説明

超臨界流体ジェット噴射用パルスバルブ装置

【課題】高圧下でも安定したシールが可能であり且つ高速開閉により高速なジェット噴射が可能な超臨界流体ジェット噴射用パルスバルブ装置を提供する。
【解決手段】超臨界流体ジェット噴射用パルスバルブ装置は、超臨界流体導入部11とジェット噴射出力部12とを有する超臨界流体導入ハウジング10と、超臨界流体導入ハウジング10のジェット噴射出力部12に配置されるオリフィス20と、オリフィス20を押圧することでジェット噴射出力部12をシールするプランジャ30とからなる。プランジャ30は、超臨界流体導入ハウジング10に一部分が挿入される。付勢部40によりプランジャ30をオリフィス20側に付勢する。駆動部50は、外部入力信号に応じてプランジャ30をオリフィス20と反対側に駆動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超臨界流体ジェット噴射用パルスバルブ装置に関し、特に、所定の間隔で超臨界流体を高圧のまま気体状にジェット噴射可能なパルスバルブ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従前からパルスバルブ装置は種々の用途に用いられており、分析装置用や自動車エンジンの燃料噴射用等において極めて重要な部品となっている。
【0003】
近来、次世代の分析技術として、超臨界流体ジェット分析法が注目されている。これは、超臨界流体をジェット噴射し、断熱膨張冷却(ジェット冷却)による分子の内部状態の単色化と高輝度波長可変レーザを組み合わせることにより、単一分子と同等の情報を得ることができる分析法である。この超臨界流体ジェット分析法に用いられるパルスバルブ装置については、概ね以下の条件を満たす必要がある。
(1)超臨界流体に対して安定なシール方式であること
(2)噴射部での圧力降下がないこと
(3)高圧下(約10MPa以上)でも安定に高速開閉(開時間が約100μs以下)可能であること
(4)噴射部周辺が約100℃以上に加熱可能なこと
【0004】
上記条件(1)について、高圧ガスや流体等をシールするためには、隙間からガスが漏れ出さないように隙間を完全に密着するよう構成するのが一般的である。より具体的には、隙間を構成する物体の一方を弾性体とし、他方の物体をこれに押し付けることにより両物体の密着性を高めることでシールしている。弾性体として通常用いられるのはゴムであるが、超臨界流体のシールにゴムは用いることができない。これは、超臨界流体は浸透性が高いので、超臨界流体にゴムが晒されるとゴムに超臨界流体が浸透してしまうためである。したがって、シールするための材質の選択が重要となる。完全に閉め切る場合においてはメタルガスケット等を用いることが可能であるが、バルブのように頻繁に開閉する箇所にメタルガスケットは用いることができない。また、弾性体を用いないシール方法としては、隙間を構成する物体の両接触面を高平滑度仕上げにし、面接触によりシールするものがある。これは、金属−金属や金属−合成樹脂(エンジニアリングプラスチック)間で適用されるのが一般的である。
【0005】
また、上記条件(2)については、超臨界流体ジェット分析法においては特に重要な条件である。超臨界流体ジェット分析法は、超臨界流体溶液を真空中にジェット噴射することで得られるジェット冷却効果によりジェット中の分子を極低温状態に冷却する方法である。このとき、高いジェット冷却効果を得るためには、噴射口であるオリフィス前後での圧力差を大きくする必要がある。ジェット噴射時にバルブを通過する過程で圧力降下が起こると、オリフィス前後での実効的な圧力差が小さくなってしまうため、高いジェット冷却効果が得られなくなってしまう。なお、超臨界流体の圧力を一定に保つための装置としてバックプレッシャレギュレータという市販の装置に超臨界流体用のパルスバルブが用いられているが、これはニードル弁を用いており噴射口における圧力降下が大きいため、超臨界流体のジェット噴射用のパルスバルブとしては用いることができない。
【0006】
また、上記条件(3)については、バルブ装置が高圧下で高速開閉するためには、瞬間的に大きな力を発生可能な駆動方式が必要となる。駆動方式としては、ソレノイド方式や圧電素子方式、超磁歪素子方式等が挙げられる。
【0007】
そして、上記条件(4)については、バルブ付近で超臨界状態を保つために必要な条件である。
【0008】
さて、例えば10MPa程度の圧力下で動作可能なパルスバルブ装置としては、テルアビブ大学で開発されたEven−Lavieバルブが存在する(非特許文献1)。これは駆動方式としてソレノイド方式を採用したバルブ装置であり、200℃程度までの過熱が可能である。バルブのシールは、金属製プランジャと金属製オリフィスの間に合成樹脂(例えばポリイミド)フィルムを挟んだ金属−合成樹脂の面接触方式を用いている。ソレノイド方式のバルブは、ソレノイドに大電流(200A−400A)を印加することによって瞬間的に大きな力を発生させている。
【0009】
【非特許文献1】U. Even, J. Jortner, D. Noy, and N. Lavie, JOURNAL OF CHEMICAL PHYSICS, Vol. 112, No. 18, pp. 8068−8071, 8 MAY 2000
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述の非特許文献1に開示のパルスバルブ装置においては、安定動作可能な圧力が10MPa程度が限界であり、それ以上の圧力ではガスの噴射が困難となっていた。すなわち、高圧になればなるほどプランジャがオリフィスに押し付けられ、高圧ではソレノイドによる開動作を行えなくなっていた。また、超臨界流体の圧力が高くなってくると、限界圧力まで達さない状態であってもプランジャをソレノイドで駆動させるための力が大きくなり、プランジャを高速駆動できなくなっていた。このパルスバルブ装置を用いたとしても、超臨界流体ジェットを発生させることはできなくもなかったが、10MPa程度の圧力では超臨界流体の溶解力が低く、高濃度の試料溶液を得ることはできなかった。したがって、非特許文献1に開示のようなパルスバルブ装置は、超臨界流体ジェット分析法に用いられるパルスバルブ装置として適用するのには向いていなかった。
【0011】
超臨界ジェット法は、固体試料を高温に加熱することなく気化して真空中に導入する方法であり、固体試料の質量分析や有機分子の真空蒸着等への応用が期待されている。この方法では、高圧ガスを高真空容器に導入するため、真空度を維持するには真空容器の排気ポンプの高速化だけでなく、パルスバルブ装置のジェット噴射の短パルス化が不可欠となってくる。また、超臨界流体の溶解力は高圧になるほど高くなるため、高濃度の超臨界流体溶液を得るためにはより高圧の超臨界流体をジェット噴射する必要がある。現在入手可能なパルスバルブ装置では、非特許文献1のように、10MPa程度の圧力下でしか安定動作せず、より高濃度の超臨界流体溶液のジェット噴射は困難であった。
【0012】
本発明は、斯かる実情に鑑み、高圧下でも安定したシールが可能であり且つ高速開閉により高速なジェット噴射が可能な超臨界流体ジェット噴射用パルスバルブ装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した本発明の目的を達成するために、本発明による超臨界流体ジェット噴射用パルスバルブ装置は、超臨界流体導入部とジェット噴射出力部とを有する超臨界流体導入ハウジングと、超臨界流体導入ハウジングのジェット噴射出力部に配置されるオリフィスと、オリフィスを押圧することでジェット噴射出力部をシールするプランジャであって、超臨界流体導入ハウジングに一部分が挿入されるプランジャと、プランジャをオリフィス側に付勢する付勢手段と、外部入力信号に応じてプランジャをオリフィスと反対側に駆動させる駆動手段と、を具備するものである。
【0014】
ここで、オリフィスは、ポリイミド製凸状基部と、該ポリイミド製凸状基部の凸部周囲に設けられる金属製リングと、からなるものであっても良い。
【0015】
また、プランジャは、セラミックス製であれば良い。
【0016】
また、付勢手段は、付勢基部と弾性体とからなるものであっても良い。
【0017】
さらに、プランジャは、付勢手段に固定されていても良い。
【0018】
また、駆動手段は、付勢手段をオリフィスと反対側に引っ張ることでプランジャを駆動させるものであっても良い。
【0019】
また、駆動手段は、圧電素子アクチュエータからなるものであっても良い。
【0020】
さらに、超臨界流体導入ハウジングと付勢手段との間に、断熱用フランジを具備していても良い。
【0021】
さらにまた、駆動手段に入力される外部入力信号は、ジェット噴射される超臨界流体のレーザイオン化用パルスレーザの制御信号と同期するものであっても良い。
【発明の効果】
【0022】
本発明の超臨界流体ジェット噴射用パルスバルブ装置には、高圧下でも安定したシールが可能であり且つ高速開閉により高速なジェット噴射が可能であるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図示例と共に説明する。図1は、本発明の超臨界流体ジェット噴射用パルスバルブ装置を説明するための長手方向断面図である。超臨界流体ジェット噴射用パルスバルブ装置1は、超臨界流体導入ハウジング10、オリフィス20、プランジャ30、付勢部40、駆動部50とから主に構成される。
【0024】
超臨界流体導入ハウジング10は、例えば略円筒形を有する筐体であり、超臨界流体が満たされる部分である。超臨界流体導入ハウジング10は、超臨界流体導入部11とジェット噴射出力部12とを有する。超臨界流体導入部11から超臨界流体が超臨界流体導入ハウジング10内に導入され、また、パルスバルブ動作により超臨界流体がジェット噴射出力部12から超臨界流体ジェットとして噴射される。
【0025】
また、オリフィス20は、ジェット噴射出力部12、より具体的には超臨界流体導入ハウジング10内のジェット噴射出力部12を覆うように配置される。オリフィスは流路中に設けられる所謂絞りであり、ガスや流体を真空槽等に導入する場合や、実効排気速度を意図的に小さくする場合等に用いられるものである。本発明の超臨界流体ジェット噴射用パルスバルブ装置1に用いられるオリフィス20は、中央部に超臨界流体が通る極小孔が設けられた凸状基部から構成されており、合成樹脂、好ましくはポリイミド樹脂からなる。ポリイミド樹脂は、所謂エンジニアリングプラスチックであり、耐熱性や耐摩耗性に優れるものである。凸状基部全体をポリイミド樹脂で構成することにより、金属性凸状基部にフィルム状のポリイミド樹脂を配置した場合と比べて変形や剥がれ等に対して有利となる。また、変形防止や耐久性をより高めるために、本発明で用いられるオリフィス20は、凸状基部の凸部周囲に、金属製リング21が設けられている。金属製リング21は、耐腐食性等を考慮すると、ステンレス製であることが好ましい。
【0026】
プランジャ30は、オリフィス20を押圧することでジェット噴射出力部をシールするものである。より具体的には、プランジャ30をオリフィス20に押し付けることで、オリフィスの極小孔周囲とプランジャ先端との面接触により、オリフィス20の極小孔をシールする。オリフィス20の極小孔を塞ぐプランジャ30の形状をなるべく小さくし、プランジャ30を一気に引き上げることにより、瞬間的に圧力降下の無いガス流路が形成できる。プランジャ30は先端部を細く加工し、さらに先端面に高い平滑性が要求されるため、セラミックス製であることが好ましい。より好ましくは、プランジャ30にはジルコニアセラミックスが用いられる。ジルコニアセラミックスは、セラミックスの中でも最強の強度を持つ材料である。これは、酸化ジルコニウム(ZrO)に少量の酸化イットリウム(Y)を含む金属酸化物であり、900MPa−1300MPaの高圧に耐え得る材料である。また、研磨により平滑度の高い表面を容易に形成可能である。
【0027】
このような材料で構成されるプランジャ30の一部分を、超臨界流体導入ハウジング10に挿入する。すなわち、図1に示されるように、プランジャ30のオリフィス20に押し付けられる部分である先端部側を超臨界流体導入ハウジング10内に挿入する。そして、パッキン13を介してプランジャ30が超臨界流体導入ハウジング10外部に露出するように各寸法が調整される。このように、プランジャの一部分を高圧下に配置し、一部分を低圧下、例えば大気圧下に配置することで、超臨界流体導入ハウジング10内の圧力が高くなると、プランジャ30に対して、低圧側、すなわちオリフィス20と反対側に力が働くようになる。なお、パッキン13については、従来から用いられているものを用いれば良い。
【0028】
また、付勢部40は、プランジャ30をオリフィス20側に押し付けるものである。付勢部40は、付勢基部41と弾性体42とから主に構成される。すなわち、付勢基部41がプランジャ30と接続され、弾性体42が付勢基部41をオリフィス20側に付勢することで、プランジャ30をオリフィス20に高圧で押し付けることが可能となる。弾性体42としては、図示例では螺旋ばねが示されるが、本発明はこれに限定されず、板ばねやゴム等、高圧で付勢可能なものであれば如何なるものであっても構わない。さらに、弾性体として種々の機械的なアクチュエータ等を用いることも可能である。図示例の螺旋ばねである弾性体42は、その一方端で付勢基部41を押圧し、他方端がブラケット43で止められている。また、付勢部40の押圧力としては、例えば約30MPa以上で付勢可能であれば、例えば20MPa以上の高圧流体であってもシールすることが可能となる。なお、シール可能な圧力限界は、プランジャ30をオリフィス20に押し付ける付勢部40の力に依存している。圧力限界以下では常にバルブは閉の状態であり、プランジャ30を付勢部40による付勢力よりも大きい力で引き上げることによりバルブが開の状態となる。
【0029】
ここで、本発明の超臨界流体ジェット噴射用パルスバルブ装置においては、プランジャ30が高圧下の超臨界流体導入ハウジング10内に一部分が挿入されており、一部分が大気圧下に露出しているため、超臨界流体導入ハウジング10内の圧力が高くなると、プランジャ30には超臨界流体導入ハウジング10内から押し出されるような力が働き、したがってプランジャ30にはオリフィス20とは反対側の力が働く。このため、プランジャ30とオリフィス20との間のシール部分は、シール可能な圧力限界以下の状態において、超臨界流体導入ハウジング10内の圧力が高ければ高いほどバルブを開の状態とするプランジャ30の引き上げ力を小さくすることが可能となる。
【0030】
さて、このように構成されたプランジャ30をオリフィス20と反対側に駆動することでバルブを開の状態とするための機構が駆動部50である。駆動部50は、例えば圧電素子方式のアクチュエータからなるものであり、外部入力信号に応じてプランジャ30をオリフィス20と反対側に駆動させるものである。ここで、プランジャ30は、付勢基部41に固定されていることが好ましい。勿論プランジャ30が非固定状態であっても構わないが、バルブの高速開閉動作を行うためには、駆動部50からの応答性を高めるためにプランジャ30が付勢基部41に固定されている。また、駆動部50はプランジャ30を直接引き上げる構造であっても構わないが、図示例のように付勢部40を引っ張ることでプランジャ30を駆動させるものであっても良い。なお、図示例では付勢基部41とプランジャ30は別体のものとして示しているが、本発明はこれに限定されず、一体的に構成されたものであっても構わない。
【0031】
図示例において、付勢部40の付勢基部41から伸びる駆動用端部45を駆動部50の一方端により押圧する。駆動部50の他方端は付勢部40のハウジングや超臨界流体導入ハウジング10等に固定され、これにより付勢基部41に固定されるプランジャ30をオリフィス20と反対側に駆動することが可能となる。駆動部50は、付勢部40による付勢力から超臨界流体導入ハウジング10内の圧力による押し出し力を引いた力よりも大きい力でプランジャ30を駆動可能なものであれば良い。
【0032】
なお、駆動部50として図示例では圧電素子方式の圧電素子アクチュエータを示したが、本発明はこれに限定されず、高速開閉可能な瞬間的に大きな力を発生可能なものであれば、圧電素子方式に比べて発生する力は低いがソレノイド方式や磁歪素子方式等、種々の方式が使用可能である。圧電素子アクチュエータからなる駆動部50は、電圧を印加すると伸長するが、ストローク距離は小さい(数百μm以下)。しかしながら、瞬間的に大きな力(数千N)を発生させることが可能なため、本発明の駆動部に用いられるのに適している。また、圧電素子アクチュエータは熱に弱いため、100℃以上に加熱するバルブ先端部からは距離を置くことが好ましい。
【0033】
次に、本発明の超臨界流体ジェット噴射用パルスバルブ装置において、付勢部40と駆動部50の他の構造の例について、図2を用いて説明する。図2は、本発明の超臨界流体ジェット噴射用パルスバルブ装置の他の例を説明するための長手方向断面図である。図中、図1と同一の符号を付した部分は同一物を表わしているため、詳説は省略する。図2に示されるように、この図示例では、付勢部40の付勢基部41から伸びる駆動用端部47が、付勢基部41を駆動部50で駆動するときに均一に駆動部50の力を付勢基部41に伝えるため、付勢基部41の中心線を中心に対象となるように構成されている。これにより付勢基部41が撓んだりすることを防止し、より正確にバルブを開閉することが可能となると共に耐久性を向上することも可能となる。
【0034】
さらに、熱に弱い圧電素子アクチュエータをより熱的に分離するための構造を以下に説明する。図3は、本発明の超臨界流体ジェット噴射用パルスバルブ装置の他の例を説明するための長手方向断面図である。図中、図2と同一の符号を付した部分は同一物を表わしているため、詳説は省略する。図3に示されるように、この図示例では、超臨界流体導入ハウジング10と付勢部40との間に、断熱用フランジ60を設けている。断熱用フランジ60は、例えばセラミックス製のフランジであり、バルブ先端部である超臨界流体導入ハウジング10が加熱されても駆動部50側にその熱が伝わらないように配置されている。これにより、駆動部50として熱に弱い圧電素子アクチュエータを用いたとしても、より熱の影響を受けにくくなる。
【0035】
以下、本発明の超臨界流体ジェット噴射用パルスバルブ装置を実際に製作し、その試験を行った結果について説明する。以下、具体的に設計した寸法や材質等を示すが、これはあくまでも一例であって、本発明がこれらの数値や材質等に限定されるものではないことが理解されるべきである。超臨界流体ジェット噴射用パルスバルブ装置1において、まず超臨界流体導入ハウジング10等の金属部分はSUS316を用いた。また、ポリイミド樹脂からなるオリフィス20のオリフィス径を0.5mm、ジルコニアセラミックス製のプランジャ30の直径を3.17mm、プランジャ30の先端部の直径を1.2mmとした。また、付勢部40の弾性体42である螺旋ばねによるプランジャ30の付勢力を約240Nに調整し、シール可能な圧力限界を約30MPaに調整した。このとき、プランジャ30の先端部は、約210MPaの圧力でオリフィス20に押し付けられている。そして、駆動部50である圧電素子アクチュエータとしては、松下プレシジョン株式会社製のピエゾアクチュエータPZ20−125を用いた。なお、圧電素子アクチュエータが発生する力は約3200Nであり、プランジャ30を押し付ける螺旋ばねの力に比べて十分大きいものである。
【0036】
このように製作された本発明の超臨界流体ジェット噴射用パルスバルブ装置を、以下に説明する環境下で検証した。図4は、本発明の超臨界流体ジェット噴射用パルスバルブ装置の試験環境の模式図である。なお、同図は、本発明の超臨界流体ジェット噴射用パルスバルブ装置を超臨界流体ジェット分析に適用する場合と同様の環境である。図示のように、炭酸ガスボンベ60から5MPa−6MPa程度の炭酸ガスを液化炭酸送液ポンプ61に供給し液化炭酸ガスを得た。なお、液化炭酸送液ポンプ61には、日本分光株式会社製の超臨界CO送液ポンプSCF−Getを用いた。そして、液化炭酸ガスをオーブン62に供給し、60℃に過熱することで超臨界COを得た。なお、オーブン62には、日本分光株式会社製の超臨界抽出用オーブンSCF−LROを用いた。この超臨界COを2つに分岐し、一方を自動圧力調整バルブ63に接続し、超臨界COを所定の圧力となるように保持した。なお、自動圧力調整バルブ63には、日本分光株式会社製の全自動バックプレッシャレギュレータSCF−Bpgを用いた。また、超臨界COの他方を本発明の超臨界流体ジェット噴射用パルスバルブ装置1に接続し、所定の圧力の超臨界COを超臨界流体導入部11から超臨界流体導入ハウジング10内に導入した。なお、超臨界流体ジェット噴射用パルスバルブ装置1は、真空チャンバ70に挿入されている。そして、パルス発生器65により幅及び電圧可変の矩形パルスを発生させた。なお、パルス発生器65には、米国スタンフォードリサーチシステムズ社製のデジタル遅延パルス発生器DG535を用いた。そして、この矩形パルスを圧電素子駆動用電源66に入力し、超臨界流体ジェット噴射用パルスバルブ装置1の駆動部50である圧電素子アクチュエータの外部入力信号とした。圧電素子駆動用電源66には、松下プレシジョン株式会社製の大電力高速ピエゾドライバHEPZ−0.15P5Aを用いた。圧電素子駆動用電源66に入力するパルス発生器65からの矩形パルスの幅と電圧を可変することにより、パルスバルブの開閉時間及びプランジャの移動距離を制御することが可能である。
【0037】
このように構成された装置において、まずバルブが閉状態でガス漏れが無いことを確認した。超臨界流体導入ハウジング10に供給する超臨界COの圧力を徐々に上昇させると、30MPaを越えた付近でバルブ先端からのガス漏れが確認され、設計通りの挙動を示した。
【0038】
次に、バルブが閉状態(30MPa以下)で、圧電素子駆動用電源66にパルス発生器65から2V,100μsの矩形パルスを50ms間隔(20Hz)で供給し、圧電素子アクチュエータを駆動させた。これにより、真空チャンバ70内にパルス状にガスがジェット噴射された。また、パルス発生器65からの矩形パルスの供給を止めると、パルスジェット噴射は直ちに止まり、このときバルブ先端からの漏れはまったく無かった。このように、パルスバルブ装置の正常動作が確認された。さらに、100μs以下の矩形パルスを供給してもバルブは安定動作し、100μs以下のパルスジェット噴射が確認された。
【0039】
さらに、バルブ先端部を100℃以上に加熱した際でも、圧電素子アクチュエータ部の温度上昇は無く、圧電素子アクチュエータは問題無く動作した。
【0040】
このように、本発明の超臨界流体ジェット噴射用パルスバルブ装置によれば、上述の背景技術の欄で挙げた条件(1)−(4)をいずれも満たすものであり、高圧下でも安定したシールが可能であり且つ高速開閉により高速なジェット噴射が可能な超臨界流体ジェット噴射用パルスバルブ装置が実現できる。これにより、本発明の超臨界流体ジェット噴射用パルスバルブ装置を用いた超臨界流体ジェット法では、固体試料や生体試料等の、不揮発性、熱分解性試料の質量分析が可能となるほか、有機分子の非加熱真空蒸着法等が実現可能となる。
【0041】
さらに、本発明の超臨界流体ジェット噴射用パルスバルブ装置を用いた超臨界流体ジェット分析法においては、図4に示されるように、ジェット噴射される超臨界流体のレーザイオン化用パルスレーザ68の制御信号として、パルス発生器65のパルス信号を用いることができる。すなわち、駆動部50に入力される外部入力信号とレーザイオン化用パルスレーザ68に制御信号とを同期させることが可能となる。これにより、効率的且つ正確に質量分析を行うことが可能となる。
【0042】
なお、本発明の超臨界流体ジェット噴射用パルスバルブ装置は、超臨界流体導入ハウジング内に一部分が挿入されるプランジャをオリフィス側に付勢する付勢部と、バルブ駆動するためにオリフィスと反対側にプランジャを駆動させる駆動部とを有するものである。したがって、その具体的構造は上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0043】
また、例えば、プランジャの材質については上述の図示例ではセラミックス製であること説明したが、セラミックス製に限定されず、金属製であっても構わない。また、オリフィスについても金属性であっても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】図1は、本発明の超臨界流体ジェット噴射用パルスバルブ装置を説明するための長手方向断面図である。
【図2】図2は、本発明の超臨界流体ジェット噴射用パルスバルブ装置の他の例を説明するための長手方向断面図である。
【図3】図3は、本発明の超臨界流体ジェット噴射用パルスバルブ装置の他の例を説明するための長手方向断面図である。
【図4】図4は、製作された本発明の超臨界流体ジェット噴射用パルスバルブ装置の試験環境の模式図である。
【符号の説明】
【0045】
1 超臨界流体ジェット噴射用パルスバルブ装置
10 超臨界流体導入ハウジング
11 超臨界流体導入部
12 ジェット噴射出力部
13 パッキン
20 オリフィス
21 金属製リング
30 プランジャ
40 付勢部
41 付勢基部
42 弾性体
43 ブラケット
45 駆動用端部
47 駆動用端部
50 駆動部
60 断熱用フランジ
60 炭酸ガスボンベ
61 液化炭酸送液ポンプ
62 オーブン
63 自動圧力調整バルブ
65 パルス発生器
66 圧電素子駆動用電源
68 レーザイオン化用パルスレーザ
70 真空チャンバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超臨界流体ジェット噴射用パルスバルブ装置であって、該パルスバルブ装置は、
超臨界流体導入部とジェット噴射出力部とを有する超臨界流体導入ハウジングと、
前記超臨界流体導入ハウジングのジェット噴射出力部に配置されるオリフィスと、
前記オリフィスを押圧することでジェット噴射出力部をシールするプランジャであって、前記超臨界流体導入ハウジングに一部分が挿入されるプランジャと、
前記プランジャを前記オリフィス側に付勢する付勢手段と、
外部入力信号に応じて前記プランジャを前記オリフィスと反対側に駆動させる駆動手段と、
を具備することを特徴とする超臨界流体ジェット噴射用パルスバルブ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超臨界流体ジェット噴射用パルスバルブ装置において、前記オリフィスは、ポリイミド製凸状基部と、該ポリイミド製凸状基部の凸部周囲に設けられる金属製リングと、からなることを特徴とする超臨界流体ジェット噴射用パルスバルブ装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の超臨界流体ジェット噴射用パルスバルブ装置において、前記プランジャは、セラミックス製であることを特徴とする超臨界流体ジェット噴射用パルスバルブ装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れかに記載の超臨界流体ジェット噴射用パルスバルブ装置において、前記付勢手段は、付勢基部と弾性体とからなることを特徴とする超臨界流体ジェット噴射用パルスバルブ装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れかに記載の超臨界流体ジェット噴射用パルスバルブ装置において、前記プランジャは、前記付勢手段に固定されることを特徴とする超臨界流体ジェット噴射用パルスバルブ装置。
【請求項6】
請求項5に記載の超臨界流体ジェット噴射用パルスバルブ装置において、前記駆動手段は、前記付勢手段を前記オリフィスと反対側に引っ張ることで前記プランジャを駆動させることを特徴とする超臨界流体ジェット噴射用パルスバルブ装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6の何れかに記載の超臨界流体ジェット噴射用パルスバルブ装置において、前記駆動手段は、圧電素子アクチュエータからなることを特徴とする超臨界流体ジェット噴射用パルスバルブ装置。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7の何れかに記載の超臨界流体ジェット噴射用パルスバルブ装置であって、さらに、前記超臨界流体導入ハウジングと付勢手段との間に、断熱用フランジを具備することを特徴とする超臨界流体ジェット噴射用パルスバルブ装置。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8の何れかに記載の超臨界流体ジェット噴射用パルスバルブ装置において、前記駆動手段に入力される外部入力信号は、ジェット噴射される超臨界流体のレーザイオン化用パルスレーザの制御信号と同期することを特徴とする超臨界流体ジェット噴射用パルスバルブ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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