説明

超音波流量計

【課題】面粗さに対応した、より正確な流量補正係数を求め、これを用いて高精度な流量測定を行う超音波流量計を提供すること。
【解決手段】一方の超音波トランスデューサから他方の超音波トランスデューサへ測定管2内の被測定流体FLDを伝搬した超音波信号の第1相関値またはこの伝搬した超音波信号の強度に応じて、第1相関値に基づく被測定流体FLDの第1流速の測定または超音波反射体によって反射された超音波信号の第2相関値に基づく第2流速の測定のいずれか一方を行う超音波流量計100において、測定された第1および第2流速の比率に基づく測定管2の面粗さ係数から流量補正係数を求める流量補正係数決定手段110と、流量補正係数決定手段110の流量補正係数と第1流速とを用いて被測定流体FLDの流量を求める流量算出手段120と、を備えたこと特徴とするもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波流量計に関し、特に、より正確な流量補正係数を用いて高精度な流量測定を行う技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
化学プラントなどの流量制御に用いられる流量計として超音波流量計が知られている。超音波流量計の中には、伝搬時間差方式による測定と反射相関方式による測定とを組み合わせたものがある(特許文献1参照)。この超音波流量計は、被測定流体中に気泡や微粒子などの超音波反射体が少ない場合には伝搬時間差方式による測定を行い、多い場合には反射相関方式による測定を行うものである。以下、この超音波流量計について図3の構成図を用いて説明する。
【0003】
図3において、測定管内径(直径)Dを有する測定管2には、矢印の方向に被測定流体FLD(液体、気体、ガスなど)が流れる。超音波流量計1は、測定管2の外周に設けた超音波を発射するとともに受信する機能も備えた超音波トランスジューサA10と、超音波トランスジューサA10の下流側の外周に設けた超音波トランスジューサA10からの超音波を受信するとともに超音波を発射する機能も備えた超音波トランスジューサB11と、超音波トランスジューサA10、B11から超音波を発射させるトリガー信号を出力する送信回路30と、超音波トランスジューサA10、B11が受信した超音波信号を増幅する受信回路40を備える。
【0004】
さらに、超音波流量計1は、超音波トランスジューサA10、B11と送信回路30、受信回路40との接続を切換える切換回路20と、受信回路40で受信した超音波信号をデジタル信号に変換するA/D変換回路50と、A/D変換回路50で生成されたデジタル信号に基づいて離散化した相関値を演算する相関演算手段60と、相関演算手段60で算出された相関値から流速を求める流速測定手段80と、送信回路30からの超音波送出のタイミングを制御するとともに切換回路20の切換えを制御する切換判定手段70と、を備える。なお、超音波トランスジューサB11は、超音波トランスジューサA10と同じ側の位置に設けても(実線で図示)、点線で示したように対向する位置に設けてもよい。
【0005】
伝搬時間差方式による測定手段(第1流速の測定手段)における切換回路20の接続は、超音波トランスジューサA10、B11を使うように、切換回路20をAS側にして超音波トランスジューサA10と送信回路30とを接続し且つBR側にして超音波トランスジューサB11と受信回路40とを接続し、その後、逆にBS側にして超音波トランスジューサB11と送信回路30とを接続し且つAR側にして超音波トランスジューサA10と受信回路40とを接続する。
【0006】
これによって、超音波トランスジューサA10から発射された超音波信号CTは、被測定流体FLD中を伝搬し、測定管2の内壁で反射して、超音波トランスジューサB11で受信される。その後、逆に超音波トランスジューサB11から発射された超音波信号CTは、被測定流体FLDを伝搬し、測定管2の内壁で反射して、超音波トランスジューサA10で受信される。
【0007】
反射相関方式による測定手段(第2流速の測定手段)における切換回路20の接続は、超音波トランスジューサA10のみを使うように、切換回路20をAS側にして超音波トランスジューサA10と送信回路30とを接続し且つAR側にして超音波トランスジューサA10と受信回路40とを接続する。
【0008】
これによって、超音波トランスジューサA10から発射された超音波信号CHは、被測定流体FLD中の超音波反射体PTによって反射され、この反射した超音波信号が同じ超音波トランスジューサA10で受信される。
【0009】
相関演算手段60は、伝搬時間差方式による測定の場合、超音波トランスジューサB11および超音波トランスジューサA10で受信された超音波受信信号(以下、「伝搬時間差方式の超音波受信信号」という)のデジタル信号に対し、相互相関演算を行い相関値(以下、「第1相関値」という)を求める。そして、流速測定手段80は、第1相関値が最大になる時間差を求め、この時間差、超音波信号の音速および超音波信号の進行方向の角度を用いて被測定流体FLDの流速(以下、「第1流速」という)を求める。なお、この第1流速は、測定管2内の被測定流体FLDの(第1)平均流速である。
【0010】
また、相関演算手段60は、反射相関方式にによる測定の場合、一定時間の間隔で2回以上超音波トランスジューサA10から超音波信号が発射され、自ら受信した超音波受信信号のデジタル信号に対し、相互相関演算を行い相関値(以下、「第2相関値」という)を求める。そして、流速測定手段80は、第2相関値から被測定流体FLDの流速(以下、「第2流速」という)を求める。なお、この第2流速は、測定管2内の被測定流体FLDの(第2)平均流速である。
【0011】
切換判定手段70は、伝搬時間差方式の超音波受信信号の強度または第1相関値が所定値より大きければ、切換回路20を伝搬時間差方式の接続にし、所定値以下であれば、切換回路20を反射相関方式の接続にして、いずれか一方の測定方式で流速を測定する。
【0012】
なお、この所定値(以下、「測定方式切換値」という)は、超音波流量測定において、伝搬時間差方式による測定と反射相関方式による測定のうち、適している一方の測定方式に切換えるための閾値である。
【0013】
すなわち、超音波反射体PTが少ない場合には伝搬時間差方式による測定が適しており、この場合、伝搬する超音波信号の乱れが少なく超音波受信信号同士の波形は類似するので第1相関値は大きくなり、超音波受信信号の振幅などの強度も大きくなる。
【0014】
また、超音波反射体PTが多い場合には反射相関方式による測定が適しており、この場合、逆に第1相関値は小さくなり、超音波受信信号の強度も小さくなる。
【0015】
【特許文献1】特開2005−181268号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
伝搬時間差方式で流量を測定する場合、第1流速に流量補正係数と測定管内径Dとを乗算して流量を求める。この流量補正係数は、経験的な値に基づくキビリスの式、ビルゲルの式などから算出された値である。
【0017】
測定管2の製造条件の違いによって、測定管2の面粗さに個体差(違い)がある。また、測定管2の腐食や測定管2への付着などによって、測定管2の面粗さが流量測定中に変化することがある。しかしながら、流量補正係数には面粗さが反映されていないため、流量補正係数を用いて求めた伝搬時間差方式による流量は、面粗さの個体差や変化によって誤差が発生する問題がある。
【0018】
また、この誤差によって、伝搬時間差方式と反射相関方式とが相互に切換えられた際、流量出力が変化(シフト)する問題がある。
【0019】
本発明の目的は、面粗さに対応した、より正確な流量補正係数を求め、これを用いて高精度な流量測定を行う超音波流量計を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
このような目的を達成するために、請求項1の発明は、
一方の超音波トランスデューサから他方の超音波トランスデューサへ測定管内の被測定流体を伝搬した超音波信号の第1相関値またはこの伝搬した超音波信号の強度に応じて、前記第1相関値に基づく前記被測定流体の第1流速の測定または超音波反射体によって反射された超音波信号の第2相関値に基づく第2流速の測定のいずれか一方を行う超音波流量計において、
測定された前記第1および第2流速の比率に基づく前記測定管の面粗さ係数から流量補正係数を求める流量補正係数決定手段と、
この流量補正係数決定手段の流量補正係数と前記第1流速とを用いて前記被測定流体の流量を求める流量算出手段と、
を備えたこと特徴とする。
請求項2の発明は、請求項1に記載の発明において、
前記流量補正係数決定手段は、
前記第1または第2流速から求めた第1レイノルズ数と、前記第2流速を前記第1流速で除算した除算結果とに基づいて前記面粗さ係数を求める面粗さ係数算出手段と、
この面粗さ係数算出手段の面粗さ係数と、前記第1流速から求めた第2レイノルズ数とに基づいて前記流量補正係数を求める流量補正係数算出手段と、
を備えたこと特徴とする。
請求項3の発明は、請求項2に記載の発明において、
前記面粗さ係数算出手段は、前記除算結果から前記測定管の第1管摩擦係数を求め、この第1管摩擦係数と前記第1レイノルズ数とから前記面粗さ係数を求める、
前記流量補正係数算出手段は、前記第2レイノルズ数と前記面粗さ係数とから前記測定管の第2管摩擦係数を求め、この第2管摩擦係数から前記流量補正係数を求める、
ことを特徴とする。
請求項4の発明は、請求項3に記載の発明において、
前記面粗さ係数は前記測定管の面粗さ値と前記測定管の内径との比率であり、前記面粗さ係数算出手段はコールブルックの式を用いて前記面粗さ係数を求めることを特徴とする。
請求項5の発明は、請求項1から4のいずれか一項に記載の発明において、
予め前記流量補正係数決定手段によって求めた流量補正係数を記憶する記憶手段を備え、
前記流量算出手段は前記記憶手段の流量補正係数を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、流量補正係数決定手段が、第1および第2流速の比率に基づいて測定管の面粗さ係数を求め、この面粗さ係数から流量補正係数を求めることによって、面粗さに対応した、より正確な流量補正係数を求めることができる。
【0022】
さらに、流量算出手段が、この流量補正係数を用いて流量を求めることによって、伝搬時間差方式による流量の誤差の発生を抑制することができ、高精度な流量測定を行うことができる。
【0023】
また、誤差の発生を抑制することができるため、伝搬時間差方式と反射相関方式とが相互に切換えられた際、流量出力の変化(シフト)を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明に係る実施例について図1を用いて説明する。図1は、本発明に係る超音波流量計100の構成図であり、図3(背景技術)と同一の構成要素は同一符号を付し、その説明を省略する。
【0025】
図1において、超音波流量計100は、超音波トランスジューサA10、超音波トランスジューサB11、切換回路20、送信回路30、受信回路40、A/D変換回路50、相関演算手段60、切換判定手段70および流速測定手段80を備えており、これらの構成および動作は背景技術と同様である。
【0026】
これらの構成に加えて、本実施例に係る超音波流量計100は、流量補正係数決定手段110、流量算出手段120および記憶手段130を備える。なお、流量補正係数決定手段110は、第1管摩擦係数算出手段112を有する面粗さ係数算出手段111および第2管摩擦係数算出手段116を有する流量補正係数算出手段115を備える。
【0027】
流量補正係数決定手段110は、流速測定手段80から第1流速および第2流速を受け取り、求めた流量補正係数を流量算出手段120および記憶手段130へ出力する。
【0028】
面粗さ係数算出手段111は、第1流速および第2流速を受け取り、求めた面粗さ係数を流量補正係数算出手段115へ出力する。なお、第1管摩擦係数算出手段112は、面粗さ係数算出手段111で用いる測定管2の第1管摩擦係数を算出する。
【0029】
流量補正係数算出手段115は、第1流速および面粗さ係数を受け取り、求めた流量補正係数を流量算出手段120および記憶手段130へ出力する。なお、第2管摩擦係数算出手段116は、流量補正係数算出手段115で用いる測定管2の第2管摩擦係数を算出する。
【0030】
流量算出手段120は、流量補正係数決定手段110または記憶手段130から流量補正係数、および流速測定手段80から第1流速を受け取り、求めた被測定流体FLDの流量を外部へ出力し、表示手段(図示しない)に表示させる。また、記憶手段130は、受け取った流量補正係数を記憶し、記憶した流量補正係数を流量算出手段120へ出力する。
【0031】
つぎに、図2の動作フローチャート図を用いて、本実施例の特徴である流量補正係数決定手段110の動作を中心に説明する。なお、第1および第2相関値をSk1、Sk2、第1および第2流速をV1、V2、第1および第2管摩擦係数をfr1、fr2、第1および第2レイノルズ数をRe1、Re2、面粗さ係数をrp、流量補正係数をCorと表す。
【0032】
図2において、切換回路20を伝搬時間差方式の接続にして、相関演算手段60は第1相関値Sk1を求め、流速測定手段80は第1流速V1を求める(ステップS10)。その後、切換回路20を反射相関方式の接続にして、相関演算手段60は第2相関値Sk2を求め、流速測定手段80は第2流速V2を求める(ステップS20)。
【0033】
以下に、流量補正係数決定手段110による流量補正係数決定処理P1の概要を説明する。流量補正係数決定処理P1は、ステップS30、S40、面粗さ係数算出手段111による面粗さ係数算出処理P1aおよび流量補正係数算出手段115による流量補正係数算出処理P1bから構成される。そして、面粗さ係数算出処理P1aはステップS50〜S70、流量補正係数算出処理P1bはステップS80〜S100から構成される。
【0034】
流量補正係数決定処理P1のステップS40以降は、伝搬時間差方式および反射相関方式による測定が可能な状態において行われることが好ましい。このため、第1相関値Sk1が第1所定値以上または第1所定値より大きく、かつ、第2相関値Sk2が第2所定値以上または第2所定値より大きい場合(ステップS30の「はい」)、ステップS40に移行する。そうではない場合(ステップS30の「いいえ」)、測定を終了する。
【0035】
なお、第1所定値は、伝搬時間差方式による測定が可能であり適切に動作していることを判別するための閾値である。第2所定値は、反射相関方式による測定が可能であり適切に動作していることを判別するための閾値である。
【0036】
ステップS40に移行後、流量補正係数決定手段110は、第1流速V1と第2流速V2との比率(以下、「流速比率」という)を求める(ステップS40)。
【0037】
その後、面粗さ係数算出処理P1aを行って流速比率に基づく面粗さ係数rpを求め、流量補正係数算出処理P1bを行って面粗さ係数rpから流量補正係数Corを求める。
【0038】
詳しくは、面粗さ係数算出処理P1aにおいて、面粗さ係数算出手段111は、第1流速V1または第2流速V2から求めた第1レイノルズ数Re1を求め(ステップS60)、第1レイノルズ数Re1と流速比率(第2流速V2を第1流速V1で除算した除算結果)とに基づいて面粗さ係数rpを求める(ステップS70)。
【0039】
また、流量補正係数算出処理P1bにおいて、流量補正係数算出手段115は、第1流速V1から第2レイノルズ数Re2を求め(ステップS80)、第2レイノルズ数Reと面粗さ係数rpとに基づいて流量補正係数Corを求める(ステップS100)。
【0040】
以上、流量補正係数決定処理P1、面粗さ係数算出処理P1aおよび流量補正係数算出処理P1bの概要を説明したが、つぎに、式を用いてさらに詳細に説明する。
【0041】
伝搬時間差方式および反射相関方式より求められる被測定流体FLDの流速の速度分布v(y)は、下記式(1)の対数速度分布の式によって求められる。
【0042】
【数1】

【0043】
式(1)において、yは測定管2内部の中心から半径方向の座標、vmaxは最大流速、vtは摩擦速度、krはカルマン定数、aは測定管2内部の半径を表す。
【0044】
ステップS10において、第1流速V1は、式(1)のv(y)を下記式(2)に代入して求められる。第1流速V1は、流速分布v(y)をyで積分して、aで除算したものである(流速分布の平均値に相当)。
【0045】
【数2】

【0046】
ステップS20において、第2流速V2は、式(1)のv(y)を下記式(3)に代入して求められる。第2流速V2は、流速分布v(y)をyで積分したもの(流量に相当)を、測定管2内部の断面積で除算したものである。
【0047】
【数3】

【0048】
管摩擦係数をfrとすると、vmax(最大流速)は下記式(4)によって求められる。
【0049】
【数4】

【0050】
また、vt(摩擦速度)は下記式(5)によって求められる。
【0051】
【数5】

【0052】
なお、式(1)は対数速度分布の式であるが、指数速度分布などの他の速度分布を用いてもよい。
【0053】
ステップS30は前述したので説明を省略する。ステップS40において、流量補正係数決定手段110は流速比率、すなわち第2流速V2を第1流速V1で除算した除算結果Kを、式(1)〜(5)を用いて、下記式(6)によって求めることができる。
【0054】
【数6】

【0055】
ここで、カルマン定数krを0.4とすると、式(6)は下記式(7)となる。
【0056】
【数7】

【0057】
ステップS50において、面粗さ係数算出手段111の第1管摩擦係数算出手段112は、除算結果Kから第1管摩擦係数fr1を求める。すなわち、式(7)のKに除算結果Kを代入して管摩擦係数frを求め、これを第1管摩擦係数fr1とする。
【0058】
ステップS60において、面粗さ係数算出手段111は、第1流速V1または第2流速V2から第1レイノルズ数Re1を求める。
【0059】
ステップS70において、面粗さ係数算出手段111は、例えば、下記式(8)のコールブルック(ColeBlook)の式を用いて、面粗さ係数rpを求める。すなわち、式(8)において、frに第1管摩擦係数fr1を、Reに第1レイノルズ数Re1を代入して面粗さ係数rpを求める。
【0060】
【数8】

【0061】
コールブルックの式を用いる場合、面粗さ係数rpは、測定管2の面粗さ値eと測定管内径(直径)Dとの比率、すなわちrp=e/Dである。
【0062】
ステップS80において、流量補正係数算出手段115は、第1流速V1から第2レイノルズ数Re2を求める。
【0063】
ステップS90において、流量補正係数算出手段115の第2管摩擦係数算出手段116は、第2レイノルズ数Re2と面粗さ係数rpとから第2管摩擦係数fr2を求める。すなわち、式(8)のReに第2レイノルズ数Re2を、rpに面粗さ係数rpを代入して管摩擦係数frを求め、これを第2管摩擦係数fr2とする。
【0064】
なお、流量補正係数Corは、式(7)の流速比率(除算結果K)に相当する。このため、ステップS100において、流量補正係数算出手段115は、式(7)を用いて、第2管摩擦係数fr2から流量補正係数Cor(K)を求める。すなわち、式(7)のfrに第2管摩擦係数fr2を代入して流量補正係数Cor(K)を求める。以上が、流量補正係数決定処理P1の詳細説明である。
【0065】
つぎに、ステップS110において、第1相関値Sk1または伝搬時間差方式の超音波受信信号の強度が、測定方式切換値より大きいかどうかを判断する。
【0066】
大きい場合(ステップS110の「はい」)、伝搬時間差方式による測定が適しているので、流量算出処理P2のうちのステップS120へ移行し、流量算出手段120は、流量補正係数Corと第1流速V1とを用いて被測定流体FLDの流量を求める。すなわち、流量補正係数Corと第1流速V1と測定管2内部の断面積とを乗算して流量を求めることができる。
【0067】
小さい場合(ステップS110の「いいえ」)、反射相関方式による測定が適しているので、流量算出処理P2のうちのステップS130へ移行し、流量算出手段120は、第2流速V2と測定管2内部の断面積とを乗算して流量を求めることができる。
【0068】
本実施例によれば、流量補正係数決定手段110が、第1流速V1と第2流速V2との比率Kに基づいて測定管2の面粗さ係数rpを求め(図2のステップS70)、この面粗さ係数rpから流量補正係数Corを求めることによって(ステップS100)、面粗さに対応した、より正確な流量補正係数Corを求めことができる。
【0069】
さらに、流量算出手段120が、この流量補正係数Corを用いて流量を求めることによって(ステップS120)、伝搬時間差方式による流量の誤差の発生を抑制することができ、高精度な流量測定を行うことができる。
【0070】
また、誤差の発生を抑制することができるため、伝搬時間差方式と反射相関方式とが相互に切換えられた際、流量出力の変化(シフト)を抑制することができる。
【0071】
また、
(1)流量補正係数算出手段115が、第1流速V1から第2レイノルズ数Re2を求め(ステップS80)、第2レイノルズ数Re2と面粗さ係数rpとに基づいて流量補正係数Corを求める(ステップS100)、すなわち、第1流速V1(伝搬時間差方式による流速)が反映した第2レイノルズ数Re2を用いて流量補正係数Corを求めるので、第1流速V1が変化した場合でも、この変化に応答した、さらに正確な流量補正係数Corを求めことができる。
【0072】
(2)面粗さ係数算出手段111は、式(8)のコールブルックの式を用いて、面粗さ係数rpを求めることができる(ステップS70)。この場合、面粗さ係数rpは、測定管2の面粗さ値eと測定管内径(直径)Dとの比率(rp=e/D)であり無次元の量なので、第1管摩擦係数算出手段112によって求めた無次元の量である第1管摩擦係数fr1を式(8)で用いることができる。
【0073】
以上の実施例のほかに、記憶手段130を用いた例として、記憶手段130は、予め流量補正係数決定手段110によって求めた流量補正係数Corを受け取って記憶する。そして、流量算出手段120は、記憶された流量補正係数Corを記憶手段130から受け取り、流量補正係数Corと第1流速V1とを用いて被測定流体FLDの流量を求める(図2のステップS120)。
【0074】
このように、記憶手段130が予め流量補正係数Corを記憶しておくことによって、流速測定のたびに、図2の流量補正係数決定処理P1を行う必要がなく、流量補正係数決定手段110の演算処理の負担を軽減することができる。
【0075】
また、相関演算手段60、切換判定手段70、流速測定手段80、流量補正係数決定手段110、面粗さ係数算出手段111、第1管摩擦係数算出手段112、流量補正係数算出手段115、第2管摩擦係数算出手段116および流量算出手段120は、プログラムを実行するCPUなどのプロセッサによって実現されてもよく、論理回路などによって実現されてもよい。
【0076】
なお、本発明は、前述の実施例に限定されることなく、その本質を逸脱しない範囲で、さらに多くの変更および変形を含む。また、前述した各手段の組み合わせ以外の組み合わせを含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明を適用した超音波流量計の構成図の例である。
【図2】図1の超音波流量計の動作フローチャート図の例である。
【図3】背景技術で示した超音波流量計の構成図の例である。
【符号の説明】
【0078】
2 測定管
10 超音波トランスジューサA
11 超音波トランスジューサB
20 切換回路
30 送信回路
40 受信回路
50 A/D変換回路
60 相関演算手段
70 切換判定手段
80 流速測定手段
100 超音波流量計
110 流量補正係数決定手段
111 面粗さ係数算出手段
112 第1管摩擦係数算出手段
115 流量補正係数算出手段
116 第2管摩擦係数算出手段
120 流量算出手段
130 記憶手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の超音波トランスデューサから他方の超音波トランスデューサへ測定管内の被測定流体を伝搬した超音波信号の第1相関値またはこの伝搬した超音波信号の強度に応じて、前記第1相関値に基づく前記被測定流体の第1流速の測定または超音波反射体によって反射された超音波信号の第2相関値に基づく第2流速の測定のいずれか一方を行う超音波流量計において、
測定された前記第1および第2流速の比率に基づく前記測定管の面粗さ係数から流量補正係数を求める流量補正係数決定手段と、
この流量補正係数決定手段の流量補正係数と前記第1流速とを用いて前記被測定流体の流量を求める流量算出手段と、
を備えたこと特徴とする超音波流量計。
【請求項2】
前記流量補正係数決定手段は、
前記第1または第2流速から求めた第1レイノルズ数と、前記第2流速を前記第1流速で除算した除算結果とに基づいて前記面粗さ係数を求める面粗さ係数算出手段と、
この面粗さ係数算出手段の面粗さ係数と、前記第1流速から求めた第2レイノルズ数とに基づいて前記流量補正係数を求める流量補正係数算出手段と、
を備えたこと特徴とする請求項1に記載の超音波流量計。
【請求項3】
前記面粗さ係数算出手段は、前記除算結果から前記測定管の第1管摩擦係数を求め、この第1管摩擦係数と前記第1レイノルズ数とから前記面粗さ係数を求める、
前記流量補正係数算出手段は、前記第2レイノルズ数と前記面粗さ係数とから前記測定管の第2管摩擦係数を求め、この第2管摩擦係数から前記流量補正係数を求める、
ことを特徴とする請求項2に記載の超音波流量計。
【請求項4】
前記面粗さ係数は前記測定管の面粗さ値と前記測定管の内径との比率であり、前記面粗さ係数算出手段はコールブルックの式を用いて前記面粗さ係数を求めることを特徴とする請求項3に記載の超音波流量計。
【請求項5】
予め前記流量補正係数決定手段によって求めた流量補正係数を記憶する記憶手段を備え、
前記流量算出手段は前記記憶手段の流量補正係数を用いることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の超音波流量計。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−101767(P2010−101767A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−273788(P2008−273788)
【出願日】平成20年10月24日(2008.10.24)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】