説明

走査型顕微鏡

【課題】光学系の光学限界能を超えた標本の画像を取得することができる走査型顕微鏡を提供する。
【解決手段】走査型顕微鏡10は、光源装置20から照射された照明光により走査光学系30を用いて標本70を走査する照明光学系と、標本70からの光を検出部(例えば、第1検出部40)へ導く集光光学系と、走査光学系30による標本70における照明光の走査位置を制御するとともに、照明光の強度変化が正弦波状波形の1/n乗となるように、走査位置に応じて制御する制御部100と、を有することを特徴とする。但し、nは1以上の整数である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査型顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、顕微鏡光学系の分解能よりも高い分解能で標本を観察する超解像技術について、様々な手法が提案されている。それらの中には、構造化照明と画像処理とを組み合わせる方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−216778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
構造化照明を行う方法として、例えば、回折格子で空間変調した照明光を標本に照射する構成があるが、励起光と蛍光の共通光路中に標本の共役面が形成されるように構成させる、一般的な走査型顕微鏡に適用することは現実的ではない。
【0005】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、光学系の光学限界能を超えた標本の画像を取得することができる走査型顕微鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明に係る走査型顕微鏡は、光源部から照射された照明光により走査手段を用いて標本を走査する照明光学系と、標本からの光を検出部へ導く集光光学系と、走査手段による標本における照明光の走査位置を制御するとともに、照明光の強度変化が正弦波状波形の1/n乗となるように、走査位置に応じて制御する制御部と、を有することを特徴とする。但し、nは1以上の整数である。
【0007】
このような走査型顕微鏡において、光源部は、音響光学素子を含み、制御部は、走査位置に応じて音響光学素子を正弦波状波形の1/n乗の駆動信号を用いて制御することにより、照明光の強度変化が正弦波状波形の1/n乗となるように制御することが好ましい。
【0008】
また、このような走査型顕微鏡において、光源部は、レーザ光源を含み、制御部は、走査位置に応じてレーザ光源を正弦波状波形の1/n乗の駆動信号を用いて制御することにより、照明光の強度変化が正弦波状波形の1/n乗となるように制御することが好ましい。
【0009】
また、このような走査型顕微鏡において、制御部は、照明光の正弦波状波形の位相を変化させた照明状態で取得した複数の画像から演算により標本の画像を生成することが好ましい。
【0010】
また、このような走査型顕微鏡において、照明光の正弦波状波形の位相を変化させた照明状態で取得した複数の画像は、照明光の正弦波状波形の位相を変化させることにより照明縞パターンの位相が変化した照明状態で取得した複数の画像であることが好ましい。
【0011】
また、このような走査型顕微鏡において、照明光の正弦波状波形の位相を変化させた照明状態で取得した複数の画像は、照明光の正弦波状波形の位相を走査ライン毎に変化させることにより照明縞パターンが回転した照明状態で取得した複数の画像であることが好ましい。
【0012】
また、このような走査型顕微鏡において、制御部は、強度変調の1周期分のデータを記憶する駆動波形テーブルと、駆動波形テーブルのプリセット値として指定された位置を開始位置として、データを循環読み出しするカウンタと、を有し、照明状態に応じてプリセット値を設定して読み出したデータにより正弦波状波形を制御することが好ましい。
【0013】
また、このような走査型顕微鏡は、標本を介して照明光学系に対向する位置に配置され、標本を透過した照明光を検出する検出部をさらに有することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明を以上のように構成すると、光学系の光学限界能を超えた標本の画像を取得することができる走査型顕微鏡を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】走査型顕微鏡の構成を示す説明図である。
【図2】超解像の画像を取得するための照明状態を説明するための説明図である。
【図3】上記走査型顕微鏡の制御部の構成を示す説明図である。
【図4】照明縞信号発生器の構成を示す説明図である。
【図5】同期信号発生器から出力される同期信号のタイミングを示す説明図である。
【図6】AOTFの駆動方法を説明するための説明図であって、(a)は駆動波形を示し、(b)は駆動波形テーブルの構成を示す。
【図7】位相をずらした縞照明の駆動波形を示す説明図である。
【図8】縞照明をπ/3回転させる場合の駆動波形を示す説明図である。
【図9】2光子励起のための駆動波形を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照して説明する。まず、図1を用いて走査型顕微鏡の光学系の構成について説明する。この走査型顕微鏡10は、光源装置20から放射されたレーザ光(照明光)をステージ上に載置された標本70に照射して走査する走査光学系30と、標本70からの蛍光(観察光)を検出する第1検出部40及び第2検出部50と、標本70を透過した照明光を検出する第3検出部60と、を有して構成される。なお、以降の説明において、走査光学系30の光軸方向をz軸とし、このz軸に直交する面内で互いに直交する方向をそれぞれx軸及びy軸とする。
【0017】
この走査型顕微鏡10において、光源装置20は、波長が異なる複数のレーザ光を、同時または個別に射出することが可能に構成された光源21と、後述するAOTFドライバの制御により、通過するレーザ光の強度を0〜100%の間で変化させる(強度変調させる)強度変調素子であるAOTF(音響光学素子)22とから構成されている。なお、以降の説明においては、光源21から赤外光および可視光の2種類のレーザ光が射出されるものとして説明する。また、この光源21から射出される赤外光は、標本70の多光子励起を誘発するための、所定の周期で射出される非常に短いパルス状の光(例えば、100フェムト秒のパルス光であって、以下、「IRパルス光」と呼ぶ)であるものとする。
【0018】
走査光学系30は、光源装置20側から順に、第1ダイクロイックミラー31、走査ユニット32、スキャンレンズ33、第2対物レンズ34、第2ダイクロックミラー35、及び、対物レンズ36を有して構成されている。
【0019】
また、第1検出部40は、NDD(Non Descanned Detector)であって、第2ダイクロイックミラー35の側方に配置され、この第2ダイクロイックミラー35側から順に、第1集光レンズ41、第2集光レンズ42、及び、第1光検出器43から構成される。ここで、第1光検出器43の受光面は対物レンズ36の射出瞳Pの位置と略共役に配置されている。
【0020】
また、第2検出部50は、第1ダイクロイックミラー31の側方に配置されており、この第1ダイクロイックミラー31側から順に、第3集光レンズ51、対物レンズ36の標本側の焦点面と略共役な位置に配置された遮光板52、及び、第2光検出器53から構成される。ここで、遮光板52にはピンホール52aが設けられており、このピンホール52aは走査光学系30の光軸を含むように配置されている。
【0021】
また、第3検出部60は、標本70を挟んで対物レンズ36の反対側に配置されており、この標本70側から順に、第4集光レンズ61及び第3光検出器62から構成されている。
【0022】
また、この走査型顕微鏡10には、AOTF22及び走査ユニット32の作動を制御するとともに、走査ユニット32でレーザ光を走査する位置(標本70上の走査面内の座標)及び第1、第2及び第3光検出器43,53,62で検出された値を処理する制御部100(図1には図示していない)が設けられている。なお、第1〜第3光検出器43,53,62としては、例えば、PMT(Photo Multiplier Tube:光電子倍増管)が用いられる。
【0023】
この走査型顕微鏡10において、光源装置20の光源21から放射された略平行光束であるレーザ光は、AOTF22を透過した後、第1ダイクロイックミラー31を透過し、走査ユニット32に入射する。この走査ユニット32は、光軸に直交する方向(上述のx軸方向及びy軸方向)にレーザ光を2次元的に走査するものであり、例えば、レーザ光を反射することによりこのレーザ光を光軸に直交する面内で所定の方向(この方向をx軸方向とする)に偏向させる第1の偏向素子、及び、光軸に直交する面内で第1の偏向素子の偏向方向と略直交する方向(この方向をy軸方向とする)に偏向させる第2の偏向素子からなる2つの偏向素子で構成されている。そして、この走査ユニット32を出射したレーザ光(略平行光束)はスキャンレンズ33により一次像面Iに結像された後、第2対物レンズ34を通過することにより再び略平行光束となり、第2ダイクロイックミラー35を透過して対物レンズ36によって標本70上の対物レンズ36の焦点面に集光される。なお、標本70上に集光されたレーザ光は点像となっており、その点像の径は対物レンズ36の開口数(NA)で決まる大きさである。
【0024】
ここで、本実施形態に係る走査型顕微鏡10において、標本70の観察時には、光源21から放射されるレーザ光のうち、IRパルス光又は可視光の何れか一方が、標本70の画像を得るためのイメージング用の照明光(励起光)として用いられる。
【0025】
例えば、IRパルス光を照明光(励起光)として用いる場合、可視光は全く使用されないか、又は、標本70の光刺激用として使用される。この場合、IRパルス光が標本70に照射されると、標本70からは多光子励起による蛍光が発生し、この蛍光は観察光となって対物レンズ36に入射し、この対物レンズ36で略平行光束となり第2ダイクロイックミラー35で反射されて第1検出部40に入射する。そして、この観察光は第1集光レンズ41及び第2集光レンズ42で必要な径の略平行光束に変換されて第1光検出器43に入射して検出される。なお、この第1検出部40には、標本70や対物レンズ36等で反射され、観察光とともにこの第1検出部40に入射するIRパルス光を除去するために、図示しないIRカットフィルタを配置しても良い。
【0026】
一方、可視光を照明光(励起光)として用いる場合、IRパルス光は標本70の光刺激用として使用しても良い。この場合、観察光が標本70に照射されると、標本70からは蛍光が発生し、この蛍光は観察光となって対物レンズ36に入射し、この対物レンズ36で略平行光束となり第2ダイクロイックミラー35を透過する。そして、この観察光は、第2対物レンズ34により一次像面Iに結像された後、さらにスキャンレンズ33で略平行光束にされて走査ユニット32に入射し、この走査ユニット32でデスキャンされて出射し、第1ダイクロイックミラー31で反射されて第2検出部50内に入り、第3集光レンズ51により遮光板52のピンホール52a上に集光される。この第2検出部50において、遮光板52のピンホール52aを通過した光のみが第2光検出器53に到達し検出される。
【0027】
上述のように、遮光板52のピンホール52aは標本70上の走査面に集光されたレーザ光の点像と共役であり、標本70上の照射領域(対物レンズ36の焦点面)から出た観察光(蛍光)はこのピンホール52aを通過することができる。一方、標本70上の他の領域から出た光のほとんどはこのピンホール52a上には集光されず、通過することができない。
【0028】
以上より、走査光学系30は、光源部である光源装置20から照射された照明光により標本70を走査する照明光学系及び走査手段、並びに、標本70からの光を第1及び第2検出部40,50に導く集光手段の機能を有している。そして、図示しない制御部100が走査ユニット32の走査に同期されて第1及び第2光検出器43,53で検出された光信号を処理することにより、標本70上のレーザ光の走査位置と光信号から求められる輝度を用いて、標本70の走査面における二次元的な画像を得ることができる。これによりこの走査型顕微鏡10は、高い分解能で標本70の像を得ることができる。このように、本実施形態に係る走査型顕微鏡10は、走査型多光子顕微鏡及び走査型共焦点顕微鏡の両方として使用することができる。なお、走査型多光子顕微鏡として使用する場合は、第2検出部50は不要であり、走査型共焦点顕微鏡として使用する場合は、第1検出部40は不要である。
【0029】
ここで、本実施形態に係る走査型顕微鏡10は、この走査型顕微鏡10の光学分解能を超えた分解能(以下、「超解像」と呼ぶ)の画像を得るために、光源装置20に設けられたAOTF22のレーザ光の透過率を走査ユニット32の動作に応じて変化させる。その際、IRパルス光を励起光として用いる場合は(2光子励起)、標本70上の走査領域に対して強度変化の2乗が正弦波状になる(レーザ光の強度変化が正弦波の1/2乗になる)ようにレーザ光の強度変調を行い、可視光を励起光として用いる場合は(1光子励起)、標本70上の走査領域に対して強度変化が正弦波状になるように、レーザ光の強度変化を行って、異なる照明状態の画像を複数取得するように構成されている。つまり、レーザ光の強度変化のn乗が正弦波状になるように、即ち、レーザ光の強度変化が正弦波状波形の1/n乗となるように行う(nは、励起時の励起光の光子数)。具体的には、可視光を励起光として用いる場合(1光子励起)において、図2に示すように、走査領域においてx軸方向にレーザ光の強度が正弦波状に変化する縞状の照明状態を基準とし(この照明状態を「0位相」と呼ぶ)、この0位相の状態から正弦波状波形の位相をx軸方向に−2π/3及び+2π/3ずらした照明状態(それぞれ「−2π/3位相」及び「+2π/3位相」と呼ぶ)の3つの照明状態を1組とし(この組を「θrad」と呼ぶ)、さらに、この組に加えてこの組のそれぞれの照明縞を光軸を中心に+π/3rad及び−π/3rad回転させ(それぞれの組を「θ+π/3rad」及び「θ−π/3rad」と呼ぶ)、合計9つの照明状態の標本70の画像を取得し(9枚の画像を取得し)、これらの画像から超解像の画像を取得するように構成されている。
【0030】
以下に、レーザ光の強度変調をして標本70を走査するための構成について図3を用いて説明する。なお、図3は、走査型顕微鏡10の制御部100の構成を中心に示し、光学系は主要部分だけを示している。また、ここでは、可視光を励起光として用いる場合は(1光子励起)標本70から出射した蛍光を第2検出部50を用いて画像の取得を行う場合について説明する。
【0031】
この制御部100は、AOTF22の透過率、走査ユニット32によるレーザ光(照明光)の走査位置(座標)、並びに、第2光検出器53による蛍光(観察光)の検出及び記憶を同期させるための同期信号を発生する同期信号発生器101、同期信号によりレーザ光の強度変調を行うための信号(照明縞信号)を発生する照明縞信号発生器102、デジタル信号である照明縞信号をアナログ信号に変換する外部DA変換素子103、アナログ信号の照明縞信号によりAOTF22の透過率を制御するAOTFドライバ104、同期信号発生器101から出力される駆動信号により走査ユニット32の第1及び第2の偏向素子の回転角を制御するスキャナドライバ105、第2光検出器53の出力信号を増幅する信号増幅器106、同期信号発生器101から出力される信号により、第2光検出器53の出力信号(アナログ信号)をデジタル信号に変換するAD変換素子107,及び、このデジタル信号を記憶するメモリ108から構成される。
【0032】
ここで、走査領域上の512×512の点の画像(点像)を取得する場合を例に説明する。なお、以降の説明において、同期信号発生器101は、AOTF22を駆動するための基準クロックclkA、走査領域上の点像を取得するタイミングを示すピクセルクロックpclk及び水平同期信号Hsync、点像の情報をメモリ108に記憶するタイミングを示すメモリコントロールmem_cnt、並びに、走査ユニット32を作動させるための駆動信号sigAを出力する。
【0033】
同期信号発生器101において、ピクセルクロックpclkは、1ライン512分割された等間隔のクロックとなり、これに同期して等速の駆動信号sigAを発生させる。また、水平同期信号Hsyncは、1ライン毎の水平方向に同期した信号である(ピクセルクロックpclkが512カウントされる毎に変化するクロックである)。また、同期信号発生器101は、ピクセルクロックpclkに同期した基準クロックclkAを照明縞信号発生器102へと出力し、照明縞信号発生器102はピクセルクロックpclkに同期した基準クロックclkAにて照明縞信号を構成することができる。これら、駆動信号sigA、水平同期信号Hsync、ピクセルクロックpclk、及び、このピクセルクロックpclkに同期した基準クロックclkAの概略タイミングチャートを図5に示す。
【0034】
次に、9枚の画像取得に必要なレーザ光の強度変調の発生方法、及び、照明縞信号発生器102について述べる。今、図6(a)に示すように、照明縞を発生させるための正弦波の駆動波形を300個の離散値に分割し、それぞれをN0からN299とし、このデータを「駆動データ」と呼ぶ。この図6(a)に示す駆動波形を上述のθradにおける0位相としたとき、これらの駆動データを図4に示す駆動波形テーブル102bに持ち、同期信号発生器101により生成された基準クロックclkAを300データを1周期としてカウンタ102aにてカウントし、駆動波形テーブル102bより順次データを読み出す。0位相ではプリセット値は0であり、1周期でカウンタ102aをリセットする。+2π/3位相及び−2π/3位相ずらした波形は、プリセット値を100及び200とすれば良い。すなわち、+2π/3位相のときは、駆動データをN100から読み出せば良く、また、−2π/3位相のときは、駆動データをN200から読み出せば、図7に示すように駆動波形をずらすことができる。上述のように、N299まで読み出されると、カウンタ102bがリセットされてN0から順次データが読み出される(この動作を「循環読み出し」と呼ぶ)。
【0035】
ここで、対物レンズ36の解像限界をfmaxとすると、この解像限界は対物レンズ36の開口数NAと波長λからfmax=2NA/λで定義される。一方、サンプリングによる空間周波数をfsampleとすると、この空間周波数は標本画像を取得するためのピクセルサイズPからfsample=2/Pとなる。この走査型顕微鏡10で取得した画像が対物レンズ36の解像限界を超えるためには、fmax<fsampleの関係を有することが必要であり、実空間では対物レンズ36の解像限界が2.5〜3画素程度になっていることが望ましい。すなわち、2画素未満の場合、対物レンズ36の性能を活かしていないと言える。そのため、上述の駆動波形は2画素以上で1周期とすることが必要である。本実施形態では、3画素(ピクセルクロックpclkが3クロック)で、駆動波形が1周期となるように制御されている。
【0036】
次に、照明縞を回転させる方法を示す。この場合も、照明縞信号発生器102により駆動波形テーブル102bから駆動データを読み出すときのプリセット値を各々の回転に合わせて設定すれば良いが、位相をずらすだけの場合はすべてのラインに対して1画像で同じプリセット値を与えれば良いのに対して、回転の場合はプリセット値を1ライン毎に設定する必要がある。例えば、0位相からπ/3rad回転させる場合(θ+π/3radの0位相とする場合)、ライン毎に駆動波形をπ/3位相ずつずらして行けばよいため、1ライン目はプリセット値を0とし、2ライン目はプリセット値を50とし、3ライン目はプリセット値を100とし、4ライン目はプリセット値を150とし、5ライン目はプリセット値を200とし、6ライン目はプリセット値を250とする。1ライン目から6ライン目までを1周期とすると、7ライン目はプリセット値を再び0とし、同様な繰り返しによりプリセット値を設定すると、図8に示すように、+π/3rad回転した照明縞パターンを発生することができる。その他の画像においても同様に適宜プリセット値を与えることで、図2に示すような9種類の照明縞パターンを構築することができる。
【0037】
照明縞信号発生器102にて照明縞信号(照明パターン)を生成し、外部DA変換素子103にて基準クロックclkAと同期したアナログ信号(正弦波駆動信号)をAOTFドライバ104へ入力し、AOTF22の透過率を制御してレーザ光の強度変調を行う。このレーザ光により励起されて得られた蛍光は第2光検出器53にて電気信号へと変換された後、信号増幅器106にて増幅され、AD変換素子107でピクセルクロックpclkに同期してサンプリングされる。そして、このAD変換素子107にてサンプリングされた画像データは、同期信号発生器101より発生するメモリコントロール信号mem_cntにてコントロールされてメモリ108へ格納される。
【0038】
このように、本実施形態に係る走査型顕微鏡10では、θradのときの0位相の1周期分の駆動波形を照明縞信号発生器102の駆動波形テーブル102bに記憶し、カウンタ102aのプリセット値を縞状の照明状態に応じて設定するだけで、上述の9つの縞状の照明状態を実現することができるので、少ない記憶領域及び簡単な構成で、超解像を得るための照明状態を発生させることができる。
【0039】
以上のようにして、縞状の照明状態を変化させて格納された9枚の画像データから、演算により最終的に超解像の1枚の画像を得る。以下に超解像の画像を得る方法について説明する。
【0040】
画像上の点r=(x,y)における点像強度分布P(r)を持つ顕微鏡光学系において、標本70上の点O(r)に、ある強度分布を持った照明を与えると標本70におけるレーザ光(照明光)は空間変調を受ける。単一の空間周波数成分ベクトルKを持つ正弦波状の照明の場合、空間変調成分としては、0,±1次の3変調成分となる。これらの空間変調をm1exp(ilkr+ilφ),(l=1,0,−1)と表記すると、空間変調を受けた標本70の像は、次式(1)のように表すことができる。ここで、rは標本70上の位置ベクトルであり、Krは内積を示し、*は畳み込み積分を示す。
【0041】
【数1】

【0042】
上述のように縞照明を変化させて画像の取得を行うと、同一の変調周波数、変調振幅を持ち、変調位相φのみ異なる画像がN枚(ここでは、3枚)得られるが、このときのj番目の画像の照明の位相をφjと表すと、j番目の画像は次式(2)のように表され、N個の方程式が得られる。
【0043】
【数2】

【0044】
また、光検出器(上述の例では第2光検出器53)の入力光量と出力信号の事前の測定データから、入射光量I(r)を出力信号S(r)の多項式によって次式(3)のように近似する。なお、事前の測定データは、テーブルとして制御部100のメモリに記憶しておくことが望ましい。
【0045】
【数3】

【0046】
なお、入射光量と出力信号の関係は、光検出器の温度によって異なる。したがって、実際に利用する光検出器の温度に合わせて、それぞれデータを取得し、近似する必要があり、それぞれの温度でデータを取得し、テーブルとして制御部100のメモリに記憶しておくことが望ましい。
【0047】
上述の式(2)及び式(3)より、次式(4)のようなN個の方程式が得られる。
【0048】
【数4】

【0049】
これらの方程式ではO(r)exp(ilKr),(l=−1,0,1)が未知数であり、それらはN≧3の画像を取得することで求めることができる。N個の方程式(4)のうち3つの式を用いると、次式(5)が得られる。
【0050】
【数5】

【0051】
この方程式を解くことで、O(r)exp(ilKr)*P(r),(l=−1,0,1)を求めることができる。
【0052】
または、N≧4の画像から、公知の手法により最小二乗法を用いて求めても良い。最小二乗法を用いることでノイズを低減させることができる。これらは、l=0が超解像ではない通常の顕微鏡像に、l=±1が超解像成分に対応する。
【0053】
上記で求められるO(r)exp(ilKr)*P(r),(l=−1,0,1)は波数空間では、それぞれOk(k)Pk(r+1K),(l=−1,0,1)に対応する。ここで、Ok(k)は標本70における発光体の分布のフーリエ変換、Pk(k)は強度分布を持たない照明を与えた場合の顕微鏡光学系が持つ伝達関数(OTF:Optical Transfer Function)である。
【0054】
強度分布を持たない照明を与えた場合の通常の伝達関数は光の波長λ、対物レンズ36の開口数NAに対してk=−2NA/λ〜2NA/λであるから、上記で得られた標本情報O(r)exp(ilKr)*P(r),(l=−1,0,1)は、l=−1,0,1に対して、k=−2NA/λ−K〜2NA/λ−K、k=−2NA/λ〜2NA/λ、k=−2NA/λ+K〜2NA/λ+Kの情報を含むことが分かる。従って、O(r)exp(ilKr)*P(r)全体としてはk=−2NA/λ−K〜2NA/λ+Kまでの情報を含むので、高い解像度を持った顕微鏡画像を得ることができる。
【0055】
上述のように、強度変調の位相をずらした照明状態及びこれらを回転させた照明状態により得られた9枚の画像から超解像画像を得る場合、例えば、光軸方向のセクショニング性能(半値幅)は330nm、横方向の分解能(半値幅)は100nmとすることができる。
【0056】
なお、標本70を透過した照明光(励起光)を第3検出部60の第3光検出器62で検出し、標本70上のレーザ光の走査位置と光信号から求められる輝度を用いて、標本70の透過像を得ることができる。この場合、照明光の強度変調の位相がずれた3枚の画像(−2π/3位相、0位相、+2π/3位相の画像)を重ね合わせることにより、標本70の透過像を得ることができる。
【0057】
また、以上の説明では、IRパルス光を励起光として用いる場合は(2光子励起)、標本70から出射した蛍光を第1光検出部40の第1光検出器43で検出し、可視光を励起光として用いる場合は(1光子励起)、標本70から出射した蛍光を第2検出部50の第2光検出器53で検出して超解像画像を得るように構成していたが、可視光を励起光として用いる場合は(1光子励起)、第2光検出器53の位置に分光装置を配置し、標本70から出射した蛍光を所定の波長毎に分光して検出し、それぞれの波長毎の超解像画像を得ることもできる。多波長の蛍光観察を行う場合、ある蛍光成分の中に複数の蛍光成分のもれ込みが存在するため、上述の9枚の画像毎にアンミックス処理を行い単独の蛍光サンプル毎の蛍光画像を取得し、この9枚の単独の蛍光画像から上述の処理により超解像の蛍光画像を得ることが好ましい。
【0058】
なお、上述の照明光の強度は、正弦波状に変調した場合について説明したが、2光子励起による観察を行うときは、図9に示すように、強度分布の2乗が正弦波状になるように変調することが望ましい。この場合も、図9に示す強度分布から、所定の個数(例えば300個)に分けた駆動データを駆動波形テーブル102bに格納し、同期信号発生器101により生成された基準クロックclkAを分割数(300データ)を1周期としたカウンタ102aにてカウントし、駆動波形テーブル102bより順次データを読み込んでAOTF22を制御することにより実現できる。
【0059】
また、以上の説明においては、AOTF22を駆動するための駆動波形を、離散値に変換して駆動波形テーブル102bに格納し、この駆動波形テーブル102bのデータに基づいて制御する構成を示したが、正弦波を発生する信号発生器と、この正弦波の位相を任意の位相だけ遅延させることができる遅延回路とを用いて、AOTFドライバ104の作動を制御するように構成することも可能である。遅延量については、上述の説明と同じである。
【0060】
また、以上の説明では、光源装置20を、レーザ光を放射する光源21と、このレーザ光の強度変調を行うAOTF22とから構成した場合について説明したが、この構成は一例であり、本発明はこれに限定されることはない。例えば、レーザ光の強度を直接変化させることができるレーザ光源を用いることもできる。
【0061】
また、AOTF22は、光源装置20の構成である必要はなく、IRパルス光を励起光として用いる場合は(2光子励起)、光源21から第2ダイクロイックミラー35までの空間であれば、任意の位置に配置可能である。
【0062】
また、第3検出部60は、標本70を透過した照明光(励起光)を検出することによって透過像を取得するために用いるが、IRパルス光を励起光として用いる場合は(2光子励起)、標本70から発生した蛍光を効率よく取得するために、透過蛍光を取得するためにも用いてもよい。この場合、透過蛍光取得のタイミングは、第1検出部40による蛍光取得のタイミングに同期させる必要がある。
【符号の説明】
【0063】
10 走査型顕微鏡
20 光源装置 21 光源 22 AOTF(強度変調素子)
30 走査光学系 31 第1ダイクロイックミラー 32 走査ユニット
33 スキャンレンズ 34 第2対物レンズ
35 第2ダイクロイックミラー 36 対物レンズ
40 第1検出部 41 第1集光レンズ 42 第2集光レンズ
43 第1光検出器
50 第2検出部 51 第3集光レンズ
52 遮光板 52a ピンホール 53 第2光検出器
60 第3検出部 61 第4集光レンズ 62 第3光検出器
70 標本 100 制御部 101 同期信号発生器
102 照明縞信号発生器 102a カウンタ 102b 駆動波形テーブル
103 DA変換素子 104 AOTFドライバ
105 スキャナドライバ 106 信号増幅器 107 AD変換素子
108 メモリ I 一次像面 P 射出瞳

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源部から照射された照明光により走査手段を用いて標本を走査する照明光学系と、
前記標本からの光を検出部へ導く集光光学系と、
前記走査手段による前記標本における前記照明光の走査位置を制御するとともに、前記照明光の強度変化が正弦波状波形の1/n乗となるように、前記走査位置に応じて制御する制御部と、を有することを特徴とする走査型顕微鏡。
但し、nは1以上の整数である。
【請求項2】
前記光源部は、音響光学素子を含み、
前記制御部は、前記走査位置に応じて前記音響光学素子を正弦波状波形の1/n乗の駆動信号を用いて制御することにより、前記照明光の強度変化が正弦波状波形の1/n乗となるように制御することを特徴とする請求項1に記載の走査型顕微鏡。
【請求項3】
前記光源部は、レーザ光源を含み、
前記制御部は、前記走査位置に応じて前記レーザ光源を正弦波状波形の1/n乗の駆動信号を用いて制御することにより、前記照明光の強度変化が正弦波状波形の1/n乗となるように制御することを特徴とする請求項1に記載の走査型顕微鏡。
【請求項4】
前記制御部は、前記照明光の前記正弦波状波形の位相を変化させた照明状態で取得した複数の画像から演算により前記標本の画像を生成することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の走査型顕微鏡。
【請求項5】
前記照明光の前記正弦波状波形の位相を変化させた照明状態で取得した複数の画像は、前記照明光の前記正弦波状波形の位相を変化させることにより照明縞パターンの位相が変化した照明状態で取得した複数の画像であることを特徴とする請求項4に記載の走査型顕微鏡。
【請求項6】
前記照明光の前記正弦波状波形の位相を変化させた照明状態で取得した複数の画像は、前記照明光の前記正弦波状波形の位相を走査ライン毎に変化させることにより照明縞パターンが回転した照明状態で取得した複数の画像であることを特徴とする請求項4に記載の走査型顕微鏡。
【請求項7】
前記制御部は、
前記強度変調の1周期分のデータを記憶する駆動波形テーブルと、
前記駆動波形テーブルのプリセット値として指定された位置を開始位置として、前記データを循環読み出しするカウンタと、を有し、前記照明状態に応じて前記プリセット値を設定して読み出した前記データにより前記正弦波状波形を制御することを特徴とする請求項4〜6のいずれか一項に記載の走査型顕微鏡。
【請求項8】
前記標本を介して前記照明光学系に対向する位置に配置され、前記標本を透過した前記照明光を検出する検出部をさらに有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の走査型顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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