説明

超音波流量計

【課題】受信波形のゼロクロス点を簡易に検知可能な構成を有する超音波流量計を提供する。
【解決手段】超音波を送受する1組の送受波器21,22を配管の上流と下流に設置し、送受波器21,22間の双方向の超音波の伝搬時間差から流体の流速を測定する超音波流量計において、超音波を受信した送受波器の受信波形のゼロクロス点を求めるゼロクロス検知部29を具備し、ゼロクロス点の時間差により伝搬時間差を求める。ゼロクロス検知部29は受信波形のピーク値の時間と、そのピーク値の直前のミニマム値の時間との間の受信波形において、所定の係数kをピーク値及びミニマム値にそれぞれ乗算した値を示す点間を直線補間してゼロクロス点を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は超音波を用いて流体の流速を測定する超音波流量計に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波流量計は流体中を伝搬する超音波の見かけの音速が流体の流速の値だけ変化することを利用するもので、超音波の伝搬方向が流体の流れに沿った方向(順方向)であれば、その速度は速くなり、流体の流れに逆らった方向(逆方向)であれば、その速度は遅くなる。
【0003】
従って、超音波流量計は超音波を送受する1組の送受波器を流体が流れる配管の上流と下流に設置し、上流側の送受波器から発射された超音波が下流側の送受波器に到達する時間及び下流側の送受波器から発射された超音波が上流側の送受波器に到達する時間をそれぞれ測定し、それら流体順方向と逆方向の超音波の伝搬時間の差から流体の流速を求めるものとなっている。また、流体の流量は配管の流路の断面積と流速の積から求められる。
【0004】
超音波の送信は送受波器を駆動パルスで励振することによって行われ、これを受信した他方の送受波器には受信信号(受信波形)が生じる。駆動パルスの始まりと受信波形の始まりとの間の時間が超音波の伝搬時間になるが、受信波形の始まり(第1波)は振幅が小さく、正確に計測することが不可能なため、受信波形が大きくなる第3波(あるいは第5波等)の終了時点のゼロクロス点を検知し、この検知した時間を用いて伝搬時間を求めるといったことが従来、行われている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−26341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、超音波の伝搬時間の測定において受信信号(受信波形)のゼロクロス点を検知するといったことが従来、行われているものの、例えばゼロクロス点をどのようにして検知するかについては特許文献1にも具体的に記載されていない。
【0007】
この発明の目的は受信波形のゼロクロス点を検知して超音波の伝搬時間を求める超音波流量計において、ゼロクロス点を簡易に検知することができる構成を具備する超音波流量計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明によれば、超音波を送受する1組の送受波器を流体が流れる配管の上流と下流に設置し、それら送受波器間の双方向の超音波の伝搬時間差から流体の流速を測定する超音波流量計は、超音波を受信した送受波器の受信波形のゼロクロス点を求めるゼロクロス検知部を具備し、両送受波器の受信波形のゼロクロス点の時間差により伝搬時間差を求める構成とされ、ゼロクロス検知部は受信波形のピーク値の時間と、そのピーク値の直前のミニマム値の時間との間の受信波形において、所定の係数kをピーク値及びミニマム値にそれぞれ乗算した値を示す点間を直線補間してゼロクロス点を求める構成とされる。
【0009】
請求項2の発明では請求項1の発明において、受信波形を増幅する増幅器と、その増幅器の出力をA/D変換するA/D変換器と、そのA/D変換器の出力である受信波形のデータを記憶するメモリとを備え、ゼロクロス検知部はメモリに記憶された受信波形のデータ及びそのデータの時間と対応するアドレスを使用してゼロクロス点を求めるものとされる。
【0010】
請求項3の発明では請求項2の発明において、ピーク値及びミニマム値に係数kをそれぞれ乗算した値を示す点のアドレスは、その点の前後のアドレス間を振幅配分して算出するものとされる。
【0011】
請求項4の発明では請求項1乃至3のいずれかの発明において、係数kを1/√2とする。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、ゼロクロス検知部を備え、このゼロクロス検知部において簡易に受信波形のゼロクロス点を検知することができるものとなっており、よって流体の流速を簡易な構成で精度良く測定することができる超音波流量計を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明における流体の流速の測定方法を説明するための図。
【図2】この発明による超音波流量計の一実施例の構成を示すブロック図。
【図3】送信トリガ、受信波形及びゲート信号の関係を示すタイムチャート。
【図4】ゼロクロス点の検知方法を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず最初に、この発明における流体の流速及び流量の測定方法について、図1を参照して説明する。
図1中、11は流体が流れる配管を示す。配管11の内径(直径)をDとし、肉厚をtとする。21,22は超音波を送受する1組の送受波器を示す。送受波器21,22は配管11の上流と下流にそれぞれ設置されている。送受波器21,22の内部には図1では簡略化して示しているが、超音波振動子21a,22aがそれぞれ設けられている。これら超音波振動子21a,22a間には超音波の伝搬路23が図1に示したように形成される。
【0015】
送受波器21,22内、配管11内及び配管11の肉厚内の各伝搬路23が配管11の径方向となす角度を図1中に示したようにそれぞれθ,θ,θとし、送受波器21,22内、流体内(流速ゼロ)及び配管11の肉厚内を伝搬する音速をそれぞれC,C,Cとする。これらθ〜θ,C〜Cにはスネルの法則より、
/sinθ=C/sinθ=C/sinθ …(1)
という関係が成立する。
【0016】
配管11内において超音波が点Aから点Bに伝搬する時間をTとし、点Bから点Aに伝搬する時間をTとする。AB間の距離をL、流体の流速をVとすると、T,Tは下記式で表される。
=L/(C+Vsinθ
=L/(C−Vsinθ
よって、時間差ΔT=T−Tは、
ΔT=2LVsinθ/(C−Vsinθ
となり、C≫ sinθより、
ΔT=2LVsinθ/C
となる。ここで、L=D/cosθを代入すると、流速Vは、
V=CΔT/2Dtanθ …(2)
となる。(2)式においてC,Dは既知であり、またθは(1)式より、
θ=sin−1(Csinθ/C
となり、C,θは送受波器21,22の仕様として既知のため、θを算出することができ、よって双方向の超音波の伝搬時間差ΔTを測定することにより、(2)式から流体の流速Vを求めることができる。
また、流量Mは、
M=π(D/2)
により求めることができる。
【0017】
以下、この発明の実施形態を図面を参照して実施例により説明する。
図2はこの発明による超音波流量計の一実施例の構成をブロック図で示したものである。この例では超音波流量計は図1に示したように設置される1組の送受波器21,22と送波器駆動手段24と増幅器25とA/D変換器26とメモリ27と演算制御手段28とスイッチ31,32とによって構成されており、演算制御手段28はゼロクロス検知部29を備えている。
【0018】
送受波器21,22は交互に超音波を送受する。即ち、送受波器21が超音波を発射すると、その超音波を送受波器22が受信し、送受波器22が超音波を発射すると、その超音波を送受波器21が受信する。このような超音波の交互の送受はスイッチ31,32を切り替えることによって行われ、スイッチ31,32の切り替えは演算制御手段28からの制御信号によって行われる。
【0019】
送波器駆動手段24は演算制御手段28からの制御信号(送信トリガ)に応答して駆動パルス信号を出力する。駆動パルス信号はスイッチ31で選択された一方の送受波器21又は22に入力される。図2では駆動パルス信号は送受波器21に入力され、これにより送受波器21は励振されて超音波を発射する。
【0020】
送受波器21から発射された超音波を受信した送受波器22の受信信号(受信波形)はスイッチ32を介して増幅器25に入力され、増幅器25で増幅された後、A/D変換器26でA/D変換される。そして、ディジタル化された受信波形のデータはメモリ27に格納・記憶される。なお、A/D変換器26は演算制御手段28からの制御信号で指示された期間内においてA/D変換動作を行うものとされる。
【0021】
演算制御手段28は上述した各種制御信号を出力すると共に、そのゼロクロス検知部29において受信波形のゼロクロス点を求め、その求めたゼロクロス点をもとに超音波の双方向の伝搬時間差を求め、流体の流速や流量を演算する。
【0022】
図3は送信トリガ、受信波形及びゲート信号のタイムチャートを示したものであり、送信トリガ−1によって送受波器21が励振され、送信トリガ−2によって送受波器22が励振され、それぞれ超音波を発射する。受信波形−2は送受波器21から超音波が発射された時の送受波器22の受信波形を示したものであり、受信波形−1は送受波器22から超音波が発射された時の送受波器21の受信波形を示したものである。これら受信波形の周波数は送受波器21,22の超音波振動子21a,22aの固有振動数となる。
【0023】
A/D変換器26におけるA/D変換動作の期間はゲート信号によって設定され、送信トリガ−1からゲート時間T経過後、受信波形−2はA/D変換されてメモリ27に取り込まれる。同様に、送信トリガ−2からゲート時間T経過後、受信波形−1はA/D変換されてメモリ27に取り込まれる。受信波形のデータはそのデータの時間と対応するアドレスと共にメモリ27に格納される。
【0024】
ゲート時間Tは演算制御手段28において算出される。ゲート時間Tは例えば一方の送受波器21(22)から発射された超音波が他方の送受波器22(21)に到達する時間とされ、前述の図1を参照して説明したパラメータ、即ち配管11の内径D、肉厚t、伝搬路23のなす角度θ,θ及び音速C,Cより下式で算出される。
【0025】
T=2t/(Ccosθ)+D/(Ccosθ
双方向の超音波の伝搬時間差ΔTは受信波形−1,受信波形−2のゼロクロス点を求め、それらゼロクロス点の時間差から求められる。以下、ゼロクロス検知部29によるゼロクロス点の検知について説明する。
【0026】
ゼロクロス検知部29はこの例では受信波形のピーク値(図3参照)の時間と、そのピーク値の直前のミニマム値(図3参照)の時間との間の受信波形において、所定の係数kをピーク値及びミニマム値にそれぞれ乗算した値を示す点間を直線補間してゼロクロス点を求めるものとされる。以下、図4を参照して具体的に説明する。
【0027】
まず、ゼロクロス検知部29はメモリ27を参照して受信波形−1及び受信波形−2の各ピーク値とそのアドレス及び各ミニマム値とそのアドレスを求める。ミニマム値はピーク値を検出後、アドレスをさかのぼることによって求める。そして、下記(1)〜(3),(1)’〜(3)’をメモリ27を参照して実行する。
(1)ピーク値Vpに所定の係数kを乗算した値Vth1=kVpを求める。kは例えば1/√2とする。整数にならないので、Vth1に該当するアドレスはない。
(2)そこで、ピーク値Vpからミニマム値Vmに向かう方向において、値比較を行い、V2<Vth1になる値V2とアドレスT2を求める。
(3)V2値のアドレスT2を1つ戻すと、その値V1はVth1<V1となる。V1は整数であり、そのアドレスT1が求まる。
(1)’ミニマム値Vmに係数kを乗算した値Vth2=kVmを求める。整数にならないので、Vth2に該当するアドレスはない。
(2)’そこで、ミニマム値Vmからピーク値Vpに向かう方向において、値比較を行い、Vth2<V3になる値V3とアドレスT3を求める。
(3)’V3値のアドレスT3を1つ戻すと、その値V4はV4<Vth2となる。V4は整数であり、そのアドレスT4が求まる。
上記のようにして、Vth1を挟む値V2,V1及びそれらのアドレスT2,T1が求まり、Vth2を挟む値V4,V3及びそれらのアドレスT4,T3が求まる。
【0028】
Vth1,Vth2の各アドレス(算出値)Tth1,Tth2は前後のアドレス間を振幅配分することにより、
Tth1=T2+(T1−T2)(Vth1−V2)/(V1−V2)
Tth2=T4+(T3−T4)(Vth2−V4)/(V3−V4)
によって算出することができ、ここでT1−T2=1,T3−T4=1より、
Tth1=T2+(Vth1−V2)/(V1−V2)
Tth2=T4+(Vth2−V4)/(V3−V4)
となる。この例ではこのようにして求めたアドレスTth1,Tth2間において、言い換えればVth1,Vth2間において、図4(b)に示したように直線補間することによってゼロクロス点を求める。
【0029】
ここで、受信波形データのサンプリング周期をSとすれば、ゼロクロス点の時間Tc(ゲート時間T経過後の受信波形データ取り込み開始からの時間)は、
Tc={Tth2+(Tth1−Tth2)(−Vth2)/(Vth1−Vth2)}S
となる。送受波器21の受信波形−1のゼロクロス点の時間をTc1とし、送受波器22の受信波形−2のゼロクロス点の時間をTc2とすると、ゼロクロス点の時間差(即ち、双方向の超音波の伝搬時間差)ΔTは、
ΔT=Tc1−Tc2
により求めることができる。
【0030】
このようにこの例では受信波形のピーク値及びその直前のミニマム値に係数kをそれぞれ乗算した値を示す点間を直線補間することによってゼロクロス点を求めるものとなっており、これにより簡易にゼロクロス点を検知することができるものとなっている。受信波形は正弦波とほぼ同等であることから、このように直線近似することができ、kの値は直線性を確保できる最大値として1/√2=0.707に設定するのが好ましい。
【0031】
なお、測定精度を高めるべく、受信波形のデータは複数個の平均をとるのが好ましく、同様にゼロクロス点の時間差ΔTも複数個の平均をとるのが好ましい。
【0032】
1組の送受波器21,22の配管11に対する設置は図1に示したような位置関係に限らず、他の設置位置関係とすることもできる。例えば下流側の送受波器22を図1において破線で示した位置に設置し、送受波器21と送受波器22’とによって双方向の超音波の伝搬時間差を測定するようにしてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を送受する1組の送受波器を流体が流れる配管の上流と下流に設置し、それら送受波器間の双方向の超音波の伝搬時間差から流体の流速を測定する超音波流量計であって、
超音波を受信した前記送受波器の受信波形のゼロクロス点を求めるゼロクロス検知部を具備し、
前記両送受波器の受信波形のゼロクロス点の時間差により前記伝搬時間差を求める構成とされ、
前記ゼロクロス検知部は前記受信波形のピーク値の時間と、そのピーク値の直前のミニマム値の時間との間の前記受信波形において、所定の係数kを前記ピーク値及びミニマム値にそれぞれ乗算した値を示す点間を直線補間してゼロクロス点を求める構成とされていることを特徴とする超音波流量計。
【請求項2】
請求項1記載の超音波流量計において、
前記受信波形を増幅する増幅器と、
その増幅器の出力をA/D変換するA/D変換器と、
そのA/D変換器の出力である前記受信波形のデータを記憶するメモリとを備え、
前記ゼロクロス検知部は前記メモリに記憶された前記受信波形のデータ及びそのデータの時間と対応するアドレスを使用して前記ゼロクロス点を求めることを特徴とする超音波流量計。
【請求項3】
請求項2記載の超音波流量計において、
前記ピーク値及びミニマム値に前記係数kをそれぞれ乗算した値を示す点のアドレスは、その点の前後のアドレス間を振幅配分して算出することを特徴とする超音波流量計。
【請求項4】
請求項1乃至3記載のいずれかの超音波流量計において、
前記係数kを1/√2とすることを特徴とする超音波流量計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−185823(P2010−185823A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−31091(P2009−31091)
【出願日】平成21年2月13日(2009.2.13)
【出願人】(000001177)株式会社光電製作所 (32)
【Fターム(参考)】