説明

超音波流量計

【課題】
圧電素子の駆動周波数を共振周波数に一致させて測定精度の向上を図る。
【解決手段】流量測定の終了と開始までの間に、圧電素子2、3の共振周波数を電流測定回路16又は(及び)電圧測定回路17で得られた信号を基に測定し、次の流量測定に際して圧電素子2、3を駆動する駆動周波数を得られた共振周波数に一致させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動周波数を共振周波数に合わせて調整する超音波流量計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超音波流量計においては、数ms〜数10msの周期で測定対象の流体中に、上流と下流で交互に超音波ビームをパルス状に発信し、管路中を伝達する超音波信号の発射から到着までの時間を測定することにより流体の流速を求めている。
【0003】
しかし、製造時のばらつきや周囲温度の変化により圧電素子の共振周波数に変化が生ずることがあり、圧電素子を駆動する共振周波数と駆動周波数とは必ずしも一致しない状態で使用されている。
【0004】
圧電素子の共振周波数が温度などの影響で変化した場合に、受信側の圧電素子を通して受信される周波数成分が変化するため、その波形に変化が現れる。これらの変化は微小なため、一般的な超音波利用技術においては問題にならないことが多いが、超音波流量計の場合には受信信号の立ち上がり部分の微小な変化が測定値に影響を与えることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−162269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
超音波ビームを流体中に伝播させるために、圧電素子の駆動信号を単一又は複数パルスとしても、圧電素子の共振による共振振動が発生し、受信側の圧電素子に到達する受信信号は図2に示すような複数サイクルの受信パルスとなるのが普通である。
【0007】
超音波流量計においては、受信波形のゼロクロス点を到達時間として、流体の流速つまりは流量を求める方法が用いられる場合があり、受信波形の形状が変化すると測定精度が低下する原因となる。
【0008】
例えば、受信側の圧電素子で得られる超音波ビームの受信波形Wは図2に示すようになり、正確な超音波ビームの到達時間は最初の受信パルスの立ち上がり点の時間t0である。しかし、この最初の時間t0の検出は測定技術上、困難であるので、例えば特許文献1のように、それ以降の受信パルスの単数又は複数のゼロクロス点の平均値から到達時間を求めている。
【0009】
共振周波数が変化し駆動周波数とのずれが生ずると、図2において期間Tの大きさが変化する。従って、共振周波数と駆動周波数がずれると、つまり圧電素子に温度変化が生ずると、ゼロクロス点の検出時間に影響を与えることになる。
【0010】
本発明の目的は、圧電素子に加える駆動周波数を共振周波数に合わせるように調整して、共振周波数とのずれをなくして測定精度の向上を図る超音波流量計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本願発明に係る超音波流量計は、流体が流れる流路の上流側と下流側とで超音波ビームの送受信を交互に行う一対の圧電素子を配置し、上流側及び下流側の圧電素子から駆動周波数による超音波ビームを発射して、対向する圧電素子への超音波ビームの到着時間をそれぞれ測定することにより流体の流量を測定する超音波流量計において、前記流量の測定の終了から次の前記流量の測定の開始までの時間内に、前記圧電素子の共振周波数を測定する共振周波数測定手段と、該共振周波数測定手段により得られた前記共振周波数を、前記流量測定に際して前記駆動周波数として前記圧電素子を駆動する駆動手段とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る超音波流量計によれば、駆動周波数を測定した共振周波数に一致させ、圧電素子の温度変化の影響を少なくし、良好な測定精度を得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例のブロック回路構成図である。
【図2】受信信号の波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明を図1に図示の実施例に基づいて説明する。
図1において、測定対象の流体が流れる管路1には所定の距離をおいて一対の圧電素子2、3が取り付けられ、超音波ビームの送受信に使用されている。圧電素子2、3には送受信切換スイッチ4を介して測定信号切換スイッチ5と増幅器6とが択一的に接続可能とされている。
【0015】
演算回路部7においては、データバス8を介して制御回路9、波形生成器10、RAM11、相関器12が接続されている。測定信号切換スイッチ5の出力を受信する可変利得増幅器13の出力は、AD変換器14を介してデータバス8に接続されている。また、波形生成器10の出力はDA変換器15を介して増幅器6に接続されている。更に、増幅器6の出力の一部は電流測定回路16、電圧測定回路17を介して測定信号切換スイッチ5に接続されている。制御回路9の出力は、送受信切換スイッチ4、測定信号切換スイッチ5、可変利得増幅器13、AD変換器14、DA変換器15に接続されている。演算回路部7は外部のCPU18にデータバス8を介して接続され、CPU18には入出力インタフェース19、入出力手段20が接続されている。
【0016】
管路1は合成樹脂、金属から成る円管であり、圧電素子2、3は圧電板を用いて超音波ビームの発信、受信を択一的に選択できる。送受信切換スイッチ4は圧電素子2、3を送受信に同期して切換える。測定信号切換スイッチ5は圧電素子2、3からの出力信号と、圧電素子2、3の共振周波数を測定するための電圧信号/電流信号を切換える。
【0017】
増幅器6は超音波ビームを発生するための圧電素子2、3への駆動信号を増幅する。波形生成器10は圧電素子の駆動信号波形を生成し、例えば正弦波発生器を用いてDDA(Digital Differential Analyzer)のアルゴリズムにより発生したアドレスにより、正弦波データを記憶したメモリからデータを読み出すことで、任意の周波数の正弦波から成る駆動信号が得られる。
【0018】
RAM11はデジタル信号に変換された超音波受信信号を記憶する。相関器12は流量測定に際して、RAM11に記憶された圧電素子2から送信され圧電素子3で受信された超音波ビームの受信波形データ、圧電素子3から送信されて圧電素子2で受信された超音波ビームの受信波形データの間の相関係数を求める。
【0019】
可変利得増幅器13は受信した超音波信号のレベルに応じてゲインを変え、AD変換器14はデジタル信号に変換する。DA変換器15は波形生成器10で発生したデジタル信号をアナログ信号に変換する。
【0020】
電流測定回路16は現在の共振周波数の検出のために、圧電素子2、3に流れる駆動信号を測定するための回路であり、具体的にはカレントトランス又は直列抵抗を挿入することで電流に比例した電圧を取り出す。電圧測定回路17は同様に共振周波数の検出のために、圧電素子2、3を駆動するための電圧を測定するための回路であり、抵抗、又は抵抗とコンデンサの並列回路を用いて駆動電圧を分割して測定する。
【0021】
CPU18は超音波流量計全体の制御を行うためのものであり、実行するプログラムを記憶したROMとRAMを内蔵している。入出力インタフェース19は測定結果を外部機器に伝達するための出力端子と、外部機器から超音波流量計を制御するための入力端子とを有している。入出力手段20は測定結果を表示するための表示器と、超音波流量計の動作状態を設定するための入力キーを有している。
【0022】
本実施例では、電流測定回路16及び(又は)電圧測定回路17により圧電素子2、3の共振周波数の測定し、圧電素子2、3に対する駆動周波数を調整して流量測定に用いている。圧電素子2、3の共振周波数の測定は流量測定の間に頻繁に行う必要があり、本実施例では共振周波数の測定と、流量測定とを交互に実施している。
【0023】
共振周波数の測定方法としては、流量の測定用の超音波ビームの発信と受信の時間に重ならない非流量測定時間内に、圧電素子2、3の共振周波数を測定するための信号を送出すればよい。適当な出力インピーダンス、例えば50Ωを持つ駆動増幅器により周波数を掃引しながら圧電素子を駆動し、そのときの圧電素子に加わる電流を電流測定回路16により、及び(或いは)電圧を電圧測定回路17により測定し、それらの値が最大、又は最小になる周波数を求めれば、それが求めるべき共振周波数である。なお、電流と電圧の比を用いて共振周波数を求めることもできる。
【0024】
この圧電素子2、3の共振周波数は、例えば次の手順で測定する。
【0025】
(1)CPU18から波形生成器10に対し、共振周波数を求めるための周波数と複数のパルスを含むエンベロープ波形を決定する指令を出力する。
【0026】
(2)CPU18から送受信切換スイッチ4に対し、圧電素子2を送信に、圧電素子3を受信にする指令を出力する。
【0027】
(3)CPU18から測定信号切換スイッチ5に対し、電流測定回路16からの信号を選択する指令を出力する。
【0028】
(4)制御回路9は波形生成器10に対し周波数の発生の指示し、圧電素子2から送信信号aにより管路1内に超音波ビームを出力させる。
【0029】
(5)制御回路9は流体中を伝播して圧電素子3により得られた超音波ビームの受信波形aのRAM11への書き込みを指示する。
【0030】
(6)CPU18は電流測定回路16により電流に関する信号を周波数の値と共にRAM11に記録する。
【0031】
送信信号aの周波数を定められた範囲で繰り返し、つまり掃引しながら、(1)〜(6)の手順で受信信号aの複数のデータを取得する。
【0032】
なお、電圧測定回路17による電圧の測定の説明は省略しているが、電流測定回路16による電流信号と共に電圧測定回路17により電圧信号を測定してもよい。更に、得られた電流信号及び(又は)電圧信号について、最大又は最小となる周波数を求めることで、圧電素子2から圧電素子3に向かう超音波ビームの共振周波数Faが得られる。
【0033】
同様の手順により、送信信号b、受信信号bを用いて、圧電素子3から圧電素子2に向かう超音波ビームの共振周波数Fbが得られる。
【0034】
このようにして共振周波数Fa、Fbが得られると、次の流量測定時には、得られた共振周波数を駆動周波数として、圧電素子2、3を駆動し、1回の流量の測定を次の手順で行う。
【0035】
(a)CPU18から送受信切換スイッチ4に対し圧電素子2を送信に、圧電素子3を受信にする指令を出力する。
【0036】
(b)CPU18から測定信号切換スイッチ5に対し、送受信切換スイッチ4からの信号を選択する指令を出力する。
【0037】
(c)CPU18の指示により制御回路9は、波形生成器10に対し得られた共振周波数Faに合致した駆動周波数による送信信号Aの圧電素子2からの発生を指示する。
【0038】
(d)制御回路9は流体中を伝播し圧電素子3で得られた受信信号AのRAM11への書き込みを指示する。
【0039】
(e)CPU18から送受信切換スイッチ4に対し圧電素子3を送信に、圧電素子2を受信にする指令を出力する。
【0040】
(f)CPU18は送信信号Aと受信信号Aとの相互相関を相関器12により求め、その係数の最大を与える時間を信号が送信されてから受信されるまでの到達時間Aを求める。
【0041】
(g)次に、CPU18の指示により制御回路9は、波形生成器10に対し得られた共振周波数Fbに合致した駆動周波数による送信信号Bの圧電素子3からの発生を指示する。
【0042】
(h)制御回路9は流体中を伝播し圧電素子2で得られた受信信号BのRAM11への書き込みを指示する。
【0043】
(i)CPU18は送信信号Bと受信信号Bとの相互相関を相関器12により求め、その係数の最大を与える時間を信号が送信されてから受信されるまでの到達時間Bを求める。
【0044】
(j)CPU18は到達時間Aと到達時間Bの時間差、及び圧電素子2と圧電素子3間の距離から圧電素子2、3間を流れる流体の速度を求める。
【0045】
(k)CPU18は得られた流体の速度に、管路1の断面積を乗じて流量を算出し、入出力インタフェース19、入出力手段20に出力する。
【0046】
このように本実施例によれば、圧電素子の共振周波数や共振周波数以外の特性、例えば副共振周波数などの温度変化による影響もを低減することができる。
【0047】
超音波ビームの到達時間を求める方法としては、上述の相互相関を用いる方法以外にも、受信信号の立ち上がり時間を検出する方法などを用いることができる。
【符号の説明】
【0048】
1 管路
2、3 圧電素子
4 送受信切換スイッチ
5 測定信号切換スイッチ
7 演算回路部
8 データバス
9 制御回路
10 波形生成器
11 RAM
12 相関器
13 可変利得増幅器
16 電流測定回路
17 電圧測定回路
18 CPU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が流れる流路の上流側と下流側とで超音波ビームの送受信を交互に行う一対の圧電素子を配置し、上流側及び下流側の圧電素子から駆動周波数による超音波ビームを発射して、対向する圧電素子への超音波ビームの到着時間をそれぞれ測定することにより流体の流量を測定する超音波流量計において、前記流量の測定の終了から次の前記流量の測定の開始までの時間内に、前記圧電素子の共振周波数を測定する共振周波数測定手段と、該共振周波数測定手段により得られた前記共振周波数を、前記流量測定に際して前記駆動周波数として前記圧電素子を駆動する駆動手段とを備えたことを特徴とする超音波流量計。
【請求項2】
前記共振周波数測定回路による前記共振周波数の測定と、前記流量の測定は交互に行うことを特徴とする請求項1に記載の超音波流量計。
【請求項3】
前記共振周波数の測定のために、前記圧電素子の端子電流及び(又は)端子電圧を測定する手段を設けると共に、周波数を任意の範囲で掃引し、前記圧電素子の端子電流或いは端子電圧、又はその比が最大又は最小になる周波数を、前記圧電素子の共振周波数として求める手段を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の超音波流量計。
【請求項4】
超音波ビームの到達時間を送信した信号波形と受信した信号波形の相関係数を基に検出することを特徴とする請求項1〜3の何れか1つの請求項に記載の超音波流量計。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−232203(P2011−232203A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−103365(P2010−103365)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(390026996)東京計装株式会社 (57)
【Fターム(参考)】