説明

起電力を有する組成物及びこれを用いた電源セルその他の電源ユニット並びにその製造方法

【課題】水分の補給で新たな起電力を自己発生的に再生することができる電源セルを提供する。
【解決手段】酸と反応して水素イオンと水酸イオンを発生させる無機工業薬品を無機酸水溶液、有機酸水溶液と反応させて水素イオンと水酸イオンを発生させ、反応溶液をアルカリ性に調整する。無機酸との反応で空洞を有する網かご状の結晶構造を生成して水素イオンを吸着させ、有機酸との反応で網かご状結晶構造を被覆して、水素イオンを不活性化させて水酸イオンが多く存在させた還元性のある沈殿物を得る。この沈殿物を多孔質の無機物粉末と混練して起電力のあるぺースト状組成物に生成して陽極部材3を構成する。この陽極部材の塗布面に、イオン交換能を有するセパレータ5を挟んで陰極部材6を積層し電源セル7を形成する。この電池セルは配設した吸水部材の水分を前記の陽極部材、セパレータ、陰極部材で電解して起電力を自己発生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学反応で起電力を発生させた組成物及びこれを使用した電源セルその他の電源ユニット並びにその製造方法に関し、詳細には酸との反応により水素イオンと水酸化物イオン(以下、水酸イオンという)を発生する無機工業薬品をリン酸などの無機酸水溶液と一次反応させた後、クエン酸などの有機酸水溶液と二次反応させることにより起電力を有する組成物を生成し、この組成物を陽極部材に使用し、イオン交換能を有するセパレータを介して陰極部材を積層することにより、電気エネルギーを発生させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯型電器、あるいは移動体用の電源としては乾電池などの一次電池のほか、充電が可能な蓄電池などの二次電池が日常的に使われている。
【0003】
一次電池は、1.5Vの単一乾電池を使用した場合、その電気エネルギーは外部抵抗5オームで10時間程度放電できる能力を持っているが、利用分野が拡大している現在の電気機器には充分なエネルギーとはいい難く、また、一度使い切ってしまうと使用できなくなり、環境保全の面から廃棄処分にも困難が伴う。
他方、二次電池は充電により何回でも再生可能であるが、その都度外部から電極間に逆方向の電流を流す必要があり、充電コスト、労力、時間のロスなどの問題がある。
【0004】
電極での反応に水素イオンと水酸イオンを関与させ、酸化・還元反応により起電力を発生させる電池が、例えば、特開2005−347197号公報に開示されている。
この電池は、陰極側の酸性媒体中で水素イオンを発生させ、陽極側の塩基性媒体中で水酸イオンを発生させるものであり、電池内で酸化還元反応を行うため、電池内部に各々のイオン発生反応場を必要とするとともに、少なくとも電池内のいずれかの反応場に過酸化水素などの反応物質を供給する必要がある。
これに対し、化学反応により発生させた水素イオンと水酸イオンのうち、水素イオンを不活性化し、水酸イオンを多く存在させた組成物を予め生成し、この組成物を陽極に使用して起電力を発生させるようにした本件特許出願の電池は、出願人の知る限りでは見当らない。
【特許文献1】特開2005−347197号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の第1の目的は、従来の一次電池に比較して耐用時間が著しく改善された電源セル等に使用可能な、起電力を有する組成物を提供することにある。
【0006】
本発明の第2の目的は、上記の起電力を有する組成物を陽極に使用して効率のよい電源セルその他の電源ユニットを提供することにある。
【0007】
本発明の第3の目的は、陽極部材と陰極部材間に積層した吸水材に水分補給・吸収させることにより、新たな起電力を自己発生的に再生することができる上記の電源セルその他の電源ユニットを提供することにある。
【0008】
本発明の第4の目的は、上記電源セル及び電源ユニットを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記第1の目的を達成するために、本発明の起電力を有する組成物は、酸との反応により水素イオンと水酸イオンを発生させる無機工業薬品の粉末粒子を、リン酸その他の無機酸水溶液と一次反応させた後、クエン酸その他の有機酸水溶液と二次反応させ、アルカリ性に調整して得た反応溶液中の還元力のある沈殿物を多孔質無機物と混練して、前記反応により生成された水素イオンを不活性化して水酸イオンを指数的に多量に含有するようにしたことを特徴とする。
【0010】
上記第2の目的を達成するために、本発明の電源セルは、陽極部材と陰極部材をセパレータを挟んで積層したシート状又はプレート状の電源セルであって、前記陽極部材が、酸との反応により水素イオンと水酸イオンを発生させる無機工業薬品の粉末粒子をリン酸その他の無機酸水溶液と反応させた後、クエン酸その他の有機酸水溶液で反応させ、この反応生成物をアルカリ性に調整して得た還元性のある沈殿物を多孔質の無機物粉末と混練して水素イオンを不活性化し水酸イオンを指数的に多く存在させた起電力のあるペースト状組成物をシート状またはプレート状の支持体に塗布した構造になり、前記セパレータがイオン交換能を有するシートであることを特徴とする。
【0011】
さらに、上記第3の目的を達成するための他の電源セルは、陽極部材と陰極部材をセパレータを挟んで積層したシート状又はプレート状の電源セルであって、前記陽極部材が、酸との反応により水素イオンと水酸イオンを発生させる無機工業薬品を、リン酸その他の無機酸水溶液と反応させた後、クエン酸その他の有機酸水溶液で反応させ、この反応物をアルカリ性に調整して得た還元性のある沈殿物を多孔質の無機物粉末と混練して水素イオンを不活性化させ水酸イオンを指数的に多く存在させた起電力のあるペースト状組成物をシート状またはプレート状の支持体に塗布した構造になり、前記セパレータがイオン交換能を有するシートからなり、さらに、前記陽極部材と陰極部材間のいずれかの位置に吸水部材が含有または積層されていることを特徴とする。
【0012】
前記吸水部材は、前記陽極部材と陰極部材間にセパレータとして積層したイオン交換能を有する吸水シートで構成してもよく、又、陽極部材の片側または両側に給水可能に配設した吸水シートでもよい.。
【0013】
上記第4の目的を達成するために、本発明の上記電源セルの製造方法は、酸との反応により水素イオンと水酸イオンを生成し得る無機工業薬品の粉末粒子を、リン酸その他の無機酸水溶液と一次反応させて水素イオンと水酸イオンを発生させるとともに、前記粒子の粒子間をかご状結晶構造に生成して内部空洞に水素イオンを吸着・吸収させた後、その反応生成物をクエン酸その他の有機酸水溶液と二次反応させて水素イオンを前記結晶構造の内部空洞により多く吸着・吸収させて封じ込めるとともに、この反応生成物をアルカリ性に調整して得た還元性のある沈殿物を多孔質の無機物粉末と混練して水素イオンを不活性化させ水酸イオンを指数的に多く存在させた起電力のあるペースト状組成物を生成し、この起電力のあるペースト状組成物をシート状またはプレート状支持体に塗布して陽極部材を形成し、この陽極部材にイオン交換能を有するセパレータを介在させて陰極部材を積層し、これにより、リード線を介して陽極部材から陰極部材に電流を通電可能にしたことを特徴とする。
【0014】
又、上記第4の目的を達成するために、起電力再生可能な上記電解セルの製造方法は、酸との反応により水素イオンと水酸イオンを生成し得る無機工業薬品の粉末粒子をリン酸その他の無機酸水溶液と一次反応させて水素イオンと水酸イオンを発生させるとともに、前記粒子の粒子間をかご状結晶構造に生成して内部空洞に水素イオンを吸着・吸収させた後、その反応物をクエン酸その他の有機酸水溶液と二次反応させて水素イオンを前記結晶構造の内部空洞により多く吸着・吸収させて封じ込め、この反応物生成物をアルカリ性に調整して得た還元性のある沈殿物を多孔質の無機物粉末と混練して水素イオンを不活性化させ水酸イオンを指数的に多く存在させた起電力のあるペースト状組成物に生成し、このペースト状組成物をシート状またはプレート状支持体に塗布した陽極部材に、イオン交換能を有するセパレータを介在させて陰極部材を積層するとともに、陽極部材と陰極部材間のいずれかの位置に吸水部材を介在させ、これにより、リード線を介して陽極部材から陰極部材に電流を通電可能にするとともに、陽極部材と陰極部材間に介在させたセパレータの含水水分を電解し、得られた水酸イオンを陽極部材に供給して起電力を再生させるようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明による起電力のある組成物は、酸との反応により水素イオンと水酸イオンを発生させる無機工業薬品とリン酸などの無機酸水溶液との一次反応によって得た反応生成物を、クエン酸などの有機酸水溶液と二次反応させ、アルカリ性の下に生成された還元性組成物である沈殿物を多孔質の無機物粉末と混練してなり、これにより水素イオンを不活性にし、水酸イオンを指数的に多く存在させてなるので、電解を用いずに起電力のある組成物が得られ、新規な電源セルの陽極材として利用できる。
【0016】
本発明による電源セルの陽極部材は、酸との反応により水素イオンと水酸イオンを発生させる無機工業薬品とリン酸などの無機酸水溶液との一次反応によって得た反応生成物を、クエン酸などの有機酸水溶液と二次反応させ、アルカリ性の下に生成された還元性のある沈殿物を多孔質の無機物粉末と混練して得た起電力のあるペースト状組成物を支持体に塗布した構成になっている。このため、一次反応及び二次反応により生成された水素イオンと水酸イオンのうち、水素イオンは前記沈殿物と多孔質無機物の組合せでプロトン(H)が多孔質無機物に吸着又は吸収されて不活性化される。その結果、陽極部材は指数的に多量の水酸イオンが存在した状態となり効率的に起電力が発生して相対的に大きな電気エネルギーが得られる。
【0017】
また、本発明の電源セルは、前記陽極部材と陰極部材間に、イオン交換能のある紙あるいは布製のシートを使用するとともに、陽極部材と陰極部材間のセル内の所望位置に吸水部材を水分補給可能に配設しているので、前記化学反応によって生成された電力が消費されて必要な電気エネルギーが不足しても、陽極部材と陰極部材間の前記吸水部材に少量の水を補給して水分20%程度に加湿することにより、吸水した水分が陽極部材と陰極部材の通電で水素イオンと水酸イオンに電解され、水酸イオンが陽極部材に集まって新たな起電力が発生する。従って、外部からの電流を必要とすることなく電源セルが自家充電され、少量の水分補給だけで起電力が自己再生される。
【0018】
複数の前記電源セルを直列または並列に電気的に接続して組合わせることにより、或は、陽極部材、セパレータをフレキシブルなシートを使用し、陰極部材をアルミ箔などで構成することにより、折りたたみ、折り曲げ可能なコンパクトな電源で大きな電力が得られる。また、有害物質を含まないので廃棄の際も環境汚染のおそれもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明に使用される無機工業薬品は、アルカリ類、無機塩類、金属単体、酸化物、硫化物、炭化物のうち、酸と反応して水素イオンと水酸イオンを発生させる無機工業薬品であれば使用可能であるが、安価で反応時の安全性に富むところから、たとえば、酸化亜鉛(ZnO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化チタン(TiO)、酸化マンガン(MnO)などの金属酸化物、水酸化カルシウム(Ca(OH))、水酸化ニッケル(Ni(OH))などのアルカリ類、、炭酸カルシウム(CaCO)などの炭酸塩の一種または二種以上の混合物が適しており、特に、作業性の良さから酸化亜鉛、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化チタンの一種または二種以上の混合物が最良である。
【0020】
本発明において、上記の無機工業薬品との一次反応に使用する無機酸としては、リン酸、特にオルトリン酸(HPO)が好適であり、また、二次反応に使用する有機酸としては、クエン酸、酢酸、乳酸等を使用することができるが、作業性の良さから、クエン酸(C)が好適である。
【0021】
本発明における無機工業薬品と酸の反応の一例として、例えば、水酸化カルシウム(Ca(OH))の粉末あるいは粒子をリン酸水溶液に混合して一次反応させると、
Ca(OH) + HPO――――→ CaHPO + 2H
この反応過程で2(H + OH)の水素イオンと水酸イオンが発生する。
3Ca(OH) + 2HPO――――→ CaPO + 6H
この反応過程で6(H + OH)の水素イオンと水酸イオンが発生する。
さらに反応が進む――――→ Ca(PO + H
となり、白濁したリン酸水素カルシウム水溶液が生成される。これをさらにクエン酸水溶液と混合して二次反応させ、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)等でアルカリ性に調整すると水素イオン(H)と水酸イオン(OH)を発生させた還元力のあるリン酸金属化合物、すなわち、リン酸水素カルシウム(CaHPO)が沈殿物として生成される。
【0022】
この沈殿物の生成過程は、まず、水酸化カルシウムとリン酸の一次反応により、金属粒子間内部に空洞を持った網かご状の結晶構造を生成させる。この網かご状結晶構造は、イオンの大きさの違いから水素イオンのみを通し、水酸イオンを通さない微細網目を有するので、水素イオンは内部空洞に吸着・吸収される。
次いで、クエン酸水溶液との二次反応で反応生成物が水素イオンを吸着または吸収した前記結晶構造を被覆して水素イオンを結晶構造の空洞内部に閉じ込める。
この二次反応後の水溶液に水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)などを添加するなどの方法でアルカリ性に調整すると水素イオンを不活性化し、水酸イオンを指数的に多く存在させた起電力のある組成物が沈殿物の状態で生成される。
【0023】
この沈殿物(リン酸水素カルシウム、及びリン酸カルシウム)にゼオライト、ケイソウ土、活性炭などの多孔質の無機物粉末をブレンドすると、水素イオンを吸着または吸収した前記の結晶構造が多孔質無機物の内部に取り込まれて水素イオン(H)を不活性化させ、水酸イオン(OH)を指数的に多量に存在させた起電力のあるペースト状の組成物が得られる。
【0024】
図1に示すように、上記の起電力を持った組成物1のペースト4を所望面積(図1では、4cm×6cm)の支持体2の片面(必要により両面)に塗布して本発明による電源セルの陽極部材3を形成する。
前記起電力のある組成物1のペースト4を塗布する支持体2は、紙パルプ、布、不織布などのフレキシブルなシートを用いて折りたたみ又は折り曲げ可能に形成してもよく、またプラスチックなどの固形プレートを使用してもよい。
陽極部材3となる起電力のある組成物1のペースト4の塗布厚は電源の使用目的、電気容量、支持体材質等にもよるが、通常は1mm〜5mm、好ましくは、2mmが良好である。
【0025】
陽極部材3の組成物ペースト4塗布面に、セパレータ5を挟んでアルミニウム、亜鉛などの箔又は薄板からなる陰極部材6が積層される。
このセパレータ5にはイオン交換能を有するシートが使用される。ここで「イオン交換能を有するシート」とは、電子を通すが、他の基は通さない紙パルプ、布、不織布などのシート隔膜を意味する。
【0026】
陰極部材6は、厚さが0.1mm〜1mm、好ましくは、0.5mm程度のアルミ箔、亜鉛箔などが用いられる。
【0027】
かくして、図1のように形成した陽極部材3を構成する組成物1のペースト4の塗布面と陰極部材6の間に、前記セパレータ5を挟んで図2のように積層することにより本発明による第1の形態の電源セル7が形成される。
この電源セル7は、陽極部材3、陰極部材6に銅、カーボンなどの電気的なリード線8、9を設け、LED等の電気デバイスに接続して使用するものであるが、本発明の電源セル7は、前記のように無機工業薬品とリン酸、クエン酸の反応で発生した水素イオンが多孔質無機物に吸着・吸収されて不活性化され、陽極部材3に指数的に多量の水酸イオンが存在することにより相対的に大きな起電力を有している。
ちなみに、本発明の電源セル7は、例えば、4cm×6cmの単体で、1ボルト、1アンペアの電気エネルギーが得られる。
【0028】
本発明のさらに好ましい第2の電源セル7は、上記のように構成した電源セル7の陽極部材3と陰極部材6間のセル内所望位置、または、陽極部材3の外側面に、好ましくは、シート状または所定厚の層状の吸水部材10を配設し、この吸水部材10に水分を20%程度、あるいはそれ以上に補給することにより、前記陽極部材3と陰極部材6間に存在する電位差により吸水部材10から供給された水が電解されて水酸イオンを発生させ、イオン交換能を持つセパレータ5により陽極部材3に新たな起電力が自己発生的に再生されるようになっている。
【0029】
図3及び図4はの実施例は、上記第2の電源セル7における給水部材10の具体的な配置例を示すもので、前記陽極部材3と陰極部材6間に介在させたイオン交換能を有するセパレータ5自体を紙、布、不織布などの吸水性で構成し、セパレータ5に水分を補給することにより補給水が陽極部材3と陰極部材6で分電解され、発生した水酸イオンが陽極部材3に集まって新たな起電力が自己発生的に再生される。この具体例では、セパレータ5が吸水部材10を兼ねているのでセパレータ5のシートに陽極部材及び陰極部材からはみ出す吸水片11を一体に形成し、この吸水片11に水を補給することによって水を吸い上げ、セパレータ5(吸水部材10)が水分20%程度になる構造にしてある。
【0030】
図5及び図6は、吸水部材10の他の具体例を示すもので、図5のように、セパレータ5と陰極部材6の間に吸水部材10を独立に配置し、図6に示すように、支持体2,陽極部材3,セパレータ5,吸水部材10、陰極部材6を一体に積層して電源セル7を組付けたものである。
【0031】
吸水部材10の配設位置は図の具体例に限定されるものではなく、前記のように吸水部材10に補給した水が陽極部材3と陰極部材6で電解され、発生した水酸イオンで起電力が自己発生される構造であればよい。
【0032】
この電源セル7は単体で使用することができるが、複数の電源セル7を直列または並列に電気的に接続し、あるいは、大きい面積の電源セルをコンパクトに折り込むことにより、利用目的により各種の電源装置を製造することができ、また、電源セルの組立により電気的に大容量の電源セルあるいは電源ユニットに構成することができる。
実験によれば、4cm×6cmの電源セル4枚を直列で接続すると、4乃至5ボルトの電圧が得られ、白色LEDを4〜5V、20mAで200乃至800時間連続点灯させる電力が得られ、また、6セルを直列にした場合は、6乃至8ボルトの電力が発生し、青色LEDを200乃至800時間点灯維持できる。電源セルの規模、組み合わせをさらに改善して電力を大容量にすることにより5,000時間程度の点灯維持も可能である。
【実施例1】
【0033】
1.酸化亜鉛10g,炭酸カルシウム1gにリン酸20%溶液20ml(ミリリットル)を添加すると、一次反応により水素イオンと水酸イオンが発生するとともに、微粒子間に空洞を有する網がご状の結晶構造の物質が溶液中に白濁状に生成され,水素イオンがこの結晶構造の空洞内に吸収・吸着された。
2.反応が進行した後、この反応物にクエン酸10%溶液20mlを添加して二次反応を行った。反応が進行すると、反応生成物によって前記結晶構造が被膜された白濁分散液を得た。
3.この白濁分散液に水酸化カリウムと水酸化ナトリウムの20%混合溶液20mlを添加してアルカリ性(pH11程度)に調整し、溶液中に沈殿組成物を得た。このときのORP値(酸化還元値)は−500mVであった。
4.この沈殿組成物を取出してII型ゼオライト、活性炭を合計30重量%加えてよく練り込み、ペースト状にした。
5.このペースト状組成物2gを、4×12平方センチのシート状支持体に均一に塗布して乾燥させ、リード線を取付けて陽極部材を形成した。
6.他方、同様の面積のアルミ箔(シート)にリード線を取付けて陰極部材を形成した。
7.この陽極部材と陰極部材を、イオン交換能を有する吸水性シートからなるセパレータを介して一体に積層したところ、1V程度の電位差を有するセルが得られた。
【0034】
上記のセルを1セルとして5セルを直列で結線すると5〜6V,100mAの電流を示す電源ユニットが得られた。
この電源ユニットを30mA、4.5Vの白色LEDに接続したところ、点灯時間が約200時間持続した。
【0035】
電源が消費されて点灯停止となった後、吸水性シートを水分20%程度に吸水させたところ、再度点灯し、点灯時間が約100時間持続した。
水分補給による再点灯は繰り返し実現された。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の電源セル及び電源ユニットは、外部電力及び従来の電池を不要にし、さまざまな分野に広く利用できる。
例えば、懐中電灯、電動器具、電動玩具等の移動体電気器具あるいは電飾用に利用した場合はコンパクトで長時間使用可能な電源として使用できる。
【0037】
また、本発明の電源セルに使用される陽極部材は、乾燥させておけば数年間保全が可能であり、セパレータその他電源セル内の所望位置に吸水部材を配設し場合は、吸水部材に水を補給すると直ちに発電する。したがって、場所を問わず、必要なときにすぐ役立つので、非常用、緊急用あるいは仮設用の電源としても使用できる都ともに、燃料電池にもなりうるのでその利用価値は計り知れない。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一実施例による電源セルの概略的部材構成図
【図2】図1実施例による電源セルの組付け斜視図
【図3】本発明の他の実施例による電源セルの概略構成図
【図4】図3実施例による電源セルの組付け斜視図
【図5】本発明の他の実施例による電源セルの概略的部材構成図
【図6】図5実施例による電源セルの組付け斜視図
【図7】図5実施例の複数の電源セルを直列に組合わせた電源ユニットの概略構成を示す拡大断面図
【符号の説明】
【0039】
1 起電力のある組成物
2 支持体
3 陽極部材
4 起電力のあるペースト
5 セパレータ
6 陰極部材
7 電源セル
8 リード線
9 リード線
10 吸水部材
11 吸水片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸との反応により水素イオンと水酸イオンを発生させる無機工業薬品の粉末粒子をリン酸その他の無機酸の水溶液と反応させた後、クエン酸その他の有機酸水溶液と反応させ、アルカリ性に調整して得た反応溶液中の沈殿物である還元性組成物を多孔質無機物と混練して前記反応により生成された水素イオンを不活性化し水酸イオンを指数的に多量に含有するようにしたことを特徴とする起電力を有する組成物。
【請求項2】
陽極部材と陰極部材をセパレータを挟んで積層したシート状又はプレート状の電源セルであって、前記陽極部材が、酸との反応により水素イオンと水酸イオンを発生させる無機工業薬品の粉末粒子をリン酸その他の無機酸水溶液と反応させた後、クエン酸その他の有機酸水溶液で反応させ、この反応生成物をアルカリ性に調整して得た還元性のある沈殿物を多孔質の無機物粉末と混練して水素イオンを不活性にして水酸イオンを指数的に多く存在させた起電力のあるペースト状組成物をシート状またはプレート状の支持体に塗布した構造になり、前記セパレータがイオン交換能を有するシートであることを特徴とする電源セル。
【請求項3】
陽極部材と陰極部材をセパレータを挟んで積層したシート状又はプレート状の電源セルであって、前記陽極部材が、酸との反応により水素イオンと水酸イオンを発生させる無機工業薬品を、リン酸その他の無機酸水溶液と反応させた後、クエン酸その他の有機酸水溶液で反応させ、この反応物をアルカリ性に調整して得た還元性のある沈殿物を多孔質の無機物粉末と混練して水素イオンを不活性にして水酸イオンを指数的に多く存在させた起電力のあるペースト状組成物をシート状またはプレート状の支持体に塗布した構造になり、前記セパレータがイオン交換能を有するシートからなり、さらに、前記陽極部材と陰極部材間のいずれかの位置に水分を補給する吸水部材が介在していることをさらに特徴とする電源セル。
【請求項4】
酸との反応により水素イオンと水酸イオンを生成し得る無機工業薬品の粉末粒子をリン酸その他の無機酸水溶液と一次反応させて水素イオンと水酸イオン発生させるとともに、前記粒子の粒子間をかご状結晶構造に生成して内部空洞に水素イオンを吸着・吸収させた後、その反応物をクエン酸その他の有機酸水溶液と二次反応させて水素イオンを前記結晶構造の内部空洞により多く吸着・吸収させて封じ込めるとともに、この反応生成物をアルカリ性に調整して得た還元性のある沈殿物を多孔質の無機物粉末と混練して水素イオンを不活性化させ水酸イオンを指数的に多く存在させた起電力のあるペースト状組成物を生成し、この起電力のあるペースト状組成物をシート状またはプレート状支持体に塗布して陽極部材を形成し、この陽極部材にイオン交換能を有するセパレータを介在させて陰極部材を積層し、これにより、リード線を介して陽極部材から陰極部材に電流を通電可能にしたことを特徴とする電源セルの製造方法。
【請求項5】
酸との反応により水素イオンと水酸イオンを生成し得る無機工業薬品の粉末粒子をリン酸その他の無機酸水溶液と一次反応させて水素イオンと水酸イオンを発生させるとともに、前記粒子の粒子間をかご状結晶構造に生成して内部空洞に水素イオンを吸着・吸収させた後、その反応物をクエン酸その他の有機酸水溶液と二次反応させて水素イオンを前記結晶構造の内部空洞により多く吸着・吸収させて封じ込め、この反応生成物をアルカリ性に調整して得た還元性のある沈殿物を多孔質の無機物粉末と混練して水素イオンを不活性化させ水酸イオンを指数的に多く存在させた起電力のあるペースト状組成物に生成し、このペースト状組成物をシート状またはプレート状支持体に塗布した陽極部材にイオン交換能を有するセパレータを介在させて陰極部材を積層するとともに、陽極部材と陰極部材間のいずれかの位置に吸水部材を介在させ、これにより、リード線を介して陽極部材から陰極部材に電流を通電可能にするとともに、陽極部材と陰極部材間に介在させたセパレータの含水水分を電解し、得られた水酸イオンを陽極部材に供給して起電力を再生させるようにしたことを特徴とする電源セルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−270001(P2008−270001A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−112440(P2007−112440)
【出願日】平成19年4月20日(2007.4.20)
【出願人】(505001306)
【Fターム(参考)】