説明

起立補助装置

【課題】起立動作および着座動作する使用者の姿勢変化に適した補助を行ない得る起立補助装置を提供する。
【解決手段】前後方向に延在すると共に上方または下方へ湾曲するガイド部20を基台12に設けると共に、2本のリンクアームLA1,LA2/LA3,LA4を夫々の中間位置で交差させて回転可能に枢着したリンク部40,42を上下に2段以上有し、隣接するリンク部40,42のリンクアームLA1,LA2/LA3,LA4が相互に回転可能に枢着された伸縮リンク機構38を設け、最上段に位置するリンク部42を着座部材22に接続する。そして最下段に位置するリンク部40の一方のリンクアームLA1を基台12に枢着する一方、他方のリンクアームLA2をガイド部20に沿って移動可能に支持して、伸縮リンク機構38の伸張に伴って着座部材22が着座位置から移動する移動初期では、着座部材22が下に凸となる軌道を描いて移動するよう構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着座部材に着座している使用者の起立および着座動作を補助する起立補助装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
傷病等により長期間に亘ってベッド生活を過ごしていた者や、下肢機能に障害を有する者、あるいは足腰の弱まった高齢者等のように、自力での着座姿勢から起立姿勢への移行が困難な者を補助する起立補助装置が種々提案されている。このような起立補助装置としては、モータやシリンダ等の駆動手段を利用して、着座部材自体や、着座部材の左右両脇に位置する肘掛け部材を上昇させることで、椅子に着座している者(以下、使用者という)の起立を補助する起立補助椅子が知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
例えば、特許文献1に開示された起立補助椅子は、座面を奥行の短い前座面と、これより奥行の長い後座面とに分割して、後座面の前端下部と前座面の後端部とをヒンジにより連結し、後座面の前端下部と脚部とを前リンクで連結すると共に後座面の後端下部と脚部側とを後リンクで連結して構成された四節平行リンクからなる座面昇降機構を備えている。そして、後座面と脚部とを連結したガススプリングの伸縮により、前座面の傾斜を伴いながら後座面が昇降するようになっている。また、特許文献2に開示された起立補助椅子は、座面の前部下側に縦アームを固定して、該縦アームの下端部と脚部の後部とを下アームにより回転可能に連結すると共に、該下アームより上方側で、当該縦アームの中間部および脚部の後部を上アームで回転可能に連結して構成された四節リンクからなる座面昇降機構を備えている。そして、上アームと脚部とを連結したガススプリングの伸縮により、傾斜を伴いながら座面が昇降するようになっている。すなわち、座面を昇降させることで使用者の腰部も座面の移動に伴って昇降するため、使用者が起立動作および着座動作を楽になし得るようになる。
【特許文献1】特開平10−179644号公報
【特許文献2】特開平10−248669号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1または2のように、座面昇降機構を四節リンク機構により構成した場合には、その構成上、座面の昇降軌道は扇状にならざるを得ない。すなわち、図5に示すように、座面を四節リンク機構により昇降させた場合には、着座位置から起立位置へ座面が移動する際には、最初は前方への移動量に比べて上方への移動量が大きく、その後に前方への移動量が徐々に大きくなる軌道を描きながら座面が移動する。このため、座面が上昇し始めた移動初期では、使用者は床面から一度足が離れてしまう足浮きの状態になり、これが使用者に不安感を想起させ、起立補助椅子の使用感を低下させている。また起立補助椅子に着座する際には、上昇した起立位置にある座面に腰をかけ、座面を着座位置に移動させることで着座姿勢に移行するが、この際は後方に引いてから下がるという軌道を描いて座面が移動するため、足浮きもしくは座ずれの原因となり、これも起立補助椅子の使用感を低下させる一つの要因となっている。
【0005】
また、特許文献2に開示された起立補助椅子では、着座位置から起立位置へ座面が移動する際に、座面の前下部が上方に移動しながら後方へ移動する軌道を描くことから、座面が上昇するにつれて、足位置と腰位置との水平距離が長くなり、座面上昇後に使用者が起立するまでの体重心移動距離が長くなるため、起立動作が必ずしも容易ではない。また着座する際の腰部から座面までの水平距離が長くなることから、座面に確実に着座するためには、使用者は座面位置を目視で確認するため身体を捻りながら腰を降ろすか、もしくは自分の身体姿勢を逐次確かめることで座面位置を探りながら腰部を徐々に座面に近づけていく必要があるため、使用者に精神的負担を強いることとなり、起立補助椅子の使用感を低下させる問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、起立動作および着座動作を行なう使用者の姿勢変化に適した補助を行ない得る使用感に優れた起立補助装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するために、本願の請求項1に係る起立補助装置は、
着座部材(22)を着座位置と該着座位置より前方かつ上方の起立位置との間で移動させ得るよう構成された起立補助装置において、
基台(12)と、
前記基台(12)に設けられ、前後方向に延在すると共に上方または下方へ湾曲するガイド部(20)と、
2本のリンクアーム(LA1,LA2/LA3,LA4)を夫々の中間位置で交差させて回転可能に枢着したリンク部(40,42)を上下に2段以上有し、隣接するリンク部(40,42)のリンクアーム(LA1,LA2/LA3,LA4)が相互に回転可能に枢着されると共に、最下段に位置するリンク部(40)が前記基台(12)に接続され、最上段に位置するリンク部(42)が着座部材(22)に接続される伸縮リンク機構(38)と、
前記基台(12)に設けられて前記伸縮リンク機構(38)に接続し、伸縮リンク機構(38)を伸縮させる駆動手段(44)とを備え、
前記伸縮リンク機構(38)は、最下段に位置するリンク部(40)は一方のリンクアーム(LA1)が前記基台(12)に枢着される一方、他方のリンクアーム(LA2)が前記ガイド部(20)に沿って移動可能に支持されて、該伸縮リンク機構(38)の伸張に伴って前記着座部材(22)が着座位置から起立位置へ移動する移動初期では、着座部材(22)が下に凸となる軌道を描いて移動するよう構成されたことを要旨とする。
【0008】
請求項2に係る起立補助装置では、前記ガイド部(20)は、下方へ突出するよう湾曲形成され、前記伸縮リンク機構(38)は、最下段に位置するリンク部(40,42)においてリンクアーム(LA1,LA2/LA3,LA4)の交差点(X1)より前側に位置する端部が前記基台(12)に枢支されると共に、該交差点(X2)より後側に位置する端部がガイド部(20)に沿って移動し得るよう支持されることを要旨とする。
【0009】
請求項3に係る起立補助装置出は、前記伸縮リンク機構(38)は、
前記基台(12)に枢支されて後方へ延在する第1リンクアーム(LA1)と、
前記ガイド部(20)に沿って移動し得るよう支持されて前記第1リンクアーム(LA1)と交差するよう前方へ延在し、該第1リンクアーム(LA1)との交差位置で相互に回転可能に枢着された第2リンクアーム(LA2)と、
前記第1リンクアーム(LA1)の後端部に枢支されて前方へ延在する第3リンクアーム(LA3)と、
前記第2リンクアーム(LA2)の前端部に枢支されて前記第3リンクアーム(LA3)と交差するよう後方へ延在し、該第3リンクアーム(LA3)との交差位置で相互に回転可能に枢着された第4リンクアーム(LA4)と、
前記第4リンクアーム(LA3)の後端部に枢支されて前方へ延在すると共に、前端部が前記着座部材(22)に枢着された第5リンクアーム(LA5)とから構成され、
前記第1〜第5リンクアーム(LA1〜LA5)の何れかに、前記駆動手段(44)が接続されることを要旨とする。
【0010】
請求項4に係る起立補助装置は、前記着座部材(22)は、前記伸縮リンク機構(38)が接続され、使用者が着座するシート部(24)を備えたベース部(26)と、該シート部(24)の側部上方位置に位置する肘掛け部材(34)と、該ベース部(26)および肘掛け部材(34)に接続され、肘掛け部材(34)をベース部(26)に対する姿勢を保ちながら平行移動させるリンク機構(36)とを備えていることを要旨とする。
【0011】
すなわち、伸縮リンク機構の最下段に位置するリンク部のリンクアームを、上方または下方へ湾曲するガイド部に沿って移動可能に支持することで、該伸縮リンク機構の伸張に伴って着座部材を着座位置から起立位置へ移動する移動初期においては、着座部材を下に凸となる軌道を描いて移動させることができる。これにより、使用者の起立動作時における腰部の移動軌道に対応する軌道で着座部材を上昇させることが可能となり、使用者の足が床面から離れるのを防止しつつ起立動作を補助でき、起立補助装置の使用感の向上を図り得る。また反対に、起立姿勢から着座する際には、使用者の腰部を安定して支えた状態のまま使用者の足浮きや座ずれを誘発することなく着座部材を下降させ得るから、使用者に不安を与えることなく着座動作を補助することが可能となる。また、肘掛け部材を平行移動させることで、使用者が自身の姿勢を安定的に支えつつ起立または着座動作に移行することができ、使用者の注意負担を軽減できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る起立補助装置によれば、起立動作や着座動作した際の使用者の姿勢変化に適した軌道で着座部材を移動させ得るから、安定感を損なうことなく適切な動作補助を行ない得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に係る起立補助装置につき好適な実施例を挙げて、添付図面を参照しながら、以下詳細に説明する。また、以下の説明において、「前」、「後」、「左」、「右」とは、着座部材に使用者が着座した状態を基準として指称するものとする。すなわち、使用者の正面側が前側であり、使用者の背後側が後側である。また、使用者の右手側が右側であり、左手側が左側である。
【実施例】
【0014】
図1〜図3に示すように、実施例の起立補助椅子(起立補助装置)10は、床面に載置される基台12と、該基台12に対して伸縮リンク機構38を介して連結された着座部材22と、伸縮リンク機構38を伸縮させる駆動手段44とを基本的に備えており、該駆動手段44の駆動により伸縮リンク機構38が伸縮することで、使用者が着座可能な着座位置および該着座位置より前方かつ上方の起立位置の間で着座部材22が移動されるよう構成されている。なお実施例では、着座位置とは、伸縮リンク機構38が最も収縮して着座部材22が最下方にある位置を意味し、起立位置とは、伸縮リンク機構38が伸張して着座部材22が使用者に適した高さ位置まで移動した位置を意味するものである。すなわち、実施例に係る起立補助椅子10では、後述するように、使用者に応じて着座部材22の高さ位置を調整し得るものであり、使用者毎に起立位置が相違するものである。実施例では、前記伸縮リンク機構38および駆動手段44の夫々は、前記着座部材22の左右両側に1基ずつ設置されており、図示しない制御装置からの制御信号により、一対の駆動手段44を同期的に駆動して一体的に作動するようになっている。なお、左右の伸縮リンク機構38および駆動手段44の構成は基本的に同じであるので、以下の説明において、これら伸縮リンク機構38および駆動手段44については左右の区別なく説明する。
【0015】
前記基台12は、図1〜図3に示すように、前脚部14と、後脚部16と、前後の脚部の上部位置を連結する連結部17とから枠状に形成された左右一対の支持フレーム18を、図示しない連結フレームで連結して構成されて、該基台12が起立補助椅子10の脚部として機能するようになっている。また、基台12には、着座位置にある前記着座部材22(後述するベース部26)の下面が当接する支持部(図示せず)が設けられており、該支持部に着座部材22が載置されることで、着座部材22が安定して支持される。また、前記支持フレーム18の後方位置には、下方へ突出するよう湾曲したガイド部20が形成されており、後述のように、前記伸縮リンク機構38を構成するリンクアームLA2を枢支する軸部P2がガイド部20に摺動可能に支持される。
【0016】
前記着座部材22は、使用者の腰部を受けるシート部24と、該シート部24を固定したベース部26とからなり、図示しない従来公知のリクライニング機構により後方へ傾倒可能な背もたれ部28材をベース部26に取り付けて、背もたれ部28の傾斜角度を使用者の着座姿勢に合わせて適宜調整し得るようになっている。また、前記ベース部26の下面には、下方へ突出して前記伸縮リンク機構38が連結される連結片30が形成されている。
【0017】
また、前記着座部材22におけるシート部24の左右側部には、平行な前後一対の平行リンク杆32,32の下端部が枢支されると共に、各平行リンク杆32,32の上端部に肘掛け部材34が回転可能に枢支されており、該シート部24の左右側部の上方位置に肘掛け部材34が位置するよう構成されている。すなわち、ベース部26と、平行リンク杆32,32と、肘掛け部材34により平行リンク機構36を構成しており、ベース部26に対する姿勢を保ちながら肘掛け部材34を平行移動させ得るようになっている。ここで、前記各平行リンク杆32,32の長さ寸法は、前記肘掛け部材34が着座部材22に対して略平行な姿勢を保持すると共に、前方へ肘掛け部材34を移動した際に、当該肘掛け部材34が着座部材22(シート部24)より前方に位置するよう設定されて、使用者が着座部材22に着座した姿勢および着座部材22の前側に起立した姿勢の何れにあっても、肘掛け部材34を支持(把持)し得るようになっている。
【0018】
また、前記基台12と着座部材22とを連結する伸縮リンク機構38は、2本のリンクアームLA1,LA2/LA3,LA4を夫々の中間位置で交差させて回転可能に枢着したリンク部40,42を上下に2段以上有し、隣接するリンク部40,42のリンクアームLA1,LA2/LA3,LA4が相互に回転可能に枢着された所謂パンタグラフリンク機構である。そして、伸縮リンク機構38を構成するリンク部40,42の内、最下段に位置するリンク部40が前記基台12に接続され、最上段に位置するリンク部42が着座部材22に接続されている。
【0019】
具体的には、実施例に係る起立補助椅子10は、下段に位置して前記基台12に接続される第1リンク部40と、該第1リンク部40の上段に位置して前記着座部材22に接続される第2リンク部42とを連結して構成されている。前記第1リンク部40は、軸部X1を介して相互の中間位置を回転可能に枢支された第1リンクアームLA1および第2リンクアームLA2からなり、該軸部X1より前側に位置する第1リンクアームLA1の端部が基台12の前脚下部に対して軸部P1を介して回転可能に枢支されると共に、該軸部X1より後方に位置する第2リンクアームLA2の端部が前記ガイド部20に沿って移動可能に支持された軸部P2に対して回転可能に枢支されている。
【0020】
また、前記第2リンク部42は、軸部X2を介して相互の中間位置を回転可能に枢支された第3リンクアームLA3および第4リンクアームLA4からなり、該軸部X2より後側に位置する第3リンクアームLA3の端部が、軸部X1より後側に位置する第1リンクアームLA1の端部に対して軸部P3を介して回転可能に枢支されると共に、該軸部X2より前側に位置する第4リンクアームLA4の端部が、軸部X1より前側に位置する第2リンクアームLA2の端部に対して軸部P4を介して回転可能に枢支されている。更に、軸部X2より後側に位置する前記第4リンクアームLA4の端部には、第5リンクアームLA5が軸部P5を介して回転可能に枢支される。そして、軸部X2より前側に位置する第3リンクアームLA3の端部が、前記着座部材22に設けた連結片30に対して軸部P6を介して回転可能に枢支されると共に、第5リンクアームLA5の端部が前記着座部材22に設けた連結片30に対して軸部P7を介して回転可能に枢支されている。なお、各軸部P1〜P7,X1,X2は、左右方向に延在するよう設けられる。そして、前記第5リンクアームLA5を連結片30に枢支する軸部P7は、前記第3リンクアームLA3を連結片30に枢支する軸部P6より着座部材22のベース部26側に位置するよう構成されている。
【0021】
また、駆動手段44は、ケーシング46と、該ケーシング46に対して伸縮可能に組付けられたロッド48と、ケーシング46に対してロッド48を伸縮させるモータ(図示せず)とから構成されている。そして、前記基台12の後脚部16の下端部に、前記ケーシング46が上下方向へ揺動可能に枢支されると共に、前記第1リンクアームLA1に前記ロッド48の突出端が揺動自在に枢支されて、ケーシング46およびロッド48の夫々が、前方側斜め上方へ向く姿勢で保持されている。従って、前記モータの駆動により前記ロッド48が伸張すると、前記第1リンクアームLA1が押し上げられると共に軸部P2がガイド部20に沿って前側に移動することで、前記伸縮リンク機構38が伸張されて着座部材22が上昇し、モータの駆動によりロッド48が収縮すると前記第1リンクアームLA1が引き下げられると共に軸部P2がガイド部20に沿って後側に移動することで、伸縮リンク機構38が収縮されて着座部材22が下降するようになっている。
【0022】
すなわち、実施例では、前記着座部材22が着座位置にある状態(伸縮リンク機構38が収縮した状態)では、前記第2リンクアームLA2を枢支する軸部P2が前記ガイド部20の後端部側に位置し、該伸縮リンク機構38の伸張に伴って軸部P2がガイド部20に沿って弧状に変位しながら移動する。これにより、図4に実線で示すように、前記着座部材22は、前記伸縮リンク機構38の伸張に伴って着座位置から起立位置へ移動する移動初期において、下に凸となる軌道を描いて移動する。なお、図4は、使用者の腰部が接触する位置(図1中の符号M)の軌道を示したものである。また、前記着座部材22が着座位置にある状態では、シート部24が水平ないし後傾した状態で保持され、着座部材22が起立位置にある状態ではシート部24が水平ないし前傾した状態で保持される。また、図3は、伸縮リンク機構38が最大限まで伸張した状態を示したものである。
【0023】
また実施例では、前記起立補助椅子10には、前記駆動手段44を駆動操作する操作ユニット(図示せず)が一体的または着脱自在に備えられており、該操作ユニットの操作により駆動手段44を駆動および停止することで伸縮リンク機構38が伸縮および停止するようになっている。すなわち、使用者は、前記操作ユニットの操作により自身の起立および着座に適した高さ位置(起立位置)で着座部材22を停止させ得るようになっている。なお、前記操作ユニットの作業性の観点からは、該操作ユニットを前記肘掛け部材34に対して設けるのが好適である。
【0024】
〔実施例の作用〕
次に、前述のように構成した実施例に係る起立補助椅子10の作用につき説明する。なお、着座部材22が着座位置にある状態を基準にして説明する。
【0025】
実施例に係る起立補助椅子10に着座している使用者が、前記操作ユニットを操作すると、前記駆動手段44のモータが駆動してケーシング46からロッド48が伸長する。ここで、前記ロッド48の突出端部は、前記伸縮リンク機構38における第1リンクアームLA1に枢支してあるから、伸縮リンク機構38を伸張する力が作用する。このとき、前記伸縮リンク機構38の第2リンクアームLA2は、前記基台12に形成されたガイド部20に沿って移動可能な軸部P2に枢支されているから、伸縮リンク機構38の伸張により着座部材22が移動する軌道が徐々に変化する。これにより、着座部材22が着座位置から起立位置へ移動する移動初期では、水平方向前側への移動量が上方への移動量に比べて大きな軌道を描いて着座部材22が移動する。そして、前記伸縮リンク機構38の伸張が進行すると、次第に水平方向前側への移動量より上方への移動量が大きくなり、着座部材22が下に凸となる軌道を描いて移動する。
【0026】
このように、着座部材22が着座位置から起立位置へ移動する移動初期に、着座部材22を下に凸になる軌道を描くよう移動させることで、該着座部材22の移動軌道を使用者の起立動作における四肢の関節角度変化に基づく腰部の移動軌道に近似させ得るから、使用者の足が床面から離れるのを防止しつつ起立動作を補助でき、起立動作時に不安感を想起させることなく動作補助することができる。更に、起立補助椅子10の使用者が変わると、起立姿勢での腰部の高さ位置は大きく変化することから、使用者の起立姿勢に応じた高さまで着座部材22が上昇することが求められる。特に、起立補助椅子10を障害者や高齢者等が使用する場合には、使用者によって起立姿勢が大きく異なってくる。これに対して、前述した特許文献1,2のような四節リンク機構を利用して着座部材22を昇降移動させる構成では、着座部材22が上昇し得る高さ位置が制限され、各使用者の起立姿勢に適した高さ位置まで着座部材22を移動させ得ない。ここで、実施例の起立補助椅子10では、着座位置から起立位置へ移動する際に、伸縮リンク機構38の伸張により着座部材22が常に上方へ押し上げられるから、使用者に合った高さ位置まで着座部材22を上昇させて起立動作への移行を容易に行なわせることができる。
【0027】
また反対に、起立姿勢から着座する際には、着座部材22の水平方向後側への移動量より下方への移動量が大きくなるから、使用者の腰部を安定して支えた状態のまま使用者の足浮きや座ずれを誘発することなく着座部材22を下降させ得る。従って、着座部材22に対して使用者が安心して体重を預けることができ、不安を与えることなく使用者の着座動作を補助することができる。
【0028】
また、平行リンク機構36により肘掛け部材34を着座部材22に対して平行移動し得るよう構成し、該肘掛け部材34の略全体が着座部材22の前方、すなわち起立した使用者の左右両脇に位置するよう肘掛け部材34を移動させ得るよう構成したことで、起立した使用者は適度に前屈みになって安定した姿勢(重心が前寄りになった転倒の危険性が低い姿勢)で肘掛け部材34を把持することができ、使用者が自身の姿勢を安定的に支えることができる。従って、起立時における使用者の負担が軽減され、スムーズな歩行動作への移行が実現される。同様に、起立した使用者の左右両脇に肘掛け部材34が位置することで、肘掛け部材34を把持しながら着座部材22に着座できるから、使用者が自身の姿勢を安定的に支えつつ着座動作に移行することができ、使用者の注意負担を軽減できる利点がある。
【0029】
〔変更例〕
なお、実施例に係る起立補助装置は、前述した構成に限られず種々の変更が可能である。例えば、実施例では、伸縮により着座部材を着座位置および起立位置の間で移動させる伸縮リンク機構を、第1リンク部と第2リンク部とからなる2段構造としたが、3つ以上のリンク部を備える構成であってもよい。すなわち、伸縮リンク機構は、2本のリンクアームを夫々の中間位置で交差させて回転可能に枢着したリンク部を上下に2段以上有し、隣接するリンク部のリンクアームが相互に回転可能に枢着された構成とすることができる。リンク部を3段以上設けることで、着座部材を上昇させ得る高さ位置を高くすることができ、様々な身長、姿勢の使用者に対して適する起立および着座動作の補助が使用可能となる。
【0030】
実施例では、平行リンク機構により肘掛け部材が着座部材に対する姿勢を保持しながら平行移動し得るよう構成したが、これに限られるものではなく、ギア機構やクランク機構等の各種機構を採用できる。また、実施例では肘掛け部材を着座部材に支持する例を示したが、基台に対して支持するようにしてもよく、肘掛け部材を省略することも可能である。
【0031】
実施例では、ガイド部に沿って移動可能な軸部に第2リンクアームを枢支するよう構成したが、該第2リンクアームを基台に対して回転可能に枢支すると共に、ガイド部に沿って移動可能な軸部に対して第1リンクアームを枢支するようにしても、実施例と同様の作用効果を得ることができる。また、実施例では、前記ガイド部を下方へ湾曲するよう形成したが、上方へ湾曲するようにしてもよい。すなわち、前記伸縮リンク機構における各リンクアームの軸間距離およびガイド部の曲率や長さを適宜調整することにより、図4中に2点鎖線で示す軌道で着座部材を移動させることができ、伸縮リンク機構の伸張に伴って着座部材が着座位置から起立位置へ移動する移動初期において、着座部材を下に凸となる軌道を描いて移動させることができる。
【0032】
実施例では、駆動手段として、伸縮タイプのシリンダを採用したが、これに限らず、モータ等のロータリ式アクチュエータにベルトやギア駆動を組み合わせた構成の駆動装置を採用することも可能である。すなわち、駆動手段としては、伸縮リンク機構の何れかのリンクアームを回転させ得るものであれば、従来公知の手段を採用できる。また、実施例では、着座部材の左右位置に伸縮リンク機構および駆動手段を配置するよう構成したが、着座部材の左右幅の中央位置に1つの伸縮リンク機構および駆動手段を配置するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施例に係る起立補助椅子を示す側面図であって、着座部材が起立位置にある状態を示す。
【図2】実施例に係る起立補助椅子を示す側面図であって、着座部材が着座位置にある状態を示す。
【図3】実施例に係る起立補助椅子を示す側面図であって、伸縮リンク機構が最大限まで伸張した状態を示す。
【図4】実施例に係る起立補助椅子における着座部材の移動軌跡を示すグラフ図である。
【図5】従来の起立補助椅子における着座部材の移動軌跡を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0034】
12 基台
20 ガイド部
24 シート部
26 ベース部
34 肘掛け部材
36 平行リンク機構(リンク機構)
38 伸縮リンク機構
40 第1リンク部(リンク部)
42 第1リンク部(リンク部)
44 駆動手段
LA1 第1リンクアーム(リンクアーム)
LA2 第2リンクアーム(リンクアーム)
LA3 第3リンクアーム(リンクアーム)
LA4 第4リンクアーム(リンクアーム)
LA5 第5リンクアーム
X1 軸部(交差点)
X2 軸部(交差点)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着座部材を着座位置と該着座位置より前方かつ上方の起立位置との間で移動させ得るよう構成された起立補助装置において、
基台と、
前記基台に設けられ、前後方向に延在すると共に上方または下方へ湾曲するガイド部と、
2本のリンクアームを夫々の中間位置で交差させて回転可能に枢着したリンク部を上下に2段以上有し、隣接するリンク部のリンクアームが相互に回転可能に枢着されると共に、最下段に位置するリンク部が前記基台に接続され、最上段に位置するリンク部が着座部材に接続される伸縮リンク機構と、
前記基台に設けられて前記伸縮リンク機構に接続し、伸縮リンク機構を伸縮させる駆動手段とを備え、
前記伸縮リンク機構は、最下段に位置するリンク部は一方のリンクアームが前記基台に枢着される一方、他方のリンクアームが前記ガイド部に沿って移動可能に支持されて、該伸縮リンク機構の伸張に伴って前記着座部材が着座位置から起立位置へ移動する移動初期では、着座部材が下に凸となる軌道を描いて移動するよう構成された
ことを特徴とする起立補助装置。
【請求項2】
前記ガイド部は、下方へ突出するよう湾曲形成され、前記伸縮リンク機構は、最下段に位置するリンク部においてリンクアームの交差点より前側に位置する端部が前記基台に枢支されると共に、該交差点より後側に位置する端部がガイド部に沿って移動し得るよう支持される請求項1記載の起立補助装置。
【請求項3】
前記伸縮リンク機構は、
前記基台に枢支されて後方へ延在する第1リンクアームと、
前記ガイド部に沿って移動し得るよう支持されて前記第1リンクアームと交差するよう前方へ延在し、該第1リンクアームとの交差位置で相互に回転可能に枢着された第2リンクアームと、
前記第1リンクアームの後端部に枢支されて前方へ延在する第3リンクアームと、
前記第2リンクアームの前端部に枢支されて前記第3リンクアームと交差するよう後方へ延在し、該第3リンクアームとの交差位置で相互に回転可能に枢着された第4リンクアームと、
前記第4リンクアームの前端部に枢支されて前方へ延在すると共に、前端部が前記着座部材に枢着された第5リンクアームとから構成され、
前記第1〜第5リンクアームの何れかに、前記駆動手段が接続される請求項2記載の起立補助装置。
【請求項4】
前記着座部材は、前記伸縮リンク機構が接続され、使用者が着座するシート部を備えたベース部と、該シート部の側部上方位置に位置する肘掛け部材と、該ベース部および肘掛け部材に接続され、肘掛け部材をベース部に対する姿勢を保ちながら平行移動させるリンク機構とを備えている請求項1〜3の何れか一項に記載の起立補助装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−22589(P2010−22589A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−187524(P2008−187524)
【出願日】平成20年7月18日(2008.7.18)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16〜20年度、文部科学省、地域科学技術振興施策、委託研究(知的クラスター創成事業、岐阜・大垣地域ロボティック先端医療クラスター)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(304019399)国立大学法人岐阜大学 (289)
【出願人】(391016842)岐阜県 (70)
【出願人】(594033488)株式会社キタニ (2)
【Fターム(参考)】