説明

赤色に着色された漬物の製造方法

【課題】赤色に着色された漬物であって、他の食品への色移りが抑制された漬物の製造方法を提供する。
【解決手段】クチナシ赤色素またはベニコウジ色素を含有する水溶液で漬物の主原料を処理する工程の後に該主原料をpHは4.5以下の酸性水溶液で処理する工程を含むことを特徴とする赤色に着色された漬物の製造方法。なお、漬物としては、しば漬け、梅干、梅漬け、桜漬け、ショウガ漬け、カブ漬けまたは福神漬けなどが挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤色に着色された漬物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、漬物を赤色に着色するためにタール系着色料である赤色102号や赤色106号、天然系着色料である赤キャベツ色素、赤ダイコン色素、ムラサキイモ色素などが用いられている。このような着色料により漬物を赤色に着色するための工業的方法としては、塩蔵した野菜を脱塩し、着色料を添加した調味液に浸漬することにより調味付けと着色を同時に行うといった方法が一般的である。
【0003】
このような製法に基づく漬物の製造方法としては、例えば西洋アカネ根、西洋アカネの組織培養細胞物または西洋アカネの毛状根培養物の1種以上から水または含水アルコールで抽出した色素を加水分解処理し、得られた色素とミョウバン類、有機酸塩類、炭酸塩類からなる均一な赤色色素組成物を用いて漬物類を着色してなることを特徴とする漬物の赤色着色法(特許文献1参照)、アカダイコン色素及び又はアカカブ色素を用いて着色することを特徴とする漬物類の赤色着色方法(特許文献2参照)などが提案されている。
【0004】
しかし、このような製法により得られる漬物は、通常、色素を含有する調味液に野菜等の主原料を浸漬して着色した状態またはそのように着色した後に軽く調味料を除去(液切り)した状態で市場に流通する。このため、そのような漬物を米飯や焼きそばなどの他の食品にトッピングしたり、たこ焼きの生地や魚肉の練り製品等に混ぜたりして他の食品を製造すると、調味液中の色素または漬物から滲み出た色素が他の食品に付着して色移りが生じ、その食品の外観が損なわれるといった問題が生じていた。
【0005】
このため、赤色に着色された漬物であって、他の食品への色移りが抑制された漬物を製造する方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−007456号公報
【特許文献2】特開平9−154532号公報、請求項14
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、赤色に着色された漬物であって、他の食品への色移りが抑制された漬物を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題に対して鋭意検討を行った結果、クチナシ赤色素またはベニコウジ色素の水溶液により漬物の主原料を着色した後、該野菜を酸性水溶液で処理することにより、上記課題が解決されることを見出し、この知見に基づいて本発明を成すに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)クチナシ赤色素を含有する水溶液で漬物の主原料を処理する工程の後に該主原料をpH4.5以下の酸性水溶液で処理する工程を含むことを特徴とする赤色に着色された漬物の製造方法、
(2)ベニコウジ色素を含有する水溶液で漬物の主原料を処理する工程の後に該主原料をpH4.5以下の酸性水溶液で処理する工程を含むことを特徴とする赤色に着色された漬物の製造方法、
(3)漬物が、しば漬け、梅干、梅漬け、桜漬け、ショウガ漬け、カブ漬けまたは福神漬けであることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の赤色に着色された漬物の製造方法、
から成っている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法により得られる漬物は、他の食品への色移りが抑制されている。
本発明の製造方法により得られる漬物は、他の食品にトッピングする又は他の食品の原材料とする方法で好ましく使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明でいう漬物とは、野菜、果実、畜肉、魚介類、きのこ、海藻などを主原料とし、その主原料を食塩、食酢、味噌、醤油その他の調味料の存在下で調味または熟成させて製造される食品をいう。本発明の漬物の種類に特に制限はないが、例えば、しば漬け(しば漬け風調味酢漬けを含む)、梅干(調味梅干を含む)、梅漬け(調味梅漬けを含む)、桜漬け、ショウガ漬け(例えば、紅ショウガ漬け、甘酢ショウガ漬け、新ショウガ漬けなど)、カブ漬け及び福神漬けなどが好ましい。
【0012】
本発明に用いられるクチナシ赤色素は、イリドイド配糖体中イリドイド骨格の4位にメトキシカルボニル基を有する物質(例えば、アカネ科クチナシの果実から抽出したゲニポシドなど)のエステル加水分解物を一級アミノ基含有物質(例えば、グリシンなどのアミノ酸およびタンパク加水分解物など)の存在下でβ−グルコシダーゼにより酵素処理することにより製造される。
【0013】
本発明に用いられるクチナシ赤色素の形態に特に制限はないが、例えばクチナシ赤色素水/アルコール溶液やデキストリンなどの粉末化基材を加えてクチナシ赤色素粉末として製剤化したものなどが挙げられる。クチナシ赤色素としては、例えばリケカラーSGR−20(粉末)(商品名;クチナシ赤色素粉末;理研ビタミン社製)、ガーデニアンレッド−N−(L)(商品名;クチナシ赤色素水/アルコール溶液;クエン酸含有;三井製糖社製)、ガーデニアンレッド−G(商品名;クチナシ赤色素粉末;三井製糖社製)などが商業的に製造および販売されており、本発明の漬物の製造にはこれらを用いることができる。
【0014】
本発明に用いられるベニコウジ色素は、ベニコウジ菌(即ち、Monascus属の糸状菌)の培養生成物から抽出して得られる水溶性の赤色色素であり、その主成分はモナスコルブリン類、アンカフラビン類などである。
【0015】
本発明に用いられるベニコウジ色素の形態に特に制限はなく、ベニコウジ色素水/アルコール溶液やベニコウジ色素粉末などが挙げられる。ベニコウジ色素水/アルコール溶液は、水/アルコール混合液を抽出溶媒としてベニコウジ菌の培養生成物からベニコウジ色素を抽出することにより調製できる。また、ベニコウジ色素粉末は、ベニコウジ色素水/アルコール溶液をデキストリンなどの粉末化基材と共に混合液とし、該混合液を常法により噴霧乾燥してベニコウジ色素粉末を得る方法、或いは該ベニコウジ色素水/アルコール溶液を濃縮し、真空凍結乾燥する方法などにより調製できる。
【0016】
ベニコウジ色素としては、例えばリケカラーR−30(商品名;ベニコウジ色素水/アルコール溶液;理研ビタミン社製)、リケカラーR−1000(P)(商品名;ベニコウジ色素粉末;理研ビタミン社製)、アンカレッドAlc300(商品名;ベニコウジ色素水/アルコール溶液;ヤヱガキ醗酵技研社製)などが商業的に製造および販売されており、本発明の漬物の製造方法にはこれらを用いることができる。
【0017】
本発明に係る漬物は、クチナシ赤色素を含有する水溶液(以下、クチナシ赤色素水溶液という)またはベニコウジ色素を含有する水溶液(以下、ベニコウジ色素水溶液という)で漬物の主原料を処理する工程(以下、第一工程ともいう)の後に、該主原料を酸性水溶液で処理する工程(以下、第二工程ともいう)を実施することにより製造される。
【0018】
クチナシ赤色素水溶液の調製方法に特に制限はないが、例えばクチナシ赤色素および食塩を約0〜70℃、好ましくは約5〜60℃で水に溶解し、必要であれば得られた水溶液に適量の無水クエン酸、クエン酸一水和物、クエン酸三ナトリウムなどの食品に酸味を付与するために使用可能な原料を添加して該水溶液の20℃におけるpHを4.0〜7.5の範囲に調整することにより調製される。
【0019】
クチナシ赤色素水溶液100質量%中には、クチナシ赤色素(色価100換算)約0.1〜5質量%、好ましくは0.5〜3質量%、残余が水となるように調整するのが好ましい。また、必要に応じ該クチナシ赤色素水溶液に食塩を含有させても良い。その場合、上記水溶液100質量%中の食塩の含有量は、該水溶液のpHが4.0以上4.5未満の場合には5.0質量%未満であることが好ましく、該水溶液のpHが4.5以上5.0未満の範囲の場合には7.5質量%未満であることが好ましく、該水溶液のpHが5.0以上7.5以下の範囲の場合には12質量%未満であることが好ましい。クチナシ赤色素水溶液のpHおよび食塩の含有量がこのような範囲であると、該水溶液にクチナシ赤色素を十分に溶解させることができ、漬物の主原料の着色が速く容易になるため好ましい。
【0020】
なお、クチナシ赤色素水溶液は、漬物の色調の調整等の目的でベニコウジ色素その他の色素を含有させたものでも良い。
【0021】
また、ベニコウジ色素水溶液の調製方法に特に制限はないが、例えばベニコウジ色素および食塩を約0〜70℃、好ましくは約5〜60℃で水に溶解し、必要であれば得られた水溶液に適量の無水クエン酸、クエン酸一水和物、クエン酸三ナトリウムなどの食品に酸味を付与するために使用可能な原料を添加して該水溶液の20℃におけるpHを5.0〜7.5の範囲に調整することにより調製される。
【0022】
ベニコウジ色素水溶液100質量%中には、ベニコウジ色素(色価60換算)約0.1〜5質量%、好ましくは0.5〜3質量%、残余が水となるように調整するのが好ましい。また、必要に応じ該ベニコウジ色素水溶液に食塩を含有させても良い。その場合、上記水溶液100質量%中の食塩の含有量は、12質量%未満であることが好ましい。ベニコウジ色素水溶液のpHおよび食塩の含有量がこのような範囲であると、該水溶液にベニコウジ色素を十分に溶解させることができ、漬物の主原料の着色が速く容易になるため好ましい。
【0023】
なお、ベニコウジ色素水溶液は、漬物の色調の調整等の目的でクチナシ赤色素その他の色素を含有させたものでも良い。
【0024】
上記クチナシ赤色素水溶液およびベニコウジ色素水溶液の調製に用いられる水としては、例えば蒸留水、イオン交換樹脂処理水、逆浸透膜処理水および限外ろ過膜処理水などの精製水並びに水道水などの飲料水などが挙げられる。
【0025】
本発明に用いられる漬物の主原料としては、例えば、野菜、果実、畜肉、魚介類、きのこ、海藻等が挙げられるが、野菜および果実が好ましい。野菜および果実としては、例えば、大根、カブ、人参、ゴボウ、ショウガ、レンコン、キュウリ、マクワウリ、シロウリ、カボチャ、ナス、スイカ、メロン、キャベツ、白菜、京菜、小松菜、ザーサイ、山菜、野沢菜、菜の花、スグキ菜、タカナ、タケノコ、フキ、ミョウガ、アサツキ、ウド、セロリー、ラッキョウ、ニンニク、ウメ、ニンニク、ナタマメなどが挙げられ、中でも、ラッキョウ、ウメ、大根、ショウガ、ナス、キュウリ、カブなどが好ましく用いられる。
【0026】
また、漬物の主原料としては、上述した野菜および果実等を洗浄したもの等の未加工品の他、これらをカットしたもの、乾燥や塩蔵等の保存処理をしたもの等の加工品が含まれる。なお、漬物の主原料として塩蔵により保存処理をしたものを用いる場合、あらかじめ該主原料を流水中で脱塩し、適度に水分を除去すること(例えば、圧搾率40%の圧搾の実施など)が好ましく行われる。
【0027】
第一工程の実施方法としては、漬物の主原料をクチナシ赤色素またはベニコウジ色素により着色可能な方法であれば特に制限はないが、例えばクチナシ赤色素水溶液またはベニコウジ色素水溶液を漬物の主原料に散布又は塗布する方法、クチナシ赤色素水溶液またはベニコウジ色素水溶液に漬物の主原料を浸漬する方法などが挙げられ、好ましくはクチナシ赤色素水溶液またはベニコウジ色素水溶液に漬物の主原料を浸漬する方法である。
【0028】
第一工程において漬物の主原料を浸漬する場合、浸漬時間や浸漬温度等の条件に特に制限はなく、これらの条件は、主原料の種類や主原料の加工の態様、製造される漬物の種類等に応じて適宜設定される。例えば塩蔵ショウガ、塩蔵キュウリおよび塩蔵ナスなどの塩蔵野菜を主原料としてしば漬けを製造する場合、例えば浸漬時間が1〜20日、浸漬温度が0〜15℃であり、クチナシ赤色素水溶液またはベニコウジ色素水溶液100質量部に対し塩蔵野菜20〜200質量部を浸漬することが好ましい。また、例えば塩蔵ショウガを主原料として紅ショウガを製造する場合、例えば浸漬時間が1〜20日、浸漬温度が0〜15℃であり、クチナシ赤色素水溶液またはベニコウジ色素水溶液100質量部に対し塩蔵ショウガ30〜300質量部を浸漬することが好ましい。
【0029】
第一工程の終了後、処理された漬物の主原料をクチナシ赤色素水溶液またはベニコウジ色素水溶液から取り出し、酸性水溶液で処理する工程(第二工程)を実施する。なお、第一工程の終了後、第二工程の実施前に、処理された漬物の主原料を水で洗浄するなどの方法により主原料の表面に付着した色素を除去し、さらに該主原料から適度に水分を除去すること(例えば、圧搾率40%の圧搾の実施など)が好ましく行われる。圧搾方法としては、機械的に加圧して行う方法や手で搾る方法などが挙げられる。
【0030】
第二工程に用いられる酸性水溶液は、水に適量の無水クエン酸、クエン酸一水和物、クエン酸三ナトリウムおよび食酢その他の食品に対し酸性の液性を付与可能な原料を添加して該水溶液の液性を酸性に調整したものであれば特に制限はないが、該水溶液のpHが4.5以下に調整されていることが好ましい。該酸性水溶液のpHがこのような範囲であると、本発明の色移り防止効果が十分に発揮される。なお、該酸性水溶液のpHの下限値に特に制限はないが、本発明により製造される漬物を喫食する際に感じられる酸味の観点から約1.5程度であることが好ましい。
【0031】
上記酸性水溶液の調製に用いられる水としては、例えば蒸留水、イオン交換樹脂処理水、逆浸透膜処理水および限外ろ過膜処理水などの精製水並びに水道水などの飲料水などが挙げられる。
【0032】
また、上記酸性水溶液は、食塩、調味料、保存料、甘味料、糊料などの副原料を添加して酸性の調味液として調整されたものであることが好ましい。このようにすると、第二工程と漬物の主原料の調味付けおよび熟成とを同時に行うことができ、製造効率の点から好ましい。また、本発明の目的および効果を阻害しない限り、上記酸性水溶液にクチナシ赤色素およびベニコウジ色素以外の色素を添加することもできる。
【0033】
上記酸性水溶液に食塩を添加する場合、該水溶液のpHが3.5以下のときは該水溶液100質量%中の食塩の含有量に特に制限はないが、該水溶液のpHが3.5を超えて4.0以下のときは7質量%以下であることが好ましく、該水溶液のpHが4.0を超えて4.5以下のときは3質量%以下であることが好ましい。上記酸性水溶液のpHおよび食塩の含有量がこのような範囲であると、本発明の色移り防止効果が十分に発揮される。
【0034】
第二工程の実施方法としては、第一工程により処理された漬物の主原料が上記酸性水溶液に接触可能な方法であれば特に制限はないが、例えば酸性水溶液を漬物の主原料に散布又は塗布する方法、酸性水溶液に漬物の主原料を浸漬する方法などが挙げられ、好ましくは酸性水溶液に漬物の主原料を浸漬する方法である。
【0035】
第二工程において漬物の主原料を浸漬する場合、浸漬時間や浸漬温度等の条件に特に制限はなく、これらの条件は、主原料の種類や主原料の加工の態様、製造される漬物の種類等に応じて適宜設定される。例えば塩蔵ショウガ、塩蔵キュウリおよび塩蔵ナスなどの塩蔵野菜を主原料としてしば漬けを製造する場合、例えば浸漬時間が1〜10日、浸漬温度が0〜15℃であり、酸性水溶液100質量部に対し塩蔵野菜20〜200質量部を浸漬することが好ましい。例えば千切りにした塩蔵ショウガを主原料として紅ショウガを製造する場合、例えば浸漬時間が1〜10日、浸漬温度が0〜15℃であり、酸性水溶液100質量部に対し塩蔵ショウガ30〜300質量部を浸漬することが好ましい。
【0036】
本発明の製造方法により得られた漬物は、食品としてそのまま喫食可能であるが、他の食品への色移りが抑制されているため、該漬物を米飯や焼きそばなどの他の食品にトッピングする方法、或いはたこ焼きや魚肉の練り製品等の原材料として用いることにより他の食品を製造するといった方法で好ましく使用することができる。
【0037】
なお、本発明の実施により他の食品への色移りが抑制される作用機序について断定的に説明することは困難である。しかし、クチナシ赤色素およびベニコウジ色素は、例えばpH4.5未満の酸性域では水に溶解し難い性質があり、クチナシ赤色素水溶液またはベニコウジ色素水溶液の液性をpH4.5未満に調整すると、該水溶液中で色素が不溶化し色素の凝集および沈澱が生じる。このため、本発明を実施すると、第一工程で主原料の内部に浸透した色素が第二工程で酸性水溶液に接触し、その内部で色素の不溶化および凝集が生じ、外部への色素の滲出が抑制されるといった作用機序が推測される。
【0038】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0039】
[製造例1]
[紅ショウガ漬けの製造]
【0040】
(1)クチナシ赤色素水溶液による浸漬処理
クチナシ赤色素(製品名:リケカラーSGR−20(粉末);色価100のクチナシ赤色素粉末;理研ビタミン社製)2.0gおよび食塩10gを20℃の精製水160gに溶解し、クエン酸ナトリウム水溶液(0.3g/mL)でpH6.0に調整した後、さらに同精製水を加えて全量200gのクチナシ赤色素水溶液を調製した。
次に、塩蔵ショウガを2mm幅に千切りし、流水中で1時間脱塩後網籠に入れ水切りし、脱塩ショウガを得た。得られた脱塩ショウガ100gを上記クチナシ赤色素水溶液のうち100gに加え5℃で6日間漬け込んだ。
【0041】
(2)ベニコウジ色素水溶液による浸漬処理
(1)のクチナシ赤色素2.0gに替えてベニコウジ色素(製品名:リケカラーR−30;色価60のベニコウジ色素水/アルコール溶液;理研ビタミン社製)2.0gを使用したこと以外は(1)と同様に実施し、脱塩ショウガをベニコウジ色素水溶液により浸漬処理した。
【0042】
(3)酸性水溶液による浸漬処理
(1)の脱塩ショウガをクチナシ赤色素水溶液から取り出し、その表面に付着したクチナシ赤色素を流水で洗い流した後、表1に示す配合で調製した調味液(pH2.4の酸性水溶液1)200gに加え室温(約20℃)で30分間漬け込み、100gの紅ショウガ漬け1を得た。
また、ベニコウジ色素水溶液に浸漬処理した(2)の脱塩ショウガについても同様に酸性水溶液1で処理し、100gの紅ショウガ漬け2を得た。
【0043】
【表1】

【0044】
(4)色移りの評価試験
(1)〜(3)で得た紅ショウガ漬け1および2各5gをペーパータオル上で10分静置し、紅ショウガ漬けからクチナシ赤色素またはベニコウジ色素がペーパータオルに滲み出る程度(色移りの程度)を目視により観察した。その結果、色移りは全く見られなかった。
【0045】
[製造例2]
[紅ショウガ漬けの製造]
【0046】
(1)クチナシ赤色素水溶液による浸漬処理
クチナシ赤色素(製品名:リケカラーSGR−20(粉末);色価100のクチナシ赤色素粉末;理研ビタミン社製)4gおよび食塩10gを20℃の精製水に溶解し、全量200gのクチナシ赤色素水溶液(pH4.2)を調製した。
次に、塩蔵ショウガを2mm幅に千切りし、流水中で1時間脱塩後網籠に入れ水切りし、脱塩ショウガを得た。得られた脱塩ショウガ50gを上記クチナシ赤色素水溶液のうち100gに加え10℃で5日間漬け込んだ。
【0047】
(2)ベニコウジ色素水溶液による浸漬処理
(1)のクチナシ赤色素4gに替えてベニコウジ色素(製品名:リケカラーR−30;色価60のベニコウジ色素水/アルコール溶液;理研ビタミン社製)4gを使用したこと以外は(1)と同様に実施し、ベニコウジ色素水溶液により浸漬処理した脱塩ショウガを得た。
【0048】
(3)酸性水溶液による浸漬処理
(1)の脱塩ショウガをクチナシ赤色素水溶液から取り出し、その表面に付着したクチナシ赤色素を流水で洗い流した。水洗された脱塩ショウガ50gを表2に示す配合で調製した調味液(酸性水溶液2〜5)100gに夫々加え10℃で3日間漬け込み、紅ショウガ漬け3〜6各50gを得た。
また、ベニコウジ色素水溶液に浸漬処理した(2)の脱塩ショウガについても同様に酸性水溶液2〜5で処理し、紅ショウガ漬け7〜10各50gを得た。
【0049】
【表2】

【0050】
(4)色移りの評価試験
無洗米(北海道きらら397)150gに水温約20℃の水道水220gを加えて45分間浸漬し、IH炊飯ジャー(型式:NH−JF05,3合炊き;象印マホービン社製)に入れて炊飯し、その後10分間蒸らし、米飯300gを得た。得られた米飯に上記(1)〜(3)で得た紅ショウガ漬け3〜10各5gを夫々載せて30分静置した後、該紅ショウガ漬けを米飯から除去し、赤色色素(クチナシ赤色素またはベニコウジ色素)が米飯に染着した程度(色移りの程度)を目視にて観察し、以下の基準に従って記号化した。クチナシ赤色素水溶液により着色した紅ショウガ漬け3〜6の結果を表3に示し、ベニコウジ色素水溶液により着色した紅ショウガ漬け7〜10の結果を表4に示す。
<評価基準>
◎:赤色色素の染着が全く見られない
○:赤色色素の染着がわずかに見られる
×:赤色色素の染着が見られる
【0051】
【表3】

【0052】
【表4】

【0053】
表3および4から明らかなように、酸性水溶液のpHが4.5以下である本発明の製造方法により製造された紅ショウガ漬け3〜5および紅ショウガ漬け7〜10は、色移りが抑制されている。
【0054】
[製造例3]
[しば漬けの製造]
【0055】
(1)クチナシ赤色素水溶液による浸漬処理
クチナシ赤色素(製品名:リケカラーSGR−20(粉末);色価100のクチナシ赤色素粉末;理研ビタミン社製)4gおよび食塩10gを20℃の精製水に溶解し、全量200gのクチナシ赤色素水溶液(pH4.2)を調製した。
次に、塩蔵ショウガを約2mm幅に千切りしたもの100g、塩蔵ナスを最大辺約50mm、最小辺約10mmの一口大にカットしたもの100gおよび塩蔵キュウリを最大辺約40mm、最小辺約10mmの一口大にカットしたもの600gを流水中で1時間脱塩後網籠に入れ水切りした。得られた混合物を圧搾率40%となるように手で絞り圧搾し、脱塩野菜を得た。
続いて、得られた脱塩野菜のうち150gを上記クチナシ赤色素水溶液200gに加え10℃で5日間漬け込んだ。
【0056】
(2)ベニコウジ色素水溶液による浸漬処理
(1)のクチナシ赤色素4gに替えてベニコウジ色素(製品名:リケカラーR−30;色価60のベニコウジ色素水/アルコール溶液;理研ビタミン社製)4gを使用したこと以外は(1)と同様に実施し、ベニコウジ色素水溶液により脱塩野菜を浸漬処理した。
【0057】
(3)酸性水溶液による浸漬処理
(1)の脱塩脱塩野菜をクチナシ赤色素水溶液から取り出し、その表面に付着したクチナシ赤色素を流水で洗い流した。水洗された脱塩野菜50gを圧搾率80%となるように手で絞り圧搾し、表5に示す配合で調製した調味液(酸性水溶液6および7)各100gに夫々加え10℃で2日間漬け込み、しば漬け1および2各50gを得た。
また、ベニコウジ色素水溶液により浸漬処理した(2)の脱塩野菜についても同様に実施し、しば漬け3および4各50gを得た。
【0058】
【表5】

【0059】
[製造例4]
[しば漬けの製造]
製造例3の(1)の方法と同様に調製した脱塩野菜50gを表6に示す配合で調製した調味液(酸性水溶液8〜11)各100gに夫々加え10℃で2日間漬け込み、赤色に着色されたしば漬け5〜8各50g得た。
【0060】
【表6】

【0061】
ここで、しば漬け1〜4の製造方法(製造例3)は本発明に係る実施例であり、しば漬け5〜8の製造方法(製造例4)は、赤色色素(クチナシ赤色素、ベニコウジ色素またはその他の赤色色素)の水溶液による浸漬処理の後に酸性水溶液で処理するのではなく、赤色色素を配合した酸性水溶液により一度に処理する点において本発明に対する比較例である。
【0062】
[色移りの評価試験]
無洗米(北海道きらら397)150gに水温約20℃の水道水220gを加えて45分間浸漬し、IH炊飯ジャー(型式:NH−JF05,3合炊き;象印マホービン社製)に入れて炊飯し、その後10分間蒸らし、米飯300gを得た。得られた米飯にしば漬け1〜8各5gを夫々載せて30分静置した後、該しば漬けを米飯から除去し、赤色色素が米飯に染着した程度(色移りの程度)を目視にて観察して評価した。その結果を以下の基準に従って記号化し、結果を表7に示した。
◎:赤色色素の染着が全く見られない
○:赤色色素の染着がわずかに見られる
×:赤色色素の染着が見られる
【0063】
【表7】

【0064】
表7から明らかなように、本発明の製造方法により得られたしば漬け1〜4は、いずれも米飯に対する色移りが完全に抑制されていた。これに対し、比較例の製造方法により得られたしば漬け5〜8は、いずれも米飯に対する色移りが見られた。なお、酸性調味液8および9では色素の凝集が生じたため、該調味液により得られたしば漬け5および6の表面には凝集した色素が付着した状態であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クチナシ赤色素を含有する水溶液で漬物の主原料を処理する工程の後に該主原料をpH4.5以下の酸性水溶液で処理する工程を含むことを特徴とする赤色に着色された漬物の製造方法。
【請求項2】
ベニコウジ色素を含有する水溶液で漬物の主原料を処理する工程の後に該主原料をpH4.5以下の酸性水溶液で処理する工程を含むことを特徴とする赤色に着色された漬物の製造方法。
【請求項3】
漬物が、しば漬け、梅干、梅漬け、桜漬け、ショウガ漬け、カブ漬けまたは福神漬けであることを特徴とする請求項1または2に記載の赤色に着色された漬物の製造方法。

【公開番号】特開2012−213385(P2012−213385A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−56600(P2012−56600)
【出願日】平成24年3月14日(2012.3.14)
【出願人】(390010674)理研ビタミン株式会社 (236)
【Fターム(参考)】