説明

超疎水性シリカ系粉末の製造方法

イオン交換していない水ガラス溶液を前駆物質とし、アルカリ性pHを有するオルガノシラン化合物と無機酸を添加して表面改質およびゲル化させることによりヒドロゲルを生成する段階と、ヒドロゲルを非極性溶媒内に浸漬させて溶媒交換およびNaイオンの除去を行う段階と、溶媒交換の行われたヒドロゲルを常圧下で乾燥させてエーロゲル粉末を製造する段階とを含む、超疎水性シリカ系粉末の製造方法を提供する。本発明は、その工程が非常に単純であるうえ、経済性を有するので、産業的な観点から非常に重要である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超疎水性シリカ系粉末の製造方法に係り、さらに詳しくは、イオン交換していない水ガラス溶液を用い、常圧乾燥法によって超疎水性シリカ系(シリカエーロゲル)粉末を単純且つ経済的に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリカエーロゲル粉末は、現存する最も軽い固体として知られている。このような特徴は、シリカエーロゲル粉末が90%以上の高い気孔率と600m/g以上の比表面積を有するナノ多孔質構造を持つためである。このようなシリカエーロゲル粉末は、断熱物質、触媒担体、絶縁物質などとして多くの科学分野および産業分野で活用されている。ところが、今までは、このような膨大な活用分野に比べてその使用が極めて制限されていた。これはゲルを乾燥させるための超臨界流体抽出法の使用による高費用および危険性のためである。
【0003】
一方、通常の常圧乾燥法(ambient pressure drying、APD)は、オルガノシラン試薬を用いたヒドロゲルの化学的表面改質(APDの実施中にゲルの高い気孔性を保存するのに必須)を使用することにより、安全且つ経済的なエーロゲルの製造方法と見なされている。ところが、常圧乾燥法は、乾燥工程中に乾燥応力と毛細管力によってキセロゲルと呼ばれる稠密な構造の粒子が発生することもある。そのため、常圧乾燥工程中に非極性基をグラフトさせることにより、エーロゲル粉末に毛細管力に対する耐性を持たせる方法を開発するための幾つかの研究が行われている。しかし、既存の常圧乾燥法には多くの費用と時間がかかるという欠点がある。
【0004】
シリカエーロゲル製品は水ガラス溶液を前駆物質にして製造することができるが、この場合にはイオン交換樹脂を介して水ガラス中のNaイオンを除去するように反応させなければならない。よって、この方式を用いて製品を量産する場合には、複雑な処理工程と多くの投資費用が必要である。しかも、従来の方式によって表面改質および溶媒交換を行う場合には、多くの時間と高価な化学物質が要求され、それにより製造工程が長くなるうえ、生産コストも増加するという問題点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、上述した従来の技術の問題点を解決するために、本発明は、水ガラス溶液などの廉価な前駆物質を用い、常圧乾燥による湿潤ゲルの乾燥法を採用して超疎水性シリカ系(シリカエーロゲル)粉末を簡単且つ経済的に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前駆物質として用いる水ガラス溶液からNaイオンを除去するイオン交換段階を省略することを特徴とする。すなわち、Naイオンを溶媒置換段階で水と共に排出させることにより、工程を単純化し且つ経済的利益を発生させる。
【0007】
本発明は、HNO/ヘキサメチルジシラザン(HMDS)系を用いた共前駆体法(co-precursor method)によるヒドロゲルの迅速な表面改質によってエーロゲル粉末の処理時間を合計5時間に短縮することにより、従来の常圧乾燥法(APD)による水ガラス系エーロゲルの合成の際に、表面改質および溶媒交換などに長時間がかかるという問題点を解決可能である。このようなエーロゲル粉末の製造方法は、量産の観点およびこれら物質の商業的利用の観点から非常に重要である。
【0008】
本発明によれば、イオン交換していない水ガラス溶液を前駆物質とし、アルカリ性pHを有するオルガノシラン化合物と無機酸とを添加して表面改質およびゲル化させることによりヒドロゲルを生成する段階と、ヒドロゲルを非極性溶媒内に浸漬させて溶媒交換およびNaイオンの除去を行う段階と、溶媒交換の行われたヒドロゲルを常圧の下で乾燥させてエーロゲル粉末を製造する段階とを含む、超疎水性シリカ系粉末の製造方法が提供される。
【0009】
本発明の水ガラス溶液は、シリカ(29重量%)の無機質前駆物質であり、前駆物質を脱イオン水で希釈して1〜10重量%の範囲で使用することができる。そして、オルガノシラン化合物はヘキサメチルジシラザン(HMDS)であり、無機酸は酢酸または塩酸であってもよい。
【0010】
本発明は、水ガラス溶液にオルガノシラン化合物を添加して共前駆体法による表面改質を行い、共前駆体法によって得られたヒドロゲルを非極性溶媒に浸漬させて溶媒交換とNaイオンの除去を行うことができる。本発明は、溶媒交換およびNaイオンの除去を常温以上60℃未満の条件で、最大10時間まで行うことができ、非極性溶媒としてヘキサンまたはヘプタンを使用することができる。
【0011】
また、本発明は、湿潤ゲルを乾燥させる際に、1気圧の常圧下且つ常温〜300℃の範囲内で行うことができる。さらに、乾燥中に非極性溶媒を蒸気の凝縮によって回収することもできる。
【0012】
また、本発明は、ヒドロゲル浸漬段階とヒドロゲル乾燥段階との間に、ヒドロゲルを水で洗浄する段階をさらに含み、或いはヒドロゲルに真空を適用して水分を除去する段階をさらに含むことができる。また、本発明は、ヒドロゲル浸漬段階とヒドロゲル乾燥段階との間に、ヒドロゲルを水で洗浄した後に真空を適用して水分を除去する段階をさらに含むこともできる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、超疎水性シリカ系粉末の製造方法は、その工程が非常に単純であるうえ、経済性を有する。よって、本発明は、産業的な観点から非常に重要な意味を持つ。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る超疎水性シリカ系粉末の製造方法を示す流れ図である。
【図2】本発明に係るシリカエーロゲル粉末に対するFTIRの分析結果を示すグラフである。
【図3】本発明に係るシリカエーロゲル粉末に対するEDAXの分析結果を示すグラフである。
【図4】本発明に係るシリカエーロゲル粉末に対するFE−SEMの画像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施例に係る超疎水性シリカ系粉末の製造方法について詳細に説明する。
図1は本発明に係る超疎水性シリカ系(シリカエーロゲル)粉末の製造方法を示す流れ図である。図1に示すように、本発明では、シリル化ヒドロゲル(silylated hydrogels)を製造する段階の前に行われるイオン交換によってNaイオンを除去せず、溶媒交換によるシリル化ヒドロゲルから水を除去する工程によってNaイオンを除去する。
【0016】
具体的に、本発明では、イオン交換していない水ガラス溶液に無機酸(酢酸または塩酸)とオルガノシラン化合物を添加し、共前駆体法を用いてシリル化ヒドロゲルを製造する(S110、S120)。この際、使用されるオルガノ化合物は、アルカリ性pHを有し、表面改質およびゲル化作用に関与する。本発明では、水ガラス溶液は、シリカ(29重量%)の無機質前駆物質であり、前駆物質を脱イオン水で希釈して1〜10重量%の範囲で使用するが、これは、1重量%未満または10重量%超過の場合にはゲル化が容易でないためである。好ましくは水ガラス溶液を3.5〜5重量%の範囲で使用する。
【0017】
オルガノシラン化合物による表面改質の反応結果から明らかなように、間隙水がヒドロゲルから排出されるが、本発明に係るシリカエーロゲル粉末を生産するためには、水と混合されない非極性溶媒としてのn−ヘキサン溶液またはヘプタン溶液内にヒドロゲルを浸漬させる。その結果、ゲルの網状組織から水が排出され、ヘキサンが間隙中に浸透することにより、溶媒交換とNaイオンの除去が1回の工程によって完了する(S130)。
【0018】
このような溶媒交換およびNaイオンの除去は常温以上60℃未満の条件で、最大10時間まで行う。このような溶媒交換およびNaイオンの除去は、ゲルの網状構造にある水をヘキサンで置換する工程に相当し、常温以上の条件で可能である。特に、溶媒交換およびNaイオンの除去は、常温では10時間以上かかり、60℃以上ではヘキサンの揮発性により溶媒置換が容易でないので好ましくない。揮発性の強いヘキサンの性質を考慮して、好ましくは40℃の条件で、最大3時間まで行う。よって、本発明では、水ガラス溶液を前駆物質として用いてシリカエーロゲル粉末を製造する工程に必要なイオン交換を省略したことに最大の特徴がある。水の置換と溶媒交換の後に作られたゲルは排出された水の表面に浮遊する。
【0019】
本発明では、前記溶媒交換およびNaイオンの除去後にゲルを水で洗浄する工程をさらに行うことにより、ゲルに一部存在しうるNaイオンをさらに確実に除去することもできる。
【0020】
また、本発明では、前記溶媒交換およびNaイオンの除去後にゲルに真空を適用して水分を除去することもでき、ゲルを洗浄した後に真空を適用して水分を除去することもできる。すなわち、後述の乾燥工程を行う前に、予め真空を適用して水分を除去することによりさらに容易に乾燥させることができ、付随的には一部のヘキサンも除去する効果がある。
【0021】
水の排出と湿潤ゲルの乾燥は、熟成(aging)段階を経ることなく、常圧下で行われる。すなわち、湿潤ゲルは、ゲルに存在するヘキサンを揮発させるための条件に該当する常温〜300℃の範囲内で乾燥させることができる。このように湿潤ゲルを乾燥させる際に、常温以下では2日以上の長い期間が必要であり、300℃以上ではゲルの構造を破壊するおそれがあって好ましくない。好ましくは、湿潤ゲルは炉内で、170℃の条件で20分間初期乾燥させる段階、次いで200℃で10分間乾燥させる段階を含む2段階工程を経て乾燥させることにより、シリカエーロゲル粉末を得る(S140、S150)。よって、本発明では、湿潤ゲルを乾燥させる際に、1気圧の常圧下且つ170℃〜200℃の温度で行うことができる。また、本発明では、湿潤ゲルを乾燥させる工程中に蒸気の凝縮によって非極性溶媒を回収する工程を行うこともできる。
【0022】
このように製造されたエーロゲル粉末は、非常に低い密度と優れた断熱性を有する。また、エーロゲル粉末は超疎水性を有するが、このような特性は450℃の温度に達するまで維持され、それ以上の温度では親水性を有する。よって、本発明は、商業的な側面からみて、大量生産に必要な簡単で経済的な方法を提示する非常に重要な技術である。
【実施例】
【0023】
イオン交換していない4.35重量%の水ガラス溶液50mL内に所定の攪拌条件下で5.8mLのヘキサメチルジシラザンと4.4mLの酢酸を添加させてヒドロゲルを得た。しかる後に、得られたヒドロゲルを溶媒交換のためにn−ヘキサン溶液(60mL)内にほぼ3時間放置した。このような溶媒交換の後、ヒドロゲルをビーカーから取り出し、常圧下で乾燥させた。この際、乾燥は170℃の温度で20分間行い、その後、200℃の温度で10分間行った。それにより得られたシリカエーロゲル粉末は低いタッピング密度(0.12g/cm)および超疎水性を示した。
【0024】
前述した方法によって製造されたシリカエーロゲル粉末に対するヒドロゲルの共前駆体法による表面改質を確認するために、FTIR(フーリエ変換赤外分光)分析を行った。図2は本発明に係るシリカエーロゲル粉末に対するFTIRの分析結果を示すグラフである。図2に示すようにSi−CHピークが存在し、これにより共前駆体法による表面改質を確認することができた。
【0025】
以下、前述した方法によって製造されたシリカエーロゲル粉末の特徴について説明する。
まず、前記シリカエーロゲル粉末を用いて、水の置換によるエーロゲル乾燥粉末のNaイオンの濃度を確認した。図3は本発明に係るシリカエーロゲル粉末に対するEDAX(エネルギー分散型X線分析)の結果を示すグラフであって、水を置換していない状態(a)と水を置換した状態(b)とを比較したものである。
【0026】
また、前記シリカエーロゲル粉末のタッピング密度と構造分析によってエーロゲルの特性を確認した。表1は、シリカエーロゲル粉末の組成に依存するシリカエーロゲル粉末のタッピング密度および構造分析の結果のデータをまとめたものである。
【0027】
【表1】

また、本発明に係るシリカエーロゲル粉末をFE−SEM(電界放射型走査電子顕微鏡)で観察し、エーロゲルのナノ多孔質構造を確認した。図4は本発明に係るシリカエーロゲル粉末に対するFE−SEMの画像であって、(a)は水を置換していないエーロゲル粉末を示し、(b)は水を置換したエーロゲル粉末を示す。図4から分かるように、水を置換していないエーロゲル粉末は稠密な構造を持つのに対し、水を置換したエーロゲル粉末はナノ多孔質構造を持つ。このような現象はエーロゲルの独特な性質であるといえる。
【0028】
以上、本発明の超疎水性シリカ系粉末の製造方法の実施形態について添付図面と共に述べたが、これは本発明の最も良好な実施例を例示的に説明したものに過ぎず、本発明を限定するものではない。
【0029】
また、当業者であれば、本発明の技術思想の範疇から逸脱することなく、添付した特許請求の範囲内で多様な変形、追加および置換を行うことが可能であることを理解するであろう。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、エネルギー分野、環境分野、電気/電子分野、およびその他の分野に多様に利用可能である。すなわち、エネルギー分野では透明/半透明絶縁体、ポリウレタン代替品、建築内外装材として使用可能であり、環境分野では気液分離用フィルター、VOC/NOx除去用触媒装置に適用可能であり、電気/電子分野では半導体用層間絶縁膜、マイクロ波回路材料として使用可能であり、その他の分野では吸音塗料、吸音パネル、その他の吸音素材および発光材料として使用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン交換していない水ガラス溶液を前駆物質とし、アルカリ性pHを有するオルガノシラン化合物と無機酸とを添加して前記水ガラス溶液を表面改質およびゲル化させることによりヒドロゲルを生成する段階と、
前記ヒドロゲルを非極性溶媒内に浸漬させて溶媒交換およびNaイオンの除去を行う段階と、
前記溶媒交換の行われたヒドロゲルを常圧の下で乾燥させてエーロゲル粉末を製造する段階とを含むことを特徴とする、超疎水性シリカ系粉末の製造方法。
【請求項2】
前記水ガラス溶液は、シリカ(29重量%)の無機質前駆物質であり、前記前駆物質を脱イオン水で希釈して1〜10重量%の範囲で使用することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記オルガノシラン化合物はヘキサメチルジシラザン(HMDS)であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記無機酸は酢酸または塩酸であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記水ガラス溶液に前記オルガノシラン化合物を添加して共前駆体法(co-precursor method)による表面改質を行うことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記共前駆体法によって得られたヒドロゲルを非極性溶媒に浸漬させることにより溶媒交換およびNaイオンの除去を行うことを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記溶媒交換およびNaイオンの除去は、常温以上60℃未満の条件で、最大10時間まで行うことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記非極性溶媒はヘキサンまたはヘプタンであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記乾燥は1気圧の常圧下且つ常温〜300℃の範囲内で行うことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記乾燥中に前記非極性溶媒を蒸気の凝縮によって回収することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記ヒドロゲルの浸漬段階と前記ヒドロゲルの乾燥段階との間に、前記ヒドロゲルを水で洗浄する段階をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記ヒドロゲルの浸漬段階と前記ヒドロゲルの乾燥段階との間に、前記ヒドロゲルに真空を適用して水分を除去する段階をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記ヒドロゲルの浸漬段階と前記ヒドロゲルの乾燥段階との間に、前記ヒドロゲルを水で洗浄した後に真空を適用して水分を除去する段階をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4(a)】
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【図4(b)】
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【公表番号】特表2010−527889(P2010−527889A)
【公表日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−509260(P2010−509260)
【出願日】平成19年12月4日(2007.12.4)
【国際出願番号】PCT/KR2007/006234
【国際公開番号】WO2008/143384
【国際公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(508377381)イーエム−パワー カンパニー リミテッド (4)
【Fターム(参考)】