説明

走査電子顕微鏡の信号検出装置およびその表示装置

【課題】本発明は、コンパクトで、かつ良好な低真空二次電子像の観察ができる電子顕微鏡を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、対物レンズを下部に備える鏡体と、前記鏡体の下方に位置し、内部に試料台を備える低真空の試料室を有する電子顕微鏡において、軸方向に亘り同じ外径をした円筒形を含む非コニカル形状の前記対物レンズは、軸方向が縦になるように配置され、前記試料台に対向する前記対物レンズの下面側に反射電子検出器と低真空二次電子検出器用バイアス電極を設け、反射電子側絶縁板と二次電子側絶縁板を介して前記反射電子検出器と前記低真空二次電子検出器用バイアス電極をネジ等の固定手段で前記対物レンズに固定することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査電子顕微鏡の信号検出装置およびその表示装置に関する。
【0002】
走査電子顕微鏡は、対物レンズ、反射電子検出器、低真空二次電子検出器を有する。対物レンズは、通常、コニカル形状のレンズが用いられる。
【背景技術】
【0003】
試料室が低真空雰囲気中で二次電子像観察を行う方法として、セコンダリー エレクトロン イメージング イン ザ バリアブル プレッシャー スキャニング エレクトロン マイクロスコープ、スキャニング20、436−441(1998)(非特許文献1)の論文で述べられている低真空雰囲気中でのガス増幅法を用いた低真空二次電子検出器を応用した手法が一般的に用いられている。
【0004】
ガス増幅法を用いるには試料近傍にバイアス電極を設ける必要があり、その設置方法がいくつか考案されている。
【0005】
特開2002−134055号公報(特許文献1)では対物レンズ下面にバイアス電極が直接固定されている。特開2001−126655号公報(特許文献2)では二次電子検出器のコレクタ電極を併用する手法が考案されている。
【0006】
対物レンズの下面にバイアス電極を直接固定する手法では、試料と対物レンズの間に検出器を挿入する必要がある反射電子検出器とバイアス電極が干渉し、同時装着が困難である。
【0007】
二次電子検出器のコレクタ電極を併用する手法ではレンズ側面から電界を試料表面に与えるため、対物レンズがコニカル形状である必要があり、円筒形など非コニカル形状のレンズにおいてはバイアス電極を試料の電子線照射位置に近づけることができないので、試料に十分な電界を与えることが困難である。
【0008】
【特許文献1】特開2001−126655号公報
【特許文献2】特開2002−134055号公報
【非特許文献1】セコンダリー エレクトロン イメージング イン ザ バリアブル プレッシャー スキャニング エレクトロン マイクロスコープ、スキャニング20、436−441(1998)の論文(Secondary Electron Imaging In the Variable Pressure Scanning Electron Microscope.Scannig20 ,436−441(1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に示す走査電子顕微鏡にあっては、対物レンズの下面にバイアス電極を直接固定する手法では、試料と対物レンズの間に検出器を挿入する必要がある反射電子検出器とバイアス電極が干渉し、同時装着が困難である。
【0010】
また、特許文献2に示す走査電子顕微鏡にあっては、二次電子検出器のコレクタ電極を併用する手法ではレンズ側面から電界を試料表面に与えるため、対物レンズがコニカル形状である必要がある。
【0011】
対物レンズを円筒形など非コニカル形状を採用しようとすると、バイアス電極を試料の電子線照射位置に近づけることができないので、試料に十分な電界を与えることが困難である。
【0012】
本発明は、上記の問題に鑑み、コンパクトで、かつ良好な低真空二次電子像の観察ができる電子顕微鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、対物レンズを下部に備える鏡体と、前記鏡体の下方に位置し、内部に試料台を備える低真空の試料室を有する電子顕微鏡において、軸方向に亘り同じ外径をした円筒形を含む非コニカル形状の前記対物レンズは、軸方向が縦になるように配置され、前記試料台に対向する前記対物レンズの下面側に反射電子検出器と低真空二次電子検出器用バイアス電極を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、コンパクトな電子顕微鏡を提供できる。また本発明によれば、試料表面に十分な電界を印加できるので、良好な低真空二次電子像が観察できる電子顕微鏡を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を用いて本発明を実施するための最良の形態を詳述する。
【0016】
図1は、本発明の実施例を示し、対物レンズを含む試料室回りの断面と、検出器構成を示す図である。
【0017】
前処理無しの絶縁物等の試料をチャージアップ無しで観察することが可能な低真空モードの観察条件では、真空排気系により試料室19内は低真空雰囲気に制御される。
【0018】
低真空モードで像観察を行うための検出器には反射電子検出器が広く用いられている。反射電子による観察像は二次電子の観察像に比べ試料表面から少しもぐった内部構造の情報を有するため、試料表面の微細構造を観察することが困難であった。
【0019】
近年はガス増幅法を用いた低真空二次電子検出器が用いられるようになっており、二次電子情報による試料表面の微細構造を観察することが可能となってきている。
【0020】
また試料の組成情報を観察するには反射電子検出器が適していることから、観察目的に応じて検出器を使い分けている。
【0021】
反射電子検出器はシンチレータ形と半導体形に大きく分類されるが、近年では半導体形の性能向上や低コスト化が進み、広く用いられている。
【0022】
半導体形反射電子検出器は半導体素子を対物レンズ下方に配置し、試料からの反射電子を検出する。対物レンズと試料間は数mmから十数mm程度で用いられるため、半導体形反射電子検出器を薄く構成し、対物レンズの下面に取り付ける工夫がなされてきた。
【0023】
本発明の実施例では、対物レンズ5の下面に第一の絶縁板3a(反射電子側絶縁板)を介して反射電子検出器2を配置する。さらに第二の絶縁板3b(二次電子側絶縁板)で反射電子検出器2を挟み込み、その下方に金属製の低真空二次電子検出器用バイアス電極1を配置し、それらを樹脂などの絶縁物で構成されるネジ4で対物レンズ5に締め付け固定する。
【0024】
反射電子検出器2、絶縁板3a,3bおよび低真空二次電子検出器用バイアス電極1はドーナツ状の形状を有し、中央には電子線が通る電子線穴を有する。これらの電子線穴は、電子線通過および試料からの反射電子の検出面までの通路を妨げないように構成する。
【0025】
すなわち、反射電子検出器2の下側に位置する低真空二次電子検出器用バイアス電極1の電子線穴は、試料台6に向けて反射電子検出器2の下面が露出するように反射電子検出器2の電子線穴よりも大きく形成されている。
【0026】
低真空二次電子検出器用バイアス電極1は配線7を経由して電源8より電圧が印加され、試料18の表面にガス増幅に適当な電界を与える。電源8の電圧は、低真空二次電子検出器用バイアス電極1と試料台6との間に印加される。
【0027】
低真空二次電子検出器用バイアス電極1には正、試料台6にはアース電位または負の電圧が加えられる。
【0028】
低真空二次電子検出器用バイアス電極1に印加される電圧は200〜500V程度であり、絶縁板3a,3bおよび十分な絶縁距離を設けることで、反射電子検出器2や対物レンズ5への放電を防ぐ。
【0029】
対物レンズ5は、軸方向に亘り同じ外径をした円筒形状を有する。対物レンズ5は、電子銃や各種の電子光学系が備わる鏡体30の下部に備えられる。対物レンズ5は、軸方向が縦になるように鏡体30に配置される。電子線は対物レンズ5の軸心を通過する。
【0030】
対物レンズ5は、円筒形を含む非コニカル形状を有する。
【0031】
図3に示すように、試料18の表面で発生した二次電子51は試料室19内の残留ガス分子50に衝突してガス増幅し、イオン化が加速される。
【0032】
増幅された電子52は、低真空二次電子検出器用バイアス電極1に吸収され、増幅された+イオン53がアース電位の試料台6に吸収され、配線9を経由して増幅器10で電流電圧変換される。
【0033】
そして、変換された低真空二次電子像用の検出信号は、図2に示す信号処理部12へ入力され、PCなどで構成される表示部14および操作部13に二次電子像として画像表示される。
【0034】
反射電子検出器2からの検出信号は増幅器11で同様に電流電圧変換され、信号処理部12へ入力され、表示部14および操作部13に反射電子像として画像表示される。
【0035】
信号処理部12では、通常、反射電子の検出信号と低真空二次電子の検出信号を選択し、どちらかを画像表示するように制御される。本実施例によれば反射電子検出器と低真空二次電子検出器は同時に作用することが出来るので、2種類の信号を合成し、試料の表面構造と組成情報をミックスした画像を形成したり、信号間演算を施して多様な像表示を行うことが可能である。
【0036】
また2種類の信号を演算することにより、観察個所の輪郭を明瞭に撮ることができる。
【0037】
図2に示すPCの表示部14や操作部13について更に説明を加える。
【0038】
反射電子像選択15や低真空二次電子像選択16をON/OFFすることで、表示部14に表示される画像の信号選択や合成を可能とする。
【0039】
演算機能選択制御部17は画像信号の加工を選択するものであり、反射電子の検出信号及び、低真空二次電子の検出信号を加算、減算、平均などの演算を行うことが可能である。
【0040】
取得した反射電子の検出信号と低真空二次電子の検出信号は、同一観察位置の信号となるため、表示部14及び操作部13の演算機能選択制御部17の操作で、信号処理系12により画像信号の加工ができるため、二次電子の検出信号によるエッジ効果を含む試料表面構造と、反射電子の検出信号による原子番号効果による組成分布認識のし易さの両方を持ち合わせる事が可能となる。
【0041】
本実施例によれば、軸方向に亘り同じ外径をした円筒形の対物レンズ5は、軸方向が縦になるように鏡体30の下部に配置され、試料台6に向く対物レンズ5の下面側に反射電子検出器2と低真空二次電子検出器用バイアス電極1を設ける構成にした。
【0042】
この構成により、走査電子顕微鏡はコンパクト(小型)を図ることができた。また、円筒形の対物レンズ5は、コニカル形状の対物レンズと違って、広い平坦な下面に拡がるように低真空二次電子検出器用バイアス電極1が設けられる。このため、試料18の表面に十分な電界を印加することでき、良好な低真空二次電子像が観察できる
また、対物レンズ5の下面に、反射電子検出器2、反射電子側絶縁板3a、二次電子側絶縁板3b、低真空二次電子検出器用バイアス電極1を重ね合わせ、ネジ4を含む固定手段で対物レンズ5に締め付け固定する。
【0043】
このように反射電子検出器2や低真空二次電子検出器用バイアス電極1を重ね合わせによるので、厚み寸法をそれほど必要とせず、対物レンズ5と試料台6の狭いスペースに収めることができる。
【0044】
また反射電子検出器2、反射電子側絶縁板3a、二次電子側絶縁板3b、低真空二次電子検出器用バイアス電極1を重ね合わせ、ネジ4で止めるので組み立てが容易である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施例に係わるもので、走査電子顕微鏡の鏡体下部側と制御系の概要を示す図である。
【図2】本発明の実施例に係わるもので、PCの表示部と操作部の概要を示した図である。
【図3】本発明の実施例に係わるもので、低真空二次電子検出を詳しく示す図である。
【符号の説明】
【0046】
1…低真空二次電子検出器用バイアス電極、2…反射電子検出器、3a…反射電子側絶縁板、3b…二次電子側絶縁板、4…樹脂製のねじ、5…対物レンズ、6…試料台、7…バイアス電極用配線、8…バイアス電極用電源、9…低真空二次電子信号検出用配線、10…低真空二次電子検出器用増幅器、11…反射電子検出器用増幅器、12…信号処理部、13…表示部及び操作部、14…画像表示領域、15…反射電子像ON/OFF制御部、16…低真空二次電子ON/OFF制御部、17…演算機能選択制御部、18…試料、19…試料室、30…鏡体、50…残留ガス分子、51…二次電子、52…電子、53…+イオン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対物レンズを下部に備える鏡体と、前記鏡体の下方に位置し、内部に試料台を備える低真空の試料室を有する電子顕微鏡において、
軸方向に亘り同じ外径をした円筒形を含む非コニカル形状の前記対物レンズは、軸方向が縦になるように配置され、
前記試料台に対向する前記対物レンズの下面側に反射電子検出器と低真空二次電子検出器用バイアス電極を設けたことを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項2】
請求項1記載の電子顕微鏡において、
反射電子側絶縁板と二次電子側絶縁板を介して前記反射電子検出器と前記低真空二次電子検出器用バイアス電極をネジ等の固定手段で前記対物レンズに固定することを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項3】
請求項2記載の電子顕微鏡において、
上側に位置する前記反射電子検出器は、上側の前記反射電子側絶縁板と下側の前記二次電子側絶縁板に挟持され、下側に位置する前記低真空二次電子検出器用バイアス電極は前記二次電子側絶縁板を介して固定されることを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項4】
請求項2記載の電子顕微鏡において、
前記反射電子検出器、前記低真空二次電子検出器用バイアス電極、前記反射電子側絶縁板、および前記二次電子側絶縁板は、前記鏡体から前記試料台に向けて射出される電子線が通る電子線穴を有し、
前記反射電子検出器の下側に位置する前記低真空二次電子検出器用バイアス電極の前記電子線穴は、前記試料台に向けて前記反射電子検出器の下面が露出するように前記反射電子検出器の前記電子線穴よりも大きいことを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項5】
請求項2記載の電子顕微鏡において、
前記低真空二次電子検出器用バイアス電極と前記試料台の間にバイアス電圧を印加する二次電子検出用バイアス印加手段を有することを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項6】
請求項5記載の電子顕微鏡において、
前記低真空二次電子検出器用バイアス電極に正を、前記試料台にアース電位または負の電圧を印加することを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項7】
請求項1〜5の何れかに記載された電子顕微鏡において、
前記反射電子検出器が検出する反射電子像の信号と前記試料台が検出する低真空二次電子像の信号を合成ないし処理演算する信号処理部を有することを特徴とする電子顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−66065(P2008−66065A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−241419(P2006−241419)
【出願日】平成18年9月6日(2006.9.6)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【出願人】(000233550)株式会社日立ハイテクサイエンスシステムズ (112)
【Fターム(参考)】