説明

超電導磁気軸受装置

【課題】 超電導磁気軸受装置のロータの大型化を図り、単位面積あたりの負担荷重を減らすことで、冷却温度の向上を図り得る超電導磁気軸受装置を提供する。
【解決手段】 超電導磁気軸受装置において、ステータとしての超電導磁石3に対応したロータを、超電導線を巻回した大口径で閉ループの超電導コイル4で構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導磁気軸受装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本願発明者らは、フライホイールの高効率化を向上させる目的で、超電導磁気軸受を適用した電力貯蔵用フライホイール蓄電装置を提案している(下記特許文献1参照)。
超電導バルク体と超電導磁石(コイル)で構成された超電導磁気軸受には、高荷重容量のメリットがある。超電導コイルを使うメリットの一つに、空芯コイルで均一かつ大きな磁界を発生できるという点がある。この大空間にバルク体を挿入して、高磁界を印加することで、コイルとバルク体との間に働く電磁力を大きくすることができる。
【0003】
図6はかかる従来のロータが超電導バルク体である超電導磁気軸受装置の模式図、図7はそのロータが超電導バルク体である超電導磁気軸受装置の超電導バルク体(ロータ)と超電導コイル(ステータ)の構成図であり、図7(a)は超電導バルク体(ロータ)と超電導コイル(ステータ)の上面模式図、図7(b)は図7(a)のB−B線断面図である。
【0004】
これらの図において、101は冷凍機、102は冷却容器(クライオスタット)、103は超電導コイル(ステータ)、104は超電導バルク体(ロータ)、105は超電導バルク体の断熱保冷容器、106は冷却容器102のコイル中央部分に設けられた室温空間であり、超電導バルク体(ロータ)104の外径d11は140mm、超電導コイル(ステータ)103の外径d12は450mm、内径d13は250mm、厚みd14は170mm、超電導コイル(ステータ)の厚みd14の中心線から超電導バルク体(ロータ)104の厚みの中心線までの距離d15は100mmである。なお、超電導バルク体104の直径が140mmの場合、約3tの浮上力を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−228535号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】森田 充,手嶋 英一,平野 芳生,「酸化物超電導材料の進展−超電導バルク材料(QMG)とそのマグネット応用−」,新日鉄技報第383号(2005),pp.16−20
【非特許文献2】新日鉄製鐵株式会社:高温超電導バルク材−QMG−(商標)−,パンプレット,2010年度低温工学・超電導学会講演概要集
【非特許文献3】清野 寛,長嶋 賢,「20kN対応超電導磁気軸受の開発」,2009年度春季低温工学・超電導学会講演概要集,pp.47
【非特許文献4】清野 寛,長嶋 賢,田中 芳親,中内 正彦,「フライホイール用高温超電導バルク体磁気軸受の基礎検討」,RTRI REPORT Vol.22,No.11,Nov.2008,pp.35−40
【非特許文献5】清野 寛,長谷川 均,池田 雅史,長嶋 賢,村上 雅人,「超電導磁気軸受と永久磁石磁気クラッチの電磁力解析と評価」,RTRI REPORT Vol.24,No.1,Jan.2010,pp.29−34
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、サイズが大きく均質な超電導バルク体を製作するのは容易ではない。85mmの大型バルク体の製作が報告されており(上記非特許文献1参照)、2010年度より150mm規模の製作が行われるという情報(上記非特許文献2参照)もあるが、これらのサイズはそれぞれ焼結時最大サイズであり、実際の加工品サイズでは80mm、140mm程度になる。
【0008】
バルク体のサイズの限界により、大口径の空芯コイルである超電導コイルを使うことに対して制約が生じている。
また、高温超電導材料は冷却温度を下げることで臨界電流密度が向上するというメリットがあるが、現在のバルク体サイズで安定した超電導特性を得ようとすると、液体窒素より低い冷却温度が必要となる。
【0009】
図8,図9にロータに超電導バルク体を配置し、ステータに超電導コイルを配置した超電導磁気軸受の静荷重試験結果を示す。直径80mm,厚さ20mmの超電導バルク体4個と、2個のコイルで組み立てられるカスプ磁場を発生する超電導磁石を組み合わせた軸受である。これは、、非特許文献3で報告されている軸受の試験結果である。超電導バルク体の配置位置、配置位置における空間磁気密度はこの報告の通りである。
【0010】
図8は液体窒素冷却(77K)および減圧により温度降下させた液体窒素冷却(65K)の静荷重試験結果と電磁力解析結果を比較したもので、図9は77K冷却および65K冷却時の励消磁における発生電磁力ヒステリシス測定値である。77K冷却では超電導コイル出力64%で、65K冷却では同出力57%で19.6kNの浮上力が発生している。65K冷却はバルク体完全反磁性での電磁力計算とほぼ一致しているが、77K冷却ではコイル出力40%程度から徐々に計算値より下方に推移している。これは磁束侵入によるものと考えられる。図9の励消磁ヒステリシスをみると、77K冷却では励消磁の同一コイル出力に対する荷重差が大きいのに対し、65K冷却ではほとんどない。この試験では1時間ほど20kNを保持しているが、77Kの場合はこの間の荷重の低下が2kNほどある。この励消磁曲線で囲われた面積が磁束侵入の度合いを表す指標となる。従って、65K冷却では若干の磁束侵入はあるものの発生電力(浮上力)としてはほぼ完全反磁性の状態が保持できている。よって、現在のバルク体サイズでは液体窒素より低い冷却温度、例えば65Kが必要となる。冷却温度を下げるフライホイール装置も提案されているが、冷却温度を下げることは、冷却に要するエネルギーが大きくなることを意味しており、装置としては課題が残されている。
【0011】
本発明は、上記状況に鑑みて、超電導磁気軸受装置のロータの大型化を図り、単位面積あたりの負担荷重を減らすことで、冷却温度の向上を図り得る超電導磁気軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕超電導磁気軸受装置において、ステータとしての超電導磁石に対応したロータを、超電導線を巻回した大口径の閉ループの超電導コイルで構成することを特徴とする。
〔2〕上記〔1〕記載の超電導磁気軸受装置において、前記超電導コイルは閉ループをなす複数個のコイルを軸(z)方向と径(r)方向に組み合わせてなることを特徴とする。
【0013】
〔3〕上記〔1〕記載の超電導磁気軸受装置において、前記大口径の閉ループの超電導コイルの外径が200mm〜300mm、内径が100mm〜150mmであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、次のような効果を奏することができる。
(1)超電導バルク体と超電導磁石(コイル)で構成された超電導磁気軸受装置のバルク体側を大口径の閉ループコイルで構成することで、ロータ側超電導体の大型化を図ることができる。
(2)ロータ側超電導体を複数個の閉ループコイルの組み合わせで製作することで、外乱に対する安定性を確保することができる。
【0015】
(3)ロータの大型化を図ることで、液体窒素レベルの冷却温度でも十分な電磁力を発生させることが可能であり、冷却のためのエネルギー損失を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の超電導閉ループコイルロータを有する超電導磁気軸受装置の全体模式図である。
【図2】本発明の第1実施例を示す超電導磁気軸受装置の超電導閉ループコイルロータと超電導コイル(ステータ)の構成図である。
【図3】本発明に係る超電導磁気軸受での支持荷重を5kN,10kN,15kNと設定し、1000rpmで40分連続運転した時の支持荷重の低下量をプロットした結果を示す図である。
【図4】本発明の第2実施例を示すロータとしての大口径の閉ループの超電導コイルを示す断面図である。
【図5】本発明の第2実施例を示すロータとしての大口径の閉ループの超電導磁気軸受の具体例を示す図である。
【図6】従来のロータが超電導バルク体である超電導磁気軸受装置の模式図である。
【図7】従来のロータが超電導バルク体である超電導磁気軸受装置の超電導バルク体(ロータ)と超電導コイル(ステータ)の構成図である。
【図8】液体窒素冷却(77K)および減圧により温度降下させた液体窒素冷却(65K)の静荷重試験結果と電磁力解析結果を比較した図である。
【図9】77K冷却および65K冷却時の励消磁における発生電磁力ヒステリシス測定値を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の超電導磁気軸受装置は、ステータとしての超電導磁石に対応したロータを超電導線を、巻回した大口径の閉ループの超電導コイルで構成する。
【実施例】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は本発明の超電導閉ループコイルロータを有する超電導磁気軸受装置の全体模式図、図2は本発明の第1実施例を示す超電導磁気軸受装置の大口径の閉ループの超電導コイル(ロータ)と超電導コイル(ステータ)の構成図であり、図2(a)は大口径の閉ループの超電導コイル(ロータ)と超電導コイル(ステータ)の上面模式図、図2(b)は図2(a)のA−A線断面図である。
【0019】
これらの図において、1は冷凍機、2は冷却容器(クライオスタット)、3は超電導コイル(ステータ)、4はロータとしての超電導線を巻回した大口径の閉ループの超電導コイル、5は回転デュワー(断熱保冷容器)、6は冷却容器2のコイル中央部分に設けられた室温空間である。例えば、この大口径の閉ループの超電導コイル4は、外径d1 が250mm、内径d2 が132mmである。なお、超電導コイル(ステータ)の外径d3 は560mm、内径d4 は360mm、厚みd5 は170mm、超電導コイル(ステータ)の厚みd5 の中心線から大口径の閉ループの超電導コイル4の厚みの中心線までの距離d6 は120mmである。超電導線の線材としては、ビスマス系またはイットリウム系線材を用いることができる。
【0020】
なお、本発明における前記大口径の閉ループの超電導コイルの外径は200mm〜300mm、内径は100mm〜150mmとすることができる。
本発明によれば、従来例として示した図6との対比からも明らかなように、超電導磁気軸受装置のロータの大型化が可能である。
このロータのサイズは、従来技術である超電導バルク体ロータを基準に選定した。従来技術では直径140mm、厚さ40mmである。これに対して、本発明では外径を250mm、内径を132mmとし、厚さを35mmとした。この形状とすることで、バルク体のおよそ2倍の体積となる。図2(a),(b)に示す本発明の形状、配置で電磁力計算をした結果、発生浮上力(電磁力)は5500Nとなる。これに対して図7(a),(b)に示す従来の超電導バルク体を適用したものの計算結果は、3300Nの発生浮上力となり、本発明おいては、従来技術の約1.7の浮上力が発生することになる。電磁力の計算は、ELF/MAGICを用いて行った。手法の一例は、上記した非特許文献5と同様であり、この計算手法においては、実験結果と比較した際に、両者が良く一致していることが確認できている。よって、磁界中に配置された超電導体の反磁性効果による発生電磁力がほぼ正確に把握できる。本発明の閉ループコイルについて、超電導巻線の反磁性効果を適用していることから、形状を定義した超電導体の完全反磁性モデルで十分評価できる。
【0021】
閉ループコイルで形状を大型化することは、浮上力の単純な増加につながることはもちろん、この浮上力増加分は支持能力の安定化にも役に立つ。
図3に本発明に係る超電導磁気軸受での支持荷重を5kN,10kN,15kNと設定し、1000rpmで40分連続運転した時の支持荷重の低下量をプロットした結果を示す。予荷重の有無、外部磁界の強さをパラメータとして実施した。予荷重は10%荷重を付加して10分間保持した後、徐荷した。外部磁界については、浮上力を発生する前にバルク体を磁場中で冷却し、冷却後に追加で外部磁場を印加させることで、条件設定した。試験結果より、磁界が強くなるほど、また負担荷重が大きくなるほど回転時の荷重降下量が大きくなることが確認できた(図4)。このことから、同じサイズのバルク体であっても、負担荷重を減ずることで、回転体支持時の安定性が向上することがわかる。つまり、同じ負担荷重であれば、バルク体を大きくして、単位体積もしくは面積あたりの負担荷重を減じることで電磁支持力の安定性が向上する。従って、冷却温度を下げなくとも安定化させることができる。
【0022】
ロータの大型化を図ることで、液体窒素レベルの冷却温度でも十分な電磁力を発生させることが可能であり、冷却のためのエネルギー損失を低減させることができる。
図4は本発明の第2実施例を示すロータとしての大口径の閉ループの超電導コイルを示す断面図、図5はその大口径の閉ループの超電導磁気軸受の具体例を示す図である。ここでは、ロータの軸方向(垂直方向)をz軸とし、ロータの径方向(水平方向)をr軸としている。
【0023】
より具体的には、閉ループコイルはビスマスまたはイットリウム系線材を用いるが、実施例では、ビスマス線材を適用した。線材はテープ形状で、幅5mm、真空樹脂含浸処理も考慮して一巻きの厚さは0.41mmである。コイルはこのテープ線材をパンケーキ巻で製作し、巻きはじめと巻終わりを接続して閉ループコイルを成す。
ロータとしての超電導線を巻回した大口径の閉ループの超電導コイル10は、一般的にはその超電導コイルの外径が200mm〜300mm、内径が100mm〜150mmである。より具体的には、軸(z)方向に7層パンケーキを積層する。また、径(r)方向は1層であり、同心円状に内周から11〜17の7個の閉ループコイルを配置して構成する。再内周コイル(11)のみ、巻数が24で巻厚d7 が9.8mmとし、その他の6巻(12,13,14,15,16)は、巻数20で巻厚d8 が8.2mmである。これら7個の閉ループコイル(11〜17)を1層分円周状に重ね合わせて組み立てると、内径132mm、外径250mm、厚さd9 が5mmのパンケーキ1層(a)ができる。これを7層(a〜g)積み重ねることで、積層されたパンケーキ厚さは35mmとなる。なお、各巻線の径(r)方向線間、コイル単位間、パンケーキ層間は絶縁されている。
【0024】
このように、閉ループを軸(z)方向と径(r)方向に複数組み合わせることにより、支持容量の向上が可能であり、外乱に対する安定性を確保することができる。
また、本発明によれば、シングルコイルではなく、大口径の閉ループを複数組み合わせるようにしたので、超電導コイルの一部断線があっても出力を維持することができ、信頼性の向上に寄与することができる。
【0025】
なお、閉ループの作り方については、パンケーキを2枚重ねたダブルパンケーキ巻きにすると、巻き始めき巻き終わりが同一半径内に配置可能であるので、そのような方法を取ることもできる。この場合、コイル積層数は偶数になる。
また、本発明によれば、従来のバルク体の作製サイズを越える口径の超電導コイルが作製できるので、優位性がある。
【0026】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の超電導磁気軸受装置は、超電導磁気軸受装置のロータの大型化を図り、単位面積あたりの負担荷重を減らすことで、冷却温度の向上を図り得る超電導磁気軸受装置として利用可能である。
【符号の説明】
【0028】
1 冷凍機
2 冷却容器(クライオスタット)
3 超電導コイル(ステータ)
4,10 閉ループの超電導コイル
5 回転デュワー(断熱保冷容器)
6 室温空間
11〜17 閉ループコイル
a〜g パンケーキ1層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータとしての超電導磁石3に対応したロータを、超電導線を巻回した大口径の閉ループの超電導コイルで構成することを特徴とする超電導磁気軸受装置。
【請求項2】
請求項1記載の超電導磁気軸受装置において、前記超電導コイルは閉ループをなす複数個のコイルを軸(z)方向と径(r)方向に組み合わせてなることを特徴とする超電導磁気軸受装置。
【請求項3】
請求項1記載の超電導磁気軸受装置において、前記大口径の閉ループの超電導コイルの外径が200mm〜300mm、内径が100mm〜150mmであることを特徴とする超電導磁気軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−7708(P2012−7708A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−146070(P2010−146070)
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】