説明

超電導層の製造方法

【課題】臨界電流を向上できる超電導層の製造方法、この超電導層を具える超電導ケーブルを提供する。
【解決手段】超電導相を具える線材100を芯材にギャップ巻きして超電導層を形成する。線材100に曲げを与えて、その前後の超電導特性を測定し、特性が変化するときの曲げ半径rcrを求め、rcrを用いて、超電導相において引張歪みが加わる歪領域内の最大歪点での限界歪みεcrを求める。半径rfの芯材にスパイラルピッチPで線材100を巻回した際、歪領域内の任意点での引張歪みεtを求める。芯材に線材100を巻回した状態で半径Rの曲げを加えた際、引張歪みεt、角θ,θRに基づく値(X',Y',Z')を用いて、スパイラルピッチPの所定の範囲での引張歪みεfを求める。この範囲内の線材に対してθを固定してθRを微小変化させて、εf≦εcrとなる線材100の移動量を求め、この移動量からギャップを求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導線材を螺旋状に巻回して超電導層を形成する超電導層の製造方法、及びこの製造方法により形成された超電導層を具える超電導ケーブルに関するものである。特に、臨界電流の向上に寄与することができる超電導層の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、超電導導体や外部超電導層といった超電導層を有する1心又は複数心のケーブルコアと、これらのコアを収納する断熱管とを具える超電導ケーブルが実用されつつある。複数心のケーブルコアを具える多心ケーブルは、通常、コアを撚り合わせて断熱管に収納する。超電導層は、代表的には、超電導相を具える超電導線材を巻回して構成される。例えば、超電導導体は、フォーマといった芯材の外周に上記線材を螺旋状に巻回して構成される。超電導線材は、例えば、銀シース中にBi系酸化物超電導材料を含有するものや、金属基板上にY系酸化物超電導材料やHo,Yなどの希土類系酸化物超電導材料の薄膜を蒸着したものがある。
【0003】
超電導ケーブルやケーブルコアは、工場で製造される間や出荷される際、通常、ドラムに巻回される。ケーブルやコアをドラムに巻回したり、コアを撚り合せたりすることで超電導層に曲げによる歪みが加わる。特に、Bi系酸化物や希土類系酸化物などの酸化物超電導材料からなる超電導相に大きな引張歪みが加わると、臨界電流が急激に減少する。しかし、超電導層に曲げが加わった際に超電導線材がある程度移動可能であれば、この歪みを緩和することができる。そこで、従来、隣り合う超電導線材間にギャップ(隙間)を設けて線材を巻回し(ギャップ巻きし)、このギャップを曲げが加わった際の線材の移動代に利用して、歪みの緩和を図っている。このギャップは、経験則に基いて設定しており、線材幅wの10%程度(0.1×w)としている。例えば、ある大きさのフォーマに対して、10本の超電導線材を隙間無く巻回することが可能な場合、1本抜いて9本の線材を巻回することで、線材幅の10%程度のギャップを設けられる。なお、特許文献1には、超電導層の形成を容易にするために超電導線材間に隙間を設けることが開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平6-44834号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
超電導線材は、目的に応じて材質や構造(シース入り構造や薄膜構造など)、特性、幅や厚さといった大きさなどを変化させた種々のものが開発されてきている。そのため、上記経験則に基づくギャップでは、適切な大きさでないことがある。
【0006】
例えば、線材幅が小さくなると、ギャップも小さくなることから、線材の移動代が十分に確保できない恐れがある。逆に、線材幅が大きくなると、ギャップが大きくなることから、線材の使用量が少なくなり、臨界電流や臨界電流密度の低下を招く。
【0007】
ある超電導線材を用いて超電導ケーブルを作製する場合、ギャップが異なる複数のケーブルを作製し、作製した全ケーブルに曲げを与え、曲げを加える前後の線材の超電導特性の変化を調べることで、製造から出荷までに超電導線材が経験し得る曲げに対して、超電導特性が劣化しない最小のギャップを求めることができる。しかし、超電導線材の材質、構造、大きさなどが変わる度に作製や測定を行うことは、時間や費用が非常に掛かり、現実的でない。
【0008】
そこで、本発明の目的の一つは、ギャップの最適化を簡単に行えて、臨界電流の向上に寄与することができる超電導層の製造方法を提供することにある。また、本発明の別の目的は、臨界電流や臨界電流密度が高い超電導層を有する超電導ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明超電導層の製造方法は、以下の知見に基づくものである。超電導層を具えるケーブルコアや超電導ケーブルではなく、超電導線材自体に曲げを与え、曲げ付与前後の線材の超電導特性の変化、例えば臨界電流Icを測定し、電流が減少するなどの特性の変化を調べる。特性が変化したときの曲げ半径を求め、この曲げ半径で超電導線材を曲げたときに超電導相に加わる限界歪みεcrを求める。そして、超電導線材を芯線上に螺旋状に巻回した状態で半径Rの曲げを加えた際、超電導相の長手方向の引張歪みが最も大きくなる点での引張歪みεfが上記限界歪みεcr以下となるために必要な線材の移動量を求める。この移動量に基いてギャップを採ることで、超電導線材の大きさや材質、構造などが変化しても、上述のようにギャップが異なる複数のケーブルを実際に作製し、作製した全ケーブルに曲げを与えて超電導特性の変化を調べたりすることなく、線材の使用量(使用本数)を最適化することができる。従って、この超電導層は、曲げ半径Rの曲げが与えられても超電導特性が劣化することが無く、かつ高い臨界電流や臨界電流密度を有することができる。
【0010】
具体的には、本発明超電導層の製造方法は、超電導相を具える超電導線材を芯材の外周に螺旋状に巻回して超電導層を形成する方法であり、以下の工程を具える。
1. 超電導線材に曲げを与え、曲げを与える前後の線材の超電導特性を測定し、超電導特性が変化するときの曲げ半径を測定する工程。
2. 超電導線材を上記曲げ半径で曲げた際、超電導相において長手方向の引張歪みが加わる領域を歪領域、この歪領域において最大の引張歪みが加わる点を最大歪点とするとき、この最大歪点での限界歪みεcrを演算する工程。
3. 半径rfの芯材の外周にスパイラルピッチPで超電導線材を巻回したとき、上記歪領域内の任意点での引張歪みεtを演算する工程。
4. 上記半径rfの芯材に超電導線材を巻回した状態で半径Rの曲げを加えたとき、上記引張歪みεtと、以下の角θ及び角θRに基づく値とを用いて、スパイラルピッチPの所定の範囲において、上記歪領域内の任意点での引張歪みεfを演算する工程。
半径Rの曲げの中心をCR、芯材の中心をCf、両中心CR,Cfを結ぶ直線をLRf、芯材の中心Cfと上記歪領域内の任意点とを結ぶ直線をLとするとき、直線LRfと直線Lとがつくる角をθとする。θ=0となるときの芯材の中心をCf0、この中心Cf0と曲げの中心CRとを結ぶ直線をLRf0とするとき、直線LRf0と上記直線LRfとがつくる角をθRとする。
5. 上記範囲における線材の両端を固定した状態で、この範囲内の線材の位置を、θを固定してθRを微小変化させることで移動して、上記範囲の全域で上記引張歪みεfが上記限界歪みεcr以下となる線材の配置を求め、得られた配置において線材が最も移動したときの線材の移動量から隣り合う線材間のギャップを演算する工程。
6. 上記ギャップを有するように超電導線材を芯材に巻回して超電導層を形成する工程
【0011】
本発明製造方法は、超電導線材に曲げを与えて超電導相の限界歪みを測定し、上記線材を芯材に巻回して形成した超電導層を半径Rで曲げた際、芯材の半径rf、スパイラルピッチP、曲げ半径R、及び線材の形状(厚さT)をパラメータとして超電導相の引張歪みが限界歪み以下となる最小ギャップを設定する。このように本発明製造方法は、線材レベルでの曲げ試験を行うことで、超電導層を構成する超電導線材の最小ギャップを簡単に設定できる。また、本発明製造方法は、少なくともこのギャップを有するように超電導層を製造することで、超電導層に加わる歪みを緩和することができると共に、超電導層の臨界電流や臨界電流密度の向上を図ることができる。そのため、本発明製造方法は、実際に超電導層を有するケーブルコアやケーブルを作製し、このコアやケーブルに曲げの付与や超電導特性の測定などを行ってギャップを設定する場合と比較して、超電導特性に優れる超電導層を簡単に製造することができる。
【0012】
特に、本発明製造方法は、超電導線材全体ではなく、超電導相の特定の領域、具体的には、長手方向に引張歪みが加わる歪領域のみを対象としてギャップを設定することで、より的確なギャップの最適化を図ることができる。
【0013】
超電導線材を曲げると、超電導相において曲げの外側には、引張歪みが加わり、曲げの内側には、圧縮歪みが加わる。歪みεは、曲げ半径をr、線材の厚さをTとするとき、一般にε=2T/(2r+T)で表わされ、圧縮歪みをも含んだ状態としている。しかし、超電導相を構成する酸化物超電導材料といった超電導材料は、一般に、圧縮歪みに強い。そこで、本発明製造方法では、圧縮歪みを加味せず、専ら引張歪みを考慮して、上述のように長手方向に引張歪みが加わる歪領域を対象として、ギャップの最適化を図る。具体的な設定手順は、後述する。
【0014】
本発明製造方法において超電導層の製造に利用する超電導線材は、超電導相、代表的には酸化物超電導材料からなるものを具える。例えば、Ag-Mnといった銀シース中にBi2223といったBi系酸化物超電導材料からなるフィラメントが内包されたテープ線材や、YBCOやHoBCOといった希土類酸化物超電導材料からなる薄膜をNi合金などの金属基板に蒸着してなるテープ線材が挙げられる。その他、公知の超電導線材を利用してもよい。この超電導線材をフォーマといった芯材の外周に螺旋状に巻回して超電導層を製造する。特に、本発明製造方法では、超電導線材に曲げを与え、その結果を利用して、線材間のギャップを設定し、線材間にこのギャップを有するように線材をギャップ巻きして、超電導層を製造する。
【0015】
本発明製造方法は、超電導線材の限界歪みを求めるにあたり、線材に曲げを与え、曲げ付与前後の線材の超電導特性を測定し、この特性の変化を調べる。測定する超電導特性は、例えば、臨界電流Icやn値(臨界電流Icが決定される領域近傍でlogVとlogIとをプロットした勾配、V:試料電圧、I:試料電流)が挙げられる。また、特性の変化は、例えば、臨界電流の維持率(曲げを与えた後の臨界電流Ic/曲げを与える前の臨界電流Ic0)の減少度合いを調べることが挙げられる。例えば、ある曲げ半径rnにおいて、臨界電流の維持率が所定の閾値以上である場合、この曲げ半径よりも更に小さい曲げ半径rn+1で臨界電流を測定し、維持率が閾値未満となったら測定を止め、このとき曲げ半径rn+xの一つ前の曲げ半径rn+x-1を超電導特性が変化するときの曲げ半径とする。閾値は予め設定する。
【0016】
本発明製造方法に基づき形成された超電導層は、超電導線材の使用量が最適化されており、経験則で設定されたギャップを有する超電導層と比較して、臨界電流や臨界電流密度を向上することができる。従って、本発明製造方法により製造された超電導層を具える本発明超電導ケーブルは、臨界電流や臨界電流密度が高い。
【発明の効果】
【0017】
本発明超電導層の製造方法は、最適なギャップを簡単に設定することができ、得られたギャップに基いて超電導線材の使用量を調整することで、臨界電流や臨界電流密度が高い超電導層を形成することができる。また、本発明超電導ケーブルは、臨界電流密度が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
超電導線材を芯材に螺旋状に巻回して超電導層を作製するに当たり、以下の手順により、ギャップを設定した。
【0019】
[超電導線材の仕様]
図1(I)は、超電導線材の断面模式図、(II)は、超電導線材をxy座標に描いた状態を示す説明図である。使用した超電導線材100は、銀シース(金属シース)101中にBi系酸化物超電導材料からなる超電導相102が内包されたテープ線材である。超電導相102は、複数のフィラメントからなり、これら複数のフィラメントが集まって、楕円状の外形をつくり、銀シース101中に配される。この超電導線材100の仕様は、幅w=2.02mm、厚さT=0.12mm、超電導相102の短径a=0.037mm、長径b=0.946mmである。
【0020】
[超電導線材に曲げ試験を行う]
超電導線材100を曲げ半径rで曲げると、超電導相102には、線材の長手方向に引張歪みと圧縮歪みとが加わる。具体的には、超電導相102の中心Csがxy平面の原点、長径方向がx軸方向、短径方向がy軸方向となるように、超電導相をxy平面に描き、曲げの中心をy軸上のy<0(図1(II)において下方側)の点とするとき、超電導相102においてy>0の領域は、概ね引張歪みが加わり、y<0の領域は、概ね圧縮歪みが加わる。ここでは、引張歪みが加わるy>0の領域(歪領域と呼ぶ)における歪みを考える。y軸上の任意の点A(0,L)(但し、0<L≦a)における引張歪みεは、曲げ半径をrとするとき、ε=2L/(2r+T)と表わされる。歪領域において引張歪みεが最大となるのは、点Amax(0,a)、即ち、L=aのときであり、このときの引張歪みεaは、εa=2a/(2r+T)と表わされる。
【0021】
この超電導線材100に曲げ半径rの曲げを与え、曲げを与える前後の線材100の超電導特性を測定し、特性が変化するときの曲げ半径(この曲げ半径を最小許容曲げ半径と呼ぶ)rcrを求める。具体的には、以下のようにして最小許容曲げ半径rcrを求める。まず、超電導線材を切り出して作製した試験片を液体窒素に含浸して超電導状態にし、初期の状態の試験片(曲げを与える前の試験片)の臨界電流Ic0を測定する。なお、線材に1μV/cmの電界が発生するときの通電電流を臨界電流とする。次に、種々の半径の治具により試験片に曲げを加え、この曲げた状態で液体窒素に含浸して試験片を超電導状態にし、各半径における臨界電流(曲げを与えた後の試験片の臨界電流)Icを測定する。なお、曲げは、AEIC規格で定義された最小ドラム径に準じた曲げ径で行い、臨界電流Icの測定は、四端子法で行う。そして、曲げを与える前後の臨界電流の比である臨界電流の維持率Ic/Ic0を求める。図2は、超電導線材に曲げを与えたときの曲げ半径(治具の半径)と、臨界電流の維持率との関係を示すグラフである。図2に示すグラフから、この超電導線材は、曲げ半径が20mm以下のとき、臨界電流の維持率が急激に減少していることが分かる。ここでは、維持率の閾値を0.95とし、上記結果から、最小許容曲げ半径rcrは、rcr=20(mm)とする。
【0022】
最小許容曲げ半径rcr=20のとき、最大歪点Amax(0,a)に加わる引張歪みεaが超電導相の限界歪みεcrであり、限界歪みεcrは、εa=2a/(2r+T)に代入して、εcr≒0.18(%)となる。超電導線材の幅、厚さ、材質、構造などが変化しても、同様にして限界歪みεcrを求めることができる。
【0023】
[芯材に超電導線材を螺旋状に巻回した状態で、歪領域内の点A(0,L)に加わる引張歪みεtを求める]
上記超電導線材を半径rfの芯材の外周にスパイラルピッチPで巻回して超電導層を形成したとき、点A(0,L)に加わる引張歪みεtは、以下のように表わされる。
【0024】
【数1】

【0025】
[形成した超電導層に半径Rの曲げを加えたとき、スパイラルピッチPの所定の範囲における線材の引張歪みεfを求める]
図3は、半径rfの芯材の外周にスパイラルピッチPで超電導線材を巻回した状態で、半径Rの曲げを加えた状態を模式的に示す説明図である。図3の超電導線材100は、1/2ピッチ分のみ示す。半径rfの芯材の外周にスパイラルピッチPで超電導線材を巻回した状態で半径Rの曲げを加えたとき、点Aをx'y'z’座標で取り直して点A'とし、この点A'の座標を(X',Y',Z')とする。x'y'z’座標は、半径Rの曲げの中心をCRとするとき、この中心CRを原点とし、芯材の横断面(軸方向に直交する方向に切断したときの断面)における中心(Cf,Cf0)がx'y'平面上に存在するようにとる。そして、曲げの中心CRと芯材の中心Cfとを結ぶ直線をLRf、点A'と芯材の中心Cfとを結ぶ直線をL、直線LRfと直線Lとがつくる角をθとする(但し、0≦θ<π)。
【0026】
更に、θ=0となるときの芯材の中心をCf0、この中心Cf0と曲げの中心CRとを結ぶ直線をLRf0とするとき、直線LRf0と上記直線LRfとがつくる角をθRとする。このθRは、R'=R+T+rfとするとき、θR=Pθ/(2πR')と表わされる。
【0027】
r'=rf+(T/2)+Lとするとき、点A'の座標(X',Y',Z')は、以下のように表わされる。
X'=(R'+r'cosθ)sinθR
Y'=(R'+r'sinθ)cosθR
Z'=r'sinθ
【0028】
スパイラルピッチPの全域(0≦θ<2π)について歪みを考えてもよいが、例えば、0≦θ<πのときの歪みと、π≦θ<2πのときの歪みとは、同様に考えることができる。そこで、本発明製造方法は、スパイラルピッチPの所定の範囲における歪みを考える。ここでは、0≦θ<πのときの歪み、即ち、1/2ピッチの歪みについて考える(所定の範囲を1/2ピッチとする)。この1/2ピッチの範囲(点B'〜点C')を更に有限の複数の区間に区切り、各区間における超電導線材の長さを積分して求め、得られた線材の長さと半径Rで曲げる前の線材の長さとの比を用いることで、有限区間における引張歪みが求められる。例えば、1/2ピッチの範囲をn分割した場合のある有限区間:{(p-1)π/n}〜{pπ/n}における引張歪みεfは、点A(0,L)に加わる引張歪みεtと、角θ及び角θRに基づく値、即ち、上記X',Y',Z'とを用いて以下のように表わされる。
【0029】
【数2】

【0030】
θ=0、L=aのとき、歪領域における引張歪みは最も大きくなる。このときの歪みは、半径Rが1.5m程度であっても、0.5%と非常に大きな値となる。しかし、超電導線材間にギャップを設け、線材を所定の範囲で移動可能にすることで、歪みを小さくし、上記のような大きな歪みが超電導相に加わることを抑制できると考えられる。そこで、上記点A'を微小移動し、引張歪みεfが限界歪みεcr以下となるための超電導線材の移動量を、座標を用いて求める。そして、この移動量から必要なギャップを求める。
【0031】
[ギャップの演算]
仮に、超電導線材がギャップ巻きされている場合に線材に曲げを加えても、ギャップの範囲で線材が移動可能であるならば、ある角度θ上にある線材の任意の点は、その角度を保ちながら、芯材の長手方向に移動する。そこで、上記線材の任意点を、1/2ピッチの範囲の両端(点B',C')を固定した状態でθを固定しθRを微小変化させて移動させる。この線材の移動により、n分割した全区間における引張歪みεfが限界歪みεcr以下となるような線材の配置を求める。なお、ギャップに余裕分があっても、限界歪みεcrより小さくなるような超電導線材の移動は行われないとする。
【0032】
点A'を微小移動させた後の点をA''し、点A',A''間の距離lを求める。そして、得られた配置において最も線材が移動したときの距離lmaxを求める。この二点間の距離lは、超電導線材の軸方向における移動距離となる。ギャップgは、周方向の距離であるから、lmax:g=P:2πrfにより求めることができる。
【0033】
上記仕様の超電導線材(幅w=2.02mm)において、限界歪みεcr=0.18%以下に抑えるために必要なギャップの計算結果を以下に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
表1から、幅w=2.02mmの超電導線材をギャップ巻きするに当たり、曲げ半径Rが500mmと小さい場合でも、ギャップは0.12mm、つまり線材幅の約6%でよいことが分かる。また、表1から、曲げ半径Rが1500mmと大きい場合、ギャップは0.03mmでよく、線材幅の約1.5%でよいことが分かる。上述の手順によりギャップを設定することで、従来の経験則に基づく設定よりも、ギャップを小さくすることができ、超電導層の製造に当たり、超電導線材の使用量を増大できる。従って、本発明製造方法は、臨界電流密度が高い超電導層が得られる。
【0036】
比較として、同じ仕様の超電導線材を用いて、スパイラルピッチ:210mm、ギャップ:0.1mm(線材の幅の約5%)でギャップ巻きをした超電導層を製造し、曲げ半径Rの最大値を測定した。その結果、最大の曲げ半径は、600mmであり、上記計算結果と相関関係があることが裏付けられた。
【0037】
なお、上記実施形態では、線材の曲げ半径と臨界電流との相関関係をグラフ化し、このグラフに基づき、作業者が最小許容曲げ半径を決定した。この最小許容曲げ半径の決定は、記憶手段、演算手段、比較手段、判定手段などを具えるコンピュータを用いて行ってもよい。例えば、以下のようにコンピュータの各手段を動作させる。予め設定した閾値を閾値記憶手段に、曲げ試験により得られたデータ(曲げ半径及び曲げの前後における臨界電流値)をデータ記憶手段に入力する。演算手段は、データ記憶手段から呼び出したデータを用いて、超電導特性の変化量、具体的には臨界電流値の比(維持率)を演算し、比較手段は、閾値記憶手段から呼び出した閾値と演算手段が演算した維持率とを比較し、判定手段は、その大小関係に基いて最小許容曲げ半径を判定する。
【0038】
また、最小許容曲げ半径を用いて、超電導線材の移動量を演算するには、以下の記憶手段、演算手段、比較手段などを具えるコンピュータを用いることが好ましい。例えば、以下のようにコンピュータの各手段を動作させる。
【0039】
線材の曲げ試験により、得られた最小許容曲げ半径を許容半径記憶手段に入力する。限界歪み演算手段は、許容半径記憶手段から呼び出した最小許容曲げ半径を用いて、超電導相において長手方向の引張歪みが加わる歪領域内の最大歪点での限界歪みεcrを演算する。限界歪み記憶手段は、この演算結果を記憶する。
【0040】
歪みデータ記憶手段に芯材の半径rf、スパイラルピッチP、線材の厚さTを入力する。歪み演算手段は、歪みデータ記憶手段から呼び出したデータを利用して、半径rfの芯材にスパイラルピッチPで超電導線材を巻回したとき、歪領域内の任意の点A(0,L)(但し0≦L<a)の引張歪みεtを演算する。歪み記憶手段は、この演算結果を記憶する。
【0041】
座標データ記憶手段に、芯材の半径rf、スパイラルピッチP、線材の厚さT及び曲げ半径Rを入力する。座標演算手段は、1/2スパイラルピッチ区間をn分割した境界上の(n+1)点の座標(X',Y',Z')を演算し、座標記憶手段は、この演算結果を記憶する。区間歪み演算手段は、歪み記憶手段から呼び出した歪みεtと、座標記憶手段から呼び出した(X',Y',Z')とを用いて、1/2スパイラルピッチ区間内の(n+1)点について、歪領域内の引張歪みεfを演算する。区間歪み記憶手段は、この演算結果を記憶する。
【0042】
移動量演算手段は、限界歪み記憶手段から限界歪みεcrを、区間歪み記憶手段から引張歪みεfを呼び出し、ある小区間:{(p-1)π/n}〜{pπ/n}における引張歪みεfが臨界歪みεcrより大きい場合、θ=pπ/nの点をθRのみ微小変化させることにより、εf=εcrとなるように移動させた時の移動量を求める。ギャップ演算手段は、得られた移動量を用いて、隣り合う線材間のギャップを演算する。具体的には、距離lを用いてl:g=P:2πrfによりギャップgを演算する。
【0043】
コンピュータの各演算手段のそれぞれに、上記演算手順を予め入力しておくことで、各記憶手段に適宜データを入力すれば、簡単にギャップを設定することができる。このように超電導線材の曲げ試験と、コンピュータによる演算だけで簡単にギャップの最適化を行える。
【0044】
[超電導ケーブルの作製]
上述のようにして、ギャップが求められたら、そのギャップを満たすように芯材に超電導線材をギャップ巻きすることで、超電導層を形成できる。この超電導層は、超電導ケーブルの超電導導体に好適に利用することができる。超電導ケーブルは、断熱管内に単心又は複数心のケーブルコアを収納することで製造する。ケーブルコアは、中心から順にフォーマ、超電導導体、電気絶縁層を具える構成が挙げられる。電気絶縁層の内側に内部半導電層、外側に外部半導電層を具える構成としてもよい。
【0045】
超電導導体は、上記芯材をフォーマとして作製する。フォーマは、例えば、銅撚り線により構成する。超電導導体を多層構造とする場合、層ごとにギャップを設定し直してもよい。このとき、芯材の径は、フォーマ径+(超電導線材の厚さ×層数)とする。層間には、クラフト紙といった絶縁材を巻回して層間絶縁層を設けてもよい。
【0046】
電気絶縁層は、PPLP(登録商標)といった半合成絶縁紙やクラフト紙といった絶縁紙を巻回して構成する。この電気絶縁層の外周に超電導線材を巻回して外部超電導層を具えるケーブルコアとしてもよい。外部超電導層は、フォーマ、超電導導体、電気絶縁層、更に半導電層がある場合は半導電層の組合物を芯材として作製する。外部超電導層の外周に銅テープやクラフト紙を巻回して保護層を設けてもよい。
【0047】
ケーブルコアを複数心具える多心ケーブルにおいてコアを撚り合わせる場合、撚り合せにより超電導相に曲げが加わることから、半径Rは、ドラム径に加えて、撚り合せの際の曲げ径を加味した値とすることが好ましい。
【0048】
断熱管は、例えば、SUSコルゲート管からなり、ケーブルコアを収納すると共に、コアを冷却する冷媒が充填される内管と、内管の外周に配置され、内部が真空引きされる外管とを具える二重構造が挙げられる。内管と外管との間には、スーパーインシュレーションといった断熱材を配置させてもよい。冷媒は、液体窒素が代表的であり、その他、液体水素、液体ヘリウム、水素ガス、ヘリウムガスなどを利用できる。断熱管の外周には、例えば、ポリ塩化ビニルからなる防食層を設けてもよい。
【0049】
上記断熱管に、ケーブルコアを収納して超電導ケーブルが得られる。この超電導ケーブルは、表1に示す半径Rのドラムに巻き付けて、保管や輸送を行う。この超電導ケーブルの超電導層は、適切なギャップを有することで、ドラムに巻き付けた際の曲げやケーブルコアを撚り合せた際の曲げによる歪みを緩和することができ、臨界電流や臨界電流密度が極端に低下することがない。
【0050】
上述した実施形態は、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能であり、上述した構成に限定されるものではない。例えば、超電導線材として、金属基板上に希土類酸化物超電導材料の薄膜からなる超電導相を具えるテープ線材を利用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明超電導層の製造方法は、超電導層の製造に好適に利用することができる。また、本発明超電導ケーブルは、交流送電用又は直流送電用の電力供給路に好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】(I)は、超電導線材の断面模式図、(II)は、超電導線材をxy座標に描いた状態を示す説明図である。
【図2】超電導線材に曲げを与えたときの曲げ半径と、臨界電流の維持率との関係を示すグラフである。
【図3】芯材の外周に螺旋状に超電導線材を巻回した状態で、半径Rの曲げを加えた状態を模式的に示す説明図である。
【符号の説明】
【0053】
100 超電導線材 101 金属シース 102 超電導相

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導相を具える超電導線材を芯材の外周に螺旋状に巻回して超電導層を形成する超電導層の製造方法であって、
超電導線材に曲げを与え、曲げを与える前後の線材の超電導特性を測定し、超電導特性が変化するときの曲げ半径を測定する工程と、
超電導線材を前記曲げ半径で曲げた際、超電導相において長手方向の引張歪みが加わる領域を歪領域、この歪領域において最大の引張歪みが加わる点を最大歪点とするとき、前記最大歪点での限界歪みεcrを演算する工程と、
半径rfの芯材の外周にスパイラルピッチPで超電導線材を巻回したとき、前記歪領域内の任意点での引張歪みεtを演算する工程と、
前記半径rfの芯材に超電導線材を巻回した状態で半径Rの曲げを加えたとき、この曲げの中心CRと芯材の中心Cfとを結ぶ直線LRfと、芯材の中心Cfと前記歪領域内の任意点とを結ぶ直線Lとがつくる角をθとし、θ=0となるときの芯材の中心Cf0と曲げの中心CRとを結ぶ直線LRf0と前記直線LRfとがつくる角をθRとするとき、前記引張歪みεtと、角θ及び角θRに基づく値とを用いて、スパイラルピッチPの所定の範囲において、前記歪領域内の任意点での引張歪みεfを演算する工程と、
前記範囲における線材の両端を固定した状態で、この範囲内の線材の位置を、θを固定してθRを微小変化させることで移動して、上記範囲の全域で前記引張歪みεfが前記限界歪みεcr以下となる線材の配置を求め、得られた配置において最も線材が移動したときの線材の移動量から隣り合う線材間のギャップを演算する工程と、
前記ギャップを有するように超電導線材を芯材に巻回して超電導層を形成する工程とを具えることを特徴とする超電導層の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法により形成された超電導層を具えることを特徴とする超電導ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−234942(P2008−234942A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−71552(P2007−71552)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】