説明

超電導薄膜製造装置

【目的】生成超電導薄膜の組成が一定になるよう、その成膜を制御することが容易にできる新規な組成の超電導薄膜製造装置を提供する。
【構成】 それぞれ独立した電力印加手段を有する複数のターゲットを備え、それら複数のターゲットは、互いに、含有する元素の種類と組成の少なくとも一方を異にし、かつ、それらターゲットに含有される元素の全体は、所定の超電導薄膜の構成元素をすべて含み、元素別に成膜速度を検出する手段と、その検出値をその元素を含むターゲットの電力印加手段にフィードバックする手段を備えて、成膜薄膜の組成を前記所定の超電導薄膜の化学量論比に制御するようにした超電導薄膜製造装置。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はスパッタリング現象を利用して高温超電導薄膜を製造する超電導薄膜製造装置の構成に関する。
【0002】
【従来の技術】臨界温度(以下、Tcという)30Kで超電導特性を現すLa−Ba−Cu−O系の酸化物超電導体が発見されて以来、世界中で超電導体の研究が急速に進められ、液体窒素(77K)を越えるTc90KのBa−Y−Cu−O系、Tc100KのBi−Sr−Ca−Cu−O系の酸化物超電導体も発見されるに至った。Tcの上昇に伴って、その応用分野が急速に広がり超電導物質の線材化や薄膜化の研究が活発に行なわれている。この超電導体の薄膜化には、蒸着法やスパッタ法その他が使われている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】さて、従来のスパッタ現象を利用する超電導薄膜製造装置には次の(1)、(2)の問題があった。即ち、(1)スパッタリング中にターゲットに使用される焼結体(例えば、Ba−Y−Cu−Oの焼結体)の組成に経時変化が起こり、作製膜の組成の制御に困難を来す。(2)焼結体ターゲットを使用し、生成膜の組成が化学量論比からずれていた場合に、それを、装置パラメータ即ち圧力・高周波電力等の変更、調整により補正しているが、これに困難がある。
【0004】本発明は、生成超電導薄膜の組成が一定となるよう、その成膜を制御することが容易にできる新規な構成の超電導薄膜製造装置の提供を目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は、それぞれ独立した電力印加手段を備える複数のターゲットを備え、それら複数のターゲットは、互いに、その含有する元素の種類と組成の少なくともその一方を異にし、かつ、それらターゲットに含有される元素の全体は、該所定の超電導薄膜の構成元素をすべて含み、元素別に成膜速度を検出する手段と、該手段で得られた検出値を該元素を含むターゲットの電力印加手段にフィードバックする手段を備えて、基板表面に成膜される薄膜の組成を所定の化学量論比に制御する構成の超電導薄膜製造装置によって前記目的を達成したものである。
【0006】複数のターゲットを、主ターゲットと補助ターゲットで構成し、主ターゲットに含まれる元素の種類と組成の合計は目的とする超電導薄膜の構成元素の種類と組成の合計に略等しくし、補助ターゲットに含まれる元素は、その種類が主ターゲットのそれより少ないか、その組成が主ターゲットのそれより単純であるか、の少なくとも一方であるようにした装置によって効率的に超電導薄膜を製造することができる。
【0007】その主ターゲットを1個、補助ターゲットを元素の種類、組成の少なくとも一方を異にして複数にする構成の装置でさらに良い成績を上げることができる。
【0008】
【実施例】図1に本発明の実施例の超電導薄膜製造装置を示す。これを動作するには、真空容器SYの排気口H1につながる排気メインバルブMV、バリアブルコンダクタンスバルブVVを開いて、排気ポンプHPによって一旦真空容器SYの気体を10-5Pa台に排気した後、ガス導入口H2につながるガス導入メインバルブV5、ガスバルブV1、V2、V3、V4、を開いて、ガスボンベB1,B2から、ガスAとガスB(材料関係の詳細は後述する)を、マスフローコントローラM1、M2を使ってそれぞれ所定の流量で導入し、バリアブルコンダクタンスバルブVVにより、真空容器内を所定の圧力(普通は10-3〜10-1Torr台が選ばれる)に調整する。
【0009】その後、水冷(内部空洞で冷却水室、矢印で冷却水の出入を示す)を施した円筒状電極C1、C2、C3に固定された、共に円板状の、主ターゲットMT、補助ターゲットHT1、HT2に、それぞれの電力印加手段R1、R2、R3から高周波電力を供給して真空容器SY内にプラズマを発生させると、主、補助の各ターゲットはプラズマ中のイオンによってスパッタされ、基板KB上に成膜が行なわれる。
【0010】基板KBは、ヒーターSHを内蔵する加熱板HB上に固定具KOで固定されており、加熱板HBの温度は、加熱板HB上に固定された温度センサTSと、それにつながる温度制御器TC及び加熱電力制御器WCによって所定の温度に制御されている。
【0011】元素別にそれぞれの堆積速度を識別できる堆積速度センサS1、S2、・・を検出端とする成膜速度モニターSCによって、各元素の堆積速度がモニターされ、その結果が各電力印加手段R1、R2、R3にフィードバックされるようになっていて、これによって基板KB上に堆積される薄膜の化学量論比が所定のものになるように制御されている。
【0012】なお、詳細な図および説明は省略するが、各電力印加手段R1、R2、R3はそれぞれ、整合回路、高周波電源、出力調整装置で構成されている。堆積速度センサーS1、S2としては、蒸発金属の電子衝撃による励起光を応用したもの(Electron Impact Emission Spectroscopy)や、原子吸光等を利用するものがここに用いられる。
【0013】さて、参考のために、図1の装置から補助ターゲットを省略した装置(それは、通常に用いられるスパッタ装置である。例えば、ANELVA〓製のSPF210H型装置と変わらぬ装置になる)を使って、主ターゲットの材料をBaOとY23とCuOの混合焼結体とし、その化学量論比を、Ba:Y:Cu:O=3:1:5:9.1としたものを用い、ガス導入口H2から真空容器SY内にArガスを導入し、圧力5×10-3Torr、13.56MHzの高周波電力130W、という条件でターゲットをスパッタさせ、[100]面をもつMgO基板KB上に成膜を行なって生成した薄膜を表面分析したところ、ターゲット取り付け直後の化学量論比と、100時間成膜を続けた後の化学量論比とを比べたところ、化学量論比は下記の表に示すように大きく変化し、激しい経時変化のあることが分かった。
【0014】


【0015】さて上記の場合は、本発明を使って、Baを多く含有するターゲット材料の補助ターゲットHT1と、Yを多く含有するターゲット材料の補助ターゲットHT2をそれぞれの電力印加手段R2、R3とともに活かし、元素BaとYの堆積速度センサS1とS2を検出端とする成膜速度モニターSCを使ってそれぞれの堆積速度を電力印加手段へフィードバックするときは、主ターゲットMTの上記の経時変化を補正できて、薄膜の組成を、終始所定の化学量論比の通り一定にすることが出来る筈である。装置パラメータ即ち圧力・高周波電力等に変更があるときはフィードバック量を調整する必要があるが、その注意を怠らない限り、繰り返し一定の所定化学量論比の超電導薄膜を得ることができる筈である。
【0016】酸化物超電導体の場合で実験例の詳細を述べると、Ba−Y−Cu−O系の酸化物超電導体の場合、最適な化学量論比とされているものは、1:2:3:6.9である。この化学量論比からずれがある場合には、超電導臨界温度Tcが降下し、あるいは、臨界電流が減少する。この化学量論比からさらに大きく値がずれるともはや超電導体でない状態にもなる。
【0017】この場合は、主ターゲットMTに上記所定の化学量論比通りの組成比のBa−Y−Cu−Oの焼結体を用い、補助ターゲットHT1にBaあるいはBaの化合物(BaCO3 等)、補助ターゲットHT2としてCuあるいはCuの化合物(CuO,Cu2O等)を用いることによって、成膜薄膜の化学量論比を前記所定値の通りに制御することが出来た。なお、補助ターゲットHT1としては、BaリッチなBaYOの焼結体CuBaO、補助ターゲットHT2としてはY1Cu1O焼結体を用いてもよかった。フィードバック量が変わるだけである。
【0018】なお、同じ周波数の高周波電力を供給する場合は、フィードバックは電力の位相を制御するものであってもよいことが判明している。
【0019】上記の実施例は、元素の成膜速度モニターの出力を電力印加手段にフィードバックする制御方式のものであったが、既述のようにターゲットのスパッタ率は圧力によっても変化する。従って、圧力を検出し、フィードバックを圧力制御系に加えてもある程度の調整は可能である。圧力の制御は、マスフローコントローラM1、M2による導入流量の調整、又はバリアブルコンダクタンスバルブVVによる排気量の調整で可能である。
【0020】酸素の化学量論比には別途調整可能であり、成膜された薄膜中に酸素をドーピングする方法には、プラズマ酸化による方法、ECR(電子サイクロトロン共鳴)や熱フィラメント等を用いた酸素ガスイオン銃による方法、酸素雰囲気中の熱処理による方法を用いることができる。
【0021】なお、上記の実施例はBa−Y−Cu−O系の例であったが、Ln−Ba−Cu−O系(Ln:La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er、Tm,Yb,Lu)、Bi−Sr−Ca−Cu−O系、Tl−Ba−Ca−Cu−O系等の超電導薄膜等でも上記と同様の手法を用いることができる。
【0022】図2の(A)は、本発明の別の実施例のターゲットを示すもので、Y−Ba−Cu−O系超電導薄膜の成膜のときに、経時変化が特に1元素Cuだけに限られていた場合であり、中心部の円板状主ターゲットMTAに対して、その回りに、環状の補助ターゲットHTAを材料をCuにして構成したものを示す。
【0023】図1のスパッタ装置をRFマグネトロン方式に構成する場合には、電極C1〜C3の空洞内に磁石を内蔵させればよい。
【0024】また、大面積の基板を処理する場合には、図1の各ターゲット部分を、平面形状が長方形であるものを併置したものに置き換えた構成にしたものを用いる。図示しないが、基板KBはその中心軸の回りに回転させて成膜膜質の均一化をはかる。
【0025】主ターゲットは図2の(B)のように、複数の金属Y、Cuと、化合物BaOを単に併置するMTBの構成も可能である。また、図2の(C)のように、主ターゲットMTCを環状にして、その内部に補助ターゲットHTC1、HTC2の2個を配置する構成もとれる。各図にはそれぞれの材料を併記してある。
【0026】本発明は、主ターゲット、補助ターゲットの組成、材質を限定するものではなく、補助ターゲットの個数を限定するものでもない。
【0027】
【発明の効果】本発明によれば、スパッタ中での各元素の速度が制御できるため、成膜の化学量論比を容易に制御でき、精密な超電導薄膜を再現性よく作成でき、歩留りを向上できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る装置の概略図。
【図2】別の実施例の主ターゲット、補助ターゲットの平面図であって、(A)は円板状主ターゲットのまわりに環状の補助ターゲットを配置するもの、(B)は複数の材料を単に併置しただけの主ターゲット、(C)は主ターゲットを環状にしてその内部に補助ターゲットを配置した構成のものである。
【符号の説明】
SY:真空容器
MT、MTA、MTB、MTC:主ターゲット
HT1、HT2、HTA、HTC1、HTC2:補助ターゲット
R1、R2、R3:電力印加手段
KB:基板 HB:加熱板 SH:ヒーター
HP:排気ポンプ VV:バリアブルコンダクタンスバルブ。
H2:ガス導入口 V1、V2、V3、V4:ガスバルブ
V5:ガス導入メインバルブ
B1、B2:ガスボンベ
M1、M2:マスフローコントローラ
C1、C2、C3:円筒状電極 KO:固定具
TC:温度制御器 WC:加熱電力制御器
S1、S2:堆積速度センサ・

【特許請求の範囲】
【請求項1】 真空容器内に、加熱機構を備えた基板ステージ上に載置される基板と、これに対向設置されるターゲットとを備え、スパッタ現象を利用して該基板の表面に所定の超電導薄膜を成膜する超電導薄膜製造装置において、a、前記ターゲットとして、それぞれ独立した電力印加手段を備える複数のターゲットを備え、b、それら複数のターゲットは、互いに、その含有する元素の種類と組成の少なくともその一方を異にし、かつ、それらターゲットに含有される元素の全体は、該所定の超電導薄膜の構成元素をすべて含み、c、元素別に成膜速度を検出する手段と、該手段で得られた検出値を該元素を含むターゲットの電力印加手段にフィードバックする手段を備えて、基板表面に成膜される薄膜の組成を所定の化学量論比に制御したことを特徴とする超電導薄膜製造装置。
【請求項2】 該複数のターゲットが、主ターゲットと補助ターゲットとからなり、該主ターゲットに含まれる元素の種類と組成の合計は該所定の超電導薄膜の構成元素の種類と組成の合計に略等しく、該補助ターゲットに含まれる元素は、その種類が主ターゲットのそれより少ないか、その組成が主ターゲットのそれより単純であるか、の少なくとも一方であることを特徴とする請求項1の超電導薄膜製造装置。
【請求項3】 該主ターゲットが1個で、該補助ターゲットが、元素の種類、組成の少なくとも一方を異にして、複数であることを特徴とする請求項2の超電導薄膜製造装置。

【図2】
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【図1】
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