説明

超音波を用いた骨強度診断装置及び骨強度診断方法

【課題】長管状骨の骨強度を正確に診断することのできる骨強度診断装置及び骨強度診断方法を提供する。
【解決手段】縦方向用超音波送受波器3及び横方向用超音波送受波器2は、脛骨30の骨表面31に所定の角度から超音波を放射し、骨表面31を脛骨の長軸方向及び長軸方向に直交する方向に伝搬する表面波をそれぞれ発生させると共に、表面波から軟組織40側に漏洩する漏洩波をそれぞれ受波する。音速算出部21は、超音波の経路長の差と伝搬時間の差に基づき、横方向及び縦方向の表面波音速Va、Vbを算出する。第1指標算出部22は、横方向の表面波音速Vaを用いて骨密度を評価する指標(第1指標)を算出する。第2指標算出部は、縦方向及び横方向の表面波音速Vb、Vaを用いて、骨の配向性を評価する指標(第2指標)を算出する。骨診断部24は、第1指標と第2指標を用いて骨密度及び骨の配向性に基づき、骨強度を診断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を用いて骨強度を診断する骨強度診断装置及び骨強度診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、骨強度を診断する装置として、X線を利用して骨密度を精密に測定する診断装置があるが、装置が大掛かりであり、放射線を被爆するという問題がある。
【0003】
そこで、このような問題が生じない非侵襲的な骨強度診断装置として、超音波を利用する装置が用いられている(例えば、特許文献1参照)。このような診断装置では、超音波の送波機器から骨の表面に対し所定の角度傾いた方向から超音波を放射し、骨の表面に表面波を発生させる。そして、例えば、この超音波の送波機器に対して相対移動可能な超音波の受波機器により、表面波から漏洩する漏洩波を受波し、超音波を放射してから漏洩波が受波されるまでの伝搬時間や伝搬距離に基づき、表面波の音速を測定する。このような装置では、橈骨、脛骨及び指骨といった長管状骨を測定部位とし、且つ、これら長管状骨の長軸方向に沿って伝わる表面波の音速を測定している。また、一般的に、測定された表面波の音速が速い程、骨強度は高いと診断される。
【0004】
【特許文献1】特表2005−510283号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、本願発明者らは、測定された表面波の音速が速い場合であっても、実際の骨密度が低い場合があり、逆に、測定された表面波の音速が遅い場合であっても、実際の骨密度が高い場合があり、長管状骨の長軸方向の表面波の音速は骨密度との相関性が乏しいことを知見した。よって、長管状骨の長軸方向の表面波の音速に基づいて、骨強度を正確に評価することは困難である。
【0006】
そこで、本発明は、長管状骨の骨強度をより正確に診断することのできる骨強度診断装置及び骨強度診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0007】
請求項1の骨強度診断装置は、超音波を用いて骨強度を診断する骨強度診断装置であって、超音波を長管状の骨の表面に放射し、前記骨の表面において、その長軸方向に交差する第1方向に沿って伝搬する超音波の音速を測定する音速測定手段と、前記音速測定手段により測定された前記第1方向の音速を用いて、骨密度に関する第1指標を算出する第1指標算出手段と、前記第1指標算出手段により算出された前記第1指標に基づいて、骨強度を診断する骨診断手段と、を備えていることを特徴とする。
【0008】
一般的に、骨の表面を伝搬する超音波(表面波)の音速は、骨密度、骨の配向性等の骨の特性の影響を受けていると考えられる。骨は、ハイドロキシアパタイト結晶と、コラーゲン繊維が規則的に配列した構造を有する。長管状骨は、ハイドロキシアパタイト(HAp)結晶のc軸が、長軸方向に沿って配向した1軸配向性と呼ばれるHAp結晶の配向性を有する。繊維状のコラーゲンの走行方向(配向性)は、このHAp結晶のc軸方向とほぼ同じである。長軸方向の表面波の音速は、長軸方向の骨の配向性(HAp結晶の配向性とコラーゲン繊維の配向性)と骨密度の両方の影響を大きく受けており、そのため、長軸方向の音速から骨密度を正確に把握することはできないと考えられる。一方、長軸方向に交差する方向である第1方向の表面波の音速は、骨の配向性の影響が小さく、骨密度との相関性が大きいと考えられる。従って、第1指標算出手段は、第1方向の音速に基づいて、骨密度に関する第1指標を算出することができる。また、骨診断手段は、この第1指標に基づいて、骨強度を診断することにより、長軸方向の音速に基づいて骨強度を診断する場合に比べて、正確に骨強度を診断することができる。
【0009】
請求項2の骨強度診断装置は、請求項1において、前記音速測定手段が、さらに、前記骨の長軸方向に平行な第2方向に沿って伝搬する超音波の音速を測定するものであり、前記音速測定手段により測定された前記第2方向の音速と、前記第1方向の音速とを用いて、骨の配向性に関する第2指標を算出する第2指標算出手段をさらに備え、前記骨診断手段は、骨密度に関する前記第1指標と、骨の配向性に関する前記第2指標の両方から、骨強度を診断することを特徴とする。
【0010】
第2方向の音速は、骨の配向性と骨密度の影響を大きく受けており、第1方向の音速は、骨の配向性の影響が小さく、骨密度の影響が大きい。そのため、第2指標算出手段は、第2方向の音速と第1方向の音速とに基づいて、骨の配向性に関する第2指標を算出することができる。また、骨診断手段は、骨密度に関する第1指標と、骨の配向性に関する前記第2指標の両方を用いて、骨強度を診断することにより、第1指標のみを用いて診断した場合に比べて、より正確に骨強度を診断することができる。
【0011】
請求項3の骨強度診断装置は、請求項1又は2において、前記第1方向が、前記骨の長軸方向に直交する方向であることを特徴とする。
【0012】
長軸方向に直交する方向の表面波音速は、骨の配向性の影響が小さい。そのため、長軸方向に直交する方向の表面波音速を用いることにより、正確に骨強度を診断することができる。
【0013】
請求項4の骨強度診断方法は、超音波を用いて骨強度を診断する方法であって、超音波を長管状の骨の表面に放射し、前記骨の表面において、その長軸方向に交差する第1方向に沿って伝搬する超音波の音速と、前記長軸方向に平行な第2方向に沿って伝搬する超音波の音速とをそれぞれ測定する音速測定工程と、前記音速測定工程で測定された前記第1方向の音速を用いて、骨密度に関する第1指標を算出する第1指標算出工程と、前記音速測定工程で測定された前記第2方向の音速と、前記第1方向の音速とを用いて、骨の配向性に関する第2指標を算出する第2指標算出工程と、骨密度に関する前記第1指標と、骨の配向性に関する前記第2指標の両方から、骨強度を診断する骨診断工程と、を備えることを特徴とする。
【0014】
第1方向の表面波の音速は、配向性の影響が小さく、骨密度の影響が大きいため、骨密度との相関性が高い。一方、第2方向の表面波の音速は、骨の配向性と骨密度の両方の影響が大きい。従って、第1指標算出工程により、第1方向の音速に基づいて、骨密度に関する第1指標を算出することができる。また、第2指標算出工程により、第2方向の音速と第1方向の音速とに基づいて、骨の配向性に関する第2指標を算出することができる。さらに、骨診断工程によって、骨密度に関する第1指標と、骨の配向性に関する前記第2指標の両方を用いて骨強度を診断することにより、どちらか一方の指標だけを用いる場合に比べて、より正確に骨強度を診断することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本実施形態の骨強度診断装置1は、超音波を測定部位の骨に放射し、骨の表面に表面波を発生させ、その表面波から漏れる漏洩波を受波することにより、表面波の音速を測定し、さらに、得られた音速から骨強度を診断する装置である。
【0016】
骨強度診断装置1は、脛骨内側面31を測定部位とする。脛骨は、長管状骨の一種であり、図2に示すように、脛骨の皮質骨30は、長軸方向に直交する方向の断面形状が略三角形状である。測定部位である脛骨内側面31とは、この断面略三角形状を構成する3つの面のうち、体の内側(図2中の右側)に位置する面のことである。脛骨内側面31は一定の長さにおいて平坦性を有している。また、この脛骨内側面31を覆う筋肉などの軟組織40の厚みは比較的薄い。そのため、脛骨内側面31と皮膚表面41はほぼ平行である。これにより、後述する表面波を発生させることができると共に、表面波の伝搬距離を確保することができる。
【0017】
尚、以下の骨強度診断装置1の説明において、脛骨の長軸方向を縦方向、脛骨の長軸方向に直交する方向であって図2に示す脛骨内側面31の方向を横方向と定義する。また、脛骨内側面31及び脛骨の皮質骨30を、単に骨表面31及び骨30と表現する。また、本発明の第1方向及び第2方向は、それぞれ横方向及び縦方向に相当する。
【0018】
図1に示すように、骨強度診断装置1は、横方向用超音波送受波器2と、縦方向用超音波送受波器3と、装置本体4とを備える。横方向用超音波送受波器2と縦方向用超音波送受波器3は、それぞれ装置本体4にケーブルを介して接続されている。
【0019】
横方向用超音波送受波器2は、骨表面31に超音波を放射し、骨表面31に沿って横方向に伝搬する超音波(表面波)を発生させると共に、この表面波から軟組織40側に漏洩する超音波(漏洩波)を受波する。また、縦方向用超音波送受波器3は、骨表面31に超音波を放射し、骨表面31に沿って縦方向に伝搬する超音波(表面波)を発生させるとともに、この表面波から軟組織40側に漏洩する超音波(漏洩波)を受波する。横方向用超音波送受波器2及び縦方向用超音波送受波器3としては、それぞれ超音波の送波及び受波を1台で行う超音波トランデューサと呼ばれる機器が用いられる。尚、図2は、横方向用超音波送受波器2を使用している状態を示した図であり、図1及び図3は、縦方向用超音波送受波器3を使用している状態を示した図である。
【0020】
図2及び図3に示すように、横方向用超音波送受波器2及び縦方向用超音波送受波器3は、皮膚表面41に当接する当接面8a、8bをそれぞれ備える。尚、横方向用超音波送受波器2及び縦方向用超音波送受波器3を使用する際、皮膚表面41には超音波ゼリーが塗られる。
【0021】
図2に示すように、横方向用超音波送受波器2は、超音波を送波する送波部5aと、超音波を受波する2つの受波部6a、7aとを備える。当接面8aが皮膚表面41の所定の位置に当接した状態において、送波部5a、受波部6a、受波部7aは、それぞれ所定の間隔を空け、この順で横方向に並んでいる。
【0022】
送波部5aは、装置本体4から送信される電気パルス信号を受信することにより、所定の周波数の超音波パルスAaを放射する。送波部5aとしては、指向性の広い超音波を放射するものが用いられる。送波部5aは、当接面8aが皮膚表面41の所定の位置に接触した状態において、送波部5aから放射される超音波Aaが骨表面31に臨界角付近で入射するように設定される。指向性が広い送波部5aを用いることにより、厳密に入射角を設定しなくても、超音波を臨界角で骨表面31に入射させることが可能となる。また、臨界角は、軟組織40中の音速と後述する表面波の音速とによって求められる。そのため、指向性の広い送波部5aを用いることにより、表面波の音速が被験者によって異なる場合であっても超音波を臨界角で骨表面31に入射させることが可能となる。
【0023】
送波部5aから超音波パルスAaが放射され、骨表面31に対して臨界角で入射すると、骨表面31に表面波Baが発生する。表面波Baは、軟組織40側の所定の方向(例えば、C1a、C2aの方向)に漏洩波を放射しつつ、骨表面31に沿って横方向に伝搬する。
【0024】
2つの受波部6a、7aは、それぞれ所定の距離L1a、L2a伝搬した表面波Baからそれぞれ放射される漏洩波C1a、C2aを受波する。また、受波部6a、7aは漏洩波C1a、C2aをそれぞれ受波すると同時に、装置本体4に到達信号をそれぞれ送信する。
【0025】
図3に示すように、縦方向用超音波送受波器3は、横方向用超音波送受波器2と同様に、超音波を送波する送波部5bと、超音波を受波する2つの受波部6b、7bとを備える。当接面8bが皮膚表面41の所定の位置に当接した状態において、送波部5b、受波部6b、受波部7bは、それぞれ所定の間隔を空け、この順で縦方向に並んでいる。
【0026】
送波部5bは、装置本体4から送信される電気パルス信号を受信することにより、所定の周波数の超音波パルスAbを放射する。送波部5aとしては、指向性の広い超音波を放射するものが用いられる。送波部5bは、当接面8bが皮膚表面41の所定の位置に接触した状態において、送波部5bから放射される超音波Abが骨表面31に臨界角付近で入射するように設定される。
【0027】
送波部5bから超音波パルスAbが放射され、骨30に対して臨界角で入射すると、骨表面31に表面波Bbが発生する。表面波Bbは、軟組織40側の所定の方向(例えば、C1b、C2bの方向)に漏洩波を放射しつつ、骨表面31に沿って縦方向に伝搬する。
【0028】
2つの受波部6b、7bは、それぞれ所定の距離L1b、L2b伝搬した表面波Bbからそれぞれ放射される漏洩波C1b、C2bを受波する。受波部6b、7bは漏洩波C1b、C2bをそれぞれ受波すると同時に、装置本体4に到達信号をそれぞれ送信する。
【0029】
図1に示すように、装置本体4は、超音波制御部20と、音速算出部21と、第1指標算出部22と、第2指標算出部23と、骨診断部24と、表示部25等から構成される。尚、超音波制御部20、音速算出部21、骨特性評価部22、及び、骨診断部24は、ROM、RAM、CPU等から構成される。尚、本発明の音速測定手段は、縦方向用超音波送受波器3と、縦方向用超音波送受波器3と、超音波制御部20と、音速算出部21とから構成される。
【0030】
超音波制御部20は、横方向用超音波送受波器2及び縦方向用超音波送受波器3の送波部5a、5bから所定の周波数の超音波パルスAa、Abを放射するための電気パルス信号を生成し、この電気信号を横方向用超音波送受波器2及び縦方向用超音波送受波器3に送信する。
【0031】
音速算出部21は、横方向用超音波送受波器2の受波部6a、7aから送信された到達信号の時間差等に基づいて、骨表面31を横方向に伝わる表面波Baの音速Vaを算出する。また、音速算出部21は、縦方向用超音波送受波器3の受波部6b、7bから送信された到達信号の時間差等に基づいて、骨表面31を縦方向に伝わる表面波音速Vbを算出する。
【0032】
横方向の表面波Baの音速Vaを算出する場合について具体的に説明する。先ず、受波部6a、7aからそれぞれ送信された到達信号の時間差ΔTaを算出する。送波部5aから受波部6aまでの超音波の経路と、送波部5aから受波部7aまでの超音波の経路との差は、横方向の表面波Baの伝搬距離の差ΔLa(L2a−L1a)だけである。即ち、表面波Baは時間ΔTaの間に、距離ΔLaだけ進んでいる。また、上述したように骨表面31と皮膚表面41とは、ほぼ平行であるため、表面波Baの伝搬距離の差ΔLaは、受波部6aと受波部7aとの離隔距離ΔDaにほぼ等しい。従って、横方向の表面波Baの音速Vaは、Va=ΔDa/ΔTaにより算出される。
【0033】
また、縦方向の表面波Bbの音速Vbを算出する場合、受波部6b、7bからそれぞれ送信された到達信号の時間差をΔTb、受波部6bと受波部7bとの離隔距離をΔDbとすると、縦方向の表面波Bbの音速Vbは、Vb=ΔDb/ΔTbにより算出される。
【0034】
第1指標算出部22は、音速算出部21で算出された横方向の表面波音速Vaを骨密度に関する第1指標とする。第2指標算出部23は、音速算出部21で算出された縦方向及び横方向の表面波音速Vb、Vaを用いて、骨の配向性に関する第2指標を算出する。骨診断部24は、第1指標算出部22及び第2指標算出部23で算出された第1指標及び第2指標の両方に基づいて、骨強度を診断する。尚、第1指標算出部22、第2指標算出部23、及び、骨診断部24については、後に詳しく説明する。
【0035】
表示部25は、骨診断部24による診断結果を、骨特性評価部22によって算出された第1指標及び第2指標とともに表示する。
【0036】
ここで、表面波音速と、骨密度及び骨の配向性と、骨強度との関係について説明する。
【0037】
骨強度は、骨の配向性と骨密度とによってほぼ決定されると考えられる。骨密度は、骨量の評価指標であり、骨の詰まり具合を示す。骨密度が高いほど高強度である。一方、骨の配向性は、骨質を評価する重要な指標の1つである。骨は、ハイドロキシアパタイト(HAp)結晶と、繊維状のコラーゲンとが規則的に配列された構造を有しており。HAp結晶の配向性とは、HAp結晶の配列方向や配列度合い(結晶の揃い具合)を表す。また、繊維状コラーゲンもHAp結晶の配列方向とほぼ同じ方向に走行している。脛骨を含む長管状骨は、HAp結晶のc軸が長軸方向に沿って配列する1軸配向性と呼ばれる特徴を有している。一般的に、ある配列方向においてHAp結晶の配列度合いが高いほど、その配列方向において骨強度は高いと判断することができる。しかし、例えば、骨粗鬆症により骨密度が低下すると、荷重が作用する方向に関して配向性が高くなる場合がある。これは、低下した骨強度を補う作用が働くためと考えられる。このように特定の方向の配向性のみが極端に高くなる場合には、他の方向の配向性が低くなり、その方向に関して骨強度が弱くなる場合がある。
【0038】
また、骨の表面波音速は、骨密度と骨の配向性(HAp結晶の配向性とコラーゲンの配向性)の両方の影響を受けていると考えられる。同じ配向性の場合、骨密度が高いほど表面波音速は速くなり、同じ骨密度の場合、配向性が高いほど表面波音速は速くなると考えられる。
【0039】
図4は、脛骨の横方向及び縦方向の表面波音速と、骨密度との関連性を示すグラフである。図4は、縦軸を縦方向の表面波音速、横軸を横方向の表面波音速としている。先ず、複数の被験者の脛骨の横方向及び縦方向の表面波音速を測定した。また、同じ被験者達の踵骨について、超音波骨密度測定装置(古野電気株式会社製CM−200)を用いて骨密度をそれぞれ測定した。そして、図4において、骨密度の上位4名について、横方向及び縦方向の表面波音速の測定結果を記号「○」で表示し、骨密度の下位5名について、横方向及び縦方向の表面波音速の測定結果を記号「×」で表示した。尚、踵骨の骨密度の測定に用いた超音波骨密度測定装置は、超音波送波器と超音波受波器で踵骨を挟み込み、踵骨内を通過する超音波の音速を測定することにより、骨密度を算出している。通常、ある部位の骨密度が高い場合、他の部位の骨密度も高くなると推定できる。従って、踵骨の骨密度が高い場合、脛骨の骨密度も高いものとする。
【0040】
図4に示すように、骨密度の高い4名の横方向の表面波音速は、比較的速い。また、骨密度の低い5名の横方向の表面波音速は、比較的遅い。従って、横方向の表面波音速は、骨密度と相関性を有しており、横方向の表面波音速が速い場合、骨密度は高いと判断することができる。これは、横方向の表面波が、前述した脛骨の1軸配向性による配列方向を横断して伝搬しており、そのため、横方向の表面波音速は、配向性の影響をあまり受けず、骨密度の影響を大きく受けていることに起因すると考えられる。
【0041】
一方、図4に示すように、骨密度の高い4名は、縦方向の表面波音速が比較的速い者もいれば、比較的遅い者もいる。従って、縦方向の表面波音速が速い(又は遅い)からといって、骨密度が高いとは言えない。これは、縦方向の表面波が、前述した脛骨の1軸配向性による配列方向に沿って伝搬しており、そのため、縦方向の表面波音速は、配向性と骨密度の両方の影響を大きく受けていることに起因すると考えられる。
【0042】
以上のことから、第1指標算出部は、横方向の表面波音速Va自体を、骨密度を評価する指標(第1指標)として用いる。
【0043】
また、縦方向の表面波音速は、骨密度と配向性の両方の影響を受けており、一方、横方向の表面波音速は、配向性の影響が小さく、骨密度の影響が大きいと考えられる。そのため、縦方向の表面波音速を横方向の表面波音速で割った値は、骨密度の影響が相殺されて、配向性と相関性を有すると考えられる。従って、例えば、図4に示す骨密度の小さい5名のうち、縦方向の表面波音速の最も速いWは、縦方向の表面波音速を横方向の表面波音で割った値が比較的高いため、配向性は高いと判断することができる。
【0044】
以上のことから、第2指標算出部23は、縦方向の表面波音速Vbを横方向の表面波音速Vaで割った値Vb/Vaを算出し、この値Vb/Vaを、配向性を評価する第2指標とする。
【0045】
また、上述したように、骨強度は、骨密度と骨の配向性とによってほとんど決定され、骨密度と骨の配向性は、互いに独立した骨強度の指標である。そのため、骨診断部24は、第1指標と第2指標に基づいて、骨強度を診断する。第1指標が所定の値よりも大きければ、骨密度の観点からは骨強度は十分であると診断できる。また、第2指標は、第1指標と照らし合わせて用いられる。例えば、第1指標が所定の値より小さく、第2指標が所定の範囲よりも大きい値である場合には、骨密度は小さいが配向性が高い。この場合は、例えば、骨粗鬆症により骨密度が低下したため、負荷荷重により長軸方向の配向性が高くなったと考えられる。この場合には、特に長軸方向以外の方向に関して骨強度が低いと診断する。骨密度と骨の配向性の両方に基づいて骨強度を診断することにより、どちらか一方の指標に基づいて診断する場合に比べて、より正確に骨強度を診断することができる。特に、骨粗鬆症や、小児等の骨成長により骨密度及び骨の配向性が変化している場合には、両方の指標を用いることにより、一方の指標を用いる場合に比べて、より正確に骨の状態を把握して診断することができる。
【0046】
次に、骨強度診断装置1を用いて骨強度を診断する際の処理手順について説明する。先ず、横方向用超音波送受波器2の当接面8aを、超音波ゼリーが塗られた測定部位の骨30を覆う皮膚表面41に当接させる。この状態で、操作者が装置本体4に設けられたスイッチを投入する。これにより装置本体4の超音波制御部20から横方向用超音波送受波器2に電気信号が送信される。横方向用超音波送受波器2は、電気信号を受信すると、送波部5aから骨表面31に対し所定の斜め方向に超音波パルスAaを放射する。放射された超音波パルスAaは、軟組織40を伝搬して臨界角で骨30に入射し、骨表面31に表面波Baを発生させる。この表面波Baは、軟組織40側に漏洩しながら骨表面31を横方向に伝搬する。表面波Baが所定の距離L1a、L2aを伝搬した後に漏洩した漏洩波C1a、C2aが、それぞれ受波部6a、7aによって受波される。受波部6a、7aは、それぞれ漏洩波C1a、C2aを受波すると同時に、装置本体4に対して到達信号を送信する。
【0047】
次に、縦方向用超音波送受波器3の当接面8bを、超音波ゼリーが塗られた測定部位の骨30を覆う皮膚表面41に当接させ、装置本体4のスイッチを投入する。これにより装置本体4の超音波制御部20から縦方向用超音波送受波器3に電気信号が送信される。縦方向用超音波送受波器は3、電気信号を受けると、送波部5bから骨表面31に対し所定の斜め方向に超音波パルスAbを放射する。放射された超音波パルスAbは、軟組織40を伝搬して臨界角で骨30に入射し、骨表面31に表面波Bbを発生させる。この表面波Bbは、軟組織40側に漏洩しながら骨表面31を縦方向に伝搬する。表面波Bbが所定の距離L1b、L2bを伝搬した後に漏洩した漏洩波C1b、C2bが、それぞれ受波部6b、7bによって受波される。受波部6b、7bは、それぞれ漏洩波C1b、C2bを受波すると同時に、装置本体4に対して到達信号を送信する
【0048】
装置本体4の音速算出部21は、横方向用超音波送受波器2から送信された2つの到達信号の時間差ΔTaと、受波部6a、7aの離隔距離ΔDaを基にして、横方向の表面波Baの音速Vaを算出する。同様に、縦方向用超音波送受波器3から送信された2つの到達信号の時間差ΔTbと、受波部6b、7bの離隔距離ΔDbを基にして、縦方向の表面波Bbの音速Vbを算出する。
【0049】
次に、第1指標算出部22によって、横方向の表面波音速Vaを用いた第1指標が得られる。また、第2指標算出部23によって、縦方向の表面波音速Vbを横方向の表面波音速Vaで割った値が算出され、第2指標が得られる。
【0050】
次に、骨診断部24が、第1指標と第2指標に基づいて骨強度を診断する。そして、骨診断部24の診断結果を、第1指標及び第2指標とともに、表示部25が表示する。
【0051】
尚、本実施形態の骨強度診断装置1は、以下のように変更して実施することができる。
1]測定部位は、脛骨に限定されるものではない。脛骨以外の長管状骨を用いてもよい。
【0052】
2]横方向用超音波送受波器2又は縦方向用超音波送受波器3は、それぞれ1つの送波部と2つの受波部とを有する構成でなくてもよい。例えば、2つの送波部と1つの受波部とを有する構成であってもよい。また、1つの送波部と1つの受波部とを有し、送波部と受波部の何れか一方が他方に対して相対移動可能な構成であってもよい。また、1つの送波部と3つ以上の受波部を有する構成であってもよい。
【0053】
3]横方向用超音波送受波器2と縦方向用超音波送受波器3は、別々のものでなくてもよい。即ち、横方向と縦方向の両方で兼用できる1つの超音波送受波器を用いてもよい。
【0054】
4]測定される表面波の方向は、横方向(長軸方向に直交する方向)と縦方向(長軸方向)に限定されず、横方向以外の長軸方向に交差する方向と縦方向であってもよい。
【0055】
5]本発明の音速測定手段は、横方向用超音波送受波器2と、縦方向用超音波送受波器3と、超音波制御部20と、音速算出部21とから構成されるものに限定されない。例えば、音速算出手段は、反射波などのノイズを除去する公知の手段を備える構成であってもよい。
【0056】
6]第1指標算出部22によって得られる第1指標は、横方向の表面波音速Va自体に限定されず、音速Vaに基づいて算出された値を用いることができる。例えば、横方向の表面波音速Vaと軟組織の厚み等とに基づいて算出された値を第1指標としてもよい。
【0057】
7]第2指標算出部23によって得られる第2指標は、縦方向の表面波音速Vbを横方向の表面波音速Vaで割った値に限定されず、音速Vaと音速Vbに基づいて別の方法で算出された値を用いることができる。
【0058】
8]骨強度診断装置1は、縦方向用超音波送受波器3、及び、第2指標算出部23を備えていなくてもよい。この場合、骨診断部24は、横方向の表面波音速Vaから得られる第1指標が所定の値よりも大きければ、骨密度が高く、骨強度が高いと診断する。これにより、縦方向の表面波の音速のみに基づいて骨強度を診断している従来の装置よりも正確に骨強度を診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の実施形態の骨強度診断装置を示す図である。
【図2】横方向用超音波送受波器を用いた場合の断面図である。
【図3】縦方向用超音波送受波器を用いた場合の断面図である。
【図4】脛骨の縦方向及び横方向の表面波音速と、踵骨の骨密度との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0060】
1 骨強度診断装置
2 横方向用超音波送受波器
3 縦方向用超音波送受波器
4 装置本体
5a、5b 送波部
6a、6b、7a、7b 受波部
8a、8b 当接面
20 超音波制御部
21 音速算出部
22 第1指標算出部
23 第2指標算出部
24 骨診断部
30 骨
31 骨表面
40 軟組織
41 皮膚表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を用いて骨強度を診断する骨強度診断装置であって、
超音波を長管状の骨の表面に放射し、前記骨の表面において、その長軸方向に交差する第1方向に沿って伝搬する超音波の音速を測定する音速測定手段と、
前記音速測定手段により測定された前記第1方向の音速を用いて、骨密度に関する第1指標を算出する第1指標算出手段と、
前記第1指標算出手段により算出された前記第1指標に基づいて、骨強度を診断する骨診断手段と、
を備えていることを特徴とする骨強度診断装置。
【請求項2】
前記音速測定手段が、さらに、前記骨の長軸方向に平行な第2方向に沿って伝搬する超音波の音速を測定するものであり、
前記音速測定手段により測定された前記第2方向の音速と、前記第1方向の音速とを用いて、骨の配向性に関する第2指標を算出する第2指標算出手段をさらに備え、
前記骨診断手段は、骨密度に関する前記第1指標と、骨の配向性に関する前記第2指標の両方から、骨強度を診断することを特徴とする請求項1に記載の骨強度診断装置。
【請求項3】
前記第1方向が、前記骨の長軸方向に直交する方向であることを特徴とする請求項1又は2に記載の骨強度診断装置。
【請求項4】
超音波を用いて骨強度を診断する方法であって、
超音波を長管状の骨の表面に放射し、前記骨の表面において、その長軸方向に交差する第1方向に沿って伝搬する超音波の音速と、前記長軸方向に平行な第2方向に沿って伝搬する超音波の音速とをそれぞれ測定する音速測定工程と、
前記音速測定工程で測定された前記第1方向の音速を用いて、骨密度に関する第1指標を算出する第1指標算出工程と、
前記音速測定工程で測定された前記第2方向の音速と、前記第1方向の音速とを用いて、骨の配向性に関する第2指標を算出する第2指標算出工程と、
骨密度に関する前記第1指標と、骨の配向性に関する前記第2指標の両方から、骨強度を診断する骨診断工程と、
を備えることを特徴とする骨強度診断方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−57520(P2010−57520A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−141555(P2007−141555)
【出願日】平成19年5月29日(2007.5.29)
【出願人】(000166247)古野電気株式会社 (441)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】