説明

超音波印加ダイカスト装置

【課題】 従来のダイカスト装置では、プランジャースリーブの先端に金型を取り付けたものでは、プランジャースリーブの注入口から溶湯を注入して、射出ロッドを押し込むと、プランジャースリーブ内の溶湯が上下で均一にならず、金型に射出された鋳造物が変形する可能性があるという点である。
【解決手段】 プランジャースリーブ1の先端1aに分流子2が固着され、分流子2の近傍のプランジャースリーブ1の上部に射出口1bが形成され、プランジャースリーブ1の他端1cの近傍の上部に溶湯の注入口1dが形成され、プランジャースリーブ1の他端1cから射出ロッド3の一端が挿入され、射出ロッド3の一端にプランジャーチップ4が装着され、射出ロッド3の後端にランシジュバン型振動子5が取り付けられ、ランジュバン型振動子5の圧電素子6,7の間の電極8,9に発振器10が接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶湯をプランジャースリーブの先端で方向を変えて流出するようにした超音波印加ダイカスト装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のダイカスト装置では、プランジャースリーブの先端に金型を固定し、プランジャースリーブの後端に射出ロッドを挿入し、プランジャースリーブの後端に形成した溶湯の注入口から溶湯が注入され、注入されたタイミングに合わせて射出ロッドを押し込むことにより、金型内に溶湯が押し込まれ、溶湯が押し込まれた金型を外して、金型から鋳造物を取り出すようにしている。又、超音波装置を、射出ロッド、プランジャースリーブ、分流子に付加することによって、ガスの巻き込み・ひけ巣・破断チル層等の欠陥を抑え、α相結晶粒の粗大化を抑制することが提案されている。
【0003】
しかしながら、プランジャースリーブに超音波振動子を取り付けることは難しく、分流子への取付は、溶湯温度が低下するので、超音波による欠陥抑制効果が少なくなってしまうため、射出ロッドに超音波振動子を取り付けることが比較的容易である。射出ロッドには、ロッドが膨張し、プランジャースリーブとのクリアランスが無くなるのを避けるため、SUS調質材を用いて冷却しながら使用するのが一般的であるが、調質材は高価であるので、射出ロッド全体を交換するのではなく、射出ロッドの先端部にできるだけ小さくプランジャーチップを設け、プランジャーチップのみを交換するのが一般的である。又、射出ロッド先端部のプランジャーチップ内部にできるだけ大きな空隙を設けて冷却効果を高めるのが一般的である。さらに、超音波振動子を取り付ける方法において、射出ロッド先端部のプランジャーチップ形状には言及されておらず、通常のダイカスト装置で用いられるプランジャーチップ内部に空隙を設け、内部から冷却する方法では、冷却効果を増すために空隙をできるだけ大きくするため、超音波振動がプランジャーチップの先端部まで伝播しにくくなり、溶湯全体に超音波が伝わらないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−346708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
解決しようとする問題点は、従来の超音波ダイカスト装置では、プランジャースチップの先端形状には言及されておらず、更に通常用いられているプランジャーチップ内部に空隙を設けたプランジャーチップ交換方式では、溶湯全体に超音波が伝達し難くなるという点である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、プランジャースリーブの一端に分流子を固定し、該分流子を固定したプランジャースリーブの先端上部に溶湯の射出口を形成し、前記プランジャースリーブの後端近傍の上部に前記溶湯の注入口を形成し、前記プランジャースリーブの後端に射出ロッドを挿入し、該射出ロッドの先端にプランジャーチップを装着し、前記射出ロッドの後端に超音波振動子を装着し、該超音波振動子に発振器を接続したものであり、又、 前記プランジャーチップの先端にテーパーを形成するものであり、さらに、前記プランジャーチップを段違い構造に形成するものであり、又、前記プランジャースリーブの先端に固定した前記分流子の前記プランジャーチップ側の面を40度から50度の傾斜を形成するものであり、さらに、前記射出ロッドの周囲に射出ロッド位置検出装置又はスイッチを装着するものであり、プランジャーチップ内の空隙(複数本の冷却穴でも良い)の断面積の最大値を射出ロッドの断面積の1/3以下にし、射出ロッドの全長を射出ロッドを伝搬する超音波の波長(λ1)の1/2の整数倍とし、更にプランジャーチップの長さをプランジャーチップを伝搬する超音波の波長(λ2)の1/4の奇数倍にするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の超音波印加ダイカスト装置では、プランジャーチップの形状を規定することによって効果的に超音波を溶湯に照射することができ、又、射出ロッドの押し込み方向に対して、直角方向又は分流子に40度から50度の角度を持たせた方向に溶湯の射出口を設けることにより、溶湯が金型に均一に押し込まれるという利点があり、さらに、射出ロッドに装着された超音波振動子からの超音波が分流子に反射して、金型まで超音波振動が到達しやすくなり、超音波による攪拌効果から溶湯が金型に押し込まれるという利点がある。さらに、射出ロッドとプランジャーチップの長さと内部の冷却空隙の太さを規定することによって、超音波の伝搬効率が良くなるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は本発明の実施例の超音波印加ダイカスト装置の断面図である。
【図2】図2は本発明の実施例の超音波印加ダイカスト装置に溶湯を注入したところの側面図である。
【図3】図3は本発明の実施例の超音波印加ダイカスト装置の射出ロッドを押し込んだところの側面図である。
【図4】図4は本発明の実施例の超音波印加ダイカスト装置の射出ロッドの具体的構成図である。
【図5】図5は本発明の実施例の超音波印加ダイカスト装置の射出ロッドの側面図である。
【図6】図6は本発明の実施例の超音波印加ダイカスト装置の射出ロッドの側面透視図である。
【図7】図7は本発明の他の実施例の超音波印加ダイカスト装置の射出ロッドの側面図である。
【図8】図8は本発明の別の実施例の超音波印加ダイカスト装置の射出ロッドの側面図である。
【図9】図9は本発明のさらに別の実施例の超音波印加ダイカスト装置の射出ロッドの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
プランジャースリーブの一端に分流子を固定し、該分流子を固定した前記プランジャースリーブの上部に溶湯の射出口を形成し、前記プランジャースリーブの後端近傍の上部に前記溶湯の注入口を形成し、前記プランジャースリーブの後端に射出ロッドを挿入し、該射出ロッドの先端にプランジャーチップを装着し、前記射出ロッドの後端に超音波振動子を装着し、該超音波振動子に発振器を接続したものである。
【実施例1】
【0010】
図1は、本発明の1実施例の超音波印加ダイカスト装置の側面図で、プランジャースリーブ1の先端1aに分流子2が固着され、分流子2の近傍のプランジャースリーブ1の上部に射出口1bが形成され、プランジャースリーブ1の他端1cの近傍の上部に溶湯の注入口1dが形成され、プランジャースリーブ1の他端1cから射出ロッド3の先端が挿入され、射出ロッド3の先端にプランジャーチップ4が装着され、射出ロッド3の後端にランシジュバン型振動子5が取り付けられ、ランジュバン型振動子5の圧電素子6,7の間の電極8,9に発振器10が接続されている。
【0011】
このように構成された超音波印加ダイカスト装置では、図2に示すように、プランジャースリーブ1の注入口1dから溶湯11がプランジャースリーブ1に半分程度注入されると、タイミングよく射出ロッド3が押し込まれることにより、図3にしめすように、溶湯11は分流子2によって上部の射出口1bの方へ押し上げられると同時に、超音波の音響流によって溶湯が金型に均一に押し込まれる。
【0012】
図4は、本発明の射出ロッドの後端に、超音波振動子を取り付けた例で、射出ロッド3の突起3aがカップリングケース12の挿入部12aで固定され、射出ロッド3の先端にプランジャーチップ4が固着され、プランジャーチップ4の内部に冷却用の空隙3bが形成され、又、射出ロッド3の端部にブースター13がねじ14でねじ結合され、さらに、ランジュバン型振動子5のホーン5aとブースター13がねじ15でねじ結合され、ランジュバン型振動子5はカップリングケース12の内部の突出部12bに緩衝材16で固定されている。
【0013】
図5は本発明の実施例の射出ロッドの側面図で、射出ロッド3の先端にプランジャーチップ4が固着され、このプランジャーチップ4は先端4aが段違いに構成され、射出ロッド3の全長は射出ロッドを伝搬する超音波の波長(λ1)の1/2の整数倍の長さで、さらに、プランジャーチップの長さはプランジャーチップを伝搬する超音波の波長(λ2)1/4の奇数倍の長さになっている。
【0014】
このプランジャーチップ4の先端4aを段違いに構成することによって、プランジャースリーブ1と射出ロッド3の接触面が小さくなるので、射出ロッド3の超音波振動がプランジャースリーブ1に伝達することで、プランジャーチップ4の超音波振動を減衰させてしまうことを避けることができる。
【0015】
図6は、本発明の実施例の射出ロッドの側面透視図で、射出ロッド3の先端にねじ部3cが構成され、プランジャーチップ4とねじ結合され、又、射出ロッド3、ねじ部3c、及びプランジャーチップ4の中心に冷却穴3b、4bが形成されている。冷却穴は1本でも、複数本でも良いが、冷却穴(空隙を含む)の断面積の合計は、射出ロッド3の断面積の1/3以下である。
【0016】
図7は本発明の他の実施例の射出ロッドの側面図で、射出ロッド3に結合されたプランジャーチップ4は先端にテーパー部4cが形成されている。このように構成することによって、超音波は正面のみでなく、斜め方向にもまんべんなく放射ができる。
【0017】
図8は、本発明の他の実施例の超音波印加ダイカスト装置の側面図で、1はプランジャースリーブ、1aはプランジャースリーブ1の先端、1bは射出口、1cはプランジャースリーブ1の他端、1dは注入口、2は分流子、3は射出ロッド、4はプランジャーチップであり、これらの構成は上記実施例と同じであるので、説明は省略するが、本実施例では、射出ロッド3の下端に突起17を装着し、この突起17に射出ロッド3の位置を検出する検出装置18が装着されている。
【0018】
本実施例は、このように構成することにより、射出ロッド3がプランジャースリーブ1にどの程度押し込まれているかを検出することができる。この検出装置は、射出ロッド3がプランジャースリーブ1に完全に押し込まれると、押し込み駆動と超音波発振を停止させるためのスイッチに置き換えることができる。
【0019】
図9は、本発明のさらに他の実施例の超音波印加ダイカスト装置の側面図で、1はプランジャースリーブ、1aはプランジャースリーブ1の先端、1bは射出口、1cはプランジャースリーブ1の他端。1dは注入口、2は分流子、3は射出ロッド、4はプランジャーチップであり、これらの構成は上記実施例と同じであるので、説明は省略するが、本実施例では、分流子2のプランジャーチップ4側の面を40度から50度の間に形成したものであるが、最適な角度は45度に設定される。
【0020】
このように構成した本実施例では、分流子2のプランジャーチップ4側の面を傾斜させることにより、射出ロッド3で押し込まれた溶湯11がスムーズに射出口1bから金型の中に注入されるとともに、超音波の伝搬も分流子2の傾斜面で反射され良好であるという利点がある。
【産業上の利用可能性】
【0021】
なお、上記実施例では、射出ロッド3及びプランジャーチップ4に冷却穴3b、4bを設けたが、これらの冷却穴3b、4bに空気だけ入れても良いし、又、水及び他の冷却材を使用することができる。
【符号の説明】
【0022】
1 プランジャースリーブ
2 分流子
3 射出ロッド
4 プランジャーチップ
5 ランジュバン型振動子
6、7 圧電素子
8、9 電極
10 発振器
11 溶湯
12 カップリングケース
13 ブースター
14、15 ねじ
16 緩衝材
17 突起
18 検出装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プランジャースリーブと、該プランジャースリーブの一端に固定された分流子、該分流子を固定したプランジャースリーブの上部に形成した溶湯の射出口と、前記プランジャースリーブの後端近傍の上部に形成した前記溶湯の注入口と、前記プランジャースリーブの後端に挿入される射出ロッドと、該射出ロッドの先端に装着したプランジャーチップと、前記射出ロッドの後端に装着した超音波振動子と、該超音波振動子に接続した発振器とからなることを特徴とする超音波印加ダイカスト装置。
【請求項2】
前記プランジャーチップを段違い構造に形成することを特徴とする請求項1記載の超音波印加ダイカスト装置。
【請求項3】
前記プランジャーチップの先端にテーパーを形成することを特徴とする請求項1記載の超音波印加ダイカスト装置。
【請求項4】
前記プランジャースリーブの一端に固定した前記分流子の前記プランジャーチップ側の面を40度から50度に形成することを特徴とする請求項1記載の超音波印加ダイカスト装置。
【請求項5】
前記射出ロッド周囲に射出ロッド位置検出装置を装着することを特徴とする請求項1記載の超音波印加ダイカスト装置。
【請求項6】
射出ロッドとプランジャーチップの長さが1/2λ(λは波長)の奇数倍であり、さらに、プランジャーチップの長さが1/4λの奇数倍であることを特徴とする請求項1記載の超音波印加ダイカスト装置。
【請求項7】
プランジャーチップ内部の冷却穴の断面積の最大値が、射出ロッドの断面積の1/3以下のプランジャーチップ及び射出ロッドを持つことを特徴とする超音波印加ダイカスト装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−224573(P2011−224573A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−93660(P2010−93660)
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、経済産業省、戦略的基盤技術 高度化支援事業委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000243364)本多電子株式会社 (255)