説明

走行可能距離の表示装置および表示方法

【課題】燃料センサの燃料上限値を超えて燃料が入った状態であっても、走行可能距離の演算および表示を行うことができる走行可能距離の表示装置を提供する。
【解決手段】走行可能距離演算開始条件を満たしたときに、燃料センサ6で検出されたセンサ値が上限値Yである場合、燃料量を、上限値Yを超えて満タン値F以下に設定される燃料量仮想初期値Xと仮定し、燃料量仮想初期値Xを演算開始条件満足時から消費される燃料消費量αで減算して求められる燃料量仮想値Vに基づいて走行可能距離Dを演算し、走行可能距離を継続表示した状態で、燃料消費によって燃料センサ6が上限値Y未満となった場合に、燃料量仮想値Vを燃料消費に伴って、上限時の燃料量Yとそこからの燃料消費量βに基づいて求められる燃料量推定値に徐々に近づくように補正し、この補正された燃料量仮想値Vに基づいて走行可能距離Dを演算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料の残量に基づいて車両の走行可能距離を演算、表示する走行可能距離表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車のような車両では、一般に、燃料残量と平均燃費に基づいて、走行可能距離が演算され、表示されている。しかしながら、平均燃費を用いて走行可能距離を演算すると、道路の状況のような運転状況が変化した場合、走行可能距離を正確に演算、表示できないことがある。これに対して、基準となる燃費を所定区間ごとに更新し、更新された最新の燃費に基づいて走行可能距離を演算し、走行可能距離を正確に表示するようにしたものがある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−257985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1では、燃料センサにより燃料残量が検知できる範囲では、正確に走行可能距離を演算できるが、燃料センサにより検知できる燃料上限値を超えて燃料が入った状態では、燃料上限値の場合の走行可能距離が表示されることになり、不正確である。
【0005】
本発明は、前記課題に鑑みてなされたもので、燃料センサの燃料上限値を超えて燃料が入った状態であっても、走行可能距離の演算および表示を行うことができる走行可能距離の表示装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明にかかる走行可能距離の表示装置は、燃料タンク内の燃料の残量により走行可能な距離を演算する演算手段と、演算された走行可能距離を表示する表示手段とを備え、前記演算手段は、予め定める走行可能距離演算開始条件を満たしたときに、前記燃料の残量を上限値と下限値の間で検出する燃料センサで検出されたセンサ値が上限値である場合、燃料量の初期値を、前記上限値を超えて満タン値以下に設定される燃料量仮想初期値と仮定し、前記燃料量仮想初期値を前記走行可能距離演算開始条件満足時から消費された燃料消費量で減算して求められる燃料量仮想値に基づいて走行可能距離を演算する。この演算手段はさらに、走行可能距離を継続表示した状態で、燃料消費によって前記センサ値が上限値未満となった場合に、前記センサ値に基づいて求められる燃料量推定値に、前記燃料量仮想値が燃料消費に伴って徐々に近づくように補正し、この補正された燃料量仮想値に基づいて前記走行可能距離を演算する。
【0007】
この構成によれば、センサ値が上限値を検知する場合、すなわち燃料量がセンサ上限値以上の場合でも、燃料量仮想初期値を用いることで、上限値を用いる場合よりも最大誤差が小さい走行可能距離表示が可能となる。前記燃料量仮想初期値は、上限値よりも大きく設定され、例えば上限値プラス数リットルである。また、継続表示した状態で燃料消費によって前記センサ値が上限値未満となった場合、燃料量仮想値を、実際の残量に近い前記センサ値に基づいて求められる燃料量推定値に燃料消費に伴って徐々に近づくように補正するから、前記センサ値に基づく演算に切り換えた場合に生じる走行可能距離表示の急変が防がれ、運転者が違和感を覚えるのを防ぐことができる。
【0008】
ここでセンサ値とは、燃料センサによって検出される燃料残量の値を示す。また上限値および下限値は、燃料センサによって検出可能な最大燃料残量、最小燃料残量をそれぞれ示す。例えば上限値は、実際の燃料タンクの最大充填量よりも小さく設定され、下限値は実際の燃料タンクの最小充填量よりも大きく設定される。また燃料量推定値は、例えば上限値を、上限値未満となった時点からの燃料消費量で減算して求めてもよく、随時変化するセンサ値としてもよい。どちらもセンサ値に基づいて求められる値であり、センサ値を用いずに求められる仮想値よりも精度が高くなる。
【0009】
本発明において、前記演算手段は、前記走行可能距離演算開始条件を満たしたときに、前記燃料センサで検出されたセンサ値が前記上限値未満で下限値を超えている場合、前記センサ値に基づいて走行可能距離を算出することが好ましい。この構成によれば、センサ値が上限値未満で下限値を超えている場合の演算を、燃料センサで検出されたセンサ値に基づいて行うことにより、精度の高い走行可能距離を算出できる。
【0010】
さらに、前記演算手段は、開始条件が満たされたときのセンサ値を、開始条件満足時から消費された燃料消費量で減算して求められる値を燃料量推定値とし、前記燃料量推定値に基づいて走行可能距離を算出することもできる。フロート型の燃料センサで検出されるセンサ値を用いる場合、坂道、バンク中などの車体姿勢によってセンサ値が変動する恐れがあるが、この構成によれば、燃料消費量によって求められる値を用いているから、車体姿勢の変化による影響が防がれて、安定した走行可能距離表示が得られる。
【0011】
本発明において、前記演算手段は、前記走行可能距離表示を終了する終了条件を満足したときに、前記センサ値が上限値である場合、表示終了時の前記燃料量仮想値を燃料量記憶値として記憶し、つぎに、前記走行可能距離演算開始条件を満たしたときに、前記センサ値が前記上限値である場合、前記燃料量記憶値を、前記走行可能距離演算開始条件満足時から消費される燃料消費量で減算して求められる前記燃料量仮想値に基づいて走行可能距離を演算することが好ましい。この構成によれば、センサ値が上限値の状態で、演算を終了、再演算する場合に、燃料量記憶値を用いて走行可能距離を演算するので、燃料を入れていないのに表示される走行可能距離が増えることを防ぐことができる。
【0012】
本発明において、走行可能距離を継続表示した状態で、燃料消費によって前記センサ値が下限値となった場合に、前記下限値を下限値到達時点から消費された燃料消費量で減算した燃料値に基づいて走行可能距離を演算することが好ましい。この構成によれば、下限値以下での走行可能距離を算出できる。
【0013】
本発明において、走行状態に移行すると、前記走行可能距離演算開始条件が満足され、走行可能距離表示を終了する指令が与えられると、前記走行可能距離表示を終了する終了条件が満足されることが好ましい。この構成によれば、演算開始条件および終了条件が適切に設定される。また、走行状態に入るごとに走行可能距離が表示されるので、前回の表示と異なった値が表示されても、違和感を覚えにくい。
【0014】
本発明において、前記燃料量仮想初期値は、前記上限値での燃料量と前記満タン時の燃料量との中間値近傍に設定されていることが好ましい。この構成によれば、燃料量仮想初期値と実際の燃料量との誤差の最大値を小さくできる。
【0015】
本発明において、前記演算手段は、走行可能距離の演算に用いられる燃料残量値に、走行状態に応じて順次更新される燃料消費率を乗算して走行可能距離を演算することが好ましい。この構成によれば、順次更新される燃料消費率を用いることで、走行可能距離をリアルタイムで、より正確に算出できる。
【0016】
本発明において、前記演算手段は、前記走行可能距離の演算にあたり、予め定める余分燃料量を差し引いた燃料量を用いることが好ましい。この構成によれば、演算される走行可能距離が、実際の走行可能距離よりも大きくなることを防ぐことができ、走行可能距離をより正確に算出できる。予め定める余分燃料量は、例えば実用上使用困難な無効燃料量と、演算の見込み誤差に相当する誤差燃料量とを含む量に設定されてもよい。
【0017】
さらに、前記演算手段は、走行可能距離を継続表示した状態で、燃料消費によって前記センサ値が上限値未満となった場合、次の式により走行距離を演算することが好ましい。
【数1】

ここで、Xは仮想初期値、Yは上限値、Zは下限値、αは上限値に達するまでの燃料消費量、βは上限値到達時点から消費された燃料消費量、θは予め定める0以上の余分燃料を表す。
【0018】
本発明の走行可能距離の表示方法は、燃料タンク内の燃料の残量を上限値と下限値の間で検出し、前記残量により走行可能な距離を演算し、演算された走行可能距離を表示する走行可能距離の表示方法であって、予め定める走行可能距離演算開始条件を満たしたときに、前記燃料センサで検出されたセンサ値が上限値である場合、燃料量の初期値を、前記上限値を超えて満タン値以下に設定される燃料量仮想初期値と仮定し、前記燃料量仮想初期値を前記走行可能距離演算開始条件満足時から消費される燃料消費量で減算して求められる燃料量仮想値に基づいて走行可能距離を演算し、走行可能距離を継続表示した状態で、燃料消費によって前記センサ値が上限値未満となった場合に、前記センサ値に基づいて求められる燃料量推定値に徐々に近づくように補正し、この補正された燃料量仮想値に基づいて前記走行可能距離を演算する。
【0019】
この構成によれば、本発明の走行可能距離の表示装置と同様に、燃料量がセンサ上限値以上の場合でも、走行可能距離表示が可能になるとともに、センサ値が上限値未満となった場合でも、走行可能距離表示が急変せず、運転者が違和感を覚えるのを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の走行可能距離の表示装置または走行可能距離の表示方法によれば、センサ値が上限値を検知する場合、すなわち燃料量がセンサ上限値以上の場合でも、燃料量仮想初期値を用いることで、センサ上限値を用いる場合よりも最大誤差の小さい走行可能距離表示が可能となる。また、表示継続した状態で燃料消費によって前記センサ値が上限値未満となった場合、前記燃料量仮想初期値に基づいて演算した燃料量仮想値を、実際の残量に近い前記センサ値と前記燃料消費量とに基づいて求められる燃料量推定値に徐々に近づくように補正するから、前記センサ値に基づく演算に切り換えた場合に生じる走行可能距離表示の急変が発生せず、運転者が違和感を覚えるのを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係る走行可能距離の表示装置を示す系統図である。
【図2】同上走行可能距離の表示装置の演算手段の構成を示す概念図である。
【図3】同上走行可能距離の表示装置における燃料量と走行可能距離との関係の一例を示すグラフである。
【図4】同上走行可能距離の表示装置における燃料量と走行可能距離との関係の他の例を示すグラフである。
【図5】同上走行可能距離の表示装置の演算フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る走行可能距離の表示装置2の構成を示している。走行可能距離の表示装置2は、自動二輪車のような車両に搭載されており、同図に示すように、燃料量と燃料消費率(燃費)Cにより車両の走行可能な距離Dを演算する演算手段8と、この演算された走行可能距離Dを表示する表示手段10とを備えている。
【0023】
表示手段10は、例えば速度やエンジン回転数を表示するための液晶パネルのような表示装置によって実現される。本実施形態では、表示手段10は、数字を表示することで走行可能距離を表示する。演算手段8は、信号を入出力する入出力部と、演算プログラムが記憶される記憶部と、入出力部から入力される信号に従って、演算プログラムに従って予め定める処理を実行し実行結果を出力する処理部とを有する集積回路によって実現される。
【0024】
演算手段8は、燃料センサ6、車両制御装置12およびイグニッション・スイッチ24と電気的に接続される。燃料センサ6は、燃料タンク4内の燃料を上限値Yと下限値Zの間で検出し、燃料残量を示す信号を演算手段8へ与える。また燃料センサ6は、予め定める時間間隔毎に順次燃料残量を検出する。本実施形態では、走行速度が所定以上での燃料センサ6が複数回検出した燃料残量を平均して演算に用いることによって、検出誤差を抑えるようにしている。具体的には、時速5km/h以上での、40ミリ秒ごとに25回検出した燃料残量の平均値を用いている。車両制御装置12は、少なくともエンジン駆動に用いられた単位時間当たりの燃料噴射量を示す信号を演算手段8へ与える。イグニッション・スイッチ24は、イグニッション・オン操作/イグニッション・オフ操作を示す信号を演算手段8へ与える。
【0025】
本実施形態では、表示装置2は、さらに走行距離演算部3と走行速度演算部5とを有する。走行距離演算部3および走行速度演算部5は、速度センサ26から車輪1回転あたり予め定める数の車速パルスが与えられる。走行距離演算部3は、車速パルスを積算することで、演算開始時からの車輪回転量、すなわち走行距離を演算する。走行速度演算部5は、単位時間当たりに与えられた車速パルス数を求めて、走行速度を演算する。各演算部3,5は、それぞれ演算結果を演算手段8に与える。例えば各演算部3,5は、集積回路の処理部がプログラムを実行することによって実現される。図1では、演算手段8と、各演算部3,5とを個別に記載したが、演算手段8で記憶されるプログラムによって各演算部3,5を実現してもよい。
【0026】
図2は、演算手段8の構成を示している。同図に示すように、走行可能距離Dの演算の開始/停止を判定する演算条件判定部16と、燃料消費量と走行距離から演算時点の燃料消費率Cを算出する燃料消費率演算部18と、3つに分けられる燃料容量レベル状態を判定する燃料状態判定部19と、燃料センサ6の出力から走行可能距離Dの算出に用いる算出用燃料量(残量)を決める燃料値出力部20と、前記算出用燃料量と燃料消費率Cとから走行可能距離Dを算出して演算結果を表示手段10に出力する走行可能距離演算部22とを有している。このような演算手段8に含まれる各構成部16,18,19,20,22は、本実施形態では、集積回路の処理部がプログラムを実行することによって実現される。なお、プログラムなどのソフトウェアのほか、電気回路などのハードウェアによって各構成部16,18,19,20,22が実現されてもよい。
【0027】
本実施形態では、演算条件判定部16は、走行状態に移行と判断されると、具体的にはイグニッション・スイッチ24のオン後、走行速度演算部5により所定速度以上、例えば5km/h以上が検知されると、走行可能距離演算の開始条件が満足されたと判定する。また、走行可能距離表示を終了する指令、具体的にはイグニッション・スイッチ24がオフされると、終了条件が満足されたと判定する。ただし、判定条件はこれに限定されない。走行可能距離演算前は、表示手段10には走行可能距離は表示されないが、走行開始条件満足前でもエンジンが始動してからの燃料消費量の演算は行う。これによって演算開始から燃料消費量の減算を行う場合に比べて、燃料消費量を精度よく求めることができ、結果として走行可能距離を精度よく求めることができる。
【0028】
燃料消費率演算部18は、イグニッション・スイッチ24がオンされた時点から演算を開始する。燃料消費率Cの演算は、走行状態に応じて順次更新されて所定時間内の走行距離演算部3からの走行距離と車両制御装置12からの燃料噴射量より得られる燃料消費量とに基づいて行われる。具体的には、10秒間の走行距離と燃料消費量を積算し、その内の直近6回分(1分間)の積算値を合計し、合計された走行距離を合計された燃料消費量で除することで、現時点(演算時点)の燃料消費率Cを得ている。すなわち、演算時点の燃料消費率C[km/L]は、以下の式で求められる。
C=(所定時間当たりの走行距離)/(所定時間当たりの燃料消費量) ・・・(1)
積算時間、合計する回数は本実施形態に限定されない。
【0029】
燃料量状態判定部19は、燃料センサ6から与えられる信号に基づいて、大、中、小の3つの状態に分けられる燃料量の容量レベルがいずれであるかを判定する。大レベルは、燃料量が上限値Y以上となる状態を示す。中レベルは、燃料量が上限値Y未満でかつ下限値Z以上となる状態を示す。小レベルでは、燃料量が下限値Z未満となる状態を示す。燃料量状態判定部19は、中レベルであれば、燃料センサ6から与えられる信号に基づいて、燃料量を示す情報を出力する。
【0030】
燃料値出力部20は、開始条件が満足された時点での、燃料量状態判定部19で判定された燃料量の容量レベルに応じて、走行可能距離の演算に用いる算出用燃料量Gを出力する。燃料値出力部20は、容量レベルに応じて算出用燃料量Gを求める演算式が異なる。また燃料値出力部20は、終了条件が満足された時点で、容量レベルが大または小であれば、終了条件満足時の第1または第2燃料量記憶値MH,MLを記憶する。
【0031】
開始条件が満足された時点で容量レベルが大であれば、予め設定される第1燃料量仮想初期値Xと、開始条件満足時からの累積燃料消費量αとに基づいて、算出用燃料量Gを出力する。具体的には、第1燃料量仮想初期値Xを累積燃料消費量αで減算した値(X−α)を算出用燃料量Gとして用いる。
【0032】
ここで、燃料量仮想初期値Xは、燃料センサ6で求められる上限値Yを超えて満タンZ以下に設定される値である。本実施形態では、第1燃料量仮想初期値Xは、上限値Yと満タン時の燃料量Fとの中間値、すなわちX=(Y+F)/2に設定されているが、これに限定されず、例えば、給油によって到達する可能性の高い燃料値に設定してもよい。ここで、満タン時の燃料量Fとは、燃料タンク6に充填可能な最大燃料量を意味する。ただし、前回の演算を終了した時点での容量レベルが大の状態であれば、前回の演算を終了した時点で記憶される第1燃料量記憶値MHと、開始条件満足時からの累積燃料消費量αとに基づいて、算出用燃料量Gを出力する。具体的には、第1燃料量記憶値MHを、累積燃料消費量αで減算した値(MH−α)を算出用燃料量Gとして用いる。
【0033】
開始条件が満足された時点で容量レベルが中であれば、予め設定される第2燃料量仮想初期値IGと、開始条件満足時からの累積燃料消費量δとに基づいて、算出用燃料量Gを出力する。具体的には、第2燃料量仮想初期値IGを累積燃料消費量δで減算した値(IG−δ)を算出用燃料量Gとして用いる。ここで、第2燃料量仮想初期値IGは、開始条件満足時での燃料センサ6で求められる燃料値である。
【0034】
開始条件が満足された時点で容量レベルが小であれば、前回の演算を終了した時点で記憶される第2燃料量記憶値MLと、開始条件満足時からの累積燃料消費量χとに基づいて、算出用燃料量Gを出力する。具体的には、第2燃料量記憶値MLを累積燃料消費量χで減算した値(ML−χ)を算出用燃料量Gとして用いる。
【0035】
また開始条件が満足された時点で容量レベルが大であり、終了条件が満足するまでに容量レベルが中になった場合には、容量レベルが中になった時点から、算出用燃料量の演算式を変更し、燃料消費に伴って、燃料センサ6の検出結果に基づいて求められる燃料量に徐々に近づくように補正する。本実施形態では、補正される燃料量仮想値Vは後述する式(3)で求められる。
【0036】
走行可能距離演算部22は、燃料消費率演算部18から演算時点の燃料消費率Cを、燃料値出力部20から算出用燃料量Gをそれぞれ取得して、例えば後述する式(4)により、走行可能距離を算出する。
【0037】
つぎに、開始条件が満足された時点で容量レベルが大で、表示を継続した状態で中レベルになった場合の走行可能距離の演算の概略を、図3および図4にしたがって説明する。図3,4においては、説明を簡単にするために、運転状況一定、すなわち燃料消費率一定としている。
【0038】
図3は、上限値Yよりもd1だけ多く、かつ第1燃料量仮想初期値Xよりも少ない燃料量Aで燃料タンク4が満たされるケースを示す(A=(Y+d1)<X)。演算開始時点では、第1燃料量仮想初期値Xと過去の平均的な燃料消費率とに基づいて演算された走行可能距離P0が表示される。本実施形態での算出用燃料量G、表示される走行可能距離Dを実線で、実際のタンクの燃料量とそこから算出される走行可能距離を点線で示す。数値の一例としては、上限値Y=20L、初期時の燃料量A=21L,第1燃料量仮想初期値X=23Lである。
【0039】
燃料がd1だけ消費されると、燃料センサ6で求められる残量が上限値Hとなる。このとき、燃料量仮想値Vは(X−d1)である。表示手段10には、第1燃料量仮想初期値Xを燃料消費量d1で減算した燃料仮想値V=(X−d1)、すなわち残量22Lを用いて演算された走行可能距離P1が表示されている。これに対して、実際の残量は、初期時の燃料量Aを燃料消費量d1で減算(A−d1)した値であり、燃料センサ6で求められる上限値Yと等しく、実際の残量Yは20Lである。このように燃料仮想値V=(X−d1)=22Lと、センサで求められる残量Y=20Lとはずれが生じることになる。仮に、燃料消費量がd1を超えてセンサ値が上限値Y未満に達した時点で、走行可能距離表示の演算に用いる残量を、燃料量仮想値Vによる残量から、センサで求められる残量へ変更すると、表示される走行可能距離が急激に変化して運転者が違和感を覚えることが起こる。図3では、走行可能距離表示が、P1点からh点に急激に変化することになる。
【0040】
そこで、センサ値が上限値Y未満に達しても、走行可能距離表示が継続されている状態であれば、走行可能距離表示が急激に変化することを防ぐようにする。具体的には、後述の式(3)、(4)によって、センサ値が下限値Zに至るまでに、燃料消費に伴って、センサ値に基づいて求められる残量に徐々に近づくように、走行可能距離表示の演算に用いる燃料量仮想値Vを補正する。これによって表示される走行可能距離(センサ値に基づかずに求められた走行可能距離)が、センサ値と燃料消費量に基づいて求められる走行可能距離に、燃料消費に伴って徐々に近づくことになる。
【0041】
その結果、少なくとも燃料センサ6で求められる下限値Zとなった時点で、燃料量仮想値Vとセンサ値とでそれぞれ求められる燃料残量の誤差は解消され、表示手段10に表示される走行可能距離(ラインL2)とセンサ値に基づいて算出される走行可能距離(ラインL1)とが一致する。その後は、下限値Zに基づいて算出される走行可能距離(ラインL3)が表示される。
【0042】
図4は、上限値Yよりもd2だけ多く、かつ第1燃料量仮想初期値Xよりも多い燃料量Bで燃料タンク4が満たされるケースを示す(B=(Y+d2)>X)。演算開始時点では、第1燃料量仮想初期値Xと過去の平均的な燃料消費率とに基づいて演算された走行可能距離Q0が表示される。数値の一例としては、初期時の燃料量B=24L,第1燃料量仮想初期値X=23Lである。
【0043】
燃料がd2だけ消費されると、燃料センサ6で求められる残量が上限値Yとなる。このとき、燃料量仮想値Vは(X−d2)である。表示手段10には、第1燃料量仮想初期値Xを燃料消費量d2で減算した燃料仮想値V=(X−d2)、すなわち残量19Lを用いて演算された走行可能距離Q1が表示されている。これに対して、実際の残量は、初期時の燃料量Bを燃料消費量d2で減算(B−d2)した値であり、燃料センサ6で求められる上限値Yと等しく、実際の残量Yは20Lである。このように燃料仮想値V=(X−d2)=19Lと、センサで求められる残量Y=20Lとはずれが生じることになる。仮に、燃料消費量がd2を超えてセンサ値が上限値Y未満に達した時点で、走行可能距離表示の演算に用いる残量を、燃料量仮想値Vによる残量から、センサで求められる残量へ変更すると、表示される走行可能距離が増加して運転者が違和感を覚えることが起こる。図4では、走行可能距離表示が、Q1点からh点に増加することになる。
【0044】
そこで、センサ値が上限値Y未満に達しても、走行可能距離表示が継続されている状態であれば、走行可能距離表示が増加することを防ぐようにする。具体的には、後述の式(3)、(4)によって、センサ値が下限値Zに至るまでに、燃料消費に伴って、センサ値に基づいて求められる残量に徐々に近づくように、走行可能距離表示の演算に用いる燃料量仮想値Vを補正する。これによって表示される走行可能距離(センサ値に基づかずに求められた走行可能距離)が、センサ値と燃料消費量に基づいて求められる走行可能距離に、燃料消費に伴って徐々に近づくことになる。
【0045】
その結果、少なくとも燃料センサ6で求められる下限値Zとなった時点で、燃料量仮想値Vとセンサ値とでそれぞれ求められる燃料残量の誤差は解消され、表示手段10(図2)に表示される走行可能距離(ラインL4)とセンサ値に基づいて算出される走行可能距離(ラインL1)とが一致する。その後、下限値Zに基づいて算出される走行可能距離(ラインL3)が、表示手段10(図2)に表示される。
【0046】
以下、図5のフローチャートを用い、図3の場合を代表として、走行可能距離演算の流れを詳しく説明する。同図において、以下の符号を使用する。
C :燃料消費率(燃費)
X :第1燃料量仮想初期値
Y :燃料センサが上限値のときの燃料量
Z :燃料センサが下限値のときの燃料量
V :燃料量仮想値
W :仮想下限燃料値
IG:燃料センサが検知する実燃料量
α :燃料センサが上限値以上において開始条件満足時点からの燃料消費量
β :燃料センサが上限値未満と判断されてからの燃料消費量
γ :燃料センサが下限値未満と判断されてからの燃料消費量
σ :イグニッション・オンを判断してからの燃料消費量
MH:燃料センサの上限値で演算を終了した場合における、終了時点の燃料量
ML:燃料センサの下限値で演算を終了した場合における、終了時点の燃料量
【0047】
同図に示すように、ステップS1で演算条件判定部16(図2)により開始条件が満足されていると判定されると、燃料値出力部20(図2)から燃料量を示す信号が出力される。ステップS2で、燃料センサ6で検出される燃料量が上限値Yを示している場合、ステップS3で、燃料値出力部20は、前回の第1燃料量記憶値MHの有無を判断する。前回の第1燃料量記憶値MHが存在する場合、この第1燃料量記憶値MHを燃料残量とて使用し(ステップS4)、存在しない場合は、第1燃料量仮想初期値Xを燃料残量として使用する(ステップS5)。
【0048】
つづいて、ステップS6で、走行可能距離演算部22は、第1燃料量仮想初期値Xまたは第1燃料量記憶値MHと演算時点の燃料消費率Cとに基づいて走行可能距離Dを算出する。この演算は以下の式に基づいて行われる。
D=G×C ・・・(2)
ここで、算出用燃料量Gは(X−α)または(MH−α)であり、燃料量仮想値Vと一致する。
【0049】
式(2)による演算は、終了条件が満たされる(ステップS7)か、燃料センサ6で求められる値が燃料量Y未満を検出する(ステップS8)まで継続される。ステップS7で、終了条件が満たされた場合、走行可能距離演算部22はその時点の燃料量仮想値Vを第1燃料量記憶値MHとして更新し(ステップS9)、演算を終了する。
【0050】
ステップS8において、走行可能距離Dの表示を継続した状態で、燃料消費によって燃料センサ6で求められる値が上限値Y未満となった場合、燃料値出力部20は、ステップ10で、前記燃料量仮想値(X−α)または(MH−α)を燃料消費に伴って、上限値Yと、上限値Y未満と判断されてから消費される燃料消費量βによって求められる燃料量推定値(Y−β)に徐々に近づくように補正し、この補正された「燃料量仮想値V」に基づいて走行可能距離Dを演算する。本実施形態では、補正された燃料量仮想値Vは以下の式で求められる。
V=(Y−β)−{Y−(X−α1)}+[{Y−(X−α1)}/(Y−Z)]×β
・・・(3)
ここで、Xは第1燃料量仮想初期値,Yは燃料センサ6の上限値のときの燃料量,Zは燃料センサ6の下限値のときの燃料量,α1は燃料センサ6の値が上限値Y未満となった時点までの燃料消費量、βは上限値Yから消費される燃料消費量である。
よって、上記式(1)および(3)から走行可能距離Dは、補正された燃料量仮想値Vを用いて、走行可能距離演算部22により、以下のように求められる。
D=V×C ・・・(4)
式(3)、(4)により算出された走行可能距離Dは、図3のラインL2をたどる。
【0051】
式(4)による演算は、終了条件が満たされるか(ステップS11)、燃料センサ6が下限値Zを検出する(ステップS12)まで継続される。ステップS11で、終了条件が満たされた場合、走行可能距離演算部22は演算を終了する。ステップS12で、走行可能距離の表示を継続した状態で、燃料消費によって燃料センサ6で求められる残量の下限値Zを検出した場合、下限値Zから、下限値Zと判断してから消費される燃料消費量γを減算した燃料量(Z−γ)に基づいて走行可能距離を演算する(ステップS13)。つまり、走行可能距離は以下の式で演算される。
D=(Z−γ)×C ・・・(5)
式(5)により算出された走行可能距離Dは、図3のラインL3をたどる。
【0052】
ここで、上限値Yに到達してから下限値Zに到達するまでに消費される燃料消費量βが上限値Yを下限値Zで減算した値(Y−Z)となっても、燃料センサ6が下限値Zを検知しない場合、例えば終了条件を満足せずに給油されたために、β≧X−Yとなった場合(ステップ14)、走行可能距離演算部22は、β=(Y-Z)となった時点のセンサ値を仮想下限燃料値Wとして記録し、以下の式に基づいて走行可能距離を演算する(ステップS15)。
D=(W−δ)×C ・・・(6)
ここで、δは、β=(Y−Z)となった時点からの燃料消費量である。
【0053】
式(5)による演算は、終了条件が満たされるまで継続される(ステップS16)。ステップS16で、終了条件が満たされた場合、走行可能距離演算部22(図2)はその時点の燃料量仮想値Vを第2燃料量記憶値MLとして記憶し(ステップS19)、演算を終了する。式(6)による演算は、終了条件が満たされるか(ステップS17)、燃料タンク6が下限値Zを検出する(ステップS18)まで継続される。ステップS17で、終了条件が満たされた場合、走行可能距離演算部22(図2)は演算を終了する。ステップS18で、燃料タンク6が下限値Zを検出した場合、走行可能距離演算部22(図2)は式(5)により走行可能距離を演算する(ステップS13)。
【0054】
つぎに、開始条件が満たされた時点(ステップS1)で、燃料センサ6の検出値が上限値Y未満(ステップS2)の場合、下限値Zを超えているか否かが判断される(ステップS20)。ステップS20で下限値Zを超えている場合、図2の燃料値出力部20は、燃料センサ6の検出値、つまり実際の燃料量を示す値を実燃料量IGとして出力し、走行可能距離演算部22は、この実燃料量IGとイグニッション・スイッチ24がオンされた時点からの燃料消費量σから、図5のステップS20で走行可能距離を演算する(ステップS21)。つまり、走行可能距離は以下の式で求められる。
D=(IG−σ)×C ・・・(7)
【0055】
式(7)による演算は、終了条件が満たされるか(ステップS22)、燃料センサ6(図2)が下限値Zを検出する(ステップS23)まで継続される。ステップS22で、終了条件が満たされた場合、走行可能距離演算部22は演算を終了する。ステップS23で、走行可能距離の表示を継続した状態で、燃料消費によって燃料センサ6(図2)が下限値Zを検出した場合、ステップS13で走行可能距離が上記式(5)によって演算される。
【0056】
つづいて、ステップS1で開始条件が満たされた時点で、ステップS20で図2の燃料センサ6が下限値Zを検知している場合を説明する。このとき、燃料値出力部20は、前回終了時点の第2燃料値記録値MLを燃料量として使用し(図5のステップS24)、走行可能距離演算部22は、この第2燃料値記録値MLとイグニッション・スイッチ24がオンされた時点からの燃料消費量ωから、図5のステップS25で走行可能距離を演算する。つまり、走行可能距離は以下の式で求められる。
D=(ML−ω)×C ・・・(8)
【0057】
式(8)による演算は、ステップS26で終了条件が満たされるまで継続される。終了条件が満たされた場合、走行可能距離演算部22(図2)はその時点の燃料量仮想値Vを第2燃料量記憶値MLとして記憶し(ステップS19)、演算を終了する。
【0058】
上記構成において、図1の燃料センサ6が上限値Y以上の場合でも、第1燃料量仮想初期値Xまたは第1燃料量記憶値MHを用いて走行可能距離Dが演算されるので(図5のステップS5,S6)、従来のようにセンサ上限値を用いる場合よりも広い範囲での走行可能距離Dを表示することができる。また、燃料消費によって、燃料センサ6が上限値Y未満となった場合、上限値Yと上限値Yからの燃料消費量βに基づいて求められる燃料量推定値に徐々に近づくように補正されるから(図5のステップS8〜10)、実際の残量に近い値である燃料量Yに基づく演算に切り換えた場合に生じる走行可能距離表示の急変が発生せず、運転者が違和感を覚えるのを防ぐことができる。ここで、燃料量推定値は、上限値Yと上限値Y未満となった時点から消費される燃料消費量βとで求めるほかに、演算時の直近に燃料センサ6で検出された上限値Y未満の燃料量に基づいて求めることもできる。
【0059】
さらに、演算開始条件を満たしたときに、燃料センサ6が上限値Y未満で下限値Zを超えている場合、検出されたセンサ値に基づいて走行可能距離が算出されるので(図5のステップS21)、精度の高い走行可能距離を算出できる。この場合、仮に前回終了時に表示されていた走行可能距離と値が異なっていても、表示を一旦消した後に再度表示しているので、運転者が違和感を覚えることを防ぐことができる。
【0060】
演算手段8は、開始条件が満たされたときのセンサ値IGを、開始条件満足時から消費された燃料消費量σで減算して求められる値を燃料量推定値とし、この燃料量推定値に基づいて走行可能距離Dを算出しているので、車体姿勢の変化によりセンサ値が変動したとしても、安定した走行可能距離表示が得られる。
【0061】
また、終了条件を満足したときに、燃料センサ6が上限値Yである場合、終了時の燃料量仮想値Vを第1燃料量記憶値MHとして記憶し(図5のステップS9)、つぎに、開始条件を満たしたときに、燃料センサ6が上限値Yである場合、この第1燃料量記憶値MHを燃料量として走行可能距離が演算される(図5のステップS4)。これにより、燃料を入れていないのに表示される走行可能距離が増えることを防ぐことができる。
【0062】
イグニッション・スイッチ24がオン、かつ速度計26が5km/hを検知した時点で、走行可能距離の演算開始条件が満足され、イグニッション・スイッチ24がオフになった時点で終了条件が満足されるので、演算開始条件および終了条件が適切に設定できる。また、走行状態に入るごとに走行可能距離が表示されるので、前回の表示と異なった値が表示されても、違和感を覚えにくい。
【0063】
走行可能距離を継続表示した状態で、燃料消費によって燃料センサ6が下限値Zとなった場合、下限値Zとその時点から消費される燃料消費量γに基づいて走行可能距離Dが演算される(図5のステップS13)。このように、下限値Zからの燃料消費量γを用いて演算を実行することで、下限値Z以下での走行可能距離Dを精度よく算出できる。
【0064】
さらに、第1燃料量仮想初期値Xは、図3に示す上限値Yと満タン時の燃料量Fとの中間値に設定されているので、第1燃料量仮想初期値Xと実際の燃料量との最大誤差を小さくできる。
【0065】
また、走行可能距離Dの演算に、順次更新される演算時点の燃料消費率Cを用いているので、走行可能距離Dをリアルタイムで、より正確に算出できる。
【0066】
上記実施形態では、演算に用いる算出燃料量を、第1燃料量仮想初期値X、上限値Y、下限値Zと、燃料消費量とに基づいて求めているが、演算される走行可能距離が、実際の走行可能距離よりも大きくなることを防ぐために、前記算出燃料量から予め定める余分燃料θを減算した補正算出燃料量を用いて、走行可能距離を演算してもよい。余分燃料は、例えば、タンク内に残っていてもポンプで吸引できない量などの実質上使用困難な無効燃料量と、燃料噴射量演算の見込み誤差に相当する誤差燃料量とを合わせた量に設定される。無効燃料量は、車両の種類によって異なるが、例えば200〜300cc程度に設定され、誤差燃料は500ccに設定される。
【0067】
上記実施形態では、演算開始時のセンサ値と燃料消費量とに基づいて走行可能距離を演算しているが、上限値と下限値の間では、随時変化するセンサ値から求められる燃料残量を用いて走行可能距離を演算してもよい。これによって演算中に給油されたことによる燃料変動を把握することができ、給油による誤差を防ぐことができる。また、演算開始時のセンサ値と燃料消費量とを用いた第1残量と、センサ値を用いた第2残量との両方を用いて残量を求めてもよい。例えば、通常は第1残量を用い、給油によって第2残量が増加したことを判断すると、増加終了時の第2残量と、燃料消費量とを用いて残量を求めて走行可能距離を演算してもよい。また第1残量と第2残量の平均値を用いたり、第1残量と第2残量とで異なる重みを付けたものを残量として用いてもよい。
【0068】
上記実施形態では、直近の所定時間あたりの燃料消費量に基づいて燃料消費率が求められるとしたが、例えば、演算開始時点からの燃料消費量の累積値に基づいて燃料消費率を求めてもよい。また、直近の値と累積値の値とで重み付けられた燃料消費量を用いて燃料消費率を求めてもよい。さらに、単に平均的な一定値を燃料消費率として用いることもできる。このようにして燃料消費率を適切に設定することで、燃料消費率の急変によって走行可能距離が変動することを防ぐことができる。
【0069】
上記実施形態では、複数の演算式を用いているが、同様の機能を有するのであれば適宜結合、分解したものも本発明に含まれる。また、本発明は、センサ値を用いずに設定される燃料量仮想値Vが、センサ値に基づいて設定される燃料量推定値に、燃料消費に伴って徐々に近づくものであればよく、上記実施形態の式(3)に限定されない。式(3)では、燃料量仮想値Vが、下限値Zに達した時点で、センサ値に基づいて設定される燃料量推定値と一致するように設定されるが、上限値Y未満で下限値Z以上の燃料量に到達した時点で、燃料量推定値と一致するようにしてもよい。すなわち式(3)の下限値Zの値の代わりに、上限値Y未満で下限値Z以上の任意の燃料量Z1が代入されてもよい。下限値Zに達する時点以前に燃料量仮想値Vが燃料量推定値に一致するように演算式を設定することで、下限値Z未満での残量演算結果とのずれを抑えることができる。
【0070】
さらに、燃料消費に伴って、燃料量仮想値Vが予め定める量づつ燃料量推定値に近づくように補正してもよい。具体的には、燃料量仮想値Vが燃料推定値よりも大きい場合には、単位時間当たりの燃料消費量αに所定量εを加えた値を減算して補正した燃料量仮想値Vとする。同様に、燃料量仮想値Vが燃料推定値よりも小さい場合には、単位時間当たりの燃料消費量αに所定量εを減らした値を減算して補正した燃料量仮想値Vとする。これによって、燃料量仮想値Vと燃料量推定値とが大きく離れていない場合には、下限値に達する前に一致させることができる。また燃料が比較的多い場合には、燃料が少ない場合に比べて前記所定量εを大きくすることもできる。このように、燃料消費に応じて燃料量仮想値Vを燃料量推定値に徐々に近づける演算については、任意の演算式を用いることができる。
【0071】
上記実施形態では、燃料噴射装置を有し、燃料噴射を示す信号に基づいて単位時間当たりの燃料消費量を求めたが、燃料噴射装置以外を用いて燃料消費量を求めてもよい。例えば、燃料供給管路に用いられる流量計を用いて燃料消費量を求めてもよく、吸気流量や吸気圧などの他の物理量から燃料消費量を求める演算式を用いて燃料消費量を求めることもできる。このように、燃料噴射装置(インジェクタ)、燃料供給装置(キャブレタ)を用いたものでも燃料消費量が求められるのであれば、本発明を適用することができる。
【0072】
以上のとおり、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、種々の追加、変更または削除が可能であり、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。例えば、本発明は、燃料によって走行する乗物であれば適用可能であるが、燃料タンクが4輪車に比べて比較的小型である自動二輪車などの鞍乗型車両に好適に用いられる。また上記実施形態では、走行可能距離を表示する装置・方法について説明したが、走行可能距離に限らず、走行可能距離の演算に用いた残量を出力することで、燃料残量を推定する装置・方法としても用いることができる。したがって、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0073】
2 走行可能距離の表示装置
4 燃料タンク
6 燃料センサ
8 演算手段
10 表示手段
D 走行可能距離
Y 燃料残量の上限値
Z 燃料残量の下限値
V 燃料量仮想値
X 第1燃料量仮想初期値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料タンク内の燃料の残量により走行可能な距離を演算する演算手段と、
演算された走行可能距離を表示する表示手段とを備え、
前記演算手段は、
予め定める走行可能距離演算開始条件を満たしたときに、前記残量を上限値と下限値の間で検出する燃料センサで検出されたセンサ値が上限値である場合、燃料量の初期値を、前記上限値を超えて満タン値以下に設定される燃料量仮想初期値と仮定し、前記燃料量仮想初期値を前記走行可能距離演算開始条件満足時から消費された燃料消費量で減算して求められる燃料量仮想値に基づいて走行可能距離を演算し、
走行可能距離を継続表示した状態で、燃料消費によって前記センサ値が上限値未満となった場合に、前記センサ値に基づいて求められる燃料量推定値に、前記燃料量仮想値が燃料消費に伴って徐々に近づくように補正し、この補正された燃料量仮想値に基づいて前記走行可能距離を演算する走行可能距離の表示装置。
【請求項2】
請求項1において、前記演算手段は、
前記走行可能距離演算開始条件を満たしたときに、前記燃料センサで検出されたセンサ値が前記上限値未満で下限値を超えている場合、前記センサ値に基づいて走行可能距離を算出する走行可能距離の表示装置。
【請求項3】
請求項2において、前記演算手段は、
開始条件が満たされたときのセンサ値を、開始条件満足時から消費された燃料消費量で減算して求められる値を燃料量推定値とし、前記燃料量推定値に基づいて走行可能距離を算出する走行可能距離の表示装置。
【請求項4】
請求項1,2または3において、前記演算手段は、
前記走行可能距離表示を終了する終了条件を満足したときに、前記センサ値が上限値である場合、表示終了時の前記燃料量仮想値を燃料量記憶値として記憶し、
つぎに、前記走行可能距離演算開始条件を満たしたときに、前記センサ値が前記上限値である場合、前記燃料量記憶値を、前記走行可能距離演算開始条件満足時から消費される燃料消費量で減算して求められる前記燃料量仮想値に基づいて走行可能距離を演算する走行可能距離の表示装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項において、走行可能距離を継続表示した状態で、燃料消費によって前記センサ値が下限値となった場合に、前記下限値を下限値到達時点から消費された燃料消費量で減算した燃料値に基づいて走行可能距離を演算する走行可能距離の表示装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項において、走行状態に移行すると、前記走行可能距離演算開始条件が満足され、走行可能距離表示を終了する指令が与えられると、前記走行可能距離表示を終了する終了条件が満足される走行可能距離の表示装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項において、前記燃料量仮想初期値は、前記上限値での燃料量と前記満タン時の燃料量との中間値近傍に設定されている走行可能距離の表示装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項において、前記演算手段は、走行可能距離の演算に用いられる燃料残量値に、走行状態に応じて順次更新される燃料消費率を乗算して走行可能距離を演算する走行可能距離の表示装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項において、前記演算手段は、前記走行可能距離の演算にあたり、予め定める余分燃料量を差し引いた燃料量を用いる走行可能距離の表示装置。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項において、前記演算手段は、走行可能距離を継続表示した状態で、前記センサ値が上限値未満となった場合、次の式により走行距離を演算する走行距離を演算する走行可能距離の表示装置。
【数1】

ここで、Xは仮想初期値、Yは上限値、Zは下限値、αは上限値に達するまでの燃料消費量、βは上限値到達時点から消費された燃料消費量、θは予め定める0以上の余分燃料を表す。
【請求項11】
燃料タンク内の燃料の残量を上限値と下限値の間で検出し、
前記残量により走行可能な距離を演算し、
演算された走行可能距離を表示する走行可能距離の表示方法であって、
予め定める走行可能距離演算開始条件を満たしたときに、前記燃料センサで検出されたセンサ値が上限値である場合、燃料量の初期値を、前記上限値を超えて満タン値以下に設定される燃料量仮想初期値と仮定し、前記燃料量仮想初期値を前記走行可能距離演算開始条件満足時から消費される燃料消費量で減算して求められる燃料量仮想値に基づいて走行可能距離を演算し、
走行可能距離を継続表示した状態で、燃料消費によって前記センサ値が上限値未満となった場合に、前記センサ値に基づいて求められる燃料量推定値に徐々に近づくように補正し、この補正された燃料量仮想値に基づいて前記走行可能距離を演算する走行可能距離の表示方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−141144(P2012−141144A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−291969(P2010−291969)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】