超臨界二酸化炭素を用いた比重差分離による固液混合物質の固液分離方法及びその装置
【課題】固液混合物質を連続的に高効率で固液分離することを可能にする連続固液分離方法及びその装置を提供する。
【解決手段】超臨界二酸化炭素等を比重差分離溶媒として用いる固液混合物質の比重差分離法において、縦長の比重差分離器の中段から固液混合物質を供給し、該比重差分離器の上段から固液混合物質中の液体と二酸化炭素を流出させ、固形物を下に回収し、比重差分離器の固液混合物質の供給口よりも下から上へ超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素を定量供給し、比重差分離器から流出した流体を固液混合物質の供給口に循環させ、この循環流体に固液混合物質を混合し、比重差分離器に供給することにより連続的に固液分離することからなる比重差分離方法、及びその装置。
【効果】クーラント等の液体成分が沈降することのない、固液混合物質の完全固液分離プロセスを提供できる。
【解決手段】超臨界二酸化炭素等を比重差分離溶媒として用いる固液混合物質の比重差分離法において、縦長の比重差分離器の中段から固液混合物質を供給し、該比重差分離器の上段から固液混合物質中の液体と二酸化炭素を流出させ、固形物を下に回収し、比重差分離器の固液混合物質の供給口よりも下から上へ超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素を定量供給し、比重差分離器から流出した流体を固液混合物質の供給口に循環させ、この循環流体に固液混合物質を混合し、比重差分離器に供給することにより連続的に固液分離することからなる比重差分離方法、及びその装置。
【効果】クーラント等の液体成分が沈降することのない、固液混合物質の完全固液分離プロセスを提供できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素を比重差分離溶媒として用いてスラリー廃液等の固液混合物質を高効率で固液分離する固液混合物質の固液分離方法及びその装置に関するものであり、更に詳しくは、シリコンウェハー製造工程で発生するスラリー廃液等の固液混合物質を、超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素を比重差分離溶媒として用いて、連続的に固液分離することにより、高い分離効率で固液を分離し、有価物を回収して再利用することを可能とする、スラリー廃液等の固液混合物質の比重差分離による新しい固液分離方法及びその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化や環境汚染の問題を背景に、世界各国が積極的に再生可能なクリーンエネルギーを求めており、太陽電池等の需要は増々増加する傾向にあり、その需要は、今後も更に伸び続けることが推測される。
【0003】
太陽電池には、単結晶シリコンや多結晶シリコンを用いたシリコン結晶系、CVD等で製膜した非結晶系、CdTe等の化合物系、その他、様々な種類のものがあるが、実際に生産されている太陽電池の約9割は、シリコン結晶系である。太陽電池以外にも、シリコンウェハーは、IC、LSI等の基盤にも使用されており、パソコンや携帯電話端末、デジタル家電の需要増加に伴い、その生産量は、増加傾向にある。
【0004】
太陽電池や、IC、LSIの需要が高まる一方で、生産に伴う廃棄物も増々増加しているのが実情である。例えば、シリコンウェハーは、シリコンインゴットをワイヤーソーで薄く切断し、鏡面加工、洗浄等を行うことで製造されており、ワイヤーソーによるシリコンインゴットの切断では、高速で走る多数本の細径ワイヤーにシリコンインゴットを押しつけ、同時に砥粒とクーラントを混合したスラリーを供給しながら、シリコンインゴットの切断操作が行われている。
【0005】
上記スラリーには、クーラントとして、ポリエチレングリコールを使用した水系と、鉱物油を使用した油系があり、砥粒は、主にSiCが使用されており、これらは、用途に応じて、使い分けられている。いずれのスラリーも、シリコンインゴットの切断時に、シリコン屑や、ワイヤーからの鉄屑が蓄積し、それらがワイヤーソーの切断性能を低下させる原因となるため、切断毎に一部のスラリーを抜き取り、廃棄し、残りのスラリーは、遠心分離を施した後、新しいスラリーに混合しつつ使用されている。しかし、一部のスラリーは、切断毎に廃棄されるため、廃棄されるスラリー廃液は、相当量に達する。
【0006】
この廃棄されるスラリー廃液の成分含有比は、SiC45〜60%、クーラント30〜40%、シリコン屑10〜20%、鉄屑5〜15%であり、その多くは、再使用が可能なSiCとクーラントである。廃棄されたスラリー廃液の一部については、遠心分離により、SiCとクーラントの延命が行われているものの、スラリーの廃棄量は、膨大である。
【0007】
この廃棄されたスラリー廃液には、シリコン屑の他に、鉄屑や、再使用が可能なクーラント及び砥粒が含まれているため、廃棄されたスラリー廃液から、それらを分離回収するために、従来、様々な手法が提案されている(特許文献1〜6参照)。また、近年、半導体や太陽電池の需要の大幅な増加に対して、廃棄されたスラリー廃液の有価物の効率的な分離プロセスの開発が種々試みられている。
【0008】
例えば、先行文献には、油系スラリー廃液を、灯油等の抽出剤で希釈し、比重差で沈殿、分離して砥粒(SiC)を回収する方法が開示されている(特許文献7参照)。また、他の先行文献には、フィルタープレス等により分離したスラリー廃液に、アルキルスルホン酸ナトリウム等の捕集剤と起泡剤を配合して、微細気泡を上昇させることによって、SiC粒子を分離する方法が開示されている(特許文献8参照)。しかし、これらの方法では、分散剤の添加が必要であり、また、スラリー廃液の有用成分を分離する際に、新たな廃棄物が発生する、という問題がある。
【0009】
また、他の先行文献には、亜臨界もしくは超臨界二酸化炭素を用いて、有機物成分を抽出分離した後、温度、圧力を下げて、二酸化炭素と有機物成分を分離し、更に、二酸化炭素を回収し、再度、亜臨界もしくは超臨界二酸化炭素を抽出剤として使用する方法が開示されている(特許文献9参照)。しかし、この種の方法では、目的抽出物質が、超臨界二酸化炭素に溶解する物質に限定される、という問題がある。
【0010】
一方、本発明者らは、先に、超臨界二酸化炭素及び/又は液体二酸化炭素を比重差分離溶媒及び/又は抽出分離溶媒として用いて、固液混合物質を、比重差及び/又は抽出分離を利用して分離する固液混合物質の分離方法及びその装置を開発している(特許文献10参照)。
【0011】
上記先行技術を開示した先行文献では、具体的方法として、比重差分離と抽出分離を同一系内で、同時に行い、固形物を水スラリーで取り出し、フィルターあるいはサイクロンでSiCを回収し、固形物分離後のCO2をスラリー廃液と混合して比重差分離を行い、CO2とスラリー廃液との混合流体の密度及び粘度を制御して高い分離効率で固液を分離する基本的方法及びその装置が提案されている。
【0012】
しかし、その後、本発明者らが更に実用化研究を進める中で、この方法では、良好な固液分離結果が得られたが、分離過程でクーラントが極小量沈降し、固形物回収槽から小量のクーラントが回収され、該方法は、スラリー廃液の分離プロセスの実用化を可能にする固液の完全分離プロセスとしては、未だ課題を有するものであった。
【0013】
このように、当技術分野においては、廃棄スラリーから再利用可能なSiCとクーラントを分離、回収する方法として、比重差分離器の下段へのクーラントの沈降が全くなく、固液の完全分離プロセスとして実用化可能であり、しかも人体及び環境に対して負荷の低い超臨界二酸化炭素を比重差分離媒体として用いた新しい有価物回収技術を確立することが強く要請されていた。
【0014】
【特許文献1】特許第3199159号公報
【特許文献2】特開平11−48146号公報
【特許文献3】特開2002−28866号公報
【特許文献4】特開2003−225700号公報
【特許文献5】特開2000−254543号公報
【特許文献6】特開平11−172237号公報
【特許文献7】特開平9−109144号公報
【特許文献8】特開2004−223321号公報
【特許文献9】特開平8−183989号公報
【特許文献10】特開2007−330964号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、スラリー廃液等の固液混合物質からその有価物を高効率に分離回収することを可能とする新しい有価物回収技術を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素を比重差分離媒体として用いて、スラリー廃液等の固液混合物質を比重差分離器の中段の固液混合物質の供給口より供給し、該供給口よりも下から上へ超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素を常に定量供給し、更に、比重差分離器から流出した流体を、上記固液混合物質の供給口に、循環流体として、循環させ、該循環の過程で上記循環流体にスラリー廃液等の固液混合物を混合して、比重差分離器の固液混合物質の供給口に供給する循環手段を用いて固液分離を連続的に行うことにより、所期の目的を達成し得ることを見出し、更に研究を重ねて、本発明を完成するに至った。
【0016】
本発明は、超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素を比重差分離媒体として用いて、クーラント等の液体成分の沈降を確実に防止することが可能で、スラリー廃液等の固液混合物質から、その有価物を高い分離効率で分離回収することを可能とする新しい固液混合物質の完全分離方法を提供することを目的とするものである。また、本発明は、超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素を比重差分離媒体として用いて、スラリー廃液等の固液混合物質を、固液分離器内で固液分離する固液分離方法であって、従来法のように、固形物回収槽にクーラントが沈降することがなく、スラリー廃液の分離プロセスの実用化を可能とする、比重差分離による固液の完全分離プロセスを構築し、提供することを目的とするものである。更に、本発明は、比重差分離工程と界面活性剤洗浄工程の組み合わせにより、スラリー廃液から、高い分離効率で有価物を回収することを可能とする新しい固液混合物質の分離方法及びその装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段より構成される。
(1)超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素を比重差分離溶媒として用いる固液混合物質の比重差分離方法において、比重差分離器の中段の供給口から固液混合物質を供給し、該比重差分離器の上段から固液混合物質中の液体と二酸化炭素を流出させ、固形物を下に沈降させて回収し、比重差分離器の中段の固液混合物質の供給口よりも下から上へ超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素を定量供給し、上記比重差分離器から流出した流体を、循環流体として、上記固液混合物質の供給口に循環させ、この循環流体に固液混合物質を混合し、比重差分離器に供給することにより連続的に固液分離することを特徴とする固液混合物質の比重差分離方法。
(2)上記固液混合物質が、シリコンウェハー製造工程で発生するスラリー廃液、又は研磨・切削スラリー廃液である、前記(1)に記載の比重差分離方法。
(3)固液混合物質の供給口よりも下から上へ供給する超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素の密度を、温度及び/又は圧力を変えることにより制御し、該密度が、固液混合物質中の液体の密度、及び固液混合物質中の液体と二酸化炭素の混合流体の密度以上となるようにして、固液混合物質中の液体の上記固液混合物質の供給口よりも下への沈降を防止する、前記(1)又は(2)に記載の比重差分離方法。
(4)超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素の密度を、温度及び/又は圧力を変えることにより制御する際に、比重差分離器の固液混合物質の供給口よりも上部では、固液混合物質の固形物の所定の終末速度を得るために下部よりも高温で制御して比重差分離溶媒の密度を小さくし、下部では、上部よりも低温で制御して、比重差分離溶媒の密度を、固液混合物質の液体の密度、及び固液混合物質の液体と二酸化炭素の混合流体の密度以上となるようにして、固液混合物質中の液体の上記固液混合物質の供給口よりも下への沈降を防止する、前記(3)に記載の比重差分離方法。
(5)比重差分離器から流出した固液混合物質中の液体と二酸化炭素を、気液分離器で分離し、分離した二酸化炭素を凝縮し、該二酸化炭素を、固液混合物質の供給口よりも下から上へ供給する超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素として循環利用する、前記(1)に記載の比重差分離方法。
(6)比重差分離器の上段の排出口からフィルターを介して流出した流体を、循環流体として、比重差分離器の固液混合物質の供給口に循環させる、前記(1)から(4)のいずれかに記載の比重差分離方法。
(7)比重差分離器の上段から流出した流体を、循環流体として、比重差分離器の固液混合物質の供給口に循環させ、この循環流体に固液混合物質を混合する工程において、上記循環流体と固液混合物質をミキサーで混合する、前記(1)から(6)のいずれかに記載の比重差分離方法。
(8)上記循環流体と固液混合物質を乱流混合型のミキサーで混合する、前記(7)に記載の比重差分離方法。
(9)比重差分離器の上段から流出した流体を、循環流体として、比重差分離器の固液混合物質の供給口に循環させ、この循環流体に固液混合物質を混合する工程において、循環流体の温度、圧力、及び/又は流速を制御し、循環流体と固液混合物質の混合を確保しつつ、比重差分離器内の二酸化炭素及び固液混合物質中の液体と二酸化炭素の混合流体の流速が、固形物の所定の終末速度以下になるように制御する、前記(1)から(8)のいずれかに記載の比重差分離方法。
(10)超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素を比重差分離溶媒として用いて、比重差分離器の中段から固液混合物質を供給し、該比重差分離器の上段から固液混合物質中の液体と二酸化炭素を流出させ、固形物を下に沈降させて回収して、固液混合物質を連続的に固液分離する固液混合物質の比重差分離装置であって、比重差分離器の固液混合物質の供給口よりも下の位置に、下から上へ超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素を定量供給する供給手段を有し、比重差分離器から流出した流体を、循環流体として、上記固液混合物質の供給口に循環する手段、及びこの循環流体に固液混合物質を混合して、比重差分離器に供給する手段を具備していることを特徴とする固液混合物質の連続比重差分離装置。
(11)比重差分離器の上段から流出した固液混合物質中の液体と二酸化炭素を分離する気液分離器を有し、分離した二酸化炭素を凝縮する手段、該二酸化炭素を比重差分離器に再供給して利用する手段を具備した、前記(10)に記載の連続比重差分離装置。
(12)比重差分離型の固液混合物質の供給口よりも下から上へ供給する超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素の密度を、温度及び/又は圧力を変えることにより調整する手段を有する、前記(10)に記載の連続比重差分離装置。
(13)比重差分離器の固液混合物質の供給口よりも上部と下部を異なる温度に制御する手段を有する、前記(10)に記載の連続比重差分離装置。
(14)比重差分離器から流出した流体を、循環流体として、比重差分離器の固液混合物質の供給口に循環させ、この循環流体に固液混合物質を混合する装置において、循環流体と固液混合物質を混合するミキサー手段を有する、前記(10)から(13)のいずれかに記載の連続比重差分離装置。
(15)循環流体と固液混合物質を混合するミキサー手段が、乱流混合型のミキサーである、前記(14)に記載の連続比重差分離装置。
【0018】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素を比重差分離溶媒として用いる固液混合物質の比重差分離方法において、縦長の比重差分離器の中段の供給口から固液混合物質を供給し、該比重差分離器の上段から固液混合物質中の液体と二酸化炭素を流出させ、固形物を下に沈降させて回収し、比重差分離器の中段の固液混合物質の供給口よりも下から上へ超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素を常に定量供給し、上記比重差分離器から流出した流体を、循環流体として、上記固液混合物質の供給口に循環させ、この循環流体に固液混合物質を供給し、比重差分離器に供給することにより連続的に固液分離することを特徴とするものである。
【0019】
また、本発明は、超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素を比重差分離溶媒として用いて、縦長の比重差分離器の中段から固液混合物質を供給し、該比重差分離器の上段から固液混合物質中の液体と二酸化炭素を流出させ、固形物を下に沈降させて回収して固液混合物質を連続的に固液分離する固液混合物質の比重差分離装置であって、比重差分離器の固液混合物質の供給口よりも下の位置に、下から上へ超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素を定量供給する供給手段を有し、比重差分離器から流出した流体を、循環流体として、上記固液混合物質の供給口に循環する手段、及びこの循環流体に固液混合物質を混合して、比重差分離器に供給する手段を具備していることを特徴とするものである。
【0020】
本発明では、例えば、縦長の円筒状の比重差分離器が好適に用いられるが、その具体的な形態は、適宜設計することができる。本発明においては、比重差分離溶媒として、温度31.17℃以上で圧力7.386MPa以上の超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素が用いられる。超臨界流体の密度は、液体に近く、拡散係数は液体に比べて著しく高く、無極性、弱極性油脂を溶解する作用を有し、その密度及びその溶解力は、温度及び/又は圧力を変えることで変化する。また、二酸化炭素は、圧力条件のみで気化、除去及び液化による再利用が可能であり、本発明では、上記二酸化炭素を比重差分離溶媒として用いることで、本発明の比重差分離プロセスの構築を可能としている。
【0021】
本発明では、上記固液混合物質として、例えば、一般的な研磨・切削スラリー廃液、シリコンウェハー製造過程で発生するシリコンスラリー廃液等のスラリー廃液が例示される。これらのスラリー廃液中には、研削剤、研磨剤等として使用される、砥粒、クーラント等が含まれている。
【0022】
砥粒としては、例えば、微粒アルミナ、コロイダルシリカ、炭化ケイ素、酸化セリウム、酸化ケイ素、ボロンカーバイト、ボロンナイトライド、酸化ジルコニウム、微粒ダイヤモンド、微粒サファイヤ等が例示される。クーラントとしては、例えば、鉱物油等の油系クーラント、ポリ水溶性グリコール類、アミン類等の水系クーラント、及び潤滑剤等が例示される。また、クーラントには、界面活性剤、水、及び溶剤等が含まれている場合があるが、本発明は、これらを含むクーラントも本発明の対象とされる。
【0023】
一般に、研削剤、研磨剤については、通常、上記砥粒は、クーラント、潤滑剤に分散されて存在している。それらのスラリー廃液には、上記砥粒、シリコン等の切粉、研磨屑、ワイヤソーに由来する鉄屑、砕けた砥粒のかけら等の固形分が含まれている。本発明は、上記スラリー廃液に限らず、それらと同等ないし類似の性状及び組成を有するあらゆる種類の固液混合物質の分離手段として適用可能である。
【0024】
しかし、本発明では、本発明についての説明を簡便かつ容易にするために、スラリー廃液の場合を例として説明する。スラリー廃液の組成として、例えば、シリコンウェハー製造工程で発生するスラリー廃液の場合、該スラリー廃液は、一般的には、SiC砥粒が48〜55w%、クーラントが30〜35wt%、シリコン屑が9〜10%、その他として、鉄屑、の割合からなる。
【0025】
超臨界二酸化炭素及び/又は液体二酸化炭素を比重差分離溶媒として用いて、固液混合物質を固液分離する場合、固液混合物質を、超臨界二酸化炭素及び/又は液体二酸化炭素を比重差分離器の中段に位置させた固液混合物質の供給口から供給し、比重差を利用して、固液分離を行い、比重差分離器の上段から油系成分を排出し、比重差分離器の下に固形物質を沈降、分離させる。例えば、クーラントとして、鉱物油を用いたシリコンスラリー廃液の場合、比重差分離器の上段からクーラントが流出、分離し、下に固形物が沈降、分離する。
【0026】
この沈降、分離した固形物を外部へ排出した後、例えば、界面活性剤を含有する水溶液を、回収した固形物に添加、混合、静置することにより、上澄みとして、シリコン切粉及び鉄屑が、また、沈殿として、SiCが分離する。必要に応じて、混合時に超音波を照射すること、上澄み部に磁石を入れること等により、鉄屑を効率的に回収することができる。上記の操作を繰り返し行なうことで、SiCが精製されて、砥粒として、再使用が可能な状態とすることができる。
【0027】
本発明では、上記比重差分離において、比重差分離溶媒である超臨界二酸化炭素及び/又は液体二酸化炭素の温度及び/又は圧力を変えて、その密度を変化させること及び/又は比重差分離溶媒の流速を調節することで、固液の分離効率を高めることができる。本発明では、本発明の上記基本構成に加え、比重差分離溶媒の圧力、温度、及び/又は流速の条件が、本発明の固液分離混合物質の固液分離操作を行う上で重要な基本ファクターとして位置づけられる。
【0028】
例えば、固液混合物質を構成する液体成分(低密度ρL)と固体成分(高密度ρH)を分離する場合、これらの密度と比重差分離溶媒の密度ρCO2は、ρL<ρCO2<ρHの関係にあることが必要である。本発明では、比重差分離溶媒の密度を調節することにより、高い分離効率を達成することができる。例えば、シリコンスラリー廃液であって、液体成分であるクーラントの密度が約800kg/m3で、固体主成分であるSiCの密度が約3000kg/m3である場合、比重差分離溶媒の密度は、800kg/m3以上3000kg/m3以下であることが求められる。
【0029】
分離溶媒の密度が800kg/m3以上であれば、クーラントを上部に分離することが可能となり、3000kg/m3以下であれば、SiCを下部に分離することができる。ただし、二酸化炭素の密度は、3000kg/m3を越えることはないので、実質上は、800kg/m3以上であればよいことになる(固体二酸化炭素ドライアイスでも、1500kg/m3程度)。
【0030】
この条件は、例えば、飽和の液体二酸化炭素の場合、飽和温度17℃(その時の飽和圧力5.3MPa)以下で達成され、また、加圧液体二酸化炭素又は超臨界二酸化炭素の場合、20MPaの時、47℃以下、30MPaの時、67℃以下で達成される。
【0031】
一方、固体粒子の沈降性は、一般に、ストークス式:(ρ1−ρ2)g・d2/18μから計算される限界流速(=終末速度)で評価され、この数値より小さな分離溶媒の上昇速度となるように流速が決定される。例えば、SiCの粒径を10μmと仮定し、分離溶媒として、40℃・20MPaの超臨界二酸化炭素(密度840kg/m3)を用いる場合、限界流速、すなわち終末速度は5.4m/hと計算されるので、超臨界二酸化炭素の上昇速度は、これより十分に小さい数値となるように流速を調節することが好ましい。
【0032】
また、水系スラリーの場合には、液体成分は水であり、密度は、1000kg/m3であるので、比重差分離溶媒の密度は、それ以上大きな数値が求められる。この条件は、飽和の液体二酸化炭素の場合、飽和温度−14℃(その時の飽和圧力:2.4MPa)以下で達成され、また、加圧液体二酸化炭素の場合、20MPaの時、5℃以下、30MPaの時、15℃以下で達成され、更に、超臨界二酸化炭素の場合、50MPaの時、36℃以下で達成される。
【0033】
本発明の固液分離操作により、低温度の状態で、脱水、乾燥が可能となり、いずれにしても、固液分離操作が終了した段階で、溶媒、液体成分及び固形物質のうち、再利用が可能な有価物を分離、回収し、再使用することが可能となる。本発明では、比重差分離器の中段の固液混合物質の供給口よりも下から上へ供給する超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素の密度を、温度及び/又は圧力を変えることにより制御して、該密度を、固液混合物質中の液体密度、及び固液混合物質中の液体と二酸化炭素の混合流体の密度以上にすることにより、固液混合物質中の液体成分の沈降を防止することが可能となる。
【0034】
本発明では、比重差分離器の中段の固液混合物質の供給口よりも上と下を、異なる温度に調整し、比重差分離溶媒の密度を制御して、上部では、固液混合物質の固形物の所定の終末速度を得るために、下部よりも高温で制御して、比重差分離溶媒の密度を小さくし、下部では、上部よりも低温で制御して、比重差分離溶媒の密度を、固液混合物質の液体密度、及び固液混合物質の液体と二酸化炭素の混合流体の密度以上になるようにして、固液混合物質の液体成分の沈降を防止することが好適である。
【0035】
また、本発明では、比重差分離器の上段から流出した固液混合物質中の液体と二酸化炭素を、気液分離器で分離し、分離した二酸化炭素を凝縮し、これを、固液混合物質の供給口よりも下から上へ供給する超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素として、循環利用することができる。また、本発明では、比重差分離器の上段の排出口にフィルターを設置し、フィルターから流出した流体を、循環流体として、循環・混合ラインを経由して、比重差分離器の中段の固液混合物質の供給口に循環させ、その過程で、この循環流体に固液混合物質を混合し、比重差分離器の固液混合物質の供給口に供給することで、固液混合物質の分離操作を行うことができる。
【0036】
本発明の方法では、比重差分離器の上段から流出した流体を、循環流体として、比重差分離器の中段の固液混合物質の供給口に循環させ、この循環流体に固液混合物質を供給する工程において、循環流体と固液混合物質をミキサーで混合した後、比重差分離器に供給すること、また、循環流体と固液混合物質をミキサーで混合する工程において、乱流混合型のミキサーを使用して混合すること、が好ましい。
【0037】
また、本発明の方法では、比重差分離器の上段から流出した流体を、比重差分離器の中段の固液混合物質の供給口に循環させ、この循環流体に固液混合物質を供給する工程において、循環流体の温度、圧力、及び/又は流速を制御し、循環流体と固液混合物質の混合状態を良好に確保しつつ、比重差分離器内の二酸化炭素の流速が、固形物の所定の終末速度以下になるように制御することにより、固液混合物質を分離することが好ましい。
【0038】
また、本発明の装置では、比重差分離器の上段から流出した固液混合物質中の液体と二酸化炭素を分離する気液分離器を有し、分離した二酸化炭素を凝縮する手段、該二酸化炭素を比重差分離器の下段に再供給する手段を具備したこと、固液混合物質の供給口よりも下から上へ供給する超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素の密度を、温度及び/又は圧力を変えることにより制御する手段を有すること、比重差分離器の中段の固液混合物質の供給口より上と下を異なる温度に制御する手段を有すること、が好適である。
【0039】
ここで、本発明を開発した経緯について説明すると、本発明者らは、先に、先行技術として、図1に示す実験装置を用いて、スラリーの固液分離を行う固液分離方法を開発した。該方法では、図2に示されるように、良好な固液分離結果が得られたが、少量のクーラント(6.4%)が、固形物回収槽から回収され、検証により、固形物回収槽に沈降するクーラントは、スラリー廃液の供給時に沈降していることが判明した。そこで、本発明者らは、クーラントの沈降を阻止し、固液完全分離を実施可能にするため、分離プロセスの改善及び分離条件の検討を行って、新しい分離プロセス、特定の分離条件を定めることで、固液の完全分離を可能とする新しい固液分離プロセスを構築することに成功した。
【0040】
本発明の固液分離方法として構築した新しい分離プロセスと、固液分離の結果を、図3、4に示す。本発明の固液分離プロセスでは、1)スラリー供給口よりも下から常にCO2を定量供給すること、2)比重差分離器の排出口とスラリー廃液の供給口の間に循環・混合ラインを設け、比重差分離器から流出した流体を、循環流体として、循環させ、この循環流体にスラリー廃液を混合して供給すること、を基本構成としている。分離条件としては、スラリー廃液の供給口よりも下から上へ供給するCO2の密度と、クーラントの密度、及びクーラント+CO2の混合流体の密度の関係を、(クーラント密度)<(CO2密度)、(クーラント+CO2の混合流体の密度)<(CO2密度)、に設定することを基本構成としている。
【0041】
図4に示される固液分離の結果から分かるように、本発明の固液分離プロセスでは、クーラントは、固形物回収槽から回収されないこと(回収率:0.0%)、すなわち、比重差分離器の下段におけるクーラントの沈降を完全に阻止できること、が判明した。これにより、本発明は、スラリー廃液を比重差分離により該スラリー廃液を構成する物質ごとに分離するプロセスとして、例えば、スラリー廃液に大量に含まれるSiCとクーラントを再利用することを可能とする固液の完全分離プロセスを確立できることが実証された。
【0042】
上記先行技術において、固形物回収槽にクーラントが沈降した原因について、本発明者らが検証した結果、固形物回収槽の上部に、クーラントを含有した固形物が存在するのは、スラリー廃液の供給中に、クーラントとCO2の混合流体からなる混合層が徐々に沈降し、固形物回収槽の固形物に接触し、その結果、固形物回収槽の上部の固形物にクーラントが残留したことによるものと考察された。
【0043】
本発明において、比重差分離器に供給された固形物の終末速度とCO2の上昇速度の関係は、CO2の上昇速度<固形物の終末速度、であること、また、比重差分離器に供給されたクーラントの密度とCO2の密度の関係は、クーラント+CO2の混合流体の密度<CO2密度、であること、が、本発明の固液分離プロセスの基本原理として重要である。CO2の密度が、クーラントの密度よりより小さい場合は、固形物回収槽にクーラントが沈降する。一方、CO2の密度が大きすぎる場合は、CO2とスラリー廃液の混合状態が良くなくなり、スラリー廃液を効果的に分散できないことになる。
【0044】
本発明の装置については、本発明では、分離溶媒と液体成分を分離する適宜の蒸発手段により、分離溶媒を気体として回収し、冷却、凝縮手段を介して、液体二酸化炭素として再循環させるための、分離溶媒の循環手段を適宜設置することが可能である。また、比重差分離器の下部に回収された固形物質を連続的に排出する手段を設置することもできる。この連続的な排出により、比重差分離器内に固形物質を貯蔵が必要なくなるので、比重差分離器の小型化が可能である。本発明では、本発明の装置を構成する各手段の具体的な構成については、特に制限されるものではなく、固液混合物質の種類、装置の使用目的等に応じて任意に設計することができる。
【0045】
更に、本発明では、固液混合物質と超臨界二酸化炭素及び/又は液体二酸化炭素を混合すること、混合後の流体の密度及び粘性を制御して、その密度及び粘性を適宜調整すること、が可能であり、また、固液混合物質と超臨界二酸化炭素及び/又は液体二酸化炭素を予め混合し、その混合物を、流体の密度及び粘性を制御しながら、比重差分離に適宜供給することが可能である。
【0046】
従来、シリコンウェハー製造工程で発生するスラリー廃液中に大量に含まれている使用可能なSiCやクーラントを回収し、再利用する方法が種々提案されている。しかし、何れの方法も、大量の有機溶剤、強酸・強アルカリ、希アルカリ水溶液、界面活性剤等を用いたり、超音波照射等の特別な処理を併用する必要があり、また、新たにそれらの廃液の処理工程が必要となり、実際には、スラリー廃液等からの有価物の回収はほとんど行われていないのが実情であった。
【0047】
また、既存の有機溶剤による抽出法に代わる方法として、抽出溶媒として、超臨界二酸化炭素を用いて、スラリー廃液中の固液分離、及び有価物を回収する方法も提案されているが、抽出操作だけで高い分離効率を達成するには、大量の抽出溶媒が必要となり、装置の小型化、抽出効率や有価物の回収率の向上等には大きな制約があった。また、従来の比重差分離方法では、遠心分離機等を使用していたが、この種の方法では、分離効率が悪く、完全な固液分離ができないこと、また、分離効率を良くするために、希釈溶媒の添加等が行われるため、分離操作後に、希釈溶媒を目的物質から分離することや、希釈溶媒の後処理が必要になること、等の問題があった。
【0048】
これに対し、本発明では、比重差分離溶媒に、常温、常圧で気体となる二酸化炭素を使用するため、分離後の物質に溶媒は残留しない上に、後処理の必要がない。また、本発明は、超臨界二酸化炭素及び/又は液体二酸化炭素を比重差分離溶媒として用いて、固液混合物質を完全に固液分離することを可能とするものである。特に、超臨界二酸化炭素は、温度、圧力を変えることで簡便かつ容易に密度を変化させられる上に、従来の比重差分離で使用していた分離溶媒の水やアルコール、有機溶媒等より、圧倒的に粘度が低いため、これらの溶媒に比べ、極少量の添加量で高い分離効率が得られる。
【0049】
本発明は、超臨界二酸化炭素及び/又は液体二酸化炭素を比重差分離溶媒として用いることにより、溶媒の使用量の大幅な低減及び装置の小型化と、有価物の分離効率の向上を同時に達成することを可能とするものである。本発明は、固液混合物中の有価物を、超臨界二酸化炭素及び/又は液体二酸化炭素を、比重差分離溶媒として用いて、比重差分離するための高効率分離方法及びその装置を提供するものとして有用である。
【発明の効果】
【0050】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)超臨界二酸化炭素及び/又は液体二酸化炭素を、比重差分離溶媒として用いることで、固液混合物質中の液体成分の比重差分離器の下段への沈降がなく、完全に固液分離ができる。
(2)スラリー廃液から比重差分離による固液分離により、再利用可能な有価成分を高効率で分離回収することができる。
(3)本発明により、例えば、シリコンスラリー廃液のリサイクルプロセスを構築することができる。
(4)本発明の方法及び装置により、従来のSC−CO2抽出による固液分離法と比べて、高い効率で有価成分を分離回収することができる。
(5)比重差分離溶媒として、常温、常圧で気体となる二酸化炭素を使用しているので、分離後の物質に溶媒が残留することがなく、後処理の必要もない、という利点が得られる。
(6)超臨界二酸化炭素の密度を、温度及び/又は圧力を変えることで簡便かつ容易に変化させることが可能であり、それにより、被処理物質の密度に対応して、比重差分離の条件を任意に設定することができる。
(7)比重差分離溶媒である超臨界二酸化炭素は、水や有機溶媒等と比べて、粘度がきわめて低いため、従来法と比べて、極少量の溶媒添加量で格段に高い分離効率が得られる。
(8)比重差分離溶媒である二酸化炭素の温度及び/又は圧力を変え、その密度及び粘性を変化させることで、被処理固液混合物質に合わせた分離プロセスの構築及び分離条件の設定を任意にすることができる。
(9)低温(35℃程度)操作が可能であるため、被処理物質を熱変性することなく分離することが可能である。
(10)比重差分離溶媒に二酸化炭素を使用しているので、環境及び人体に対して無害である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0052】
本実施例では、固液混合物質として、シリコンインゴットのスライス工程で発生するスラリー廃液を用いて、固液分離を行った。図5に、本発明で構築し、本実施例で実験を試みたスラリー廃液の分離プロセスを示す。図に示されるように、本分離プロセスは、固液分離工程と、SiC回収工程から構成される。
【0053】
固液分離工程では、超臨界二酸化炭素(SC−CO2)を比重差分離溶媒として用いたSC−CO2比重差分離による分離方法を行い、クーラントを回収し、SiC回収工程では、界面活性剤洗浄による洗浄方法を行い、SiCを回収する。本実施例では、本発明の環境負荷の低い有価物回収プロセスを、これらの二工程を組み合わせることにより実施した。
【0054】
スラリー廃液の種類については、本実施例では、水系のスラリー廃液と比べて、分離が困難とされている油系のスラリー廃液をターゲットとして、固液分離操作を行った。図6に、本実施例で用いたスラリー廃液の写真を示す。該スラリー廃液に含まれる固形物は、密度が大きいものの、クーラントが高粘性であるため、終末速度が小さく、クーラント中に保持され、固液が混濁していることが分かる。本実施例では、このスラリー廃液に含まれるクーラントに、低粘性溶媒である超臨界二酸化炭素を溶解させたクーラントを低粘性化し、固形物(SiC、シリコン屑、鉄屑)と、クーラントを比重差分離により分離することを試みた。
【0055】
通常、スラリー廃液中の砥粒(SiC)は45〜60wt%、クーラント(鉱油)は30〜40wt%、Si屑は15〜10wt%、Fe屑は15〜5wt%である。本実施例においては、スラリー廃液は、総供給量:560gの条件、クーラントは、供給量:165g、密度:810kg/m3、粘度:55cpの条件、固形物(SiC、シリコン屑、鉄屑)は、供給量:395g、密度:2550kg/m3の条件として、実験を行った。図7に、各実験条件におけるSC−CO2の密度、粘度を示す。
【0056】
(実験装置)
本実施例では、上述の図3に示した実験装置と同様の装置を用いて実験を実施した。この実験装置は、縦長で円筒状の比重差分離器(内径50mm、高さ1000mm、容量1963ml、SUS316製)を中心に、供給系及び排出系と、循環・混合ラインを配設した構成を有している。これらの構成のうち、スラリー廃液の供給系は、スラリー貯槽から、スラリーポンプを介して、比重差分離器の中段に至る配管ラインが配設され、また、排出系は、比重差分離器の上段から、高圧フィルター、背圧弁及び気液分離器に至る配管ラインが配設されている。
【0057】
循環・混合ラインは、比重差分離器の上段から、高圧フィルター、環境ポンプ、及びスラリー廃液が供給、混合される配管を経て、比重差分離器の中段の固液混合物質の供給口に至る配管ラインが配設されている。上記循環・供給ラインには、P−2ポンプ、V−4バルブ及びV−3バルブが設置されている。
【0058】
また、二酸化炭素の供給系は、分離溶媒として用いる二酸化炭素が収容された液化炭酸ガスボンベから、予冷却器、予備加熱器を介して、比重差分離器の下段に至る配管ラインが配設されている。更に、比重差分離器の側面には、加熱又は温度調整のために、上半分に温水循環手段が設置され、下半分にヒーターが設置され、気液分離器には、回収したクーラントの貯槽及びクーラントの量を計測するはかりが設置されている。
【0059】
(実験方法)
スラリー廃液を、スラリー貯槽から、スラリーポンプを介して、高圧の循環・混合ラインに供給し、その高圧配管内で超臨界二酸化炭素(SC−CO2)と混合した後、比重差分離器の中段に位置する固液混合物質の供給口に供給した。比重差分離器内におけるSC−CO2の上昇流速を、スラリー廃液に含まれる固形物の終末速度以下とすることで、固形物は、比重差分離器の下の固形物回収槽に沈降し、クーラントは、SC−CO2に同伴し、背圧弁を経て、気液分離器で回収した。
【0060】
実験条件として、温度を35℃一定とし、圧力を10、15、29MPaの条件として、分離特性の圧力依存性を調べた。また、SC−CO2は、比重差分離器のスラリー廃液の供給口よりも下から上に常に定量供給した。実験は、始めに、V−1及びV−2の両方のバルブを開け、P−1及びP−2の両方のポンプを使用し、比重差分離器の最下部に配設した供給口から、SC−CO2を供給し、実験圧力まで昇圧し、同時に、予備加熱器、ヒーター及び温水で、実験温度まで加熱を行った。
【0061】
実験条件に到達した後、P−1ポンプのSC−CO2流量を5g/minとし、P−2ポンプを一旦停止した。次いで、V−1及びV−2のバルブを閉め、V−3及びV−4のバルブを開けた後、P−2ポンプの流量を12g/minとし、循環・混合ラインを運転した。
【0062】
次いで、流量5g/minに調節されたスラリー廃液の供給を開始し、スラリー廃液とSC−CO2を混合した後、比重差分離器の中段の固液混合物質の供給口へ供給した。スラリー廃液を、循環・混合ラインに供給することで、二酸化炭素溶媒、及び二酸化炭素溶媒+クーラント(混合流体)と混合して、クーラントを低粘度化した。スラリー廃液の供給時間は、1.8hrとし、総供給量は、560gとした時点で、スラリー廃液の供給を終了した。図8に、Case1、2の実験条件と固形物回収槽、高圧フィルター、気液分離器の各ポイントで回収した固形物及びクーラントのマスバランスの評価を示した。各ポイントのマスバランスは、各成分の回収率×100/各成分の総供給量、とした。
【0063】
上記連続運転による操作で、スラリー廃液の連続供給実験は終了したが、ここで、循環・混合ラインに供給したスラリー廃液の全ての成分を回収する後処理工程を実施するために、スラリー廃液の供給終了後、P−2ポンプを一旦停止し、再度、V−3及びV−4のバルブと、V−1及びV−2のバルブを切り替え、P−1及びP−2の両方のポンプを使用して、比重差分離器の最下部の供給口から、SC−CO2を1.5hr供給し、比重差分離器内の流体の抽出操作を行った。続いて、SC−CO2の供給を止め、減圧操作をした後、固形物回収槽及び気液分離器でそれぞれ回収した固形物及びクーラントのマスバランスを評価した。
【0064】
(実験結果)
表1に、各実験(Case1〜3)における圧力、温度と、SC−CO2の密度、粘度及び最大上昇流速、SiCの終末速度、SC−CO2とスラリー廃液混合直後の混合部のレイノルズ数、を示す。
【0065】
【表1】
【0066】
また、表2に、固形物回収槽における固形物回収率、クーラント沈降率、気液分離器におけるクーラント回収率、を示す。また、図9に、Case3の実験条件と、固形物回収槽、高圧フィルター、気液分離器の各ポイントで回収した固形物及びクーラントのマスバランスの評価を示す。各ポイントのマスバランスは、各成分の回収率×100/各成分の総供給量、とした。
【0067】
【表2】
【0068】
最も良好な結果が得られたのは、15MPa(CO2密度:815kg/m3)の条件の場合であり、該条件では、固液の完全分離ができることが分かった。10MPa(CO2密度:713kg/m3)及び29MPa(CO2密度:924kg/m3)の条件の場合でも、良好な分離結果が得られたが、固形物とともに、僅かなクーラントが回収され、クーラントの固液回収槽への沈降が起こることが分かった。
【0069】
これは、29MPaの条件では、15MPaの条件に比べて、混合部のレイノルズ数が小さく、SC−CO2とスラリー廃液との混合が不十分であったこと、SC−CO2の流速に対して、固形物の終末速度が十分に得られなかったこと、が原因であると考えられる。10MPaの条件では、CO2密度よりも、クーラント密度が大きいために、クーラントが沈降したものと考えられる。
【0070】
クーラントは、二酸化炭素とともに、比重差分離器の上段から排出系を経て、気液分離装置で回収されるが、クーラントが固形物回収槽に沈降しないようにするためには、比重差分離器のスラリー廃液の供給口よりも下から上にSC−CO2を常に定量供給すること、また、下から上に供給するCO2の密度が、クーラントの密度より大きいこと、固液分離器内の圧力は、35℃では15MPa程度であること、が重要であることが判明した。
【実施例2】
【0071】
(実験方法)
本実施例では、実施例1と同じ実験装置を用いて、比重差分離器の中段のスラリー廃液の供給口の上部と下部で、比重差分離器内の温度条件を変えて、スラリー廃液の固液分離を行った。スラリー廃液としては、実施例1と同じものを用いた。
【0072】
実施例1の結果に基づいて、SC−CO2とスラリー廃液との混合流体の混合部でのレイノルズ数を大きくするために、比重差分離器へのSC−CO2の供給圧力は、10MPaとし、比重差分離器の下部のヒーターによる加熱部分を25℃とし、比重差分離器の上部を35℃とする実験条件を設定した。これらの条件以外は、実施例1と同様とした。
【0073】
(実験結果)
表3に、固形物回収槽及び気液分離器における固形物回収率とクーラント回収率を示す。35℃では、10MPaより高圧で29MPaより低圧の条件であり、15MPa程度が好ましいこと、が分かった。また、温度条件を変えれば、圧力条件も変わるが、例えば、低圧(10MPa)で操作するには、クーラントの沈降を抑制するために、比重差分離器の下部のみを低温(35℃以下)として、クーラント密度≦CO2密度、とすることも有効であることが分かった。
【0074】
【表3】
【0075】
低圧(10MPa)であっても、比重差分離器の上部を35℃として、下部を低温(25℃以下)として、温度条件を変えたことにより、比重差分離器の全域が35℃の場合よりも、固形物回収槽へのクーラントの沈降を抑制できることが分かった。
【実施例3】
【0076】
(SiCの回収)
本実施例では、固形物回収槽に回収された固形物から、SiCを回収した。実験では、1%ノニオン界面活性剤水溶液に固形物を投入した後、超音波を約5分照射した。固形物が液中に十分分散した状態で、約5分静置させるとともに、液面に磁石を接触させ、Fe屑を回収した。静置後、界面活性剤水溶液とSi屑の混濁液を排出し、沈澱したSiCを回収した。SiCの純度を高めるため、沈澱したSiCに、再度、界面活性剤を投入し、洗浄、混濁液の排出を、繰り返し3回行った。図10に、SiC回収工程、回収SiCの写真及びSEM像を示す。
【0077】
(実験結果)
回収SiCの粒度分布を図11に示す。回収SiCの平均粒子径は、10μmで、シャープな分布を有しており、表面を露出した再利用可能なSiCが回収された。図12に、シリコン切断スラリー廃液からの有価物回収の分離プロセスの全貌を示す。
【0078】
以上の本発明の実施例の実験結果から、SC−CO2を比重差分離器の最下部の供給口から定量供給しつつ、固液分離後の流体を循環させ、上記循環・混合ラインを経て、比重差分離器の中段の固液混合物質の供給口に供給して、比重差分離を利用して、スラリー廃液の固液分離操作を連続的に行うことにより、クーラントの沈降を抑制して、固液分離を行うことが可能であることが判明した。これらは、本発明の分離プロセスを採用することにより、クーラントの沈降がなく、クーラント、SiCの回収率が極めて高く、回収したSiCも、平均粒子径が10μmで、シャープな分布を有し、再利用可能な回収SiCとして有用であることを実証するものである。
【0079】
本実施例の結果を総合すると、乱流混合型のミキサーを使用する場合は、ミキシングの観点から、混合部のレイノルズ数を大きくするために、同じ温度条件では低圧が有効であり、固形物分離の観点から、固形物の終末速度とSC−CO2上昇流速の差を大きくするためには、同じ温度条件では低圧が有効である。しかし、クーラント分離の観点から、クーラントが固形物回収槽に沈降しないようにするためには、クーラントの密度以上の二酸化炭素の密度が必要であり、これらの条件をバランスさせることが重要であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
以上詳述したように、本発明は、超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素を分離溶媒として用いた比重差分離による固液混合物質の固液分離方法及びその装置に係るものであり、本発明により、超臨界二酸化炭素及び/又は液体二酸化炭素を、比重差分離溶媒として用いることで、固液混合物質中の液体成分が比重差分離器の下段への沈降がなく、完全に固液分離ができる。本発明の方法及び装置により、従来のSC−CO2抽出による固液分離法と比べて、高い効率で有価成分を分離回収することができる。本発明は、例えば、シリコンウェハー製造工程で発生するスラリー廃液等の完全固液分離プロセスを構築して、該スラリー廃液等の固液混合物を完全に固液分離してその有価物を高効率で回収することを可能とする新しい固液混合物の固液分離技術を提供するものとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】先行技術の実験装置を示す。
【図2】SiC回収槽、高圧フィルター、気液分離器の各ポイントでの回収物質と回収率を示す。
【図3】実施例で用いた連続的固液分離装置フロー図を示す。
【図4】本発明による固液分離結果を示す。
【図5】本実施例で実験を試みたスラリー廃液の分離プロセスを示す。
【図6】クーラントの写真を示す。
【図7】実験条件と、SC−CO2の密度、粘度を示す。
【図8】Case1、2の実験結果と各ポイントでのマスバランスの評価を示す。
【図9】Case3の実験結果と各ポイントでのマスバランスの評価を示す。
【図10】SiC回収工程、回収SiCの写真、SEMを示す。
【図11】回収SiCの粒度分布を示す。
【図12】シリコン切断スラリー廃液からの有価物回収の分離プロセスの全貌を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素を比重差分離溶媒として用いてスラリー廃液等の固液混合物質を高効率で固液分離する固液混合物質の固液分離方法及びその装置に関するものであり、更に詳しくは、シリコンウェハー製造工程で発生するスラリー廃液等の固液混合物質を、超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素を比重差分離溶媒として用いて、連続的に固液分離することにより、高い分離効率で固液を分離し、有価物を回収して再利用することを可能とする、スラリー廃液等の固液混合物質の比重差分離による新しい固液分離方法及びその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化や環境汚染の問題を背景に、世界各国が積極的に再生可能なクリーンエネルギーを求めており、太陽電池等の需要は増々増加する傾向にあり、その需要は、今後も更に伸び続けることが推測される。
【0003】
太陽電池には、単結晶シリコンや多結晶シリコンを用いたシリコン結晶系、CVD等で製膜した非結晶系、CdTe等の化合物系、その他、様々な種類のものがあるが、実際に生産されている太陽電池の約9割は、シリコン結晶系である。太陽電池以外にも、シリコンウェハーは、IC、LSI等の基盤にも使用されており、パソコンや携帯電話端末、デジタル家電の需要増加に伴い、その生産量は、増加傾向にある。
【0004】
太陽電池や、IC、LSIの需要が高まる一方で、生産に伴う廃棄物も増々増加しているのが実情である。例えば、シリコンウェハーは、シリコンインゴットをワイヤーソーで薄く切断し、鏡面加工、洗浄等を行うことで製造されており、ワイヤーソーによるシリコンインゴットの切断では、高速で走る多数本の細径ワイヤーにシリコンインゴットを押しつけ、同時に砥粒とクーラントを混合したスラリーを供給しながら、シリコンインゴットの切断操作が行われている。
【0005】
上記スラリーには、クーラントとして、ポリエチレングリコールを使用した水系と、鉱物油を使用した油系があり、砥粒は、主にSiCが使用されており、これらは、用途に応じて、使い分けられている。いずれのスラリーも、シリコンインゴットの切断時に、シリコン屑や、ワイヤーからの鉄屑が蓄積し、それらがワイヤーソーの切断性能を低下させる原因となるため、切断毎に一部のスラリーを抜き取り、廃棄し、残りのスラリーは、遠心分離を施した後、新しいスラリーに混合しつつ使用されている。しかし、一部のスラリーは、切断毎に廃棄されるため、廃棄されるスラリー廃液は、相当量に達する。
【0006】
この廃棄されるスラリー廃液の成分含有比は、SiC45〜60%、クーラント30〜40%、シリコン屑10〜20%、鉄屑5〜15%であり、その多くは、再使用が可能なSiCとクーラントである。廃棄されたスラリー廃液の一部については、遠心分離により、SiCとクーラントの延命が行われているものの、スラリーの廃棄量は、膨大である。
【0007】
この廃棄されたスラリー廃液には、シリコン屑の他に、鉄屑や、再使用が可能なクーラント及び砥粒が含まれているため、廃棄されたスラリー廃液から、それらを分離回収するために、従来、様々な手法が提案されている(特許文献1〜6参照)。また、近年、半導体や太陽電池の需要の大幅な増加に対して、廃棄されたスラリー廃液の有価物の効率的な分離プロセスの開発が種々試みられている。
【0008】
例えば、先行文献には、油系スラリー廃液を、灯油等の抽出剤で希釈し、比重差で沈殿、分離して砥粒(SiC)を回収する方法が開示されている(特許文献7参照)。また、他の先行文献には、フィルタープレス等により分離したスラリー廃液に、アルキルスルホン酸ナトリウム等の捕集剤と起泡剤を配合して、微細気泡を上昇させることによって、SiC粒子を分離する方法が開示されている(特許文献8参照)。しかし、これらの方法では、分散剤の添加が必要であり、また、スラリー廃液の有用成分を分離する際に、新たな廃棄物が発生する、という問題がある。
【0009】
また、他の先行文献には、亜臨界もしくは超臨界二酸化炭素を用いて、有機物成分を抽出分離した後、温度、圧力を下げて、二酸化炭素と有機物成分を分離し、更に、二酸化炭素を回収し、再度、亜臨界もしくは超臨界二酸化炭素を抽出剤として使用する方法が開示されている(特許文献9参照)。しかし、この種の方法では、目的抽出物質が、超臨界二酸化炭素に溶解する物質に限定される、という問題がある。
【0010】
一方、本発明者らは、先に、超臨界二酸化炭素及び/又は液体二酸化炭素を比重差分離溶媒及び/又は抽出分離溶媒として用いて、固液混合物質を、比重差及び/又は抽出分離を利用して分離する固液混合物質の分離方法及びその装置を開発している(特許文献10参照)。
【0011】
上記先行技術を開示した先行文献では、具体的方法として、比重差分離と抽出分離を同一系内で、同時に行い、固形物を水スラリーで取り出し、フィルターあるいはサイクロンでSiCを回収し、固形物分離後のCO2をスラリー廃液と混合して比重差分離を行い、CO2とスラリー廃液との混合流体の密度及び粘度を制御して高い分離効率で固液を分離する基本的方法及びその装置が提案されている。
【0012】
しかし、その後、本発明者らが更に実用化研究を進める中で、この方法では、良好な固液分離結果が得られたが、分離過程でクーラントが極小量沈降し、固形物回収槽から小量のクーラントが回収され、該方法は、スラリー廃液の分離プロセスの実用化を可能にする固液の完全分離プロセスとしては、未だ課題を有するものであった。
【0013】
このように、当技術分野においては、廃棄スラリーから再利用可能なSiCとクーラントを分離、回収する方法として、比重差分離器の下段へのクーラントの沈降が全くなく、固液の完全分離プロセスとして実用化可能であり、しかも人体及び環境に対して負荷の低い超臨界二酸化炭素を比重差分離媒体として用いた新しい有価物回収技術を確立することが強く要請されていた。
【0014】
【特許文献1】特許第3199159号公報
【特許文献2】特開平11−48146号公報
【特許文献3】特開2002−28866号公報
【特許文献4】特開2003−225700号公報
【特許文献5】特開2000−254543号公報
【特許文献6】特開平11−172237号公報
【特許文献7】特開平9−109144号公報
【特許文献8】特開2004−223321号公報
【特許文献9】特開平8−183989号公報
【特許文献10】特開2007−330964号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、スラリー廃液等の固液混合物質からその有価物を高効率に分離回収することを可能とする新しい有価物回収技術を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素を比重差分離媒体として用いて、スラリー廃液等の固液混合物質を比重差分離器の中段の固液混合物質の供給口より供給し、該供給口よりも下から上へ超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素を常に定量供給し、更に、比重差分離器から流出した流体を、上記固液混合物質の供給口に、循環流体として、循環させ、該循環の過程で上記循環流体にスラリー廃液等の固液混合物を混合して、比重差分離器の固液混合物質の供給口に供給する循環手段を用いて固液分離を連続的に行うことにより、所期の目的を達成し得ることを見出し、更に研究を重ねて、本発明を完成するに至った。
【0016】
本発明は、超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素を比重差分離媒体として用いて、クーラント等の液体成分の沈降を確実に防止することが可能で、スラリー廃液等の固液混合物質から、その有価物を高い分離効率で分離回収することを可能とする新しい固液混合物質の完全分離方法を提供することを目的とするものである。また、本発明は、超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素を比重差分離媒体として用いて、スラリー廃液等の固液混合物質を、固液分離器内で固液分離する固液分離方法であって、従来法のように、固形物回収槽にクーラントが沈降することがなく、スラリー廃液の分離プロセスの実用化を可能とする、比重差分離による固液の完全分離プロセスを構築し、提供することを目的とするものである。更に、本発明は、比重差分離工程と界面活性剤洗浄工程の組み合わせにより、スラリー廃液から、高い分離効率で有価物を回収することを可能とする新しい固液混合物質の分離方法及びその装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段より構成される。
(1)超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素を比重差分離溶媒として用いる固液混合物質の比重差分離方法において、比重差分離器の中段の供給口から固液混合物質を供給し、該比重差分離器の上段から固液混合物質中の液体と二酸化炭素を流出させ、固形物を下に沈降させて回収し、比重差分離器の中段の固液混合物質の供給口よりも下から上へ超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素を定量供給し、上記比重差分離器から流出した流体を、循環流体として、上記固液混合物質の供給口に循環させ、この循環流体に固液混合物質を混合し、比重差分離器に供給することにより連続的に固液分離することを特徴とする固液混合物質の比重差分離方法。
(2)上記固液混合物質が、シリコンウェハー製造工程で発生するスラリー廃液、又は研磨・切削スラリー廃液である、前記(1)に記載の比重差分離方法。
(3)固液混合物質の供給口よりも下から上へ供給する超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素の密度を、温度及び/又は圧力を変えることにより制御し、該密度が、固液混合物質中の液体の密度、及び固液混合物質中の液体と二酸化炭素の混合流体の密度以上となるようにして、固液混合物質中の液体の上記固液混合物質の供給口よりも下への沈降を防止する、前記(1)又は(2)に記載の比重差分離方法。
(4)超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素の密度を、温度及び/又は圧力を変えることにより制御する際に、比重差分離器の固液混合物質の供給口よりも上部では、固液混合物質の固形物の所定の終末速度を得るために下部よりも高温で制御して比重差分離溶媒の密度を小さくし、下部では、上部よりも低温で制御して、比重差分離溶媒の密度を、固液混合物質の液体の密度、及び固液混合物質の液体と二酸化炭素の混合流体の密度以上となるようにして、固液混合物質中の液体の上記固液混合物質の供給口よりも下への沈降を防止する、前記(3)に記載の比重差分離方法。
(5)比重差分離器から流出した固液混合物質中の液体と二酸化炭素を、気液分離器で分離し、分離した二酸化炭素を凝縮し、該二酸化炭素を、固液混合物質の供給口よりも下から上へ供給する超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素として循環利用する、前記(1)に記載の比重差分離方法。
(6)比重差分離器の上段の排出口からフィルターを介して流出した流体を、循環流体として、比重差分離器の固液混合物質の供給口に循環させる、前記(1)から(4)のいずれかに記載の比重差分離方法。
(7)比重差分離器の上段から流出した流体を、循環流体として、比重差分離器の固液混合物質の供給口に循環させ、この循環流体に固液混合物質を混合する工程において、上記循環流体と固液混合物質をミキサーで混合する、前記(1)から(6)のいずれかに記載の比重差分離方法。
(8)上記循環流体と固液混合物質を乱流混合型のミキサーで混合する、前記(7)に記載の比重差分離方法。
(9)比重差分離器の上段から流出した流体を、循環流体として、比重差分離器の固液混合物質の供給口に循環させ、この循環流体に固液混合物質を混合する工程において、循環流体の温度、圧力、及び/又は流速を制御し、循環流体と固液混合物質の混合を確保しつつ、比重差分離器内の二酸化炭素及び固液混合物質中の液体と二酸化炭素の混合流体の流速が、固形物の所定の終末速度以下になるように制御する、前記(1)から(8)のいずれかに記載の比重差分離方法。
(10)超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素を比重差分離溶媒として用いて、比重差分離器の中段から固液混合物質を供給し、該比重差分離器の上段から固液混合物質中の液体と二酸化炭素を流出させ、固形物を下に沈降させて回収して、固液混合物質を連続的に固液分離する固液混合物質の比重差分離装置であって、比重差分離器の固液混合物質の供給口よりも下の位置に、下から上へ超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素を定量供給する供給手段を有し、比重差分離器から流出した流体を、循環流体として、上記固液混合物質の供給口に循環する手段、及びこの循環流体に固液混合物質を混合して、比重差分離器に供給する手段を具備していることを特徴とする固液混合物質の連続比重差分離装置。
(11)比重差分離器の上段から流出した固液混合物質中の液体と二酸化炭素を分離する気液分離器を有し、分離した二酸化炭素を凝縮する手段、該二酸化炭素を比重差分離器に再供給して利用する手段を具備した、前記(10)に記載の連続比重差分離装置。
(12)比重差分離型の固液混合物質の供給口よりも下から上へ供給する超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素の密度を、温度及び/又は圧力を変えることにより調整する手段を有する、前記(10)に記載の連続比重差分離装置。
(13)比重差分離器の固液混合物質の供給口よりも上部と下部を異なる温度に制御する手段を有する、前記(10)に記載の連続比重差分離装置。
(14)比重差分離器から流出した流体を、循環流体として、比重差分離器の固液混合物質の供給口に循環させ、この循環流体に固液混合物質を混合する装置において、循環流体と固液混合物質を混合するミキサー手段を有する、前記(10)から(13)のいずれかに記載の連続比重差分離装置。
(15)循環流体と固液混合物質を混合するミキサー手段が、乱流混合型のミキサーである、前記(14)に記載の連続比重差分離装置。
【0018】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素を比重差分離溶媒として用いる固液混合物質の比重差分離方法において、縦長の比重差分離器の中段の供給口から固液混合物質を供給し、該比重差分離器の上段から固液混合物質中の液体と二酸化炭素を流出させ、固形物を下に沈降させて回収し、比重差分離器の中段の固液混合物質の供給口よりも下から上へ超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素を常に定量供給し、上記比重差分離器から流出した流体を、循環流体として、上記固液混合物質の供給口に循環させ、この循環流体に固液混合物質を供給し、比重差分離器に供給することにより連続的に固液分離することを特徴とするものである。
【0019】
また、本発明は、超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素を比重差分離溶媒として用いて、縦長の比重差分離器の中段から固液混合物質を供給し、該比重差分離器の上段から固液混合物質中の液体と二酸化炭素を流出させ、固形物を下に沈降させて回収して固液混合物質を連続的に固液分離する固液混合物質の比重差分離装置であって、比重差分離器の固液混合物質の供給口よりも下の位置に、下から上へ超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素を定量供給する供給手段を有し、比重差分離器から流出した流体を、循環流体として、上記固液混合物質の供給口に循環する手段、及びこの循環流体に固液混合物質を混合して、比重差分離器に供給する手段を具備していることを特徴とするものである。
【0020】
本発明では、例えば、縦長の円筒状の比重差分離器が好適に用いられるが、その具体的な形態は、適宜設計することができる。本発明においては、比重差分離溶媒として、温度31.17℃以上で圧力7.386MPa以上の超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素が用いられる。超臨界流体の密度は、液体に近く、拡散係数は液体に比べて著しく高く、無極性、弱極性油脂を溶解する作用を有し、その密度及びその溶解力は、温度及び/又は圧力を変えることで変化する。また、二酸化炭素は、圧力条件のみで気化、除去及び液化による再利用が可能であり、本発明では、上記二酸化炭素を比重差分離溶媒として用いることで、本発明の比重差分離プロセスの構築を可能としている。
【0021】
本発明では、上記固液混合物質として、例えば、一般的な研磨・切削スラリー廃液、シリコンウェハー製造過程で発生するシリコンスラリー廃液等のスラリー廃液が例示される。これらのスラリー廃液中には、研削剤、研磨剤等として使用される、砥粒、クーラント等が含まれている。
【0022】
砥粒としては、例えば、微粒アルミナ、コロイダルシリカ、炭化ケイ素、酸化セリウム、酸化ケイ素、ボロンカーバイト、ボロンナイトライド、酸化ジルコニウム、微粒ダイヤモンド、微粒サファイヤ等が例示される。クーラントとしては、例えば、鉱物油等の油系クーラント、ポリ水溶性グリコール類、アミン類等の水系クーラント、及び潤滑剤等が例示される。また、クーラントには、界面活性剤、水、及び溶剤等が含まれている場合があるが、本発明は、これらを含むクーラントも本発明の対象とされる。
【0023】
一般に、研削剤、研磨剤については、通常、上記砥粒は、クーラント、潤滑剤に分散されて存在している。それらのスラリー廃液には、上記砥粒、シリコン等の切粉、研磨屑、ワイヤソーに由来する鉄屑、砕けた砥粒のかけら等の固形分が含まれている。本発明は、上記スラリー廃液に限らず、それらと同等ないし類似の性状及び組成を有するあらゆる種類の固液混合物質の分離手段として適用可能である。
【0024】
しかし、本発明では、本発明についての説明を簡便かつ容易にするために、スラリー廃液の場合を例として説明する。スラリー廃液の組成として、例えば、シリコンウェハー製造工程で発生するスラリー廃液の場合、該スラリー廃液は、一般的には、SiC砥粒が48〜55w%、クーラントが30〜35wt%、シリコン屑が9〜10%、その他として、鉄屑、の割合からなる。
【0025】
超臨界二酸化炭素及び/又は液体二酸化炭素を比重差分離溶媒として用いて、固液混合物質を固液分離する場合、固液混合物質を、超臨界二酸化炭素及び/又は液体二酸化炭素を比重差分離器の中段に位置させた固液混合物質の供給口から供給し、比重差を利用して、固液分離を行い、比重差分離器の上段から油系成分を排出し、比重差分離器の下に固形物質を沈降、分離させる。例えば、クーラントとして、鉱物油を用いたシリコンスラリー廃液の場合、比重差分離器の上段からクーラントが流出、分離し、下に固形物が沈降、分離する。
【0026】
この沈降、分離した固形物を外部へ排出した後、例えば、界面活性剤を含有する水溶液を、回収した固形物に添加、混合、静置することにより、上澄みとして、シリコン切粉及び鉄屑が、また、沈殿として、SiCが分離する。必要に応じて、混合時に超音波を照射すること、上澄み部に磁石を入れること等により、鉄屑を効率的に回収することができる。上記の操作を繰り返し行なうことで、SiCが精製されて、砥粒として、再使用が可能な状態とすることができる。
【0027】
本発明では、上記比重差分離において、比重差分離溶媒である超臨界二酸化炭素及び/又は液体二酸化炭素の温度及び/又は圧力を変えて、その密度を変化させること及び/又は比重差分離溶媒の流速を調節することで、固液の分離効率を高めることができる。本発明では、本発明の上記基本構成に加え、比重差分離溶媒の圧力、温度、及び/又は流速の条件が、本発明の固液分離混合物質の固液分離操作を行う上で重要な基本ファクターとして位置づけられる。
【0028】
例えば、固液混合物質を構成する液体成分(低密度ρL)と固体成分(高密度ρH)を分離する場合、これらの密度と比重差分離溶媒の密度ρCO2は、ρL<ρCO2<ρHの関係にあることが必要である。本発明では、比重差分離溶媒の密度を調節することにより、高い分離効率を達成することができる。例えば、シリコンスラリー廃液であって、液体成分であるクーラントの密度が約800kg/m3で、固体主成分であるSiCの密度が約3000kg/m3である場合、比重差分離溶媒の密度は、800kg/m3以上3000kg/m3以下であることが求められる。
【0029】
分離溶媒の密度が800kg/m3以上であれば、クーラントを上部に分離することが可能となり、3000kg/m3以下であれば、SiCを下部に分離することができる。ただし、二酸化炭素の密度は、3000kg/m3を越えることはないので、実質上は、800kg/m3以上であればよいことになる(固体二酸化炭素ドライアイスでも、1500kg/m3程度)。
【0030】
この条件は、例えば、飽和の液体二酸化炭素の場合、飽和温度17℃(その時の飽和圧力5.3MPa)以下で達成され、また、加圧液体二酸化炭素又は超臨界二酸化炭素の場合、20MPaの時、47℃以下、30MPaの時、67℃以下で達成される。
【0031】
一方、固体粒子の沈降性は、一般に、ストークス式:(ρ1−ρ2)g・d2/18μから計算される限界流速(=終末速度)で評価され、この数値より小さな分離溶媒の上昇速度となるように流速が決定される。例えば、SiCの粒径を10μmと仮定し、分離溶媒として、40℃・20MPaの超臨界二酸化炭素(密度840kg/m3)を用いる場合、限界流速、すなわち終末速度は5.4m/hと計算されるので、超臨界二酸化炭素の上昇速度は、これより十分に小さい数値となるように流速を調節することが好ましい。
【0032】
また、水系スラリーの場合には、液体成分は水であり、密度は、1000kg/m3であるので、比重差分離溶媒の密度は、それ以上大きな数値が求められる。この条件は、飽和の液体二酸化炭素の場合、飽和温度−14℃(その時の飽和圧力:2.4MPa)以下で達成され、また、加圧液体二酸化炭素の場合、20MPaの時、5℃以下、30MPaの時、15℃以下で達成され、更に、超臨界二酸化炭素の場合、50MPaの時、36℃以下で達成される。
【0033】
本発明の固液分離操作により、低温度の状態で、脱水、乾燥が可能となり、いずれにしても、固液分離操作が終了した段階で、溶媒、液体成分及び固形物質のうち、再利用が可能な有価物を分離、回収し、再使用することが可能となる。本発明では、比重差分離器の中段の固液混合物質の供給口よりも下から上へ供給する超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素の密度を、温度及び/又は圧力を変えることにより制御して、該密度を、固液混合物質中の液体密度、及び固液混合物質中の液体と二酸化炭素の混合流体の密度以上にすることにより、固液混合物質中の液体成分の沈降を防止することが可能となる。
【0034】
本発明では、比重差分離器の中段の固液混合物質の供給口よりも上と下を、異なる温度に調整し、比重差分離溶媒の密度を制御して、上部では、固液混合物質の固形物の所定の終末速度を得るために、下部よりも高温で制御して、比重差分離溶媒の密度を小さくし、下部では、上部よりも低温で制御して、比重差分離溶媒の密度を、固液混合物質の液体密度、及び固液混合物質の液体と二酸化炭素の混合流体の密度以上になるようにして、固液混合物質の液体成分の沈降を防止することが好適である。
【0035】
また、本発明では、比重差分離器の上段から流出した固液混合物質中の液体と二酸化炭素を、気液分離器で分離し、分離した二酸化炭素を凝縮し、これを、固液混合物質の供給口よりも下から上へ供給する超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素として、循環利用することができる。また、本発明では、比重差分離器の上段の排出口にフィルターを設置し、フィルターから流出した流体を、循環流体として、循環・混合ラインを経由して、比重差分離器の中段の固液混合物質の供給口に循環させ、その過程で、この循環流体に固液混合物質を混合し、比重差分離器の固液混合物質の供給口に供給することで、固液混合物質の分離操作を行うことができる。
【0036】
本発明の方法では、比重差分離器の上段から流出した流体を、循環流体として、比重差分離器の中段の固液混合物質の供給口に循環させ、この循環流体に固液混合物質を供給する工程において、循環流体と固液混合物質をミキサーで混合した後、比重差分離器に供給すること、また、循環流体と固液混合物質をミキサーで混合する工程において、乱流混合型のミキサーを使用して混合すること、が好ましい。
【0037】
また、本発明の方法では、比重差分離器の上段から流出した流体を、比重差分離器の中段の固液混合物質の供給口に循環させ、この循環流体に固液混合物質を供給する工程において、循環流体の温度、圧力、及び/又は流速を制御し、循環流体と固液混合物質の混合状態を良好に確保しつつ、比重差分離器内の二酸化炭素の流速が、固形物の所定の終末速度以下になるように制御することにより、固液混合物質を分離することが好ましい。
【0038】
また、本発明の装置では、比重差分離器の上段から流出した固液混合物質中の液体と二酸化炭素を分離する気液分離器を有し、分離した二酸化炭素を凝縮する手段、該二酸化炭素を比重差分離器の下段に再供給する手段を具備したこと、固液混合物質の供給口よりも下から上へ供給する超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素の密度を、温度及び/又は圧力を変えることにより制御する手段を有すること、比重差分離器の中段の固液混合物質の供給口より上と下を異なる温度に制御する手段を有すること、が好適である。
【0039】
ここで、本発明を開発した経緯について説明すると、本発明者らは、先に、先行技術として、図1に示す実験装置を用いて、スラリーの固液分離を行う固液分離方法を開発した。該方法では、図2に示されるように、良好な固液分離結果が得られたが、少量のクーラント(6.4%)が、固形物回収槽から回収され、検証により、固形物回収槽に沈降するクーラントは、スラリー廃液の供給時に沈降していることが判明した。そこで、本発明者らは、クーラントの沈降を阻止し、固液完全分離を実施可能にするため、分離プロセスの改善及び分離条件の検討を行って、新しい分離プロセス、特定の分離条件を定めることで、固液の完全分離を可能とする新しい固液分離プロセスを構築することに成功した。
【0040】
本発明の固液分離方法として構築した新しい分離プロセスと、固液分離の結果を、図3、4に示す。本発明の固液分離プロセスでは、1)スラリー供給口よりも下から常にCO2を定量供給すること、2)比重差分離器の排出口とスラリー廃液の供給口の間に循環・混合ラインを設け、比重差分離器から流出した流体を、循環流体として、循環させ、この循環流体にスラリー廃液を混合して供給すること、を基本構成としている。分離条件としては、スラリー廃液の供給口よりも下から上へ供給するCO2の密度と、クーラントの密度、及びクーラント+CO2の混合流体の密度の関係を、(クーラント密度)<(CO2密度)、(クーラント+CO2の混合流体の密度)<(CO2密度)、に設定することを基本構成としている。
【0041】
図4に示される固液分離の結果から分かるように、本発明の固液分離プロセスでは、クーラントは、固形物回収槽から回収されないこと(回収率:0.0%)、すなわち、比重差分離器の下段におけるクーラントの沈降を完全に阻止できること、が判明した。これにより、本発明は、スラリー廃液を比重差分離により該スラリー廃液を構成する物質ごとに分離するプロセスとして、例えば、スラリー廃液に大量に含まれるSiCとクーラントを再利用することを可能とする固液の完全分離プロセスを確立できることが実証された。
【0042】
上記先行技術において、固形物回収槽にクーラントが沈降した原因について、本発明者らが検証した結果、固形物回収槽の上部に、クーラントを含有した固形物が存在するのは、スラリー廃液の供給中に、クーラントとCO2の混合流体からなる混合層が徐々に沈降し、固形物回収槽の固形物に接触し、その結果、固形物回収槽の上部の固形物にクーラントが残留したことによるものと考察された。
【0043】
本発明において、比重差分離器に供給された固形物の終末速度とCO2の上昇速度の関係は、CO2の上昇速度<固形物の終末速度、であること、また、比重差分離器に供給されたクーラントの密度とCO2の密度の関係は、クーラント+CO2の混合流体の密度<CO2密度、であること、が、本発明の固液分離プロセスの基本原理として重要である。CO2の密度が、クーラントの密度よりより小さい場合は、固形物回収槽にクーラントが沈降する。一方、CO2の密度が大きすぎる場合は、CO2とスラリー廃液の混合状態が良くなくなり、スラリー廃液を効果的に分散できないことになる。
【0044】
本発明の装置については、本発明では、分離溶媒と液体成分を分離する適宜の蒸発手段により、分離溶媒を気体として回収し、冷却、凝縮手段を介して、液体二酸化炭素として再循環させるための、分離溶媒の循環手段を適宜設置することが可能である。また、比重差分離器の下部に回収された固形物質を連続的に排出する手段を設置することもできる。この連続的な排出により、比重差分離器内に固形物質を貯蔵が必要なくなるので、比重差分離器の小型化が可能である。本発明では、本発明の装置を構成する各手段の具体的な構成については、特に制限されるものではなく、固液混合物質の種類、装置の使用目的等に応じて任意に設計することができる。
【0045】
更に、本発明では、固液混合物質と超臨界二酸化炭素及び/又は液体二酸化炭素を混合すること、混合後の流体の密度及び粘性を制御して、その密度及び粘性を適宜調整すること、が可能であり、また、固液混合物質と超臨界二酸化炭素及び/又は液体二酸化炭素を予め混合し、その混合物を、流体の密度及び粘性を制御しながら、比重差分離に適宜供給することが可能である。
【0046】
従来、シリコンウェハー製造工程で発生するスラリー廃液中に大量に含まれている使用可能なSiCやクーラントを回収し、再利用する方法が種々提案されている。しかし、何れの方法も、大量の有機溶剤、強酸・強アルカリ、希アルカリ水溶液、界面活性剤等を用いたり、超音波照射等の特別な処理を併用する必要があり、また、新たにそれらの廃液の処理工程が必要となり、実際には、スラリー廃液等からの有価物の回収はほとんど行われていないのが実情であった。
【0047】
また、既存の有機溶剤による抽出法に代わる方法として、抽出溶媒として、超臨界二酸化炭素を用いて、スラリー廃液中の固液分離、及び有価物を回収する方法も提案されているが、抽出操作だけで高い分離効率を達成するには、大量の抽出溶媒が必要となり、装置の小型化、抽出効率や有価物の回収率の向上等には大きな制約があった。また、従来の比重差分離方法では、遠心分離機等を使用していたが、この種の方法では、分離効率が悪く、完全な固液分離ができないこと、また、分離効率を良くするために、希釈溶媒の添加等が行われるため、分離操作後に、希釈溶媒を目的物質から分離することや、希釈溶媒の後処理が必要になること、等の問題があった。
【0048】
これに対し、本発明では、比重差分離溶媒に、常温、常圧で気体となる二酸化炭素を使用するため、分離後の物質に溶媒は残留しない上に、後処理の必要がない。また、本発明は、超臨界二酸化炭素及び/又は液体二酸化炭素を比重差分離溶媒として用いて、固液混合物質を完全に固液分離することを可能とするものである。特に、超臨界二酸化炭素は、温度、圧力を変えることで簡便かつ容易に密度を変化させられる上に、従来の比重差分離で使用していた分離溶媒の水やアルコール、有機溶媒等より、圧倒的に粘度が低いため、これらの溶媒に比べ、極少量の添加量で高い分離効率が得られる。
【0049】
本発明は、超臨界二酸化炭素及び/又は液体二酸化炭素を比重差分離溶媒として用いることにより、溶媒の使用量の大幅な低減及び装置の小型化と、有価物の分離効率の向上を同時に達成することを可能とするものである。本発明は、固液混合物中の有価物を、超臨界二酸化炭素及び/又は液体二酸化炭素を、比重差分離溶媒として用いて、比重差分離するための高効率分離方法及びその装置を提供するものとして有用である。
【発明の効果】
【0050】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)超臨界二酸化炭素及び/又は液体二酸化炭素を、比重差分離溶媒として用いることで、固液混合物質中の液体成分の比重差分離器の下段への沈降がなく、完全に固液分離ができる。
(2)スラリー廃液から比重差分離による固液分離により、再利用可能な有価成分を高効率で分離回収することができる。
(3)本発明により、例えば、シリコンスラリー廃液のリサイクルプロセスを構築することができる。
(4)本発明の方法及び装置により、従来のSC−CO2抽出による固液分離法と比べて、高い効率で有価成分を分離回収することができる。
(5)比重差分離溶媒として、常温、常圧で気体となる二酸化炭素を使用しているので、分離後の物質に溶媒が残留することがなく、後処理の必要もない、という利点が得られる。
(6)超臨界二酸化炭素の密度を、温度及び/又は圧力を変えることで簡便かつ容易に変化させることが可能であり、それにより、被処理物質の密度に対応して、比重差分離の条件を任意に設定することができる。
(7)比重差分離溶媒である超臨界二酸化炭素は、水や有機溶媒等と比べて、粘度がきわめて低いため、従来法と比べて、極少量の溶媒添加量で格段に高い分離効率が得られる。
(8)比重差分離溶媒である二酸化炭素の温度及び/又は圧力を変え、その密度及び粘性を変化させることで、被処理固液混合物質に合わせた分離プロセスの構築及び分離条件の設定を任意にすることができる。
(9)低温(35℃程度)操作が可能であるため、被処理物質を熱変性することなく分離することが可能である。
(10)比重差分離溶媒に二酸化炭素を使用しているので、環境及び人体に対して無害である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0052】
本実施例では、固液混合物質として、シリコンインゴットのスライス工程で発生するスラリー廃液を用いて、固液分離を行った。図5に、本発明で構築し、本実施例で実験を試みたスラリー廃液の分離プロセスを示す。図に示されるように、本分離プロセスは、固液分離工程と、SiC回収工程から構成される。
【0053】
固液分離工程では、超臨界二酸化炭素(SC−CO2)を比重差分離溶媒として用いたSC−CO2比重差分離による分離方法を行い、クーラントを回収し、SiC回収工程では、界面活性剤洗浄による洗浄方法を行い、SiCを回収する。本実施例では、本発明の環境負荷の低い有価物回収プロセスを、これらの二工程を組み合わせることにより実施した。
【0054】
スラリー廃液の種類については、本実施例では、水系のスラリー廃液と比べて、分離が困難とされている油系のスラリー廃液をターゲットとして、固液分離操作を行った。図6に、本実施例で用いたスラリー廃液の写真を示す。該スラリー廃液に含まれる固形物は、密度が大きいものの、クーラントが高粘性であるため、終末速度が小さく、クーラント中に保持され、固液が混濁していることが分かる。本実施例では、このスラリー廃液に含まれるクーラントに、低粘性溶媒である超臨界二酸化炭素を溶解させたクーラントを低粘性化し、固形物(SiC、シリコン屑、鉄屑)と、クーラントを比重差分離により分離することを試みた。
【0055】
通常、スラリー廃液中の砥粒(SiC)は45〜60wt%、クーラント(鉱油)は30〜40wt%、Si屑は15〜10wt%、Fe屑は15〜5wt%である。本実施例においては、スラリー廃液は、総供給量:560gの条件、クーラントは、供給量:165g、密度:810kg/m3、粘度:55cpの条件、固形物(SiC、シリコン屑、鉄屑)は、供給量:395g、密度:2550kg/m3の条件として、実験を行った。図7に、各実験条件におけるSC−CO2の密度、粘度を示す。
【0056】
(実験装置)
本実施例では、上述の図3に示した実験装置と同様の装置を用いて実験を実施した。この実験装置は、縦長で円筒状の比重差分離器(内径50mm、高さ1000mm、容量1963ml、SUS316製)を中心に、供給系及び排出系と、循環・混合ラインを配設した構成を有している。これらの構成のうち、スラリー廃液の供給系は、スラリー貯槽から、スラリーポンプを介して、比重差分離器の中段に至る配管ラインが配設され、また、排出系は、比重差分離器の上段から、高圧フィルター、背圧弁及び気液分離器に至る配管ラインが配設されている。
【0057】
循環・混合ラインは、比重差分離器の上段から、高圧フィルター、環境ポンプ、及びスラリー廃液が供給、混合される配管を経て、比重差分離器の中段の固液混合物質の供給口に至る配管ラインが配設されている。上記循環・供給ラインには、P−2ポンプ、V−4バルブ及びV−3バルブが設置されている。
【0058】
また、二酸化炭素の供給系は、分離溶媒として用いる二酸化炭素が収容された液化炭酸ガスボンベから、予冷却器、予備加熱器を介して、比重差分離器の下段に至る配管ラインが配設されている。更に、比重差分離器の側面には、加熱又は温度調整のために、上半分に温水循環手段が設置され、下半分にヒーターが設置され、気液分離器には、回収したクーラントの貯槽及びクーラントの量を計測するはかりが設置されている。
【0059】
(実験方法)
スラリー廃液を、スラリー貯槽から、スラリーポンプを介して、高圧の循環・混合ラインに供給し、その高圧配管内で超臨界二酸化炭素(SC−CO2)と混合した後、比重差分離器の中段に位置する固液混合物質の供給口に供給した。比重差分離器内におけるSC−CO2の上昇流速を、スラリー廃液に含まれる固形物の終末速度以下とすることで、固形物は、比重差分離器の下の固形物回収槽に沈降し、クーラントは、SC−CO2に同伴し、背圧弁を経て、気液分離器で回収した。
【0060】
実験条件として、温度を35℃一定とし、圧力を10、15、29MPaの条件として、分離特性の圧力依存性を調べた。また、SC−CO2は、比重差分離器のスラリー廃液の供給口よりも下から上に常に定量供給した。実験は、始めに、V−1及びV−2の両方のバルブを開け、P−1及びP−2の両方のポンプを使用し、比重差分離器の最下部に配設した供給口から、SC−CO2を供給し、実験圧力まで昇圧し、同時に、予備加熱器、ヒーター及び温水で、実験温度まで加熱を行った。
【0061】
実験条件に到達した後、P−1ポンプのSC−CO2流量を5g/minとし、P−2ポンプを一旦停止した。次いで、V−1及びV−2のバルブを閉め、V−3及びV−4のバルブを開けた後、P−2ポンプの流量を12g/minとし、循環・混合ラインを運転した。
【0062】
次いで、流量5g/minに調節されたスラリー廃液の供給を開始し、スラリー廃液とSC−CO2を混合した後、比重差分離器の中段の固液混合物質の供給口へ供給した。スラリー廃液を、循環・混合ラインに供給することで、二酸化炭素溶媒、及び二酸化炭素溶媒+クーラント(混合流体)と混合して、クーラントを低粘度化した。スラリー廃液の供給時間は、1.8hrとし、総供給量は、560gとした時点で、スラリー廃液の供給を終了した。図8に、Case1、2の実験条件と固形物回収槽、高圧フィルター、気液分離器の各ポイントで回収した固形物及びクーラントのマスバランスの評価を示した。各ポイントのマスバランスは、各成分の回収率×100/各成分の総供給量、とした。
【0063】
上記連続運転による操作で、スラリー廃液の連続供給実験は終了したが、ここで、循環・混合ラインに供給したスラリー廃液の全ての成分を回収する後処理工程を実施するために、スラリー廃液の供給終了後、P−2ポンプを一旦停止し、再度、V−3及びV−4のバルブと、V−1及びV−2のバルブを切り替え、P−1及びP−2の両方のポンプを使用して、比重差分離器の最下部の供給口から、SC−CO2を1.5hr供給し、比重差分離器内の流体の抽出操作を行った。続いて、SC−CO2の供給を止め、減圧操作をした後、固形物回収槽及び気液分離器でそれぞれ回収した固形物及びクーラントのマスバランスを評価した。
【0064】
(実験結果)
表1に、各実験(Case1〜3)における圧力、温度と、SC−CO2の密度、粘度及び最大上昇流速、SiCの終末速度、SC−CO2とスラリー廃液混合直後の混合部のレイノルズ数、を示す。
【0065】
【表1】
【0066】
また、表2に、固形物回収槽における固形物回収率、クーラント沈降率、気液分離器におけるクーラント回収率、を示す。また、図9に、Case3の実験条件と、固形物回収槽、高圧フィルター、気液分離器の各ポイントで回収した固形物及びクーラントのマスバランスの評価を示す。各ポイントのマスバランスは、各成分の回収率×100/各成分の総供給量、とした。
【0067】
【表2】
【0068】
最も良好な結果が得られたのは、15MPa(CO2密度:815kg/m3)の条件の場合であり、該条件では、固液の完全分離ができることが分かった。10MPa(CO2密度:713kg/m3)及び29MPa(CO2密度:924kg/m3)の条件の場合でも、良好な分離結果が得られたが、固形物とともに、僅かなクーラントが回収され、クーラントの固液回収槽への沈降が起こることが分かった。
【0069】
これは、29MPaの条件では、15MPaの条件に比べて、混合部のレイノルズ数が小さく、SC−CO2とスラリー廃液との混合が不十分であったこと、SC−CO2の流速に対して、固形物の終末速度が十分に得られなかったこと、が原因であると考えられる。10MPaの条件では、CO2密度よりも、クーラント密度が大きいために、クーラントが沈降したものと考えられる。
【0070】
クーラントは、二酸化炭素とともに、比重差分離器の上段から排出系を経て、気液分離装置で回収されるが、クーラントが固形物回収槽に沈降しないようにするためには、比重差分離器のスラリー廃液の供給口よりも下から上にSC−CO2を常に定量供給すること、また、下から上に供給するCO2の密度が、クーラントの密度より大きいこと、固液分離器内の圧力は、35℃では15MPa程度であること、が重要であることが判明した。
【実施例2】
【0071】
(実験方法)
本実施例では、実施例1と同じ実験装置を用いて、比重差分離器の中段のスラリー廃液の供給口の上部と下部で、比重差分離器内の温度条件を変えて、スラリー廃液の固液分離を行った。スラリー廃液としては、実施例1と同じものを用いた。
【0072】
実施例1の結果に基づいて、SC−CO2とスラリー廃液との混合流体の混合部でのレイノルズ数を大きくするために、比重差分離器へのSC−CO2の供給圧力は、10MPaとし、比重差分離器の下部のヒーターによる加熱部分を25℃とし、比重差分離器の上部を35℃とする実験条件を設定した。これらの条件以外は、実施例1と同様とした。
【0073】
(実験結果)
表3に、固形物回収槽及び気液分離器における固形物回収率とクーラント回収率を示す。35℃では、10MPaより高圧で29MPaより低圧の条件であり、15MPa程度が好ましいこと、が分かった。また、温度条件を変えれば、圧力条件も変わるが、例えば、低圧(10MPa)で操作するには、クーラントの沈降を抑制するために、比重差分離器の下部のみを低温(35℃以下)として、クーラント密度≦CO2密度、とすることも有効であることが分かった。
【0074】
【表3】
【0075】
低圧(10MPa)であっても、比重差分離器の上部を35℃として、下部を低温(25℃以下)として、温度条件を変えたことにより、比重差分離器の全域が35℃の場合よりも、固形物回収槽へのクーラントの沈降を抑制できることが分かった。
【実施例3】
【0076】
(SiCの回収)
本実施例では、固形物回収槽に回収された固形物から、SiCを回収した。実験では、1%ノニオン界面活性剤水溶液に固形物を投入した後、超音波を約5分照射した。固形物が液中に十分分散した状態で、約5分静置させるとともに、液面に磁石を接触させ、Fe屑を回収した。静置後、界面活性剤水溶液とSi屑の混濁液を排出し、沈澱したSiCを回収した。SiCの純度を高めるため、沈澱したSiCに、再度、界面活性剤を投入し、洗浄、混濁液の排出を、繰り返し3回行った。図10に、SiC回収工程、回収SiCの写真及びSEM像を示す。
【0077】
(実験結果)
回収SiCの粒度分布を図11に示す。回収SiCの平均粒子径は、10μmで、シャープな分布を有しており、表面を露出した再利用可能なSiCが回収された。図12に、シリコン切断スラリー廃液からの有価物回収の分離プロセスの全貌を示す。
【0078】
以上の本発明の実施例の実験結果から、SC−CO2を比重差分離器の最下部の供給口から定量供給しつつ、固液分離後の流体を循環させ、上記循環・混合ラインを経て、比重差分離器の中段の固液混合物質の供給口に供給して、比重差分離を利用して、スラリー廃液の固液分離操作を連続的に行うことにより、クーラントの沈降を抑制して、固液分離を行うことが可能であることが判明した。これらは、本発明の分離プロセスを採用することにより、クーラントの沈降がなく、クーラント、SiCの回収率が極めて高く、回収したSiCも、平均粒子径が10μmで、シャープな分布を有し、再利用可能な回収SiCとして有用であることを実証するものである。
【0079】
本実施例の結果を総合すると、乱流混合型のミキサーを使用する場合は、ミキシングの観点から、混合部のレイノルズ数を大きくするために、同じ温度条件では低圧が有効であり、固形物分離の観点から、固形物の終末速度とSC−CO2上昇流速の差を大きくするためには、同じ温度条件では低圧が有効である。しかし、クーラント分離の観点から、クーラントが固形物回収槽に沈降しないようにするためには、クーラントの密度以上の二酸化炭素の密度が必要であり、これらの条件をバランスさせることが重要であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
以上詳述したように、本発明は、超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素を分離溶媒として用いた比重差分離による固液混合物質の固液分離方法及びその装置に係るものであり、本発明により、超臨界二酸化炭素及び/又は液体二酸化炭素を、比重差分離溶媒として用いることで、固液混合物質中の液体成分が比重差分離器の下段への沈降がなく、完全に固液分離ができる。本発明の方法及び装置により、従来のSC−CO2抽出による固液分離法と比べて、高い効率で有価成分を分離回収することができる。本発明は、例えば、シリコンウェハー製造工程で発生するスラリー廃液等の完全固液分離プロセスを構築して、該スラリー廃液等の固液混合物を完全に固液分離してその有価物を高効率で回収することを可能とする新しい固液混合物の固液分離技術を提供するものとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】先行技術の実験装置を示す。
【図2】SiC回収槽、高圧フィルター、気液分離器の各ポイントでの回収物質と回収率を示す。
【図3】実施例で用いた連続的固液分離装置フロー図を示す。
【図4】本発明による固液分離結果を示す。
【図5】本実施例で実験を試みたスラリー廃液の分離プロセスを示す。
【図6】クーラントの写真を示す。
【図7】実験条件と、SC−CO2の密度、粘度を示す。
【図8】Case1、2の実験結果と各ポイントでのマスバランスの評価を示す。
【図9】Case3の実験結果と各ポイントでのマスバランスの評価を示す。
【図10】SiC回収工程、回収SiCの写真、SEMを示す。
【図11】回収SiCの粒度分布を示す。
【図12】シリコン切断スラリー廃液からの有価物回収の分離プロセスの全貌を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素を比重差分離溶媒として用いる固液混合物質の比重差分離方法において、比重差分離器の中段の供給口から固液混合物質を供給し、該比重差分離器の上段から固液混合物質中の液体と二酸化炭素を流出させ、固形物を下に沈降させて回収し、比重差分離器の中段の固液混合物質の供給口よりも下から上へ超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素を定量供給し、上記比重差分離器から流出した流体を、循環流体として、上記固液混合物質の供給口に循環させ、この循環流体に固液混合物質を混合し、比重差分離器に供給することにより連続的に固液分離することを特徴とする固液混合物質の比重差分離方法。
【請求項2】
上記固液混合物質が、シリコンウェハー製造工程で発生するスラリー廃液、又は研磨・切削スラリー廃液である、請求項1に記載の比重差分離方法。
【請求項3】
固液混合物質の供給口よりも下から上へ供給する超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素の密度を、温度及び/又は圧力を変えることにより制御し、該密度が、固液混合物質中の液体の密度、及び固液混合物質中の液体と二酸化炭素の混合流体の密度以上となるようにして、固液混合物質中の液体の上記固液混合物質の供給口よりも下への沈降を防止する、請求項1又は2に記載の比重差分離方法。
【請求項4】
超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素の密度を、温度及び/又は圧力を変えることにより制御する際に、比重差分離器の固液混合物質の供給口よりも上部では、固液混合物質の固形物の所定の終末速度を得るために下部よりも高温で制御して比重差分離溶媒の密度を小さくし、下部では、上部よりも低温で制御して、比重差分離溶媒の密度を、固液混合物質の液体の密度、及び固液混合物質の液体と二酸化炭素の混合流体の密度以上となるようにして、固液混合物質中の液体の上記固液混合物質の供給口よりも下への沈降を防止する、請求項3に記載の比重差分離方法。
【請求項5】
比重差分離器から流出した固液混合物質中の液体と二酸化炭素を、気液分離器で分離し、分離した二酸化炭素を凝縮し、該二酸化炭素を、固液混合物質の供給口よりも下から上へ供給する超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素として循環利用する、請求項1に記載の比重差分離方法。
【請求項6】
比重差分離器の上段の排出口からフィルターを介して流出した流体を、循環流体として、比重差分離器の固液混合物質の供給口に循環させる、請求項1から4のいずれかに記載の比重差分離方法。
【請求項7】
比重差分離器の上段から流出した流体を、循環流体として、比重差分離器の固液混合物質の供給口に循環させ、この循環流体に固液混合物質を混合する工程において、上記循環流体と固液混合物質をミキサーで混合する、請求項1から6のいずれかに記載の比重差分離方法。
【請求項8】
上記循環流体と固液混合物質を乱流混合型のミキサーで混合する、請求項7に記載の比重差分離方法。
【請求項9】
比重差分離器の上段から流出した流体を、循環流体として、比重差分離器の固液混合物質の供給口に循環させ、この循環流体に固液混合物質を混合する工程において、循環流体の温度、圧力、及び/又は流速を制御し、循環流体と固液混合物質の混合を確保しつつ、比重差分離器内の二酸化炭素及び固液混合物質中の液体と二酸化炭素の混合流体の流速が、固形物の所定の終末速度以下になるように制御する、請求項1から8のいずれかに記載の比重差分離方法。
【請求項10】
超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素を比重差分離溶媒として用いて、比重差分離器の中段から固液混合物質を供給し、該比重差分離器の上段から固液混合物質中の液体と二酸化炭素を流出させ、固形物を下に沈降させて回収して、固液混合物質を連続的に固液分離する固液混合物質の比重差分離装置であって、比重差分離器の固液混合物質の供給口よりも下の位置に、下から上へ超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素を定量供給する供給手段を有し、比重差分離器から流出した流体を、循環流体として、上記固液混合物質の供給口に循環する手段、及びこの循環流体に固液混合物質を混合して、比重差分離器に供給する手段を具備していることを特徴とする固液混合物質の連続比重差分離装置。
【請求項11】
比重差分離器の上段から流出した固液混合物質中の液体と二酸化炭素を分離する気液分離器を有し、分離した二酸化炭素を凝縮する手段、該二酸化炭素を比重差分離器に再供給して利用する手段を具備した、請求項10に記載の連続比重差分離装置。
【請求項12】
比重差分離型の固液混合物質の供給口よりも下から上へ供給する超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素の密度を、温度及び/又は圧力を変えることにより調整する手段を有する、請求項10に記載の連続比重差分離装置。
【請求項13】
比重差分離器の固液混合物質の供給口よりも上部と下部を異なる温度に制御する手段を有する、請求項10に記載の連続比重差分離装置。
【請求項14】
比重差分離器から流出した流体を、循環流体として、比重差分離器の固液混合物質の供給口に循環させ、この循環流体に固液混合物質を混合する装置において、循環流体と固液混合物質を混合するミキサー手段を有する、請求項10から13のいずれかに記載の連続比重差分離装置。
【請求項15】
循環流体と固液混合物質を混合するミキサー手段が、乱流混合型のミキサーである、請求項14に記載の連続比重差分離装置。
【請求項1】
超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素を比重差分離溶媒として用いる固液混合物質の比重差分離方法において、比重差分離器の中段の供給口から固液混合物質を供給し、該比重差分離器の上段から固液混合物質中の液体と二酸化炭素を流出させ、固形物を下に沈降させて回収し、比重差分離器の中段の固液混合物質の供給口よりも下から上へ超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素を定量供給し、上記比重差分離器から流出した流体を、循環流体として、上記固液混合物質の供給口に循環させ、この循環流体に固液混合物質を混合し、比重差分離器に供給することにより連続的に固液分離することを特徴とする固液混合物質の比重差分離方法。
【請求項2】
上記固液混合物質が、シリコンウェハー製造工程で発生するスラリー廃液、又は研磨・切削スラリー廃液である、請求項1に記載の比重差分離方法。
【請求項3】
固液混合物質の供給口よりも下から上へ供給する超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素の密度を、温度及び/又は圧力を変えることにより制御し、該密度が、固液混合物質中の液体の密度、及び固液混合物質中の液体と二酸化炭素の混合流体の密度以上となるようにして、固液混合物質中の液体の上記固液混合物質の供給口よりも下への沈降を防止する、請求項1又は2に記載の比重差分離方法。
【請求項4】
超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素の密度を、温度及び/又は圧力を変えることにより制御する際に、比重差分離器の固液混合物質の供給口よりも上部では、固液混合物質の固形物の所定の終末速度を得るために下部よりも高温で制御して比重差分離溶媒の密度を小さくし、下部では、上部よりも低温で制御して、比重差分離溶媒の密度を、固液混合物質の液体の密度、及び固液混合物質の液体と二酸化炭素の混合流体の密度以上となるようにして、固液混合物質中の液体の上記固液混合物質の供給口よりも下への沈降を防止する、請求項3に記載の比重差分離方法。
【請求項5】
比重差分離器から流出した固液混合物質中の液体と二酸化炭素を、気液分離器で分離し、分離した二酸化炭素を凝縮し、該二酸化炭素を、固液混合物質の供給口よりも下から上へ供給する超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素として循環利用する、請求項1に記載の比重差分離方法。
【請求項6】
比重差分離器の上段の排出口からフィルターを介して流出した流体を、循環流体として、比重差分離器の固液混合物質の供給口に循環させる、請求項1から4のいずれかに記載の比重差分離方法。
【請求項7】
比重差分離器の上段から流出した流体を、循環流体として、比重差分離器の固液混合物質の供給口に循環させ、この循環流体に固液混合物質を混合する工程において、上記循環流体と固液混合物質をミキサーで混合する、請求項1から6のいずれかに記載の比重差分離方法。
【請求項8】
上記循環流体と固液混合物質を乱流混合型のミキサーで混合する、請求項7に記載の比重差分離方法。
【請求項9】
比重差分離器の上段から流出した流体を、循環流体として、比重差分離器の固液混合物質の供給口に循環させ、この循環流体に固液混合物質を混合する工程において、循環流体の温度、圧力、及び/又は流速を制御し、循環流体と固液混合物質の混合を確保しつつ、比重差分離器内の二酸化炭素及び固液混合物質中の液体と二酸化炭素の混合流体の流速が、固形物の所定の終末速度以下になるように制御する、請求項1から8のいずれかに記載の比重差分離方法。
【請求項10】
超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素を比重差分離溶媒として用いて、比重差分離器の中段から固液混合物質を供給し、該比重差分離器の上段から固液混合物質中の液体と二酸化炭素を流出させ、固形物を下に沈降させて回収して、固液混合物質を連続的に固液分離する固液混合物質の比重差分離装置であって、比重差分離器の固液混合物質の供給口よりも下の位置に、下から上へ超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素を定量供給する供給手段を有し、比重差分離器から流出した流体を、循環流体として、上記固液混合物質の供給口に循環する手段、及びこの循環流体に固液混合物質を混合して、比重差分離器に供給する手段を具備していることを特徴とする固液混合物質の連続比重差分離装置。
【請求項11】
比重差分離器の上段から流出した固液混合物質中の液体と二酸化炭素を分離する気液分離器を有し、分離した二酸化炭素を凝縮する手段、該二酸化炭素を比重差分離器に再供給して利用する手段を具備した、請求項10に記載の連続比重差分離装置。
【請求項12】
比重差分離型の固液混合物質の供給口よりも下から上へ供給する超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素の密度を、温度及び/又は圧力を変えることにより調整する手段を有する、請求項10に記載の連続比重差分離装置。
【請求項13】
比重差分離器の固液混合物質の供給口よりも上部と下部を異なる温度に制御する手段を有する、請求項10に記載の連続比重差分離装置。
【請求項14】
比重差分離器から流出した流体を、循環流体として、比重差分離器の固液混合物質の供給口に循環させ、この循環流体に固液混合物質を混合する装置において、循環流体と固液混合物質を混合するミキサー手段を有する、請求項10から13のいずれかに記載の連続比重差分離装置。
【請求項15】
循環流体と固液混合物質を混合するミキサー手段が、乱流混合型のミキサーである、請求項14に記載の連続比重差分離装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−297665(P2009−297665A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−156003(P2008−156003)
【出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年2月17日 社団法人化学工学会発行の「第73年会研究発表講演プログラム集」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年3月14日 無機マテリアル学会発行の「環境技術とリサイクル 第17回講習会テキスト」に発表
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(300046821)三徳化学工業株式会社 (9)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年2月17日 社団法人化学工学会発行の「第73年会研究発表講演プログラム集」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年3月14日 無機マテリアル学会発行の「環境技術とリサイクル 第17回講習会テキスト」に発表
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(300046821)三徳化学工業株式会社 (9)
【Fターム(参考)】
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