説明

超伝導加速空洞

【課題】 安価であると共に、確実に高い真空度を得ることができる超伝導加速空洞を提供する。
【解決手段】 超伝導材料であるニオブからなる空洞セル1aを複数連ねて形成された超伝導加速空洞1において、超伝導加速空洞1の端部1bに、ニオブと線膨張係数が近いチタンからなるフランジ2を直接溶接すると共に、フランジ2のシール材7との接触面に、変態温度が高く、かつ、硬度の高い窒化チタンの被膜6を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導加速装置に用いられる超伝導加速空洞に関する。
【背景技術】
【0002】
電子ビーム又は荷電粒子を高効率で加速する装置として、ニオブ材等の超伝導材料からなる超伝導加速空洞を用いた超伝導加速装置が開発されており、工業分野に限らず、医療分野等でも使用されている。使用分野が拡がるに伴い、今後、更に高効率、安全で、安価な超伝導加速装置が要望されている。
【0003】
【非特許文献1】Kristen Zapfe-Dueren, "A New Flange Design for the Superconducting Cavities for TESLA", Proceedings of The 8th workshop on RF Superconductivity, 1997
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、超伝導加速装置に用いられる超伝導加速空洞は、本体部分だけでなく、そのフランジの部分も、ニオブ(Nb)材の超伝導材料が使用されていた。ニオブ材自身は硬度が低いため、極低温において超伝導加速空洞の内部を真空に保つためには、フランジ部分をシールするシール材として、更に硬度の低いインジウムを使用する必要があった。ところが、インジウムのシール材は、その硬度の低さ故に取り付け作業が難しく、取り付けに失敗して、所望の真空度を得られなかったり、取り付け時間が多大となったりと、問題が多かった。
【0005】
近年、ニオブ材のフランジに代わって、ニオブチタン材のフランジが使用されるようになってきており、ニオブチタン材自身は硬度が低くないため、比較的安価で、真空用部材として実績のあるメタル製シール材が使用可能となってきている。ところが、ニオブチタン材は、素材自体が高価であるという問題があった。
【0006】
そこで、安価なステンレス・スチール(SUS)製のフランジを、超伝導加速空洞のフランジに用いることも検討されている。ところが、SUSは、超伝導加速空洞を構成するニオブに直接溶接することができず、ロウ付け、HIP(Hot Isostatic Pressing)、爆着等により接合する必要がある上、超伝導加速空洞を構成するニオブと線膨張係数が倍近く異なるため、応力緩和や出ガスのための加熱処理時に、ステンレス・スチール製のフランジの接合部分に微少亀裂が生じ、微少リークが発生したり、場合によっては、破損したりするおそれがあった。
【0007】
このように、超伝導加速空洞においては、フランジのシール部分、又、異種材との接合部分に、安価で、信頼性が高く、確実なシール方法が求められていたが、全てを満足するものは得られていなかった。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みなされたもので、安価であると共に、確実に高い真空度を得ることができる超伝導加速空洞を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する第1の発明に係る超伝導加速空洞は、
超伝導材料から形成された空洞のセルを有する超伝導加速空洞において、
前記超伝導加速空洞の端部に、前記超伝導材料と線膨張係数が近い金属からなるフランジを直接溶接すると共に、前記フランジのシール材との接触面に、融点が高く、かつ、硬度の高い被膜を形成したことを特徴とする。
【0010】
上記課題を解決する第2の発明に係る超伝導加速空洞は、
第1の発明に記載の超伝導加速空洞において、
前記超伝導材料をニオブとすると共に前記金属をチタンとし、前記被膜を窒化チタンとしたことを特徴とする。
【0011】
上記課題を解決する第3の発明に係る超伝導加速空洞は、
第2の発明に記載の超伝導加速空洞において、
前記被膜は、チタンからなる前記フランジの表面を窒化処理したもの、又は、チタンからなる前記フランジの表面に窒化チタンをコーティングしたものであることを特徴とする。
【0012】
なお、被膜の膜厚は、少なくとも5ミクロンとすることが望ましく、又、被膜の表面粗さRaは0.8ミクロン以下、Rmaxは3.2ミクロン以下とすることが望ましい。加えて、被膜としては、窒化チタン以外に、DLC(ダイヤモンド・ライク・カーボン)、CrN(窒化クロム)、Cr(クロム)、ZrN(窒化ジルコニウム)、TiAlN(窒化チタンアルミニウム)、TiW(チタンタングステン)、TiC(炭化チタン)、TiCN(窒化炭化チタン)等でもよく、TiN、TiCは、窒化処理、浸炭処理としてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、フランジを構成する金属の線膨張係数を、超伝導加速空洞本体を構成する超伝導材料と略同一にしたので、加熱、冷却等の熱履歴があっても、破損したり微少リークが発生したりすることはなく、又、フランジのシール材との接触面に、融点が高く、硬度の高い被膜を形成したので、比較的安価で、真空用部材として実績のあるメタル製シール材が使用可能となり、確実にかつ簡易に高真空を得ることができる。又、安価な部材が使用可能となるので、消耗品、メンテナンスコストを含めて、超伝導加速装置のコストを低減することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図1、図2を参照して、本発明に係る超伝導加速空洞を説明する。
【実施例1】
【0015】
図1は、本発明に係る超伝導加速空洞の実施形態の一例を示す概略図である。又、図2(a)は、図1に示した超伝導加速空洞のフランジ部分を示す断面図であり、図2(b)は、図2(a)のA領域の拡大図である。
【0016】
超伝導加速装置に用いられる超伝導加速空洞1は、軸方向断面が楕円状の空洞セル1aを複数連ねて形成したものであり、ニオブ材の超伝導材料から構成される。超伝導加速空洞1は、図示しないチタン製のジャケットの内部に配置されており、ジャケットの内部に供給され、超伝導加速空洞1の周囲を満たす液体ヘリウムにより冷却されて、超伝導状態を保つように構成されている。超伝導加速空洞1の一方の端部近傍には、超伝導加速空洞1に所定の高周波電力を供給する導波管3が設けられており、供給された高周波電力により、空洞セル1aが共振して、超伝導加速空洞1の長さ方向に、所定の加速勾配が形成されるようになっている。超伝導加速空洞1の内部を通過する電子ビーム又は荷電粒子は、超伝導加速空洞1の長さ方向に加速さる。
【0017】
超伝導加速空洞1の両端部1bには、フランジ2が設けられている。フランジ2は、ステンレス・スチール製のベローズ4のフランジ5と、シール材7を介して、複数のボルト10、ナット11を用いて連結されており、一方は電子ビーム又は荷電粒子の供給部へ、他方は加速された電子ビーム又は荷電粒子の出力部へ接続されている。本発明においては、超伝導加速空洞1を構成する超伝導材料と線膨張係数が近い金属を用いて、フランジ2を構成している。
【0018】
具体的には、超伝導加速空洞1を構成する超伝導材料をニオブ材とする場合、フランジ2を、ニオブ材と線膨張係数が近い金属、例えば、チタン材を用いるとよい。ニオブ材における300Kから4Kへの線膨張率は−0.151%であり、チタン材における300Kから4Kへの線膨張率は−0.159%であり、線膨張係数が極めて近く、超伝導加速空洞1に接合する材料としては望ましい物性である。これに対して、ステンレス・スチール(SUS316)の場合は、300Kから4Kへの線膨張率が−0.305%と、ニオブ材の線膨張率の2倍近く大きく、超伝導加速空洞1に接合する材料として望ましいものではない。加えて、フランジ2にチタン材を用いる場合は、ニオブ材の超伝導加速空洞1に、電子ビームやレーザビーム等により直接溶接可能であるというメリットもあり、接合部分のシール性が確保できると共に、作製が容易となり、コストの低減も可能となる。
【0019】
更に、本発明においては、フランジ2のシール材6との接触面に、融点が高く、かつ、硬度の高い、窒化チタンからなる被膜6を形成している。これは、通常、超伝導加速空洞1の応力緩和や出ガスのために加熱処理を行うが、このときの温度が750度程度であるため、フランジ2をチタンのみで構成した場合、チタン表面の結晶粒の単結晶化が進行し、シール特性が損なわれるおそれがあるため、フランジ2のシール材6との接触面に窒化チタンの被膜6を形成することで、フランジ2のシール材6との接触面の変性を防止して、シール特性が損なわれないようにするものである。
【0020】
ここで、被膜6は、チタンからなるフランジ2の表面を窒化処理して形成してもよいし、又は、チタンからなるフランジ2の表面に窒化チタンをコーティングして形成してもよい。
【0021】
又、被膜6は、熱処理後の窒化チタン界面のチタンからの影響を吸収するため、その膜厚を少なくとも5ミクロン(μm)とすることが望ましく、更に、熱処理後であっても、被膜6の表面粗さRaを0.8以下、そして、Rmaxを3.2以下することが望ましい。
【0022】
上述したように、超伝導材料からなる超伝導加速空洞1本体に、超伝導材料と略同一の線膨張係数の金属のフランジ2を設け、そのフランジ2のシール材7との接触面に、融点が高く、硬度の高い被膜6を形成することで、加熱、冷却等の熱履歴があっても、破損したり微少リークが発生したりすることはなく、又、真空用部材として実績のある安価なメタル製シール材等が使用可能となる。従って、超伝導加速空洞1において、安価で、信頼性が高く、確実なシール方法を提供できることとなる。
【0023】
なお、被膜6の材料としては、TiN(窒化チタン)に限らず、DLC(ダイヤモンド・ライク・カーボン)、CrN(窒化クロム)、Cr(クロム)、ZrN(窒化ジルコニウム)、TiAlN(窒化チタンアルミニウム)、TiW(チタンタングステン)、TiC(炭化チタン)、TiCN(窒化炭化チタン)等が使用可能である。
【0024】
又、メタル製シール材としては、アルミニウム製の菱形断面のシール材や表皮がアルミニウム・銅・インジウムメッキからなるスプリング入りの金属Oリング等が使用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、ニオブ材からなる超伝導加速空洞に好適なものであるが、超伝導材料として、ニオブ材以外の素材を用いる場合にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る超伝導加速空洞の実施形態の一例を示す概略図である。
【図2】図2(a)は、図1に示した超伝導加速空洞のフランジ部分を示す断面図であり、図2(b)は、図2(a)のA領域の拡大図である。
【符号の説明】
【0027】
1 超伝導加速空洞
1a セル
1b 端部
2 フランジ
3 導波管
4 ベローズ
5 フランジ
6 被膜
7 シール材
10 ボルト
11 ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超伝導材料から形成された空洞のセルを有する超伝導加速空洞において、
前記超伝導加速空洞の端部に、前記超伝導材料と線膨張係数が近い金属からなるフランジを直接溶接すると共に、前記フランジのシール材との接触面に、融点が高く、かつ、硬度の高い被膜を形成したことを特徴とする超伝導加速空洞。
【請求項2】
請求項1に記載の超伝導加速空洞において、
前記超伝導材料をニオブとすると共に前記金属をチタンとし、前記被膜を窒化チタンとしたことを特徴とする超伝導加速空洞。
【請求項3】
請求項2に記載の超伝導加速空洞において、
前記被膜は、チタンからなる前記フランジの表面を窒化処理したもの、又は、チタンからなる前記フランジの表面に窒化チタンをコーティングしたものであることを特徴とする超伝導加速空洞。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−236797(P2006−236797A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−50222(P2005−50222)
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】