説明

超音波センサ付きの検査装置を用いた導管の腐食状態の検査方法及び腐食状態の検査方法の適用に適した導管の構造

【課題】超音波センサ付きの検査装置を用いて、導管の腐食状態が均一腐食であるか局部腐食であるかを検査する方法を提案する。
【解決手段】導管の管壁を超音波センサで一度に検査可能な大きさの升目状の単位セクションに区分するために、各単位セクションの境界線上に位置するガイドマークを導管の外表面に施す段階と、このガイドマークに基づいて、一連の単位セクションを超音波センサで走査し、腐食深度を測定する段階と、測定した腐食深度のデータにグンベル分布を適用し、その分布において腐食深度のデータの散らばり具合を表す尺度パラメータを導く段階と、この尺度パラメータが基準値以下のときに腐食状態が均一腐食であると、検査装置又は検査者が判断する段階とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、超音波センサ付きの検査装置を用いた導管の腐食状態の検査方法及び腐食状態の検査方法の適用に適した導管の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、都市開発の一環として、一定の地域にある複数の施設に対して一箇所で加熱・冷却した熱媒体を導管を介して供給すること(DHC)が行われている。こうした導管は、長年使用されるうちに内部から腐食しておき、腐食箇所が表面に達すると媒体が漏出してしまう。そうなる前に導管を交換する必要があるが、他方、これらの導管は地下のようにアクセスが容易ではないバックヤードに設置されるので、交換に要する費用は安価ではなく、施工主としては導管の寿命を正確に把握し、メンテナンスの経済効率を高めたいという要請も強い。
【0003】
非破壊検査で導管の腐食を検知する技術として、腐食による電気抵抗の変化を測定する方法を提案しているが(特許文献1)、管壁全体の電気抵抗しか分らないので、均一腐食と局所腐食とを区別しにくい。
また、超音波測定により管壁の肉厚を測定して腐食を検知することも公知であり、これは超音波センサを管壁外面の適所に当て、照射した超音波が内壁面で反射して戻るまでの時間を測定するものである(特許文献2)。好適な測定方法として、配管の表面に設定したメッシュの交点を測定ポイントとして、ハンディー式の超音波測定器で管壁の肉厚を人手で測定することが行われている(特許文献3の段落0014)。しかしながら、測定ポイントから外れたところに深い腐食箇所があると測定結果から漏れてしまう。そこで各ポイントで測定した最大腐食深度をグンベル分布に当てはめ、位置パラメータ及び尺度パラメータを導き、管全体での腐食深度の最大値を推定することが提案されている(同文献)。なお、位置パラメータは、確率分布において各データの大よその大きさ(数直線上の位置)を示すパラメータであり、他方、尺度パラメータは、各データのばらつきを示すパラメータである。
そして腐食の程度が深刻であるときには、管内を流れる流体に脱酸素処理を行うことができる(特許文献4)。
【特許文献1】特開2007−292747
【特許文献2】特開平9−152425
【特許文献3】特許第3061618号
【特許文献4】特開平7−039883
【非特許文献1】「装置材料の寿命予測入門−極値統計の腐食への適用」 腐食防止協会編纂 出版社丸善 1984年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献3の方法は、粗い測定ポイントから得られたデータを、グンベル分布に当てはめて腐食深度の最大値を推定するようにしているが、その測定時点での腐食深度の最大値が判っただけでは、その後に配管がどの程度もつものかを判断するのが難しい。何故なら腐食の進行具合として、本願図5(A)に示す如く内壁面の谷Vが年とともに深くなる局部腐食と、同図(B)に示す如くその谷Vが年とともに浅くなる均一腐食とがあるからである。腐食深度の最大値が同じであっても、腐食状態が後者であるときには、前述の脱酸素処理を行うだけでその後の経過を見守るということが合理的であり、他方、腐食状態が前者であるときには、直ちに配管の交換を準備した方がよいということがある。
【0005】
本発明の第1の目的は、グンベル分布を利用して導いた尺度パラメータを基準値と比較して、腐食の状態が均一腐食か或いは局部腐食かを判定できる導管の状態の検査方法を提案することである。
【0006】
本発明の第2の目的は、導管の腐食状態を視覚的に理解できる導管の検査方法を提案することである。
【0007】
本発明の第3の目的は、それらの検査方法を適用するのに適した導管の構造を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の手段は、
超音波センサ付きの検査装置を用いて、導管の腐食状態が均一腐食であるか局部腐食であるかを検査する方法であって、
導管の管壁を超音波センサで一度に検査可能な大きさの升目状の単位セクションに区分するために、各単位セクションの境界線上に位置するガイドマークを導管の外表面に施す段階と、
このガイドマークに基づいて、一連の単位セクションを超音波センサで走査し、腐食深度を測定する段階と、
測定した腐食深度のデータにグンベル分布を適用し、その分布において腐食深度のデータの散らばり具合を表す尺度パラメータを導く段階と、
この尺度パラメータが基準値以下のときに腐食状態が均一腐食であると、検査装置又は検査者が判断する段階とを含む。
【0009】
本手段では、超音波センサで導管の各所での腐食深度を測定し、グンベル分布を用いてそれらデータから導いた尺度パラメータを基準値と比較し、腐食状態が局部腐食又は均一腐食のいずれであるかを判定することを提案する。従来の腐食状態の検査方法の如く、限られた測定点から得られた腐食深度のデータをグンベル分布に当て嵌め、腐食深度の最大値を推定する方式のみでは、安全を考慮して導管の寿命を短期に見切るという傾向に傾き勝ちである。それに対して、尺度パラメータを利用した腐食状態の判定という第2の基準を導入することで、経済的で安心感のある導管の運用を可能としようとするものである。
本発明を実現するためには、尺度パラメータを精確、的確に測定する必要がある。そこで本発明では、被検査面を、超音波センサで一度に検査可能なサイズを有する単位セクションに区分し、ガイドマークを利用してこれら単位セクションを走査するようにしている。これにより、被検査面全体から孔食などの腐食情報を漏れなく採取することができる。
「検査装置」は、少なくとも超音波センサにより管壁の腐食深度を測定する機能を有すればよい。好適な一例として、グンベル分布の計算をする機能などを兼備することが望ましいが必ずしもこれに限らない。
「単位セクション」とは、超音波センサによって一度で測定可能なエリアであり、管軸方向及び周方向の仮想の境界線とで囲われている。「仮想の」とは、溝などの特別の構造で分割されている必要がなく、ただ個々の単位セクションが認識できるように目印(ガイドマーク)で区別されていれば足りる。
「ガイドマーク」とは、単位セクションの境界を示す機能を有し、それにより超音波センサの走査方向を示唆する役割を有する。
第2の手段は、第1の手段を有し、かつさらに測定した一連の単位セクションの腐食深度のデータを記録する段階を導入するとともに、
上記ガイドマークを経年変化によって消えないように施している。
本手段では、ガイドマークが経年変化により消滅しないようにすることで、腐食が進行する期間中、同じ単位セクション内での腐食の進行を記録できるようにしている。例えば単位セクション内に存在する孔食が周囲に比べて時間の経過とともに際立っていくときには局部腐食が進行中であり、そうでなければ均一腐食に留まっているということである。この方法をより進歩させた手法を次の手段で述べる。ガイドマークが経年変化で消えないようにするためには、ポンチなどを使用して印を管の表面に刻印すればよい。
【0010】
第3の手段は、第2の手段を有し、かつ
第2の手段に掲げる各段階を必須過程とするとともに、上記検査装置は、ディスプレイ手段と、現在及び過去の測定データを記憶する記憶手段と、その測定データを処理する演算処理手段と、処理の結果に反映した画像情報を作る画像情報形成手段とを含むものとし、
さらに腐食深度に応じた腐食反応の進み具合を表す腐食量の概念を用いて、任意に選択可能な補助過程として、
演算処理手段が、縦横の軸の一方に各単位セクションの腐食量を、他方に軸の各区間に或る測定データの度数をそれぞれ表すヒストグラムの画像情報を形成する段階と、
演算処理手段が、形成した画像情報を出力し、現在及び過去の少なくとも2つのヒストグラムをディスプレイ手段上に表示させる段階と、
観測者が、ディスプレイ手段上に表示された各ヒストグラムを視覚により比較することで、各ヒストグラム中の腐食量の最大値が時間の経過とともに大きくなるときに腐食状態が局部腐食であると判定する段階とを、導入した。
【0011】
先の手段は、腐食状態の均一性を数値データにより機械的に判定できるようにしているが、それだけでは判定の結果を安心して採用できないと利用者が感じることがある。そこで本手段では、利用者の選択により、視覚的に判定結果を確認できる任意の段階を含む方法を提案している。具体的には、局部腐食の状態では、腐食が内壁面の谷部で集中的に起きるから、各測定時期の測定データをヒストグラムに表すと、図12(A)に示すように各年の頻度の分布が全体として平行移動するように動く。とくに頻度の分布のうち最大値の部分の動きは顕著である。他方、図12(B)に示す如く均一分布では各測定時期の分布のうち最大値の部分が殆ど動かない。その動きをディスプレイ手段で確認できるようにしている。先に述べた数値的な腐食状態の判定する方式に加えて、任意の選択により、視覚により腐食状態を確認的に判断する方式を提案するから、本発明の検査方法に対する信頼性が高まる。また、局部腐食であるとの判定後に脱酸素処理を行ったときには、後日その処理の効果をこの方法で確認することができる。
【0012】
なお、「腐食反応の進み具合を表す腐食量」としては、腐食深度をxとするとき、y=(x−λ)/αで与えられる規準化変数を用いることができるが、腐食深度そのものであってもよい。
【0013】
第4の手段は、
第2の手段に掲げる各段階を必須過程とするとともに、上記検査装置は、ディスプレイ手段と、現在及び過去の測定データを記憶する記憶手段と、その測定データを処理する演算処理手段と、処理の結果に反映した画像情報を作る画像情報形成手段とを含むものとし、
さらに腐食深度に応じた腐食反応の進み具合を表す腐食量の概念を用いて、任意に選択可能な補助過程として、
演算処理手段が、連続して測定された一連の単位セクションの腐食深度に対応する腐食量のうちから最大値を選出するとともにそれら腐食量の平均値を計算し、縦軸及び横軸の一方に、各測定時期における最大腐食量と平均腐食量とを、また他方に、経過時間を、それぞれ表すトレンド図の画像情報を形成する段階と、
演算処理手段が、形成された画像情報を演算処理手段からディスプレイ手段へ出力し、最大腐食量のトレンド図と平均腐食量のトレンド図とをディスプレイ手段上に表示させる段階と、
観測者が、ディスプレイ手段上に表示された2つのトレンド図を視覚により比較することで、最大腐食量と平均腐食量との差が時間の経過とともに大きくなるときに腐食状態が局部腐食であると判定する段階とを含む。
【0014】
本手段では、前の手段におけるヒストグラムに代えてトレンド図を用いて視覚により腐食状態が均一かどうか確認できるようにしている。すなわち、局部腐食では、内壁面の谷での腐食反応が活発なので、図13(A)に示すように腐食量の最大値と腐食量の平均値との差異が年々大きくなっていく。しかしながら、均一腐食では、内壁面の谷以外の部分での腐食反応が方が盛んであるから腐食量の最大値と腐食量の平均値とはあまり変化しない。このようすをディスプレイ手段で確認する。
第5の手段は、第1の手段を有し、かつ尺度パラメータの基準値を0.1以下としている。
【0015】
第6の手段は、
第2の手段に記載した記載した超音波センサ付きの検査装置を用いての導管の腐食状態検査方法の適用に適した導管の構造であって、
被検査面である導管の外周面を、管軸方向及び周方向の仮想の境界線で囲われた升目状の検査区画に区分するとともに、各検査区画をさらに管軸方向及び周方向にそれぞれ2以上に区分して、各区分を、超音波センサで一度に検査可能な単位セクションとし、
各検査区画の境界線の適所に第1のガイドマークを、検査区画の境界線を除く各単位セクションの境界線の交点に第2のガイドマークをそれぞれ経年変化によって消滅しないように形成している。
【0016】
本手段では、腐食の進行期間中に亘って各単位セクションの測定データを蓄積する方法に適した、導管の構造を提案している。経年変化によって消えないガイドマークが、各検査区域の仮想の境界線と、各検査区画内の単位セクションの境界線の交点とに形成されている。測定を行うときには、各検査区域の仮想の境界線上の第1のガイドマークに従って、境界線をなぞる仕切り線を適当な筆記具で引く。そして走査段階においては、一つの検査区画に属する一連の単位セクションを一筆書き様に走査し、次の検査区域に移ることを順次繰り返せばよい。これによれば、複数の単位セクションが管軸方向及び周方向に2つ以上まとまった検査区画毎に測定を行うことができるから、測定の操作が容易である。また検査区画毎の内壁面の状態を把握し易い。さらに単位セクションの境界線の全ての交点にガイドマークを設ける場合に比べて、マーク付けの作業が容易である。
【発明の効果】
【0017】
第1の手段に係る発明によれば、次の効果を奏する。
○グンベル分布から導いた尺度パラメータを基準値と比較して、局部腐食と均一腐食とを区別するから、導管の寿命を的確に見極めることができる。
○検査面である導管の外周面を、超音波センサ4で一度に検査可能なサイズを有する単位セクション14に区分したから、ガイドマーク16を利用して被検査面全体から測定データをとることができる。
第2の手段に係る発明によれば、経年変化によって消えないガイドマークを利用するとともに、測定データを記録するから、過去のデータを参考として測定の信頼度を高めることができる。
【0018】
第3の手段又は第4の手段に係る発明によれば、トレンド図やヒストグラムを用いて、時間の経過による腐食の進行を視覚により確認できるようにしたから、検査結果に対する信頼度が高まる。
第5の手段に係る発明によれば、尺度パラメータの基準値を0.1以下としているので、信頼性の高い検査結果が得られる。
【0019】
第6の手段に係る発明によれば、単位セクションの境界線の全ての交点に刻印する場合と比べて、検査区画の境界線上の適所と検査区画内の交点にガイドマークをつけるので刻印作業が容易であり、超音波測定の際にセンサを走査する列を間違いにくい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
まず図1から図4を用いて本発明に係る導管の検査方法に使用する検査装置及びこの方法の適用に適した導管の構造に関して説明する。
【0021】
図1は、本発明方法を適用するDHCシステム全体を示している。適用例としてDHCを挙げたのは、このシステムでは直径400〜900mmの大径管を用いることが多く、抜管して検査することが難しいからである。もっともこの例は本発明の適用の好適な一例にすぎない。同図中、2は超音波センサ4付きの検査装置であり、8はシステムに用いられる導管である。
【0022】
図2は、導管8のうち本発明方法を適用する部分の構造を示している。導管は表面の被覆をはぎとるとともに、管壁の表面をサンドペーパーなどで磨いて汚れを除去する。そして導管の管軸方向及び周方向に等間隔に仕切り線10を引いて検査区画12に区分する。さらに各検査区画を超音波センサで一度に測定可能な大きさの単位セクション14に分割して、各単位セクションの仮想の境界線の交点にガイドマーク16を刻印している。
【0023】
図3は、上記導管の表面をパノラマ様に360度展開して表したものである。同図(A)に示すように導管の表面に油性ペンなどで各検査区画12の仕切り線10をひく。同図(B)に示すようにこれら仕切り線の交点に第1のガイドマーク16aを刻印し、さらに各検査区画を管軸方向及び周方向に区分する仮想の境界線18を想定して、この境界線の交点に第2のガイドマーク16bを刻印する。図示例では1つの検査区画を9つの単位セクション14に分割しているが、その個数は適宜変更できる。この単位セクションを用いた測定方法については後述する。一度の測定を終えて数ヶ月(又は数年)後に再び測定を行うときには、同図(C)に示すように油性ペンで書いた仕切り線10はかすれて消えている。このときには第1のガイドマーク16aを通るように仕切り線を引き直せばよい。
【0024】
検査装置2は、図1に示す如く本体2aと、超音波センサ4と、ディスプレイ手段6とを有している。図4にこの検査装置の機能の概略図を描いている。本体は、コンピュータなどで構成することができ、超音波センサから出力される測定データを単位セクション毎に記録する記憶手段と、測定データをグンベル分布などに適用し、尺度パラメータを求めるなどの演算処理手段と、尺度パラメータを基準値と比較して腐食上体を判定する手段と、画像情報を形成する手段とを含む。画像情報形成手段は、すくなくとも図11から図13に示すグラフの画像情報を形成することができるものとする。超音波センサは、ハンディタイプのものであり、超音波が反射して戻ってくる時間で正常な管壁の肉厚を測定する。もとの管の厚から腐食深度が求まる。また既知の超音波測定装置がそうであるように、ディスプレイ手段上にはエコーの波形を表示できるようにして、ラミネーション(介在物)を表示できるようにするとよい。
【0025】
以下図5から図10を用いて本発明の第1の実施形態に係る導管の検査方法を説明する。この検査方法は一つの導管に対して腐食の進行期間中定期的に行うものであるが、まずは初回の検査方法の手順を説明する。この検査方法は次の手順で行う。
(1)ガイドマークを導管の表面に施す段階
図3(A)及び(B)で説明したように、検査区画12の仕切り10線上の適所にまず第1のガイドマークを刻印し、かつ検査区画内の各単位セクションの境界線の交点に第2のガイドマークを刻印することが望ましい。第1のガイドマークは、次の測定時期に各仕切り線を再び作図できる程度の数を刻印すればよく、最低限一本の境界線に2つのガイドマークがあればよい。
【0026】
図2には、被検査面を、仕切り線10で複数の検査区画12に、また各検査区画をガイドマーク16と複数の単位セクション14にそれぞれ細分化した導管の様子を描いている。各検査区画は、符号によって呼称をつけるとよい。単位セクションのサイズは超音波センサの探触子で測定可能な面積に対応しているので、導管の径が大きいほど検査区画の数も増加する。後述の好適な実施例では、検査区画の縦横の寸法を2cm程度としている。図示例では管軸方向の3列にA、B、Cの3文字を、また周方向に1、2,3…と数字を割り当て、各検査区画をA−1、A−2…のように特定できるようにしている。同様に各単位セクションにも符号を付して、どの検査区画のどの単位セクションからどういう向きで測定をするのかを、記録しておくものとする。また走査の最初の単位セクションに出発点であることを示す第3のガイドマークを付してもよい。
もちろん、上に述べたことは好適な一例であり、単位セクションの境界線の全ての交点にガイドマークを刻印しても構わない。しかしながら、刻印作業が面倒となる。
このガイドマークを施す段階は、1回目の超音波測定の際に行う代わりに、導管を配管する作業の前又は後に予め行ってもよい。工場で導管を製造する過程においてガイドマーク付きの導管として製造してもよい。
(2)ガイドマークに従って超音波測定を行う段階
超音波測定の際には、超音波センサの検知範囲に対応した単位セクション毎に被検査面全体を検査する。従来の如く大きくメッシュを引いて、その交点で測定をする場合に比べて管壁内面の腐食状態を漏れなく測定することができる。これによりmm単位で小数点以下2桁までの精度で測定をすることができるようになる。
各単位セクションでの測定毎にディスプレイ手段に映るエコー波形を確認しながら測定を行うことができる。グラフの縦く軸に反射エコーの強度、横軸に反射に要する時間をとったグラフにエコー波形を表示すると、腐食面からの反射波と、管壁内に含まれた不純物(ラミネーション)からの反射波とは横軸上の異なる場所に現れる。従って両者を明瞭に区別することができるので、不純物から反射した異常エコーを測定データから除外することが可能である。
【0027】
超音波センサを走査するときには、図2に示すように仕切り線10及びガイドマーク10bに従って一筆書き様に蛇行しながら一つの検査区画12を検査し、次の検査区画に移るということを繰り返す。このようにすると、一つの検査区画ごとに測定をするので、区画内の管壁の状態が把握し易い。例えば割れ目(谷)が複数の単位セクションに亘って存在するときに、その把握が容易である。超音波測定は、各検査区画内をくまなく全面測定し、その中の有効管壁の最小値及び最大値をその測定エリアの測定最小値及び最大値とする。測定最大値は合計3回以上の再測定をすることが望ましい。
(3)測定した腐食深度のデータを記録する段階
測定した腐食深度などの情報は単位セクション毎に取り出すことができるように記憶しておく。尚、腐食深度だけでなく、ラミネーションの情報なども記録しておくと便利である。
図6及び図7は、実在の管(肉厚8mm)の腐食深度の測定値を、導管の周方向に連なる一連の単位セクションについて折れ線グラフ様に表したものである。グラブの縦軸には腐食深度をmm単位でとり、横軸のピッチは、単位セクションの周方向の位置に対応している。これにより管の周方向全周の腐食の様子が理解できる。図示の例では、測定時の異なる複数の折れ線グラフを重ねて視覚的に腐食の進行状況を理解できるようにしている。二回目以降の測定手順については後述する。図6は局部腐食の状態を、図7は均一腐食の状態をそれぞれ表している。図6では時の経過とともに谷が深くなっていき、図7では谷が浅くなっていくことがわかる。
図6及び図7のデータをヒストグラムとして描くと図8及び図9のようになる。図8において最大頻度の山が増大しているのは、局部腐食の特色であり、また図9において最大頻度の山が殆ど移動していないのは、均一腐食の特色である。
(4)測定した腐食深度のデータをグンベル分布に適用して尺度パラメータを決定する段階
腐食の傾向を統計的に表すときには、分布関数F(x)=∫−∞f(x)dxを用いる。但し、f(x)は確率密度関数である。確率密度関数f(x)は、ヒストグラム中でxが属する区分の度数p、また全度数をPとすると、p/(P+1)で計算できる。従って離散的なN個のデータがあるときには、それらのデータを小さい順にx、x…、xのように並べると、i番目のデータまでの分布関数はF(x)=i/(N+1)で与えられる(平均ランク法)。
この分布関数を適用する分布にはさまざまな種類のものがあるが、腐食の傾向を知るときには、腐食の最も進行している箇所の状態を知ることが重要である。従って、本発明では極値分布(腐食深度の最大値の集合が従う分布)の一つであるグンベル(Gumbel)分布を適用することが望ましい。この分布を適用するときには、分布関数は次式で与えられる。
[数式1] F(x)=exp[−exp{−(x−λ)/α}]
この数式を簡単にするため、F(x)=G((x−λ)/α)という関数Gを導入し、規準化変数y=(x−λ)/αとおくと、y=G−1(F(x))となる。
【0028】
定性的に尺度パラメータαを求めるときには、これらの測定データから上述の平均ランク法で得た分布関数F(x)の数値を確率紙にプロットすればよい。
ここでは先の図8及び図9の測定データをグンベル記録紙に描くと図10及び図11のようになる。定性的には、y=0及びy=1の直線とデータの漸近線との交点からx軸に垂線を引くと、その垂線の足の座標はそれぞれλ、λ+αとなる(非特許文献1)。従って2つの垂線の間の距離がαである。
離散的なデータから漸近線を導く方法としては従来既知の最小2乗法やMVLUE(最小分散不偏推定子)法があるが、これらは発明固有の事柄ではないので、実施例の欄に後述する。
(5)尺度パラメータを用いて腐食状態を判定する段階
尺度パラメータはデータのばらつきの大きさを表すパラメータであるので、これが小さいときには各測定点での腐食の深度の差が小さい、すなわち均一性が大きいと判断することができる。出願人は数年に亘る実測データの蓄積から均一腐食と局部腐食とを区別するための規準値として0.1を採用した。
計算した尺度パラメータが0.1以下であるときには、均一腐食であると、それより大きいときには局部腐食であると、判定する。
【0029】
以上が第1回目の検査の手順である。第2回目の検査では、図3(C)に示すように仕切り線が経年変化によりかすれたり、消えていることが多い。そうした場合には、測定に先立って導管の表面の汚れを除去し、第1のガイドマーク16aに従って仕切り線10を引きなおせばよい。そしてそれら仕切り線及びガイドマーク16a、16bに従って第1回目と同じ手順で測定を行う。ここで超音波セクションで各検査区画を走査するときには第一回目の測定と同じ道筋で測定することが望ましい。そうすることでデータの整理が容易となり、また、介在物の認定なども前回の測定結果を参考に容易にかつ確実に行うことができる。例えば腐食の進行した谷であるのか介在物であるか判断に迷うときでも、前回同じ単位セクションでの測定で介在物があれば同じ介在物であると認定することができ、そうした介在物が前回観測されていなければ、谷である可能性が強い。
【0030】
以下本発明の他の実施形態を説明する。第1の実施形態が必須の過程であるとすれば、第2から第4の実施形態は任意の過程である。これらは、第2回目以降の測定を対象とし、新たに測定したデータと過去のデータとを対比して腐食状態を視覚的に確認できるようにしたものである。
【0031】
図11は、本発明の第2の実施形態を示している。これは図10に示すグンベル記録紙に現れた測定データを、3つの異なる測定時期に亘って一つのグラフに表したものである。図11の(A)は時の経過ととともに漸近線の傾きが小さくなっているから、尺度パラメータが大きくなっており、局部腐食が進行している。図11の(B)では、腐食の状態は均一腐食に留まっている。
この画像をディスプレイ手段として表示することで腐食状態を視覚により判断することができる。視覚による判定は、第1の実施形態で述べた数値による判定を補助する過程である。このようにするメリットであるが、数値による判断だけでは不安な場合に、肉眼で腐食状態をじかに見ることができるということがある。本発明の実施態様としては、例えば導管を含む施設の所有者が検査業者に検査を依頼するということが多いと予測される。そのような場合に、単に計測された尺度パラメータが基準値より小さいので均一腐食の状態にあるという検査結果を説明しても、必ずしも依頼者の十分な納得は得られない。視覚に訴える形で腐食の状態を示すことで説得力のある形に測定結果をまとめることができる。
【0032】
本実施形態を実行するときには、検査装置の記録手段から過去の測定データを取り出し、グンベル記録紙のパターンで、各測定時期のデータを重ねて一つの画像を画像情報形成手段で形成し、ディスプレイ手段に出力すればよい。
【0033】
図12は、本発明の第3の実施形態を示している。これは測定データをヒストグラムの形で、3つの異なる測定時期に亘って一つのグラフに表したものである。図12の(A)は時の経過ととともに各測定時期の一連のデータの最大値が大きくなっているから、局部腐食が進行している。図12の(B)では、最大値がほとんど変わらないから腐食の状態は均一腐食に留まっている。
【0034】
図13は、本発明の第4の実施形態を示している。これは、各測定時期の測定データとその時期よりも過去の測定データの平均値を計算し、各測定時期の測定データとその時点での測定データの平均値とをトレンド図の形に表したものである。図13の(A)は各測定時期での最新の測定データと測定データの平均値との差が時の経過ととともに大きくなっているから、局部腐食が進行している。図13の(B)では、その差がほとんど変わらないから腐食の状態は均一腐食に留まっている。
[実施例1]
先の第1実施形態のうちグンベル分布から尺度パラメータを求めるにあたり、グラフから定性的に求める方法を説明したが、ここでは、代数的にαを計算する方法を説明する。
このときには、ほぼ直線状に並んだドットデータから漸近線である直線を導く方法としては、従来既知の通り最小2乗法やMVLUE(最小分散不偏推定子)法がある。MVLUE法は、要するに測定値の平均値Lを、重みwを用いてL=Σi=1のように表して、測定値の平均Lを期待値の平均xに近づけるように重みwを決定しようという手法である。なお、以後の説明では簡単のためΣ=Σi=1を意味するものとする。具体的には、位置パラメータλの推定値をλ’、尺度パラメータαの推定値をα’として、λ’=Σai(N,n)・x及びα’=Σbi(N,n)・xで与えられるMVLUE係数ai(N,n)、bi(N,n)を決定するものである。その内容は非特許文献1に詳しく説明されているので、ここでは概略だけを説明する。
ここでLの期待値をE(L)=Σ=xと定義する。
そうするとLの分散は、次のように与えられる。V(L)=E{L−E(L)}=E(L)−{E(L)}=E(ΣΣ・w)−ΣΣE(w)・E(w)=ΣΣE(x・x)−ΣΣE(x)・E(x
この式にx=λ+αyを代入して整理すると、次式を得る。
[数式2]V(L)=αΣΣ{E(y・y)−E(y)・E(y)}
同式を利用して分散V(L)を最小にするwをラグランジュの未定係数法で求める。重みの条件として数式3を、次に複数のyの期待値がyの平均値と一致するという条件(不偏性)として数式4をそれぞれ採用する。そしてこれらの条件に基づいて数式5に規定するラグランジュ関数を導入する。
[数式3]Σ−1=0
[数式4]ΣE(y)−y=0
[数式5]I=ΣΣ{E(y・y)−E(y)・E(y)}+μ(Σ−1)+γ(ΣE(y)−y
ここでσij=E(y・y)−E(y)・E(y)とおいて、∂I/∂w=0とおくと、
[数式6]∂I/∂w=σij・w+Σi,i≠kσij・w+μ+γE(y
数式3、数式4、及び数式6を行列にすると、数式7となる。
[数式7]

【0035】
この連立方程式を解けば、wが求まる。上記の式を行列A、w、bを用いてAw=bと表し、そのAの逆行列をA−1とすると、次式のようになる。
[数式8]

【0036】
これよりai(N,n)、=θi、n+1及びbi(N,n)=θi、n+2が得られる。これを最初にあげた位置パラメータ及び尺度パラメータの式λ’=Σai(N,n)・x及びα’=Σbi(N,n)・xに代入すればよい。
[実施例2]
上記各実施形態の解説では、尺度パラメータを求め、これを基準値と比較するところで説明を打ち切っているが、さらに通常のグンベル分布で行うように検査面より広い範囲での腐食量を推定することができることは言うまでもない。
[実施例3]
上記の方法で導管の腐食状態を判定し、局所腐食であると判定されたときには、従来既知の脱酸素処理により腐食の進行を抑制するようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の導管の検査方法が適用されるDHCシステムの概念図である。
【図2】図1の方法を導管に適用する様子を示す斜視図である。
【図3】図1の方法を適用すべき導管の構造をパノラマ様に360度展開して示す説明図である。
【図4】図1の方法に使用する装置の構成説明図である。
【図5】図1の方法によって判別しようとする局部腐食及び均一腐食の説明図である。
【図6】図1の方法により、局部腐食した管を実際に測定した腐食深度のデータを管周方向にパノラマ様に展開して表したグラフである。
【図7】図1の方法により、均一腐食した管を実際に測定した腐食深度のデータを管周方向にパノラマ様に展開して表したグラフである。
【図8】図6のデータをヒストグラムとして表した図である。
【図9】図7のデータをヒストグラムとして表した図である。
【図10】同図(A)は、図6のデータをグンベル記録紙に表した図であり、また同図(B)は図7のデータをグンベル記録紙に表した図である。
【図11】同図(A)は局部腐食状態のデータの経年変化の様子を、同図(B)は均一腐食状態のデータの経年変化の様子をそれぞれグンベル記録紙上に表したものである。
【図12】同図(A)は局部腐食状態のデータの経年変化の様子を、同図(B)は均一腐食状態のデータの経年変化の様子をそれぞれヒストグラム上に表したものである。
【図13】同図(A)は局部腐食状態のデータの経年変化の様子を、同図(B)は均一腐食状態のデータの経年変化の様子をそれぞれトレンド図上に表したものである。
【符号の説明】
【0038】
2…検査装置 4…超音波センサ 6…ディスプレイ手段 8…導管
10…仕切り線 12…検査区画 14…単位セクション 16…ガイドマーク
16a…第1ガイドマーク 16b…第2ガイドマーク 18…境界線


【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波センサ付きの検査装置を用いて、導管の腐食状態が均一腐食であるか局部腐食であるかを検査する方法であって、
導管の管壁を超音波センサで一度に検査可能な大きさの升目状の単位セクションに区分するために、各単位セクションの境界線上に位置するガイドマークを導管の外表面に施す段階と、
このガイドマークに基づいて、一連の単位セクションを超音波センサで走査し、腐食深度を測定する段階と、
測定した腐食深度のデータにグンベル分布を適用し、その分布において腐食深度のデータの散らばり具合を表す尺度パラメータを導く段階と、
この尺度パラメータが基準値以下のときに腐食状態が均一腐食であると、検査装置又は検査者が判断する段階とを含む、
ことを特徴とする、導管の腐食状態検査方法。
【請求項2】
さらに測定した一連の単位セクションの腐食深度のデータを記録する段階を導入するとともに、
上記ガイドマークを経年変化によって消えないように施したことを特徴とする、請求項1記載の導管の腐食状態検査方法。
【請求項3】
請求項2に掲げる各段階を必須過程とするとともに、上記検査装置は、ディスプレイ手段と、現在及び過去の測定データを記憶する記憶手段と、その測定データを処理する演算処理手段と、処理の結果に反映した画像情報を作る画像情報形成手段とを含むものとし、
さらに腐食深度に応じた腐食反応の進み具合を表す腐食量の概念を用いて、任意に選択可能な補助過程として、
演算処理手段が、縦横の軸の一方に各単位セクションの腐食量を、他方に軸の各区間に或る測定データの度数をそれぞれ表すヒストグラムの画像情報を形成する段階と、
演算処理手段が、形成した画像情報を出力し、現在及び過去の少なくとも2つのヒストグラムをディスプレイ手段上に表示させる段階と、
観測者が、ディスプレイ手段上に表示された各ヒストグラムを視覚により比較することで、各ヒストグラム中の腐食量の最大値が時間の経過とともに大きくなるときに腐食状態が局部腐食であると判定する段階とを
導入したことを特徴とする、請求項2記載の導管の腐食状態検査方法。
【請求項4】
請求項2に掲げる各段階を必須過程とするとともに、上記検査装置は、ディスプレイ手段と、現在及び過去の測定データを記憶する記憶手段と、その測定データを処理する演算処理手段と、処理の結果に反映した画像情報を作る画像情報形成手段とを含むものとし、
さらに腐食深度に応じた腐食反応の進み具合を表す腐食量の概念を用いて、任意に選択可能な補助過程として、
演算処理手段が、連続して測定された一連の単位セクションの腐食深度に対応する腐食量のうちから最大値を選出するとともにそれら腐食量の平均値を計算し、縦軸及び横軸の一方に、各測定時期における最大腐食量と平均腐食量とを、また他方に、経過時間を、それぞれ表すトレンド図の画像情報を形成する段階と、
演算処理手段が、形成された画像情報を演算処理手段からディスプレイ手段へ出力し、最大腐食量のトレンド図と平均腐食量のトレンド図とをディスプレイ手段上に表示させる段階と、
観測者が、ディスプレイ手段上に表示された2つのトレンド図を視覚により比較することで、最大腐食量と平均腐食量との差が時間の経過とともに大きくなるときに腐食状態が局部腐食であると判定する段階とを含む、
請求項2記載の導管の腐食状態検査方法。
【請求項5】
尺度パラメータの基準値を0.1以下としたことを特徴とする、請求項1から請求項4のいずれかに記載の導管の腐食状態検査方法。
【請求項6】
請求項2に記載した記載した超音波センサ付きの検査装置を用いての導管の腐食状態検査方法の適用に適した導管の構造であって、
被検査面である導管の外周面を、管軸方向及び周方向の仮想の境界線で囲われた升目状の検査区画に区分するとともに、各検査区画をさらに管軸方向及び周方向にそれぞれ2以上に区分して、各区分を、超音波センサで一度に検査可能な単位セクションとし、
各検査区画の境界線の適所に第1のガイドマークを、検査区画の境界線を除く各単位セクションの境界線の交点に第2のガイドマークをそれぞれ経年変化によって消滅しないように形成したことを特徴とする、導管の構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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