説明

超微粒子ラテックスの製造方法

【課題】煩雑な操作を必要とすることなく、簡便な方法で、平均粒径50nm以下の超微粒子を得ることができる超微粒子ラテックスの製造方法を提供する。
【解決手段】アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物水溶液の存在下に酸基含有単量体を含んでなる単量体(A)を重合して得られる酸価が10mgKOH/g以上の重合体のラテックスのpHを8.0以上、固形分濃度を15重量%以上に調整した後、重合体100重量部に対し150重量部以上の水混和性有機溶媒を添加し、攪拌する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超微粒子ラテックスの製造方法に関する。更に詳しくは、特定の化合物の水溶液の存在下に特定の単量体を重合して得たラテックスを特定の条件下で攪拌することにより、超微粒子ラテックスを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超微粒子ラテックスは、5〜50nm程度の粒径を有するラテックスであり、通常の乳化重合で得られるラテックスが白色不透明であるのに対して、反射光に対して青白色に見える半透明ないし透明のラテックスである。このような超微粒子ラテックスから得られるフィルムは、緻密で透明性の高いフィルムである。
超微粒子ラテックスを、乳化剤を用いる一般的な乳化重合法で調製するには、非常に多量の乳化剤を必要とする。この方法で調製したラテックスから得られる皮膜は、ラテックス製造時に用いる多量の乳化剤の影響で皮膜の耐水性や基材との接着性等に問題を有している。
この欠点を改良する方法として、水溶性高分子化合物を用いた保護コロイド重合法が知られている。ところが、この方法では、得られるエマルション粒子の粒径を制御することが難しい。
【0003】
特許文献1には、エチレン性不飽和カルボン酸単位3〜40重量%とこれと共重合可能な単量体の単位97〜60重量%とからなり、平均粒径が0.005〜0.03μmの水分散性共重合体を分散させた水分散媒中で重合を行なうことにより、平均粒径が0.03〜0.08μmの水性樹脂エマルションを得る方法が開示されている。
しかしながら、この方法は、アルコールやセロソルブ等を用いた溶液重合により共重合体を得た後、これに水及びアルカリを加えて共重合体の水分散液を得、これを用いて更に重合を行なうという煩雑な操作が必要であるほか、実際に得られた共重合体粒子の平均粒径も、0.040〜0.075μmである。
【0004】
特許文献2には、同様に、酢酸エチル等の有機溶媒中での溶液重合で得た樹脂の有機溶媒溶液を水の存在下で中和し、次いで有機溶媒を蒸留により除去して樹脂水溶液とし、得られた親水性樹脂と水可溶性重合性開始剤とを含有する水溶液に、水不溶性重合開始剤及び親油性単量体を滴下して重合させて水分散型樹脂組成物を得る方法が開示されている。
しかしながら、この方法も2種類の重合開始剤を使い分け、2段階の重合を行なう必要があるなど、操作が煩雑である上、得られる樹脂の平均粒径も最小で45nmである。
【0005】
【特許文献1】特開平11−29608号公報
【特許文献2】特開平11−35610号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、煩雑な操作を必要とすることなく、簡便な方法で、平均粒径50nm以下の超微粒子を得ることができる超微粒子ラテックスの製造方法を提供することにある。
本発明者は、上記目的の達成のために鋭意研究を進めた結果、特定の水溶性高分子の水溶液の存在下における重合により、酸基含有単量体重合単位を有する重合体のラテックスを得、これを特定の条件下で攪拌することにより、平均粒径が50nm以下、好ましくは30nm以下の超微粒子を得ることができることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
なお、本発明者らは、先に、エチレン性不飽和カルボン酸単量体及びこれと共重合可能なその他の単量体を、アルコール性水酸基含有水溶性高分子の存在下で重合して得られる酸価が5〜120の共重合体を、塩基性物質により中和することにより、水溶性樹脂が得られることを報告した(特許文献3)が、本発明は、この知見を基に更に研究を進めて、超微粒子ラテックスの製造方法として完成したものである。
【0007】
【特許文献3】国際公開第02/32971号パンフレット
【課題を解決するための手段】
【0008】
かくして本発明によれば、アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物水溶液の存在下に酸基含有単量体を含んでなる単量体(A)を重合して得られる酸価10mgKOH/g以上の重合体のラテックスのpHを8.0以上、固形分濃度を15重量%以上に調整した後、重合体100重量部に対し150重量部以上の水混和性有機溶媒を添加し、攪拌することを特徴とする超微粒子ラテックスの製造方法が提供される。
【0009】
本発明の超微粒子ラテックスの製造方法は、更に、水混和性有機溶媒を除去する工程を有するものであってもよい。
本発明の超微粒子ラテックスの製造方法において、重合体の酸価が10mgKOH/g以上、50mgKOH/g以下であることが好ましい。
本発明の超微粒子ラテックスの製造方法において、添加する水混和性有機溶媒の量が重合体100重量部に対し150重量部以上、300重量部以下であることが好ましい。
本発明の超微粒子ラテックスの製造方法において、水混和性有機溶媒がアルコールであることが好ましい。
【0010】
本発明の超微粒子ラテックスの製造方法において、単量体(A)の重合を連鎖移動剤を使用しないで行なうことが好ましい。
本発明の超微粒子ラテックスの製造方法において、単量体(A)の重合を水混和性有機溶媒の不存在下に行なうことが好ましい。
本発明の超微粒子ラテックスの製造方法において、単量体(A)の重合を水溶性ラジカル重合開始剤を用いて行なうことが好ましい。
本発明の超微粒子ラテックスの製造方法において、単量体(A)の重合を乳化剤の不存在下に行なうことが好ましい。
本発明の超微粒子ラテックスの製造方法によって得られる超微粒子ラテックスは、好適には、50nm以下の平均粒径を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の超微粒子ラテックスの製造方法によれば、簡便な方法で、平均粒径50nm以下、好ましくは30nm以下の超微粒子ラテックスを得ることができる。この超微粒子ラテックスは、耐水性や各種基材との接着性に優れた皮膜を与えるので、紙塗被用バインダー、接着剤、不織布用バインダー、セメント混和剤、内添含浸バインダー等として、有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の超微粒子ラテックスの製造方法は、アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物水溶液の存在下に酸基含有単量体を含んでなる単量体(A)を重合して得られる重合体ラテックスのpHを8.0以上、固形分濃度を15重量%以上に調整した後、水混和性有機溶媒を添加し、攪拌することからなる。
【0013】
本発明の超微粒子ラテックスの製造方法においては、先ず、アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物水溶液の存在下に、酸基含有単量体を含んでなる単量体(A)を重合する。
本発明において、アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物とは、水溶性高分子化合物であって、分子量1,000当り、アルコール性水酸基を5〜25個含有しているものをいう。
その具体例としては、ポリビニルアルコール及びその各種変性物等のビニルアルコール系重合体;酢酸ビニルとアクリル酸、メタクリル酸又は無水マレイン酸との共重合体のけん化物;アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、アルキルヒドロキシアルキルセルロース等のセルロース誘導体;アルキル澱粉、カルボキシルメチル澱粉、酸化澱粉等の澱粉誘導体;アラビアゴム、トラガントゴム;ポリアルキレングリコール等を挙げることができる。中でも、工業的に品質が安定したものを入手しやすい点から、ビニルアルコール系重合体が好ましい。
【0014】
アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物の重量平均分子量は、特に限定されないが、通常、1,000〜500,000、好ましくは2,000〜300,000である。分子量が1,000より小さいと、重合時の分散安定効果が低くなり、逆に500,000より大きいとこれの存在下で重合するときの粘度が高くなり、重合が困難になる恐れがある。
【0015】
本発明において、アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物の使用量は、特に限定されないが、好ましくは、単量体(A)100重量部に対して、0.05〜30重量部であり、より好ましくは、1〜15重量部である。この使用量が上記下限以下であると重合時の分散安定効果が低くなるので、重合時に凝集物が発生する恐れがあり、逆に上記上限より多くなると、重合系の粘度が高くなり、重合が困難になる恐れがある。
【0016】
本発明で用いる単量体(A)は、酸基含有単量体を含んでなる。
酸基含有単量体は、カルボキシ基、スルホン酸基等の酸基を含有する単量体であれば特に限定されない。中でも、カルボキシ基を含有する単量体が好ましく使用できる。
これらの単量体は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
また、これらの単量体は、酸の形であってもよく、また、アルカリ金属塩やアンモニウム塩等のような塩の形であってもよい。
【0017】
カルボキシ基を含有する単量体の具体例としては、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体を挙げることができる。
α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体は、特に限定されず、その具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸等のα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体;イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、ブテントリカルボン酸等のα,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸単量体;フマル酸モノブチル、マレイン酸モノブチル、マレイン酸モノ−2−ヒドロキシプロピル等のα,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸の部分エステル単量体;無水マレイン酸、無水シトラコン酸等のα,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸無水物;等を挙げることができる。なかでも、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸が好ましく、メタクリル酸がより好ましい。
【0018】
スルホン酸基含有単量体は、スルホン酸基を含有するα,β−エチレン性不飽和単量体であれば、特に限定されない。
その具体例としては、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、スチレンスルホン酸等を挙げることができる。
【0019】
単量体(A)中のα,β−エチレン性不飽和酸単量体の含有割合は、重合で得られる共重合体の酸価が10mgKOH/g以上となる範囲であることが必要であり、10〜50mgKOH/gとなる範囲であることが好ましく、20〜50mgKOH/gとなる範囲であることがより好ましく、20〜45mgKOH/gとなる範囲であることが特に好ましい。
単量体(A)を重合して得られる重合体の酸価が小さすぎると、粒径の小さな微粒子ラテックスを得ることができない。他方、大きすぎると、重合体が水溶性となってしまい、ラテックス状態になりにくい傾向になる。
【0020】
本発明に用いる単量体(A)は、酸基含有単量体のほかに、これと共重合可能な単量体を含んでいてもよい。
酸基含有単量体と共重合可能な単量体は、特に限定されないが、その具体例としては、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体の誘導体、芳香族ビニル単量体、α,β−エチレン性不飽和エーテル単量体、共役ジエン単量体、カルボン酸ビニルエステル単量体等を挙げることができる。
これらの単量体は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0021】
α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体の誘導体としては、エステル、アミド、ニトリル及び塩を挙げることができる。
α,β−エチレン性不飽和カルボン酸エステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n−ペンチル、(メタ)アクリル酸イソペンチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを挙げることができる。
(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、そのアルキル基が水酸基、エポキシ基等の官能基を置換基として有するものでもよく、その具体例としては、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸グリシジル等を挙げることができる。
なお、本発明において、「(メタ)アクリル酸」は、「アクリル酸及び/又はメタクリル酸」を意味する。
【0022】
また、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸エステルの他の具体例としては、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、ブテントリカルボン酸等のα,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸単量体の完全エステル、例えば、イタコン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、フマル酸ジブチル等を挙げることができる。
【0023】
α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体のアミド誘導体の具体例としては、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等を挙げることができる。
α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体のニトリル誘導体の具体例としては、(メタ)アクリロニトリル、マレオニトリル、フマロニトリル等を挙げることができる。
【0024】
芳香族ビニル単量体は、特に限定されず、その具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、クロロメチルスチレン、p−t−ブトキシスチレン、ジメチルアミノメチルスチレン、ジメチルアミノエチルスチレン、ビニルトルエン等を挙げることができる。
【0025】
α,β−エチレン性不飽和エーテル単量体の具体例としては、アリルグリシジルエーテル、メタリルグリシジルエーテル等の不飽和グリシジルエーテル単量体を挙げることができる。
カルボン酸ビニルエステル単量体の具体例としては、酢酸ビニル、カプロン酸ビニル等を挙げることができる。
共役ジエン単量体の具体例としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン等を挙げることができる。
【0026】
これらの酸基含有単量体と共重合可能な単量体の中でも、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸エステルが好ましく、(メタ)アクリル酸アルキルエステルがより好ましく、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル及び(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルが更に好ましい。
単量体(A)の好ましい組成としては、酸基含有単量体2〜10重量%、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸エステル90〜98重量%、これらの単量体と共重合可能なその他の単量体0〜30重量%を示すことができる。単量体(A)のより好ましい組成としては、酸基含有単量体3〜8重量%、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸エステル72〜93重量%、これらの単量体と共重合可能なその他の単量体5〜25重量%を示すことができる。
その他の単量体としては、上述の酸基含有単量体と共重合可能な単量体のうち、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸エステル以外のものを挙げることができ、好ましくは、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体のニトリル誘導体及び芳香族ビニル単量体であり、より好ましくは、アクリロニトリル及びスチレンであり、更に好ましくはアクリロニトリルである。
【0027】
単量体(A)の重合方法は、特に限定されないが、通常、重合開始剤を使用し、水中で行なう。重合に際して、水混和性の有機溶剤を使用することはできるが、使用しない方が好ましい。水混和性の有機溶剤を使用すると、重合安定性が低下し、また、安全上、問題を生じる恐れがある。
【0028】
重合開始剤は、特に限定されず、無機過酸化物、有機過酸化物、アゾ化合物等を使用することができるが、これらのうち、水溶性ラジカル重合開始剤が好ましい。
無機過酸化物重合開始剤の具体例としては、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;過リン酸カリウム等の過リン酸塩;過酸化水素;等を挙げることができる。
有機過酸化物重合開始剤の具体例としては、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド;ジ−t−ブチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等のパーオキサイド;等を挙げることができる。
アゾ化合物重合開始剤の具体例としては、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル等を挙げることができる。
中でも、過硫酸塩が好ましく、とりわけ、過硫酸カリウム及び過硫酸アンモニウムが好ましい。
これらの重合開始剤は、1種類を単独で使用しても2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0029】
重合開始剤の使用量は、その種類によって異なるが、単量体(A)100重量部に対して、好ましくは0.5〜5重量部、より好ましくは0.8〜4重量部である。
また、これらの重合開始剤は還元剤との組み合わせで、レドックス系重合開始剤として使用することもできる。還元剤は特に限定されず、その具体例としては、硫酸第一鉄、ナフテン酸第一銅等の還元状態にある金属イオンを含有する化合物;メタンスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸化合物;ジメチルアニリン等のアミン化合物;等が挙げられる。これらの還元剤は1種類を単独で使用しても2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
還元剤の使用量は、還元剤によって異なるが、重合開始剤1重量部に対して0.03〜10重量部であることが好ましい。
【0030】
単量体(A)の重合に際して、乳化剤としての界面活性剤は、使用する必要がなく、使用しない方が好ましい。
界面活性剤を使用しないことにより、最終的に得られるラテックスからフィルムを得るときの成膜性や得られるフィルムの耐水性が良くなるといった利点が生じる。
【0031】
単量体(A)の重合に際して、連鎖移動剤を併用してもよいが、併用しない方が好ましい。
連鎖移動剤を併用しない場合の方が、低分子量の親水性オリゴマーの生成を抑制できるといった利点が生じる。
【0032】
連鎖移動剤の具体例としては、α−メチルスチレンダイマー;メルカプタン化合物;スルフィド化合物;ニトリル化合物;チオグリコール酸エステル;β−メルカプトプロピオン酸エステル;等が挙げられる。
メルカプタン化合物の具体例としては、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン等を挙げることができる。
スルフィド化合物の具体例としては、ジメチルキサントゲンジスルフィド、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド等を挙げることができる。
ニトリル化合物の具体例としては、2−メチル−3−ブテンニトリル、3−ペンテンニトリル等を挙げることができる。
チオグリコール酸エステルの具体例としては、チオグリコール酸メチル、チオグリコール酸プロピル、チオグリコール酸オクチル等を挙げることができる。
β−メルカプトプロピオン酸エステルの具体例としては、β−メルカプトプロピオン酸メチル、β−メルカプトプロピオン酸オクチル等を挙げることができる。
これらの中でもチオグリコール酸エステルが好ましく、チオグリコール酸オクチルがより好ましい。
これらの連鎖移動剤は1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
連鎖移動剤を使用する場合、その使用量は、単量体(A)100重量部に対して、好ましくは3重量部以下、より好ましくは1重量部以下である。
【0033】
単量体(A)の重合は、例えば、以下のようにして行なうことができる。
攪拌機付容器に、単量体(A)、アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物、所望により連鎖移動剤、及びイオン交換水を投入して攪拌混合して、単量体(A)の乳化分散体を調製する。
別の攪拌機付反応器に、イオン交換水を投入し、昇温して重合開始剤を添加した後、上記の乳化分散体を、所定時間に亘り、連続的に添加しながら重合する。
【0034】
単量体(A)の重合に際して、イオン交換水の使用量は、特に限定されず、重合後の固形分濃度が、通常、5〜30重量%となるように調節すればよいが、後述するアルコール処理に際し、固形分濃度を15重量%以上とする必要があるので、これ以下のときは、濃縮操作を必要とする。従って、重合後の固形分濃度が15重量%以上となるように、イオン交換水の量を調整することが好ましい。
単量体(A)を重合するときの温度は、特に限定されないが、通常、0〜100℃、好ましくは30〜90℃である。重合時間は、特に限定されないが、重合転化率が、通常、90重量%以上、好ましくは93重量%以上、より好ましくは95%重量%以上となるように調節する。
【0035】
このようにして得られた重合後(アルコール処理前)のラテックスは、200〜600nm、好ましくは200〜400nmの平均粒径を有している。
【0036】
本発明の超微粒子ラテックスの製造方法においては、上記の方法により得られた重合体ラテックスのpHを8.0以上、好ましくは8.5以上、より好ましくは8.5〜9.5に調整する。
pH調整の方法は、特に限定されず、塩基性化合物をラテックスに添加することにより行なうことができる。
塩基性化合物は、特に限定されないが、アンモニア又はアミンを使用することが好ましい。
アミンとしては、第三級アミンが好ましく、その具体例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ブチルジエタノールアミン等を挙げることができる。
これらの塩基性化合物は、1種類を単独で使用しても2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
塩基性化合物としては、このほか、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属水酸化物を使用することもできる。
これらの塩基性化合物の使用量は、pHを上記範囲に設定できるように選定すればよく、特に限定されない。
【0037】
本発明の超微粒子ラテックスの製造方法においては、上記のようにして得られたpH8.0以上の重合体ラテックスに水混和性有機溶媒を添加し、攪拌する(この水混和性有機溶媒の添加及び攪拌の操作を「アルコール処理」ということがある。)。
アルコール処理に際して、重合体ラテックスの固形分濃度は、15重量%以上であることが必須であり、好ましくは、15重量%以上、40重量%以下、より好ましくは、20重量%以上、30重量%以下である。
重合終了後のラテックスの固形分濃度が、上記より低い場合は、適宜の方法により、濃縮して上記の固形分濃度とした後、水混和性有機溶媒を添加する。
水混和性有機溶媒の添加は、ラテックスの安定性に影響を及ぼさない限り、全量を一括添加してもよいが、少量ずつ、連続的又は断続的に添加するのが好ましい。
【0038】
本発明で使用できる水混和性有機溶媒は、水と混和できる有機溶媒であれば、特に限定されないが、その具体例としては、アルコール、アミド、アルコールエーテル、ケトン、エーテル、エステル及びアミンを挙げることができる。
これらのうち、アルコール、アミド及びアルコールエーテルが好ましい。
【0039】
アルコールの具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノール、イソブタノール、n−ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ペンタメチレングリコール、トリメチレングリコール、2−ブテン−1,4−ジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、グリセリン、ジプロピレングリコール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール等を挙げることができる。
【0040】
水混和性アミド類の具体例としては、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等を挙げることができる。
アルコールエーテルの具体例としては、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル等を挙げることができる。
【0041】
これらの水混和性有機溶媒のうち、所望により最終的に系外へ除去すること、ラテックスの安定性及び安全性に対する影響等の観点から、アルコールが好ましく、特に、エタノール及びイソプロパノールが好ましい。
【0042】
水混和性有機溶媒の量は、重合体100重量部に対して、150重量部以上が必要であり、好ましくは150重量部以上、300重量部以下、より好ましくは180重量部以上、300重量部以下である。
【0043】
攪拌の条件は、特に限定されないが、攪拌温度は、0℃以上、30℃以下であることが好ましい。攪拌の強度は150〜500rpmが好ましい。
その他の攪拌の条件は、特に限定されない。
攪拌に用いる装置も特に限定されず、ラテックスの重合及び重合後の各種調整に使用されるものでよい。
【0044】
攪拌後、必要に応じて、水混和性有機溶媒を系外に除去してもよい。
除去の方法は、特に限定されず、減圧蒸留、水蒸気蒸留等の方法を挙げることができる。
【0045】
このようにして得られた超微粒子ラテックスは、好ましくは50nm以下、より好ましくは30nm以下、特に好ましくは10〜25nmの平均粒径を有する。
【0046】
本発明の重合体ラテックスを構成する重合体のテトラヒドロフラン可溶成分の重量平均分子量は、好ましくは5,000〜200,000、より好ましくは15,000〜200,000の範囲にある。
また、本発明の重合体ラテックスを構成する重合体のガラス転移温度は、特に限定されないが、通常、10〜130℃である。
また、本発明の重合体ラテックスを構成する重合体は、メチルエチルケトンを溶媒としたとき、通常、10〜55重量%のゲル含量を有する。
【実施例】
【0047】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の「%」及び「部」は特に断りのない限り、質量基準である。
また、各特性の評価方法は以下のとおりである。
【0048】
(重合体の酸価)
JIS K 0070に従い測定する。共重合体1g中のカルボキシ基を中和するのに必要な水酸化カリウムのmg数(mgKOH/g)で表わす。
(重合体ラテックスの平均粒径)
重合体ラテックスの電子顕微鏡写真に写る重合体ラテックス粒子を無作為に300個選び、その粒径の数平均を求める。
(重合体ラテックスのpH)
pH計(HORIBA社製、商品名「pH METER M−12」)を用いて、20℃の条件で測定する。
(重合体ラテックスの粘度)
B型粘度計により、30℃、60rpmの条件で、測定する。
なお、超微粒子ラテックスの粘度は、エタノール除去後、固形分濃度20%に調整した後、測定する。
【0049】
(重合体のガラス転移温度)
重合体ラテックスまたは水溶液を、アルミ皿上に採取し、常温で乾燥後、更に40℃で真空乾燥して重合体試料を得る。この試料について、高感度示差走査熱量計(セイコー電子工業社製、「RDC220」)を用いて、昇温速度10℃/分で測定する。
(重合体の重量平均分子量)
ガラス転移温度測定用試料と同様にして、重合体試料を得る。この試料について、テトラヒドロフランを溶離液とするゲルパーミエーション(GPC)測定により、標準ポリスチレン換算分子量として求める。
【0050】
(重合体のゲル含量)
固形分濃度を20%に調整したラテックスまたは水溶液を枠付きガラス板に流延し、25℃で4日間静置してフィルムとする。得られたフィルムから、一定量を精秤して(重量W0)、80メッシュの金網のカゴに入れて、温度20℃としたメチルエチルケトン(MEK)に浸漬する。48時間後にカゴを引き上げ、25℃で2日間、真空乾燥した後、MEKに溶解せずにカゴ内に残存しているフィルムを精秤する(重量W1)。重量W0及びW1から、下記式(1)に従い、ゲル含量を求める。
ゲル含量(%)=(W1/W0)×100 (1)
【0051】
(実施例1)
アクリル酸エチル50部、アクリロニトリル23.5部、メタクリル酸メチル22.5部、メタクリル酸4.0部、鹸化度88モル%のポリビニルアルコールの13%イオン交換水溶液46.2部、及びイオン交換水125.8部を攪拌混合して、単量体混合物の分散物を調製した。
別の攪拌機付き反応器にイオン交換水222.0部を仕込み、80℃に昇温し、10%過硫酸アンモニア水溶液20部を添加後、前記単量体混合物の分散物を2.5時間かけて連続添加して重合させた。連続添加終了後、85℃で120分間、後反応を継続して、重合転化率が97%以上となったのを確認してから、重合を停止し、固形分濃度21.0%、pH2.8の重合体ラテックスA1を得た。このものの平均粒径は、376nmであった。また、重合体の酸価は24.1mgKOH/g、重量平均分子量は19,200であった。
次いで、重合に使用したメタクリル酸に対して1.18倍モル量のアンモニアに相当する量の28%アンモニア水溶液を反応器に添加した。得られた重合体ラテックスB1の固形分濃度は20.8%、pHは、8.6であった。
この重合体ラテックスB1に、エタノール213.2部を添加して、30分間攪拌して、固形分濃度14.8%の超微粒子重合体ラテックスF1を得た。この超微粒子重合体ラテックスF1の平均粒径は、15.2nmであり、アルコール処理前に比較して大幅に小さくなった。
この超微粒子重合体ラテックスF1を濃縮してエタノールを除去し、固形分濃度20%としたときの粘度は、1,850mPa・sであった。
【0052】
(実施例2〜3)
単量体の組成及びポリビニルアルコールの使用量を表1に示すように変えるほかは、実施例1と同様にして、それぞれ、重合体ラテックスA2及びA3を得た。
これらの重合体ラテックスに28%アンモニア水溶液を添加して、それぞれ、重合体ラテックスB2及びB3を得、これらを実施例1と同様にアルコール処理して、それぞれ、超微粒子重合体ラテックスF2及びF3を得た。
これらの重合体ラテックス及び超微粒子ラテックスの特性を表1に示す。
【0053】
(比較例1)
重合体ラテックスA1に添加する28%アンモニア水溶液の量をメタクリル酸に対して1.03倍モル量とするほかは、実施例1と同様にして、固形分濃度20.9%、pH7.5の重合体ラテックスBC1を得た。
この重合体ラテックスBC1に、実施例1と同様に213.2部のアルコールを添加し攪拌処理をしたが、得られたラテックスFC1の平均粒径は、370nmと大きく、アルコール処理前と殆ど変わらなかった。
これらの重合体ラテックスの特性を表1に示す。
【0054】
(比較例2)
単量体(A)の重合に使用する水の量を683.0部としたほかは、実施例1と同様の操作を行なって、固形分濃度13.7%、pH2.8の重合体ラテックスAC2を得た。
この重合体ラテックスAC2に28%アンモニア水を添加してpHを8.6とした。このときの重合体ラテックスBC2の固形分濃度は、13.6%であった。この重合体ラテックスBC2に、実施例1と同様に213.2部のアルコールを添加し攪拌処理をしたが、得られたラテックスFC2の平均粒径は、365nmと大きく、アルコール処理前と殆ど変わらなかった。
これらの重合体ラテックスの特性を表1に示す。
【0055】
(比較例3)
メタクリル酸の量を1.5部としたほかは、実施例1と同様の操作を行なって、固形分濃度21.0%、pH3.2の重合体ラテックスAC3を得た。このものの平均粒径は、383nmであった。また、重合体の酸価は9.2mgKOH/g、重量平均分子量は23,200であった。
この重合体ラテックスAC3に28%アンモニア水を添加してpHを9.0とした。このときの重合体ラテックスBC3の固形分濃度は、20.9%であった。この重合体ラテックスBC3に、実施例1と同様に213.2部のアルコールを添加し攪拌処理をしたが、得られたラテックスFC3の平均粒径は、376nmと大きく、アルコール処理前と殆ど変わらなかった。
これらの重合体ラテックスの特性を表1に示す。
【0056】
(比較例4)
添加するエタノールの量を120.0部としたほかは、実施例1と同様の操作を行なった。アルコール処理後に得られたラテックスFC4の平均粒径は350nmで、アルコール処理前の平均粒径376nmと殆ど変わらなかった。
【0057】
【表1】

【0058】
表1から、以下のことがわかる。
アルコール処理をする重合体ラテックスのpHが8.0未満であると、得られる重合体ラテックスの平均粒径は、処理前と殆ど変化がない(比較例1)。
また、アルコール処理をする重合体ラテックスの固形分濃度が15重量%未満であると、得られる重合体ラテックスの平均粒径は、処理前と殆ど変化がない(比較例2)。
また、アルコール処理をする重合体ラテックスの酸価が10mgKOH/g未満であると、得られる重合体ラテックスの平均粒径は、処理前と殆ど変化がない(比較例3)。
更に、アルコール処理をするときのアルコールの量が重合体100重量部に対して150重量部未満であると、得られる重合体ラテックスの平均粒径は、処理前と殆ど変化がない(比較例4)。
これに対して、本発明の方法によれば、平均粒径50nm以下、好適には30nm以下の超微粒子ラテックスを得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物水溶液の存在下に酸基含有単量体を含んでなる単量体(A)を重合して得られる酸価10mgKOH/g以上の重合体のラテックスのpHを8.0以上、固形分濃度を15重量%以上に調整した後、重合体100重量部に対し150重量部以上の水混和性有機溶媒を添加し、攪拌することを特徴とする超微粒子ラテックスの製造方法。
【請求項2】
更に、水混和性有機溶媒を除去する工程を有する請求項1に記載の超微粒子ラテックスの製造方法。
【請求項3】
重合体の酸価が10mgKOH/g以上、50mgKOH/g以下である請求項1又は2に記載の超微粒子ラテックスの製造方法。
【請求項4】
添加する水混和性有機溶媒の量が重合体100重量部に対し150重量部以上、300重量部以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載の超微粒子ラテックスの製造方法。
【請求項5】
水混和性有機溶媒がアルコールである請求項1〜4のいずれか1項に記載の超微粒子ラテックスの製造方法。
【請求項6】
単量体(A)の重合を連鎖移動剤を使用しないで行なう請求項1〜5のいずれか1項に記載の超微粒子ラテックスの製造方法。
【請求項7】
単量体(A)の重合を水混和性有機溶媒の不存在下に行なう請求項1〜6のいずれか1項に記載の超微粒子ラテックスの製造方法。
【請求項8】
単量体(A)の重合を水溶性ラジカル重合開始剤を用いて行なう請求項1〜7のいずれか1項に記載の超微粒子ラテックスの製造方法。
【請求項9】
単量体(A)の重合を乳化剤の不存在下に行なう請求項1〜8のいずれか1項に記載の超微粒子ラテックスの製造方法。
【請求項10】
超微粒子ラテックスの平均粒径が50nm以下である請求項1〜9のいずれか1項に記載の超微粒子ラテックスの製造方法。

【公開番号】特開2008−156537(P2008−156537A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−348711(P2006−348711)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】