説明

超微粒ダイヤモンドを内部に取り込んだ植物及びその製造方法。

【課題】大型化が可能であって、回収が容易となる光反応触媒を用いたシステム及びその製造方法を提供する。
【解決手段】植物に、超微粒ダイヤモンドを内部に取り込ませたものとする。直この場合において、超微粒ダイヤモンドの表面に光反応触媒が担持されていることが好ましい。また、光反応触媒は、超微粒ダイヤモンドと光反応触媒の合計重量を100重量部とした場合、光反応触媒を0.1重量部以上20重量部以下の範囲で含むことが好ましい。
また、超微粒子ダイヤモンドを内部に取り込んだ植物を製造する方法であって、平均分散粒子径が10nm以下の超微粒ダイヤモンドが分散された溶液に植物を浸して前記超微粒ダイヤモンドを内部に取り込ませる工程を有する。またこの場合において、超微粒ダイヤモンドは、溶液の重量を100重量部とした場合に、80重量部以下の範囲で含むことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超微粒ダイヤモンドを内部に取り込んだ植物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化チタンに代表される光反応触媒は、有害物質の分解、抗菌、消臭などの分野で、すでに実用化されており、太陽光を利用するクリーンエネルギーの一つとして将来を期待されている。また空気中の二酸化炭素を光反応触媒で還元して固定化する方法は、地球温暖化の防止にも役立つことから、特に注目が集まっている。
【0003】
例えば下記特許文献1には、光反応触媒を用いて二酸化炭素の還元を行い、低級有機化合物を得る反応装置が開示されている。
【0004】
また、下記特許文献2には、外面コーティングを行う光触媒反応システムが開示されている。
【0005】
また、下記特許文献3には、遺伝子操作によって光合成の効率を改善させた植物に関する技術が記載されている。
【0006】
また、下記特許文献4には、二酸化チタンを農薬に混合して残留農薬を光分解しようとする技術が開示されている。
【0007】
ところで、下記非特許文献1には、ナノサイズの酸化チタンを生体に吸収させようと試みたものの、生体への吸収が殆どなかったことに関する記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−246355号公報
【特許文献2】特開2005−131552号公報
【特許文献3】特表2007−525974号公報
【特許文献4】特開2008−150351号公報
【特許文献5】特開2005−001983号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】経済産業省 ナノマテリアル製造業者等における安全対策のあり方研究会第一回配布資料5−3 “ナノサイズ酸化チタンについて”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、光反応は反応エネルギーとして光を利用するため、触媒に光を直接あてる必要がある。これが通常の触媒反応よりも反応装置の設計を困難にする原因となっている。例えば、二酸化炭素の還元によって低級有機化合物を得る反応装置では、上記特許文献1に記載されるような複雑な構造をとる必要があるといった課題がある。
【0011】
上記特許文献1に記載の反応装置は、実験装置であるため高出力の紫外線ランプを用いて装置の小型化を図っているが、本格的に太陽光を利用して光触媒反応を行おうとする場合、太陽光のエネルギー密度が低いため(太陽定数1300〜1400W/m)、装置の小型化を図ることができないといった課題がある。ところがこのような反応装置は、装置の壁が光透過性を有していなければならいため、構造材をガラスやプラスチック等の強度の低いものに限定して選択しなければならないといった問題もあり、強度の問題から大型化にも課題を抱えている。
【0012】
ところで、実用化されている光触媒反応システムとしては、上記特許文献2のように外面コーティングするものがほとんどである。この方法であれば、構造材は光透過材料である必要がないため大型化が容易である。しかしながら、この方法では基本的に反応生成物が回収不可能であるため、用途が有害物質の分解、抗菌、消臭などに限られてしまい、空気中の二酸化炭素の固定化は不可能ではないが極めて困難である。
【0013】
また、上記特許文献3に示されるように、遺伝子操作その他で植物を作り変え、植物の光合成の効率を上げる技術は、基本的に自然界にある生物機構を部分的に削除したり取り入れたりすることになるため、植物に全く新しい反応機構を組み込むことは非常に難しい。また、遺伝子操作その他の方法による品種改良は、優位点だけを改善することが困難で、副次作用が多いのも難点である。
【0014】
また、上記特許文献4に記載の技術は、植物を積極的に光反応システムとして利用するものではない。
【0015】
なお、上記非特許文献1に記載されているように、植物に光反応触媒を吸収させて光触媒反応システムとして利用しようとしても、二酸化チタンに代表される通常の光反応触媒は生体親和性が低く、単純に超微粒子にしただけでは植物に吸収させることが難しい。超微粒触媒は通常、高次凝集体として存在するため、生体吸収されにくいと考えられるためである。特に、非特許文献1ではナノサイズ酸化チタンも通常形態はアグロメレートであり、生体への吸収はほとんどないと結論づけている。
【0016】
つまり、光触媒反応は非常に有効であるが、光触媒を用いる反応装置によって実際に太陽光を用いて産業的に有用なシステムを構築しようとすると、装置の大型化が必要である一方、機械的な強度により大型化が困難になるといった装置的な問題につきあたる。
【0017】
一方、外面コーティングする方法を用いれば、装置的な問題を解決する一案となりうるが、反応生成物を回収するのが困難であるといった別の課題を生ずる。
【0018】
また、光触媒反応システムとして優秀な植物を利用する方法は、光反応の種類が遺伝情報に限定される上、通常の光反応触媒が利用できないため、反応の種類が特別なものに限られ、産業への応用が困難である。
【0019】
なお、非特許文献1で示されるように、ナノサイズ酸化チタンを生体に吸収させようとしても殆ど吸収されないといった技術的課題がある。
【0020】
そこで、本発明は上記課題を鑑み、大型化が可能であって、回収が容易となる光反応触媒を用いたシステム及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者は、上記課題について検討していたところ、超微粒ダイヤモンドを用いることで、植物に取り込ませることができることを発見し、しかも超微粒ダイヤモンドが光反応触媒として用いることができることも発見し、本発明を完成させるに至った。
【0022】
即ち、本発明の一観点に係る植物は、超微粒ダイヤモンドを内部に取り込んでいる。
【0023】
また、本発明の他の一観点に係る植物の製造方法は、平均分散粒子径が10nm以下の超微粒ダイヤモンドが分散された溶液に植物を浸して前記超微粒ダイヤモンドを内部に取り込ませる工程を含む。
【発明の効果】
【0024】
以上本発明により、大型化が可能であって、回収が容易となる光反応触媒を用いたシステム及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施形態に係る植物の概念を示す図である。
【図2】実施例1に係る植物についての実験写真図である。
【図3】実施例1に係る植物について、二酸化炭素吸収グラフを示す図である。
【図4】実施例2に係る植物について、二酸化炭素吸収グラフを示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態、実施例の例示にのみ狭く限定されるものではない。
【0027】
図1は、本実施形態に係る植物の概念を示す図である。本実施形態に係る植物は、超微粒ダイヤモンドを内部に取り込んでいる。
【0028】
本実施形態に係る超微粒ダイヤモンドとは、一次粒径の数平均が10nm以下のダイヤモンドをいうが、植物内部に取り込まれた場合は、一次粒径の変化がなければ凝集していてもよい。使用するダイヤモンドは製造することができる限りにおいて限定されるわけではないが、TNTとヘキソーゲンの混合火薬を酸素欠乏状態で爆轟して製造した後、後述の本実施形態に沿った方法で分散処理を行ったものが好ましい。本実施形態のように、超微粒ダイヤモンドを内部に取り込ませることで、このダイヤモンドを触媒として光反応を促進させることができる。
【0029】
また、本実施形態において、限定されるわけではないが、超微粒ダイヤモンドの表面には、光反応触媒が担持されていることが好ましい。ここで、「光反応触媒」とは、光エネルギーを用いて反応を促進させる機能を有する触媒をいい、担体となる超微粒ダイヤモンド自体は含まれない。本実施形態における光反応触媒としては、担持できる限りにおいて限定されないが、例えば二酸化ジルコニウム、二酸化チタンなどの金属酸化物や、レニウム、ルテニウムといった金属元素及びその錯体を揚げることができる。
【0030】
また、本実施形態において、光反応触媒の重量は、超微粒ダイヤモンドと光反応触媒の合計重量を100重量部とした場合、光反応触媒を20重量部以下の範囲で含んでいることが好ましく、より好ましくは0.1重量部以上10重量部以下、より好ましくは0.1重量部以上5重量部の範囲である。触媒担持量としては20重量部あれば超微粒ダイヤモンド表面を十分に覆うことができ、5重量部以下とすれば、超微粒ダイヤモンド自体の触媒性能も十分に発揮することができる。
【0031】
本実施形態では、植物の持つ光透過性とロバスト性、ガス交換能力ならびに吸排液機構といった光触媒反応に必要な特性に着目し、更に、超微粒ダイヤモンドを取り込ませたため、植物の内部において光反応を行なうことができる。植物は種類によって異なるが大型化、大量育成が可能である。しかも、植物の内部において光反応を行なうため、光反応により得られた反応生成物を植物の内部に留まらせる(取り込ませる)ことができる。したがって、反応生成物は、植物を収穫して抽出することができ、回収が容易である。なお、得られる反応生成物が水溶性であれば、水耕栽培で溶液を循環させ、水を通して収集することができる。特に、光反応触媒をも担持させることで、光反応の高効率化、光反応の多機能化を図ることができるといった効果がある。また光反応の原料物質が二酸化炭素の場合は、光合成に加えて異なる光反応でも二酸化炭素を吸収できるため、植物の二酸化炭素を吸収固定化する能力を増強できる。
【0032】
以上、大型化が可能であって、回収が容易となる光反応触媒を用いたシステム及びその製造方法を提供することができる。なお本発明は安価に光触媒の反応システムでもある。
【0033】
なお、本実施形態に係る発明は、森林の二酸化炭素吸収固定能力を増強し、大気中の二酸化炭素濃度を低減することができる。二酸化炭素排出権とのバーターで産業の萎縮を伴わない大気中の二酸化炭素濃度の低減を目指すことができる。
【0034】
次に、本実施形態に係る植物の製造方法について説明する。本実施形態に係る植物の製造方法は、平均分散粒子径が10nm以下の超微粒ダイヤモンドが分散された溶液に植物を浸して超微粒ダイヤモンドを内部に取り込ませることによって、超微粒子ダイヤモンドを内部に取り込ませる工程を含む。
【0035】
ここで「平均分散粒子径」とは、溶液中に分散したダイヤモンドの重量平均の粒子径をいい、例えば動的光散乱法を用いることによって求めることができるものである。
【0036】
本実施形態において、平均分散粒子径が10nm以下の超微粒ダイヤモンドが分散された溶液は、様々な方法によって作製することができ、限定されるわけではないが、例えば、(1)爆轟法により超微粒ダイヤモンドを作製し、(2)湿式ボールミリング又は超音波分散装置によって解膠して作製することができる。なお、湿式ボールミリングを実施するに当たっては、ボール径が1mm以下のボールミリングを用いるのが好ましく、より好ましくは15μm以上200μm以下の範囲である。
【0037】
本実施形態において、溶液中での平均分散粒子系は10nm以下である。この範囲とすることで、超微粒ダイヤモンドの生体親和性を高くし、植物内に容易に吸収させることができる。
【0038】
また本実施形態において、超微粒ダイヤモンドが分散された溶液の溶媒は、特に限定されることなく種々の溶媒を用いることができるが、植物の育成にとっては水であることが特に好ましい。もちろん、植物の育成に役立つ養分等を含めることは好ましい態様である。
【0039】
また本実施形態において、超微粒ダイヤモンドが分散された溶液に含まれる超微粒ダイヤモンド(光反応触媒を表面に担持している場合は、この光反応触媒を含んだものをいう。)は、溶液の重量を100重量部とした場合に、0.1重量部以上80重量部以下の範囲で含むことが好ましく、より好ましくは0.1重量部以上50重量部以下であり、更に好ましくは0.1重量部以上15重量部以下である。80重量部以下とすることで超微粒の状態でダイヤモンドを安定的に分散させることができるといった効果があり、50重量部以下とすることでこの効果がより顕著となり、15重量部以下とすることで更に分散安定度が向上することに加え、溶液の粘度が急激に低下するため植物への吸収効率が改善される。また0.1重量部以上とすることでより植物に効率的に取り込ませることができるといった効果がある。
【0040】
以上、本実施形態に係る植物の製造方法により、超微粒ダイヤモンドを取り込んだ植物を製造することができる。
【実施例】
【0041】
以下、上記実施形態に係る植物について、実際に作製しその評価を確認した。以下詳細に説明する。
【実施例1】
【0042】
TNTとヘキソーゲンの混合火薬を酸素欠乏状態で爆轟して製造したダイヤモンドより複生成物のアモルファス炭素分を除いて、ダイヤモンド比率が80%を超える状態まで精製し、このダイヤモンドを純水に懸濁させ、500mlの固形分濃度10%の水スラリーとし、ミル(寿工業株式会社製ウルトラアペックスミル)を用いて分散処理を施した。なお、ボールミリングには粒径30μmのジルコニアボール(株式会社ニッカトー製、YTZボール)を使用した。また、本実施例ではジルコニアボールを用いているためナノダイヤモンドに二酸化ジルコニウムを担持させることができている。
【0043】
分散処理後、20000Gの高速遠心分離にてアモルファス炭素分、遊離二酸化ジルコニウム、その他の不純物を分離した。そして、二酸化ジルコニウム0.3重量%を担持した平均分散粒子径4.1±0.5nmの超微粒ダイヤモンドが分散した水性コロイドを固形分2.0重量%となるよう純粋で希釈し、分散液を100ml作製した。
【0044】
次に、花と茎以外を取り除いたカーネーションの茎部を吸収液に浸し、上記分散液に24時間浸した。
【0045】
その後、このカーネーションを分散液から取り出し、500mlの純水に浸した。
【0046】
一方、花の個数、大きさを同じにし、花、茎以外を取り除いた参照用のカーネーションを用意し、上記と同量の純水に差した。
【0047】
そして、分散液に浸したカーネーションと参照用カーネーションを別々の透明ポリエチレン製袋に入れ、それぞれ二酸化炭素濃度計を同梱して密閉し、9:00から24:00まで晴天の屋外に静置し、両者の二酸化炭素濃度を比較した。この実験の状態を図2に、図3にこの結果を示す。
【0048】
この結果、参照用カーネーションは、葉を取り除いているため光合成が行えない一方、日中の活発な生命活動によって二酸化炭素濃度が上昇していることが確認できた。なお、夜間になって生命活動が低調になったため二酸化炭素濃度の上昇が抑えられていることが確認できた。
【0049】
これに対し超微粒ダイヤモンドを分散させた溶液に浸したカーネーションは、日中の光強度の遷移に伴い二酸化炭素濃度が減少していること、少なくとも参照用カーネーションに比べて明らかに二酸化炭素濃度の上昇率が低くなっていることが確認できた。なお、夜間になると、光が当たらなくなるため、参照用カーネーションと同様に二酸化炭素濃度の変化が抑えられていることが確認できた。
【0050】
以上、両者の比較により超微粒ダイヤモンドを吸収させたカーネーションは、光合成以外の太陽光による光触媒反応を行って、大気中の二酸化炭素濃度を減少させることが確認できた。
【実施例2】
【0051】
上記実施例1のカーネーションを菊に変えたこと、日照時間を8:00〜21:00(曇天)にした以外は同様の実験を行った。二酸化炭素濃度の変化を図4に示す。
【0052】
日中の天候が曇天であったこと等から二酸化炭素濃度が減少に向かう条件は得られなかった。しかしながら、超微粒ダイヤモンドを吸収させた菊と参照用菊との間では、日中において20%程度の二酸化炭素濃度の差があることが確認できた。この差は、太陽光のあたらない夜間では確認できなかったものであり、上記実施例1の場合と同様、植物内で光触媒反応が起きていることが確かめられた。
【0053】
以上、本実施例により、本発明の効果を確認した。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、超微粒ダイヤモンドを内部に取り込んだ植物及びその製造方法として産業上の利用可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超微粒ダイヤモンドを内部に取り込んだ植物。
【請求項2】
前記超微粒ダイヤモンドの表面に光反応触媒が担持されている請求項1記載の植物。
【請求項3】
前記光反応触媒は、前記超微粒ダイヤモンドと前記光反応触媒の合計重量を100重量部とした場合、前記光反応触媒を0.1重量部以上20重量部以下の範囲で含む請求項2記載の植物。
【請求項4】
平均分散粒子径が10nm以下の超微粒ダイヤモンドが分散された溶液に植物を浸して前記超微粒ダイヤモンドを内部に取り込ませることによって、超微粒子ダイヤモンドを内部に取り込んだ植物を製造する方法。
【請求項5】
前記超微粒ダイヤモンドは、溶液の重量を100重量部とした場合に、80重量部以下の範囲で含む、請求項4記載の超微粒子ダイヤモンドを内部に取り込んだ植物を製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−92150(P2011−92150A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−251572(P2009−251572)
【出願日】平成21年11月2日(2009.11.2)
【出願人】(509304379)
【Fターム(参考)】