説明

走行抵抗模擬装置

【課題】精度良く走行抵抗を模擬することができる走行抵抗模擬装置を提供する。
【解決手段】走行抵抗模擬装置4は、パワートレーン1からの出力を計測する動力計10と、パワートレーン1の出力軸2aと動力計10の入力軸10aを接続する回転軸5と、回転軸5に、走行状態にある車両に生じる走行抵抗Fを模擬した負荷を付与する負荷付与装置と、を備えるものであって、前記負荷付与装置は、転がり抵抗fを模擬した負荷を付与する第一の負荷付与装置である転がり抵抗付与装置6と、勾配抵抗fを模擬した負荷を付与する第二の負荷付与装置である勾配抵抗付与装置7と、空気抵抗fを模擬した負荷を付与する第三の負荷付与装置である空気抵抗付与装置8と、加速抵抗fを模擬した負荷を付与する第四の負荷付与装置である加速抵抗付与装置9と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行状態の車両において生じる走行抵抗を模擬するための装置である走行抵抗模擬装置の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンあるいはモータ等の動力源と、トランスミッション等の動力伝達機構と、を備えるパワートレーンを、車両に実際に搭載して評価試験を行う代わりに、車両の走行状態において生じる走行抵抗を模擬することによって、台上でパワートレーンの評価試験を行うことができる試験装置(以下、走行抵抗模擬装置と呼ぶ)が使用されており、例えば、以下に示す特許文献1にその技術が開示され公知となっている。
【0003】
ここで走行抵抗とは、走行状態にある車両に生じる抵抗であり、転がり抵抗・勾配抵抗・空気抵抗・加速抵抗等の各種の抵抗を合成したものである。
つまり、走行抵抗をF、転がり抵抗をf、勾配抵抗をf、空気抵抗をf、加速抵抗をfとして規定すると、走行抵抗Fは以下に示す数式1のように表すことができる。
【0004】
【数1】

【0005】
転がり抵抗fは、車輪(タイヤ)が転がる際に車軸と軸受けの間で生じる摩擦によるエネルギ損失と、路面とタイヤの間で生じる摩擦によるエネルギ損失を合わせた抵抗をいい、タイヤの転がり抵抗係数をμ、車両の重量をW(kg)、重力加速度をg(m/s)とすると、以下の数式2のように表すことができる。
【0006】
【数2】

【0007】
勾配抵抗fは、車両が登坂あるいは降坂する際に生じる抵抗をいい、坂の勾配をθ(%)とすると、以下の数式3のように表すことができる。
【0008】
【数3】

【0009】
空気抵抗fは、車体表面における空気との摩擦により生じる抵抗をいい、空気の密度をρ(kg/m)、空気抵抗係数をCd、車両の前面投影面積をA(m)、車速をV(km/h)とすると、以下の数式4のように表すことができる。
【0010】
【数4】

【0011】
加速抵抗fは、車両が加減速する際に生じる抵抗(即ち、慣性力)をいい、加速度をα(m/s)とすると、以下の数式5のように表すことができる。
【0012】
【数5】

【0013】
特許文献1に開示されている従来技術では、電源装置およびモータ制御部とともに電気自動車の動力系を構成するモータを動力吸収部と機械的に連結し、モータの発生トルクを計測し、この発生トルクを車輪の駆動力に換算し、電気自動車の慣性量(即ち、加速抵抗)および走行抵抗を用いてそのとき発生する理論加速度を計算し、これを積分して得られる理論速度相当の回転数が得られるように動力吸収部を制御するとともに、目標速度パターンに応じた回転数パターンでモータを運転する構成としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2001−91410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、特許文献1に示す如く、従来技術における走行抵抗模擬装置の構成では、走行抵抗の各要素をまとめて一つの抵抗付与装置(動力吸収部)によって付与する構成としているため、走行抵抗の模擬精度が良くないという問題があった。
また近年、燃料電池等を動力源とする新規な車両の開発が進められており、これに伴って、従来よりも精度良く走行抵抗を模擬することができる走行抵抗模擬装置へのニーズが高まっていた。
【0016】
本発明は、係る現状の課題を鑑みてなされたものであり、精度良く走行抵抗を模擬することができる走行抵抗模擬装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0018】
即ち、請求項1においては、パワートレーンからの出力を計測する動力計と、前記パワートレーンの出力軸と前記動力計の入力軸を接続する回転軸と、前記回転軸に、走行状態にある車両に生じる走行抵抗を模擬した負荷を付与する負荷付与装置と、を備える走行抵抗模擬装置であって、前記負荷付与装置は、転がり抵抗を模擬した負荷を付与する第一の負荷付与装置と、勾配抵抗を模擬した負荷を付与する第二の負荷付与装置と、空気抵抗を模擬した負荷を付与する第三の負荷付与装置と、加速抵抗を模擬した負荷を付与する第四の負荷付与装置と、を備えるものである。
【0019】
請求項2においては、前記第一、第二、第三の負荷付与装置は、それぞれ、前記回転軸上に軸支されるタービンと、前記タービンを被装し、流体を導入するための吸込部と前記流体を排出するための吐出部が形成されるケーシングと、前記吸込部から前記ケーシングに導入される前記流体の流量を制御する制御装置と、を備えるものである。
【0020】
請求項3においては、前記ケーシングに導入する前記流体を空気とするものである。
【0021】
請求項4においては、前記第四の負荷付与装置は、前記回転軸上に軸支されるタービンと、該タービンを被装し、流体を導入するための吸込部と前記流体を排出するための吐出部が形成されるケーシングと、前記吸込部と前記吐出部とを連通する管路と、を備えるものである。
【0022】
請求項5においては、前記ケーシングに導入する前記流体の種類を変更して、前記回転軸に付与する負荷を調整するものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0024】
請求項1においては、車両の走行状態における走行抵抗を精度良く模擬することができる。
【0025】
請求項2においては、走行抵抗模擬装置を構成する転がり抵抗、勾配抵抗および空気抵抗の各抵抗付与装置を、簡易な構成とすることができる。
【0026】
請求項3においては、転がり抵抗、勾配抵抗および空気抵抗の各抵抗付与装置を、より簡易な構成とすることができる。
【0027】
請求項4においては、走行抵抗模擬装置を構成する加速抵抗付与装置を、簡易な構成とすることができる。
【0028】
請求項5においては、加速抵抗を精度良く模擬することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施形態に係る走行抵抗模擬装置の全体構成を示す模式図。
【図2】本発明の一実施形態に係る走行抵抗模擬装置が備える抵抗模擬装置を示す模式図、(a)転がり抵抗付与装置および空気抵抗付与装置を示す模式図、(b)勾配抵抗付与装置を示す模式図。
【図3】本発明の一実施形態に係る走行抵抗模擬装置が備える加速抵抗付与装置の全体構成を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
次に、発明の実施の形態を説明する。
まず始めに、本発明の一実施形態に係る走行抵抗模擬装置を用いた試験の対象となるパワートレーンについて、図1を用いて説明をする。
図1に示す如く、本実施形態において、試験の対象となるパワートレーン1は、燃料電池自動車用のパワートレーンであり、モータユニット2と燃料電池ユニット3等により構成している。
【0031】
モータユニット2は、図示しないトランスアクスルとモータ等により構成され、燃料電池ユニット3は、図示しないインバータ、スタック、二次電池、スタック用の昇圧コンバータ、二次電池用の昇圧コンバータ等により構成されている。
そして、燃料電池ユニット3のインバータからモータユニット2に電力を供給することによりモータユニット2のモータを回転させて、トランスアクスルの出力軸2aを駆動する構成としている。
【0032】
尚、本実施形態では、燃料電池自動車用のパワートレーン1を例示して説明をしているが、本発明に係る走行抵抗模擬装置を適用できるパワートレーンの形態をこれに限定するものではなく、例えば、エンジンやトランスアクスル等により構成するパワートレーンや、所謂ハイブリッド自動車を構成するパワートレーン等、種々の形態のパワートレーンに本発明に係る走行抵抗模擬装置を適用することが可能である。
【0033】
次に、本発明の一実施形態に係る走行抵抗模擬装置の全体構成について、図1を用いて説明をする。
図1に示す如く、本発明の一実施形態に係る走行抵抗模擬装置4は、試験対象となるパワートレーン1に対して、走行状態にある車両に生じる走行抵抗を模擬した各種の負荷を付与することができる装置であり、回転軸5、転がり抵抗付与装置6、勾配抵抗付与装置7、空気抵抗付与装置8、加速抵抗付与装置9、動力計10、制御装置11、コントローラ12等により構成している。
【0034】
回転軸5は、試験対象となるパワートレーン1と、該パワートレーン1の出力を計測する動力計10とを接続するための軸部材であり、各抵抗付与装置6・7・8・9を貫通させた状態で図示しない軸受等によって回転可能に支持されている。
そして、回転軸5の一端部5aはパワートレーン1が備えるモータユニット2の出力軸2aと連結部材17により一体的に回転可能に連結され、他端部5bは動力計10の入力軸10aと連結部材17により一体的に回転可能に連結されている。
【0035】
次に、各抵抗付与装置6・7・8・9について、図1〜図3を用いて説明をする。
まず、転がり抵抗付与装置6について、説明をする。
図1および図2(a)に示す如く、走行抵抗模擬装置4が備える第一の抵抗付与装置である転がり抵抗付与装置6は、走行状態にある車両に生じる転がり抵抗f(数式2参照)を模擬した負荷を回転軸5に付与するための装置であり、タービン6a、ケーシング6b、負荷制御装置13等により構成している。
【0036】
転がり抵抗付与装置6のケーシング6bを貫通する部位における回転軸5上には、タービン6aを固設しており、タービン6aは、回転軸5の回転に伴って回転軸5を軸心として一体的に回転される。
また、ケーシング6bには、該ケーシング6bに流体を導入するための部位である吸込部6cと、該ケーシング6bから流体を排出するための部位である吐出部6dを形成している。
そして、転がり抵抗付与装置6においては、ケーシング6bに導入する流体を空気としている。
【0037】
回転軸5の回転に伴ってタービン6aが回転すると、吸込部6cからケーシング6bに空気が自然に導入される。また、導入された空気は、タービン6aによって圧縮され、圧縮された空気が吐出部6dからケーシング6bの外部に排出される。
そして、導入された空気が、タービン6aで圧縮されるときに、タービン6aから回転軸5に対して、回転軸5の回転を妨げるように作用する負荷が付与される。
【0038】
さらに、転がり抵抗付与装置6の吸込部6cには、負荷制御装置13を備えている。
負荷制御装置13は、吸込部6cからケーシング6bに導入される空気の流量を調整することができる装置であり、開閉弁13aと負荷センサ13bを備えている。つまり、開閉弁13aの開度を調整することによって、ケーシング6bへの空気の導入量を制御することができる。
【0039】
そして、ケーシング6bへの空気の導入量を制御することによって、タービン6aによる空気の圧縮度合を制御することができるため、タービン6aから回転軸5に対して付与される負荷の大きさを制御することができる。
【0040】
転がり抵抗付与装置6は、模擬しようとする転がり抵抗のレンジ等を考慮して、タービン6a、ケーシング6b、開閉弁13a等の仕様(タービンの大きさ、形状、風量等)を決定している。そして、タービン6aにより生じさせる負荷が所望する転がり抵抗に相当する負荷となるように開閉弁13aの開度を制御することにより、タービン6aから回転軸5に対して、転がり抵抗を模擬した負荷を付与する構成としている。
【0041】
また、本実施形態では、負荷センサ13bとしてトルクセンサを採用しており、ケーシング6bの内部において、回転軸5の出力トルクを計測することによって、転がり抵抗付与装置6(即ち、タービン6a)から回転軸5に付与した負荷の大きさをリアルタイムに計測する構成としている。
【0042】
また、負荷センサ13bの計測結果を制御装置11にフィードバックしており、実際の計測値に基づいて開閉弁13aの弁開度を修正している。
これにより、転がり抵抗付与装置6によって、所望する転がり抵抗を精度良く模擬した負荷を回転軸5に付与する構成としている。
尚、本説明では「タービン」という表現を用いているが、ここで言うタービンは、ファン・ブロア・ポンプ等を含めた流体機械を構成する羽根車の部位を例示したものであり、各抵抗付与装置の構成を、「タービン」を用いた構成に限定するものではない。
【0043】
次に、勾配抵抗付与装置7について、説明をする。
図1および図2(b)に示す如く、走行抵抗模擬装置4が備える第二の抵抗付与装置である勾配抵抗付与装置7は、走行状態にある車両に生じる勾配抵抗f(数式3参照)を模擬した負荷を回転軸5に付与するための装置であり、タービン7a、ケーシング7b、負荷制御装置14等により構成している。
【0044】
勾配抵抗付与装置7のケーシング7bを貫通する部位における回転軸5上には、タービン7aを固設しており、タービン7aは、回転軸5の回転に伴って回転軸5を軸心として一体的に回転される。
また、ケーシング7bには、該ケーシング7bに流体を導入するための部位である吸込部7cと、該ケーシング7bから流体を排出するための部位である吐出部7dを形成している。
そして、勾配抵抗付与装置7においては、ケーシング7bに導入する流体を空気としている。
【0045】
回転軸5の回転に伴ってタービン7aが回転すると、吸込部7cからケーシング7bに空気が自然に導入される。また、導入された空気は、タービン7aによって圧縮され、圧縮された空気が吐出部7dからケーシング7bの外部に排出される。
そして、導入された空気が、タービン7aで圧縮されるときに、タービン7aから回転軸5に対して、回転軸5の回転を妨げるように作用する負荷が付与される。
【0046】
さらに、勾配抵抗付与装置7の吸込部7cには、負荷制御装置14を備えている。
負荷制御装置14は、吸込部7cからケーシング7bに導入される空気の流量を調整することができる装置であり、開閉弁14aと負荷センサ14bを備えている。つまり、開閉弁14aの開度を調整することによって、ケーシング7bへの空気の導入量を制御することができる。
【0047】
そして、ケーシング7bへの空気の導入量を制御することによって、タービン7aによる空気の圧縮度合を制御することができるため、タービン7aから回転軸5に対して付与される負荷の大きさを制御することができる。
【0048】
さらに、ケーシング7bの吸込部7cには、増速装置21を接続している。
増速装置21は、例えば、コンプレッサーやブロア等の加圧した流体を供給することができる装置によって構成され、ケーシング7bに加圧した空気を供給することができるものである。
勾配抵抗は、車両が下り勾配の走行状態では、車速を増速させるように負荷が作用するため、回転軸5の回転を補助する負荷を付与する必要がある。
増速装置21は、車両が下り勾配の走行状態となったときに、吸込部7cから、強制的に加圧した空気を供給することによって、タービン7aの回転を増速させる構成としている。
【0049】
勾配抵抗付与装置7は、模擬しようとする勾配抵抗のレンジ等を考慮して、タービン7a、ケーシング7b、開閉弁14a、増速装置21等の仕様(タービンの大きさ、形状、風量等)を決定している。そして、タービン7aにより生じさせる負荷が所望する勾配抵抗に相当する負荷となるように開閉弁14aの開度や増速装置21による給気量を制御することにより、タービン7aから回転軸5に対して、勾配抵抗を模擬した負荷を付与する構成としている。
【0050】
また、本実施形態では、負荷センサ14bとしてトルクセンサを採用しており、ケーシング7bの内部において、回転軸5の出力トルクを計測することによって、勾配抵抗付与装置7(即ち、タービン7aおよび増速装置21)から回転軸5に付与した負荷の大きさをリアルタイムに計測する構成としている。
【0051】
また、負荷センサ14bの計測結果を制御装置11にフィードバックしており、実際の計測値に基づいて開閉弁14aの弁開度や増速装置21の給気量を修正している。
これにより、勾配抵抗付与装置7によって、所望する勾配抵抗を精度良く模擬した負荷を回転軸5に付与する構成としている。
【0052】
次に、空気抵抗付与装置8について、説明をする。
図1および図2(a)に示す如く、走行抵抗模擬装置4が備える第三の抵抗付与装置である空気抵抗付与装置8は、走行状態にある車両に生じる空気抵抗f(数式4参照)を模擬した負荷を回転軸5に付与するための装置であり、タービン8a、ケーシング8b、負荷制御装置15等により構成している。
【0053】
空気抵抗付与装置8のケーシング8bを貫通する部位における回転軸5上には、タービン8aを固設しており、タービン8aは、回転軸5の回転に伴って回転軸5を軸心として一体的に回転される。
また、ケーシング8bには、該ケーシング8bに流体を導入するための部位である吸込部8cと、該ケーシング8bから流体を排出するための部位である吐出部8dを形成している。
そして、空気抵抗付与装置8においては、ケーシング8bに導入する流体を空気としている。
【0054】
回転軸5の回転に伴ってタービン8aが回転すると、吸込部8cからケーシング8bに空気が自然に導入される。また、導入された空気は、タービン8aによって圧縮され、圧縮された空気が吐出部8dからケーシング8bの外部に排出される。
そして、導入された空気が、タービン8aで圧縮されるときに、タービン8aから回転軸5に対して、回転軸5の回転を妨げるように作用する負荷が付与される。
【0055】
さらに、空気抵抗付与装置8の吸込部8cには、負荷制御装置15を備えている。
負荷制御装置15は、吸込部8cからケーシング8bに導入される空気の流量を調整することができる装置であり、開閉弁15aおよび負荷センサ15bを備えている。つまり、開閉弁15aの開度を調整することによって、ケーシング8bへの空気の導入量を制御することができる。
【0056】
そして、ケーシング8bへの空気の導入量を制御することによって、タービン8aによる空気の圧縮度合を制御することができるため、タービン8aから回転軸5に対して付与される負荷の大きさを制御することができる。
【0057】
空気抵抗付与装置8は、模擬しようとする空気抵抗のレンジ等を考慮して、タービン8a、ケーシング8b、開閉弁15a等の仕様(タービンの大きさ、形状、風量等)を決定している。そして、タービン8aにより生じさせる負荷が所望する空気抵抗に相当する負荷となるように開閉弁15aの開度を制御することにより、タービン8aから回転軸5に対して、空気抵抗を模擬した負荷を付与する構成としている。
【0058】
また、本実施形態では、負荷センサ15bとしてトルクセンサを採用しており、ケーシング8bの内部において、回転軸5の出力トルクを計測することによって、空気抵抗付与装置8(即ち、タービン8a)から回転軸5に付与した負荷の大きさをリアルタイムに計測する構成としている。
【0059】
また、負荷センサ15bの計測結果を制御装置11にフィードバックしており、実際の計測値に基づいて開閉弁15aの弁開度を修正している。
これにより、空気抵抗付与装置8によって、所望する空気抵抗を精度良く模擬した負荷を回転軸5に付与する構成としている。
【0060】
即ち、本発明の一実施形態に係る走行抵抗模擬装置4において、第一、第二、第三の各負荷付与装置である転がり抵抗付与装置6、勾配抵抗付与装置7、空気抵抗付与装置8は、それぞれ、回転軸5上に軸支される各タービン6a・7a・8aと、各タービン6a・7a・8aを被装し、流体(本実施形態では空気)を導入するための各吸込部6c・7c・8cと空気を排出するための各吐出部6d・7d・8dが形成される各ケーシング6b・7b・8bと、各吸込部6c・7c・8cから各ケーシング6b・7b・8bに導入される空気の流量を制御する各負荷制御装置13・14・15と、を備えるものである。
このような構成により、走行抵抗模擬装置4を構成する転がり抵抗、勾配抵抗および空気抵抗の各抵抗付与装置6・7・8を、簡易な構成とすることができる。
【0061】
また、本発明の一実施形態に係る走行抵抗模擬装置4においては、各抵抗付与装置6・7・8の各ケーシング6b・7b・8bに導入する流体を空気とするものである。
このような構成により、冷却水配管等の設備が不要となるため、転がり抵抗、勾配抵抗および空気抵抗の各抵抗付与装置6・7・8を、より簡易な構成とすることができる。
【0062】
次に、加速抵抗付与装置9について、図1および図3を用いて説明をする。
図1および図3に示す如く、走行抵抗模擬装置4が備える第四の抵抗付与装置である加速抵抗付与装置9は、走行状態にある車両に生じる加速抵抗f(数式5参照)を模擬した負荷を回転軸5に付与するための装置であり、タービン9a、ケーシング9b等により構成している。
【0063】
加速抵抗付与装置9のケーシング9bを貫通する部位における回転軸5上には、タービン9aを固設しており、タービン9aは、回転軸5の回転に伴って回転軸5を軸心として一体的に回転される。
また、ケーシング9bには、該ケーシング9bに流体を導入するための部位である吸込部9cと、該ケーシング9bから流体を排出するための部位である吐出部9dを形成している。さらに、吸込部9cと吐出部9dは、管路9eによって連通させており、ケーシング9bと管路9eによって流体が循環する閉回路を形成している。
そして、加速抵抗付与装置9においては、ケーシング9bに導入する流体を液体としている。
【0064】
回転軸5の回転に伴ってタービン9aが回転すると、吸込部9cからケーシング9bに液体が導入される。また、導入された液体は、タービン9aによって圧縮され、圧縮された液体が吐出部9dから排出される。そして、吐出部9dから排出された流体は、管路9eを通じて吸込部9cに戻される。
このように加速抵抗付与装置9では、ケーシング9bおよび管路9eに封入された液体を、タービン9aの回転によって循環させる構成としている。
そして、ケーシング9bおよび管路9eを循環する液体が有する動圧によって、タービン9aには慣性力が付与されるため、タービン9aから回転軸5に対して、回転軸5の回転を妨げるように作用する負荷が付与される。
【0065】
また、加速抵抗付与装置9は、ケーシング9bおよび管路9eを循環させる流体の種類を変更するようにしている。尚、ここで言う流体の種類とは、流体の比重および粘度の値を基準として、これらの値が異なる流体であれば、種類が異なる流体として扱うようにしている。
これにより、循環する流体の種類を変更することによって、タービン9aに付与される慣性力を調整し、これにより、加速抵抗付与装置9によって、所望する加速抵抗を精度良く模擬した負荷を回転軸5に付与する構成としている。
【0066】
加速抵抗付与装置9は、模擬しようとする加速抵抗のレンジ等を考慮して、タービン9a、ケーシング9bの仕様(タービンの大きさ、形状等)や封入する流体の種類を決定している。そして、タービン9aにより生じさせる負荷が所望する加速抵抗に相当する負荷となるように流体の種類を変更することにより、タービン9aから回転軸5に対して、加速抵抗を模擬した負荷を付与する構成としている。
【0067】
また、加速抵抗付与装置9は、負荷センサ16を備えている。本実施形態では、負荷センサ16としてトルクセンサを採用しており、ケーシング9bの内部において、回転軸5の出力トルクを計測することによって、加速抵抗付与装置9(即ち、タービン9a)から回転軸5に付与した負荷の大きさをリアルタイムに計測する構成としている。
【0068】
また、負荷センサ16の計測結果を制御装置11にフィードバックしており、実際の計測値を確認した上で封入する流体の種類を修正することができる。
これにより、加速抵抗付与装置9によって、所望する加速抵抗を精度良く模擬した負荷を回転軸5に付与する構成としている。
【0069】
即ち、本発明の一実施形態に係る走行抵抗模擬装置4において、第四の負荷付与装置である加速抵抗付与装置9は、回転軸5上に軸支されるタービン9aと、該タービン9aを被装する、流体(本実施態様では液体)を導入するための吸込部9cと液体を排出するための吐出部9dが形成されるケーシング9bと、吸込部9cと吐出部9dとを連通する管路9eと、を備えるものである。
このような構成により、走行抵抗模擬装置4を構成する加速抵抗付与装置9を、簡易な構成とすることができる。
【0070】
また、本発明の一実施形態に係る走行抵抗模擬装置4において、加速抵抗付与装置9は、ケーシング9bに導入する液体の種類を変更して、回転軸5に付与する負荷(慣性力)を調整するものである。
このような構成により、加速抵抗を精度良く模擬することができる。
【0071】
また、本実施形態で例示する動力計10は、所謂トルクメータと呼ばれる装置を採用しており、回転軸5の回転数と出力トルクを計測することができるものである。そして、回転軸5の回転数と出力トルクの計測結果に基づいて、制御装置11によって、パワートレーン1の出力を演算して求めるようにしている。
尚、回転軸5の回転数の計測値をN(rpm)、出力トルクの計測値をT(N・m)と規定すると、パワートレーン1の出力P(kw)は、以下の数式6によって算出できる。
【0072】
【数6】

【0073】
図1に示す如く、制御装置11は、走行抵抗模擬装置4の一連の動作を制御するものであり、実体的には、運転パターンや種々のプログラム等を格納する格納手段、各プログラム等を展開する展開手段、各プログラム等に従って所定の演算を行う演算手段、演算結果を記憶する記憶手段等を備えている。
【0074】
尚、制御装置11の格納手段には、車両の運転パターンとして、例えば、10・15モードの試験における運転パターン等を予め記憶させておき、運転パターンに基づいてパワートレーン1のアクセル開度を算出するプログラムを格納しておく。
また、制御装置11の格納手段には、車両の走行状態に応じて各抵抗付与装置6・7・8・9によって回転軸5に付与すべき負荷を数式1〜5に基づき算出するプログラムを格納しておく。
さらに、制御装置11の格納手段には、算出された付与すべき負荷に応じて各負荷制御装置13・14・15の開度を算出するプログラムや、加速抵抗付与装置9に封入すべき流体の種類を決定するプログラムを予め格納しておく。
【0075】
より具体的には、制御装置11は、CPU、ROM、RAM、HDD等を備える汎用のパーソナルコンピュータを用いて実現することができ、あるいは、前記CPU等を備える専用装置に前記プログラム群を格納したもので実現することもできる。
【0076】
また、制御装置11はコントローラ12に接続されており、コントローラ12を動作させるための信号を送信可能であるとともに、コントローラ12が検出した各種の情報(例えば、計測値)に係る信号を受信(取得)することができる。
【0077】
コントローラ12は、制御装置11に接続されており、制御装置11から入力される信号に基づいて、走行抵抗模擬装置4の各部を動作させる信号を送信可能であるとともに、走行抵抗模擬装置4の各部に設けられたセンサが検出した情報に係る信号を受信することができる。
またコントローラ12は、走行抵抗模擬装置4を構成する動力計10や各負荷制御装置13・14・15の各部位等に接続されており、さらに、パワートレーン1にも接続されている。
【0078】
ここで、制御装置11およびコントローラ12による走行抵抗模擬装置4の各部の制御状況について説明をする。
車両の走行状態を模擬する状態において、コントローラ12には、制御装置11から走行条件に係る信号が入力される。
そして、走行条件に係る信号に基づいて、パワートレーン1に対して、アクセル開度を指令する信号を出力する。これにより、パワートレーン1は、コントローラ12からの指令信号に基づき、出力軸2aの出力が制御される。
【0079】
また、コントローラ12は、制御装置11から走行条件に応じた付与すべき負荷に係る信号が入力される。
そして、付与すべき負荷に係る信号に基づいて、各負荷制御装置13・14・15に対して、各開閉弁13a・14a・15aの開度を指令する信号を出力する。これにより、各負荷制御装置13・14・15は、コントローラ12からの指令信号に基づき、各開閉弁13a・14a・15aの開度が制御される。
【0080】
さらに、コントローラ12には、各抵抗付与装置6・7・8・9に備えられる各負荷センサ13b・14b・15b・16から各抵抗付与装置6・7・8・9における出力トルクの各計測値が入力される。そして、この各計測値を制御装置11に取り込んで、制御装置11が備える演算手段によって、各抵抗付与装置6・7・8・9により実際に付与した負荷を算出している。
【0081】
そして、制御装置11によって、各抵抗付与装置6・7・8・9により実際に付与した負荷と、付与すべき負荷を比較して、差異がある場合には、この差異に係る情報を各抵抗付与装置6・7・8にフィードバックして、各開閉弁13a・14a・15aの開度が制御される。
【0082】
また、制御装置11によって、加速抵抗付与装置9により実際に付与した負荷と、付与すべき負荷を比較して、封入している流体の種類が適当であるか否かの判断がなされる。
このように、走行抵抗模擬装置4では、各走行抵抗付与装置6・7・8・9により実際に付与する負荷と、制御装置11が算出した付与すべき負荷が精度良く一致するように制御する構成としている。
【0083】
さらに、コントローラ12には、動力計10により回転軸5の他端部5bにおいて検出した出力トルクおよび回転数の計測値が入力される。この回転軸5の他端部5bにおいて検出した出力は、出力軸2aの出力と各走行抵抗付与装置6・7・8・9による付与した負荷を合成した出力となっている。
そして、動力計10の計測値を制御装置11に取り込んで、制御装置11が備える演算手段によって、走行パターンに応じた走行状態におけるパワートレーン1の出力を算出している。
これにより、走行抵抗模擬装置4によって、パワートレーン1に対して走行パターンに応じた走行抵抗を精度良く模擬した負荷を付与しながら、パワートレーン1の出力を計測することができる。
【0084】
このように、本発明の一実施形態に係る走行抵抗模擬装置4は、走行抵抗Fを構成する転がり抵抗f、勾配抵抗f、空気抵抗f、加速抵抗fの抵抗要素ごとに各抵抗付与装置6・7・8・9を備える構成としており、各抵抗要素を精度良く模擬することが可能であるため、パワートレーン1に対して、走行状態(走行パターン)に応じた走行抵抗Fを精度良く模擬した負荷を付与することができる。
【0085】
即ち、本発明の一実施形態に係る走行抵抗模擬装置4は、パワートレーン1からの出力を計測する動力計10と、パワートレーン1の出力軸2aと動力計10の入力軸10aを接続する回転軸5と、回転軸5に、走行状態にある車両に生じる走行抵抗Fを模擬した負荷を付与する負荷付与装置と、を備えるものであって、前記負荷付与装置は、転がり抵抗fを模擬した負荷を付与する第一の負荷付与装置である転がり抵抗付与装置6と、勾配抵抗fを模擬した負荷を付与する第二の負荷付与装置である勾配抵抗付与装置7と、空気抵抗fを模擬した負荷を付与する第三の負荷付与装置である空気抵抗付与装置8と、加速抵抗fを模擬した負荷を付与する第四の負荷付与装置である加速抵抗付与装置9と、を備えるものである。
このような構成により、車両の走行状態における走行抵抗Fを精度良く模擬することができる。
【符号の説明】
【0086】
1 パワートレーン
4 走行抵抗模擬装置
5 回転軸
6 転がり抵抗付与装置
7 勾配抵抗付与装置
8 空気抵抗付与装置
9 加速抵抗付与装置
10 動力計
11 制御装置
12 コントローラ
13 負荷制御装置(転がり抵抗用)
14 負荷制御装置(勾配抵抗用)
15 負荷制御装置(空気抵抗用)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パワートレーンからの出力を計測する動力計と、
前記パワートレーンの出力軸と前記動力計の入力軸を接続する回転軸と、
前記回転軸に、走行状態にある車両に生じる走行抵抗を模擬した負荷を付与する負荷付与装置と、
を備える走行抵抗模擬装置であって、
前記負荷付与装置は、
転がり抵抗を模擬した負荷を付与する第一の負荷付与装置と、
勾配抵抗を模擬した負荷を付与する第二の負荷付与装置と、
空気抵抗を模擬した負荷を付与する第三の負荷付与装置と、
加速抵抗を模擬した負荷を付与する第四の負荷付与装置と、
を備える、
ことを特徴とする走行抵抗模擬装置。
【請求項2】
前記第一、第二、第三の負荷付与装置は、
それぞれ、
前記回転軸上に軸支されるタービンと、
前記タービンを被装し、流体を導入するための吸込部と前記流体を排出するための吐出部が形成されるケーシングと、
前記吸込部から前記ケーシングに導入される前記流体の流量を制御する制御装置と、
を備える、
ことを特徴とする請求項1に記載の走行抵抗模擬装置。
【請求項3】
前記ケーシングに導入する前記流体を空気とする、
ことを特徴とする請求項2に記載の走行抵抗模擬装置。
【請求項4】
前記第四の負荷付与装置は、
前記回転軸上に軸支されるタービンと、
該タービンを被装し、流体を導入するための吸込部と前記流体を排出するための吐出部が形成されるケーシングと、
前記吸込部と前記吐出部とを連通する管路と、
を備える、
ことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の走行抵抗模擬装置。
【請求項5】
前記ケーシングに導入する前記流体の種類を変更して、
前記回転軸に付与する負荷を調整する、
ことを特徴とする請求項4に記載の走行抵抗模擬装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−158435(P2011−158435A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−22535(P2010−22535)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】