説明

超音波ショットピーニング装置及び超音波ショットピーニング方法

【課題】 原子炉容器蓋の下面と管台とのJ溶接部及びJ溶接部に隣接する面を、効果的にショットピーニング施工する。
【解決手段】 支持部材130により支持されたディスク140と、このディスク140の上方に向けてショット190を弾き出す超音波ピーニングヘッド150は、回転機構120により一体に水平面内で回転される。また、チャンバー160はチャンバー昇降機構170により上昇して、その上縁が蓋3の下面に密着する。チャンバー160内において、弾き出されたショット190は、J溶接部8や、J溶接部8に隣接する蓋3の下面や管台6の外周面に衝突してピーニング処理する。ピーニング処理して落下してきたショット190は、ディスク140の上面が傾斜しているのでこの上面を転がり、振動子153の上面に落下してくる。これにより、ピーニング施工を連続して持続することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波ショットピーニング装置に関し、壁面(原子炉容器の蓋の下面など)から突起物(管台など)が下方に向かって林立している狭隘な空間であってもショットピーニング施工を行うことができるように工夫したものである。
本発明は、例えば、加圧水型の軽水炉原子力発電設備において、高温水中における応力腐蝕割れが懸念される部位に対してショットピーニング施工をすることにより、当該部位の引張残留応力を有効かつ能率よく低減することができる、超音波ショットピーニング装置を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
図16に加圧水型軽水炉の原子炉容器1を示す。
原子炉容器1は、原子炉冷却材圧力バウンダリとしての機能を維持しつつ、燃料集合体2を収納し、熱水を発生する。このとき、蓋3に取付けられている制御棒駆動装置4により制御棒5の位置を調整することにより、燃料集合体2の発熱量(出力)が制御され、熱水の温度制御がされる。
【0003】
原子炉冷却材圧力バウンダリにはニッケルクロム鉄合金材(600合金)が各部位に用いられている。この材料は、高温の加圧水型軽水炉一次系水中において高い引張応力が生じている場合、応力腐蝕割れが発生する可能性がある。このため、製造時の溶接等に伴う引張残留応力を低減し、当該部の発生応力の低減化が必要とされている。
【0004】
図17に加圧水型軽水炉の原子炉容器1の蓋3を示す。ニッケルクロム鉄合金製の制御棒駆動軸ハウジング(以下「管台」と略称)6は、蓋3を上下方向(鉛直方向)に沿い貫通している。この管台6内にはサーマルスリーブ7が挿通されており、サーマルスリーブ7の下端には口金(ファネル)7aが備えられている。ただし、新設の蓋3に施工する際は、サーマルスリーブ7の下端にファネル7aがない場合もある。制御棒駆動装置の制御棒駆動軸は、管台6のサーマルスリーブ7内に収納されている。
なお、図17は、蓋3が原子炉容器1から取り外されて架台K上に載せた状態を示している。
【0005】
管台6と蓋3とは、蓋3の下面(内面)側で溶接されている(以下この溶接部分をJ溶接部8と略称する)。制御棒駆動軸を収納する管台6は、原子力発電設備の出力容量により異なり、100万キロワットクラスでは60本以上に達し、林立した状態で蓋3に取付けられている。
なお、J溶接部8は、溶接部分の形状が「J」形になっているので、このように「J溶接部」と称呼されている。
【0006】
図18に管台6のJ溶接部8の近傍を示す。ニッケルクロム鉄合金製の管台6は、蓋3を貫通した状態でこの蓋3の下面側に突き出ており、その付け根でニッケルクロム鉄合金の溶接金属で蓋3に溶接され固定されている。J溶接部8は溶接したままの状態であり、溶接残留応力が存在する状態で一次系水に長時間にわたり晒される。この結果、J溶接部8において、溶接金属およびその周辺の応力腐蝕割れが懸念されている。
【0007】
J溶接部8の残留応力改善(低減)法の一つにショットピーニング法が考えられ、溶接金属および溶接金属に隣接する原子炉容器蓋の下面と管台の外周面の領域がピーニングの対象となる。
【0008】
このようなピーニング施工の対象領域は以下のような、特別な条件・状態がある。
(1)新設の場合はもちろん、既設の原子力発電設備においても、蓋は定期検査時には原子炉容器から取外され、気中で施工する必要がある。
(2)管台が林立し、施工に利用できる空間が狭隘。
(3)蓋の下面(内面)の対象領域は、管台の上蓋における位置により、蓋下面の姿勢(勾配)が水平姿勢から大きく変化する。また蓋の下面と管台の外周面との交差点の位置も異なり、かつ同一の管台でもその周囲位置によっても異なる。
(4)管台の外周面の対象領域は、蓋の下面の姿勢と大きく異なる鉛直姿勢である。
(5)引張残留応力場は、蓋の下面は管台の外周面から数10mm、管台の外周面は蓋の下面から下方数10mmと広範囲にわたっている。
【0009】
図19は、一般に利用されている従来のショットピーニング法である。図19に示すように、ノズル20にエア21とショット22を供給し、ショット22をエア21で搬送し、施工対象物23に投射する。施工対象物23にショット22を投射すると、施工対象物23の表面近傍に塑性ひずみが付与されて、表面近傍の残留応力が改善(低減)する。
【0010】
図19に示す、従来のショットピーニング法では、ショット22は気体(エア21)で搬送するため、ショット22の直径は、通常0.2〜0.3mm程度の小径である。
【0011】
図19に示す従来のショットピーニング法では、次のような問題がある。
(1)付与する塑性ひずみは、ショットの運動エネルギーに依存する。従来のショットピーニング法では、ショット22の直径が小さいためショット22の運動エネルギーが小さく、表面からの残留応力改善層は比較的浅い。
(2)ショットが小径のため飛行中の減速が著しく、投射距離(対象物までの距離)は比較的短い範囲に限られる。
(3)また、投射後の多数の微細なショット22が粉塵となり、多くの粉塵が発生する。このため粉塵(投射後のショット22)が原子力発電設備に異物となって残留し、原子力発電設備の機能を損なう可能性があるとともに、作業環境の劣化を招く欠点がある。
【0012】
【特許文献1】特開2004−169100
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述したように、図19に示すショットピーニング法にて、J溶接部の残留応力低減を図る場合には、次の問題がある。
(1)適正投射距離(ノズルと施工対象物との間の距離)が高々数10mmであるため、ピーニングヘッドを、林立する管台の狭隘な間隙に挿入・位置決めする必要があり、装置が複雑となって、その製作が困難。
(2)残留応力の改善は、その信頼性を得るため表面からある程度の深さまで必要であるが、本法の特性からこの要求達成が困難。
(3)粉塵の発生は避けられず、原子力発電設備の異物として残留する可能性がある。
【0014】
本発明は、上記従来技術に鑑み、上記のような特別な条件・状態があるJ溶接部のように、突起物が林立して狭隘な空間であっても、高能率で効果的なショットピーニング施工ができる超音波ショットピーニング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決する本発明の構成は、
壁面とこの壁面から下方に突出している突起物からなる施工対象物に対してショットピーニング施工する超音波ショットピーニング装置であって、
略水平状態に配置されている板状の部材であり、上下方向に貫通する回収孔が形成されると共に、上面は回収孔に近づくに従い下方に下がっていく傾斜面となっているディスクと、
超音波発振素子と振動子とで構成されており、前記振動子が前記ディスクに形成された前記回収孔に下方側から挿入されている超音波ピーニングヘッドと、
前記ディスク及び前記超音波ピーニングヘッドを一体として水平面内で回転させる回転機構と、
前記ディスクの外周面に接しつつこの外周面を囲う状態で配置された筒状をなし、上縁は前記壁面のうちショットピーニング施工をする部分の傾斜と同じ傾斜になっているチャンバーと、
前記チャンバーを昇降移動させるチャンバー昇降機構と、
前記ディスクと前記チャンバーで囲う空間に装填されたショットと、
を有することを特徴とする。
【0016】
また本発明の構成は、
原子炉容器の蓋の下面と、前記蓋を上下方向に貫通する管台の外周面を、前記蓋の下面側で溶接した当該溶接部分及び当該溶接部分に隣接する面に対してショットピーニング施工する超音波ショットピーニング装置であって、
ベース板と、
前記ベース板の上面に配置されて水平面内で回転する回転機構と、
前記回転機構上に立設された支持部材と、
前記支持部材により略水平状態で支持されている板状の部材であり、中央部には前記支持部材の上部または前記管台に嵌合する取付孔が形成されると共に、上下方向に貫通する回収孔が形成され、上面は回収孔に近づくに従い下方に下がっていく傾斜面となっているディスクと、
前記支持部材により支持されると共に、超音波発振素子と振動子とで構成されており、前記振動子が前記ディスクに形成された前記回収孔に下方側から挿入されている超音波ピーニングヘッドと、
前記ディスクの外周面に接しつつこの外周面を囲う状態で配置された筒状をなし、上縁は前記蓋の下面のうちショットピーニング施工をする部分の傾斜と同じ傾斜になっている
チャンバーと、
前記チャンバーを前記ベース板に対して昇降移動させるチャンバー昇降機構と、
前記ディスクと前記チャンバーで囲う空間に装填されたショットと、
を有することを特徴とする。
【0017】
また本発明の構成は、
前記超音波ピーニングヘッドにより上方に、超音波ピーニングヘッドにより弾き出されたショットが衝突して反射する位置に配置されており、反射後のショットの進行方向を変更する反射板を備えていることを特徴とする。
【0018】
また本発明の構成は、
前記回転機構は、回転を開始し始めてから予め決めた所定角度回転したらその回転位置で一定時間停止し、一定時間が経過したら再び回転して予め決めた所定角度回転したらその回転位置で一定時間停止する、という間欠的な回転動作を繰り返すことを特徴とする。
【0019】
また本発明の構成は、
前記ショットは、直径が2〜4mmであったり、
前記ショットは、材質がニッケル基合金のうち、時効処理した析出強化型合金インコネル718であったり、
前記各ショットの投影断面積の和が、前記振動子のヘッド面の面積の100〜400%となるように、前記ショットの数量を選定していることを特徴とする。
【0020】
また本発明の構成は、
前記ディスクの前記上面の上方に配置されており、下方から投射された前記ショットをガイドして無用な拡散を抑制するとともに、上方から落下してきた前記ショットをガイドして前記回収孔内に直接落下させる仕切り板を備えていたり、
ることを特徴とする超音波ショットピーニング装置。
上方から落下してきた前記ショットをガイドして前記回収孔内に直接落下させるため、上方及び下方、またはいずれか一方が開いたショット案内を、前記ディスクの前記上面の上方に配置していることを特徴とする。
また前記仕切り板は、前記回収孔を間に挟んで相対面する状態で配置された一対の仕切り板であったり、
前記仕切り板は、前記回収孔よりも外周側に配置された一枚の仕切り板であることを特徴とする。
【0021】
また本発明の構成は、
前記ディスクに形成した前記回収孔の上縁には、回収孔に近づくに従い下方に下がっていく傾斜となっている傾斜面が形成されていることを特徴とする。
【0022】
また本発明の構成は、
前記振動子の上面であるヘッド面には、上方に向かって凸となった曲率、または、下方に向かって凹となった曲率が付与されていることを特徴とする。
【0023】
また本発明の構成は、
前記超音波ピーニングヘッドの動作状態を監視する衝撃センサを備えたことを特徴とする。
【0024】
また本発明の構成は、
前記振動子の上面であるヘッド面は、円形、または、矩形、または台形であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明の超音波ショットピーニング装置によれば、壁面(原子炉容器の蓋の下面など)に密接するチャンバーと、落下してきたショットを回収するディスクと、壁面,突起物(管台等),チャンバー及びディスクで囲んだ空間内に、回収したショットを弾き出す超音波ピーニングヘッドを備えているため、壁面(原子炉容器の蓋の下面など)から突起物(管台など)が下方に向かって林立している狭隘な空間であっても、壁面や突起物に対して、効果的にショットピーニング施工を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明を実施するための最良の形態を以下に説明する。
図1は本発明の実施例の原理構成を示すものである。この超音波ショットピーニング装置30は、超音波ピーニングヘッド31と、チャンバー32と、ショット33を主要部材として構成されている。
【0027】
超音波ピーニングヘッド31は、超音波発振素子であるピエゾ素子31aと、ピエゾ素子31aが発振した振動を増幅するブースターとして機能する振動子31bとで形成されている。振動子31bの上端は、チャンバー32の下端に挿入されている。チャンバー32は、このチャンバー32の内周面と、振動子31bの上端面であるヘッド面と、施工対象物35の表面とにより、閉じたピーニング空間を形成する。そして、この閉じたピーニング空間内に、時効処理した析出強化型合金インコネル718を材質とした、直径が2〜4mmのショット33を入れている。
【0028】
図1に示す超音波ショットピーニング装置30では、ピエゾ素子31aの超音波振動を利用して振動子31bのヘッド面(上端面)からショット33を、ほぼ鉛直方向に弾き出す。弾き出されたショット33は、チャンバー32で区切られた空間内で、施工対象物35と振動子31bの間で往復運動する。これにより、ショット33が施工対象物35の表面に衝突してこの表面近傍に塑性ひずみを付与して残留応力を改善(低減)する。
【0029】
この超音波ショットピーニング装置30では、質量の大きい振動子31bの振動によりショット33を弾き出すため、ショット33として数mm径の大径のショットが使用できる。このためショット33の運動エネルギーが大きく、残留応力改善は比較的深い位置まで可能である。また数100mmの長投射距離条件でも施工することができる。
【実施例1】
【0030】
次に本発明の実施例1に係る超音波ショットピーニング装置100を、図2〜図5を参照して説明する。
【0031】
<実施例1全体の主要構成>
図2に示すように、この超音波ショットピーニング装置100は、昇降装置であるリフター200に載置されて昇降されるものであり、上方に持ち上げられた状態で、J溶接部8及びその近傍をショットピーニング施工するものである。
【0032】
即ち、原子炉容器の蓋3には、上下方向(鉛直方向)に沿い管台6が貫通しており、この管台6が蓋3の内面側(下面側)から下方に突き出ている。そして、管台6の外周面と蓋3の下面とが溶接されてJ溶接部8となっている。つまり、蓋3の下面側において管台6と蓋3との溶接が行われてJ溶接部8となっている。そして、J溶接部8、及び、蓋3の下面のうちJ溶接部8の隣接部分、並びに、管台6の外周面のうちJ溶接部8の隣接部分を、この実施例1に係る超音波ショットピーニング装置100により、ショットピーニング施工するものである。
【0033】
超音波ショットピーニング装置100のベース板110は、リフター200上に載置される。このベース板110の上面側には、水平面内で回転する回転機構120が配置されている。この回転機構120上には、円筒(シリンダ)状の支持部材130が立設されており、超音波ショットピーニング装置100が上方に持ち上げられたときには、サーマルスリーブ7が、支持部材130の内部空間に挿通していく。
【0034】
支持部材130の上部には、この支持部材130に対して同心状に円環板状のディスク140が略水平状態になって環装されている。
ディスク140には、図3及び図4にも示すように、上下(鉛直)方向に貫通する1つの回収孔141が形成されている。更に、ディスク140の上面142は、回収孔141に近づくに従い下方に下がっていく勾配面となっている。
なお、ディスク140は、その中央部分に取付孔143が形成されて、円環板状になっている。本実施例1では、支持部材130の上部がこの取付孔143に緊密に嵌合しているが、図14に示すように、ディスク140を支持部材130A上端にて支持しつつ、ショットピーニング施工の際に管台6がディスク140の取付孔143に緊密に嵌合するような構成にしてもよい。
【0035】
超音波ピーニングヘッド150は、超音波発振素子であるピエゾ素子151と、ピエゾ素子151が発振した振動を増幅するブースターとして機能する振動子152とで形成されている。
【0036】
この超音波ピーニングヘッド150は、支持部材130にて支持されており、その振動子152の上部が、ディスク140の回収孔141内に下方側から緊密に挿入されている。そして、振動子152の上面であるヘッド面153が、回収孔141内に臨み、回収孔141の下面をヘッド面153が塞ぐ状態となっている。
このためピエゾ素子151が超音波発振すると、振動子152並びにそのヘッド面153が、ディスク140の回収孔141内において、上下(鉛直)方向に振動する。
【0037】
円筒状のチャンバー160は、ディスク140の外周面に緊密に接しつつこの外周面を囲う状態で配置されている。このチャンバー160は、チャンバー昇降機構170により、ベース板110に対して昇降移動することができる。図2はチャンバー160が上方移動した状態を、図5はチャンバー160が下方移動した状態を示す。なお、ディスク140の外周面と、チャンバー160の内周面とは、緊密に接触している。
【0038】
チャンバー160の上縁は、蓋3の下面のうち、この超音波ショットピーニング装置100によりショットピーニング施工をする部分を囲む部位の傾斜と同じ傾斜になっている。このため、チャンバー160を上昇させ、チャンバー160の上縁が蓋3の下面に接触したときに、チャンバー160の上縁は隙間無く蓋3の下面に緊密に接触することができるようになっている。更に、チャンバー160の上縁には、弾性材からなるシール180を備えている。
【0039】
チャンバー160としては、上縁の傾斜が異なる複数種類のものを用意しておき、ショットピーニング施工をする際には、対象部分となる蓋3の傾斜に応じた最適な上縁の傾斜となっているチャンバー160を選んで取り付けるようにしている。
【0040】
ディスク140の上面142とチャンバー160の内周面で囲ってできる空間内には、ショット190を装填している。本実施例ではショット190として、時効処理した析出強化型合金インコネル718を材料とした、直径が3mmのショットを採用している。しかも、各ショット190の投影断面積(球形のショットを真半分にカットしたときに現れる円形断面)の和が、振動子152のヘッド153面の面積の100〜400%となるように、ショット190の数量を選定している。
【0041】
このような構成となっている超音波ショットピーニング装置100の制御動作、並びに、リフター200の制御動作は、制御装置300により行われる。制御装置300は、管台6が林立している蓋3の近くではなく、蓋3から離れた位置に配置しており、制御装置300と超音波ショットピーニング装置100は制御ライン(図示省略)により接続されている。
【0042】
<実施例1の主要動作>
このような構成となっている超音波ショットピーニング装置100によりショットピーニング施工を行う手順ならびに制御動作や機能を説明する。
【0043】
下方位置にさげたリフター200上に、超音波ショットピーニング装置100が載置されている。この超音波ショットピーニング装置100が、複数の管台6のうちショットピーニング施工の対象となる特定の管台6の真下に位置するように、リフター200を水平移動する。
【0044】
このとき、チャンバー160としては、そのチャンバー160の上縁の傾斜が、施工対象とする特定の管台6の近傍の蓋3の下面の傾斜と同じ傾斜となっているものを取り付ける。
換言すると、上縁の傾斜が異なる複数のタイプのチャンバー160を用意しておき、当該施工をするときに、チャンバー160の上縁の傾斜が、その施工部分の蓋3の下面の傾斜と同じ傾斜となっているものを取り付ける。
また、チャンバー昇降機構170及びチャンバー160は下方に位置している。
【0045】
次にリフター200を上昇させ、超音波ショットピーニング装置100を持ち上げる。超音波ショットピーニング装置100を、図5に示すように、蓋3の近くにまでもちあげたら、リフター200の上昇を停止させる。このとき、サーマルスリーブ7が、支持部材130の内部空間に挿通され、且つ、支持部材130の上端が、管台6の下端に当接する状態となる。
【0046】
次に、チャンバー昇降機構170によりチャンバー160を上昇させるとともに、超音波ショットピーニング装置100の方位を、チャンバー160の上縁が蓋3の下面に沿うように調整し、図2に示すように、チャンバー160の上縁を蓋3の下面に緊密に接触させる。
そうすると、ディスク140の上面142と、チャンバー160の内周面と、蓋3の下面と、管台6の外周面と、支持部材130の外周面とで、密閉されたピーニング空間が形成される。
【0047】
超音波ピーニングヘッド150のピエゾ素子151を発振させると、質量の大きい振動子152が上下方向に振動し、ヘッド面153上にあったショット190は、ヘッド面153から上方に弾き出され、蓋3の下面および管台8の外周面に衝突する。衝突したショット190は、弾き返され、勾配を有するディスク140上に落下する。落下したショット190はディスク140の勾配面となっている上面を転がって回収孔141内に落ちて回収される。回収されたショット190は、超音波ピーニングヘッド150のヘッド面153にて、再度弾き出され、ショットピーニング施工を持続することができる。
【0048】
本実施例1では更に、ショットピーニング施工の際に、回転機構120により、支持部材130を、水平面内で回転させている。これにより、ディスク140及び超音波ピーニングヘッド150が一体となって水平面内で回転する。
【0049】
本実施例1では、ディスク140及び超音波ピーニングヘッド150の回転は、連続的に行うものではなく、間欠的に回転させている。つまり、回転を開始し始めてから予め決めた所定角度回転したらその回転位置で一定時間停止し、一定時間が経過したら再び回転して予め決めた所定角度回転したらその回転位置で一定時間停止する、という動作を繰り返す。
本実施例1では、前述した「所定角度」を45°に設定している。
【0050】
つまり、管台6の周囲を分割し、各位置にピーニングヘッドを位置決めして、蓋3の下面および管台6の外周面をそれぞれピーニング施工する。
即ち、ピーニング施工対象範囲が広く、一括同時施工では均一なピーニングが得られないこともある。そこで30度ピッチの12分割、45度ピッチの8分割、および、60度ピッチの6分割に区分して試験した結果、ピーニングの均一性および施工能率から45度ピッチの8分割が最も適正との結果が得られた。
この結果に基づき、蓋3の内周側を0度の回転位置、蓋3の外周側を180度の回転位置として、0、45、90、135、180、225、270、315度の各回転位置にピーニングヘッドを位置決めし、蓋3の下面および管台6の外周面を対象にそれぞれピーニング施工する。
【0051】
図6は、外径が約100mmの管台の場合において、ディスク140の回転ピッチを変えたときの、施工対象物のピーニング施工状態を示すものである。図6(a)に示すように回転ピッチが30°の場合には、施工範囲が重なり過ぎ、図6(b)に示すように回転ピッチが45°の場合には、施工範囲同士の間隔が適当になり、図6(c)に示すように回転ピッチが60°の場合には、施工範囲が離れ過ぎていることが分かった。なお、径の異なる管台の場合には、適正な回転ピッチが異なる。
【0052】
実施例1の超音波ショットピーニング装置100では、質量の大きい振動子152の振動によりショット190を弾き出すため、ショット190として2〜4mm径の大径のショットが使用できる。このためショット190の運動エネルギーが大きく、残留応力改善は比較的深い位置まで可能である。また数100mmの長投射距離条件でも施工することができる。
【0053】
また蓋3の下面の対象領域は、管台6の蓋3における位置(アドレス)により、蓋3の下面の姿勢(勾配)が水平姿勢から大きく変化する。また蓋3の下面と管台6の外周面との交差点の高さ位置は異なり、かつ、同一の管台6であってもその周囲位置によっても異なる。
しかし、この超音波ショットピーニング装置100では、長投射距離条件でもショット190を有効に投射することができるため、施工部分の高さが異なっていても、各施工部分を良好にショットピーニング施工することができる。つまり、施工部分の高さが異なっていても、超音波ピーニングヘッド150の高さ位置を上下に調整することのないシンプルな構成であっても、良好なショットピーニング施工をすることができる。
【0054】
蓋3には突起物である管台6が下方に向かって林立(突出)し、施工に利用できる空間が狭隘であるが、超音波ショットピーニング装置100を、ほぼ鉛直姿勢に設置しているため、このような狭隘空間であっても、ショットピーニング施工を行うことができる。
また、管台6の外周面は、蓋3の下面の姿勢と大きく異なる鉛直姿勢であり、また引張残留応力場は、蓋3の下面では管台6の外周面から数10mm、管台6の外周面は蓋3の内面から下方に数10mmと広い。本実施例の超音波ショットピーニング装置100では、このような広範囲なこれらの領域を均一にかつ能率よくショットピーニング施工することができる。
【0055】
<実施例1の各部分の工夫>
更に本実施例1では、必要に応じて、ショットピーニング施工の効率を向上させるために、各部分に工夫をしている。以下に述べる各部分の工夫は、全て備えていてもよいし、一部のみを備えていてもよい。
【0056】
第1の工夫を、図7〜図9を参照して説明する。図7に示すように、この例では、チャンバー160内に一対の仕切り板301a,301bを配置している。各仕切り板301a,301bは、図示しないポールによりディスク140にて支持されており、ディスク140の上面142の上方に位置している。なお、ポールが上下方向に伸縮して、仕切り板301a,301bの高さ位置を調節することもできる。なお、仕切りは全周囲にわたってチャンバー160に予め取り付ける場合もある。
【0057】
図8に示すように、仕切り板301a,301bは半径方向に伸びている。また仕切り板301a,301bは、周方向に関しては、ディスク140の回収孔141を間に挟んで斜めに相対面する状態で配置されている。なお、回収孔141内には、超音波ピーニングヘッド150のヘッド面153が臨んでいる。
【0058】
この例では、超音波ピーニングヘッド150のヘッド面153から上方に弾き出されたショット190は、拡散しつつ飛行し、蓋3の下面および管台6の外周面に衝突した後、弾き返され、勾配を有するディスク140の上面142を転がって回収孔141に回収され、ヘッド面153に戻り、ピーニングを持続することができる。
【0059】
このとき、上述した状態で仕切り板301a,301bを設けることにより、ディスク140上を転がってピーニングヘッドに戻るショット190の他に、上方から落下してきて直接ヘッド面153に戻るショット190も加わる。
つまり、図9に示すように、ディスク140の上面142を転がって回収孔141に戻るショット190aのみならず、回収孔141内に直接落下するショット190bや、上方から落下してきて仕切り板301a,301bにて反射してから(仕切り板301a,301bによりガイドされて)141内に直接落下するショット190cも加わる。
【0060】
振動子152によって弾き出されるショット190の速度は、ディスク140上を転がって回収孔141に戻るショット190aよりも、上方から落下して回収孔141内に直接入ってヘッド面153に衝突するショット190b,190cの方がより速くなる。このように、高速に弾き出されるショット190b,190cが混じるため、結果的にショット190が施工対象に与える衝突エネルギーが大きくなり、より多くのピーニング効果が得られる。
【0061】
また、超音波ピーニングヘッド150のヘッド面153から上方に弾き出されたショット190は拡散して弾き出される特性があるが、仕切り板301a,301bがあるため、ショット190の不要な拡散が抑制され、ピーニング施工対象領域に衝突するショット190が多くなり、この結果、施工能率が向上する。
【0062】
更に、1枚の仕切り板を、回収孔141の外周側に設け、ショット190の不要な拡散を防止することもできる。例えば、チャンバー160の内径が、ピーニング施工対象領域よりも大きい場合には、仕切り板が無い場合には、弾き出されたショット190は広いチャンバー160の内部空間に拡散して広がり対象領域に衝突する割合が少なくなる。そこで、このような場合には、回収孔141の外周側に仕切り板を設けることにより、ショット190の不要な外周側への拡散を防止でき、施工能率が向上する。
【0063】
第2の工夫では、上述した板状の仕切り板301a,301bの代わりに、図10に示すような、上方及び下方、またはその一方が開いた漏斗状のショット案内302を、回収孔141の上方位置に配置するようにした。このショット案内302では、上方から落下してきたショット190を広く集め、集めたショット190を、回収孔141内に落下させることができる。このため、多数のショット190が直接ヘッド面153に衝突し、衝突したショット190が高速に弾き出される。このため、ピーニング効果が向上する。またヘッド面153から投射したショット190の拡散を抑制するため、ピーニング効果が向上する。
【0064】
第3の工夫では、図11に示すように、ディスク140に形成した回収孔141のリング状の上縁部分に、勾配面310を形成した。この勾配面310は、回収孔141に近づくに従い下方に下がっていく傾斜となっており、その傾斜角度は、ディスク140の上面142の傾斜よりも急になっている。
【0065】
このような勾配面310が回収孔141の上縁に形成されているので、回収孔141内に転がり込んでいくショット190は、勾配面310にて転がり込み速度が付与される。このため、振動子152のヘッド面153に落下した、転がり速度が付与されたショット190は、落下後にヘッド面153の周縁部分のみならず中央部分にも転がる。つまりショット190はヘッド面153の全面に分散する。
【0066】
振動子152によるショット190の弾き出しは、振動子152のヘッド面153の全面を利用するほど単位時間当たりの弾き出しショット数が多く、効率的となる。この例では、勾配面310を形成することにより、ディスク140の上面142を転がって回収孔141内に戻るショット190に、転がり込み速度を付与でき、ショット190はヘッド面153の全面に分散する。この結果、単位時間当たりの弾き出しショット数が多くなる。試験の結果、径60mmの振動子152においては、勾配面310の寸法は、高さ10mm、水平長20mmが有効であった。
【0067】
第4の工夫では、図12に示すように、超音波ピーニングヘッド150の振動子152のヘッド面153に、上方に向かって凸となった曲率を付与している。
ヘッド面153が水平である場合には、ショット190は振動子の中心軸上で密度が高くなる傾向にある。そうすると、ムラのあるピーニング施工が行われることがある。この対策に振動子152のヘッド面153の振幅の変化が5%以内程度の、凸状の曲率を振動子152のヘッド面153に設けることにより、弾き出されたショット190が分散して飛び出し、広範囲にわたり均一性に優れるピーニング分布が得られる。
【0068】
また図12とは逆に、超音波ピーニングヘッド150の振動子152のヘッド面153に、下方に向かって凹となった曲率を付与することもできる。
ショット190の投射距離が長くなると振動子152から弾き出されたショット190が拡散する傾向となるため、不要な領域へのピーニングが多くなり、対象領域へのショットが少なくなり、この結果、施工能率を損なう。
そこで、振動子152のヘッド面153を凹面状にすることによりショット190の拡散を抑制でき、施工能率が向上する。
【0069】
第5の工夫では、ディスク140に衝撃センサーを設置し、ピーニング状況を監視する。
多量のショット190を装填した場合、超音波ピーニングヘッド150が発振してもショット190の弾き出しが発生しない場合がある。第5の工夫をすることにより、ショットの挙動を衝撃センサーにより監視することができ、より正確な投射時間管理が可能となる。
【実施例2】
【0070】
次に本発明の実施例2に係る超音波ショットピーニング装置100Aを、図13に基づき説明する。
【0071】
この超音波ショットピーニング装置100Aでは、反射板350を備えている。この反射板350は、支持体351を介してディスク140に支持されており、回収孔141の上方位置に斜めになって配置されている。しかも、支持体351が上下方向位置に移動できるため反射板350の高さ位置が調整できると共に、支持体351に対して反射板350の取付角度が調整できるようになっている。
他の部分の構成は、実施例1と同様であるので、同一部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0072】
実施例2の超音波ショットピーニング装置100Aでは、超音波ピーニングヘッド150のヘッド面153から鉛直方向上方に弾き出されたショット190は、斜め配置された反射板350に衝突して反射し、管台6の外周面に向かって進み管台6に効果的に衝突する。つまり反射板350により、ショット190の進行方向を鉛直方向から管台6側に変えている。このため、管台6の外周面のピーニング施工を確実に行うことができる。
【0073】
もちろん、管台6のうちJ溶接部8に近い部分(ピーニング施工が必要な部分)にむけてショット190が当たるように、反射板350の角度や高さ位置及び管台からの距離の調節を最適に行う。
【0074】
なお、実施例2においても、実施例1で採用した第1から第5の各種の工夫を採用することができる。
【実施例3】
【0075】
次に本発明の実施例3に係る超音波ショットピーニング装置100Bを、図14に基づき説明する。実施例3の超音波ショットピーニング装置100Bは、実施例1の超音波ショットピーニング装置100と、基本構成は同じであるので、同一部分には同一符号を付し重複する部分の説明は省略し、実施例3に特有な部分を中心に説明をする。
【0076】
実施例3の超音波ショットピーニング装置100Bは、サーマルスリーブ7の下端に、サーマルスリーブ7よりも大径の口金7aが備えられている場合に適用する装置である。実施例3では、口金7aが大径であるので、支持部材130Aは、その内部空間の内径が口金7aの径よりも大きくしている。
【0077】
またディスク140Aは、周方向にわたる3箇所で分割できるようにしている。即ち、扇形の3枚のディスク片を周方向に沿い連結することにより、リング板状のディスク140Aが形成されている。扇型の3枚のディスク片のうちの1枚には、超音波ピーニングヘッド150が取り付けられている。
【0078】
この超音波ショットピーニング装置100Bを使うには、ディスク140A及びショット190の封入タイミングが、実施例1のものとは異なる。最初においては(ショットピーニング施工前の準備段階では)、3分割のディスク140Aは、超音波ショットピーニングヘッドが取り付いているディスク片を除いて取り付けておらず、ショット190も封入していない。
【0079】
ディスク140Aのうち残りの2枚のディスク片が取り付けられておらず、かつ、ショット190が封入されていな超音波ショットピーニング装置100Bを口金7aに干渉しないように上昇させていき、口金7aを通過後にディスク140Aの中心と管台6の中心を揃え、サーマルスリーブ7及び口金7aが、支持部材130Aの内部空間に挿入される状態にする。
【0080】
サーマルスリーブ7及び口金7aが、支持部材130Aの内部空間に挿入される状態になったら、残りの2枚のディスク片を支持部材130Aの上面に取り付けてリング板状のディスク140Aを形成する。このとき、ディスク140Aの取付孔143Aは、管台6の外周面に緊密に嵌合する。
【0081】
更に、ディスク140Aの上面,チャンバー160の内周面,管台6の外周面で囲まれる空間にショット190を封入する。
その後に、チャンバー160をチャンバー昇降機構170により上昇させ、チャンバー160の上縁を蓋3の下面に緊密に接触させる。
【0082】
このようにして、図14示す状態になったら、超音波ピーニングヘッド150を作動させ、ショット190により、蓋3の下面及び管台6の外周面に対してショットピーニング施工をする。
【0083】
なお、実施例3においても、実施例1で採用した第1から第5の各種の工夫を採用することができる。
【0084】
<ヘッド面形状の変形例>
ヘッド面形状の変形例を図15に基づき説明する。上述した各種実施例では、振動子152のヘッド面153の形状を円形であることを前提として説明してきたが、矩形状のヘッド面153aや、台形状のヘッド面153bとしてもよい。
【0085】
矩形状のヘッド面153aとした場合には、蓋3の下面のピーニング領域はドーナツ状で、これを例えば8分割してピーニング施工する。振動子152のヘッド面153を円形から矩形にすることにより無効なショットを少なくでき、対象領域へのショットを多くすることができ、施工能率が向上する。
【0086】
台形状のヘッド面153bとした場合には、蓋3の下面のピーニング領域はドーナツ状で、これを例えば8分割してピーニング施工する。振動子152のヘッド面153を円形から台形にすることにより無効なショットをより少なくでき、対象領域へのショットをより多くすることができ、施工能率が向上する。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の超音波ショットピーニング装置は、管台が貫通した蓋のJ溶接部のみならず、壁面とこの壁面から下方に突出している突起物からなる施工対象物に対してショットピーニング施工する場合にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の実施例の原理を示す構成図。
【図2】本発明の実施例1に係る超音波ショットピーニング装置を示す構成図。
【図3】ディスクを示す断面図。
【図4】ディスク及びチャンバーを示す分解斜視図。
【図5】本発明の実施例1に係る超音波ショットピーニング装置を示す構成図。
【図6】ディスクの回転角度とショットピーニング施工状態を示す説明図。
【図7】仕切り板の取付状態を示す斜視図。
【図8】仕切り板の取付状態を示す平面図。
【図9】仕切り板の取付状態を示す断面図。
【図10】ショット案内の取付状態を示す断面図。
【図11】勾配面を備えた回収孔を示す断面図。
【図12】凸状の曲率を付与した振動子を示す構成図。
【図13】本発明の実施例2に係る超音波ショットピーニング装置を示す構成図。
【図14】本発明の実施例3に係る超音波ショットピーニング装置を示す構成図。
【図15】各種のヘッド面形状を示す説明図。
【図16】原子炉容器を示す構成図。
【図17】原子炉容器の蓋を示す構成図。
【図18】J溶接部の近傍を示す構成図。
【図19】従来のショットピーニング方法を示す説明図。
【符号の説明】
【0089】
3 蓋
6 管台
8 J溶接部
100,100A,100B 超音波ショットピーニング装置
110 ベース板
120 回転機構
130,130A 支持部材
140,140A ディスク
150 超音波ショットピーニング装置
160 チャンバー
170 チャンバー昇降機構
180 シール
190 ショット
200 リフター
300 制御装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波ショットピーニング装置及び超音波ショットピーニング方法に関し、壁面(原子炉容器の蓋の下面など)から突起物(管台など)が下方に向かって林立している狭隘な空間であってもショットピーニング施工を行うことができるように工夫したものである。
本発明は、例えば、加圧水型の軽水炉原子力発電設備において、高温水中における応力腐蝕割れが懸念される部位に対してショットピーニング施工をすることにより、当該部位の引張残留応力を有効かつ能率よく低減することができる、超音波ショットピーニング装置及び超音波ショットピーニング方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
図16に加圧水型軽水炉の原子炉容器1を示す。
原子炉容器1は、原子炉冷却材圧力バウンダリとしての機能を維持しつつ、燃料集合体2を収納し、熱水を発生する。このとき、蓋3に取付けられている制御棒駆動装置4により制御棒5の位置を調整することにより、燃料集合体2の発熱量(出力)が制御され、熱水の温度制御がされる。
【0003】
原子炉冷却材圧力バウンダリにはニッケルクロム鉄合金材(600合金)が各部位に用いられている。この材料は、高温の加圧水型軽水炉一次系水中において高い引張応力が生じている場合、応力腐蝕割れが発生する可能性がある。このため、製造時の溶接等に伴う引張残留応力を低減し、当該部の発生応力の低減化が必要とされている。
【0004】
図17に加圧水型軽水炉の原子炉容器1の蓋3を示す。ニッケルクロム鉄合金製の制御棒駆動軸ハウジング(以下「管台」と略称)6は、蓋3を上下方向(鉛直方向)に沿い貫通している。この管台6内にはサーマルスリーブ7が挿通されており、サーマルスリーブ7の下端には口金(ファネル)7aが備えられている。ただし、新設の蓋3に施工する際は、サーマルスリーブ7の下端にファネル7aがない場合もある。制御棒駆動装置の制御棒駆動軸は、管台6のサーマルスリーブ7内に収納されている。
なお、図17は、蓋3が原子炉容器1から取り外されて架台K上に載せた状態を示している。
【0005】
管台6と蓋3とは、蓋3の下面(内面)側で溶接されている(以下この溶接部分をJ溶接部8と略称する)。制御棒駆動軸を収納する管台6は、原子力発電設備の出力容量により異なり、100万キロワットクラスでは60本以上に達し、林立した状態で蓋3に取付けられている。
なお、J溶接部8は、溶接部分の形状が「J」形になっているので、このように「J溶接部」と称呼されている。
【0006】
図18に管台6のJ溶接部8の近傍を示す。ニッケルクロム鉄合金製の管台6は、蓋3を貫通した状態でこの蓋3の下面側に突き出ており、その付け根でニッケルクロム鉄合金の溶接金属で蓋3に溶接され固定されている。J溶接部8は溶接したままの状態であり、溶接残留応力が存在する状態で一次系水に長時間にわたり晒される。この結果、J溶接部8において、溶接金属およびその周辺の応力腐蝕割れが懸念されている。
【0007】
J溶接部8の残留応力改善(低減)法の一つにショットピーニング法が考えられ、溶接金属および溶接金属に隣接する原子炉容器蓋の下面と管台の外周面の領域がピーニングの対象となる。
【0008】
このようなピーニング施工の対象領域は以下のような、特別な条件・状態がある。
(1)新設の場合はもちろん、既設の原子力発電設備においても、蓋は定期検査時には原子炉容器から取外され、気中で施工する必要がある。
(2)管台が林立し、施工に利用できる空間が狭隘。
(3)蓋の下面(内面)の対象領域は、管台の上蓋における位置により、蓋下面の姿勢(勾配)が水平姿勢から大きく変化する。また蓋の下面と管台の外周面との交差点の位置も異なり、かつ同一の管台でもその周囲位置によっても異なる。
(4)管台の外周面の対象領域は、蓋の下面の姿勢と大きく異なる鉛直姿勢である。
(5)引張残留応力場は、蓋の下面は管台の外周面から数10mm、管台の外周面は蓋の下面から下方数10mmと広範囲にわたっている。
【0009】
図19は、一般に利用されている従来のショットピーニング法である。図19に示すように、ノズル20にエア21とショット22を供給し、ショット22をエア21で搬送し、施工対象物23に投射する。施工対象物23にショット22を投射すると、施工対象物23の表面近傍に塑性ひずみが付与されて、表面近傍の残留応力が改善(低減)する。
【0010】
図19に示す、従来のショットピーニング法では、ショット22は気体(エア21)で搬送するため、ショット22の直径は、通常0.2〜0.3mm程度の小径である。
【0011】
図19に示す従来のショットピーニング法では、次のような問題がある。
(1)付与する塑性ひずみは、ショットの運動エネルギーに依存する。従来のショットピーニング法では、ショット22の直径が小さいためショット22の運動エネルギーが小さく、表面からの残留応力改善層は比較的浅い。
(2)ショットが小径のため飛行中の減速が著しく、投射距離(対象物までの距離)は比較的短い範囲に限られる。
(3)また、投射後の多数の微細なショット22が粉塵となり、多くの粉塵が発生する。このため粉塵(投射後のショット22)が原子力発電設備に異物となって残留し、原子力発電設備の機能を損なう可能性があるとともに、作業環境の劣化を招く欠点がある。
【0012】
【特許文献1】特開2004−169100
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述したように、図19に示すショットピーニング法にて、J溶接部の残留応力低減を図る場合には、次の問題がある。
(1)適正投射距離(ノズルと施工対象物との間の距離)が高々数10mmであるため、ピーニングヘッドを、林立する管台の狭隘な間隙に挿入・位置決めする必要があり、装置が複雑となって、その製作が困難。
(2)残留応力の改善は、その信頼性を得るため表面からある程度の深さまで必要であるが、本法の特性からこの要求達成が困難。
(3)粉塵の発生は避けられず、原子力発電設備の異物として残留する可能性がある。
【0014】
本発明は、上記従来技術に鑑み、上記のような特別な条件・状態があるJ溶接部のように、突起物が林立して狭隘な空間であっても、高能率で効果的なショットピーニング施工ができる超音波ショットピーニング装置及び超音波ショットピーニング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決する本発明の構成は、
壁面とこの壁面から下方に突出している突起物からなる施工対象物に対してショットピーニング施工する超音波ショットピーニング装置であって、
略水平状態に配置されている板状の部材であり、上下方向に貫通する回収孔が形成されると共に、上面は回収孔に近づくに従い下方に下がっていく傾斜面となっているディスクと、
超音波発振素子と振動子とで構成されており、前記振動子が前記ディスクに形成された前記回収孔に下方側から挿入されている超音波ピーニングヘッドと、
前記ディスク及び前記超音波ピーニングヘッドを一体として水平面内で回転させる回転機構と、
前記ディスクの外周面に接しつつこの外周面を囲う状態で配置された筒状をなし、上縁は前記壁面のうちショットピーニング施工をする部分の傾斜と同じ傾斜になっているチャンバーと、
前記チャンバーを昇降移動させるチャンバー昇降機構と、
前記ディスクと前記チャンバーで囲う空間に装填されたショットと、
を有することを特徴とする。
また本発明の構成は、上述した超音波ショットピーニング装置を用いて、超音波ショットピーニング施工を行うことを特徴とする。
【0016】
また本発明の構成は、
原子炉容器の蓋の下面と、前記蓋を上下方向に貫通する管台の外周面を、前記蓋の下面側で溶接した当該溶接部分及び当該溶接部分に隣接する面に対してショットピーニング施工する超音波ショットピーニング装置であって、
ベース板と、
前記ベース板の上面に配置されて水平面内で回転する回転機構と、
前記回転機構上に立設された支持部材と、
前記支持部材により略水平状態で支持されている板状の部材であり、中央部には前記支持部材の上部または前記管台に嵌合する取付孔が形成されると共に、上下方向に貫通する回収孔が形成され、上面は回収孔に近づくに従い下方に下がっていく傾斜面となっているディスクと、
前記支持部材により支持されると共に、超音波発振素子と振動子とで構成されており、前記振動子が前記ディスクに形成された前記回収孔に下方側から挿入されている超音波ピーニングヘッドと、
前記ディスクの外周面に接しつつこの外周面を囲う状態で配置された筒状をなし、上縁は前記蓋の下面のうちショットピーニング施工をする部分の傾斜と同じ傾斜になっている
チャンバーと、
前記チャンバーを前記ベース板に対して昇降移動させるチャンバー昇降機構と、
前記ディスクと前記チャンバーで囲う空間に装填されたショットと、
を有することを特徴とする。
また本発明の構成は、上述した超音波ショットピーニング装置を用いて、超音波ショットピーニング施工を行うことを特徴とする。
【0017】
また本発明の構成は、
前記超音波ピーニングヘッドにより上方に、超音波ピーニングヘッドにより弾き出されたショットが衝突して反射する位置に配置されており、反射後のショットの進行方向を変更する反射板を備えていることを特徴とする。
また本発明の構成は、上述した超音波ショットピーニング装置を用いて、超音波ショットピーニング施工を行うことを特徴とする。
【0018】
また本発明の構成は、
前記回転機構は、回転を開始し始めてから予め決めた所定角度回転したらその回転位置で一定時間停止し、一定時間が経過したら再び回転して予め決めた所定角度回転したらその回転位置で一定時間停止する、という間欠的な回転動作を繰り返すことを特徴とする。
【0019】
また本発明の構成は、
前記ショットは、直径が2〜4mmであったり、
前記ショットは、材質がニッケル基合金のうち、時効処理した析出強化型合金インコネル718であったり、
前記各ショットの投影断面積の和が、前記振動子のヘッド面の面積の100〜400%となるように、前記ショットの数量を選定していることを特徴とする。
【0020】
また本発明の構成は、
前記ディスクの前記上面の上方に配置されており、下方から投射された前記ショットをガイドして無用な拡散を抑制するとともに、上方から落下してきた前記ショットをガイドして前記回収孔内に直接落下させる仕切り板を備えていたり、
この仕切り板により、下方から投射された前記ショットをガイドして無用な拡散を抑制するとともに、上方から落下してきた前記ショットをガイドして前記回収孔内に直接落下させたり、
上方から落下してきた前記ショットをガイドして前記回収孔内に直接落下させるため、上方及び下方、またはいずれか一方が開いたショット案内を、前記ディスクの前記上面の上方に配置していることを特徴とする。
また前記仕切り板は、前記回収孔を間に挟んで相対面する状態で配置された一対の仕切り板であったり、
前記仕切り板は、前記回収孔よりも外周側に配置された一枚の仕切り板であることを特徴とする。
【0021】
また本発明の構成は、
前記ディスクに形成した前記回収孔の上縁には、回収孔に近づくに従い下方に下がっていく傾斜となっている傾斜面が形成されていることを特徴とする。
【0022】
また本発明の構成は、
前記振動子の上面であるヘッド面には、上方に向かって凸となった曲率、または、下方に向かって凹となった曲率が付与されていることを特徴とする。
【0023】
また本発明の構成は、
前記超音波ピーニングヘッドの動作状態を監視する衝撃センサを備えたことを特徴とする。
【0024】
また本発明の構成は、
前記振動子の上面であるヘッド面は、円形、または、矩形、または台形であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明の超音波ショットピーニング装置及び超音波ショットピーニング方法によれば、壁面(原子炉容器の蓋の下面など)に密接するチャンバーと、落下してきたショットを回収するディスクと、壁面,突起物(管台等),チャンバー及びディスクで囲んだ空間内に、回収したショットを弾き出す超音波ピーニングヘッドを備えているため、壁面(原子炉容器の蓋の下面など)から突起物(管台など)が下方に向かって林立している狭隘な空間であっても、壁面や突起物に対して、効果的にショットピーニング施工を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明を実施するための最良の形態を以下に説明する。
図1は本発明の実施例の原理構成を示すものである。この超音波ショットピーニング装置30は、超音波ピーニングヘッド31と、チャンバー32と、ショット33を主要部材として構成されている。
【0027】
超音波ピーニングヘッド31は、超音波発振素子であるピエゾ素子31aと、ピエゾ素子31aが発振した振動を増幅するブースターとして機能する振動子31bとで形成されている。振動子31bの上端は、チャンバー32の下端に挿入されている。チャンバー32は、このチャンバー32の内周面と、振動子31bの上端面であるヘッド面と、施工対象物35の表面とにより、閉じたピーニング空間を形成する。そして、この閉じたピーニング空間内に、時効処理した析出強化型合金インコネル718を材質とした、直径が2〜4mmのショット33を入れている。
【0028】
図1に示す超音波ショットピーニング装置30では、ピエゾ素子31aの超音波振動を利用して振動子31bのヘッド面(上端面)からショット33を、ほぼ鉛直方向に弾き出す。弾き出されたショット33は、チャンバー32で区切られた空間内で、施工対象物35と振動子31bの間で往復運動する。これにより、ショット33が施工対象物35の表面に衝突してこの表面近傍に塑性ひずみを付与して残留応力を改善(低減)する。
【0029】
この超音波ショットピーニング装置30では、質量の大きい振動子31bの振動によりショット33を弾き出すため、ショット33として数mm径の大径のショットが使用できる。このためショット33の運動エネルギーが大きく、残留応力改善は比較的深い位置まで可能である。また数100mmの長投射距離条件でも施工することができる。
【実施例1】
【0030】
次に本発明の実施例1に係る超音波ショットピーニング装置100を、図2〜図5を参照して説明する。
【0031】
<実施例1全体の主要構成>
図2に示すように、この超音波ショットピーニング装置100は、昇降装置であるリフター200に載置されて昇降されるものであり、上方に持ち上げられた状態で、J溶接部8及びその近傍をショットピーニング施工するものである。
【0032】
即ち、原子炉容器の蓋3には、上下方向(鉛直方向)に沿い管台6が貫通しており、この管台6が蓋3の内面側(下面側)から下方に突き出ている。そして、管台6の外周面と蓋3の下面とが溶接されてJ溶接部8となっている。つまり、蓋3の下面側において管台6と蓋3との溶接が行われてJ溶接部8となっている。そして、J溶接部8、及び、蓋3の下面のうちJ溶接部8の隣接部分、並びに、管台6の外周面のうちJ溶接部8の隣接部分を、この実施例1に係る超音波ショットピーニング装置100により、ショットピーニング施工するものである。
【0033】
超音波ショットピーニング装置100のベース板110は、リフター200上に載置される。このベース板110の上面側には、水平面内で回転する回転機構120が配置されている。この回転機構120上には、円筒(シリンダ)状の支持部材130が立設されており、超音波ショットピーニング装置100が上方に持ち上げられたときには、サーマルスリーブ7が、支持部材130の内部空間に挿通していく。
【0034】
支持部材130の上部には、この支持部材130に対して同心状に円環板状のディスク140が略水平状態になって環装されている。
ディスク140には、図3及び図4にも示すように、上下(鉛直)方向に貫通する1つの回収孔141が形成されている。更に、ディスク140の上面142は、回収孔141に近づくに従い下方に下がっていく勾配面となっている。
なお、ディスク140は、その中央部分に取付孔143が形成されて、円環板状になっている。本実施例1では、支持部材130の上部がこの取付孔143に緊密に嵌合しているが、図14に示すように、ディスク140を支持部材130A上端にて支持しつつ、ショットピーニング施工の際に管台6がディスク140の取付孔143に緊密に嵌合するような構成にしてもよい。
【0035】
超音波ピーニングヘッド150は、超音波発振素子であるピエゾ素子151と、ピエゾ素子151が発振した振動を増幅するブースターとして機能する振動子152とで形成されている。
【0036】
この超音波ピーニングヘッド150は、支持部材130にて支持されており、その振動子152の上部が、ディスク140の回収孔141内に下方側から緊密に挿入されている。そして、振動子152の上面であるヘッド面153が、回収孔141内に臨み、回収孔141の下面をヘッド面153が塞ぐ状態となっている。
このためピエゾ素子151が超音波発振すると、振動子152並びにそのヘッド面153が、ディスク140の回収孔141内において、上下(鉛直)方向に振動する。
【0037】
円筒状のチャンバー160は、ディスク140の外周面に緊密に接しつつこの外周面を囲う状態で配置されている。このチャンバー160は、チャンバー昇降機構170により、ベース板110に対して昇降移動することができる。図2はチャンバー160が上方移動した状態を、図5はチャンバー160が下方移動した状態を示す。なお、ディスク140の外周面と、チャンバー160の内周面とは、緊密に接触している。
【0038】
チャンバー160の上縁は、蓋3の下面のうち、この超音波ショットピーニング装置100によりショットピーニング施工をする部分を囲む部位の傾斜と同じ傾斜になっている。このため、チャンバー160を上昇させ、チャンバー160の上縁が蓋3の下面に接触したときに、チャンバー160の上縁は隙間無く蓋3の下面に緊密に接触することができるようになっている。更に、チャンバー160の上縁には、弾性材からなるシール180を備えている。
【0039】
チャンバー160としては、上縁の傾斜が異なる複数種類のものを用意しておき、ショットピーニング施工をする際には、対象部分となる蓋3の傾斜に応じた最適な上縁の傾斜となっているチャンバー160を選んで取り付けるようにしている。
【0040】
ディスク140の上面142とチャンバー160の内周面で囲ってできる空間内には、ショット190を装填している。本実施例ではショット190として、時効処理した析出強化型合金インコネル718を材料とした、直径が3mmのショットを採用している。しかも、各ショット190の投影断面積(球形のショットを真半分にカットしたときに現れる円形断面)の和が、振動子152のヘッド153面の面積の100〜400%となるように、ショット190の数量を選定している。
【0041】
このような構成となっている超音波ショットピーニング装置100の制御動作、並びに、リフター200の制御動作は、制御装置300により行われる。制御装置300は、管台6が林立している蓋3の近くではなく、蓋3から離れた位置に配置しており、制御装置300と超音波ショットピーニング装置100は制御ライン(図示省略)により接続されている。
【0042】
<実施例1の主要動作>
このような構成となっている超音波ショットピーニング装置100によりショットピーニング施工を行う手順ならびに制御動作や機能を説明する。
【0043】
下方位置にさげたリフター200上に、超音波ショットピーニング装置100が載置されている。この超音波ショットピーニング装置100が、複数の管台6のうちショットピーニング施工の対象となる特定の管台6の真下に位置するように、リフター200を水平移動する。
【0044】
このとき、チャンバー160としては、そのチャンバー160の上縁の傾斜が、施工対象とする特定の管台6の近傍の蓋3の下面の傾斜と同じ傾斜となっているものを取り付ける。
換言すると、上縁の傾斜が異なる複数のタイプのチャンバー160を用意しておき、当該施工をするときに、チャンバー160の上縁の傾斜が、その施工部分の蓋3の下面の傾斜と同じ傾斜となっているものを取り付ける。
また、チャンバー昇降機構170及びチャンバー160は下方に位置している。
【0045】
次にリフター200を上昇させ、超音波ショットピーニング装置100を持ち上げる。超音波ショットピーニング装置100を、図5に示すように、蓋3の近くにまでもちあげたら、リフター200の上昇を停止させる。このとき、サーマルスリーブ7が、支持部材130の内部空間に挿通され、且つ、支持部材130の上端が、管台6の下端に当接する状態となる。
【0046】
次に、チャンバー昇降機構170によりチャンバー160を上昇させるとともに、超音波ショットピーニング装置100の方位を、チャンバー160の上縁が蓋3の下面に沿うように調整し、図2に示すように、チャンバー160の上縁を蓋3の下面に緊密に接触させる。
そうすると、ディスク140の上面142と、チャンバー160の内周面と、蓋3の下面と、管台6の外周面と、支持部材130の外周面とで、密閉されたピーニング空間が形成される。
【0047】
超音波ピーニングヘッド150のピエゾ素子151を発振させると、質量の大きい振動子152が上下方向に振動し、ヘッド面153上にあったショット190は、ヘッド面153から上方に弾き出され、蓋3の下面および管台の外周面に衝突する。衝突したショット190は、弾き返され、勾配を有するディスク140上に落下する。落下したショット190はディスク140の勾配面となっている上面を転がって回収孔141内に落ちて回収される。回収されたショット190は、超音波ピーニングヘッド150のヘッド面153にて、再度弾き出され、ショットピーニング施工を持続することができる。
【0048】
本実施例1では更に、ショットピーニング施工の際に、回転機構120により、支持部材130を、水平面内で回転させている。これにより、ディスク140及び超音波ピーニングヘッド150が一体となって水平面内で回転する。
【0049】
本実施例1では、ディスク140及び超音波ピーニングヘッド150の回転は、連続的に行うものではなく、間欠的に回転させている。つまり、回転を開始し始めてから予め決めた所定角度回転したらその回転位置で一定時間停止し、一定時間が経過したら再び回転して予め決めた所定角度回転したらその回転位置で一定時間停止する、という動作を繰り返す。
本実施例1では、前述した「所定角度」を45°に設定している。
【0050】
つまり、管台6の周囲を分割し、各位置にピーニングヘッドを位置決めして、蓋3の下面および管台6の外周面をそれぞれピーニング施工する。
即ち、ピーニング施工対象範囲が広く、一括同時施工では均一なピーニングが得られないこともある。そこで30度ピッチの12分割、45度ピッチの8分割、および、60度ピッチの6分割に区分して試験した結果、ピーニングの均一性および施工能率から45度ピッチの8分割が最も適正との結果が得られた。
この結果に基づき、蓋3の内周側を0度の回転位置、蓋3の外周側を180度の回転位置として、0、45、90、135、180、225、270、315度の各回転位置にピーニングヘッドを位置決めし、蓋3の下面および管台6の外周面を対象にそれぞれピーニング施工する。
【0051】
図6は、外径が約100mmの管台の場合において、ディスク140の回転ピッチを変えたときの、施工対象物のピーニング施工状態を示すものである。図6(a)に示すように回転ピッチが30°の場合には、施工範囲が重なり過ぎ、図6(b)に示すように回転ピッチが45°の場合には、施工範囲同士の間隔が適当になり、図6(c)に示すように回転ピッチが60°の場合には、施工範囲が離れ過ぎていることが分かった。なお、径の異なる管台の場合には、適正な回転ピッチが異なる。
【0052】
実施例1の超音波ショットピーニング装置100では、質量の大きい振動子152の振動によりショット190を弾き出すため、ショット190として2〜4mm径の大径のショットが使用できる。このためショット190の運動エネルギーが大きく、残留応力改善は比較的深い位置まで可能である。また数100mmの長投射距離条件でも施工することができる。
【0053】
また蓋3の下面の対象領域は、管台6の蓋3における位置(アドレス)により、蓋3の下面の姿勢(勾配)が水平姿勢から大きく変化する。また蓋3の下面と管台6の外周面との交差点の高さ位置は異なり、かつ、同一の管台6であってもその周囲位置によっても異なる。
しかし、この超音波ショットピーニング装置100では、長投射距離条件でもショット190を有効に投射することができるため、施工部分の高さが異なっていても、各施工部分を良好にショットピーニング施工することができる。つまり、施工部分の高さが異なっていても、超音波ピーニングヘッド150の高さ位置を上下に調整することのないシンプルな構成であっても、良好なショットピーニング施工をすることができる。
【0054】
蓋3には突起物である管台6が下方に向かって林立(突出)し、施工に利用できる空間が狭隘であるが、超音波ショットピーニング装置100を、ほぼ鉛直姿勢に設置しているため、このような狭隘空間であっても、ショットピーニング施工を行うことができる。
また、管台6の外周面は、蓋3の下面の姿勢と大きく異なる鉛直姿勢であり、また引張残留応力場は、蓋3の下面では管台6の外周面から数10mm、管台6の外周面は蓋3の内面から下方に数10mmと広い。本実施例の超音波ショットピーニング装置100では、このような広範囲なこれらの領域を均一にかつ能率よくショットピーニング施工することができる。
【0055】
<実施例1の各部分の工夫>
更に本実施例1では、必要に応じて、ショットピーニング施工の効率を向上させるために、各部分に工夫をしている。以下に述べる各部分の工夫は、全て備えていてもよいし、一部のみを備えていてもよい。
【0056】
第1の工夫を、図7〜図9を参照して説明する。図7に示すように、この例では、チャンバー160内に一対の仕切り板301a,301bを配置している。各仕切り板301a,301bは、図示しないポールによりディスク140にて支持されており、ディスク140の上面142の上方に位置している。なお、ポールが上下方向に伸縮して、仕切り板301a,301bの高さ位置を調節することもできる。なお、仕切りは全周囲にわたってチャンバー160に予め取り付ける場合もある。
【0057】
図8に示すように、仕切り板301a,301bは半径方向に伸びている。また仕切り板301a,301bは、周方向に関しては、ディスク140の回収孔141を間に挟んで斜めに相対面する状態で配置されている。なお、回収孔141内には、超音波ピーニングヘッド150のヘッド面153が臨んでいる。
【0058】
この例では、超音波ピーニングヘッド150のヘッド面153から上方に弾き出されたショット190は、拡散しつつ飛行し、蓋3の下面および管台6の外周面に衝突した後、弾き返され、勾配を有するディスク140の上面142を転がって回収孔141に回収され、ヘッド面153に戻り、ピーニングを持続することができる。
【0059】
このとき、上述した状態で仕切り板301a,301bを設けることにより、ディスク140上を転がってピーニングヘッドに戻るショット190の他に、上方から落下してきて直接ヘッド面153に戻るショット190も加わる。
つまり、図9に示すように、ディスク140の上面142を転がって回収孔141に戻るショット190aのみならず、回収孔141内に直接落下するショット190bや、上方から落下してきて仕切り板301a,301bにて反射してから(仕切り板301a,301bによりガイドされて)141内に直接落下するショット190cも加わる。
【0060】
振動子152によって弾き出されるショット190の速度は、ディスク140上を転がって回収孔141に戻るショット190aよりも、上方から落下して回収孔141内に直接入ってヘッド面153に衝突するショット190b,190cの方がより速くなる。このように、高速に弾き出されるショット190b,190cが混じるため、結果的にショット190が施工対象に与える衝突エネルギーが大きくなり、より多くのピーニング効果が得られる。
【0061】
また、超音波ピーニングヘッド150のヘッド面153から上方に弾き出されたショット190は拡散して弾き出される特性があるが、仕切り板301a,301bがあるため、ショット190の不要な拡散が抑制され、ピーニング施工対象領域に衝突するショット190が多くなり、この結果、施工能率が向上する。
【0062】
更に、1枚の仕切り板を、回収孔141の外周側に設け、ショット190の不要な拡散を防止することもできる。例えば、チャンバー160の内径が、ピーニング施工対象領域よりも大きい場合には、仕切り板が無い場合には、弾き出されたショット190は広いチャンバー160の内部空間に拡散して広がり対象領域に衝突する割合が少なくなる。そこで、このような場合には、回収孔141の外周側に仕切り板を設けることにより、ショット190の不要な外周側への拡散を防止でき、施工能率が向上する。
【0063】
第2の工夫では、上述した板状の仕切り板301a,301bの代わりに、図10に示すような、上方及び下方、またはその一方が開いた漏斗状のショット案内302を、回収孔141の上方位置に配置するようにした。このショット案内302では、上方から落下してきたショット190を広く集め、集めたショット190を、回収孔141内に落下させることができる。このため、多数のショット190が直接ヘッド面153に衝突し、衝突したショット190が高速に弾き出される。このため、ピーニング効果が向上する。またヘッド面153から投射したショット190の拡散を抑制するため、ピーニング効果が向上する。
【0064】
第3の工夫では、図11に示すように、ディスク140に形成した回収孔141のリング状の上縁部分に、勾配面310を形成した。この勾配面310は、回収孔141に近づくに従い下方に下がっていく傾斜となっており、その傾斜角度は、ディスク140の上面142の傾斜よりも急になっている。
【0065】
このような勾配面310が回収孔141の上縁に形成されているので、回収孔141内に転がり込んでいくショット190は、勾配面310にて転がり込み速度が付与される。このため、振動子152のヘッド面153に落下した、転がり速度が付与されたショット190は、落下後にヘッド面153の周縁部分のみならず中央部分にも転がる。つまりショット190はヘッド面153の全面に分散する。
【0066】
振動子152によるショット190の弾き出しは、振動子152のヘッド面153の全面を利用するほど単位時間当たりの弾き出しショット数が多く、効率的となる。この例では、勾配面310を形成することにより、ディスク140の上面142を転がって回収孔141内に戻るショット190に、転がり込み速度を付与でき、ショット190はヘッド面153の全面に分散する。この結果、単位時間当たりの弾き出しショット数が多くなる。試験の結果、径60mmの振動子152においては、勾配面310の寸法は、高さ10mm、水平長20mmが有効であった。
【0067】
第4の工夫では、図12に示すように、超音波ピーニングヘッド150の振動子152のヘッド面153に、上方に向かって凸となった曲率を付与している。
ヘッド面153が水平である場合には、ショット190は振動子の中心軸上で密度が高くなる傾向にある。そうすると、ムラのあるピーニング施工が行われることがある。この対策に振動子152のヘッド面153の振幅の変化が5%以内程度の、凸状の曲率を振動子152のヘッド面153に設けることにより、弾き出されたショット190が分散して飛び出し、広範囲にわたり均一性に優れるピーニング分布が得られる。
【0068】
また図12とは逆に、超音波ピーニングヘッド150の振動子152のヘッド面153に、下方に向かって凹となった曲率を付与することもできる。
ショット190の投射距離が長くなると振動子152から弾き出されたショット190が拡散する傾向となるため、不要な領域へのピーニングが多くなり、対象領域へのショットが少なくなり、この結果、施工能率を損なう。
そこで、振動子152のヘッド面153を凹面状にすることによりショット190の拡散を抑制でき、施工能率が向上する。
【0069】
第5の工夫では、ディスク140に衝撃センサーを設置し、ピーニング状況を監視する。
多量のショット190を装填した場合、超音波ピーニングヘッド150が発振してもショット190の弾き出しが発生しない場合がある。第5の工夫をすることにより、ショットの挙動を衝撃センサーにより監視することができ、より正確な投射時間管理が可能となる。
【実施例2】
【0070】
次に本発明の実施例2に係る超音波ショットピーニング装置100Aを、図13に基づき説明する。
【0071】
この超音波ショットピーニング装置100Aでは、反射板350を備えている。この反射板350は、支持体351を介してディスク140に支持されており、回収孔141の上方位置に斜めになって配置されている。しかも、支持体351が上下方向位置に移動できるため反射板350の高さ位置が調整できると共に、支持体351に対して反射板350の取付角度が調整できるようになっている。
他の部分の構成は、実施例1と同様であるので、同一部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0072】
実施例2の超音波ショットピーニング装置100Aでは、超音波ピーニングヘッド150のヘッド面153から鉛直方向上方に弾き出されたショット190は、斜め配置された反射板350に衝突して反射し、管台6の外周面に向かって進み管台6に効果的に衝突する。つまり反射板350により、ショット190の進行方向を鉛直方向から管台6側に変えている。このため、管台6の外周面のピーニング施工を確実に行うことができる。
【0073】
もちろん、管台6のうちJ溶接部8に近い部分(ピーニング施工が必要な部分)にむけてショット190が当たるように、反射板350の角度や高さ位置及び管台からの距離の調節を最適に行う。
【0074】
なお、実施例2においても、実施例1で採用した第1から第5の各種の工夫を採用することができる。
【実施例3】
【0075】
次に本発明の実施例3に係る超音波ショットピーニング装置100Bを、図14に基づき説明する。実施例3の超音波ショットピーニング装置100Bは、実施例1の超音波ショットピーニング装置100と、基本構成は同じであるので、同一部分には同一符号を付し重複する部分の説明は省略し、実施例3に特有な部分を中心に説明をする。
【0076】
実施例3の超音波ショットピーニング装置100Bは、サーマルスリーブ7の下端に、サーマルスリーブ7よりも大径の口金7aが備えられている場合に適用する装置である。実施例3では、口金7aが大径であるので、支持部材130Aは、その内部空間の内径が口金7aの径よりも大きくしている。
【0077】
またディスク140Aは、周方向にわたる3箇所で分割できるようにしている。即ち、扇形の3枚のディスク片を周方向に沿い連結することにより、リング板状のディスク140Aが形成されている。扇型の3枚のディスク片のうちの1枚には、超音波ピーニングヘッド150が取り付けられている。
【0078】
この超音波ショットピーニング装置100Bを使うには、ディスク140A及びショット190の封入タイミングが、実施例1のものとは異なる。最初においては(ショットピーニング施工前の準備段階では)、3分割のディスク140Aは、超音波ショットピーニングヘッドが取り付いているディスク片を除いて取り付けておらず、ショット190も封入していない。
【0079】
ディスク140Aのうち残りの2枚のディスク片が取り付けられておらず、かつ、ショット190が封入されていな超音波ショットピーニング装置100Bを口金7aに干渉しないように上昇させていき、口金7aを通過後にディスク140Aの中心と管台6の中心を揃え、サーマルスリーブ7及び口金7aが、支持部材130Aの内部空間に挿入される状態にする。
【0080】
サーマルスリーブ7及び口金7aが、支持部材130Aの内部空間に挿入される状態になったら、残りの2枚のディスク片を支持部材130Aの上面に取り付けてリング板状のディスク140Aを形成する。このとき、ディスク140Aの取付孔143Aは、管台6の外周面に緊密に嵌合する。
【0081】
更に、ディスク140Aの上面,チャンバー160の内周面,管台6の外周面で囲まれる空間にショット190を封入する。
その後に、チャンバー160をチャンバー昇降機構170により上昇させ、チャンバー160の上縁を蓋3の下面に緊密に接触させる。
【0082】
このようにして、図14示す状態になったら、超音波ピーニングヘッド150を作動させ、ショット190により、蓋3の下面及び管台6の外周面に対してショットピーニング施工をする。
【0083】
なお、実施例3においても、実施例1で採用した第1から第5の各種の工夫を採用することができる。
【0084】
<ヘッド面形状の変形例>
ヘッド面形状の変形例を図15に基づき説明する。上述した各種実施例では、振動子152のヘッド面153の形状を円形であることを前提として説明してきたが、矩形状のヘッド面153aや、台形状のヘッド面153bとしてもよい。
【0085】
矩形状のヘッド面153aとした場合には、蓋3の下面のピーニング領域はドーナツ状で、これを例えば8分割してピーニング施工する。振動子152のヘッド面153を円形から矩形にすることにより無効なショットを少なくでき、対象領域へのショットを多くすることができ、施工能率が向上する。
【0086】
台形状のヘッド面153bとした場合には、蓋3の下面のピーニング領域はドーナツ状で、これを例えば8分割してピーニング施工する。振動子152のヘッド面153を円形から台形にすることにより無効なショットをより少なくでき、対象領域へのショットをより多くすることができ、施工能率が向上する。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の超音波ショットピーニング装置及び超音波ショットピーニング方法は、管台が貫通した蓋のJ溶接部のみならず、壁面とこの壁面から下方に突出している突起物からなる施工対象物に対してショットピーニング施工する場合にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の実施例の原理を示す構成図。
【図2】本発明の実施例1に係る超音波ショットピーニング装置を示す構成図。
【図3】ディスクを示す断面図。
【図4】ディスク及びチャンバーを示す分解斜視図。
【図5】本発明の実施例1に係る超音波ショットピーニング装置を示す構成図。
【図6】ディスクの回転角度とショットピーニング施工状態を示す説明図。
【図7】仕切り板の取付状態を示す斜視図。
【図8】仕切り板の取付状態を示す平面図。
【図9】仕切り板の取付状態を示す断面図。
【図10】ショット案内の取付状態を示す断面図。
【図11】勾配面を備えた回収孔を示す断面図。
【図12】凸状の曲率を付与した振動子を示す構成図。
【図13】本発明の実施例2に係る超音波ショットピーニング装置を示す構成図。
【図14】本発明の実施例3に係る超音波ショットピーニング装置を示す構成図。
【図15】各種のヘッド面形状を示す説明図。
【図16】原子炉容器を示す構成図。
【図17】原子炉容器の蓋を示す構成図。
【図18】J溶接部の近傍を示す構成図。
【図19】従来のショットピーニング方法を示す説明図。
【符号の説明】
【0089】
3 蓋
6 管台
8 J溶接部
100,100A,100B 超音波ショットピーニング装置
110 ベース板
120 回転機構
130,130A 支持部材
140,140A ディスク
150 超音波ショットピーニング装置
160 チャンバー
170 チャンバー昇降機構
180 シール
190 ショット
200 リフター
300 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁面とこの壁面から下方に突出している突起物からなる施工対象物に対してショットピーニング施工する超音波ショットピーニング装置であって、
略水平状態に配置されている板状の部材であり、上下方向に貫通する回収孔が形成されると共に、上面は回収孔に近づくに従い下方に下がっていく傾斜面となっているディスクと、
超音波発振素子と振動子とで構成されており、前記振動子が前記ディスクに形成された前記回収孔に下方側から挿入されている超音波ピーニングヘッドと、
前記ディスク及び前記超音波ピーニングヘッドを一体として水平面内で回転させる回転機構と、
前記ディスクの外周面に接しつつこの外周面を囲う状態で配置された筒状をなし、上縁は前記壁面のうちショットピーニング施工をする部分の傾斜と同じ傾斜になっているチャンバーと、
前記チャンバーを昇降移動させるチャンバー昇降機構と、
前記ディスクと前記チャンバーで囲う空間に装填されたショットと、
を有することを特徴とする超音波ショットピーニング装置。
【請求項2】
原子炉容器の蓋の下面と、前記蓋を上下方向に貫通する管台の外周面を、前記蓋の下面側で溶接した当該溶接部分及び当該溶接部分に隣接する面に対してショットピーニング施工する超音波ショットピーニング装置であって、
ベース板と、
前記ベース板の上面に配置されて水平面内で回転する回転機構と、
前記回転機構上に立設された支持部材と、
前記支持部材により略水平状態で支持されている板状の部材であり、中央部には前記支持部材の上部または前記管台に嵌合する取付孔が形成されると共に、上下方向に貫通する回収孔が形成され、上面は回収孔に近づくに従い下方に下がっていく傾斜面となっているディスクと、
前記支持部材により支持されると共に、超音波発振素子と振動子とで構成されており、前記振動子が前記ディスクに形成された前記回収孔に下方側から挿入されている超音波ピーニングヘッドと、
前記ディスクの外周面に接しつつこの外周面を囲う状態で配置された筒状をなし、上縁は前記蓋の下面のうちショットピーニング施工をする部分の傾斜と同じ傾斜になっている
チャンバーと、
前記チャンバーを前記ベース板に対して昇降移動させるチャンバー昇降機構と、
前記ディスクと前記チャンバーで囲う空間に装填されたショットと、
を有することを特徴とする超音波ショットピーニング装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記超音波ピーニングヘッドにより上方に弾き出されたショットが衝突して反射する位置に配置されており、反射後のショットの進行方向を変更する反射板を備えていることを特徴とする超音波ショットピーニング装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか一項において、
前記回転機構は、回転を開始し始めてから予め決めた所定角度回転したらその回転位置で一定時間停止し、一定時間が経過したら再び回転して予め決めた所定角度回転したらその回転位置で一定時間停止する、という間欠的な回転動作を繰り返すことを特徴とする超音波ショットピーニング装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか一項において、
前記ショットは、直径が2〜4mmであることを特徴とする超音波ショットピーニング装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れか一項において、
前記ショットは、材質がニッケル基合金のうち、時効処理した析出強化型合金インコネル718であることを特徴とする超音波ショットピーニング装置
【請求項7】
請求項1乃至請求項6の何れか一項において、
前記各ショットの投影断面積の和が、前記振動子のヘッド面の面積の100〜400%となるように、前記ショットの数量を選定していることを特徴とする超音波ショットピーニング装置。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7の何れか一項において、
前記ディスクの前記上面の上方に配置されており、下方から投射された前記ショットをガイドして無駄な拡散を抑制するとともに、上方から落下してきた前記ショットをガイドして前記回収孔内に直接落下させる仕切り板を備えていることを特徴とする超音波ショットピーニング装置。
【請求項9】
請求項8において、
前記仕切り板は、前記回収孔を間に挟んで相対面する状態で配置された一対の仕切り板であることを特徴とする超音波ショットピーニング装置。
【請求項10】
請求項8において、
前記仕切り板は、前記回収孔よりも外周側に配置された一枚の仕切り板であることを特徴とする超音波ショットピーニング装置。
【請求項11】
請求項1乃至請求項7の何れか一項において、
上方から落下してきた前記ショットをガイドして前記回収孔内に直接落下させるため、上方及び下方、またはいずれか一方が開いたショット案内を、前記ディスクの前記上面の上方に配置していることを特徴とする超音波ショットピーニング装置。
【請求項12】
請求項1乃至請求項11の何れか一項において、
前記ディスクに形成した前記回収孔の上縁には、回収孔に近づくに従い下方に下がっていく傾斜となっている傾斜面が形成されていることを特徴とする超音波ショットピーニング装置。
【請求項13】
請求項1乃至請求項12の何れか一項において、
前記振動子の上面であるヘッド面には、上方に向かって凸となった曲率、または、下方に向かって凹となった曲率が付与されていることを特徴とする超音波ショットピーニング装置。
【請求項14】
請求項1乃至請求項13の何れか一項において、
前記超音波ピーニングヘッドの動作状態を監視する衝撃センサを備えたことを特徴とする超音波ショットピーニング装置。
【請求項15】
請求項1乃至請求項14の何れか一項において、
前記振動子の上面であるヘッド面は、円形、または、矩形、または台形であることを特徴とする超音波ショットピーニング装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁面とこの壁面から下方に突出している突起物からなる施工対象物に対してショットピーニング施工する超音波ショットピーニング装置であって、
略水平状態に配置されている板状の部材であり、上下方向に貫通する回収孔が形成されると共に、上面は回収孔に近づくに従い下方に下がっていく傾斜面となっているディスクと、
超音波発振素子と振動子とで構成されており、前記振動子が前記ディスクに形成された前記回収孔に下方側から挿入されている超音波ピーニングヘッドと、
前記ディスク及び前記超音波ピーニングヘッドを一体として水平面内で回転させる回転機構と、
前記ディスクの外周面に接しつつこの外周面を囲う状態で配置された筒状をなし、上縁は前記壁面のうちショットピーニング施工をする部分の傾斜と同じ傾斜になっているチャンバーと、
前記チャンバーを昇降移動させるチャンバー昇降機構と、
前記ディスクと前記チャンバーで囲う空間に装填されたショットと、
を有することを特徴とする超音波ショットピーニング装置。
【請求項2】
原子炉容器の蓋の下面と、前記蓋を上下方向に貫通する管台の外周面を、前記蓋の下面側で溶接した当該溶接部分及び当該溶接部分に隣接する面に対してショットピーニング施工する超音波ショットピーニング装置であって、
ベース板と、
前記ベース板の上面に配置されて水平面内で回転する回転機構と、
前記回転機構上に立設された支持部材と、
前記支持部材により略水平状態で支持されている板状の部材であり、中央部には前記支持部材の上部または前記管台に嵌合する取付孔が形成されると共に、上下方向に貫通する回収孔が形成され、上面は回収孔に近づくに従い下方に下がっていく傾斜面となっているディスクと、
前記支持部材により支持されると共に、超音波発振素子と振動子とで構成されており、前記振動子が前記ディスクに形成された前記回収孔に下方側から挿入されている超音波ピーニングヘッドと、
前記ディスクの外周面に接しつつこの外周面を囲う状態で配置された筒状をなし、上縁は前記蓋の下面のうちショットピーニング施工をする部分の傾斜と同じ傾斜になっている
チャンバーと、
前記チャンバーを前記ベース板に対して昇降移動させるチャンバー昇降機構と、
前記ディスクと前記チャンバーで囲う空間に装填されたショットと、
を有することを特徴とする超音波ショットピーニング装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記超音波ピーニングヘッドにより上方に弾き出されたショットが衝突して反射する位置に配置されており、反射後のショットの進行方向を変更する反射板を備えていることを特徴とする超音波ショットピーニング装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか一項において、
前記回転機構は、回転を開始し始めてから予め決めた所定角度回転したらその回転位置で一定時間停止し、一定時間が経過したら再び回転して予め決めた所定角度回転したらその回転位置で一定時間停止する、という間欠的な回転動作を繰り返すことを特徴とする超音波ショットピーニング装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか一項において、
前記ショットは、直径が2〜4mmであることを特徴とする超音波ショットピーニング装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れか一項において、
前記ショットは、材質がニッケル基合金のうち、時効処理した析出強化型合金インコネル718であることを特徴とする超音波ショットピーニング装置
【請求項7】
請求項1乃至請求項6の何れか一項において、
前記各ショットの投影断面積の和が、前記振動子のヘッド面の面積の100〜400%となるように、前記ショットの数量を選定していることを特徴とする超音波ショットピーニング装置。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7の何れか一項において、
前記ディスクの前記上面の上方に配置されており、下方から投射された前記ショットをガイドして無駄な拡散を抑制するとともに、上方から落下してきた前記ショットをガイドして前記回収孔内に直接落下させる仕切り板を備えていることを特徴とする超音波ショットピーニング装置。
【請求項9】
請求項8において、
前記仕切り板は、前記回収孔を間に挟んで相対面する状態で配置された一対の仕切り板であることを特徴とする超音波ショットピーニング装置。
【請求項10】
請求項8において、
前記仕切り板は、前記回収孔よりも外周側に配置された一枚の仕切り板であることを特徴とする超音波ショットピーニング装置。
【請求項11】
請求項1乃至請求項7の何れか一項において、
上方から落下してきた前記ショットをガイドして前記回収孔内に直接落下させるため、上方及び下方、またはいずれか一方が開いたショット案内を、前記ディスクの前記上面の上方に配置していることを特徴とする超音波ショットピーニング装置。
【請求項12】
請求項1乃至請求項11の何れか一項において、
前記ディスクに形成した前記回収孔の上縁には、回収孔に近づくに従い下方に下がっていく傾斜となっている傾斜面が形成されていることを特徴とする超音波ショットピーニング装置。
【請求項13】
請求項1乃至請求項12の何れか一項において、
前記振動子の上面であるヘッド面には、上方に向かって凸となった曲率、または、下方に向かって凹となった曲率が付与されていることを特徴とする超音波ショットピーニング装置。
【請求項14】
請求項1乃至請求項13の何れか一項において、
前記超音波ピーニングヘッドの動作状態を監視する衝撃センサを備えたことを特徴とする超音波ショットピーニング装置。
【請求項15】
請求項1乃至請求項14の何れか一項において、
前記振動子の上面であるヘッド面は、円形、または、矩形、または台形であることを特徴とする超音波ショットピーニング装置。
【請求項16】
壁面とこの壁面から下方に突出している突起物からなる施工対象物に対してショットピーニング施工する超音波ショットピーニング方法であって、
略水平状態に配置されている板状の部材であり、上下方向に貫通する回収孔が形成されると共に、上面は回収孔に近づくに従い下方に下がっていく傾斜面となっているディスクを、前記施工対象物の近くに位置させ、
前記ディスクの外周面に接しつつこの外周面を囲う状態で配置された筒状をなし、上縁は前記壁面のうちショットピーニング施工をする部分の傾斜と同じ傾斜になっているチャンバーを、前記ディスクに対して上昇させ、チャンバーの上縁を前記壁面に緊密に密着させ、
超音波発振素子と振動子とで構成されており、前記振動子が前記ディスクに形成された前記回収孔に下方側から挿入されている超音波ピーニングヘッドの前記超音波発振素子を振動させることにより、前記振動子によりショットを上方に弾き出し、
更に、前記ディスク及び前記超音波ピーニングヘッドを一体として水平面内で回転させることを特徴とする超音波ショットピーニング方法。
【請求項17】
原子炉容器の蓋の下面と、前記蓋を上下方向に貫通する管台の外周面を、前記蓋の下面側で溶接した当該溶接部分及び当該溶接部分に隣接する面に対してショットピーニング施工する超音波ショットピーニング方法であって、
略水平状態で支持されている板状の部材であり、中央部には取付孔が形成されると共に、上下方向に貫通する回収孔が形成され、上面は回収孔に近づくに従い下方に下がっていく傾斜面となっているディスクを、前記管台の中心と前記取付孔の中心を揃えた状態にして、前記蓋の下面の近くに位置させ、
前記ディスクの外周面に接しつつこの外周面を囲う状態で配置された筒状をなし、上縁は前記蓋の下面のうちショットピーニング施工をする部分の傾斜と同じ傾斜になっているチャンバーを、前記ディスクに対して上昇させ、チャンバーの上縁を前記蓋の下面に緊密に密着させ、
超音波発振素子と振動子とで構成されており、前記振動子が前記ディスクに形成された前記回収孔に下方側から挿入されている超音波ピーニングヘッドの前記超音波発振素子を振動させることにより、前記振動子によりショットを上方に弾き出し、
更に、前記ディスク及び前記超音波ピーニングヘッドを一体として水平面内で回転させることを特徴とする超音波ショットピーニング方法。
【請求項18】
請求項16または請求項17において、
前記超音波ピーニングヘッドにより上方に弾き出されたショットを反射板に衝突させて、反射後のショットの進行方向を変更することを特徴とする超音波ショットピーニング方法。
【請求項19】
請求項16乃至請求項18の何れか一項において、
前記ディスク及び前記超音波ピーニングヘッドを一体とした水平面内での回転は、回転を開始し始めてから予め決めた所定角度回転したらその回転位置で一定時間停止し、一定時間が経過したら再び回転して予め決めた所定角度回転したらその回転位置で一定時間停止する、という間欠的な回転動作を繰り返すことを特徴とする超音波ショットピーニング方法。
【請求項20】
請求項16乃至請求項19の何れか一項において、
前記ディスクの前記上面の上方に仕切り板を配置して、下方から投射された前記ショットをガイドして無駄な拡散を抑制するとともに、上方から落下してきた前記ショットをガイドして前記回収孔内に直接落下させることを特徴とする超音波ショットピーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2006−346775(P2006−346775A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−173408(P2005−173408)
【出願日】平成17年6月14日(2005.6.14)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(591017869)東洋精鋼株式会社 (7)