできるチタン系酸化物の調製方法としては、例えば、特開昭63−17221号公報、特開平7−819号公報、特開平9−165218号公報、特開平11−43327号公報等参照にすることができる。
【0045】
また、その他のチタン系酸化物の調製方法としては、例えば、特開昭63−17221号公報、特開平7−819号公報、特開平9−165218号公報、特開平11−43327号公報等参照にすることができる。
【0046】
チタン系酸化物微粒子の体積平均粒径として好ましい一次粒子径は、4nm〜50nmであり、より好ましくは4nm〜30nmである。
【0047】
本発明に係るチタン系酸化物粒子の体積平均粒径とは、粒子そのものをレーザー回折散乱法、動的光散乱法、あるいは電子顕微鏡を用いて観察する方法や、屈折率層の断面や表面に現れた粒子像を電子顕微鏡で観察する方法により、1,000個の任意の粒子の粒径を測定し、それぞれd、d・・・d・・・dの粒径を持つ粒子がそれぞれn、n・・・n・・・n個存在するチタン系酸化物粒子の集団において、粒子1個当りの体積をvとした場合に、体積平均粒径m={Σ(v・d)}/{Σ(v)}で表される体積で重み付けされた平均粒径である。
【0048】
本発明において、チタン系酸化物が含まれる層が低屈折率層、高屈折率層いずれでも、または両方でも構わないが、好ましくは高屈折率層側にチタン系酸化物を含有する態様が好ましい。チタン系酸化物と上述の金属酸化物が混合されていても構わなく、または複数種のチタン系酸化物を混合しても構わない。いずれかの層に含有する金属酸化物の内、好ましいチタン系酸化物の含有量としては30質量%〜100質量%であり、好ましくは70〜100質量%である。チタン系酸化物が高い含有量になるほど、層の屈折率を高められる観点で好ましい。
【0049】
《水溶性樹脂》
本発明における赤外反射フィルムを構成する赤外反射層には水溶性樹脂を含有することが好ましい。
【0050】
これらの水溶性樹脂としてはゼラチン、合成樹脂、無機ポリマー、増粘多糖類等が挙げられ、本発明においてはゼラチンが特に好ましい。これら水溶性樹脂の1種類または複数種類の混合でもよい。
【0051】
本発明に係る水溶性樹脂とは、水媒体に対し5質量%以上溶解する高分子化合物であり、好ましくは10質量%以上である。
【0052】
本発明に係る高屈折層形成用塗布液及び低屈折率層形成用塗布液における水溶性高分子の濃度としては、0.5〜60質量%であることが好ましく、5〜40質量%の範囲であることがより好ましい。
【0053】
以下、各水溶性樹脂の詳細について説明する。
【0054】
《ゼラチン》
本発明に係る水溶性樹脂は、ゼラチンが特に好ましい。
【0055】
本発明に係るゼラチンとしては、酸処理ゼラチン、アルカリ処理ゼラチンの他に、ゼラチンの製造過程で酵素処理をする酵素処理ゼラチン及びゼラチン誘導体、すなわち分子中に官能基としてのアミノ基、イミノ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基を持ち、それと反応して得る基を持った試薬で処理し改質したものでもよい。ゼラチンの一般的製造法に関しては良く知られており、例えばT.H.James:The Theory of Photographic Process 4th. ed. 1977(Macmillan)55項、科学写真便覧(上)72〜75項(丸善)、写真工学の基礎−銀塩写真編119〜124(コロナ社)等の記載を参考にすることができる。
【0056】
《合成樹脂》
本発明に適用可能な水溶性樹脂としては、いわゆる合成樹脂、例えば、ポリビニルアルコール類、ポリビニルピロリドン類、アルキレンオキサイド類、ポリアクリル酸、アクリル酸−アクリルニトリル共重合体、アクリル酸カリウム−アクリルニトリル共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体、若しくはアクリル酸−アクリル酸エステル共重合体などのアクリル系樹脂、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸共重合体、若しくはスチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体などのスチレンアクリル酸樹脂、スチレン−スチレンスルホン酸ナトリウム共重合体、スチレン−2−ヒドロキシエチルアクリレート共重合体、スチレン−2−ヒドロキシエチルアクリレート−スチレンスルホン酸カリウム共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体、酢酸ビニル−マレイン酸エステル共重合体、酢酸ビニル−クロトン酸共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸共重合体などの酢酸ビニル系共重合体及びそれらの塩が挙げられる。これらの中で、特に好ましい例としては、ポリビニルアルコール類及びそれを含有する共重合体が挙げられる。
【0057】
水溶性高分子の重量平均分子量は、1,000以上200,000以下が好ましい。更には、3,000以上40,000以下がより好ましい。
【0058】
本発明で好ましく用いられるポリビニルアルコールには、ポリ酢酸ビニルを加水分解して得られる通常のポリビニルアルコールの他に、末端をカチオン変性したポリビニルアルコールやアニオン性基を有するアニオン変性ポリビニルアルコール等の変性ポリビニルアルコールも含まれる。
【0059】
酢酸ビニルを加水分解して得られるポリビニルアルコールは、平均重合度が1,000以上のものが好ましく用いられ、特に平均重合度が1,500〜5,000のものが好ましく用いられる。また、ケン化度は、70〜100%のものが好ましく、80〜99.5%のものが特に好ましい。
【0060】
カチオン変性ポリビニルアルコールとしては、例えば、特開昭61−10483号に記載されているような、第一〜三級アミノ基や第四級アンモニウム基を上記ポリビニルアルコールの主鎖または側鎖中に有するポリビニルアルコールであり、カチオン性基を有するエチレン性不飽和単量体と酢酸ビニルとの共重合体をケン化することにより得られる。
【0061】
カチオン性基を有するエチレン性不飽和単量体としては、例えば、トリメチル−(2−アクリルアミド−2,2−ジメチルエチル)アンモニウムクロライド、トリメチル−(3−アクリルアミド−3,3−ジメチルプロピル)アンモニウムクロライド、N−ビニルイミダゾール、N−ビニル−2−メチルイミダゾール、N−(3−ジメチルアミノプロピル)メタクリルアミド、ヒドロキシルエチルトリメチルアンモニウムクロライド、トリメチル−(2−メタクリルアミドプロピル)アンモニウムクロライド、N−(1,1−ジメチル−3−ジメチルアミノプロピル)アクリルアミド等が挙げられる。カチオン変性ポリビニルアルコールのカチオン変性基含有単量体の比率は、酢酸ビニルに対して0.1〜10モル%、好ましくは0.2〜5モル%である。
【0062】
アニオン変性ポリビニルアルコールは、例えば、特開平1−206088号に記載されているようなアニオン性基を有するポリビニルアルコール、特開昭61−237681号および同63−307979号に記載されているような、ビニルアルコールと水溶性基を有するビニル化合物との共重合体及び特開平7−285265号に記載されているような水溶性基を有する変性ポリビニルアルコールが挙げられる。
【0063】
また、ノニオン変性ポリビニルアルコールとしては、例えば、特開平7−9758号に記載されているようなポリアルキレンオキサイド基をビニルアルコールの一部に付加したポリビニルアルコール誘導体、特開平8−25795号に記載されている疎水性基を有するビニル化合物とビニルアルコールとのブロック共重合体等が挙げられる。ポリビニルアルコールは、重合度や変性の種類違いなど二種類以上を併用することもできる。
【0064】
本発明においては、これらのポリマーを使用する場合には、硬化剤を使用してもよい。例えばポリビニルアルコールの場合には、後述するホウ酸及びその塩やエポキシ系硬化剤が好ましい。
【0065】
《無機ポリマー》
本発明に係る水溶性高分子の1つとしては、ジルコニウム原子含有化合物あるいはアルミニウム原子含有化合物等の無機ポリマーを用いることが好ましい。
【0066】
本発明に適用可能なジルコニウム原子を含む化合物は、酸化ジルコニウムを除くものであるが、その具体例としては、二フッ化ジルコニウム、三フッ化ジルコニウム、四フッ化ジルコニウム、ヘキサフルオロジルコニウム酸塩(例えば、カリウム塩)、ヘプタフルオロジルコニウム酸塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩やアンモニウム塩)、オクタフルオロジルコニウム酸塩(例えば、リチウム塩)、フッ化酸化ジルコニウム、二塩化ジルコニウム、三塩化ジルコニウム、四塩化ジルコニウム、ヘキサクロロジルコニウム酸塩(例えば、ナトリウム塩やカリウム塩)、酸塩化ジルコニウム(塩化ジルコニル)、二臭化ジルコニウム、三臭化ジルコニウム、四臭化ジルコニウム、臭化酸化ジルコニウム、三ヨウ化ジルコニウム、四ヨウ化ジルコニウム、過酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、硫化ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、p−トルエンスルホン酸ジルコニウム、硫酸ジルコニル、硫酸ジルコニルナトリウム、酸性硫酸ジルコニル三水和物、硫酸ジルコニウムカリウム、セレン酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、硝酸ジルコニル、リン酸ジルコニウム、炭酸ジルコニル、炭酸ジルコニルアンモニウム、酢酸ジルコニウム、酢酸ジルコニル、酢酸ジルコニルアンモニウム、乳酸ジルコニル、クエン酸ジルコニル、ステアリン酸ジルコニル、リン酸ジルコニル、シュウ酸ジルコニウム、ジルコニウムイソプロピレート、ジルコニウムブチレート、ジルコニウムアセチルアセトネート、アセチルアセトンジルコニウムブチレート、ステアリン酸ジルコニウムブチレート、ジルコニウムアセテート、ビス(アセチルアセトナト)ジクロロジルコニウム、トリス(アセチルアセトナト)クロロジルコニウム等が挙げられる。
【0067】
これらの化合物の中でも、塩化ジルコニル、硫酸ジルコニル、硫酸ジルコニルナトリウム、酸性硫酸ジルコニル三水和物、硝酸ジルコニル、炭酸ジルコニル、炭酸ジルコニルアンモニウム、酢酸ジルコニル、酢酸ジルコニルアンモニウム、ステアリン酸ジルコニルが好ましく、更に好ましくは、炭酸ジルコニル、炭酸ジルコニルアンモニウム、酢酸ジルコニル、硝酸ジルコニル、塩化ジルコニルであり、特に好ましくは、炭酸ジルコニルアンモニウム、塩化ジルコニル、酢酸ジルコニルである。上記化合物の具体的商品名としては、第一稀元素化学工業製のジルコゾールZA−20(酢酸ジルコニル)、第一稀元素化学工業製のジルコゾールZC−2(塩化ジルコニル)、第一稀元素化学工業製のジルコゾールZN(硝酸ジルコニル)等が挙げられる。
【0068】
ジルコニル原子を含む無機ポリマーは、単独で用いても良いし、異なる2種類以上の化合物を併用してもよい。
【0069】
ジルコニウム原子を含む化合物は、単独で用いても良いし、異なる2種類以上の化合物を併用してもよい。
【0070】
また、本発明で用いることのできる分子内にアルミニウム原子を含む化合物には、酸化アルミニウムは含まず、その具体例としては、フッ化アルミニウム、ヘキサフルオロアルミン酸(例えば、カリウム塩)、塩化アルミニウム、塩基性塩化アルミニウム(例えば、ポリ塩化アルミニウム)、テトラクロロアルミン酸塩(例えば、ナトリウム塩)、臭化アルミニウム、テトラブロモアルミン酸塩(例えば、カリウム塩)、ヨウ化アルミニウム、アルミン酸塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩)、塩素酸アルミニウム、過塩素酸アルミニウム、チオシアン酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩基性硫酸アルミニウム、硫酸アルミニウムカリウム(ミョウバン)、硫酸アンモニウムアルミニウム(アンモニウムミョウバン)、硫酸ナトリウムアルミニウム、燐酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、燐酸水素アルミニウム、炭酸アルミニウム、ポリ硫酸珪酸アルミニウム、ギ酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、蓚酸アルミニウム、アルミニウムイソプロピレート、アルミニウムブチレート、エチルアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセトネート)等を挙げることができる。
【0071】
これらの中でも、塩化アルミニウム、塩基性塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩基性硫酸アルミニウム、塩基性硫酸珪酸アルミニウムが好ましく、塩基性塩化アルミニウム、塩基性硫酸アルミニウムが最も好ましい。上記化合物の具体的商品名としては、多木化学製のポリ塩化アルミニウム(PAC)であるタキバイン#1500、浅田化学(株)製のポリ水酸化アルミニウム(Paho)、(株)理研グリーン製のピュラケムWTが挙げられ、各種グレードのものが入手することができる。
【0072】
前記無機ポリマーの添加量は、無機酸化物粒子100質量部に対して1〜100質量部が好ましく、2〜50質量部が更に好ましい。
【0073】
《増粘多糖類》
本発明においては、水溶性樹脂として、増粘多糖類を用いることも好ましい。
【0074】
本発明で用いることのできる増粘多糖類としては、特に制限はなく、例えば、一般に知られている天然単純多糖類、天然複合多糖類、合成単純多糖類及び合成複合多糖類に挙げることができ、これら多糖類の詳細については、「生化学事典(第2版),東京化学同人出版」、「食品工業」第31巻(1988)21頁等を参照することができる。
【0075】
本発明でいう増粘多糖類とは、糖類の重合体であり、低温時の粘度と高温時との粘度差を助長する特性を備えている。さらに、本発明に係る増粘多糖類を、金属酸化物微粒子を含む塗布液に添加することにより、粘度上昇を起こすものであり、その粘度上昇幅は、添加により15℃における粘度が1.0mPa・s以上の上昇を生じる多糖類であり、好ましくは5.0mPa・s以上であり、更に好ましくは10.0mPa・s以上の粘度上昇能を備えた多糖類である。
【0076】
本発明に適用可能な増粘多糖類としては、例えば、β1−4グルカン(例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース等)、ガラクタン(例えば、アガロース、アガロペクチン等)、ガラクトマンノグリカン(例えば、ローカストビーンガム、グアラン等)、キシログルカン(例えば、タマリンドガム等)、グルコマンノグリカン(例えば、蒟蒻マンナン、木材由来グルコマンナン、キサンタンガム等)、ガラクトグルコマンノグリカン(例えば、針葉樹材由来グリカン)、アラビノガラクトグリカン(例えば、大豆由来グリカン、微生物由来グリカン等)、グルコラムノグリカン(例えば、ジェランガム等)、グリコサミノグリカン(例えば、ヒアルロン酸、ケラタン硫酸等)、アルギン酸及びアルギン酸塩、寒天、κ−カラギーナン、λ−カラギーナン、ι−カラギーナン、ファーセレラン等の紅藻類に由来する天然高分子多糖類等が挙げられ、塗布液中に共存する金属酸化微粒子の分散安定性を低下させない観点から、好ましくは、その構成単位がカルボン酸基やスルホン酸基を有しないものが好ましい。
【0077】
その様な多糖類としては、例えば、L−アラビトース、D−リボース、2−デオキシリボース、D−キシロースなどのペントース、D−グルコース、D−フルクトース、D−マンノース、D−ガラクトースなどのヘキソースのみからなる多糖類であることが好ましい。具体的には、主鎖がグルコースであり、側鎖もグルコースであるキシログルカンとして知られるタマリンドシードガムや、主鎖がマンノースで側鎖がグルコースであるガラクトマンナンとして知られるグアーガム、カチオン化グアーガム、ヒドロキシプロピルグアーガム、ローカストビーンガム、タラガムや、主鎖がガラクトースで側鎖がアラビノースであるアラビノガラクタンを好ましく使用することができる。
【0078】
本発明においては、特には、タマリンド、グアーガム、カチオン化グアーガム、ヒドロキシプロピルグアーガムが好ましい。
【0079】
本発明においては、更には、二種類以上の増粘多糖類を併用することが好ましい。
【0080】
増粘多糖類の含有量としては、5質量%以上、50質量%以下が好ましく、10質量%以上、40質量%以下がより好ましい。但し、その他の水溶性高分子やエマルジョン樹脂等と併用する場合には、3質量%以上含有すればよい。増粘多糖類が少ないと塗膜乾燥時に膜面が乱れて透明性が劣化する傾向が大きくなる。一方、含有量が50質量%以下であれば、相対的な金属酸化物の含有量が適切となり、高屈折率層と低屈折率層の屈折率差を大きくすることが容易になる。
【0081】
《界面活性剤》
本発明の高屈折層及び低屈折率層の少なくとも1層に、界面活性剤を添加しても良い。活性剤種としてはアニオン系、カチオン系、ノニオン系のいずれの種類を使用することができる。特にアセチレングリコール系ノニオン性界面活性剤、4級アンモニウム塩系カチオン性界面活性剤及びフッ素系カチオン性界面活性剤が好ましい。
【0082】
また本発明に係る界面活性剤の添加量としては、それぞれの塗布液を100質量%としたとき、固形分として0.005〜0.30質量%の範囲であることが好ましく、更には0.01〜0.10質量%であることが好ましい。
【0083】
《添加剤》
次いで、赤外反射層に分散安定剤あるいはひび割れ防止剤等に適用可能なその他の添加剤について説明する。
【0084】
《アミノ酸》
本発明においては、更に、アミノ酸を添加することができる。
【0085】
本発明でいうアミノ酸とは、同一分子内にアミノ基とカルボキシル基を有する化合物であり、α−、β−、γ−などいずれのタイプのアミノ酸でもよいが、等電点が6.5以下のアミノ酸であることが好ましい。アミノ酸には光学異性体が存在するものもあるが、本発明においては光学異性体による効果の差はなく、等電点が6.5以下のいずれの異性体も単独であるいはラセミ体で使用することができる。
【0086】
本発明に適用可能なアミノ酸に関する詳しい解説は、化学大辞典1 縮刷版(共立出版;昭和35年発行)268頁〜270頁の記載を参照することができる。
【0087】
本発明において、好ましいアミノ酸として、グリシン、アラニン、バリン、α−アミノ酪酸、γ−アミノ酪酸、β−アラニン、セリン、ε−アミノ−n−カプロン酸、ロイシン、ノルロイシン、フェニルアラニン、トレオニン、アスパラギン、アスパラギン酸、ヒスチジン、リジン、グルタミン、システイン、メチオニン、プロリン、ヒドロキシプロリン等を挙げることができ、水溶液として使用するためには、等電点における溶解度が、水100に対し、3g以上が好ましく、たとえば、グリシン、アラニン、セリン、ヒスチジン、リジン、グルタミン、システイン、メチオニン、プロリン、ヒドロキシプロリンなどが好ましく用いられ、金属酸化物粒子が、バインダーと緩やかな水素結合を有する観点から、水酸基を有する、セリン、ヒドロキシプロリンを用いることがさらに好ましい。
【0088】
《リチウム化合物》
本発明においては、高屈折層及び低屈折率層の少なくとも1層が、金属酸化物粒子及び水溶性高分子と共に、リチウム化合物を含有することができる。
【0089】
本発明に適用可能なリチウム化合物としては、特に制限はなく、例えば、炭酸リチウム、硫酸リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム、オロト酸リチウム、クエン酸リチウム、モリブデン酸リチウム、塩化リチウム、水素化リチウム、水酸化リチウム、臭化リチウム、フッ化リチウム、ヨウ化リチウム、ステアリン酸リチウム、リン酸リチウム、ヘキサフルオロリン酸リチウム、水素化アルミニウムリチウム、水素化トリエチルホウ酸リチウム、水素化トリエトキシアルミニウムリチウム、タンタル酸リチウム、次亜塩素酸リチウム、酸化リチウム、炭化リチウム、窒化リチウム、ニオブ酸リチウム、硫化リチウム、ホウ酸リチウム、LiBF、LiClO、LiPF、LiCFSO等が挙げられ、その中でも水酸化リチウムが、本願発明の効果を十分に発揮できる観点から好ましい。
【0090】
本発明において、リチウム化合物の添加量としては、屈折率層に存在する金属酸化物粒子1g当たり、0.005〜0.05gの範囲が好ましく、より好ましくは0.01〜0.03gである。
【0091】
《エマルジョン樹脂》
本発明においては、本発明に係る高屈折率層または低屈折率層には、エマルジョン樹脂を含有することができる。
【0092】
本発明でいうエマルジョン樹脂とは、油溶性のモノマーを、分散剤を含む水溶液中でエマルジョン状態に保ち、重合開始剤を用いて乳化重合させた樹脂微粒子である。
【0093】
エマルジョンの重合時に使用される分散剤としては、一般的には、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ジエチルアミン、エチレンジアミン、4級アンモニウム塩のような低分子の分散剤の他に、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリエキシエチレンラウリル酸エーテル、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドンのような高分子分散剤が挙げられる。
【0094】
本発明に係るエマルジョン樹脂とは、水系媒体中に微細な(平均粒径0.01〜2μm)樹脂粒子がエマルジョン状態で分散されている樹脂で、油溶性のモノマーを、水酸基を有する高分子分散剤を用いてエマルジョン重合して得られる。用いる分散剤の種類によって、得られるエマルジョン樹脂のポリマー成分に基本的な違いは見られないが、水酸基を有する高分子分散剤を用いてエマルジョン重合すると、微細な微粒子の少なくとも表面に水酸基の存在が推定され、他の分散剤を用いて重合したエマルジョン樹脂とはエマルジョンの化学的、物理的性質が異なる。
【0095】
水酸基を含む高分子分散剤とは、重量平均分子量が10000以上の高分子の分散剤で、側鎖または末端に水酸基が置換されたものであり、例えばポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリルアミドのようなアクリル系の高分子で2−エチルヘキシルアクリレートが共重合されたもの、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールのようなポリエーテル、ポリビニルアルコールなどが挙げられ、特にポリビニルアルコールが好ましい。
【0096】
高分子分散剤として使用されるポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルを加水分解して得られる通常のポリビニルアルコールの他に、カチオン変性したポリビニルアルコールやカルボキシル基のようなアニオン性基を有するアニオン変性ポリビニルアルコール、シリル基を有するシリル変性ポリビニルアルコール等の変性ポリビニルアルコールも含まれる。ポリビニルアルコールは、平均重合度は高い方がインク吸収層を形成する際のクラックの発生を抑制する効果が大きいが、平均重合度が5000以内であると、エマルジョン樹脂の粘度が高くなく、製造時に取り扱いやすい。したがって、平均重合度は300〜5000のものが好ましく、1500〜5000のものがより好ましく、3000〜4500のものが特に好ましい。ポリビニルアルコールのケン化度は70〜100モル%のものが好ましく、80〜99.5モル%のものがより好ましい。
【0097】
上記の高分子分散剤で乳化重合される樹脂としては、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ビニル系化合物、スチレン系化合物といったエチレン系単量体、ブタジエン、イソプレンといったジエン系化合物の単独重合体または共重合体が挙げられ、例えばアクリル系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、エチレン−酢酸ビニル系樹脂等が挙げられる。
【0098】
《その他の添加剤》
本発明に係る高屈折率層と低屈折率層に適用可能な各種の添加剤を以下に列挙する。例えば、特開昭57−74193号公報、同57−87988号公報及び同62−261476号公報に記載の紫外線吸収剤、特開昭57−74192号、同57−87989号公報、同60−72785号公報、同61−146591号公報、特開平1−95091号公報及び同3−13376号公報等に記載されている退色防止剤、特開昭59−42993号公報、同59−52689号公報、同62−280069号公報、同61−242871号公報および特開平4−219266号公報等に記載されている蛍光増白剤、硫酸、リン酸、酢酸、クエン酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム等のpH調整剤、消泡剤、ジエチレングリコール等の潤滑剤、防腐剤、帯電防止剤、マット剤等の公知の各種添加剤を含有させることもできる。
【0099】
《有機酸を還元剤として含有する還元層》
本発明の有機酸を還元剤として含有する還元層について説明する。
【0100】
本発明に係る還元層は、還元剤として有機酸を含有する層である。この有機酸は反射層中に酸素分子が混入して来た際、酸素分子がチタン系酸化物と反応するより早く、酸素分子と反応し、酸素分子を消費する役割を持てば、特に限定は無い。このような有機酸の具体的化合物としては、ギ酸、酢酸、シュウ酸、乳酸、グルクロン酸、クエン酸、フタル酸、アスコルビン酸、エリソルビン酸、パラトルエンスルホン酸、α−ケトイソカプロン酸、バニリルマンデル酸等が挙げられるが、本発明で好ましいのはアスコルビン酸、エリソルビン酸である。
【0101】
これら還元剤の含有量は還元層の0.1質量%〜50質量%が好ましく、1質量%〜30質量%がより好ましい。0.1質量%を越えると赤外反射フィルムの長期保存性が向上する傾向にあり、50質量%を下回ると塗膜の外観品質が良くなる。
【0102】
前記還元層には、還元剤の他にバインダー成分を有することが好ましい。バインダーはポリビニルブチラール系樹脂、ポリアクリレート系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、アラミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、光硬化型アクリル樹脂、熱硬化型アクリル樹脂等の溶剤系バインダーまたは、上述の水系バインダーいずれでも良いが、本発明では水系バインダーが好適であり、より好ましいのはポリビニルアルコールである。
【0103】
その他、界面活性剤等、上述の赤外反射層と同様の添加剤を必要に応じて加えることが出来る。
【0104】
《有機酸を還元剤として含有する還元層の構成》
本発明の効果を得るためには前記還元層は、構成される赤外反射フィルムに存在していればよく、基材上の赤外反射層と同じ側または赤外反射フィルムの端部の垂直エッジ面に設けられることが好ましい。基材とフィルム面と平行方向に還元層が形成されている構成、またフィルム端部の垂直エッジ面に還元層が設置されている構成、または両者を併せ持った構成、いずれの構成でも構わないが、フィルム面と平行方向に層が形成されていることがより好ましい。通常ウインドウフィルムにはガラスに貼るため、最表面に後述する粘着層が設置されることが好ましい。また粘着層と逆側の最表層には、フィルムを保護する目的で後述のハードコート層が設置される。本発明の構成の一例としては粘着層とハードコート層の間に基材と赤外反射層が存在しており、同時に還元層も粘着層とハードコート層の間に存在する構成である。この構成にフィルム端部の垂直エッジ面にも還元層が存在する構成も好ましい一例である。基材と赤外反射層と還元層はどの順番に積層されていても構わず、いずれの層も複数層存在していても構わない。また粘着層とハードコート層の間の任意の位置に、他の機能層を組み合わせることも出来る。
【0105】
前記還元層の膜厚は0.5〜50μmが好ましく、より好ましくは1〜20μmである。0.5μmより厚くなると赤外反射フィルムの耐久性が向上する傾向にあり、20μmより薄くなるとフィルムの透明性が向上する傾向にある。
【0106】
なお、還元層は、上述のハードコート層、赤外吸収層のどちらか、または両方を兼ねてもよい。
【0107】
《粘着剤よび粘着層》
本発明の赤外反射フィルムのいずれかの最表層面に粘着層を設けることが出来る。
【0108】
本発明の粘着層を構成する粘着剤としては、例えばアクリル系粘着剤、シリコン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ポリビニルブチラール系粘着剤、エチレン−酢酸ビニル系粘着剤などを例示できる。
【0109】
本発明の赤外反射フィルムは、窓ガラスに貼り合わせる場合、窓に水を吹き付け、濡れた状態のガラス面に本赤外反射フィルムの粘着層を合わせる貼り方、いわゆる水貼り法が好適に用いられる。そのため、水が存在する湿潤下では粘着力が弱い、アクリル系粘着剤が好ましく用いられる。
【0110】
本発明で使用するアクリル系粘着剤は、溶剤系およびエマルジョン系どちらでも良いが、粘着力等を高め易いことから、溶剤系粘着剤が好ましく、その中でも溶液重合で得られたものが好ましい。このようなアクリル溶剤系粘着剤を溶液重合で製造する場合の原料としては、例えば、骨格となる主モノマーとして、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、オクリルアクリレート等のアクリル酸エステル、凝集力を向上させるためのコモノマーとして、酢酸ビニル、アクリルニトリル、スチレン、メチルメタクリレート等、さらに架橋を促進し、安定した粘着力を付与させ、また水の存在下でもある程度の粘着力を保持するために官能基含有モノマーとして、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、ヒドロキシエチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート等が挙げられる。該積層フィルムの粘着剤層には、主ポリマーとして、特に高タック性を要するため、ブチルアクリレート等のような低いガラス転移温度(Tg)を有するものが特に有用である。
【0111】
この粘着層には、添加剤として、例えば安定剤、界面活性剤、紫外線吸収剤、難燃剤、帯電防止剤、抗酸化剤、熱安定剤、滑剤、充填剤、着色、接着調整剤等を含有させることもできる。特に、本発明のように窓貼用として使用する場合は、紫外線による赤外反射フィルムの劣化を抑制するためにも、紫外線吸収剤の添加は有効である。
【0112】
粘着層の厚みは1μm〜100μmが好ましく、さらに好ましくは3〜50μmである。1μmより厚くなると粘着性が向上する傾向に十分な粘着力が得られる。逆に100μmより薄くなると赤外反射フィルムの透明性が向上するだけでなく、さらにはフィルムを窓ガラスに貼り付けた後、剥がしたときに粘着材層間で凝集破壊が起こらず、ガラス面への粘着材のこりが無くなる傾向にある。
【0113】
なお、粘着層は上述の還元層を兼ねてもよい。
【0114】
《赤外吸収層》
本発明における赤外反射フィルムは、任意の位置に赤外吸収層を有することができる。
【0115】
赤外吸収層の一例としては、紫外線硬化樹脂、光重合開始剤、赤外吸収剤を含有する層である。
【0116】
紫外線硬化樹脂は、他の樹脂より硬度、平滑性、更にはITO、ATOや熱伝導性の金属酸化物の分散性の点でも有利である。紫外線硬化樹脂としては、硬化によって透明な樹脂組成物を形成する物であれば特に制限なく使用でき、例えば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、アクリル系樹脂、アリルエステル系樹脂等が挙げられる。特に好ましくは、硬度、平滑性、透明性の観点からアクリル系樹脂を用いることができる。
【0117】
本発明のおけるアクリル系樹脂は、硬度、平滑性、透明性の観点から、国際公開第2008/035669号に記載されているような表面に光重合反応性を有する感光性基が導入された反応性シリカ粒子(以下、単に「反応性シリカ粒子」ともいう)を含むことが好ましい。ここで、光重合性を有する感光性基としては、(メタ)アクリロイルオキシ基に代表される重合性不飽和基などを挙げることができる。また感光性樹脂は、この反応性シリカ粒子の表面に導入された光重合反応性を有する感光性基と光重合反応可能な化合物、例えば、重合性不飽和基を有する不飽和有機化合物を含むものであってもよい。また重合性不飽和基修飾加水分解性シランが、加水分解性シリル基の加水分解反応によって、シリカ粒子との間に、シリルオキシ基を生成して化学的に結合しているようなものを、反応性シリカ粒子として用いることができる。ここで、反応性シリカ粒子の平均粒子径としては、0.001〜0.1μmの平均粒子径であることが好ましい。平均粒子径をこのような範囲にすることにより、透明性、平滑性、硬度をバランスよく満たすことができる。
【0118】
また本発明のアクリル系樹脂には、屈折率を調整するできる点で、含フッ素ビニルモノマーを用いることもできる。含フッ素ビニルモノマーとしてはフルオロオレフィン類(例えばフルオロエチレン、ビニリデンフルオライド、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン等)、(メタ)アクリル酸の部分または完全フッ素化アルキルエステル誘導体類(例えばビスコート6FM(商品名、大阪有機化学製)やR−2020(商品名、ダイキン製)等)、完全または部分フッ素化ビニルエーテル類等が挙げられる。
【0119】
また光重合開始剤としては、公知のものを使用することができ、1種又は2種以上の組み合わせで使用することができる。
【0120】
本発明においては無機赤外線吸収剤として、可視光線透過率、赤外線吸収性、樹脂中への分散適性等の点から、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、アンチモンドープ酸化錫(ATO)、6硼化ランタン(LaB)、酸化タングステンセシウム(Cs0.33WO)等が好ましく、これらを単独、あるいは併用しても構わない。平均粒径としては、5〜100nmが好ましく、特に10〜50nmが好ましい。5nm未満であると樹脂中の分散性や、赤外線吸収性が劣化してしまう。一方、100nmより大きいと、可視光線透過率が劣化して好ましくない。本発明における平均粒径の測定は、透過型電子顕微鏡により撮像し、無作為に、例えば50個の粒子を抽出して該粒径を測定し、これを平均したものである。また、粒子の形状が球形でない場合には、長径を測定して算出する。
【0121】
上記無機赤外吸収材料の赤外吸収層における含有量は、上記層全体含有量によるが、層全体の含有%で表した場合、1〜80%、特に5〜50%の範囲であることが好ましい。含有量が1%以上であれば、十分な赤外線吸収効果が現れ、80%以下であれば、十分な量の可視光線を透過できる。
【0122】
本発明においては、本発明の効果を奏する範囲内で、上記以外の金属酸化物や、有機系、金属錯体等の他赤外線吸収剤を併用することもできる。例えば、ジイモニウム系化合物、アルミニウム系化合物、フタロシアニン系化合物、有機金属錯体、シアニン系化合物、アゾ化合物、ポリメチン系化合物、キノン系化合物、ジフェニルメタン系化合物、トリフェニルメタン系化合物等を併用することもできる。
【0123】
赤外吸収層の厚みは0.1μm〜50μmが好ましく、さらに好ましくは1〜20μmである。0.1μmより厚くなると赤外吸収能力が向上する傾向にあり、逆に50μmより薄くなると塗膜の耐クラック性が向上する。
【0124】
《ハードコート層》
本発明の赤外反射フィルムは、耐擦過性を高めるための表面保護層として、基材と赤外反射層を介して粘着層と逆側の最上層に熱や紫外線などで硬化する樹脂からなるハードコート層を積層することが好ましい。
【0125】
ハードコート層で使用する硬化型の樹脂としては、熱や紫外線で硬化するものであり、成形が容易なことから、紫外線硬化型樹脂、特にその中でも鉛筆硬度が少なくとも2Hのものが好ましい。鉛筆硬度はJIS K5600−5−4に記載の方法で測定できる。
【0126】
このような紫外線硬化型樹脂としては、例えば、多価アルコールを有するアクリル酸又はメタクリル酸エステルのような多官能性のアクリレート樹脂、並びに、ジイソシアネートおよび多価アルコールを有するアクリル酸やメタクリル酸から合成されるような多官能性のウレタンアクリレート樹脂などを挙げることができる。さらにアクリレート系の官能基を有するポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジエン樹脂またはポリチオールポリエン樹脂等も好適に使用することができる。
【0127】
また、これらの樹脂の反応性希釈剤としては、比較的低粘度である1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メ夕)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等の2官能以上のモノマーやオリゴマー、並びに、N−ビニルピロリドン、エチルアクリレート、プロピルアクリレート等のアクリル酸エステル類、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、イソオクチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ノニルフェニルメタクリレート等のメタクリル酸エステル類、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、及ビそのカプロラクトン変成物などの誘導体、スチレン、α−メチルスチレンまたはアクリル酸等の単官能モノマーが挙げられ、これらは1種に限らず、2種以上を併用しても良い。
【0128】
さらにまた、これらの樹脂の光増感剤(ラジカル重合開始剤)としては、ペンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンジルメチルケタールなどのベンゾインとそのアルキルエーテル類;アセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンなどのアセトフェノン類;メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−アミルアントラキノンなどのアントラキノン類;チオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントンなどのチオキサントン類;アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタールなどのケタール類;ベンゾフェノン、4,4−ビスメチルアミノベンゾフェノンなどのベンゾフェノン類及びアゾ化合物などがある。これらは単独または2種以上の混合物として使用でき、さらにはトリエタノールアミン、メチルジエタノールアミンなどの第3級アミン;2−ジメチルアミノエチル安息香酸、4−ジメチルアミノ安息香酸エチルなどの安息香酸誘導体等の光開始助剤などと組み合わせて使用することができる。これらの有機過酸化物や光重合開始剤の使用量は、前記樹脂組成物の重合性成分100質量部に対して0.5〜20質量部、好ましくは1〜15質量部である。
【0129】
なお、上述の硬化型の樹脂は、必要に応じて公知の一般的な塗料添加剤を配合しても良い。例えばレベリングや表面スリップ性等を付与するシリコーン系やフッソ系の添加剤は硬化膜表面の傷つき防止性に効果があることに加えて、活性エネルギー線として紫外線を利用する場合は前記添加剤の空気界面へのブリードによって、酸素による樹脂の硬化阻害を低下させることができ、低照射強度条件下に於いても有効な硬化度合を得ることができる。
【0130】
またハードコート層には無機微粒子を含有することが好ましい。好ましい無機粒子としては、チタン、シリカ、ジルコニウム、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛または錫などを含む無機化合物の微粒子が挙げられる。この無機微粒子の粒径は、可視光線の透過性を確保することから、高々1000nm、特に10〜500nmの範囲にあるものが好ましい。また、無機微粒子は、ハードコート層を形成する硬化型の樹脂との結合カが高いほうがハードコート層からの脱落を抑制できることから、単官能または多官能のアクリレートなどの光重合反応性を有する感光性基を、表面に導入していることが好ましい。
【0131】
ハードコート層の厚みは0.1μm〜50μmが好ましく、さらに好ましくは1〜20μmである。0.1μmより厚くなるとハードコート性が向上する傾向にあり、逆に50μmより薄くなると赤外反射フィルムの透明性が向上する傾向にある。
【0132】
なお、ハードコート層は、上述の還元層、赤外吸収層のどちらか、または両方を兼ねてもよい。
【0133】
《赤外反射フィルムの製造方法》
本発明の赤外反射フィルムは、基材上に高屈折率層と低屈折率層から構成されたユニットを積層して構成され赤外反射層を形成する。具体的には水系の高屈折率層塗布液と低屈折率層塗布液とを交互に湿式塗布、乾燥して積層体を形成することが好ましい。
【0134】
塗布方式としては、例えば、ロールコーティング法、ロッドバーコーティング法、エアナイフコーティング法、スプレーコーティング法、カーテン塗布方法、あるいは米国特許第2,761,419号、同第2,761,791号公報に記載のホッパーを使用するスライドビード塗布方法、エクストルージョンコート法等が好ましく用いられる。
【0135】
同時重層塗布を行う際の高屈折率層塗布液と低屈折率層塗布液の粘度としては、スライドビード塗布方式を用いる場合には、5〜100mPa・sの範囲が好ましく、さらに好ましくは10〜50mPa・sの範囲である。また、カーテン塗布方式を用いる場合には、5〜1200mPa・sの範囲が好ましく、さらに好ましくは25〜500mPa・sの範囲である。
【0136】
また、塗布液の15℃における粘度としては、100mPa・s以上が好ましく、100〜30,000mPa・sがより好ましく、さらに好ましくは3,000〜30,000mPa・sであり、最も好ましいのは10,000〜30,000mPa・sである。
【0137】
塗布および乾燥方法としては、水系の高屈折率層塗布液と低屈折率層塗布液を30℃以上に加温して、塗布を行った後、形成した塗膜の温度を1〜15℃に一旦冷却し、10℃以上で乾燥することが好ましく、より好ましくは、乾燥条件として、湿球温度5〜50℃、膜面温度10〜50℃の範囲の条件で行うことである。また、塗布直後の冷却方式としては、形成された塗膜均一性の観点から、水平セット方式で行うことが好ましい。
【0138】
本発明に係る還元層の塗工方法としては、任意の公知の方法が使用でき、例えばダイコーター法、グラビアロールコーター法、ブレードコーター法、スプレーコーター法、エアーナイフコート法、ディップコート法、転写法等が好ましく挙げられ単独、または組み合わせて塗工することが出来る。還元層に使用するバインダーに見合った溶媒を使用し塗工液を用いて塗工することが出来、溶媒はバインダーを溶解することが出来れば公知の溶媒を使用することが出来る。溶媒が上記の赤外反射層と同様であれば、赤外反射層と同時に重層塗布することも出来る。
【0139】
また還元層を、フィルム端部の垂直エッジ面に設置させるためには例えばディップコート法、ダイコーター法、転写法等が好ましく挙げられ、これらを単独、また組み合わせて塗工することも出来る。
【0140】
粘着剤の塗工方法としては、任意の公知の方法が使用でき、例えばダイコーター法、グラビアロールコーター法、ブレードコーター法、スプレーコーター法、エアーナイフコート法、ディップコート法、転写法等が好ましく挙げられ、単独または組合せて用いることができる。これらは適宜、粘着剤を溶解できる溶媒にて溶液にする、または分散させた塗布液を用いて塗工することが出来、溶媒としては公知の物を使用することが出来る。
【0141】
粘着層の形成は、先の塗工方式にて、直接赤外反射フィルムに塗工しても良く、また、一度剥離紙に塗工して乾燥させた後、プラスチックフィルムを貼り合せて粘着剤を転写させても良い。この時の乾燥温度は、残留溶剤ができるだけ少なくなることが好ましく、そのためには乾燥温度や時間は特定されないが、好ましくは50〜150℃の温度で、10秒〜5分の乾燥時間を設けることが良い。また、粘着剤は流動性があるため、加熱乾燥直後はまだ反応が完結しておらず、その反応を完了させ、安定した粘着力を得るためにも養生が必要である。一般的には、室温で約1週間以上、加熱した場合、例えば50℃位であると3日以上が好ましい。加熱の場合、温度を上げすぎるとプラスチックフィルムの平面性が悪化するおそれがあるため、あまり上げすぎない方が良い。
【0142】
赤外吸収層、ハードコート層の形成方法は特に制限はないが、ダイコーター法、グラビアロールコーター法、スピンコーティング法、スプレー法、ブレードコーティング法、エアーナイフコート法、ディップコート法、転写法等のウエットコーティング法、あるいは、蒸着法等のドライコーティング法により形成することが好ましい。
【0143】
紫外線照射により硬化する方法としては、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、メタルハライドランプなどから発せられる100〜400nm、好ましくは200〜400nmの波長領域の紫外線を照射する、又は走査型やカーテン型の電子線加速器から発せられる100nm以下の波長領域の電子線を照射することにより行うことができる。
【0144】
《赤外反射体》
本発明の赤外反射体とは、本発明の赤外反射フィルムを基体の少なくとも一方の面に設けられた態様を表す。
【0145】
基体として好ましいのは、プラスチック基体、金属基体、セラミック基体、布状基体等が好ましく、フィルム状、板状、球状、立方体状、直方体状等様々な形態の基体に本発明の赤外反射フィルムを設けた状態を言う。その中でも好ましいのは板状のセラミック基体で、ガラス板に本発明の赤外反射フィルムを設けた、赤外反射体が好ましい。ガラス板の例としては、例えばJIS R 3202に記されたフロート板ガラス、および磨き板ガラスが好ましく、ガラス厚みとしては0.01mm〜20mmが好ましい。0.01mmより厚くなることで、本発明の長期耐久性の効果がより得られ、20mmより薄くなると本発明の赤外反射フィルムの赤外反射率が効果的に得られる。
【0146】
基体に、本発明の赤外反射フィルムを設ける方法としては、上述のように赤外反射フィルムに粘着層を塗設し、粘着層を介して基体に貼り付ける方法が好適に用いられる。
【0147】
貼合方法としては、そのまま基体にフィルムを貼る乾式貼合、上述のように水貼り貼合する方法が適用できるが、基体と赤外反射フィルムの間に空気が入らないようにするため、また基体上での赤外反射フィルムの位置決め等、施工のしやすさの観点で水貼り法により貼合することがより好ましい。
【0148】
本発明の赤外反射体とは、本発明の赤外反射フィルムを基体の少なくとも一方の面に設けられた態様を言うが、基体の複数面に設けた状態、本発明の赤外反射フィルムに複数の基体を設けた状態でも構わない。例えば上述の板ガラスの両面に本発明の赤外反射フィルムを設けた態様、本発明の赤外反射フィルムの両面に粘着層を塗設し、赤外反射フィルムの両面に上述の板ガラスを貼り合わせた、合わせガラス状の態様でも構わない。
【0149】
《赤外反射フィルムの応用》
本発明の赤外反射フィルムは、幅広い分野に応用することができる。例えば、建物の屋外の窓や自動車窓等太陽光に晒らされる窓ガラスに貼り合せ、室内温度の過上昇を抑える熱線反射効果を付与する熱線反射フィルム等の窓貼用フィルム、農業用ビニールハウス用フィルム等として、主としてハウス内温度の過上昇を抑える熱線反射効果を付与した農業用フィルムの目的で用いられる。
【0150】
また自動車用の合わせガラスのように、本発明の赤外反射フィルムをガラスとガラスの間に挟み、自動車用熱線反射フィルムとして用いられ、この場合外気ガスから赤外反射フィルムを封止できるため、耐久性の観点から好ましい。
【実施例】
【0151】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0152】
(低屈折率層用塗布液の調製)
純水187質量部に、水溶性樹脂として酸処理ゼラチン(等電点:9.5、平均分子量:2万)3質量部を添加し、撹拌混合しながら40℃に昇温しゼラチンを溶解することで、ゼラチン水溶液を得た。
【0153】
次いで平均粒径が5nmのシリカ微粒子を含む10.0質量%酸性シリカゾル(スノーテックスOXS:日産化学社製)を10質量部中に、上記ゼラチン水溶液を撹拌しながら徐々に添加し、混合した。更にフッ素系カチオン活性剤として、サーフロンS221(AGCケミカル社製)を0.02質量部添加することで低屈折率層用塗布液を調製した。なお下記のように基材に塗布する直前に硬化剤としてホルマリン(関東化学社製)を0.1gを添加した。
【0154】
(高屈折率層用塗布液の調製)
純水182質量部に、水溶性樹脂として酸処理ゼラチン(等電点:9.5、平均分子量:2万)3質量部を添加し、撹拌混合しながら40℃に昇温しゼラチンを溶解することで、ゼラチン水溶液を得た。
【0155】
次いで平均粒径が35nmのルチル型酸化チタン微粒子を含む20.0質量%酸化チタンゾル15質量部中に、上記ゼラチン水溶液を撹拌しながら徐々に添加し、混合した。更にフッ素系カチオン活性剤として、サーフロンS221(AGCケミカル社製)を0.07質量部添加することで高屈折率層用塗布液を調製した。なお下記のように基材に塗布する直前に硬化剤としてホルマリン(関東化学社製)を0.1gを添加した。
【0156】
なお、これらの塗布層の屈折率は前述の方法により計測したところ、低屈折率層1は1.43、高屈折率層1は1.98であった。
【0157】
(還元層用塗布液OR−1の調製)
純水190質量部に、水溶性樹脂としてポリビニルアルコール樹脂(PVA224:クラレ社製)8.1質量部を添加し、撹拌混合しながら85℃に昇温しポリビニルアルコール樹脂を溶解することで、ポリビニルアルコール樹脂水溶液を得た。
【0158】
次いで還元剤としてアスコルビン酸(関東化学社製)を1.5質量部中加え溶解混合した。更にフッ素系カチオン活性剤として、サーフロンS221(AGCケミカル社製)を0.05質量部添加し、ホウ酸0.35質量部添加し撹拌混合することで有機酸を還元剤として含有する還元層用塗布液OR−1を調製した。
【0159】
(還元層用塗布液OR−2の調製)
上記、還元層用塗布液OR−1の調製において、還元剤のアスコルビン酸をエリソルビン酸に変えた以外は同様の方法で、有機酸を還元剤として含有する還元層用塗布液OR−2を調製した。
【0160】
(還元層用塗布液OR−3の調製)
純水190質量部に、水溶性樹脂としてポリビニルピロリドン樹脂(PVP K−85:日本触媒社製)8.95質量部を添加し、撹拌混合しながらポリビニルピロリドン樹脂を溶解することで、ポリビニルピロリドン樹脂水溶液を得た。
【0161】
次いで還元剤としてフタル酸(東京化成製)を1質量部中加え溶解混合した。更にフッ素系カチオン活性剤として、サーフロンS221(AGCケミカル社製)を0.05質量部添加し撹拌混合することで有機酸を還元剤として含有する還元層用塗布液OR−3を調製した。
【0162】
(比較還元層用塗布液OR−4の調製:比較)
上記還元層用塗布液OR−1の調製において、アスコルビン酸を加えず、代わりにポリビニルアルコールを8.1質量部から9.6質量部に増やした以外は同様の方法で、還元剤を含有しない比較還元層用塗布液OR−4を作成した。
【0163】
(比較還元層用塗布液OR−5の調製:比較)
上記還元層用塗布液OR−1の調製において、アスコルビン酸の代わりに、UV吸収機能を有する化合物、TINUVIN1130(BASFジャパン社製)を添加した以外は同様の方法で、有機酸を含有しない比較還元層用塗布液OR−5を得た。
【0164】
(ハードコート層塗布液の作成)
メチルエチルケトン溶媒90質量部にUV硬化型ハードコート材(UV−7600B:日本合成化学社製)7.5質量部を添加し、次いで光重合開始剤(イルガキュア184:BASFジャパン社製)0.5質量部を添加し撹拌混合した。次いでITO粉末(超微粒子ITO:住友金属鉱山社製)を2質量部添加し、ホモジナイザーで高速撹拌することで、ハードコート層塗布液を作成した。
【0165】
(粘着層塗布液の作成)
酢酸エチル60質量部とトルエン20質量部を混合し、更にアクリル系粘着剤(アロンタックM−300:東亞合成社製)を20g添加し撹拌混合することで粘着剤塗布液を作成した。
【0166】
《赤外反射フィルムの作成》
(本発明の赤外反射フィルム1の作成)
以下に図を用いて本発明の試料を説明する。図1は実施例に用いた赤外反射フィルムの層構成の概略断面図である。本発明赤外反射フィルム1の作成について図1(A)を用いて説明する。
【0167】
基材1として、30cm×30cmサイズで50μm厚みのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡製A4300:両面易接着層)の片面に有機酸を還元剤として含有する還元層用塗布液OR−1をワイヤーバーにより塗布し、50℃5分間熱風乾燥することで還元層2を塗設した。
【0168】
つづいて還元層2と同じ側に、21層同時塗布可能なスライドホッパー塗布装置を用い、上記調製した低屈折率層用塗布液及び高屈折率層用塗布液を、還元層に近い側を低屈折率層とし、それぞれ交互に低屈折率層は11層、高屈折率層は10層、計21層積層を45℃に保温しながら、還元層上に、同時重層塗布を行った。その直後、膜面が15℃以下となる条件で冷風を1分間吹き付けてセットさせた後、50℃の温風を吹き付けて乾燥させて、21層からなる赤外反射層3を形成した。
【0169】
さらに赤外反射層とは逆側の、PETフィルム表面にハードコート層用塗布液をワイヤーバーにより塗布し、70℃3分熱風乾燥した。その後大気下で、アイグラフィックス社製のUV硬化装置(高圧水銀ランプ使用)にて、硬化条件:400mJ/cmで硬化を行うことで、ハードコート層4を形成した。
【0170】
粘着層は、セパレータフィルム5に粘着層6を塗設し、その後上記のフィルムと貼り合わせる方法にした。
【0171】
セパレータフィルム5としては25μm厚のポリエステルフィルム(セラピール:東洋メタライジング社製)を用いた。セパレータフィルムの上に、粘着剤塗布液をワイヤーバーにより塗布し、50℃、2分間乾燥することで粘着層付きフィルムを作成した。
【0172】
得られた赤外反射フィルムの赤外反射層側と、粘着層付きフィルムの粘着層側を貼合機により貼合した。このとき赤外反射フィルム側の貼合時張力を10kg/m、粘着層付きフィルムの貼合時張力を30kg/mとした。
【0173】
最後に得られたフィルムを25cm×25cmにカットすることで、図1(A)の層構成の赤外反射フィルム1を得た。
【0174】
なお、SEMにより塗布膜の断面を観察したところ、還元層の膜厚は2μm、低屈折率層の膜厚は170nm、高屈折率層の膜厚は130nmであった。またハードコート層は3μm、粘着層は15μmであった。
【0175】
(本発明の赤外反射フィルム2、3と比較の赤外反射フィルム12、15の作成)
図1(A)の層構成の赤外反射フィルム1の作成において、有機酸を還元剤として含有する還元層を還元層用塗布液OR−1から上記で作成した有機酸を還元剤として含有する還元層用塗布液OR−2、還元層用塗布液OR−3、及び比較還元層用塗布液OR−4、比較還元層用塗布液OR−5へそれぞれ変更した以外は同様の方法で、赤外反射フィルム2、3、および比較の赤外反射フィルム12、15をそれぞれ作成した。
【0176】
(本発明の赤外反射フィルム4、5の作成)
赤外反射フィルム1の作成において、還元層2と赤外反射層3の塗布順のみを入れ変えて、図1(B)の層構成で示される赤外反射フィルム4を得た。さらに、赤外反射フィルム4の作成において、還元層のみを上記で作成した還元層用塗布液OR−1から還元層用塗布液OR−3に変更して赤外反射フィルム5を同様に作成した。
【0177】
(本発明の赤外反射フィルム6、7の作成)
赤外反射フィルム1の作成において、還元層の塗布順を、ハードコート層の塗布前に変え、かつ、基材に対し、赤外反射層とは反対側にして、図1(C)の層構成で示される赤外反射フィルム6を得た。さらに、赤外反射フィルム6の作成において、還元層のみを上記で作成した還元層用塗布液OR−1から還元層用塗布液OR−3に変更して赤外反射フィルム7を同様に作成した。
【0178】
(本発明の赤外反射フィルム8、9の作成)
後述する還元層を有さない比較の赤外反射フィルム14を一旦作成後、得られたフィルムを25cm×25cmにカットしたあと、カットしたフィルム断面4面について還元層用塗布液OR−1に5mm、5秒間浸し、引き上げた。その後50℃、5分間熱風乾燥することで、フィルム断面に還元層が塗設された本発明の赤外反射フィルム8を得た。
【0179】
赤外反射フィルム8の作成において、還元層のみを上記で作成した還元層用塗布液OR−1から還元層用塗布液OR−3に変更して、赤外反射フィルム9を同様に作成した。
【0180】
赤外反射フィルム8、9の層構成は図1(D)で示した。
【0181】
(本発明の赤外反射フィルム10、比較の赤外反射フィルム13の作成)
赤外反射フィルム1を25cm×25cmにカットしたあと、カットしたフィルム断面4面について還元層用塗布液OR−1に5mm、5秒間浸し、引き上げた。その後50℃、5分間熱風乾燥することで、フィルム断面に有機酸を還元剤として含有する還元層が塗設された本発明の赤外反射フィルム10を得た。
【0182】
赤外反射フィルム12を25cm×25cmにカットしたあと、カットしたフィルム断面4面について還元剤を含まない比較還元層用塗布液OR−4に5mm、5秒間浸し、引き上げた。その後50℃、5分間熱風乾燥することで、比較の赤外反射フィルム13を得た。
【0183】
赤外反射フィルム10、13の層構成は図1(E)で示した。
【0184】
(本発明の赤外反射フィルム11の作成)
赤外反射フィルム1の作成において、還元層用塗布液の塗布を行わずに、ハードコート層までを塗設後した。
【0185】
続いてハードコート層の上に有機酸を還元剤として含有する還元層用塗布液OR−1をワイヤーバーにより乾燥膜厚が2μmとなるよう塗布し、50℃5分間熱風乾燥することで有機酸を還元剤として含有する還元層を塗設した。
【0186】
得られたフィルムを25cm×25cmにカットしたあと、カットしたフィルム断面4面について還元層用塗布液0R−1に5mm、5秒間浸し、引き上げた。その後50℃、5分間熱風乾燥することで、フィルム断面にも有機酸を還元剤として含有する還元層OR−1が塗設された本発明の赤外反射フィルム11を得た。
【0187】
赤外反射フィルム11の層構成は図1(F)で示した。
【0188】
(比較の赤外反射フィルム14の作成)
赤外反射フィルム1の作成において、還元層用塗布液OR−1の塗布を行わないことにより還元層を有さない比較の赤外反射フィルム14も同様の方法で作成した。
【0189】
赤外反射フィルム14の層構成は図1(G)で示した。
【0190】
《赤外反射体1〜15の作成》
得られた赤外反射フィルム1〜15のそれぞれについて、セパレータを剥がした後、基体として厚さ3mmで300mm×300mmのフロート板ガラスにJIS Z 0237に規定する圧着ローラーを使用して毎分約300mmの早さで一往復させて圧着し、赤外反射体1〜15を作成した。
【0191】
《評価》
(耐光性強制劣化条件)
上記の様にガラスに貼った赤外反射体について、メタルハライドランプ方式の耐候性試験機(ダイプラ・ウィンテス社製)を使用し、ガラス面から光が入るように試料を設置し、試料面放射強度:2.16MJ/m以下、ブラックパネル温度63℃、相対湿度:50%、照射時間500時間の条件でフィルムの強制劣化を行った。強制劣化を行う前の初期の測定値と強制劣化後の測定値を下記の方法で測定した。赤外反射率変化、フィルムの色調変化、フィルム伸張時応力および破断伸度を測定することで、長期間太陽光に曝された時の強度変化、赤外反射率変化及び色調変化を評価した。
【0192】
(赤外反射率の評価)
ガラスに貼り付けた赤外反射体を、分光光度計(積分球使用、日立製作所社製、U−4000型)を用い、800〜1400nmの領域における反射率を測定した。測定時光の侵入はガラス面からになるように、試料を設置した。測定は3回行い、その平均値を求め、赤外反射率とした。耐光性強制劣化前後での赤外反射率の差分(Δ反射率)が小さい方が、耐久性の高い赤外反射体であり、Δ反射率が20以下で、実用に耐えうる赤外反射フィルムである。
【0193】
(色調変化)
ガラスに貼り付けた赤外反射体の色調をJIS Z 8721に準拠して、色差計(グレタグ社)を用いて測定した。測定値は、JIS Z 8729に基づき、bを記録し、その値の変化を色調変化の指標とした。耐光性強制劣化前後でのbの差分(Δb)が小さい方が、耐久性の高い赤外反射体であり、Δbが5以下で、実用に耐えうる赤外反射体である。
【0194】
(伸長時応力および破断伸度)
ガラスに貼られた赤外反射フィルムを剥がし、エタノールで粘着層をはぎ取った。その後、長さ180mm及び幅10mmの短冊状に試料を片刃カミソリで切り出した。次いで、引っ張り試験機(東洋精機株式会社製)を用いて短冊状試料を引っ張り、得られた荷重−歪曲線から各方向の100%伸張時応力(MPa)及び破断伸度(%)を求めた。
【0195】
なお、測定は25℃の雰囲気下で、初期長(標線間距離)40mm、チャック間距離100mm、クロスヘッドスピード100mm/min、記録計のチャートスピード200mm/min、ロードセル245Nの条件にて行った。なお、この測定は10回行い平均値を用いた。耐光性強制劣化前後での伸長時応力、破断伸度の差分(Δ伸長時応力、Δ破断伸度)が小さい方が、耐久性の高い赤外反射フィルムであり、Δ伸長時応力が40以下、Δ破断伸度が55以下で、実用に耐えうる赤外反射フィルムである。
【0196】
表1に試料の構成の概略と上記の評価で得られた結果とをまとめた。
【0197】
【表1】

【0198】
表1の結果のように、本発明の構成にすることで、高いUV照度を暴露した環境下においても、フィルム強度劣化、赤外反射率の低下や色調変化の少ない赤外反射フィルム、赤外反射体を提供することが出来る。特に有機酸を還元剤として含有する還元層が、基材と赤外反射層である交互積層の間に設置されている場合、特に本発明の効果が顕著に表れる。
【符号の説明】
【0199】
1 基材
2 還元層
3 赤外反射層
4 ハードコート層
5 セパレータフィルム
6 粘着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低屈折率層、高屈折率層を交互積層してなり、該交互積層の少なくともいずれか一層にチタン系酸化物を有する赤外線反射層が基材のいずれか一方面に形成された赤外線反射フィルムにおいて、該赤外反射フィルムが有機酸を還元剤として含有する還元層を有することを特徴とする赤外反射フィルム。
【請求項2】
前記還元層が、基材と平行方向に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の赤外反射フィルム。
【請求項3】
前記還元層が、基材と交互積層の間に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の赤外反射フィルム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の赤外反射フィルムが基体の少なくとも一方の面に設けられたことを特徴とする赤外反射体。

【図1】
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【公開番号】特開2012−220706(P2012−220706A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−86055(P2011−86055)
【出願日】平成23年4月8日(2011.4.8)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】