説明

超音波モータ、その制御装置および制御方法

【課題】超音波モータの始動トルクを小さくすることができ、指定位置を何度も往復する不具合を防止できる超音波モータ、その制御装置および制御方法を提供する。
【解決手段】被駆動体107の位置制御に用いられる超音波モータ100であって、被駆動体107を摩擦駆動する圧電素子104と、可変の押圧力で圧電素子104を被駆動体107側へ押圧する可変与圧機構155とを備える。これにより、超音波モータ100への駆動制御が微動である場合には、与圧を小さくするように制御できる。その結果、超音波モータ100の始動トルクを小さくすることができ、指定位置を何度も往復する不具合を防止できる。その結果、位置決めの精度を向上させ、短時間の位置決めを可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被駆動体の位置制御に用いられる超音波モータ、その制御装置および制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、サブミクロン単位の精密な移動精度を要する磁気ヘッド検査装置や半導体分野および光学分野の検査装置において、超音波モータの振動により被駆動体に推力を加え、被駆動体を目標位置に微小位置決めすることが可能な位置決め装置が数多く使用されている。
【0003】
たとえば、特許文献1には主面が正方形で一定の厚さを有する圧電素子を用いた超音波モータ装置が示されている。その超音波モータ装置の一側面には摺動部材が設けられ、この摺動部材にスライダ(被駆動体)が当接している。圧電素子の片面には、2分割した駆動電極が形成されており、この面と反対側の面は共通電極で形成され、共通電極は接地電位に保持されている。そして、2分割した駆動電極の片方の電極に正弦波等の電圧が印加される(他方の電極は開放状態)ことによって圧電素子が駆動し、圧電素子の側面に取り付けた摺動部材の先端部が楕円運動する。この超音波モータ装置の駆動によりスライダ(被駆動体)が目標位置に移動している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−33788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載のように摩擦駆動により被駆動体を目標位置に移動させる超音波モータには、始動時に一定以上の電圧を印加するまで駆動することができない不感帯が存在する。このため、始動時や超音波モータの駆動方向を反転させた直後において、暫く時間を経過した後でなければ超音波モータが駆動しない。その結果、遅れが生じるばかりでなく、始動時のトルクが大きすぎることにより目標位置をオーバーしてしまうなどの追従性能が低下する。
【0006】
図5は、従来の超音波モータの駆動電圧に対する動作速度を示すグラフである。図5に示すように、印加電圧が最低駆動電圧Vになるとνminの速度で超音波モータが駆動し始め、その後は印加電圧の大きさに比例して超音波モータの速度が速くなる。また、不感帯では超音波モータの速度が0なのに対して、不感帯以外(図5の矢印で示す範囲)ではνmin以上の速度で各方向へ駆動する。
【0007】
なお、図5では、圧電素子への印加電圧が−VからVに変化すると、その速度は−νmaxからνmaxへ変化している。これは説明を容易にするために示した関係であり、実際には、圧電素子に交流の電圧信号を印加し、駆動方向の切り替えは切替信号で行っている。図5に示す印加電圧は、実際には切替信号による駆動方向の正負と圧電素子に印加する交流信号の振幅とを乗算したものである。
【0008】
特許文献1記載の超音波モータは1つの圧電素子からなるが、複数の圧電素子からなる超音波モータを駆動すれば被駆動体に加わる推力を大きくすることができる。しかし、超音波モータを構成する圧電素子の数に応じて、トルクおよび速度の特性が異なる。図6は、Vを印加したときの、圧電素子の数に対するトルクおよび速度を示す図である。Vは、起動に最低限必要な駆動電圧である。図6に示すように、速度0における(すなわち起動時)のトルクは、概ね圧電素子の数に比例して増大する。
【0009】
複数の圧電素子からなる超音波モータでは、起動時のトルクが大きくなる。図7は、従来の超音波モータの動作を示す図である。図7に示すように、被駆動体をある指定位置に移動する場合に、起動時のトルクが大きいと、起動時/反転時の移動距離が大きくなる。その結果、被駆動体は指定位置を何度も往復し、位置決めの精度不良や遅れが生じる。特に駆動されるものが軽量である場合には、このような現象が顕著である。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、超音波モータの始動トルクを小さくすることができ、指定位置を何度も往復する不具合を防止できる超音波モータ、その制御装置および制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の超音波モータは、被駆動体の位置制御に用いられる超音波モータであって、被駆動体を摩擦駆動する圧電素子と、可変の押圧力で前記圧電素子を被駆動体側へ押圧する可変与圧機構とを備えることを特徴としている。
【0012】
これにより、超音波モータへの駆動制御が微動である場合には、与圧を小さくするように制御できる。その結果、超音波モータの始動トルクを小さくすることができ、指定位置を何度も往復する不具合を防止できる。その結果、位置決めの精度を向上させ、短時間の位置決めを可能にする。
【0013】
(2)また、本発明の超音波モータは、複数の前記圧電素子を備えることを特徴としている。特に、複数の圧電素子を備える超音波モータでは、微動制御時のトルクが大きくなるため、与圧を小さくする制御により始動トルクを小さくする効果が大きい。
【0014】
(3)また、本発明の超音波モータは、被駆動体の位置制御に用いられる超音波モータの制御装置であって、上記の超音波モータに対して前記圧電素子の駆動制御および前記可変与圧機構の与圧制御を行うコントローラと、を備え、前記コントローラは、前記超音波モータへの駆動制御が微動か否かを判定し、微動と判定したときには前記可変与圧機構による押圧力を小さくすることを特徴としている。
【0015】
このように、本発明の超音波モータの制御装置は、超音波モータへの駆動制御が微動である場合に、可変与圧機構による押圧力を小さくすることで、超音波モータの始動トルクを小さくすることができる。
【0016】
(4)また、本発明の超音波モータは、被駆動体の位置制御のための超音波モータの制御方法であって、上記の超音波モータへの駆動制御が微動か否かを判定し、微動と判定したときには前記可変与圧機構による押圧力を小さくすることを特徴としている。このように、超音波モータへの駆動制御が微動である場合に、可変与圧機構による押圧力を小さくすることで、超音波モータの始動トルクを小さくすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、超音波モータの始動トルクを小さくすることができ、指定位置を何度も往復する不具合を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(a)、(b)第1実施形態に係る超音波モータの一例を示す斜視図である。
【図2】第1実施形態に係る超音波モータを用いた位置決め装置の一例を示す概略図である。
【図3】第1実施形態に係る超音波モータを用いた位置決め装置の一例を示すブロック図である。
【図4】(a)、(b)第2実施形態に係る超音波モータの一例を示す斜視図である。
【図5】従来の超音波モータの駆動電圧に対する動作速度を示す図である。
【図6】Vを印加したときの、圧電素子の数に対するトルクおよび速度を示す図である。
【図7】従来の超音波モータの動作を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0020】
[第1実施形態]
図1(a)、(b)は、超音波モータ100の一例を示す斜視図である。図1(a)は、単独の超音波モータ100を示し、図1(b)は、超音波モータ100が被駆動体107との接触した状態を示している。
【0021】
図1(a)、(b)に示すように、超音波モータ100は、2個の矩形型の形状をした圧電素子104を内部ケース110の内部に組み込んでいる。各圧電素子104は、一定の空間を空けて配列している。このような構成により、超音波モータ100は、1個の圧電素子104の2倍の推力で被駆動体107を移動させることができる。一方、複数の圧電素子104を備える超音波モータ100では、微動制御時のトルクが大きくなるため、始動トルクを小さくする効果は大きくなる。
【0022】
圧電素子104は、主面の片方の面に1つ以上の駆動電極が形成されている。主面の他方の面には共通電極が形成されており、共通電極は接地電位に保持されている。駆動電極は図示しない交流電源と結線されている。駆動電極に交流電圧が印加されると、所定モードの振動が励起され、圧電素子104の側面102は楕円軌道で振動する。
【0023】
圧電素子104の側面102には、摺動チップ103が接着されている。楕円軌道を描く摺動チップ103の先端部が被駆動体107に当接することで被駆動体107が摩擦駆動される。摺動チップ103は、たとえばエポキシ系樹脂接着剤により接着されている。圧電素子104と摺動チップ103とが強固に接着されるには、接着強度の大きいエポキシ系樹脂接着剤を使用することが好ましい。また、摺動チップ103には、被駆動体107との接触によって磨耗粉が発生するのを防ぐためにアルミナ等の硬度の大きいセラミックスを使用することが好ましい。
【0024】
内部ケース110は、外部ケース120の内部に組み込まれている。内部ケース110は、内部ケース110の背面と外部ケース120の間にある図示しない与圧機構154により押圧されて摺動チップ103の先端部は被駆動体107に当接する。
【0025】
圧電素子104の駆動電極に正弦波等の電圧信号が印加されると、圧電素子104が駆動して摺動チップ103の先端部が楕円運動する。これにより、摺動チップ103の先端部に当接している被駆動体107が圧電素子104の駆動方向と同一方向に移動する。
【0026】
なお、図示しない与圧機構のうち少なくとも1つは、与圧を可変できる可変与圧機構155であり、コントローラからの信号によって、与圧をコントロールすることができる。可変与圧機構155は、たとえば圧電素子(ポジショナ)で構成できる。なお、与圧機構154は、コイルバネで構成できる。
【0027】
このように、可変与圧機構155は、可変の押圧力で圧電素子104を被駆動体107側へ押圧する。これにより、超音波モータ100への駆動制御が微動である場合には、与圧を小さくするように制御できる。その結果、超音波モータ100の始動トルクを小さくすることができ、指定位置を何度も往復する不具合を防止できる。そして、位置決めの精度を向上させ、短時間の位置決めを可能にする。
【0028】
図2は、超音波モータ100による位置決め装置150の一例を示す概略図である。位置決め装置150は、超音波モータ100の可変与圧機構155を用いて精密位置決めを行う。超音波モータ100を設置した駆動機構159は、ガイドレール108上で被駆動体107を目標位置まで移動させる。
【0029】
具体的には、圧電素子104の駆動電極に正弦波等の電圧信号を印加すると、圧電素子104が駆動して摺動チップ103の先端部が楕円運動し、摺動チップ103の先端部に当接している被駆動体107が圧電素子104の駆動方向と同一方向に移動する。可変与圧機構155は、被駆動体107に向かう方向(図中の上向き矢印の方向)に動くことで与圧をかけ、その逆方向に動くことで与圧を解除する。このような動作で個々の圧電素子104への与圧をコントロールする。
【0030】
次に、位置決め装置150の機能的構成を説明する。図3は、超音波モータ100を用いた位置決め装置150の一例を示すブロック図である。超音波モータ100は、被駆動体107の位置制御に用いられる。位置決め装置150は、超音波モータ100を備えており、その制御装置158として、コントローラ160およびドライバ170を備えている。
【0031】
コントローラ160は、超音波モータ100への駆動制御が微動か否かを判定し(微動/粗動の判定)、微動と判定したときには可変与圧機構155による押圧力を小さくする。このようにして、超音波モータ100の始動トルクを小さくすることができる。そして、その後、微動から粗動に変化した時には、可変与圧機構155による押圧力を大きくする。
【0032】
コントローラ160は、図示しない位置センサにより、被駆動体107を移動させる目的位置と現在位置との差を検出し、目的位置へ到達すべき時間を参照して、印加電圧としての制御量を算出する。微動/粗動の判定においては、算出された印加電圧が低ければ、微動、高ければ粗動と判断する。
【0033】
ドライバ170は、コントローラ160より制御信号を受けてモータの駆動電圧Vを発生させる。可変与圧機構155は、コントローラ160より微動であることを伝える信号を受けて圧電素子104への与圧を弱める。または、与圧を無くしてもよい。
【0034】
この構成により、微動すべき場合においては、少なくとも1つ以上ある可変与圧機構155の与圧を弱めて圧電素子104を駆動することができる。また、圧電素子104の被駆動体107への接触を離すことで与圧を無くしてもよい。このようにして、超音波モータ100による起動時のトルクを小さくでき、微動性を向上させて、指定位置を何度も往復するといった不具合を防止できる。また、位置決め精度を向上し、短時間の位置決めを可能にする。
【0035】
[第2実施形態]
上記の実施形態では超音波モータ100が2つの圧電素子104を備えているが、3つの圧電素子104を備えていてもよい。図4(a)、(b)は、超音波モータ200の一例を示す斜視図である。図4(a)は、単独の超音波モータ200を示し、図4(b)は、超音波モータ200が被駆動体107との接触した状態を示している。圧電素子109が組み込まれた内部ケース210は、さらに外部ケース220の内部に組み込まれている。内部ケース210は、内部ケース210の背面と外部ケース220の間にある図示しない与圧機構により押圧されて摺動チップ103の先端部は被駆動体107に当接する。
【0036】
基本構造において超音波モータ200は超音波モータ100と変わらないが、超音波モータ100に2個の圧電素子104が組み込まれているのに対して、超音波モータ200に3個の圧電素子104が組み込まれている。したがって、1個の圧電素子104に対して3倍の推力にて被駆動体107を移動させることができる。また図示しない与圧機構のうち少なくとも1つは、与圧を可変することができる可変与圧機構であり、コントローラからの信号によって、与圧をコントロールすることができる。なお、圧電素子の数は2つ、または3つに限られない。
【符号の説明】
【0037】
100 超音波モータ
102 側面
103 摺動チップ
104 圧電素子
107 被駆動体
108 ガイドレール
110 内部ケース
120 外部ケース
150 位置決め装置
154 与圧機構
155 可変与圧機構
158 制御装置
159 駆動機構
160 コントローラ
170 ドライバ
200 超音波モータ
210 内部ケース
220 外部ケース


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被駆動体の位置制御に用いられる超音波モータであって、
被駆動体を摩擦駆動する圧電素子と、
可変の押圧力で前記圧電素子を被駆動体側へ押圧する可変予圧機構と、を備えることを特徴とする超音波モータ。
【請求項2】
複数の前記圧電素子を備えることを特徴とする請求項1記載の超音波モータ。
【請求項3】
被駆動体の位置制御に用いられる超音波モータの制御装置であって、
請求項1または請求項2記載の超音波モータに対して前記圧電素子の駆動制御および前記可変予圧機構の予圧制御を行うコントローラと、を備え、
前記コントローラは、前記超音波モータへの駆動制御が微動か否かを判定し、微動と判定したときには前記可変予圧機構による押圧力を小さくすることを特徴とする超音波モータの制御装置。
【請求項4】
被駆動体の位置制御のための超音波モータの制御方法であって、
請求項1または請求項2記載の超音波モータへの駆動制御が微動か否かを判定し、微動と判定したときには前記可変予圧機構による押圧力を小さくすることを特徴とする超音波モータの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−120266(P2012−120266A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265277(P2010−265277)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【出願人】(391005824)株式会社日本セラテック (200)
【Fターム(参考)】