説明

走査電子顕微鏡及び走査電子顕微鏡の制御方法

【課題】マニュアル操作により、表示画像を動かして、試料中の観察・検査対象物の探索を行なう際に、オペレータによる移動方向指定手段の操作を簡易化する。
【解決手段】試料ステージ18に載置された試料16に対して電子線15を走査し、電子線15が走査された領域から発生する二次的信号17を検出し、これに基づく走査像を表示する走査電子顕微鏡において、移動方向指定手段12からの指示に基づいて、電子線15の走査領域が試料16上で相対的に移動したときに、該走査領域における電子線15の垂直走査方向が、移動方向指定手段12により指定された表示画像の移動方向に応じた該走査領域の試料16上での相対移動方向と平行な方向と合うように、演算制御手段10が該走査領域の回転の制御を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の走査像を取得することができる走査電子顕微鏡及び該走査電子顕微鏡の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
走査電子顕微鏡による試料観察においては、試料室内に配置された観察対象となる試料上に電子線を走査し、これにより試料から発生する二次電子や反射電子等の被検出電子を検出する。この被検出電子の検出結果に基づいて、試料像となる走査像が取得される。取得された走査像は、画像として表示される。
【0003】
走査電子顕微鏡の試料室内部において、試料は、試料ステージに載置されている。そして、オペレータは、表示された走査像を目視にて確認しながら試料ステージを移動させて、試料中での目的とする観察対象物又は分析対象物が走査像内に入るようにする。これにより、該走査像の表示画像内で、観察・分析対象物の目視観察ができるようになる。このようにして、試料中での観察・分析対象物がオペレータにより探される。
【0004】
このように試料中での観察・分析対象物を探す際には、オペレータが、試料上での電子線の走査領域を広げて観察倍率を低倍率とし、この状態で試料ステージを移動させて試料を移動し、試料上での広域の走査領域から、目的とする観察・分析対象物を探している。
【0005】
ここで、観察倍率を変えても、表示される画像中での見かけの試料の移動速度が一定となるように、試料ステージの移動速度を倍率に連動して自動的に変化させる走査電子顕微鏡もある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61−253756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
走査電子顕微鏡による試料観察において、試料中における観察・検査対象物を探す場合には、オペレータが観察倍率を低倍率にした状態で、ジョイスティック等の移動方向指定手段を用いたマニュアル操作により、電子線の走査領域を試料上で相対的に移動させて、観察・検査対象物の探索を行なう。この方法において、オペレータは、毎回、観察倍率の上げ下げを行なっている。ここで、該走査領域を試料上で大きく相対移動させるときには、試料ステージを移動することにより行なわれるのが通常である。
【0008】
また、観察倍率の変更を行なわずに、上記マニュアル操作により試料ステージを動かして観察・検査対象物の探索も行なわれている。この場合、電子線の走査領域に対応する観察視野が狭い状態で維持されており、試料ステージの移動速度を上げることができない。
【0009】
そして、特に移動方向指定手段としてのジョイスティックをオペレータが操作して試料ステージを移動させ、これにより試料上での該走査領域の相対移動を行って表示画像を移動させる場合において、表示画像内で、観察・検査対象物が表示画像中心に対して斜め方向(表示画像中でのx方向又はy方向に対して斜めになる方向)に位置しているときには、それに応じて、ジョイスティックのX,Y方向間での斜め方向にジョイスティックを倒して表示画像の移動方向を指定する必要がある。
【0010】
観察・検査対象物の探索時において、このようにジョイスティックのX,Y方向間に位置する任意の斜め方向にジョイスティックを倒す操作が必要であると、オペレータによるジョイスティックの操作が煩雑になるという要改善点があった。
【0011】
本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、オペレータが、ジョイスティック等の移動方向指定手段を用いたマニュアル操作により、表示画像を動かして、試料中の観察・検査対象物の探索を行なう際に、オペレータによる該移動方向指定手段の操作を簡易化することのできる走査電子顕微鏡及び走査電子顕微鏡の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に基づく走査電子顕微鏡は、試料を載置する試料ステージと、試料ステージに載置された試料に対して電子線を照射するとともに試料上で該電子線を走査する電子線鏡筒と、試料上で電子線が走査された領域(走査領域)から発生する二次的信号を検出する信号検出手段と、信号検出手段により検出された二次的信号に基づいて走査像データを作成する画像データ作成手段と、走査像データに基づいて走査像の画像表示を行なう表示手段と、これらの各動作を制御する演算制御手段と、表示手段により表示された走査像の表示画像の移動方向及び移動速度を指定する移動方向指定手段とを備える走査電子顕微鏡において、移動方向指定手段からの指示に基づいて、電子線の走査領域が試料上で相対的に移動したときに、該走査領域における電子線の垂直走査方向(試料上での電子線の水平走査を順次ずらしていく方向)が、移動方向指定手段により指定された表示画像の移動方向に応じた該走査領域の試料上での相対移動方向と平行な方向と合うように、演算制御手段が該走査領域の回転の制御を行なうことを特徴とする。
【0013】
本発明に基づく走査電子顕微鏡の制御方法は、試料を載置する試料ステージと、試料ステージに載置された試料に対して電子線を照射するとともに試料上で該電子線を走査する電子線鏡筒と、試料上で電子線が走査された領域(走査領域)から発生する二次的信号を検出する信号検出手段と、信号検出手段により検出された二次的信号に基づいて走査像データを作成する画像データ作成手段と、走査像データに基づいて走査像の画像表示を行なう表示手段と、これらの各動作を制御する演算制御手段と、表示手段により表示された走査像の表示画像の移動方向及び移動速度を指定する移動方向指定手段とを備える走査電子顕微鏡の制御方法において、電子線の走査領域が試料上で相対的に移動したときに、該走査領域における電子線の垂直走査方向(試料上での電子線の水平走査を順次ずらしていく方向)が、移動方向指定手段により指定された表示画像の移動方向に応じた該走査領域の試料上での相対移動方向と平行な方向と合うように、演算制御手段が該走査領域の回転の制御を行なうことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、走査電子顕微鏡及びその制御方法において、走査像の表示画像の移動方向を指定するための移動方向指定手段からの指示に基づいて、電子線の走査領域が試料上で相対的に移動したときに、該走査領域における電子線の垂直走査方向(試料上での電子線の水平走査を順次ずらしていく方向)が、移動方向指定手段により指定された表示画像の移動方向に応じた該走査領域の試料上での相対移動方向と平行な方向と合うように、演算制御手段が該走査領域の回転の制御を行なう。
【0015】
従って、オペレータが、表示画像の移動方向を指定するために移動方向指定手段の操作を行い、これに基づいて電子線の走査領域が試料上で相対的に移動したときには、該表示画像中での上下方向(y方向:試料上での電子線走査における垂直走査方向に対応する方向)が、該画像の移動方向に沿うこととなる。
【0016】
これにより、オペレータは、表示画像を見ながら、表示画像中での上方向にほぼ対応するように移動方向指定手段の操作(すなわち、移動方向指定手段における+X方向にほぼ対応する方向での移動方向指定手段の操作)を行なえば、所望の探索方向に該表示画像が移動していくこととなり、試料上での観察・検査対象物の探索をすることができる。
【0017】
この結果、試料上での観察・検査対象物の探索を行なう際に、オペレータによる移動方向指定手段の操作を簡易化することができる。これにより、オペレータによる移動方向指定手段の操作時での作業負担を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明における走査電子顕微鏡の構成を示す概略構成図である。
【図2】試料上での電子線走査領域の相対移動を示す図である。
【図3】図2における領域31の電子線走査により取得される走査像の表示画像を示す図である。
【図4】第1の変形例において取得される走査像の表示画像の例を示す図である。
【図5】第2の変形例における電子線走査をモデル的に示す図である。
【図6】第2の変形例において取得される走査像の表示画像の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明に基づく走査電子顕微鏡及びその制御方法について説明する。
【0020】
図1は、本発明における走査電子顕微鏡の構成を示す概略構成図である。同図において、電子銃1から放出された電子線15は、集束レンズ2及び対物レンズ4により試料16上で細く集束された状態で、試料室20内の試料16に照射される。
【0021】
このように試料16に照射された電子線15は、偏向コイル3によって適宜偏向され、試料16上を走査する。このときの電子線15の偏向を制御することにより、試料16上での所定領域を走査領域とする電子線15の走査が行われる。
【0022】
ここで、電子銃1、集束レンズ2、偏向コイル3及び対物レンズ4により、電子線鏡筒19が構成される。
【0023】
電子線15が走査(照射)された試料16からは、二次電子又は反射電子等からなる被検出電子17が発生する。この被検出電子17は、試料室20内に配置された電子検出器7により検出される。
【0024】
この電子検出器7は、被検出電子17の検出結果に基づいて、検出信号を出力する。この検出信号は、A/D変換された後に画像データ作成部8に送られる。画像データ作成部8は、該検出信号と、電子線15の走査時における偏向コイル3の駆動を制御するための走査信号とに基づき、走査像データを作成する。
【0025】
このようにして作成された走査像データは、バスライン9を介して、必要に応じて記憶部(図示せず)に格納されるとともに、表示部11に送られる。表示部11は、該走査像データに基づいて、走査像の画像表示を行なう。
【0026】
試料室20内部には、試料ステージ18が設置されており、試料16は、試料室20内において試料ステージ18上に載置されている。試料ステージ18は、Xステージ5b及びYステージ6bを備えている。図1の構成では、Yステージ6bの上にXステージ5bが配置されており、試料16は、Xステージ5b上に載置されている。
【0027】
Xステージ5bは、電子線15の進行方向(図中では−Z方向)に直交する第1の方向(図中ではX方向)に沿って、試料16の移動を行なう。また、Yステージ6bは、電子線15の進行方向に直交するとともに、上記第1の方向(X方向)に直交する第2の方向(Y方向)に、Xステージ5b及び試料16の移動を行なう。なお、ここでは、X方向、Y方向及びZ方向の各方向について、正負(+,−)何れかの表示がない場合には、それぞれ±X方向、±Y方向及び±Z方向を示すものとする。
【0028】
X方向及びY方向により規定される平面(X−Y平面)は、電子線15の進行方向に対して、直交する平面となる。そして、Xステージ5bの移動及びYステージ6bの移動を同時に行なうことにより、試料16をX−Y平面内における任意の方向に移動させることができる。
【0029】
なお、図示していないが、Yステージ6bの下にはZステージが配置されている。Zステージは、各X,Yステージ5b,6b及び試料16のZ方向での移動を行なう。
【0030】
また、図に示すごとく、Xステージ5bには、Xモータ5が接続されている。さらに、Yステージ6bには、Yモータ6が接続されている。Xモータ5は、Xステージ5bをX方向に移動させるものであり、Yモータ6は、Yステージ6bをY方向に移動させるものである。
【0031】
そして、電子銃1は、駆動部1aにより駆動される。また、集束レンズ2、偏向コイル3及び対物レンズ4は、それぞれ対応する駆動部2a〜4aにより駆動される。そして、Xモータ5は、X駆動部5aにより駆動され、Yモータ6は、Y駆動部6aにより駆動される。
【0032】
そして、これら各駆動部1a〜6aは、バスライン9を介して、演算制御部(演算制御手段)10に接続されている。演算制御部10は、各駆動部1a〜6aの制御を行なう。これにより、電子銃1、集束レンズ2、偏向コイル3、対物レンズ4、Xモータ5及びYモータ6のそれぞれが、対応する各駆動部1a〜6aを介して、演算制御部10によって駆動制御されることとなる。
【0033】
ここで、偏向コイル3を駆動する駆動部3aには、演算制御部10からバスライン9を介して、上述した走査信号が送られる。駆動部3aは、走査信号に基づいて、偏向コイル3の駆動を行なう。また、該走査信号は、上述した画像データ作成部8にも送られる。
【0034】
本走査電子顕微鏡には、ジョイスティック12からなる移動方向指定手段が備えられている。ジョイスティック12には、X軸変位量カウンタ13及びY軸変位量カウンタ14が接続されている。X軸変位量カウンタ13は、オペレータによるジョイスティック12の傾斜操作時に、X方向でのジョイスティック12の傾斜変位量の検出を行なう。また、これと同様にY軸変位量カウンタ14は、オペレータによるジョイスティック12の傾斜操作時に、Y方向でのジョイスティック12の傾斜変位量の検出を行なう。
【0035】
これらX,Y軸カウンタ13,14による各変位量の検出データは、バスライン9を介して、演算制御部10に送られる。
【0036】
以上が、本発明における走査電子顕微鏡の構成である。次に、本発明における走査電子顕微鏡の動作及び制御方法について説明する。
【0037】
上述した走査電子顕微鏡を用いて、電子線15により試料16上を走査したときの状態の一例を図2に示す。ここで、図2は、電子線15が走査される試料16の上面16bの一部を拡大して示した試料16の平面図である。図2において、電子線15の進行方向は、図の紙面に対して垂直な方向に沿う方向となる。
【0038】
同図において、試料16の上面16bには、所定形状(本例では楕円形状)の構造物16aが存在している。この構造物16aは、例えば、その周囲(構造物16aの周囲)における試料面の組成に対して、異なる組成を備えたもの等が該当する。そして、オペレータが、該構造物16aの輪郭16dに沿って視野移動を行い、これにより該輪郭16d上及びその近傍に位置する観察・分析対象物の探索を行なう場合について説明する。
【0039】
まず、当初の試料16上での電子線15の走査領域が、領域31であるとする。このときに得られる試料16の走査像を、図3に示す。図3において、41は、領域31(図2参照)の電子線15による走査を行なって得られる走査像の表示画像である。該表示画像41内において、図中の右側には、構造物16aの一部分の像が位置しており、図中の左側には、試料16上において該構造物16aの周囲に位置する周囲部16cの像が位置している。輪郭16dは、構造物16aと該周囲部16cとの境界となっている。
【0040】
このように、試料16の上面16bにおける領域31が電子線15の走査領域となっており、図3に示すような走査画像41の表示が行なわれている状態で、オペレータは、該表示画像41を目視で確認した上で、ジョイスティック12の操作を行なう。
【0041】
本例では、構造物16aの輪郭16dに沿って観察視野(電子線15の走査領域)の移動を行なうので、オペレータは、当該輪郭線16eに沿う方向にジョイスティック12を倒す(傾斜させる)操作を行なう。
【0042】
図3に示す表示画像41から、視野を該表示画像中で上方向(+y方向)に移動させる場合には、オペレータは、ジョイスティック12を上方向(+Y方向)に向けて倒す操作を行なうこととなる。ここで、当該走査画像41では、輪郭線16eの上部16fは、上方向に対して少しだけ右側に傾いている。
【0043】
従って、オペレータは、ジョイスティック12を+Y方向のみに沿う方向に倒すのではなく、「+Y方向変位量」と「少しの+X方向変位量」とを含む上方向にジョイスティック12を倒す操作を行なう。
【0044】
この操作に基づいて、X軸変位量カウンタ13及びY軸変位量カウンタ14は、ジョイスティック12によって指定されたX方向変位量及びY方向変位量をそれぞれ検出する。これにより検出された各変位量の検出データは、バスライン9を介して、演算制御部10に送られる。
【0045】
演算制御部10は、送られた各変位量の検出データに基づき、その時点での試料ステージ18のX方向移動量及びY方向移動量を演算により求める。そして演算制御部10は、X方向移動量に応じたX方向駆動信号をX駆動部5aに送るとともに、Y方向移動量に応じたY方向駆動信号をY駆動部6aに送る。
【0046】
X駆動部5a及びY駆動部6aは、それぞれ受けた各駆動信号に基づき、それぞれXモータ5及びYモータ6の駆動を行なう。これにより、試料ステージ18を構成するXステージ5b及びYステージ6bの移動が行なわれる。この結果、試料ステージ18に載置された試料16が移動される。
【0047】
このとき、図2において、電子線15の走査領域が、試料16の上面における領域31から領域32に相対的に移動するように、試料16の移動が行なわれる。
【0048】
また、本発明では、この走査領域の移動時において、演算制御部10によって、当該走査領域の回転補正も同時に行なわれる。この回転補正は、上述したX軸変位量カウンタ13及びY軸変位量カウンタ14からの各変位量の検出データに基づいて、演算制御部10が、当該回転補正量を算出する。なお、この走査領域の回転は、スキャンローテーションと呼ばれている。
【0049】
上記回転補正量は、走査領域における電子線15の垂直走査方向が、ジョイスティック12により指定された表示画像41の移動方向に基づく該走査領域の試料16上での相対移動方向と平行な状態となるように、演算制御部10により演算される。ここで、当該垂直走査方向は、試料16上での電子線15の走査領域において、電子線15による水平走査を順次ずらしていく方向のことをいう。図2の例において、走査領域31では、長辺方向(図中の矢印h)が電子線15の水平走査方向に該当し、それに直交する短辺方向(図中の矢印v)が電子線15の垂直走査方向に該当する。
【0050】
以上のような試料ステージ18の移動及び電子線15の走査領域の回転補正を行なった後の試料16上での電子線15の走査領域は、図中の32で示す領域となる。
【0051】
このとき、本走査電子顕微鏡では、電子線15の走査領域の回転後に取得される走査像の表示画像中でのx,y方向と、ジョイスティック12により指定されるX,Y方向での移動に基づく該表示画像が移動する方向とが整合するように、演算制御部10は、試料ステージ18の移動制御を行なう。
【0052】
さらに、オペレータが同様の操作を行なうことにより、試料16上での電子線15の走査領域は、領域32から領域33に移動する。すなわち、図2中の矢印Aで示す方向に該走査領域が試料16上で相対的に移動する。
【0053】
そして、さらにオペレータが順次同様の操作を行なうことにより、試料16上での電子線15の走査領域は、領域33→領域34→領域35→領域36へと順次移動する。
【0054】
これらの各移動時において、電子線15の走査領域の回転後に取得される走査像の表示画像中でのx,y方向と、ジョイスティック12により指定されるX,Y方向での移動に基づく該表示画像が移動する方向とが合うようになっている。
【0055】
そして、各領域(走査領域)31〜36における電子線15の垂直走査方向が、ジョイスティック12により指定された表示画像41の移動方向に応じた走査領域の試料16上での相対移動方向と平行な方向と合うように、演算制御部10により、電子線15の偏向条件が制御されている。
【0056】
これにより、オペレータは、表示画像41を確認しながら該画像中でのほぼ上方向(+y方向)に対応してジョイスティック12を倒す操作を行なうのみで、所望とする方向(本例では、構造物16aの輪郭線16eの方向)に沿って走査領域を順次移動させることができ、簡易な操作で観察・分析対象物の試料16上での探索を行なうことができる。
【0057】
ここで、本発明の第1の変形例について、以下に説明する。
【0058】
オペレータによるジョイスティック12の操作時において、各X,Y軸変位量カウンタから順次送られる各変位量の検出データから、演算制御部10は、各タイミングでの試料ステージ18の移動量(試料ステージ18の移動速度に対応)を制御することとなる。
【0059】
このとき、演算制御部10は、このときの各X,Y軸変位量カウンタから順次送られる各変位量の検出データから、各時点における試料ステージ18の移動速度を取得できる。
【0060】
そこで、演算制御部10は、試料ステージ18の移動速度に連動して、試料16上での電子線15の走査領域における水平走査の走査幅(水平走査幅)を、試料16上での該走査領域の相対的な移動方向に位置するのに従って順次広げるように制御することもできる。
【0061】
これにより、該走査領域の試料16上での相対移動の際に、該走査領域内において、該相対移動方向に位置する側(表示画像41内における上側)の視野が広くなり、該相対移動方向側での試料16上の情報を広く取得することができるようになる。この結果、オペレータは、試料16上で該相対移動方向に位置する観察・分析対象を探しやすくなる。
【0062】
このとき、該走査領域内における該相対移動方向とは反対側(該相対移動進行方向に対する手前側)に位置する部分(表示画像41内における下側の部分)の表示倍率の変動は小さいので、設定された表示倍率をほぼ維持した状態で、該部分の試料観察を行なうことができる。
【0063】
図4に、この第1の変形例によって取得される走査像の表示画像の一例を示す。ここで、説明上、試料16の上面16bには、「H」型の形状を備えるパターンが形成されており、該パターンの走査像を取得して画像表示を行なっているものとする。
【0064】
図4(1)に示す状態は、電子線15の走査領域が試料16上で停止しており、このときに取得される走査像の表示画像41を示している。
【0065】
いま、このような「H」型パターンが、試料16上で、図4(1)における表示画像41の上方向に対応する方向に沿って、同じ大きさ及び形状で複数配列形成されている場合を想定する。
【0066】
上記の状態から、上記走査領域の試料16上での相対移動(表示画像41の上方向に対応する方向での相対移動)が開始された直後(該移動速度:小)の状態で、電子線15の走査により画像取得を行なうと、そのときに取得される「H」型パターンの走査像に基づく表示画像41は、図4(2)に示すごとくとなる。
【0067】
この状態では、表示画像41における上側に位置する部分については、図4(1)に示す状態に比べて、図に示す領域R1及び領域R2の分だけ横方向に視野が広がっている。ここで、図中の矢印aは、表示画像41の移動方向を示す。
【0068】
さらにこの状態に対して、該走査領域の試料16上での相対速度が速くなったとき(該速度:大)の状態で、電子線16の走査により画像取得を行なうと、そのときに取得される「H」型パターンの走査像に基づく表示画像41は、図4(3)に示すごとくとなる。
【0069】
この状態では、表示画像41における上側に位置する部分については、図4(2)に示す状態に対して、さらに広がることとなる。すなわち、図4(1)に示す状態と比較すると、図に示す領域R3及び領域R4の分だけ横方向に視野が広がっている。
【0070】
このように、ジョイスティック12により指定された表示画像41の移動速度に応じて、試料16上での電子線15の走査領域における水平走査の走査幅を、試料16上での該走査領域の相対的な移動方向側に位置するのに従って順次広げるようにすると、これにより取得される走査像に基づく表示画像41における移動方向側に位置する部分の横方向の視野が広がることとなる。これにより、該走査領域の相対移動方向側に位置する試料16上の情報を多く取得することができ、オペレータによる観察・分析対象物の探索を容易に行なうことができる。
【0071】
また、このとき、表示画像41における移動方向手前側(表示画像41中での下側)部分では、現状の観察倍率がほぼ維持されることとなり、そのときに維持された高倍率状態で試料16上の観察を行なうことができる。
【0072】
次に、図5及び図6を参照して、第2の変形例について説明する。
【0073】
この第2の変形例においては、上記第1の変形例と同様に、演算制御部10は、試料ステージ18の移動速度に連動して、試料16上での電子線15の走査領域における水平走査の走査幅(水平走査幅)を、試料16上での該走査領域の相対的な移動方向に位置するのに従って順次広げるように制御する。
【0074】
そして、これと同時に、演算制御部10は、試料ステージ18の該移動速度に応じて、試料16上での電子線15の走査時における垂直走査の走査幅(垂直走査幅)を広げるように制御する。
【0075】
図5中における「1」は、電子線15の走査領域が試料16上で停止しているときの水平走査幅及び垂直走査幅の設定例をモデル的に示している。
【0076】
この状態に対して、同図中の「2」は、該走査領域の試料16上での相対移動が開始された直後(該移動速度:小)の電子線走査の状態を示す。当該「2」の状態では、相対移動速度に応じて、電子線15の走査時における垂直走査幅は、上記「1」の状態に対して広がっている。
【0077】
さらに、同図中の「3」は、上記「2」の状態に対して、該走査領域の相対速度が速くなったとき(該速度:大)の状態での電子線走査の状態を示す、当該「3」の状態では、相対速度に応じて、電子線15の走査時における垂直走査幅は、上記「2」の状態に対してさらに広がっている。
【0078】
これら「1」、「2」及び「3」の電子線走査時において取得される各走査像の表示画像41の例を、図6に示す。ここで、各電子線走査時においては、上述と同様に、複数配列された「H」型パターンの走査像を取得して画像表示を行なっている。
【0079】
図6(1)に示す表示画像41は、図5中「1」の電子線走査時において取得される走査像の表示画像である。このときには、電子線15の走査領域は、試料16上で停止した状態となっている。
【0080】
次いで、図6(2)に示す表示画像41は、図5中「2」の電子線走査時において取得される走査像の表示画像である。このときには、表示画像41の上側に対応して電子線15の垂直走査幅が広がっており、表示画像41の上部において、図に示す領域S1の分だけ縦方向及び横方向に視野が広がっている。図中の矢印は、表示画像41の移動方向を示している。
【0081】
さらに、図6(3)に示す表示画像41は、図5中「3」の電子線走査時において取得される走査像の表示画像である。このときには、表示画像41の上側に対応して電子線15の垂直走査幅がさらに広がっており、表示画像41の上部において、図に示す領域S2の分だけ縦方向及び横方向に視野がさらに広がっている。
【0082】
この第2の変形例においては、オペレータのジョイスティック12の操作による移動方向の指定の際には、その時点での移動方向側の観察倍率が低倍となり、表示画像上の縦方向での視野も広がることとなる。これにより、該相対移動方向側に位置する試料16上の情報を多く取得することができ、観察・分析対象物の探索を容易に行なうことができる。
【0083】
また、このとき、表示画像41における移動方向手前側(表示画像41中での下側)部分では、第1の変形例と同様に、現状の倍率が維持されることとなり、そのとき維持された高倍率状態で試料16上の観察を行なうことができる。
【0084】
なお、第3の変形例として、ジョイスティック12により指定された表示画像41の移動速度に応じて、試料16上での電子線15の走査領域における水平走査幅及び垂直走査幅を、該移動速度が大きくなるのに従って全体として広くするように設定することもできる。この場合は、該移動速度が大きくなるのに応じて、試料16上での該走査領域が全体的に広がることとなり、取得される表示画像41は、全体として低倍率化された画像となる。
【0085】
この第3の変形例でも、オペレータのジョイスティック12の操作による移動方向の指定の際には、その時点での移動方向側も含めた全体の視野が広がることとなり、該相対移動方向側に位置する試料16上の情報を多く取得することができて、観察・分析対象物の探索を容易に行なうことができる。
【0086】
このように、本発明における走査電子顕微鏡及び走査電子顕微鏡の制御方法は、試料16を載置する試料ステージ18と、試料ステージ18に載置された試料16に対して電子線15を照射するとともに試料16上で該電子線15を走査する電子線鏡筒19と、試料16上で電子線15が走査された領域(走査領域)から発生する二次的信号(二次電子)17を検出する信号検出手段(検出器)7と、信号検出手段7により検出された二次的信号17に基づいて走査像データを作成する画像データ作成手段(画像データ作成部)8と、走査像データに基づいて走査像の画像表示を行なう表示手段(表示部)11と、これらの各動作を制御する演算制御手段(演算制御部)10と、表示手段11により表示された走査像の表示画像41の移動方向及び移動速度を指定する移動方向指定手段(ジョイスティック)12とを備える走査電子顕微鏡及び走査電子顕微鏡の制御方法において、移動方向指定手段12からの指示に基づいて、電子線15の走査領域が試料16上で相対的に移動したときに、該走査領域における電子線15の垂直走査方向(試料16上での電子線の水平走査を順次ずらしていく方向)が、移動方向指定手段12により指定された表示画像41の移動方向に応じた該走査領域の試料16上での相対移動方向と平行な方向と合うように、演算制御手段10が該走査領域の回転の制御を行なうことを特徴としている。
【0087】
ここで、演算制御手段10は、移動方向指定手段12により指定された表示画像41の移動速度に応じて、試料16上での電子線15の走査領域における水平走査の走査幅を、試料16上での該走査領域の相対的な移動方向側に位置するのに従って、順次広げるように制御することもできる(第1の変形例)。
【0088】
そして、このとき演算制御手段10は、移動方向指定手段12により指定された表示画像41の移動速度に応じて、さらに試料16上での電子線15の走査領域における垂直走査の走査幅を広げるように制御することもできる(第2の変形例)。
【0089】
また、演算制御手段10は、移動方向指定手段12により指定された表示画像41の移動速度に応じて、試料16上での電子線15の走査領域における水平走査及び垂直走査の各走査幅を、該移動速度が大きくなるのに従って全体として広くなるように制御することもできる(第3の変形例)。
【0090】
なお、上記各実施形態において、演算制御手段10は、移動方向指定手段12により指定されるX−Y移動方向に基づく試料ステージ18の移動が、該走査領域の回転後に取得される走査像の表示画像41中でのx−y方向と整合するように、移動方向指定手段12による指定に基づく試料ステージ18の移動方向を制御している。
【0091】
このような構成により、本発明においては、オペレータが、表示画像41の移動方向を指定するために移動方向指定手段12の操作を行い、これに基づいて電子線15の走査領域が試料16上で相対的に移動したときには、該表示画像41中での上下方向(y方向:試料16上での電子線走査における垂直走査方向に対応する方向)が、該画像41の移動方向に沿うこととなる。
【0092】
これにより、オペレータは、表示画像41を見ながら、表示画像41中での上方向(+y方向)にほぼ対応するように移動方向指定手段12の操作(すなわち、移動方向指定手段における+X方向にほぼ対応する方向での操作)を行なえば、所望の探索方向に該表示画像41が移動していくこととなり、試料16上での観察・検査対象物の探索を容易に行なうことができる。
【0093】
この結果、試料16上での観察・検査対象物の探索を行なう際に、オペレータによる移動方向指定手段12の操作を簡易化することができる。これにより、オペレータによる移動方向指定手段12の操作時での作業負担を軽減することができる。
【0094】
なお、上記において、移動方向指定手段は、ジョイスティックの例であったが、トラックボール等の他の移動方向指定手段であってもよい。また、試料から発生する二次的信号は、二次電子に限定される必要はなく、反射電子等であってもよい。
【符号の説明】
【0095】
1…電子銃、2…集束レンズ、3…偏向コイル、4…対物レンズ、5…Xモータ、6…Yモータ、7…電子検出器、8…画像データ作成部、9…バスライン、10…演算制御部、11…表示部、12…ジョイスティック、13…X軸変位量カウンタ、14…Y軸変位量カウンタ、15…電子線、16…試料、17…二次電子、18…試料ステージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を載置する試料ステージと、試料ステージに載置された試料に対して電子線を照射するとともに試料上で該電子線を走査する電子線鏡筒と、試料上で電子線が走査された領域(走査領域)から発生する二次的信号を検出する信号検出手段と、信号検出手段により検出された二次的信号に基づいて走査像データを作成する画像データ作成手段と、走査像データに基づいて走査像の画像表示を行なう表示手段と、これらの各動作を制御する演算制御手段と、表示手段により表示された走査像の表示画像の移動方向及び移動速度を指定する移動方向指定手段とを備える走査電子顕微鏡において、移動方向指定手段からの指示に基づいて、電子線の走査領域が試料上で相対的に移動したときに、該走査領域における電子線の垂直走査方向(試料上での電子線の水平走査を順次ずらしていく方向)が、移動方向指定手段により指定された表示画像の移動方向に応じた該走査領域の試料上での相対移動方向と平行な方向と合うように、演算制御手段が該走査領域の回転の制御を行なうことを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項2】
演算制御手段は、移動方向指定手段により指定された表示画像の移動速度に応じて、試料上での電子線の走査領域における水平走査の走査幅を、試料上での該走査領域の相対的な移動方向側に位置するのに従って、順次広げるように制御することを特徴とする請求項1記載の走査電子顕微鏡。
【請求項3】
演算制御手段は、移動方向指定手段により指定された表示画像の移動速度に応じて、さらに試料上での電子線の走査領域における垂直走査の走査幅を広げるように制御することを特徴とする請求項2記載の走査電子顕微鏡。
【請求項4】
演算制御手段は、移動方向指定手段により指定された表示画像の移動速度に応じて、試料上での電子線の走査領域を規定する水平走査及び垂直走査の各走査幅を、該移動速度が大きくなるのに従って広くするように制御することを特徴とする請求項1記載の走査電子顕微鏡。
【請求項5】
演算制御手段は、移動方向指定手段により指定されるX−Y移動方向に基づく試料ステージの移動が、該走査領域の回転後に取得される走査像の表示画像中でのx−y方向と整合するように、移動方向指定手段による指定に基づく試料ステージの移動方向を制御することを特徴とする請求項1乃至4何れか記載の走査電子顕微鏡。
【請求項6】
試料を載置する試料ステージと、試料ステージに載置された試料に対して電子線を照射するとともに試料上で該電子線を走査する電子線鏡筒と、試料上で電子線が走査された領域(走査領域)から発生する二次的信号を検出する信号検出手段と、信号検出手段により検出された二次的信号に基づいて走査像データを作成する画像データ作成手段と、走査像データに基づいて走査像の画像表示を行なう表示手段と、これらの各動作を制御する演算制御手段と、表示手段により表示された走査像の表示画像の移動方向及び移動速度を指定する移動方向指定手段とを備える走査電子顕微鏡の制御方法において、電子線の走査領域が試料上で相対的に移動したときに、該走査領域における電子線の垂直走査方向(試料上での電子線の水平走査を順次ずらしていく方向)が、移動方向指定手段により指定された表示画像の移動方向に応じた該走査領域の試料上での相対移動方向と平行な方向と合うように、演算制御手段が該走査領域の回転の制御を行なうことを特徴とする走査電子顕微鏡の制御方法。
【請求項7】
演算制御手段は、移動方向指定手段により指定された表示画像の移動速度に応じて、試料上での電子線の走査領域における水平走査の走査幅を、試料上での該走査領域の相対的な移動方向側に位置するのに従って、順次広げるように制御することを特徴とする請求項6記載の走査電子顕微鏡の制御方法。
【請求項8】
演算制御手段は、移動方向指定手段により指定された表示画像の移動速度に応じて、さらに試料上での電子線の走査領域における垂直走査の走査幅を広げるように制御することを特徴とする請求項7記載の走査電子顕微鏡の制御方法。
【請求項9】
演算制御手段は、移動方向指定手段により指定された表示画像の移動速度に応じて、試料上での電子線の走査領域を規定する水平走査及び垂直走査の各走査幅を、該移動速度が大きくなるのに従って広くするように制御することを特徴とする請求項6記載の走査電子顕微鏡の制御方法。
【請求項10】
演算制御手段は、移動方向指定手段により指定されるX−Y移動方向に基づく試料ステージの移動が、該走査領域の回転後に取得される走査像の表示画像中でのx−y方向と整合するように、移動方向指定手段による指定に基づく試料ステージの移動方向を制御することを特徴とする請求項6乃至9何れか記載の走査電子顕微鏡の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−44295(P2011−44295A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−190775(P2009−190775)
【出願日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】