説明

超電導送電ケーブル、及びそのシステム

【課題】一の超電導ケーブル内における冷媒の循環利用が可能で、高温超電導体の高効率冷却が可能な超電導送電ケーブル、及びそのシステムを提供する。
【解決手段】フォーマー11に捲回した高温超電導体12と、該高温超電導体12を冷却する冷媒を流す冷媒往路20及び冷媒復路21からなる二以上の冷媒経路と、前記高温超電導体12と前記冷媒経路20、21とを包皮する断熱管14と、を備えた超電導送電ケーブル10において、少なくとも一の前記冷媒経路に流れる冷媒を、液体窒素に微粒の固体窒素を含有させたスラッシュ窒素とする構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細な固体窒素と液体窒素が均一に混じり合ったスラッシュ窒素を用いた超電導送電ケーブルの高効率冷却技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、超電導技術の電力分野への応用の一つとして超電導送電ケーブルの開発、実用化が進んでいる。これは、電気抵抗がゼロとなる超電導体を電力送電線に適用するものであり大容量の電力を送電できる。超電導体には、液体ヘリウム冷却を伴う金属系の超電導体と、液体窒素冷却を伴う酸化物系の超電導体が存在し、中でも、安価で安全な液体窒素を冷媒とする高温超電導体が注目されつつある。
一般的な超電導送電ケーブルの一例として、図8に高温超電導体を利用した送電ケーブルの模式図を示す。超電導送電ケーブル100は、断熱管の中にアルミ材等で形成されたフォーマー101と呼ばれる中空管を配し、その外周に超電導体102、絶縁材103を巻き付けた構造をしている。前記断熱管は、内側断熱管104と外側断熱管106との間に断熱真空部105を配した真空断熱構造となっている。そして前記フォーマー101の内外に対向式に沸点より低温の液体冷媒107を流し、超電導体102を冷却して超電導状態を形成している。前記液体冷媒107は、主に液体窒素が用いられている。
【0003】
このような超電導送電ケーブルは、特許文献1(特開平11−43610号公報)等に開示されている。
また、特許文献2(特開2001−202837号公報)には、ケーブルコアの内外側に2種類の冷媒が充填された超電導送電ケーブルが開示されており、ケーブルコアの内側に充填される冷媒の使用温度変化幅が、ケーブルコアの外側に充填される冷媒の使用温度変化幅よりも大きい冷媒を用い、内側の冷媒には液体酸素と液体窒素との混合物を使用し、外側の冷媒には液体窒素を利用した構造が記載されている。このように、液体酸素のような使用温度変化幅の大きい冷媒を使用することにより、一の冷却区間長を長くすることができる。
【0004】
そして、超電導送電ケーブルは接続部を介してケーブル線路を形成し、冷却区間長毎に超電導送電ケーブル冷却用の冷媒を生成する冷却設備を配置した送電ケーブルシステムを構成する。冷却設備には、冷媒を臨界温度以下に冷却する冷凍機と、冷却した冷媒を超電導送電ケーブルに圧送する圧送ポンプと、が設けられている。
冷凍装置を備えた送電ケーブルシステムは、例えば特許文献3(特開2002−56729号公報)等に開示されている。これは、冷凍機と圧送ポンプからなる冷凍ステーションと、これとは別に圧送ポンプのみをケーブル経路上に独立して配置した構成としており、これにより圧力損失量による冷却区間長の制限を緩和して冷却区間を長くすることができる。
【0005】
しかし、送電ケーブル内に冷媒を対向式に流す方式を用いると、冷却区間長が長くなった場合にフォーマー内外の液体冷媒同士が熱交換を行い、ケーブル中で発生した熱が除去されなくなることが明らかとなった。
そこで、近年ではフォーマー内外に同方向に液体冷媒を流す方式が有望と見られている。液体窒素を冷媒として同方向に流すようにした送電ケーブルシステムを図9に示す。このシステムでは、超電導送電ケーブル100の冷却区間長毎に冷却設備110a、110b、…が配設されたシステムにおいて、冷却設備110aで生成された液体窒素は超電導送電ケーブルの上流端から超電導送電ケーブル内に導入される。該ケーブル内で液体窒素温度はケーブル中での吸熱により徐々に昇温し、沸点到達前にケーブル下流端に到達する。ケーブル下流端を出た液体窒素は冷却設備110bで冷却後さらに下流の超電導送電ケーブルを冷却するため別のケーブルに送られる。
【0006】
【特許文献1】特開平11−43610号公報
【特許文献2】特開2001−202837号公報
【特許文献3】特開2002−56729号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記したような超電導送電ケーブル内に同方向に冷媒を流す方式では、ケーブル中を流れる液体窒素は一方向のため、ケーブル最終端において冷媒が溢れ出してしまう。そこで、冷媒として液体窒素を用いる場合、最終端で液体窒素を大気放出するか他の用途に転用することが考えられるが、この場合、開始端では常時液体窒素を生成、補給する必要がありコストが嵩む。また、超電導送電ケーブルを常時偶数回線使用し、冷媒を循環させる方法があるが、このようにすると一回線にトラブルが発生しても二回線が使用不能となり効率が悪い。さらに、専用の戻り配管を設ける方法も考えられるが、この場合戻り配管中の液体窒素は温度が上昇しており、気泡が発生し易く、これにより戻り配管が閉塞する惧れがあり、また圧力損失が非常に大きくなるため圧送ポンプの大型化或いはコスト増大が避けられない。
従って、本発明は上記従来の技術の問題点に鑑み、一の超電導ケーブル内における冷媒の循環利用が可能で、高温超電導体の高効率冷却が可能である超電導送電ケーブル、及びそのシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明はかかる課題を解決するために、
高温超電導体と、該超電導体を冷却する冷媒を流す冷媒往路及び冷媒復路からなる二以上の冷媒経路と、前記超電導体と前記冷媒経路とを包皮する断熱管と、を備えた超電導送電ケーブルにおいて、
少なくとも一の前記冷媒経路に流れる冷媒を、液体窒素に微粒の固体窒素を含有させたスラッシュ窒素としたことを特徴とする。
【0009】
前記スラッシュ窒素とは微粒化された固体窒素と液体窒素の混合物のスラリーである。このスラッシュ窒素を利用することにより、液体窒素よりも温度が低く、窒素の三重点付近の低温(63K)を維持できる。また、固体の融解潜熱を利用できるため液体窒素に比較して熱負荷吸収能力に優れている。さらに、固体分が存在する限り温度を一定に保つことができ、前記超電導体の内外に対向式にスラッシュ窒素を流しても、ケーブルで発生した熱はケーブル外に効率よく持ち運ばれ、かつ冷媒が一端側に集中することを防止できる。さらにまた、スラッシュ窒素中から固体分が無くなっても63Kから沸点までの温度上昇分に相当する熱量が利用できるため、単なる液体窒素冷却に比べて少ない量で冷却が可能となる。
このように、スラッシュ窒素を冷媒として用いることにより、超電導送電ケーブルの高効率冷却が可能となる。
【0010】
また、前記冷媒往路に流れる冷媒をスラッシュ窒素とし、前記冷媒復路に流れる冷媒を主として液体窒素とすることが好適である。これは、超電導送電ケーブルの冷却区間長が長い場合に適しており、往きのみにスラッシュ窒素が存在すればケーブル全体を63Kの維持することが可能である。この場合、冷媒復路は液体窒素が主体となるが、ケーブル内で発生した熱は冷媒往路のスラッシュ窒素により冷却され、液体窒素が加熱され温度が上昇しても最終的にその熱は一番低温であるスラッシュ窒素に吸収されることとなり、ケーブルの冷却に悪影響を与える惧れがない。
さらに、前記二の冷媒経路の何れの冷媒もスラッシュ窒素としても良い。これは、超電導送電ケーブルの冷却区間長が比較的短距離か、又は急激な熱負荷が想定される場合に適しており、本発明によりケーブルの全長に亘り63K以下に保持することができ、深冷却が可能である。
【0011】
また、前記超電導体がフォーマーの外周に捲回された超電導送電ケーブルにおいて、
前記フォーマーの内側に前記冷媒往路が形成され、前記超電導体の外周に断熱真空層を介して管状の熱輻射シールドが設けられるとともに、前記超電導体に沿って並行に前記冷媒往路が設けられることを特徴とする。
このように、熱輻射シールドを設けることにより、外部からの熱侵入を防止でき、効率良い冷却が可能となる。
さらに、前記超電導体がフォーマーの外周に捲回された超電導送電ケーブルにおいて、
前記フォーマーの内側に前記冷媒往路が形成され、前記超電導体の外周に断熱真空層を介して管状の前記冷媒往路が設けられることを特徴とする。
このように、前記冷媒復路そのものを熱輻射シールドとすることにより、簡単な構造でかつ効率良い冷却が可能となる。
【0012】
また、高温超電導体と、該超電導体を冷却する冷媒を流す冷媒経路と、前記超電導体と前記冷媒経路とを包皮する断熱管とからなる超電導送電ケーブルと、を備えるとともに、前記冷媒を生成する手段と、該冷媒を前記超電導送電ケーブルに圧送する手段とからなる冷却設備と、を備えた超電導送電ケーブルシステムにおいて、
前記冷媒生成手段が、液体窒素を充填した低温容器と、該容器内に容器内空間よりも高い圧力の低温作動流体を噴出して前記液体窒素を吸い出すエジェクタと、を有し、
該冷媒生成手段にて、前記低温作動流体により吸い出され噴出される液体窒素が、前記低温作動流体によって冷却され微粒の固体窒素となって落下し、液体窒素と混合されてスラッシュ窒素を生成し、該スラッシュ窒素を前記圧送手段により前記冷媒経路に導入する構成としたことを特徴とする。
このように、前記冷媒生成手段を用いることにより、スラッシュ窒素中の固体窒素の粒径を比較的均一にかつ小さくすることができ、超電導送電ケーブルの冷媒経路に流す場合において圧力損失を小さくすることができる。
【0013】
さらに、高温超電導体と、該超電導体を冷却する冷媒を流す冷媒経路と、前記超電導体と前記冷媒経路とを包皮する断熱管とからなる超電導送電ケーブルと、を備えるとともに、前記冷媒を生成する手段と、該冷媒を前記超電導送電ケーブルに圧送する手段とからなる冷却設備と、を備えた超電導送電ケーブルシステムにおいて、
前記冷媒生成手段が、液体窒素の充填された断熱容器と、前記断熱容器内部を減圧する減圧手段と、前記断熱容器内を撹拌する撹拌手段と、を有し、
該冷媒生成手段にて、前記減圧手段によって前記断熱容器内の液体窒素を減圧して降温し、三重点に到達せしめて固体窒素を生成し、前記撹拌手段で撹拌して微粒化した固体窒素を液体窒素と混合してスラッシュ窒素を生成し、該スラッシュ窒素を前記圧送手段により前記冷媒経路に導入する構成としたことを特徴とする。
本発明によれば、他の冷媒を用いずに固体窒素を生成することができるため、他の冷媒の再圧縮装置などの大型設備を必要とせずに、簡単な構造でかつ小型化された装置でスラッシュ窒素を生成できる。
【0014】
さらにまた、高温超電導体と、該超電導体を冷却する冷媒を流す冷媒経路と、前記超電導体と前記冷媒経路とを包皮する断熱管とからなる超電導送電ケーブルと、を備えるとともに、前記冷媒を生成する手段と、該冷媒を前記超電導送電ケーブルに圧送する手段とからなる冷却設備と、を備えた超電導送電ケーブルシステムにおいて、
前記冷媒生成手段が、減圧下に保持した容器と、液体窒素を該容器内に噴射するノズルと、前記容器内を撹拌する撹拌機と、を有し、
該冷媒生成手段にて、前記ノズルより噴射した液体窒素の液滴粒子を減圧雰囲気により蒸発させ、蒸発潜熱によって液滴粒子を凝固させて固体窒素を形成させ、前記液体窒素と混合してスラッシュ窒素を生成し、該スラッシュ窒素を前記圧送手段により前記冷媒経路に導入する構成としたことを特徴とする。
このように、前記冷媒生成手段を用いることにより、簡単な装置で容易にスラッシュ窒素を生成することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、スラッシュ窒素は微粒化された固体窒素と液体窒素のスラリー状混合物であるので、冷却用冷媒として利用するときは、固体窒素の融点付近の温度を呈しており、しかも流体のため、物体表面上に濡れ、狭い隙間にも浸透するので、熱伝導性が良好であるとともに、固体窒素の融解潜熱25kJ/kgを冷却に利用できる。そのため、単位質量当りで比べれば液体窒素の持つ顕熱の12.5倍以上の冷却効果があり、固体窒素の存在する限り63K付近以上に冷媒の温度は上昇せず、冷却対象である超電導送電ケーブルの温度を低温に保つことができる。
また、送液停止時においても固体潜熱によりある程度の時間は超電導物体の温度を低温に保つことができ、送電ケーブルシステムの信頼性が向上する。
さらに、固体分が存在する限り温度を一定に保つことができ、前記超電導体の内外に対向式にスラッシュ窒素を流しても、ケーブルで発生した熱はケーブル外に効率よく持ち運ばれ、かつ冷媒が一端側に集中することを防止できる。さらにまた、スラッシュ窒素中から固体分が無くなっても63Kから沸点までの温度上昇分に相当する熱量が利用できるため、単なる液体窒素冷却に比べて少ない量で冷却が可能となる。
このように、スラッシュ窒素を冷媒として用いることにより、超電導送電ケーブルの高効率冷却が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【実施例1】
【0017】
図1は本発明の実施例1に係る超電導送電ケーブルの構成図で、(a)は側断面図、(b)は断面図である。
図1において、超電導送電ケーブル10は、内周側から、フォーマー11、高温超電導体12、絶縁層13、内側断熱管14、外側断熱管15で構成される。前記フォーマー11はアルミ管、銅管などの金属材料等、熱伝導性の高い材質を用いることが好ましく、図に示されるような中空円筒形状とし、その内部を冷媒往路20とする。尚、フォーマー11を中実円筒形状として、冷媒経路を該フォーマー11の外側に並行して配置する構成としても良い。
前記超電導体12は77.3K(−196℃)で超電導状態となる酸化物系超電導材料で形成され、好適には銅の酸化物であるイットリウム系又はビスマス系酸化物で形成される線材に、銀又は銀合シースで被覆したもの等が良い。該超電導体12は、テープ状若しくは丸線状の超電導線材を前記フォーマー11に巻き付け積層する構造、若しくは前記超電導線材を撚り合わせて巻回する構造などが挙げられる。
前記絶縁層13は、クラフト紙や樹脂等の絶縁体を捲回した構成とする。
前記内側断熱管14は、前記絶縁層13の外周側に所定間隔だけ離間させて配置され、これらの間の空間に冷媒復路21が形成されている。
前記外側断熱管15は、前記内側断熱管14の外周側に不図示の真空断熱管を介して配置される。
【0018】
本実施例1は超電導送電ケーブル10の冷却区間長が比較的短距離か、又は急激な熱負荷が想定される場合に適した構成である。図1(a)に示されるように、前記冷媒復路20に冷媒であるスラッシュ窒素(SN)を導入し、該スラッシュ窒素はケーブル終端で折り返して前記冷媒復路21を通ってケーブル開始端まで戻るようになっている。このように、前記スラッシュ窒素を超電導体12の内外に対向式に流すことで、超電導体12の深冷却が可能となる。この場合、超電導送電ケーブル10は、全長に亘り63Kに保持される。
【0019】
前記スラッシュ窒素とは、微粒化された固体窒素と液体窒素の混合物のスラリであり、その製造方法は特に限定されない。該スラッシュ窒素を利用することにより、液体窒素よりも温度が低く、窒素の三重点付近の低温(63K)を維持できる。また、固体の融解潜熱を利用できるため液体窒素に比較して熱負荷吸収能力に優れている。さらに、固体分が存在する限り温度を一定に保つことができ、前記超電導体12の内外に対向式にスラッシュ窒素を流しても、ケーブルで発生した熱はケーブル外に効率よく持ち運ばれ、かつ冷媒が一端側に集中することを防止できる。さらにまた、スラッシュ窒素中から固体分が無くなっても63Kから沸点までの温度上昇分に相当する熱量が利用できるため、単なる液体窒素冷却に比べて少ない量で冷却が可能となる。
このように、スラッシュ窒素を冷媒として用いることにより、超電導送電ケーブル10の高効率冷却が可能となる。
【実施例2】
【0020】
図2に本発明の実施例2に係る超電導送電ケーブルの構成図を示す。図2(a)は超電導送電ケーブルの側断面図であり、(b)は断面図である。
本実施例2に係る超電導送電ケーブル10は、上記した実施例1とほぼ同様の構成を有しており、該超電導送電ケーブル10は、内周側から、フォーマー11、高温超電導体12、絶縁層13、内側断熱管14、外側断熱管15で構成され、さらに前記フォーマー11の内部に冷媒往路20、前記絶縁層13と前記内側断熱管14の間に冷媒復路21が形成されている。各々の構成については実施例1と同様であるため説明を省略する。
本実施例2は、超電導送電ケーブル10の冷却区間長が長い場合に適しており、図2(a)に示されるように、前記冷媒往路20に冷媒であるスラッシュ窒素(SN)を導入し、前記冷媒復路21には往路にて融解した液体状の液体窒素(LN)を流す。
【0021】
このように、本実施例ではスラッシュ窒素中の固体の融解潜熱が、前記冷媒往路20にて全て消費され、冷媒復路21では主として液体窒素が存在することとなる。この場合、ケーブル内で発生した熱は前記冷媒往路20からのスラッシュ窒素のみで冷却される。前記冷媒復路21の液体窒素が加熱され温度が上昇しても最終的にその熱は一番低温であるスラッシュ窒素に吸収されることとなる。勿論、上記した実施例1と同様の効果、即ち、液体窒素よりも温度が低い、固体の融解潜熱が利用できる、対向式にスラッシュ窒素を流しても効率よく熱放出が可能である。液体窒素のみを利用する場合に比べて少量で冷却可能である、等の効果を有している。
【0022】
次に、図3、図4を参照して図2の超電導送電ケーブルの別の一例につき説明する。
図3に示した超電導送電ケーブル10は、冷却区間長が長距離である場合に適した構成となっており、フォーマー11に超電導体12及び絶縁層(不図示)が巻回され、その外周側に断熱真空層17を介して外部断熱管15が設けられている。前記フォーマー11の内部には冷媒往路20が形成される。
また、前記断熱真空層17には輻射シールド16が設けられ、該輻射シールド16は前記断熱真空層17の少なくとも一部を残して前記超電導体12を包皮している。この輻射シールド16は外部からの輻射熱を遮断する目的で設けられ、その材質は、熱伝導に優れ且つ放射率の低いものが好ましく、例えば研磨したステンレスや銅が用いられる。また、輻射シールド16の外側には、一般的にスパーインシュレーションと称されるアルミ蒸着された薄膜のプラスティックによる複数枚(例えば20枚程度)の輻射シールド層(不図示)を設けることが好ましい。
さらに、前記輻射シールド16上には、前記超電導体12に並行に冷媒復路21が近設配置されている。前記冷媒往路20にはスラッシュ窒素が流され、前記冷媒復路21には主として液体窒素が流される。
この場合前記超電導体12は、内側の前記冷媒往路20を流れるスラッシュ窒素からの熱伝導により冷却される。外側は真空断熱層17を経た63〜77K程度の輻射シールドで覆われる。このため外側からの熱侵入は無いことになり、効率良く冷却を行なうことができる。
【0023】
図4の超電導ケーブル10も同様に長距離の冷却区間長に適しており、フォーマー11に超電導体12及び絶縁層(不図示)が巻回され、その外周側に断熱真空層17を介して外部断熱管15が設けられている。前記フォーマー11の内部には冷媒往路20が形成される。また、前記超電導体12の外周側には冷媒復路21が設けられ、前記超電導体12と前記冷媒復路21の間、及び該冷媒復路21と前記外部断熱管15の間に前記真空断熱管17が配置される構成とする。そして、前記冷媒往路20にはスラッシュ窒素が、前記冷媒復路21には主として液体窒素が流れるようにする。
このように、前記冷媒復路21を輻射シールドとすることにより、前記冷媒往路20にてスラッシュ窒素の固体が全て融解しても、前記冷媒復路21を経てケーブル開始端に至った液体窒素の温度が77K以下であれば配管中で気泡を生じることがなく、圧力損失が発生せずに効率良く冷媒を流動できる。
尚、図3及び図4の構成において、本実施例2に適用する以外にも上記した実施例1のように、冷媒往路20及び冷媒復路21の両方にスラッシュ窒素を流す構成とすることもできる。
【実施例3】
【0024】
図5に本発明の実施例3に係るスラッシュ窒素生成装置の概略構成図を示す。
本実施例のスラッシュ窒素生成装置は、実施例1若しくは実施例2に記載した超電導送電ケーブル10の端部に設置された冷却設備内に具備される冷媒生成手段である。前記冷却設備は圧送ポンプとスラッシュ窒素生成装置とを有しており、該生成装置にて生成したスラッシュ窒素を前記圧送ポンプにより前記超電導送電ケーブル内に供給するようになっている。
前記スラッシュ窒素生成装置において、低温容器30内には液体窒素が充填されており、また該低温容器30内に配置されたエジェクタ31に、作動流体供給ラインより液体ヘリウム或いは低温のヘリウムガス等の低温作動流体が供給される。冷媒としては、ヘリウムの他にネオン、水素などを用いることができる。
前記低温容器30内の液体窒素上部の空間36には、真空ポンプ32と弁を具備した排気ライン33と、空間36を大気圧よりも若干高い圧力に保つための、弁を具備した排気ライン34が開口している。
【0025】
液体窒素には前記エジェクタ31の吸込口に連結する液体窒素吸込管35の下部が浸漬されている。
前記低温容器30を密閉し、前記真空ポンプ32により容器内を減圧すると液体窒素は蒸発し、蒸発潜熱のために液体窒素の温度は低下する。液体窒素の温度が大気圧における融点、つまり固体化する温度よりも若干高い65K付近になったところで低温作動流体を供給し、容器内を大気圧或いはそれよりも若干高い圧力に保持しておく。
前記エジェクタ31に低温作動流体を供給すると、エジェクタノズルから噴出する作動流体噴流により液体窒素が前記吸込管35を介してエジェクタ31に吸い出され、液体窒素は冷媒とともにエジェクタ31のディフューザを通って空間36に噴出される。液体窒素は前記ディフューザにて冷媒と激しく混合し冷却されて微細で比較的均一な粒径の固体窒素となる。作動流体により増大した圧力は、排気ライン34を介して排気することにより調整される。
【0026】
また、低温作動流体により液体窒素の液面が凍結することを防止するために、液面付近に撹拌翼を設け、撹拌混合することが好ましい。
さらに、前記生成した固体窒素が落下して液体窒素の底部に集中しないように、撹拌翼37にて均一に混合し、スラッシュ化する。
前記容器30の下部にはスラッシュ窒素が溜まり、適切な時期に弁を具備した排出ライン38を介してスラッシュ窒素を排出し、前記圧送ポンプ39により超電導送電ケーブル10の冷媒往路に導入する。
上記したようなスラッシュ窒素生成装置を用いることにより、スラッシュ窒素中の固体窒素の粒径を比較的均一にかつ小さくすることができ、超電導送電ケーブルの冷媒経路に流す場合にも圧力損失を小さくすることができる。また、本実施例のスラッシュ窒素生成装置を適用することにより、スラッシュ窒素中の固体窒素の粒径を簡単に制御することができ、スラッシュ窒素の最適化が図れる。
【実施例4】
【0027】
図6に本発明の実施例4に係るスラッシュ窒素生成装置の概略構成図を示す。
本実施例4のスラッシュ窒素生成装置は、上記した実施例3と同様に、実施例1若しくは実施例2に記載した超電導送電ケーブル10の端部に設置された冷却設備内に具備される。該冷却設備は圧送ポンプとスラッシュ窒素生成装置とを有しており、該生成装置にて生成したスラッシュ窒素を前記圧送ポンプにより前記超電導送電ケーブル内に供給するようになっている。
前記スラッシュ窒素生成装置は、液体窒素を貯留した断熱容器40内の気相部を、真空ポンプ41にて減圧し、減圧が進行すると液体窒素が蒸発し、潜熱により液体窒素の温度が低下し、内容物が窒素の三重点に達すると固体窒素が生成し始める。三重点への到達は温度計42で温度が63.1K以下に下がらなくなった事で確認する。三重点到達時は真空ポンプ41を停止して液面計43でレベルを計測する。その後真空ポンプ41を運転し、両撹拌翼44、45も回転する。
【0028】
減圧により固体窒素は液体窒素表面全体に薄く生成する。そのまま放置すると固体窒素は真空ポンプ41の吸引口のある上方に吸い上げられて液体から離れ、その空間に次の固体窒素が生成する。生成した固体窒素は撹拌翼44、45により微細化した固体窒素46となり、液体と混合されてスラッシュ窒素となる。生成したスラッシュ窒素は、圧送ポンプ47により前記超電導送電ケーブル10の冷媒往路に導入される。
このように、本実施例4のスラッシュ窒素生成装置は、他の冷媒を用いずに固体窒素を生成することができるため、他の冷媒の際圧縮装置などの大型設備を必要とせずに、簡単な構造でかつ小型化された装置でスラッシュ窒素を生成できる。
【実施例5】
【0029】
図7に本発明の実施例5に係るスラッシュ窒素生成装置の概略構成図を示す。
本実施例5のスラッシュ窒素生成装置は、上記した実施例3と同様に、実施例1若しくは実施例2に記載した超電導送電ケーブル10の端部に設置された冷却設備内に具備される。図に示されるように前記スラッシュ窒素生成装置は、液体窒素タンク50と、ノズル52を具備する容器53と、真空ポンプ54と、撹拌翼55とを備えている。
液体窒素が貯留された液体窒素タンク50には液体窒素供給管が接続され、一つは容器53へ、一つはポンプ51を介して前記容器53の上部に配設されたノズル52へ連結されている。前記容器53の天井部からは真空配管が接続され真空ポンプ54により容器内を減圧することができる。
さらに、容器底部には撹拌翼55が設けられ、内容物を撹拌可能となっている。また、容器53の側壁の底部付近には内容物取り出し配管が設けられ、該内容物は圧送ポンプ58により前記超電導送電ケーブル10の冷媒往路へ導かれる。
【0030】
前記スラッシュ窒素生成装置における作用を説明すると、まず液体窒素タンク50に貯留された液体窒素は前記ノズル52から、前記真空ポンプ54により減圧下に維持された前記容器53の中へ噴出される。前記ノズル52により均一微粒径の液滴窒素56が形成・分散され、この液滴粒子56が前記容器53の空間に滞留中に、該液滴粒子表面の窒素が蒸発し、該蒸発潜熱により液滴粒子が凝固して固体窒素57を生成する。凝固した固体窒素57は落下して前記撹拌翼55により液体窒素と混合撹拌され、スラリー化したスラッシュ窒素が生成される。生成したスラッシュ窒素は圧送ポンプ58により前記超電導送電ケーブル10の冷媒往路へ導入される。前記液滴窒素の粒径はノズル径と噴出圧力によってもたらされる流速によって決定する。従って、スラッシュ窒素中の固体窒素の粒径は前記ノズル径と噴出圧力により調整する。
このように、本実施例に係るスラッシュ窒素製造装置を用いることにより、簡単な装置で容易にスラッシュ窒素を生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施例1に係る超電導送電ケーブルの構成図で、(a)は側断面図、(b)は断面図である。
【図2】本発明の実施例2に係る超電導送電ケーブルの構成図で、(a)は側断面図、(b)は断面図である。
【図3】図2の別の一例を示す超電導送電ケーブルの断面図である。
【図4】図2、図3の別の一例を示す超電導送電ケーブルの断面図である。
【図5】本発明の実施例3に係るスラッシュ窒素生成装置の概略構成図である。
【図6】本発明の実施例4に係るスラッシュ窒素生成装置の概略構成図である。
【図7】本発明の実施例5に係るスラッシュ窒素生成装置の概略構成図である。
【図8】高温超電導体を利用した従来の送電ケーブルの模式図を示す。
【図9】従来の送電ケーブルシステムの概略構成図を示す。
【符号の説明】
【0032】
10 超電導送電ケーブル
11 フォーマー
12 超電導体
13 絶縁層
14 内側断熱管
15 外側断熱管
16 輻射シールド
17 断熱真空管
20 冷媒往路
21 冷媒復路
30 低温容器
31 エジェクタ
39 圧送ポンプ
40 断熱容器
52 噴射ノズル
53 容器
58 圧送ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温超電導体と、該超電導体を冷却する冷媒を流す冷媒往路及び冷媒復路からなる二以上の冷媒経路と、前記超電導体と前記冷媒経路とを包皮する断熱管と、を備えた超電導送電ケーブルにおいて、
少なくとも一の前記冷媒経路に流れる冷媒を、液体窒素に微粒の固体窒素を含有させたスラッシュ窒素としたことを特徴とする超電導送電ケーブル。
【請求項2】
前記冷媒往路に流れる冷媒をスラッシュ窒素とし、前記冷媒復路に流れる冷媒を主として液体窒素としたことを特徴とする請求項1記載の超電導送電ケーブル。
【請求項3】
前記二の冷媒経路の何れの冷媒もスラッシュ窒素としたことを特徴とする請求項1記載の超電導送電ケーブル。
【請求項4】
前記超電導体がフォーマーの外周に捲回された超電導送電ケーブルにおいて、
前記フォーマーの内側に前記冷媒往路が形成され、前記超電導体の外周に断熱真空層を介して管状の熱輻射シールドが設けられるとともに、前記超電導体に沿って並行に前記冷媒往路が設けられることを特徴とする請求項1記載の超電導送電ケーブル。
【請求項5】
前記超電導体がフォーマーの外周に捲回された超電導送電ケーブルにおいて、
前記フォーマーの内側に前記冷媒往路が形成され、前記超電導体の外周に断熱真空層を介して管状の前記冷媒往路が設けられることを特徴とする請求項1記載の超電導送電ケーブル。
【請求項6】
高温超電導体と、該超電導体を冷却する冷媒を流す冷媒経路と、前記超電導体と前記冷媒経路とを包皮する断熱管とからなる超電導送電ケーブルと、を備えるとともに、前記冷媒を生成する手段と、該冷媒を前記超電導送電ケーブルに圧送する手段とからなる冷却設備と、を備えた超電導送電ケーブルシステムにおいて、
前記冷媒生成手段が、液体窒素を充填した低温容器と、該容器内に容器内空間よりも高い圧力の低温作動流体を噴出して前記液体窒素を吸い出すエジェクタと、を有し、
該冷媒生成手段にて、前記低温作動流体により吸い出され噴出される液体窒素が、前記低温作動流体によって冷却され微粒の固体窒素となって落下し、液体窒素と混合されてスラッシュ窒素を生成し、該スラッシュ窒素を前記圧送手段により前記冷媒経路に導入する構成としたことを特徴とする超電導送電ケーブルシステム。
【請求項7】
高温超電導体と、該超電導体を冷却する冷媒を流す冷媒経路と、前記超電導体と前記冷媒経路とを包皮する断熱管とからなる超電導送電ケーブルと、を備えるとともに、前記冷媒を生成する手段と、該冷媒を前記超電導送電ケーブルに圧送する手段とからなる冷却設備と、を備えた超電導送電ケーブルシステムにおいて、
前記冷媒生成手段が、液体窒素の充填された断熱容器と、前記断熱容器内部を減圧する減圧手段と、前記断熱容器内を撹拌する撹拌手段と、を有し、
該冷媒生成手段にて、前記減圧手段によって前記断熱容器内の液体窒素を減圧して降温し、三重点に到達せしめて固体窒素を生成し、前記撹拌手段で撹拌して微粒化した固体窒素を液体窒素と混合してスラッシュ窒素を生成し、該スラッシュ窒素を前記圧送手段により前記冷媒経路に導入する構成としたことを特徴とする超電導送電ケーブルシステム。
【請求項8】
高温超電導体と、該超電導体を冷却する冷媒を流す冷媒経路と、前記超電導体と前記冷媒経路とを包皮する断熱管とからなる超電導送電ケーブルと、を備えるとともに、前記冷媒を生成する手段と、該冷媒を前記超電導送電ケーブルに圧送する手段とからなる冷却設備と、を備えた超電導送電ケーブルシステムにおいて、
前記冷媒生成手段が、減圧下に保持した容器と、液体窒素を該容器内に噴射するノズルと、前記容器内を撹拌する撹拌機と、を有し、
該冷媒生成手段にて、前記ノズルより噴射した液体窒素の液滴粒子を減圧雰囲気により蒸発させ、蒸発潜熱によって液滴粒子を凝固させて固体窒素を形成させ、前記液体窒素と混合してスラッシュ窒素を生成し、該スラッシュ窒素を前記圧送手段により前記冷媒経路に導入する構成としたことを特徴とする超電導送電ケーブルシステム。







【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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