説明

起伏のあるフランジを備えた中心冷却孔を有するピストン

ピストンは、燃焼力がそれに対して作用する上部燃焼壁を有する上部クラウン部分と、一対のピンボスがそれらの間で連接ロッドの小端を受取るために離間されている下部クラウン部分とを有する。上部クラウン部分および下部クラウン部分は、互いに流体連通する外側油孔および中心油孔を形成する。中心油孔は環状のフランジによって部分的に形成され、フランジは、外側油孔から径方向内方に、かつ上部燃焼壁に向かって上方に、上部燃焼壁から離間された自由縁まで延在する。自由縁は、ピストンの中心軸の周りに開口部を形成し、くぼみが開口部を横切って互いに正反対に整列されている非平坦な最上面を有し、中心油孔全体にわたって油流を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
1. 技術分野
本発明は、概ね内燃機関用のピストンに関し、特に、中心油冷却孔を有するピストンに関する。
【背景技術】
【0002】
2. 関連技術
中心油冷却孔または2つの実質的に閉じられた油冷却孔(二重孔)を有するピストン構造が知られている。二重孔ピストンは、上部および下部クラウン部分の間に形成された、環状の径方向外側孔と開かれた中心孔とを有する。外側および中心孔は、油通路によって互いに分離することができるか、または互いに流体連通することができる。また、孔の一方または両方からリストピンに延在するピン潤滑通路を設けることが知られている。潤滑通路は、ピンボスのリストピンボア内に、および/または横方向に離間されたピンボス間に延在することができる。外側孔は、ピストンのリングベルト領域の冷却に特に適し、中心孔は、熱い燃焼ガスに晒される燃焼ボウル壁によって部分的に形成された中心クラウン領域を冷却するのに特に適する。
【0003】
燃焼ボウルおよび中心クラウン領域は、使用の際に極度の熱に晒される。そのため、前述の中心孔は、中心孔領域に十分な冷却をもたらすために、多量の油流を供給する必要がある。閉じられているものと開かれているものとの両方の中心孔が知られているが、問題は、中心クラウン領域での適切な冷却をもたらすことにある。特に、中心クラウン領域に十分な油流を提供するのと同時に、油の「煮え(cooking)」と劣化とを回避するための絶え間ない努力がなされている。中心孔領域に向けられた油が長時間同じ領域にとどまれば油が煮え、それによって油の冷却および潤滑の両方の機能が低下する。一方、油が中心孔から外方に速く流れすぎると、中心孔領域において油の冷却機能が低下し、それによってピストンの耐用年数が潜在的に短縮される。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
ピストンはピストン本体を含み、ピストン本体は、燃焼力がそれに対して作用する上部燃焼壁を有する上部クラウン部分と、一対のピンボスがそれらの間で連接ロッドの小端を受取るために離間されている下部クラウン部分とを有する。ピンボスは、ピンボア軸に沿って互いに整列されたピンボアを有する。上部クラウン部分および下部クラウン部分は、互いに流体連通する外側油孔および中心油孔を形成する。中心油孔はフランジによって部分的に形成され、フランジは、外側油孔から径方向内方に、かつ上部燃焼壁に向かって上方に、上部燃焼壁から離間された自由縁まで延在する。自由縁は開口部を形成し、開口部を横切ってくぼみが互いに正反対に整列されている非平坦な最上面を有する。
【0005】
発明のこれらおよび他の局面、特徴および利点は、現在好ましい実施例およびベストモードについての以下の詳細な説明、添付の請求項および添付図面に関連して考慮されると、より容易に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】発明の1つの現在好ましい局面にしたがって構成されたピストンの部分横断面図である。
【図2】概ね図1の線2−2に沿って得られた横断面図である。
【図3】概ね図1の線3−3に沿って得られた横断面図である。
【図4】図1のピストンの下部クラウン部分の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
現在好ましい実施例の詳細な説明
図面をより詳細に参照して、図1〜図3は、発明の1つの現在好ましい局面にしたがって構成されたピストン10を示す。ピストン10は、中心軸14に沿って延在するピストン本体12を有し、ピストン本体は中心軸14に沿ってシリンダボア(図示せず)内で往復運動する。ピストン本体12は、上部燃焼壁18を有する上部クラウン部分16を含み、上部燃焼壁18は、ここでは例として、限定することなく、くぼませた燃焼ボウル20を与えるものとして表され、シリンダボア内で燃焼ボウル20に対して燃焼力が直接作用し、それによって極度の発熱のための場所を提供する。図2および図3に記載されているように、上部クラウン部分16は、少なくとも1つ、ここで示されているのは一対の環状上部リブを有し、以下、上部内側リブ22および上部外側リブ24と称し、上部燃焼壁18からそれぞれの自由端26,28に垂下する。ピストン本体12はさらに下部クラウン部分30を含み、下部クラウン部分30は、少なくとも1つ、ここで示されているのは一対の環状下部リブを有し、以下、下部内側リブ32および下部外側リブ34と称し、上部リブの自由端26,28との係合のために整列して配置されているそれぞれの自由端36,38まで延在する。下部クラウン部分30はさらに、下部内側リブ32から上部燃焼壁18に向かって径方向内方かつ上方に延在する環状フランジ40によってもたらされる内側孔床62と、概ねフランジ40から垂下して一対のリストピンボア43,45をもたらす一対のピンボス42,44とを含み、リストピンボア43,45は、リストピン49を受取るためにピン軸41に沿って整列され、連接ロッド47の小端を受取るために、空間46がピンボス42,44の間に設けられる。環状フランジ40は、上部燃焼壁18と軸方向に離間された関係で、概ね上部クラウン部分16に延在する上部環状自由縁48を有し、自由縁48は、油を「煮る」ことなく最適な冷却が生じるように、上部燃焼壁18の下に最適な油流を提供するように形作られる。
【0008】
上部クラウン部分16は、内側および外側リブ自由端26,28から上部リングベルト領域52へと上方に延在する環状外側油孔ポケット50と、内側自由端26から燃焼ボウル20の下に上方に延在する環状内側油孔ポケット54とを有して形成される。下部クラウン部分30は、鋼もしくは他の金属から鋳造または鍛造処理などで形成され、内側および外側リブ自由端36,38から下部リングベルト領域58へと下方に延在する環状外側油孔ポケット56と、内側自由端36およびフランジ自由縁48から谷もしくは床62へと下方に延在する環状内側油孔ポケット60とを有し、床62は、外側油孔ポケット56の床63に対して軸方向に高くなっている。上部クラウン部分16を下部クラウン部分30に取付けると、ここでは実質的に閉じられた外側油孔64として表わされる環状外側油孔と、内側または中心油孔66とが形成される。外側油孔64は、外側リブ24,34および内側リブ22,32によって囲まれ、中心油孔66は、フランジ40によって形成され、かつ部分的に囲まれ、フランジ40は、外側油孔64からその自由縁48まで径方向内方に延在する。ピストン10の冷却を促進するため、1つ以上の油流通路が下部リブ32,34および/またはフランジ40に設けられる。たとえば、図1および図2に示されるように、一対の油通路68が概ねピンボア軸41に沿って下部内側リブ32を通って延在し、図3に示されるように、一対の油通路70が概ねピンボア軸41を横切って下部内側リブ32を通って延在し、外側油孔を中心油孔66と流体連通させる。油通路68,70は、外側油孔64の最も下側部分から内側油孔ポケット60の床62まで上昇する。さらに、図4に示されるように、一対のそれぞれ入口および出口油流開口部72,73は、軸41から概ね45度で互いに正反対の関係で、外側油孔ポケット56の最も下側の床63を通って延在する。そのため、クランク室からの油が、入口開口部72を通って外側油孔64へと上方に流れることができ、油はその後、外側油孔64の周りを循環し、油流通路68および70を通って、部分的に開かれた中心油孔66へと内方に運ばれる。さらに、油は出口開口部73を通って外側油孔64から下方に流れることができる。また、中心油孔66からリストピン/連接ロッド継手領域への油の流れを促進するために、図2に示されるように、一対の油通路74がフランジ40を通って延在し、通路74は、内側油孔ポケット62の床62からピンボス42,44の間の空間46へと径方向内方に降下する。油通路74は、ここでは、概ねピンボア軸41の方向に沿って延在するものとして表わされる。
【0009】
環状フランジ40は、周方向に連続した、円形または丸い壁として形成され、例として、内側リブ32から径方向内方方向にアーチ形の経路に沿って上方に上昇し、床62に概ね凹状の表面を与えるものとして表わされる。所望であれば、床62は、実質的にまっすぐなまたは凸状の表面を有して構成され得ると認識されるべきである。フランジ40は、自由縁48の一部分が、例として、限定することなく、リブ32,34と平面または実質的に平面となることができるように、内側および外側下部リブ32,34の高さに極めて接近して、自由縁48に延在する。そのため、内側リブ32およびフランジ40は協同して環状油収集溜りを形成し、中心油孔66の全体にわたって油の流れを調節する。形成されているとおり、フランジ40は、フランジ40の床62と上部燃焼壁18の底面76との間で、カクテルシェーカと類似した「油シェイク」をもたらすように機能し、中心油孔66が包囲されていないため、油は、フランジの底面78に対してはねることもある。油は中心油孔66の全体にわたって運ばれるが、油の一部分は、リストピン49、ピンボア43,45、および連接ロッド小端の間に定められたピンボア継手に向かって、油通路68,70を通って流れることができ、残りの油は、フランジの上部自由縁48によって形成される環状上部開口部80を通って導かれることができる。開口部80は、中心軸14について中心決めされる円形または実質的に円形の開口部として形成される。図2に示されるように、開口部80は、連接ロッド47の自由端の幅(W)と同じかまたは近い直径を有して寸法決めされ、熱と、開口部80を通る比較的冷たい空気との自由な交換をさらにもたらす。
【0010】
中心油孔66の全体にわたる油の流れを調節するのをさらに補助するため、環状の自由縁48は、非平面の、起伏のある上面82を有して形成される。非平面の上面は、フランジ40に垂下する一対のくぼんだスカラップによってもたらされ、以下くぼみ84と称する。くぼみ84は、開口部80を横切って互いに反対側に形成され、各くぼみ84は、約5〜45度の間に及ぶ。くぼみ84の間に延在するフランジ上面82の部分は、平坦または実質的に平坦な表面86を有して形成される。油が所望の位置に最適に導かれることを確実にするために、くぼみ84はピン軸41に沿って形成され、ここでは、互いに鏡像関係でピン軸41に沿って中心決めされるものとして示される。くぼみ84は、平坦な表面86を備えた滑らかで段差のない移行部を有して形成されることができる。また、くぼみ84は、凹状の外形を有して形成されることができ、くぼみの最も下側の部分は、ピン軸41にわたって整列されているかまたは実質的に整列されている。
【0011】
明らかに、上記の教示に照らして、本発明の多くの修正および変更が可能である。たとえば、ピストンは、単一の鋼鋳造処理で形成されることなどによって一体構造の材料片として構成され得ると考えられる。したがって発明は、添付の請求項の範囲内において、明白に記載された以外の方法で実施され得ると理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンであって、
ピストンがそれに沿って往復運動する中心軸に沿って延在するピストン本体を備え、ピストン本体は、燃焼力がそれに対して作用する上部燃焼壁を有する上部クラウン部分と、一対のピンボスがそれらの間で連接ロッドの小端を受取るために離間されている下部クラウン部分とを有し、前記ピンボスは、ピンボア軸に沿って互いに整列されたピンボアを有し、前記上部クラウン部分および前記下部クラウン部分は、互いに流体連通する外側油孔および中心油孔を形成し、
前記中心油孔はフランジによって部分的に形成され、フランジは、前記外側油孔から径方向内方に、かつ前記上部燃焼壁に向かって上方に、前記上部燃焼壁から離間された自由縁まで延在し、前記自由縁は、前記中心軸の周りに開口部を形成し、前記開口部を横切ってくぼみが互いに正反対に整列されている非平坦な最上面を有する、ピストン。
【請求項2】
前記くぼみは前記ピンボア軸に沿って整列される、請求項1に記載のピストン。
【請求項3】
前記自由縁は、前記くぼみの間を延在する平坦面を有する、請求項2に記載のピストン。
【請求項4】
前記くぼみは、前記平坦面と滑らかに移行する凹状の表面を有する、請求項3に記載のピストン。
【請求項5】
前記開口部は円形である、請求項1に記載のピストン。
【請求項6】
前記開口部は前記中心軸について中心決めされる、請求項5に記載のピストン。
【請求項7】
前記開口部は、連接ロッドの小端の幅に近い直径を有する、請求項6に記載のピストン。
【請求項8】
前記くぼみの各々は、約25〜45度の間に及ぶ、請求項1に記載のピストン。
【請求項9】
前記上部クラウン部分は自由端まで延在する環状リブを有し、前記下部クラウン部分は自由端まで延在する環状リブを有し、前記自由端は、溶接継手によって互いに取付けられ、前記自由縁の一部分は、前記溶接継手と実質的に平坦に延在する、請求項1に記載のピストン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−526237(P2012−526237A)
【公表日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−509850(P2012−509850)
【出願日】平成22年4月29日(2010.4.29)
【国際出願番号】PCT/US2010/032945
【国際公開番号】WO2010/129388
【国際公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(599058372)フェデラル−モーグル コーポレイション (234)