超速効型インスリンの使用
超速効型インスリンの食事時投与、及び1日の朝目覚め後6時間以内の1回目のインスリングラルギンの投与を含む、超速効型インスリンとインスリングラルギンの組み合わせによる高血糖症の改善された治療方法を開示する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国仮特許出願第61/087,943号(出願日:2008年8月11日)、第61/097,495号及び第61/097,516号(出願日:2008年9月16日)、並びに第61/138,863(出願日:2008年12月18日)による35U.S.C.§119(e)に基づく優先権の利益を主張し、これら各出願の内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
技術分野
本発明は、超速効型食事時インスリンで真性糖尿病を治療する方法に関する。本発明の特定の態様は、このような製剤の独自の動態プロファイルを利用した種々の投与様式、並びに2型真性糖尿病の標準治療計画における1種以上の経口糖尿病薬をこのようなインスリンに置き換えることに関する。
【背景技術】
【0003】
現在、全世界で少なくとも2億人が真性糖尿病(以後、糖尿病という)に罹っている。糖尿病の2つの主要亜類型は1型と2型である。1型糖尿病は糖尿病に罹患している2億人の約10%を占める。1型糖尿病は膵臓のランゲルハンス島にあるインスリン分泌性β細胞の自己免疫破壊によって起こる。2型糖尿病は罹患個体の残りの90%を占め、罹患率は増加しつつある。2型糖尿病は必ずではないが、肥満と関係していることが多く、以前は遅発性または成人発生型糖尿病といわれていたが、今ではより若い個体にますます広がりつつある。2型糖尿病はインスリン抵抗性と不適切なインスリン分泌との組み合わせによっておきる。
【0004】
(インスリンの生理的役割)
非ストレス状態の正常個体では、基礎グルコースレベルは固有のフィードバック・ループのために日々同じ状態に保持される傾向がある。血漿グルコース濃度のあらゆる増加傾向は、インスリン分泌の増加及びグルカゴン分泌の抑制によって相殺される。これらは肝臓グルコース産生(糖新生およびグリコーゲン貯蔵からの放出)と組織のグルコース取り込みとを調節して血漿グルコース濃度を一定に保つ。患者の体重が増加するか、もしくはその他の何らかの理由でインスリン抵抗性になった場合、血中グルコースレベルは増加し、その結果、インスリン抵抗性を補うためにインスリン分泌が増加する。従って、グルコースおよびインスリン濃度の変化を最小にし、その一方でグルコースの比較的正常な産生および利用が維持されるように、グルコースおよびインスリンレベルが調節される。
【0005】
異なる5つのインスリン分泌相が確認されている:(1)吸収後の状態でインスリンが放出される基礎インスリン分泌;(2)いかなる栄養も腸から吸収される前に、膵臓の神経支配が仲介する食物の外観、匂い及び味によってインスリン分泌が引き起こされるという脳相;(3)β細胞がグルコースまたはその他の分泌促進物質の急速な増加にさらされてからの最初の5〜10分以内にインスリンの初期大量放出が行われる第一相インスリン分泌;(4)インスリンレベルが、より緩慢に上昇し、刺激の程度と持続時間に関連している第二相インスリン分泌;(5)生体外においてのみ報告されているインスリン分泌の第三相。これらの段階において、インスリンはその他の多くのホルモンと同様に脈動的に分泌され、その結果、血液中に振動型(oscillatory)濃度をもたらす。振動には、血中グルコース濃度の変動に関連したより緩慢な振動(80〜120分毎に生じる)に重なる速い脈動(8〜15分毎に生じる)が含まれる。
【0006】
インスリン分泌は、ホルモンや薬物だけでなく、グルコース以外の他のエネルギー物質(具体的には、アミノ酸)によって誘起される場合がある。食物摂取後に観察されるインスリン応答は単に血中グルコースの上昇だけによっては説明できず、食事の中の遊離脂肪酸及びその他の分泌促進物質の存在、神経的に活性化された脳相及び胃腸ホルモン等のその他の要因にも依存することは注目すべきである。
【0007】
個体に静脈内グルコース投与すると、二相性のインスリン応答が見られ、これには、ピークを有する迅速な増加、ピーク間の最下点、及びそれに続くより遅い増加相が含まれる。この二相性応答は、グルコース急速投与後またはグルコース注入後等のグルコース濃度が速やかに上昇する場合にのみ見られる。グルコース投与量の増加をより遅くすると、これは生理学的な条件の下で見られるものであるが、グルコースのボーラス注入に応答して見られる明確な二相性応答を伴うことなく、インスリン分泌のより緩やかな増加が誘起される。
【0008】
正常な生理学的条件下での初期相インスリン応答のモデル化により、食後では、グルコースの静脈内ボーラス注射で見られる(およそ3〜10分でCmaxに到達する)よりも緩やかに(約20分でCmaxに到達する)グルコース濃度が増加することが実証された。
【0009】
健康な膵臓β細胞は食事のようなグルコース曝露に素早く応答し、門脈循環および末梢の両方で血清インスリンを速やかに増加させる。逆に、欠陥のあるβ細胞は、初期相インスリン応答に障害があるので、食事のようなグルコース曝露に対しては鈍い応答を示す。
【0010】
証拠により、グルコース摂取後の初期の比較的速いインスリン応答は、食事後のグルコース恒常性の維持に重大な役割を演ずることがますます明らかになってきた。インスリン濃度の初期の急激な増加が起こると、主として内因性グルコース産生を阻害することで初期グルコース可動域が制限することができる。従って、糖尿病個体における速やかなインスリン応答の誘発は血中グルコース恒常性の改善をもたらすことが期待される。
【0011】
正常な個体においては、食事は大量のインスリン分泌を誘発し、血清インスリン濃度に比較的迅速な急上昇ピーク(スパイク)を生じ、その後比較的速やかに減衰する(図1参照)。この初期相のインスリン応答が、肝臓からのグルコース放出の遮断または減少の原因である。そこで恒常性維持機構は、インスリン分泌(及び血清インスリンレベル)をグルコース負荷に対して一致させる。これは少し上昇した血清インスリンレベルが徐々に基準線に戻る減衰として観察される、第二相動態である。
【0012】
(糖尿病)
糖尿病の重要な特徴はβ細胞機能不全である。1型および2型糖尿病の両方における疾患の進行中の早期におきる1つの異常は、食べることにより誘起される速やかなインスリン反応の喪失である。その結果、肝臓はグルコースを生産し続け、それは、食事の基本的成分から摂取、吸収されるグルコースに加わる。
【0013】
2型糖尿病患者は一般的には血中グルコースレベルの増加に対して応答が遅い。正常な個体は通常、食物摂取後2〜3分以内にインスリンを放出し始めるが、2型糖尿病患者は血中グルコースが上昇し始めるまで内因性インスリンを分泌せず、その後、濃度が徐々に上昇して長いプラトーに達する第二相動態を有する。その結果、内因性グルコース産生は遮断されず、摂取後も続き、患者は高血糖症(高い血中グルコースレベル)になる。2型糖尿病のもう一つの特徴はインスリン抵抗性と呼ばれるインスリン作用の障害である。インスリン抵抗性はそれ自体、最大グルコース排出速度(GERmax)の低下及びGERmaxに達するために必要なインスリン濃度の増加の両方として現れる。こうして、所定のグルコース負荷を処理するためにより多くのインスリンが必要となり、その高インスリン濃度が長期間維持されなければならない。その結果、その糖尿病患者は高いグルコース濃度に長時間さらされ、それはインスリン抵抗性をさらに悪化させる。その上、高いグルコースレベルが長引けば、それ自体β細胞に有毒である。
【0014】
1型糖尿病は、膵臓のインスリン産生細胞(β細胞)が体自体の免疫系によって破壊される結果として起きる。これは結局、完全なインスリンホルモン欠乏症を引き起こす。2型糖尿病は、あまり解明されていない種々の環境から発生する。初期相インスリン放出の早期喪失およびその結果としての連続的グルコース放出は、グルコース濃度の上昇を起こす。高グルコースレベルはインスリン抵抗性を促進し、インスリン抵抗性は血清グルコース濃度を持続的に上昇させる。この状況は、より高濃度のインスリンでも血中グルコースレベルをそれほど効果的には制御しないという自己増幅サイクルをもたらすことがある。その上、上記のように、上昇したグルコースレベルはβ細胞には有毒であり、機能的β細胞の数を減らす。膵島に栄養を与える微小血管系の成長または維持を損傷する遺伝的欠陥もこれらの悪化に或る役割を演じることがある(Clee, S.M., et al. Nature Genetics 38:688-693, 2006)。最終的に、個体は膵臓が打撃を受け、亢進して1型糖尿病患者と同様なインスリン欠乏症があらわれる。
【0015】
(治療)
インスリン治療は1型糖尿病の標準的治療である。初期2型糖尿病は食事療法および運動で処置できるが、現在は、大部分の早期2型糖尿病患者は経口抗糖尿病薬で治療されているが成功例は限られている。患者は病気が進むにつれてインスリン治療に移行する。しかしながらこれらの治療では治癒しない。
【0016】
典型的な進行においては、最初に使用される経口抗糖尿病薬は肝臓グルコース産生抑制剤であるメトホルミンである。メトホルミンの使用は体重増加や低血糖症を伴わない。メトホルミンによる治療が高血糖症に不十分の場合には、インスリン分泌促進物質、最も一般的にはスルホニル尿素、を治療計画に加えることができる。分泌促進物質は平均血中グルコースレベルを下げるためにインスリンの基礎レベルを上げる。スルホニル尿素の使用は、重症の低血糖症は稀であるが、体重増加を伴い、低血糖症を起こす可能性がある。この2種の経口抗糖尿病薬の組合せが高血糖症を制御するには不十分である場合は、グリタゾン等の第3の経口剤、または、長時間作用性の基礎インスリンのいずれかを治療計画に加えることができる。病気の進行と共に、1日の食事の中の少なくとも1部と関連して投与する中間的で短時間(迅速)作用性のインスリン製剤を追加することによって、インスリン療法を強化することができる。
【0017】
現在のインスリン治療方式は内因性産生インスリンを補充または置換して基礎的および第二相様のプロファイルを提供することができるが、初期相動態を模倣するものではない(図2参照)。その上、従来のインスリン治療は1日に1回または2回のみのインスリン注射であることが多い。しかし、血中グルコースレベルをより良くコントロールするためのより徹底した治療、例えば1日に3回以上の投与は明らかに有効であるが(例えば、Nathan, D.M., et al., N Engl J Med 353:2643-53, 2005を参照)、多くの患者はこれら付加的注射を受けることに消極的である。これらの従来のインスリン製剤は、体重増加及び重度の致命的な低血糖現象を含む低血糖症という重大なリスクを伴う。
【0018】
最近までは、皮下(SC)注射が市販のインスリンを患者が自己投与する唯一の経路であった。しかし、SCインスリン投与は、投与インスリンの最良の薬物動態にはつながらない。血液への吸収は(迅速作用性インスリン類似体でさえも)血清インスリン濃度の迅速なスパイクである食事による生理的インスリン分泌パターンとは似つかない。皮下注射もインスリンを2型糖尿病患者に提供するためにはそれほど理想的でなく、血流への吸収速度が、遅延的、変動的で、低いため、実際にはインスリン作用を低下させる可能性がある。しかし、インスリンを食事と共に静脈内投与する場合には、初期2型糖尿病患者は肝臓のグルコース放出の遮断を経験し、生理的グルコース制御が高まることが判明した。その上、彼らの遊離脂肪酸レベルはインスリン治療をしない場合と比べてより迅速に低下する。インスリンの静脈内投与は多分2型糖尿病の治療に有効であるが、合理的解決ではない。なぜならば、全ての食事ごとにインスリンを静脈内投与することは患者にとって安全でなく、実行不可能だからである。
【0019】
短い期間、吸入インスリンであるエクスベラ(登録商標)(ファイザー)が糖尿病の治療用に市場に出された。このインスリン製剤は、注射可能な迅速作用性類似製剤と同様の薬物動態学的プロファイルを有し、標準治療パラダイムにおいて短時間作用性インスリンの代用として用いられた。そのインスリン製剤は、短時間作用性インスリンを用いる患者が注射をしなくても済むようにはしたが、それ以外に注目すべき利点がないために、商業的には失敗した。その上、その動態プロファイルは、皮下投与である通常の迅速作用性インスリンとよく類似していたので、生体利用度の違いの説明を受けた後は、その投薬、及び投与の方法は、通常は皮下インスリンの方法に従うことが出来た。
【0020】
未だ、市販されていないが、超速効型インスリンであるインスリン−フマリルジケトピペラジン(FDKP)が開発中である。ヒトでの研究でのこのインスリン製剤を使用する経験が増すことで、血糖制御を改善する目的でこの製剤を種々の状況や患者集団に適用するにつれて、その独自の動態プロファイルが種々の投与計画及び投与方法に対応できることが分かってきた。このような方法が本開示の目的である。
【発明の概要】
【0021】
本明細書に開示された態様には、超速効型インスリン製剤を用いる1型および2型糖尿病を含む真性糖尿病の治療に有用な方法が含まれる。この開示された方法は、用量を決定する検査、各々の食事に合わせて調節しない標準用量の使用、インスリン製剤を食事の始め及びそれに続く時点で投与する分割用量に関する。ある態様においては、インスリンは、インスリン−FDKPであり、肺吸入により投与される。このような製薬は、皮下インスリン抵抗性の患者の治療に有利に用いることができ、そのような患者を選択する方法も本明細書に開示している。
【0022】
この方法の態様には、食事に関連した初期相のインスリン応答を模倣した方法でインスリンを投与することが含まれる。初期相の模倣においては、動態ピークの血清インスリンレベルは、投与後約12分以内〜約30分以内に到達する。血清インスリンレベルは、また、投与後約2時間または約3時間以内に戻り、基準値に近づく。このように初期動態を模倣したインスリン製剤を、本明細書では、超速効型インスリンという。一態様において、グルコース可動域の減少、または制御のために十分の用量が用いられる。一態様において、インスリンは、インスリン治療を必要とする患者に、食事時間、即ち、食事の約10分前、好ましくは、5分前、あるいは、食事を始めてから30、25、15あるいは10分以内に投与される(正常な胃内容排出の患者に対しては、食事開始からより早い時間が好ましく、遅延性胃内容排出の患者に対しては、食事開始からより遅い時間が適切である)。別の態様においては、インスリンは少なくとも2回投与され、最初は食事の開始時(即ち、食事を開始前後10分以内)、次いで、2回目は、食事開始から30〜120分である。
【0023】
好ましい態様において、肺内送達は、インスリンと関連づけられたフマリルジケトピペラジン(FDKP)を含む乾燥粉末製剤の吸入によって達成される。そのような使用法では、本明細書で使用される用語「フマリルジケトピペラジン」は、その塩類も含む。そのような態様は、インスリン及びFDKP塩を含む。別のそのような態様においては、インスリンはFDKPと複合体を形成している。例えば、インスリンは、自己集合化結晶性FDKP微粒子の表面と複合体(結合)を形成していてもよく、それを、本明細書では、総称的に、「インスリン−FDKP」、また、TECHNOSPHERE(登録商標)インスリン(TI, MannKind社)とも呼ぶ。その他の態様において、FDKPは、他のC−置換ジケトピペラジン類、例えば、3,6−ジ(スクシニル−4−アミノブチル)−2,5−ジケトピペラジン(「スクシニルジケトピペラジン」、SDKP)に置き換えられる。これらの態様の側面において、送達は、下記の実施例に用いられ、参照によってそれらの全体が本明細書に組み込まれる米国特許第7,305,986号及び第7,464,706号に記載されているMEDTONE(登録商標)吸入器システム(MannKind社)等の単回用量吸入器の使用によって促進される。好ましい投与量は、このシステムの一回分に基づき、約7.5IU〜120IUの範囲であり、特に15〜90IU、または、フマリルジケトピペラジンあるいは同等物と複合体を形成しているインスリンの24IUを超える。投与量は、吸入器から放出される用量としても表現される。これらの用量は、好ましくは、6U〜72Uまたは96Uの患者投与量に対して、吸入器カートリッジあたり6U〜48Uの範囲にある。下記のように、投与量は、より普遍的に皮下当量単位(subQ eq)で表すことができる。これらの単位で表した好ましい投与量は、1〜32の範囲、もしくは、それ以上の範囲の単位であり、例えば、3,6,9...等または4,8,12...等の皮下当量単位である。例えば、米国特許出願第12/484,125、第12/484,129号及び第12/484,137号に記載の別の吸入器では、20〜22IUを充填したカートリッジにより3〜4皮下当量単位の投与量が得られる。
【0024】
一態様において、インスリン用量はグルコース可動域の制御に十分な用量を含む。別の態様において、インスリンは投与後約15分以内にピーク血清レベルに達する。また、別の態様において、ピーク血清インスリンレベルは少なくとも60mU/Lである。また別の態様において、ピーク血清インスリンレベルは投与前のインスリン濃度基準値を超えて、少なくとも60、100、または120mU/Lである。本態様の一側面において、受容者(recipient)は2型糖尿病患者である。別の態様では、インスリン用量は、血中グルコースレベルを制御するのに十分である。また別の態様では、インスリン用量は、肝臓からのグルコースの放出を減少または抑制するのに十分である。この態様の別の側面において、この抑制は数時間持続する(図5を参照)。この態様の一側面において、内因性グルコース産生の最下点は、通常のインスリンまたは迅速作用性インスリン類似体の次の皮下投与よりも速く到達し、好ましくは60分以下、より好ましくは50分以下、最も好ましいのは40分以下である。また別の態様では、用量は、内因性グルコース産生を極限まで抑制するのに十分である。
【0025】
さらなる態様によって、血糖制御の改善が必要な患者を選択し、進行中の治療を中止し、少なくとも毎日の2回の食事と共に、日常的に超速効型インスリンを投与することを含む糖尿病患者の改善された治療方法が提供される。
【0026】
他の態様において、血糖制御の改善の必要性は、HbA1cレベルで決定される。一態様では、血清HbA1cのレベルは8%以上である。別の態様では、血清HbA1cのレベルは、7.5%以上、7.0%以上、6.5%以上、または、6.0%以上である。他の態様では、血糖制御の改善の必要性は、上昇したグルコース可動域の平均振幅、あるいは、上昇した食後の血中グルコースレベルから決定する。また別の態様では、患者は、酸化ストレスが上昇している証拠を有し、酸化ストレスは、8−isoPGF(2a)レベルによって測定する。酸化ストレスの上昇は、グルコース可動域の平均振幅の上昇と相関する。
【0027】
これらの態様の一側面においては、さらに、患者は体重増加を避ける必要があり、かつ、超速効型インスリンの治療は結果的に体重増加をもたらさないか、他の治療方法に対し予期される体重増加と同程度の体重増加しかもたらさない。関連した態様では、患者は肥満であり、かつ/又は体重減少が必要であり、超速効型インスリンによる治療の結果、体重は減少するか、変わらないか、または、別の治療で予期されるよりも少ない増加となる。更に、このような態様では、この方法は、体重減少、または他の方法で予期されるよりも少ない体重増加を評価する工程も含むことができる。本発明の一側面において、この評価は、12週間以上の食事時間投与超速効型インスリンによる治療で行われる。別の側面では、この評価は24週間以上で行われる。また他の側面では、この評価は、36週間以上、または48週間以上で行われる。
【0028】
種々の態様において、この方法は、さらに血糖制御の改善の評価を含む。一態様では、血糖値はHbA1cレベルで評価される。別の態様では、血糖制御は食事後のグルコース可動域で評価される。一つの側面では、食事後のグルコース可動域は、食事後の血中グルコースレベルで評価される。別の側面では、食事後のグルコース可動域は、酸化ストレス、例えば、8−isoPGF(2a)レベル、あるいは、当技術分野で周知の他の指標で評価される。別の態様では、血糖制御は、空腹時血中グルコースとして評価される。さらに別の態様では、これらの因子は、種々の組み合わせで評価される。態様の一側面において、この評価は、12週間以上の食事時間投与超速効型インスリンによる治療で行われる。別の側面では、この評価は24週間以上で行われる。さらに他の側面では、この評価は、36週間以上、または48週間以上で行われる。
【0029】
一態様において、超速効型インスリンは、少なくとも毎日2回の食事と共に日常的に投与される。別の態様において、超速効型インスリンは、少なくとも毎日3回の食事と共に投与される。別の態様では、超速効型インスリンは、毎日、主たる、あるいは実質的な食事と共に投与される。別の態様では、15gを超える炭水化物を含有するすべての食事と共に投与される。
【0030】
いくつかの態様は、提唱されている様々な治療法を超速効型インスリン製剤の食事時投与で置き換えることで、糖尿病に対する現在の標準看護治療計画を修正することも含んでいる。
【0031】
一態様によって、超速効型インスリンを長時間作用性インスリン類似体、例えば、インスリングラルギンとより効果的に組み合わせる方法が提供される。この態様においては、超速効型インスリンの食事時投与を、1日の朝目覚め後6時間以内に投与する長時間作用性インスリン類似体の朝の用量と組み合わせる。この態様の側面において、長時間作用性インスリン類似体は、目覚め後、1,2,3または4時間以内に投与される。この態様の一側面では、長時間作用性類似体はインスリングラルギンである。この態様の別の側面において、長時間作用インスリン類似体はインスリンデテミルである。関連する側面において、長時間作用性インスリン類似体はインスリングラルギンであり、2回目の用量は朝の投与後の8〜14時間から投与される。あるいは、最初の投与が1日の中での唯一の投与である。また、別の態様において、長時間作用性インスリンの注射を用いる代わりに、連続的にインスリン、例えば通常のヒトインスリンを注入するためにインスリンポンプが用いられる。一態様において、超速効型インスリン製剤は、インスリンとジケトピペラジンを含む。特別な態様において、超速効型インスリン製剤はインスリン−FDKPである。
【0032】
あるいくつかの態様には、インスリン分泌促進物質による治療を超速効型インスリンの食事時投与に置き換えることにより、2型糖尿病の看護治療の現在の標準を修正することが含まれる。その他の態様には、インスリン増感剤による治療を超速効型インスリンの食事時投与に置き換えることにより、2型糖尿病の看護治療の現在の標準を修正することが含まれる。また、その他の態様には、インスリン分泌促進物質及びインスリン増感剤の両者による治療を超速効型インスリンの食事時投与に置き換えることにより、2型糖尿病の看護治療の現在の標準を修正することが含まれる。
【0033】
本明細書に開示された一態様において、肝臓グルコース産生抑制剤及びインスリン分泌促進物質により現在治療中の2型糖尿病患者を選択し、インスリン分泌促進物質を中止し、少なくとも1回の確定した食事と共に超速効型インスリン製剤を日常的に投与することを含む2型糖尿病の治療方法が提供される。他の態様では、肝臓グルコース産生抑制剤による治療もまた中止される。
【0034】
別の態様において、患者はインスリン抵抗性スペクトルの下部におけるインスリン抵抗性を有する者に対して更に選択される。また、別の態様においては、患者は体重増加を減らすまたは避ける必要がある者に対して更に選択される。また、別の態様においては、患者は十分にまたは適度に制御された空腹時血中グルコースを有する者に対して更に選択される。また、別の態様では、患者はHbA1cレベルが8以上の者に対して更に選択される。また、別の態様では、患者はグルコース可動域の平均振幅の上昇がある者に対して更に選択される。
【0035】
別の態様において、投与の工程は注射を含まない。ここで、患者はインスリンによる治療の候補者であり、かつ、針恐怖症であることもしくは頻繁な注射を避けたいと望むということに基づいて更に選ばれる。
【0036】
他の態様において、肝臓グルコース産生抑制剤はメトホルミンであり、インスリン分泌促進物質はスルホニル尿素である。一態様において、超速効型インスリン製剤は、乾燥粉末等で吸入により投与される。別の態様では、超速効型インスリン製剤は、インスリン−FDKP等のインスリンと関連づけたフマリルジケトピペラジン(FDKP)を含む。
【0037】
別の態様では、超速効型インスリンは15gを超える炭水化物を含有する各々の食事と共に投与される。別の態様では、超速効型インスリン製剤は、投与後60分以内に肝臓グルコース産生を極限まで減少させるのに十分な用量で投与する。別の態様では、超速効型インスリン製剤は、1〜32皮下当量単位の範囲の用量で投与される。
【0038】
一態様において、血糖値制御の改善を必要とし、かつ肝臓グルコース産生抑制剤及びインスリン分泌促進物質の組み合わせ治療に対する候補者となる肝臓グルコース産生抑制剤で現在治療を受けている2型糖尿病患者を選択し、かつ、代わりに肝臓グルコース産生抑制剤での治療と、少なくとも1回の確定した食事と共に超速効型インスリン製剤の日常的な投与と組み合わせることを含む、第2糖尿病の治療の方法が提供される。
【0039】
一態様において、インスリン増感剤及びインスリン分泌促進物質で現在治療受けている2型糖尿病患者を選択し、インスリン分泌促進物質での治療を中止し、各食事と共に日常的に超速効型インスリン製剤を投与することを含む、2型糖尿病の治療方法が提供される。一態様において、インスリン増感剤を用いる治療も中止する。また、別の一態様において、患者は、インスリン抵抗性スペクトルの上部におけるインスリン抵抗性を有する者に対して更に選択される。別の態様では、インスリン増感剤は、ピオグリタゾン等のチアゾリジンジオン(TZD)である。
【0040】
一態様において、超速効型インスリン及び長時間作用性インスリン類似体との組み合わせによる高血糖症の改良された治療方法が本明細書で提供され、該方法は、超速効型インスリンの食事時投与及び1日の目覚め後6時間以内の長時間作用性インスリン類似体の単回投与を含む。別の態様において、高血糖症は、2型糖尿病の結果である。別の態様において、長時間作用性インスリン類似体の投与は目覚め後3時間以内である。別の態様において、長時間作用性インスリン類似体は、インスリンデテミルまたはインスリングラルギンである。また、別の態様では、長時間作用性インスリンはインスリングラルギンであり、かつ、該方法は、2回目のインスリングラルギンの単回投与を更に含み、2回目の用量は該朝の投与から8時間〜14時間後に投与される。
【0041】
別の態様において、超速効型インスリンは、インスリン−FDKP等のインスリン及びジケトピペラジンを含む製剤を含む。別の態様において、超速効型インスリンは肺への吸入により投与される。
【0042】
一態様において、迅速作用性インスリン及び外因性基礎インスリンとの組み合わせによる高血糖症の改善された治療方法が本明細書で提供され、該方法は、超速効型インスリンの食事時投与及びインスリンポンプによる短時間作用性インスリンの連続注入を含む。別の態様において、短期間作用性インスリンは、通常のヒトインスリンまたは迅速作用性インスリン類似体である。別の態様において、超速効型インスリン製剤はインスリン−FDKPである。
【0043】
一態様において、食事量に合わせてインスリン用量を調整することなく日常食に関する血糖を制御する方法が本明細書で提供され、該方法は、毎日の各食事に対し、食事時間に所定の用量の超速効型インスリン製剤を投与する工程を含む。別の態様において、食事量は、所定の用量を決定する際に用いられる通常の食事量の25%以上、50%以上、150%以下、または200%以下である。
【0044】
一態様において、遅延型栄養吸収の、または、栄養吸収に時間がかかる患者のための日常食に関する血糖制御の方法が本明細書で提供され、該方法は、遅延型栄養吸収の患者を選択し、日常食に対し、食事時間に所定の用量の超速効型インスリン製剤の50%〜75%を投与し、所定の用量の残量を日常食開始から30〜120分後に投与する工程を含む。他の態様において、超速効型インスリン製剤はインスリン−FDKPである。
【0045】
一態様において、遅延型栄養吸収は病状に関連する。また、別の態様において、遅延型栄養吸収は、脂肪や繊維の含量が高い食事に関連する。また別の態様において、長時間の栄養吸収は、長時間の食事と関連する。
【0046】
一態様において、摂取した食事の血糖負荷に合わせてインスリン投与量を調整する日常食に関連する血糖を制御する方法が本明細書で提供され、該方法は、日常食の食事時間に最初の所定用量の超速効型インスリン製剤を投与し、日常食の開始から1〜2時間後に食後の血中グルコースを定量し、食後血中グルコースが140mg/dlを超える場合、初回の用量の25%〜100%の用量である2回目の超速効型インスリン製剤を投与する工程を含む。別の態様では、超速効型インスリン製剤は、インスリン−FDKPである。
【0047】
一態様において、皮下インスリン抵抗性の糖尿病患者を治療する方法が本明細書で提供され、該方法は、通常とは異なる高インスリン投与量に基づいて皮下インスリン抵抗性の患者を選択し、皮下投与用の迅速作用性、短期作用性、または中間作用性のインスリン製剤を用いる治療を中止し、次いで、食後低血糖症の制御に効果的な吸入によるインスリン−FDKPの食事時用量の投与による治療を開始する工程を含む。
【0048】
別の態様において、該通常とは異なる高インスリン投与量は、2単位/Kg/日以上である。別の態様において、該選択の工程は、患者が正常または正常に近い内因性基礎インスリンを有するという基準を選択することを更に含む。また、別の態様において、内因性基礎インスリンのレベルは、50μU/ml以下である。
【0049】
別の態様において、該選択工程は次の中のいずれか1つをさらに含む:注射部位の皮下脂肪萎縮または脂肪異栄養症に基づく選択;強化インスリン療法中の6〜9ヶ月の期間において、2回のHbA1cレベル測定が9%以上である患者という基準の選択;または、インスリン療法及びあらゆる食事もしくは運動療法の順守にもかかわらず、高血糖症及び/又は低血糖症の期間によって特徴付けられる生命にかかわるほど血糖値が不安定な患者という基準の選択。
【0050】
別の態様において、本方法は相対的生体利用度に基づいた調節の後、実質的により少ないインスリン投与量によって、同程度あるいは改良された血糖制御が達成されているという判断により患者が皮下インスリン抵抗性を持っていることを確認する工程を更に含む。
【0051】
一態様において、日常食1回あたりの超速効型インスリンの個体の用量を決定する方法が本明細書で提供され、該方法は、1週間以下の用量設定期間内の少なくとも3日間の1日毎に用量設定する日常食に対して、食事時間に低用量の超速効型インスリンを投与し;各々の続く用量設定期間に低用量分によって反復的に用量を増量し、用量設定の終点に達するまで用量設定期間の少なくとも3日間の各々の日に用量設定する日常食に対し、食事時間に投与する工程を含む。
【0052】
別の態様において、該低用量は単位用量カートリッジで提供される。別の態様において、該用量設定期間は3日間または1週間である。別の態様では、低用量は1〜5皮下当量単位である。別態様において、該超速効型インスリン製剤はインスリン−FDKPである。
【0053】
別の態様において、該用量設定の終点は、以下から選択される:1)到達した2時間後の食後平均グルコースが70mg/dlと110mg/dlの間である;2)皮下当量単位に基づいた投与量が最大投与量である;3)確認されたSMBGが36mg/dl未満である重症の低血糖症が発現し、投与量が1個の低用量カートリッジの同等物によって減少する;4)確認されたSMBGが70mg/dl未満である軽度から中度の低血糖症が発現し、投与量は1週間あたり1個の低用量カートリッジの同等物によって減り、次に、用量設定を再開し、前記1)〜3)のいずれかの終点に到達するまで行うか、投与量を軽度から中度の低血糖症が再び現れるレベルよりも少ないレベルに設定する。
【0054】
別の態様において、2回以上の日常食に対する用量は、同時に用量設定される。別の態様において、2回以上の日常食に対する用量は、食後2時間後の血中グルコースが最も高くなる日常食から、食後2時間後の血中グルコースが最も低くなる日常食まで連続的に用量設定される。
【0055】
別の態様において、該最大投与量は24皮下当量単位または2皮下当量単位である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】図1は、ボーラスグルコース注入による人為的な刺激に続く第一相インスリン放出動態の測定を示す。
【図2】図2は、皮下(SC)通常のヒトインスリンまたはSC急速作用性インスリン(NOVOLOG(登録商標))の投与後の血清インスリン濃度を示す。NOVOLOG(登録商標)は、Novo Nordisk Pharmaceuticals, Bagsvaerd, デンマークの登録商標である。
【図3】図3は、食事の開始時に、1)インスリンリスプロ(ヒューマログ(HUMALOG)(商標))、2)エクスベラ(EXUBERA)(登録商標)、及び、3)フマリルジケトピペラジンを含むインスリン製剤(インスリン−FDKP)により治療された2型糖尿病患者の血中グルコース濃度を食事後の種々の時間で測定した研究から得られたデータのグラフである。そのグラフは、また各々の治療の後に正常血糖性レベルを維持するために必要に応じて患者に施した外因性グルコース注入(下部にある線画)も示し、各々、1a、2a及び3aで示されている。
【図4】図4は、食事の開始時にインスリンリスプロ、エクスベラ(登録商標)及びインスリン−FDKP製剤により治療された2型糖尿病患者のグルコース吸収速度を、食事後の一定時間測定した研究から得られたデータのグラフである。
【図5】図5は、食事の開始時にインスリンリスプロ、エクスベラ(登録商標)及びインスリン−FDKP製剤により治療された2型糖尿病患者の食事後の内因性グルコース産生を定量した研究から得られたデータのグラフである。
【図6】図6は、食事の開始時にインスリンリスプロ、エクスベラ(登録商標)及びインスリン−FDKP製剤により治療された2型糖尿病患者のグルコース消失速度を一定時間測定した研究から得られたデータのグラフである。
【図7】図7は、食事の開始時にインスリンリスプロ及び60Uまたは90Uのインスリン−FDKP製剤により治療された2型糖尿病患者に対するグルコースクランプ検査から得た平均インスリン濃度−時間プロファイルを示す。
【図8】図8は、食事の開始時にインスリンリスプロ及び60U(1)または90U(2)のインスリン−FDKP製剤により治療された2型糖尿病患者に対するグルコースクランプ研究から得た血中グルコース濃度を示す。グルコース注入時間と注入グルコース量を60U及び90Uのインスリン−FDKP及びインスリンリスプロの各々に対し、1a,2a,及び3aとして示す。
【図9】図9は、食事の直前に60Uまたは90Uのインスリン−FDKP及びインスリンリスプロにより治療された2型糖尿病患者のグルコース吸収速度を示すグルコースクランプ検査から得たデータのグラフである。
【図10】図10は、食事の開始時に60Uまたは90Uのインスリン−FDKP及びインスリンリスプロにより治療された2型糖尿病患者の食事後の内因性グルコース産生を定量するグルコースクランプ実験により得たデータのグラフである。
【図11】図11は、食事の開始時に60Uまたは90Uのインスリン−FDKP及びインスリンリスプロにより治療された2型糖尿病被験者の一定時間の間のグルコース消失速度を測定する実験から得られたデータのグラフである。
【図12】図12は、インスリン−FDKPとインスリングラルギンの使用をインスリンアスパルトとインスリングラルギンと比較した研究から得られたデータのグラフであり、その研究の52週間目における7点の血中グルコースプロファイルを示している。
【図13】図13は、就寝時に基礎インスリン(インスリングラルギン/LANTUS(登録商標))の皮下注射及び食事時に肺吸入により投与するインスリン−FDKPにより治療された被験者の血液試料の空腹時血中グルコースを測定した実験のデータを示したグラフである。このグラフは、また比較グループ、即ち製造者の推薦の通りに朝食及び夕食にNOVOLOG(登録商標)混合(70/30)(予混合)により治療された被験者のデータも示す。被験者の全員が、血糖上昇抑制剤の併用、併用に関わらず、皮下インスリン療法による治療を以前受けたことのある、準最適に制御された2型糖尿病患者であると診断された。
【図14】図14は、最初の週の治療(破線、基準線)と治療52週目(実線)に、就寝時にはインスリングラルギンで、また肺吸入による食事時インスリンFDKPで治療された被験者の、1日の間の7つの時点、即ち、指定された週の中の3日間について空腹時、朝食後、昼食前、昼食後、夕食前、夕食後、及び就寝時に採集した試料の平均血中グルコースレベルを測定した実験のデータを示すグラフである。このデータから、2型糖尿病の患者の血中グルコース濃度は1日を通して上昇を示すが、52週目では、血中グルコースレベルは、治療開始時よりも有意に低く良好に制御されていることが分かる。
【図15】図15は、食事TI(インスリン−FDKP)(グループ1)、メトホルミン+分泌促進物質(グループ2)、及び、食事TI+メトホルミン(グループ3)を比較する臨床試験の治験設計を示す。
【図16】図16は、図15の試験に登録した患者の基準値の人口統計学的データを示す。
【図17】図17は、TI単独、TI及びメトホルミン、またはメトホルミン及び分泌促進物質での12及び24週間の治療後のHbA1cの低下を示す。用語「留まった(stayed)」「移動した(transferred)」「移動しなかった(non-transferred)」「全て移動した(all-transferred)」は、図15に定義されている。
【図18】図18は、TI単独、TI及びメトホルミン、またはメトホルミン及び分泌促進物質による治療後、12及び24週間でのHbA1cの7%以下という目標に届く患者の割合を示す。
【図19】図19は、TI単独、TI及びメトホルミン、またはメトホルミン及び分泌促進物質による治療後、12及び24週間のHbA1cの6.5%以下という目標に届く患者の割合を示す。
【図20】図20は、TI単独による治療の12及び24週間後の血中グルコースレベルを示す。
【図21】図21は、メトホルミン及び分泌促進物による治療の12及び24週間後の血中グルコースレベルを示す。
【図22】図22は、TI及びメトホルミンによる治療の12及び24週間後での血中グルコースレベルを示す。
【図23】図23は、TI単独による治療の12及び24週間後の食後1時間及び2時間後の血中グルコースレベルを示す。
【図24】図24は、メトホルミン及び分泌促進物による治療の12及び24週間後での食後1時間及び2時間後の血中グルコースレベルを示す。
【図25】図25は、TI及びメトホルミンによる治療の12及び24週間での食後1時間及び2時間の血中グルコースレベルを示す。
【図26】図26は、メトホルミン及び分泌促進物による治療の12及び24週間後の食事後のグルコース可動域の変化(AUCレベル(mg・hr/dL)の変化として測定)を示している。
【図27】図27は、TI単独、TI及びメトホルミン、あるいはメトホルミン及び分泌促進物質による治療の12及び24週間後の空腹時血液中グルコースレベルを示す。
【図28】図28は、TI単独、TI及びメトホルミン、あるいはメトホルミン及び分泌促進物質による治療の12及び24週間後の体重の変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0057】
(用語の定義)
詳細な開示を説明する前に、以後に使われる幾つかの用語を理解することは有用であると思われる。
【0058】
乾燥粉末:本明細書に使用される「乾燥粉末」は、推進剤、担体、またはその他の液体に懸濁も溶解もしていない微粒子組成物を意味する。これは、すべての水分子が全く存在していないことを意味するものではない。
【0059】
第一相:本明細書に使用される「第一相」は、グルコースのボーラス静脈内注射により誘導されるインスリンレベルのスパイクを意味する。第一相のインスリン放出は、血中インスリン濃度のスパイクを生ずる。それは迅速なピークであり、その後、比較的速やかに減衰する。
【0060】
初期相:本明細書に使用される「初期相」は、食事に応答して誘導され、20分〜30分以内に最大となる血中インスリン濃度の上昇を意味する。初期相と第一相との区別は、一般文献では必ずしも注意深くは守られていない。
【0061】
可動域(excursion):本明細書に使用される「可動域」は、食前の基準線またはその他の出発点の上または下にある血中グルコース濃度を意味する。可動域は一般に時間の経過に伴う血中グルコースのプロットの曲線下面積(AUC)として表される。AUCは種々の方法で表現できる。ある場合には正の領域および負の領域を作り出す基準線から下への低下および上への上昇の両方がある。ある計算は正AUCから負AUCを引く計算もある一方、それらの絶対値を加える計算もある。正および負のAUCsは別々に考えることもできる。より複雑な統計的評価も使用できる。ある場合には、正常範囲外に上昇または低下する血中グルコース濃度も意味することができる。正常血中グルコース濃度は空腹状態の個体では通常70及び110mg/dLの間であり、食後2時間後では120mg/dL未満、食後では180mg/dL未満である。
【0062】
グルコース排出速度:本明細書に使用される「グルコース排出速度」(GER)は、グルコースが血液から消失する速度である。それは、グルコースクランプを用い、グルコースクランプ試験期間中、安定血中グルコースを維持するために必要なグルコース注入速度(120mg/dL前後の場合が多い)として決定される。このグルコース排出速度は、GIRと略称されるグルコース注入速度に等しい。
【0063】
ハネムーン相:本明細書に使用される1型糖尿病の「ハネムーン相」は、初期相インスリン放出の消失に特徴づけられたこの病気の早期段階を意味し、残っているβ細胞は機能して若干のインスリンを産生し、そのインスリンは第二相動態で放出される。
【0064】
高血糖症:本明細書に使用される「高血糖症」は、正常な空腹時血糖濃度より高く、通常126mg/dL以上である。いつかの研究において、高血糖症の発症は280mg/dL(15.6mM)を超える血中グルコース濃度と定義された。
【0065】
低血糖症:本明細書に使用される「低血糖症」とは正常な血糖濃度より低く、通常63mg/dL(3.5mM)未満である。臨床上重要な低血糖症は、63mg/dL未満の血糖濃度として定義されるか、または低血糖の症状として認知され、適正なカロリー摂取で消失する認知障害、行動変化、蒼白、発汗低血圧症、紅潮、及び虚弱等の患者症状を引き起こすものと定義される。重症低血糖症とは、グルカゴン注射、グルコース注入または第三者による助けを必要とする、低血糖症状の発症と定義されている。
【0066】
近接した:本明細書に使用される、食事に関して用いられる「近接した」は、食事の開始に時間的に近い期間を意味する。
インスリン組成物:本明細書に使用される「インスリン組成物」は、哺乳動物への投与に適したインスリンのあらゆる形態を意味して、臨床的に重要な血中グルコース低下活性を保持している限り、哺乳動物より単離されたインスリン、組み換えインスリン、他の分子と結合や誘導体化したインスリン、配列を変えたインスリン分子が含まれる。また、肺、皮下、鼻内、経口、頬内、及び舌下を含むあらゆる経路による投与に適したインスリン組成物も含まれる。インスリン組成物は、吸入用の乾燥粉末、水溶液もしくは懸濁液、または、非水溶液もしくは懸濁液(計量式吸入器に通常用いられる);皮下、舌下、頬内、鼻内または経口投与用の水溶液もしくは懸濁液;及び経口及び舌下投与用の固体投与形として製剤化できる。
【0067】
インスリン関連疾患:本明細書に使用される「インスリン関連疾患」は、哺乳動物におけるインスリンの産生、調節、代謝、及び作用に関連した疾患を意味する。インスリン関連疾患としては、それらに限定されないが、前糖尿病、1型真性糖尿病、2型真性糖尿病、低血糖症、高血糖症、インスリン抵抗性、分泌異機能、膵臓β細胞機能の喪失、及び膵臓β細胞の喪失が挙げられる。
【0068】
インスリン関連疾患を有するインスリン非依存性患者:本明細書に使用される「インスリン関連性疾患を有するインスリン非依存性患者」は、診断から外因性インスリン投与が現在の標準的治療法にはならない疾患を有する患者を意味する。外因性投与インスリンで治療されないインスリン関連性疾患を有するインスリン非依存性患者には早期2型糖尿病、ハネムーン相の1型糖尿病、前糖尿病およびインスリン産生細胞移植体受容者が含まれる。
【0069】
インスリン抵抗性:本明細書に使用される用語“インスリン抵抗性”とは患者の細胞がインスリンに適切に、あるいは、効率的に応答できないことを意味する。膵臓はより多量のインスリンを産生することによって細胞レベルでこの問題に対処する。結局、膵臓は体のインスリン需要に追いつくことができず、過剰のグルコースが血流中に蓄積する。インスリン抵抗性を有する患者では、多くの場合、彼らの血液中を高レベルの血中グルコースと高レベルのインスリンとが同時に循環している。
【0070】
インスリン抵抗性スペクトル:本明細書に使用される「インスリン抵抗性スペクトル」は、患者がインスリンに抵抗する程度が変化できる範囲を意味する。当然ながら、人により、また2型糖尿病の進行の中のどの時点であるかにより、インスリン抵抗性の程度は異なる。一般に認められたインスリン抵抗性の単位は存在しないが、当業者であれば、重度のインスリン抵抗性に対して、軽度のインスリン抵抗性の識別は十分に可能である。理想的には、インスリン抵抗性は正常血糖クランプ法により測定できるが、これらは、日常的な使用に対しては実用的ではない。より簡便な評価としては、HOMA(Matthew DR, Hosker JP, Rudenski AS, et al., Homeostasis model assessment: insulin resistance and β cell function from fasting plasma glucose and insulin concentrations in man(恒常性モデル評価:ヒトの空腹時血漿グルコース及びインスリン濃度によるインスリン抵抗性及びβ細胞機能), Diabetologia 1985;28:412-419を参照)、及び関連QUICKI(Katz A, Nambi SS, Mather K, Baron AD, Follmann DA, Sullivan G, Quon MJ. Quantitative insulin sensitivity check index: a simple, accurate method for assessing insulin sensitivity in humans(定量的インスリン感受性検査指標:ヒトのインスリン感受性の簡便で精密な評価法). J Clin Endocrinol Metab. 2000 Jul;85(7):2402-10)が挙げられる。空腹時血清インスリンレベル自体は、また、インスリン抵抗性の程度を示す指標として用いることができ、50〜100pmol/Lの濃度はスペクトルの下端における抵抗性を示し、300pmol/Lの濃度は、スペクトルの上端における抵抗性を示す。最終的に、インスリン治療を既に受けている患者にとって、一日の全用量は、被験者のインスリン抵抗性の程度が高いか低いかの指標として一般にはみなされる。
【0071】
中間作用性インスリン:本明細書に使用される「中間作用性インスリン」または、持続型インスリン製剤(lente insulin)は、注射後通常約2時間〜4時間で効果が発現し、注射後4時間〜12時間で最大となり、10〜18時間の間効果が持続する。典型的な中間作用性インスリンは、通常インスリンと身体がインスリンをもっと遅く吸収させるようにする物質と混合することによって得られる。限定されないが、NPHインスリンが例として挙げられる。中間作用性インスリンは、長時間作用性インスリンの有益性の多くを提供できる。
【0072】
長時間作用性インスリン:本明細書に使用される「長時間作用性インスリン」は、約1〜6時間以内に効果をあらわしはじめ、最長で24時間以上までの持続的なレベルのインスリン活性を提供する。長時間作用性インスリンは約8〜12時間後まで、場合によっては更に長い時間後まで最大活性で働く。長時間作用性インスリンは、通常、朝または就寝前に投与される。長時間作用性インスリンの例としては、限定されないが、インスリン類似体であるインスリングラルギン、もしくはインスリンデテミル、及び吸収が遅くなるように製剤化された通常のヒトインスリンである長時間持続型インスリン製剤(ultralente insulin)が挙げられる。長時間作用性インスリンは、食事時インスリン要件とは対照的な基礎インスリン要件を満たすには最適である。
【0073】
食事:本明細書に使用される「食事」、「食事類」、及び/または「食事時間」等には、伝統的な食事と食事時間が含まれるが、これらには、量及び/または時機にかかわらず、あらゆる栄養物の摂取も含まれる。本明細書に使用される「確定された食事」は、具体的には、通常の、あるいは伝統的な3回の日常食等の主要食事摂取の毎日の時間を意味する。ある糖尿患者には、最大血中グルコースレベルを下げるために、4回のいくぶん少量の日常食が推奨され、このような食事も用語「確立された食事」の意味の範囲に含まれる。
【0074】
微粒子:本明細書に使用される用語「微粒子」は、ジケトピペラジン単独、またはジケトピペラジンと1種類以上の薬剤との組み合わせのいずれかからなる外殻を有するマイクロカプセル類を含む。それは球体全体に分散した薬剤を含む微小球、不規則な形の粒子、および薬剤が粒子の表面に塗工されている粒子またはその中の隙間を薬剤が埋めている粒子も含む。
【0075】
食事の:「食事の」は、あるものを食事あるいは間食と関連付ける。それは、文脈によって、食事開始後1時間未満の時間、あるいは、食事摂取をし続ける時間を意味することがある。
【0076】
食事周辺:本明細書に使用される「食事周辺」は食事または間食の摂取の少し前に始まり、摂取後の少し後に終わる時間を意味する。
食後:本明細書に使用される「食後」は、一般的に食事開始後1時間以上の時間及び食事摂取を終了した後の時間を意味する。本明細書に使用される「後期食後」は、食事あるいは間食を摂取した後の2時間を越える時間を意味する。
【0077】
強化作用:一般に、「強化作用」は、ある薬剤が強化作用なしで達成し得るレベル以上に薬剤の効果または活性を高める条件または作用を意味する。同様に、この高められた効果又は作用を直接的に意味する場合がある。本明細書に使用される「強化作用」は、特に、上昇した血中インスリン濃度が、例えば、グルコース排出速度を高める等の後続のインスリンレベルの効果をさらに高める能力を意味する。
【0078】
前糖尿病患者:本明細書に使用される用語「前糖尿病患者」は、空腹時グルコース障害、または耐糖能障害を有する患者、即ち、空腹時血糖値が100mg/dL(5.5mmol/L)と126mg/dL(7.0mmol/L)との間にあるか、または食後2時間血糖値が140mg/dL(7.8mmol/L)と200mg/dL(11.1mmol/L)との間にある患者をいう。
【0079】
迅速作用性インスリン:本明細書に使用される用語「迅速作用性インスリン」は、投与後、およそ45〜90分で最大血中濃度に到達し、およそ1〜3時間で最大活性となるインスリン製剤を意味する。迅速作用性インスリンは、約4〜6時間の間、活性状態を維持することができる。限定されないが、迅速作用性インスリンの例として、インスリン類似体インスリンリスプロ(lispro)(HUMALOG(ヒューマログ)(登録商標))が挙げられる。廃止製品であるEXUBERA(エクスベラ、登録商標)及び実験的製剤VIAJECT(登録商標)(Biodel社)は、共に通常のヒトインスリンに基づいており、この定義の範囲に入る動態プロファイルを有する。
【0080】
第二相:本明細書に使用される「第二相」は、上昇した血中グルコースレベルに応答したインスリンの非スパイク型(non-spiking)放出を意味する。これは、少し上昇した血中インスリンレベルが徐々に減衰して基準値に戻ることを指す「第二相動態」とは区別される。
【0081】
短時間作用性インスリン:本明細書に使用される用語「短時間作用性インスリン」は、通常、食事時間前後に使用される通常インスリン及び迅速作用性製剤を含む。
間食:本明細書に使用される用語「間食」は、具体的には、確定した食事と食事の間に摂取される食物を意味する。
【0082】
肝臓グルコース産生抑制剤:本明細書に使用される用語「肝臓グルコース産生抑制剤」は、肝臓グルコース産生(肝糖新生、グリコーゲン貯蔵からの動員)を抑制する薬剤を意味する。限定されないが、肝臓グルコース産生抑制剤の例としてメトホルミンが挙げられる。
【0083】
TECHNOSPHERE(登録商標)インスリン:本明細書に使用される「TECHNOSPHERE(登録商標)インスリン」または「TI」は、通常のヒトインスリンおよび薬剤送達系(drug delivery system)であるTECHNOSPHERE(登録商標)微粒子を含むインスリン組成物を意味する。TECHNOSPHERE(登録商標)微粒子はジケトピペラジン、具体的には、3,6−ジ(フマリル−4−アミノブチル)−2,5−ジケトピペラジン(フマリルジケトピペラジン、FDKP)を含む。すなわち、TECHNOSPHERE(登録商標)インスリンはFDKP/ヒトインスリン組成物を含む。「TECHNOSPHERE(登録商標)インスリン」は、肺投与によって送達される超速効型インスリンであり、生理学的食事時間初期相インスリン放出を模倣する。この製剤は、また、本明細書では、総称的に、「インスリン−FDKP」と呼ばれる。ある文脈では、その製品は、インスリン単量体ヒト(rDNA起源)吸入用粉末と呼ばれる。
【0084】
本明細書に使用される「ジケトピペラジン」または「DKP」には、一般式1の範囲に該当する、ジケトピペラジンとその塩、誘導体、類似体、及び修飾体が含まれ、ここで、式1において、1位と4位にある環原子E1及びE2は、OまたはNのいずれかであり、それぞれ3位と6位に位置する側鎖R1及びR2の少なくとも1つに、カルボン酸(カルボキシラート)基を有する。式1による化合物は、ジケトピペラジン類、ジケトモルホリン類、ジケトジオキサン類及びそれらの置換類似体を含むがこれらに限定されるものではない。
【0085】
【化1】
【0086】
ジケトピペラジン微粒子は、肺の奥までの送達を可能にする空気力学的に適切な微粒子を形成することに加え、迅速に溶解し、薬剤積荷も放出し血液循環への吸収も更に加速させる。ジケトピペラジン類は、薬物を取り込む粒子、あるいは薬物をその上へ吸着させることができる粒子に成型することができる。薬剤とジケトピペラジンの組合せにより、薬剤安定性が改善される。これらの粒子は、様々な投与経路により投与できる。これらの粒子は、乾燥粉末の状態で、吸入によって粒子径に応じて呼吸器系の特定領域へ送達することができる。さらに、これら粒子は、静脈内懸濁液剤形に組み込まれるように十分小さくすることができる。経口送達も、懸濁液剤、錠剤またはカプセルに組み込まれた粒子によって可能である。
【0087】
本発明の別の態様では、DKPは3,6−ジ(4−アミノブチル)−2,5−ジケトピペラジンの誘導体であり、これは、アミノ酸リシンの(熱)縮合により形成される。誘導体の例としては、3,6−ジ(スクシニル−4−アミノブチル)−、3,6−ジ(マレイル−4−アミノブチル)−、3,6−ジ(グルタリル−4−アミノブチル)−、3,6−ジ(マロニル−4−アミノブチル)−、3,6−ジ(オキサリル−4−アミノブチル)−、及び3,6−ジ(フマリル−4−アミノブチル)−2,5−ジケトピペラジンが挙げられる。DKPの薬物送達への使用は、当技術分野で周知である(例えば、米国特許第5,352,461、5,503,852、6,071,497、及び6,331,318号を参照されたい。このいずれも、ジケトピペラジン類とジケトピペラジン仲介性薬物送達に関して教示されることすべてについて、参照により本明細書に組み込まれる)。DKP塩の使用については、同時出願中の米国特許出願第11/210,710号(2005年8月23日出願)に記載され、これは、ジケトピペラジン塩類に関して教示されることすべてについて、参照により本明細書に組み込まれる。DKP微粒子を使用する肺への薬物送達は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第6,428,771号に開示されている。
【0088】
TECHNOSPHERE(登録商標)/偽薬:本明細書に使用される「TECHNOSPHERE(登録商標)/偽薬」は、インスリンあるいは他の活性薬剤と結合していないTECHNOSPHERE(登録商標)粒子を意味する。
【0089】
Tmax:本明細書に使用される用語「Tmax」は、因子(濃度や活性等)がその最大値に到達する投与からの時間を意味する。
測定単位:皮下および静脈内インスリン投与量は標準化生物学的測定により定義されるIUで表される。フマリルジケトピペラジンと共に製剤化されたインスリンの量も、血中インスリンの測定値と同様に、IUで表される。TECHNOSPHERE(登録商標)/インスリンの用量は、その用量で製剤化されたインスリン量に数値的に等しい任意の単位(U)で表される。
【0090】
発明の詳細な説明
インスリン−FDKPは、生理学的食事時間初期相インスリン放出を模倣することができる超速効型インスリンであることが見出された。この独自の薬物動態学的プロファイルを有するインスリン製剤が、2型糖尿病の治療において如何に有利に使用できる可能性があるかを探る中で、これまで、他のインスリン製剤との比較で評価されてきた(例えば、米国特許出願第11/032,278号、第11/329,686号、第11/278,381号、及び第11/461,746号、それらの各々は、そのまま全体が、参照により本明細書に組み込まれる)。本明細書に開示された態様は、如何にして、このようなインスリン製剤の特定の用量及び投与方法が個々の患者に対して選択され、かつ、様々な患者集団に有益な効果があるように適用されるかに関係している。ある態様は、如何にして、このようなインスリン製剤が、同様の効果または有利な効果を達成するために、インスリン増感剤や分泌促進物質等の経口抗糖尿病薬剤と併用、及び/または置き換えることができるかに関係している。ある他の態様は、如何にして、このようなインスリン製剤が、同様の効果または有利な効果を達成するために、体外から投与される基礎インスリンと併用、及び/または置き換えることができるかに関係している。同様な開示は、また、米国仮特許出願第61/087,943号、第61/097,495号、第61/097,516号及び第61/138,863号でも記載されており、これら各々は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0091】
一般に、様々な態様が、確定した集団に食事時超速効型インスリンを使用することと関連する。これらの集団は、種々の記載された方法によって提供される1つ以上の利点から恩恵を得ることを必要とする、得る能力がある、あるいは、得ることを望んでいる集団であると言える。このような利点は、なんらかの表明された臨床的恩恵を享受するか求めることとして表現できる。このような利点は、また、様々な副作用、有害転帰、禁忌等の除外もしくは回避、または、それらが起こる危険性もしくは潜在的可能性の低減を含む。同様に、これらの方法は、どの集団の一員であるかに基づいて患者を選択する工程を伴うことができる。当然のことながら、選択は、医者または健康管理の専門家が、特定の諸因子に関して患者を評価することを含むことができるが、また、患者が、同様のデータに基づいて、あるいは医者または他の健康管理専門家の助言を受け入れて、治療の自己選択をすること含むこともできる。同様に、これらの方法の投与工程は、薬剤の患者による物理的服用(または、同様に薬剤による治療の中止)を含むことができるが、また、医者または他の健康管理専門家が、薬剤を服用(または中止)する他の特定の指示を処方する、あるいは提供することも含んでもよい。更に、本発明の別の態様は、このような目的のための、及びこのような目的の薬剤の製造における、超速効型インスリン製剤、組成物あるいは製剤の使用を含む。
【0092】
本明細書に使用されるように、生理的食事初期相インスリン放出(または同様な用語)を模倣することは、生理的反応の全ての特徴を正確に複製することであることを必ずしも意味しない。それは濃度の比較的速い上昇及び低下の両方を構成する血中インスリン濃度のスパイクまたはピークを形成するインスリン製剤及び方法を指すことができる。ある態様において、最大濃度まで上昇するには、投与から、または基準値を最初に離れてから、30分未満、好ましくは約20分または15分未満を要し、また、別の態様において、最大濃度まで少なくとも5分または少なくとも10分を要し、例えば12分〜14分、あるいは10分〜20分等で最大濃度に到達する。ある態様において、最大インスリン濃度からの低下は、最大値から80分で、あるいは50分で、あるいは35分で半分に低下することを含む。一般には、インスリン濃度は、投与後2〜3時間で基準値に近づく。これは、最大インスリン濃度に達するまでのより緩やかな上昇(30分から数時間に渡る)及び最大濃度近くで長いプラトーを生成するインスリン製剤及び方法とは対照的である。迅速作用性類似体(RAA)は、通常のヒトインスリンよりも鋭いピークを示すが、市販のRAAの中で最も速効性のインスリンリスプロ(lispro)(HUMALOG、ヒューマログ(登録商標))でさえ、処方情報に開示されているように、Tmaxは、30〜90分であると報告されている。比較のために、インスリンアスパルト(NOVOLOG(登録商標))は、1型糖尿病の被験者において平均Tmaxが40〜50分であると報告され、インスリングルリジン(APIDRA(登録商標))は、インスリン1型及び2型糖尿病の被験者において平均Tmaxが60〜100分であると報告されている。この場合、両集団共に40〜120分の範囲でのデータである。その上、RAAは、濃度が基準値に戻るには、約6時間必要である。生理的食事初期相インスリン放出を模倣することは、また、インスリン濃度のスパイクが食事の開始に確実に適合できるインスリン調剤や方法を指すこともできる。また、それは、投与後、約30〜90分以内、好ましくは約45〜60分以内の最大グルコース排出速度(GERmax)の達成(及びその関連方法)を指すこともできる。このような特徴を有するインスリン製剤は、本明細書において、超速効型と呼ばれる。本発明の態様において、初期相放出を模倣する方法は、一般的に、糖尿病患者が静脈内注射等の特別な医療訓練を受けずとも、自分自身に実施できる方法でもある。特別な医療訓練には、訓練された医療専門家ではない人々によって日常的に用いられる乾燥粉末吸入器等の医療機器を使用するための訓練は含まれないであろう。いくつかの態様において、超速効型インスリンは、量及び/または時期に関係なく、あらゆる栄養物の摂取ごとに投与することが可能である。それでも、低血糖症の危険性を避けるためには、少なくとも限界血糖値負荷(これは、インスリン用量に依存する可能性がある)をもたらす食事にのみ投与することが好ましい。血糖負荷の様々な評価方法は、当技術分野で知られており、「炭水化物計算(carb counting)」(食事中の炭水化物のグラム数を計算/評価する)、主食交換品(bread exchanges)の使用、及び摂取する食品の血糖指数の考慮等が含まれる。
【0093】
超速効の意味は、また、他のインスリン製剤との更なる比較によっても理解できる。皮下注射のための通常のヒトインスリン製剤は、主に作用の持続期間に関しては短時間作用性であると考えられる。通常、それらは、最大血中インスリン濃度に到達するのに少なくとも1〜2時間は要し、最大の活性に到達するのに2〜4時間は要する。活性の大きな上昇は10〜12時間もの間持続が可能である。その他の短時間作用性インスリンに、インスリンアスパルト、インスリングルリジン、及びインスリンリスプロ等の迅速作用性インスリンが含まれる。これらのインスリン製剤は、注射すると、六量体から単量体に、より簡単に解離するので、より早く(30〜100分)最大血液濃度に到達し、従って、また、通常のヒトインスリンよりも素早く作用を開始する。現在は廃止製品であるエクスベラ(登録商標)等の、肺投与のインスリン製剤は、迅速作用性類似体と同様の薬物動態を示す。何種類かの肺製剤、インスリンリスプロ及びインスリン−FDKPの薬物動態プロファイルが発表されており、インスリン−FDKPが、際立って速く最大濃度に達し、基準値に向かって減衰するのも早いことが示されている(Heinemann et al. Br J Diab Dis 4:295-301, 2004)。このように、超速効型インスリンは、投与後、2時間以内にインスリン低下活性のおよそ3分の2を使い果たすのに対し、これらの他の製剤は、通常、この同じ時間枠で費やすインスリン低下活性はおよそ3分の1以下である。その対極には、例えば24時間までという長時間に渡り、理想的に一定レベルのインスリン活性を提供するインスリングラルギンあるいはインスリンデテミル等の長時間作用性インスリンがある。これらは、基礎活性を提供することを目的としており、通常、1日に1回か2回投与される。このように、作用開始の迅速性は重大な因子ではない。最後に、中間作用性と称され、短時間作用性と長時間作用性の製品との間の作用持続時間を有するインスリン製剤がある。
【0094】
GERmaxへの迅速な到達に寄与するGERの強化作用は、インスリン濃度の上昇速度だけではなく、十分なピークの高さの達成に依存していると理解されている。これは、1型糖尿病患者の場合、少なくとも約60mU/L、好ましくは少なくとも約80mU/Lの最大インスリン濃度である。2型糖尿病患者の場合は、病状の一部であるインスリン抵抗性のため、より高いインスリン濃度を必要とすることがあり、抵抗性の程度に依存するが、通常は、少なくとも約100mU/L、好ましくは少なくとも約120mU/L、少なくとも約140mU/L、あるいはそれ以上である。従って、種々の態様において、ピークの高さは、投与前のインスリン濃度基準値を超えて、少なくとも60、100、または120mU/Lである。これらの最大インスリン濃度は、迅速または急速作用性と称されるインスリン製剤を含む皮下注射用標準製剤やこれまでに述べた同様な動態を有する非注射投与用製剤等の非スパイク型インスリン製品の通常用量で達する濃度よりも相当高い。
【0095】
初期相放出を模倣しないインスリン製剤類によって起こるインスリン濃度および作用遅延時間の比較的緩やかで小さな増加は、これら製剤のグルコース可動域制御能力を制限する。食事による血糖負荷が弱まった後に低血糖症が誘発されるのを避ける必要があるために、一般に、この投与できる用量は食事後の血中グルコースの上昇を制御するには十分ではない。これらの問題は、同時係属米国特許出願第11/278,381号に詳細に述べられており、これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。血中グルコース濃度の急激な変動(例えばMAGEとして測定。MAGE:血糖可動域の平均振幅)は、糖尿病関連性酸化ストレスに対して慢性高血糖症(通常はHbA1cレベルとして測定される)よりも大きい影響を与え、従って、このようなストレスの原因となる糖尿病性合併症の回避を制御するための重要な因子であることがわかってきた(Monnier, L., et al. JAMA 295:1681-1687, 2006; and Brownlee, M. & Hirsch, I. JAMA 295:1707-1708を参照されたい。これらは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。更に本発明者は、インスリン濃度の急激な増加や迅速な変化によりグルカゴンの産生が抑制され、肝臓グルコース放出が減少すると理解している。これにより、血糖負荷は下がり、その結果、インスリンに対する需要が下がり、グルコース可動域が縮小される。
【0096】
超速効型インスリンは、特に、食後血中グルコース(PPG)の制御に最適である(PPGの意義についての総説に関しては、MannKind Corporation. Postprandial hyperglycemia: Clinical significance, pathogenesis, and treatment. Valencia, CA: MannKind Corporation; 2009:1-20を参照)。超速効動態により、グルコースが食事から吸収されている時間に、インスリンの活動をより適切に合わせることができるだけでなく、また同様に、より迅速で有利な間合いで肝グルコース産生を抑制する(実施例1を参照)。このようにして、それは、食後高血糖症の一因である両グルコース源に対処する。本明細書において開示されている態様は、1時間及び2時間のPPGを140mg/dl以下、180mg/dl以下、または200mg/dl以下に抑制することを目的とする。驚くべきことに、PPGレベルの制御は、空腹時血中グルコースレベルに対しても、長期間の有益な効果があることも明らかになった。これらの特性及び下記の実施例に提示された臨床用途のデータを考慮することにより、本明細書には、インスリン−FDKP等の超速効型インスリンを、どのように単独、または標準経口抗糖尿病薬と併用し、現行治療パラダイムと対照的な形で特定の患者集団に有利に用いることができるかが開示されている。
【0097】
糖尿病の治療は、伝統的にHb1Acレベルに反映される平均血中グルコース濃度の制御に集中してきた。ここに開示した方法は、Hb1Acレベル(平均血中グルコース濃度)及び付随するグルコース毒性を最小限に抑えるだけではなく、グルコース濃度の急激な変動(グルコース可動域)を制御するように設計されている。グルコース可動域が低減すると、酸化ストレスに起因する微小血管系に対する一般的炎症性負荷および酸化的損傷も軽減する。従って、1種以上の経口薬剤を超速効型インスリンに置き換えても、HbA1cレベルの制御では同様の結果であるかもしれない患者の場合でさえ、この治療は、経口薬剤単独での治療よりも良い効果をもたらすことができる。実際、これは、基礎インスリンを治療計画に加えることでは達成できない効果である。また、単なる迅速作用性インスリンでは、特に、超速効型インスリンの最適化された用量と比較すると十分な効果を発揮することは期待できない。
【0098】
この効果は、初期相放出を模倣するインスリン製剤、即ち超速効型インスリン製剤を、少なくとも1日1回、好ましくは2回もしくは3回、または毎回の確定された食事もしくは毎回の間食を含む食事と共に日常的に投与することによって達成される。このような治療は、何日間、何週間、何カ月および何年の間であれ、患者の寿命が残っている限り(または基礎的インスリン関連性疾患が治るか、そうでなければ、軽減する時まで)、徐々に優先度を上げつつ、また有効性を高めていくために維持しなければならない。「日常的に」というのは、提唱される投与計画は理想的でかつ通常の用法であることを意味するが、実際の現場においての食事や服用の機会を時折逃す等のこの規定手順(protocol)からのずれが特許請求された本発明の範囲から逸脱するものではない。種々の態様において、もしインスリン投与がなければ血中グルコースを140mg/dL、あるいは180mg/dlより高くする食事または間食の全てと共に;1、2、3、またはそれ以上の主食交換を構成している食事または間食の全てと共に;約15、20、30、または45g以上の炭水化物を含む食事または間食の全てと共に、インスリンは日常的に投与される。
【0099】
本明細書に開示されている方法の態様は種々の投薬計画を含み、該投薬計画はすべての食事または間食時に投薬、炭水化物含量が15gより多いすべての食事または間食時に投薬、炭水化物含量が30gより多いすべての食事時または間食時に投薬、炭水化物含量が45gより多いすべての食事時または間食時の投薬を含むが、それらに限定はされない。用量および所望インスリン組成物濃度は想定される個々の使用によって種々に変わる。適切な用量または投与経路の決定は通常の医者の技術の範囲内である。しかしながら、医者は、最も一般的には、用量の連続的な変化を可能とする液体のインスリン製剤に精通している。インスリン−FDKPは、前もって秤量した単位用量で乾燥粉末として供給される。従って、個体に対するインスリン−FDKPの適切な用量を決める具体的な指示は、本明細書に開示されている。さらに、本発明による治療の長さは個々の使用によって変わることがあり、治療の長さの決定は通常の医者の技術の範囲内である。
【0100】
インスリン−FDKP等の超速効型インスリン製剤の活性プロファイルにおいて、急峻な吸収で大きな裾引きがないことは、他のインスリンに比較し、低血糖症を誘発する危険性が低いことも意味する。後期食後低血糖症の影響を弱めるために間食することは、標準インスリン治療に伴う体重増加の一因となると理解されている。対照的に、インスリン−FDKPの使用は体重増加が無く、実際は、体重減少が観察されている。
【0101】
インスリンの静脈注射は第一相応答を効果的に繰り返し、初期相応答を近似することはできるが、毎日複数回の投与を一生の間必要とする状態では実際的な治療法ではない。これらの理由のため、静脈注射用のインスリンは、本明細書に用いられているように超速効型インスリン製剤という用語には含まれない。伝統的皮下注射は急速作用性組成物を使用しても比較的緩やかに血流に吸収され、最大血中濃度に達するまでに最大1時間かかり、プラトーが数時間続く。評価した多くの肺組成物類は効果の点で皮下インスリンと同等で、同様に、上に定義した初期相放出を模倣するために必要な超速効的動態を得ることはできなかった。それにもかかわらず、肺内および経口投与等の非注射に基づいた送達や、あるいは吸収促進賦形剤を含む製剤の皮下注射を使用して、確実に速やかに吸収させる可能性は存在する。本明細書に記載の通り、ジケトピペラジンに基づいた乾燥粉末組成物を用いる肺内送達が利用されている。
【0102】
このように、好ましい態様は、ジケトピペラジン微粒子と錯体を形成したインスリンを含む乾燥粉末インスリン製剤の肺内投与によって所望の初期相様動態を得る方法を提供する。この製剤は迅速に吸収され、約10〜15分以内に最大血清レベルに達する。これは生理的食事関連性初期相インスリン応答の動態を十分速やかに模倣する。最大血清インスリン濃度への短時間の急上昇は、内因性グルコース産生の迅速な抑制にとって重要であり、遅効性組成物とは対照的に、インスリン作用の大部分を食事周辺時間に圧縮するという付加的な効果もある。これは正常グルコースレベルからの食事関連性可動域の大きさおよび持続時間を減らし、これらに関連するグルコース毒性、並びに食後低血糖症の危険性も減らす。この乾燥粉末インスリンで得られる、このような血中グルコースレベル制御の改善は、3/31/06出願の同時係属米国特許出願第11/278,381号により詳細に記載されており、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。米国出願第11/329,686号に開示され、上に記載があるように、先行する高いインスリンレベルはグルコース排出速度を促進するが、これは、先行する高いインスリン濃度スパイクがあれば、グルコースはより速やかに除去できることを意味している。
【0103】
ジケトピペラジン微粒子薬剤送達系および関連する方法は、米国特許第5,352,461号および第5,503,852号に記載されている。肺内デリバリーにおけるジケトピペラジンおよび生体内分解性重合体微粒子の使用は、米国特許第6,428,771号および第6,071,497号に記載されている。考えられる製剤および製法の種々の局面に関する詳細は米国特許第6,444,226号および第6,652,885号に、および米国特許第6,440,463号に、9/14/05出願の同時係属米国仮特許出願第60/717、524号および4/14/06出願の第60/776,605号に見いだされる。好ましい呼吸促進式(breath-powered)乾燥粉末吸入器の特性およびデザインは米国特許出願第10/655,153号に開示されている。ジケトピペラジン微粒子に錯化したインスリンを用いる治療の側面は、米国特許第6,652,885号並びに同時係属米国特許出願第11/032,278号に開示されている。更に米国特許出願第11/210,710号はジケトピペラジン塩類を使用して肺内および経口デリバリー両方のためのインスリンを処方することを開示している。この段落に記載された各々の特許および特許出願は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0104】
インスリン−FDKP、もしくは初期相放出を模倣する別のインスリンが、単独で投与されるか、または基礎インスリン、メトホルミン等の肝臓グルコース放出抑制剤もしくはチアゾリジンジオン(TZD)等のインスリン増感剤等の別の薬剤との併用で投与されるかに関わらず、超速効型インスリンは、確定された食事と共に、必要に応じ、毎日少なくとも1回、好ましくは、2回〜4回、あるいは最多で毎回の食事に投与される。治療の最大効果を達成するためには、長期間にわたり服用すべきであり、好ましくは12週間以上、もっと好ましくは24週間以上、さらにもっと好ましくは約6ヶ月から約2年、最も好ましくは患者の寿命が残っている限り、または原因となっている糖尿病が治るまでである。
【0105】
糖尿病の現在の治療は一般にHbA1cレベルを7%以下にまで下げることを目標としている。8%を超えるHbA1cレベルは、患者の現在の治療法を見直すべきことを示している。正常なHbA1cレベルを達成することは望ましいかもしれないが、市販のインスリン製品を用いる場合は、受け入れがたい重度の低血糖症の危険性がある状態でしか達成できないであろう。従って、8%より低いHbA1cの患者は、より集中的な治療、すなわち、インスリン、特に現行の食事時インスリンでの治療の候補者としては、通常は見なされないであろう。8%を超えるHbA1cレベルの患者でさえ、基礎あるいは混合インスリンを投与されていない場合、食事時インスリンでの治療の候補者としては、通常は見なされないであろう。本明細書に開示された態様においては、一つには、超速効型インスリンはインスリン活性の裾引きがないために、低血糖症の危険性は大きく低下し、HbA1cが7%未満の患者を治療することは可能である。更に、正常値範囲の上限でさえ、血中グルコースを下げることでの効果が期待できる。例えば、ある研究では、心臓血管疾患を起こす危険性はHbA1cが5%未満の個体に比較し、7%を超える個体の方が5〜8倍であったと報告している。別の研究では、HbA1cが6%未満から8%超になると、腎臓疾患の危険性が漸進的に増加することを報告している。従って、いくつかの態様において、治療のために、HbA1cレベルが6.5%以下もしくは6%以下の患者が選ばれる。これらの方法は、一般に、人間の患者に関して議論されているが、人間以外の哺乳動物への適応は、本開示及び関連分野技術の能力の範囲を超えるものではない。
【0106】
(個々の用量の決定)
インスリン−FDKPは、吸入器に挿入する予め秤量した粉末を含有するカートリッジで供給される吸入用の乾燥粉末製剤である。このインスリンは、肺に粉末を送達する吸入器から吸入することによって投与される。種々の用量を含むカートリッジが供給され、個体の用量は、所望の用量を含む単一のカートリッジを用いるか、複数のカートリッジ(一度に1個)を用いるかのいずれかで得られる。
【0107】
患者は、7%を超えるHbA1cを有する等の不適切に管理されている高血糖症の糖尿病患者、あるいは、適切に管理された血中グルコースレベルではあるが超速効型インスリンを用いて得られるその他の利点(例えば、減量、体重増加の回避、低血糖症の危険性の減少、グルコース可動域の減少等)を生かしたいと望んでいる糖尿病患者である可能性がある。
【0108】
個々の用量の決定は、7点SMBG(血清測定血中グルコース)を用いて食後2時間血中グルコースの最高レベルとなる日常食の特定(即ち、朝食、昼食、夕食、一定時間での間食他)から始まる。その食事に対して用量を徐々に増量する。一旦、その食事に対する適切な用量を確立すると、次に高い血中グルコースレベルに繋がる日常食に対する用量設定することを続け、全ての日常食に対する用量を決定した。一態様において、初回の用量は用量設定されていない食事と共に服用する。別の態様では、全日常食に対する用量設定は、順番にではなく同時に行われる。用量設定の対象の食事は、量と食物成分内容がその患者にとって「普通」で、かつこれらの因子の変動がほとんどないことが好ましい。
【0109】
用量設定は、問題の食事と共に1個の低用量のカートリッジを用いることから始める。低用量のインスリン−FDKPカートリッジは、例えば、6または12Uの放出用量のインスリンを供給できる。最も一般的には、用量設定は、12Uカートリッジで行われるが、体重が少なく制御すべき高血糖症の程度が軽い、及び/あるいはインスリン抵抗性の程度が軽い患者は、より少ない用量で用量設定を始めること、及び/または、より少ない増加分での用量設定を進めることを好むかもしれない。分かり易くするために用量設定を12U用量に関して下記に説明するが、当然ながら、同様に6U用量や他の低用量カートリッジに基づいて用量設定してもよい。同様に、たとえ、用量設定が入手可能な最低用量のカートリッジに基づかない場合でも、下記の手順に対する代替として用量の最後の増量分(または減量)を投与するのに、より少用量の低用量カートリッジ用いることができる。
【0110】
最初の用量は1週間用いられる。その後は1週間毎に、食事に対する用量を低用量カートリッジの用量(即ち、12U)分だけ、1)食後2時間平均グルコースが70と110mg/dlとなる、2)放出用量に基づく用量が72Uとなる、または、3)低血糖症の症状が発現するまでのいずれかになるまで増量を行う。SMBGが70mg/dl未満であることが確認されている軽度から中程度の低血糖症の症状が発現した場合は、低用量(即ち、12U)カートリッジ1個分の用量を減量し、1週間の間、その用量を維持し、その後用量設定を再開する。SMBGが36mg/dl未満であることが確認されている重度の低血糖症の症状が発現した場合には、低用量(即ち、12U)カートリッジ1個分の用量を減量し、この新しい用量を維持し、次の食事から用量設定を始める。別の態様では、70mg/l及び110mg/lの間の食前血中グルコースもまた用量設定の終点として用いることができる。いくつかの態様においては、上記の用量の段階的増量を終わらせる第二の基準がより高い終点用量で定められているか、あるいは基準を全く使わない。
【0111】
別の態様において、初回の用量は相対的生体利用度に基づいて皮下投与されるインスリンの用量から見積もることができる。これは、以下の実施例で使用されている以外の製剤及び吸入器系にこの漸増減用量設定方式を適合させる際に重要となる。より普遍的な基準は、インスリン暴露(血中インスリン濃度の経時でのAUC)に従って用量を特定することによって得られる。用量設定は上述の通りで、放出される12Uは、3〜4皮下当量単位(subQ eq)に相当する。従って、種々の態様において、低用量は、例えば、約1,1.5、2、3、4または5皮下当量単位である。段階的用量増量の限界は、約18、24、32皮下当量単位またはそれ以上であり得る。
【0112】
患者が既にインスリン投与療法を受けている場合は、用量の皮下当量単位での表現によって、超速効型インスリンの使用への移行も容易になる。患者が既に食事時インスリン療法を受けている場合は、現在使っているのと同じ皮下当量単位の用量で始め、そして上述のように基本的には、そこから漸増、漸減する。もし、患者が、長時間作用性インスリン単独または短時間及び長時間作用性インスリンの混合物による療法を受けている場合には、1日分の全用量の50%を1日の食事数で割るべきであり、その皮下当量単位で表した量の超速効型インスリンを用量設定における初回用量として用いるべきである。超速効型インスリンが現行の用量と完全な一致ができない形で供給される場合には、初回用量として用いる超速効型インスリンの用量に最も近くなるように切捨てまたは四捨五入(つまり増減)する。一態様において、この選択は、医者に任せられるが、特別な態様では、どちらの選択かが指定される。
【0113】
従って、本明細書に、1個の低用量カートリッジ相当の初回用量を1週間、毎日食事と共に投与する工程を含む、日常食のためのインスリン−FDKPの個々の用量を決定する方法が提供される。その後は、1週間毎に用量を1個の低用量カートリッジ分だけ、用量設定終点に到達するまで増量する。ここで、用量設定は以下の群から選ばれる。即ち、1)食後2時間平均グルコースが70(あるいは80)と110mg/dlとの間になる;2)放出用量に基づく用量が72Uとなる;3)SMBGが36mg/dl未満であることが確認されている重度の低血糖症の症状が発現し、次いで用量を1個の低用量カートリッジ分だけ減量する;及び4)SMBGが70(あるいは80)mg/dl未満であることが確認されている軽度から中程度の低血糖症の症状が発現し、低用量カートリッジ1個分の用量を1週間減量し、次に、用量設定を再開し、その他の終点の中の1つに到達するまで続けるか、または、用量を軽度から中程度の低血糖症を起こすレベルよりも下に設定する。
【0114】
本明細書に開示された態様は、毎日の各々の食事に対する用量を、毎日の食事ごとに上記に記述されたように連続して決定する方法を含む。この態様は、どの日常食が食後2時間血中グルコースの最高レベルとなるかを決定し、最初にその食事を用量設定の対象にすることを含む。いくつかの態様において、この決定は7点SMBGを用いる。そうして、食後2時間血中グルコースが次に高いレベルとなる日常食が順番に用量設定の対象となる。初回の用量は、用量が確定していない各々の食事と共に用量設定をせずに投与される。別の態様において、全ての食事に対する用量設定を同時に行う。
【0115】
一態様において、低用量カートリッジは、3〜4皮下当量単位のインスリン放出用量を提供する。別の態様において、低用量カートリッジは、1.5〜2皮下当量単位のインスリン放出用量を提供する。いくつかの態様において、用量設定の終点の群は、70と110mg/dlの間の食前血中グルコースレベルを含む。
【0116】
種々の別の態様において、用量設定は、上記のように1週間に渡り毎日実施されるのとは対照的に連続3日間以上の測定、更に、あるいは、1週間の間での3〜6日間の測定に基づく。その他の態様において、用量設定は食後2時間SMBGの代わりに、食前/就寝前SMBGに基づく。即ち、昼食前測定は朝食時用量の決定に用いられ、夕食前測定は昼食時用量の決定に用いられ、就寝前測定は夕食時用量の決定に用いられる。
【0117】
(標準用量の使用)
伝統的な食事時インスリン治療は、その量と内容に基づいた個々の食事の予測される血糖負荷に対する慎重な調整を必然的に伴ってきた。この必要性は、超速効的インスリン製剤を使用することにより回避、または少なくとも小さくすることができる。伝統的な食事時インスリン製剤は、皮下注射/注入による投与であれ、吸入による投与であれ、主に比較的長時間に渡りグルコース排出速度を高めることによって、血中グルコースレベルに効果を及ぼす。引き起こされる全グルコース排出は、投与した用量に一般的に比例する。それに対し、超速効型インスリン製剤は、比較的制約された時間で効果を及ぼし、かつ、血中グルコースレベルに対する効果の大部分は、迅速に肝臓グルコース放出を基準値まで減少させる結果である。超速効型インスリンで得られる血中インスリンレベルの急速な上昇は、グルコース排出活性の迅速な上昇を強化し、また、グルコース放出を減らすための信号を肝臓に送る。しかしながら、これらの効果をもたらすために達成されたインスリンのこの高濃度は、グルコース排出速度(GER)がインスリン濃度に比例する範囲を超えている。このようにして、インスリン用量を増加させることはGERが上昇する期間を延ばすが、これは、GERがインスリン濃度に比例する範囲をインスリン濃度が越える期間を延ばすことによって引き起こされる。従って、超速効型インスリンによる全グルコース排出は、用量に対して感受性がかなり低い。その上、相対的には長時間で作用する伝統的な短時間作用性製剤を用いた場合よりも、インスリン濃度は、投与後より早く基準値に戻り、効果も限られた時間で発揮され、恒常性維持機構もはるかに早く再び働き、それによって、外因性インスリンの活性によって、後期食後低血糖症の可能性が小さくなる。
【0118】
その結果、毎日の食事ごとに標準用量を設定し、食事ごとのカロリー含量あるいは血糖負荷の変動を考慮せずにその用量を用いることが可能である。血中グルコース低下効果のほとんどが、肝臓グルコース放出の減少に関係しているので、たとえ、通常よりも大量の食事を摂取しても、用量を血糖負荷やカロリー負荷に慎重に適合させなくても、効率的な低下が達成される。GERの上昇は、比較的寿命が短く、一般に、食事が血中グルコースレベルを上げる時期に時間的によく一致しているので、たとえ、より少ない食事を摂取しても低血糖症の危険性は小さい。それにもかかわらず、好ましい態様においては、食事のカロリー含量及び/または血糖負荷は、(標準用量の決定に使用される)通常の食事の25、50、または75%から125、150、200、または250%までの範囲以内に維持される。インスリン抵抗性、従って、インスリンに対する応答性は概日周期によって変わるので、毎日の各々の食事に対して標準用量を設定するのが一般的には好ましい。但し、実際問題としては、決定された標準用量は、異なる毎日の食事に対し同じとなるかもしれない。この方法は、病気の進行の初期段階の第2糖尿病患者等の、インスリンを産生し、血中グルコースレベルを調節するために十分な残存能力がある糖尿病患者には特に最適である可能性がある。
【0119】
従って、本明細書に、個々の食事内容に基づいて調節を行わない標準用量で糖尿病を治療する方法が提供される。該方法は、食事の内容に基づく用量の調節をしない、超速効型インスリン製剤の所定標準用量の食事時投与を含む。様々な態様において、該方法に従って、あらゆる日常食が扱われ、即ち、例えば、朝食、または朝食と昼食、または朝食と夕食、または朝食、昼食と夕食等が挙げられる。いくつかの態様では、単一の所定の用量が全ての食事に対し用いられる。好ましい態様では、毎日のそれぞれの食事に対して、即ち、例えば、朝食に対して、昼食に対して、夕食に対して所定の用量が用いられる。いくつかの態様において、食事内容は、カロリー内容として評価される。その他の態様において、食事内容は血糖負荷として評価される。好ましい態様において、食事内容は、所定のインスリン用量の決定に用いる通常の食事の25、50、または75%から125、150、200、または250%までの範囲以内に維持される。
【0120】
一態様において、超速効型インスリン製剤はインスリン−FDKPである。別の態様において、投与は、肺への吸入によって行われる。
(分割、追加、及び遅延用量の使用)
伝統的な食事時インスリン投与療法では、摂取される食物量の予測に基づいて用量を選び、次に、摂取をこの事前の予測に一致させる試みを行う。食物がより多量に摂取される、あるいは、炭水化物、食物繊維、及び脂肪の比率が通常や予測と異なる場合、これらの因子を高い確信度で分かっていても、伝統的な製剤の投与と作用の開始との間に遅れがあるため、食事に続く2次用量の投与によって、血糖制御を改良するのは不可能である。それに対し、超速効型インスリン製剤は即効性があるので、食事に続く2次用量の単回投与によって、インスリンの用量を食事に適応させるのに好都合である可能性がある。分割投与の使用は、優れた内因性インスリン産生とほんの中程度のインスリン抵抗性を有する2型糖尿病患者以外の糖尿病患者、例えば、(この病気の「ハネムーン」段階を超えた)1型糖尿病患者及びこの病気の進行の後期である2型糖尿病患者等の糖尿病患者に特に最適である。
【0121】
この投与方法の一適用において、分割投与は、遅延型吸収が予測される食事に適用される。遅延は、病状に起因する場合があり(長期の糖尿病は、遅延型栄養吸収を伴う)、あるいは、食事の内容に起因する場合もある(脂肪や植物繊維の含量が高いと食物の吸収を遅らせる傾向がある)。分割投与の使用は、また、コース料理、あるいは、その他、祭日の祝賀会や宴会等における長い食事と共に有利に用いられる。たとえ個体が通常の食事に従って全摂取量を制限したとしても、摂取が通常の時間よりも長時間に延びるという事実もまた、結局、栄養吸収の延長をもたらす。分割投与は、栄養吸収の遅延的プロファイルに対処する方法を提供する。単回投与の場合であれば食事と一緒に用いると考えられるインスリンの用量と比較して、その用量の1/2〜3/4、例えば2/3、を食事開始時に投与し、その用量の残りを30分〜120分後に投与するのである。
【0122】
従って、更なる態様によって、遅延型栄養吸収であると予測される患者を選択し、食事開始時に超速効型インスリン製剤の所定の用量の1/2〜3/4の初回用量を投与し、その所定の用量の残りを30分〜120分後に投与する方法が提供される。一つ態様において、初回の用量は所定用量の2/3である。いくつかの態様では、遅延型吸収は病状(糖尿病)に関連する。他の態様では、遅延型吸収は食事の内容に関係する。これらの態様の更なる側面において、食事の内容は高植物繊維含有量を含む。これらの態様の他の側面において、食事内容は高脂肪含有量を含む。別の側面において、高脂肪含有量は食事内容の内、25%以上を占める。別の側面において、高脂肪含有量は食事内容の内、35%以上を占める。一態様において、超速効型インスリン製剤はインスリン−FDKPである。別の態様において、投与は肺への吸入によるものである。
【0123】
この投与方法の別の適用において、分割投与は、インスリン投与を実際の血糖負荷に適合させるために用いられる。初回用量を食事開始時に投与し、血中グルコースレベルを60〜120分後に定量し、血中グルコースが140mg/dlを超える場合には、2次、即ち追加用量を投与する。いくつかの態様において、2次用量は、初回用量の50〜100%に等しい。いくつかの態様において、血中グルコースは連続グルコース監視によって測定される。
【0124】
従って、更なる態様によって、糖尿病患者を治療する方法であり、食事開始時に超速効型インスリン製剤の初回用量を投与し、食事開始後60〜120分に血中グルコースレベルを定量し、この血中グルコースレベルが140(あるいは150)mg/l超える場合には、超速効的インスリン製剤の2次用量を投与することを含んでなる方法であって、2次用量の投与量が初回用量の投与量の25%、または50%から100%である方法が提供される。一態様において、超速効型インスリン製剤はインスリン−FDKPである。別の態様において、その投与は肺への吸入によるものである。
【0125】
この投与方法のひとつの変形において、食事開始時には用量の投与を行わない。その代り、投与を、食事開始後、例えば、10、15、20または30分まで遅らせる。この変形は、遅延型栄養吸収が予測される場合に特に適している。
【0126】
従って、本明細書に開示されている態様によって、遅延型栄養吸収が予測される患者に、食事開始後に超速効型インスリン製剤の用量を投与することを含んでなる糖尿病の治療方法が提供される。一態様において、遅延型吸収は、用量の決定に用いられる通常の食事に比較し、高い脂肪と食物繊維の含量が原因である。別の態様において、遅延性吸収は長期糖尿病が原因である。一態様において、超速効的インスリン製剤はインスリン−FDKPである。別の態様において、その投与は肺への吸入によるものである。
【0127】
(皮下インスリン抵抗性患者の治療)
インスリン−FDKPの利点の多くはその超速効動態と関連している。しかしながら、インスリン−FDKPは、通常は、乾燥粉末製剤の吸引により投与される。その投与の経路のために、この製剤から付加的な恩恵を受けることができる患者群があり、即ち、それは皮下インスリン抵抗性の患者である。この現象は、2型糖尿病と通常は関係する、体全体の細胞のインスリンに対する応答性の低下に起因すると一般には理解されているインスリン抵抗性とは異なり、無関係である。
【0128】
皮下インスリン抵抗性の現象は、糖尿病の専門家によって、本物の生理学的状態としては必ずしも普遍的に認められてはいない。確かに、この病因は、十分に理解されておらず、実際に、この病状に至る可能性のある要因は多く存在するであろう。とはいえ、吸入可能なインスリンの経験が、この現象の臨床学的現実を実証している。皮下投与されるインスリンで治療を受けている場合は、他の治療を受けている場合に必要と予測される量よりも相当多量の用量を必要としてきた患者が、肺インスリンに切り替えると、インスリンの必要量が彼らの病状に基づいて予想される量とより合致する患者がいる。皮下インスリン抵抗性も、高血糖症の合理的な制御の確立の困難さやインスリンに対する応答の変動の一因となっている可能性がある。
【0129】
予め皮内インスリン抵抗性の糖尿病患者を特定するためには、いくつかの要因を考慮することができる。第一に、特に、体重及び病気の進行状態を含む医学的状態に基づくと、一般に必要であると考えられる用量に比べ、患者は高用量のインスリンを用いている。例えば、高用量のインスリンは、2単位/Kg/日を超えるものである。この基準は、さらに、正常または正常に近い基礎レベルの内因性血清インスリン、例えば、50μU/ml以下のインスリンを有する患者と組み合わせることができる。このような患者は、一般に、病気の進行の初期段階で2型糖尿病になる。あるいは、高インスリン使用は、診断基準として、皮下脂肪委縮症や脂肪異栄養症と組み合わせることができる。
【0130】
また別の態様において、高インスリン使用は、選択基準として、制御が非常に不十分な高血糖症と組合せることができる。制御が非常に不十分な高血糖症は、例えば、6ヶ月以上に渡る基礎―ボーラス治療もしくは持続皮内インスリン注入(CSII、即ち、インスリンポンプ)等の強化インスリン療法による治療にもかかわらず、12ヶ月間での3回のHbA1cレベル定量が9%以上であることで証明される。一般に、HbA1cレベルは、四半期毎に定量される。3回のHbA1cレベル定量の9%以上は連続していることが好ましい。別の態様において、非常に不十分に制御された高血糖症は、6〜9ヶ月間で、3回のHbA1cレベル定量が9%以上であることで証明される。
【0131】
更に別の態様において、高インスリン使用は、選択の基準として生命の危険を脅かす血糖不安定性と組合せることができる。生命の危険を脅かす血糖不安定性は、食事、運動、及びインスリン療法の順守にかかわらず、高血糖症及び/または低血糖症である期間によって特徴づけられる。
【0132】
したがって、本明細書に皮下インスリン抵抗性を有する糖尿病患者を治療する方法が提供される。これらの方法は、通常とは異なる高いインスリン用量に基づいて皮内インスリン抵抗性の患者を選択する工程を含む。いくつかの態様において、インスリン用量は、2単位/Kg/日以上である。ある実施態様では、さらに、選択は、正常または正常に近いレベルの内因性基礎インスリンを有する患者に基づいている。これらの患者の一部において、基礎レベルの内因性インスリンは、50μU/ml以下である。他の態様において、さらに、選択は、強化インスリン療法を受け、12ヶ月間で3回のHbA1cレベル定量が9%以上である患者に基づく。さらに他の態様において、さらに選択は、インスリン療法及びあらゆる食事もしくは運動療法の順守にかかわらず、高血糖症及び/又は低血糖症の期間によって特徴づけられる生命にかかわるほど血糖値が不安定な患者に基づいている。
【0133】
これらの方法は、皮下投与用の迅速作用性、短期作用性、または中間作用性のインスリン製剤を用いる治療を中止する工程も含む。基礎要件を満たすのに十分なインスリンを産生できない患者は、たとえ、基礎インスリンを皮下投与しても、基礎インスリンを取り続ける必要があることに注意すべきである。現在、市販されている基礎(長時間作用性)インスリンは、皮下投与用のみである。しかしながら、他の投与経路で潜在的に投与しうる他の長時間作用性インスリンが開発中であり、この明細書の方法にそれらを用いることが想定されている。これらの方法は、インスリン−FDKPの食事時用量の吸入による投与での治療(開始)の工程も含む。
【0134】
さらなる態様は、実質的により低用量のインスリンにより、同程度、あるいはより改善された血糖制御が達成されていることを決定することによって皮下インスリン抵抗性であるという診断を確定する工程を含むことができる。いくつかの態様において、血糖制御は、HbA1cレベルとして評価される。他の態様においては、それは、食後及び/または空腹時血糖グルコースレベルとして評価される。様々な態様において、インスリン用量(いかなる基礎要件も除く)は、10%以上、20%以上、または50%以上、またはそれ以上の減量をされる。いくつかの態様において、減量した用量は、血清インスリンレベルの測定から評価される。その他の態様において、それは使用した用量及びインスリン製剤の相対的生体利用度に基づく。
【0135】
(超速効型インスリンと長時間作用性インスリン類似体の併用)
超速効型インスリンの使用方法は、基礎−ボーラス療法において、それを長期作用性インスリンと併用することである。基礎−ボーラス療法において、長時間作用性インスリンは、インスリンの基礎レベルを供給または補足し、次いで、短時間作用性のボーラスは、食事の結果の増加したグルコース負荷を処理するために食事と共に投与される。超速効型インスリンは様々な有利な特性を有するので、このような療法における短時間作用性インスリンとしての使用には理想の選択である。
【0136】
多くの長期作用性インスリンは、1日に2回投与するが、インスリングラルギン(サノフィアベンティス(Sanofi-Aventis)によるランタス(LANTUS)(登録商標)として販売)は1日1回の投与用として認可され、市販されている。製造元の処方情報(2007年3月改訂)によると、インスリングラルギンは、24時間にわたって比較的一定のグルコース低下活性を提供し、毎日、同時間に投与するという条件で、1日のいかなる時間に投与してもよい。さらに、インスリンデテミル(ノボノルディスク(Novo Nordisk)のLEVEMIR(登録商標)として販売)は、夕食または就寝時に1日2回または1日1回のいずれかの投与用(2007年5月16日発行の製造元の処方情報、第3版)として認可され、市販されている。
【0137】
臨床試験では、インスリングラルギンと併用するインスリン−FDKPを含む超速効型インスリン製剤は、グルコース可動域の管理に効果的であることが分かった。7点の血中グルコース測定において、インスリン−FDKPは、食後グルコース可動域に起因するギザギザのパターンを平坦化することができたが、1日を通して基準値の血中グルコースレベルが上昇する傾向がみられた。同様の傾向は、1型糖尿病患者(実施例2及び図12参照)及び2型糖尿病患者(図13参照)で観察された。この上昇に関与する可能性のあるいくつかの要因が存在する。インスリン抵抗性は1日を通して上昇する傾向がある。さらに、製造元の処方情報に想定されているように、インスリングラルギンを就寝前の夕方に投与した。このように、インスリンの活動に対する最も大きな需要は、インスリングラルギン用量の有効性が弱まっている有効性保持期間後期に発生する。
【0138】
典型的な組合せでは、インスリングラルギンは食事時短時間作用性インスリン、または短時間作用性インスリンと中間作用性インスリンの混合物のいずれかと併用し、朝食前及び夕食前に投与される。中間作用性インスリンは、食事及び食間の時間帯にグルコース低下活性を提供することを目的としている。市販の短時間作用性インスリンといっても、その活性は食事の栄養の大部分が吸収された後に発揮される。従って、インスリングラルギンとより短時間作用性のインスリン類の組合せを伴う一般に使用される療法においては、その他のインスリン類は目覚めている間は、補足的な活性を提供する。一方、インスリン−FDKPは作用時間が短く、食事がグルコース負荷を増加させる時間によく一致しているが、基準値制御に十分なインスリン活性はない。したがって、インスリン−FDKP等の超速効型インスリンと併用した場合、確立されている療法と比較すると、インスリングラルギンの用量あるいは持続時間の不足が目立つ。インスリンデテミルは、インスリングラルギよりも作用時間が短いので、1日に1回の使用の場合、このような欠陥がいっそう顕著に現れる。そのような効果を修正するためには、超速効型インスリン及び長時間作用性インスリン類似体を併用した療法は、長時間作用性インスリン類似体を、例えば朝食時間もしくは目覚めた後、1、2、3または4時間以内の、起きている時間の早い段階に投与することを指定する必要がある。いくつかの態様においては、長時間作用インスリン類似体の早い段階での投与は、1日にただ1回の投与である。他の実施例において、長時間作用性インスリン類似体はインスリングラルギンである。また、それは1日2回の投与で、初期投与と後期投与であり、後期投与は約8〜14時間後、好ましくは10〜12時間後で例えば夕食時間前後である。睡眠と覚醒の典型的な周期とは、人が通常は夜に、長時間眠り、そして目覚め、その日の残りは活動し、それでも昼寝はするということが想定されている。したがって、「目覚め後一定時間内」、「起きている時間の早い段階」等の表現や類似の用語は、被験者が目覚め、1日の活動を始める時点を指す。
【0139】
(超速効型インスリンと注入により投与される基礎インスリンの併用)
インスリンポンプは血糖値制御を助けるために適切な時間に様々な形態のインスリンを送達する小型の装置である。正しく使えば、これらの装置は、血中グルコース制御を改善し、低血糖症の発現を少なくし、より優れた長期間の制御をもたらす。ポンプはプログラム可能であり、ポンプにより、インスリン送達速度を1日の様々な時間に適合させ、何を、いつ、あるいはどの位食べるかを変える自由度が患者に与えられる。インスリンポンプの最新モデルは、比較的使用し易く、運搬に便利である。これらの新しいポンプは、以前、患者が行っていた複雑なインスリン用量計算を処理する計算機が内蔵されている。患者は、変化するニーズに応じて、様々な基礎インスリン送達速度を1日の様々な時間に対して行うのと同様にボーラス用量を食事と一致させるようにプログラムすることができる。これらのポンプは、前回のボーラス用量からどれだけのインスリンがまだ働いているかも計算する。中には、プログラム可能な催促通知と警告、患者に正確な記録管理のために情報をコンピューターに保存する情報ダウンロード能力、食事で摂取した炭水化物量を計算する炭水化物データベース及び特定の安全機能等の追加の高性能機能を有するポンプもある。
【0140】
長時間作用性インスリンの皮下ボーラス注射に代わる手段として、連続注入によって基礎インスリンを投与することも可能である。インスリンは持続的に供給されるので、この方法は、長時間作用性インスリンの必要性をなくす。この方法は、このような製剤に関連する、例えば、免疫原性の増加または類似体で発生する可能性のあるインスリン様成長因子受容体との結合等の欠点を回避することもできる。注入速度は1日を通してこの方法で変えることができるので、基礎インスリン活性のプロファイルはもっと容易に食事や個体の生理機能の変化に合わせることができる。(インスリンポンプの機能は、下記の人工膵臓系を扱う節でもっと詳しく論じる)。インスリンポンプを用いた一般的な方法論は、迅速作用性類似体の1種を用い食事時及び基礎インスリン要求の両方に対処することを狙っている。ポンプが、基礎インスリンの投与のみ用いられている場合(食事時非ポンプ超速効型インスリンと同様に)、通常のヒトインスリンを用いることができる。しかしながら、より安定性が低い基礎インスリン要求の患者に対しては、より迅速な動態の超速効型類似体が利点を提供できる。
【0141】
したがって、基礎インスリン要求に対応するためにインスリンポンプによってインスリンを注入すること、及び食事時要求に対応するために超速効型インスリンを投与することを含む糖尿病を治療する方法が提供される。いくつかの態様において、ポンプで供給されるインスリンは通常のヒトインスリンである。他の態様において、ポンプで供給されるインスリンは迅速作用インスリン類似体である。一つの態様において、超速効型インスリン製剤はインスリン−FDKPである。別の態様において、超速効型インスリンの投与は肺に吸入することによる。
【0142】
(経口抗糖尿病薬剤と併用する、または置き換える超速効型インスリンの使用)
2型糖尿病の治療における看護の標準は、米国糖尿病協会及び欧州糖尿病学会が共同で発表した合意文書に定義され、定期的に更新されている。下記に提唱、要約された治療の一般的なコースは、治療アルゴリズムにGLP−1作用薬を追加するという最新の更新版での非常に重要な修正はあったが、近年はほとんど変更がない(例えば、Nathan et al. Diabetes Care 29:1963-1972, 2006; Nathan et al. Diabetes Care 31:173-175, 2008; 及び Nathan et al. Diabetes Care 32:193-203, 2009を比較のこと)。
【0143】
これらの合意文書に提唱されている治療のコースは、生活様式の変更と診断での薬剤のメトホルミンから始まる(工程1)。生活様式の変更には、食事の改善と運動量の増加が含まれる。メトホルミンはビグアナイドとして分類される薬である。歴史的に、これらの薬はインスリン増感剤として記載されているが、その主な効果は肝臓グルコースの産生を減少させることである。この活性はインスリンの存在に依存しているように見え、メトホルミン治療はいくらか増加したインスリンに対する感受性と関連づけることができる。ただし、この明細書では、用語「インスリン増感剤」をビグアナイドには適用しない。というのは、作用機序が、現在ではより一般的にこの用語で表されているチアゾリジンジオンの作用機序(インスリン感受性を高める主効果)とは異なるからである。メトホルミンは1日中存在しているので、その効果は、空腹時血中グルコースレベル(FBG)の減少として観察される。患者の約30%はメトホルミンに耐性がなく、少なくとも許容される血糖値制御に対して適正な用量での胃腸に対する副作用が主要な問題である。メトホルミン(ブリストルマイヤーズスクイブ社のグルコファージ(GLUCOPHAGE、登録商標)として販売)の処方情報(2009年1月改訂)には、腎臓病、機能不全、薬に対する過敏症、代謝性アシドーシスの患者に使用する場合の禁忌及びその他の注意事項が含まれている。
【0144】
適切な血糖制御が工程1の治療で達成できない(一般にHbA1cが7%以上に留まる)場合、工程2の治療では、第2の薬剤の追加を必要とする。これは、基礎インスリン、スルホニル尿素、ピオグリタゾン、またはGLP−1作用薬である可能性がある。2種の薬剤(第2の薬剤は基礎インスリンではない)でもなお適切な血糖制御が確立されない場合は、合意に基づき、第2の薬剤を基礎インスリンに切り換えるか、第2の薬剤としてスルホニル尿素とピオグリタゾンの組み合わせを用いるかのいずれかが必要とされる。スルホニル尿素とピオグリタゾンの組み合わせでもなお適切な血糖制御が確立されない場合は、合意に基づき、第2の薬剤を基礎インスリンに切り換える。これらの道筋のいずれによる場合でも、最初に用いるインスリン療法は基礎インスリンであることが合意によって提唱されている。
【0145】
スルホニル尿素はインスリン分泌を促進する物質である。この分類に含まれるのは、薬剤のクロルプロパミド、グリブリド、グリクラジド、グリメピリド及びグリピジドである。これらの薬剤の重要な問題は、低血糖症の危険性が大きいことであり、特に、クロルプロパミド及びグリブリドで顕著である。これらの薬剤の使用は心血管疾患による死亡率の増加にも関係してきた。体重増加はこれらの薬剤で普通に見られる。スルホニル尿素に典型的な、禁忌、注意事項及び薬物相互作用は、グリビジドの処方情報(ファイザーによりGLUCOTROL(登録商標)として販売:2006年9月改訂)で見つけることができる。インスリン分泌促進物質が、既に酷使された膵臓に対する要求を増加させ、β細胞機能を漸進的に低下させ、長期的有用性を制限するという懸念も上がっている。その他のインスリン分泌促進物質としては、グリニド等が知られており、例えば、レパグリニドとナテグリニドが挙げられる。これらの薬剤による体重増加の危険性はスルホニル尿素に類似しているが、低血糖症の危険性はそれ程高くないかもしれない。GLP−1作用薬及びDPP−4(ジペプチジルペプチダーゼ−4)阻害剤もインシュリン分泌促進物質と考えることができる。使用状況では、インシュリン分泌促進物質は1日中活性を有するので、それらの効果はFBGの減少として容易に見られる。
【0146】
ピオグリタゾン(武田薬品工業よりアクトス(ACTOS、登録商標)として販売)は、2型糖尿病のインスリン抵抗性という状況を弱め、筋肉、脂肪及び肝臓のインスリンに対する感受性を高めるチアゾリジンジオン(グリタゾン、TZD)であり、従って、一般にインスリン増感剤と呼ばれている。TZDは、体液貯留及び鬱血心不全、また、特に骨粗鬆症の女性において、骨折の増加割合の上昇と関連付けられている。TZDには、また、さらに心筋虚血と関連付けられている薬剤のロシグリタゾン(グラクソスミスクラインによるアバンディア(AVANDIA、登録商標)として販売)が含まれている。体重増加等のこれらやその他の副作用、注意事項等はアクトス(登録商標)(2008年8月版)及びアバンディア(登録商標)(2008年10月版)の処方情報に報告されている。
【0147】
第2工程での基礎インスリンを含む治療によっては適切な血糖制御を「もし達成できない場合」(あるいは、2型糖尿病は進行性疾患であるので、「達成できない時」)には、合意アルゴリズムにおける第3(そして最終)の工程に到達する。第3工程では、これまでの工程での生活様式の変更及びメトホルミン治療を、強化インスリン治療と共に続けるように提唱されている。記載の通り、強化治療は、迅速作用性インスリン類似体の食事時使用を含むことができるが、当然、基礎インスリンの継続使用を伴う。
【0148】
この明細書に開示された態様に従って治療される患者集団は、最も一般的にインスリン治療を受けている集団とは異なる。確かに、現在のパラダイムに従って臨床医が個体に対してインスリンを処方せざるを得ない諸要因からは、特に、市販のインスリン製剤のはっきりとした薬物動態プロファイルを前提として考えると、超速効型インスリンが経口抗糖尿病薬に比べて、より有効であることを明らかにすることはできない。さらに、上述で分かるように、インスリンの使用は、通常は基礎インスリンから始め、基礎インスリンの単独使用が失敗した後に初めて食事時インスリンが追加される。一方、本明細書で開示された方法は、治療進行の初期における食事時超速効的インスリンの使用を含む。
【0149】
初期段階のインスリン障害の患者は、様々な部分母集団に分割され、本発明の様々な態様に従って治療を受けることができる。一部の人は、非高血糖症の空腹時血中グルコースレベルを維持するために十分なインスリンを産生するが、食事後の血中グルコースの急性変動を回避することができない。早期2型糖尿病患者は、多くの場合、食事療法と運動を利用し、相当な高血糖症でも制御できるが、既に初期相インスリン放出がない。実際には、食事療法や運動に失敗した患者は、ほとんどの場合、次に、インスリン抵抗性の克服と産生されるインスリンの有効性の向上を目標とし、メトホルミン等の肝臓グルコース産生の抑制剤で治療される。本明細書に開示された態様において、これらの患者は、インスリン増感剤の置き換え、もしくは追加で食事時初期相模倣インスリン製剤を投与される。頻度は低いものの(以前は)、糖尿病患者に与えられた最初の経口薬は、インスリン分泌促進のためのスルホニル尿素等のインスリン分泌促進物質であった。より一般的に(また現在のところ)、このような薬剤は、増感剤の単独使用では目標の血糖制御レベルまで至らない場合は、治療における次の工程として肝臓グルコース産生抑制剤と併用される。しかしながら、分泌促進物質の使用は、また体重増加や低血糖の症状の原因となる可能性があるので、一態様においては、そのような併用治療では、食事時初期相模倣インスリン製剤を分泌促進物質の代わりに用いる。
【0150】
空腹時及び食後血中グルコースの両方が、HbA1cレベルの上昇の原因となっている。超速効型インスリン製剤は、空腹時及び食後血中グルコースの両方に有利な影響を与えることができる。これは、基礎インスリン、あるいはインスリン分泌促進物質、あるいは短時間作用型インスリンとさえも対照的に、食後血中グルコース制御の対処には特によく適していると当初から認識されていた。これは、内因性グルコース産生のより迅速な抑制が一因であると理解されている(実施例1参照)。従って、本明細書に開示されている態様は、食後血中グルコースの制御が不十分な患者、あるいは血糖制御の欠如しているために、上昇した食後血中グルコースにより強く影響される患者を対象とする。例えば、インスリン抵抗性の程度が軽い患者は、空腹時血中グルコースの実質的な制御をするのに十分なインスリンを産生することができる可能性があり、ある態様では、超速効型インスリン単独による治療に対し選ばれる可能性がある。比較のため、インスリン抵抗性の程度が重い患者は、空腹時及び食後の血中グルコースをうまく制御できない可能性があり、いくつかの態様において、超速効的インスリンと経口抗糖尿病薬の併用による治療対象に選ばれる。
【0151】
(超速効型インスリン及び肝臓グルコース産生抑制剤)
超速効型インスリン及びメトホルミル等のビグアナイド薬剤は、共に、肝臓グルコース産生抑制剤として働く。しかしながら、使用状況では、これらの薬剤は24時間中効果を発揮するが、食事時超速効型インスリンは特に食後により効果を発揮する。従って、超速効型インスリンは、経口の肝臓グルコース産生抑制剤の活性の代わりに、あるいは、その活性を強化することができる。
【0152】
従って、一態様では、超速効型インスリンは、FBGの制御は十分または中程度だがPPGの制御は不十分である、血糖制御を改善する必要のある2型糖尿病の被験者の治療に用いられる。態様の種々の側面において、血糖制御の改善の必要性は、HbA1cレベル、1時間もしくは2時間PPG、または酸化ストレスとして決定される。いくつかの態様において、十分に制御されたFBGは、110mg/dL以下、または130mg/dL以下のFBGである。いくつかの態様において、中程度に制御されたFBGは、154mg/dL以下、180mg/dL以下、または192mg/dL以下のFBGである。研究により、HbA1cレベルが8.4%以下では、少なくとも高血糖症全体の半分はPPGが原因であることが確認されている(Monnier, L. et al. Diabetes Care 26:881-885, 2003)。従って、いくかの態様において、FBGの制御は十分または中程度だが、PPGの制御は不十分である被験者は、HbA1cが8.4%以下の被験者である(8.4%のHbA1cは、およそ192〜198mg/dLの平均血漿グルコースレベルに対応する。Diabetes Care 32, suppl.1:S13-S61, 2009、特に表8及び表9を参照)。種々の態様において、PPGの制御が不十分な被験者は、1時間もしくは2時間PPGが140mg/dL以上、180mg/dL以上、または200mg/dL以上である。FPGには関係なく、75gのグルコース負荷後の2時間PPGが200mg/dL以上である被験者は、2時間PPGが200mg/L未満の被験者よりも2倍近くの死亡の危険性があったことには留意すべきである(Lancet 354:617-621, 1999)。一態様において、被験者は、現在はいかなる薬物療法も受けておらず、超速効型インスリンが唯一の薬剤として用いられる。別の態様において、被験者は、経口の肝臓グルコース産生抑制剤による治療を受けており、食事時超速効型インスリンが治療計画に追加される。一態様において、経口の肝臓グルコース産生抑制剤はメトホルミンである。一態様において、超速効型インスリン製剤はインスリン−FDKPである。別の態様において、超速効型インスリンの投与は肺への吸入である。
【0153】
他の態様において、血糖制御の改善を必要とする2型糖尿病の被験者は、肝臓グルコース産生抑制剤による治療から恩恵を受ける可能性はあるが、そのような経口薬剤は、禁忌であり、忍容できなく、そこで、超速効型インスリンが代わりに用いられる。その変形として、経口薬剤は十分な用量では忍容されず、超速効型インスリンがその活性の補うために用いられる。
【0154】
(超速効型インスリン及びインスリン分泌促進物質)
スルホニル尿素とグリニド等のインスリン分泌促進物質は、インスリン分泌を増加させ、それにより循環血液中のインスリン濃度を増加させる。超速効型インスリン製剤もまた循環血液中のインスリン濃度を増加させる。しかしながら、使用状況では、これらの薬剤は24時間中効果を発揮するが、食事時超速効型インスリンは特に食後に効果を発揮する。従って、超速効型インスリンは、インスリン分泌促進物質の活性の代わりをすることができる。一態様において、超速効型インスリン製剤はインスリン−FDKPである。別の態様において、超速効型インスリンの投与は、肺への吸入によって行われる。
【0155】
従って、一態様において、肝臓グルコース産生抑制剤及びインスリン分泌促進物質による治療を受けている患者は、この分泌促進物質による治療を中止し、超速効型インスリンによる治療を導入する。関連する態様において、インスリン分泌促進物質による治療の候補者である肝臓グルコース産生抑制剤により治療を受けている患者は、分泌促進物質よりも、それに代わり超速効型インスリンによる治療を導入する。一態様において、患者は、血糖制御の改善を必要とする。態様の種々の側面では、血糖制御の改善の必要性は、HbA1cレベル、1時間もしくは2時間PPG、または酸化ストレスとして決定される。
【0156】
他の態様において、2型糖尿病の被験者は、インスリン分泌促進物質による治療から恩恵を受ける可能性があるが、そのような経口薬剤は、禁忌であり、忍容できなく、そこで、超速効型インスリンが代わりに用いられる。他の態様において、患者は、低血糖症または体重増加の危険性を減らす必要がある。
【0157】
(超速効型インスリン及びインスリン増感剤)
ピオグリタゾン及びその他のTZD等のインスリン増感剤は、種々の組織でのインスリンの利用を改善し、インスリン抵抗性を下げ、循環インスリンレベルの減少につながる。TZDによる治療は、FBGの顕著な減少をもたらす。食事時超速効型インスリンによる治療は、空腹時には食事時超速効型インスリンによる直接のグルコース排出活性がないという事実にかかわらず、FBGの減少を招く。超速効型インスリン製剤の空腹時血中グルコースレベルに対するこの影響は予想外であり、超速効型インスリンがインスリン抵抗性を下げるか、インスリン増感剤として働く可能性があることが示唆された。興味深いことに、超速効型インスリンによって得られる急速なインスリンの最大濃度はその後に続くインスリン活性を強化する。これは、効果は長い時間残る可能性あるが、特に投与直後の時間枠で2型糖尿病患者に顕著である。従って、食事時超速効型インスリンによる治療はインスリン増感剤と同様な効果を有する。
【0158】
従って、いくつか態様において、重度のインスリン抵抗性に基づいて超速効型インスリンを含む治療のための患者を選択する。他の態様において、TZD等のインスリン増感剤による治療から恩恵は受けるが、その薬剤に対し感受性があるか、そうでない場合も、禁忌である患者を、その薬剤に代え、超速効型インスリンによって治療する。例えば、TZDは骨粗しょう症の女性には禁忌である可能性がある。
【0159】
種々の態様に従って食事時超速効型インスリンによる治療から恩恵を得ることのできる患者としては、インスリン増感剤により不適切な血糖制御を受けるか、そうでなければ、インスリン分泌促進物質を治療計画に追加する患者、あるいは、インスリン増感剤とインスリン分泌促進物質の併用により不適切な血糖制御を受けた患者が挙げられる。これらのグループの部分集合は、さらに針恐怖症、もしくは、そうでなければ、注射を回避したい人、及びさらに肥満体、太りすぎ、そうでない場合は、体重増加を回避や最小限に抑えることを望んだり、減量したりする必要がある人を含む。さらに高いインスリンレベルは、乳がんの高い発生率と関連している。乳がんの高い危険性を有する人々はインスリン抵抗性を下げることから特に恩恵を受けることができる。一態様において、超速効型インスリン製剤はインスリン−FDKPである。別の態様において、超速効型インスリンは肺への吸入により投与される。
【0160】
(食事時超速効型インスリン対基礎インスリン)
2種の経口薬剤による治療が、適切に血糖制御できない場合、看護の標準が、基礎インスリンの使用、または第3の経口薬剤の使用に至る道筋を示す。インスリンを追加する代わりに第3の経口薬剤を追加するという選択は、明白な針恐怖症、低血糖症の危険性、及び体重増加の可能性がない場合でも、毎日の注射をしたがらないということに影響される場合が多い。従って、本発明のいくつかの態様はインスリンを含むが、針がなく、かつ体重増加を最小限に抑えるか体重増加させない組み合わせ経口療法の後継治療法を提供する。吸入インスリンエクスベラ(登録商標)は、その皮内送達インスリン様動態のため、超速効型インスリン製剤と同じ恩恵を提供することは期待できない。超速効型インスリン製剤を使用することによって、食事時超速効型インスリンが基礎インスリン一般の初期使用に対する優れた代替物であり、針の使用、低血糖症の危険性、あるいは体重増加の可能性が特に問題である患者集団にとっては特別な利点を提供することが分かる。
【0161】
本明細書に開示されている種々の態様に従う治療から恩恵を受けることのできる患者としては、経口の肝臓グルコース産生抑制剤により不適切に血糖制御を受け、そうでなければ、インスリン分泌促進物質を治療計画に追加していた患者、または経口の肝臓グルコース産生抑制剤とインスリン分泌促進物質の併用により不適切に血糖制御を受ける患者が挙げられる。これらのグループの部分集合には、さらに、針恐怖症、もしくは、そうでなければ、注射を回避したい患者、及び、さらに肥満体、太りすぎ、そうでなければ、体重増加の回避を望むか減量を必要とする患者が含まれる。
【実施例】
【0162】
実施例1
超速効型インスリンの効果を特定する実験を行った。具体的には、インスリン−FDKPを含む吸入製剤と、皮内投与インスリンリスプロ(リスプロ、ヒューマログ(登録商標)、イーライリリー社)及び吸入用組み換え型ヒトインスリン(エクスベラ(登録商標)、ファイザー社)との比較を、2型糖尿病の被験者の摂食負荷後及び正常血糖グルコースクランプ処置中の内因性グルコース産生について行った。インスリン−FDKP製剤は、MEDTONE(登録商標)乾燥粉吸入器(MannKind社)を用い、経口吸入によって被験者に投与された。
【0163】
摂食負荷の完了に引き続き、データを統計解析計画書に従って分析した。全インスリン曝露量は、45Uインスリン−FDKP(TI)または4mgエクスベラ(登録商標)のいずれの投与後よりも、12Uのリスプロの投与後がおよそ40%大きいことが分かった。従って、調査法は再設計され、被験者は、最初の手順と治療法(4mgエクスベラ(登録商標)、45UのTI及び12Uのリスプロ)の下での調査の正常血糖グルコースクランプの部分までは進まなかった。調査法は修正され(A1)、12人の被験者(10人を最初の摂食負荷から再登録した)、及び10Uのリスプロ及び60及び90UのTIである2つの治療のみが含まれた。用量は、第一摂食負荷(OP)後に観察される相対的生体利用度に基づいて選択したが、ここでは、線形動態を前提とし、10Uのリスプロと60UのTIは同様の曝露になると仮定した。90Uの用量グループは、第3相試験において調べられるTIの最高用量グループの効果を評価するために含まれた。12被験者の内6人は60UのTIを投与され、他の6被験者は90UのTIを投与された。全ての12被験者はクロスオーバー法で10Uのリスプロを投与された。
【0164】
下記の方法と結果は、18人の被験者の3種の治療(エクスベラ(EXUBERA、登録商標)、リスプロ(lispro)、TI)を伴う摂食負荷を含むオリジナルプロトコル(OP)、及びTIとリスプロのみで治療する12人の被験者を含む修正条項1(A1)の観点から記述されている。
【0165】
インスリン治療を受けた2型糖尿病の被験者が調査に参加した。被験者は選抜され、実験の前、中、後で評価され、それらのデータは下記のように分析された。被験者は、12ヶ月間以上の2型真性糖尿病と臨床診断された年齢18歳以上、70歳以下の男女等の主要な試験対象患者基準に基づいて選択された。調査に選ばれた被験者は、また、安定したインスリンでの抗糖尿病療法をこれまでの3ヶ月間受けており、HbA1cは、8.5%以下、体格指数(BMI)は、34kg/m2以下、かつ25kg/m2以上の間、尿中コチニンは、100ng/mL以下、FEV1のPFTsは、予測値70%以上、単回呼吸CO拡散能(DLco未補正)は、予測値70%以上であった。また、被験者は経口抗糖尿病療法により、これまでの3ヶ月以内に治療をされており、1日の全インスリン必要量は、1.2IU/Kg体重以上であった。調査から除外する基準には、不安定な糖尿病、及び/または、糖尿病の深刻な合併症(例えば、自律神経障害)の証拠;血清中クレアチンが女性被験者で1.8mg/dL、男性被験者で2.0mg/dLである場合を含んだ。その他の臨床的に重要な肺疾患は、文書化された病歴または肺機能検査により確認された。
【0166】
OPの下、調査は、無作為非盲検の3元クロスオーバー法になるように計画された。通院は、最初の検診のための通院、摂食負荷試験に対する3種の連続した処置とそれに続く最低8週間(最高12週間まで)の失血回復期間を伴う通院、臨時の安全性通院、グルコースクランプ検査のための3種の連続した通院、最終完了通院を含む。この分析では、全ての患者が摂食負荷を完了し、それらのデータのみを用いている。検診のための通院(V1)は、摂食負荷試験のために、初回の治療通院(V2)の1から21日前に行い、治療通院(V2、V3及びV4)の間には7〜21日の経過を置く。V4と次の治療通院(V6)の間には最低限8週間の経過をとった。追加の安全性確認のための通院(V5)は、3種のグルコースクランプ検査(V6)の初回の1〜3日前に計画された。グルコースクランプ検査は、3回の通院、V6,V7及びV8で、通院間に7〜21日の経過を置いて行った。最終通院(V9)は、V8の2〜10日後に体重や身長等の身体検査を行った。
【0167】
A1の下、調査は、無作為非盲検の2元クロスオーバー法になるように計画された。通院には、最初の検診のための通院、摂食負荷試験に対する2種の連続した処置とそれに続く最低4週間(最高12週間まで)の失血回復期間を伴う通院、臨時の安全性確認のための通院、グルコースクランプ検査のための2種の連続した通院、最終完了通院が含まれた。検診のための通院(V1)は、初回の治療通院(V2)の1〜21日前に行い、摂食負荷試験のための治療通院(V2及びV3)間には7〜21日の経過を置いた。V3と次の治療通院(V5)の間には最低限4週間の経過をとった。追加の安全性確認のための通院(V4)は、3種のグルコースクランプ検査(V5)のうちの最初の検査の1〜3日前に計画された。グルコースクランプ検査は、2回の通院(V5及びV7)をこの通院間に7〜21日の経過を置いて行った。最終通院(V8)は、V7の2〜10日後に、体重や身長等の身体検査を行った。
【0168】
摂食負荷期間中に、被験者は、各々の治療通院のために治療開始の前夜に臨床部門に入院する。摂食負荷試験のための最初の治療通院(V2)では、被験者は、クロスオーバー設計に基づいて、インスリン−FDKP,インスリンリスプロまたはエクスベラ(登録商標)(OP)、次いで、インスリン−FDKP、次いでリスプロ(A1)の治療順に無作為に割り付けられる。各々の被験者は、グルコースクランプ検査についても摂食負荷試験の場合と同じ無作為順に従った。
【0169】
調査期間中、薬物動態及び/または薬物力学パラメータの評価及び安全性確認のための定期的な採血を、治療計画及び摂食負荷を開始する12時間前に始め、それから8時間の間行った。検診及び全ての3種の摂食負荷試験で、治療(OP)の分析用と評価用の血液を合わせて計409.5mL及びA1用の279mLの血液が必要であった。グルコースクランプ検査通院、最終通院、及び臨時の安全性確認のための通院の合計514.2mLの血液(OP)と365mLの血液(A1)が、治療での分析及び評価に必要であった。A1の調査に必要な全血液量は、被験者一人当たり644mLであった。放射性標識D2−グルコース注入を、摂食負荷とインスリン治療の開始の12時間前に被験者に施した。
【0170】
摂食負荷試験:67.5gの炭水化物、21gのタンパク質、21gの脂肪、エネルギー量540kcalからなる21オンスのブートプラス(BOOST PLUS、登録商標)(12オンス)を摂食負荷試験に用いた。このブートプラス(登録商標)は、吸収されたグルコースの量を決定するためにU−13C−グルコースを混入した。6,6−2H2グルコースの同時混入連続注入が、内因性グルコース産生(EGP)の評価に用いられた。空腹時EGP(f−EGP)の採取は、静脈インスリンリスプロ注入開始前、即ち、OP下、7時間の6,6−2H2グルコースの混入注入の終了時に行われる。A1においては、連続インスリン注入は、インスリンリスプロ(TIで治療を受ける被験者用)または通常のヒトインスリン(リスプロで治療を受ける被験者用)のいずれかを用いて行われた。90mg/dL(OP)及び110mg/dL(A1)の基準値血中グルコース濃度は、インスリン−FDKP,インスリンリスプロまたはエクスベラ(登録商標)(OP)、またはインスリン−FDKP、及びリスプロ(A1)を投与する前の少なくとも5時間にわたって、インスリン及び6,6−2H2グルコースで富化された20%グルコースの可変注入することで達成され、かつ維持された。インスリンリスプロ注入速度(OP)、及びリスプロまたはRHI注入速度(A1)は、治療投与の90分前にできるだけ低いレベルに固定した。投与後、グルコース注入によって血中グルコース濃度が、90mg/dL(OP)未満及び75mg/dL(A1)未満に落ちないようにした。
【0171】
試験治療の投薬は、用量が45Uのインスリン−FDKP、12Uの皮下インスリンリスプロ、または0時点に経口吸入で投与される4mgの組み換え型ヒトインスリン(エクスベラ(登録商標))、あるいは、ブーストプラス(登録商標)摂取の直前の10Uの皮下リスプロ及び60または90UのTI(A1)の投与で行われた。OPの下では、インスリンリスプロの用量は、規制ラベルから得られた情報に基づいて選択された。エクスベラ(登録商標)に対して選択された用量は、エクスベラ(登録商標)概要説明書の中のFDA諮問委員会に提示した通常用いる用量情報の逆算によって得られた。インスリン−FDKP用量は、本願の出願人(譲受人)であるMannKind Corporationによって行われた完成している第2及び第3臨床研究の結果から導かれた。A1下では、OP下で観察されたインスリン曝露に基づいて計算された。血中グルコース濃度は、動脈血化された静脈血液試料から一定の間隔で測定した。経口吸収されたグルコースの量は、U−13C−グルコースの定量によって評価した。EGPは、6,6−2H2グルコースを測定し、非定常状態の修正計算を適用することで決定した(R. Hovorka, H. Jayatillake, E. Rogatsky, V. Tomuta, T. Hovorka, and D. T. Stein. Calculating glucose fluxes during meal tolerance test: a new computational approach. Am.J.Physiol Endocrinol.Metab 293 (2):E610-E619, 2007)。C−ペプチド濃度は、内因性インスリン分泌を評価するために投与の前後に測定した。さらに、グルカゴンと遊離脂肪酸の濃度も測定した。
【0172】
グルコースクランプ検査:6,6−2H2グルコースの混入連続注入をEGP評価のために用いた。空腹時EGP(f−EGP)を定量するための血液試料を、被験者への皮下インスリンの注入開始前、即ち、7時間の6,6−2H2グルコースの混入注入終了時に採った。90mg/dL(OP)及び110mg/dL(A1)の基準値血中グルコース濃度は、インスリン−FDKP、インスリンリスプロ、またはエクスベラ(登録商標)(OP)とリスプロまたはTIのいずれかを(A1)の条件で投与する前の少なくとも4時間にわたって、インスリン及び6,6−2H2グルコースで富化された20%グルコースをBiostator装置で可変注入することで達成されかつ維持された。
【0173】
試験治療の投薬は、OP下での用量が45Uのインスリン−FDKP、12Uの皮下インスリンリスプロ、または、4mgの組み換え型ヒトインスリン(エクスベラ(登録商標))、及びリスプロまたは60または90UのTI(A1)を各々の個体被験者に対する摂食負荷の場合と同じ順番で投与することによって行われた。EGPは、各々の被験者に対して血液試料中の6,6-2H2グルコースを測定し、非定常状態に対するHovorkaら(同上)による修正計算を適用して定量した。血清C−ペプチド濃度は、内因性インスリン分泌を評価するために投与の前後に測定した。さらに、グルカゴンと遊離脂肪酸の濃度も一定間隔で測定した。全被験者は、各々の治療通院の最後に事前抗糖尿病治療計画の状態に戻された。
【0174】
調査のOP部分の結果を図3〜図6に示す。図3は、この調査で患者から採取した血液試料のデータのグラフ表示である。特に、図3には、食事の開始時に、1)インスリンリスプロ、2)エクスベラ(登録商標)、及び3)フマリルジケトピペラジンを含むインスリン製剤(インスリン−FDKP、TI)により治療された2型糖尿病患者の血中グルコース濃度を摂食負荷後の種々の時間で測定した血中グルコース濃度が示されている。各々の治療曲線のデータ・プロットにおける時を示す点は、本調査で分析した全試料の平均値を表す。また、このグラフには、各々の治療の後に正常血糖性(90mg/dlを超える血糖グルコースレベルの状態)を維持するために必要に応じて患者に施す外因性グルコース注入が示され、それぞれ、インスリンリスプロ、エクスベラ(登録商標)及びインスリン−FDKPに対応する1a、2a及び3aで示されている。図3に見られるように、グルコースレベルは3つの治療法によって異なる。90mg/dL超に留まるように繰り返し患者にグルコースを与えるという必要性のために、インスリンリスプロで治療された被験者が過剰投与をされたことは、データから明白である。また、このグラフから、インスリン−FDKPで治療を受けた被験者は、他の治療よりもずっと早期にグルコースレベルが下がり、この治療を受けた一部の被験者は、この調査の初期段階で90mg/dL超に留まるためにグルコース注入が必要であった。しかしながら、インスリン−FDKP治療を受けた被験者は、治療開始後約6時間までは更にグルコース注入を必要としなかった。この事は、この治療が長時間にわたり血糖制御を維持するに効果的であったことを示している。また、このデータから、グルコース濃度は、全ての治療による全ての被験者において制御されていたが、インスリン−FDKPで治療された被験者においては、グルコース制御が治療開始から治療後約120分までより効果的に行われていたことが分かる。治療後、約4時間後及び約3時間後にそれぞれグルコース注入をされたエクスベラ(登録商標)及びリスプロの治療を受けた被験者に比べ、(初期相後)インスリン−FDKP投与後から6時間後(グルコース要求が基準値インスリン注入によっておそらく決められる)まで最小限のグルコース注入のみが必要であった。本データから、もし、グルコースが注入されない場合には、リスプロ及びエクスベラ(登録商標)で治療された患者は、投与後、低血糖レベルに達していたであろう。従って、インスリン−FDKPは、他の治療法よりも、長時間、低血糖よりも高い血中グルコースを維持することができる可能性がある。
【0175】
図4は、食事の直前にインスリンリスプロ、エクスベラ(登録商標)及びインスリン−FDKP製剤により治療された2型糖尿病患者の、食事後の一定時間の間のグルコース吸収速度を示した上記の調査の患者から得られたデータのグラフである。各々の治療曲線のデータ・プロットにおける時を示す点は、本実験で分析した全試料の平均値を表す。図4のデータから、この3種の治療法で治療された被験者全員が、摂取した食事からのグルコース吸収の速度に関し同様のパターンを示すことが分かる。従って、このデータは、治療が、治療を受けた被験者の食事からのグルコース吸収速度を変えなかったことを示している。
【0176】
図5は、食事の開始時にインスリンリスプロ、エクスベラ(登録商標)及びインスリン−FDKP製剤により治療された2型糖尿病患者の食事後の内因性グルコース産生を定量した実験から得られたデータのグラフである。各々の治療曲線のデータ・プロットにおける時を示す点は、本実験で分析した全試料の平均値を表す。この3種の治療のデータ曲線は、3種の全ての治療が、治療を受けた被験者の内因性グルコース産生の阻害に同程度に効果的であることを示し、この効果の生理学的最大値であることを示唆している。特に、インスリン−FDKPで治療された被験者は、インスリンリスプロ(約80分)及びエクスベラ(約125分)の被験者と比べ、治療後、もっと速く、もっと早い時間(約40分)に内因性グルコース産生阻害の最大値を示した。
【0177】
図6は、上記のように、食事の開始時にインスリンリスプロ、エクスベラ(登録商標)及びインスリン−FDKP製剤により治療された2型糖尿病患者のグルコース消失速度を一定時間測定した実験から得られたデータのグラフである。各々の治療曲線のデータ・プロットにおける時を示す点は、本実験で分析した全試料の平均値を表す。更に、各被験者の体重を考慮するために、グルコース消失を被験者の体重で割り、グルコース消失速度を規格化した。被験者のグルコース消失速度または利用速度は、全ての治療で異なる。特に、インスリン−FDKPのグルコース消失速度は、インスリンリスプロまたはエクスベラ(登録商標)よりも明らかにはるかに速かった。このグルコース消失速度は、投与後の最初の測定の投与後約10分後の時点でかなり速く、一方、他のグルコース消失速度は約30分後まで基準値から有意には乖離しなかった。インスリン−FDKPのグルコース消失速度は、投与後、約40分で最大値に達し、インスリンリスプリ(約120分)及びエクスベラ(約150分)と比べ、はるかに早かった。
【0178】
また、C−ペプチドの測定(データ非表示)から、リスプロまたはエクスベラ(登録商標)と比べ、TIグループではC−ペプチド濃度の増加が遅延したことが明らかであることをこの調査は示している。このC−ペプチド(及び内因性インスリン産生)の増加の遅れは、食事から吸収されるグルコースを制御する各々の外因性インスリンの能力と関係あり、各々の治療グループのインスリンプロファイルの形に関係するように見える。エクスベラ(登録商標)及びリスプロの投与後の遅いインスリン濃度の上昇(tmaxの中央値は、それぞれ113分と75分であり、これ対し、TIグループのtmaxは20分ある)は、結果的に食事後の早い段階でグルコースを制御する能力の低下をもたらし、従って、患者の内因性インスリン応答の早期の増加をもたらす。しかしながら、TIグループにおける内因性インスリン産生の遅れは、TI濃度が高い調査の早い段階で血中グルコースをより良く制御していることを示している。
【0179】
要約すれば、この調査のデータは、インスリン−FDKPが2型糖尿病患者の既存の治療法、即ちインスリンリスプロやエクスベラ(登録商標)よりも、インスリン−FDKP治療が内因性グルコース産生の阻害が速く、かつグルコース消失及び利用の誘起においても速いという点で、著しくかつ驚くほどに有効な治療法であったことを示している。エクスベラ(登録商標)は、これらのパラメータについては、パラメータ以外の動態ではほぼ同様のインスリンリスプロとの比較でさえはるかに遅い。更に、このことにより、互いに動態が顕著に異なることから、既に明白なこれらの2種の吸引インスリン製剤(即ち、インスリンFDKP及びエクスベラ(登録商標))の違いが強調される。
【0180】
この調査のA1部分の結果を、図7〜図11に示す。図7は、この調査の被験者から得た血液試料の値をプロットしたデータのグラフ表示である。特に、図7に3種の治療法の平均インスリン濃度−時間プロファイルを示す。この系のインスリンの全てが誘発された応答に関連しているので、全てのインスリン濃度(各時点での通常の人間インスリンとリスプロの濃度の合計)を示す。60及び90Uのインスリン−FDKPの投与に続いて観察される最大インスリン濃度は、共に、リスプロ治療後の最大インスリン濃度と比較し、はるかに高く(リスプロ後の83μU/mLに対し、TI後は196及び216μU/mL)、ずっと早く最大となる(tmaxの中央値は、リスプロ後の60分に対し、TI後は15分及び17.5分である)。しかしながら、平均曝露量は、3グループ間で非常に類似しており、全インスリンAUCは、2種のTI投与グループ及びリスプロでは、それぞれ、24,384、18,616及び19,575μU/mL・minである。
【0181】
図8に、フマリルジケトピペラジンを含む60または90Uのいずれか(インスリン−FDKP,2,3)とインスリンリスプロ(1)で食事開始時に治療された2型糖尿病患者における摂食負担後の種々の時間で測定された血中グルコース濃度を示す。各々の治療曲線のデータ・プロットの時を示す点は、本調査で分析した全ての試料の平均値を表す。また、このグラフは、各々の治療の投与後の正常血糖レベルを維持(血中グルコースを75mg/dL超に留める)するために実験期間中、必要に応じて患者に投与した外因性グルコース注入を示し、グラフに60U及び90Uのインスリン−FDKP及びインスリンリスプロの各々に対し、1a,2a,及び3aとして示す。図7に見られるように、グリコースプロファイルの形は3種の全ての治療法で異なる。しかしながら、最大グルコールレベルは非常に似ており、グルコースは3種の全ての治療法で制御されていた。また、グラフから、インスリン−FDKPのどちらの用量で治療を受けた被験者も、リスプロ投与後よりもはるかに早くグルコースレベルを減少させ、最初の投与から0〜180分以内により有効なグルコース制御をしていたことが分かる。90Uのインスリン−FDKP及びリスプロで治療された被験者は、共に、75mg/dL以上の血中グルコースを維持するために数回の追加のグルコース注入が必要であった。90UのTI投与後、一部の被験者は投与後の早期に追加のグルコース注入が必要であり、リスプロ投与後は、後期にこれらの注入が必要であった。この現象は、90Uのインスリン−FDKPで治療された患者で観察される迅速なグルコース排出速度に起因する可能性がある。治療後5〜8時間の間にグルコースを注入するリスプロで治療された被験者に比べ、(グルコース要求がおそらく基準値インスリンに起因する場合)インスリン−FDKP投与後の調査の最後まで(初期相後に)最小限のグルコース注入が必要であった。この結果は、食事の後の時間枠での予想されるグルコース吸収をはるかに超えて、リスプロ治療後にインスリンの量と活性が上昇していることを示している。さらに、90Uのインスリン−FDKPグループは、60U用量のインスリン−FDKPで治療されたグループよりも、血中グルコースレベルをより効率的に制御し、0〜180分の時間の間、より低い血中グルコースレベルとなっていたことは明らかである。このより良い制御により、90Uのインスリン−FDKPを投与された患者から、より少ない内因性インスリンが分泌され、従って、内因性インスリンのこのグループの個体の全インスリンプロファイルに対する寄与分は小さい。さらに、データから、60U用量のインスリン−FDKPで治療されたグループの全インスリンプロファイルには、もっと多くの内因性インスリンが寄与し、試験をした二つのグループの平均インスリンプロファイルを似たものにしている。
【0182】
図9は、食事の直前に10Uインスリンリスプロ、及び、60U及び90Uのインスリン−FDKPによって治療された2型糖尿病患者の食事後の一定の時間のグルコース吸収速度を示す、上記の調査の患者から得たデータのグラフである。各々の治療曲線のデータ・プロットにおける時を示す点は、本調査で分析した全試料の平均値を表す。図9のデータから、3種の治療法で治療された被験者の摂取した食事からのグルコース吸収の速度パターンが全員同様であることが分かる。従って、このデータから、治療は、治療された被験者の食事からのグルコース吸収の速度を変えなかったことが分かる。
【0183】
図10は、食事の開始時に、10Uのインスリンリスプロ及び60Uまたは90Uのいずれかのインスリン−FDKP製剤により治療された2型糖尿病患者の食事後の内因性グルコース産生を定量する実験から得たデータのグラフである。各々の治療曲線のデータ・プロットの時を示す点は、本実験で分析した全ての試料の平均値を表す。90Uのインスリン−FDKPで治療された2人の被験者は、モデル化した結果の解釈が困難なため、分析から除外した。3種の治療のデータ曲線から、3つの全ての治療法は、治療された被験者の内因性グルコース産生の阻害に効果的であり、60Uのインスリン−FDKPと10Uリスプロの治療の間と同程度の阻害効果であった。また、本データから、90Uのインスリン−FDKP治療が、内因性グルコース産生の阻害により大きく、速く効果を及ぼすことが分かる。特に、インスリン−FDKPで治療された被験者は、内因性グルコース産生の最大阻害を、インスリンリスプロ(約100分)よりもはるかに速く、早い時間(2種の治療では、約40分及び約60分)に示した。
【0184】
図11は、上記のように、食事の開始時に10Uのインスリンリスプロ、及び60Uまたは90Uのインスリン−FDKP製剤のいずれかで治療された2型糖尿病被験者の一定時間のグルコース消失速度を測定する実験から得られたデータのグラフである。各々の治療曲線のデータ・プロットの時を示す点は、本実験で分析した全ての試料の平均値を表す。更に、各被験者の体重を考慮するために、グルコース消失速度を被験者の体重で割りグルコース消失速度を規格化した。被験者のグルコース消失速度または利用速度は、全ての治療で異なっていた。特に、60U及び90Uのインスリン−FDKPを投与されたグループのグルコース消失(速度)は共に、明らかにインスリンリスプロよりもはるかに早かった。インスリン−FDKPで治療されたグループのグルコース消失は、投与後の初期、つまり投与後約5分の測定で相当速く、かつ投与後約30〜50分で最大値に達し、インスリン−リスプロ(約100分)と比べてはるかに早かった。
【0185】
要約すれば、既存の治療法、即ちインスリンリスプロよりも、このインスリン−FDKP治療法が2型糖尿病患者の内因性グルコース産生をより速く阻害し、かつグルコース消失及び利用をより速く誘起するという点で、インスリン−FDKP治療は、2型糖尿病患者の著しく有効な治療法であったことをこの調査のデータは示している。EGP及びグルコース利用に対するインスリン−FDKPの効果は、用量の増量と共に上昇するように見えた。
【0186】
実施例2
(SC基礎インスリン及び食事時吸入インスリン−FDKP対SC基礎インスリン及び食事時インスリンによる、52週間にわたる治療と4週間の追跡調査を受ける1型糖尿病の被験者における、有効性と安全性の比較をする前向き、多施設、非盲検、無作為、対照臨床試験)
これは、基礎インスリン及び食事時インスリン−FDKP(TI)吸入粉末を受ける1型糖尿病被験者(TI吸入粉末グループ)の血糖制御を、基礎インスリン及びSC迅速作用性インスリンアスパルトを受ける被験者(比較グループ)と比較する、前向き、多国間、多施設、非盲検、無作為、対照臨床試験であった。この調査は、52週間の治療段階及び4週間の追跡調査を含む。4週間の追跡調査の期間中、肺機能及び厳選された臨床実験室評価が計画された。
【0187】
調査は3週間目の登録から始まる。被験者は、HbA1c及び空腹時血漿グルコース(FPG)を含む一連の安全性と適格審査を受ける。
1週間目、被験者は下記の2種:
基礎インスリン+食事時TI吸入粉末
基礎インスリン+食事時SC迅速作用性インスリン
の治療の1つに無作為に割り付けられる。
【0188】
1週間目、被験者は再び試験・再試験信頼度のみの目的のために、インスリン治療質問表(ITQ)の最初の3つの項目を記入した。質問表を記入した後、無作為にTI吸入粉末グループに割り当てられた被験者は、TECHNOSPHERE(登録商標)/インスリン(インスリン−FDKP)吸入粉末を用い、MEDTONE(登録商標)吸入器の指導を受けた;比較グループの被験者は、NOVOLOG(登録商標)ペンの使用の指導を受けた;全ての被験者は、LANTUS(登録商標)の投与の指導を受けた。さらに、試験の最初に提供される血中グルコース測定(HBGM)器と日誌の指導を受け、糖尿病の教育を受けた。いずれの指導も、必要に応じ、0週目に反復した。
【0189】
治療相の初期において、被験者はインスリン治療に適応するために数回の用量設定/服用量評価の訪問を行った。用量設定のための通院は、最初の4週間に週に一度行われた。4週目〜10週目の期間中、必要に応じて、用量設定のため、3回の電話「通院」(6週目、8週目、10週目)を行った。ただし、用量設定は、試験期間中許容された。
【0190】
全ての被験者は、0週目〜52週目の各通院の直前の週の任意の3日間に7点の血中グルコースプロファイルを終わらせた。この7つの時点には、朝食前、朝食後2時間、昼食前、昼食後2時間、夕食前、夕食後2時間、就寝時(1日7時点、3日間にわたる)のサンプルが含まれる。これらの血中グルコース(BG)値は通院の時に回収されるHBGM日誌に記録された。電話で議論された4週目から10週目の間(用量設定期間中)の日誌は、次回の事務所訪問の時に回収された。
【0191】
摂食負荷は4週目(用量設定中)、26週目、52週目に行った。摂食負荷静脈血液の採取時間は、−30、0、30、60、90、105、120、180、240、300、及び360分であった。血中グルコース(BG)も、治験責任医師の治療法決定を援助するためにHBGMグルコース測定器を用い測定され、測定値は、摂食負荷の期間中の−30、0、60及び120分に得た。
【0192】
試験で用いられた血糖制御に対する治療法は、食事時インスリン−FDKP(TI)吸入粉末、食事時インスリンアスパルト、及び基礎インスリングラルギンであった。TI吸入粉末グループに割り当てられた被験者(基礎インスリン療法を組み合わせたTI吸入粉末)は、1日1回(就寝時)、SC基礎インスリングラルギン(LANTUS(登録商標))を投与され、臨床的必要性に基づいて、主要な食事あるいは軽食の直前に、1日に3〜4回、TI吸引粉末を吸引した。TI吸入粉末用量の調整や1日3回を超える使用頻度は、治験責任医師の裁量に任せた。比較グループの被験者は,1日1回(就寝時)、SC基礎インスリングラルギン、及び1日に3〜4回、主要な食事の直前(食事の10分以内)に皮下注射で迅速作用性インスリン(NOVOLOG(登録商標))を投与された。
【0193】
この試験の主たる目的は、HbA1c(%)における基準値からの変化による評価として、52週間のTI吸入粉末+基礎インスリンの有効性をインスリンアスパルト+基礎インスリンと比較することであった。合計565人の被験者を、米国、ヨーロッパ、ロシア及びラテンアメリカの施設で観察した。合計293人の被験者には、TI吸入粉末+基礎インスリンを投与し、272人には、インスリンアスパルト+基礎インスリンを投与した。
【0194】
一次有効性エンドポイントは、事前設定した共分散分析(ANCOVA)及び混合モデル反復測定(MMRM)分析を用いて評価した。TI吸入粉末+基礎インスリン治療グループとインスリンアスパルト+基礎インスリン治療グループの間で出た中断者の割合が不均衡なために、共分散分析モデルに対して完全に無作為に欠員が発生するという前提が崩れた。そこで、MMRMを2次確認として用いた。TI吸収粉末は、MMRMモデルでは非劣性の一次エンドポイントに合うが、共分散分析モデルでは合わない。52週にわたる基準値からの平均変化は、最小二乗法による治療差は、インスリンアスパルトに有利な−0.25%だが、両方の治療グループでほぼ同程度であった。両モデルから得られた結果に基づくと、HbA1cにおける基準値からの平均変化に関しては、治療グループ間で臨床的意義のある差は無かった。実際、2つの治療グループで、同程度の割合の被験者がHbA1cの目標レベルに到達した。HbA1cレベルが8.0%以下(TI吸入粉末グループは50.99%、比較グループは56.16%)、7.0%以下(TI吸入粉末グループは16.34%、比較グループは15.98%)、6.5%以下(TI吸入粉末グループは7.43%、比較グループは7.31%)まで下がった被験者の割合に統計的有意差はなかった。
【0195】
HbA1cの減少は、グループ間で同等であり、52週間にわたり持続した。TI治療グループの被験者は、基準値8.41(標準偏差0.92)%から14週目で8.21(標準偏差1.15)%に減少し、その減少は維持され、52週目で、8.20(標準偏差1.22)%であった。インスリンアスパルト治療グループの被験者は、基準値8.48(標準偏差0.97)%から14週目で8.07(標準偏差1.09)%に減少し、その減少は維持され、52週目で、7.99(標準偏差1.07)%であった。
【0196】
HbA1cにおける基準値からの変化の分析を共分散分析モデルにおける最後の3ヶ月のインスリングラルギンに対して補正をしたところ、グラルギン曝露による影響は見られなかった。
【0197】
52週間の治療期間にわたって、TI吸入粉末グループの空腹時血漿グルコース(FPG)レベルは、インスリンアスパルトを用いる被験者のFPGレベルと比べ、両グループ共に試験の最初と終点で同程度の用量レベルであったにも関わらず、著しく低下(p=0.0012)した。TI吸入粉末グループにおいて、平均FPGは、基準値の187.6(標準偏差85.1)mg/dLから治療期間の終点での140.1(標準偏差72.1)mg/dLで44.9(標準偏差104.7)mg/dLの減少だが、それに比べ、比較グループでは、同じ期間で、基準値の180.8(標準偏差86.9)mg/dLから161.3(標準偏差68.2)mg/dLで23.4(標準偏差103.1)mg/dLで、より小さい減少であった。
【0198】
2次有効性エンドポイントは、摂食負荷後、2時間食後血漿グルコース(PPG)が140mg/dL及び180mg/dLの被験者の割合である。両区分の2時間PPG値を有する被験者は、26週目及び52週目において、各治療グループで同等であった。基準値と52週目のPPGのCmaxの絶対値は、両治療グループで同じであった。
【0199】
TI吸入粉末グループの被験者は、52週間の治療で、比較グループで観察された平均体重増加の1.4kgに対し、平均0.5kgの体重減少であった。グループ間のこの差は、統計的に有意(p<0.0001)であり、治療間差は−1.8kgであった。TI治療グループの体重の基準値(0週)からの平均変化は、統計的に有意ではない(p=0.1102)が、一方、インスリンアスパルトの体重増加は有意(p<0.0001)であった。
【0200】
全体的には、この試験の両治療グループにおいて、同等のHbA1cのレベル及び食後血中グルコースレベルが達成された。しかしながら、TI吸入粉末で治療された被験者の場合は、体重の増減がなく、かつ空腹時血中グルコースをより効果的に制御しているという状況において、同じレベルを達成しているのである。
【0201】
TI吸入粉末は、52週間の治療期間中良好な耐容性を示した。TI吸入粉末の安全プロファイルは、TI吸入粉末臨床開発計画での初期の試験で観察されたものと同様であり、試験の間、安全性に関する情報(safety signals)は出てこなかった。肺腫瘍は全く報告されなかった。FEV1(1秒間の最大努力呼気肺活量)、FVC(強制肺活量)、及びTLC(全肺活量)おける基準値からの変化に関し、TI吸入粉末治療及び比較治療との間に統計学的差異はなかった。TI吸入粉末治療を受けた被験者の試験で最もよく見られる副作用は、軽度から中等度の低血糖症及び一過性の軽度の乾性の咳であった。
【0202】
7点BGプロファイルは、HBGMから導いた。全ての特定された時間の点におけるITTとPP集団のデータは、それぞれ、図12に示されている。推測統計学は用いなかった。
【0203】
図12に、52週目での両治療グループの7点BGプロファイルを示す。朝食前の基準値は、52週目のFPG値から予測されるようにTI治療グループの方が低かった。即ち、TI治療グループの139.1(標準偏差72.6)mg/dLに対し、アスパルト治療グループは49.5(標準偏差80.2)mg/dL)であった。朝食前から昼食前まで、BG値は、TI治療グループの方が低かった。しかしながら、昼食後から就寝時間まで平均日常BG値は、両治療グループで同様であった。一致した結果がPP集団で観察された(データ非表示)。両治療グループにおいて共に、おそらくインスリングラルギンの準最適投与の結果である夕食前から就寝時間までのBGの平行で着実な増加が観察された。インスリングラルギンの就寝時投与は、1型糖尿病の被験者に対して全24時間の治療は提供できない可能性がある(Barnett A. Vascular Health and Risk Management 2:59-67, 2006)(LANTUS(登録商標)をラベルの記載に従って、1日1回投与した)。両治療グループとも、夕方に基礎基準値血中グリコースの上昇がみられたが、1日を通した場合は、TI治療グループの方が、より顕著であった。
【0204】
実施例3
(SC基礎インスリン及び食事時吸入TI対SC事前混合インスリン治療による、52週間にわたる治療と4週間の追跡調査を受けるT2DMの被験者における有効性と安全性の比較をする前向き、多施設、非盲検、無作為、対照臨床試験)
この試験により、SCインスリン±経口抗高血糖薬剤の投薬計画で前もって治療された、準最適に制御された2型糖尿病の被験者の中で、52週間にわたるHbA1cの変化によって表した有効性を、基礎インスリン治療と組み合わせたTI吸入粉末の食事時投与(TIグループ)を中間作用性と迅速作用性のインスリンの事前混合(比較グループ)と比較した。HbA1cの減少は、TI+基礎インスリン及び事前混合インスリンとでは同程度であった。調査終了時にHbA1cが7.0%以下であった反応者は、TI+基礎インスリンのグループと事前混合インスリンのグループとの間で同程度であり、統計学的な差異は無かった。注目すべきことに、事前混合インスリンと比べ、TI+基礎インスリンによる治療によって、空腹時血中グルコースは大きく減少した(図13を参照)。更に、TI+基礎インスリングループでは、空腹血中グルコース及びグルコース可動域が共に、治療期間の始めから終わりの間で減少した(図14を参照)。実施例2で述べたように、TI+基礎インスリンに関しては、基準値血中グルコースレベルは、1日の間で上昇傾向であった(図14を参照)。
【0205】
実施例4
この研究は、メトホルミン及び分泌促進物質の組合せで準最適に制御された2型真性糖尿病の被験者において、食事時TECHNOSPHERE(登録商標)/インスリン(インスリン−FDKP,TI)単独、またはメトホルミンとの組合せを、現在の標準看護療法であるメトホルミン+分泌促進物質と対比して有益性と安全性を評価するために設計された第3相、24週間、非盲検試験である。図15及び図16に、臨床試験の試験設計及び本調査に登録した患者の基準値の人口統計学的データを示している。被験者は、1:1:1で無作為に3種の治療グループに割り付けられ、最初の12週間は、割りつけられたグループに基づいて、抗糖尿病治療を受けた。それに続く12週間の試験期間は、観察期間と見なされた。
【0206】
試験設計は、用量設定試験薬剤に対する正式な導入期間が無いという点で異例であった。被験者は、一次有効性エンドポイントの評価が行われる前に、合計で12週間のみであるが、試験薬剤の有効用量まで漸増する治療を受けた。12週間の治療後、継続して準最適制御を受けている被験者は、3種の治療グループのいずれにおいても、TI+メトホルミンに切り替えるか、または試験への参加を中断するかのどちらかが義務付けられた。全治療期間は24週間であった。
【0207】
これは、目標到達型治療(treat-to-target)試験ではないので、治験責任医師は達成すべき具体的なHbA1cまたは空腹時血漿グルコース(FPG)の目標を提供されなかった。治験責任医師は、自らの臨床的裁量で、食前、食後、及び就寝時血中グルコースに対して指定された上限でTIを用量設定することを許されていたが、固定投薬スケジュールはなかった。規定手順では、一食当たり90UのTIまで用量設定できるが、一食当たりのTIの平均用量は、試験終点で凡そ65Uであり、治験責任医師が更に用量設定することを控えた可能性を示唆している。
【0208】
食事時TI単独あるいはメトホルミンとの組み合わせと一般に用いられる抗高血糖症投薬計画との直接比較を行った。調査の間、3種の治療グループの全てが、統計的かつ臨床的に有意なHbA1cレベルの減少を示した。TIは、正式な摂食負荷及び自己測定グルコースプロファイルの両方において、HbA1c及びFPGの減少に関しては同程度で、食後の制御に関しては、はるかに効率的であった。24週間にわたる食事時TI単独あるいはメトホルミンとの組み合わせで治療された被験者の平均体重は減少した。TIの超速効型薬物動態が、インスリンレベルを食後の血中グルコースの上昇と同期させ、それにより過剰インスリン及び付随する体重増加を阻害した可能性がある。
【0209】
TI単独あるいはメトホルミンとの組み合わせは、24週間の治療にわたり、良好な耐容性を示した。図17から図28に、調査の結果を示す。TIの安全性プロファイルは、TI臨床開発計画での初期の試験において観察されたものと同様であり、試験の間、安全性に関する情報は出てこなかった。重度の低血糖症の割合は、すべての治療グループにおいて極めて低く、TI単独または経口血糖降下薬の組合せの治療を受けた患者では症例がなく、TIとメトホルミンを併用した時に患者の2%に観察されたのみであった。HbA1c全体がこのように顕著に低下したにもかかわらず、体重増加は全く認められなかった。24週間にわたる調査でのFEV1及びDLCOを含む肺の安全性の詳細な評価により、TIを吸入した患者と経口治療のみの患者間での肺機能に差異がないことが分かった。
【0210】
TI+メトホルミン
試験を完了した被験者に対して、食事時TI+メトホルミンは、24週間の治療後、HbA1cで、1.68(1.0)%という臨床的に意義のある基準値からの平均低下を提供したが、標準抗高血糖治療計画と同程度であった。しかしながら、TI+メトホルミンは、12週間及び24週間後に、メトホルミン+分泌促進物質に比べ、統計的に優れた食事後制御を提供し、かつ24週間後のFPGの基準値からの同程度の平均低下を提供した。この治療グループでは、24週間で平均体重減少が−0.75Kgで、軽度から中等度の低血糖症の発生率は全体で35.0%であった。
【0211】
Tl単独
試験を完了した被験者に対して、食事時TI単独は、24週間の治療後に、HbA1cで、1.82(1.1)%という臨床的に意義のある基準値からの平均低下を提供するのに成功した。基準値からのこの変化は、メトホルミン+分泌促進物質の標準抗高血糖投薬計画よりも数値的に勝る。試験の終点では、TI単独は、FPGの基準値から平均低下は同程度である比較用よりも、はるかに効率的な食後制御を提供した。この治療グループでは、24週間で平均体重減少が−0.04Kgで、軽度から中等度の低血糖症の発生率は全体で27.6%であった。
【0212】
メトホルミン+分泌促進物質
試験を完了した被験者に対して、メトホルミン+分泌促進物質は、24週間の治療後に、HbA1cにおいて、1.23(1.1)%という基準値からの臨床的に意義のある平均低下を提供するのに成功したが、TI治療グループよりも食後制御の効果では大きく劣っていた(図17及び図18)。FPG及び体重の基準値からの平均低下は、TI+メトホルミン治療グループで観察された低下と同程度であった(図21、図22)。軽度から中等度の低血糖症の発生率は全体で20.8%であった。
【0213】
食事時TI単独、またはメトホルミンとの組み合わせは、12週間及び24週間の間、大幅にHbA1cレベルを低下させる(図23〜25)。これは、7点血中グルコースレベルにより示されているように、24時間にわたる血中グルコースの制御により達成される。TIの主な効果は、1時間及び2時間の食事後グルコースレベル、AUC及びCmaxの低下からも明らかなように、食後血中グルコース可動域を減少することによってもたらされる。この試験のデータは、食後及びFPGを共に改善する必要がある2型糖尿病の被験者がメトホルミンと組み合わせた食事時TIを使用することを支持する(図26〜図28)。それらは、食後血糖症の改善が必要であるがFPGに関しては適切な制御をする2型糖尿病の被験者において、単剤療法として食事時TIの使用ができる可能性を示している。
【0214】
2型糖尿病患者の大部分は、結局、血糖値制御を維持するためにインスリン治療が必要となる。食事時TI単独、またはメトホルミンとの組み合わせによる治療は体重増加をもたらすことなく、効果的に血糖制御をする。これは、太りすぎ、あるいは肥満が多い2型糖尿病患者にとって特に重要なことである。
【0215】
要約
データから、食事時TI単独、またはメトホルミンとの組み合わせは、12週間及び24週間にわたり、体重増加を伴わずに臨床的に大幅にHbA1cを減少させたことが分かる。食事時TI単独、またはメトホルミンとの組み合わせは、7点血中グルコースレベルに基づくと、メトホルミン+分泌促進物質よりも1日全体の血中グルコースレベルの制御に優れている。
【0216】
また、食事時TI単独、またはメトホルミンとの組み合わせは、メトホルミン+分泌促進剤と比べて、(1)1時間及び2時間の摂食負荷テストにおける食後グルコース可動域、(2)12週間及び24週間におけるAUCレベル、3)12週間及び/または24週間における1時間及び2時間の食後グルコースレベル(180mg/dL以下)、および4)12週間及び/または24週間における1時間及び2時間の食後グルコースレベル(140mg/dL以下)の制御で優れていることも分かる。
【0217】
さらに、食事時TI単独、またはメトホルミンとの組み合わせは、12週間及び24週間での空腹時血中グルコースを低下させる。
全体的に、低血糖症の発生率は、全治療グループで低かった。
【0218】
さらに、TI単独及びTI+メトホルミングループにおいてのFEV1、FVC、TLC及びDLco−HB1を含む肺機能の試験の基準値からの平均変化は、12週または24週で、メトホルミン+分泌促進物質グループと大きな差異はなかった。
【0219】
他に指定がない限り、本明細書や特許請求項に用いられる成分量、分子量等の属性、反応条件等を表現する全ての数値は、あらゆる場合において、「約」という用語によって緩和されるものとする。従って、その反対の指定がない限りは、以下の本明細書及び添付の特許請求項に明記された数値パラメータは、本発明によって得ようとする所望の特性に依存して変化しうる近似値である。少なくとも、かつ、特許請求の範囲への均等論の適用を制限する試みとしてではなく、各数値パラメータは少なくとも報告された有効桁数に照らして、かつ、通常の四捨五入等の端数計算法を用いることによって解釈せねばならない。本発明の広い範囲を示す数的範囲およびパラメータは近似値であるとはいえ、具体的な実施例に示される数値は可能な限り正確に報告されている。しかしながら、いかなる数値も本質的に、それぞれの試験測定値に見られる標準偏差から必然的に生ずるある程度の誤差を含んでいる。
【0220】
本発明を説明する文脈で(特に下記の特許請求項の文脈で)使用される「a」、「an」、「the」という語及び同様の指示語は、本明細書に別途指示がない限り、または文脈と明らかに矛盾するものでない限り、単数および複数の両方を含むものと解釈される。本明細書の数値の範囲の記述は、単に、範囲内にある各個別数値を個々に言及するのを簡略化した方法として役立てることを意図する。特に指示しない限り、各個別数値は、本明細書に個々に記載されているものとして本明細書に組み込まれるものとする。明細書に記載される全ての方法は、特に指示しない限り、または文脈と明らかに矛盾するものではない限り、任意の適切な順序で実施することができる。本明細書に使用されるいかなる全ての実施例または例示的用語(例えば「例えば」)の使用は、単に本発明をより詳しく例示することを意図しているにすぎず、特許請求の範囲に記載されている以外は本発明の範囲を限定するものではない。明細書中のいかなる用語も、本発明の実施に必須ないかなる非請求要素も示さないと解釈すべきである。
【0221】
本明細書に開示されている本発明の要素または態様の代替群を発明の限定として解釈してはならない。各群の構成要素は、個別に、または他の群の構成要素もしくは本明細書に見出される他の構成要素と任意に組み合わせて、言及してよく、特許請求の範囲に含めてもよい。一群中の一つ以上の構成要素が便宜上および/または特許性のために群に包含されるか削除される可能性がある。そのような包含または削除が行われる場合、本明細書は修正された群を含み、従って添付の特許請求の範囲中に使用されている全てのマーカッシュ群の記述を満たすものとみなされる。
【0222】
この発明の好ましい態様は、発明を実施するために発明者らが知る最良の形態を含めて、本明細書に記載される。当然、上記の説明を読めば、これらの態様の変形が当業者に明らかである。本発明者らは、当業者が必要に応じてそのような変形を使用することを予期し、本発明者らは本明細書に特に記載されている以外の方法で本発明が実施されることを意図している。従って、本発明は、適用法により許容されるとおり、本明細書に添付の特許請求の範囲に記載されている主題についての全ての変更および均等物を包含する。更には、全ての可能な変形において、上記要素の任意の組合せも、本明細書において特に指示されない限り、または文脈と明らかに矛盾しない限り、本発明に包含される。
【0223】
本明細書で開示された特定の態様は、「から成る」、または「から本質的に成る」という用語を使用して、更に限定しうる。出願されたまたは補正により付加された特許請求の範囲に使用される場合、移行用語(transition term)「から成る」は、特許請求の範囲において特定されていない任意の要素、工程または成分を除外する。移行用語「から本質的に成る」は、特定の物質または工程、ならびに基本的かつ新規な特性に実質的に影響を与えないものに、特許請求の範囲を限定する。このように特許請求される本発明の態様が、本明細書において本質的にまたは明確に記載され使用可能にされている
さらに、本明細書を通して、多くの特許および出版刊行物が参照されている。上記に引用した各文献および出版刊行物の全内容は、個々に、参照により本明細書に組み入れられる。
【0224】
最後に、当然のことであるが、本明細書に開示された本発明の態様は本発明の原理を例示するものである。他の変更を、本発明の範囲内で使用しうる。従って、例示するものであって限定するものではないが、本発明の代替的形態を本明細書の教示に従って使用しうる。それゆえ、本発明は、提示され記載されているものに厳密に限定されない。
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国仮特許出願第61/087,943号(出願日:2008年8月11日)、第61/097,495号及び第61/097,516号(出願日:2008年9月16日)、並びに第61/138,863(出願日:2008年12月18日)による35U.S.C.§119(e)に基づく優先権の利益を主張し、これら各出願の内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
技術分野
本発明は、超速効型食事時インスリンで真性糖尿病を治療する方法に関する。本発明の特定の態様は、このような製剤の独自の動態プロファイルを利用した種々の投与様式、並びに2型真性糖尿病の標準治療計画における1種以上の経口糖尿病薬をこのようなインスリンに置き換えることに関する。
【背景技術】
【0003】
現在、全世界で少なくとも2億人が真性糖尿病(以後、糖尿病という)に罹っている。糖尿病の2つの主要亜類型は1型と2型である。1型糖尿病は糖尿病に罹患している2億人の約10%を占める。1型糖尿病は膵臓のランゲルハンス島にあるインスリン分泌性β細胞の自己免疫破壊によって起こる。2型糖尿病は罹患個体の残りの90%を占め、罹患率は増加しつつある。2型糖尿病は必ずではないが、肥満と関係していることが多く、以前は遅発性または成人発生型糖尿病といわれていたが、今ではより若い個体にますます広がりつつある。2型糖尿病はインスリン抵抗性と不適切なインスリン分泌との組み合わせによっておきる。
【0004】
(インスリンの生理的役割)
非ストレス状態の正常個体では、基礎グルコースレベルは固有のフィードバック・ループのために日々同じ状態に保持される傾向がある。血漿グルコース濃度のあらゆる増加傾向は、インスリン分泌の増加及びグルカゴン分泌の抑制によって相殺される。これらは肝臓グルコース産生(糖新生およびグリコーゲン貯蔵からの放出)と組織のグルコース取り込みとを調節して血漿グルコース濃度を一定に保つ。患者の体重が増加するか、もしくはその他の何らかの理由でインスリン抵抗性になった場合、血中グルコースレベルは増加し、その結果、インスリン抵抗性を補うためにインスリン分泌が増加する。従って、グルコースおよびインスリン濃度の変化を最小にし、その一方でグルコースの比較的正常な産生および利用が維持されるように、グルコースおよびインスリンレベルが調節される。
【0005】
異なる5つのインスリン分泌相が確認されている:(1)吸収後の状態でインスリンが放出される基礎インスリン分泌;(2)いかなる栄養も腸から吸収される前に、膵臓の神経支配が仲介する食物の外観、匂い及び味によってインスリン分泌が引き起こされるという脳相;(3)β細胞がグルコースまたはその他の分泌促進物質の急速な増加にさらされてからの最初の5〜10分以内にインスリンの初期大量放出が行われる第一相インスリン分泌;(4)インスリンレベルが、より緩慢に上昇し、刺激の程度と持続時間に関連している第二相インスリン分泌;(5)生体外においてのみ報告されているインスリン分泌の第三相。これらの段階において、インスリンはその他の多くのホルモンと同様に脈動的に分泌され、その結果、血液中に振動型(oscillatory)濃度をもたらす。振動には、血中グルコース濃度の変動に関連したより緩慢な振動(80〜120分毎に生じる)に重なる速い脈動(8〜15分毎に生じる)が含まれる。
【0006】
インスリン分泌は、ホルモンや薬物だけでなく、グルコース以外の他のエネルギー物質(具体的には、アミノ酸)によって誘起される場合がある。食物摂取後に観察されるインスリン応答は単に血中グルコースの上昇だけによっては説明できず、食事の中の遊離脂肪酸及びその他の分泌促進物質の存在、神経的に活性化された脳相及び胃腸ホルモン等のその他の要因にも依存することは注目すべきである。
【0007】
個体に静脈内グルコース投与すると、二相性のインスリン応答が見られ、これには、ピークを有する迅速な増加、ピーク間の最下点、及びそれに続くより遅い増加相が含まれる。この二相性応答は、グルコース急速投与後またはグルコース注入後等のグルコース濃度が速やかに上昇する場合にのみ見られる。グルコース投与量の増加をより遅くすると、これは生理学的な条件の下で見られるものであるが、グルコースのボーラス注入に応答して見られる明確な二相性応答を伴うことなく、インスリン分泌のより緩やかな増加が誘起される。
【0008】
正常な生理学的条件下での初期相インスリン応答のモデル化により、食後では、グルコースの静脈内ボーラス注射で見られる(およそ3〜10分でCmaxに到達する)よりも緩やかに(約20分でCmaxに到達する)グルコース濃度が増加することが実証された。
【0009】
健康な膵臓β細胞は食事のようなグルコース曝露に素早く応答し、門脈循環および末梢の両方で血清インスリンを速やかに増加させる。逆に、欠陥のあるβ細胞は、初期相インスリン応答に障害があるので、食事のようなグルコース曝露に対しては鈍い応答を示す。
【0010】
証拠により、グルコース摂取後の初期の比較的速いインスリン応答は、食事後のグルコース恒常性の維持に重大な役割を演ずることがますます明らかになってきた。インスリン濃度の初期の急激な増加が起こると、主として内因性グルコース産生を阻害することで初期グルコース可動域が制限することができる。従って、糖尿病個体における速やかなインスリン応答の誘発は血中グルコース恒常性の改善をもたらすことが期待される。
【0011】
正常な個体においては、食事は大量のインスリン分泌を誘発し、血清インスリン濃度に比較的迅速な急上昇ピーク(スパイク)を生じ、その後比較的速やかに減衰する(図1参照)。この初期相のインスリン応答が、肝臓からのグルコース放出の遮断または減少の原因である。そこで恒常性維持機構は、インスリン分泌(及び血清インスリンレベル)をグルコース負荷に対して一致させる。これは少し上昇した血清インスリンレベルが徐々に基準線に戻る減衰として観察される、第二相動態である。
【0012】
(糖尿病)
糖尿病の重要な特徴はβ細胞機能不全である。1型および2型糖尿病の両方における疾患の進行中の早期におきる1つの異常は、食べることにより誘起される速やかなインスリン反応の喪失である。その結果、肝臓はグルコースを生産し続け、それは、食事の基本的成分から摂取、吸収されるグルコースに加わる。
【0013】
2型糖尿病患者は一般的には血中グルコースレベルの増加に対して応答が遅い。正常な個体は通常、食物摂取後2〜3分以内にインスリンを放出し始めるが、2型糖尿病患者は血中グルコースが上昇し始めるまで内因性インスリンを分泌せず、その後、濃度が徐々に上昇して長いプラトーに達する第二相動態を有する。その結果、内因性グルコース産生は遮断されず、摂取後も続き、患者は高血糖症(高い血中グルコースレベル)になる。2型糖尿病のもう一つの特徴はインスリン抵抗性と呼ばれるインスリン作用の障害である。インスリン抵抗性はそれ自体、最大グルコース排出速度(GERmax)の低下及びGERmaxに達するために必要なインスリン濃度の増加の両方として現れる。こうして、所定のグルコース負荷を処理するためにより多くのインスリンが必要となり、その高インスリン濃度が長期間維持されなければならない。その結果、その糖尿病患者は高いグルコース濃度に長時間さらされ、それはインスリン抵抗性をさらに悪化させる。その上、高いグルコースレベルが長引けば、それ自体β細胞に有毒である。
【0014】
1型糖尿病は、膵臓のインスリン産生細胞(β細胞)が体自体の免疫系によって破壊される結果として起きる。これは結局、完全なインスリンホルモン欠乏症を引き起こす。2型糖尿病は、あまり解明されていない種々の環境から発生する。初期相インスリン放出の早期喪失およびその結果としての連続的グルコース放出は、グルコース濃度の上昇を起こす。高グルコースレベルはインスリン抵抗性を促進し、インスリン抵抗性は血清グルコース濃度を持続的に上昇させる。この状況は、より高濃度のインスリンでも血中グルコースレベルをそれほど効果的には制御しないという自己増幅サイクルをもたらすことがある。その上、上記のように、上昇したグルコースレベルはβ細胞には有毒であり、機能的β細胞の数を減らす。膵島に栄養を与える微小血管系の成長または維持を損傷する遺伝的欠陥もこれらの悪化に或る役割を演じることがある(Clee, S.M., et al. Nature Genetics 38:688-693, 2006)。最終的に、個体は膵臓が打撃を受け、亢進して1型糖尿病患者と同様なインスリン欠乏症があらわれる。
【0015】
(治療)
インスリン治療は1型糖尿病の標準的治療である。初期2型糖尿病は食事療法および運動で処置できるが、現在は、大部分の早期2型糖尿病患者は経口抗糖尿病薬で治療されているが成功例は限られている。患者は病気が進むにつれてインスリン治療に移行する。しかしながらこれらの治療では治癒しない。
【0016】
典型的な進行においては、最初に使用される経口抗糖尿病薬は肝臓グルコース産生抑制剤であるメトホルミンである。メトホルミンの使用は体重増加や低血糖症を伴わない。メトホルミンによる治療が高血糖症に不十分の場合には、インスリン分泌促進物質、最も一般的にはスルホニル尿素、を治療計画に加えることができる。分泌促進物質は平均血中グルコースレベルを下げるためにインスリンの基礎レベルを上げる。スルホニル尿素の使用は、重症の低血糖症は稀であるが、体重増加を伴い、低血糖症を起こす可能性がある。この2種の経口抗糖尿病薬の組合せが高血糖症を制御するには不十分である場合は、グリタゾン等の第3の経口剤、または、長時間作用性の基礎インスリンのいずれかを治療計画に加えることができる。病気の進行と共に、1日の食事の中の少なくとも1部と関連して投与する中間的で短時間(迅速)作用性のインスリン製剤を追加することによって、インスリン療法を強化することができる。
【0017】
現在のインスリン治療方式は内因性産生インスリンを補充または置換して基礎的および第二相様のプロファイルを提供することができるが、初期相動態を模倣するものではない(図2参照)。その上、従来のインスリン治療は1日に1回または2回のみのインスリン注射であることが多い。しかし、血中グルコースレベルをより良くコントロールするためのより徹底した治療、例えば1日に3回以上の投与は明らかに有効であるが(例えば、Nathan, D.M., et al., N Engl J Med 353:2643-53, 2005を参照)、多くの患者はこれら付加的注射を受けることに消極的である。これらの従来のインスリン製剤は、体重増加及び重度の致命的な低血糖現象を含む低血糖症という重大なリスクを伴う。
【0018】
最近までは、皮下(SC)注射が市販のインスリンを患者が自己投与する唯一の経路であった。しかし、SCインスリン投与は、投与インスリンの最良の薬物動態にはつながらない。血液への吸収は(迅速作用性インスリン類似体でさえも)血清インスリン濃度の迅速なスパイクである食事による生理的インスリン分泌パターンとは似つかない。皮下注射もインスリンを2型糖尿病患者に提供するためにはそれほど理想的でなく、血流への吸収速度が、遅延的、変動的で、低いため、実際にはインスリン作用を低下させる可能性がある。しかし、インスリンを食事と共に静脈内投与する場合には、初期2型糖尿病患者は肝臓のグルコース放出の遮断を経験し、生理的グルコース制御が高まることが判明した。その上、彼らの遊離脂肪酸レベルはインスリン治療をしない場合と比べてより迅速に低下する。インスリンの静脈内投与は多分2型糖尿病の治療に有効であるが、合理的解決ではない。なぜならば、全ての食事ごとにインスリンを静脈内投与することは患者にとって安全でなく、実行不可能だからである。
【0019】
短い期間、吸入インスリンであるエクスベラ(登録商標)(ファイザー)が糖尿病の治療用に市場に出された。このインスリン製剤は、注射可能な迅速作用性類似製剤と同様の薬物動態学的プロファイルを有し、標準治療パラダイムにおいて短時間作用性インスリンの代用として用いられた。そのインスリン製剤は、短時間作用性インスリンを用いる患者が注射をしなくても済むようにはしたが、それ以外に注目すべき利点がないために、商業的には失敗した。その上、その動態プロファイルは、皮下投与である通常の迅速作用性インスリンとよく類似していたので、生体利用度の違いの説明を受けた後は、その投薬、及び投与の方法は、通常は皮下インスリンの方法に従うことが出来た。
【0020】
未だ、市販されていないが、超速効型インスリンであるインスリン−フマリルジケトピペラジン(FDKP)が開発中である。ヒトでの研究でのこのインスリン製剤を使用する経験が増すことで、血糖制御を改善する目的でこの製剤を種々の状況や患者集団に適用するにつれて、その独自の動態プロファイルが種々の投与計画及び投与方法に対応できることが分かってきた。このような方法が本開示の目的である。
【発明の概要】
【0021】
本明細書に開示された態様には、超速効型インスリン製剤を用いる1型および2型糖尿病を含む真性糖尿病の治療に有用な方法が含まれる。この開示された方法は、用量を決定する検査、各々の食事に合わせて調節しない標準用量の使用、インスリン製剤を食事の始め及びそれに続く時点で投与する分割用量に関する。ある態様においては、インスリンは、インスリン−FDKPであり、肺吸入により投与される。このような製薬は、皮下インスリン抵抗性の患者の治療に有利に用いることができ、そのような患者を選択する方法も本明細書に開示している。
【0022】
この方法の態様には、食事に関連した初期相のインスリン応答を模倣した方法でインスリンを投与することが含まれる。初期相の模倣においては、動態ピークの血清インスリンレベルは、投与後約12分以内〜約30分以内に到達する。血清インスリンレベルは、また、投与後約2時間または約3時間以内に戻り、基準値に近づく。このように初期動態を模倣したインスリン製剤を、本明細書では、超速効型インスリンという。一態様において、グルコース可動域の減少、または制御のために十分の用量が用いられる。一態様において、インスリンは、インスリン治療を必要とする患者に、食事時間、即ち、食事の約10分前、好ましくは、5分前、あるいは、食事を始めてから30、25、15あるいは10分以内に投与される(正常な胃内容排出の患者に対しては、食事開始からより早い時間が好ましく、遅延性胃内容排出の患者に対しては、食事開始からより遅い時間が適切である)。別の態様においては、インスリンは少なくとも2回投与され、最初は食事の開始時(即ち、食事を開始前後10分以内)、次いで、2回目は、食事開始から30〜120分である。
【0023】
好ましい態様において、肺内送達は、インスリンと関連づけられたフマリルジケトピペラジン(FDKP)を含む乾燥粉末製剤の吸入によって達成される。そのような使用法では、本明細書で使用される用語「フマリルジケトピペラジン」は、その塩類も含む。そのような態様は、インスリン及びFDKP塩を含む。別のそのような態様においては、インスリンはFDKPと複合体を形成している。例えば、インスリンは、自己集合化結晶性FDKP微粒子の表面と複合体(結合)を形成していてもよく、それを、本明細書では、総称的に、「インスリン−FDKP」、また、TECHNOSPHERE(登録商標)インスリン(TI, MannKind社)とも呼ぶ。その他の態様において、FDKPは、他のC−置換ジケトピペラジン類、例えば、3,6−ジ(スクシニル−4−アミノブチル)−2,5−ジケトピペラジン(「スクシニルジケトピペラジン」、SDKP)に置き換えられる。これらの態様の側面において、送達は、下記の実施例に用いられ、参照によってそれらの全体が本明細書に組み込まれる米国特許第7,305,986号及び第7,464,706号に記載されているMEDTONE(登録商標)吸入器システム(MannKind社)等の単回用量吸入器の使用によって促進される。好ましい投与量は、このシステムの一回分に基づき、約7.5IU〜120IUの範囲であり、特に15〜90IU、または、フマリルジケトピペラジンあるいは同等物と複合体を形成しているインスリンの24IUを超える。投与量は、吸入器から放出される用量としても表現される。これらの用量は、好ましくは、6U〜72Uまたは96Uの患者投与量に対して、吸入器カートリッジあたり6U〜48Uの範囲にある。下記のように、投与量は、より普遍的に皮下当量単位(subQ eq)で表すことができる。これらの単位で表した好ましい投与量は、1〜32の範囲、もしくは、それ以上の範囲の単位であり、例えば、3,6,9...等または4,8,12...等の皮下当量単位である。例えば、米国特許出願第12/484,125、第12/484,129号及び第12/484,137号に記載の別の吸入器では、20〜22IUを充填したカートリッジにより3〜4皮下当量単位の投与量が得られる。
【0024】
一態様において、インスリン用量はグルコース可動域の制御に十分な用量を含む。別の態様において、インスリンは投与後約15分以内にピーク血清レベルに達する。また、別の態様において、ピーク血清インスリンレベルは少なくとも60mU/Lである。また別の態様において、ピーク血清インスリンレベルは投与前のインスリン濃度基準値を超えて、少なくとも60、100、または120mU/Lである。本態様の一側面において、受容者(recipient)は2型糖尿病患者である。別の態様では、インスリン用量は、血中グルコースレベルを制御するのに十分である。また別の態様では、インスリン用量は、肝臓からのグルコースの放出を減少または抑制するのに十分である。この態様の別の側面において、この抑制は数時間持続する(図5を参照)。この態様の一側面において、内因性グルコース産生の最下点は、通常のインスリンまたは迅速作用性インスリン類似体の次の皮下投与よりも速く到達し、好ましくは60分以下、より好ましくは50分以下、最も好ましいのは40分以下である。また別の態様では、用量は、内因性グルコース産生を極限まで抑制するのに十分である。
【0025】
さらなる態様によって、血糖制御の改善が必要な患者を選択し、進行中の治療を中止し、少なくとも毎日の2回の食事と共に、日常的に超速効型インスリンを投与することを含む糖尿病患者の改善された治療方法が提供される。
【0026】
他の態様において、血糖制御の改善の必要性は、HbA1cレベルで決定される。一態様では、血清HbA1cのレベルは8%以上である。別の態様では、血清HbA1cのレベルは、7.5%以上、7.0%以上、6.5%以上、または、6.0%以上である。他の態様では、血糖制御の改善の必要性は、上昇したグルコース可動域の平均振幅、あるいは、上昇した食後の血中グルコースレベルから決定する。また別の態様では、患者は、酸化ストレスが上昇している証拠を有し、酸化ストレスは、8−isoPGF(2a)レベルによって測定する。酸化ストレスの上昇は、グルコース可動域の平均振幅の上昇と相関する。
【0027】
これらの態様の一側面においては、さらに、患者は体重増加を避ける必要があり、かつ、超速効型インスリンの治療は結果的に体重増加をもたらさないか、他の治療方法に対し予期される体重増加と同程度の体重増加しかもたらさない。関連した態様では、患者は肥満であり、かつ/又は体重減少が必要であり、超速効型インスリンによる治療の結果、体重は減少するか、変わらないか、または、別の治療で予期されるよりも少ない増加となる。更に、このような態様では、この方法は、体重減少、または他の方法で予期されるよりも少ない体重増加を評価する工程も含むことができる。本発明の一側面において、この評価は、12週間以上の食事時間投与超速効型インスリンによる治療で行われる。別の側面では、この評価は24週間以上で行われる。また他の側面では、この評価は、36週間以上、または48週間以上で行われる。
【0028】
種々の態様において、この方法は、さらに血糖制御の改善の評価を含む。一態様では、血糖値はHbA1cレベルで評価される。別の態様では、血糖制御は食事後のグルコース可動域で評価される。一つの側面では、食事後のグルコース可動域は、食事後の血中グルコースレベルで評価される。別の側面では、食事後のグルコース可動域は、酸化ストレス、例えば、8−isoPGF(2a)レベル、あるいは、当技術分野で周知の他の指標で評価される。別の態様では、血糖制御は、空腹時血中グルコースとして評価される。さらに別の態様では、これらの因子は、種々の組み合わせで評価される。態様の一側面において、この評価は、12週間以上の食事時間投与超速効型インスリンによる治療で行われる。別の側面では、この評価は24週間以上で行われる。さらに他の側面では、この評価は、36週間以上、または48週間以上で行われる。
【0029】
一態様において、超速効型インスリンは、少なくとも毎日2回の食事と共に日常的に投与される。別の態様において、超速効型インスリンは、少なくとも毎日3回の食事と共に投与される。別の態様では、超速効型インスリンは、毎日、主たる、あるいは実質的な食事と共に投与される。別の態様では、15gを超える炭水化物を含有するすべての食事と共に投与される。
【0030】
いくつかの態様は、提唱されている様々な治療法を超速効型インスリン製剤の食事時投与で置き換えることで、糖尿病に対する現在の標準看護治療計画を修正することも含んでいる。
【0031】
一態様によって、超速効型インスリンを長時間作用性インスリン類似体、例えば、インスリングラルギンとより効果的に組み合わせる方法が提供される。この態様においては、超速効型インスリンの食事時投与を、1日の朝目覚め後6時間以内に投与する長時間作用性インスリン類似体の朝の用量と組み合わせる。この態様の側面において、長時間作用性インスリン類似体は、目覚め後、1,2,3または4時間以内に投与される。この態様の一側面では、長時間作用性類似体はインスリングラルギンである。この態様の別の側面において、長時間作用インスリン類似体はインスリンデテミルである。関連する側面において、長時間作用性インスリン類似体はインスリングラルギンであり、2回目の用量は朝の投与後の8〜14時間から投与される。あるいは、最初の投与が1日の中での唯一の投与である。また、別の態様において、長時間作用性インスリンの注射を用いる代わりに、連続的にインスリン、例えば通常のヒトインスリンを注入するためにインスリンポンプが用いられる。一態様において、超速効型インスリン製剤は、インスリンとジケトピペラジンを含む。特別な態様において、超速効型インスリン製剤はインスリン−FDKPである。
【0032】
あるいくつかの態様には、インスリン分泌促進物質による治療を超速効型インスリンの食事時投与に置き換えることにより、2型糖尿病の看護治療の現在の標準を修正することが含まれる。その他の態様には、インスリン増感剤による治療を超速効型インスリンの食事時投与に置き換えることにより、2型糖尿病の看護治療の現在の標準を修正することが含まれる。また、その他の態様には、インスリン分泌促進物質及びインスリン増感剤の両者による治療を超速効型インスリンの食事時投与に置き換えることにより、2型糖尿病の看護治療の現在の標準を修正することが含まれる。
【0033】
本明細書に開示された一態様において、肝臓グルコース産生抑制剤及びインスリン分泌促進物質により現在治療中の2型糖尿病患者を選択し、インスリン分泌促進物質を中止し、少なくとも1回の確定した食事と共に超速効型インスリン製剤を日常的に投与することを含む2型糖尿病の治療方法が提供される。他の態様では、肝臓グルコース産生抑制剤による治療もまた中止される。
【0034】
別の態様において、患者はインスリン抵抗性スペクトルの下部におけるインスリン抵抗性を有する者に対して更に選択される。また、別の態様においては、患者は体重増加を減らすまたは避ける必要がある者に対して更に選択される。また、別の態様においては、患者は十分にまたは適度に制御された空腹時血中グルコースを有する者に対して更に選択される。また、別の態様では、患者はHbA1cレベルが8以上の者に対して更に選択される。また、別の態様では、患者はグルコース可動域の平均振幅の上昇がある者に対して更に選択される。
【0035】
別の態様において、投与の工程は注射を含まない。ここで、患者はインスリンによる治療の候補者であり、かつ、針恐怖症であることもしくは頻繁な注射を避けたいと望むということに基づいて更に選ばれる。
【0036】
他の態様において、肝臓グルコース産生抑制剤はメトホルミンであり、インスリン分泌促進物質はスルホニル尿素である。一態様において、超速効型インスリン製剤は、乾燥粉末等で吸入により投与される。別の態様では、超速効型インスリン製剤は、インスリン−FDKP等のインスリンと関連づけたフマリルジケトピペラジン(FDKP)を含む。
【0037】
別の態様では、超速効型インスリンは15gを超える炭水化物を含有する各々の食事と共に投与される。別の態様では、超速効型インスリン製剤は、投与後60分以内に肝臓グルコース産生を極限まで減少させるのに十分な用量で投与する。別の態様では、超速効型インスリン製剤は、1〜32皮下当量単位の範囲の用量で投与される。
【0038】
一態様において、血糖値制御の改善を必要とし、かつ肝臓グルコース産生抑制剤及びインスリン分泌促進物質の組み合わせ治療に対する候補者となる肝臓グルコース産生抑制剤で現在治療を受けている2型糖尿病患者を選択し、かつ、代わりに肝臓グルコース産生抑制剤での治療と、少なくとも1回の確定した食事と共に超速効型インスリン製剤の日常的な投与と組み合わせることを含む、第2糖尿病の治療の方法が提供される。
【0039】
一態様において、インスリン増感剤及びインスリン分泌促進物質で現在治療受けている2型糖尿病患者を選択し、インスリン分泌促進物質での治療を中止し、各食事と共に日常的に超速効型インスリン製剤を投与することを含む、2型糖尿病の治療方法が提供される。一態様において、インスリン増感剤を用いる治療も中止する。また、別の一態様において、患者は、インスリン抵抗性スペクトルの上部におけるインスリン抵抗性を有する者に対して更に選択される。別の態様では、インスリン増感剤は、ピオグリタゾン等のチアゾリジンジオン(TZD)である。
【0040】
一態様において、超速効型インスリン及び長時間作用性インスリン類似体との組み合わせによる高血糖症の改良された治療方法が本明細書で提供され、該方法は、超速効型インスリンの食事時投与及び1日の目覚め後6時間以内の長時間作用性インスリン類似体の単回投与を含む。別の態様において、高血糖症は、2型糖尿病の結果である。別の態様において、長時間作用性インスリン類似体の投与は目覚め後3時間以内である。別の態様において、長時間作用性インスリン類似体は、インスリンデテミルまたはインスリングラルギンである。また、別の態様では、長時間作用性インスリンはインスリングラルギンであり、かつ、該方法は、2回目のインスリングラルギンの単回投与を更に含み、2回目の用量は該朝の投与から8時間〜14時間後に投与される。
【0041】
別の態様において、超速効型インスリンは、インスリン−FDKP等のインスリン及びジケトピペラジンを含む製剤を含む。別の態様において、超速効型インスリンは肺への吸入により投与される。
【0042】
一態様において、迅速作用性インスリン及び外因性基礎インスリンとの組み合わせによる高血糖症の改善された治療方法が本明細書で提供され、該方法は、超速効型インスリンの食事時投与及びインスリンポンプによる短時間作用性インスリンの連続注入を含む。別の態様において、短期間作用性インスリンは、通常のヒトインスリンまたは迅速作用性インスリン類似体である。別の態様において、超速効型インスリン製剤はインスリン−FDKPである。
【0043】
一態様において、食事量に合わせてインスリン用量を調整することなく日常食に関する血糖を制御する方法が本明細書で提供され、該方法は、毎日の各食事に対し、食事時間に所定の用量の超速効型インスリン製剤を投与する工程を含む。別の態様において、食事量は、所定の用量を決定する際に用いられる通常の食事量の25%以上、50%以上、150%以下、または200%以下である。
【0044】
一態様において、遅延型栄養吸収の、または、栄養吸収に時間がかかる患者のための日常食に関する血糖制御の方法が本明細書で提供され、該方法は、遅延型栄養吸収の患者を選択し、日常食に対し、食事時間に所定の用量の超速効型インスリン製剤の50%〜75%を投与し、所定の用量の残量を日常食開始から30〜120分後に投与する工程を含む。他の態様において、超速効型インスリン製剤はインスリン−FDKPである。
【0045】
一態様において、遅延型栄養吸収は病状に関連する。また、別の態様において、遅延型栄養吸収は、脂肪や繊維の含量が高い食事に関連する。また別の態様において、長時間の栄養吸収は、長時間の食事と関連する。
【0046】
一態様において、摂取した食事の血糖負荷に合わせてインスリン投与量を調整する日常食に関連する血糖を制御する方法が本明細書で提供され、該方法は、日常食の食事時間に最初の所定用量の超速効型インスリン製剤を投与し、日常食の開始から1〜2時間後に食後の血中グルコースを定量し、食後血中グルコースが140mg/dlを超える場合、初回の用量の25%〜100%の用量である2回目の超速効型インスリン製剤を投与する工程を含む。別の態様では、超速効型インスリン製剤は、インスリン−FDKPである。
【0047】
一態様において、皮下インスリン抵抗性の糖尿病患者を治療する方法が本明細書で提供され、該方法は、通常とは異なる高インスリン投与量に基づいて皮下インスリン抵抗性の患者を選択し、皮下投与用の迅速作用性、短期作用性、または中間作用性のインスリン製剤を用いる治療を中止し、次いで、食後低血糖症の制御に効果的な吸入によるインスリン−FDKPの食事時用量の投与による治療を開始する工程を含む。
【0048】
別の態様において、該通常とは異なる高インスリン投与量は、2単位/Kg/日以上である。別の態様において、該選択の工程は、患者が正常または正常に近い内因性基礎インスリンを有するという基準を選択することを更に含む。また、別の態様において、内因性基礎インスリンのレベルは、50μU/ml以下である。
【0049】
別の態様において、該選択工程は次の中のいずれか1つをさらに含む:注射部位の皮下脂肪萎縮または脂肪異栄養症に基づく選択;強化インスリン療法中の6〜9ヶ月の期間において、2回のHbA1cレベル測定が9%以上である患者という基準の選択;または、インスリン療法及びあらゆる食事もしくは運動療法の順守にもかかわらず、高血糖症及び/又は低血糖症の期間によって特徴付けられる生命にかかわるほど血糖値が不安定な患者という基準の選択。
【0050】
別の態様において、本方法は相対的生体利用度に基づいた調節の後、実質的により少ないインスリン投与量によって、同程度あるいは改良された血糖制御が達成されているという判断により患者が皮下インスリン抵抗性を持っていることを確認する工程を更に含む。
【0051】
一態様において、日常食1回あたりの超速効型インスリンの個体の用量を決定する方法が本明細書で提供され、該方法は、1週間以下の用量設定期間内の少なくとも3日間の1日毎に用量設定する日常食に対して、食事時間に低用量の超速効型インスリンを投与し;各々の続く用量設定期間に低用量分によって反復的に用量を増量し、用量設定の終点に達するまで用量設定期間の少なくとも3日間の各々の日に用量設定する日常食に対し、食事時間に投与する工程を含む。
【0052】
別の態様において、該低用量は単位用量カートリッジで提供される。別の態様において、該用量設定期間は3日間または1週間である。別の態様では、低用量は1〜5皮下当量単位である。別態様において、該超速効型インスリン製剤はインスリン−FDKPである。
【0053】
別の態様において、該用量設定の終点は、以下から選択される:1)到達した2時間後の食後平均グルコースが70mg/dlと110mg/dlの間である;2)皮下当量単位に基づいた投与量が最大投与量である;3)確認されたSMBGが36mg/dl未満である重症の低血糖症が発現し、投与量が1個の低用量カートリッジの同等物によって減少する;4)確認されたSMBGが70mg/dl未満である軽度から中度の低血糖症が発現し、投与量は1週間あたり1個の低用量カートリッジの同等物によって減り、次に、用量設定を再開し、前記1)〜3)のいずれかの終点に到達するまで行うか、投与量を軽度から中度の低血糖症が再び現れるレベルよりも少ないレベルに設定する。
【0054】
別の態様において、2回以上の日常食に対する用量は、同時に用量設定される。別の態様において、2回以上の日常食に対する用量は、食後2時間後の血中グルコースが最も高くなる日常食から、食後2時間後の血中グルコースが最も低くなる日常食まで連続的に用量設定される。
【0055】
別の態様において、該最大投与量は24皮下当量単位または2皮下当量単位である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】図1は、ボーラスグルコース注入による人為的な刺激に続く第一相インスリン放出動態の測定を示す。
【図2】図2は、皮下(SC)通常のヒトインスリンまたはSC急速作用性インスリン(NOVOLOG(登録商標))の投与後の血清インスリン濃度を示す。NOVOLOG(登録商標)は、Novo Nordisk Pharmaceuticals, Bagsvaerd, デンマークの登録商標である。
【図3】図3は、食事の開始時に、1)インスリンリスプロ(ヒューマログ(HUMALOG)(商標))、2)エクスベラ(EXUBERA)(登録商標)、及び、3)フマリルジケトピペラジンを含むインスリン製剤(インスリン−FDKP)により治療された2型糖尿病患者の血中グルコース濃度を食事後の種々の時間で測定した研究から得られたデータのグラフである。そのグラフは、また各々の治療の後に正常血糖性レベルを維持するために必要に応じて患者に施した外因性グルコース注入(下部にある線画)も示し、各々、1a、2a及び3aで示されている。
【図4】図4は、食事の開始時にインスリンリスプロ、エクスベラ(登録商標)及びインスリン−FDKP製剤により治療された2型糖尿病患者のグルコース吸収速度を、食事後の一定時間測定した研究から得られたデータのグラフである。
【図5】図5は、食事の開始時にインスリンリスプロ、エクスベラ(登録商標)及びインスリン−FDKP製剤により治療された2型糖尿病患者の食事後の内因性グルコース産生を定量した研究から得られたデータのグラフである。
【図6】図6は、食事の開始時にインスリンリスプロ、エクスベラ(登録商標)及びインスリン−FDKP製剤により治療された2型糖尿病患者のグルコース消失速度を一定時間測定した研究から得られたデータのグラフである。
【図7】図7は、食事の開始時にインスリンリスプロ及び60Uまたは90Uのインスリン−FDKP製剤により治療された2型糖尿病患者に対するグルコースクランプ検査から得た平均インスリン濃度−時間プロファイルを示す。
【図8】図8は、食事の開始時にインスリンリスプロ及び60U(1)または90U(2)のインスリン−FDKP製剤により治療された2型糖尿病患者に対するグルコースクランプ研究から得た血中グルコース濃度を示す。グルコース注入時間と注入グルコース量を60U及び90Uのインスリン−FDKP及びインスリンリスプロの各々に対し、1a,2a,及び3aとして示す。
【図9】図9は、食事の直前に60Uまたは90Uのインスリン−FDKP及びインスリンリスプロにより治療された2型糖尿病患者のグルコース吸収速度を示すグルコースクランプ検査から得たデータのグラフである。
【図10】図10は、食事の開始時に60Uまたは90Uのインスリン−FDKP及びインスリンリスプロにより治療された2型糖尿病患者の食事後の内因性グルコース産生を定量するグルコースクランプ実験により得たデータのグラフである。
【図11】図11は、食事の開始時に60Uまたは90Uのインスリン−FDKP及びインスリンリスプロにより治療された2型糖尿病被験者の一定時間の間のグルコース消失速度を測定する実験から得られたデータのグラフである。
【図12】図12は、インスリン−FDKPとインスリングラルギンの使用をインスリンアスパルトとインスリングラルギンと比較した研究から得られたデータのグラフであり、その研究の52週間目における7点の血中グルコースプロファイルを示している。
【図13】図13は、就寝時に基礎インスリン(インスリングラルギン/LANTUS(登録商標))の皮下注射及び食事時に肺吸入により投与するインスリン−FDKPにより治療された被験者の血液試料の空腹時血中グルコースを測定した実験のデータを示したグラフである。このグラフは、また比較グループ、即ち製造者の推薦の通りに朝食及び夕食にNOVOLOG(登録商標)混合(70/30)(予混合)により治療された被験者のデータも示す。被験者の全員が、血糖上昇抑制剤の併用、併用に関わらず、皮下インスリン療法による治療を以前受けたことのある、準最適に制御された2型糖尿病患者であると診断された。
【図14】図14は、最初の週の治療(破線、基準線)と治療52週目(実線)に、就寝時にはインスリングラルギンで、また肺吸入による食事時インスリンFDKPで治療された被験者の、1日の間の7つの時点、即ち、指定された週の中の3日間について空腹時、朝食後、昼食前、昼食後、夕食前、夕食後、及び就寝時に採集した試料の平均血中グルコースレベルを測定した実験のデータを示すグラフである。このデータから、2型糖尿病の患者の血中グルコース濃度は1日を通して上昇を示すが、52週目では、血中グルコースレベルは、治療開始時よりも有意に低く良好に制御されていることが分かる。
【図15】図15は、食事TI(インスリン−FDKP)(グループ1)、メトホルミン+分泌促進物質(グループ2)、及び、食事TI+メトホルミン(グループ3)を比較する臨床試験の治験設計を示す。
【図16】図16は、図15の試験に登録した患者の基準値の人口統計学的データを示す。
【図17】図17は、TI単独、TI及びメトホルミン、またはメトホルミン及び分泌促進物質での12及び24週間の治療後のHbA1cの低下を示す。用語「留まった(stayed)」「移動した(transferred)」「移動しなかった(non-transferred)」「全て移動した(all-transferred)」は、図15に定義されている。
【図18】図18は、TI単独、TI及びメトホルミン、またはメトホルミン及び分泌促進物質による治療後、12及び24週間でのHbA1cの7%以下という目標に届く患者の割合を示す。
【図19】図19は、TI単独、TI及びメトホルミン、またはメトホルミン及び分泌促進物質による治療後、12及び24週間のHbA1cの6.5%以下という目標に届く患者の割合を示す。
【図20】図20は、TI単独による治療の12及び24週間後の血中グルコースレベルを示す。
【図21】図21は、メトホルミン及び分泌促進物による治療の12及び24週間後の血中グルコースレベルを示す。
【図22】図22は、TI及びメトホルミンによる治療の12及び24週間後での血中グルコースレベルを示す。
【図23】図23は、TI単独による治療の12及び24週間後の食後1時間及び2時間後の血中グルコースレベルを示す。
【図24】図24は、メトホルミン及び分泌促進物による治療の12及び24週間後での食後1時間及び2時間後の血中グルコースレベルを示す。
【図25】図25は、TI及びメトホルミンによる治療の12及び24週間での食後1時間及び2時間の血中グルコースレベルを示す。
【図26】図26は、メトホルミン及び分泌促進物による治療の12及び24週間後の食事後のグルコース可動域の変化(AUCレベル(mg・hr/dL)の変化として測定)を示している。
【図27】図27は、TI単独、TI及びメトホルミン、あるいはメトホルミン及び分泌促進物質による治療の12及び24週間後の空腹時血液中グルコースレベルを示す。
【図28】図28は、TI単独、TI及びメトホルミン、あるいはメトホルミン及び分泌促進物質による治療の12及び24週間後の体重の変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0057】
(用語の定義)
詳細な開示を説明する前に、以後に使われる幾つかの用語を理解することは有用であると思われる。
【0058】
乾燥粉末:本明細書に使用される「乾燥粉末」は、推進剤、担体、またはその他の液体に懸濁も溶解もしていない微粒子組成物を意味する。これは、すべての水分子が全く存在していないことを意味するものではない。
【0059】
第一相:本明細書に使用される「第一相」は、グルコースのボーラス静脈内注射により誘導されるインスリンレベルのスパイクを意味する。第一相のインスリン放出は、血中インスリン濃度のスパイクを生ずる。それは迅速なピークであり、その後、比較的速やかに減衰する。
【0060】
初期相:本明細書に使用される「初期相」は、食事に応答して誘導され、20分〜30分以内に最大となる血中インスリン濃度の上昇を意味する。初期相と第一相との区別は、一般文献では必ずしも注意深くは守られていない。
【0061】
可動域(excursion):本明細書に使用される「可動域」は、食前の基準線またはその他の出発点の上または下にある血中グルコース濃度を意味する。可動域は一般に時間の経過に伴う血中グルコースのプロットの曲線下面積(AUC)として表される。AUCは種々の方法で表現できる。ある場合には正の領域および負の領域を作り出す基準線から下への低下および上への上昇の両方がある。ある計算は正AUCから負AUCを引く計算もある一方、それらの絶対値を加える計算もある。正および負のAUCsは別々に考えることもできる。より複雑な統計的評価も使用できる。ある場合には、正常範囲外に上昇または低下する血中グルコース濃度も意味することができる。正常血中グルコース濃度は空腹状態の個体では通常70及び110mg/dLの間であり、食後2時間後では120mg/dL未満、食後では180mg/dL未満である。
【0062】
グルコース排出速度:本明細書に使用される「グルコース排出速度」(GER)は、グルコースが血液から消失する速度である。それは、グルコースクランプを用い、グルコースクランプ試験期間中、安定血中グルコースを維持するために必要なグルコース注入速度(120mg/dL前後の場合が多い)として決定される。このグルコース排出速度は、GIRと略称されるグルコース注入速度に等しい。
【0063】
ハネムーン相:本明細書に使用される1型糖尿病の「ハネムーン相」は、初期相インスリン放出の消失に特徴づけられたこの病気の早期段階を意味し、残っているβ細胞は機能して若干のインスリンを産生し、そのインスリンは第二相動態で放出される。
【0064】
高血糖症:本明細書に使用される「高血糖症」は、正常な空腹時血糖濃度より高く、通常126mg/dL以上である。いつかの研究において、高血糖症の発症は280mg/dL(15.6mM)を超える血中グルコース濃度と定義された。
【0065】
低血糖症:本明細書に使用される「低血糖症」とは正常な血糖濃度より低く、通常63mg/dL(3.5mM)未満である。臨床上重要な低血糖症は、63mg/dL未満の血糖濃度として定義されるか、または低血糖の症状として認知され、適正なカロリー摂取で消失する認知障害、行動変化、蒼白、発汗低血圧症、紅潮、及び虚弱等の患者症状を引き起こすものと定義される。重症低血糖症とは、グルカゴン注射、グルコース注入または第三者による助けを必要とする、低血糖症状の発症と定義されている。
【0066】
近接した:本明細書に使用される、食事に関して用いられる「近接した」は、食事の開始に時間的に近い期間を意味する。
インスリン組成物:本明細書に使用される「インスリン組成物」は、哺乳動物への投与に適したインスリンのあらゆる形態を意味して、臨床的に重要な血中グルコース低下活性を保持している限り、哺乳動物より単離されたインスリン、組み換えインスリン、他の分子と結合や誘導体化したインスリン、配列を変えたインスリン分子が含まれる。また、肺、皮下、鼻内、経口、頬内、及び舌下を含むあらゆる経路による投与に適したインスリン組成物も含まれる。インスリン組成物は、吸入用の乾燥粉末、水溶液もしくは懸濁液、または、非水溶液もしくは懸濁液(計量式吸入器に通常用いられる);皮下、舌下、頬内、鼻内または経口投与用の水溶液もしくは懸濁液;及び経口及び舌下投与用の固体投与形として製剤化できる。
【0067】
インスリン関連疾患:本明細書に使用される「インスリン関連疾患」は、哺乳動物におけるインスリンの産生、調節、代謝、及び作用に関連した疾患を意味する。インスリン関連疾患としては、それらに限定されないが、前糖尿病、1型真性糖尿病、2型真性糖尿病、低血糖症、高血糖症、インスリン抵抗性、分泌異機能、膵臓β細胞機能の喪失、及び膵臓β細胞の喪失が挙げられる。
【0068】
インスリン関連疾患を有するインスリン非依存性患者:本明細書に使用される「インスリン関連性疾患を有するインスリン非依存性患者」は、診断から外因性インスリン投与が現在の標準的治療法にはならない疾患を有する患者を意味する。外因性投与インスリンで治療されないインスリン関連性疾患を有するインスリン非依存性患者には早期2型糖尿病、ハネムーン相の1型糖尿病、前糖尿病およびインスリン産生細胞移植体受容者が含まれる。
【0069】
インスリン抵抗性:本明細書に使用される用語“インスリン抵抗性”とは患者の細胞がインスリンに適切に、あるいは、効率的に応答できないことを意味する。膵臓はより多量のインスリンを産生することによって細胞レベルでこの問題に対処する。結局、膵臓は体のインスリン需要に追いつくことができず、過剰のグルコースが血流中に蓄積する。インスリン抵抗性を有する患者では、多くの場合、彼らの血液中を高レベルの血中グルコースと高レベルのインスリンとが同時に循環している。
【0070】
インスリン抵抗性スペクトル:本明細書に使用される「インスリン抵抗性スペクトル」は、患者がインスリンに抵抗する程度が変化できる範囲を意味する。当然ながら、人により、また2型糖尿病の進行の中のどの時点であるかにより、インスリン抵抗性の程度は異なる。一般に認められたインスリン抵抗性の単位は存在しないが、当業者であれば、重度のインスリン抵抗性に対して、軽度のインスリン抵抗性の識別は十分に可能である。理想的には、インスリン抵抗性は正常血糖クランプ法により測定できるが、これらは、日常的な使用に対しては実用的ではない。より簡便な評価としては、HOMA(Matthew DR, Hosker JP, Rudenski AS, et al., Homeostasis model assessment: insulin resistance and β cell function from fasting plasma glucose and insulin concentrations in man(恒常性モデル評価:ヒトの空腹時血漿グルコース及びインスリン濃度によるインスリン抵抗性及びβ細胞機能), Diabetologia 1985;28:412-419を参照)、及び関連QUICKI(Katz A, Nambi SS, Mather K, Baron AD, Follmann DA, Sullivan G, Quon MJ. Quantitative insulin sensitivity check index: a simple, accurate method for assessing insulin sensitivity in humans(定量的インスリン感受性検査指標:ヒトのインスリン感受性の簡便で精密な評価法). J Clin Endocrinol Metab. 2000 Jul;85(7):2402-10)が挙げられる。空腹時血清インスリンレベル自体は、また、インスリン抵抗性の程度を示す指標として用いることができ、50〜100pmol/Lの濃度はスペクトルの下端における抵抗性を示し、300pmol/Lの濃度は、スペクトルの上端における抵抗性を示す。最終的に、インスリン治療を既に受けている患者にとって、一日の全用量は、被験者のインスリン抵抗性の程度が高いか低いかの指標として一般にはみなされる。
【0071】
中間作用性インスリン:本明細書に使用される「中間作用性インスリン」または、持続型インスリン製剤(lente insulin)は、注射後通常約2時間〜4時間で効果が発現し、注射後4時間〜12時間で最大となり、10〜18時間の間効果が持続する。典型的な中間作用性インスリンは、通常インスリンと身体がインスリンをもっと遅く吸収させるようにする物質と混合することによって得られる。限定されないが、NPHインスリンが例として挙げられる。中間作用性インスリンは、長時間作用性インスリンの有益性の多くを提供できる。
【0072】
長時間作用性インスリン:本明細書に使用される「長時間作用性インスリン」は、約1〜6時間以内に効果をあらわしはじめ、最長で24時間以上までの持続的なレベルのインスリン活性を提供する。長時間作用性インスリンは約8〜12時間後まで、場合によっては更に長い時間後まで最大活性で働く。長時間作用性インスリンは、通常、朝または就寝前に投与される。長時間作用性インスリンの例としては、限定されないが、インスリン類似体であるインスリングラルギン、もしくはインスリンデテミル、及び吸収が遅くなるように製剤化された通常のヒトインスリンである長時間持続型インスリン製剤(ultralente insulin)が挙げられる。長時間作用性インスリンは、食事時インスリン要件とは対照的な基礎インスリン要件を満たすには最適である。
【0073】
食事:本明細書に使用される「食事」、「食事類」、及び/または「食事時間」等には、伝統的な食事と食事時間が含まれるが、これらには、量及び/または時機にかかわらず、あらゆる栄養物の摂取も含まれる。本明細書に使用される「確定された食事」は、具体的には、通常の、あるいは伝統的な3回の日常食等の主要食事摂取の毎日の時間を意味する。ある糖尿患者には、最大血中グルコースレベルを下げるために、4回のいくぶん少量の日常食が推奨され、このような食事も用語「確立された食事」の意味の範囲に含まれる。
【0074】
微粒子:本明細書に使用される用語「微粒子」は、ジケトピペラジン単独、またはジケトピペラジンと1種類以上の薬剤との組み合わせのいずれかからなる外殻を有するマイクロカプセル類を含む。それは球体全体に分散した薬剤を含む微小球、不規則な形の粒子、および薬剤が粒子の表面に塗工されている粒子またはその中の隙間を薬剤が埋めている粒子も含む。
【0075】
食事の:「食事の」は、あるものを食事あるいは間食と関連付ける。それは、文脈によって、食事開始後1時間未満の時間、あるいは、食事摂取をし続ける時間を意味することがある。
【0076】
食事周辺:本明細書に使用される「食事周辺」は食事または間食の摂取の少し前に始まり、摂取後の少し後に終わる時間を意味する。
食後:本明細書に使用される「食後」は、一般的に食事開始後1時間以上の時間及び食事摂取を終了した後の時間を意味する。本明細書に使用される「後期食後」は、食事あるいは間食を摂取した後の2時間を越える時間を意味する。
【0077】
強化作用:一般に、「強化作用」は、ある薬剤が強化作用なしで達成し得るレベル以上に薬剤の効果または活性を高める条件または作用を意味する。同様に、この高められた効果又は作用を直接的に意味する場合がある。本明細書に使用される「強化作用」は、特に、上昇した血中インスリン濃度が、例えば、グルコース排出速度を高める等の後続のインスリンレベルの効果をさらに高める能力を意味する。
【0078】
前糖尿病患者:本明細書に使用される用語「前糖尿病患者」は、空腹時グルコース障害、または耐糖能障害を有する患者、即ち、空腹時血糖値が100mg/dL(5.5mmol/L)と126mg/dL(7.0mmol/L)との間にあるか、または食後2時間血糖値が140mg/dL(7.8mmol/L)と200mg/dL(11.1mmol/L)との間にある患者をいう。
【0079】
迅速作用性インスリン:本明細書に使用される用語「迅速作用性インスリン」は、投与後、およそ45〜90分で最大血中濃度に到達し、およそ1〜3時間で最大活性となるインスリン製剤を意味する。迅速作用性インスリンは、約4〜6時間の間、活性状態を維持することができる。限定されないが、迅速作用性インスリンの例として、インスリン類似体インスリンリスプロ(lispro)(HUMALOG(ヒューマログ)(登録商標))が挙げられる。廃止製品であるEXUBERA(エクスベラ、登録商標)及び実験的製剤VIAJECT(登録商標)(Biodel社)は、共に通常のヒトインスリンに基づいており、この定義の範囲に入る動態プロファイルを有する。
【0080】
第二相:本明細書に使用される「第二相」は、上昇した血中グルコースレベルに応答したインスリンの非スパイク型(non-spiking)放出を意味する。これは、少し上昇した血中インスリンレベルが徐々に減衰して基準値に戻ることを指す「第二相動態」とは区別される。
【0081】
短時間作用性インスリン:本明細書に使用される用語「短時間作用性インスリン」は、通常、食事時間前後に使用される通常インスリン及び迅速作用性製剤を含む。
間食:本明細書に使用される用語「間食」は、具体的には、確定した食事と食事の間に摂取される食物を意味する。
【0082】
肝臓グルコース産生抑制剤:本明細書に使用される用語「肝臓グルコース産生抑制剤」は、肝臓グルコース産生(肝糖新生、グリコーゲン貯蔵からの動員)を抑制する薬剤を意味する。限定されないが、肝臓グルコース産生抑制剤の例としてメトホルミンが挙げられる。
【0083】
TECHNOSPHERE(登録商標)インスリン:本明細書に使用される「TECHNOSPHERE(登録商標)インスリン」または「TI」は、通常のヒトインスリンおよび薬剤送達系(drug delivery system)であるTECHNOSPHERE(登録商標)微粒子を含むインスリン組成物を意味する。TECHNOSPHERE(登録商標)微粒子はジケトピペラジン、具体的には、3,6−ジ(フマリル−4−アミノブチル)−2,5−ジケトピペラジン(フマリルジケトピペラジン、FDKP)を含む。すなわち、TECHNOSPHERE(登録商標)インスリンはFDKP/ヒトインスリン組成物を含む。「TECHNOSPHERE(登録商標)インスリン」は、肺投与によって送達される超速効型インスリンであり、生理学的食事時間初期相インスリン放出を模倣する。この製剤は、また、本明細書では、総称的に、「インスリン−FDKP」と呼ばれる。ある文脈では、その製品は、インスリン単量体ヒト(rDNA起源)吸入用粉末と呼ばれる。
【0084】
本明細書に使用される「ジケトピペラジン」または「DKP」には、一般式1の範囲に該当する、ジケトピペラジンとその塩、誘導体、類似体、及び修飾体が含まれ、ここで、式1において、1位と4位にある環原子E1及びE2は、OまたはNのいずれかであり、それぞれ3位と6位に位置する側鎖R1及びR2の少なくとも1つに、カルボン酸(カルボキシラート)基を有する。式1による化合物は、ジケトピペラジン類、ジケトモルホリン類、ジケトジオキサン類及びそれらの置換類似体を含むがこれらに限定されるものではない。
【0085】
【化1】
【0086】
ジケトピペラジン微粒子は、肺の奥までの送達を可能にする空気力学的に適切な微粒子を形成することに加え、迅速に溶解し、薬剤積荷も放出し血液循環への吸収も更に加速させる。ジケトピペラジン類は、薬物を取り込む粒子、あるいは薬物をその上へ吸着させることができる粒子に成型することができる。薬剤とジケトピペラジンの組合せにより、薬剤安定性が改善される。これらの粒子は、様々な投与経路により投与できる。これらの粒子は、乾燥粉末の状態で、吸入によって粒子径に応じて呼吸器系の特定領域へ送達することができる。さらに、これら粒子は、静脈内懸濁液剤形に組み込まれるように十分小さくすることができる。経口送達も、懸濁液剤、錠剤またはカプセルに組み込まれた粒子によって可能である。
【0087】
本発明の別の態様では、DKPは3,6−ジ(4−アミノブチル)−2,5−ジケトピペラジンの誘導体であり、これは、アミノ酸リシンの(熱)縮合により形成される。誘導体の例としては、3,6−ジ(スクシニル−4−アミノブチル)−、3,6−ジ(マレイル−4−アミノブチル)−、3,6−ジ(グルタリル−4−アミノブチル)−、3,6−ジ(マロニル−4−アミノブチル)−、3,6−ジ(オキサリル−4−アミノブチル)−、及び3,6−ジ(フマリル−4−アミノブチル)−2,5−ジケトピペラジンが挙げられる。DKPの薬物送達への使用は、当技術分野で周知である(例えば、米国特許第5,352,461、5,503,852、6,071,497、及び6,331,318号を参照されたい。このいずれも、ジケトピペラジン類とジケトピペラジン仲介性薬物送達に関して教示されることすべてについて、参照により本明細書に組み込まれる)。DKP塩の使用については、同時出願中の米国特許出願第11/210,710号(2005年8月23日出願)に記載され、これは、ジケトピペラジン塩類に関して教示されることすべてについて、参照により本明細書に組み込まれる。DKP微粒子を使用する肺への薬物送達は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第6,428,771号に開示されている。
【0088】
TECHNOSPHERE(登録商標)/偽薬:本明細書に使用される「TECHNOSPHERE(登録商標)/偽薬」は、インスリンあるいは他の活性薬剤と結合していないTECHNOSPHERE(登録商標)粒子を意味する。
【0089】
Tmax:本明細書に使用される用語「Tmax」は、因子(濃度や活性等)がその最大値に到達する投与からの時間を意味する。
測定単位:皮下および静脈内インスリン投与量は標準化生物学的測定により定義されるIUで表される。フマリルジケトピペラジンと共に製剤化されたインスリンの量も、血中インスリンの測定値と同様に、IUで表される。TECHNOSPHERE(登録商標)/インスリンの用量は、その用量で製剤化されたインスリン量に数値的に等しい任意の単位(U)で表される。
【0090】
発明の詳細な説明
インスリン−FDKPは、生理学的食事時間初期相インスリン放出を模倣することができる超速効型インスリンであることが見出された。この独自の薬物動態学的プロファイルを有するインスリン製剤が、2型糖尿病の治療において如何に有利に使用できる可能性があるかを探る中で、これまで、他のインスリン製剤との比較で評価されてきた(例えば、米国特許出願第11/032,278号、第11/329,686号、第11/278,381号、及び第11/461,746号、それらの各々は、そのまま全体が、参照により本明細書に組み込まれる)。本明細書に開示された態様は、如何にして、このようなインスリン製剤の特定の用量及び投与方法が個々の患者に対して選択され、かつ、様々な患者集団に有益な効果があるように適用されるかに関係している。ある態様は、如何にして、このようなインスリン製剤が、同様の効果または有利な効果を達成するために、インスリン増感剤や分泌促進物質等の経口抗糖尿病薬剤と併用、及び/または置き換えることができるかに関係している。ある他の態様は、如何にして、このようなインスリン製剤が、同様の効果または有利な効果を達成するために、体外から投与される基礎インスリンと併用、及び/または置き換えることができるかに関係している。同様な開示は、また、米国仮特許出願第61/087,943号、第61/097,495号、第61/097,516号及び第61/138,863号でも記載されており、これら各々は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0091】
一般に、様々な態様が、確定した集団に食事時超速効型インスリンを使用することと関連する。これらの集団は、種々の記載された方法によって提供される1つ以上の利点から恩恵を得ることを必要とする、得る能力がある、あるいは、得ることを望んでいる集団であると言える。このような利点は、なんらかの表明された臨床的恩恵を享受するか求めることとして表現できる。このような利点は、また、様々な副作用、有害転帰、禁忌等の除外もしくは回避、または、それらが起こる危険性もしくは潜在的可能性の低減を含む。同様に、これらの方法は、どの集団の一員であるかに基づいて患者を選択する工程を伴うことができる。当然のことながら、選択は、医者または健康管理の専門家が、特定の諸因子に関して患者を評価することを含むことができるが、また、患者が、同様のデータに基づいて、あるいは医者または他の健康管理専門家の助言を受け入れて、治療の自己選択をすること含むこともできる。同様に、これらの方法の投与工程は、薬剤の患者による物理的服用(または、同様に薬剤による治療の中止)を含むことができるが、また、医者または他の健康管理専門家が、薬剤を服用(または中止)する他の特定の指示を処方する、あるいは提供することも含んでもよい。更に、本発明の別の態様は、このような目的のための、及びこのような目的の薬剤の製造における、超速効型インスリン製剤、組成物あるいは製剤の使用を含む。
【0092】
本明細書に使用されるように、生理的食事初期相インスリン放出(または同様な用語)を模倣することは、生理的反応の全ての特徴を正確に複製することであることを必ずしも意味しない。それは濃度の比較的速い上昇及び低下の両方を構成する血中インスリン濃度のスパイクまたはピークを形成するインスリン製剤及び方法を指すことができる。ある態様において、最大濃度まで上昇するには、投与から、または基準値を最初に離れてから、30分未満、好ましくは約20分または15分未満を要し、また、別の態様において、最大濃度まで少なくとも5分または少なくとも10分を要し、例えば12分〜14分、あるいは10分〜20分等で最大濃度に到達する。ある態様において、最大インスリン濃度からの低下は、最大値から80分で、あるいは50分で、あるいは35分で半分に低下することを含む。一般には、インスリン濃度は、投与後2〜3時間で基準値に近づく。これは、最大インスリン濃度に達するまでのより緩やかな上昇(30分から数時間に渡る)及び最大濃度近くで長いプラトーを生成するインスリン製剤及び方法とは対照的である。迅速作用性類似体(RAA)は、通常のヒトインスリンよりも鋭いピークを示すが、市販のRAAの中で最も速効性のインスリンリスプロ(lispro)(HUMALOG、ヒューマログ(登録商標))でさえ、処方情報に開示されているように、Tmaxは、30〜90分であると報告されている。比較のために、インスリンアスパルト(NOVOLOG(登録商標))は、1型糖尿病の被験者において平均Tmaxが40〜50分であると報告され、インスリングルリジン(APIDRA(登録商標))は、インスリン1型及び2型糖尿病の被験者において平均Tmaxが60〜100分であると報告されている。この場合、両集団共に40〜120分の範囲でのデータである。その上、RAAは、濃度が基準値に戻るには、約6時間必要である。生理的食事初期相インスリン放出を模倣することは、また、インスリン濃度のスパイクが食事の開始に確実に適合できるインスリン調剤や方法を指すこともできる。また、それは、投与後、約30〜90分以内、好ましくは約45〜60分以内の最大グルコース排出速度(GERmax)の達成(及びその関連方法)を指すこともできる。このような特徴を有するインスリン製剤は、本明細書において、超速効型と呼ばれる。本発明の態様において、初期相放出を模倣する方法は、一般的に、糖尿病患者が静脈内注射等の特別な医療訓練を受けずとも、自分自身に実施できる方法でもある。特別な医療訓練には、訓練された医療専門家ではない人々によって日常的に用いられる乾燥粉末吸入器等の医療機器を使用するための訓練は含まれないであろう。いくつかの態様において、超速効型インスリンは、量及び/または時期に関係なく、あらゆる栄養物の摂取ごとに投与することが可能である。それでも、低血糖症の危険性を避けるためには、少なくとも限界血糖値負荷(これは、インスリン用量に依存する可能性がある)をもたらす食事にのみ投与することが好ましい。血糖負荷の様々な評価方法は、当技術分野で知られており、「炭水化物計算(carb counting)」(食事中の炭水化物のグラム数を計算/評価する)、主食交換品(bread exchanges)の使用、及び摂取する食品の血糖指数の考慮等が含まれる。
【0093】
超速効の意味は、また、他のインスリン製剤との更なる比較によっても理解できる。皮下注射のための通常のヒトインスリン製剤は、主に作用の持続期間に関しては短時間作用性であると考えられる。通常、それらは、最大血中インスリン濃度に到達するのに少なくとも1〜2時間は要し、最大の活性に到達するのに2〜4時間は要する。活性の大きな上昇は10〜12時間もの間持続が可能である。その他の短時間作用性インスリンに、インスリンアスパルト、インスリングルリジン、及びインスリンリスプロ等の迅速作用性インスリンが含まれる。これらのインスリン製剤は、注射すると、六量体から単量体に、より簡単に解離するので、より早く(30〜100分)最大血液濃度に到達し、従って、また、通常のヒトインスリンよりも素早く作用を開始する。現在は廃止製品であるエクスベラ(登録商標)等の、肺投与のインスリン製剤は、迅速作用性類似体と同様の薬物動態を示す。何種類かの肺製剤、インスリンリスプロ及びインスリン−FDKPの薬物動態プロファイルが発表されており、インスリン−FDKPが、際立って速く最大濃度に達し、基準値に向かって減衰するのも早いことが示されている(Heinemann et al. Br J Diab Dis 4:295-301, 2004)。このように、超速効型インスリンは、投与後、2時間以内にインスリン低下活性のおよそ3分の2を使い果たすのに対し、これらの他の製剤は、通常、この同じ時間枠で費やすインスリン低下活性はおよそ3分の1以下である。その対極には、例えば24時間までという長時間に渡り、理想的に一定レベルのインスリン活性を提供するインスリングラルギンあるいはインスリンデテミル等の長時間作用性インスリンがある。これらは、基礎活性を提供することを目的としており、通常、1日に1回か2回投与される。このように、作用開始の迅速性は重大な因子ではない。最後に、中間作用性と称され、短時間作用性と長時間作用性の製品との間の作用持続時間を有するインスリン製剤がある。
【0094】
GERmaxへの迅速な到達に寄与するGERの強化作用は、インスリン濃度の上昇速度だけではなく、十分なピークの高さの達成に依存していると理解されている。これは、1型糖尿病患者の場合、少なくとも約60mU/L、好ましくは少なくとも約80mU/Lの最大インスリン濃度である。2型糖尿病患者の場合は、病状の一部であるインスリン抵抗性のため、より高いインスリン濃度を必要とすることがあり、抵抗性の程度に依存するが、通常は、少なくとも約100mU/L、好ましくは少なくとも約120mU/L、少なくとも約140mU/L、あるいはそれ以上である。従って、種々の態様において、ピークの高さは、投与前のインスリン濃度基準値を超えて、少なくとも60、100、または120mU/Lである。これらの最大インスリン濃度は、迅速または急速作用性と称されるインスリン製剤を含む皮下注射用標準製剤やこれまでに述べた同様な動態を有する非注射投与用製剤等の非スパイク型インスリン製品の通常用量で達する濃度よりも相当高い。
【0095】
初期相放出を模倣しないインスリン製剤類によって起こるインスリン濃度および作用遅延時間の比較的緩やかで小さな増加は、これら製剤のグルコース可動域制御能力を制限する。食事による血糖負荷が弱まった後に低血糖症が誘発されるのを避ける必要があるために、一般に、この投与できる用量は食事後の血中グルコースの上昇を制御するには十分ではない。これらの問題は、同時係属米国特許出願第11/278,381号に詳細に述べられており、これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。血中グルコース濃度の急激な変動(例えばMAGEとして測定。MAGE:血糖可動域の平均振幅)は、糖尿病関連性酸化ストレスに対して慢性高血糖症(通常はHbA1cレベルとして測定される)よりも大きい影響を与え、従って、このようなストレスの原因となる糖尿病性合併症の回避を制御するための重要な因子であることがわかってきた(Monnier, L., et al. JAMA 295:1681-1687, 2006; and Brownlee, M. & Hirsch, I. JAMA 295:1707-1708を参照されたい。これらは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。更に本発明者は、インスリン濃度の急激な増加や迅速な変化によりグルカゴンの産生が抑制され、肝臓グルコース放出が減少すると理解している。これにより、血糖負荷は下がり、その結果、インスリンに対する需要が下がり、グルコース可動域が縮小される。
【0096】
超速効型インスリンは、特に、食後血中グルコース(PPG)の制御に最適である(PPGの意義についての総説に関しては、MannKind Corporation. Postprandial hyperglycemia: Clinical significance, pathogenesis, and treatment. Valencia, CA: MannKind Corporation; 2009:1-20を参照)。超速効動態により、グルコースが食事から吸収されている時間に、インスリンの活動をより適切に合わせることができるだけでなく、また同様に、より迅速で有利な間合いで肝グルコース産生を抑制する(実施例1を参照)。このようにして、それは、食後高血糖症の一因である両グルコース源に対処する。本明細書において開示されている態様は、1時間及び2時間のPPGを140mg/dl以下、180mg/dl以下、または200mg/dl以下に抑制することを目的とする。驚くべきことに、PPGレベルの制御は、空腹時血中グルコースレベルに対しても、長期間の有益な効果があることも明らかになった。これらの特性及び下記の実施例に提示された臨床用途のデータを考慮することにより、本明細書には、インスリン−FDKP等の超速効型インスリンを、どのように単独、または標準経口抗糖尿病薬と併用し、現行治療パラダイムと対照的な形で特定の患者集団に有利に用いることができるかが開示されている。
【0097】
糖尿病の治療は、伝統的にHb1Acレベルに反映される平均血中グルコース濃度の制御に集中してきた。ここに開示した方法は、Hb1Acレベル(平均血中グルコース濃度)及び付随するグルコース毒性を最小限に抑えるだけではなく、グルコース濃度の急激な変動(グルコース可動域)を制御するように設計されている。グルコース可動域が低減すると、酸化ストレスに起因する微小血管系に対する一般的炎症性負荷および酸化的損傷も軽減する。従って、1種以上の経口薬剤を超速効型インスリンに置き換えても、HbA1cレベルの制御では同様の結果であるかもしれない患者の場合でさえ、この治療は、経口薬剤単独での治療よりも良い効果をもたらすことができる。実際、これは、基礎インスリンを治療計画に加えることでは達成できない効果である。また、単なる迅速作用性インスリンでは、特に、超速効型インスリンの最適化された用量と比較すると十分な効果を発揮することは期待できない。
【0098】
この効果は、初期相放出を模倣するインスリン製剤、即ち超速効型インスリン製剤を、少なくとも1日1回、好ましくは2回もしくは3回、または毎回の確定された食事もしくは毎回の間食を含む食事と共に日常的に投与することによって達成される。このような治療は、何日間、何週間、何カ月および何年の間であれ、患者の寿命が残っている限り(または基礎的インスリン関連性疾患が治るか、そうでなければ、軽減する時まで)、徐々に優先度を上げつつ、また有効性を高めていくために維持しなければならない。「日常的に」というのは、提唱される投与計画は理想的でかつ通常の用法であることを意味するが、実際の現場においての食事や服用の機会を時折逃す等のこの規定手順(protocol)からのずれが特許請求された本発明の範囲から逸脱するものではない。種々の態様において、もしインスリン投与がなければ血中グルコースを140mg/dL、あるいは180mg/dlより高くする食事または間食の全てと共に;1、2、3、またはそれ以上の主食交換を構成している食事または間食の全てと共に;約15、20、30、または45g以上の炭水化物を含む食事または間食の全てと共に、インスリンは日常的に投与される。
【0099】
本明細書に開示されている方法の態様は種々の投薬計画を含み、該投薬計画はすべての食事または間食時に投薬、炭水化物含量が15gより多いすべての食事または間食時に投薬、炭水化物含量が30gより多いすべての食事時または間食時に投薬、炭水化物含量が45gより多いすべての食事時または間食時の投薬を含むが、それらに限定はされない。用量および所望インスリン組成物濃度は想定される個々の使用によって種々に変わる。適切な用量または投与経路の決定は通常の医者の技術の範囲内である。しかしながら、医者は、最も一般的には、用量の連続的な変化を可能とする液体のインスリン製剤に精通している。インスリン−FDKPは、前もって秤量した単位用量で乾燥粉末として供給される。従って、個体に対するインスリン−FDKPの適切な用量を決める具体的な指示は、本明細書に開示されている。さらに、本発明による治療の長さは個々の使用によって変わることがあり、治療の長さの決定は通常の医者の技術の範囲内である。
【0100】
インスリン−FDKP等の超速効型インスリン製剤の活性プロファイルにおいて、急峻な吸収で大きな裾引きがないことは、他のインスリンに比較し、低血糖症を誘発する危険性が低いことも意味する。後期食後低血糖症の影響を弱めるために間食することは、標準インスリン治療に伴う体重増加の一因となると理解されている。対照的に、インスリン−FDKPの使用は体重増加が無く、実際は、体重減少が観察されている。
【0101】
インスリンの静脈注射は第一相応答を効果的に繰り返し、初期相応答を近似することはできるが、毎日複数回の投与を一生の間必要とする状態では実際的な治療法ではない。これらの理由のため、静脈注射用のインスリンは、本明細書に用いられているように超速効型インスリン製剤という用語には含まれない。伝統的皮下注射は急速作用性組成物を使用しても比較的緩やかに血流に吸収され、最大血中濃度に達するまでに最大1時間かかり、プラトーが数時間続く。評価した多くの肺組成物類は効果の点で皮下インスリンと同等で、同様に、上に定義した初期相放出を模倣するために必要な超速効的動態を得ることはできなかった。それにもかかわらず、肺内および経口投与等の非注射に基づいた送達や、あるいは吸収促進賦形剤を含む製剤の皮下注射を使用して、確実に速やかに吸収させる可能性は存在する。本明細書に記載の通り、ジケトピペラジンに基づいた乾燥粉末組成物を用いる肺内送達が利用されている。
【0102】
このように、好ましい態様は、ジケトピペラジン微粒子と錯体を形成したインスリンを含む乾燥粉末インスリン製剤の肺内投与によって所望の初期相様動態を得る方法を提供する。この製剤は迅速に吸収され、約10〜15分以内に最大血清レベルに達する。これは生理的食事関連性初期相インスリン応答の動態を十分速やかに模倣する。最大血清インスリン濃度への短時間の急上昇は、内因性グルコース産生の迅速な抑制にとって重要であり、遅効性組成物とは対照的に、インスリン作用の大部分を食事周辺時間に圧縮するという付加的な効果もある。これは正常グルコースレベルからの食事関連性可動域の大きさおよび持続時間を減らし、これらに関連するグルコース毒性、並びに食後低血糖症の危険性も減らす。この乾燥粉末インスリンで得られる、このような血中グルコースレベル制御の改善は、3/31/06出願の同時係属米国特許出願第11/278,381号により詳細に記載されており、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。米国出願第11/329,686号に開示され、上に記載があるように、先行する高いインスリンレベルはグルコース排出速度を促進するが、これは、先行する高いインスリン濃度スパイクがあれば、グルコースはより速やかに除去できることを意味している。
【0103】
ジケトピペラジン微粒子薬剤送達系および関連する方法は、米国特許第5,352,461号および第5,503,852号に記載されている。肺内デリバリーにおけるジケトピペラジンおよび生体内分解性重合体微粒子の使用は、米国特許第6,428,771号および第6,071,497号に記載されている。考えられる製剤および製法の種々の局面に関する詳細は米国特許第6,444,226号および第6,652,885号に、および米国特許第6,440,463号に、9/14/05出願の同時係属米国仮特許出願第60/717、524号および4/14/06出願の第60/776,605号に見いだされる。好ましい呼吸促進式(breath-powered)乾燥粉末吸入器の特性およびデザインは米国特許出願第10/655,153号に開示されている。ジケトピペラジン微粒子に錯化したインスリンを用いる治療の側面は、米国特許第6,652,885号並びに同時係属米国特許出願第11/032,278号に開示されている。更に米国特許出願第11/210,710号はジケトピペラジン塩類を使用して肺内および経口デリバリー両方のためのインスリンを処方することを開示している。この段落に記載された各々の特許および特許出願は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0104】
インスリン−FDKP、もしくは初期相放出を模倣する別のインスリンが、単独で投与されるか、または基礎インスリン、メトホルミン等の肝臓グルコース放出抑制剤もしくはチアゾリジンジオン(TZD)等のインスリン増感剤等の別の薬剤との併用で投与されるかに関わらず、超速効型インスリンは、確定された食事と共に、必要に応じ、毎日少なくとも1回、好ましくは、2回〜4回、あるいは最多で毎回の食事に投与される。治療の最大効果を達成するためには、長期間にわたり服用すべきであり、好ましくは12週間以上、もっと好ましくは24週間以上、さらにもっと好ましくは約6ヶ月から約2年、最も好ましくは患者の寿命が残っている限り、または原因となっている糖尿病が治るまでである。
【0105】
糖尿病の現在の治療は一般にHbA1cレベルを7%以下にまで下げることを目標としている。8%を超えるHbA1cレベルは、患者の現在の治療法を見直すべきことを示している。正常なHbA1cレベルを達成することは望ましいかもしれないが、市販のインスリン製品を用いる場合は、受け入れがたい重度の低血糖症の危険性がある状態でしか達成できないであろう。従って、8%より低いHbA1cの患者は、より集中的な治療、すなわち、インスリン、特に現行の食事時インスリンでの治療の候補者としては、通常は見なされないであろう。8%を超えるHbA1cレベルの患者でさえ、基礎あるいは混合インスリンを投与されていない場合、食事時インスリンでの治療の候補者としては、通常は見なされないであろう。本明細書に開示された態様においては、一つには、超速効型インスリンはインスリン活性の裾引きがないために、低血糖症の危険性は大きく低下し、HbA1cが7%未満の患者を治療することは可能である。更に、正常値範囲の上限でさえ、血中グルコースを下げることでの効果が期待できる。例えば、ある研究では、心臓血管疾患を起こす危険性はHbA1cが5%未満の個体に比較し、7%を超える個体の方が5〜8倍であったと報告している。別の研究では、HbA1cが6%未満から8%超になると、腎臓疾患の危険性が漸進的に増加することを報告している。従って、いくつかの態様において、治療のために、HbA1cレベルが6.5%以下もしくは6%以下の患者が選ばれる。これらの方法は、一般に、人間の患者に関して議論されているが、人間以外の哺乳動物への適応は、本開示及び関連分野技術の能力の範囲を超えるものではない。
【0106】
(個々の用量の決定)
インスリン−FDKPは、吸入器に挿入する予め秤量した粉末を含有するカートリッジで供給される吸入用の乾燥粉末製剤である。このインスリンは、肺に粉末を送達する吸入器から吸入することによって投与される。種々の用量を含むカートリッジが供給され、個体の用量は、所望の用量を含む単一のカートリッジを用いるか、複数のカートリッジ(一度に1個)を用いるかのいずれかで得られる。
【0107】
患者は、7%を超えるHbA1cを有する等の不適切に管理されている高血糖症の糖尿病患者、あるいは、適切に管理された血中グルコースレベルではあるが超速効型インスリンを用いて得られるその他の利点(例えば、減量、体重増加の回避、低血糖症の危険性の減少、グルコース可動域の減少等)を生かしたいと望んでいる糖尿病患者である可能性がある。
【0108】
個々の用量の決定は、7点SMBG(血清測定血中グルコース)を用いて食後2時間血中グルコースの最高レベルとなる日常食の特定(即ち、朝食、昼食、夕食、一定時間での間食他)から始まる。その食事に対して用量を徐々に増量する。一旦、その食事に対する適切な用量を確立すると、次に高い血中グルコースレベルに繋がる日常食に対する用量設定することを続け、全ての日常食に対する用量を決定した。一態様において、初回の用量は用量設定されていない食事と共に服用する。別の態様では、全日常食に対する用量設定は、順番にではなく同時に行われる。用量設定の対象の食事は、量と食物成分内容がその患者にとって「普通」で、かつこれらの因子の変動がほとんどないことが好ましい。
【0109】
用量設定は、問題の食事と共に1個の低用量のカートリッジを用いることから始める。低用量のインスリン−FDKPカートリッジは、例えば、6または12Uの放出用量のインスリンを供給できる。最も一般的には、用量設定は、12Uカートリッジで行われるが、体重が少なく制御すべき高血糖症の程度が軽い、及び/あるいはインスリン抵抗性の程度が軽い患者は、より少ない用量で用量設定を始めること、及び/または、より少ない増加分での用量設定を進めることを好むかもしれない。分かり易くするために用量設定を12U用量に関して下記に説明するが、当然ながら、同様に6U用量や他の低用量カートリッジに基づいて用量設定してもよい。同様に、たとえ、用量設定が入手可能な最低用量のカートリッジに基づかない場合でも、下記の手順に対する代替として用量の最後の増量分(または減量)を投与するのに、より少用量の低用量カートリッジ用いることができる。
【0110】
最初の用量は1週間用いられる。その後は1週間毎に、食事に対する用量を低用量カートリッジの用量(即ち、12U)分だけ、1)食後2時間平均グルコースが70と110mg/dlとなる、2)放出用量に基づく用量が72Uとなる、または、3)低血糖症の症状が発現するまでのいずれかになるまで増量を行う。SMBGが70mg/dl未満であることが確認されている軽度から中程度の低血糖症の症状が発現した場合は、低用量(即ち、12U)カートリッジ1個分の用量を減量し、1週間の間、その用量を維持し、その後用量設定を再開する。SMBGが36mg/dl未満であることが確認されている重度の低血糖症の症状が発現した場合には、低用量(即ち、12U)カートリッジ1個分の用量を減量し、この新しい用量を維持し、次の食事から用量設定を始める。別の態様では、70mg/l及び110mg/lの間の食前血中グルコースもまた用量設定の終点として用いることができる。いくつかの態様においては、上記の用量の段階的増量を終わらせる第二の基準がより高い終点用量で定められているか、あるいは基準を全く使わない。
【0111】
別の態様において、初回の用量は相対的生体利用度に基づいて皮下投与されるインスリンの用量から見積もることができる。これは、以下の実施例で使用されている以外の製剤及び吸入器系にこの漸増減用量設定方式を適合させる際に重要となる。より普遍的な基準は、インスリン暴露(血中インスリン濃度の経時でのAUC)に従って用量を特定することによって得られる。用量設定は上述の通りで、放出される12Uは、3〜4皮下当量単位(subQ eq)に相当する。従って、種々の態様において、低用量は、例えば、約1,1.5、2、3、4または5皮下当量単位である。段階的用量増量の限界は、約18、24、32皮下当量単位またはそれ以上であり得る。
【0112】
患者が既にインスリン投与療法を受けている場合は、用量の皮下当量単位での表現によって、超速効型インスリンの使用への移行も容易になる。患者が既に食事時インスリン療法を受けている場合は、現在使っているのと同じ皮下当量単位の用量で始め、そして上述のように基本的には、そこから漸増、漸減する。もし、患者が、長時間作用性インスリン単独または短時間及び長時間作用性インスリンの混合物による療法を受けている場合には、1日分の全用量の50%を1日の食事数で割るべきであり、その皮下当量単位で表した量の超速効型インスリンを用量設定における初回用量として用いるべきである。超速効型インスリンが現行の用量と完全な一致ができない形で供給される場合には、初回用量として用いる超速効型インスリンの用量に最も近くなるように切捨てまたは四捨五入(つまり増減)する。一態様において、この選択は、医者に任せられるが、特別な態様では、どちらの選択かが指定される。
【0113】
従って、本明細書に、1個の低用量カートリッジ相当の初回用量を1週間、毎日食事と共に投与する工程を含む、日常食のためのインスリン−FDKPの個々の用量を決定する方法が提供される。その後は、1週間毎に用量を1個の低用量カートリッジ分だけ、用量設定終点に到達するまで増量する。ここで、用量設定は以下の群から選ばれる。即ち、1)食後2時間平均グルコースが70(あるいは80)と110mg/dlとの間になる;2)放出用量に基づく用量が72Uとなる;3)SMBGが36mg/dl未満であることが確認されている重度の低血糖症の症状が発現し、次いで用量を1個の低用量カートリッジ分だけ減量する;及び4)SMBGが70(あるいは80)mg/dl未満であることが確認されている軽度から中程度の低血糖症の症状が発現し、低用量カートリッジ1個分の用量を1週間減量し、次に、用量設定を再開し、その他の終点の中の1つに到達するまで続けるか、または、用量を軽度から中程度の低血糖症を起こすレベルよりも下に設定する。
【0114】
本明細書に開示された態様は、毎日の各々の食事に対する用量を、毎日の食事ごとに上記に記述されたように連続して決定する方法を含む。この態様は、どの日常食が食後2時間血中グルコースの最高レベルとなるかを決定し、最初にその食事を用量設定の対象にすることを含む。いくつかの態様において、この決定は7点SMBGを用いる。そうして、食後2時間血中グルコースが次に高いレベルとなる日常食が順番に用量設定の対象となる。初回の用量は、用量が確定していない各々の食事と共に用量設定をせずに投与される。別の態様において、全ての食事に対する用量設定を同時に行う。
【0115】
一態様において、低用量カートリッジは、3〜4皮下当量単位のインスリン放出用量を提供する。別の態様において、低用量カートリッジは、1.5〜2皮下当量単位のインスリン放出用量を提供する。いくつかの態様において、用量設定の終点の群は、70と110mg/dlの間の食前血中グルコースレベルを含む。
【0116】
種々の別の態様において、用量設定は、上記のように1週間に渡り毎日実施されるのとは対照的に連続3日間以上の測定、更に、あるいは、1週間の間での3〜6日間の測定に基づく。その他の態様において、用量設定は食後2時間SMBGの代わりに、食前/就寝前SMBGに基づく。即ち、昼食前測定は朝食時用量の決定に用いられ、夕食前測定は昼食時用量の決定に用いられ、就寝前測定は夕食時用量の決定に用いられる。
【0117】
(標準用量の使用)
伝統的な食事時インスリン治療は、その量と内容に基づいた個々の食事の予測される血糖負荷に対する慎重な調整を必然的に伴ってきた。この必要性は、超速効的インスリン製剤を使用することにより回避、または少なくとも小さくすることができる。伝統的な食事時インスリン製剤は、皮下注射/注入による投与であれ、吸入による投与であれ、主に比較的長時間に渡りグルコース排出速度を高めることによって、血中グルコースレベルに効果を及ぼす。引き起こされる全グルコース排出は、投与した用量に一般的に比例する。それに対し、超速効型インスリン製剤は、比較的制約された時間で効果を及ぼし、かつ、血中グルコースレベルに対する効果の大部分は、迅速に肝臓グルコース放出を基準値まで減少させる結果である。超速効型インスリンで得られる血中インスリンレベルの急速な上昇は、グルコース排出活性の迅速な上昇を強化し、また、グルコース放出を減らすための信号を肝臓に送る。しかしながら、これらの効果をもたらすために達成されたインスリンのこの高濃度は、グルコース排出速度(GER)がインスリン濃度に比例する範囲を超えている。このようにして、インスリン用量を増加させることはGERが上昇する期間を延ばすが、これは、GERがインスリン濃度に比例する範囲をインスリン濃度が越える期間を延ばすことによって引き起こされる。従って、超速効型インスリンによる全グルコース排出は、用量に対して感受性がかなり低い。その上、相対的には長時間で作用する伝統的な短時間作用性製剤を用いた場合よりも、インスリン濃度は、投与後より早く基準値に戻り、効果も限られた時間で発揮され、恒常性維持機構もはるかに早く再び働き、それによって、外因性インスリンの活性によって、後期食後低血糖症の可能性が小さくなる。
【0118】
その結果、毎日の食事ごとに標準用量を設定し、食事ごとのカロリー含量あるいは血糖負荷の変動を考慮せずにその用量を用いることが可能である。血中グルコース低下効果のほとんどが、肝臓グルコース放出の減少に関係しているので、たとえ、通常よりも大量の食事を摂取しても、用量を血糖負荷やカロリー負荷に慎重に適合させなくても、効率的な低下が達成される。GERの上昇は、比較的寿命が短く、一般に、食事が血中グルコースレベルを上げる時期に時間的によく一致しているので、たとえ、より少ない食事を摂取しても低血糖症の危険性は小さい。それにもかかわらず、好ましい態様においては、食事のカロリー含量及び/または血糖負荷は、(標準用量の決定に使用される)通常の食事の25、50、または75%から125、150、200、または250%までの範囲以内に維持される。インスリン抵抗性、従って、インスリンに対する応答性は概日周期によって変わるので、毎日の各々の食事に対して標準用量を設定するのが一般的には好ましい。但し、実際問題としては、決定された標準用量は、異なる毎日の食事に対し同じとなるかもしれない。この方法は、病気の進行の初期段階の第2糖尿病患者等の、インスリンを産生し、血中グルコースレベルを調節するために十分な残存能力がある糖尿病患者には特に最適である可能性がある。
【0119】
従って、本明細書に、個々の食事内容に基づいて調節を行わない標準用量で糖尿病を治療する方法が提供される。該方法は、食事の内容に基づく用量の調節をしない、超速効型インスリン製剤の所定標準用量の食事時投与を含む。様々な態様において、該方法に従って、あらゆる日常食が扱われ、即ち、例えば、朝食、または朝食と昼食、または朝食と夕食、または朝食、昼食と夕食等が挙げられる。いくつかの態様では、単一の所定の用量が全ての食事に対し用いられる。好ましい態様では、毎日のそれぞれの食事に対して、即ち、例えば、朝食に対して、昼食に対して、夕食に対して所定の用量が用いられる。いくつかの態様において、食事内容は、カロリー内容として評価される。その他の態様において、食事内容は血糖負荷として評価される。好ましい態様において、食事内容は、所定のインスリン用量の決定に用いる通常の食事の25、50、または75%から125、150、200、または250%までの範囲以内に維持される。
【0120】
一態様において、超速効型インスリン製剤はインスリン−FDKPである。別の態様において、投与は、肺への吸入によって行われる。
(分割、追加、及び遅延用量の使用)
伝統的な食事時インスリン投与療法では、摂取される食物量の予測に基づいて用量を選び、次に、摂取をこの事前の予測に一致させる試みを行う。食物がより多量に摂取される、あるいは、炭水化物、食物繊維、及び脂肪の比率が通常や予測と異なる場合、これらの因子を高い確信度で分かっていても、伝統的な製剤の投与と作用の開始との間に遅れがあるため、食事に続く2次用量の投与によって、血糖制御を改良するのは不可能である。それに対し、超速効型インスリン製剤は即効性があるので、食事に続く2次用量の単回投与によって、インスリンの用量を食事に適応させるのに好都合である可能性がある。分割投与の使用は、優れた内因性インスリン産生とほんの中程度のインスリン抵抗性を有する2型糖尿病患者以外の糖尿病患者、例えば、(この病気の「ハネムーン」段階を超えた)1型糖尿病患者及びこの病気の進行の後期である2型糖尿病患者等の糖尿病患者に特に最適である。
【0121】
この投与方法の一適用において、分割投与は、遅延型吸収が予測される食事に適用される。遅延は、病状に起因する場合があり(長期の糖尿病は、遅延型栄養吸収を伴う)、あるいは、食事の内容に起因する場合もある(脂肪や植物繊維の含量が高いと食物の吸収を遅らせる傾向がある)。分割投与の使用は、また、コース料理、あるいは、その他、祭日の祝賀会や宴会等における長い食事と共に有利に用いられる。たとえ個体が通常の食事に従って全摂取量を制限したとしても、摂取が通常の時間よりも長時間に延びるという事実もまた、結局、栄養吸収の延長をもたらす。分割投与は、栄養吸収の遅延的プロファイルに対処する方法を提供する。単回投与の場合であれば食事と一緒に用いると考えられるインスリンの用量と比較して、その用量の1/2〜3/4、例えば2/3、を食事開始時に投与し、その用量の残りを30分〜120分後に投与するのである。
【0122】
従って、更なる態様によって、遅延型栄養吸収であると予測される患者を選択し、食事開始時に超速効型インスリン製剤の所定の用量の1/2〜3/4の初回用量を投与し、その所定の用量の残りを30分〜120分後に投与する方法が提供される。一つ態様において、初回の用量は所定用量の2/3である。いくつかの態様では、遅延型吸収は病状(糖尿病)に関連する。他の態様では、遅延型吸収は食事の内容に関係する。これらの態様の更なる側面において、食事の内容は高植物繊維含有量を含む。これらの態様の他の側面において、食事内容は高脂肪含有量を含む。別の側面において、高脂肪含有量は食事内容の内、25%以上を占める。別の側面において、高脂肪含有量は食事内容の内、35%以上を占める。一態様において、超速効型インスリン製剤はインスリン−FDKPである。別の態様において、投与は肺への吸入によるものである。
【0123】
この投与方法の別の適用において、分割投与は、インスリン投与を実際の血糖負荷に適合させるために用いられる。初回用量を食事開始時に投与し、血中グルコースレベルを60〜120分後に定量し、血中グルコースが140mg/dlを超える場合には、2次、即ち追加用量を投与する。いくつかの態様において、2次用量は、初回用量の50〜100%に等しい。いくつかの態様において、血中グルコースは連続グルコース監視によって測定される。
【0124】
従って、更なる態様によって、糖尿病患者を治療する方法であり、食事開始時に超速効型インスリン製剤の初回用量を投与し、食事開始後60〜120分に血中グルコースレベルを定量し、この血中グルコースレベルが140(あるいは150)mg/l超える場合には、超速効的インスリン製剤の2次用量を投与することを含んでなる方法であって、2次用量の投与量が初回用量の投与量の25%、または50%から100%である方法が提供される。一態様において、超速効型インスリン製剤はインスリン−FDKPである。別の態様において、その投与は肺への吸入によるものである。
【0125】
この投与方法のひとつの変形において、食事開始時には用量の投与を行わない。その代り、投与を、食事開始後、例えば、10、15、20または30分まで遅らせる。この変形は、遅延型栄養吸収が予測される場合に特に適している。
【0126】
従って、本明細書に開示されている態様によって、遅延型栄養吸収が予測される患者に、食事開始後に超速効型インスリン製剤の用量を投与することを含んでなる糖尿病の治療方法が提供される。一態様において、遅延型吸収は、用量の決定に用いられる通常の食事に比較し、高い脂肪と食物繊維の含量が原因である。別の態様において、遅延性吸収は長期糖尿病が原因である。一態様において、超速効的インスリン製剤はインスリン−FDKPである。別の態様において、その投与は肺への吸入によるものである。
【0127】
(皮下インスリン抵抗性患者の治療)
インスリン−FDKPの利点の多くはその超速効動態と関連している。しかしながら、インスリン−FDKPは、通常は、乾燥粉末製剤の吸引により投与される。その投与の経路のために、この製剤から付加的な恩恵を受けることができる患者群があり、即ち、それは皮下インスリン抵抗性の患者である。この現象は、2型糖尿病と通常は関係する、体全体の細胞のインスリンに対する応答性の低下に起因すると一般には理解されているインスリン抵抗性とは異なり、無関係である。
【0128】
皮下インスリン抵抗性の現象は、糖尿病の専門家によって、本物の生理学的状態としては必ずしも普遍的に認められてはいない。確かに、この病因は、十分に理解されておらず、実際に、この病状に至る可能性のある要因は多く存在するであろう。とはいえ、吸入可能なインスリンの経験が、この現象の臨床学的現実を実証している。皮下投与されるインスリンで治療を受けている場合は、他の治療を受けている場合に必要と予測される量よりも相当多量の用量を必要としてきた患者が、肺インスリンに切り替えると、インスリンの必要量が彼らの病状に基づいて予想される量とより合致する患者がいる。皮下インスリン抵抗性も、高血糖症の合理的な制御の確立の困難さやインスリンに対する応答の変動の一因となっている可能性がある。
【0129】
予め皮内インスリン抵抗性の糖尿病患者を特定するためには、いくつかの要因を考慮することができる。第一に、特に、体重及び病気の進行状態を含む医学的状態に基づくと、一般に必要であると考えられる用量に比べ、患者は高用量のインスリンを用いている。例えば、高用量のインスリンは、2単位/Kg/日を超えるものである。この基準は、さらに、正常または正常に近い基礎レベルの内因性血清インスリン、例えば、50μU/ml以下のインスリンを有する患者と組み合わせることができる。このような患者は、一般に、病気の進行の初期段階で2型糖尿病になる。あるいは、高インスリン使用は、診断基準として、皮下脂肪委縮症や脂肪異栄養症と組み合わせることができる。
【0130】
また別の態様において、高インスリン使用は、選択基準として、制御が非常に不十分な高血糖症と組合せることができる。制御が非常に不十分な高血糖症は、例えば、6ヶ月以上に渡る基礎―ボーラス治療もしくは持続皮内インスリン注入(CSII、即ち、インスリンポンプ)等の強化インスリン療法による治療にもかかわらず、12ヶ月間での3回のHbA1cレベル定量が9%以上であることで証明される。一般に、HbA1cレベルは、四半期毎に定量される。3回のHbA1cレベル定量の9%以上は連続していることが好ましい。別の態様において、非常に不十分に制御された高血糖症は、6〜9ヶ月間で、3回のHbA1cレベル定量が9%以上であることで証明される。
【0131】
更に別の態様において、高インスリン使用は、選択の基準として生命の危険を脅かす血糖不安定性と組合せることができる。生命の危険を脅かす血糖不安定性は、食事、運動、及びインスリン療法の順守にかかわらず、高血糖症及び/または低血糖症である期間によって特徴づけられる。
【0132】
したがって、本明細書に皮下インスリン抵抗性を有する糖尿病患者を治療する方法が提供される。これらの方法は、通常とは異なる高いインスリン用量に基づいて皮内インスリン抵抗性の患者を選択する工程を含む。いくつかの態様において、インスリン用量は、2単位/Kg/日以上である。ある実施態様では、さらに、選択は、正常または正常に近いレベルの内因性基礎インスリンを有する患者に基づいている。これらの患者の一部において、基礎レベルの内因性インスリンは、50μU/ml以下である。他の態様において、さらに、選択は、強化インスリン療法を受け、12ヶ月間で3回のHbA1cレベル定量が9%以上である患者に基づく。さらに他の態様において、さらに選択は、インスリン療法及びあらゆる食事もしくは運動療法の順守にかかわらず、高血糖症及び/又は低血糖症の期間によって特徴づけられる生命にかかわるほど血糖値が不安定な患者に基づいている。
【0133】
これらの方法は、皮下投与用の迅速作用性、短期作用性、または中間作用性のインスリン製剤を用いる治療を中止する工程も含む。基礎要件を満たすのに十分なインスリンを産生できない患者は、たとえ、基礎インスリンを皮下投与しても、基礎インスリンを取り続ける必要があることに注意すべきである。現在、市販されている基礎(長時間作用性)インスリンは、皮下投与用のみである。しかしながら、他の投与経路で潜在的に投与しうる他の長時間作用性インスリンが開発中であり、この明細書の方法にそれらを用いることが想定されている。これらの方法は、インスリン−FDKPの食事時用量の吸入による投与での治療(開始)の工程も含む。
【0134】
さらなる態様は、実質的により低用量のインスリンにより、同程度、あるいはより改善された血糖制御が達成されていることを決定することによって皮下インスリン抵抗性であるという診断を確定する工程を含むことができる。いくつかの態様において、血糖制御は、HbA1cレベルとして評価される。他の態様においては、それは、食後及び/または空腹時血糖グルコースレベルとして評価される。様々な態様において、インスリン用量(いかなる基礎要件も除く)は、10%以上、20%以上、または50%以上、またはそれ以上の減量をされる。いくつかの態様において、減量した用量は、血清インスリンレベルの測定から評価される。その他の態様において、それは使用した用量及びインスリン製剤の相対的生体利用度に基づく。
【0135】
(超速効型インスリンと長時間作用性インスリン類似体の併用)
超速効型インスリンの使用方法は、基礎−ボーラス療法において、それを長期作用性インスリンと併用することである。基礎−ボーラス療法において、長時間作用性インスリンは、インスリンの基礎レベルを供給または補足し、次いで、短時間作用性のボーラスは、食事の結果の増加したグルコース負荷を処理するために食事と共に投与される。超速効型インスリンは様々な有利な特性を有するので、このような療法における短時間作用性インスリンとしての使用には理想の選択である。
【0136】
多くの長期作用性インスリンは、1日に2回投与するが、インスリングラルギン(サノフィアベンティス(Sanofi-Aventis)によるランタス(LANTUS)(登録商標)として販売)は1日1回の投与用として認可され、市販されている。製造元の処方情報(2007年3月改訂)によると、インスリングラルギンは、24時間にわたって比較的一定のグルコース低下活性を提供し、毎日、同時間に投与するという条件で、1日のいかなる時間に投与してもよい。さらに、インスリンデテミル(ノボノルディスク(Novo Nordisk)のLEVEMIR(登録商標)として販売)は、夕食または就寝時に1日2回または1日1回のいずれかの投与用(2007年5月16日発行の製造元の処方情報、第3版)として認可され、市販されている。
【0137】
臨床試験では、インスリングラルギンと併用するインスリン−FDKPを含む超速効型インスリン製剤は、グルコース可動域の管理に効果的であることが分かった。7点の血中グルコース測定において、インスリン−FDKPは、食後グルコース可動域に起因するギザギザのパターンを平坦化することができたが、1日を通して基準値の血中グルコースレベルが上昇する傾向がみられた。同様の傾向は、1型糖尿病患者(実施例2及び図12参照)及び2型糖尿病患者(図13参照)で観察された。この上昇に関与する可能性のあるいくつかの要因が存在する。インスリン抵抗性は1日を通して上昇する傾向がある。さらに、製造元の処方情報に想定されているように、インスリングラルギンを就寝前の夕方に投与した。このように、インスリンの活動に対する最も大きな需要は、インスリングラルギン用量の有効性が弱まっている有効性保持期間後期に発生する。
【0138】
典型的な組合せでは、インスリングラルギンは食事時短時間作用性インスリン、または短時間作用性インスリンと中間作用性インスリンの混合物のいずれかと併用し、朝食前及び夕食前に投与される。中間作用性インスリンは、食事及び食間の時間帯にグルコース低下活性を提供することを目的としている。市販の短時間作用性インスリンといっても、その活性は食事の栄養の大部分が吸収された後に発揮される。従って、インスリングラルギンとより短時間作用性のインスリン類の組合せを伴う一般に使用される療法においては、その他のインスリン類は目覚めている間は、補足的な活性を提供する。一方、インスリン−FDKPは作用時間が短く、食事がグルコース負荷を増加させる時間によく一致しているが、基準値制御に十分なインスリン活性はない。したがって、インスリン−FDKP等の超速効型インスリンと併用した場合、確立されている療法と比較すると、インスリングラルギンの用量あるいは持続時間の不足が目立つ。インスリンデテミルは、インスリングラルギよりも作用時間が短いので、1日に1回の使用の場合、このような欠陥がいっそう顕著に現れる。そのような効果を修正するためには、超速効型インスリン及び長時間作用性インスリン類似体を併用した療法は、長時間作用性インスリン類似体を、例えば朝食時間もしくは目覚めた後、1、2、3または4時間以内の、起きている時間の早い段階に投与することを指定する必要がある。いくつかの態様においては、長時間作用インスリン類似体の早い段階での投与は、1日にただ1回の投与である。他の実施例において、長時間作用性インスリン類似体はインスリングラルギンである。また、それは1日2回の投与で、初期投与と後期投与であり、後期投与は約8〜14時間後、好ましくは10〜12時間後で例えば夕食時間前後である。睡眠と覚醒の典型的な周期とは、人が通常は夜に、長時間眠り、そして目覚め、その日の残りは活動し、それでも昼寝はするということが想定されている。したがって、「目覚め後一定時間内」、「起きている時間の早い段階」等の表現や類似の用語は、被験者が目覚め、1日の活動を始める時点を指す。
【0139】
(超速効型インスリンと注入により投与される基礎インスリンの併用)
インスリンポンプは血糖値制御を助けるために適切な時間に様々な形態のインスリンを送達する小型の装置である。正しく使えば、これらの装置は、血中グルコース制御を改善し、低血糖症の発現を少なくし、より優れた長期間の制御をもたらす。ポンプはプログラム可能であり、ポンプにより、インスリン送達速度を1日の様々な時間に適合させ、何を、いつ、あるいはどの位食べるかを変える自由度が患者に与えられる。インスリンポンプの最新モデルは、比較的使用し易く、運搬に便利である。これらの新しいポンプは、以前、患者が行っていた複雑なインスリン用量計算を処理する計算機が内蔵されている。患者は、変化するニーズに応じて、様々な基礎インスリン送達速度を1日の様々な時間に対して行うのと同様にボーラス用量を食事と一致させるようにプログラムすることができる。これらのポンプは、前回のボーラス用量からどれだけのインスリンがまだ働いているかも計算する。中には、プログラム可能な催促通知と警告、患者に正確な記録管理のために情報をコンピューターに保存する情報ダウンロード能力、食事で摂取した炭水化物量を計算する炭水化物データベース及び特定の安全機能等の追加の高性能機能を有するポンプもある。
【0140】
長時間作用性インスリンの皮下ボーラス注射に代わる手段として、連続注入によって基礎インスリンを投与することも可能である。インスリンは持続的に供給されるので、この方法は、長時間作用性インスリンの必要性をなくす。この方法は、このような製剤に関連する、例えば、免疫原性の増加または類似体で発生する可能性のあるインスリン様成長因子受容体との結合等の欠点を回避することもできる。注入速度は1日を通してこの方法で変えることができるので、基礎インスリン活性のプロファイルはもっと容易に食事や個体の生理機能の変化に合わせることができる。(インスリンポンプの機能は、下記の人工膵臓系を扱う節でもっと詳しく論じる)。インスリンポンプを用いた一般的な方法論は、迅速作用性類似体の1種を用い食事時及び基礎インスリン要求の両方に対処することを狙っている。ポンプが、基礎インスリンの投与のみ用いられている場合(食事時非ポンプ超速効型インスリンと同様に)、通常のヒトインスリンを用いることができる。しかしながら、より安定性が低い基礎インスリン要求の患者に対しては、より迅速な動態の超速効型類似体が利点を提供できる。
【0141】
したがって、基礎インスリン要求に対応するためにインスリンポンプによってインスリンを注入すること、及び食事時要求に対応するために超速効型インスリンを投与することを含む糖尿病を治療する方法が提供される。いくつかの態様において、ポンプで供給されるインスリンは通常のヒトインスリンである。他の態様において、ポンプで供給されるインスリンは迅速作用インスリン類似体である。一つの態様において、超速効型インスリン製剤はインスリン−FDKPである。別の態様において、超速効型インスリンの投与は肺に吸入することによる。
【0142】
(経口抗糖尿病薬剤と併用する、または置き換える超速効型インスリンの使用)
2型糖尿病の治療における看護の標準は、米国糖尿病協会及び欧州糖尿病学会が共同で発表した合意文書に定義され、定期的に更新されている。下記に提唱、要約された治療の一般的なコースは、治療アルゴリズムにGLP−1作用薬を追加するという最新の更新版での非常に重要な修正はあったが、近年はほとんど変更がない(例えば、Nathan et al. Diabetes Care 29:1963-1972, 2006; Nathan et al. Diabetes Care 31:173-175, 2008; 及び Nathan et al. Diabetes Care 32:193-203, 2009を比較のこと)。
【0143】
これらの合意文書に提唱されている治療のコースは、生活様式の変更と診断での薬剤のメトホルミンから始まる(工程1)。生活様式の変更には、食事の改善と運動量の増加が含まれる。メトホルミンはビグアナイドとして分類される薬である。歴史的に、これらの薬はインスリン増感剤として記載されているが、その主な効果は肝臓グルコースの産生を減少させることである。この活性はインスリンの存在に依存しているように見え、メトホルミン治療はいくらか増加したインスリンに対する感受性と関連づけることができる。ただし、この明細書では、用語「インスリン増感剤」をビグアナイドには適用しない。というのは、作用機序が、現在ではより一般的にこの用語で表されているチアゾリジンジオンの作用機序(インスリン感受性を高める主効果)とは異なるからである。メトホルミンは1日中存在しているので、その効果は、空腹時血中グルコースレベル(FBG)の減少として観察される。患者の約30%はメトホルミンに耐性がなく、少なくとも許容される血糖値制御に対して適正な用量での胃腸に対する副作用が主要な問題である。メトホルミン(ブリストルマイヤーズスクイブ社のグルコファージ(GLUCOPHAGE、登録商標)として販売)の処方情報(2009年1月改訂)には、腎臓病、機能不全、薬に対する過敏症、代謝性アシドーシスの患者に使用する場合の禁忌及びその他の注意事項が含まれている。
【0144】
適切な血糖制御が工程1の治療で達成できない(一般にHbA1cが7%以上に留まる)場合、工程2の治療では、第2の薬剤の追加を必要とする。これは、基礎インスリン、スルホニル尿素、ピオグリタゾン、またはGLP−1作用薬である可能性がある。2種の薬剤(第2の薬剤は基礎インスリンではない)でもなお適切な血糖制御が確立されない場合は、合意に基づき、第2の薬剤を基礎インスリンに切り換えるか、第2の薬剤としてスルホニル尿素とピオグリタゾンの組み合わせを用いるかのいずれかが必要とされる。スルホニル尿素とピオグリタゾンの組み合わせでもなお適切な血糖制御が確立されない場合は、合意に基づき、第2の薬剤を基礎インスリンに切り換える。これらの道筋のいずれによる場合でも、最初に用いるインスリン療法は基礎インスリンであることが合意によって提唱されている。
【0145】
スルホニル尿素はインスリン分泌を促進する物質である。この分類に含まれるのは、薬剤のクロルプロパミド、グリブリド、グリクラジド、グリメピリド及びグリピジドである。これらの薬剤の重要な問題は、低血糖症の危険性が大きいことであり、特に、クロルプロパミド及びグリブリドで顕著である。これらの薬剤の使用は心血管疾患による死亡率の増加にも関係してきた。体重増加はこれらの薬剤で普通に見られる。スルホニル尿素に典型的な、禁忌、注意事項及び薬物相互作用は、グリビジドの処方情報(ファイザーによりGLUCOTROL(登録商標)として販売:2006年9月改訂)で見つけることができる。インスリン分泌促進物質が、既に酷使された膵臓に対する要求を増加させ、β細胞機能を漸進的に低下させ、長期的有用性を制限するという懸念も上がっている。その他のインスリン分泌促進物質としては、グリニド等が知られており、例えば、レパグリニドとナテグリニドが挙げられる。これらの薬剤による体重増加の危険性はスルホニル尿素に類似しているが、低血糖症の危険性はそれ程高くないかもしれない。GLP−1作用薬及びDPP−4(ジペプチジルペプチダーゼ−4)阻害剤もインシュリン分泌促進物質と考えることができる。使用状況では、インシュリン分泌促進物質は1日中活性を有するので、それらの効果はFBGの減少として容易に見られる。
【0146】
ピオグリタゾン(武田薬品工業よりアクトス(ACTOS、登録商標)として販売)は、2型糖尿病のインスリン抵抗性という状況を弱め、筋肉、脂肪及び肝臓のインスリンに対する感受性を高めるチアゾリジンジオン(グリタゾン、TZD)であり、従って、一般にインスリン増感剤と呼ばれている。TZDは、体液貯留及び鬱血心不全、また、特に骨粗鬆症の女性において、骨折の増加割合の上昇と関連付けられている。TZDには、また、さらに心筋虚血と関連付けられている薬剤のロシグリタゾン(グラクソスミスクラインによるアバンディア(AVANDIA、登録商標)として販売)が含まれている。体重増加等のこれらやその他の副作用、注意事項等はアクトス(登録商標)(2008年8月版)及びアバンディア(登録商標)(2008年10月版)の処方情報に報告されている。
【0147】
第2工程での基礎インスリンを含む治療によっては適切な血糖制御を「もし達成できない場合」(あるいは、2型糖尿病は進行性疾患であるので、「達成できない時」)には、合意アルゴリズムにおける第3(そして最終)の工程に到達する。第3工程では、これまでの工程での生活様式の変更及びメトホルミン治療を、強化インスリン治療と共に続けるように提唱されている。記載の通り、強化治療は、迅速作用性インスリン類似体の食事時使用を含むことができるが、当然、基礎インスリンの継続使用を伴う。
【0148】
この明細書に開示された態様に従って治療される患者集団は、最も一般的にインスリン治療を受けている集団とは異なる。確かに、現在のパラダイムに従って臨床医が個体に対してインスリンを処方せざるを得ない諸要因からは、特に、市販のインスリン製剤のはっきりとした薬物動態プロファイルを前提として考えると、超速効型インスリンが経口抗糖尿病薬に比べて、より有効であることを明らかにすることはできない。さらに、上述で分かるように、インスリンの使用は、通常は基礎インスリンから始め、基礎インスリンの単独使用が失敗した後に初めて食事時インスリンが追加される。一方、本明細書で開示された方法は、治療進行の初期における食事時超速効的インスリンの使用を含む。
【0149】
初期段階のインスリン障害の患者は、様々な部分母集団に分割され、本発明の様々な態様に従って治療を受けることができる。一部の人は、非高血糖症の空腹時血中グルコースレベルを維持するために十分なインスリンを産生するが、食事後の血中グルコースの急性変動を回避することができない。早期2型糖尿病患者は、多くの場合、食事療法と運動を利用し、相当な高血糖症でも制御できるが、既に初期相インスリン放出がない。実際には、食事療法や運動に失敗した患者は、ほとんどの場合、次に、インスリン抵抗性の克服と産生されるインスリンの有効性の向上を目標とし、メトホルミン等の肝臓グルコース産生の抑制剤で治療される。本明細書に開示された態様において、これらの患者は、インスリン増感剤の置き換え、もしくは追加で食事時初期相模倣インスリン製剤を投与される。頻度は低いものの(以前は)、糖尿病患者に与えられた最初の経口薬は、インスリン分泌促進のためのスルホニル尿素等のインスリン分泌促進物質であった。より一般的に(また現在のところ)、このような薬剤は、増感剤の単独使用では目標の血糖制御レベルまで至らない場合は、治療における次の工程として肝臓グルコース産生抑制剤と併用される。しかしながら、分泌促進物質の使用は、また体重増加や低血糖の症状の原因となる可能性があるので、一態様においては、そのような併用治療では、食事時初期相模倣インスリン製剤を分泌促進物質の代わりに用いる。
【0150】
空腹時及び食後血中グルコースの両方が、HbA1cレベルの上昇の原因となっている。超速効型インスリン製剤は、空腹時及び食後血中グルコースの両方に有利な影響を与えることができる。これは、基礎インスリン、あるいはインスリン分泌促進物質、あるいは短時間作用型インスリンとさえも対照的に、食後血中グルコース制御の対処には特によく適していると当初から認識されていた。これは、内因性グルコース産生のより迅速な抑制が一因であると理解されている(実施例1参照)。従って、本明細書に開示されている態様は、食後血中グルコースの制御が不十分な患者、あるいは血糖制御の欠如しているために、上昇した食後血中グルコースにより強く影響される患者を対象とする。例えば、インスリン抵抗性の程度が軽い患者は、空腹時血中グルコースの実質的な制御をするのに十分なインスリンを産生することができる可能性があり、ある態様では、超速効型インスリン単独による治療に対し選ばれる可能性がある。比較のため、インスリン抵抗性の程度が重い患者は、空腹時及び食後の血中グルコースをうまく制御できない可能性があり、いくつかの態様において、超速効的インスリンと経口抗糖尿病薬の併用による治療対象に選ばれる。
【0151】
(超速効型インスリン及び肝臓グルコース産生抑制剤)
超速効型インスリン及びメトホルミル等のビグアナイド薬剤は、共に、肝臓グルコース産生抑制剤として働く。しかしながら、使用状況では、これらの薬剤は24時間中効果を発揮するが、食事時超速効型インスリンは特に食後により効果を発揮する。従って、超速効型インスリンは、経口の肝臓グルコース産生抑制剤の活性の代わりに、あるいは、その活性を強化することができる。
【0152】
従って、一態様では、超速効型インスリンは、FBGの制御は十分または中程度だがPPGの制御は不十分である、血糖制御を改善する必要のある2型糖尿病の被験者の治療に用いられる。態様の種々の側面において、血糖制御の改善の必要性は、HbA1cレベル、1時間もしくは2時間PPG、または酸化ストレスとして決定される。いくつかの態様において、十分に制御されたFBGは、110mg/dL以下、または130mg/dL以下のFBGである。いくつかの態様において、中程度に制御されたFBGは、154mg/dL以下、180mg/dL以下、または192mg/dL以下のFBGである。研究により、HbA1cレベルが8.4%以下では、少なくとも高血糖症全体の半分はPPGが原因であることが確認されている(Monnier, L. et al. Diabetes Care 26:881-885, 2003)。従って、いくかの態様において、FBGの制御は十分または中程度だが、PPGの制御は不十分である被験者は、HbA1cが8.4%以下の被験者である(8.4%のHbA1cは、およそ192〜198mg/dLの平均血漿グルコースレベルに対応する。Diabetes Care 32, suppl.1:S13-S61, 2009、特に表8及び表9を参照)。種々の態様において、PPGの制御が不十分な被験者は、1時間もしくは2時間PPGが140mg/dL以上、180mg/dL以上、または200mg/dL以上である。FPGには関係なく、75gのグルコース負荷後の2時間PPGが200mg/dL以上である被験者は、2時間PPGが200mg/L未満の被験者よりも2倍近くの死亡の危険性があったことには留意すべきである(Lancet 354:617-621, 1999)。一態様において、被験者は、現在はいかなる薬物療法も受けておらず、超速効型インスリンが唯一の薬剤として用いられる。別の態様において、被験者は、経口の肝臓グルコース産生抑制剤による治療を受けており、食事時超速効型インスリンが治療計画に追加される。一態様において、経口の肝臓グルコース産生抑制剤はメトホルミンである。一態様において、超速効型インスリン製剤はインスリン−FDKPである。別の態様において、超速効型インスリンの投与は肺への吸入である。
【0153】
他の態様において、血糖制御の改善を必要とする2型糖尿病の被験者は、肝臓グルコース産生抑制剤による治療から恩恵を受ける可能性はあるが、そのような経口薬剤は、禁忌であり、忍容できなく、そこで、超速効型インスリンが代わりに用いられる。その変形として、経口薬剤は十分な用量では忍容されず、超速効型インスリンがその活性の補うために用いられる。
【0154】
(超速効型インスリン及びインスリン分泌促進物質)
スルホニル尿素とグリニド等のインスリン分泌促進物質は、インスリン分泌を増加させ、それにより循環血液中のインスリン濃度を増加させる。超速効型インスリン製剤もまた循環血液中のインスリン濃度を増加させる。しかしながら、使用状況では、これらの薬剤は24時間中効果を発揮するが、食事時超速効型インスリンは特に食後に効果を発揮する。従って、超速効型インスリンは、インスリン分泌促進物質の活性の代わりをすることができる。一態様において、超速効型インスリン製剤はインスリン−FDKPである。別の態様において、超速効型インスリンの投与は、肺への吸入によって行われる。
【0155】
従って、一態様において、肝臓グルコース産生抑制剤及びインスリン分泌促進物質による治療を受けている患者は、この分泌促進物質による治療を中止し、超速効型インスリンによる治療を導入する。関連する態様において、インスリン分泌促進物質による治療の候補者である肝臓グルコース産生抑制剤により治療を受けている患者は、分泌促進物質よりも、それに代わり超速効型インスリンによる治療を導入する。一態様において、患者は、血糖制御の改善を必要とする。態様の種々の側面では、血糖制御の改善の必要性は、HbA1cレベル、1時間もしくは2時間PPG、または酸化ストレスとして決定される。
【0156】
他の態様において、2型糖尿病の被験者は、インスリン分泌促進物質による治療から恩恵を受ける可能性があるが、そのような経口薬剤は、禁忌であり、忍容できなく、そこで、超速効型インスリンが代わりに用いられる。他の態様において、患者は、低血糖症または体重増加の危険性を減らす必要がある。
【0157】
(超速効型インスリン及びインスリン増感剤)
ピオグリタゾン及びその他のTZD等のインスリン増感剤は、種々の組織でのインスリンの利用を改善し、インスリン抵抗性を下げ、循環インスリンレベルの減少につながる。TZDによる治療は、FBGの顕著な減少をもたらす。食事時超速効型インスリンによる治療は、空腹時には食事時超速効型インスリンによる直接のグルコース排出活性がないという事実にかかわらず、FBGの減少を招く。超速効型インスリン製剤の空腹時血中グルコースレベルに対するこの影響は予想外であり、超速効型インスリンがインスリン抵抗性を下げるか、インスリン増感剤として働く可能性があることが示唆された。興味深いことに、超速効型インスリンによって得られる急速なインスリンの最大濃度はその後に続くインスリン活性を強化する。これは、効果は長い時間残る可能性あるが、特に投与直後の時間枠で2型糖尿病患者に顕著である。従って、食事時超速効型インスリンによる治療はインスリン増感剤と同様な効果を有する。
【0158】
従って、いくつか態様において、重度のインスリン抵抗性に基づいて超速効型インスリンを含む治療のための患者を選択する。他の態様において、TZD等のインスリン増感剤による治療から恩恵は受けるが、その薬剤に対し感受性があるか、そうでない場合も、禁忌である患者を、その薬剤に代え、超速効型インスリンによって治療する。例えば、TZDは骨粗しょう症の女性には禁忌である可能性がある。
【0159】
種々の態様に従って食事時超速効型インスリンによる治療から恩恵を得ることのできる患者としては、インスリン増感剤により不適切な血糖制御を受けるか、そうでなければ、インスリン分泌促進物質を治療計画に追加する患者、あるいは、インスリン増感剤とインスリン分泌促進物質の併用により不適切な血糖制御を受けた患者が挙げられる。これらのグループの部分集合は、さらに針恐怖症、もしくは、そうでなければ、注射を回避したい人、及びさらに肥満体、太りすぎ、そうでない場合は、体重増加を回避や最小限に抑えることを望んだり、減量したりする必要がある人を含む。さらに高いインスリンレベルは、乳がんの高い発生率と関連している。乳がんの高い危険性を有する人々はインスリン抵抗性を下げることから特に恩恵を受けることができる。一態様において、超速効型インスリン製剤はインスリン−FDKPである。別の態様において、超速効型インスリンは肺への吸入により投与される。
【0160】
(食事時超速効型インスリン対基礎インスリン)
2種の経口薬剤による治療が、適切に血糖制御できない場合、看護の標準が、基礎インスリンの使用、または第3の経口薬剤の使用に至る道筋を示す。インスリンを追加する代わりに第3の経口薬剤を追加するという選択は、明白な針恐怖症、低血糖症の危険性、及び体重増加の可能性がない場合でも、毎日の注射をしたがらないということに影響される場合が多い。従って、本発明のいくつかの態様はインスリンを含むが、針がなく、かつ体重増加を最小限に抑えるか体重増加させない組み合わせ経口療法の後継治療法を提供する。吸入インスリンエクスベラ(登録商標)は、その皮内送達インスリン様動態のため、超速効型インスリン製剤と同じ恩恵を提供することは期待できない。超速効型インスリン製剤を使用することによって、食事時超速効型インスリンが基礎インスリン一般の初期使用に対する優れた代替物であり、針の使用、低血糖症の危険性、あるいは体重増加の可能性が特に問題である患者集団にとっては特別な利点を提供することが分かる。
【0161】
本明細書に開示されている種々の態様に従う治療から恩恵を受けることのできる患者としては、経口の肝臓グルコース産生抑制剤により不適切に血糖制御を受け、そうでなければ、インスリン分泌促進物質を治療計画に追加していた患者、または経口の肝臓グルコース産生抑制剤とインスリン分泌促進物質の併用により不適切に血糖制御を受ける患者が挙げられる。これらのグループの部分集合には、さらに、針恐怖症、もしくは、そうでなければ、注射を回避したい患者、及び、さらに肥満体、太りすぎ、そうでなければ、体重増加の回避を望むか減量を必要とする患者が含まれる。
【実施例】
【0162】
実施例1
超速効型インスリンの効果を特定する実験を行った。具体的には、インスリン−FDKPを含む吸入製剤と、皮内投与インスリンリスプロ(リスプロ、ヒューマログ(登録商標)、イーライリリー社)及び吸入用組み換え型ヒトインスリン(エクスベラ(登録商標)、ファイザー社)との比較を、2型糖尿病の被験者の摂食負荷後及び正常血糖グルコースクランプ処置中の内因性グルコース産生について行った。インスリン−FDKP製剤は、MEDTONE(登録商標)乾燥粉吸入器(MannKind社)を用い、経口吸入によって被験者に投与された。
【0163】
摂食負荷の完了に引き続き、データを統計解析計画書に従って分析した。全インスリン曝露量は、45Uインスリン−FDKP(TI)または4mgエクスベラ(登録商標)のいずれの投与後よりも、12Uのリスプロの投与後がおよそ40%大きいことが分かった。従って、調査法は再設計され、被験者は、最初の手順と治療法(4mgエクスベラ(登録商標)、45UのTI及び12Uのリスプロ)の下での調査の正常血糖グルコースクランプの部分までは進まなかった。調査法は修正され(A1)、12人の被験者(10人を最初の摂食負荷から再登録した)、及び10Uのリスプロ及び60及び90UのTIである2つの治療のみが含まれた。用量は、第一摂食負荷(OP)後に観察される相対的生体利用度に基づいて選択したが、ここでは、線形動態を前提とし、10Uのリスプロと60UのTIは同様の曝露になると仮定した。90Uの用量グループは、第3相試験において調べられるTIの最高用量グループの効果を評価するために含まれた。12被験者の内6人は60UのTIを投与され、他の6被験者は90UのTIを投与された。全ての12被験者はクロスオーバー法で10Uのリスプロを投与された。
【0164】
下記の方法と結果は、18人の被験者の3種の治療(エクスベラ(EXUBERA、登録商標)、リスプロ(lispro)、TI)を伴う摂食負荷を含むオリジナルプロトコル(OP)、及びTIとリスプロのみで治療する12人の被験者を含む修正条項1(A1)の観点から記述されている。
【0165】
インスリン治療を受けた2型糖尿病の被験者が調査に参加した。被験者は選抜され、実験の前、中、後で評価され、それらのデータは下記のように分析された。被験者は、12ヶ月間以上の2型真性糖尿病と臨床診断された年齢18歳以上、70歳以下の男女等の主要な試験対象患者基準に基づいて選択された。調査に選ばれた被験者は、また、安定したインスリンでの抗糖尿病療法をこれまでの3ヶ月間受けており、HbA1cは、8.5%以下、体格指数(BMI)は、34kg/m2以下、かつ25kg/m2以上の間、尿中コチニンは、100ng/mL以下、FEV1のPFTsは、予測値70%以上、単回呼吸CO拡散能(DLco未補正)は、予測値70%以上であった。また、被験者は経口抗糖尿病療法により、これまでの3ヶ月以内に治療をされており、1日の全インスリン必要量は、1.2IU/Kg体重以上であった。調査から除外する基準には、不安定な糖尿病、及び/または、糖尿病の深刻な合併症(例えば、自律神経障害)の証拠;血清中クレアチンが女性被験者で1.8mg/dL、男性被験者で2.0mg/dLである場合を含んだ。その他の臨床的に重要な肺疾患は、文書化された病歴または肺機能検査により確認された。
【0166】
OPの下、調査は、無作為非盲検の3元クロスオーバー法になるように計画された。通院は、最初の検診のための通院、摂食負荷試験に対する3種の連続した処置とそれに続く最低8週間(最高12週間まで)の失血回復期間を伴う通院、臨時の安全性通院、グルコースクランプ検査のための3種の連続した通院、最終完了通院を含む。この分析では、全ての患者が摂食負荷を完了し、それらのデータのみを用いている。検診のための通院(V1)は、摂食負荷試験のために、初回の治療通院(V2)の1から21日前に行い、治療通院(V2、V3及びV4)の間には7〜21日の経過を置く。V4と次の治療通院(V6)の間には最低限8週間の経過をとった。追加の安全性確認のための通院(V5)は、3種のグルコースクランプ検査(V6)の初回の1〜3日前に計画された。グルコースクランプ検査は、3回の通院、V6,V7及びV8で、通院間に7〜21日の経過を置いて行った。最終通院(V9)は、V8の2〜10日後に体重や身長等の身体検査を行った。
【0167】
A1の下、調査は、無作為非盲検の2元クロスオーバー法になるように計画された。通院には、最初の検診のための通院、摂食負荷試験に対する2種の連続した処置とそれに続く最低4週間(最高12週間まで)の失血回復期間を伴う通院、臨時の安全性確認のための通院、グルコースクランプ検査のための2種の連続した通院、最終完了通院が含まれた。検診のための通院(V1)は、初回の治療通院(V2)の1〜21日前に行い、摂食負荷試験のための治療通院(V2及びV3)間には7〜21日の経過を置いた。V3と次の治療通院(V5)の間には最低限4週間の経過をとった。追加の安全性確認のための通院(V4)は、3種のグルコースクランプ検査(V5)のうちの最初の検査の1〜3日前に計画された。グルコースクランプ検査は、2回の通院(V5及びV7)をこの通院間に7〜21日の経過を置いて行った。最終通院(V8)は、V7の2〜10日後に、体重や身長等の身体検査を行った。
【0168】
摂食負荷期間中に、被験者は、各々の治療通院のために治療開始の前夜に臨床部門に入院する。摂食負荷試験のための最初の治療通院(V2)では、被験者は、クロスオーバー設計に基づいて、インスリン−FDKP,インスリンリスプロまたはエクスベラ(登録商標)(OP)、次いで、インスリン−FDKP、次いでリスプロ(A1)の治療順に無作為に割り付けられる。各々の被験者は、グルコースクランプ検査についても摂食負荷試験の場合と同じ無作為順に従った。
【0169】
調査期間中、薬物動態及び/または薬物力学パラメータの評価及び安全性確認のための定期的な採血を、治療計画及び摂食負荷を開始する12時間前に始め、それから8時間の間行った。検診及び全ての3種の摂食負荷試験で、治療(OP)の分析用と評価用の血液を合わせて計409.5mL及びA1用の279mLの血液が必要であった。グルコースクランプ検査通院、最終通院、及び臨時の安全性確認のための通院の合計514.2mLの血液(OP)と365mLの血液(A1)が、治療での分析及び評価に必要であった。A1の調査に必要な全血液量は、被験者一人当たり644mLであった。放射性標識D2−グルコース注入を、摂食負荷とインスリン治療の開始の12時間前に被験者に施した。
【0170】
摂食負荷試験:67.5gの炭水化物、21gのタンパク質、21gの脂肪、エネルギー量540kcalからなる21オンスのブートプラス(BOOST PLUS、登録商標)(12オンス)を摂食負荷試験に用いた。このブートプラス(登録商標)は、吸収されたグルコースの量を決定するためにU−13C−グルコースを混入した。6,6−2H2グルコースの同時混入連続注入が、内因性グルコース産生(EGP)の評価に用いられた。空腹時EGP(f−EGP)の採取は、静脈インスリンリスプロ注入開始前、即ち、OP下、7時間の6,6−2H2グルコースの混入注入の終了時に行われる。A1においては、連続インスリン注入は、インスリンリスプロ(TIで治療を受ける被験者用)または通常のヒトインスリン(リスプロで治療を受ける被験者用)のいずれかを用いて行われた。90mg/dL(OP)及び110mg/dL(A1)の基準値血中グルコース濃度は、インスリン−FDKP,インスリンリスプロまたはエクスベラ(登録商標)(OP)、またはインスリン−FDKP、及びリスプロ(A1)を投与する前の少なくとも5時間にわたって、インスリン及び6,6−2H2グルコースで富化された20%グルコースの可変注入することで達成され、かつ維持された。インスリンリスプロ注入速度(OP)、及びリスプロまたはRHI注入速度(A1)は、治療投与の90分前にできるだけ低いレベルに固定した。投与後、グルコース注入によって血中グルコース濃度が、90mg/dL(OP)未満及び75mg/dL(A1)未満に落ちないようにした。
【0171】
試験治療の投薬は、用量が45Uのインスリン−FDKP、12Uの皮下インスリンリスプロ、または0時点に経口吸入で投与される4mgの組み換え型ヒトインスリン(エクスベラ(登録商標))、あるいは、ブーストプラス(登録商標)摂取の直前の10Uの皮下リスプロ及び60または90UのTI(A1)の投与で行われた。OPの下では、インスリンリスプロの用量は、規制ラベルから得られた情報に基づいて選択された。エクスベラ(登録商標)に対して選択された用量は、エクスベラ(登録商標)概要説明書の中のFDA諮問委員会に提示した通常用いる用量情報の逆算によって得られた。インスリン−FDKP用量は、本願の出願人(譲受人)であるMannKind Corporationによって行われた完成している第2及び第3臨床研究の結果から導かれた。A1下では、OP下で観察されたインスリン曝露に基づいて計算された。血中グルコース濃度は、動脈血化された静脈血液試料から一定の間隔で測定した。経口吸収されたグルコースの量は、U−13C−グルコースの定量によって評価した。EGPは、6,6−2H2グルコースを測定し、非定常状態の修正計算を適用することで決定した(R. Hovorka, H. Jayatillake, E. Rogatsky, V. Tomuta, T. Hovorka, and D. T. Stein. Calculating glucose fluxes during meal tolerance test: a new computational approach. Am.J.Physiol Endocrinol.Metab 293 (2):E610-E619, 2007)。C−ペプチド濃度は、内因性インスリン分泌を評価するために投与の前後に測定した。さらに、グルカゴンと遊離脂肪酸の濃度も測定した。
【0172】
グルコースクランプ検査:6,6−2H2グルコースの混入連続注入をEGP評価のために用いた。空腹時EGP(f−EGP)を定量するための血液試料を、被験者への皮下インスリンの注入開始前、即ち、7時間の6,6−2H2グルコースの混入注入終了時に採った。90mg/dL(OP)及び110mg/dL(A1)の基準値血中グルコース濃度は、インスリン−FDKP、インスリンリスプロ、またはエクスベラ(登録商標)(OP)とリスプロまたはTIのいずれかを(A1)の条件で投与する前の少なくとも4時間にわたって、インスリン及び6,6−2H2グルコースで富化された20%グルコースをBiostator装置で可変注入することで達成されかつ維持された。
【0173】
試験治療の投薬は、OP下での用量が45Uのインスリン−FDKP、12Uの皮下インスリンリスプロ、または、4mgの組み換え型ヒトインスリン(エクスベラ(登録商標))、及びリスプロまたは60または90UのTI(A1)を各々の個体被験者に対する摂食負荷の場合と同じ順番で投与することによって行われた。EGPは、各々の被験者に対して血液試料中の6,6-2H2グルコースを測定し、非定常状態に対するHovorkaら(同上)による修正計算を適用して定量した。血清C−ペプチド濃度は、内因性インスリン分泌を評価するために投与の前後に測定した。さらに、グルカゴンと遊離脂肪酸の濃度も一定間隔で測定した。全被験者は、各々の治療通院の最後に事前抗糖尿病治療計画の状態に戻された。
【0174】
調査のOP部分の結果を図3〜図6に示す。図3は、この調査で患者から採取した血液試料のデータのグラフ表示である。特に、図3には、食事の開始時に、1)インスリンリスプロ、2)エクスベラ(登録商標)、及び3)フマリルジケトピペラジンを含むインスリン製剤(インスリン−FDKP、TI)により治療された2型糖尿病患者の血中グルコース濃度を摂食負荷後の種々の時間で測定した血中グルコース濃度が示されている。各々の治療曲線のデータ・プロットにおける時を示す点は、本調査で分析した全試料の平均値を表す。また、このグラフには、各々の治療の後に正常血糖性(90mg/dlを超える血糖グルコースレベルの状態)を維持するために必要に応じて患者に施す外因性グルコース注入が示され、それぞれ、インスリンリスプロ、エクスベラ(登録商標)及びインスリン−FDKPに対応する1a、2a及び3aで示されている。図3に見られるように、グルコースレベルは3つの治療法によって異なる。90mg/dL超に留まるように繰り返し患者にグルコースを与えるという必要性のために、インスリンリスプロで治療された被験者が過剰投与をされたことは、データから明白である。また、このグラフから、インスリン−FDKPで治療を受けた被験者は、他の治療よりもずっと早期にグルコースレベルが下がり、この治療を受けた一部の被験者は、この調査の初期段階で90mg/dL超に留まるためにグルコース注入が必要であった。しかしながら、インスリン−FDKP治療を受けた被験者は、治療開始後約6時間までは更にグルコース注入を必要としなかった。この事は、この治療が長時間にわたり血糖制御を維持するに効果的であったことを示している。また、このデータから、グルコース濃度は、全ての治療による全ての被験者において制御されていたが、インスリン−FDKPで治療された被験者においては、グルコース制御が治療開始から治療後約120分までより効果的に行われていたことが分かる。治療後、約4時間後及び約3時間後にそれぞれグルコース注入をされたエクスベラ(登録商標)及びリスプロの治療を受けた被験者に比べ、(初期相後)インスリン−FDKP投与後から6時間後(グルコース要求が基準値インスリン注入によっておそらく決められる)まで最小限のグルコース注入のみが必要であった。本データから、もし、グルコースが注入されない場合には、リスプロ及びエクスベラ(登録商標)で治療された患者は、投与後、低血糖レベルに達していたであろう。従って、インスリン−FDKPは、他の治療法よりも、長時間、低血糖よりも高い血中グルコースを維持することができる可能性がある。
【0175】
図4は、食事の直前にインスリンリスプロ、エクスベラ(登録商標)及びインスリン−FDKP製剤により治療された2型糖尿病患者の、食事後の一定時間の間のグルコース吸収速度を示した上記の調査の患者から得られたデータのグラフである。各々の治療曲線のデータ・プロットにおける時を示す点は、本実験で分析した全試料の平均値を表す。図4のデータから、この3種の治療法で治療された被験者全員が、摂取した食事からのグルコース吸収の速度に関し同様のパターンを示すことが分かる。従って、このデータは、治療が、治療を受けた被験者の食事からのグルコース吸収速度を変えなかったことを示している。
【0176】
図5は、食事の開始時にインスリンリスプロ、エクスベラ(登録商標)及びインスリン−FDKP製剤により治療された2型糖尿病患者の食事後の内因性グルコース産生を定量した実験から得られたデータのグラフである。各々の治療曲線のデータ・プロットにおける時を示す点は、本実験で分析した全試料の平均値を表す。この3種の治療のデータ曲線は、3種の全ての治療が、治療を受けた被験者の内因性グルコース産生の阻害に同程度に効果的であることを示し、この効果の生理学的最大値であることを示唆している。特に、インスリン−FDKPで治療された被験者は、インスリンリスプロ(約80分)及びエクスベラ(約125分)の被験者と比べ、治療後、もっと速く、もっと早い時間(約40分)に内因性グルコース産生阻害の最大値を示した。
【0177】
図6は、上記のように、食事の開始時にインスリンリスプロ、エクスベラ(登録商標)及びインスリン−FDKP製剤により治療された2型糖尿病患者のグルコース消失速度を一定時間測定した実験から得られたデータのグラフである。各々の治療曲線のデータ・プロットにおける時を示す点は、本実験で分析した全試料の平均値を表す。更に、各被験者の体重を考慮するために、グルコース消失を被験者の体重で割り、グルコース消失速度を規格化した。被験者のグルコース消失速度または利用速度は、全ての治療で異なる。特に、インスリン−FDKPのグルコース消失速度は、インスリンリスプロまたはエクスベラ(登録商標)よりも明らかにはるかに速かった。このグルコース消失速度は、投与後の最初の測定の投与後約10分後の時点でかなり速く、一方、他のグルコース消失速度は約30分後まで基準値から有意には乖離しなかった。インスリン−FDKPのグルコース消失速度は、投与後、約40分で最大値に達し、インスリンリスプリ(約120分)及びエクスベラ(約150分)と比べ、はるかに早かった。
【0178】
また、C−ペプチドの測定(データ非表示)から、リスプロまたはエクスベラ(登録商標)と比べ、TIグループではC−ペプチド濃度の増加が遅延したことが明らかであることをこの調査は示している。このC−ペプチド(及び内因性インスリン産生)の増加の遅れは、食事から吸収されるグルコースを制御する各々の外因性インスリンの能力と関係あり、各々の治療グループのインスリンプロファイルの形に関係するように見える。エクスベラ(登録商標)及びリスプロの投与後の遅いインスリン濃度の上昇(tmaxの中央値は、それぞれ113分と75分であり、これ対し、TIグループのtmaxは20分ある)は、結果的に食事後の早い段階でグルコースを制御する能力の低下をもたらし、従って、患者の内因性インスリン応答の早期の増加をもたらす。しかしながら、TIグループにおける内因性インスリン産生の遅れは、TI濃度が高い調査の早い段階で血中グルコースをより良く制御していることを示している。
【0179】
要約すれば、この調査のデータは、インスリン−FDKPが2型糖尿病患者の既存の治療法、即ちインスリンリスプロやエクスベラ(登録商標)よりも、インスリン−FDKP治療が内因性グルコース産生の阻害が速く、かつグルコース消失及び利用の誘起においても速いという点で、著しくかつ驚くほどに有効な治療法であったことを示している。エクスベラ(登録商標)は、これらのパラメータについては、パラメータ以外の動態ではほぼ同様のインスリンリスプロとの比較でさえはるかに遅い。更に、このことにより、互いに動態が顕著に異なることから、既に明白なこれらの2種の吸引インスリン製剤(即ち、インスリンFDKP及びエクスベラ(登録商標))の違いが強調される。
【0180】
この調査のA1部分の結果を、図7〜図11に示す。図7は、この調査の被験者から得た血液試料の値をプロットしたデータのグラフ表示である。特に、図7に3種の治療法の平均インスリン濃度−時間プロファイルを示す。この系のインスリンの全てが誘発された応答に関連しているので、全てのインスリン濃度(各時点での通常の人間インスリンとリスプロの濃度の合計)を示す。60及び90Uのインスリン−FDKPの投与に続いて観察される最大インスリン濃度は、共に、リスプロ治療後の最大インスリン濃度と比較し、はるかに高く(リスプロ後の83μU/mLに対し、TI後は196及び216μU/mL)、ずっと早く最大となる(tmaxの中央値は、リスプロ後の60分に対し、TI後は15分及び17.5分である)。しかしながら、平均曝露量は、3グループ間で非常に類似しており、全インスリンAUCは、2種のTI投与グループ及びリスプロでは、それぞれ、24,384、18,616及び19,575μU/mL・minである。
【0181】
図8に、フマリルジケトピペラジンを含む60または90Uのいずれか(インスリン−FDKP,2,3)とインスリンリスプロ(1)で食事開始時に治療された2型糖尿病患者における摂食負担後の種々の時間で測定された血中グルコース濃度を示す。各々の治療曲線のデータ・プロットの時を示す点は、本調査で分析した全ての試料の平均値を表す。また、このグラフは、各々の治療の投与後の正常血糖レベルを維持(血中グルコースを75mg/dL超に留める)するために実験期間中、必要に応じて患者に投与した外因性グルコース注入を示し、グラフに60U及び90Uのインスリン−FDKP及びインスリンリスプロの各々に対し、1a,2a,及び3aとして示す。図7に見られるように、グリコースプロファイルの形は3種の全ての治療法で異なる。しかしながら、最大グルコールレベルは非常に似ており、グルコースは3種の全ての治療法で制御されていた。また、グラフから、インスリン−FDKPのどちらの用量で治療を受けた被験者も、リスプロ投与後よりもはるかに早くグルコースレベルを減少させ、最初の投与から0〜180分以内により有効なグルコース制御をしていたことが分かる。90Uのインスリン−FDKP及びリスプロで治療された被験者は、共に、75mg/dL以上の血中グルコースを維持するために数回の追加のグルコース注入が必要であった。90UのTI投与後、一部の被験者は投与後の早期に追加のグルコース注入が必要であり、リスプロ投与後は、後期にこれらの注入が必要であった。この現象は、90Uのインスリン−FDKPで治療された患者で観察される迅速なグルコース排出速度に起因する可能性がある。治療後5〜8時間の間にグルコースを注入するリスプロで治療された被験者に比べ、(グルコース要求がおそらく基準値インスリンに起因する場合)インスリン−FDKP投与後の調査の最後まで(初期相後に)最小限のグルコース注入が必要であった。この結果は、食事の後の時間枠での予想されるグルコース吸収をはるかに超えて、リスプロ治療後にインスリンの量と活性が上昇していることを示している。さらに、90Uのインスリン−FDKPグループは、60U用量のインスリン−FDKPで治療されたグループよりも、血中グルコースレベルをより効率的に制御し、0〜180分の時間の間、より低い血中グルコースレベルとなっていたことは明らかである。このより良い制御により、90Uのインスリン−FDKPを投与された患者から、より少ない内因性インスリンが分泌され、従って、内因性インスリンのこのグループの個体の全インスリンプロファイルに対する寄与分は小さい。さらに、データから、60U用量のインスリン−FDKPで治療されたグループの全インスリンプロファイルには、もっと多くの内因性インスリンが寄与し、試験をした二つのグループの平均インスリンプロファイルを似たものにしている。
【0182】
図9は、食事の直前に10Uインスリンリスプロ、及び、60U及び90Uのインスリン−FDKPによって治療された2型糖尿病患者の食事後の一定の時間のグルコース吸収速度を示す、上記の調査の患者から得たデータのグラフである。各々の治療曲線のデータ・プロットにおける時を示す点は、本調査で分析した全試料の平均値を表す。図9のデータから、3種の治療法で治療された被験者の摂取した食事からのグルコース吸収の速度パターンが全員同様であることが分かる。従って、このデータから、治療は、治療された被験者の食事からのグルコース吸収の速度を変えなかったことが分かる。
【0183】
図10は、食事の開始時に、10Uのインスリンリスプロ及び60Uまたは90Uのいずれかのインスリン−FDKP製剤により治療された2型糖尿病患者の食事後の内因性グルコース産生を定量する実験から得たデータのグラフである。各々の治療曲線のデータ・プロットの時を示す点は、本実験で分析した全ての試料の平均値を表す。90Uのインスリン−FDKPで治療された2人の被験者は、モデル化した結果の解釈が困難なため、分析から除外した。3種の治療のデータ曲線から、3つの全ての治療法は、治療された被験者の内因性グルコース産生の阻害に効果的であり、60Uのインスリン−FDKPと10Uリスプロの治療の間と同程度の阻害効果であった。また、本データから、90Uのインスリン−FDKP治療が、内因性グルコース産生の阻害により大きく、速く効果を及ぼすことが分かる。特に、インスリン−FDKPで治療された被験者は、内因性グルコース産生の最大阻害を、インスリンリスプロ(約100分)よりもはるかに速く、早い時間(2種の治療では、約40分及び約60分)に示した。
【0184】
図11は、上記のように、食事の開始時に10Uのインスリンリスプロ、及び60Uまたは90Uのインスリン−FDKP製剤のいずれかで治療された2型糖尿病被験者の一定時間のグルコース消失速度を測定する実験から得られたデータのグラフである。各々の治療曲線のデータ・プロットの時を示す点は、本実験で分析した全ての試料の平均値を表す。更に、各被験者の体重を考慮するために、グルコース消失速度を被験者の体重で割りグルコース消失速度を規格化した。被験者のグルコース消失速度または利用速度は、全ての治療で異なっていた。特に、60U及び90Uのインスリン−FDKPを投与されたグループのグルコース消失(速度)は共に、明らかにインスリンリスプロよりもはるかに早かった。インスリン−FDKPで治療されたグループのグルコース消失は、投与後の初期、つまり投与後約5分の測定で相当速く、かつ投与後約30〜50分で最大値に達し、インスリン−リスプロ(約100分)と比べてはるかに早かった。
【0185】
要約すれば、既存の治療法、即ちインスリンリスプロよりも、このインスリン−FDKP治療法が2型糖尿病患者の内因性グルコース産生をより速く阻害し、かつグルコース消失及び利用をより速く誘起するという点で、インスリン−FDKP治療は、2型糖尿病患者の著しく有効な治療法であったことをこの調査のデータは示している。EGP及びグルコース利用に対するインスリン−FDKPの効果は、用量の増量と共に上昇するように見えた。
【0186】
実施例2
(SC基礎インスリン及び食事時吸入インスリン−FDKP対SC基礎インスリン及び食事時インスリンによる、52週間にわたる治療と4週間の追跡調査を受ける1型糖尿病の被験者における、有効性と安全性の比較をする前向き、多施設、非盲検、無作為、対照臨床試験)
これは、基礎インスリン及び食事時インスリン−FDKP(TI)吸入粉末を受ける1型糖尿病被験者(TI吸入粉末グループ)の血糖制御を、基礎インスリン及びSC迅速作用性インスリンアスパルトを受ける被験者(比較グループ)と比較する、前向き、多国間、多施設、非盲検、無作為、対照臨床試験であった。この調査は、52週間の治療段階及び4週間の追跡調査を含む。4週間の追跡調査の期間中、肺機能及び厳選された臨床実験室評価が計画された。
【0187】
調査は3週間目の登録から始まる。被験者は、HbA1c及び空腹時血漿グルコース(FPG)を含む一連の安全性と適格審査を受ける。
1週間目、被験者は下記の2種:
基礎インスリン+食事時TI吸入粉末
基礎インスリン+食事時SC迅速作用性インスリン
の治療の1つに無作為に割り付けられる。
【0188】
1週間目、被験者は再び試験・再試験信頼度のみの目的のために、インスリン治療質問表(ITQ)の最初の3つの項目を記入した。質問表を記入した後、無作為にTI吸入粉末グループに割り当てられた被験者は、TECHNOSPHERE(登録商標)/インスリン(インスリン−FDKP)吸入粉末を用い、MEDTONE(登録商標)吸入器の指導を受けた;比較グループの被験者は、NOVOLOG(登録商標)ペンの使用の指導を受けた;全ての被験者は、LANTUS(登録商標)の投与の指導を受けた。さらに、試験の最初に提供される血中グルコース測定(HBGM)器と日誌の指導を受け、糖尿病の教育を受けた。いずれの指導も、必要に応じ、0週目に反復した。
【0189】
治療相の初期において、被験者はインスリン治療に適応するために数回の用量設定/服用量評価の訪問を行った。用量設定のための通院は、最初の4週間に週に一度行われた。4週目〜10週目の期間中、必要に応じて、用量設定のため、3回の電話「通院」(6週目、8週目、10週目)を行った。ただし、用量設定は、試験期間中許容された。
【0190】
全ての被験者は、0週目〜52週目の各通院の直前の週の任意の3日間に7点の血中グルコースプロファイルを終わらせた。この7つの時点には、朝食前、朝食後2時間、昼食前、昼食後2時間、夕食前、夕食後2時間、就寝時(1日7時点、3日間にわたる)のサンプルが含まれる。これらの血中グルコース(BG)値は通院の時に回収されるHBGM日誌に記録された。電話で議論された4週目から10週目の間(用量設定期間中)の日誌は、次回の事務所訪問の時に回収された。
【0191】
摂食負荷は4週目(用量設定中)、26週目、52週目に行った。摂食負荷静脈血液の採取時間は、−30、0、30、60、90、105、120、180、240、300、及び360分であった。血中グルコース(BG)も、治験責任医師の治療法決定を援助するためにHBGMグルコース測定器を用い測定され、測定値は、摂食負荷の期間中の−30、0、60及び120分に得た。
【0192】
試験で用いられた血糖制御に対する治療法は、食事時インスリン−FDKP(TI)吸入粉末、食事時インスリンアスパルト、及び基礎インスリングラルギンであった。TI吸入粉末グループに割り当てられた被験者(基礎インスリン療法を組み合わせたTI吸入粉末)は、1日1回(就寝時)、SC基礎インスリングラルギン(LANTUS(登録商標))を投与され、臨床的必要性に基づいて、主要な食事あるいは軽食の直前に、1日に3〜4回、TI吸引粉末を吸引した。TI吸入粉末用量の調整や1日3回を超える使用頻度は、治験責任医師の裁量に任せた。比較グループの被験者は,1日1回(就寝時)、SC基礎インスリングラルギン、及び1日に3〜4回、主要な食事の直前(食事の10分以内)に皮下注射で迅速作用性インスリン(NOVOLOG(登録商標))を投与された。
【0193】
この試験の主たる目的は、HbA1c(%)における基準値からの変化による評価として、52週間のTI吸入粉末+基礎インスリンの有効性をインスリンアスパルト+基礎インスリンと比較することであった。合計565人の被験者を、米国、ヨーロッパ、ロシア及びラテンアメリカの施設で観察した。合計293人の被験者には、TI吸入粉末+基礎インスリンを投与し、272人には、インスリンアスパルト+基礎インスリンを投与した。
【0194】
一次有効性エンドポイントは、事前設定した共分散分析(ANCOVA)及び混合モデル反復測定(MMRM)分析を用いて評価した。TI吸入粉末+基礎インスリン治療グループとインスリンアスパルト+基礎インスリン治療グループの間で出た中断者の割合が不均衡なために、共分散分析モデルに対して完全に無作為に欠員が発生するという前提が崩れた。そこで、MMRMを2次確認として用いた。TI吸収粉末は、MMRMモデルでは非劣性の一次エンドポイントに合うが、共分散分析モデルでは合わない。52週にわたる基準値からの平均変化は、最小二乗法による治療差は、インスリンアスパルトに有利な−0.25%だが、両方の治療グループでほぼ同程度であった。両モデルから得られた結果に基づくと、HbA1cにおける基準値からの平均変化に関しては、治療グループ間で臨床的意義のある差は無かった。実際、2つの治療グループで、同程度の割合の被験者がHbA1cの目標レベルに到達した。HbA1cレベルが8.0%以下(TI吸入粉末グループは50.99%、比較グループは56.16%)、7.0%以下(TI吸入粉末グループは16.34%、比較グループは15.98%)、6.5%以下(TI吸入粉末グループは7.43%、比較グループは7.31%)まで下がった被験者の割合に統計的有意差はなかった。
【0195】
HbA1cの減少は、グループ間で同等であり、52週間にわたり持続した。TI治療グループの被験者は、基準値8.41(標準偏差0.92)%から14週目で8.21(標準偏差1.15)%に減少し、その減少は維持され、52週目で、8.20(標準偏差1.22)%であった。インスリンアスパルト治療グループの被験者は、基準値8.48(標準偏差0.97)%から14週目で8.07(標準偏差1.09)%に減少し、その減少は維持され、52週目で、7.99(標準偏差1.07)%であった。
【0196】
HbA1cにおける基準値からの変化の分析を共分散分析モデルにおける最後の3ヶ月のインスリングラルギンに対して補正をしたところ、グラルギン曝露による影響は見られなかった。
【0197】
52週間の治療期間にわたって、TI吸入粉末グループの空腹時血漿グルコース(FPG)レベルは、インスリンアスパルトを用いる被験者のFPGレベルと比べ、両グループ共に試験の最初と終点で同程度の用量レベルであったにも関わらず、著しく低下(p=0.0012)した。TI吸入粉末グループにおいて、平均FPGは、基準値の187.6(標準偏差85.1)mg/dLから治療期間の終点での140.1(標準偏差72.1)mg/dLで44.9(標準偏差104.7)mg/dLの減少だが、それに比べ、比較グループでは、同じ期間で、基準値の180.8(標準偏差86.9)mg/dLから161.3(標準偏差68.2)mg/dLで23.4(標準偏差103.1)mg/dLで、より小さい減少であった。
【0198】
2次有効性エンドポイントは、摂食負荷後、2時間食後血漿グルコース(PPG)が140mg/dL及び180mg/dLの被験者の割合である。両区分の2時間PPG値を有する被験者は、26週目及び52週目において、各治療グループで同等であった。基準値と52週目のPPGのCmaxの絶対値は、両治療グループで同じであった。
【0199】
TI吸入粉末グループの被験者は、52週間の治療で、比較グループで観察された平均体重増加の1.4kgに対し、平均0.5kgの体重減少であった。グループ間のこの差は、統計的に有意(p<0.0001)であり、治療間差は−1.8kgであった。TI治療グループの体重の基準値(0週)からの平均変化は、統計的に有意ではない(p=0.1102)が、一方、インスリンアスパルトの体重増加は有意(p<0.0001)であった。
【0200】
全体的には、この試験の両治療グループにおいて、同等のHbA1cのレベル及び食後血中グルコースレベルが達成された。しかしながら、TI吸入粉末で治療された被験者の場合は、体重の増減がなく、かつ空腹時血中グルコースをより効果的に制御しているという状況において、同じレベルを達成しているのである。
【0201】
TI吸入粉末は、52週間の治療期間中良好な耐容性を示した。TI吸入粉末の安全プロファイルは、TI吸入粉末臨床開発計画での初期の試験で観察されたものと同様であり、試験の間、安全性に関する情報(safety signals)は出てこなかった。肺腫瘍は全く報告されなかった。FEV1(1秒間の最大努力呼気肺活量)、FVC(強制肺活量)、及びTLC(全肺活量)おける基準値からの変化に関し、TI吸入粉末治療及び比較治療との間に統計学的差異はなかった。TI吸入粉末治療を受けた被験者の試験で最もよく見られる副作用は、軽度から中等度の低血糖症及び一過性の軽度の乾性の咳であった。
【0202】
7点BGプロファイルは、HBGMから導いた。全ての特定された時間の点におけるITTとPP集団のデータは、それぞれ、図12に示されている。推測統計学は用いなかった。
【0203】
図12に、52週目での両治療グループの7点BGプロファイルを示す。朝食前の基準値は、52週目のFPG値から予測されるようにTI治療グループの方が低かった。即ち、TI治療グループの139.1(標準偏差72.6)mg/dLに対し、アスパルト治療グループは49.5(標準偏差80.2)mg/dL)であった。朝食前から昼食前まで、BG値は、TI治療グループの方が低かった。しかしながら、昼食後から就寝時間まで平均日常BG値は、両治療グループで同様であった。一致した結果がPP集団で観察された(データ非表示)。両治療グループにおいて共に、おそらくインスリングラルギンの準最適投与の結果である夕食前から就寝時間までのBGの平行で着実な増加が観察された。インスリングラルギンの就寝時投与は、1型糖尿病の被験者に対して全24時間の治療は提供できない可能性がある(Barnett A. Vascular Health and Risk Management 2:59-67, 2006)(LANTUS(登録商標)をラベルの記載に従って、1日1回投与した)。両治療グループとも、夕方に基礎基準値血中グリコースの上昇がみられたが、1日を通した場合は、TI治療グループの方が、より顕著であった。
【0204】
実施例3
(SC基礎インスリン及び食事時吸入TI対SC事前混合インスリン治療による、52週間にわたる治療と4週間の追跡調査を受けるT2DMの被験者における有効性と安全性の比較をする前向き、多施設、非盲検、無作為、対照臨床試験)
この試験により、SCインスリン±経口抗高血糖薬剤の投薬計画で前もって治療された、準最適に制御された2型糖尿病の被験者の中で、52週間にわたるHbA1cの変化によって表した有効性を、基礎インスリン治療と組み合わせたTI吸入粉末の食事時投与(TIグループ)を中間作用性と迅速作用性のインスリンの事前混合(比較グループ)と比較した。HbA1cの減少は、TI+基礎インスリン及び事前混合インスリンとでは同程度であった。調査終了時にHbA1cが7.0%以下であった反応者は、TI+基礎インスリンのグループと事前混合インスリンのグループとの間で同程度であり、統計学的な差異は無かった。注目すべきことに、事前混合インスリンと比べ、TI+基礎インスリンによる治療によって、空腹時血中グルコースは大きく減少した(図13を参照)。更に、TI+基礎インスリングループでは、空腹血中グルコース及びグルコース可動域が共に、治療期間の始めから終わりの間で減少した(図14を参照)。実施例2で述べたように、TI+基礎インスリンに関しては、基準値血中グルコースレベルは、1日の間で上昇傾向であった(図14を参照)。
【0205】
実施例4
この研究は、メトホルミン及び分泌促進物質の組合せで準最適に制御された2型真性糖尿病の被験者において、食事時TECHNOSPHERE(登録商標)/インスリン(インスリン−FDKP,TI)単独、またはメトホルミンとの組合せを、現在の標準看護療法であるメトホルミン+分泌促進物質と対比して有益性と安全性を評価するために設計された第3相、24週間、非盲検試験である。図15及び図16に、臨床試験の試験設計及び本調査に登録した患者の基準値の人口統計学的データを示している。被験者は、1:1:1で無作為に3種の治療グループに割り付けられ、最初の12週間は、割りつけられたグループに基づいて、抗糖尿病治療を受けた。それに続く12週間の試験期間は、観察期間と見なされた。
【0206】
試験設計は、用量設定試験薬剤に対する正式な導入期間が無いという点で異例であった。被験者は、一次有効性エンドポイントの評価が行われる前に、合計で12週間のみであるが、試験薬剤の有効用量まで漸増する治療を受けた。12週間の治療後、継続して準最適制御を受けている被験者は、3種の治療グループのいずれにおいても、TI+メトホルミンに切り替えるか、または試験への参加を中断するかのどちらかが義務付けられた。全治療期間は24週間であった。
【0207】
これは、目標到達型治療(treat-to-target)試験ではないので、治験責任医師は達成すべき具体的なHbA1cまたは空腹時血漿グルコース(FPG)の目標を提供されなかった。治験責任医師は、自らの臨床的裁量で、食前、食後、及び就寝時血中グルコースに対して指定された上限でTIを用量設定することを許されていたが、固定投薬スケジュールはなかった。規定手順では、一食当たり90UのTIまで用量設定できるが、一食当たりのTIの平均用量は、試験終点で凡そ65Uであり、治験責任医師が更に用量設定することを控えた可能性を示唆している。
【0208】
食事時TI単独あるいはメトホルミンとの組み合わせと一般に用いられる抗高血糖症投薬計画との直接比較を行った。調査の間、3種の治療グループの全てが、統計的かつ臨床的に有意なHbA1cレベルの減少を示した。TIは、正式な摂食負荷及び自己測定グルコースプロファイルの両方において、HbA1c及びFPGの減少に関しては同程度で、食後の制御に関しては、はるかに効率的であった。24週間にわたる食事時TI単独あるいはメトホルミンとの組み合わせで治療された被験者の平均体重は減少した。TIの超速効型薬物動態が、インスリンレベルを食後の血中グルコースの上昇と同期させ、それにより過剰インスリン及び付随する体重増加を阻害した可能性がある。
【0209】
TI単独あるいはメトホルミンとの組み合わせは、24週間の治療にわたり、良好な耐容性を示した。図17から図28に、調査の結果を示す。TIの安全性プロファイルは、TI臨床開発計画での初期の試験において観察されたものと同様であり、試験の間、安全性に関する情報は出てこなかった。重度の低血糖症の割合は、すべての治療グループにおいて極めて低く、TI単独または経口血糖降下薬の組合せの治療を受けた患者では症例がなく、TIとメトホルミンを併用した時に患者の2%に観察されたのみであった。HbA1c全体がこのように顕著に低下したにもかかわらず、体重増加は全く認められなかった。24週間にわたる調査でのFEV1及びDLCOを含む肺の安全性の詳細な評価により、TIを吸入した患者と経口治療のみの患者間での肺機能に差異がないことが分かった。
【0210】
TI+メトホルミン
試験を完了した被験者に対して、食事時TI+メトホルミンは、24週間の治療後、HbA1cで、1.68(1.0)%という臨床的に意義のある基準値からの平均低下を提供したが、標準抗高血糖治療計画と同程度であった。しかしながら、TI+メトホルミンは、12週間及び24週間後に、メトホルミン+分泌促進物質に比べ、統計的に優れた食事後制御を提供し、かつ24週間後のFPGの基準値からの同程度の平均低下を提供した。この治療グループでは、24週間で平均体重減少が−0.75Kgで、軽度から中等度の低血糖症の発生率は全体で35.0%であった。
【0211】
Tl単独
試験を完了した被験者に対して、食事時TI単独は、24週間の治療後に、HbA1cで、1.82(1.1)%という臨床的に意義のある基準値からの平均低下を提供するのに成功した。基準値からのこの変化は、メトホルミン+分泌促進物質の標準抗高血糖投薬計画よりも数値的に勝る。試験の終点では、TI単独は、FPGの基準値から平均低下は同程度である比較用よりも、はるかに効率的な食後制御を提供した。この治療グループでは、24週間で平均体重減少が−0.04Kgで、軽度から中等度の低血糖症の発生率は全体で27.6%であった。
【0212】
メトホルミン+分泌促進物質
試験を完了した被験者に対して、メトホルミン+分泌促進物質は、24週間の治療後に、HbA1cにおいて、1.23(1.1)%という基準値からの臨床的に意義のある平均低下を提供するのに成功したが、TI治療グループよりも食後制御の効果では大きく劣っていた(図17及び図18)。FPG及び体重の基準値からの平均低下は、TI+メトホルミン治療グループで観察された低下と同程度であった(図21、図22)。軽度から中等度の低血糖症の発生率は全体で20.8%であった。
【0213】
食事時TI単独、またはメトホルミンとの組み合わせは、12週間及び24週間の間、大幅にHbA1cレベルを低下させる(図23〜25)。これは、7点血中グルコースレベルにより示されているように、24時間にわたる血中グルコースの制御により達成される。TIの主な効果は、1時間及び2時間の食事後グルコースレベル、AUC及びCmaxの低下からも明らかなように、食後血中グルコース可動域を減少することによってもたらされる。この試験のデータは、食後及びFPGを共に改善する必要がある2型糖尿病の被験者がメトホルミンと組み合わせた食事時TIを使用することを支持する(図26〜図28)。それらは、食後血糖症の改善が必要であるがFPGに関しては適切な制御をする2型糖尿病の被験者において、単剤療法として食事時TIの使用ができる可能性を示している。
【0214】
2型糖尿病患者の大部分は、結局、血糖値制御を維持するためにインスリン治療が必要となる。食事時TI単独、またはメトホルミンとの組み合わせによる治療は体重増加をもたらすことなく、効果的に血糖制御をする。これは、太りすぎ、あるいは肥満が多い2型糖尿病患者にとって特に重要なことである。
【0215】
要約
データから、食事時TI単独、またはメトホルミンとの組み合わせは、12週間及び24週間にわたり、体重増加を伴わずに臨床的に大幅にHbA1cを減少させたことが分かる。食事時TI単独、またはメトホルミンとの組み合わせは、7点血中グルコースレベルに基づくと、メトホルミン+分泌促進物質よりも1日全体の血中グルコースレベルの制御に優れている。
【0216】
また、食事時TI単独、またはメトホルミンとの組み合わせは、メトホルミン+分泌促進剤と比べて、(1)1時間及び2時間の摂食負荷テストにおける食後グルコース可動域、(2)12週間及び24週間におけるAUCレベル、3)12週間及び/または24週間における1時間及び2時間の食後グルコースレベル(180mg/dL以下)、および4)12週間及び/または24週間における1時間及び2時間の食後グルコースレベル(140mg/dL以下)の制御で優れていることも分かる。
【0217】
さらに、食事時TI単独、またはメトホルミンとの組み合わせは、12週間及び24週間での空腹時血中グルコースを低下させる。
全体的に、低血糖症の発生率は、全治療グループで低かった。
【0218】
さらに、TI単独及びTI+メトホルミングループにおいてのFEV1、FVC、TLC及びDLco−HB1を含む肺機能の試験の基準値からの平均変化は、12週または24週で、メトホルミン+分泌促進物質グループと大きな差異はなかった。
【0219】
他に指定がない限り、本明細書や特許請求項に用いられる成分量、分子量等の属性、反応条件等を表現する全ての数値は、あらゆる場合において、「約」という用語によって緩和されるものとする。従って、その反対の指定がない限りは、以下の本明細書及び添付の特許請求項に明記された数値パラメータは、本発明によって得ようとする所望の特性に依存して変化しうる近似値である。少なくとも、かつ、特許請求の範囲への均等論の適用を制限する試みとしてではなく、各数値パラメータは少なくとも報告された有効桁数に照らして、かつ、通常の四捨五入等の端数計算法を用いることによって解釈せねばならない。本発明の広い範囲を示す数的範囲およびパラメータは近似値であるとはいえ、具体的な実施例に示される数値は可能な限り正確に報告されている。しかしながら、いかなる数値も本質的に、それぞれの試験測定値に見られる標準偏差から必然的に生ずるある程度の誤差を含んでいる。
【0220】
本発明を説明する文脈で(特に下記の特許請求項の文脈で)使用される「a」、「an」、「the」という語及び同様の指示語は、本明細書に別途指示がない限り、または文脈と明らかに矛盾するものでない限り、単数および複数の両方を含むものと解釈される。本明細書の数値の範囲の記述は、単に、範囲内にある各個別数値を個々に言及するのを簡略化した方法として役立てることを意図する。特に指示しない限り、各個別数値は、本明細書に個々に記載されているものとして本明細書に組み込まれるものとする。明細書に記載される全ての方法は、特に指示しない限り、または文脈と明らかに矛盾するものではない限り、任意の適切な順序で実施することができる。本明細書に使用されるいかなる全ての実施例または例示的用語(例えば「例えば」)の使用は、単に本発明をより詳しく例示することを意図しているにすぎず、特許請求の範囲に記載されている以外は本発明の範囲を限定するものではない。明細書中のいかなる用語も、本発明の実施に必須ないかなる非請求要素も示さないと解釈すべきである。
【0221】
本明細書に開示されている本発明の要素または態様の代替群を発明の限定として解釈してはならない。各群の構成要素は、個別に、または他の群の構成要素もしくは本明細書に見出される他の構成要素と任意に組み合わせて、言及してよく、特許請求の範囲に含めてもよい。一群中の一つ以上の構成要素が便宜上および/または特許性のために群に包含されるか削除される可能性がある。そのような包含または削除が行われる場合、本明細書は修正された群を含み、従って添付の特許請求の範囲中に使用されている全てのマーカッシュ群の記述を満たすものとみなされる。
【0222】
この発明の好ましい態様は、発明を実施するために発明者らが知る最良の形態を含めて、本明細書に記載される。当然、上記の説明を読めば、これらの態様の変形が当業者に明らかである。本発明者らは、当業者が必要に応じてそのような変形を使用することを予期し、本発明者らは本明細書に特に記載されている以外の方法で本発明が実施されることを意図している。従って、本発明は、適用法により許容されるとおり、本明細書に添付の特許請求の範囲に記載されている主題についての全ての変更および均等物を包含する。更には、全ての可能な変形において、上記要素の任意の組合せも、本明細書において特に指示されない限り、または文脈と明らかに矛盾しない限り、本発明に包含される。
【0223】
本明細書で開示された特定の態様は、「から成る」、または「から本質的に成る」という用語を使用して、更に限定しうる。出願されたまたは補正により付加された特許請求の範囲に使用される場合、移行用語(transition term)「から成る」は、特許請求の範囲において特定されていない任意の要素、工程または成分を除外する。移行用語「から本質的に成る」は、特定の物質または工程、ならびに基本的かつ新規な特性に実質的に影響を与えないものに、特許請求の範囲を限定する。このように特許請求される本発明の態様が、本明細書において本質的にまたは明確に記載され使用可能にされている
さらに、本明細書を通して、多くの特許および出版刊行物が参照されている。上記に引用した各文献および出版刊行物の全内容は、個々に、参照により本明細書に組み入れられる。
【0224】
最後に、当然のことであるが、本明細書に開示された本発明の態様は本発明の原理を例示するものである。他の変更を、本発明の範囲内で使用しうる。従って、例示するものであって限定するものではないが、本発明の代替的形態を本明細書の教示に従って使用しうる。それゆえ、本発明は、提示され記載されているものに厳密に限定されない。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2型糖尿病の治療方法であって、
肝臓グルコース産生抑制剤及びインスリン分泌促進物質により現在治療を受けている2型糖尿病患者を選択し、
該インスリン分泌促進物質による治療を中止し、かつ
少なくとも1回の確定した食事と共に超速効型インスリン製剤を日常的に投与すること、を含む治療方法。
【請求項2】
肝臓グルコース産生抑制剤による治療もまた中止される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
患者が、インスリン抵抗性スペクトルの下部におけるインスリン抵抗性を有する者に対して更に選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
患者が、体重増加を減らすまたは避ける必要がある者に対して更に選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
投与の工程が注射を含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
患者が更にインスリンによる治療の候補者であり、かつ、針恐怖症であることもしくは頻繁な注射を避けたいと望むということに基づいて更に選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
肝臓グルコース産生抑制剤がメトホルミンである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
インスリン分泌促進物質がスルホニル尿素である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
患者が十分にまたは適度に制御された空腹時血中グルコースを有する者に対して更に選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
超速効型インスリン製剤が吸入により投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
超速効型インスリン製剤が乾燥粉末である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
超速効型インスリン製剤がインスリンと連合したフマリルジケトピペラジン(FDKP)を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
超速効型インスリン製剤がインスリン−FDKPを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
患者が、HbA1cレベルが8以上の者に対して更に選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
患者が、グルコース可動域の平均振幅の上昇がある者に対して更に選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
超速効型インスリンが、15gを超える炭水化物を含有する各々の食事と共に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
超速効型インスリン製剤が、投与後60分以内に肝臓グルコース産生を極限まで減少させるのに十分な用量で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
超速効型インスリン製剤が1〜32皮下当量単位の範囲の用量で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
2型糖尿病の治療方法であって、
血糖値制御の改善を必要とし、かつ肝臓グルコース産生抑制剤及びインスリン分泌促進物質の組み合わせ治療に対する候補者となる、肝臓グルコース産生抑制剤で現在治療を受けている2型糖尿病患者を選択し、かつ、代わりに、
該肝臓グルコース産生抑制剤での治療と、少なくとも1回の確定した食事と共に超速効型インスリン製剤の日常的な投与と組み合わせること、を含む治療方法。
【請求項20】
2型糖尿病の治療方法であって、
インスリン増感剤及びインスリン分泌促進物質により現在治療を受けている2型糖尿病患者を選択し、
該インスリン分泌促進物質による治療を中止し、かつ、
各食事と共に日常的に超速効型インスリン製剤を投与すること、を含む治療方法。
【請求項21】
インスリン増感剤による治療もまた中止される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
患者が、インスリン抵抗性スペクトルの上部におけるインスリン抵抗性を有する者に対して更に選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
インスリン増感剤がチアゾリジンジオン(TZD)である、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
TZDがピオグリタゾンである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
超速効型インスリン及び長時間作用性インスリン類似体との組み合わせによる高血糖症の改善された治療方法であって、
該超速効型インスリンの食事時投与、及び
1日の目覚め後6時間以内の長時間作用性インスリン類似体の投与、を含む方法。
【請求項26】
長時間作用性インスリン類似体の投与が目覚め後3時間以内である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
長時間作用性インスリン類似体がインスリンデテミルまたはインスリングラルギンである、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
長時間作用性インスリンがインスリングラルギンであり、かつ、2回目のインスリングラルギンの投与を更に含み、2回目の用量が朝の投与から8時間〜14時間後に投与される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
超速効型インスリンがインスリン及びジケトピペラジンを含む製剤を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項30】
超速効型インスリンがインスリン−FDKPを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項31】
超速効型インスリンが肺への吸入により投与される、請求項25に記載の方法。
【請求項32】
高血糖症が2型糖尿病の結果である、請求項25に記載の方法。
【請求項33】
超速効型インスリン及び外因性基礎インスリンとの組み合わせによる高血糖症の改善された治療方法であって、
該超速効型インスリンの食事時投与、及び
インスリンポンプによる短時間作用性インスリンの連続注入、を含む方法。
【請求項34】
短期間作用性インスリンが、通常のヒトインスリンまたは迅速作用性インスリン類似体である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
食事量に合わせてインスリン用量を調整することなく日常食に関する血糖を制御する方法であり、毎日の各食事に対し、食事時間に所定の用量の超速効型インスリン製剤を投与することを含む方法。
【請求項36】
食事量が、所定の用量を決定する際に用いられる通常の食事量の25%以上から200%以下である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
超速効型インスリン製剤がインスリン−FDKPである、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
遅延型あるいは長時間型栄養吸収の患者のための日常食に関する血糖制御の方法であって、
遅延型栄養吸収の患者を選択し、
日常食に対し、食事時間に所定の用量の超速効型インスリン製剤の50%〜75%を投与し、かつ、
所定の用量の残量を日常食開始から30〜120分後に投与すること、を含む方法。
【請求項39】
超速効型インスリン製剤がインスリン−FDKPである、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
遅延型栄養吸収が病状に関連する、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
遅延型栄養吸収が脂肪や繊維の含量が高い食事に関連する、請求項38に記載の方法。
【請求項42】
長時間型栄養吸収が長時間の食事と関連する、請求項38に記載の方法。
【請求項43】
摂取した食事の血糖負荷に合わせてインスリン用量を調整する日常食に関連する血糖を制御する方法であって、
日常食に対して、食事時間に最初の所定の用量の超速効型インスリン製剤を投与し、
日常食の開始から1〜2時間後に食後の血中グルコースを定量し、
食後血中グルコースが140mg/dlを超える場合、初回の用量の25%〜100%の用量である2回目の超速効型インスリン製剤を投与すること、を含む方法。
【請求項44】
超速効型インスリン製剤がインスリン−FDKPである、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
皮下インスリン抵抗性の糖尿病患者を治療する方法であって、
通常とは異なる高インスリン投与量に基づいて皮下インスリン抵抗性の患者を選択し、
皮下投与用の迅速作用性、短期作用性、または中間作用性のインスリン製剤を用いる治療を中止し、かつ、
食後低血糖症の制御に効果的な吸入によるインスリン−FDKPの食事時用量の投与による治療を開始すること、を含む方法。
【請求項46】
通常とは異なる高インスリン投与量が2単位/Kg/日以上である、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
選択工程が、患者が正常または正常に近い内因性基礎インスリンを有するという基準の選択を更に含む、請求項45に記載の方法。
【請求項48】
内因性基礎インスリンのレベルが50μU/ml以下である、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
選択工程が注射部位の皮下脂肪萎縮または脂肪異栄養症に基づく選択を更に含む、請求項45に記載の方法。
【請求項50】
選択工程が強化インスリン療法中の6〜9ヶ月の期間において、2回のHbA1cレベル測定が9%以上である患者という基準の選択を更に含む、請求項45に記載の方法。
【請求項51】
選択工程が、インスリン療法及び食事もしくは運動療法の順守にもかかわらず、高血糖症及び/又は低血糖症の期間によって特徴付けられる生命にかかわるほど血糖値が不安定な患者という基準の選択を更に含む、請求項45に記載の方法。
【請求項52】
相対的生体利用度に基づいた調節の後、実質的により少ないインスリン投与量によって、同程度あるいは改良された血糖制御が達成されているという判断により患者が皮下インスリン抵抗性を持っていることを確認する工程を更に含む、請求項45に記載の方法。
【請求項53】
日常食1回あたりの超速効型インスリンの個体の用量を決定する方法であって、
1週間以下の用量設定期間内の少なくとも3日間の1日毎に用量設定する日常食に対して、食事時間に低用量の超速効型インスリンを投与し、
各々の続く用量設定期間に低用量分によって反復的に用量を増量し、用量設定の終点に達するまで用量設定期間の少なくとも3日間の各々の日に用量設定する日常食に対し、食事時間に投与すること、を含む方法。
【請求項54】
低用量が1〜5皮下当量単位である、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
超速効型インスリン製剤がインスリン−FDKPを含む、請求項53に記載の方法。
【請求項56】
用量設定の終点が、以下の中から選択される請求項53に記載の方法:
1)到達した2時間後の食後平均グルコースが70mg/dlと110mg/dlの間である、
2)皮下当量単位に基づいた投与量が最大投与量である、
3)確認されたSMBGが36mg/dl未満である重症の低血糖症が発現し、投与量が1個の低用量カートリッジの同等物によって減少する、および
4)確認されたSMBGが70mg/dl未満である軽度から中度の低血糖症が発現し、投与量は1週間あたり1個の低用量カートリッジの同等物によって減り、次に、用量設定を再開し、該1)〜3)のいずれかの終点に到達するまで行うか、投与量を軽度から中度の低血糖症が再び現れるレベルよりも少ないレベルに設定する。
【請求項57】
2回以上の日常食に対する投与量が同時に用量設定される、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
2回以上の日常食に対する該投与量が食後2時間後の血中グルコースが最も高くなる日常食から、食後2時間後の血中グルコースが最も低くなる日常食まで連続的に用量設定される、請求項56に記載の方法。
【請求項59】
最大投与量が24皮下当量単位である、請求項56に記載の方法。
【請求項60】
最大投与量が32皮下当量単位である、請求項56に記載の方法。
【請求項1】
2型糖尿病の治療方法であって、
肝臓グルコース産生抑制剤及びインスリン分泌促進物質により現在治療を受けている2型糖尿病患者を選択し、
該インスリン分泌促進物質による治療を中止し、かつ
少なくとも1回の確定した食事と共に超速効型インスリン製剤を日常的に投与すること、を含む治療方法。
【請求項2】
肝臓グルコース産生抑制剤による治療もまた中止される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
患者が、インスリン抵抗性スペクトルの下部におけるインスリン抵抗性を有する者に対して更に選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
患者が、体重増加を減らすまたは避ける必要がある者に対して更に選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
投与の工程が注射を含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
患者が更にインスリンによる治療の候補者であり、かつ、針恐怖症であることもしくは頻繁な注射を避けたいと望むということに基づいて更に選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
肝臓グルコース産生抑制剤がメトホルミンである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
インスリン分泌促進物質がスルホニル尿素である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
患者が十分にまたは適度に制御された空腹時血中グルコースを有する者に対して更に選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
超速効型インスリン製剤が吸入により投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
超速効型インスリン製剤が乾燥粉末である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
超速効型インスリン製剤がインスリンと連合したフマリルジケトピペラジン(FDKP)を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
超速効型インスリン製剤がインスリン−FDKPを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
患者が、HbA1cレベルが8以上の者に対して更に選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
患者が、グルコース可動域の平均振幅の上昇がある者に対して更に選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
超速効型インスリンが、15gを超える炭水化物を含有する各々の食事と共に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
超速効型インスリン製剤が、投与後60分以内に肝臓グルコース産生を極限まで減少させるのに十分な用量で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
超速効型インスリン製剤が1〜32皮下当量単位の範囲の用量で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
2型糖尿病の治療方法であって、
血糖値制御の改善を必要とし、かつ肝臓グルコース産生抑制剤及びインスリン分泌促進物質の組み合わせ治療に対する候補者となる、肝臓グルコース産生抑制剤で現在治療を受けている2型糖尿病患者を選択し、かつ、代わりに、
該肝臓グルコース産生抑制剤での治療と、少なくとも1回の確定した食事と共に超速効型インスリン製剤の日常的な投与と組み合わせること、を含む治療方法。
【請求項20】
2型糖尿病の治療方法であって、
インスリン増感剤及びインスリン分泌促進物質により現在治療を受けている2型糖尿病患者を選択し、
該インスリン分泌促進物質による治療を中止し、かつ、
各食事と共に日常的に超速効型インスリン製剤を投与すること、を含む治療方法。
【請求項21】
インスリン増感剤による治療もまた中止される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
患者が、インスリン抵抗性スペクトルの上部におけるインスリン抵抗性を有する者に対して更に選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
インスリン増感剤がチアゾリジンジオン(TZD)である、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
TZDがピオグリタゾンである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
超速効型インスリン及び長時間作用性インスリン類似体との組み合わせによる高血糖症の改善された治療方法であって、
該超速効型インスリンの食事時投与、及び
1日の目覚め後6時間以内の長時間作用性インスリン類似体の投与、を含む方法。
【請求項26】
長時間作用性インスリン類似体の投与が目覚め後3時間以内である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
長時間作用性インスリン類似体がインスリンデテミルまたはインスリングラルギンである、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
長時間作用性インスリンがインスリングラルギンであり、かつ、2回目のインスリングラルギンの投与を更に含み、2回目の用量が朝の投与から8時間〜14時間後に投与される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
超速効型インスリンがインスリン及びジケトピペラジンを含む製剤を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項30】
超速効型インスリンがインスリン−FDKPを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項31】
超速効型インスリンが肺への吸入により投与される、請求項25に記載の方法。
【請求項32】
高血糖症が2型糖尿病の結果である、請求項25に記載の方法。
【請求項33】
超速効型インスリン及び外因性基礎インスリンとの組み合わせによる高血糖症の改善された治療方法であって、
該超速効型インスリンの食事時投与、及び
インスリンポンプによる短時間作用性インスリンの連続注入、を含む方法。
【請求項34】
短期間作用性インスリンが、通常のヒトインスリンまたは迅速作用性インスリン類似体である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
食事量に合わせてインスリン用量を調整することなく日常食に関する血糖を制御する方法であり、毎日の各食事に対し、食事時間に所定の用量の超速効型インスリン製剤を投与することを含む方法。
【請求項36】
食事量が、所定の用量を決定する際に用いられる通常の食事量の25%以上から200%以下である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
超速効型インスリン製剤がインスリン−FDKPである、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
遅延型あるいは長時間型栄養吸収の患者のための日常食に関する血糖制御の方法であって、
遅延型栄養吸収の患者を選択し、
日常食に対し、食事時間に所定の用量の超速効型インスリン製剤の50%〜75%を投与し、かつ、
所定の用量の残量を日常食開始から30〜120分後に投与すること、を含む方法。
【請求項39】
超速効型インスリン製剤がインスリン−FDKPである、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
遅延型栄養吸収が病状に関連する、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
遅延型栄養吸収が脂肪や繊維の含量が高い食事に関連する、請求項38に記載の方法。
【請求項42】
長時間型栄養吸収が長時間の食事と関連する、請求項38に記載の方法。
【請求項43】
摂取した食事の血糖負荷に合わせてインスリン用量を調整する日常食に関連する血糖を制御する方法であって、
日常食に対して、食事時間に最初の所定の用量の超速効型インスリン製剤を投与し、
日常食の開始から1〜2時間後に食後の血中グルコースを定量し、
食後血中グルコースが140mg/dlを超える場合、初回の用量の25%〜100%の用量である2回目の超速効型インスリン製剤を投与すること、を含む方法。
【請求項44】
超速効型インスリン製剤がインスリン−FDKPである、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
皮下インスリン抵抗性の糖尿病患者を治療する方法であって、
通常とは異なる高インスリン投与量に基づいて皮下インスリン抵抗性の患者を選択し、
皮下投与用の迅速作用性、短期作用性、または中間作用性のインスリン製剤を用いる治療を中止し、かつ、
食後低血糖症の制御に効果的な吸入によるインスリン−FDKPの食事時用量の投与による治療を開始すること、を含む方法。
【請求項46】
通常とは異なる高インスリン投与量が2単位/Kg/日以上である、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
選択工程が、患者が正常または正常に近い内因性基礎インスリンを有するという基準の選択を更に含む、請求項45に記載の方法。
【請求項48】
内因性基礎インスリンのレベルが50μU/ml以下である、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
選択工程が注射部位の皮下脂肪萎縮または脂肪異栄養症に基づく選択を更に含む、請求項45に記載の方法。
【請求項50】
選択工程が強化インスリン療法中の6〜9ヶ月の期間において、2回のHbA1cレベル測定が9%以上である患者という基準の選択を更に含む、請求項45に記載の方法。
【請求項51】
選択工程が、インスリン療法及び食事もしくは運動療法の順守にもかかわらず、高血糖症及び/又は低血糖症の期間によって特徴付けられる生命にかかわるほど血糖値が不安定な患者という基準の選択を更に含む、請求項45に記載の方法。
【請求項52】
相対的生体利用度に基づいた調節の後、実質的により少ないインスリン投与量によって、同程度あるいは改良された血糖制御が達成されているという判断により患者が皮下インスリン抵抗性を持っていることを確認する工程を更に含む、請求項45に記載の方法。
【請求項53】
日常食1回あたりの超速効型インスリンの個体の用量を決定する方法であって、
1週間以下の用量設定期間内の少なくとも3日間の1日毎に用量設定する日常食に対して、食事時間に低用量の超速効型インスリンを投与し、
各々の続く用量設定期間に低用量分によって反復的に用量を増量し、用量設定の終点に達するまで用量設定期間の少なくとも3日間の各々の日に用量設定する日常食に対し、食事時間に投与すること、を含む方法。
【請求項54】
低用量が1〜5皮下当量単位である、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
超速効型インスリン製剤がインスリン−FDKPを含む、請求項53に記載の方法。
【請求項56】
用量設定の終点が、以下の中から選択される請求項53に記載の方法:
1)到達した2時間後の食後平均グルコースが70mg/dlと110mg/dlの間である、
2)皮下当量単位に基づいた投与量が最大投与量である、
3)確認されたSMBGが36mg/dl未満である重症の低血糖症が発現し、投与量が1個の低用量カートリッジの同等物によって減少する、および
4)確認されたSMBGが70mg/dl未満である軽度から中度の低血糖症が発現し、投与量は1週間あたり1個の低用量カートリッジの同等物によって減り、次に、用量設定を再開し、該1)〜3)のいずれかの終点に到達するまで行うか、投与量を軽度から中度の低血糖症が再び現れるレベルよりも少ないレベルに設定する。
【請求項57】
2回以上の日常食に対する投与量が同時に用量設定される、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
2回以上の日常食に対する該投与量が食後2時間後の血中グルコースが最も高くなる日常食から、食後2時間後の血中グルコースが最も低くなる日常食まで連続的に用量設定される、請求項56に記載の方法。
【請求項59】
最大投与量が24皮下当量単位である、請求項56に記載の方法。
【請求項60】
最大投与量が32皮下当量単位である、請求項56に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図15】
【図16】
【図12】
【図13】
【図14】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図15】
【図16】
【図12】
【図13】
【図14】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【公表番号】特表2012−500201(P2012−500201A)
【公表日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−523105(P2011−523105)
【出願日】平成21年8月11日(2009.8.11)
【国際出願番号】PCT/US2009/053443
【国際公開番号】WO2010/021879
【国際公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(503208552)マンカインド コーポレイション (50)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月11日(2009.8.11)
【国際出願番号】PCT/US2009/053443
【国際公開番号】WO2010/021879
【国際公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(503208552)マンカインド コーポレイション (50)
【Fターム(参考)】
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