説明

超音波モータ

【課題】超音波モータに余計な負荷をかけることなく、ステータとロータの固着を解除可能な超音波モータを得る。
【解決手段】コサイン波から成る交流電圧が印加される第5のB圧電体321b、第1のA圧電体311a、及び第2のA圧電体312a、第3のA圧電体315a及び第4のA圧電体316a、第9のA圧電体331a及び第7のA圧電体327a、並びに第7のB圧電体325b及び第6のA圧電体324aが、回転軸X正方向に各々変位する。マイナスコサイン波から成る交流電圧が印加される第1のB圧電体313b及び第2のB圧電体314b、第3のB圧電体317b及び第4のB圧電体318b、第7のA圧電体327a及び第8のB圧電体326b、並びに第5のA圧電体323a及び第6のB圧電体322bが、回転軸X負方向に各々変位する。これにより振動部材19の上に波長λの定在波が発生する。定在波の振幅は、進行波の振幅の2倍である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波振動により形成される進行波を用いて回転力を発生する環状の超音波モータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、環状のステータと、ステータの軸方向に回転可能に圧着される環状のロータとを備える超音波モータが知られている。ステータは電圧が印加されることにより進行波を発生し、この進行波によりロータが回転する。
【0003】
例えば長期間に渡り超音波モータを動作させなかった場合など、ステータとロータが固着してしまい、ロータが回転しなくなることがある。固着を解除するため、ステータに印加する電圧を一時的に上昇させて進行波の振幅を大きくする方法が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−42785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ステータに印加する電圧は電圧供給回路の上限に近く、一時的にせよ電圧を上昇させることは電圧供給回路の負荷が大きくなり、超音波モータの寿命を縮めることになる。
【0006】
本発明は、この問題を鑑みてなされたものであり、超音波モータに余計な負荷をかけることなく、ステータとロータの固着を解除可能な超音波モータ及び超音波モータ制御方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明による超音波モータは、回転軸に対して回転自在に取り付けられるロータと、ロータとの接触面に、定在波を生じるステータと、第1の波形を有する第1の交流電圧と、第1の波形とは逆の位相を有する第2の交流電圧とをステータに印加する電源部とを備え、電源部は、第1の交流電圧及び第2の交流電圧をステータに同時に印加してステータに定在波を生じさせることを特徴とする。
【0008】
接触面は回転軸を中心とする環状であって、ステータは、接触面の周方向に並べられる、進行波を発生させるために必要な周方向長さを有する調整領域と、接触面において調整領域を除いた領域を径方向に2分割して得られる第1の領域と第2の領域とを有し、第1の領域及び第2の領域は、互いに反対方向に振動する複数の第1の振動部及び複数の第2の振動部をそれぞれ有し、調整領域は、第1の振動部または第2の振動部を有し、第1の振動部及び第2の振動部は、調整領域の隣から、接触面の周方向に2つずつ交互に並べられることが好ましい。
【0009】
第1の振動部は、正電圧を印加すると回転軸に対して平行である第1の方向に突出し、負電圧を印加すると第1の方向と反対方向である第2の方向に突出し、第2の振動部は、正電圧を印加すると第2の方向に突出し、負電圧を印加すると第1の方向に突出することが好ましい。
【0010】
電源部は、第1の領域に属する第1の振動部及び第2の振動部と、第1の領域及び調整領域に属する第1の振動部及び第2の振動部と、第2の領域に属する第1の振動部及び第2の振動部のうちの一部とに対して第1の交流電圧を印加し、第2の領域に属する第1の振動部及び第2の振動部のうち、第1の交流電圧を印加しない第1の振動部及び第2の振動部に対して第2の交流電圧を印加することが好ましい。
【0011】
電源部は、第2の領域に属する第1の振動部及び第2の振動部のうち、調整領域に隣接する第1の振動部または第2の振動部と、その第1の振動部または第2の振動部から調整領域とは反対方向に1つおきに位置する第1の振動部または第2の振動部とに、第1の交流電圧を印加することが好ましい。
【0012】
電源部は、第2の領域に属する第1の振動部及び第2の振動部のうち、調整領域から1つおきに位置する第1の振動部または第2の振動部に第2の交流電圧を印加することが好ましい。
【0013】
定在波は、ステータの全周に渡って偶数個の波を形成することが好ましい。
【0014】
ステータは、第1の波形を有する第1の交流電圧と、第1の波形に対して所定の長さだけ位相がずれている第3の交流電圧とが同時に印加されることにより進行波を生じることが好ましい。
【0015】
接触面は回転軸を中心とする環状であって、ステータは、接触面の周方向に並べられる、進行波を発生させるときには交流電圧が印加されない調整領域と、進行波を生成するときに第1の交流電流が印加される第1の領域と、進行波を生成するときに第3の交流電流が印加される第2の領域とを有することが好ましい。
【0016】
電源部は、起動時から所定期間の間、第1の波形を有する第1の交流電圧と、第1の波形とは逆の位相を有する第2の交流電圧とをステータに印加することが好ましい。
【0017】
ロータの回転を検出する検出部材をさらに備え、ロータが回転していないことを検出部材が検出したとき、電源部は、所定期間、第1の波形を有する第1の交流電圧と、第1の波形とは逆の位相を有する第2の交流電圧とをステータに印加してもよい。
【発明の効果】
【0018】
以上のように本発明によれば、超音波モータに余計な負荷をかけることなく、ステータとロータの固着を解除可能な超音波モータ及び超音波モータ制御方法を得る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本願発明による超音波モータの分解斜視図である。
【図2】振動部材を示した図である。
【図3】電極板を示した図である。
【図4】超音波モータと電源部とを示したブロック図である。
【図5】超音波モータと電源部とを示したブロック図である。
【図6】固着解除処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の一実施形態による超音波モータ10について説明する。
【0021】
図1を参照して、超音波モータ10の概略について説明する。超音波モータ10は、出力軸11、係止板12、加圧スプリング13、ロータ14、ステータ15、及びベース17とから主に構成される。
【0022】
出力軸11は、超音波モータ10の回転軸X上に配置され、超音波モータ10の回転力を外部に伝達する。
【0023】
ベース17は、外部の固定部材に取り付けられ、固定部材に対して出力軸11が回転自在となるように図示しないベアリングを介して出力軸11を支持する。
【0024】
ステータ15は、円盤形状であって、円盤の中心軸と同軸の円筒穴を有する。円筒穴の径は出力軸11の径よりも大きく、ステータ15は出力軸11と接触しない。ステータ15は、中心軸が超音波モータ10の回転軸Xと同軸となるようにベース17に固定される。
【0025】
係止板12、加圧スプリング13、ロータ14は、円盤形状を有する。これらは、円盤の中心軸と同軸の円筒穴を各々有し、中心軸は回転軸X上に設けられる。係止板12及び加圧スプリング13は、それらの円筒穴と嵌合する出力軸11に固定される。ロータ14は、その円筒穴が出力軸11と遊嵌することにより、軸方向に自由に移動可能である。以下、回転軸Xにおいて、ベース17から係止板12に向けた方向を正方向として説明する。
【0026】
ロータ14、加圧スプリング13は回転軸X方向に対し弾性を有する。係止板12は、ロータ14及び加圧スプリング13を所定の力でステータ15に押しつける。加圧スプリング13は、ロータ14がステータ15に押しつけられる力を一定に保つ。
【0027】
ステータ15は、弾性体である弾性部材16、振動部材19、及びフレキシブルプリント基板から成る電極板20により構成される。弾性部材16、振動部材19、及び電極板20は、回転軸Xと一致する軸を有する円盤状である。弾性部材16は振動部材19に接着され、振動部材19は電極板20に接着される。接着には、樹脂系接着剤、例えばエポキシ系接着剤又はアクリル系接着剤が用いられる。
【0028】
弾性部材16は、板状の円環である基部16b及び24個の櫛歯16aを備える。櫛歯16aは、弾性部材16の円周方向において同じ幅を有し、弾性部材16の円周方向に等間隔を空けて基部16b上に並べられる。いいかえると、櫛歯16aは、基部16bから回転軸Xの正方向に、つまりロータ14に向けて突出する。櫛歯16aは、回転軸X正負方向、及び円周方向に振動自在である。櫛歯16aの頂面16cは、ロータ14と接触する接触面である。弾性部材16は、導電性を有する材料から成り、接地される。
【0029】
基部16bにおいて櫛歯16aが突出する面の裏面に振動部材19が取り付けられる。振動部材19は圧電セラミックスから成る。
【0030】
次に、図2を用いて振動部材19の詳細について説明する。図2は、弾性部材16側から見た振動部材19を示す。
【0031】
振動部材19は、正電荷を加えると伸びる性質を持つA圧電体と、縮む性質を持つB圧電体から成る。A圧電体及びB圧電体は圧電セラミックスである。A圧電体及びB圧電体は、振動部材19の周に沿って並べられ、振動部材19の周方向に伸縮する。各圧電体どうしの間隔は、同じである。図2において、A圧電体に+を、B圧電体に−を記す。これらの+及び−は、説明のために記載したものであり、圧電体に印加される電荷の特性を示すものではない。
【0032】
振動部材19は、第1の領域310、第2の領域320、及び第3の領域330を有する。各領域は、振動部材19上に環状に配置される。第1の領域310において回転軸Xを中心とする中心角は168.75度である。同様に、第2の領域320の中心角は168.75度、第3の領域330の中心角は22.5度である。
【0033】
第1の領域310及び第2の領域320は、4つのA圧電体と4つのB圧電体を各々有し、第3の領域330は1つのA圧電体を有する。
【0034】
第1の領域310が有するA圧電体は、第1のA圧電体311a、第2のA圧電体312a、第3のA圧電体315a、及び第4のA圧電体316aであり、同じくB圧電体は、第1のB圧電体313b、第2のB圧電体314b、第3のB圧電体317b、及び第4のB圧電体318bである。第2の領域320が有するA圧電体は、第5のA圧電体323a、第6のA圧電体324a、第7のA圧電体327a、及び第8のA圧電体328aであり、同じくB圧電体は、第5のB圧電体321b、第6のB圧電体322b、第7のB圧電体325b、及び第8のB圧電体326bである。そして、第3の領域330が有するA圧電体は、第9のA圧電体331aである。第1のA圧電体311a及び第5のB圧電体321bにおいて回転軸Xを中心とする中心角は11.25度であり、その他のA圧電体及びB圧電体において回転軸Xを中心とする中心角は22.5度である。
【0035】
弾性部材16側よりも高い電圧を電極板20側からA圧電体及びB圧電体に供給すると、A圧電体が周方向に伸び、B圧電体が縮む。逆に、弾性部材16側よりも低い電圧を電極板20側からA圧電体及びB圧電体に供給すると、A圧電体が周方向に縮み、B圧電体が伸びる。つまり、弾性部材16と各印加電極との電圧差に応じてA圧電体及びB圧電体が周方向に伸縮する。そのため、振動部材19が全周にわたってゆがみ、回転軸Xに沿った変位を生じる。
【0036】
次に、図3を用いて電極板20について説明する。説明のため、電極板20に振動部材19を接着したときの各圧電体の位置を破線で図3に示す。
【0037】
電極板20は、ドーナツ型の薄い円盤であって、振動部材19と接触する面に、第1から第4の印加電極21−24が設けられる。
【0038】
第1の印加電極21は、第1の領域310の全長に渡って、つまり第1のA圧電体311aから第4のB圧電体318bまで設けられ、第1の領域310に含まれる圧電体に電荷を供給する。第4のB圧電体318bから第1の印加電極21の外周に第1の配線25が伸びる。
【0039】
第2の印加電極22は、電極板20の内周側であって、A圧電体及びB圧電体と接触しない位置を通り、第6のB圧電体322b、第6のA圧電体324a、第8のB圧電体326b、及び第8のA圧電体328aと接触するように、電極板20の内周から径方向外側に向けて伸びる。第4のB圧電体318bと第9のA圧電体331aとの間を通る第2の配線26に第2の印加電極22が接続される。
【0040】
第3の印加電極23は、第9のA圧電体331aに接続され、電極板20の外周に延びる第3の配線27に接続される。
【0041】
第4の印加電極24は、電極板20の外周側であって、A圧電体及びB圧電体と接触しない位置を通り、第5のB圧電体321b、第5のA圧電体323a、第7のB圧電体325b、及び第7のA圧電体327aと接触するように、電極板20の外周から径方向内側に向けて伸びる。電極板20の外周に延びる第4の配線28に第4の印加電極24が接続される。
【0042】
次に図4を用いて電源部40の構成について説明する。電源部40は、波形発生器41、位相器42、第1のスイッチ43、及び第2のスイッチ44を備える。
【0043】
波形発生器41は、電圧出力線45と接地線47とに接続され、コサイン波から成る交流電圧を電圧出力線45に出力する。接地線47は、波形発生器41内部で接地され、グランド電位を持つ。
【0044】
超音波モータ10の外部に設けられた検出器48が波形発生器41に接続される。検出装置は、超音波モータ10の回転数を検出し、波形発生器41に送信する。波形発生器41は、検出器48から送信された回転数に応じて、交流電圧の電圧及び周波数を制御する。例えば、交流電圧は400V、周波数は60kHzである。
【0045】
電圧出力線45は、位相器42、第1のスイッチ43、第2のスイッチ44、及び第1の配線25に接続される。すなわち、波形発生器41が出力した交流電圧は常に第1の配線25に流れる。
【0046】
位相器42は、電圧出力線45と位相出力線46とに接続され、電圧出力線45から交流電圧を受電する。そして、交流電圧の位相を変更して、位相出力線46に交流電圧を出力する。交流電圧の位相は、超音波モータ10の駆動パターンに応じて変更される。超音波モータ10の駆動パターンについては後述する。
【0047】
位相出力線46は、第4の配線28及び第1のスイッチ43に接続される。すなわち、位相器42を経た交流電圧が常に第4の配線28に流れる。
【0048】
第1のスイッチ43は、第1の入力端子43a、第2の入力端子43b、及び第1の出力端子43cを有する。第1の入力端子又は第2の入力端子43bを介して受電した交流電圧のいずれか1つを第1の出力端子43cに出力する。第1の出力端子43cは、第2の配線26に接続される。第2の入力端子43bは、電圧出力線45に接続される。すなわち、第1のスイッチ43が第1の入力端子43aと第1の出力端子43cとを接続したとき、位相器42を経た交流電圧が第2の配線26に流れる。そして、第1のスイッチ43が第2の入力端子43bと第1の出力端子43cとを接続したとき、波形発生器41が出力した交流電圧が第2の配線26に流れる。
【0049】
第2のスイッチ44は、第3の入力端子44a、第4の入力端子44b、及び第2の出力端子44cを有する。第3の入力端子又は第4の入力端子44bを介して受電した交流電圧のいずれか1つを第2の出力端子44cに出力する。第2の出力端子44cは、第3の配線27に接続される。第3の入力端子44aは、電圧出力線45に接続される。すなわち、第2のスイッチ44が第3の入力端子44aと第2の出力端子44cとを接続したとき、波形発生器41が出力した交流電圧が第3の配線27に流れる。そして、第2のスイッチ44が第4の入力端子44bと第2の出力端子44cとを接続したとき、第3の配線27が接地される。
【0050】
次に、超音波モータ10の駆動パターンについて説明する。
【0051】
駆動パターンは、超音波モータ10が回転する進行波駆動と、超音波モータ10が回転しない定在波駆動とを有する。進行波駆動は、超音波モータ10から回転力を取り出すときに用いられ、定在波駆動は、ロータ14とステータ15との貼り付きを解除するために用いられる。
【0052】
図4を用いて進行波駆動について説明する。進行波駆動を行うとき、位相器42は、電圧出力線45から受けた交流電圧の位相をπ/2ずらした交流電圧を位相出力線46に出力する。つまり、Vcos(ωt)による交流電圧を位相器42が受電するとき、Vcos(ω−π/2)t=Vsin(ωt)によるサイン波の交流電圧が位相出力線46に出力される。そして、第1の入力端子43aが第1の出力端子43cに接続され、かつ第4の入力端子44bが第2の出力端子44cに接続される。これにより、コサイン波から成る交流電圧が第1の領域310に属する圧電体に印加され、サイン波から成る交流電圧が第2の領域320に属する圧電体に印加される。なお、第3の領域330を成す第9のA圧電体331aには電圧が印加されない。
【0053】
前述のように、弾性部材16と各印加電極との電圧差に応じてA圧電体及びB圧電体が伸縮する。弾性部材16よりも高い電圧を各印加電極からA圧電体及びB圧電体に供給すると、A圧電体が回転軸X正方向に変位し、B圧電体が回転軸X負方向に変位する。また、弾性部材16よりも低い電圧を各印加電極からA圧電体及びB圧電体に供給すると、A圧電体が回転軸X負方向に変位し、B圧電体が回転軸X正方向に変位する。
【0054】
このとき、第1の領域310における振幅Aと第2の領域320における振幅Aは以下の式による。
=Asin(2πy/λ)cos(ωt)
=Asin(2π(y−λ/4)/λ)sin(ωt)=Acos(2πy/λ)sin(ωt)
ここで、yは振動部材19の周方向において所定の点を原点とする座標である。
【0055】
図4に示すステータ15に記された破線は、弾性部材16よりも高い電圧を各印加電極がA圧電体及びB圧電体に印加したときの各圧電体の変位方向を示す。内周側に凸である曲線は、回転軸X正方向に対する変位を表し、外周側に凸である曲線は、回転軸X負方向に対する変位を表す。つまり、第1のA圧電体311a及び第2のA圧電体312a、第3のA圧電体315a及び第4のA圧電体316a、第5のA圧電体323a及び第6のA圧電体324a、並びに第7のA圧電体327a及び第8のA圧電体328aが、回転軸X正方向に対して1つの山を作るように各々変位する。そして、第1のB圧電体313b及び第2のB圧電体314b、第3のB圧電体317b及び第4のB圧電体318b、第5のB圧電体321b及び第6のB圧電体322b、並びに第7のB圧電体325b及び第8のB圧電体326bが、回転軸X正方向に対して1つの谷を作るように各々変位する。なお、第9のA圧電体331aは電圧が印加されないため、自らの力で変位することはない。よって、自らの力で変位しない調整領域が第1の領域310と第2の領域320との間に設けられる。
【0056】
各印加電極の電位を所定の周期で上下させると、振動部材19の上に波長λの波が発生する。振動部材19の周方向における第9のA圧電体331aの長さはλ/8である。第1の領域310に印加する交流電圧と第2の領域320に印加する交流電圧との位相差がπ/2であること、かつ第1の領域310と第2の領域320との間にλ/8の間隔が空いていることにより、振動部材19上の波が、振動部材19の周方向に進行する進行波となる。
【0057】
進行波駆動では、第1の領域310における振幅Aと第2の領域320における振幅Aとを加えて得られる振幅Aは以下の式になる。
=A+A=Asin(2πy/λ+ωt)
この式は、振幅がAである進行波がステータ15に生じることを示す。
【0058】
ステータ15に生じた進行波が振動部材19の頂面16cに進行波を生じさせ、頂面16cに押し当てられているロータ14を回転軸X周りに回転させる。これにより、超音波モータ10が回転力を生じる。
【0059】
図5を用いて定在波駆動について説明する。定在波駆動を行うとき、位相器42は、電圧出力線45から受けた交流電圧の位相をπだけずらした交流電圧を位相出力線46に出力する。言い換えると、位相器42は、電圧出力線45から受けた交流電圧の位相を逆にした交流電圧を出力する。つまり、Vcos(ωt)による交流電圧を位相器42が受電するとき、−Vcos(ωt)によるマイナスコサイン波の交流電圧が位相出力線46に出力される。そして、第2の入力端子43bが第1の出力端子43cに接続され、かつ第3の入力端子44aが第2の出力端子44cに接続される。これにより、コサイン波から成る交流電圧が、第1の領域310に属する圧電体、第9のA圧電体331a、第8のA圧電体328a、第8のB圧電体326b、第6のA圧電体324a、及び第6のB圧電体322bに印加され、マイナスコサイン波から成る交流電圧が、第5のA圧電体323a、第5のB圧電体321b、第7のA圧電体327a、及び第7のB圧電体325bに印加される。以下、コサイン波から成る交流電圧が印加される圧電体を第1の圧電体群、マイナスコサイン波から成る交流電圧が印加される圧電体を第2の圧電体群とする。
【0060】
このとき、第1の圧電体群における振幅Aと第2の圧電体群における振幅Aは以下の式による。
=Acos(2πy/λ)cos(ωt)
=Acos(2πy/λ)cos(ωt)
ここで、yは振動部材19の周方向において所定の点を原点とする座標である。
【0061】
図5に示すステータ15に記された破線は、コサイン波から成る交流電圧とマイナスコサイン波から成る交流電圧とを振動部材19に印加した場合における特定の瞬間の各圧電体の変位方向を示す。この瞬間では、弾性部材16よりも高い電圧を第1の圧電体群に印加し、かつ弾性部材16よりも低い電圧を第2の圧電体群に印加する。
【0062】
内周側に凸である曲線は、回転軸X正方向に対する変位を表し、外周側に凸である曲線は、回転軸X負方向に対する変位を表す。つまり、第5のB圧電体321b、第1のA圧電体311a、及び第2のA圧電体312a、第3のA圧電体315a及び第4のA圧電体316a、第9のA圧電体331a及び第7のA圧電体327a、並びに第7のB圧電体325b及び第6のA圧電体324aが、回転軸X正方向に対して1つの山を作るように各々変位する。そして、第1のB圧電体313b及び第2のB圧電体314b、第3のB圧電体317b及び第4のB圧電体318b、第7のA圧電体327a及び第8のB圧電体326b、並びに第5のA圧電体323a及び第6のB圧電体322bが、回転軸X正方向に対して1つの谷を作るように各々変位する。
【0063】
各印加電極の電位を所定の周期で上下させると、振動部材19の上に波長λの定在波が発生する。定在波は、振動部材19の周方向に進行せず、周方向における位置を固定したまま回転軸Xに沿って上下を繰り返す波である。
【0064】
定在波駆動では、第1の圧電体群における振幅Aと第2の圧電体群における振幅Aとを加えて得られる振幅Aは以下の式になる。
=A+A=2Acos(2πy/λ)cos(ωt)
この式は、振幅が2Aである定在波を示す。よって、定在波駆動における振幅は、進行波駆動における振幅の2倍であることがわかる。
【0065】
ステータ15に生じた定在波が振動部材19の頂面16cに定在波を生じさせる。定在波は回転軸X軸に沿って進退し、これにより、ステータ15からロータ14を引き離す。
【0066】
次に、図6を用いて、固着解除処理について説明する。固着解除処理は、超音波モータ10が起動されたときに実行される。
【0067】
ステップS61では、超音波モータ10、すなわちロータ14の回転を検出器48が検出したか否かを判断する。回転を検出しないとき、処理はステップS62に進み、回転を検出するとき、処理は終了する。
【0068】
ステップS62では、超音波モータ10を定在波駆動する。所定期間、例えば零コンマ数秒間、第2の入力端子43bと第1の出力端子43cとを接続し、かつ第3の入力端子44aと第2の出力端子44cとを接続する。これにより、ロータ14及びステータ15に振幅が2Aである定在波が発生し、ロータ14とステータ15との固着が解除される。
【0069】
本実施形態によれば、超音波モータに印加する電圧の最大値を変化させることなく、進行波と比較して振幅が大きな定在波をステータ15に発生させ、これによりロータ14とステータ15との間に進行波と比較して大きな力を発生させることができる。そのため、加圧スプリング13によるロータ14とステータ15との間の圧力を一時的に緩和して、ロータ14とステータ15との固着を解除することができる。
【0070】
なお、ロータ14の回転を起動時に検出しないときに定在波駆動するのではなく、超音波モータ10を起動するとき常に、あるいはロータ14の回転を検出するまで定在波駆動してもよい。
【0071】
また、本実施形態による振動部材19は、A圧電体とB圧電体とを周方向に対して2つずつ交互に並べているが、3つあるいは4つ以上ずつ交互に並べても良い。連続する複数のA圧電体が、進行波における1つの山又は谷を形成するように並べられればよい。B圧電体についても同様である。
【0072】
交流電圧は、Vcos(ωt)に限定されない。
【0073】
櫛歯16aの数は24個に限定されず、超音波モータ10に対する要求性能に応じて任意の値を採用しうる。
【0074】
また、印加される交流電圧及び周波数は、400V及び60kHzに限定されない。
【符号の説明】
【0075】
10 超音波モータ
11 出力軸
12 係止板
13 加圧スプリング
14 ロータ
15 ステータ
16 弾性部材
16a 櫛歯
17 ベース
19 振動部材
20 電極板
40 電源部
41 波形発生器
42 位相器
43 第1のスイッチ
44 第2のスイッチ
48 検出器
X 回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に対して回転自在に取り付けられるロータと、
前記ロータとの接触面に、定在波を生じるステータと、
第1の波形を有する第1の交流電圧と、前記第1の波形とは逆の位相を有する第2の交流電圧とを前記ステータに印加する電源部とを備え、
前記電源部は、前記第1の交流電圧及び前記第2の交流電圧を前記ステータに同時に印加して前記ステータに定在波を生じさせる超音波モータ。
【請求項2】
前記接触面は前記回転軸を中心とする環状であって、
前記ステータは、前記接触面の周方向に並べられる、進行波を発生させるために必要な周方向長さを有する調整領域と、前記接触面において前記調整領域を除いた領域を径方向に2分割して得られる第1の領域と第2の領域とを有し、
前記第1の領域及び前記第2の領域は、互いに反対方向に振動する複数の第1の振動部及び複数の第2の振動部をそれぞれ有し、
前記調整領域は、前記第1の振動部または前記第2の振動部を有し、
前記第1の振動部及び前記第2の振動部は、前記調整領域の隣から、前記接触面の周方向に交互に並べられる請求項1に記載の超音波モータ。
【請求項3】
前記第1の振動部は、正電圧を印加すると前記回転軸に対して平行である第1の方向に突出し、負電圧を印加すると前記第1の方向と反対方向である第2の方向に突出し、
前記第2の振動部は、正電圧を印加すると前記第2の方向に突出し、負電圧を印加すると前記第1の方向に突出する請求項2に記載の超音波モータ。
【請求項4】
前記電源部は、
前記第1の領域に属する前記第1の振動部及び前記第2の振動部と、前記第1の領域及び前記調整領域に属する前記第1の振動部及び前記第2の振動部と、前記第2の領域に属する前記第1の振動部及び前記第2の振動部のうちの一部とに対して第1の交流電圧を印加し、
前記第2の領域に属する前記第1の振動部及び前記第2の振動部のうち、前記第1の交流電圧を印加しない前記第1の振動部及び前記第2の振動部に対して前記第2の交流電圧を印加する請求項3に記載の超音波モータ。
【請求項5】
前記電源部は、前記第2の領域に属する前記第1の振動部及び前記第2の振動部のうち、前記調整領域に隣接する前記第1の振動部または前記第2の振動部と、その前記第1の振動部または前記第2の振動部から前記調整領域とは反対方向に1つおきに位置する前記第1の振動部または前記第2の振動部とに、第1の交流電圧を印加する請求項4に記載の超音波モータ。
【請求項6】
前記電源部は、前記第2の領域に属する前記第1の振動部及び前記第2の振動部のうち、前記調整領域から1つおきに位置する前記第1の振動部または前記第2の振動部に第2の交流電圧を印加する請求項4に記載の超音波モータ。
【請求項7】
前記定在波は、前記ステータの全周に渡って偶数個の波を形成する請求項1から6に記載の超音波モータ。
【請求項8】
前記電源部は、起動時から所定期間の間、第1の波形を有する第1の交流電圧と、前記第1の波形とは逆の位相を有する第2の交流電圧とを前記ステータに印加する請求項1から7に記載の超音波モータ。
【請求項9】
前記ロータの回転を検出する検出部材をさらに備え、
前記ロータが回転していないことを前記検出部材が検出したとき、前記電源部は、所定期間、第1の波形を有する第1の交流電圧と、前記第1の波形とは逆の位相を有する第2の交流電圧とを前記ステータに印加する請求項1から7に記載の超音波モータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−254661(P2011−254661A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−128067(P2010−128067)
【出願日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】